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論語語釈「ハ」

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語釈 urlリンクミス

播(ハ・15画)

播 金文
師旂鼎・西周早期或中期

初出は西周早期あるいは中期の金文。ただし字形は播 外字の形。現行字体の初出は説文解字。カールグレン上古音はpwɑr(去)。同音は下記の通り。呉音も「ハ」で、「ハン」は慣用音。

初出 声調 備考
老人の髪の白いさま 説文解字
ハン かはるがはる 西周末期金文
まく 西周早期或中期金文
敷く 説文解字

漢語多功能字庫

金文從「」從「」,構形不明,一說「」是播種的「」的表意初文,從「」從◎,象翻地播種之意(金文形義通解)。


金文は「釆」と「攴」の字形に属し、何を意味しているのか不明だが、一説に「釆」は種まきの「播」の意味を表した最古の字形で、「力」に点をいくつか加えた構成で、土を掘り返して種をまく意だという(金文形義通解)。

学研漢和大字典

会意兼形声。番(ハン)・(バン)は、田に米の種をばらまくさま。播は「手+(音符)番」で、番の原義をあらわす。放射状に平らに広くまきちらすこと。般(広く平らに開く)・版(ハン)(広く平らな板)・蕃(ハン)(広がってふえる)・旛(ハン)(平らに広がる旗)などと同系。類義語の布(フ)は、平らに敷きつめること。蒔(ジ)(まく)は、植(ショク)(うえる)と同系のことばで、種や苗を地上にまっすぐたてること。「まく」は「蒔く」とも書く。

語義

  1. {動詞}まく。ばらばらとまきちらす。《類義語》布。「播種=種を播く」「播其悪於衆也=其の悪を衆に播くなり」〔孟子・離上〕
  2. {動詞}ちらす。ちる。ばらばらとちる。また、あたりにちらばって逃げる。「播蕩(ハトウ)(あちこちにちってさすらう)」「播棄(ハキ)(ばらまいて捨てる)」。
  3. (ハス){動詞}振り太鼓や鈴を、ゆさぶって鳴らす。▽上声に読む。

字通

[形声]声符は番(ばん)。番は獣掌の形。〔説文〕十二上に「穜(ま)くなり」とあって、播種の意とする。〔書、舜典〕に「汝后稷(こうしよく)となり、時(こ)の百穀を播け」、〔詩、周頌、載芟(さいさん)〕に「厥(そ)の百穀を播く」のように、古くは播種の意に用いた。また播遷・播揚の意もあり、ひらひらと移る意がある。

霸/覇(ハ・19画)

覇 甲骨文 霸 金文
屯0873/頌簋蓋・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は〔革〕+〔月〕。新月の前後に見える月の縁取りをいう。金文以降は〔雨〕冠が加わる。

音:カールグレン上古音はpɑɡ(去)。同じく”諸侯の旗頭”を意味する「伯」のpăk(入)と近い。

用例:「新屯南地甲骨」873.2に「于□田霸伐□方擒𢦏不雉眾」とあり、渭水の支流で西安の東を流れる”覇水”か、”新月の頃”を意味すると思われる。しかし時代的・地域的に川の名とするには無理がある。

西周早期「𡩜鼎」(集成2749)に「隹九月既生霸辛酉」とあり、雨かんむりが加わっているが甲骨文と同じく”新月の頃”を意味すると解せる。

以降、春秋末期「鄀公□鼎」(集成2753)まで月齢の意で、いわゆる「覇者」との用例は戦国の竹簡以降となる。

学研漢和大字典

会意。「雨(空の現象)+革(ぴんとはった全形)+月」を組みあわせて、残月や新月のときのほんのり白い月の全形を示したもの。▽白(ハク)(しろい)と同系。ただしその意味は多くは魄(ハク)の字であらわし、霸はむしろ伯(ハク)(男の長老)や父(フ)(おやじ分)に当て、諸侯のボスや長老の意に用いる。

語義

  1. {名詞}はたがしら。力で天下をおさえた、諸侯の長。頭領。▽徳によって天下を治めるのを王者、力でおさえるのを覇者という。《類義語》伯。「覇者(ハシャ)」「五覇(ゴハ)(=五伯。晋(シン)の文公や斉(セイ)の桓公(カンコウ)など、春秋時代の五人の強力な諸侯)」「以力仮仁者覇=力を以て仁を仮る者は覇たり」〔孟子・公上〕
  2. {名詞}武力で勝った者。武力で勝つこと。「制覇(セイハ)」。
  3. {動詞・形容詞}むりおしでおさえる。力ずくの。「覇占(ハセン)」「覇拠(ハキョ)」。
  4. {名詞}川名。渭水(イスイ)の支流。西安市の東を流れる。白水。《同義語》廟(ハ)。「覇上(ハジョウ)(覇水のほとり)」。
ハク
  1. ぴ{名詞}新月の前後のとき、ほんのりと白くみえる月のわくどり。▽新月の前のを死覇といい、新月のあとのを生覇という。《同義語》魄(ハク)。「哉生覇=哉めて生覇」〔説文解字・覇字引〕

字通

[会意]旧字は霸に作り、雨+革(かく)+月。霸の初文は䨣に作り、雨+革。獣屍が雨にうたれ、色沢を失って白く暴(さら)されている形で、生色を失った白い色をいう。月光の白さがそれに似ているので、月を加えて霸となった。〔説文〕七上に「月始めて生じて魄然(はぜん)たるなり。大月を承くるときは二日、小月を承くるときは三日なり。月に從ひ、䨣(は)聲」とする。金文に「旣生霸(きせいは)」「旣死霸(きしは)」のように月相をいう語があり、一月四週を初吉・旣生覇・旣望・旣死覇に分かつ。〔説文〕のいう二・三日の頃は初吉にあたり、劉歆(りゆうきん)の〔三統暦〕に死覇を朔日とする解釈に近いが、朔・望の間に生覇・死覇をおく王国維の説は、金文の暦朔日辰の計算の上にも妥当なもので、その解をとるべきであろう。霸はまた伯と通用し、覇者の意に用いる。白は頭顱(とうろ)の白骨化したもので、髑髏(どくろ)の象。雄傑の人の髑髏を保存し崇拝したので、その人を伯という。覇者の義は伯の仮借義である。常用漢字の覇は、もと霸の俗字。

馬(バ・10画)

馬 甲骨文 馬 金文
甲骨文/御正衛簋・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:うまを描いた象形で、原義は動物の”うま”。

音:「メ」は呉音。「マ」は唐音。カールグレン上古音はmɔ(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義のほか、諸侯国の名に、また「多馬」は厩役人を意味したという。金文では原義のほか、「馬乘」で四頭立ての戦車を意味し(格白𣪕・西周?)、「司馬」の語も見られると言うが、”厩役人”なのか”将軍”なのか明確でない。戦国の竹簡での「司馬」は、”将軍”と解してよい。

学研漢和大字典

馬 解字
象形文字で、うまを描いたもの。古代中国で馬の最もたいせつな用途は戦車を引くことであった。向こうみずにつき進むとの意を含む。武(危険をおかし、何かを求めて進む)・驀(バク)(あたりかまわず進む)・罵(バ)(相手かまわずののしる)と同系のことば。

語義

  1. {名詞}うま。家畜の名。車やすきを引かせたり、荷物を負わせたりする。性質は、向こう気が強い。▽馬にまたがって乗ることは、北方の遊牧民、匈奴(キョウド)などから伝わった習慣で、古代中国では直接馬に乗ることはしなかった。「乗馬」「騎馬(馬にまたがって乗る)」。
  2. {名詞}かずとり。投壺での得点をかぞえる道具。「籌馬」。
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①馬をひいて人や荷物を運ぶことを職業とする人。うまかた。
    ②うま。将棋で、角が成ったもの。成角のこと。
    ③外国語の「バ」「マ」の音に当てた用法。「玖馬(キューバ)」「羅馬(ローマ)」「馬来(マライ)」。

字通

[象形]卜文・金文の字形は、鬣(たてがみ)のある馬の形。〔説文〕十上に「怒るなり。武なり」と馬と畳韻の語を以て解する。馬を陽物とし、音義説を以て解するものであるが、語義との関係はない。〔左伝、襄六年〕に、宋では司馬のことを司武と称しており、その古音が近かったのであろう。

麻(バ・11画)

麻 金文 麻 金文
僕麻卣・西周早期/師麻髟子叔簠・西周末期

初出:初出は西周早期の金文

字形:「广」”屋根”+「𣏟ハイ」”麻の原糸”。麻ひもで想像できるように、麻の原糸(ヘンプ)は太さが不揃いの繊維が絡まったような形をしている。それを屋根の下で整えて紡績するさま。初出の字形はよくそのさまを伝えており、「十」”きぬた”で繊維を打ってほぐすさま。

音:カールグレン上古音はma(平)。「マ」は唐音、呉音は「メ」。

用例:西周早期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1753に「壬寅,州子曰:僕麻,余易(賜)帛、□(囊)貝,蔑女(汝),王休二朋。」とあり、「僕麻」は「麻をうつ」と読める。”あさ”と解せる。

春秋「師麻孝弔鼎」(集成2522)に「師麻孝弔乍旅貞。」とあり、人名と解せる。

備考:アサと言ってもアサ科のいわゆる大麻だけではなく、はイラクサ科の”からむし・ちょま”であり、(初出は説文解字)は”ジュートあさ”で中国原産とされる。亜麻はカフカス原産とされ、相当する漢字は無いようだから、論語の時代には無かっただろう。

学研漢和大字典

会意。「广(やね)+𣏟(あさの茎を二本並べて、繊維をはぎとるさま)」。あさの茎を水につけてふやかし、こすって繊維をはぎとり、さらにこすってしなやかにする。摩(こする)・模(こする)と同系。
「しびれる。また、しびれ」の意味では「痲」とも書く。

語義

  1. {名詞}あさ。草の名。繊維をとる。また、その繊維。古代にはもっとも主要な衣料の原料であった。
  2. {名詞}ごま。実から油をとる。「胡麻」「芝麻」。
  3. {動詞・形容詞}しびれる。こすったあとのように感覚がなくなったさま。《同義語》⇒痲。「麻翌(マヒ)」「麻薬」。
  4. {名詞}みことのり。唐代、勅命をあさですいた紙に書いたことから。

字通

[会意]旧字は麻に作り、广(げん)+𣏟(はい)。〔説文〕七下に「𣏟と同じ。人の治むる所なり。屋下に在り。广に從ひ、𣏟に從ふ」とし、屋下に𣏟を治むる意とする。〔繫伝〕には文首に「枲(あさ)なり」とあり、枲(し)字条七下に「麻なり」とあるのと互訓。广は宮廟の象。麻は𣏟を神事に用いる意を示すものであろう。わが国の白香(しらか)の類にあたる。禦祀を示す御の初文は、卜文では幺(よう)に従い、幺は麻たばを拗(ね)じた形。喪礼にも多く麻を用いた。唐代には、麻紙を詔勅に用いた。

※𣏟も枲も、初出は楚系戦国文字。

磨(バ・16画)

磨 楚系戦国文字
楚系戦国文字

初出:初出は楚系戦国文字または後漢の『説文解字』。

字形:初出の字形は■(上下に𣏟+石)または「䃺」。現伝字体の初出は漢代の篆書

音:カールグレン上古音はmwɑ(平)で、去声の音は不明。同音は摩・麼・塺。いずれも金文以前に遡れない。「マ」は呉音。

初出 声調 備考
バ/ビ/キ する 説文解字
バ・マ みがく 楚系戦国文字
バ・マ/ビ・ミ/モ こまかい 説文解字
バイ・マイ/バ・マ ちり 説文解字

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」緇衣18に「白珪之砧(玷)尚可磨」とあり、”(玉を)磨く”の語義が確認できる。

備考:「漢語多功能字庫」は「もと䃺と書いた」とある以外、見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。麻は「广(いえ)+麻の繊維をはぎとるさま」からなり、家の中で麻の繊維をはぎとるさまを示す。そのさい、こすりあわせて、繊維を細かくわける。磨は「石+(音符)麻(こする)」で、石をこすること。靡(ビ)(こすって小さくする)・摩(こする)と同系。類義語の摩は、こすってきれいにする。研は、みがいて表面を平らにする。琢は、努力して学徳やわざをみがく。瑳・磋は、ぞうげや玉をみがく。転じて、学問・道徳をきわめる。「摩」に書き換えることがある。「研摩・摩滅」。

語義

  1. (マス){動詞}みがく。玉や石をこすってみがく。《同義語》⇒摩(こする)。《類義語》研(とぐ)。「研磨(ケンマ)」「如琢如磨=琢するがごとく磨するがごとし」〔詩経・衛風・淇奥〕
  2. (マス){動詞}みがく。技術や学問をみがいて上達する。「練磨(レンマ)」「切瑳琢磨(セッサタクマ)(学問や腕をみがきあう)」。
  3. {名詞}二つの円盤の形をした石に歯をつけてかさねあわせてもみ、回転させてその間に入れた穀物をすりつぶす道具。石うす。ひきうす。▽去声に読む。《類義語》磑(ガイ)(石うす)・碓(タイ)。
  4. (マス){動詞}すりへってなくなる。

字通

[形声]声符は麻(ま)。〔説文〕九下に䃺を正形とし、靡(び)声。「石磑(いしうす)なり」とあり、石臼をいう。〔爾雅、釈器〕に「石、之れを磨と謂ふ」とあり、〔広雅、釈器〕に「礪(みが)くなり」という。手を以て撫するを摩、石で磨礪(まれい)するを磨という。

沛(ハイ・7画)

沛 篆書
『説文解字』篆書

初出は戦国の竹簡。「小学堂」による初出は後漢の『説文解字』

字形は「氵」+「巿」”さかん”。水量の多い川を指す。

音:カールグレン上古音はpʰwɑdまたはpwɑd(共に去)で、同音は存在しない。藤堂上古音はp’ad。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」周易51に「九晶(三):豐丌(其)芾(沛),日中見芾(瞞),折丌(其)右(肱),亡(无)咎。」とあるが、易の言うことなので何を言っているかさっぱり分からない。論語語釈「晶」も参照。

漢語多功能字庫」によると、原義は川の名。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

「沛」は『字通』の言う通り氵=水が巿さかんなことで、「巿」の初出は西周早期の金文、カ音は「沛」pʰwɑdまたはpwɑdに対して「巿」はpi̯wət(入)。◌̯は音節副音=弱い音を示し、両者は近い。「漢語多功能字庫」巿条によると、原義は礼服の飾りという。

学研漢和大字典

会意兼形声。市(ハイ)は市(シ)ではなくて、「屮(草のめ)+ハ印(開く)」の会意文字で、草がぱっと一面に広がって生えること。沛はで、水草が広がる、水が一面に広がるなどの意。肺(ハイ)(ぱっと息を吹き広げるはい)・貝(ハイ)(左右にわかれて開く二枚貝)などと同系。また発(ぱっと開く)や撥(ハツ)(はねる)もこれと縁が近い。

語義

  1. {名詞}一面に水草の広がったぬま地。《類義語》沢。「沛沢多而禽獣至=沛沢多くして而禽獣至る」〔孟子・滕下〕
  2. {形容詞}ぱっとふき出て広がるさま。勢いよく広がるさま。「沛然下雨=沛然として雨下る」〔孟子・梁上〕
  3. {動詞}つまずきたおれる。「莖沛(テンパイ)(ころんだり足をはねたりして、あわてふためく)」。
  4. {名詞}地名。今の江蘇(コウソ)省沛県。漢の高祖の故郷。

字通

[形声]声符は巿(はい)。巿は𣎳(はい)と同じく、草木の茂るさまをいう。これを水に移して、水勢のさかんなるさまをいい、また〔孟子、梁恵王上〕「天、油然として雲を作(おこ)し、沛然として雨を下す」のようにいう。また〔管子、揆度〕に「沛澤」の語があり、大沢の意。〔広雅、釈詁一〕に「大なり」とみえる。〔説文〕十一上に川の名とするが、別に声義のある字である。

拜/拝(ハイ・8画)

拝 金文 拝 金文
作周公簋・西周早期/豦簋・西周中期

初出:初出は西周早期の金文

字形:「木」+「手」。手を合わせて神木に祈るさま。西周中期の字形に、「木」+”かぶり物をかぶり目を見開いた人”があり、神官が神木に祈る様を示す。中国の漢学教授が「𠦪クツ」”引き抜く”+「手」というのには同意できない。

拝 異体字 拝 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔一丂王十〕」と記す。上掲『碑別字新編』所収「仏説天公経」写字近似。また「〔手王卞〕」と記す。上掲「東魏齊太公呂望碑」刻。

音:カールグレン上古音はpwăd(去)。

用例:西周早期「寓鼎」(集成2756)に「寓拜𩒨首」とあり、”おがむ”と解せる。西周中期までの発掘例は全て「…拜𩒨(稽)首」の文字列で、頭を下げるのと手を合わせるのは別の行為だが礼拝に必須のセットと考えられていたようだ。西周末期になると「拜手𩒨首」との文字列が現れる。

春秋末期「洹子孟姜壺」(集成9729)に「齊𥎦拜嘉命。」とあり、”うけたまわる”と解せる。

戦国最末期「睡虎地秦簡」軍爵153に「從軍當以勞論及賜,未拜而死」とあり、”任じる”と解せる。ほかに「上海博物館蔵戦国楚竹簡」子見季桓15に「拜易(賜)民」とあり、”任じる”と解せなくもない。

学研漢和大字典

会意。「整ったささげ物+手」で、神前や身分の高い人の前に礼物をささげ、両手を胸もとで組んで敬礼をすることを示す。貝(バイ)(二つに割れるかい)・廃(ハイ)(二つに割れる)などと同系で、組んだ両手を左右に分けて両わきにもどすこと。旧字「拜」は人名漢字として使える。

語義

  1. (ハイス){動詞}敬意をあらわすために両手を胸もとで組んで頭をたれ、ついで、両手を両わきにもどす動作をする。転じて、ていねいにおじぎをする。《類義語》揖(ユウ)(両手を胸もとで組み頭を下げる)。「三拝九叩(サンパイキュウコウ)(三度拝し、九度頭を地につけて最敬礼をする)」「禹聞善言則拝=禹善言を聞けば則ち拝す」〔孟子・公上〕
  2. (ハイス){動詞}ていねいにおがむ。「拝天」「拝廟(ハイビョウ)」。
  3. (ハイス){動詞}ありがたくいただく。「拝余香=余香を拝す」。
  4. (ハイス)・(ハイセラル){動詞}官位をいただく。任命される。「拝命」「拝礼部員外郎=礼部員外郎を拝す」〔韓愈・柳子厚墓誌銘〕
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①おがむ(をがむ)。神仏に敬意をあらわして敬礼をする。「礼拝」「神を拝む」。
    ②手紙文で、自分の名の下に書きそえることば。「鈴木拝」。

字通

[会意]手+𠦪(はん)。𠦪は花の形。〔説文〕十二上に「首、地に至るなり」と拝首の意とし、字形について揚雄説として「兩手の下るに從ふ」と左右を両手の形とする。金文の字形は華を手で抜きとる形で、草花を抜きとるのが字の原義。〔詩、召南、甘棠〕「蔽芾(へいひ)たる甘棠(かんたう) 翦(き)ること勿(なか)れ、拜(ぬ)くこと勿れ」の〔鄭箋〕に「拜の言たる、拔なり」という。拜peatと拔(抜)buatとの畳韻の関係を以て説くが、拜の字形が草花を抜きとる形である。その姿勢は腰を低めて拝首の礼に近いので、のちその義となった。金文には「拜手■(旨+頁)首(けいしゆ)」といい、〔書、召誥〕にも、「拜手」の語がある。官位の受命のときにその礼を行うので、拝命・拝受・拝顔のようにいう。

佩(ハイ・8画)

佩 金文 佩 金文
寓鼎・西周早期/頌壺・西周末期

初出:初出は西周早期の金文

字形:「亻」+「凡」”器物”+「巾」”ぶら下げる”。人工物を身につけてぶら下げるさま。

音:カールグレン上古音はbʰwəɡ(去)。

用例:西周早期「寓鼎」(集成2718)に「寓獻佩于王㚸。」とあり、”装飾品”と解せる。

同「小盂鼎」(集成2839)に「盂厶多旂佩。」とあり、竿から下げる馬印のようなものを指すか。

同「戎佩玉人卣」(集成5324)に「戎佩玉人」とあり、”帯びる”と解せる。

冠 金文

上掲春秋中期「子犯鐘」(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA1011・1023)に「王易子𨊠…衣常、黼市(黻)、冠。」とあり、”かんむり”と解せる。この金文は当初「佩」と解読され「珮」”腰から下げる玉”と釈文されたが、西周や戦国の字形とはまるで違うので賛成できない。論語語釈「冠」を参照。

学研漢和大字典

会意。佩は「腰につけるハンカチのたれた姿+巾(たれた布)+人」。男は玉のアクセサリーを帯につける。その音は、服(フク)(ぴったりと身につける)・副(フク)(ぴったりと寄り添う)の字で示されることばと近く、ぴったり添えて離さないの意を含む。陪(バイ)(ぴったりと付き添う)・備(ビ)(ぴったりと付き添う)と同系。

語義

  1. {動詞}おびる(おぶ)。はく。ぴったりと身につける。「佩玉(ハイギョク)」「挙所佩玉凡=佩ぶる所の玉凡を挙ぐ」〔史記・項羽〕
  2. {名詞}おびだま。玉佩(ギョクハイ)のこと。帯や胸につける飾りの玉。また、身につけるアクセサリー。
  3. {動詞}ぴったりつけて離さない。しかと心に留めて忘れない。《類義語》服。「佩用(ハイヨウ)(服用)」「感佩(カンパイ)(感服)」。

字通

[会意]人+■(佩-亻)(はい)。■(佩-亻)は帯から巾を垂れている形。〔説文〕八上に「大帶に佩するなり。人・凡(はん)・巾(きん)に從ふ。佩には必ず巾有り。故に巾に從ふ。巾、之れを飾と謂ふ」(段注本)とみえる。飾は拭の意。金文の〔頌壺(しようこ)〕に「頌(人名)、拜して𩒨首(けいしゆ)し、命册(めいさく)を受け、佩びて以て出づ」とあり、策命を受けるとき、その命書を大帯に佩びて退出した。玉には魂振りとしての呪能があるとされ、腰に玉佩を用いた。玉佩を珮という。すべて身に著けることを佩という。

※(佩-亻)は大漢和辞典にも載っていない。一々探したり、unicode検索したり、外字作ったりするのにうんざりする。デタラメ言うなこの●●●●い、とたまに泉下の白川博士を罵倒したくなる。

倍(ハイ・10画)

倍 秦系戦国文字
詛楚文・戦国秦

初出:初出は戦国中末期の楚系戦国文字。「小学堂」による初出は秦系戦国文字

字形:「人」+「否」”そむく”。人の道にそむくさま。

音:カールグレン上古音はbʰwəɡ(上)。「バイ」「ベ」は呉音。

用例:戦国の竹簡「上海博物館蔵戦国楚竹簡」緇衣13に「則民不伓」とあり、「伓」は「倍」と釈文され、”そむく”と解せる。

戦国中末期「郭店楚簡」老子甲1に「民利百伓」とあり、「伓」は「倍」と釈文され、”割り増し”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』音バイ訓そむくに「背」「偝」があるが、「背」の初出は戦国の竹簡。「誖」の初出は西周末期の金文だが、”そむく”の用例が論語の時代までに確認できない。上古音での同音で、かつ春秋末期以前に存在した漢字で、”そむく”の語義をもつものはない。

学研漢和大字典

会意兼形声。不は、ふっくらとふくれたつぼみを描いた象形文字で、胚(ハイ)の原字。しかし普通は、振り切って拒否するという否定のことばに当て、否とも書く。毅(ホウ)は、否の変形で、切り離し、振り切るの意を含む。解剖の剖(切り離す)の原字。倍は「人+(音符)毅」で、二つにわけ離すこと。両断すれば、その数は倍となるので、倍の意をあらわす。背(ハイ)(せをむけて二つにわかれる)・部(ブ)(わけた部分)・剖などと同系。類義語に増。

語義

  1. {動詞}そむく。二つに離れる。《同義語》⇒背。「不敢倍徳也=敢へて徳に倍かず」〔史記・項羽〕
  2. {名詞}二倍、三倍の倍。「倍率」。
  3. (バイニス){動詞}二倍にする。ふやす。「雖倍賞累罰=賞を倍にし罰を累ぬと雖も」〔韓非子・五蠹〕
  4. (バイシテ){副詞}ますます。今までにも倍して。「加倍(いやましに)」「毎逢佳節倍思親=佳節に逢ふ毎に倍親を思ふ」〔王維・九月九日憶山東兄弟〕

字通

[形声]声符は咅(はい)。咅は孛(はい)(花の子房のふくらみ)が熟して果となり、剖(さ)ける意。それで両倍の意となる。〔説文〕八上に「反(そむ)くなり」と背叛の意とし、〔段注〕にそれを字の本義とするが、両分することよりして背叛・倍譎(はいきつ)の意を生ずる。背・陪と声義において通用する。

※倍譎:そむきたがう。〔荘子、天下〕倶に墨經を誦するも、倍譎して同じからず。相(たが)ひに別墨と謂ひ、堅白同異の辯を以て相ひ訾(そし)る。

敗(ハイ・11画)

敗 甲骨文 敗 金文
合17318/五年師史簋・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:「貝」または「鼎」+「丨」”棒”+「又」”手”。貴重なものを棒で叩き壊すさま。

音:カールグレン上古音はbʰwad(去)。

用例:「甲骨文合集」02274正.2に「父乙不異敗王」とあり、”殺害する”と解せる。

西周末期「年師〔方更〕𣪕」(集成4216)に「敬母(毋)敗〔辶朿〕(績)」とあり、”ダメにする”と解せる。

春秋末期「叔尸鐘」(集成276)に「敗氒(厥)靈師」とあり、”打破する”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。貝(ハイ)・(バイ)は、二つに割れたかいを描いた象形文字。敗は「攴(動詞の記号)+(音符)貝」で、まとまった物を二つに割ること、または二つに割れること。六朝時代までは、割ることと割れることの発音に区別があった。廃(二つに割れる)・敝(ヘイ)(割れてだめになる)と同系。類義語の負は、背を向ける、まけて逃げること。異字同訓にやぶれる⇒破。

語義

  1. {動詞}やぶれる(やぶる)。戦いや試合でまける。《対語》⇒勝。《類義語》敝(ヘイ)。「東敗於斉=東のかた斉に敗る」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}やぶる。物事をだめにする。やりそこなう。《類義語》破・廃。「敗事=事を敗る」「失敗」「欲敗従約=従約を敗らんと欲す」〔史記・蘇秦〕
  3. {動詞}やぶれる(やぶる)。形がくずれる。また、物が腐ってだめになる。「腐敗」「敗屋」「肉敗、不食=肉敗れしは、食らはず」〔論語・郷党〕
  4. {名詞}失敗や敗戦。「乗敗=敗に乗ず」。

字通

[会意]貝+攴(ぼく)。貝は宝とすべきもの。これを殴(う)って毀敗(きはい)することをいう。〔説文〕三下に「毀(やぶ)るなり」とし、籀文(ちゆうぶん)の字形をあげる。籀文は二貝の形に従う。則の金文は二鼎の形に従う。篆文で貝に従うとする員・賊・貳(弐)などは、もと鼎に従う字である。卜文には敗の字形を、宝貝を撃つ形と、また鼎の形に従うものとがあるが、賊・貳は鼎銘を削ってその誓約を破棄する意であり、敗も聖器を毀敗して盟約を破棄する意であろう。それで敗徳・敗軍、また敗俗・喪失の意に用いる。成敗のように用いる成は、聖器としての戉(えつ)(鉞(まさかり))に呪飾の緌(ずい)を加えて祝う意で、成敗はいずれも聖器を対象とする呪的な方法をいう語である。

陪(ハイ・11画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰwəɡ(平)。同音に培、坏”低い丘”(以上平)、倍(上)、佩・珮”帯び玉”、偝”捨てる”、背(以上去)。「バイ」は慣用音。

学研漢和大字典

形声。「阜(土盛り)+(音符)咅」。倍(二つに割ってそばにそえる)・培(バイ)(土を根にそえる)・伏(ぴったりとつき従う)・副(そばにそえる)と同系。

語義

  1. (バイス){動詞}そう(そふ)。そえる(そふ)。根元にそえ土をする。そばに並んで供をする。つきそう。《類義語》伴・副。「陪席」「奉陪(おそばにおともする)」。
  2. {名詞}つきそいの人。お供。「陪弐(バイジ)」。
  3. {名詞}正に対して副となるもの。予備のもの。《類義語》副。「陪臣」。
  4. (バイス){動詞}ひきあてて支払う。代償とする。賠償する。《同義語》賠。《類義語》償。「鬻女陪男償税銭=女を鬻り男を陪して税銭を償ふ」〔袁宏道・竹枝詞〕

字通

[形声]声符は咅(はい)。咅は花の子房がふくらむ意。〔説文〕十四下に「土を重ぬるなり。一に曰く、滿つるなり」とあり、培と通用する。𨸏(ふ)は神の陟降する聖梯の形であるから、聖所に附設するものをいい、陪陵・陪従などが初義である。天子*に陪従するを陪幸、またの家臣を陪臣という。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

廢/廃(ハイ・12画)

廃 隷書
(前漢隷書)

初出:初出は前漢の隷書

字形:「广」”屋根”+「發」”弓を射る”で、「發」は音符。

音:カールグレン上古音はpi̯wăd(去)で、同音は「祓」のみ、甲骨文のみ出土。この字に”とりのぞく”の語義がある。

用例:殷代末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1553に「王一射,󱩾(狃)射三,率亡灋(廢)矢。」とあり、「灋」は「法」pi̯wăp(入)の原字で、「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では「廢」と釈文している。「王一たび射る。狃三たび射る。率ねすつる矢亡し」と読め、”無駄になる”と解せる。

西周末期「逆鐘」(集成63)に「勿灋朕命」とあり、「わがみことのりをすつるなかれ」と読め、”捨ててかえりみない”と解せる。

戦国最末期「睡虎地秦簡」法律答問59に「廷行事吏為詛偽,貲盾以上,行其論,有(又)廢之。」とあり、”免官する”と解せる。

論語時代の置換候補:上掲「灋」(法)。

備考:「漢語多功能字庫」によると、金文(逆鐘・西周末期?)や戦国秦の竹簡では「灋」(法)で「廢」を表すという。

学研漢和大字典

会意兼形声。發(=発)の字の上部は、左右の足が両がわに開いてはねたさま。發は、それに弓と殳印(動詞の記号)を添えた字で、ぱんと弓をはじくこと。撥(ハツ)(はねる)・跋(バツ)(はねる)と同系。廢は「广(いえ)+(音符)發」で、家がぱんとはじけて二つに割れてくずれること。転じて、まとまった物が割れくずれて、だめになる意。敗(われる、くずれる)と同系。

語義

  1. (ハイス){動詞}すたれる(すたる)。すたる。くずれてだめになる。「廃絶」「力不足者、中道而廃=力足らざる者は、中道にして廃す」〔論語・雍也〕
  2. (ハイス){動詞}やめる(やむ)。だめだとして捨て去りやめる。《対語》⇒存・置。「廃止」「廃寝食=寝食を廃す」「子之廃学、若吾断斯織也=子の学を廃するは、吾が斯の織を断つがごとし」〔列女伝・鄒孟軻母〕
  3. (ハイス){動詞}やめる(やむ)。役目や仕事をやめる。「邦有道不廃=邦に道有らば廃せられず」〔論語・公冶長〕
  4. (ハイス){動詞}からだがだめになる。《同義語》⇒癈。「廃残」「荊軻廃=荊軻廃す」〔史記・荊軻〕
  5. (ハイス){動詞}くずす。《類義語》毀(キ)。「廃毀(ハイキ)」。
  6. {形容詞}機能がだめになったものをあらわすことば。働かなくなったさま。くずれたさま。「廃紙」「廃屋」。

字通

[形声]旧字は廢に作り、發(発)(はつ)声。發は出発の儀礼を示す字で、両足をそろえた𣥠(はつ)と、弓を射る形とに従う。軍を発するときの軍礼であろう。〔説文〕九下に「屋頓(かたむ)くなり」とあり、〔淮南子、覧冥訓〕に「四極廢(かたむ)く」のような用例がある。古くは廃棄の字には灋(ほう)(法の初形)を用い、金文には「朕が命を灋(はい)(廢)すること勿(なか)れ」のようにいう。灋は、神判に敗れた解廌(かいたい)という神羊と、敗訴者(大)と盟誓の器の蓋(ふた)を除いたもの(𠙴(きよ))とを合わせて水に流棄する意で、穢れを廃棄することを示す。廢は廟屋の中で發の軍礼を行う意であるが、それが廃屋・廃国の意となるのは、亡国の儀礼と関係があるかもしれない。亡国の社はその屋を覆うという。喪乱を恢することを撥乱という。

每/毎(バイ・6画)

毎 甲骨文 每 金文
甲骨文/杞伯每亡簋・春秋早期

初出:初出は甲骨文

字形:髪飾りを付けてかしこまる女の姿。髪飾りは成人を意味し、母たり得る女性を示す。原義は「母」。

每 毎 異体字
慶大蔵論語疏は新字体と同じく「毎」と記す。上掲「魏安樂王第三子給事君夫人韓氏墓誌銘」(北魏)刻。

音:カールグレン上古音はmwəɡ(上/去)。「マイ」は呉音。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義のほか「悔」に通じて”惜しむ”、金文では加えて「敏」に通じて”はやい”(何尊・西周早期)、人名に、戦国の金文では”役人”を意味した(中山王円壺)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「頭に髪をゆった姿+(音符)母」で、母と同系であるが、とくに次々と子をうむことに重点をおいたことば。次々と生じる事物を一つ一つさす指示詞に転用された。類義語の各は、一つずつ手ごたえのある個体をそれぞれ別にさし示すことば。旧字「每」は人名漢字として使える。

語義

  1. {指示詞}ごとに。次々と生じる事物を、そのつどさし示すことば。《類義語》各。「毎日」→語法「①」。
  2. {動詞}むさぼる。しきりにもとめる。《類義語》謀。
  3. {副詞}つねづね。→語法「②」

語法

①「~ごとに」とよみ、「~するときはいつでも」「~するたびごとに」と訳す。順接の恒常条件の意を示す。「入大廟、毎事問=大廟に入りて、事毎(ごと)に問ふ」〈大廟の中では、儀礼を一つ一つ尋ねた〉〔論語・郷党〕

②「つねに」「つねづね」とよみ、「いつも」と訳す。日頃からという意を示す。「毎自比於管仲、楽毅=毎(つね)に自ら管仲、楽毅に比す」〈いつも自分を管仲・楽毅になぞらえていた〉〔蜀志・諸葛亮〕

字通

[象形]婦人が祭事のために髪に簪飾(しんしよく)を加えている形。これに手を加えた形は敏、糸飾りをつけると繁となる。金文に每・敏を「いそしむ」意に用いる。〔説文〕一下に「艸(くさ)盛んにして、上に出づるなり。屮(てつ)に從ひ、母(ぼ)聲」とするが、草の茂盛をいう字ではない。毎毎(草盛の貌)はもと莓莓(まいまい)に作るべき字。また、常に、数〻(しばしば)の意に用いるのは、引申の義である。

白(ハク・5画)

白 甲骨文 白 金文
甲骨文/魯伯愈父鬲・春秋早期

初出:初出は甲骨文

字形:蚕の繭を描いた象形。部品として「伯」「柏」「百」「迫」などに含まれるが、これらの音は全てpăk(入)。論語語釈「伯」を参照。

帛 甲骨文
「帛」甲骨文

音:カールグレン上古音はbʰăk(入)。同音は「帛」(入)”きぬ”のみ。

用例:「甲骨文合集」1039.2に「□燎白人」とあり、地名と解せる、

同1619に「□用白牛祖乙」とあり、”白い”と解せる。

「漢語多功能字庫」によると、「甲骨文合集」36511に「多白(伯)正(征)盂方白(伯)炎」とあり、”族長”の意という。

西周の金文では、おそらく”長子”と解せる人名の例が多数ある。


『漢熹平石經殘字集録』下p.48

漢石経では論語の「曰」gi̯wăt(入)を「白」または「白」に近い「曰」と記す。古義を共有しないから転注と言えず、音が遠いから仮借とも言えない。ただ「敬白」と言うように”目上に申し上げる”の意がある。後漢末の辞典『釈名』に「白啟也如氷啟時色也」と見られ、”上向きに口を開ける”の意と解されていた。「曰」字の古形に「白」字に近い形のものがあり、後漢の世で古風を装うにはありうることだ。論語語釈「曰」も参照。

学研漢和大字典

象形。どんぐり状の実を描いたもので、下の部分は実の台座、上半は、その実。柏科の木の実のしろい中みを示す。柏(ハク)(このてがしわ)の原字。帛(ハク)(しろい布)・粕(ハク)(色のないかす)・皅(ハ)(しろい)・覇(ハ)(月のほのしろい輪郭)などと同系。付表では、「白髪」を「しらが」と読む。

語義

  1. {名詞・形容詞}しろ。しろい(しろし)。《対語》⇒黒・竜(ソウ)(くろい)。「白髪」「白黒分明」〔漢書・薛宣〕
  2. {動詞}しらむ。色がしろくなる。明るくなる。しろくする。「精白」「不知東方之既白=東方の既に白むを知らず」〔蘇軾・赤壁賦〕
  3. {形容詞}しろい(しろし)。けがれのないさま。また、無色であるさま。《対語》⇒黒。「潔白」「月白風清=月白く風清し」〔蘇軾・後赤壁賦〕
  4. {形容詞}あきらか(あきらかなり)。物事がはっきりしているさま。「明白」「罪白者伏其誅=罪白かなる者は其の誅に伏す」〔漢書・貢禹〕
  5. {形容詞}無色の意から転じて、なにもないさま。むなしい。また、飾りや付加物がないさま。特別の身分がないさま。「空白」「白巻(白紙の答案)」「白丁(平民)」。
  6. {形容詞・副詞}《俗語》収穫や負担がないさま。いたずらに。むだに。「徒白(むだ)」「白費(むだづかい)」。
  7. {形容詞・名詞}《俗語》飾りがないさま。また、生地のままでやさしいさま。転じて、芝居のせりふ。「説白(口語のせりふ)」「白話(口語)」。
  8. {動詞}もうす(まをす)。内容をはっきり外に出して話す。また、上の人に真実をもうしのべる。「告白」「稟白(ヒンパク)(もうしのべる)」「敬白(手紙の用語で、つつしんでもうしのべるの意)」「元伯、具以白母=元伯、具に以て母に白す」〔捜神記〕
  9. {名詞}とっくり・さかずきなどの酒器。▽中が、うつろなことから。

字通

[象形]頭顱(とうろ)の形で、その白骨化したもの、されこうべ。雨露にさらされて白くなるので、白色の意となる。偉大な指導者や強敵の首は、髑髏(どくろ)として保管された。覇者を示す覇はもと䨣に作り、雨にさらされた獣皮の意。白・伯と通用する。〔説文〕七下に「西方の色なり。陰、事を用ふるとき、物色白し。入に從ひて二を合はす。二は陰の數なり」と五行説によって説くが、字は二入を合わせた形ではない。郭沫若は、拇指(おやゆび)の爪の部分で、親指で覇者を示したとするが、俗説とすべく、白の従う㰾(きよう)(敫)・徼(きよう)・竅(きよう)・檄(げき)・邀(きよう)はすべて祭梟(さいきよう)(首祭)の俗に関する字である。殷の甲骨文に、頭骨に朱刻を加えたものがあり、異族の伯の名をしるしている。のちには酒杯や便器に、その頭顱を用いることがあった。

※頭顱:「あたま、されこうべ」と『大漢和辞典』にある。

百(ハク・6画)

百 甲骨文 百 金文
甲骨文/翏生盨・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:「帛」”きぬ”の字形の上部に含まれることから、蚕の繭を描いた形。「白」bʰăk(入)と区別するため、「人」形を加えたと思われる。詳細は論語語釈「白」を参照。

「爪である」という郭沫若(共産党の御用学者)の説は、でたらめの多い男なので信用できない。甲骨文には「白」と同形のもの、上に「一」を足したものが見られる。「白」単独で、”しろい”とともに数字の”ひゃく”を意味したと思われる。

白 甲骨文 帛 甲骨文
「白」甲骨文/「帛」甲骨文

音:カールグレン上古音はpăk(入)。「ヒャク」は呉音。

用例:甲骨文から数字の”ひゃく”を意味する例があまたある。西周になると人名や官職名「伯」に用いた。戦国末期までには、それ以外の用例は見られない。

備考:「漢語多功能字庫」には、論語の読解に関して見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

形声。「一+(音符)白」をあわせた字(合文)で、もと一百のこと。白(ハク)・(ヒャク)はたんなる音符で、しろいという意味とは関係がない。付表では、「八百屋」を「やおや」「八百長」を「やおちょう」と読む。

語義

  1. {数詞}もも。数のひゃく。十の十倍。《同義語》⇒佰。「生年不満百=生年百に満たず」〔古詩十九首〕
  2. {副詞}ももたび。百回。百度(ヒャクタビ)。「百戦百勝」「百聞不如一見=百聞は一見に如(し)かず」〔漢書・趙充国〕
  3. {形容詞}数の多い。「百官(多くの役人)」「百姓(ヒャクセイ)(多くの人民)」。
  4. (ヒャクタビス){動詞}百回やる。「人一能之、己百之=人一たびしてこれを能くすれば、己はこれを百たびす」〔中庸〕
  5. {動詞}はげむ。力を入れてふんばる。▽拍(力を入れてうつ)に当てた用法。「距躍三百=距躍して三たび百む」〔春秋左氏伝・僖二八〕

字通

[指事]声符である白(はく)の上に、一横線を加えて、数の百を示す。卜文では白の上に二を加えて二百、三を加えて三百とする。〔説文〕四上に「十の十なり。一白に從ふ。數、十十を一百と爲す。百は白なり。十百を一貫と爲す。貫は章なり」(段注本)というが、文義をえがたいところがある。卜文の字形には、白の中央に鼻竅(びきよう)を示すらしい△を加えている。白が頭頂を示すのと、いくらか異なる。〔説文〕が古文の形をあげ、「古文百は自に從ふ」とするのは、その古い字形を誤り伝えたものであろう。百は単位の成数であるから、全体や多数を意味することが多い。

伯(ハク・8画)

白 甲骨文 伯 金文
甲骨文/大盂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:「伯」は論語の時代の漢字では、「白」と書き分けられていない。論語語釈「白」を参照。字形の由来は不詳だが、同系の「帛」の甲骨文が、「白」の下から糸が垂れるさまを示しており、おそらくは蚕の繭。共産党の御用学者・郭沫若は人の爪と言うが根拠無し。原義は色の”しろ”。

音:カールグレン上古音はpăk(入)。同音は「伯」・「迫」・「百」・「柏」(全て入)。全て部品に「白」bʰăk(入)を含む。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文から原義のほか地名・”(諸侯の)かしら”の意で用いられ、また数字の”ひゃく”を意味した。金文では兄弟姉妹の”年長”を意味し(王伯姜鬲・春秋)、また甲骨文同様諸侯のかしらを意味し、五等爵の第三位と位置づけた(趞曹鼎・西周中期)。戦国の竹簡では以上のほか、「柏」に当てた。

学研漢和大字典

形声。「人+(音符)白(ハク)」で、しろいの意には関係がない。昔、父と同輩の年長の男をパといい、それをあらわすのに当てた字。父(フ)(ちち。昔、パといった)・夫(フ)(おとこ、おっと。昔、パといった)と同系。付表では、「伯父」を「おじ」「伯母」を「おば」と読む。

意味〔一〕ハク/ヒャク

  1. {名詞}年長の男を尊敬していうことば。《類義語》父(ホ)・(フ)。「願伯具言臣之不敢倍徳也=願はくは伯具に臣の敢へて徳に倍かざるを言へ」〔史記・項羽〕
    ま{名詞}兄弟の序列で、最年長の人。▽兄弟を年齢の上の者から順に、伯・仲・叔・季という。また。孟・仲・季ともいう。「伯兄」「郷人長於伯兄一歳=郷人伯兄より長ずること一歳」〔孟子・告上〕
  2. {名詞}父の兄。「伯父」。
  3. {名詞}爵位の一つ。公・侯・伯・子・男と五等級にわけた第三位。

意味〔二〕ハ/ヘ

  1. {名詞}諸侯の統率者。はたがしら。《同義語》覇。「五伯(=五覇。五人の諸侯のかしら)」。
  2. 《日本語での特別な意味》
    ①かみ。四等官で、神祇官(ジンギカン)の第一位。
    ②「伯耆(ホウキ)」の略。「伯州」。
    ③「伯剌西爾(ブラジル)」の略。「日伯」。

字通

[形声]声符は白(はく)。白は白骨化した頭顱(とうろ)の象形で、首長たちの首は白骨化して保存された。その人を伯という。〔説文〕八上に「長なり」、〔繫伝〕に「諸侯の長なり」とあって侯伯の義。卜辞に外方の君長を「虎方伯」のようにいう。金文の〔大盂鼎(だいうてい)〕に「邦司四白(伯)」「夷司王臣十又三白(伯)」、また〔宜侯夨𣪘(ぎこうそくき)〕に「鄭の七白(伯)、厥(そ)の鬲(れき)千又五十夫を賜ふ」とあり、農耕の管理者を伯とよぶのは、外方伯のなごりであろう。周では兄弟の序列を、伯・仲・叔・季といった。金文の作器者の名に伯懋父(はくぼうほ)・白懋父(はくわほ)のようにいう例が多い。

帛(ハク・8画)

帛 金文
者減鐘・春秋早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰăk(入)。論語陽貨篇11では「白」bʰăk(入)と記す。論語語釈「白」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「巾(ぬの)+(音符)白」で、白い絹布のこと。類義語の繒(ソウ)も絹織物のこと。綢(チュウ)は、密で細かい織り方をしたもの。布は、おもに綿・麻のぬののこと。

語義

  1. {名詞}きぬ。白い絹布。転じて、広く絹織物のこと。「裂帛=帛を裂く」「五十者可以衣帛矣=五十なる者以て帛を衣るべし」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}ぬさ。神前に供える白い布。「幣帛(ヘイハク)」。

字通

[形声]声符は白(はく)。〔説文〕七下に「繒(きぬ)なり」とあり、糸部十三上に「繒(そう)は帛(きぬ)なり」と互訓する。金文の賜与に帛束・帛束璜などがみえ、のちの束帛加璧の類。金文の〔兮甲盤(けいこうばん)〕に「淮夷(わいい)は𦾔(もと)我が𪽾畮(はくほ)の臣なり」とあって、淮夷は𪽾畮の朝貢義務を負うものであった。𪽾はあるいは〔書、禹貢〕にこの地の貢ぎ物とする「織貝」の類であろう。古くは旗、のち書画に用い、漢代の帛書・帛画の類が出土している。

※𪽾:『大漢和辞典』に条目無し。畮は「せ、田地の広さの名」とある。

柏(ハク・9画)

柏 甲骨文 柏 金文
甲骨文/童麗公柏之季子康編鐘・春秋中期或末期

初出:初出は甲骨文

字形:「白」”どんぐり”+「木」で、ドングリのなる木。原義は”カシワ”。のちに指す樹木の種類が増え、もっぱらドングリを付けないヒノキ科の側柏(コノテガシワ)や扁柏(ヒノキ)、圓柏(カイヅカイブキ)、羅漢柏(アスナロ)を意味するようになった。

上掲の文字は「柏」の甲骨文で、漢字の造形史について示す一例。古くは二文字で記された言葉が、のちに一文字として記される場合が漢字にはある。

柏 異体字
慶大蔵論語疏では異体字「栢」と記す。上掲「魏李挺墓誌」(東魏)刻。『干禄字書』(唐)所収。

音:カールグレン上古音はpăk(入)。藤堂上古音はpǎk。

用例:甲骨文は一例のみ知られるが(合集31800)、欠損が多く解読できない。

春秋末期までの金文の用例は一例のみで(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA0900)、器名の一部になっている。

備考:「漢語多功能字庫」には、見るべき情報が無い。

『孔子家語』などでは孔子の墓碑の代わりに「松柏」を植えて印としたとあり、墓地に植える木としても知られた。

学研漢和大字典

会意兼形声。白の原字はどんぐり状の小さい実の形を描いた象形文字。柏は「木+(音符)白」。まるく小さい実のなる木。「かしわ」は「槲」とも書く。

語義

  1. {名詞}ひのき・このてがしわなど、ひのき類の常緑樹の総称。
  2. {動詞}うつ。手などをうちあわせる。▽拍に当てた用法。
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①かしわ(かしは)。木の名。ぶな科の落葉高木。
    ②かや。いちい科の常緑高木。日本では異体字を木の名の「かや」に使う。

字通

[形声]声符は白(はく)。〔説文〕六上に「鞠(きく)なり」とあり、〔爾雅、釈木〕に「椈(きく)なり」とする、「かえ」という木。〔論語、子罕〕に「歳寒うして、然る後、松柏の後彫(凋)なるを知るなり」とみえる。わが国では、かしわの木をいう、字はまた栢に作る。

博(ハク・12画)

博 甲骨文 博 金文
甲骨文/師㝨簋・西周末期

初出:「国学大師」による初出は甲骨文。甲骨が欠けており、該当部分の釈文はされていない。「小学堂」による初出は西周中期の金文(戈冬簋)。ただし「搏」”うつ”と釈文されている。

字形:「干」”さすまた”+「𤰔」”たて”+「又」”手”で、武具と防具を持って戦うこと。原義は”戦う”(「博多」って?)。

博 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔十専〕」と記す。上掲「韓碑陰」(後漢)刻字に近似。

カールグレン上古音はpɑk(入)。同音は以下の通り。

初出 声調 備考
ハク あまねくゆきわたる 西周中期金文
ハク とらへる 西周末期金文
ハク かねかけのよこぎのかねかざり 春秋中期金文
ハク おほがね 春秋中期金文
ハク すごろく 説文解字
大きい 前漢隷書

用例:「甲骨文合集」36422.1の例は、欠損が多くて判読できない。

西周末期「師㝨𣪕」(集成4313)に「今敢博氒(厥)眾叚」とあり、”撃つ”と解せる。「国学大師」では「搏」と釈文している。

春秋末期出土例は、全て”撃つ”に用いる。

漢語多功能字庫」によると、「搏」と分化してからは、”ひろい”の意に用いたというが、「搏」は「𤰔」+「又」の字形で甲骨文から存在する。春秋以前に「搏」→「博」と釈文できる出土例は無い。「博」”ひろい”と読みうる初出は、「郭店楚簡」五行37・戦国中期或いは末期で、論語の時代の語義ではない。

「郭店楚簡」五行3

7之,□(阝尊)也。□(阝尊)而不喬(驕),共(恭)也。共(恭)而尃(博)交,豊(禮)也。不柬(簡),不行。不匿,不察

『甲骨文合集』36422
『甲骨文合集』36422

  1. 甲申卜,鼎(貞):翼(翌)日丁子(巳)王其乎(呼)小臣…于孽史…
  2. …王弗每(悔)。

漢語多功能字庫

」字金文是「」的初文,左旁十形乃「」字,象盾牌形,用來搏鬥,「」是聲符,本義是打鬥、對打。後假借為廣博的「」或博奕的「」。


「博」の字は「搏」の字の最古形で、右の十字形はつまり「盾」の字を表し、盾の象形で、「専」の字は音符で、原義は戦闘を行うこと、互いに打つこと。のちに仮借して”ひろい”の意となり、また「奕」を”打つ”の意となった。

学研漢和大字典

会意兼形声。甫は、圃の原字で、平らで、ひろい苗床。それに寸を加えた字(音フ・ハク)は、平らにひろげること。博はそれを音符とし、十(集める)をそえた字で、多くのものが平らにひろがること。また、拍(ハク)(うつ)や搏(ハク)(うつ)に当て、ずぼしにぴたりとうちあてる意をあらわす。普(ひろく平ら、あまねし)・溥(ハク)(ひろく行き渡る)と同系。類義語に広。付表では、「博士」を「はかせ」と読む。▽右肩の点を落とさないように。専には点はない。ハクと読む「博薄搏膊」などには点がある。センと読む「専槫甎磚」などには点はない。

語義

  1. {形容詞}ひろい(ひろし)。大きく、ひろがったさま。《類義語》溥(ハク)。「博学」「君子博学於文=君子は博く文に学ぶ」〔論語・雍也〕
  2. {動詞}ひろめる(ひろむ)。ひろくする。「博我以文=我を博むるに文を以てす」〔論語・子罕〕
  3. (ハクス){動詞}いちかばちかでやってみて、うまく当てる。図に当たる。《類義語》拍。「博好評=好評を博す」。
  4. (バクス){動詞・名詞}ばくちをする。ばくち。「博徒(バクト)(ばくちうち)」「博奕好飲酒=博奕して飲酒を好む」〔孟子・離下〕
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①「博士」の略。「医博」。
    ②「博覧会」の略。「万国博」。

字通

[形声]声符は尃(ふ)。〔説文〕三上に「大いに通ずるなり。十尃に從ふ。尃は布(し)くなり」とし、亦声とする。尃は甫と寸とに従い、甫は苗木、その苗木を扶植することを尃という。政令を施すことをそれにたとえて、金文の〔毛公鼎〕「命を尃(し)き政を尃く」のように敷施の意、また「尃(おほ)いに奠(し)く」「尃いに受く」など博大の意となる。また〔虢季子白盤(かくきしはくばん)〕に「玁狁(けんいん)(北方族の名)を洛の陽(きた)に■(干+尃)伐(はくばつ)す」とあり、■は干(かん)(たて)に従い、広伐することをいう。博が十に従う理はなく、博は■より出た字であろう。

魄(ハク・15画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpʰăk(入)。同音は拍、怕。

学研漢和大字典

会意兼形声。「鬼+(音符)白(ほのじろい、外わくだけあって中みの色がない)」。人のからだをさらして残った白骨、肉体のわくのことから、形骸(ケイガイ)・形体の意となった。白・覇(ハク)・(ハ)(=覇。月の外わく)と同系。

語義

ハク
  1. {名詞}たましい(たましひ)。肉体をとりまとめてその活力のもとになるもの。▽「魂」は陽、「魄」は陰で、「魂」は精神の働き、「魄」は肉体的生命をつかさどる活力。人が死ねば魂は遊離して天上にのぼるが、なおしばらく魄は地上に残ると考えられていた。《類義語》魂。「魂魄(コンパク)」「魄力(ハクリョク)」。
  2. {名詞}人のからだ全体のわく。肉体の形。「形魄(ケイハク)」。
  3. {名詞}月が細いとき、にぶく光って見える部分。月がた。《同義語》覇。「死魄(シハク)」「生魄(セイハク)」。
  4. {名詞}月。また、月光。
  5. 「魄然(ハクゼン)」とは、外形だけあって中のうつろなさま。
タク
  1. 「落魄(ラクタク)・(ラクハク)」とは、おちぶれること。定まった職業がなく貧しいこと。《同義語》落拓。

字通

[形声]声符は白(はく)。白は頭顱(とうろ)の形で髑髏(どくろ)。精気を失ったものを魄という。〔説文〕九上に「陰の神なり」とあり、生を陽、死を陰とする。〔淮南子、主術訓〕に「地の氣を魄と爲す」、〔礼記、祭義〕に「氣なる者は神の盛んなるなり、魄なる者は鬼の盛んなるなり」とみえる。金文に月相四週の名を初吉・旣生覇(きせいは)・旣望・旣死覇(きしは)とし、文献には生魄・死魄の字を用いる。覇は獣屍の暴露した䨣(は)を、月色に及ぼしたもので、光を失ったさまをいう。〔礼記、郊特牲〕に「魂氣は天に歸し、形魄は地に歸す」とみえ、魂魄は死して分離するものとされた。

薄(ハク・16画)

薄 秦系戦国文字
十鐘・秦十鐘・秦

初出:初出は戦国中末期の楚系戦国文字。「小学堂」による初出は秦系戦国文字。西周の金文に部品の「尃」を「薄」と釈文する事例はあるが(集成2739など)、いずれも地名人名などで、”うすい”と解し得るものはない。

字形:「艹」+「氵」+「尃」”すみずみまで行き渡る”で、水や草が一面に広がるさま。

音:カールグレン上古音はbʰɑk(入)。

用例:戦国中末期「郭店楚簡」語叢一77に「厚於仁,薄於義」とあり、”(人情が)うすい”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』での同音同訓に「泊」があるが、春秋末期までに”うすい”の用例が無い。「䙏」の初出は不明。部品の「溥」には”広げる”の意はあるが”薄い”の意は無い。部品の「尃」も同様。

学研漢和大字典

会意兼形声。甫(ホ)は、平らな苗床に苗のはえたことを示す会意文字で、圃(ホ)の原字。溥(ハク)は、甫を含んだ文字で、水が平らに広がること。薄は「艸+(音符)溥」で、草木が間をあけずにせまって生えていること。間がせまれば、厚さが少なく、うすく平らである。迫(せまる)・博(平らに広がる)・敷(うすく平らにしき広げる)・舗(ホ)(うすくしきつめる)などと同系。

語義

  1. {形容詞}うすい(うすし)。物の上下の面がすれすれにくっついているさま。転じて、平らで、厚さが少ない。《対語》⇒厚。「薄氷」「薄膜」。
  2. {形容詞}うすい(うすし)。厚みが少なく、かさが少ない。転じて、物事の程度が少ない。《対語》⇒厚・敦(トン)。「軽薄」「薄情」「薄夫敦=薄夫も敦し」〔孟子・万下〕
  3. {形容詞}うすい(うすし)。味・色・密度・濃度などの程度が少ない。土地がやせている。粗末な。《類義語》白。「薄酒」「薄粧(うすげしょう)」「淡薄」。
  4. {動詞}うすくする(うすくす)。量をへらし、厚みを少なくする。また、軽んずる。《対語》厚・重。「薄視(うとんずる)」「薄其税斂=其の税の斂を薄くす」〔孟子・尽上〕
  5. {動詞}うすんずる(うすんず)。軽んずる。「其母死、起終不帰、曾子薄之=其の母死す、起終に帰らず、曾子これを薄んず」〔史記・呉起〕
  6. {動詞}せまる。草木がびっしりとくっついて生える。間をあけず、すれすれにくっつく。《同義語》迫。「肉薄(ニクハク)(=肉迫。ふれるほどにせまる)」「林薄(リンパク)(びっしり生える)」「薄暮(くれがた)」「楚師薄於険=楚の師険に薄る」〔春秋左氏伝・成一六〕
  7. {名詞}金属のうすいまく。《同義語》絲・箔。「金薄(=金箔)」。
  8. {名詞}まぶし。蚕に繭をつくらせるためのうすい竹製のすだれ板。《同義語》箔。「蚕薄(=蚕箔)」。
  9. {助辞}ここに。「詩経」で用いられる、詩のリズムをととのえることば。「薄伐西戎=薄に西戎を伐つ」〔詩経・小雅・出車〕
  10. 「薄薄」とは、つ水面や土地が平らに広がるさま。《同義語》溥溥。「薄薄之地、不得履之=薄薄の地、これを履むを得ず」〔荀子・栄辱〕づ馬車が速く走る音の形容。「載駆薄薄=載ち駆ること薄薄たり」〔詩経・斉風・載駆〕て味がうすくてまずいさま。
  11. 《日本語での特別な意味》すすき。草の名。秋の七草の一つ。おばな。

字通

[形声]声符は尃(ふ)。尃にものを搏(う)って薄くする意がある。〔説文〕一下に「林薄なり」と林叢の意とするが、厚薄の意に用いることが多い。厚薄・軽微の意のほか迫と声義が通じ、〔左伝、僖二十三年〕「其の裸(はだか)を觀んと欲し浴するとき、薄(せま)りて之れを觀る」とみえる、時のせまることをもいう。

幕(バク・13画)

幕 隷書
武威簡.燕禮5(隸)・前漢

初出:初出は戦国の竹簡。「小学堂」による初出は前漢の隷書。ただし西周中期の金文に「」を「幕」と釈文した例がある。

字形:「莫」”かくす”+「巾」”ぬの”。布で作った覆い。論語語釈「莫」を参照。

用例:西周中期「守宫盤」(集成10168)に「易(賜)守宮絲束、蔖(苴)(幕)五」とあり、”まく”と解せる。

「清華大学蔵戦国竹簡」清華二・繫年136に「󱩾(旃)、幕、車、兵,犬(逸)而還」とあり、”まく”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。莫(マク)・(バク)は、四つの屮印(草)の間に日が隠れるさまを示す会意文字で、暮の原字。隠れて見えない意を含む。幕は「巾(ぬの)+(音符)莫」で、物を隠して見えなくするおおい布。
「将軍が任務を行うところ。また、特に、幕府のこと」の意味では「バク」と読む。

語義

  1. {名詞・動詞}物を隠すようにたらしたおおい布。また、それでおおう。「幔幕(マンマク)」「天幕」。
  2. {名詞}本陣を設けた天幕。転じて、軍隊の本陣。「幕舎」「幕僚」。
  3. {名詞}将軍が政治を行う所。「幕府」の略。
  4. {名詞}幕「ぽ」のあけとじによってくぎる、芝居のひと区切り。「第二幕」「開幕」。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①まく。終わり。「これで幕となる」。
    ②相撲で幕内のこと。「入幕」。
    ③場面。「出る幕」。

字通

[形声]声符は莫(ばく)。莫にくらくおおう意がある。〔説文〕七下に「帷(とばり)、上に在るを幕と曰ふ」とあり、いわゆる天幕。旁らにあるを帷という。軍行のとき宿衛に用いた。將軍の在る所を幕営、その左右を幕僚、直属のものを幕下、本営を幕府という。酒徒劉伶の〔酒徳頌〕に、天地の間を旅宿にたとえて「幕天席地」とし、白居易の〔微之に和す詩、二十三首、新楼北園偶集~〕に「天地を幕席と爲さば 富貴も泥沙の如し」の句がある。

貊(バク・13画)

貊 金文
𡩝鼎・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はmăk(入)。「ハク」は慣用音。呉音は「ミャク」。

学研漢和大字典

形声。「豸+(音符)百」。

語義

  1. {名詞}古代、中国東北地方から朝鮮北部にかけて住んでいたツングース系の民族。《同義語》⇒貉。

字通

(条目無し)

新漢語林

形声。豸+百。

  1. えびす。中国北方の異民族の名。=貉。「蛮貊之邦(バンバクのくに)(南方・北方の異民族の国)」
  2. 猛獣の名。熊(くま)に似る。
  3. しずか(静)。

中日大字典

(1) =〔貉〕【古】東北部の民族をいった.
(2) 〈姓〉貊(ばく・みやく)

八(ハツ・2画)

八 甲骨文 八 金文
甲骨文/旂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形は広がるさま。原義は恐らく”ひらく”。

音:カールグレン上古音はpwăt(入)。同音は無い。近音に「發」(発)pi̯wăt(入)、「拔」(抜)bʰwăt(入)、「イツ」(「筆」の原字)bi̯wət(入)、「別」bʰi̯at/pi̯at(共に入)。「ハチ」は呉音。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・人名、数詞や助数詞の”はち”に、金文・戦国の竹簡では、数詞や助数詞に用いた。

学研漢和大字典

指事。左右二つにわけたさまを示す。「説文解字」に「別なり」とある。別・撥(ハツ)(わける、左右にはらう)と同系。また、半や班(二つにわける)の入声(ニッショウ)(つまり音)に当たることば。付表では、「八百屋」を「やおや」「八百長」を「やおちょう」と読む。▽証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるため「捌」と書くことがある。▽草書体をひらがな「は」として使うこともある。▽「八」の全画からカタカナの「ハ」ができた。

語義

  1. {数詞}やっつ。「八口之家可以無飢矣=八口の家以て飢うる無かるべし」〔孟子・梁上〕
  2. {数詞}や。順番の八番め。「八月八日」。
  3. {副詞}やたび。八回。
  4. {動詞}わける。わかれる。《類義語》別。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①や。数の多いこと。「八千代」。
    ②やつ。午前二時、または午後二時のこと。▽江戸時代のことば。

字通

[指事]両分の形。左右に両分して、数の八を示した。〔説文〕二上に「別るるなり」と近似音の別によって解するが、別は骨節を解くことである。半は八に従い、牛牲を両分する意。發(発)は𣥠(はつ)に従い、両足を開いて進発する意。みなバラバラの意をもつ語である。

伐(ハツ・6画)

伐 甲骨文 伐 金文
甲骨文/大保簋・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:「人」+「戈」”カマ状のほこ”で、ほこで人の頭を刈り取るさま。原義は”首を討ち取る”。

音:「バツ」は慣用音。呉音は「ボチ」。カールグレン上古音はbʰi̯wăt(入)。

用例:「甲骨文合集」466.4に「貞庚申伐羌」とあり、”討伐する”もしくは”捕獲する”と解せる。

西周中期「仲伐父甗」(集成931)に「仲伐父乍姬尚母旅獻。」とあり、人名と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”征伐”、人の生け贄を供える祭礼名を意味し、金文では加えて人名(弔伐父鼎・年代不詳)に用いた。戦国の竹簡では加えて”刈り取る”を意味したが、”誇る”の意は文献時代にならないと見られない。

学研漢和大字典

会意。「人+戈(ほこ)」で、人が刃物で物をきり開くことを示す。二つにきる、きり開くの意を含む。
発(両方に開く)・廃(二つに割れる)・敗(二つに割れる)と同系。きり開いて大げさに開放するの意から、ほこると訓じられるが、発揚の発(ひけらかす)と同系。また、罰(処断する)とも縁が近い。類義語に討・切。

語義

  1. {動詞}きる。刃物で二つにきる。「伐採」「伐木丁丁=木を伐ること丁丁たり」〔詩経・小雅・伐木〕
  2. {動詞}うつ。武器で敵をうちやぶる。また、棒でたたく。「征伐」「武王、伐紂=武王、紂を伐つ」〔孟子・梁下〕
  3. {動詞}ほこる。大げさにてがらをひけらかす。▽きり開き開放して見せることから。「願無伐善=願はくは善に伐ること無からん」〔論語・公冶長〕

字通

[会意]人+戈(か)。戈(ほこ)を以て人を斬る形。一時に多く殺すを㦰(せん)という。〔説文〕八上に「撃つなり」、また「一に曰く、敗るなり」という。卜辞に「三十羌(きゃう)を伐(ころ)さんか」など、羌人を伐す例が多く、殷墓に多くみられる斬首葬は、その羌人犠牲であろう。軍功を旌表することを伐旌(ばっせい)といい、その家を門閥という。〔論語、公冶長〕「願はくは善に伐(ほこ)ること無(なか)らん」と、誇示の意にも用いる。

發/発(ハツ・9画)

発 甲骨文 発 金文
甲骨文/姑發聑反劍・春秋晚期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「トウ」または「𢎿」(共に上古音不明)。

字形:「弓」+「攴」”手”で、弓を弾いて矢を射るさま。原義は”射る”。

音:カールグレン上古音はpi̯wăt(入)。

用例:「甲骨文合集」8006.1に「戊子卜令發往雀師」とあり、”出発する”・”出向く”と解せる。

西周早期の「小臣鼎(昜鼎)」(集成2678)に「弗敢發」とある例は、「廢」または「喪」と釈文されている。それ以外の春秋末期までの例は、全て人名と思われる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では人名の他、否定辞に用いられた。金文では人名や官職名に用いられたと言うが、出典を記していない。

学研漢和大字典

発 解字
会意兼形声文字で、癶(ハツ)は、左足と右足とがひらいた形を描いた象形文字。それに殳印(動詞の記号)を加えた字(音ハツ)は、左右にひらく動作をあらわす。發はそれを音符とし、弓を加えた字で、弓をはじいて発射すること。ぱっと離れてひらく意を含む。別(左右に離す)・犮(ハツ)(左と右にはねる)・撥(ハツ)(左右にはなす)と同系。判(左と右に切り離す)は、その語尾がnに転じたことば。

「潑」(訳者注、そそぐ)の代用字としても使う。「活発」また、「醱」(訳者注、酒を重ねて醸す)の代用字としても使う。「発酵」また、「撥」の代用字としても使う。「反発」▽「はなつ」は「放つ」とも書く。また、「あばく」は「暴く」とも書く。

語義

  1. (ハッス){動詞}はなつ。ぱっと離す。弓・鉄砲などをはじいて矢や弾丸を飛ばす。はねる。「発進」「射者正己而後発=射る者は己を正しくして後発す」〔孟子・公上〕
  2. (ハッス){動詞}出発する。出発させる。「発兵=兵を発す」「早発白帝城=早に白帝城を発す」。
  3. (ハッス){動詞}おこる。おこす。ぱっとあらわれ出る。ぱっと外へ出す。「発生」「舜発於祐畝之中=舜は祐畝の中より発(おこ)る」〔孟子・告下〕
  4. (ハッス){動詞}ひらく。花などがぱっとひらく。また、ふさがったところをあけて外へ出す。また、ふさがったところをひらいて明らかにする。「発明」「啓発(ひらく)」「発倉窟=倉窟を発く」。
  5. (ハッス){動詞}ひらく。外に向かって広がる。外に向かってのびる。《対語》⇒収(内にしまる)。「発達」「発而皆中節=発して皆節に中たる」〔中庸〕
  6. (ハッス){動詞}あばく。土を掘りおこす。《類義語》経(ハツ)。「発掘」「発塚=塚を発く」。
  7. (ハッス){動詞}文書や命令を外に出して知らせる。「発令」。
  8. (ハッス){動詞}つかわす。《類義語》遣。「発遣」「王何不発将而撃之=王何ぞ将を発してこれを撃たざる」〔国語・斉〕
  9. 《俗語》「発跡(フアチイ)」とは、出世すること。
  10. 《俗語》「発財」とは、もうけること。
  11. 《日本語での特別な意味》
    ①うつ弾丸などを数えることば。「十連発」。
    ②「発動機」の略。「双発」「単発」。

字通

[会意]旧字は發に作り、𣥠(はつ)+弓+殳(しゆ)。𣥠は両足を開いて立つ姿勢、下部は弓を射る形。開戦に先だってまず弓を放つ意。〔説文〕十二下に「䠶(しや)、發するなり」と発射の意とするが、發には発動の意がある。それで軍を発し、また発揮・発明のようにもいう。内より発するを発憤、ことあらわれるを発覚、にわかに起こるを発狂・発作という。

罰(ハツ・14画)

罰 金文 罰 金文
大盂鼎・西周早期/曶鼎・西周中期

初出:初出は西周早期の金文

字形:「网」”あみ”+「言」”ことば”+「刂」”刑具の刃物”。ことばをとらえて刑罰を加えるさま。

音:カールグレン上古音はbʰi̯wăt(入)。「バツ・バチ」は慣用音。呉音は「ボチ」。

用例:西周早期「大盂鼎」(集成2837)に「敏諫罰訟」とあり、”罰する”と解せる。『漢語多功能字庫』は”訴訟”と解している。その他西周の金文では、人名に用いた(「𤜻白罰卣」集成5317)。

学研漢和大字典

会意。「詈(ののしる)+刀」。その罪をしかって刀で刑を加えることを示す。バツという語は、伐(バツ)(悪者を切ってこらす)・撥(ハツ)(はね返す→相手の罪にむくいを与える)などと同系。

語義

  1. {名詞}罪をこらしめるためのむくい。とがめ。しおき。「刑罰」「天罰」「罰、及爾身=罰、爾の身に及ぶ」〔書経・盤庚上〕
  2. (バッス){動詞}こらしめを与える。▽大罪には刑を加え、小罪には罰を与えるのが昔からのしきたり。
  3. 《日本語での特別な意味》ばつ。だめ・間違いなどの意をあらわす「」印のこと。「罰点」。

字通

[会意]詈(り)+刀。詈は、盟誓(言)が真正でないときに、その上に网(あみ)を加え、不実であることを示す。ゆえに詈(ののし)る意となる。罰はさらに刀を加えて器を破棄し、盟誓を無効とすることで、ひろく刑罰をいう。〔説文〕四下に「辠(つみ)の小なる者なり。刀詈に從ふ。未だ刀を以て賊する所有らざるも、但だ刀を持して罵詈(ばり)するのみにても、則ち應(まさ)に罰すべし」とするが、誓約の違反者を罰する意。〔書、湯誓〕に「天の罰を致す」とあり、もと神明の咎(とが)をいう。金文の〔師旂鼎(しきてい)〕に、軍律に背くものに「廼(すなは)ち罰す」とあり、また〔散氏盤〕に、契約の違反者に対して「則ち爰(鍰(かん))千、罰千、之れを傳棄(国外追放)せん」という。爰は違約金、罰は体罰の意であろうが、これは契約の際の常用の語であったのであろう。

髮/髪(ハツ・14画)

髪 金文
召卣・西周早期

初出:西周早期の金文

字形:〔犬〕+〔首〕。チベット犬のようにたてがみのある犬の会意文字。新字体は「髪」。異体字に「𩠙」。

カスティリオーネ「蒼猊図」

音:カールグレン上古音はpi̯wăt(入)。

西周中期「史牆盤」(集成10175)に「緐髮多孷」とあり、”ふさふさと多い”と解せる。

”髪の毛”の語義は、戦国最末期の「睡虎地秦簡」にならないと確認出来ない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「髟(かみの毛)+(音符)菩(ハツ)(はねる、ばらばらにひらく)」で、発散するようにひらくかみの毛。発(ひらく)・祓(フツ)(はらう)などと同系。類義語に毛。旧字「髮」は人名漢字として使える。▽付表では、「白髪」を「しらが」と読む。

語義

  1. {名詞}かみ。頭の毛。頭髪。▽ごくわずかなことのたとえとして使われる。「間不容髪=間髪を容れず」。
  2. {名詞}頭の毛を結った形。かみがた。「結髪」「巻髪」。
  3. {単位詞}長さを示す単位。一寸の百分の一。
  4. 「窮髪」とは、何も生えない不毛の地のこと。「窮髪之北、有冥海者=窮髪の北に、冥海なる者有り」〔荘子・逍遥遊〕

字通

[形声]声符は犮(はつ)。〔説文〕九上に「根なり」、〔慧琳音義〕に引く〔説文〕に「頂上の毛なり」とみえる。また重文二を録し、その第一字は金文にもみえ、犬牲を示す犬と首との会意字で、もと祓禳を意味するものであったと思われる。髮はその形声字と考えられる。

末(バツ・5画)

末 金文
蔡侯紐鐘・春秋末期

初出:初出は春秋末期の金文

字形:「木」の先に一画引いて”すえ”を表したもので、原義は”末端”。

音:「マツ/マチ」は呉音。カールグレン上古音はmwɑt(入)。

用例:甲骨文に干支の「未」の誤読ではないかと思われる例が2例ある。

春秋末期「蔡𥎦紐鐘」(集成210)に「余唯末少子」とあり、”末の子”・”末席”と解せる。春秋末期までの用例は、全て「余唯末少子」の文字列で用いる。

漢語多功能字庫」によると、金文では”卑しい”(蔡侯申鐘・春秋末期)の意に、また人名に用いた。漢代の帛書では、”先端”の意に用いた。

論語を含む漢文では、「無」mi̯wo(平)の意に用いる事があるが、初出は不詳。論語語釈「無」を参照。

学研漢和大字典

指事。木のこずえのはしを、━印または・印で示したもので、木の細く小さい部分のこと。沫(マツ)(小さいしぶき)などと同系。草書体をひらがな「ま」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「ま」ができ、また、初二画と「万」の初二画との混合からカタカナの「マ」ができたという。▽似た字(未・末)の覚え方「上の一、いまだ短く(未)、すえ長くなる(末)」▽未(ミ・いまだ)と混同しやすいので注意。

語義

  1. {名詞}すえ(すゑ)。こずえ。また、はしの部分。《対語》⇒本。《類義語》支(えだ)・端。
  2. {名詞}すえ(すゑ)。物事のたいせつでない部分。《対語》本。《類義語》支。「枝葉末節(シヨウマッセツ)(細かいすえのこと)」「不揣其本而斉其末=其の本を揣へずして其の末を斉ふ」〔孟子・告下〕
  3. {名詞}すえ(すゑ)。ある期間のさいごの時期。また、のちの衰えた時代。「年末」「末期」。
  4. {名詞}すえ(すゑ)。ある序列のさいごの地位。「末席」「末子(マッシ)・(バッシ)」。
  5. {名詞}すえ(すゑ)。商・工業のこと。▽農業はもとになる生産の仕事なので本といい、商・工業を末という。「捨本逐末=本を捨てて末を逐ふ」「末業(商売)」。
  6. {名詞・形容詞}こまかいこと。物事が小さくこまかい。「粉末」「瑣末(サマツ)(こまかい)」。
  7. {動詞}小さくする。《同義語》抹(マツ)。「末減(罪を軽くする)」。
  8. {形容詞}小さい者の意で、自分を謙そんしていうことば。「末学(至らない自分)」。
  9. {名詞}中国の芝居の男役。《対語》旦(タン)(女役)。「末泥(男役)」「正末(男の主役)」。
  10. {動詞}ない(なし)。《対語》有。《類義語》無。「末由也已=由る末きのみ」〔論語・子罕〕

字通

[指事]木の枝の末端。その部分に肥点を加えて、その部位を示す。位置的な表示の方法で、掌(てのひら)の上下を上下とするのと同じ。〔説文〕六上に「木上を末と曰ふ。木に從ひ、一其の上に在り」とするが、一はもと部位を示す肥点であった。末端であるから、弱小・終末の意がある。無・莫などと音が通じ、否定詞に用いる。

反(ハン・4画)

反 甲骨文 反 金文
甲骨文/師㝨簋・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「厂」”差し金”+「又」”手”で、工作を加えるさま。

犮 抜 反 異体字
慶大蔵論語疏は「犮」”抜く”字の異体字「〔𠂇㐅丶〕」と記す。上掲「魏寇憑墓誌」(北魏)刻字に近似。「反」に転用したギャル文字同様の遊び字。

音:カールグレン上古音はpi̯wăn(上)。同音は論語語釈「返」を参照。平声は不明。藤堂上古音はpɪuǎn。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文から音を借りて”かえす”の意に用いた(善父山鼎・西周末期)。その他”背く”(白懋父簋・西周早期)、”青銅の板”(九年衛鼎・西周中期)の意に用いた。

学研漢和大字典

会意。「厂+又(て)」で、布または薄い板を手で押して、そらせた姿。そったものはもとにかえり、また、薄い布や板はひらひらとひるがえるところから、かえる・ひるがえるの意となる。板(薄い板)・紳(そりかえる)・返(かえる)・翻(ひらひらひるがえる)などと同系。類義語の返は、はねかえってもどる。回・還は、ぐるりと回ってもとの位置にもどる。帰は、回ったあげくに落ち着く所にもどる。復は、同じコースをもとへもどる。却は、うしろへ引きさがる意。「叛」の代用字としても使う。「反・反旗・反逆・反乱・離反」。

語義

  1. {動詞}かえる(かへる)。かえす(かへす)。もとへもどる。もとへもどす。《同義語》⇒返。「吾自衛反魯=吾衛より魯に反る」〔論語・子罕〕
  2. {動詞}かえる(かへる)。かえす(かへす)。裏がえし、または、逆になる。裏がえす。くつがえる。「由反手也=なほ手を反すがごとし」〔孟子・公上〕
  3. {動詞}ひるがえる(ひるがへる)。ひるがえす(ひるがへす)。ひらひらする。ひらひらさせる。《同義語》⇒翻。「唐棣之華、偏其反而=唐棣之華、偏として其れ反る而」〔論語・子罕〕
  4. {動詞}かえりみる(かへりみる)。我が身をふりかえって考える。「反省」「反而求之=反みてこれを求む」〔孟子・梁上〕
  5. (ハンス){動詞}むほんをおこす。《同義語》⇒叛。「豈敢反乎=豈に敢へて反せん乎」〔史記・項羽〕
  6. (ハンス){動詞}そむく。さからう。《同義語》⇒叛・紳。「反対」。
  7. {副詞}かえって(かへつて)。反対に。逆に。「反相賊害=反つて相ひ賊害す」〔欧陽脩・朋党論〕
  8. {名詞}中国に古くからある漢字音の表記法の一つ。ある漢字の字音を、他の漢字二字の組み合わせで示す。→反切
  9. 《日本語での特別な意味》たん。
    ①田畑の面積の単位。一反(イッタン)は、十畝(約九九一・七平方メートル)。十反は、一町歩。▽段に当てた用法。
    ②和服地の長さの単位。一反(イッタン)は、鯨尺(クジラジャク)で、幅九寸(約三四センチ)の布地で、長さ二丈八尺(約一〇メートル)。▽端に当てた用法。

字通

会意]厂(かん)+又(ゆう)。厂は崖の形。反はそこに手(又)をかけて攀援(はんえん)する(よじのぼる)形。そのような地勢のところを坂といい、もし聖所ならば阪という。阪の従う𨸏(ふ)は聖梯の形。聖所に攀援することを試みるような行為は、反逆とみなされた。〔説文〕三下に「覆(くつがへ)すなり。又に從ひ、厂は反する形なり」とする。〔繫伝〕にも厂を「物の反覆するに象る」とするが、その形とはみえない。金文の〔小臣単觶(しようしんたんし)〕に、厂下に土を加えている字形があり、土は社(社)の初文で聖所を示す字とみられる。〔小臣■(言+速)𣪘(しようしんそくき)〕に「東夷、大いに反す」のように、叛逆の意に用い、また〔頌鼎(しようてい)〕「瑾璋(きんしやう)(灌鬯(かんちよう)のための玉器)を反入(へんなふ)(返納)す」のように往反の意に用いる。

大漢和辞典

反 大漢和辞典

犯(ハン・5画)

犯 秦系戦国文字 反 金文
「犯」(秦系戦国文字)・「反」(金文)

初出:初出は睡虎地秦墓竹簡の戦国文字で、論語の時代に存在しない。春秋の覇者・晋の文公の重臣に子犯が知られるが、春秋の金文では「子𨊠」と記され、『大漢和辞典』は「軓」”車の床板”の異体字とするが、おそらくは「範」の原字でもあるだろう。

字形:字形は「犬」+「セツ」”うずくまる人”で、獣姦のさま。

音:カールグレン上古音はbʰi̯wăm(上)で、同音に凡とそれを部品とする漢字群、范”草の名、昆虫のハチ、鋳型”、範。語義を共有する文字は無い。

用例:「漢語多功能字庫」には、原義を”侵犯”とし、派生義として”法に触れる”・”壊す”・”出くわす”などを載せるが、字形ごとの語義の進化について記すところが無い。

論語時代の置換候補:音訓が通じる候補として、仮に「」(カ音pi̯wăn)を挙げておく。

上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
bɪuǎm bɪuʌm fam fan fàn
pɪuǎn pɪuʌn fan fan fǎn

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字𢎘カンは、下から伸びるものに対して┓型のワクで押さえたことをあらわす。犯はそれを音符とし、犬を加えた「犬+𢎘(わく)」で、犬がわくを破ってとび出すことをあらわす。氾(ハン)(大水がわくを破ってあふれ出る)・笵(ハン)(わく)・範(車輪の外わく)などと同系。類義語の干は、棒や武器でつき破る。侵は、じわじわとわりこむ。冒は、じゃまを押し切って破る、やみくもにかかって破る。異字同訓:おかす 犯す「過ちを犯す。法を犯す」 侵す「権利を侵(犯)す。国境を侵(犯)す」 冒す「危険を冒す。激しい雨を冒して行く」。

語義

  1. {動詞}おかす(をかす)。きめられたわくを破る。《類義語》干・冒。「犯上=上を犯す」「触犯(法にふれておかす)」「君子犯義、小人犯刑=君子は義を犯し、小人は刑を犯す」〔孟子・離上〕
  2. {名詞}法のわくを破った人。罪人。「罪犯」「共犯」。

字通

犬(獣)+はん。㔾は人がうつぶせに伏している形。字形のままに解すれば、人が獣を犯す意となるが、㔾はその姿勢のものを示すとみてよい。〔説文〕十上に「侵すなり」とし、㔾声とする。わが国の〔大祓詞おおはらえのことば〕にいう「畜犯せる罪」にあたるものかもしれない。〔玉篇〕に「抵觸するなり」とあって、タブーにふれることをいう字であろう。全て犯罪は、もと神の神聖を犯すこと、冒瀆にあたる行為を意味した。〔周礼、夏官、大馭〕に、天子*の出幸のとき「犯軷して遂に驅る」とあって、犬を轢いて、車を修祓してから出発した。その字はまた𨊠に作る。上から轢く意であろう。犯はもと神威を侵す意であったので、敢て君長に強諌することも犯顔・犯諌という。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

訓義

  1. おかす、神聖をおかす、つみをおかす、いましめをおかす。
  2. たがう、そこなう、そむく、しのぐ、こえる。
  3. いつわる、やぶる、そこなう、ひきおこす。
  4. つみ、つみあるひと、罪人。

大漢和辞典

おかす。つみ。つみびと。詩曲の変調の名。(現)云々になる。
犯 大漢和辞典

論語集解義疏:論語憲問篇23注釈

註孔安國曰事君之道嘉不可欺當能犯顔色諫爭也疏子路問至犯之云子路問事君者問孔子求事君之法云子曰云云者荅事君當先盡忠而不欺也君若有過則必犯顔而諌之禮云事君有犯而無隠事親有隠而無犯
註。孔安国曰く、君に事える之道は、嘉しく欺く可から不るべし。当に能く顔色を犯して諌め争うべき也。疏。子路問いて犯に至る之云うは、子路君に事うるを問う、孔子に君に事うる之法を求めて問うなり。子曰く云云者、君に事うるを荅えて、当に先ず忠を尽くし而欺か不るべき也を云う。君若し過ち有らば、則ち必ず顔を犯し而之を諌むるなり。礼に云う*、君に事えて犯す有り而事隠す無し。親しく隠す有り而犯す無しと。
*『小載礼記』檀弓上篇に「親有隱而無犯,左右就養無方,服勤至死,致喪三年。事君有犯而無隱,左右就養有方,服勤至死,方喪三年。事師無犯無隱,左右就養無方,服勤至死,心喪三年。」とある。

論語集注:論語憲問篇23注釈

犯,謂犯顏諫爭。范氏曰:「犯非子路之所難也,而以不欺為難。故夫子教以先勿欺而後犯也。」
犯は顔を犯して諌め争うを謂う。范氏曰く、「犯すは子路之難しとなす所に非る也、し而以て欺か不るを難しと為す。故に夫子教うるに、以て先ず欺く勿らしめ而後犯す也。」

半(ハン・5画)

半 金文 絆 甲骨文
秦公簋・春秋中期/「絆」甲骨文・合集41750

初出:初出は春秋中期の金文。部品としては甲骨文に「絆」の字形があるが、単独での出土例が無い。

字形:〔八〕”切り分ける”+「牛」で、牛を切り分けるさま。部品甲骨文の字形は「牛」+「ケン」”刃物”。

音:カールグレン上古音はpwɑn(去)。

用例:春秋中期「秦公簋」(集成)に「西一斗七升大半升,蓋。」とあり、”半分”と解せる。

学研漢和大字典

会意。「牛+八印」で、牛は、物の代表、八印は、両方にわける意を示し、何かを二つにわけること。八(両分する)はその入声(ニッショウ)(つまり音)に当たるから、「牛+(音符)八」の会意兼形声文字と考えてもよい。班(わける)・判(わける)と同系。草書体をひらがな「は」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}なかば。二つに等分した片方。「夜半」「半入江風半入雲=半ばは江風に入り半ばは雲に入る」〔杜甫・贈花卿〕▽「~有半」とは、二分の一はみ出ること。「長一身有半=長さ一身有半」〔論語・郷党〕
  2. {動詞}なかばする(なかばす)。半分に達する。「相半=相ひ半ばす」。
  3. {動詞}わかつ。半分にわける。《同義語》⇒判。「折半」。
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①はん。さいころの目で、奇数。《対語》⇒丁。
    ②不完全な意をあらわすことば。「半可通」「半煮え」。

字通

[象形]半体の肉の形。上部の八は両分する意。〔説文〕二上に「物、中分するなり」とし、「八に從ひ、牛に從ふ。牛の物爲(た)る、大なり。以て分つべきなり」と、牛を両分する意とする。〔周礼、天官、腊人〕は脯腊(ほせき)膴胖(ぶはん)を掌る。膴胖とは夾脊肉、胖はその片身。のち牲肉に限らず、すべてものを両半にしたものを半という。

氾(ハン・5画)

氾 隷書
孫臏191・前漢隷書

初出は前漢の隷書。カールグレン上古音は平声は不明。去声はpʰi̯wăm。同音に「汎」「泛」(いずれも去)。字形は「氵」+「㔾」”うずくまる人”で、洪水を前になすすべもないさま。字の成立由来は、「濫」”じっと洪水を見つめる”「淫」”目を見開いて洪水を見る”と近い。論語語釈「濫」論語語釈「淫」を参照。「漢語多功能字庫」には、見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音ハン)は、わくをかぶせておおうこと。そのわくを越えることもハンという。氾はそれを音符とし、水をそえた字。堤防や外わくを越えて水が外へあふれること。範(車の外わく)・笵(ハン)(竹のわく)・犯(わくを破って外へ出る、おかす)などと同系。犯と最も縁が近い。類義語に濫。

語義

  1. {動詞}ひろがる。あふれる(あふる)。水がいっぱいにひろがる。わくを越えてあふれひろがる。《同義語》⇒泛(ハン)・汎(ハン)。「氾濫(ハンラン)」。
  2. {形容詞}ひろい(ひろし)。あまねし。ひろくひろがる。《同義語》⇒汎(ハン)。
  3. {名詞}川の名。山東省曹(ソウ)県の北を流れる。氾水(ハンスイ)。▽平声に読む。

字通

[形声]声符は㔾(はん)。㔾は人がうつぶせに臥している形。氾とは水死者をいう。泛はその仰むけの形。〔説文〕十一上に「濫(はびこ)るなり」とあり、氾濫の意とする。広汎の意に用いるのは、汎との通用義。氾・泛・浮はみな人が水に浮くことを示す字である。

汎(ハン・6画)

汎 古文
(古文)

初出:初出は後漢の『説文解字』

字形:「水」+「凡」”帆”。広い水の上に浮いた様から、”ひろい”の意味が出来た。

音:カールグレン上古音はbʰi̯ŭm(平)またはpʰi̯wăm(去)。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

凡 金文 凡 甲骨文
「凡」多友鼎・西周末期/(甲骨文)

さんずいの無い「凡」の初出は甲骨文で、”およそ・すべて”の意があるが、副詞”あまねく(…する)”の用法は戦国時代以降まで時代が下る。

「凡」は「漢語多功能字庫」によると、立てた金だらいの事だと言い、「槃」「盤」(どちらも”たらい”)の初文という。ただしその説を説く郭沫若は根拠を示さず、政治的にいかがわしい所がある。甲骨文では地名、金文では”およそ”の語義を獲得したという(多友鼎・西周末期)。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、凡(ハン)は、広げた帆を描いた象形文字で、ふわふわと広がる意を含む。汎は「水+〔音符〕凡」で、広い水面がふわふわと広がること。帆(ふわふわと広がったほ布)と同系のことば。

語義

  1. (ハンタリ){動詞・形容詞}ただよう(ただよふ)。うかぶ。水面がふわふわと広がる。広い水面にふわふわとうかぶさま。《類義語》泛(ハン)。「汎汎(ハンパン)(ひろびろと水面が広がるさま)」「汎彼柏舟=汎たる彼の柏舟」〔詩経・眇風・柏舟〕
  2. {形容詞・副詞}あまねし。あまねく。平らに広がりわたっているさま。広く。《同義語》氾(ハン)。《類義語》凡(ハン)・(ボン)。「汎愛衆=汎く衆を愛す」〔論語・学而〕
  3. {動詞}あふれる(あふる)。水があるわくを越えてあふれ広がる。▽氾に当てた用法。「汎濫(ハンラン)(=氾濫)」。
  4. 《日本語での特別な意味》英語などの「pan」の訳語。

字通

[形声]声符は凡(はん)。凡は風の声符に用いる字。その初形は舟・皿(べい)の形で、盤旋(ばんせん)(めぐる)の意がある。〔説文〕十一上に「浮く皃なり」とあり、〔詩、邶風、二子乗舟〕に「二子、舟に乘る 汎汎(へんぺん)たる其の景(かげ)」とは、舟で流されてゆくさまをいう。その詩は、あるいは水葬のことを歌うものであろう。

返(ハン・7画)

初出は斉系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpi̯wăn(上)。同音は下記の通り。「ヘン」は慣用音。論語時代の置換候補は同音の「反」。

初出 声調 備考
ハン しげる 春秋末期金文
おほふ 前漢隷書
車のおほひ 楚系戦国文字
かへす 甲骨文 →語釈
さか 春秋石鼓文
かへる 斉系戦国文字
ひさぐ 前漢隷書

学研漢和大字典

会意兼形声。「辵+(音符)反(もとへもどる、はねかえる)」。類義語に反。異字同訓にかえす・かえる 返す・返る「もとの持ち主に返す。借金を返す。恩返し。貸した金が返る。正気に返る。返り咲き」 帰す・帰る「親もとへ帰す。故郷へ帰る。帰らぬ人となる。帰り道」。

語義

  1. {動詞}かえる(かへる)。もと来たほうへかえる。とってかえす。《同義語》⇒反。「返国」「帰返」。
  2. {動詞}かえす(かへす)。もとへもどす。来たほうへかえす。《同義語》⇒反。「返金」「返還」。
  3. 《日本語での特別な意味》かえる(かへる)。向きが反対になる。ひっくりかえる。「とんぼ返り」。

字通

[形声]声符は反(はん)。反に返反の意がある。〔説文〕二下に「還るなり」とあり、反の亦声とする。金文の〔頌鼎〕に「瑾章(きんしやう)(玉器の名)を反入(へんなふ)す」とあり、反入は返納の意で、その初文。〔書、西伯戡黎(かんれい)〕に「祖伊反(かへ)る」と還帰の意とする。のち反が多く背反の意に用いられ、還帰の意の字としては返が用いられる。

版(ハン・8画)

版 秦系戦国文字
睡虎地簡17.131・戦国最末期

初出:初出は秦系戦国文字

字形:「片」”寝台”+「反」”工作を加える”。寝台の板のように平らに加工した板。論語語釈「反」を参照。

音:カールグレン上古音はpwan(上)。同音に「班」「頒」「斑」「扳」”引く・よじる”、「板」「昄」”大きい”、「鈑」”板金”。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」司空131に「令縣及都官取柳及木楘(柔)可用書者,方之以書;毋(無)方者乃用版。」とあり、”木簡”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同音訓「いた」・「ふだ」に「板」(初出楚系戦国文字)。

備考:下掲『字通』は「〔説文〕に板の字がみえず、版がその初文とみてよい」というが、「板」の初出は「版」より早い楚系戦国文字で、初文とみてよくない。

学研漢和大字典

会意兼形声。版は「片(木のきれはし)+(音符)反」で、板とほとんど同じ。反(表面をそらせてのばす)と同系。

語義

  1. {名詞}ふだ。木のふだ。「版籍(戸籍や土地区分を書いたふだ)」「手版(姓名・略歴などを書いた名刺のふだ)」。
  2. {名詞}いた。平らにしたいた。土壁を築くとき両側に張って、その間に土を入れてかためるためにも用いた。《同義語》⇒板。「版築」。
  3. {名詞}もと、字を刻んだ印刷用のいた。また、のち印刷の原版のこと。《同義語》⇒板。「原版」。
  4. {単位詞}出版物の刊行の回数を数えることば。「初版」。
  5. {単位詞}長さの単位。版築に用いる板の長さを基準とし、一版は、周代の一丈(二・二五メートル)または八尺(一・八メートル)。《同義語》⇒板。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①新聞などで、特定地域向けに編集された内容。「地方版」「県内版」。
    ②目的別に印刷された刊行状態。「縮刷版」「普及版」。

字通

[形声]声符は反(はん)。片は〔説文〕七上に「判木なり」とするが、版築のとき両側にあてる牆板(しようばん)の形。〔説文〕に板の字がみえず、版がその初文とみてよい。〔説文〕に「版は判なり」というのは、両牆に分かつ意であろう。のち書版の意に用い、また板刻に付することを版行・出版という。

盼(ハン・9画)

盼 篆書
(篆書)

初出:初出は後漢の『説文解字』。文献上の初出は戦国早期の『墨子』。

字形:「目」+「分」pi̯wən(平)/bʰi̯wən(去)で、白黒のはっきりした美しいまなこのさま。漢代に作られた新しい言葉で、論語の時代に存在しない。

音:呉音は「ヘン」、「フン」は慣用音。カールグレン上古音はpʰæn(去)。同音は存在しない。

用例:『墨子』巻十一・小取に「之馬之目盼則為之馬盼;之馬之目大,而不謂之馬大。」とあり、”ひとみが小さい”と解せる。

論語時代の置換候補:訓が複雑すぎて、『大漢和辞典』で同音同訓を探せない。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「目+〔音符〕分」で、黒と白のわかれた目。すずしい、はっきりした目つき。

語義

  1. (ハンタリ){形容詞}目の黒めと白めとが、はっきりわかれたさま。目つきが涼しそうである。「美目盼兮=美目盼たり兮」〔詩経・衛風・碩人〕
  2. {動詞}のぞむ。目を輝かして待ちのぞむ。「盼望(ハンボウ)」。

字通

[形声]声符は分(ふん)。〔説文〕四上に訓義をつけず、「詩に曰く、美目盼たり」と〔詩、衛風、碩人〕の句を引く。〔玄応音義〕に引いて「目の白黑分るるなり」とし、〔玉篇〕に「黑白分るるを謂ふなり」とみえる。〔毛伝〕に「黑白分るるなり」、また〔韓詩説〕に「黑色なり」、〔論語、八佾〕の〔馬融注〕に「目を動かす貌なり」とあり、パッチリとした美しい目で見ることをいう。

叛(ハン・9画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰwɑn(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「半+(音符)反」で、仲間が二つに割れること。半と反のどちらを音符と考えてもよい。半(二つに割れる)・反(逆方向にそりかえる)・班(二つに割れる)と同系。類義語に乖。「反」に書き換えることがある。「反・反旗・反逆・反乱・離反」。

語義

{動詞}そむく。はなれる。反逆する。《同義語》⇒反。「離叛(リハン)」「天下皆叛之=天下皆これに叛く」〔史記・項羽〕

字通

[形声]声符は半(はん)。反は聖所の厂(かん)(厓)に手をかけて攀援(はんえん)する(よじのぼる)形で、そのような行為は神聖を犯すものとされた。金文に反を叛逆の意に用いており、叛の初文。のちに半声を加えた。

畔(ハン・10画)

畔 楚系戦国文字
郭.老甲.25・戦国楚

初出:初出は楚系戦国文字

字形は「田」+「半」”ほとり”で、耕地の境界・あぜの意。原義は”あぜ”。

音:カールグレン上古音はbhwɑn(去)で、同音に般と磐・盤などそれを部品とする漢字群。

用例:”そむく”と読みうる初出は「郭店楚簡」老子甲30、年代は戦国中期または末期。

取天下。□(吾)可(何)以智(知)亓(其)肰(然)也?夫天多期(忌)韋(諱),而民爾(彌)畔(叛)。民多利器,而邦慈(滋)昏。人多

論語時代の置換候補:近音の「反」pi̯wăn(上)。

藤堂上古音はbuanで、甲骨文から存在する「反」の藤音puǎn(カ音pi̯wăn(上))と音通するか、音素の共通率が50%で何とも言えない。a→ǎ(「 ̆」ブリーヴは極短音を示す)も共通すると見なせば音通と言えるのだが。『字通』によると声符を「半」(カ音pwɑn、藤音puan)としている。カ音pwɑnの同音は般”めぐる”・靽”きずな”。藤堂音を使うと、畔buan→半puan→反puǎnと繋がりそうに見えるが、実情は儒者の語呂合わせ遊び、または学を衒う幼稚な自己顕示欲に過ぎず、付き合っていられない。論語語釈「反」pi̯wăn(上)も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「田+(音符)半(ハン)(二つにわかれる)」。

語義

  1. {名詞}あぜ。くろ。田と田を二つにわける境界。くろ。
  2. {名詞}ほとり。水と岸とをわける境界線。みぎわ。「湖畔」。
  3. {名詞}ほとり。もののかたわら。わき。《類義語》辺。「枕畔(チンハン)」。
  4. {動詞}そむく。仲間われする。敵対する。《同義語》。「畔逆」「公山弗擾、以費畔=公山弗擾、費を以て畔く」〔論語・陽貨〕

字通

[形声]声符は半(はん)。半に旁の意がある。〔説文〕十三下に「田の界(さかひ)なり」とあり、あぜをいう。涯畔の意のほかに、叛と通用し、また泮奐(はんかん)(氷がとけて流れる)を畔奐としるすことがある。

訳者注:泮→古代中国の学校・溶ける。

飯(ハン・12画)

飯 金文
公子土折壺・春秋末期

初出:初出は春秋末期の金文

字形:「食」+「反」。「反」pi̯wăn(上)は「厂」”がけ”+「又」で、崖を手でよじ登ること。ここでは音符で、同音に「蕃」(平)、近音に「繁」bʰi̯wăn(平)があるように、”さかんな”・”たっぷりとした”の語意があるらしい。全体として、”十分な食事”。

音:カールグレン上古音はbʰi̯wăn(上)。

用例:春秋末期「公子土折壺」(集成9709)に「公孫󱨼立事歲。飯耆月」とあり、公孫なにがしが木星への祭祀を行うと共に、”月齢の老いた月に十分なめしを捧げる”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)反(ばらばらになる→ふやける、ふくれる)」で、粒がふやけてばらばらに煮えた玄米のめし。播(ばらまく)・販(商品をひろげて売る)と同系。

語義

  1. {名詞}めし。いい(いひ)。米その他の穀物を煮てふやかし、食べられるようにしたもの。また、食事。
  2. (ハンス){動詞}くらう(くらふ)。めしを食べる。「飯疏食、飲水=疏食を飯ひ、水を飲む」〔論語・述而〕。「侍食於君、君祭先飯=君に侍食するに、君祭れば先づ飯す」〔論語・郷党〕
  3. (ハンス){動詞}くらわす(くらはす)。めしを食べさせる。▽上声に読む。「見信飢飯信=信の飢ゑたるを見て信に飯はす」〔史記・淮陰侯〕

字通

[形声]声符は反(はん)。〔説文〕五下に「食らふなり」とあり、黍稷(しよしよく)の類を食べることをいう。〔礼記、曲礼上〕に「黍を食らふに箸を以(もち)ふること毋(なか)れ」「飯を摶(まろ)むること毋れ」とあって、親指のつけ根にのせて食べた。今の南方人と同じである。死者の口中に含ませる玉を飯含という。

樊(ハン・15画)

樊 金文
林同廾君簠・春秋

初出:初出は西周早期の金文

字形:「棥」”垣根”+「又」二つ”両手”で、垣根を作るさま。金文の字形は早くは「口」を欠く。

音:カールグレン上古音はbʰi̯wăn(平)。

用例:春秋末期までの用例では、地名・人名を意味する出土物のみが確認できる。

漢語多功能字庫」によると、金文では人名(樊夫人龍嬴鬲・西周)に用いた。

論語では孔子の弟子、樊須子遅(はんしゅ・しち) の名として現れる。

学研漢和大字典

会意。棥は「林+交差のしるし」からなり、枝を×型にからみあわせることを示す。樊は「棥+左右の手をそらせたさま」で、枝を)型や(型にそらせてからませること。攀(ハン)(体をそらせる)・反(そりかえる)と同系。

語義

  1. {名詞}かご。細い枝をそらせ、からませてあんだ鳥かご。「樊籠(ハンロウ)」「不擅畜乎樊中=樊の中に畜はるるを擅めず」〔荘子・養生主〕
  2. {名詞}まがき。木の枝をそらせ、からませてあんだいけがき。「樊籬(ハンリ)」「営営青蠅、止于樊=営営たる青蠅は、樊に止まる」〔詩経・小雅・青蠅〕
  3. 「樊然(ハンゼン)」とは、からみあったさま。「樊然堂乱=樊然として堂乱す」〔荘子・斉物論〕

字通

[会意]棥(はん)+𠬜 ハン 外字(はん)。棥はまがきの形。これを両手(𠬜 ハン 外字)でおしひらく形。〔説文〕三上に「鷙(縶)(つな)がれて行かざるなり」と樊籠(はんろう)(鳥籠(かご))の意とするが、棥は樊籬(はんり)(まがき)の象。まがきを原義とする字である。

萬/万(バン・3画)

萬 万 金文 萬 万 金文
萬觚・殷代/樂子簠・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wăn(去)。同音は下記の通り。

初出 声調 備考
ボン/バン 松のしん 説文解字
バン くれ 説文解字
バン/ベン うむ 甲骨文
バン ひく 説文解字
ブン/バン めぐむ 不明
バン よろづ 甲骨文
つる 説文解字
ひく 甲骨文

漢語多功能字庫

獨體字,字象蝎子之形。疑本義為蝎子,後借用為數詞,十千為萬。久借不還,遂另做「」字。


どの字形にも属さない字である。サソリの象形。恐らく原義はサソリで、後に音を借りて数詞となり、十倍の千を萬とした。その用例が長く続き、原義が忘れられて、ついにサソリを意味する別の「蠆」字ができた。

学研漢和大字典

象形。萬(マン)は、もと、大きなはさみを持ち、猛毒のあるさそりを描いたもの。のち、さそりは蠆(タイ)と書き、萬(マン)の音を利用して、長く長く続く数の意に当てた。▽「万」は卍(まんじ)の変形で、古くから萬の通用字として用いられている。連綿の綿(メン)(長い)・緬(メン)(長い)・蔓(マン)(長く続く)などと同系。▽旧字「萬」の草書体をひらがな「ま」として使うこともある。▽万の省画によってカタカナの「マ」ができた。

語義

  1. {数詞}数で、千の十倍。「十万円」。
  2. {副詞}よろず(よろづ)。非常に数が多いことを示すことば。▽千とともに用いる。「千万」「千変万化」。
  3. {形容詞}よろず(よろづ)。非常に多いさま。「万言」。
  4. {副詞}ぜったいに。どんなことがあっても。「万万不可=万万不可なり」。

字通

[象形]旧字は萬に作り、虫の形。〔説文〕十四下に「蟲なり。厹(じう)に從ふ。象形」とし、〔段注〕に蠆(たい)(さそり)の類であろうという。卜文・金文に数字の万として用いる。〔詩、邶風、簡兮〕に、殷人の万舞のことを歌っている。虫の名に用いた例はみえない。金文に「萬年」を「萬 万 外字年(まんねん)」としるすことが多く、古くは通用していたのであろう。万は〔広韻〕に萬の異体字としてみえる。いま萬の常用字として用いる。

蠻/蛮(バン・12画)

蛮 金文
虢季子白盤・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はmlwan(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「虫+(音符)䜌(ラン)・(レン)(もつれる)」。姿や生活が乱れもつれた、虫(へび)のような人種のこと。もと、南方の民をさし、転じて、広く文明を知らない人の意となった。「蕃」の代用字としても使う。「蛮族」。

語義

  1. {名詞}えびす。南方に住む種族。四夷(シイ)(四方のえびす)の一つ。▽古来、中国では、自国を宇宙の中央に位する文化の開けた大きな国であるとして、中華または中夏と呼び、四方の文化が異なる国々を、それぞれ未開で野蛮な国と見なして、東夷(トウイ)・西戎(セイジュウ)・南蛮(ナンバン)・北狄(ホクテキ)と呼んだ。
  2. {名詞・形容詞}未開で野蛮とみなされた地方。また、そこに住む民。また、そのさま。《類義語》蕃(バン)。「生蛮」「蛮地」。
  3. {名詞・形容詞}外国を卑しめていうことば。「蛮国」「遠蛮」。
  4. 「綿蛮(メンバン)」「緡蛮(メンバン)」とは、細く長く声を引いて鳴く鳥の声の形容。

字通

[形声]旧字は蠻に作り、䜌(らん)声。䜌が蠻の初文で、金文には「䜌夏」「䜌方」のようにいう。〔説文〕十三上に「南蠻なり。蛇種」とあり、〔爾雅、釈地〕に「九夷八狄七戎六蠻、之れを四海と謂ふ」とする。四海とは四晦(しかい)、これを晦冥の地とする。金文の〔晋公𥂝(てい)〕に「百䜌」の語があり、〔詩、小雅、采芑〕「蠢爾(しゆんじ)たる荊蠻(けいばん)」のように、楚荊の地も古くは蛮と称した。䜌は〔説文〕三上に「亂るるなり。一に曰く、治なり。一に曰く、絶えざるなり。言絲に從ふ」とし、「呂員切(レン)」によむが、蠻(ばん)の初文であるから、蠻の音でよむべきである。「戎蛮」をまた「戎曼」に作り、曼(まん)に近い声であった。

慢(バン・14画)

曼 甲骨文 曼 金文 慢 隷書
「曼」甲骨文合集9337/「曼」曼龏父盨蓋・西周末期/「慢」説文解字・後漢

初出:りっしんべんを伴う現行字体の初出は後漢の隷書。伴わない「曼」の初出は甲骨文

字形:甲骨文「曼」の字形は手をかざして遠くを見る人の象形。現行の字形はそれに〔忄〕”こころ”を伴う。すべき事を後回しにして”長い”時間を置く、怠惰を意味する。

音:カールグレン上古音はman(去)。「マン」は慣用音。呉音は「メン」。

用例:甲骨文での用例は欠損により判読しがたいが、地名や人名の意と解されている。

春秋末期までの金文では、おおむね人名に用いた。

西周中期「寓鼎」(集成2718)に「易寓曼絲」とあり、”長い”と解せる。

備考:同音同調の「嫚」の初出は春秋早期の金文で、『大漢和辞典』では「慢」と語義を共有し、論語時代の置換候補になりそうだが、春秋時代ではこの語義が確認できない。

学研漢和大字典

会意兼形声。曼(マン)とは、目をおおい隠すさま。長々とかぶさって広がる意を含む。慢は「心+(音符)曼」で、ずるずるとだらけて伸びる心のこと。幔(マン)(長く伸びる幕)・蔓(マン)(草がずるずると伸び広がる)・綿(長く伸びる糸)などと同系。類義語に侮。

語義

  1. {動詞・形容詞}おこたる。ゆるがせにする(ゆるがせにす)。行うべきことをけじめをつけず延引する。いいかげんにしておく。また、そのさま。だらしがないさま。「怠慢」「是上慢而残下也=是れ上慢りて下を残するなり」〔孟子・梁下〕
  2. (マンナリ){形容詞・動詞}あなどる。いいかげんにあしらう。しまりがないさま。「慢心」「侮慢」「陛下慢而侮人=陛下慢にして人を侮る」〔史記・高祖〕
  3. {形容詞}ゆるい(ゆるし)。ずるずると長びくさま。《対語》⇒急。「慢性」。
  4. (マンナリ){形容詞}ゆるい(ゆるし)。ゆっくり。「慢歩(そぞろ歩き)」「軽塑慢撚抹復挑=軽く塑し慢く撚り抹で復た挑ぐ」〔白居易・琵琶行〕

字通

[形声]声符は曼(まん)。曼は面衣を引いて流し目をする形で、軽侮の意を含む。〔説文〕十下に「惰(おこた)るなり」とし、また「一に曰く、慢りて畏れざるなり」という。嫚と声義が近い。

論語語釈
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