論語詳解241郷党篇第十(6)君子は紺緅を以て

論語郷党篇(6)要約:儒教の礼法は、儀式の際に限りませんでした。それは日常生活の細部にまで至り、着る服や食べ物にも及びました。その意味で礼法は、お行儀よく振る舞うための規範であると同時に、人としての戒律でもありました。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

君子不以紺緅飾、紅紫不以爲褻服。當暑袗*絺綌、必表而出之*。緇衣羔裘、素衣麑裘、黃衣狐裘。褻裘長、短右袂。(必有寢衣、長一身有半。)狐貉*厚以居。去喪無所不佩。非帷*裳必殺之。羔裘玄冠不以弔。吉月必朝服而朝。

校訂

武内本:唐石経釈文縝を紾に作り、出下之の字あり。唐石経狢を貉に作り、惟を帷に作る。吉月は告月の誤り。

書き下し

君子くんし紺緅かんすうもつかざりとせず、紅紫こうしもちゐてつねふくつくらず。なつあたりてひとへ絺綌かたびらは、かならうはおほひしてしかうしてだす。緇衣しいには羔裘かうきう素衣そいには麑裘げいきう黃衣くわういには狐裘こきうつねきうながくし、みぎそでみじかくす。(かなら寢衣しんいあり、たけ身有半しんいうはん。)狐貉こかくあつきをもつる。のぞいてはびざるところなし。帷裳ゐしやうあらざればかならこれぐ。羔裘玄冠かうきうげんくわんしてはもつとぶらはず。吉月きつげつにはかなら朝服てうふくてうす。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 孔子 肖像
君子は礼服に用いる紺と茶の布で、普段着を飾らない。紅と紫は、普段着にしない。
暑い季節には、目の細かい麻の羽織を、必ず表に羽織る。
黒染めの衣類には仔羊の皮衣を、白い衣類には子鹿の皮衣を、黄染めの衣類には狐の皮衣を下に着る。
普段着の皮衣は長めに作り、右の袂を短くする。
(寝る時は寝間着に着替え、長さは身長の一・五倍。)座る時は狐やむじなの厚手の座布団を敷く。
喪中以外は、何か装身具を付け、カーテンやスカート以外は、必ず寸法を切り詰める。
仔羊の皮衣や礼服では、弔問に行かない。毎月の朔日には、必ず礼服を着て朝廷の参賀に出かける。

意訳

同上

従来訳

論語 下村湖人

先生は衣服にもこまかな注意を払われる。紺色や淡紅色は喪服の飾りだから、それを他の場合の襟の飾りには用いられないし、また平常服に赤や紫のようなはでな色を用いられることもない。暑い時には単衣のかたびらを着られるが、下着なしに着られることはない。黒衣の下には黒羊の皮衣、白服の下には白鹿の皮衣、黄衣の下には狐の皮衣を用いられる。平常服の皮衣は温かいように長目に仕立てられるが、働きよいように右袂を短くされる。寝衣は必ず別にされ、長さは身長の一倍半である。家居には、狐や貉(むじな)の毛皮を用いて暖かにされる。喪の時以外は玉その他の装身具をきちんと身につけていられる。官服・祭服のほかは簡略にして布地を節約される。黒羊の皮衣や黒の冠で弔問されることはない。退官後も、毎月朔日ついたちには礼服を着て参賀される。

下村湖人『現代訳論語』

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

君子

論語 君 金文 論語 子 金文
(金文)

論語の原文にこう記されていることから、これは孔子の日常を言ったのではなくて、衣服の作法の講義メモとも思われるが、ここでは孔子のことと解釈した。詳細は論語語釈「君子」を参照。

紺緅(カンスウ)

論語 紺 金文大篆 論語 緅 楚系戦国文字
「紺」(金文)・「緅」(楚系戦国文字)

論語の本章では”紺色と茶色”。

『学研漢和大字典』によると「紺」は会意兼形声文字で、「糸+(音符)甘(中に含む)」。濃い青色を含んだ染め糸の色。含(ふくむ)・拑(カン)(中にこめてはさむ)と同系のことば、という。

「緅」は形声文字で、「糸+(音符)取」。赤黒い色。また、赤みがかった青。一説に薄桃色、という。

紅紫

論語 紅 金文大篆 論語 紫 金文
(金文)

論語の本章では”紅色と紫色(の布)”。

『学研漢和大字典』によると「紅」は形声文字で、「糸+(音符)工」。類義語の赤は、火のあかくもえる色。茜(セン)は、夕やけ空のあかい色。纁(クン)は、黒ずんだ濃いあかい色。絳(コウ)は、深紅の色。緋(ヒ)は、目のさめるようなあざやかな赤色。

「紫」は会意兼形声文字で、此(シ)は「止(=趾。あし)+比(ならぶ)の略体」の会意文字で、両足がそろわず、ちぐはぐに並ぶこと。紫は「糸+(音符)此」で、赤と青をまぜて染めた色がそろわず、ちぐはぐの中間色となること。

眥(シ)(上下のまぶたがちぐはぐに重なった目じり)・雌(二枚の羽をちぐはぐに重ねるめす鳥)・柴(サイ)・(シ)(ふぞろいなしば)などと同系のことば、という。

古代では概してどの文化圏でも、原色に染め出すのは極めて難しく、人や町の風景はくすんで見えた。紅はベニバナかベンガラ、紫は虫の一種から染料が取れるが、いずれも貴重だった。

褻服(セップク)

論語 褻 金文大篆 論語 服 金文
(金文)

論語の本章では”普段着”。

『学研漢和大字典』によると「褻」は会意兼形声文字で、「衣+(音符)熱(身近い、ねばりつく)の略体」。無声のnがsにかわったことば。語義は以下の通り。

  1. {名詞}はだにつけるふだん着。はだぎ。「紅紫不以為褻服=紅紫は以て褻服と為さず」〔論語・郷党〕
  2. {動詞・形容詞}けがれる(けがる)。けがす。からだにつけてけがれる。よごす。よごれている。「褻器(セッキ)」。
  3. {動詞}身近においておろそかにする。「褻必(セットク)」。
  4. {動詞・名詞}なれる(なる)。なれしたしむ。親しい間がら。《同義語》⇒穀。「褻狎(セッコウ)」「雖褻必以貌=褻と雖も必ず貌を以てす」〔論語・郷党〕
  5. 《日本語での特別な意味》け。日常。平生。《対語》⇒晴(ハレ)。「褻にも晴れにも」。

袗絺綌(シンのチゲキ)

論語 絺 篆書 論語 綌 古文
「絺」(篆書)・「綌」(古文)

論語の本章で”目の細かい麻のかたびら”と解したのは、藤堂本による。「絺綌」で”かたびら”。

論語 袗 古文
「袗」(古文)

『学研漢和大字典』によると「袗」は会意兼形声文字で、右側の字(音チン・シン)は、びっしりとつまる意を含む。袗はそれを音符とし、衣を加えた字。語義は”黒服・晴れ着”または”ひとえ”。

「絺」は会意兼形声文字で、「糸+(音符)希(目が細かい布)」。葛(クズ)の繊維で織った、目の細かい布。またそれでつくった着物。▽目のあらいものを囮(ケキ)という、とある。

「綌」は会意兼形声文字で、谷は、もと「たに」とは別字で、口の上のくぼみをあらわした字。綌は「糸+(音符)谷(ケキ)(くぼみ、すきま)」で、すきまの多いあらい布。虚(うつろ、すきま)・却(くぼむ、後へひく)・隙(ゲキ)(すきま)と同系のことば。語義は葛(クズ)の繊維で織った目のあらい布。▽すきまがあって涼しいので夏に着る。▽目のこまかいものを囂(チ)という、とある。

必表而出之

論語 表 金文大篆 論語 出 金文
「表」「出」(金文)

論語の本章では”必ず上に羽織る”。暑くても必ず下着を着るのが君子なのである。

『学研漢和大字典』によると「表」は会意文字で、「衣+毛」。毛皮の衣をおもてに出して着ることを示す。外側に浮き出るの意を含む。漂(ヒョウ)(水面に浮き出る)・標(ヒョウ)(高く外に出た目じるしの棒)などと同系。また袍(ホウ)(外側からつつむ外衣)とも縁が近い、という。

「出」は会意文字で、足が一線の外にでるさまを示す。突(外に急にでる)・凸(トツ)(つきでる)と同系のことば、という。

緇(シ)衣・素衣

論語 緇 金文大篆 論語 素 金文
「緇」「素」(金文)

論語の本章では”黒い着物・白い着物”。

『学研漢和大字典』によると「緇」は会意兼形声文字で、右側の字(音シン)は、くろくにごった土のこと。緇はそれを音符とし、糸を加えた字。滓(シ)(水底に沈殿した泥)と同系のことば、という。

論語 衣 金文
「衣」(金文)

「衣」は象形文字で、うしろのえりをたて、前のえりもとをあわせて、はだを隠したきもののえりの部分を描いたもの。「白虎通」衣裳篇に「衣とは隠なり」とあり、はだを隠すものの意。依(イ)(他の物にたよって隠れる)・隠(イン)(かくす)・湮(イン)(かくす)と同系のことば。

類義語の服は、ぴたりとからだにつけるものの意、という。

羔裘(コキュウ)・麑(ゲイ)裘・狐裘

論語 麑 篆書 
「麑」(篆書)

論語の本章では”仔羊の皮衣・子鹿の皮衣・狐の皮衣”。

論語 羔 金文大篆
「羔」(金文)

『学研漢和大字典』によると「羔」は会意文字で、「羊+火」。まる煮するのに適したこひつじのこと、という。

論語 麑 甲骨文
「麑」(甲骨文)

「麑」は会意兼形声文字で、「鹿+(音符)兒(ゲイ)(子ども、小形の)」。霓(ゲイ)(小形のにじ)・鯢(ゲイ)(小形のめすくじら)などと同系のことば。なお甲骨文の頃からある古い漢字=言葉で、成獣との区別が早期からあったことがわかる。

論語 狐 楚系戦国文字
「狐」(楚系戦国文字)

「狐」は形声文字で、「犬+(音符)瓜」。クヮクヮと鳴く声をまねた擬声語、という。

論語 裘 金文
「裘」(金文)

「裘」は会意兼形声文字で、求は、裘の原字で、頭・両足・尾のついたままのかわごろもの姿を描いた象形文字。裘は「衣+(音符)求」。求がぐっと引きしめる→もとめる、の意に使われるようになったため、かわごろもの意には裘が使われるようになった。帯でぐっと引きしめてからだにまとう、かわごろも、という。

論語の時代に斉の名宰相として名高かった晏嬰アンエイは、貴族の必需品として狐裘を持っていたが、大事に扱って三十年も着たので、「晏嬰の一狐裘」という言葉が出来た。質素な生活をたとえるのに用いる。

褻(セツ)裘

論語 褻 金文大篆 論語 裘 金文
(金文)

論語の本章では”普段用のかわごろも”。

短右袂

論語 袂 金文
「袂」(金文)

論語の本章では”右の袖を短くする”。右手で筆を持つためだろうか。

『学研漢和大字典』によると「袂」は会意文字で、「衣+夬(きりこみを入れる、一部を切りとる)」。胴の両わきを切りとってつけた、たもと、という。

必有寢(寝)衣、長一身有半

論語 寝 金文
「寝」(金文)

論語の本章では”必ず寝間着を着、長さは身長の1.5倍”。シーツを兼ねたと思われる。この句は、論語次章の錯簡サクカン(一行ずつ書いた木札・竹札の文字列が紛れ込むこと)と古来言われる。
論語 竹簡

武内本には、「一身とは胴体の長さをいう。一身有半にて膝までの長なり」とある。

狐貉(ラク)之厚以居

論語 狐 楚系戦国文字 論語 貉 金文
「狐」「貉」(金文)

論語の本章では”狐やむじなの厚い皮を座布団に敷く”。論語時代には椅子に座る習慣が無く、座布団を使った。

無所不佩(ハイ)

論語 佩 金文大篆
「佩」(金文)

論語の本章では”アクセサリーを帯に下げないことはない”。「佩」は”おびる”。帯に玉などで作ったアクセサリーを下げること。

『学研漢和大字典』によると「佩」は会意文字で、佩は「腰につけるハンカチのたれた姿+巾(たれた布)+人」。男は玉のアクセサリーを帯につける。その音は、服(フク)(ぴったりと身につける)・副(フク)(ぴったりと寄り添う)の字で示されることばと近く、ぴったり添えて離さないの意を含む。

陪(バイ)(ぴったりと付き添う)・備(ビ)(ぴったりと付き添う)と同系のことば、という。

非帷裳

武内本の指摘通り、もとは「非惟裳」だったとすると、読みは「だ裳に非ざらば」となるが、「惟」は動詞”思う”か副詞”ただ~だけ”か指示詞”これ”でしかなく、意味が通じない。

必殺之

論語 殺 金文
「殺」(金文)

論語の本章では”殺す”ではなく、”裁断すること”。

『学研漢和大字典』によると「殺」は会意文字で、「メ(刈りとる)+朮(もちあわ)+殳(動詞の記号)」。もちあわの穂を刈りとり、その実をそぎとることを示す。摋(サツ)(そぎ削る)と同系。また散(そぎとってばらばらにする)とも縁が近い、という。

吉月、必朝服而朝

論語 吉 金文 論語 月 金文
「吉」「月」(金文)

論語の本章では”毎月ついたちには、必ず正装して殿様に謁見した”。当時は太陰暦で、月初めはついたち=真っ黒な月の日だった。その月一回のお祝いが朝廷では開かれたと見える。

武内本は吉→告の誤りとし、「古、閏月には朔を告げず、他の月は朔を告げて廟に朝す、これを告月(=告朔)という」という。こちらを採っても、最終的な訳としては変わらない。『大漢和辞典』による告朔の語釈は以下の通り。論語八佾篇17の語釈も参照。
大漢和辞典 吿朔

『学研漢和大字典』によると「吉」は象形文字で、壺(ツボ)をいっぱいにしてふたをした姿を描いたもので、内容の充実したこと。反対に、空虚なのを凶という。壹(イツ)(=壱。つぼいっぱい)と同系。また、すきまなく充実した意を含み、結(つめる→ゆわえつける)・詰(問いつめる、いっぱいにつめる)とも同系のことば、という。

「月」は象形文字で、三日月を描いたもので、まるくえぐったように、中が欠けていく月。刖(ゲツ)(まるく中をえぐる)・外(まるくえぐって残ったそとがわ)と同系のことば、という。

論語:解説・付記

論語時代の朝廷は、夜明け直前の早朝に一回と、夕方に一回だった。朝廷という言葉から、もとは朝一回だけか、朝の方が重要とされたのだろう。魯国に帰国後の孔子は、後ろ盾となる呉国が大敗すると、即座に相談役に降ろされたが、それでも月に一度は出仕していたわけ。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回す。覚悟致せ。

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