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論語語釈「コウ」

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語釈 urlリンクミス

工(コウ・3画)

工 金文 工 甲骨文
史獸鼎・西周早期/甲骨文

初出:初出は甲骨文

字形:金文の字形は握る柄の付いた器の象形。甲骨文の字形は取っ手の付いた器の象形。左手で器を手に取って食べる事から、手+工で左を意味した

音:カールグレン上古音はkuŋ(平)。

用例:”貢ぐ”以外の動詞、形容詞・副詞としての用例が見られるのは戦国時代から。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文で地名国名、また”下級官”、「貢」”貢ぐ”を意味し、金文で”技官”(吾王夫差劍・春秋末期)、”功績”(班簋・西周/沈子它簋・西周早期)の意があると言う。

学研漢和大字典

指事。上下二線の間に┃線を描き、上下の面に穴を通すことを示す。また、かぎ型ものさしの象形ともいう。工は攻(コウ)(突き抜く)の原字で、孔(コウ)(突き抜けたあな)・空(穴)ときわめて近いことば。穴をあけるのは、高度のわざであるので、細工することを意味するようになった。類義語の巧は、曲がりくねったむずかしい細工をすること。「大工」の意味の「たくみ」は「匠」とも書く。

語義

  1. {名詞}たくみ。わざ。細工や技術。「技工」。
  2. {名詞}たくみ。細工や技術を心得た職人。「工人」「工欲善其事=工其の事を善くせんと欲す」〔論語・衛霊公〕
  3. (コウナリ){形容詞}たくみ。細工やわざがじょうずであるさま。《同義語》⇒巧。《対語》⇒拙(セツ)。「工緻(コウチ)(細工が細かくじょうずである)」「工於草書=草書に工なり」。
  4. {名詞}つかさ。専門の技術で仕える役人。「百工致功=百工は功を致す」〔史記・五帝〕
  5. {名詞}工芸を職とする階層。「士農工商」。
  6. {名詞}《俗語》労働者。「工人」「工会(労働組合)」。
  7. 「工尺(コウシャク)」とは、東洋音楽の楽譜に用いる記号。
  8. 《日本語での特別な意味》「工業」の略。「商工」「工大」。

字通

[象形]工具の形。〔説文〕五上に「巧飾なり」とし、「人の規矩(きく)有るに象るなり。巫と同意なり」とする。巫のもつところは、左・尋・隱(隠)の字形に含まれる工と同じく、神事に用いる呪具。工具の工は、金文に鍛冶の台の形にみえるものがあり、巫祝の用いるものとは異なるものであろう。金文の〔明公𣪘(めいこうき)〕に「魯侯に𡆥工(えうこう)又(あ)り」とは、祝禱の功あるをいい、また〔詩、小雅、楚茨〕「工祝告(いの)ることを致す」、〔詩、周頌、臣工〕「嗟嗟(ああ)臣工 爾(なんぢ)の公(宮)に在るを敬(つつし)め」とある工祝は巫祝、臣工は神事につかえるものであった。〔書、酒誥〕に「宗工」「百宗工」の名があり、これも神事を主とするものであろうが、のち百工・百官の意となった。西周後期の〔伊𣪘(いき)〕に「康宮の王の臣妾・百工を官𤔲(司)せよ」とあるのは、宮廟に隷属する職能的品部をさすものであろう。

大漢和辞典

工 大漢和辞典

口(コウ・3画)

口 甲骨文 器 口 サイ 金文
甲骨文/亞古父己卣・殷台末期

初出:初出は甲骨文

字形はくちの象形。原義は”くち”。

音:「ク」は呉音。カールグレン上古音はkʰ(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で用い、金文では氏族名、”発言”(四祀𠨘其卣・殷代末期)に用いた。戦国の竹簡でも”発言”に用いた。

備考:白川静の主張する、「𠙵サイ」=”祝詞の容器”説には賛成しない。詳細は論語語釈「𠙵」を参照。

学研漢和大字典

象形。人間のくちやあなを描いたもの。▽その音がつづまれば谷(あなのあいたたに)、語尾がxに伸びれば孔(あな)や空(筒抜けのあな)となる。いずれも、中空にあなのあいた意を含む。「巧」の代用字としても使う。「利口」。

語義

  1. {名詞}くち。人の顔にあり、飲食物を取りいれ、音声を発するあな。「口之於味也、目之於色也=口の味きにおけるや、目の色しきにおけるや」〔孟子・尽下〕
  2. {名詞・単位詞}食べる人の数や食べぐあい。また、食物を食べるくちの数によって人数や家畜を数えるときのことば。「戸口」「五口家」「人口」「損其家口充狙之欲=其の家口を損じて狙の欲を充たす」〔列子・黄帝〕
  3. {名詞}あな。ぽかっとくちをあけたあな。「山有小口=山に小口有り」〔陶潜・桃花源詩・古事記〕
  4. {名詞}くち。入りぐち。「関口(関所)」「口岸(商品の出入りする港)」。
  5. {副詞}くちずから(くちづから)。親しく自分のくちから。「口授」「口伝」。
  6. {単位詞}刀を数える単位。「一口之刀」。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①くち。もののいい方。また、ことば。「口が悪い」。
    ②もののはじめ。「宵の口」。
    ③物事をいくつかにわけた一つ。「別口」。
    ④くち。入りこみうる場所。就職口。「よい口を捜す」。

字通

[象形]口の形。〔説文〕二上に「人の言食する所以なり。象形」という。ただ卜文・金文にみえる口を含む字形のうち、口耳の口と解すべきものはほとんどなく、おおむね祝禱・盟誓を収める器の形である𠙵(さい)に従う。すなわち祝告に関する字とみてよい。文字は祝告の最もさかんに行われた時期に成立し、その儀礼の必要によって成立したものである。

公(コウ・4画)

公 甲骨文 公 金文
甲骨文/䧹公方鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形は〔八〕”ひげ”+「口」で、口髭を生やした先祖の男性。

音:カールグレン上古音はkuŋ(平)。

用例:「甲骨文合集」33692.1に「辛亥貞壬子侑多公歲」とあり、「辛亥とう、はらご多く公のたすけもて歲あらんか」と読め、”先祖”と解せる。

西周早期「魯𥎦㺇鬲」(集成648)に「用亯䵼厥文考魯公。」とあり、諸侯の階級と解せる。

備考:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”先祖の君主”の意に、金文では貴族への敬称(明公簋・西周早期)、原義(叔尸鐘・春秋中期)、古人への敬称(沈子簋・西周)、父や夫への敬称に用いられ、戦国の竹簡では男性への敬称、諸侯への呼称に用いられた。

学研漢和大字典

会意。「八印(開く)+口」で、入り口を開いて公開すること。個別に細分して隠さずおおっぴらに筒抜けにして見せる意を含む。▽「背私謂之公=私に背くを公と謂ふ」〔韓非〕とあるように、私(細かくわけてとりこむ)と公とは、反対のことば。工(突き抜く)・空(突き抜けた)・攻(突き抜く)などと同系。

語義

  1. {名詞・形容詞}おおやけ(おほやけ)。みんなにうちあけ、みんなとともにすること。▽訓の「おほやけ」は「大(オホ)+家(ヤケ)」の意で、大王家(天皇家)のこと。《対語》⇒私。「公共」「邪曲之害公也=邪曲の公を害す」〔史記・屈原〕
  2. {形容詞}一部にかたよらないさま。「公平」「公正」。
  3. {名詞・形容詞}個人のことでなく、官に関すること。また、個人のことでなく、官に関する。《対語》⇒私。「奉公」「公用」。
  4. {名詞}きみ。公・侯・伯・子・男の五等爵の第一位。▽周代には周公・魯公(ロコウ)のように王朝親族のおもな者に与えられた。のち広く爵位の名となる。「封燕国公=燕の国公に封ぜらる」〔枕中記〕
  5. {名詞}最高の官位。三公のこと。▽周代には、太師・太傅(タイフ)・太保を、前漢には丞相(ジョウショウ)(大司徒)・太尉(タイイ)(大司馬)・御史大夫(ギョシタイフ)(大司空)を、後漢には太尉・司徒・司空を三公という。
  6. {名詞}長老を呼ぶことば。転じて、ていねいに相手を呼ぶことば。「吾知公長者=吾公の長者なるを知る」〔史記・項羽〕
  7. {名詞}第三者を尊敬して某公という。「公等(コウラ)(あなたたち)」「従魂公受春秋=魂公に従ひて春秋を受く」〔漢書・怜弘〕▽「此公(コノコウ)」とは、このかたの意。また「乃公(ダイコウ)」とは、わが輩・おれさまの意で、もったいぶったいい方。
  8. 《日本語での特別な意味》人名・動物の名などの下につけて、親しみや軽べつの意をあらわすことば。「熊公」。

字通

[象形]儀礼の行われる宮廟の廷前のところの、平面形。廷前の左右に障壁があり、その中で儀礼が行われた。〔説文〕二上に「平分なり」とし、公平に分かつこと、また「韓非曰く」として「厶(わたくし)に背くを公と爲す」(〔韓非子、五蠹〕「私に背く、之れを公と謂ふ」)の語を引く。厶(私)と八とに従い、八を左右に背く形と解するものであるが、卜文・金文に厶に従う形のものはなく、方形の宮廟の前に、左右の障壁の線を加える。その廷前を公といい、その廟に祀る人を公という。そこで神徳をたたえる讚歌を頌といい、族内の争訟を裁くを訟という。〔詩、召南、小星〕「夙夜(しゆくや)公に在り」とは、公宮にあって、その祭事に従うことをいう。領主として祀られるものが公であり、その家の私属を私という。その関係を社会化して公私といい、公は公義・公正の義となる。

孔(コウ・4画)

孔 金文 孔 金文
孔作父癸鼎・西周早期/曾伯雨木二簠・春秋早期

初出:初出は西周早期の金文

字形は「子」+「イン」で、赤子の頭頂のさま。原義は未詳。

音:カールグレン上古音はkʰuŋ(上)。

用例:西周中期「師𩛥鼎」(集成2830)に「用乃孔德󱢋屯。」とあり、”大いなる”と解せる。

西周末期「白公父簠」(集成4628)に「其金孔吉。」とあり、”はなはだ”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、金文では”大いなる”を意味した(伯公父簠・西周末期)。

学研漢和大字典

会意。「子+梓印」。「説文解字」は乙(つばめ)をまつって子を授かる意と解するが従いがたい。「子(小さい)+乚印(曲げて通す)」を組みあわせて、細いあなが通ったさまを示す。一説に孔雀(クジャク)をあらわすとも、子授けの吉祥をもたらす鳥のことともいう。普通は空(あな)に当てる。

語義

  1. {名詞}あな。中空のすきま。「眼孔」「穿孔=孔を穿つ」。
  2. {動詞・形容詞}突き通る。中空になっているさま。「孔道」。
  3. {副詞}はなはだ。程度のはげしいさま。▽周代の古典に用いられた。《類義語》甚(ハナハダ)。「謀夫孔多=謀夫孔だ多し」〔詩経・小雅・小旻〕
  4. {名詞}「孔子」の略。「孔孟(孔子と孟子)」。

字通

[象形]子の後頭部に竅(あな)のある形。〔説文〕十二上に「通るなり」と訓し、「乙(いつ)と子に從ふ。乙(燕)は子を請ふの候鳥なり。乙至りて子を得。之れを嘉美するなり」とするが、金文の字形は乙に従う形とはみえず、子の後頭部に、小曲点を加えた形である。金文の〔虢季子白盤(かくきしはくばん)〕に「王孔(はなは)だ白(子白)に義(儀)を加ふ」「孔だケン 外字(あき)らかにして光又(あ)(有)り」など、孔甚の意に用いる。出生児の後頭部に、生子儀礼として剃刀を加えるなどのことがあって、それは嘉礼とされたのであろう。〔説文〕にまた「古人、名は嘉、字は子孔」と名字対待の例をしるしている。嘉礼の意よりして、大なり、甚なりなどの義を生じたのであろう。

亢(コウ・4画)

亢 金文
亞高作父癸簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkɑŋ(平)。下掲『学研漢和大字典』は篆書しか参照しておらず、字源についての解説は話半分に読む必要がある。下掲『字通』もふくめた字源は、甲骨文・金文の字形がいずれも、足かせの形であることから違うように感じる。

学研漢和大字典

亢 解字

会意。「大(人の姿)の字の略形(亠。人の首にあたるところ)+∥印(まっすぐな首の線)」で、直立するの意味を含む。頏(コウ)・抗(たってふせぐ)・杭(コウ)(まっすぐにたったくい)に含まれる。「興」に書き換えることがある。「興奮」。

語義

  1. {動詞・形容詞}たかぶる。たかい(たかし)。頭をたかく持ちあげる。すっくとたつ。傲慢(ゴウマン)な態度をとる。また、そのさま。《同義語》⇒昂。「亢然(コウゼン)」「不亢不卑=亢からず卑からず」。
  2. {名詞}のど。まっすぐにたっているのどぶえ。平声に読む。「絶亢而死=亢を絶ちて死す」〔漢書・陳余〕
  3. {動詞}すっくとたちはだかる。▽抗に当てた用法。
  4. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のおとめ座に含まれる。あみぼし。

字通

[象形]人の咽喉(のど)、胡脈とよばれる動脈部分を含む形。〔説文〕十下に「人の頸(くび)なり」とし、「大の省に從ひ、頸脈の形に象る」という。絞首することを「亢を絶つ」「亢を縊(くび)る」、また首をあげて抗することを抵抗、優劣を争うことを頡頏(けつこう)のようにいう。首を抗直にする形が亢である。

巧(コウ・5画)

巧 楚系戦国文字
『郭店楚簡』老甲1・戦国中末期

初出:初出は楚系戦国文字

字形:偏は工作を意味し、つくりは小刀の象形。中国の字書に収められた古い文字(古文)では、へんがてへんになっているものがある。

音:カールグレン上古音はkʰ(上/去)。空とそれを部品とする漢字群など、非常に多くの同音を持つ。藤堂上古音はk’og。部品の「工」のカ音はkuŋ。藤音はkuŋ。

論語時代の置換候補:「巧」と「工」は音通しているとは言いがたく、「工」の”貢ぐ”を除く動詞、形容詞・副詞の用例は、戦国時代にならないと現れない。論語語釈「工」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声で、丂(コウ)は、曲線が上につかえたさまで、細かく曲折する意を含む。巧は「工+〔音符〕丂」という。また「利口」の口は、本来巧の字だったのを略した。

語義

  1. {形容詞・名詞}たくみ。細工や技術がじょうずであるさま。手のこんだわざ。《対語》⇒拙。「巧拙」「絶巧棄利、盗賊無有=巧を絶ち利を棄つれば、盗賊有る無し」〔老子・一九〕
  2. {動詞・形容詞}たくみにうわべを飾る。また、そのさま。「巧言(ごまかし)」。
  3. 「乞巧(キッコウ)」とは、陰暦七月七日に、女性が細工の技量の上達を祈ること。また、陰暦七月を巧月という。
  4. {副詞}《俗語》偶然思うようにいくさま。まんまと。「湊巧(ソウコウ)(都合よく。うまいぐあいに)」。

字通

声符は工。工は工具。丂は曲刀の形。〔説文〕五上に「技なり」と技巧の意とし、工を亦声とする。工作についていう字であるが、巧言・巧笑など、人の言動に及ぼしていう。

訓義

1)たくみ、たくみなわざ、上手。2)こしらえ、つくり、いつわり、うわべ。3)うるわしい、さとい、すばやい、たくみに。

大漢和辞典

巧 大漢和辞典
巧 大漢和辞典

功(コウ・5画)

功 金文
師艅尊・西周早期

初出:初出は西周早期の金文

字形:初出の字形は「工」”工具”+「テツ」で、「屮」はおそらく農具の突き棒。全体で工具で作業するさま。原義は”功績”。現行字体は「工」+「力」だが、その初出は前漢の隷書で、おそらく書き間違えと思われる。戦国末期の金文では、「工」と書き分けられなかった事例がある。

音:カールグレン上古音はkuŋ(平)で、同音に公、工、貢、攻。

用例:西周の金文には、「工」を「功」と釈文する例が複数ある。

西周中期「師艅尊」(集成5995)に「王女上𥎦。師俞从。王󻅝功。易師俞金。」とあり、”功績”と解せる。

2022年1月現在、春秋末期までに、”功績”以外の用例は確認できない。

漢語多功能字庫」によると、金文では原義で用いた(師艅尊・西周早期)。

学研漢和大字典

会意兼形声。工は、上下両面にあなをあけること。功は「力+(音符)工」。あなをあけるのはむずかしい仕事で努力を要するので、その工夫をこらした仕事とできばえを功という。攻(あなをあけて突き抜く)・孔(突き抜けたあな)・空(突き抜けたあな)と同系。

語義

  1. {名詞}いさお(いさを)。てがら。やりばえ。「論功=功を論ず」「功績」「其言大而功小者則罰=其の言大にして而功小なる者は則ち罰す」〔韓非子・二柄〕
  2. (コウトス){動詞}てがらと考える。功績とみなす。「公子乃自驕而功之=公子乃ち自ら驕りてこれを功とす」〔史記・信陵君〕
  3. {名詞}働きの結果。成し遂げた仕事。「成功=功を成す」「功遂身退天之道=功遂げ身退くは天之道なり」〔老子・九〕
  4. {名詞}ききめ。実り。「奏功=功を奏す」「夫伐深根者難為功=それ深根を伐る者は功を為し難し」〔曹冏・六代論〕
  5. {名詞}努力。または、工夫。「用功=功を用ふ」「人不暇施功=人功を施すに暇あらず」〔司馬相如・上書諫猟〕
  6. 「功服」とは、喪服の一種。大功と小功がある。
  7. {名詞}《仏教》よい行い。「功徳」。

字通

[形声]声符は工(こう)。工は工作の具。力は耒(すき)の象形。もと農功をいう字である。〔説文〕十三下に「勞を以て國を定むるなり」とする。成功・戎功・有功を、金文に成工・戎工・又工としるし、ときに攻の字を用いる。功は後起の字である。

語系

功・工・攻kongは同声。攻は攻治、その功を致すことをいう。

大漢和辞典

功 大漢和辞典

弘(コウ・5画)

弘 甲骨文 弘 金文
「甲骨文合集」667/『字通』所載金文

初出:初出は甲骨文

字形:「弓」+「𠙵」”くち”。甲骨文では人名に用いるのみで原義は明瞭でない。

音:カールグレン上古音はɡʰwəŋ(平)。

用例:「甲骨文合集」8455.1に「貞勿令弘」とあり、人名と解せる。甲骨文での用例は多数あるのだが、人名でないと断定できない。

西周末期「禹鼎」(集成2834)に「弘(肆)禹亦勿敢憃」とあり、「肆」と釈文され、”ほしいままに”と解せるが、もはや別の字だと思った方がいい。

このほか春秋末期までの金文では、人名に用いた。

学研漢和大字典

会意兼形声。厶(コウ)は、ひじをひろく張り出したさま。肱(コウ)の原字。弘は「弓+(音符)厶」で、弓をじゅうぶんに張ることを示す。宏(コウ)(ひろい)・肱(コウ)(ひろく張ったひじ)・紘(コウ)(わくをひろげたなわ張り)などと同系。また、広ともきわめて近い。類義語に広。「広」に書き換えることがある。「広報」。

語義

  1. {形容詞}ひろい(ひろし)。わくいっぱいに張って、中がひろい。スケールが大きい。「弘大」。
  2. {動詞}ひろめる(ひろむ)。外わくをじゅうぶんに張りひろげる。《同義語》⇒広。《類義語》拡(カク)。「人能弘道=人能く道を弘む」〔論語・衛霊公〕
  3. {形容詞}緊張して強く張っているさま。「士不可以不弘毅=士はもって弘毅(こうき)ならざる可からず」〔論語・泰伯〕

字通

[象形]弓の握りのところに紐状のものをつけており、矢摺籐(やずりとう)のように巻き強めたものであろう。〔説文〕十二下に「弓聲なり」とし、字をム(し)声であるとするが、声が合わず、ムのようにみえる部分は弓の中把である。卜片に卜兆に対する繇辞(ちゆうじ)として「弘(おほ)いに吉なり」と附刻している例が多く、金文の〔毛公鼎〕に「皇天弘(おほ)いに厥(そ)の徳に猒(あ)く」とあり、古くから弘大の意に用いる。人の心意の上に移して、弘毅・弘達のように用いる。

叩(コウ・5画)

叩 甲骨文 叩 隷書
小屯南地甲骨1239/居延簡甲132・前漢

初出:初出は甲骨文だが、金文~戦国文字まで見られず、殷周交替で一旦絶えた漢語と思われる。

字形:「𠙵」”くち”+卩”ひざまずいた人”。言葉で人従わせる意か。

慶大蔵論語疏は異体字「𨙫」と記す。「孔龢碑」(後漢)刻。

音:カールグレン上古音はkʰu(上)。同音に「摳」”引っかける”、「口」、「扣」”控える・叩く”(→語釈)、「釦」”金属で器の口を飾る”、「竘」”すこやか”、「寇」、「怐」”おろか”、「詬」”恥じる・はずかしめる”。

用例:甲骨文は、「宀」をともなうものもあり古くからあったようだが、欠損が激しく語義不明。

論語時代の置換候補:扣(上/去)の初出は楚系戦国文字で、論語の時代に存在しない。部品の卩(カ音不明)は甲骨文から存在するが、”たたく”の語義は『大漢和辞典』に無い

学研漢和大字典

形声。卩印は、人間の動作を示す。叩は「卩(人のひざまずいた姿)+(音符)口」。扣(コウ)と通用する。殻(こつこつとたたく)と同系。類義語に打。

語義

  1. {動詞}たたく。こつこつとたたく。ノックする。《類義語》敲(コウ)。「叩門=門を叩く」「我叩其両端=我其の両端を叩く」〔論語・子罕〕
  2. {動詞}ひれ伏して、頭で地面をたたくようにおじぎする。「叩首(コウシュ)」「叩頭(コウトウ)」。
  3. {動詞}ひかえる(ひかふ)。ぐっと、うしろへ引く。《類義語》控。▽扣(コウ)(ひかえる)に当てた用法。「伯夷叔斉叩馬而諫=伯夷叔斉馬を叩へて諫む」〔史記・伯夷〕

字通

[会意]口+卩(せつ)。口は台の形。卩は人の伏する形で、叩頭の意であろう。周の武王が殷の紂王を伐つとき、伯夷・叔斉が「馬を叩(ひか)へて」諫めた話が〔史記、伯夷伝〕にみえる。伯夷は周と通婚関係にあった姜姓諸族の祖神である。

交(コウ・6画)

交 金文 交 甲骨文
琱伐父簋・西周晚期/甲骨文

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「大」”人の正面形”が足を交差させているさま。

音:カールグレン上古音はkŏɡ(平)。

用例:殷代末期の金文「交卣」に「交乍且乙寶󰓼彝。」とあり、人名の用例がある。

動詞”交流する・つきあう”の語義は、戦国中末期の「包山楚墓」146に「不交於新客者」とあり、竹簡から見える。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では氏族名に用い、金文でも氏族名に用いた(交鼎・西周早期)。

学研漢和大字典

象形。人が足を交差させた姿を描いたもので、×型にまじわること。絞(コウ)(なわや布を×型にしぼる)・煌(コウ)(足を型にねじる)・校(×型のかせ)などに含まれる。異字同訓に混ざる・混じる・混ぜる「酒に水が混ざる。西洋人の血が混じる。異物が混じる。雑音が混じる。セメントに砂を混ぜる。絵の具を混ぜる」。「淆」の代用字としても使う。「混交」。

語義

  1. {動詞}まじわる(まじはる)。互いに行き来しあう。「交際」「与朋友交=朋友と交はる」〔論語・学而〕
  2. {動詞}まじわる(まじはる)。まじえる(まじふ)。型にまじわる。「交差」。
  3. {動詞}手渡して受けとらせる。「交付」。
  4. {名詞}まじわり(まじはり)。つきあい。「親交」「為刎頸之交=刎頸の交はりを為す」〔史記・廉頗藺相如〕
  5. {名詞}まじわるところ。まじわるとき。
  6. {副詞}こもごも。型に交差するさま。交互に。また、入れかわりたちかわり。「上下交征利=上下交利を征す」〔孟子・梁上〕

字通

[象形]人が足を組んでいる形。〔説文〕十下に「交脛なり」という。転じて交錯の意となり、交通・交友・交互のような相互の関係の意に用いる。

好(コウ・6画)

好 甲骨文 好 金文
甲骨文/伯歸夆簋・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「子」+「母」で、母が子を抱くさま。従って原義は”母が子を可愛がること”。

音:カールグレン上古音はx(上/去)。藤堂上古音はhog。

用例:甲骨文に殷王武丁の妻として「婦好」の名が見え、「好」は氏族名と思われる。

西周末期の金文「虘鐘」に「好賓」とあり、「よきまろうど」と読め、”よい”の語義を確認できる。

春秋末期の金文「蔡𥎦盤」に「康諧龢好」とあり、「やすらぎととのえなごみよしむ」と読め、”親しむ”の語義が確認できる。

漢語多功能字庫」によると、西周の「杜伯盨」に”友好”の意で、西周中期の「羌伯簋」に”先祖への奉仕”の意で用いられているという。

学研漢和大字典

会意。「女+子(こども)」で、女性が子どもをたいせつにかばってかわいがるさまを示す。だいじにしてかわいがる意を含む。このむ(動詞)は去声、よい(形容詞)は上声に読む。休(かばってたいせつにする)・畜(キク)(大事に養う)・孝(親をたいせつにする)などと同系。

類義語に良。「よしみ」は「誼」とも書く。

語義

  1. {動詞}このむ。すく。愛する。たいせつにする。▽「すく」「すき」の訓は漢文では用いない。《対語》⇒悪(オ)・(ニクム)。「好悪(コウオ)」「王好戦=王戦ひを好む」〔孟子・梁上〕
  2. {形容詞}よい(よし)。このましい。▽上声に読む。「稍覚池亭好=稍覚ゆ池亭の好きことを」〔王績・初春〕
  3. {形容詞}よい(よし)。よろしい(よろし)。…するのにつごうがよい。▽上声に読む。「青春作伴好還郷=青春伴と作すは郷に還るに好し」〔杜甫・聞官軍収河南河北〕
  4. {形容詞}みめよい(みめよし)。姿や顔が美しい。愛らしい。▽上声に読む。「選斉国中女子好者八十人=斉国中の女子の好き者八十人を選ぶ」〔史記・孔子〕
  5. {名詞}よしみ。仲のよい関係。つきあい。▽上声に読む。「与不穀同好如何=不穀と好を同じうするはいかん」〔春秋左氏伝・僖四〕
  6. {動詞}きれいにできあがる。ととのう。「粧好」。
  7. {名詞}璧(ヘキ)のあな。《類義語》孔。「好三寸」。
  8. 《日本語での特別な意味》このみ。趣味。

字通

[会意]女+子。〔説文〕十二下に「美なり」、〔方言、二〕に「關よりして西、秦・晉の間、凡そ美色なるもの、或いは之れを好と謂ふ」とみえる。金文に「好賓」「好朋友」の語があり、また〔羋伯𣪘(びはくき)〕に「用て朋友と百諸婚媾に好せん」とあって、親好の意に用いる。のち美好・好悪の意となる。また璧玉の中央の孔をいう。

行(コウ・6画)

行 甲骨文 行 金文
甲骨文/巤季鼎・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:十字路を描いた象形。

音:「ギョウ」は呉音。カールグレン上古音はɡʰɑŋ(平/去)またはɡʰăŋ(平)またはɡăŋ(去)。

用例:『小屯南地甲骨』2718.3に「遘在行」とあり、「みちにう」とよめ、”みち”の語義が確認できる。

『甲骨文合集』4898.1に「呼令行」とあり、「呼びて行かしむ」と読め、”行く”の語義が確認できる。

「新蔡葛陵楚簡」に「禱行一犬」の用例が複数あり、おそらく語義は”用いる”。

漢語多功能字庫」によると、”みち”が原義で派生義が”ゆく”。甲骨文・金文ともにその意味で、金文でも”おこなう”の語義が見られるのは、戦国末期の「中山王鼎」からだという。

学研漢和大字典

象形文字で、十字路を描いたもの。みち、みちをいく、動いて動作する(おこなう)などの意をあらわす。また、直線をなして進むことから、行列の意ともなる。衡(コウ)(まっすぐなはかり棒)・桁(コウ)(まっすぐなけた)などと同系のことば。

類義語の歩は、ひと足ずつあるくこと。

意味〔一〕コウ/ギョウ/アン

  1. {動詞}いく。ゆく。動いて進む。また、動かして進ませる。《類義語》進・歩・征。「行進」「歩行」「行不由径=行くに径に由らず」〔論語・雍也〕
    ま{名詞}たび。よそへ出発すること。「送行(たびだちを送る)」「辞行(出発のいとまごいをする)」。
  2. {動詞}おこなう(おこなふ)。やる。動いて事をする。動かす。やらせる。《類義語》為。「施行」「行為」「行有余力則以学文=行ひて余力有らば則ち以て文を学ぶ」〔論語・学而〕▽他動詞(うごかす、やらせる)のときは、「やる」と読むことがある。「行軍=軍を行る」「行酒=酒を行る」。
  3. {名詞}おこない(おこなひ)。ふるまい。身もち。また、仏に仕える者のつとめ。▽去声に読む(今ではxíng)。「品行」「修行(シュギョウ)(僧がおこないをおさめる)」。
  4. {名詞}みち。道路。「行彼周行=彼の周行を行く」〔詩経・小雅・大東〕
  5. {動詞}時が進む。「行年五十」。
  6. {名詞}楽府(ガフ)(歌謡曲)のスタイルをした長いうた。「歌行」「兵車行」。
  7. 「五行(ゴギョウ)」とは、宇宙をめぐり動く木・火・土・金・水の五つの基本的な物質。
  8. {名詞}書体の一つ。隷書(レイショ)の少しくずれたもの。「行書」。
  9. {副詞}ゆくゆく。「行+動詞(ゆくゆく…す)」とは、進みつつ…すること。みちすがら。また、「行将+動詞(ゆくゆくまさに…せんとす)」とは、やがて…しそうだとの意。「行乞(コウキツ)」「行略定秦地=行秦の地を略定す」〔史記・項羽〕。「行将休=行まさに休せんとす」。
  10. {形容詞・名詞}旅行の途中の、という意から転じて、臨時の役所のこと。「行署(コウショ)」「行省(コウショウ)(地方の出先の役所)」「行在(アンザイ)(地方にできた天子*の臨時の執務所)」「行宮見月傷心色=行宮に月を見れば傷心の色」〔白居易・長恨歌〕

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

意味〔二〕コウ/ゴウ/ギョウ

  1. {名詞・単位詞}人・文字などの並び。また、昔、兵士二十五人を一行(イッコウ)といった。また転じて、一列に並んだものをあらわすことば。「行列」「行伍(コウゴ)(列をなした兵士)」「数行(スウコウ)」。
  2. {名詞}とんや。同業組合。また転じて、俗語では、大きな商店や専門の職業。「銀行(もと金銀の両替店)」「同行(同業者)」「洋行(外国人の店)」。
  3. {名詞}世代、仲間などの順序・序列。▽去声に読む(今ではháng)。「輩行(ハイコウ)(世代の序列)」「丈人行(妻の父に当たる序列をもつ人の意から、友人の父を敬って呼ぶことば)」。
  4. 《日本語での特別な意味》「銀行」の略。「行員」。

字通

[象形]十字路の形。交叉する道をいう。〔説文〕二下に「人の歩趨なり」とあり、字を彳(てき)、亍(ちょく)の合文とするものであるが、卜文・金文の字形は十字路の形に作る。金文に先行・行道のように用いる。呪力は道路で行うことによって、他の地に機能すると考えられ、術・衒など呪術に関する字に、行に従うものが多い。

后(コウ・6画)

后 甲骨文 后 金文
甲骨文/吳王光鑑・春秋末期

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「母」+「古」で、甲骨文の「古」は「十」”盾”と「𠙵」”くち”に分解でき、軍事権と神への上申=祭祀権を意味する。全体で、軍事権と祭祀権を持った女性。甲骨文の字形には、「母」が「人」に、「古」が「𠙵」になっているものがあるが、いずれも原義は”后妃”。

音:カールグレン上古音はɡʰu(上/去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では”君主”を意味した(吳王光鑑・春秋末期)。

備考:女性が最高神官を務める例は世界各地にある。殷末期の王・武丁の妻・婦好は殷の祭祀を取り仕切ると主に、各地への遠征軍を率いた。その墓から出土した青銅製のまさかりは、明らかに装飾用で、古来鉞は司法権・軍権の象徴だった。また実用武器として、隕鉄を刃に用い青銅で包み込んだ斧が出土している。

「夏后」は夏王朝のこと。孔子没後、墨家を立てて儒家を圧倒した墨子が、自派の始祖として禹王と共に創作した。「昔者夏后開使蜚廉折金於山川,而陶鑄之於昆吾」”むかし夏后(=禹)が家臣の蜚廉に命じて治山治水事業を行わせ、陶鑄に命じて冶金を行わせた(別解:昆吾族を征服した)”と『墨子』耕柱篇にある。つまり「夏后」とは「夏王」と同義。

学研漢和大字典

会意。上部は人の字の変形で、下は囗(あな)。人体の後ろにあるしりの穴(后穴)を示す。後と同系で、後ろの意を示す。転じて、後宮に住むきさき。また、厚(重く大きい意を含む)に当て、重々しい大王をさすのに用いる。

語義

  1. {名詞}うしろ。のち。《同義語》⇒後。《対語》⇒前。「知止而后有定=止まるを知りて后に定まる有り」〔大学〕
  2. {名詞}きみ。王侯を尊んでいうことば。「后王(君王のこと)」「群后(諸侯のこと)」「我后不恤我衆=我が后我が衆を恤まず」〔書経・湯誓〕
  3. {名詞}きさき。天子*の妻。《類義語》妃。「呂后(リョコウ)(漢の高祖の妻)」「皇后」。
  4. 「后土(コウド)」とは、地公と同じで、大地の神。土地神。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[会意]人+口。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器。字の立意は君と似たところがある。〔説文〕九上に「繼體の君なり」とし、「人の形に象る。令を施して以て四方に告ぐ。故に之れを厂(た)る。一に從ふ。口もて號を發する者は君后なり」と説くが、字は一と厂(かん)とに分かつべきものではない。神話的な古帝王に、夏后・后羿(こうげい)のように后とよぶものが多い。卜文の后の字は毓の形に作り、母后の分娩の形に作る。卜文に后祖乙・后祖丁を毓祖乙・毓祖丁に作る。后は後の意。早くからその訓があったのであろう。

扣(コウ・6画)

扣 楚系戦国文字
郭.老甲.33

初出:初出は楚系戦国文字

字形:現行字形は「扌」+「𠙵」”くち”で、大声を上げて手を出すことだが、初出の字形は「扌」には見えない。楚系戦国文字「郭店楚簡」で「手」に比定されている文字は上下に「上」+「氺」で、上掲字体とは全く異なる。へんは何らかの道具を意味するか。

音:カールグレン上古音はkʰu(上/去)。同音に「摳」(平)”ひきかける”、「口」、「釦」”わめく”、「叩」(→語釈)、「竘」”すこやか”(以上上)、「寇」”あだなす”、「怐」”おろか”、「詬」”はずかしめる”(以上去)。

用例:戦国中末期の「郭店楚簡」老子甲33に「攫鳥□(猛)獸弗扣」とあり、”叩く”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で音コウ訓たたくに「掐」(初出説文解字)、「控」(初出前漢隷書)、「搞」(初出漢印)、「撽」(初出説文解字)、「攩」(初出説文解字)、「攷」(初出戦国文字)、「敂」(初出戦国文字)、「𢾩」(初出不明)、「敲」(初出説文解字)、「㪧」(初出不明)、「槀」(初出甲骨文)、「毃」(初出説文解字)、「考」(初出甲骨文)、「虓」(初出説文解字)。

うち「槀」の春秋末期までの用例は甲骨文一例のみで(合集28132)、欠損がひどくて語義を確定できない。「考」は春秋末期まで「老」または「孝」と釈文される。ただし『詩経』唐風・山有樞に「弗考」とあり、毛伝に「考、撃也」とあるのを『大漢和辞典』は引くが、物証が無い。

上古音で同音同訓の「叩」は、初出は甲骨文だが金文から戦国末まで絶えており、一旦滅んだ漢語と思われる。論語語釈「叩」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、口は、くぼんだ穴。うしろや下にくぼむ意を含む。扣は「手+(音符)口」で、進むものを引き止めて、うしろにくぼませる。つまり、ひかえることを、あらわす。▽控(ひかえる)はその語尾がxに転じた語。また殻(かたい物でこつんとたたく)や叩(コウ)(こつんとたたく)に当てる。「控」に書き換えることがある。

語義

  1. {動詞}ひかえる(ひかふ)。ひく。ひき止める。前進するものを押さえてうしろにひっぱる。《類義語》控。「扣馬=馬を扣ふ」。
  2. {動詞}たたく。こつこつと打つ。ノックする。《同義語》叩(コウ)。「扣門=門を扣く」「扣舷而歌之=舷を扣きてこれを歌ふ」〔蘇軾・赤壁賦〕
  3. {動詞・名詞}《俗語》割りびく。また、割引。《類義語》折。「折扣(セッコウ)(割引)」。
  4. {名詞}《俗語》ひっかけて止めるボタンや止め金。《同義語》鉤(コウ)。「帯扣(タイコウ)(=帯鉤。帯の止め金)」。
  5. 《日本語での特別な意味》地名に使う。「石扣(イシアタケ)」は、新潟県の地名。

字通

[形声]声符は口(こう)。馬の口をとってひかえる意。〔説文〕十二上に「馬を牽くなり」とあり、馬の轡をとる意とする。

孝(コウ・7画)

孝 甲骨文 孝 金文
甲骨文/孝卣・殷代末期

初出:「国学大師」による初出は甲骨文。「小学堂」による初出は殷代末期の金文

字形:甲骨文の字形は「艸」”草”または”早い”+「子」で、なぜこの字形が「孝」と比定されたか判然としない。金文の字形は「老」+「子」で、子が年長者に奉仕するさま。

音:カールグレン上古音はxŏɡ(去)。

用例:甲骨文の用例は存在や前後を含めてはっきりしない。

殷代末期の「孝卣」に、「丁亥。𢦚易孝貝。用乍且丁彝。」とあり、「𢦚」は下位者がものを受け取る姿に描かれている。「丁亥、孝に貝を𢦚(下)賜す。用いて且丁彝を作る」と読めるが、「孝」を「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では人名に分類している。

西周期の金文では、「孝」と「考」”先祖”は相互に通用するようになり、対象は先祖、宗室、神が確認できる。

春秋末期の金文「吳王光鑑」に「用享用孝,眉壽無彊」は、「享くるを用って孝を用って、眉壽(寿命)きわまり無からんことを」と読めるが、「孝」の対象を親だとは書いていない。同時代の「王孫遺者鐘」に「用亯台孝。于我皇且文考」とあることから、おそらく祖先への奉仕を言うのだろう。

明確に孝行の対象を親と記したのは、「上海博物館藏戰國楚竹書」容成13で、「孝羕(養)父母」とある。

漢語多功能字庫」によると、西周末期の「尌仲簋蓋」から”敬う”・”奉仕する”の意が、春秋早期の「邿遣簋」から、”故人への奉仕”の意があるという。だがいわゆる”親孝行”の意は、戦国時代の「中山王鼎」が初出で、儒教的「親孝行」は戦国時代の竹簡からになるという。

学研漢和大字典

孝 解字
会意文字で、「老人の姿を示す老の字の上部+子」。音の「コウ」は、好(たいせつにする)と同系。また、効(力を尽くす、力をしぼり出す)と同系と考えることもできる。

語義

  1. {動詞・形容詞・名詞}子が心から親をたいせつにする。また、そのさま。また、親につかえる行い。「孝行」「其為人也孝弟而好犯上者鮮矣=其の人と為りや孝弟にして上を犯すことを好む者は鮮なし」〔論語・学而〕
  2. {名詞}祖先をたいせつにすること。「致孝乎鬼神=孝を鬼神に致す」〔論語・泰伯〕
  3. {名詞}《俗語》喪服。「穿孝(チュワンシャオ)(親の喪に服して白衣を着ること)」。

字通

老の省文+子。〔説文〕八上に「善く父母に事ふる者なり。老の省に従ひ、子に従ふ。子、老を承くるなり」という。〔礼記、祭統〕に「孝なる者はきくなり。道に従ひて倫に逆らはず。是を之れやしなふと謂ふ」とその声義を説く。金文に「もっキョウし(訳者注。すすめる)用て孝す」のように祀ることをいい、自ら称して孝孫という。〔詩、小雅、六月〕に「張仲の孝友なるあり」とみえ、老人に承順するという一般的な徳性をもいう。

語義

おやおもい、こうこう。父母をまつる。よく先祖につかえる。父母の喪に服する。年配者によくつかえる。

大漢和辞典

かうかう。よく父母に事へる。よく先祖に仕へる。父母の喪に服する。又、俗に喪服を言う。保母。諡。姓。

攻(コウ・7画)

攻 金文
𦅫鎛・春秋中期

初出:初出は西周中期の金文。「小学堂」による初出は春秋中期の金文

字形:「工」”工具”+「又」”手”で、工具を手に取るさま。原義は”打つ”。

音:カールグレン上古音はkまたはkuŋ(共に平)。前者の同音は論語語釈「救」を参照。

用例:西周中期「󱤘鼎」(集成2731)に「□肈從遣征。攻龠無啻(敵)。」とあり、”攻撃する”と解せる。

春秋早期「󱞣大𤔲攻鬲」(集成678)に「󱞣(慶)大□□𤔲(司)攻單□鑄其鬲。」とあり、「𤔲(司)攻」とあるのは、「司空」”土木長官兼大法官”と釈文されている。

春秋末期「󱜌孫鐘」(集成101)などにみえる「攻敔仲冬󱱏之外孫。」とあるのは、人名の一部と解されている。

春秋末期「配兒鉤鑃」(集成427)に「余孰戕于戎功𠭯武。」とあるのは、「功」と釈文されている。

上掲「司空」を除き”作る”の語義が現れるのは戦国時代、”おさめる”の語義が現れるのは文献時代以降。

漢語多功能字庫」によると、金文では”攻撃”(㚄鼎・年代不明)、”軍事”(王孫誥鐘・春秋)、また官職名に用いられた。

学研漢和大字典

工 金文 攴 金文大篆
「工・攴」(金文)

工は、上下の面を|線で突き抜いたさまを示す指事文字。攻は、「攴(動詞の記号)+音符工」の会意兼形声文字で、突き抜く、突っこむの意。空(突き抜けた)-孔(突き抜けたあな)などと同系のことば。

語義

  1. {動詞}せめる(せむ)。敵陣や敵城を突き抜くように突っこむ。「攻撃」「攻城略地=城を攻め地を略す」「戮力而攻秦=力を戮せて秦を攻む」〔史記・項羽〕
  2. {動詞}せめる(せむ)。相手の悪い点を突っこむ。責める。「小子鳴鼓而攻之可也=小子鼓を鳴らしてこれを攻めて可なり」〔論語・先進〕
  3. {動詞}おさめる(をさむ)。玉や金属を加工する。深く突っこんで学ぶ。研究する。「攻玉=玉を攻む」「攻究」。

字通

工 甲骨文
「工」(甲骨文)

工+ぼく。工は工具、攴は打つこと。工を用いて器を作ることをいう。〔周礼、考工記〕に、攻木・攻皮・攻金の職があり、みなその材質に加工することをいう。攻・工は通用の字。考は仮借。金文に軍事を戎攻、また戎工という。学術をおさめることを攻学・攻究という。工はまた左・尋・隠の字中に含まれて、呪具の意がある。その呪具を用いて、攻撃する意がある。

訓義

おさめる、器物をつくる、なおす。みがく、する、かたい、たくみ。せめる、おかす、たたかう。

大漢和辞典

うつ、せめる。犯す、かすめる、盗む。去勢する。治める、加工する、直す。良い。祭りの名。たくみ、職人。かたい。とがめる、責める。備える、供給する。伏せる。姓。

更(コウ・7画)

更 金文
師𠭰簋・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkăŋ(平/去)。同音は下記の通り。

初出 声調 備考
コウ かのえ 甲骨文
かへる 甲骨文
ショク/コウ つぐ 春秋金文
コウ あつもの 秦系戦国文字
やまにれ 秦系戦国文字
どもる 説文解字
つるべなは 説文解字
魚のほね 説文解字
さらに 甲骨文

漢語多功能字庫

甲骨文從「」從「」,構形初義不明。于省吾認為是「」的初文,「」為聲符,「」象執鞭。


甲骨文は「丙」と「攴」の字形に属すが、何を意味した字形か不明。于省吾は「鞭」の初文とし、「丙」は音符で、「攴」は鞭を手に取る象形だという。

学研漢和大字典

会意。丙は股(モモ)が両側に張り出たさま。更はもと「丙+攴(動詞の記号)」で、たるんだものを強く両側に張って、引き締めることを示す。類義語に代。異字同訓に、ふける 更ける「夜が更ける。秋が更ける」 老ける「老けて見える。老け込む」。「甦」の代用字としても使う。「更生」。

語義

  1. {動詞}あらためる(あらたむ)。たるんでいるものを引き締める。引き締めてしゃんとさせる。また、今までのものを新しくよいものにかえる。「更改」「更張」「更也人皆仰之=更むるや人皆これを仰ぐ」〔論語・子張〕
  2. {動詞}かえる(かふ)。かわる(かはる)。物事の順序やあり方をかえる。また、入れかわる。「変更」「更代(=交代)」。
  3. {動詞}つぐ。前者に入れかわってあとを受けつぐ。「更続」。
  4. {副詞}さらに。一段と。いっそう。▽去声に読む。「更善=更に善し」。
  5. {副詞}さらに。そのほかに。▽去声に読む。《類義語》別。「更無他裘=更に他の裘無し」〔史記・孟嘗君〕
  6. {副詞}こもごも。かわるがわる。入れかわって。《類義語》交(コモゴモ)。
  7. {動詞}へる(ふ)。一つ一つ経験する。物事を次々にする。「少不更事=少くして事を更ず」。
  8. {名詞}年功や経験をへた老人。「三老五更(長老たち)」〔礼記・文王世子〕
  9. {名詞}夜二時間ごとに時を知らせる夜回りの拍子木。▽北京語ではj4ngと読む。
  10. {名詞}日没から夜明けまでの一夜を五等分したそれぞれの時刻の呼び名。初更・二更・三更・四更・五更。
  11. 《日本語での特別な意味》
    ①さらに。けっして。いっこうに。▽下に打ち消しのことばを伴う。「更にその事なし」。
    ②いうまでもない。もちろん。「言うも更なり」。
    ③ふける(ふく)。夜がおそくなる。

字通

[会意]もと㪅に作り、丙(へい)+攴(ぼく)。丙は武器などの台座の形で、商・矞などはその形に従う。攴は打つこと。金文に丙を重ね、その下から攴を加える形があり、更改・変更のための呪的な方法と思われる。〔説文〕三下に「改なり」とあり、改はもと攺に作り、巳(蛇)を殴(う)つ呪詛の行為。これによって事態の変改を求める。變(変)は神に祝禱する意の言の両旁に呪飾を加え、これを殴って事態の変更を求める意。更・改・變はみな相似た方法で事態の変改を求める呪的方法を示す字である。みな禍殃を祓うことをいう。国語で「さらに」は、「あらためて」「あたらしく」の意がある。

苟(コウ・8画)

苟 金文 苟 隷書
鳥書箴銘帶鈎・戦国/相馬経8下・前漢隷書

初出は戦国の竹簡、または金文「鳥書箴銘帶鈎」(集成10407)。「小学堂」による初出は前漢の隷書

字形は「艹」+「句」で、原義は不明。句・冓ともに、”かりそめ・かり”の語釈は『大漢和辞典』にない。くさかんむりが左右に二分されている「茍」とは別字。論語語釈「茍」を参照。

音:カールグレン上古音はku(上)で、同音に句・冓(組みたてる)とそれを部品とする漢字群。

用例:戦国の「鳥書箴銘帶鈎」では「敬」と釈文されている。

戦国の「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1182では、人名の一部として使われている。

その他の戦国の竹簡は、「句」を「苟」と釈文したもの。

「上海博物館蔵戦国楚竹簡」性情論31に「〔父兄〕之所樂,句(苟)毋害,少枉,內(納)之可也,」とあり、”少しでも”と解せる、

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

「まことに」の訓を「故」ko(去)と共有し、「故」は論語時代の金文にある。「故」のカ音は「古」と同じで、古くは書き分けられていない。藤音はkag。ku-ko、kug-kagは近音と言ってよいのではないか。ただし「苟」の「まことに」が”ひとつひとつ”の意であるのに対し、「故」は”確かに”の意である。論語語釈「故」、またはリンク先大漢和辞典を参照。

また「苟」ku(上)の同音に、「冓」がある。これは材木を井桁状に積み上げた象形で、「構」の初文だが、一時的に積み上げた仮組みと解せる。つまりkuという音は、”一時的”を意味しうる。春秋末期までの用例では、「遘」”かまえる”と釈文される。しかしそれは拡大解釈というものだ。
冓 大漢和辞典

冓(コウ)は、むこうとこちらに同じように木を組んでたてたさま。むこうがわのものは逆に書いてある。(『学研漢和大字典』構字条)
冓は組紐を結び合わせる形で、象徴的な方法で婚儀を示す。組み合わせる意。〔説文〕六上に「蓋(おほ)ふなり」とあって、屋を架構することをいう。木を組み合わせること、それよりすべてものを構成することをいう。(『字通』構字条)

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。句(ク)・(コウ)は「勹(つつむ)+口」の会意文字で、小さく区切ってまるめこむこと。苟は「艸+(音符)句」で、とりあえず草でしばってまるめること。小さくまとめるの意を含む。▽敬の字の左の部分(キョク。ぐいと引きしめる)は別字。拘(コウ)(とらえこむ)・区(ク)(小さく区切ってかこむ)・辧(コウ)(竹で小さくかこんだやな)などと同系。

語義

  1. {形容詞・副詞}かりそめ。とりあえず小さくまるめて一時のまにあわせにするさま。また、いいかげんに当座をやりすごすさま。「苟安(コウアン)」「苟且(コウショ)」→語法「③」。
  2. {動詞}いやしくもする(いやしくもす)。かりそめにする(かりそめにす)。とりあえずまるめこむ。いいかげんにすませる。「一筆不苟=一筆も苟もせず」。
  3. {副詞}まことに。→語法「②」。
  4. {接続詞}いやしくも。→語法「①」

語法

①「いやしくも」とよみ、「もしも」「かりに~」「ほんとうに」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「丘也幸、苟有過、人必知之=丘や幸ひなり、苟(いやし)くも過ち有れば、人必ずこれを知る」〈私はしあわせだ、もし過ちがあれば、人がきっと気付いてくれる〉〔論語・述而〕

②「まことに」とよみ、「そのつど」「ひとつひとつ」と訳す。行為・動作に区切りをつける意を示す。「苟日新日日新=苟(まこと)に日に新たにして日日に新たなり」〈一日一日とみずからを新しくし、また一日一日と新しくする〉〔大学〕

③「かりそめに(も)」とよみ、「とりあえず」「なんとか」「せめて~」と訳す。▽「いやしくも」とよんでもよい。「生亦我所欲、所欲有甚於生者、故不為苟得也=生もまた我が欲する所なれども、欲する所生より甚だしき者有り、故に苟(かりそめに)も得るを為さざるなり」〈生命も自分の欲するものだが、生命以上に欲するものがある、それ故、生命を欲していたずらに生きながらえようとはしないのである〉〔孟子・告上〕

字通

[形声]声符は句(こう)。〔説文〕一下に「艸なり」とあり、〔急就篇〕に貞夫(ていふ)という草の名であるとする。しかし字の用義法からみて、単に草の名とは思われず、あるいは敬字の従うところの苟の異文であろうかと思われる。敬は呪祝のことに従っている羌人を殴(う)って敬(いまし)める意で、その敬められるような状態にあることをいう字であろう。ゆえに苟且、その他の意となる。

幸(コウ・8画)

幸 甲骨文 幸 金文 幸 金文
甲骨文/匚牛夭父辛方彝・西周中期/嗇夫戈・戦国末期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「㚔」。

字形:初出は手かせの形。甲骨文・金文では”捕らえる”と解し、後世の「サイ」「」”つみ”へと繋がる字と見なすべきで、「幸」”さいわい”の原字とは言いかねる。戦国の金文から「十」字形(おそらく「又」の略体)+「羊」の字形が見え、秦系戦国文字、前漢の隷書は「又」+「羊」と見なすべく、羊を手で捕らえる様。後漢の隷書より「幸」と記すようになった。

小学堂 幸

小学堂 「幸」字形演変

音:カールグレン上古音はɡʰĕŋ(上)。同音は「莖」”くき”、「牼」”牛のはぎの骨”(以上平)、「倖」(上)。

用例:殷代末期の金文は、いずれも族徽(家紋)とみられ、語義は分からない。

殷代末期または西周早期の「㚔𤰈爵」(集成8242)に「㚔𤰈」とあるが、何を意味しているのか分からない。

西周早期「󺿭乍且癸𣪕」(集成3645)に「󱝓𢽞乍且癸寶󰓼彝。」とあり、「𢽞」の部品として「幸」があるが、人名の一部で語義は不明。

西周早期「󱩝父辛觥」(集成9292)に「󱩝乍父辛寶󰓼彝。㚔。」とあり、「㚔」は「幸」の古字だが、何を意味しているのか分からない。

𢽞 金文

上掲西周中期「史牆盤」(集成10175)に「曰古文王。初𢽞龢于政。」とあり、「𢽞」は”むちうつ”の意と『大漢和辞典』も「国学大師」もいう。

西周中期「󱩝父辛方彝」(集成9885)に「󱩝乍父辛寶󰓼彝。㚔。」とあり、「㚔」は「幸」の古字だが、何を意味しているのか分からない。

後漢前期の記述には、「幸」と”さいわい”として用いる例があるから(論語雍也19篇解説)、現行字体「幸」の出現とほぼ同時に、”さいわい”の語義を獲得したと思われる。後漢中期の『説文解字』は「𡴘」と記して「𡴘,吉而免凶也」とあり、不幸を免れる意とする。「㚔」字は「㚔,所以驚人也」とあり、人を驚かすものの意とする。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

『大漢和辞典』で音コウ訓さいわいに「倖」のほか「烋」「穀」があり、うち「穀」kuk(入)の初出は西周早期の金文だが、上古音が違いすぎる上に、”さいわい”の語義は文献時代まで時代が下る。詳細は論語語釈「穀」を参照。

備考:「漢語多功能字庫」には参考になるべき情報はあるが、時代ごとの語義の変遷を記さない。

藤堂明保『漢文入門』
幸 解字最近、中国の黄河・淮河の堤防工事の現場から、大昔のハニワが出てきた。それを見ると、…奇妙な形の手かせをはめている。この手かせを文字にしたのが、幸という字である。だから刑と幸とは、手かせ足かせ――という点では、まったく同じであろう。

幸(さいわい)とが刑と同系のコトバだと申せば、みなさん目を丸くなさるだろう。しかし、牢獄に入れられた人をギョという。□印はとり巻いた牢屋を示し、中の幸とは明らかに刑具をはめた人である。

…幸とは元来「危なく・やっとのことで」という意味だとおわかりになるだろう。後に、ギョウコウの倖の字で表されるのが、幸の本来の意味である。非常な危険にさらされているが、危うく逃れえたことを僥倖という。だから幸とは、もともと刑(手かせ)をはめられるような、間一髪の事態を指したコトバなのであった。

藤堂博士の意見は意見として、言いくるめの感を免れない。甲骨文で”手かせ(をはめる)”・”捕らえる”の意であることは明らかだ。

甲骨文合集6528『甲骨文合集』6528

  1. …王正(征)下危*,受㞢(有)又(祐)。
  2. □□〔卜〕,爭鼎(貞):王曰兔※(兔鷹—逐?)田,其㚔。
  3. 鼎(貞):𢎥(勿)曰兔※(兔鷹—逐?)田,弗其㚔。

”さいわい”と読める戦国の金文も、実は字形が明瞭でない。

嗇夫戈『殷周金文集成』11284「嗇夫戈」

  1. (󺻹月。嗇夫冰。冶幸)□都。
  2. 󺻹月。嗇夫冰。冶幸(□都。)

学研漢和大字典

象形。手にはめる手かせを描いたもので、もと手かせの意。手かせをはめられる危険を、危うくのがれたこと。幸とは、もと刑や型と同系のことばで、報(仕返しの罰)や執(つかまえる)の字に含まれる。幸福の幸は、その範囲がやや広がったもの。類義語の倖(コウ)は、危うく難をまぬがれることから、思いがけない運に恵まれたこと。幸のもとの意味に近い。福は、豊かな恵み。祉は、神の恵みがそこにとどまること。「倖」の代用字としても使う。「射幸心・薄幸」▽「しあわせ」は「仕合わせ」とも書く。

語義

  1. {名詞}さいわい(さいはひ)。しあわせ。ひどい目にあわないですむこと。《同義語》⇒倖。「徼幸=幸ひを徼む」「丘也幸=丘也幸ひなり」〔論語・述而〕
  2. {副詞}さいわいにして(さいはひにして)。運よくやっと。「幸而得之=幸ひにしてこれを得たり」〔孟子・離下〕
  3. {動詞}さいわいとする(さいはひとす)。ねがう(ねがふ)。これはしめたと思う。うまくいったと考える。「幸災楽禍=災ひを幸ひとし禍を楽しむ」「幸災不仁=災ひを幸ひとするは不仁なり」〔春秋左氏伝・僖一四〕
  4. (コウス)(カウス){動詞・名詞}みゆき。天子*が出かけることをいう敬語。▽思いがけないさいわいの意から。「行幸」「蜀主窺呉幸三峡=蜀主呉を窺ひて三峡に幸す」〔杜甫・詠懐古跡〕
  5. (コウス)(カウス){動詞・名詞}君主にかわいがられる。君主のめぐみ。▽思いがけないさいわいの意から。「寵幸(チョウコウ)」「得幸=幸を得」。
  6. 《日本語での特別な意味》さち。つさいわい。づ山や海からの収穫物。「海の幸、山の幸」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[象形]手械(てかせ)の形。これを手に加えることを執という。〔説文〕十下に「吉にして凶を免るるなり」とし、字を屰(ぎゃく)と夭(よう)とに従い、夭死を免れる意とするが、卜文・金文の字形は手械の象形。これを加えるのは報復刑の意があり、手械に服する人の形を報という。幸の義はおそらく倖、僥倖にして免れる意であろう。のち幸福の意となり、それをねがう意となり、行幸・侍幸・幸愛の意となるが、みな倖字の意であろう。〔説文〕にまた幸部十下があり、「人を驚かす所以なり。大に從ひ、𢆉(じん)に從ふ。一に曰く、大聲なり」とし、「一に曰く、讀みて瓠(こ)の若(ごと)くす。一に曰く、俗語、盜の止まざるを以てジョウ 外字(でふ)と爲す」とあり、睪(えき)・執・癸(ぎょ)・盩(ちゅう)・報・𥷚(きく)の諸字がその部に属する。睪は獣屍の斁解(とかい)する形、他はみな手械に従う字である。幸福の義は倖。〔独断、上〕に「幸は宜幸なり。世俗、幸を謂ひて僥倖と爲す。車駕の至る所、民臣其の徳澤を被り、以て僥倖となす。故に幸と曰ふなり」とみえる。

藤堂明保・漢文概説

幸 解字最近、中国の黄河・淮河の堤防工事の現場から、大昔のハニワが出てきた。それを見ると、…奇妙な形の手かせをはめている。この手かせを文字にしたのが、幸という字である。だから刑と幸とは、手かせ足かせ――という点では、まったく同じであろう。

幸(さいわい)とが刑と同系のコトバだと申せば、みなさん目を丸くなさるだろう。しかし、牢獄に入れられた人をギョという。□印はとり巻いた牢屋を示し、中の幸とは明らかに刑具をはめた人である。

…幸とは元来「危なく・やっとのことで」という意味だとおわかりになるだろう。後に、ギョウコウの倖の字で表されるのが、幸の本来の意味である。非常な危険にさらされているが、危うく逃れえたことを僥倖という。だから幸とは、もともと刑(手かせ)をはめられるような、間一髪の事態を指したコトバなのであった。(藤堂明保『漢文入門』)

肱(コウ・8画)

肱 甲骨文 肱 金文
合13679/毛公鼎・西周末期

初出:初出は甲骨文。ただし字形はつくりのみの「厷」。

字形:「又」”腕”+「○」”関節”。にくづきが付けられたのは後漢の『説文解字』から。

音:カールグレン上古音はkʰi̯uk(入)。

用例:「甲骨文合集」10419に「辛亥卜爭貞王不其肱射兕」とあり、”ひじ”と解せる。

西周末期「師訇𣪕」(集成4342)に「乍厥厷股」とあり、”うで”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。∠は、∠型にひじを張り出したさま。右側は「手のかたち+∠」の会意文字でひじのこと。肱はそれを音符とし、肉をそえた字。宏(コウ)(張り出てひろい)・紘(コウ)(広く張り出たわく)などと同系。「ひじ」は「肘」「臂」とも書く。

語義

  1. {名詞}ひじ(ひぢ)。外に向けて∠型に張り出すひじ。「曲肱而枕之=肱を曲げてこれを枕とす」〔論語・述而〕

字通

[形声]声符は厷(こう)。厷は右の腕をまげて弓などを引く形。〔説文〕三下に「厷は臂(ひぢ)の上なり」という。〔易〕を伝えたという馯臂(かんび)子弓は臂と弓と名字対待。肱(厷)はその弓を引く腕をいう。〔論語、述而〕「肱を曲げて之れを枕とす」とは、世離れた気楽な生活をする意。

空(コウ・8画)

工 金文 空 金文
𤔲工丁爵・西周早期/十一年庫嗇夫鼎・戦国末期

初出:初出は西周早期の金文。ただし字形は部品の「工」。「小学堂」によると現伝字形の初出は戦国末期の金文

字形:「穴」+「工」。加工して穴を開けたさま。人為的に造成した空間を言う。

音:カールグレン上古音はkʰuŋ(平/去)。同音に悾”まこと”、孔”通る・あな・大きい・空しい”、控。「クウ」は呉音。

用例:西周早期~末期までの用例は全て「司工」としるして「司空」と釈文している。司空は国家の最高官の一つで、土木工事とそれに使役する罪人の管理や司法を取り扱う。春秋時代の用例も同様で、ただし「司攻」と記した例がある。

学研漢和大字典

会意兼形声。工は、つきぬく意を含む。「穴(あな)+(音符)工(コウ)・(クウ)」で、つきぬけてあながあき、中に何もないことを示す。孔(コウ)(つきぬけたあな)・腔(コウ)(のどのつきぬけたあな)・肛(コウ)(しりのあな)・攻(つきぬく)などと同系。類義語の虚は、中身がなくうつろである。徒は、何も物をもたないさま。異字同訓に明。「むなしい」は「虚しい」とも書く。

語義

  1. (クウナリ){形容詞}むなしい(むなし)。穴があいている。中に何もなくつきぬけている。「中空」「空隙(クウゲキ)」。
  2. (クウナリ){形容詞・動詞}むなしい(むなし)。あいている。何もない。からっぽ。からにする。《対語》⇒実。《類義語》虚。「空虚」「員瓢鮭空=員瓢(たんへう)鮭(しばしば)空なり」〔陶潜・五柳先生伝〕
  3. (クウナリ){形容詞・名詞}むなしい(むなし)。中身がないさま。実がない。からっぽなさま。うそ。うつけ。《対語》実。「空言」。
  4. {副詞}むなしく。なんの得るところもなく。いたずらに。《類義語》徒。「空自苦亡人之地=空しく自ら人亡きの地に苦しむ」〔漢書・蘇武〕
  5. {名詞}うつろ。空虚な状態。何のあとかたもないゼロの状態。あな。▽去声に読む。《類義語》無。「空白」「当年遺事久成空=当年の遺事久しく空と成る」〔曾鞏・虞美人草〕
  6. {名詞}《仏教》意識(色相)をこえてすべてをゼロとみなす悟りの境地。いっさいのものは、因縁によって生ずるもので、不変の実体はないという仏教の根本原理の一つ。▽自我の否定を説く我空と、万物に実体のないことを説く法空とが主なるものである。「空見」「空門(仏道)」。
  7. {名詞}そら。おおぞら。また、地上のなにもない空間。「航空」「旌旗蔽空=旌旗空を蔽ふ」〔蘇軾・赤壁賦〕
  8. 《日本語での特別な意味》「航空機」の略。「空襲」「空爆」。

字通

[形声]声符は工(こう)。工には虹・杠のようにゆるく彎曲する形のものを示すことがあり、穴のその形状のものを空という。〔説文〕七下に「竅(けう)なり」、前条の竅字条に「空なり」とあって、空竅互訓。竅とは肉の落ちた骨骼のように、すき間のある穴。空はのち天空の意に用いる。

狎(コウ・8画)

狎 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は前漢宣帝期の定州竹簡論語。ただし字形は未発表。戦国中末期の楚系戦国文字にも、別の字形を「狎」と釈文する例がある(「包山楚簡」105など)。確実な初出は後漢の説文解字

字形:「犭」”犬”+「甲」”檻に入れる”。動物を飼い慣らすさま。

慶大蔵論語疏は「押」と記す。「狎」(カールグレン上古音ɡʰap、中古音ɣap、入声)の異体字として「押」(同ʔap、ʔap、入声)は見つからなかったので、音通字として隋代ごろの中国では区別しなかった可能性がある。

音:カールグレン上古音はɡʰap(入)。同音に「柙」”檻・箱”、「匣」”檻・箱”。

用例:文献上の初出は論語郷党篇17。『墨子』『孟子』『老子』『韓非子』にも用例がある。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で音コウ訓なれるに「押」ʔap(入)があり、「狎に通ず」というが、初出が不明、古文のみが知られる

学研漢和大字典

会意兼形声。「犬+(音符)甲(わくをかぶせる)」で、動物をわくに入れてならすこと。押(おさえて封じる)・柙(コウ)(おり)と同系。類義語に馴。

語義

  1. {動詞}ならす。動物をならす。動物を手なずける。《類義語》馴(ジュン)。
  2. {動詞}なれる(なる)。おとなしくして、安住する。「民狎其野=民其の野に狎る」〔春秋左氏伝・昭二三〕
  3. {動詞}なれる(なる)。人と親しくする。近づきになって遠慮をしないようになる。また、仕事になれる。「狎近(コウキン)」「欲狎林野人=林野の人に狎れんと欲す」〔高啓・出郊抵東屯〕
  4. {動詞}なれる(なる)。なれなれしくする。あなどる。「狎大人、侮聖人之言=大人に狎れ、聖人の言を侮る」〔論語・季氏〕
  5. {動詞}なれる(なる)。習慣となる。それが例となる。「晋楚狎主諸侯之盟也久矣=晋楚諸侯の盟を主るに狎るるや久し」〔春秋左氏伝・襄二七〕

字通

[形声]声符は甲(こう)。〔説文〕十上に「犬は習(なら)すべきなり」と、犬の飼養しやすいことをいう字とする。〔詩、衛風、芄蘭〕「能(すなは)ち我に甲(な)れず」のように、甲のままで用いることがある。狎るの意に用いる弄・玩・翫・習はみな呪器に関する字であるが、「狎る」が甲に従う理由は明らかでない。

厚(コウ・9画)

厚 甲骨文 厚 金文
甲骨文/史墻盤・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「厂」”がけ”+「𣆪」”酒壺”(音不明)と「漢語多功能字庫」は言い、崖の洞穴で酒を醸してその味が濃厚になっていくさまという。『説文解字』は「𣆪」を「厚也」としている。西周中期以降、下掲『学研漢和大字典』がいうような「高の字をさかさにした形」が現れる。ただしがんだれを伴っている。

「高」は”物見櫓”の意で、金文で逆「高」形に描かれたのは、甲骨文から字形がなまっただけで語意を与えないと思う。

厚 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔广丨丨二子〕」と記す。上掲「太妃馮令華墓誌銘」(東魏)刻。

音:カールグレン上古音はɡʰu(上)。去声は不明。

用例:甲骨文では人名に用いられ、金文では”多い”・”大きい”を意味するようになった。

学研漢和大字典

会意文字で、厚の原字は、高の字をさかさにした形。それに厂(がけ、つち)を加えたものが厚の字。土がぶあつくたまったがけをあらわす。上に高く出たのを高といい、下にぶあつくたまったのを厚という。基準面の下にぶあつく積もっていること。

垢(コウ)(下にたまったごみ)と同系のことば。また、后や後(いずれも基準線よりあとに、または下になる)とも縁が近い。

類義語の篤(あつい)は、念入りなこと。渥は、ねんごろなさま。淳は、真心があって、情け深い。惇は、落ち着いていて、人柄にあつみがある。敦は、ずっしりと安定している。

語義

  1. {形容詞}あつい(あつし)。ぶあついさま。《対語》⇒薄。「不臨深谿、不知地之厚也=深谿に臨まざれば、地の厚きを知らざるなり」〔荀子・勧学〕
  2. {名詞}あつさ。あつみ。「以無厚入有間=厚さ無きを以て間有るに入る」〔荘子・養生主〕
  3. {形容詞}あつい(あつし)。丁重なさま。「厚遇」。
  4. {形容詞}あつい(あつし)。ねんごろなさま。心づかいが深いさま。「厚意」「陵与子卿素厚=陵子卿と素より厚し」〔漢書・蘇武〕
  5. {形容詞}あつい(あつし)。程度がひどいさま。重いさま。「厚賦(コウフ)(重税)」「厚者為戮、薄者見疑=厚き者は戮(りく)せられ、薄き者は疑はる」〔韓非子・説難〕
  6. 《日本語での特別な意味》旧「厚生省」の略。「厚相」▽現在は「厚生労働省」。「厚労相」。

字通

[会意]厂(かん)+㫗(こう)。㫗は〔説文〕五下に「厚なり。反享に從ふ」とあり、鬯酒(ちようしゆ)を奉ずる象。厚とは厂(廟)中に厚く享饌することをいう。〔説文〕に「厚は山の陵の厚きなり」とし、山陵をいう語とするが、㫗の声義に関するところがない。〔詩、小雅、正月〕「地をば蓋(けだ)し厚しと謂ふ」、〔易、坤、彖伝〕「坤は厚く物を載す」など、地の深厚をいう例は多いが、金文に「厚詣」「厚命」などの語があり、もと神徳をいう語であり、〔井編鐘(けいへんしよう)〕に「余(われ)に厚く多福を降すこと無疆なり」のようにいう例がある。

後(コウ・9画)

後 甲骨文 後 金文
甲骨文/帥隹鼎・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は彳を欠く「ヨウ」”ひも”+「」”あし”。あしを縛られて歩み遅れるさま。原義は”おくれる”。

後 異体字 後 異体字
慶大蔵論語疏は「〔彳𠂊又〕」と記す。上掲左「隋處士范高墓志」刻字に近似。また「〔彳𠂊夂〕」と記す。上掲右「漢建威將軍□〓碑」刻。

音:カールグレン上古音はɡʰu(上)、去声は不明。「ゴ」は慣用音。呉音は「グ」。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義に、金文では加えて”うしろ”(小臣單觶・西周早期)を意味し、「後人」は”子孫”を意味した(乍册夨令𣪕・西周早期)。また”終わる”を意味し(黃子豆・春秋)、人名の用例もある(白克壺・年代不明)。

学研漢和大字典

後 解字
会意文字で、「幺(わずか)+夂(あしをひきずる)+彳(いく)」で、足をひいてわずかしか進めず、あとにおくれるさまをあらわす。のち、后(コウ)・(ゴ)(うしろ、しりの穴)と通じて用いられる。

語義

  1. {名詞}のち。あと。ある起点よりみて、あとの方。▽場所についても、時間についても用いる。《対語》⇒前・先。「事後」「落人後=人後に落つ」。
  2. {名詞}うしろ。しりえ(しりへ)。しり。▽もと、人体後部のしりの穴のこと。《同義語》⇒后(ゴ)・(コウ)。「是夕也、恵王之後而蛭出=是の夕に也、恵王之後より而蛭出づ」〔新書・春秋〕
  3. {形容詞}のち。あと。のちの。あとの。《対語》⇒先・初・前。「後世」「後生」「後必有災=後に必ず災ひ有らん」〔孟子・梁上〕
  4. {名詞}のち。あと。あとつぎの人。また、子孫。《対語》⇒先(祖先)。「三代之後(三王朝の子孫)」「其無後乎=其れ後無からんか」〔孟子・梁上〕
  5. {動詞}あとにする(あとにす)。のちにする(のちにす)。あと回しにする。「絵事後素=絵事は素を後にす」〔論語・八佾〕
  6. {動詞}おくれる(おくる)。あとになる。《類義語》遅。「非敢後也=敢へて後れしに非ざるなり」〔論語・雍也〕

字通

[会意]彳(てき)+幺(よう)+夊(すい)。〔説文〕二下に「遲きなり」と訓し、〔段注〕に幺は幼少、小足のゆえに歩行におくれる意とする。金文の字形は幺の下に夊をつけ、また各の字形を加えるものがある。各は祝詞を奏して神霊が降格する意であるから、この字も進退に関する呪儀を示すものであろう。幺は御の古い字形にも含まれるもので、御の初文には幺を拝する形に作るものがある。後は、あるいは敵の後退を祈る呪儀を示す字であろう。

巷(コウ・9画)

巷 金文巷 金文
八年相邦鈹・戦国末期(晉)/「コウ 外字」倗生𣪘・西周早期

初出:初出は戦国晩期の金文。ただし下記『字通』によれば、「コウ 外字」と書いて西周初期の金文にある。

字形:「人」二人の間に「土」で、原義は”境界”。

音:カールグレン上古音はɡʰŭŋ(去)で、同音は「鬨」”たたかう”・「項」”うなじ”・「鬨」”戦う”。

論語時代の置換候補:下掲『字通』のいう「倗生𣪘」は、現在「格伯簋」(集成4262)と呼ばれており、「立ちかう 外字コウ 外字」とあるのは『字通』によると「立(のぞ)みてちかう 外字(ちか)ひ、コウ 外字(かう)を成す」と読む。「コウ 外字」について「その字が巷の初文であるらしく、境界の榜示をなす意と思われる」という。

日本語で同音同訓の「垙」「衖」「𨙵」「䢽」「𨞔」「闀」は論語の時代の文字が見つからない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「人のふせた姿+(音符)共」。人の住む里の公共の通路のこと。共はまた、突き抜ける意を含むから、つきぬける小路のことと解してもよい。「ちまた」は「衢」とも書く。

語義

  1. {名詞}ちまた。町や村の通路。小路。《類義語》街。「巷党(コウトウ)(町内の仲間)」「在陋巷=陋巷に在り」〔論語・雍也〕
  2. {名詞}ちまた。まち。世間。「巷間(コウカン)」。

字通

[形声]正字の字形は䣈(コウ)に従い、共(きよう)声。字はまた行に従う。〔説文〕六下に「衖は里中の道なり」という。〔礼記、檀弓上〕に「曾子、客と門側に立つ。其の徒趨(はし)りて出づ。~將(まさ)に出でて巷に哭せんとす」とあり、邑門の外の、儀礼を行うところを巷という。金文の〔倗生𣪘(ほうせいき)〕に「立(のぞ)みてちかう 外字(ちか)ひ、コウ 外字(かう)を成す」とあって、その字が巷の初文であるらしく、境界の榜示をなす意と思われる。のち里巷をいい、〔詩、鄭風、叔于田〕に「巷(ちまた)に居人無し」、〔伝〕に「巷は里の塗(みち)なり」とみえる。

恆/恒(コウ・9画)

恒 甲骨文 恆 金文
「甲骨文合集」14762 /恒簋蓋・西周中期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「亙」(亘)。

字形:甲骨文の字形は、上下に横線、間に「月」。原義は不明。月の縱幅を意味するか。現伝字形は〔忄〕”こころ”+「亙」。「亙」のような心理状態を意味するが、「亙」の原義が分からないからどんな心理状態か分からない。満ち欠けに従って増減する月の横幅と違い、変化しない縦幅のような不動心を言うか。

仮にそうだとすれば、新字体「恒」は原義を失っているというべく、旧字体「恆」を正字と見なすのにはそれなりに理が通っているのかもしれない。

清家本は新字体と同じく「恒」と記す。定州竹簡論語も同様に釈文するが、原簡は非公開で、おそらくはすでに破壊されて失われている。

唐開成石経

唐石経は「恒」字形でただし最後の一画を欠く。唐穆宗李恒の避諱

音:現伝字形のカールグレン上古音は不明。藤堂上古音はɦəŋ(平)またはkəŋ(去)。甲骨文「亙」のカールグレン上古音はkəŋ(去)。

用例:「甲骨文合集」40437正.1に「王恒易禦」とあり、人名と解せる。

西周中期「恒簋蓋」(集成4199)に「王曰恒」とあり、人名と解せる。

西周末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1394に「亘(恒)命霝冬(終)」とあり、”つねに”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。亙(コウ)は、三日月の上端下端を二本の線で示し、その間にある月の弦を示した会意文字。恆は「心+(音符)亙」で、月の弦のように、ぴんと張り詰めた心を示す。いつでも緊張してたるまない意となる。克(コク)(張りきる)・極(上から下まで張った大黒柱)などと同系で、kəkの語尾が鼻音となって伸びたことばである。類義語に常。旧字「恆」は人名漢字として使える。

語義

コウɦəŋ(平)
  1. {名詞・形容詞}つね。いつもかわりなく張りつめていること。いつも一定しているさま。《類義語》常。「有恒=恒有り」「無恒産而有恒心=恒産無くして恒心有り」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}つねにする(つねにす)。いつもたるみなく張りつめる。「不恒其徳=其の徳を恒にせず」〔論語・子路〕
  3. {動詞}つねとする(つねとす)。いつもそうだと考える。ふつうのこととみなす。ふだんのならわしとする。「無恒安息=安息を恒とする無かれ」。
  4. {副詞}つねに。いつも。「恒恐=恒に恐る」。
  5. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。▽陟陦(巽下震上(ソンカシンショウ))の形で、つねに安定してかわらないさまを示す。
コウkəŋ(去)
  1. {名詞}ぴんと張った月の弦。《同義語》亙。「如月之恒=月の恒のごとし」〔詩経・小雅・天保〕

字通

[形声]声符は亘(こう)。亘は上下二線の間に弦月の形を加えたもので、〔詩、小雅、天保〕に「月の恆(ゆみは)るが如し」とあるのがその原義。〔説文〕十三下に「常なり」とあり、恒久・恒常をいう。篆文の字は二線の間に舟形に作るが、卜文は月に従う。古文の字形も月に従う形である。

紅(コウ・9画)

紅 甲骨文 紅 楚系戦国文字
合集14938/仰25.10・戦国

初出:初出は甲骨文ともされるが、果たしてこの字形を「紅」と読んでよいか判断できない。西周から春秋まではすっかり用例がない。確実な初出は楚系戦国文字

字形:甲骨文に比定される字形は「㔾」”跪く人”+「工」”工具”で、身体に何らかの処置を加え、血が流れ出る意か。戦国文字の字形は「糸」+「工」で、糸を加工して染める様。

音:カールグレン上古音はɡʰuŋ(平)。同音は「洪」、「訌」”ついえる・みだれる”、「虹」、「鴻」、「鬨」”たたかう・かちどき”。下記『字通』の言う「絳」keuŋ(去)も初出は前漢の隷書

用例:「甲骨文合集」14938に「庚辰子紅有」とあるが、”べに”と読んでよいか判断できない。

戦国中末期「望山楚墓」2.48に「二紅〔糸秋〕之𫃜」とあるが、”べに”と読んでよいか判断できない。

戦国最末期「睡虎地秦簡」倉律62に「女子操敃紅及服者,不得贖。」とあり、「じょしのみさおみだれてあえてことにおよびしものは、あがなうをえず」と読め、「工」”わざわざ…する”と解せる。

「同」金布89に車について「韋革、紅器相補繕。」とあり、「紅」は「工」と解釈出来る。睡虎地秦簡の他の例も、「功」と釈文されているものが多い。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同音同訓は存在しない。上古音の同音で同訓は存在しない。

学研漢和大字典

形声。「糸+(音符)工」。類義語の赤は、火のあかくもえる色。茜(セン)は、夕やけ空のあかい色。壜(クン)は、黒ずんだ濃いあかい色。絳(コウ)は、深紅の色。緋(ヒ)は、目のさめるようなあざやかな赤色。付表では、「紅葉」を「もみじ」と読む。

語義

コウ(平)hong
  1. {名詞・形容詞}べに。くれない(くれなゐ)。もも色に近いあか色。あかい。▽もと白地を茜(セン)(あかね草)の染め汁にさっとつけた色。訓の「くれなゐ」は「呉(くれ)の藍(あゐ)」で、中国から来た染料の意。「深紅(濃いあか)」「紅蓮(コウレン)」「紅紫不以為褻服=紅紫は以て褻服と為さず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞・形容詞}はでな色。はでなさま。あでやかなさま。「紅顔」「紅塵(コウジン)(はでな遊びの世界)」。
  3. {名詞}べに色の花。あでやかな花。転じて、花のような女性。「落紅(落花)」「紅一点」。
  4. {名詞}べに。口べに。ほおべに。「紅粉」「紅脂」。
  5. {形容詞}《俗語》もてはやされてはでな。えんぎのよい。「紅人児(ホンレンル)(流行児)」。
コウ(平)kong
  1. {名詞}手細工。▽工(さいく)や功(手仕事)に当てた用法。「女紅(=女功。女の仕事、機織り)」。

字通

[形声]声符は工(こう)。〔説文〕十三上に「帛(はく)の赤白色なるものなり」とあり、桃紅色に近いものであろう。先秦の文献にほとんどみえず、古くは絳を用いる。絳はいわゆる大赤、濃紅色。「くれない」は「呉藍(くれあい)」の意である。

侯(コウ・9画)

侯 甲骨文 侯 金文
合33072/薛侯匜・春秋

初出:初出は甲骨文

字形:「厂」”陣幕”+「矢」。陣幕を張った射場に立てる矢のまと。

音:カールグレン上古音はgʰu(平)。

用例:「甲骨文合集」6480.6「貞王勿令婦好比侯□」は、”まとを射る”と解せるかも知れない。甲骨文の用例には、多く”諸侯”と解せる例がある。西周・春秋の金文でも”諸侯”の意に用いた。

学研漢和大字典

会意兼形声。侯の右側の原字は、的(マト)の幕をたらしたさまを示す厂印と、矢をあわせた会意文字。侯はそれを音符とし、さらに人を加えた字で弓の射手。転じて、近衛(コノエ)の軍人のこと。ひいては、軍功ある重臣・大名に与える爵位の名となった。意味のまったく異なる「候」と混同しないように。候は、天候・気候・立候補・居候・候文などに使う。

語義

  1. {名詞}弓を射るときの的(マト)。「射侯」。
  2. {名詞}爵位の一つ。公・侯・伯・子・男と五等級にわけた第二位。「侯爵」「公侯皆方百里=公侯は皆方百里なり」〔孟子・万下〕
  3. {名詞}封建時代の領主。大名の称号。「不事王侯=王や侯に事へず」〔易経・蠱〕
  4. {助辞}これ。文章のはじめにつけて相手の注意をひくことば。「侯誰在矣=侯れ誰か在る矣」〔詩経・小雅・六月〕

字通

[会意]人+厂(かん)+矢。初形は𥎦に作り、屋下に矢を放って祓うこと、すなわち侯禳の儀礼を示す字である。〔説文〕五下に「矦は春饗に射る所の矦(まと)なり。人に從ひ、厂に從ふ。布を張りて、矢の其の下に在るに象る」とし、天子*以下の射儀に及んでいる。卜辞にすでに「周𥎦」の名がみえ、周初の〔大盂鼎(だいうてい)〕に殷の滅亡の因を論じて、「我聞くに、殷の(厥(そ)の)命を墜(おと)したるは、隹(こ)れ殷の邊𥎦甸と、殷の正百辟(氏族首長)と、率ゐて酒に肄(なら)ひたればなり。故に師を喪(うしな)ひたるなり」とみえ、「邊𥎦甸」とは外服の諸侯をいう。侯とは、外服にあって、王朝のために外敵を侯禳することを職とするものであろう。のち公侯伯子男五等の爵制が行われ、その爵号となった。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

柙(コウ・9画)

柙 楚系戦国文字
郭.窮.6

初出:初出は楚系戦国文字。ただし字形は〔木虍㚔〕。現行字形の初出は前漢の隷書。

字形:初出の字形は〔木〕+〔虍〕”虎の頭”+〔㚔〕”かせ”で、猛獣を閉じこめておく檻。

音:カールグレン上古音はɡʰap(入)。同音は「」、「匣」。「匣」は語義を共有するが、初出は楚系戦国文字

用例:戦国中末期「郭店楚簡」窮達6に「□(釋)杙(械)□(柙)而為者(諸)侯□(相)」とあり、”牢屋”と解せる。

論語時代の置換候補:上古音で同音同義に論語の時代に遡れる字は無い。『大漢和辞典』に見える日本語での同音同訓に「告」(初出甲骨文)、「押」(初出不明)。「告」を”檻”と言い出したのは、清代の『説文通訓定声』がおそらく初。

学研漢和大字典

会意兼形声。「木+(音符)甲(ふたをする)」。押(おさえこむ)・匣(コウ)(ふたつきの箱)・狎(コウ)(おさえられておとなしくなる)と同系。

語義

xiá
  1. {名詞}おり(をり)。動物をとらえておくもの。《類義語》檻。「虎兕出於柙=虎兕柙より出づ」〔論語・季氏〕
  2. {動詞}とらえる(とらふ)。罪人を牢にとらえておく。
  3. (コウス)(カフス){動詞}おさめる(をさむ)。箱に入れてふたをしておく。
jiǎ
  1. {名詞}香木の名。

字通

[形声]声符は甲(こう)。甲に匣の意がある。〔説文〕六上に「檻なり。虎兕(こじ)を臧(い)るる所以なり」(段注本)とあり、檻をいう。〔論語、季氏〕に「虎兕、柙より出で、龜玉、櫝中(とくちゆう)に毀(やぶ)る」の語があり、〔説文〕はその文による。刑具として用いるはさみ板を、柙板という。

皇(コウ・9画)

皇 甲骨文 皇 金文
合6960/邾公華鐘・春秋末期

初出:初出は甲骨文とされるが出土例が少なく、語義も明らかでない。明瞭に確認できるのは西周早期の金文から。

字形:”かぶり物”+「曰」”くち”+「士」”まさかり”。まさかりは権力の象徴。王または高位の神官が宣言するさま。”大いなる者”の意。

音:カールグレン上古音はɡʰwɑŋ(平)。同音は下記の通り。「オウ」は呉音。

初出 声調 備考
コウ 甲骨文 →語釈
きみ 甲骨文
瑞玉の名 西周中期金文
いそがしい 説文解字
たまりみづ 甲骨文
かがやく 春秋末期金文
かたあめ 不明
笛の舌 西周末期金文
城の空堀 説文解字
ほり 説文解字
ゆく 不明
たかむら 楚系戦国文字
いなご 説文解字
神鳥 不明
たたずむ 後漢隷書

用例:甲骨文の用例は語義不明。殷代の金文の用例は族徽(家紋)と思われる。

西周早期「乍册大方鼎」(集成2758)に「大揚皇天尹大𠍙󱟳。」とあり、”大いなる”と解せる。

春秋末期「沇兒鎛」(集成203)に「皇皇□□(熙熙)」とあり、一説に”カンカン”という鐘の音という(漢語多功能字庫)。

学研漢和大字典

会意兼形声。王とは偉大な者のこと。皇は「自(はな→はじめ)+(音符)王」で、鼻祖(いちばんはじめの王)のこと。人類開祖の王者というのがその原義。上部の白印は白ではなく自(鼻の原字)である。広(コウ)(大きくひろがる)・光(四方に広がるひかり)などと同系。類義語に王。「惶」の代用字としても使う。「倉皇」▽「天皇(てんのう)」など、「ノウ」と読むことがある。

語義

  1. {名詞}きみ。開祖の偉大な王の意。▽秦(シン)の始皇帝がみずから皇帝と称したのにはじまる。《類義語》王。「皇帝」「漢皇(漢の皇帝)」「皇心震悼=皇心震へ悼む」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  2. {名詞}かみ。天上の偉大な王。宇宙をとり締まるかみのこと。上帝。「皇天(天のかみ)」。
  3. {形容詞}おおきい(おほいなり)。おおい(おほし)。偉大なさま。また、おおきくて、はでなさま。「皇皇者華=皇皇たる者華」〔詩経・小雅・皇皇者華〕
  4. {形容詞}皇帝や上帝に関する事がらにつけることば。「皇室」「皇恩(皇帝のご恩)」。
  5. {形容詞}祖先を尊んでつけることば。「皇考(父ぎみ)」。
  6. {形容詞}四方に大きく広がるさま。「堂皇(広く障壁のない大べや。転じて、公明正大なこと)」。
  7. {形容詞}あてもなくさまようさま。また、あてもないさま。▽徨(コウ)(あてもなく四方に歩きまわる)・惶(コウ)(心がうつろであてもない)に当てた用法。「皇皇(=惶惶(コウコウ)。あてもないさま)」「孔子、三月無君、則皇皇如也=孔子、三月君無ければ、則ち皇皇如たり」〔孟子・滕下〕
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①すめらぎ。すべらぎ。天皇の古語。
    ②すめら。神・天皇に関することば。「皇紀」。

字通

[象形]王の上部に玉飾を加えている形。王は鉞頭の象。刃部を下にして玉座におき、王位の象徴とする。その柄を装着する銎首(きようしゆ)の部分に玉を象嵌して加え、その光が上に放射する形であるから、煌輝の意となる。〔説文〕一上に「大なり」と訓し、字形を自王に従うものとし、自は鼻首、はじめの意で、はじめて王たるもの、三皇の意とするが、上部は玉の光輝を示す形である。神霊をいうときの美称に用い、〔楚辞、離騒〕に「皇(神霊)、剡剡(えんえん)として其れ靈を揚ぐ」とは、神霊のかがやくことをいう。金文の〔宗周鐘〕に「皇上帝百神、余(われ)小子を保つ」とあり、皇天のほか、皇祖・皇考・皇文考・皇祖皇妣のように祖考の上に加えていう。また聖職者に対して、召公奭(せき)を「皇天尹大保」のようにいい、辟君にも皇辟君のようにいうことがある。〔競卣(きようゆう)〕に「競(人名)を皇(かがや)かさんとして官に各(いた)る」のように動詞に、また〔詩、小雅、楚茨〕に「先祖是れ皇(おほ)いなり」のように形容詞に用いる。

高(コウ・10画)

高 甲骨文 高 金文
甲骨文/叔高父匜・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:「ケイ」”城壁”+”たかどの”+「𠙵」”くち”で、人の集まる都市国家のたかどののさま。原義は”大きい”。

音:カールグレン上古音はkog(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名、また”遠い(祖先)”を意味し、金文では地名・人名に用いた。また戦国の金文では”崇高”の意に用いた(鄂君啟車節・戦国中期)。漢代の帛書では”高い”の意に用いた。

学研漢和大字典

象形。台地にたてたたかい建物を描いたもの。また槁(コウ)(かわいたかれ木)に通じて、かわいた意をも含む。蒿(コウ)(背のたかいよし)・稿(コウ)(背のたかいコウリャンの茎)・喬(キョウ)(たかい)などと同系。類義語の峻(シュン)は、すらりとたかい。崇は、たてにそびえてたかい。貴は、群れからとび出て目だつこと。「昂」の代用字としても使う。「高騰・高揚」。

語義

  1. {形容詞・名詞}たかい(たかし)。たかさ。場所や建物がたかい。また、たかい所。たかさの程度。《対語》⇒低・下・卑。「高原」「高楼」「登高=高きに登る」「高而不危=高くして危ふからず」〔孝経・諸侯〕
  2. {形容詞}たかい(たかし)。位・人がら・程度・腕まえなどがすぐれている。《対語》⇒卑。「崇高」「高手(名人)」「高足(すぐれた門人)」「高位高官」。
  3. {形容詞}たかい(たかし)。声や評判などがよくとおる。有名な。「高名」「高歌」「高唱」。
  4. {形容詞}たかい(たかし)。値がたかい。《対語》⇒低・廉。《類義語》貴。「高値」。
  5. {形容詞}年を経た。ものさびてとうとい。「年高」「高祖」「高宗」。
  6. {動詞}たかしとする(たかしとす)。たかくする(たかくす)。たかいとみなす。尊ぶ。また、たかぶる。えらそうにする。「雖死、天下愈高之=死すと雖も、天下愈これを高しとす」〔呂氏春秋・離俗〕
  7. {助辞}相手への敬意をあらわすことば。「高配」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①たか。収入・知行・生産物などの金額や分量。まとめたかさ。「金高(キンダカ)」「禄高(ロクダカ)」。
    ②「高をくくる」とは、程度に見当をつけて見くびること。
    ③「高等学校」の略。「女子高」。

字通

[会意]京の省文+口。京は戦場の遺棄屍体を塗りこんで作った凱旋門。そこで呪祝が行われた。口は𠙵(さい)、そのような祝詞を収める器の形。〔説文〕五下に「崇(たか)きなり」と訓し、崇大・崇高の意とするが、本来は名詞で台観の象。高明の神を招くところである。卜文の図象に、高の上に呪飾の標木をそえた形のものが多く、それは神の憑依するところとされた。それで高は神明のことに関して用いるのが原義であった。金文の〔秦公𣪘(しんこうき)〕に「高弘にして慶又(あ)り」とは祖徳をほめる語である。高祖・高祖妣などもその意。のち高大・高貴・高雅の意に用いる。

盍(コウ・10画)

去 甲骨文 盍 侯馬盟書 盍 金文
甲骨文/侯馬盟書・春秋末期/楚王酓干心鼎・戦国末期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「去」とされる。現行字体の初出は春秋末期の侯馬盟書(玉器)。ただし字形は僅かに異なり「盇」。論語語釈「蓋」も参照。

字形:字形は器に盛った誓約の血に蓋をしたさまで、原義は”蓋をする”。

音:カールグレン上古音はɡʰɑp(入)。

用例:春秋末期までの用例は西周末期「白𨜴父鼎」(集成2597)に「晉𤔲徒白𨜴父乍周姬寶󰓼鼎。」とあり、人名と解せる「𨜴」の部品として確認される一例のみ。

「なんぞ…せざる」の用例は、戦国時代以降確認出来る(「上海博物館蔵戦国楚竹簡」競公瘧11など)。

備考:論語季氏篇では、現伝本の「蓋」を「盍」と書いている章がある。台湾中央研究院の「小学堂」では、「盍」は「蓋」の異体字として扱われている(上掲金文)。しかし『大漢和辞典』では、両者を通用する文字とはしていない。「盍」「蓋」共に「なんぞ」の訓を記しているが、「盍」に「けだし」の訓を記していない。

蓋 金文
「蓋」秦公簋・春秋中期

「蓋」は春秋時代に、すでにくさかんむりを獲得して現行字体と同じになっているし、秦系戦国文字・前漢の隷書でも同様。従って論語の場合、「盍」を「蓋」の誤字や通用と考えるのは理に合わない。

学研漢和大字典

会意文字で、去はふたつきのくぼんだ容器を描いた象形文字。盍は「去+皿」で、皿にがぷりとふたをかぶせたさまを示す。▽疑問(反問)の語としては、何ɦar・ɦa(カ)・曷ɦat→ɦat(カツ)・害ɦad・ɦai(ガイ)などを当て、盍ɦapはむしろ「何不」にあてることが多い。蓋はkab→kai(カイ・ガイ)と変化した語で、盍ときわめて近い。また合ɦəp(ゴウ)・盒(ゴウ)はこれと酷似したことばで、いずれもふたをしてとじること。

語義

{動詞・名詞}おおう(おほふ)。ふた。器の上にふたをかぶせる。よせあわせてとじる。また、かぶせぶた。《類義語》蓋(ガイ)(おおう、ふた)。
ま{疑問詞}なんぞ…ざる。→語法。
み{疑問詞}なんぞ。どうして、なぜなどの疑問・反問の意をあらわすことば。▽何ɦaや、曷ɦatに代用した字。「盍不出従乎=なんぞ出従せざるや」〔管子・戒〕

語法

「なんぞ~ざる」とよみ、「どうして~しないのか」と訳す。再読文字。相手に催促する反語の意を示す。▽「何不(カフ)」ɦa・puの二字を「盍(カフ)」ɦapの一字で代用した用法。「何不~」と意味・用法ともに同じ。「王欲行之、則盍反其本矣=王これを行はんと欲せば、則(すなは)ち盍(なん)ぞその本に反らざる」〈王がもし仁政を行おうとされるのなら、なぜその根本に立ち返らないのですか〉〔孟子・梁上〕

字通

[象形]器の上に蓋(ふた)をする形。〔説文〕五上に「覆(おほ)ふなり」と訓し、「血に從ひ、大(だい)聲なり」とするが声が合わず、器蓋全体の象形である。〔段注〕に「覆ふものは必ず下より大なり」と説くが、憶説にすぎない。去の上部は蓋の鈕(ちゆう)(つまみ)の形。「なんぞ」は盍を何不(かふ)の二音によみ、反語とするもので、下に動詞の語を伴う。

貢(コウ・10画)

貢 甲骨文 貢 隷書
甲骨文/前漢隷書

初出:初出は甲骨文(合集4484)。「小学堂」による初出は前漢の隷書。その後一旦出土が絶え、再出は前漢まで時代が下る。従って、殷周革命で一旦滅びた漢語である可能性がある。甲骨文での語義は”貢ぐ”。

字形:上掲初出の字形は「工」だけにも見えるし、下に二画あるようにも見える。しかし何を意味しているか分からない。現行字体は「工」+「貝」”財貨”で、原義は”貢ぐ”。定州竹簡論語は「貢 外字」と記す。「貢 外字」は『大漢和辞典』はじめ日中の漢字字典に記載がなく、「貢」の異体字として扱うしかない。

音:カールグレン上古音はkuŋ(去)。同音に公・功・工・攻。

用例:上掲『甲骨文合集』4484に「貞光其工」とあり、「とう、光(族名?)其れみつがんか」と読める。

その後西周から春秋末まで出土例が途絶える。

『上海博物館藏戰國楚竹書』容成20に「工」を「貢」と釈文している例がある。

同君子11に「子贛」とあり、孔子の弟子、子貢を示している。

定州竹簡論語は、「子貢」を「子貢 外字」と記す。論語語釈「贛」も参照。

備考:『字通』によれば「贛」は初文(カ音不明)というが、「小学堂」による初出は楚系戦国文字。「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、戦国の金文(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA0994)または楚の竹簡。

論語集釋』によれば、漢石経では全て子貢を「子贛」と記すという。論語語釈「贛」を参照。

「定州竹簡論語」では多く子貢を「子貢 外字」と記し、「貢」の異体字と思われる。

「工」kuŋ(平)に西周の「班簋」から”功績”の語義があり、論語の時代には「工」と書かれていた可能性がある。殷墟第三期の無名組甲骨文に「章ケキ」とあり、「漢語多功能字庫」によると、これは「贛」”献上する”を意味するという。

論語では、弟子の子貢の名として頻出。定州竹簡論語では多くの場合「貢」と書かれているので、前漢になってから「貢」の字に書き改められた可能性がある。

また孔子在世当時には「江」と書かれていた可能性もある。「洪」の字も候補に挙がるが、甲骨文・金文共に見いだせず、『史記』貨殖列伝に子貢を「子コウ」と記しているのも候補だが、「贛」(たまう・たまもの)の字も甲骨文・金文共に見つかっておらず、楚系戦国文字から見いだせる。贛系統の降k(去)も候補になり得、初出は甲骨文

面白いことに秦系戦国文字では「贛」が見られないから、南方諸国では子貢は子贛と呼ばれていたのだろう。

江 金文
「江」(「江小仲母生鼎」春秋早期)

音の変遷(『学研漢和大字典』による)
上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kuŋ kuŋ koŋ kuəŋ gòng
kǔŋ kɔŋ kiaŋ tšiaŋ jiāng

『風俗通義』山沢篇・四瀆に次のように言う。

謹按:《尚書大傳》、《禮三正記》:「江、河、淮、濟為四瀆。瀆者、通也,所以通中國垢濁,民陵居,殖五穀也。江者、貢也,珍物可貢獻也。河者、,播為九流,出龍圖也。淮者、均,均其務也。濟者、齊,齊其度量也。」

謹んで按ずるに、尚書大伝、礼三正記に「江、河、淮、済を四つのながれと為す。瀆者、通也。所以中国の垢濁を通じ、民陵もて居り、五穀を殖てる也。江者、貢也。珍物の貢ぎ献じる可き也。河者、りて九流と為り、龍図を出だす也。淮者、ならすなり。其のあなどりを均らす也。済者、ならばすなり。其の度量を斉ばす也。」

〔わたくし後漢の応劭が〕慎重に考えた結果、尚書大伝の礼三正記に「長江、黄河、淮河、済水を中国を代表する四つの河川に数える。瀆とは通すことだ。中国に溜まったちり泥のたぐいを押し流し、その河畔に民が住み、五穀を育てる。江とは貢ぐことだ。珍品のうち内貴人に差し上げるに足るものをいう。黄河は分かれて九つの流れとなり、昔龍馬が出てきて八卦図を中国人に与えた。淮とはならすことである。中国人の思い上がりを、洪水で懲らしめるのである。済とは等しくすることだ。物差しや計りのごまかしを消すのである。」とあるようです。

「江とは貢ぐことだ。珍品のうち内貴人に差し上げるに足るものをいう。」これを『大漢和辞典』は引用して、”みつぐ”の語釈を立てている。

学研漢和大字典

会意兼形声。工(コウ)は、上下の二線の間を縦の棒でつきぬいた姿を示す指事文字で、つらぬいて直通する意味をふくむ。貢は「貝+(音符)工」で、地方でとれた物産をかついで朝廷におさめること。

語義

  1. (コウス){動詞・名詞}みつぐ。みつぎもの。朝廷に地方の産物をたてまつる。また、その産物。「朝貢」「諸侯春不貢=諸侯春に貢せず」〔杜甫・有感〕
  2. (コウス){動詞}すぐれた人材を朝廷に推薦する。「貢挙」「貢薦」。

字通

[形声]声符は工(こう)。〔説文〕六下に「功を獻ずるなり」とあって、功すなわち生産品を献ずることをいう。金文の〔兮甲盤(けいこうばん)〕に「淮夷は舊(もと)我が■(上に白下に貝)畝(はくほ)の人なり」とあり、淮夷はその布帛や農産物を貢納する義務を負っていたのであろう。百工はもと神殿経済に奉仕するものであった。〔周礼、天官、大宰〕に祀・嬪・器・幣などの九貢を規定するが、それらは本来はみな貢物であった。

校(コウ・10画)

校 甲骨文 校 金文
合集29149/焂戒鼎・西周晚期

初出:初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周末期の金文

字形:「交」”足を交叉した人”+「木」。足を縛って動けなくしたさま。

音:カールグレン上古音はɡʰŏɡまたはkŏɡ(共に去)。

用例:「甲骨文合集」27995.3に「戌甲伐〔戈屮〕〔虍貝又〕方校」とあり、”捕らえる”と解せる。

西周末期「焂戒鼎」(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA1454)に「用校于比」とあり、”かせ”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。交は、人が足を×型に交差させたさま。校は「木+(音符)交」で、木の棒を×型に交差したかせ。また、教える‐ならうという交差した授受が行われる所を校といい、×型に交差して引きくらべる意ともなる。傚(コウ)(みならう)・絞(型にしぼる)と同系。

意味〔一〕コウ・ギョウ

  1. {名詞}物事を教え、ならう所。知恵を交互に受け渡す所。《類義語》教・傚(コウ)(ならう)。「学校」「夏曰校、殷曰序=夏には校と曰ひ、殷には序と曰ふ」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞}型に木をくんだ矢来。ませ。また、軍営に設けたさく(朔)。また、転じて漢代には校尉(宮中守営の長)、近代には上校(大佐)・下校(少佐)などの官名となる。「将校」。

意味〔二〕コウ・キョウ

  1. {名詞}かせ。木を型に交差させ、手や足をしめる刑具の一つ。「囚校」。
  2. (コウス)(カウス){動詞}交互にわたりあう。やり返す。「校論(交互に言い争ってわたりあう)」「犯而不校=犯せども校せず」〔論語・泰伯〕
  3. {動詞}くらべる(くらぶ)。あれこれと引きあわせる。引きあわせて調べる。また、調べて正す。「考校(試験)」「校正」。
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①「学校」の略。「校則」「校長」。
    ②「校正」の略。また、校正の回数を数えることば。「校了」「初校」。

字通

[形声]声符は交(こう)。交に交錯の意がある。〔説文〕六上に「木囚なり」とあり、囚人に加える械などの校具をいう。〔易、噬嗑(ぜいかふ)、初九〕「校(あしかせ)を屨(ふ)みて趾(あし)を滅す」、〔上九〕「校(くびかせ)を何(にな)ひて耳を滅す」とみえる。他に校猟(かり)・比校・学校などの意もあり、字の本義について諸説がある。比校は挍・較・搉。猛獣を追いこむ虎城をまた校といったらしく、校猟とはその意。また校倉(あぜくら)は木を交積して作る。すなわち字は械具・校猟・校倉などの用義をその本義とするものであろう。学校の交は、學(学)の含む爻(こう)と関係があるようである。

降(コウ・10画)

降 甲骨文 降 金文
合33263/史墻盤・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:「阝」”はしご”+下向きの「」”あし”二つ。はしごや階段を降りるさま。

音:カールグレン上古音は声母のk(去)のみ。同音は論語語釈「救」を参照。藤堂上古音はkǔŋ(去)またはɦǒŋ(平)。

用例:「甲骨文合集」13855.5に「貞無降疾」とあり、(天災が)”下る”と解せる。

西周早期「天亡𣪕」(集成4261)に「王祀于天室。降。」とあり、(建物から)”出る”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音コウ)は、下向きの左足と右足を描いた象形文字で、下へとくだることを示す。降はそれを音符とし、阜(おか)をそえた字で、丘をくだることを明示したもの。類義語の下は、した、したへさがる。落は、ぽろりとおちる、ぽろりとおとす。堕は、くずれおちる。異字同訓に下りる・下ろす「幕が下りる。錠が下りる。許可が下りる。枝を下ろす。貯金を下ろす」 卸す「小売りに卸す。卸値。たな卸し」。

語義

コウ(去)
  1. {動詞}おりる(おる)。くだる。高い所から低い所に移ってくる。古い時代から新しい時代へ時がうつる。《対語》⇒陟(チョク)・昇。「昇降」「陟降(チョクコウ)(のぼったりおりたり)」「以降」「降自西階=西階より降る」〔儀礼・士冠礼〕。「我心則降=我が心則ち降る」〔詩経・召南・草虫〕
  2. {動詞}くだす。高い所から低い所に位置・地位・価値などを動かす。さげる。《対語》⇒昇。「降官(官位をさげる)」「降災于夏=災を夏に降す」〔書経・湯誥〕。「降志辱身矣=志を降し身を辱む」〔論語・微子〕
  3. {動詞}ふる。空から雨・雪などが落ちてくる。《類義語》落。「霜降=霜降る」「降雨」。
コウ(平)
  1. (コウス)(カウス){動詞}くだる。くだす。敵に負けて従う。また、敵を負かして従わせる。「投降」「降敵」。

字通

[会意]夂(ち)+夅(か)。上から左右の足が下る形。神が神梯を上下することを陟降(ちよくこう)という。神梯を下る形が降。〔説文〕五下に「服するなり」と降服の意とするが、もと降下・降臨をいう字で降の初文。神が高杉などに降るを夆(ほう)といい、その山を峯という。夂は夅の省略形である。

[会意]𨸏(ふ)+夅(こう)。𨸏は神の陟降する神梯の象。〔説文〕十四下に「下るなり」とするが、神の降下することをいう。〔書、多士〕「惟(こ)れ帝、降格す」とみえる。卜辞に「帝は𡆥(とが)を降(くだ)さざるか」「帝は大𦰩(かん)(暵)を降さざるか」「疾を降すこと勿(な)きか」のように、これらはすべて上帝の意思によって下民に降されるものとされた。降雨も同じ。また「祖丁を降さんか」のように、祖霊の降下することを卜する例がある。神聖の命を以て与えられるものをすべて降といい、降命という。春秋期以後、降服の意にも用いる。

羔(コウ・10画)

羔 金文
索諆爵・西周早期

初出:初出は西周早期の金文

字形:初出の字形は「羊」+まさかりの刃先。西周中期より「羊」+「火」。”羊の焼肉”の意。

音:カールグレン上古音は不明(平)。藤堂上古音はkog。

用例:西周早期の用例は3件あるが、解読不能字が多く語義不明。

西周中期「九年衛鼎」(集成2831)に「東臣羔裘」とあり、”ひつじ”と解せる。

”こひつじ”の語義は後漢の『説文解字』から。前漢に「羊」と区別がつかなくなり、前漢末期の劉向が『説苑』で「羔者,羊也」と説教しなくてはならなくなったが、どのような羊なのかは書いていない。

学研漢和大字典

会意。「羊+火」で、まる煮するのに適したこひつじのこと。

語義

  1. {名詞}こひつじ。ひつじの子。

字通

[象形]生まれおちた小羊が、ようやく立つ形。〔説文〕四上に「羊の子なり。羊に從ひ、照の省聲」とするが、下部は足の跂立するさまであろう。字の下部は馬や廌(ち)の足の形を四点にしるすのと同じで、火の形ではない。

哽(コウ・10画)

哽 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は後漢の『説文解字』。

字形:「口」+音符「更」kăŋ(平/去)”硬い”。

音:カールグレン上古音はkăŋ(上)。同音は論語語釈「更」を参照。

用例:戦国時代の『荘子』『楚辞』に見え、儒教経典では前漢末期の『説苑』に見える。

論語時代の置換候補:上古音の同音で語義を共有する漢字は無い。日本語音で同音同訓の「㰰」の初出は不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。更の原字は「丙(ぴんとはる)+攴(動詞記号)」の会意文字で、かたく張って引っかかる意を含む。哽は「口+(音符)更(かたい物がつかえる)」。のどもとにひっかかってつかえること。

語義

{動詞}むせる(むす)。のどがつかえる。

字通

[形声]声符は更(こう)。更に梗塞の意がある。〔説文〕二上に「語、舌の介(さまた)ぐる所と爲るなり」とあり、哽咽して声の出がたいことをいう。〔荘子、外物〕に「雍(さへぎ)らるるときは則ち哽(ふさ)がる」と梗塞の義に用いる。〔後漢書、明帝紀〕に「祝哽、前に在り、祝噎(しゆくえつ)後(しりへ)に在り」とあり、老人は哽咽しやすいので、むせび止めの祝(はふり)を従えた。

耕(コウ・10画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkĕŋ(平)。同音に耿”耳が前に向かって垂れて頬につく・あきらか”。『大漢和辞典』で同音同訓の秴の初出は不明。耠の初出も不明。耩の初出も不明。下掲『字通』の正字とする畊の初出も不明。部品耒・井に”たがやす”の語釈は『大漢和辞典』に無い。つまり論語時代の置換候補は無い。論語語釈「耦」ŋu(上)も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。井(ケイ)は、形や型の原字で、四角いわくの形を描いた字。もと丼(セイ)(いど)とは別字だが、のち、混用された。耕は「耒(すき)+(音符)井(ケイ)」で、すきで畑地に、縦横のすじを入れて、四角く区切ること。類義語に墾。

語義

  1. {動詞・名詞}たがやす。すきや、くわで田畑の土をおこして区切りを入れる。田畑の土を掘り返す。転じて、広く野良仕事のこと。▽訓の「たがやす」は「田+返す」から。「農耕」「孥耕(グウコウ)(二人並んでたがやす。二人がペアで耕作するのが古代中国のやり方)」「深耕易耨=深く耕して易かに耨す」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞・名詞}農夫が耕作するように、労働して生活する。また、そのこと。「筆耕(ものを書いて生活する)」「舌耕(しゃべる商売)」。

字通

[形声]声符は井(けい)。井は刑の初文。〔説文〕四下に「犂(すき)なり」とあり、〔玉篇〕に畊(こう)を正字とする。〔広雅、釈詁四〕に「齊なり」というのは、耕keng、齊(斉)dzyeiの音の対転関係をとるものであろうが、声義の関係はない。

康(コウ・11画)

康 甲骨文 康 金文
甲骨文/康丁器・殷代末期

初出:初出は甲骨文

字形:「庚」+数点だが、「庚」の原義や字形の由来は不明で、甲骨文より十干の七番目を意味した。従って「康」の字形の由来や原義は不明。

音:カールグレン上古音はkʰɑŋ(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では人名に、金文では”(時間が)永い”(士父鐘・西周末期)、人名(康鼎・西周末期)を意味したが、”和み楽しむ”の語義は、戦国まで時代が下る(齊陳曼簠・戦国早期)。戦国の竹簡では”糠”の意に用いられた。

備考:論語ではほぼ、魯国門閥三家老家筆頭・季孫氏の若家老、季康子として登場する。

学研漢和大字典

会意兼形声。康は「米印+(音符)庚(コウ)(糸巻きのかたいしん棒)」で、かたい筋のはいった穀物の外皮のこと。兩(コウ)(米ぬか、もみがら)の原字。転じて、じょうぶでかたい。筋が通っているなどの意となる。剛(じょうぶでかたい)・綱(じょうぶな太づな)などと同系。類義語に安。

語義

  1. (コウナリ)(カウナリ){形容詞}からだに悪いところがなく、かっちりしているさま。すじ金入りであるさま。「壮康(じょうぶ)」「体已康矣=体已に康なり矣」〔李娃伝〕
  2. {形容詞}やすい(やすし)。やすらか(やすらかなり)。じょうぶで、危なげがない。かっちりとおさまっているさま。「康寧」。
  3. {名詞}太い道路。▽「爾雅」釈宮篇に「五達謂之康、六達謂之荘=五達をの康と謂ひ、六達をの荘と謂ふ」とある。「康衢(コウク)(太い街道)」。

字通

[会意]庚(こう)+米。庚は午(杵(きね))を両手でもつ形。康は脱穀精白の意で、穅・糠は康に従う。〔説文〕七上に「穅は穀の皮なり」とし、その条に重文として康を録し、「穅、或いは省して作る」とするが、康によって穅・糠がえられるのである。金文に「康右(佑)」「康靜」などの語があり、また〔毛公鼎〕に「四國を康んじ能(をさ)む」とあって、安康の意に用いる。金文に字をまた■(广+康)に作り、もと廟中の儀礼を示すようである。廟中で行われる農耕儀礼によって、康佑がえられるとするのが、字の原義であろう。〔詩、唐風、蟋蟀〕に「已(はなは)だ大いに康(たの)しむこと無(なか)れ」とあって、康楽の意にも用いる。

敎/教(コウ・11画)

教 甲骨文 教 金文
甲骨文/散氏盤・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:台湾と香港では、「教」をコード上の正字としている。字形は「コウ」”算木”+「子」+「ボク」筆を執った手で、子供に読み書き計算を教えるさま。原義は”おしえる”。

音:カールグレン上古音はkŏɡ(去)。平声の音は不明。「キョウ」は呉音。

用例:春秋中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1980に「永寶教之。」とあり、”伝える”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・人名に用い、金文では原義で(中山王鼎・戦国末期)、戦国の竹簡では原義で用いられた。

学研漢和大字典

会意兼形声。もと「攴(動詞の記号)+(音符)爻(コウ)(まじえる)」で、さらに子を加えた字もある。子どもに対して、知識の受け渡し、つまり交流を行うこと。▽知識の交流を受ける側からいえば学・効(習う)といい、授ける側からは教という。交(まじえる)・較(コウ)・(カク)(まじえ比べる)・效(コウ)(=効。交流して習う)などと同系。類義語の誨は、よく知らない人をおしえさとす。訓は、物事の筋を通しておしえる。

語義

  1. {動詞}おしえる(をしふ)。先生とでしの間に、知識を交流させること。先生からでしに、知識・経験・技術を受け渡して知らせる。また、そうして導く。「教化」「挙善而教不能=善を挙げて能はざるを教ふ」〔論語・為政〕
  2. {名詞}おしえ(をしへ)。おしえる事がら。また、その内容。「敬奉教=敬んで教へを奉ぜん」〔史記・荊軻〕
  3. {名詞}おしえ(をしへ)。神や仏のおしえ。また、その内容。「教義」「教会」。
  4. {名詞}領主の命令。「教令」。
  5. {名詞}宗教。「回教」。
  6. {助動詞}しむ。せしむ。→語法▽平声に読む。

語法

「教~…」は、「~(をして)…せしむ」とよみ、「~に…させる」と訳す。使役の意を示す。「遂教方士殷勤覓=遂(つひ)に方士をして殷勤(いんぎん)に覓(もと)め教む」〈それで道士に念入りに捜索させた〉〔白居易・長恨歌〕▽本来の意味は「教えて~させる」で、後に転じて使役となった。

字通

[会意]旧字は敎に作り、爻(こう)+子+攴(ぼく)。爻は屋上に千木(ちぎ)のある建物。そこに子弟が学んだので、■(上下に爻+子)(こう)は學(学)の初文。古代のメンズハウスは神社形式に近い建物であったらしく、そこに貴族の子弟たちを集め、長老たちが伝統や儀礼の教育をした。卜辞に多方(多邦)の小子・小臣(貴族の子弟)を集めて教戒することを卜する例がある。金文の〔大盂鼎〕にも王が「小學に卽(つ)く」ことをしるしており、他に「學宮」の名のみえるものもある。周代教学の制度は〔周礼、春官、大司楽〕〔礼記、文王世子〕などに記すところが参考となる。〔説文〕三下に「上の施す所は、下の效(なら)ふ所なり」と敎・效(効)の声韻の関係を以て訓し、字を孝に従うとするが、孝は老の省文に従うもので、爻とは関係がない。■(上下に爻+子)に攴を加え、また𦥑(きよく)を加えた字は斅(がく)。攴は教権の鞭を示す。

悾(コウ・11画)

悾 隷書
王孝淵碑・後漢

初出:初出は後漢の隷書

字形:〔忄〕”こころ”+「空」。うつろなこころのさま。

音:カールグレン上古音はkʰuŋ(平/去)またはkʰŭŋ(平)。前者の同音は「空」「孔」。後者の同音は「跫」”足音”。「クウ」は呉音。

用例:論語泰伯編16のほか、戦国の編とされる『六韜』に「有悾悾而不信者」とあり、また後漢の『太玄経』に「次二,勞有恩,勤悾悾,君子有中。」とある。

論語時代の置換候補:部品の「工」”人為的な空間”に当てられそうだが、”心がうつろ”の意ではない。論語語釈「空」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「心+(音符)空(むなしい)」で、心中のうつろなこと。

語義

  1. {形容詞}おろか(おろかなり)。無知なさま。あわててまともな考えもでないさま。心の中がうつろなさま。「悾悾(コウコウ)」「兵馬悾憁(ヘイバコウソウ)(戦争で、せわしくものを考えているいとまもないこと)」。
  2. {形容詞}きまじめで、気のきかないさま。

字通

[形声]声符は空(くう)。〔論語、泰伯〕に「悾悾にして信ならざる」者を「狂にして直ならず、侗(とう)(おろか)にして愿(げん)(謹直)ならざる」者とあわせて、どうにも話にならぬ部類のものとしている。まことらしくみえて、実のない者の意である。

黃/黄(コウ・11画)

黃 甲骨文 黄 金文
合32509/哀成弔鼎・春秋晩期

初出:初出は甲骨文

字形:腹の大きな人の象形。原義は不明。

音:カールグレン上古音はɡʰwɑŋ(平)。同音は論語語釈「皇」を参照。「オウ」は呉音。

用例:甲骨文に「黃尹」の例が多数あり、殷の名臣「伊尹」では、と中国の漢学教授が言っている。なお「伊」のカ音はʔi̯ær(平)だが「尹」は不明。

西周早期「耳尊」(集成6007)に「侯萬年壽考黃耇」とあり、”白髪”と解せる。

西周の金文には、「衡」”かんざし”と解せる例が複数ある。

春秋早期「曾白𩃲簠」(集成4631・4632)に「余□(擇)其吉金黃鑪(鋁)」とあり、”黄色”または”金色”と解せる。

学研漢和大字典

象形。火矢の形を描いたもの。上は炗(=光)の略体、下は、中央にふくらみのある矢の形で、油をしみこませ、火をつけて飛ばす火矢。火矢のきいろい光をあらわす。光(ひろがるひかり)と同系。旧字「黃」は人名漢字として使える。▽付表では、「硫黄」を「いおう」と読む。

語義

  1. {名詞・形容詞}き。きいろ。きいろい。五色(青・黄・赤・白・黒)の一つ。▽五方では、中央、五行では土の色に当たる。地上の支配者、皇帝の色。高貴な色とされる。「緑衣黄裏=緑の衣に黄なる裏」〔詩経・癩風・緑衣〕
  2. {動詞}きばむ。きいろになる。「草木黄落=草木は黄ばみ落つ」〔礼記・月令〕
  3. {名詞}唐代の戸籍で三歳以下の子どもをいった。▽口ばしがきいろい、ひなの意から。「黄口」。
  4. {名詞}きいろになった麦。「青黄(青い稲と黄ばんだ麦)」。

字通

[象形]卜文の字形は火矢の形かと思われ、金文の字形は佩玉の形にみえる。いずれも黃の声義を含みうる字である。〔説文〕十三下に「地の色なり」とし、字は田と光とに従うもので、光の声をとるというが、卜文・金文の字形は光を含む形ではない。金文に長寿を「黃耇(くわうこう)」といい、黄は黄髪の意。〔詩、周南、巻耳〕「我が馬玄黃たり」、また〔詩、小雅、何草不黄〕「何の草か黃ばまざる」「何の草か玄(くろ)まざる」の玄黄は、ともに衰老の色である。黄を土色、中央の色とするのは五行説によるもので、その説の起こった斉の田斉(田・陳)氏の器に、黄帝を高祖とする文がある。

※耇:老人の黒ずんだ顔。

皋(コウ・11画)

皋 秦系戦国文字 皋 古文
睡.日甲13背/古文

初出:初出は秦系戦国文字

字形:上下に「白」+「夲」。字形の意味するところや原義は不明。

音:カールグレン上古音はk(平)。同音は論語語釈「救」を参照。

用例:西周中末期の金文「白䢅鼎」(集成2816)の不詳字の部品として見えるが、現行字形との関係は不明。

戦国の竹簡では、人名に用いられた。

論語時代の置換候補:日本語音で同音同訓に「睪(睾)」(初出戦国早期金文)、「𣽎」(初出不明)。

学研漢和大字典

会意。皋は「白+大+十(まとめる)」で、白い光のさす大きな台地をあらわす。明るい、たかい、広がるなどの意を含む。皐は人名漢字で採用された字形。

語義

  1. {名詞}さわ(さは)。水辺の平らな地。《類義語》沢。
  2. {名詞}きし。沼・さわのきし辺。「平皐(ヘイコウ)」。
  3. {動詞・感動詞}ああ。声をゆるやかに長く引いて魂を呼ぶ。また、そのときの声。《類義語》号。
  4. {形容詞}声をのばして、大声で呼ぶさま。「皐然(コウゼン)」。
  5. {形容詞}たかい(たかし)。「皐門(コウモン)」。
  6. {名詞}さつき。明るくかわいた陰暦の五月。「皐月(コウゲツ)」。

字通

[象形]皐を人名用漢字として用いるが、字形としては皋に作るのがよい。皋は風雨にさらされている獣屍の形。〔説文〕十下に「气(き)、皋白なるものの進むなり」とし、字を白と夲(とう)とに従う会意字とするが、白は頭部、下は肢体の形。〔詩、小雅、鶴鳴〕「鶴、九皋に鳴く」の〔毛伝〕に「澤なり」、また〔楚辞、離騒〕「余が馬を蘭皋に歩ます」の〔王逸注〕に「澤曲を皋と曰ふ」とみえる。〔説文〕のいう「皋白の气」とは皋沢の気をいうのであろうが、字の正義でなく、皋白とは獣屍が暴露して白くさらされることをいう。また〔儀礼、士喪礼〕に、死後の復の儀礼をしるし、屋上に升って「皋(ああ)、某復(かへ)れ」と三たびよぶ礼をしるす。その叫ぶ声を示す擬声語である。㚖(こう)字条十下に「大白澤なり。~古文以て澤の字と爲す」とするが、これもおそらく皋の異文で、獣屍の象。風雨にさらされた獣屍には白の意があり、覇の初文である䨣は、獣屍が雨風に暴露して、革が脱色したことを示す意の字である。

窖(コウ・12画)

窖 隷書
孫子75・前漢隷書

初出:初出は前漢の隷書

字形:「穴」+「告」で、「告」は音符。前漢ごろに出来た新しい言葉で、論語の時代に存在しない。

音:カールグレン上古音はk(去)。

用例:戦国時代では儒家で『小載礼記』に、道家で『荘子』に、兵家で『尉繚子』に見える。

論語時代の置換候補:部品の「告」に、「窖」の語義は無い。『大漢和辞典』で同音同訓の「窌」の初出は前漢の隷書、「𥦢」「𥦿」の初出は不明、

備考:「漢語多功能字庫」には、見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「穴(あな)+(音符)告(とどく、行きづまる)」。

語義

  1. (コウス)(カウス){動詞・名詞}あな。行きづまりの土のあな。「地窖(チコウ)(土ぐら)」。
  2. {形容詞}ふかい(ふかし)。あなのようにふかい。

字通

[形声]声符は吿(告)(こく)。吿に浩(浩)・誥(こう)の声がある。〔説文〕七下に「地の藏なり」とあり、窖蔵の意。穀類などを貯蔵する土坑。円形のものを竇(とう)、方形のものを窖という。吿は梏(こく)のように木を井形に組んで枷(かせ)とする意があり、井形の土坑を窖という。

大漢和辞典

→リンク先を参照

絞(コウ・12画)

絞 隷書
武威簡.服傳1・前漢

初出:初出は戦国時代の竹簡。「小学堂」による初出は前漢の隷書

字形:「糸」+「交」”交叉させる”で、糸や縄で縛ること。

音:カールグレン上古音はkŏɡ(上)で、同音に交とそれを部品とする漢字群。

用例:戦国の竹簡「上海博物館蔵戦国楚竹簡」顏淵11に「(敓)絞(交)而收貧」とあり、”しぼりとる”と解せる。「タツ」は”強奪する”の意。

論語時代の置換候補:上古音の同音に語義を共有する漢字は無い。『大漢和辞典』で音コウ訓しめるに𢩘があるが、初出は不明。音コウ訓くびるは他に存在しない。部品の交に”はさむ”語釈はあるが”しめる・くびる”は無い(論語語釈「交」)。結論として、論語時代の置換候補は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。交は、人が足を交差させたさまを描いた象形文字。絞は「糸+(音符)交」で、ひもを交差させて両方から引きしぼること。▽糾と非常に縁が近い。異字同訓に搾る「乳を搾る。搾り取る」 しまる・しめる⇒締。「しめる」は「搾める」とも書く。また、「しぼる」「しぼり」は「搾る」「搾り」とも書く。

語義

  1. {動詞}しぼる。しめる(しむ)。ひもなどを交差させてくくる。また、広く、しめつける。《類義語》糾。「絞手巾=手巾を絞る」「絞罪」。
  2. (コウナリ)(カウナリ){形容詞}しめられて窮屈なさま。「直而無礼則絞=直にして礼無ければ則ち絞す」〔論語・泰伯〕
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①しぼる。ねじったり押したりして水分をとる。
    ②しぼる。きびしくきたえる。また、きびしくしかる。
    ③しぼる。広がっているものを小さくする。また、問題を整理し、議論の範囲を制限する。
    ④しぼり。染色法の一つ。布地のところどころを糸でしばっておき、染料につけたのち糸をほどき、白い模様を染め残す染め方。「絞りのゆかた」。
    ⑤しぼり。カメラで、レンズに入る光の量を調節するしかけ。

字通

[形声]声符は交(こう)。交は人が足を組む形。交結の意がある。〔説文〕十下に「縊(くび)るなり」とあり、益の初形は糸を縊(くく)る形。そのようにして絞首することをいう。

項(コウ・12画)

項 甲骨文 項 楚系戦国文字
屯463/望2.13

初出:初出は甲骨文。春秋中期の金文もあるようだが画像が公開されていない。「小学堂」による初出は楚系戦国文字。

字形:甲骨文の字形はうなずく人の象形。現伝の字形は音符「工」kuŋ(平)+「頁」”あたま”。

音:カールグレン上古音はɡʰŭŋ(上)。

用例:「小屯南地甲骨」463に「□卯卜、戍項」とあり、”首”と解せる。

春秋中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1980に「參拜項首」とあり、「項」は「稽」”(首を)かしげる”と解されている。

戦国中末期「包山楚簡」牘1に「繙芋結項」とあり、”もとどり”と解せる。

戦国最末期「睡虎地秦簡」封診66に「不周項二寸」とあり、”首回り”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「頁(あたま)+(音符)工(まっすぐつらぬく)」で、頭と背の間をまっすぐ貫いたくび。扛(コウ)(棒をつき通してかつぐ)・杠(コウ)(ベッドの横木)と同系。類義語に領。

語義

  1. {名詞}うなじ。くび。まっすぐのびた頭・くびの後部。転じて、くび。「強項」。
  2. {名詞・単位詞}事がらの一つ一つ。「項目」「第一項」。
  3. 《日本語での特別な意味》こう(かう)。数式または、数列を組み立てる要素。「移項」。

字通

[形声]声符は工(こう)。工は上下の間を支える支柱のある形。〔説文〕九上に「頭の後ろなり」とあって、うなじをいう。頸は頸脈のある部分。その頸の後ろ。容易に人に屈せず、権力に抗して譲らぬものを強項という。

硜(コウ・12画)

硜 楷書
楷書

初出:初出は不明。「小学堂」は「磬」kʰieŋ(去)の異体字とするが、上古音が異なっており、春秋末期までに擬声音や”堅い”を意味する用例は無い。論語語釈「磬」を参照。下掲『字通』の説に従えば、初出は後漢の説文解字だが、そこに収録の字形も「磬」とみなすべきで、いずれにせよ論語の時代に存在しない。

字形:〔石〕+音符〔巠〕(ケイ)。カチカチという石を叩く音。

音:カールグレン上古音はkʰĕŋ(平)。呉音は「キョウ」。

用例:春秋以前はもちろん、戦国・秦帝国の文献にも見えず、事実上初出は論語子路篇20。裏返すと論語の該当章が、漢代の創作であることを意味する。

論語時代の置換候補:日本語音で同音同訓は存在しない。

学研漢和大字典

形声。「石+(音符)巠(ケイ)」。

語義

  1. 「硜硜(コウコウ)」とは、石をたたいたときの音の形容。また、石をたたいたときのこちこちとした感じ。また、こちこちの小人物の形容。「硜硜然小人哉=硜硜然として小人なる哉」〔論語・子路〕

字通

[形声]声符は巠(けい)。〔史記、楽書〕に「石聲は硜硜以て別を立つ」とあり、その堅くしまった音をいう。擬声的な語とみてよい。きりつめた、いやしい感じのものとされた。字はまた磬の古文とされるが、磬の初文は声、あるいは殸であった。

溝(コウ・13画)

溝 秦系戦国文字
睡虎地簡52.16・戦国秦

初出:初出は戦国文字

字形:「氵」+「冓」”一対の毛槍”。毛槍を二本立てて測量して開削した水路の意。

音:カールグレン上古音はku(平)。同音に「冓」を部品とする漢字群など。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」為吏16參に「溝渠水道」とあり、”みぞ”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同音同訓の「港」「阬」は論語の時代に存在せず、「黃」(黄)は論語の時代までに、”みぞ”の意が確認できない。上古音で語義を共有する漢字は無い。

溝 甲骨文 冓 金文
「冓」合18813/冓斝・西周早期

部品の「冓」は甲骨文から存在するが、春秋末期までに”みぞ”の意を確認できない。甲骨文「冓」は「冉」”毛槍”を上下線対称に配置しており、「冓」は「㫃」”はた”と共に殷王の出御に携帯する一組の毛槍だった。「懷特氏等所藏甲骨」1464.1に、「惟㫃冓用東行王受祐」とあり、「これはた・けやりもて東のかたに行かば、王さちを受けんか」と訓読できる。論語語釈「冉」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「水+(音符)冓(コウ)」。冓は、両側を同じ形に組みたてること。構(組みたてた組み木)と同系。類義語の洫(キョク)は、田畑の通水路。

語義

  1. {名詞}みぞ。両岸を木や石で組んだみぞ。《類義語》渠(キョ)。「排水溝」「溝渠(コウキョ)」「血流入溝中=血流れて溝中に入る」〔漢書・劉屈特〕
  2. {動詞}へだてる。みぞを掘って、へだてる。
  3. {動詞}みぞをつくり、水の流れをよくするように、互いの意思を通じあわせる。「溝通(コウツウ)」。

字通

[形声]声符は冓(こう)。〔説文〕十一上に「水瀆(すいとく)なり。廣さ四尺、深さ四尺」とあり、〔周礼、考工記、匠人〕に井田の周囲をめぐる水路であるという。その深広二仞のものを澮(かい)という。冓に二者相遘通する意があり、潅漑用の水路をいう。谷を自然の溝とみなして、溝壑という。

綱(コウ・14画)

綱 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は後漢の説文解字

字形:「糸」+「岡」kɑŋ(平)。「岡」の原字は多数の糸を束ねてよじった姿で、”おか”と区別するためにいとへんが付いた。

音:カールグレン上古音はkɑŋ(平)。

用例:論語述而篇26で「子釣而不綱」と見えるが、「網」の誤字の可能性が無くは無い。戦国の文献では「紀綱」として見られ、”規則”の意で用いた。

論語時代の置換候補:部品で同音の「岡」。西周中期「大鼎」(集成2807)に「令取誰岡卅二匹易大」とあり、”つな”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、岡(コウ)の原字は、太づなを描いた象形文字。それに山印を加えたのが岡(崗)の字で、丈夫でかたい山。綱は「糸+(音符)岡」で、丈夫でかたい太づなのこと。剛(ゴウ)・(コウ)(丈夫でかたい)と同系のことば。

語義

  1. {名詞・動詞}おおづな(おほづな)。つな。つなする(つなす)。丈夫な太づな。太づなで魚をとる。《類義語》維(つりづな)。「綱維」「子釣而不綱=子釣すれども綱せず」〔論語・述而〕
  2. {名詞}物事をしめくくる規則。「綱紀」「綱常(人の行いを締める大すじ)」。
  3. {名詞}小さい項目を締めくくる大すじ。物事の大要。「大綱」「綱目」。
  4. {名詞}隊や組をなして運ばれる荷物。「花石綱(珍しい石や花をまとめて運ぶ大荷物)」「茶綱(お茶の大荷物)」。
  5. {名詞}生物分類学上の一段階で、門の次で、目(モク)の上。

字通

[形声]声符は岡(こう)。岡は鋳造のときの鋳型。高熱によって堅強となるものであるから、その声義をとる。〔説文〕十三上に「网(あみ)の紘(おほづな)なり」(段注本)という。〔書、盤庚上〕に「網の、綱に在りて、條有りて紊(みだ)れざるが若(ごと)し」、〔詩、大雅、巻阿〕「四方、綱と爲す」のように、秩序の基本の意に用いる。

薨(コウ・16画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxmwəŋ(平)。同音は存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「死+(音符)瞢(ボウ)の略体」。牢は、目が見えなくなるの意。その意味を借りて死ぬことを暗示した忌みことば。類義語に死。

語義

  1. (コウズ){動詞}みまかる。諸侯が死去する。
  2. 「薨薨(コウコウ)」とは、もやもやと群がって、音をたてるさま。「螽斯羽、薨薨兮=螽斯の羽は、薨薨たり兮」〔詩経・周南・螽斯〕

字通

[会意]夢の省文+死。〔説文〕四下に「公侯の𣨛(しゆつ)するなり」とし、瞢(ぼう)の省声とするが、声が異なる。夢魔(むま)によって死することをいう字であろう。〔礼記、曲礼下〕に「天子*の死を崩と曰ひ、諸侯には薨と曰ふ」とあり、高貴の人には夢魔の危険が多かったのであろう。薨の声は、昏睡のときの状をいう。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

衡(コウ・16画)

衡 金文
毛公鼎・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はgʰăŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「角(つの)+大+(音符)行」。人にけがをさせないよう、牛の大きな角に横にまっすぐ渡した棒のこと。転じて、広くよこぎや、はかりの横棒のこと。行(まっすぐ)・桁(コウ)(まっすぐ渡したけた)などと同系。類義語に測。「考」に書き換えることがある。「選考」▽「はかり」は「秤」とも書く。

語義

  1. {名詞}よこぎ。くびき。まっすぐなよこぎ。つ門の、二本の柱の上にわたしたよこぎ。づ牛の角があたらないように、角に結びつけたよこぎ。「鎮衡(フクコウ)(牛のつのに結びつけるよこぎ)」て馬車の轅(ナガエ)の端にわたしたよこぎ。「在輿則見其倚於衡也=輿に在りては則ち其の衡に倚るを見るなり」〔論語・衛霊公〕⇒「車」で北斗七星の柄の部分。または、第五星。「衡杓(コウヒョウ)」。
  2. {名詞}はかり。はかりの横棒。棒ばかりのさお。また、転じて、はかり。めかた。標準。「権衡(はかり)」「度量衡」。
  3. {動詞}はかる。めかたをはかる。また、物事のよしあしや成否を考える。「衡量(みはからう)」「権衡(みつもる、考える)」。
  4. {名詞}横にのびたまゆ毛の線。
  5. {名詞・形容詞}横。横になったさま。横ざま。▽横(オウ)・(コウ)に当てた用法。《対語》⇒従(=縦。たて)。「従衡(=縦横。たてよこ)」。
  6. {形容詞}たいらか(たひらかなり)。横にまっすぐのびた。たいらな。つりあいがとれた。「平衡(ヘイコウ)」。
  7. 「衡山」とは、山の名。五岳の一つ。湖南省衡陽県の北、衡山県の北西にある。「南岳」「霍山(カクザン)」とも。

字通

[会意]行+角+大。行は道。角は牛角。大は牛身。つのぎをつけた牛を正面よりみた形。〔説文〕四下に「牛の觸るる横の大木なり」と楅衡(ふくこう)の意とし、「角大に從ひ、行(かう)聲」の字とするが、〔説文〕行部二下の行を左右に分書するものに行声の例がなく、行は限定符とみるべく、中央が象形字である。すなわち牛が道路をゆくとき、危険を防ぐため楅衡を用いる意。金文の車服賜与形式の冊命(さくめい)の文に「逪衡(さくかう)」を賜う例が多く、輈(ながえ)の前端の横木と軛(くびき)など、車服一式に及ぶ例が多い。角に横にわたすものであるから横の意に用い、合縦連衡のようにいう。

講(コウ・17画)

講 隷書
縱橫家書18・前漢

初出:初出は前漢の隷書

字形:「言」”ことば”+「冓」”組み上げる”。順を追って高度なことを説明すること。

音:カールグレン上古音はkŭŋ(上)。

用例:論語以降の文献では、前漢初期の『韓詩外伝』に「禮樂之不講」とある

論語時代の置換候補:”高く上げる”の語義に限り部品の「冓」。

『大漢和辞典』で同音同訓の「𠠎」は初出不明。上古音の同音は「江」「杠」”よこぎ”「矼」”とびいし”「虹」で語義を共有しない。部品の「冓」ku(去、平は不明)の初出は甲骨文で、「甲骨文合集」1464.1に「惟㫃冓用東行王受祐」とあり、「㫃」”旗印”を”かかげる”と解せる。その他春秋末期までに人名の他は、語義不明。

なお近音に「高」koɡ(平)、「亢」kɑŋ(平)/kʰɑŋ(去)があり、いずれも”高める”・”高まる”の語義を持つ。

学研漢和大字典

会意兼形声。冓(コウ)は、上と下(向こうとこちら)を同じように構築した組み木を描いた象形文字で、双方が同じ構えとなるの意を含む。構(くみ木)の原字。講は「言+(音符)冓」で、双方が納得して同じ理解に達するように話すこと。篝(コウ)(同じ構えに組んだかがり火の木)・遘(コウ)(双方から出てきてあう)などと同系。「媾」の代用字としても使う。「講和」。

語義

  1. (コウズ)(カウズ){動詞}相手にわかるように書物の内容や道理・技術などをとく。「講経(コウケイ)」「講学=学を講ず」「講詩書=詩書を講ず」。
  2. (コウズ)(カウズ){動詞}相手も納得するようにといて、はからう。また、適切な手をうつ。《同義語》⇒媾。「講和=和を講ず」「講信修睦=信を講じ睦を修む」〔礼記・礼運〕
  3. {動詞}《俗語》話す。「講話(チアンホア)」。
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①こう。つ寺社への参詣(サンケイ)や寄附などのために集まる信者の団体。「念仏講」「伊勢講」づ同行者・同業者のよりあい。また、基金の融通のためのよりあい。「頼母子講(タノモシコウ)」。
    ②考えて適切な処置を行う。「策を講ずる」。

字通

[形声]声符は冓(こう)。冓は結合を象徴する組紐(くみひも)の形。〔説文〕三上に「和解するなり」という。その意には、古くは媾を用いることが多く、講和のために通婚することがあったのであろう。講は内部構造を解明することをいい、事理を通じ、事案を考えることをいう。ゆえに論講の意となる。

羹(コウ・19画)

羹 秦系戦国文字
睡虎地簡19.180・戦国最末期

初出:初出は秦系戦国文字。ほか楚系戦国文字で「肓」を「羹」と釈文する例がある。

字形:上下に「羔」x2つ。「羔」はヒツジを火に掛けて料理するさま。楚系秦系共に「羊」と「羔」の書き分けは明確で、「羔」は子ヒツジではなく料理のさま。論語語釈「羔」を参照。

音:カールグレン上古音はkăŋ(平)。同音に「庚」”かのえ”「更」「賡」”継ぐ・償う”」「梗」”ヤマニレ”」「哽」”どもる”」「綆」”つるべの縄”」「鯁」”魚の骨”。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」傳食179に「御史卒人使者,食粺米半斗,醬駟(四)分升一,采(菜)羹,給之韭蔥。」とあり、飯米である「粺米」、調味料の「醬」、薬味である「韭蔥」”ニラとネギ”に加えて「采羹」とあるので、”汁物”と解するのは妥当と判断する。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「𦢋」「𦣍」(初出不明、コード上は別字)、「𩱧」(異体字)。

学研漢和大字典

会意。「羔(まる煮した小羊)+美(おいしい)」。

語義

  1. {名詞}あつもの。肉と野菜を入れて煮た吸い物。

字通

[会意]羔(こう)+美。初文は𩱧に作り、𩰲(れき)+羊。鬲を以て羊を烹(に)る象。羹はその篆文で、その形も羹の左右に弜(きよう)を加えて、煮て湯気のあがる意を示している。〔説文〕三下に正字を𩱧に作り「五味の盉(和)する𩱧(羹)なり」という。また省文二、小篆の一字を加えており、羹は小篆の字である。

鏗(コウ・20画)

鏗 隷書
隷書

初出:初出は不明。定州竹簡論語も欠字となっており存在証明にならない。

字形:「金」+音符「堅」kien(平)。

音:カールグレン上古音は不明(平)。王力上古音はkʰen。同音は存在しない。

用例:論語先進篇27のほか、『楚辞』招䰟に「鏗鍾搖虡」とあり、「鐘をうたば鐘柱を搖らす」と読める。

学研漢和大字典

会意。「金+堅(かたい)」。かんかんという音をあらわす擬声語。

語義

  1. {形容詞}かんかんと、かたいものがうちあたる音の形容。
  2. {動詞}うつ。鐘をかんとうつ。鐘をつく。
  3. {形容詞}かん高いしわぶきの声の形容。《類義語》嗽(ソウ)。
  4. 「鏗鏘(コウソウ)」「鏗鎗(コウソウ)」「鏗糒(コウコウ)」とは、金玉のうちあたるすずしげな音の形容。また、琴のさわやかな音の形容。「始知楽与時政通、豈聴鏗鏘而已矣=始めて知る楽は時政と通ずるを、あに鏗鏘を聴くのみならん」〔白居易・華原磬〕

字通

(条目無し)

贛(コウ・24画)

初出は楚系医戦国文字。カールグレン上古音は不明。王力上古音はkɔŋ(去)、貢と同音。藤堂上古音は感と同音kəm(上)、貢と同音kuŋ(去)。

定州竹簡論語は子貢を子貢 外字と記す例が多いが、下掲『字通』のように、貢 外字を贛と解する説がある。論語語釈「貢」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。貝の上の部分はもと夅で、贛は、「貝+上から下へおりる意の音符コウ」。

語義

カン(上)
  1. {名詞}江西省の別名。「贛州(カンシュウ)」。
  2. {名詞}川の名。江西省を流れ、睨陽(ハヨウ)湖に注ぐ。「贛水(カンスイ)」。
コウ(去)
  1. {動詞}たまう(たまふ)。上から下に物を与える。《類義語》降・賜。
  2. {形容詞}おろか(おろかなり)。ばか正直なさま。《同義語》戇。

字通

[形声]声符は貢(こう)。もとは夅(こう)に従う字であった。〔説文〕六下に「賜ふなり」という。孔門の端木賜は字は子貢、賜と貢と対待の字。貢の初文は贛に作り、〔漢石経〕には子贛に作る。字はもと夅に従い、神霊の下降を意味し、それで賜与の義がある。古く陷(陥)(かん)の音でよまれたらしく、〔書、顧命〕の〔馬鄭王本〕に「爾(なんぢ)釗(さう)(康王の名)を以て、非幾に冒贛(ばうかん)せしむること無(なか)れ」、〔馬融注〕に「贛は陷なり」とあって降陥の意とする。地名・人名にカンの音でよみ、おそらくその音が古いのであろう。また戇(とう)に通じ、戇愚*の意に用いる。

*”愚直”の意。

合(ゴウ・6画)

合 甲骨文 合 金文
合集3298/琱生簋・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:〔亼〕”あつめる”+〔𠙵〕”くち”で、人々の言葉を合わせるさま。

音:カールグレン上古音はɡʰəp(入)。韻目と声調は同じだがもう一つ入声があり、その音は不明。容量の単位の場合、漢音は「コウ」(入)。

用例:甲骨文の用例では、占いが”合致する”と解せるものが多い。

西周の金文では「會」(合)と釈文される用例がある。

春秋早期「秦公鎛」(集成267)に「卲合皇天」とあり、”合致する”と解せる。

”間に合わせる”の語義は、戦国の竹簡から(「上海博物館蔵戦国楚竹簡」季庚19など)。

学研漢和大字典

会意。「亼(かぶせる)+口(あな)」で、穴にふたをかぶせてぴたりとあわせることを示す。▽促音語尾のpがtに転じた場合は、カッ・ガッと読む。

繪(=絵。色糸を寄せあわせた模様)・膾(カイ)(肉を寄せあわせたごちそう)と同系。また、和(寄せあわす)・話(ワ)(あつまって会話する)・括(カツ)(寄せまとめる)とも縁が近い。類義語の遇(グウ)は、二つのものがふと出あうこと。逢(ホウ)は、両方から進んで来て一点で出あうこと。

合は、ぴったりとあわさること。値は、まともにそこにあたること。遭は、ひょっこりと出あうこと。対は、双方がちょうど合致するようにむき合う意。向は、ある方向に進行すること。迎は、来る人を出むかえて双方がかみ合う意。

語義

  1. {名詞}あつまり。また、出会い。「宴会」「鴻門之会(コウモンノカイ)」。
  2. (カイス)(クワイス){動詞}あつまる。あつめる(あつむ)。ひと所にまとまる。また、多くのものを寄せあつめる。《類義語》合・集。「会合」「以文会友=文を以て友を会す」〔論語・顔淵〕
  3. {動詞}あう(あふ)。あつまって対面する。「会見」「会晤(カイゴ)(あって話しあう)」。
  4. {動詞}あう(あふ)。その物事に出くわす。《類義語》遇(グウ)。「会其怒不敢献=その怒に会ひ敢(あ)へて献ぜず」〔史記・項羽〕
  5. {名詞}巡りあわせ。また、物事の要点。「機会」。
  6. {副詞}たまたま。→語法「1.」。
  7. {副詞}かならず。→語法「1.」。
  8. (カイス)(クワイス){動詞}思いあたる。そうかと悟る。気持ちにかなう。「領会(なるほどとわかる)」「会心=心に会す」。
  9. {名詞}人々のあつまる所。「都会」「省会(ショウカイ)(中国の省の中心である都市)」。
  10. 「会計」とは、収支の結果をあつめて計算すること。

語法

  1. (1)「かならず」とよみ、「かならず~」と訳す。可能性が高いこと、あるいは予想通りの結果になることへの願望を示す。「会向瑶台月下逢=会(かなら)ず瑶台(やうだい)月下に向かひて逢はん」〈必ず(伝説の)瑶台(ヨウダイ)山の、月の下で会えるだろう〉〔李白・清平調詞一
    (2)「会須=かならずすべからく~すべし」「会当=かならずまさに~すべし」「会応=かならずまさに~すべし」と、助動詞とともに用いて、「どうしても~すべきである」「どうしても~する必要がある」と訳す。「丈夫会応有知己=丈夫会(かなら)ず応(まさ)に知己(ちこ)有るべし」〈男子たる者、必ず親友を持つべきである〉〔張謂・贈喬琳〕
  2. 「たまたま」とよみ、「おりしも」「ちょうどそのとき」と訳す。ある場面に出くわした意を示す。「居頃之、会燕太子丹質秦、亡帰燕=居ること頃(しばら)らくしてこれ、会(たまたま)燕の太子丹秦に質たり、亡(のが)れて燕に帰る」〈(荊軻が)しばらく燕に滞在するうちに、ちょうど秦に人質として行っていた燕の太子の丹が逃げ帰ってきた〉〔史記・刺客〕

字通

[象形]祝禱を収める器である口(𠙵(さい))の上に、深く蓋(ふた)をしている形。〔説文〕五下に「口を合はせるなり」とし、上を亼(しゅう)にして集、衆口を集める意とするが、そのような造字の法はない。盟誓などの書をその器中に収めて、合意の成ることをいう字で、金文の〔琱生簋(ちようせいき)〕に「來(きた)りて事(まつり)を合す」とは祭事の協議が成立すること、そのような会合に参加することを「䢔(あ)う」という。郷射のことを金文に「■(𨙵の間に合)射」というのもその意である。■は合を中にして二人対坐する形。卿は食膳を挟んで二人対坐する形で饗の初文。合議のため会するときは■がその字義にあう。合意のことをまた答といい、金文に「厥(そ)の徳に合(答)揚(たふやう)す」のように用い、〔左伝、宣二年〕にも「既に合(こた)へて來り奔る」のような例がある。

剛(ゴウ・10画)

剛 甲骨文 剛 金文
甲骨文/散氏盤・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:研がれて光る”やいば”+「刀」”刃物”。

音:カールグレン上古音はkɑŋ(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では犠牲を切る祭を意味し、金文では人名、”堅い”(史牆盤・西周中期)、”岡”(散氏盤・西周末期)の意に用いた。

備考:字は鋼を意味するが、殷代でも隕鉄をはがねにして、青銅で包み込んでガワを作った武器が出土しており、鉄の存在や利用は殷代から行われた。ただし製鉄が出来なかった。

論語の時代より約一世紀前になると、斉の都・臨淄から製鉄所の跡が発掘されている。ただし刀剣のような粘りを求められる錬鉄や鍛鉄の鉄器は作れず、鋳鉄として、主に農具や工具に使われた。

鋼鉄が中国に普及したのは前漢になってからで(矢田浩『鉄理論』)、ただしそれ以前に鋼鉄が皆無ではなかったことは、論語の時代と前後して、西の辺境の秦国の故地から、石鼓文が出土していることにより証明される。鋼の出現まで、花崗岩は硬くて刻めなかったからだ。

鉄器の発祥はヒッタイト帝国というのが通説で、その製鉄技術はスキタイへと引き継がれたらしい。あの精巧な金細工は、鋼鉄の工具によって実現したという。スキタイがコーカサスからモンゴル高原の西端、アルタイ山脈に至るまでの細長い版図を有したのは、鉄鉱石地帯と、製鉄に必要な木炭を供給する森林地帯が重複していたからだそうで、その鋼鉄器を持った匈奴に攻められ、漢帝国はえらい目に遭わされている。

学研漢和大字典

コウコウ(つよい太つな)の原字。またコウ(上部のかたい台地→おか)の原字。かたくじょうぶな意を含む。剛は「刀+音符岡」の会意兼形声文字で、刀の材料にする鋼(かたい鉄)のこと。のち、広く、かたい、つよいの意に用いる。強-キョウと同系のことば。▽慣用音「ゴウ(ガウ)」は、強(ゴウ)との混用か。

語義

  1. {形容詞}かたい(かたし)。かたくてじょうぶなさま。《対語》⇒柔。「剛強」「弱之勝強、柔之勝剛=弱の強に勝ち、柔の剛に勝つ」〔老子・七八〕
  2. {形容詞}つよい(つよし)。かたくてつよいさま。「血気方剛=血気方に剛し」〔論語・季氏〕
  3. {名詞}つよさ。かたくてつよいこと。こわおもて。「是匹夫之剛也=是れ匹夫之剛也」〔蘇軾・留侯論〕
  4. {副詞}《俗語》ちょうど、いましがたの意の副詞。「剛過(いましがた過ぎたばかり)」。
  5. 《日本語での特別な意味》武芸や腕っぷしのつよいこと。「大力無双の剛の者」。

字通

岡+刀。岡は鋳鉄に火を加える形。鋳造の後にその鋳型を裂き、器物を取り出す。高温に熱するので、外型が焼成されて堅剛となるので、刀を用いて裂く。〔説文〕四下に「ひて斷つなり」とし、岡声とするが、会意の字。岡の亦声である。人の性情の上に移して剛毅・剛健という。

訓義

かたい、かたい鋳型を断ち切る。つよい、意志がかたい、気がつよい、さかん。まさに、あたかも、わずかに、ようやく。

大漢和辞典

たちきる。切っ先が鋭い。つよい、かたい。さかん。意志が堅い。無欲、無私。陰陽の陽。奇数の日。牡牛。君主。まさに。わずかに、然る後。諡。姓。

奡(ゴウ・12画)

奡 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。

字形:かんざしを挿し、頭の大きな人の正面形。

音:カールグレン上古音は不明。王力上古音はauu(去)。同音は存在しない。

論語時代の置換候補:論語では憲問篇6のみに固有名詞として登場するので、同音・近音のいかなる字も置換候補になり得る。

学研漢和大字典

会意。「頁(あたま)+夰(大きいひと)」で、からだや頭の大きい、いかつい姿の人をあらわす。

語義

  1. {動詞・名詞}おごる。いかつい偉そうなさまをする。また、そのような人。《同義語》⇒傲。
  2. {名詞}《人名》伝説上の荒武者の名。寒浞カンサクの子。舟を陸上で押し動かしたといわれる。「奡盪舟=奡は舟を盪かす」〔論語・憲問〕

字通

[象形]■(上下に一+自)(しゆ)は大きな頭。下部はその手足を垂れている形。〔説文〕十下に「嫚(あなど)るなり」とあり、傲と声義が近い。〔書、皋陶謨〕に「丹朱(尭の子)、奡(おご)る」とみえる。敖は長髪の架屍(かし)を殴(う)って、敵に傲(おご)る呪儀を示す字である。奡が声義において敖に近いとすれば、奡もそのような呪儀と関係のある字であろう。その手足を垂れる形は、死屍を祭梟(さいきよう)(首祭)とするものであろうかと思われる。

耦(ゴウ・15画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はŋu(上)。同音は以下の通り。「グウ」は慣用音、呉音は「ゴ」。『大漢和辞典』で音ゴウ訓たがやすに秴(上古音・初出不明)、耠(カ音・初出不明)、音コウ訓たがやすに耩(上古音・初出不明)、耕kĕŋ(平)・初出は楚系戦国文字論語語釈「耕」を参照。

初出 声調 備考
ゴウ 歯が正しくない 説文解字
ゴウ ひとがた 前漢隷書
ゴウ すきで二並びに耕すこと 秦系戦国文字

漢語多功能字庫

通「」字。與「」字古意相通。參見「」。


」の字と意味が通じる。「」の字と古くは意味が通じた。「」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「耒(すき)+(音符)禺(グ)(人に似たさる、似た相手)」。似た者二人が並んですきをとること。

語義

  1. (グウス){動詞}二人並んで耕す。「依依在耦耕=依依たるは耦耕に在り」〔陶潜・辛丑歳七月〕
  2. {名詞}なかま。また、相手。《同義語》⇒偶。「配耦(ハイグウ)」。
  3. (グウス){動詞}あう(あふ)。むかいあう。また、二つが組になる。《同義語》⇒偶。「耦語(グウゴ)」「長沮桀溺耦而耕=長沮桀溺耦して而耕す」〔論語・微子〕
  4. {名詞}二つにきれいに割れる数。偶数。《同義語》⇒偶。

字通

[形声]声符は禺(ぐ)。禺は木偶。並べて相偶する意がある。〔説文〕四下に「耒(すき)の廣さ五寸を伐と爲し、二伐を耦と爲す」とあって、耦とは二耜(し)を並べることをいう。〔論語、微子〕「長沮・桀溺(けつでき)、耦して耕す」とみえる。〔詩、周頌、噫嘻(いき)〕に「十千維(こ)れ耦す」とあって、古くから行われた耕作法である。

論語語釈
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