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論語語釈「サ」

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語釈 urlリンクミス

坐(サ・4画)

坐 甲骨文 坐 楚系戦国文字 坐 秦系戦国文字
甲1053/包2.243・戦国中末期/睡虎地簡23.17・戦国末期

初出:初出は甲骨文とされるが字形がまるで違う。その後は戦国文字まで絶えており、殷周革命で一旦失われた漢語と解するのが理に叶う。

字形:甲骨文の字形は「㔾」”跪いた人”+「因」”敷物”。楚系戦国文字の字形は「月」”肉体”+「土」。秦系戦国文字では上半分が背中合わせの「月」。

坐 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔口二土〕」と記す。「唐左羽林軍長史姚重曒墓誌」刻。

音:カールグレン上古音はdzʰwɑ(上)。去声は不明。同音は「痤」(平)”腫れ物”のみ。「ザ」は呉音。

用例:「甲骨文合集」1779・5357・16998・40613は未釈文、975・8131・11262・21361は「坐」と釈文されていない。

戦国中末期の「包山楚簡」177に「妾婦女坐」とあり、”すわる”と解せる。

戦国最末期あるいは秦代の「雲夢龍崗秦簡」147に「坐其所匿稅臧(贓),與灋沒入其匿田之稼。」とあり、”連座する”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は無い。「座」の訓は「すわるばしょ」。「すわる」ではない。

備考:『大漢和辞典』で訓「すわる」で、部品に「坐」を含まない漢字は、「𨆃キン」(初出不明)・「隆」(隆)のみで、春秋時代に”すわる”を何と言ったか、おそらくは「居」と言った。論語語釈「居」を参照。

学研漢和大字典

会意。「人+人+土」で、人が地上にしりをつけることを示す。すわって身たけを短くする意を含む。挫(ザ)(折れて短くなる)・髽(ザ)(短いざん切りの頭)と同系。「座」に書き換えることがある。「座・座視・座礁・端座・連座・座州」▽もと、「坐」は「すわる」の意で動詞的に用い、「座」は「すわる場所」の意で名詞的に用いたが、常用漢字では、動詞・名詞ともに座に統一した。

語義

  1. (ザス){動詞}すわる。こしかける。ひざを曲げて席につく。「静坐(セイザ)」「席不正、不坐=席正しからざれば、坐せず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}座席。《同義語》⇒座。「撃沛公於坐、殺之=沛公を坐に撃ちて、これを殺せ」〔史記・項羽〕
  3. (ザス){動詞}かかわりあいで刑罰を受ける。「坐罪=罪に坐す」「連坐(レンザ)(=連座。罰を受ける人との関係を問われて、いっしょに罰を受ける)」。
  4. {名詞}原告と被告との対座する立会裁判。また、その立会人。
  5. (ザシテ){動詞}いながらにして(ゐながらにして)。何もしないでいて。労せずして。「可坐而致也=坐して致すべきなり」〔孟子・離下〕
  6. (ザシテ){動詞}無為のままで。なすところなく。「坐待死=坐して死を待つ」。
  7. {副詞}すずろに。そぞろに。なにするともなく。なんとなく。▽「すずろ。そぞろ」は、漫の字の訓と同じ。「そぞろ歩き(漫歩)」の語に現在も残る。「停車坐愛楓林晩=車を停めて坐に愛す楓林の晩」〔杜牧・山行〕
  8. 《日本語での特別な意味》おわします(おはします)。おわす(おはす)。「いる」「ある」「行く」「来る」の敬語。「寛(クツロ)ぎて坐します」。

字通

[会意]土+人+人。土は土主、神を迎えるところ。その左右に人が対坐して訟事を決する。それで訴訟の関係者を座といい、当事者として裁判にかかわることを坐という。すなわちもと裁判用語である。〔説文〕十三下に「止まるなり」とし、字を留の省形とする。すなわち留止の意とするが、留は溜水の象形字で、坐とは関係はない。〔周礼、秋官、大司寇〕に、罪過有る者を「桎梏(しつこく)(かせ)して、諸(こ)れを嘉石に坐せしむ」とあり、〔周礼、秋官、朝士〕にも嘉石・肺石の左右に坐せしめて、その訟(うつた)えを聴くことをしるしている。その嘉石・肺石が、坐の字形にみえる土主にあたる。

左(サ・5画)

左 甲骨文 論語 左 金文
甲骨文/師㝨簋・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:左手の象形。原義は”左”。

音:カールグレン上古音はtsɑ(上)。去声の音は不明。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義に、金文では加えて”補佐する”の意で用いた(虢季子白盤・西周末期)。

学研漢和大字典

会意。「ひだり手+工(しごと)」で、工作物を右手に添えてささえる手。叉(サ)(組んでささえる)・補佐の佐(そばからささえる)と同系。草書体をひらがな「さ」として使うこともある。

語義

  1. {名詞・形容詞}ひだり。ひだりの。《対語》⇒右。「左衽(サジン)(着物のひだりのえりをはだに近く着る。北方遊牧民の習慣で、中国人と反対であった)」。
  2. {動詞}ひだりする(ひだりす)。ひだりのほうにいく。「田父紿曰左=田父紿いて曰はく左せよと」〔史記・項羽〕
  3. {動詞}ひだりにする(ひだりにす)。ひだり側に置く。ひだり側につける。「左佩刀=佩刀を左にす」〔宋濂・送東陽馬生序〕
  4. {名詞・形容詞}東。東のほうの。▽南面すれば、東はひだりにあたることから。「山左(山東)」「江左(江東)」。
  5. {名詞・形容詞}下位。下位の。▽中国の戦国時代には、右をとうとび、ひだりを卑しんだことから。「左遷」。
  6. {動詞・形容詞}たがう(たがふ)。思うようにいかない。くいちがう。正しくない。▽手足は右がきき、ひだりがきかないことから。《類義語》差。「左計(正しくない計画)」「相左=相ひ左ふ」。
  7. {形容詞}《俗語》革新的な。急進的な。▽十八世紀のフランス国民議会で急進派が議場のひだり側の席についたことから。「左派」。
  8. {動詞・名詞}たすける(たすく)。そばからささえる。ささえ。わきからたすける役。▽去声に読む。《同義語》佐。「証左(ささえとなる証拠)」。
  9. 《日本語での特別な意味》酒飲み。▽鑿を左手に持つ(飲み手)ことから。「左党」。

字通

[会意]𠂇(さ)+工。𠂇は左の初文、手の象形。工は巫祝のもつ呪具。右は𠙵(さい)、すなわち祝禱を収める器をもつ形。左右は神を尋ね、その祐助を求めるときの行動を示す。ゆえに尋は左右を重ねた形。左右は援助を意味する語となる。〔説文〕五上に「手相ひ左助するなり」とし、会意とするが、左と右との字形の関係について説くところがない。

詐(サ・12画)

詐 金文 詐 金文
師𩛥鼎・西周中期/蔡侯盤・春秋末期

初出:初出は西周中期の金文。ただし字形は「乍」で、「作」などと未分離。現行字形の初出は春秋末期の金文

字形:初出の「乍」はものを刻むさま。ここから”作る”の意となり、派生して”作り事”の意となった。

詐 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔言𠂉上〕」と記す。『敦煌俗字譜』所収。

音:カールグレン上古音はtsăɡ(去)。

用例:西周中期「師𩛥鼎」(集成2830)に「不自乍小子。」とあり、”いつわる”と解せる、

春秋末期「蔡侯盤」(集成10171)に「用詐大孟姬賸彝盤。」とあり、”つくる”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。乍は刀で切れめを入れるさまを描いた象形文字で、作の原字。物を切ることは人間の作為である。詐は「言+(音符)乍(サ)」で、作為を加えたつくりごとのこと。類義語に欺。

語義

  1. {動詞}いつわる(いつはる)。あざむく。うそや飾ったことばで人をだます。《類義語》偽。「詐取」。
  2. {名詞}いつわり(いつはり)。つくりごと。うそ。「巧詐」。

字通

[形声]声符は乍(さ)。〔説文〕三上に「欺くなり」とあり、〔詩、大雅、蕩〕「侯(こ)れ作(さ)し侯れ祝(しう)す」とあるのは詛(のろ)う意。乍は木の枝をむりにまげて垣などを作る形で、作為の意がある。詐は言に従い、祈りや盟誓において詐欺の行為があることをいう。〔論語、子罕〕に、子路が孔子の病気平癒の祈願をしていることを孔子が知って、「久しい哉(かな)、由(いう)(子路の名)の詐りを行ふや」とたしなめた話がある。

磋(サ・15画)

初出:初出は前漢の定州竹簡論語。ただし字形は非公開のため不明。後漢の『説文解字』には載っていない。

音:カールグレン上古音はtsʰɑ(平)で、同音は傞(酔って舞うさま)・瑳(あざやか)で、共に金文以前に遡れない。去声の音は不明。字形は「石」+「差」”こする”。

用例:「国学大師」は「古代称把象牙加工成器物,引申为仔细商量:切(qiē)~。~商。」という。

論語時代の置換候補:近音で部品の「差」。

差 金文
「差」同簋蓋・西周中期

「差」(tʂʰia、またはtʂʰa、共に平、去声は不明)の初出は西周中期の金文。手で麦の穂をこすって穀粒を取るさま。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「石+(音符)差(ちぐはぐ、でこぼこのある物でこする)」。類義語に磨。

語義

  1. (サス){動詞}みがく。すりみがく。ぞうげや玉をみがく。転じて、学問・道徳にはげんできわめる。《同義語》⇒瑳。「切磋琢磨(セッサタクマ)」「如切如磋=切するがごとく磋するがごとし」〔詩経・衛風・淇奥〕

字通

[形声]声符は差(さ)。差に不揃いのもの、ざらざらしたものの意があり、磋とは砥(といし)にかけて磨くことをいう。〔爾雅、釈器〕に「象には之れを磋と謂ふ」と象牙を治める意とする。切は骨を切る、瑳・磋は玉石の類を磨くことをいう。合わせて切磋という。

才(サイ・3画)

才 甲骨文 論語 才 金文
甲骨文/旂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:地面に打ち付けた棒杭による標識の象形。原義は”存在(する)”。

音:カールグレン上古音はdzʰəg(平)。

用例:金文では「在」の意に用いる例が多い。

西周早期「班𣪕」(集成4341)に「允才顯」とあり、”才能”と解せる。

西周早期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0955に「才四朋。」とあり、”財産”・”価値”と解せる。

西周末期「師訇𣪕」(集成4342)に「哀才(哉)」とあり、「哉」と釈文されている。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で用い、金文では「年」”とし”(何尊・西周早期)、「哉」”かな”(師訇簋・西周末期)の意に用い、戦国の金文では”~で”を意味した(中山王方壺・西周早期)。論語語釈「在」論語語釈「材」も参照。

学研漢和大字典

象形文字で、原字は、川をせきとめるせきを描いた象形文字。その全形は、形を変えて災などの上部に含まれる。そのせきだけを示したのが才の字である。切って止める意を含み、裁(切る)・宰(切る)と同系。

ただし、材(切った材木)の意味に用いることが多く、材料や素材の意から、人間の素質、持ちまえを意味することとなった。

語義

  1. {名詞}持ちまえの能力。事をなしとげる力。《類義語》能。「英才」「天才」「出世之才=世に出づるの才」「雄才大略(ユウサイタイリャク)」「君才十倍曹丕=君が才曹丕に十倍す」〔蜀志・諸葛亮〕
  2. (サイナリ){形容詞}さえざえとした。すぐれた持ちまえをそなえた。「才子」「才不才、亦各言其子也=才も不才も、亦た各其の子を言ふなり」〔論語・先進〕
  3. {名詞}持ちまえの素質。▽材に通じる。「素才」。
  4. {副詞}わずかに(わづかに)。はじめて。やっと。ようやく。そればかり。《同義語》纔(サイ)。「補綴才過膝=補綴して才かに膝を過ごす」〔杜甫・北征〕
  5. 《日本語での特別な意味》歳に代用して、年齢をあらわす。「三才の子」。

字通

[象形]標木として樹(た)てた榜示用の木の形。古い字形では、上部の一の部分が𠙵(さい)、すなわち祝詞などを収める器の形にしるされており、神聖の場所であることを表示する。〔説文〕六上に「艸木の初めなり」とし、草木初生の象であるとするが、屮(てつ)一下(草木初生の象)とは意象の異なる字である。もと神聖の場所を示し、それより存在するもの、また所在・時間を示す字となる。金文に「正月に才(在)り」「宗周に才(在)り」のようにいう。存在の最も根源的なものであるから、天地人三才、また材質・質料をいう。それで人の材能をも意味する。才は在の初文。在は才に士(鉞(まさかり)の刃部の形、士の身分象徴)を加えてこれを聖化する形で、占有・支配の意をも含むものであろう。才を呪飾として戈に加えた形は𢦏(さい)。𢦏声の字には神聖のことに関するものが多い。さらに𠙵を加えて哉(さい)となり、「哉(はじ)む」とよむ。金文には才を在、𢦏を哉の義に用いている。

/𠙵(サイ・3画)

論語 器 口 サイ 金文
亞古父己卣・殷代末期

初出:初出は甲骨文。

字形:後漢の『説文解字』以来、「口」(コウ、くち)の古形と解する。Wikipedia「サイ (漢字学)」も参照。
口 説文解字
四部叢刊初編『説文解字』繫伝一・口部頭

音:カールグレン上古音はkʰu(上)。

用例:論語語釈「口」を参照。

備考:白川静博士はこれを「サイ」と音読し、訓読は”のりと”であるらしい。

『字通』口条

卜文・金文にみえる口を含む字形のうち、口耳の口と解すべきものはほとんどなく、おおむね祝禱・盟誓を収める器の形である𠙵(さい)に従う。すなわち祝告に関する字とみてよい。文字は祝告の最もさかんに行われた時期に成立し、その儀礼の必要によって成立したものである。

すなわち白川漢字学の一大概念で、その学説の光源の一つだが、当初から批判があった。加藤常賢は「極めて程度が低い」と罵倒した。ただし加藤も白川同様の根拠無き出任せを言ったには違いなく、「𠂤」を「人間のシリだ」と言い出したのは誰にも受け入れられていない。

ともあれ白川説については、ネット上に見られる批判にも、なるほどと頷ける論がある。

「鬲は烹飪に用いる器。…腐敗融会していることを示す。……腐膩して虫のはいまわるさまを示す。」どうして漢学者しか知らないような難しい漢語を並べるのか。もっと一般的な表現があるだろうにとボヤキが出る。辞書を引く気にもなれず、こんなところだろうとすっ飛ばす。
(漢字の起源(白川静氏を買わない理由))

白川辞書を引くたびに、誰もが思う事ではないだろうか。要するにこれは博士のハッタリなのだが、かと言って現在の所、甲骨文や金文、それに先秦時代の漢文を読むための最も有力な道具が、白川辞書シリーズであることも確かなのだ。

誰のどんな名論卓説も、無批判に受け入れるのは宗教と変わらず、それは知性の放棄に他ならない。白川漢字学の批判的(≠罵倒的・=改良的)継承と発展を願ってやまない。

在(サイ・6画)

才 在 甲骨文 論語 在 金文
甲骨文/大盂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「才」で、地面に打ち込んだ杭の象形。”ここ”と存在を主張する標識。上掲金文「大盂鼎」の字形は「才」+「士」”まさかり”で、存在や領有を武力で主張するさま。のち「士」が誤って「土」に置き換わり、現在に至る。

音:「ザイ」は呉音。カールグレン上古音はdzʰəg(上)、去声は不明。

用例:『甲骨文合集合集』00137正.1に「五月才(在)敦」とあり、”~に”・”ある”・”いる”の語義が確認できる。

殷代末期の『殷周金文集成』02710「𡨦󱮟(艹晨)鼎」に「才二月」とあり、金文でも「才」字で「在」を意味した。

上掲西周早期「大盂鼎」には「王才宗周」と(1)「在武王嗣玟乍邦」と(2)「在𩁹󰩗(幺㔾)事」字形を違えて使い分けており、(1)は”…の時代になって”と解せる。(2)は「在𩁹御事」と釈文でき、「あまごいにことをすべる」と読める(「𩁹」を「于」”~に”と釈文する説もある)。

備考:「川」+「才」の字形「𡿧」は、「災」と釈文されており、”わざわい”の意。『甲骨文合集』48に「鼎(貞):眾㞢(有)𡿧(災)。」とあり、「とう、衆にわざわい有らんか」と読めるのはその例。

学研漢和大字典

論語 在 解字

会意兼形声。才(サイ)の原字は、川の流れをとめるせきを描いた象形文字で、その全形は形を変えて災(成長進行を止める支障)などに含まれる。才は、そのせきの形だけをとって描いた象形文字で、切り止める意を含む。在は「土+(音符)才」で、土でふさいで水流を切り止め進行を止めること。転じて、じっと止まる意となる。

材(切った材木)・裁(衣料を切る)・慓(サイ)・災と同系。筈(シ)(とまってたまる液)とも近い。類義語に有。異字同訓に有。

語義

  1. {動詞}ある(あり)。じっとそこにとまっている。「在中」「心不在焉、視而不見=心ここに在らずんば、視れども見えず」〔大学〕→語法「①②」。
  2. {動詞}ある(あり)。います。生きている。この世にいる。「在世」「父在観其志=父在せば其の志を観る」〔論語・学而〕
  3. {名詞}物のある場所。いる場所。▽去声に読む。「行在」。
  4. {動詞}ありては。…においては。《類義語》於。「在他人則誅之=他人に在りては則ちこれを誅す」〔孟子・万上〕
  5. {前置詞}ありて。場所を示す前置詞。《類義語》於。「豆在釜中泣=豆は釜中に在りて泣く」〔曹植・七歩詩〕
  6. 「在視(ザイシ)」「在察(ザイサツ)」とは、じっと目をとめてよく見ること。
  7. 《日本語での特別な意味》ざい。いなか。「千葉の在」「在所」。

語法

①「~あり」とよみ、「~がいる」「~がある」と訳す。▽存在の意を示す。「国破山河在=国破れて山河在り」〈国都(長安)は破壊されたが、山河はそのままある〉〔杜甫・春望〕
②「~在…」は、
(1)「~は…にあり」とよみ、「~は…にある」と訳す。「…」が場所の場合、存在の意を示し、人・物・事の場合、理由・根拠の所在の意を示す。▽有と用法は異なる。「項羽兵四十万、在新豊鴻門=項羽の兵四十万、新豊の鴻門に在り」〈項羽の軍は四十万は、新豊の鴻門に陣取っていた〉〔史記・項羽〕。「万方有罪、罪在朕躬=万方(まさ)に罪有らば、罪は朕が躬(み)に在らん」〈万民に罪があるならば、罪はわたしの身にあるようにせよ〉〔論語・尭曰〕
(2)「~、…するにあり」とよみ、「~は…することにつきる」と訳す。確定の意を示す。「廟算在休兵=廟算兵を休むるに在り」〈朝廷の方針は、兵士を休ませる(戦争を終結する)ことにある〉〔張九齢・奉和聖製送尚書燕国公説赴朔方軍〕

字通

[会意]才+士。才は神聖を示す榜示の木で、在の初文。卜文・金文では、才を在の字義に用いる。士は鉞頭の形。その大なるものは王。王・士もまた聖器で、身分象徴に用いた。神聖の表示である才と士とを以て、その占有支配の意を示したものと思われる。〔説文〕十三下に「存なり」とし、「土に從ひ、才聲」とするが、金文の字形は士に従う。金文には才声の字である載・鼒・𩛥をみな在の意に用いる。〔師虎𣪘(しこき)〕「先王に■(𢦔+食)(あ)り」、〔段𣪘(だんき)〕「王、畢に鼒(あ)り」、〔卯𣪘(ぼうき)〕「乃(なんぢ)の先祖考に𩛥(あ)り」などの例があるが、それらはみな才・在と通用する用義である。在にまた在察・存問の意があり、〔儀礼、聘礼〕「子(し)、君命を以て寡君を在(と)ふ」、〔書、舜典〕「璿璣玉衡(せんきぎよくかう)を在(あき)らかにす」のように用いる。子に聖記号として才を加えた存の字にも、存問の義がある。

再(サイ・6画)

再 甲骨文 再 金文
甲骨文/叔尸鐘・春秋末期

初出:初出は甲骨文

音:カールグレン上古音はtsəɡ(去)。

字形:「二」+「介」”甲骨板”+「人」”裂け目”で、二度甲骨を焼いて占うさま。原義は”再度”。甲骨文には、都合のよい裂け目が出来るようあらかじめ細工したもの、都合のよい結果が出るまで何度も占いを繰り返したものがあることが知られている。

用例:「甲骨文合集」7660.4は、欠損が多くて語義を判読できない。

春秋末期「叔尸鐘」(集成275)に「再拜䭫首」とあり、”ふたたび”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、戦国の金文では数字の”に”(𠫑羌鐘・戦国早期)、原義(陳璋方壺・戦国中期)に用いた。戦国の竹簡では加えて、「在」”存在する”または”察する”の意に用いた。

学研漢和大字典

指事。冓(コウ)は、前と後ろと、同じ型に木を組んだ木組みを児童画のように描いた象形文字。再は、冓の字の下半分に、一印を添えて、同じ物事がもう一つある意を暗示したもの。「説文解字」に「一挙にして二つなり」とある。類義語に二。

{動詞・名詞}木や竹を、前後左右同じ形に組んで積む。また、そうして組み立てた物。野外のかがり火を燃やすときのまきの組み方はその一例。

象形。冓(コウ)は、前と後ろと同じ型に木を組んだ木組みを児童画のように描いたもの。前後左右同じ形に組んだもののこと。構(組み木)・篝(コウ)(組み竹)・溝(コウ)(両側を同じ形に組んだみぞ)などの原字。転じて、複雑精密な構造をいう。「説文解字」に、「材を交積するなり」とある。

語義

  1. {副詞}ふたたび。二回。もう一度。《類義語》復。「再会」「願勿復再言=願はくは復た再び言ふ勿かれ」〔漢書・蘇武〕
  2. {動詞}ふたたびする(ふたたびす)。もう一度やる。「再斯可矣=再びすれば斯に可矣」〔論語・公冶長〕

字通

[象形]組紐(くみひも)の形。冉(ぜん)の上に一を加えて、組紐をそこから折り返す意を示す。金文には下端に二を加えて、その意を示すものがある。〔説文〕四下に「一擧にして二なり。冓(こう)の省に從ふ」とするが、冓は材木を構架する形である。稱(称)は禾穀の量を「稱(はか)る」意。爯(しよう)は組紐や糸・織物の類をもちあげて、天秤にかけてその重さをはかる意で、織物の糸数や重さの単位をも稱といい、爯がその初文である。布帛を架して折り返した摺畳(しょうじょう)の形が再、それで再度の意となる。〔説文〕四下に爯を「幷(あは)せて擧ぐるなり」の意とするが、再が併挙、爯は称量をいう。

材(サイ・7画)

材 楚系戦国文字
「郭店楚簡」尊.32・戦国中期楚

初出:初出は戦国文字

字形:「木」+「才」で、「才」の原義は存在を主張ための打ち込んだ杭。全体で原義は”木材”。

音:「ザイ」は呉音。カールグレン上古音はdzʰəg(平)で、同音に才とそれを部品とする漢字群、「載」、「裁」、「栽」。

用例:戦国中末期「郭店楚簡」尊德32に「依惠則民材(財)足」とあり、「財」と釈文されている。

戦国時代「上海博物館蔵戦国楚竹簡」三徳01に「天共󱩾(昔),地共材,民共力,󱩾(明)王無思,是胃(謂)參(三)󱩾(徳)。」とあり、”材料”と解せる。

論語時代の置換候補:「才」につき『大漢和辞典』は『集韻』を引いて、「通じて材に作る」という。ただし春秋時代以前の「才」にその用例は確認できないが、「棒杭」の語義はあった。論語語釈「才」を参照。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。才の原字は、流れをたち切って止める堰(セキ)を描いた象形文字。篆文(テンブン)は十印を/印で切ったさま。たち切る意を含む。材は「木+(音符)才」で、たち切ったき。裁(衣料をたち切る)・栽(サイ)(植木を切る)などと同系。類義語に木。

語義

  1. {名詞}き。山林から切ってきたき。きりき。転じて、建築・細工・製造に使うもととなるもの。《類義語》樹・木。「材料」「資材」「材木不可勝用=材木勝げて用ゐるべからず」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}基礎の資料になって、その物事に役だつもの。「教材」「素材」。
  3. {名詞}もとになる素質・才能。《同義語》才。「長材(すぐれた素質)」。

字通

[形声]声符は才(さい)。才は聖標識。榜示に用いるもの。支配・占有より、存在するものを意味する。材は木材のほかに、存在するものの材質をもいう。〔説文〕六上に「木の梃なり」とあり、製材したものをいう。〔史記、貨殖伝〕「山居千章の材」は千石の材。木の量は方材を単位として数える。才の声義を承け、才と通用する例が多い。

哉(サイ・9画)

論語 哉 金文
邾公華鐘・春秋晚期

初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は「𠙵」”くち”を欠く「𢦏サイ」。現行字体の初出は春秋末期の金文。「𠙵」が加わったことから、おそらく音を借りた仮借として語気を示すのに用いられた。

字形:初出の字形は「戈」”カマ状のほこ”+「十」”傷”。”きずつく”・”そこなう”の語釈が『大漢和辞典』にある。

哉 異体字 哉 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔土夕乚丶〕」と記す。「魏石門銘」(北魏)刻。また異体字「〔𢦏く丿〕」と記す。「隋羊本墓誌」刻字に近似。また「㦲」と傍記する。「唐高岑墓誌」刻。また異体字「㦲」と記す。「魏邑子六十人造象」(北魏?)刻。

音:カールグレン上古音はtsəɡ(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では詠歎に(如鄭臧公之孫鼎・東周)、また”給与”の意に用いられた(鼄公華鐘・春秋末期)。戦国の竹簡では、”始まる”の意に用いられた。

学研漢和大字典

会意兼形声。才は、裁の原字で、断ち切るさま。それに戈を加えた𢦏(サイ)も同じ。哉は「口+(音符)𢦏(サイ)」で、語の連なりを断ち切ってポーズを置き、いいおさめることをあらわす。もといい切ることを告げる語であったが、転じて、文末につく助辞となり、さらに転じて、さまざまの語気を示す助辞となった。また、裁断するとは素材にはじめて加工することであるから「はじめて」の意の副詞ともなった。草書体をひらがな「や」として使うこともある。

語義

  1. {助辞}かな。→語法「③」「快哉(カイサイ)」。
  2. {助辞}や。→語法「②」。
  3. {助辞}や。か。→語法「①」。
  4. {副詞}はじめて。やっとの意をあらわす副詞。《同義語》⇒才。「哉生魄=哉めて魄を生ず」〔書経・康誥〕

語法

①「や(か)」とよみ、「~か」と訳す。疑問の意を示す。文末・句末におかれる。「今安在哉=今安くに在り哉」〈今、どこにいるのでしょうか〉〔蘇軾・赤壁賦〕

  1. 「や(か)」とよみ、「どうして~であろうか」と訳す。反語の意を示す。文末・句末におかれる。▽「何=なんぞ」「安=いずくんぞ」「豈=あに」とともに多く用いる。「豈能独楽哉=あによく独り楽しまんや」〈どうして自分だけ楽しんでおられましょうか〉〔孟子・梁上〕
  2. 「不亦~哉=また~ならずや」「豈不~哉=あに~ならずや」は、「なんと~ではないか」と訳す。

③「かな」とよみ、「~であるなあ」と訳す。感嘆の意を示す。文末・句末におかれる。「管仲之器小哉=管仲の器小なる哉」〈管仲の器量は小さいね〉〔論語・八佾〕▽「也哉」「矣哉」「乎哉」も、「かな」とよみ、意味・用法ともに同じ。

④「~よ」とよみ、「~しなさい」と訳す。励ましや命令の意を示す。文末・句末におかれる。「勉哉夫子、不可再、不可三=勉(つと)めよ夫子、再びす可からず、三たびす可からず」〈がんばりなさい、そなたたちよ、(この機を逸して)この次にし、またその次にするということがあってはならない〉〔史記・周〕

字通

[会意]𢦏(さい)+口。𢦏は戈(か)に呪飾として才(字形中の十)を加えた形で、戈の使用にあたって戈を清める儀礼。口は祝詞を収める器の𠙵(さい)。おそらく戈が制作されたとき、呪飾を加え、祝詞を奏して清めたものであろう。ゆえにことはじめの意に用いる。金文に哉・載をはじめの意に用い、月がはじめて光をもち始める第二週を「哉生覇(さいせいは)」という。覇は月光の意。また金文に戈・𢦏・哉を詠嘆の「かな」に用いる。仮借の用法である。

宰(サイ・10画)

宰 甲骨文 宰 金文
甲骨文/𦅫鎛・春秋中期

初出:初出は甲骨文

字形:「宀」”やね”+「ケン」”刃物”で、屋内で肉をさばき切るさま。原義は”家内を差配する(人)”。

音:カールグレン上古音はtsəɡ(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では官職名や地名に用い、金文でも官職名に用いた。

学研漢和大字典

会意。「宀(いえ)+辛(刃物)」で、刃物を持ち、家の中で肉を料理することを示す。広く、仕事を裁断する意に用いられる。栽(木をきる)・裁(衣をきる)などと同系。類義語に司。

語義

  1. (サイス){動詞}きる。さく。肉などをきって料理する。「宰牲(サイセイ)(ぎせいの動物を料理する)」「烹羊宰牛且為楽=羊を烹牛を宰して且く楽しみを為さん」〔李白・将進酒〕
  2. (サイス){動詞}きって料理する意から転じて、仕事を意のままに処理する。きり盛りする。「主宰」「宰制」。
  3. 「膳宰(ゼンサイ)」「庖宰(ホウサイ)」とは、料理役のかしら。
  4. {名詞}つかさ。仕事を処理する主任の役。また、領地の代官。「宰相(サイショウ)」「子游為武城宰=子游武城の宰為り」〔論語・雍也〕
  5. {動詞}つかさどる。主任者として仕事をあずかる。

字通

[会意]宀(べん)+辛(しん)。宀は宗廟や宮室の建物。辛は大きな把手のある曲刀の象。牲肉を切る包丁である。宗廟に犠牲を供するとき、天子*は鸞刀(らんとう)を用いるが、これを宰割するのはおおむね長老の職とするところであり、その人を宰といった。それで宰領・宰輔の意となる。〔説文〕七下に「辠人(ざいにん)なり。屋下に在りて事を執る者なり」とするのは、辛を罪人に入墨する辛(はり)と解したのであろうが、この辛は宰割に用いる曲刀をいう。周の金文にみえる善夫は膳夫。宰と善夫とは、西周期には王の重臣として宰輔の職にあった。

論語 鸞刀
鸞刀『大漢和辞典』より

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

柴(サイ・10画)

柴 金文
柴內右戈・戦国末期

初出:初出は戦国末期の金文

字形:「此」+「木」。「此」は「止」”足”+「匕」”小型の刃物”。足元にある、小型の刃物で採集できる木材の意。

音:カールグレン上古音はdzʰăr(平)。同音は「祡」(平)”火祭り”・「㧘」(平)”積み上げる・頬を撫でる・打つ”。

用例:戦国末期「柴內右戈」(新編NA1113)に「柴內右」とあるが、語義は不明。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。論語先進篇17では人名として用いられるため、近音同音のいかなる漢字も置換候補になり得る。

備考:定州竹簡論語では「外字」と記す。語義は分からない。

財(サイ・10画)

財 隷書
老子甲146・前漢

初出:初出は西周早期の金文だが、「才」と記され未分化(→語釈)。戦国時代には「材」とも記された(→語釈)。現行字体の初出は戦国最末期の「雲夢龍崗秦簡」とされるが画像が未公開。確実な初出は前漢の隷書。

字形:「貝」”タカラガイ”+音符「才」dzʰəg(平)。

音:カールグレン上古音はdzʰəg(平)。同音に「裁」「才」「材」(以上平)、「在」(上)、「載」「栽」(以上去)。

用例:西周早期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1439に「才五十朋」とあり、「才」は「財」と釈文されている。

戦国最末期「雲夢龍崗秦簡」26に「沒入其販假殹(也),錢財它物于縣」とあり、”財産”と解せる。

祭(サイ・11画)

→論語語釈「祭」

崔(サイ・11画)

崔 隷書
定縣竹簡68・前漢

初出:初出は前漢の隷書。ただし西周早期の金文「巂󱟸乍兄癸卣」(集成5397)に「巂」の字があり、部品として「崔」を含む。また春秋末期の「庚壺」(集成9733)に「衰(崔)子執鼔(鼓)」とあり、「崔」を「衰」と記している。「衰」の初出は西周中期の金文。論語語釈「衰」を参照。

字形:「山」+「隹」で、原義は不明。

音:カールグレン上古音はdzʰwər(平)。同音は「摧」(平)”おさえる”のみ、初出は後漢の『説文解字』。平声で灰-清の音は不明。

用例:論語では斉の家老・崔杼の名として登場。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意。隹(タイ)は、堆積(タイセキ)の堆(積み上げた土)に含まれ、まるく盛りあがった意を含む。崔は「山+隹」で、凸型(トツガタ)に盛りあがった山のこと。

語義

  1. {形容詞}山がむっくりと高く険しくそびえるさま。

字通

[形声]声符は隹(すい)。〔説文〕九下に「大いにして高きなり」とあり、山の崔嵬(さいかい)たるをいう。隹声に従うことより考えると、崔はもと鳥占(とりうら)をいう字であったと思われるが、のちその字義を失ったものであろう。連語の形容語としてのみ用いられる。


崔嵬:山がでこぼこしていて険しいさま。「金華紫崔嵬=金華紫にして崔嵬たり」〔杜甫・冬到金華山観〕

菜(サイ・11画)

菜 金文
倗生簋・西周中期

初出:初出は西周中期の金文

字形:「爪」”手”+「艹」+「木」。手で菜を摘むさま。

音:カールグレン上古音はtsʰəg(去)。

用例:西周中期「倗生簋(格白𣪕)」(集成4262~4265)に「殷厥糿󱪟谷。杜木。邍谷。󰜬菜。」とあり、”野の草”と解せる。春秋時代以前の用例はこの一例のみ。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)采(サイ)(=採。つみとる)」。つみなのこと。

語義

  1. {名詞}な。葉・くきを食用とする草本類の総称。つみな。なっぱ。「野菜」「蔬菜(ソサイ)」。
  2. {名詞}な。草の名。種から菜種油をとる。あぶらな。「菜子(なたね)」。
  3. {名詞}副食物。おかず。また、料理。「菜館」「惣菜(ソウザイ)」。

字通

[形声]声符は〔爫木〕(采)(さい)。采は草木を采取することをいう。〔説文〕一下に「艸(くさ)の食らふべき者なり」とあり、野菜の類をいう。〔礼記、学記〕「菜を祭る」の注に「菜とは芹藻(きんさう)の屬を謂ふ」とあって、水草をも含めていう。およそ蔬菜五味の供薦すべきものを菜といい、のち飯にそえる副食のものをいう。

齋/斎(サイ・11画)

齋 金文
蔡侯盤・春秋晚期

初出:初出は春秋末期の金文。

字形:初出はしめすへんを伴う。〔齋〕部分は一説に穀粒という。〔示〕は祭壇で、全体で祭壇に穀物を供えて厳粛に祭礼を行うさま。

音:カールグレン上古音はtsær(平)。

用例:春秋末期「蔡𥎦盤」(集成10171)に「䄢詖整〔言肅〕」とあり、”つつしむ”と解せる。「詖」は『大漢和辞典』は「わかちとく」と読み、”整理して説明する”の意がある。「〔言肅〕」は会意文字として”言葉を慎む”の意か。

学研漢和大字典

会意兼形声。「示+(音符)齊(きちんとそろえる)の略体」。祭りのために心身をきちんとととのえること。齊(=斉。そろえる)・儕(サイ)(肩をそろえる仲間)・妻(夫とならぶつま)と同系。斉と混同しやすい。

語義

  1. (サイス){動詞・名詞}祭りの前に酒や肉を断ち、きまったところにこもって心を一つにして準備する。ものいみ。《同義語》⇒斉。「斎戒沐浴(モクヨク)」「是祭祀之斎、非心斎也=是れ祭祀の斎にして、心斎に非ざるなり」〔荘子・人間世〕
  2. {名詞}ものいみや勉強のためにこもるへや。「書斎」。
  3. {名詞}酒や肉のない食べ物。精進料理。「斎食」。
  4. {名詞}とき。僧の食事。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①いつく。いつき。心身を清めて神に仕える。
    ②書斎の名。また、雅号などにつけることば。「六無斎」。

字通

[会意]旧字は齋に作り、齊(斉)(せい)の省文+示。齊は神事に奉仕する婦人が、髪に簪飾(しんしよく)を加えている形。簪(かんざし)を斜めにして刺す形は參(参)。示は祭卓。祭卓の前で神事に奉仕することを齋といい、また䶒(さい)という。〔説文〕一上に「戒潔なり」とするが、字の原義からいえば斎女をいう。祭祀に先だって散斎すること七日、致斎すること三日、合わせて十日にわたる潔斎が必要であった。重文の字形は眞(真)に従う。眞はおそらく尸主(ししゆ)(かたしろ)の意であろう。

裁(サイ・12画)

裁 秦系戦国文字 𢦏 金文
秦系戦国文字/「𢦒」叔䟒父卣・西周早期

初出:初出は秦系戦国文字

字形は「𢦒サイ」(初出は甲骨文)”刃物で切る”+「衣」で、布を裁断して着物を作ること。

音:カールグレン上古音はdzʰəg(平/去)。同音に「財」「才」「材」(以上平)、「在」(上)、「載」「栽」(以上去)。

用例:西周中期の「曶鼎」(集成2838)に「才」を「裁」と釈文している。そのた春秋末期までの金文に、同様の例がある。

戦国時代の竹簡では「材」を「裁」と釈文した例が複数ある。

論語時代の置換候補:「才」または「𢦒」(𢦏)。論語語釈「才」を参照。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。才(サイ)の原字は、流れをたちきるせきを描いた象形文字。𢦔(サイ)は、それに戈(きるためのほこ)をそえて、きることを明示した字。裁は「衣+(音符)𢦔」で、布地をたちきること。材(ザイ)(きった木)・栽(サイ)(のびすぎた枝をきる)・宰(サイ)(きる)などと同系。異字同訓にたつ⇒断。

語義

  1. (サイス){動詞}たつ。衣服を仕たてるため、長い布地を適当にきる。また、布地をきって衣服を仕たてる。「裁断」「裁縫」。
  2. {動詞}きる。さえぎる。適当なところできる。また、ほどよくきめる。文章やことばを適切にあんばいする。《類義語》制。「裁減(きってへらす)」「裁量」。
  3. (サイス){動詞・名詞}物事をきりもりする。また、きりもりする役。《類義語》宰。「裁量」「総裁」。
  4. (サイス){動詞}さばく。よしあしの区別をはっきりきめる。「裁判」「大王裁其罪=大王其の罪を裁す」〔戦国策・秦〕
  5. {名詞}適当にカットしてきめた形。「体裁」。
  6. {名詞}布ぎれ。《類義語》切。
  7. {副詞}わずかに(わづかに)。はじめて。やっと。▽纔(サイ)に当てた用法。《同義語》哉・才。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①「裁判所」の略。「地裁」「高裁」。
    ②「裁縫」の略。「洋裁」「和裁」。

字通

[形声]声符は𢦔(さい)。𢦔は戈(か)に呪飾をつけて祓(はら)う形。ことをはじめるとき、祓う意がある。〔説文〕八上に「衣を制(つく)るなり」とあり、製衣の意。また初四下に「裁衣の始めなり」とあり、裁とははじめて布帛を裁(た)つことをいう。裁ち合わせて衣とするので、裁制・裁察の意がある。金文に「董サイ 外字(とうさい)」という語があり、サイ 外字は巾に従う。おそらく裁と同じ字であろう。

罪(サイ・13画)

罪 金文
中山王方壺・戦国末期

初出:初出は戦国末期の中山王壺で、その字形は「辠」。現行字体の初出は前漢の隷書

字形:初出の字形は「自」+「辛」で、おそらく自裁すべき罪を意味する。現伝の字形は「网」”あみ”+「非」”ひがごと”であり、捕らえられるべき罪を言う。「漢語多功能字庫」によると、もともと”つみ”は「辠」と記したが、秦代になって皇帝の「皇」と近いのをはばかって作字したという。

用例:戦国最末期の「睡虎地秦簡」司空127に「官長皆有罪。」とあり、”つみ”と解せる。

音:「ザイ」は呉音。カールグレン上古音はdzʰwəd(上)で、同音は存在しない。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で”つみ”を意味する漢字は以下の通り。
罪 大漢和字典

部品の非には”よこしま・あやまち”の意があり、”せめる・つみする”の語釈とともに『大漢和辞典』が載せる。初出は甲骨文。西周の金文から”過失”の語義が確認できる。詳細は論語語釈「非」を参照。

学研漢和大字典

会意。もと「自(はな)+辛(鋭いナイフ)」の会意文字で、鼻を刀で切りおとす刑を受けた人のこと。秦(シン)の始皇帝のとき、この字が皇の字に似ているので罪の字に改められた。罪は「网(法のあみ)+非(悪いこと)」で、悪事のため法網にかかった人。ザイという語は、卒(ソツ)(小者の雑役)・碎(サイ)(=砕。小さくくだく)などと同系で、罪を犯して小者に下げられ、雑役人となった者のこと。

語義

  1. {名詞}つみ。法をおかすこと。また、法をおかして罰せられた人。とが。「犯罪」「罪隷」「罪疑惟軽=罪の疑はしきは惟れ軽くす」〔書経・大禹謨〕
  2. {名詞}つみ。悪事や、あやまち。《類義語》過。「罪過」「謝罪」「罪、在朕躬=罪、朕が躬に在り」〔論語・尭曰〕
  3. {名詞}つみ。自分のふつごう。臣下が君主に対し自分の過失をさしていうことば。「罪、当万死=罪、万死に当たる」〔漢書・東方朔〕
  4. {動詞}つみする(つみす)。責任や過失をせめる。また、罰を加える。刑罰を科する。「罪我者其惟春秋乎=我を罪する者は其れ惟だ春秋か」〔孟子・滕下〕

字通

[会意]正字は辠。自+辛(しん)。自は鼻。鼻に墨刑を加える意で、そのような刑を受けることをいう。〔説文〕十四下に「辠は灋(はふ)(法)を犯すなり」とし、「辠人、鼻を蹙(ちぢ)めて、苦辛するの憂へを言ふ」と、辛を辛苦の意とするが、辛は入墨の針の象形である。また「秦、辠の皇の字に似たるを以て、改めて罪と爲す」とするが、辠は漢碑にもみえる。罪は〔説文〕に网部七下に属し、「魚を捕ふる竹の网(あみ)なり」とあって、それが本義。「秦、罪を以て辠の字と爲す」とあり、秦の文字統一のとき、そのように改めたのであろう。辠辜(ざいこ)をまた罪罟という。

蔡(サイ・14画)

蔡 甲骨文 蔡 金文
甲骨文/蔡大史𨨛・春秋

初出:初出は甲骨文

音:カールグレン上古音はtsʰɑd(去)。

字形:甲骨の裂け目の象形で、原義は”天啓”。

用例:「甲骨文合集」4663に「丁酉卜𡧊貞呼蔡」とあり、人名と解せる。

西周早中期「蔡尊」(集成5974)に「王才(在)魯,蔡易(賜)貝十朋,對揚王休,用乍(作)宗彝。」とあり、人名と解せる。

西周中期「九年衛鼎」(集成2831)の「蔡」は、「轄」”車輪のくさび”と釈文されている。

西周末期「蔡𥎦鼎」(集成2441)に「蔡𥎦乍旅貞。其萬年永寶用。」とあり、国名と解せる。

漢語多功能字庫」によると、戦国初期の金文で”刻む”を意味した(中山王方壺・戦国初期)。

備考:『大漢和辞典』に宋代の『集韻』を引いて「古、𣞖に作る」とあり、古文以降しか見られないが刻み目を付けたり甲骨を焼いたりするさまであるらしい。

学研漢和大字典

形声。「艸+(音符)祭」。

語義

  1. {名詞}小さな雑草。《類義語》芥(カイ)。
  2. {名詞}法則。のり。
  3. {名詞}占いに用いる大きな亀(カメ)。「臧文仲居蔡=臧文仲蔡を居けり」〔論語・公冶長〕
  4. {名詞}周代の国名。今の河南省上蔡県の西南にあった。楚(ソ)に滅ぼされた。

字通

[形声]声符は祭(さい)。〔説文〕一下に「艸(丰(おほ)き)なり」とあり、いわゆる艸蔡、草の茂り乱れるさまをいう。〔左伝、昭元年〕に「周公、管叔を殺し、蔡叔を蔡(ころ)す」とあり、〔注〕に「蔡は放なり」とあって放竄の意とする。蔡は金文に祟(すい)の形でしるし、殺・㝮はその繁文とみてよい。艸蔡の蔡はおそらく祭声の字。殺・㝮の初形である祟と、字形が混じて一となったものであろう。艸蔡と放竄の字義の間に関連があるとは思われない。


放竄:放ち逃す。放たれ逃れる。こんな言葉、『大漢和辞典』にも載っていない。ヲタクにもほどがある。

作(サク・7画)

論語 作 金文 作 甲骨文
乃孫作且己鼎・西周早期/甲骨文

初出:初出は甲骨文

字形:金文まではへんを欠いた「乍」と記される。字形は死神が持っているような大ガマ。原義は草木を刈り取るさま。

作 異体字
慶大蔵論語疏は上掲異体字「〔亻𠂉卜一〕」と記す。「議郎元賓碑」(後漢)刻。

音:カールグレン上古音はtsɑk(入)。去声の音は不明。

用例:「漢語多功能字庫」乍条によると、甲骨文で”開墾”、国名、”(都市国家の)創建”を意味し、金文では、”鋳造”(史牆盤・西周)、”制定”(毛公鼎・西周末期)、”…とする”(班簋・西周中期)の意が加わり、戦国時代の竹簡で、”突然”・”しばらく”の意が加わったという。

学研漢和大字典

会意兼形声。乍(サク)は、刀で素材に切れ目を入れるさまを描いた象形文字。急激な動作であることから、たちまちにの意の副詞に専用するようになったため、作の字で人為を加える、動作をするの意をあらわすようになった。作は「人+(音符)乍(サ)」。類義語に造・建。異字同訓に造る「船を造る。庭園を造る。酒を造る」。

語義

  1. {動詞}つくる。新たに工夫してつくり出す。「創作」「述而不作=述べて作らず」〔論語・述而〕。「作離騒=離騒を作る」〔史記・屈原〕
  2. {動詞}なす。する。「作為」「動作」「自作挫不可疼=自ら作(な)せる挫(わざはひ)は疼る可からず」〔書経・太甲中〕→語法「①」。
  3. {動詞}なる。変化してその状態になる。「翻手作雲覆手雨=手を翻せば雲と作り手を覆せば雨」〔杜甫・貧交行〕→語法「②」。
  4. {動詞}おきる(おく)。おき出す。働く。「蚤作而夜思=蚤く作きて而夜思ふ」〔柳宗元・送薛存義序〕
  5. {動詞}おこる。動作がおこる。生じてくる。「発作」「有聖人作=聖人の作る有り」〔韓非子・五蠹〕
  6. {名詞}つくったもの。「傑作」。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①作物のできぐあい。「作柄(サクガラ)」「平年作」。
    ②「美作(ミマサカ)」の略。「作州」。

語法

①「~となす」とよみ、「~とする」「~である」「~と思う」と訳す。▽漢詩で多く用いる。「煮豆持作羹、漉滓以為汁=豆を煮て持て羹(あつもの)と作し、滓(し)を漉(こ)してもって汁と為す」〈豆を煮て吸物とし、みそをこして豆乳とする〉〔世説新語・文学〕
②「~となる」とよみ、「~になる」と訳す。▽漢詩で多く用いる。「在天願作比翼鳥、在地願為連理枝=天に在りては願はくは比翼の鳥と作り、地に在りては願はくは連理の枝と為らん」〈天上では並んで飛ぶ鳥になりたい、地上ではからみあう枝になりたい〉〔白居易・長恨歌〕

字通

[形声]声符は乍(さく)。乍は作の初文。〔説文〕八上に「起すなり」と作興の意とする。乍は木の枝を強く撓める形で、垣などを作る意。卜辞に「墉を乍(つく)る」「邑を乍る」のように、大きな土木工事をする意に用いる。金文に至っても「寶ソン 外字彝(はうそんい)を乍る」のように用い、また「乍邑」「乍邦」の語がある。また「乍鑄」「乍爲」より「厥(そ)の爪牙と乍(な)る」のようにひろく一般の制作・行為をいい、まだ作の字はみえない。〔周礼、秋官、柞氏〕は、柞薪を以て獣の陥穽を作ることを掌り、その阱中(せいちゆう)の逆木(さかぎ)を柞鄂(さくがく)という。木の枝を撓めてこれを作るもので、乍の初義を知ることができる。

怍(サク・8画)

論語 怍 金文大篆
(金文大篆)

初出は戦国早期の金文。カールグレン上古音はdzʰɑk(入)。

学研漢和大字典

論語 作 甲骨文
「作」(甲骨文)

サクは、ざくと切れめを入れたさまを描いた象形文字で、短切な動作を起こす意を含む。作の原字。怍は「心+音符乍」の会意兼形声文字で、心中にざくと切りこみを入れたように、強いショックを起こすこと。▽恥は、はずかしくて心がいじけること。慚は、心にじわじわと切りこまれた感じ。愧は、心に何かわだかまりを感じること。

語義

{動詞}はじる(はづ)。ぎくっとする。これはまずいと心中で強くはじらう。また、はじて赤くなる。《類義語》恥(チ)・慚(ザン)・愧(キ)。「其言之不怍=其れ言の怍ぢざる」〔論語・憲問〕。「俯不怍於人=俯して人に怍ぢず」〔孟子・尽上〕

字通

声符は乍。〔説文〕十下に、「づるなり」とあり、はじて顔色が変わることをいう。

訓義

はじる。顔色が変わる。いらだち、いかる。

大漢和辞典

はじる。顔色が変わる。怒ったさま。姦(よこしま)が多い。

朔(サク・10画)

論語 朔 金文
公朱左𠂤鼎・戦国末期

初出:初出は戦国末期の金文

字形は「ゲキ」”さかさまの”+「月」”つき”で、満月に対する朔月を示す。原義は”ついたち(の月)”。

音:カールグレン上古音はsɑk(入)。同音は「索」(入)”あざなう”のみ。

用例:「漢語多功能字庫」によると、戦国の金文では原義で(公朱左𠂤鼎・戦国末期)用いた。

論語時代の置換候補:西周中期の「五祀衛鼎」(集成2832)で部品を共有する「彳屰」(逆)ŋi̯ăk(入)を「朔」と釈文している。「逆」の初出は甲骨文。詳細は論語語釈「逆」を参照。

”ついたち”を意味する言葉に「始」があり、殷代末期の金文から確認できるが、カールグレン上古音はɕi̯əɡ(ɕはシュに近いシ、əはエに近いア)で、朔とはまるで音が違う。

学研漢和大字典

会意文字で、屰(ギャク)は、逆の原字で、さかさまにもりを打ちこんださま。また大の字(人間が立った姿)をさかさにしたものともいう。朔は「月+屰(さかさ)」で、月が一周してもとの位置に戻ったことを示す。遡(ソ)(流れと逆に動いてもとにもどる)・泝(ソ)(流れと逆に動いて源のほうにもどる)と同系のことば。

語義

  1. {名詞}ついたち。ひと月が終わって、暦の最初にもどった日。陰暦で月の第一日のこと。《対語》⇒晦(みそか)。「朔日(サクジツ)」。
  2. {名詞}こよみのこと。▽朔(ついたち)を基準にして陰暦のこよみを作ることから。「正朔(セイサク)(天子*が年末に天下に頒布するこよみ)」。
  3. {名詞}北のこと。▽十二支を方角に当てると、子(ネ)の方角(北)はその最初に位するから。「朔北(サクホク)」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[形声]声符は屰(ぎやく)。屰は逆の初文。朔は〔説文〕七上に「月の一日、始めて蘇(よみがへ)るなり」とあり、朔・蘇の畳韻をもって説く。西周の金文に、一ケ月の月相を四週に分かち、第一週を初吉という。吉は詰。月の形がはじめて回復に向かって実(み)つる意。朔は金文にみえず、遡ってその上限に至る意で、月の初日とする。北方を朔とするのは、北方を上方と考えたからであろう。

策(サク・12画)

策 金文
中山王方壺・戦国初期

初出:初出は戦国初期の金文

字形:「竹」+「キョク」”とげ”で、原義は”竹ひご”。

音:カールグレン上古音はtsʰĕk(入)。同音に「冊」、「筴」”筮竹”、「柵」(全て入)。うち春秋時代以前に存在するのは「冊」のみ。

用例:「漢語多功能字庫」によると、戦国の金文では「冊」と同じく”竹簡”の意に用いた。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で音サク訓むちに「拺」があるが、初出は不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。朿(シ)・(セキ)はとげの出た枝を描いた象形文字。刺(さす)の原字。策は「竹+(音符)朿(シ)(とげ)」で、ぎざぎざととがっていて刺激するむち。また竹札を重ねて端がぎざぎざとつかえる冊(短冊)のこと。積(端がぎざぎざとするように重ねる)・朔(サク)(木をぎざぎざに並べたさく)などと同系。類義語に計。

語義

  1. (サクス){名詞・動詞}ふだ。むかし紙のなかったころ、文字を書きつけた竹のふだ。また、竹の札に書きしるす。《同義語》⇒冊(サク)。《類義語》簡。「簡策(文書)」。
  2. {名詞}ふみ。竹札に書いたたいせつな文書。転じて、天子*の命令や辞令書。「策命(天子の命令)」「対策(天子の下問に答える書)」。
  3. {名詞}はかりごと。書きしるした計画書。計画の案。また、計画や意見をのべる文体。「上策(最上の案)」「下策(まずいがやむをえない案)」「対策(事件を処置するための案。また、その文体)」。
  4. (サクス){動詞}計画する。
  5. {名詞}占いに用いるめどぎ。《同義語》筴。《類義語》籤(セン)。「占策」「神策(おみくじ)」。
  6. {名詞}むち。先端がぎざぎざととがって、馬の腹を刺激するむち。《類義語》匱(スイ)・鞭(ベン)。「策鞭(サクベン)」。
  7. {動詞}むちうつ。馬をむちでうつ。また、むちでうつように刺激を与える。「策励(刺激してはげます)」「策其馬=其の馬に策つ」〔論語・雍也〕
  8. {名詞・動詞}つえ(つゑ)。つえつく(つゑつく)。むちのような形をしたつえ。また、それをつく。「扶策(フサク)(つえをわきの下に入れてからだをささえる)」。
  9. {名詞}永字八法の一つ。⇒「永字八法」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[形声]声符は朿(し)。朿は責の声符、責に嘖・幘(さく)の声がある。朿は先のとがった長い木。〔説文〕五上に「馬の箠(むち)なり」という。〔論語、雍也〕「其の馬に策(むちう)つ」のように、動詞にも用いる。文字をしるす簡策の策は、冊が本字。冊は柵の初文であるが、のち簡策・編冊の意に用いる。策は簡策の意より策謀・籌策の意となった。

錯(サク・16画)

錯 秦系戦国文字
十鐘・戦国秦

初出:初出は戦国時代の金文

字形:現伝の字形は「金」+「昔」だが、この字形に定まる後漢より以前の字形はつくりが明らかに「昔」ではなく、何を表しているかは分からない。

音:”おく”意味での発音は去声(尻すぼみの銚子)・藤堂上古音ts’ag、”まじえる”の意味での発音は入声(詰まる音)・同ts’ak。カールグレン上古音はtsʰɑk(入)。去声は不明。

用例:西周末期「毛公鼎」(集成2841)に「逪衡」とあるのは「錯衡」と釈文されており、”メッキの衡(”かんざし”とも”くびき”とも解せる)”と解せる。

論語時代の置換候補:上掲”メッキ”の場合を除き、結論として存在しない。

去声の同音「サク」”まじる・おく”の初出は前漢の隷書。近音の「」tsʰɑɡ(去)”まじる・おく”(藤堂上古音ts’sg)の初出は戦国末期の金文。「舍」ɕi̯ɔ(上/去)”すえおく”は西周早期からあるが、音通とは言えない。「釋」ɕi̯ăk(入)は甲骨文があるが訓がむしろ”すてる”の意味合いが強く通じるとは言いがたい。

部品の「昔」si̯ăk(入)は、『大漢和辞典』に”まじる・交錯する”の語釈があり、「錯に通ず」という。ただし「漢語多功能字庫」昔条に、金文以前に”まじえる・おく”の用法は見られない。

備考:『大漢和辞典』の第一義は”まじる・まじえる”。以下”乱れる・そむく・たがう…”とネガティブな語義が並ぶ。現代中国語でも「ツオ」と読み、”間違い・でたらめ”の意。”おく”と読むのは荻生徂徠による。吉川本もこれを支持する。

漢語多功能字庫」には、見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、昔(セキ)は「日+ぎざぎざに重なるしるし」からなり、日数を重ねること。錯は「金+〔音符〕昔」で、金属の上に金属を重ねためっき。ふぞろいに重なるの意から転じて、交錯の意を生じた。

耤(シャ)(しきかさねる)・籍(かさねておく竹簡)などと同系のことば。

意味〔一〕サク

  1. {動詞・形容詞}まじる。まじわる(まじはる)。たてよこにぎざぎざに重なる。また、乱れてそろわない。「交錯」「錯綜(サクソウ)(入り乱れて集まる、ごちゃまぜにまとめる)」「錯雑」。
  2. {動詞・名詞}あやまる。くい違う。また、まちがえる。しそこない。あやまち。《同義語》⇒窶・齟。「倒錯」「失錯」。
  3. {名詞・動詞}たてよこにぎざぎざにすじめをいれた金やすり。やすりでごしごしとみがく。「錯刀(やすり)」「它山之石、可以為錯=它山の石は、以て錯と為すべし」〔詩経・小雅・鶴鳴〕
  4. {動詞・名詞}金属の上に金属を重ねておいて、めっきする。めっき。《類義語》鍍(ト)。「錯金(めっき)」。

意味〔二〕ソ/ス

  1. {動詞}おく。上にのせておく。また、そのものの上に手を加えて処置する。▽措置の措に当てた用法。「錯辞(ソジ)(ことばを並べておく、字句をつづる)」「挙直錯諸枉=直きを挙げて諸を枉れるに錯く」〔論語・為政〕

字通

[形声]声符は昔(せき)。昔に醋(さく)の声がある。斮(さく)のように肉を切りきざむ意があり、また厝(さく)のように砥石にかける意がある。〔説文〕十四上に「金涂(きんと)なり」とあって鍍金の意とするが、錯鏤(さくる)(地金の中に象嵌して、磨き出す方法)をいう。〔詩、小雅、鶴鳴〕「它山(たざん)の石 以て錯と爲すべし」とは錯礪(さくれい)、あらとにかけることをいう。他に交錯・錯落のように入りまじる意に用い、また措と通用する。

殺/殺(サツ/サイ・10画)

殺 甲骨文 殺 金文
合集6834正/『字通』所収金文

初出:一説に初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周早期の金文

字形:甲骨文の字形は「戈」”カマ状のほこ”+斬首した髪。西周中期まではこの字形で、西周末期より髪に「人」形を加えた「𣏂」の形に、「殳」”撃つ”を加えた形に記された。

殺 異体字
慶大蔵論語疏では異体字「〔刍一攵〕」と記す。「唐皇甫誕碑」刻。

音:カールグレン上古音はsăt(入)またはsăd(去)。漢音ではそれぞれ「サツ」”ころす”/「サイ」”削ぐ”。

用例:「小屯南地甲骨」190に「丙子卜今日殺召方執」とあり、”ころす”と解せる。戦国末期まで派生義として”戦う”はありうるが、”削ぐ”の意は確認できない。

学研漢和大字典

会意。「メ(刈りとる)+朮(もちあわ)+殳(動詞の記号)」で、もちあわの穂を刈りとり、その実をそぎとることを示す。摋(サツ)(そぎ削る)と同系。また散(そぎとってばらばらにする)とも縁が近い。

語義

サツ(入)
  1. {動詞}ころす。刃物でそいで切る。転じて、死なせる行為をすべて殺という。《類義語》戮(リク)。「殺害」「殺戮(サツリク)」「刺人而殺之=人を刺してこれを殺す」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}けずりとる。《同義語》摋(サツ)。「抹殺(マッサツ)(=抹碩。けずったり消したりする)」。
  3. {形容詞}すさんださま。「殺風景」。
  4. {助辞}動詞のあとにつけ、たまらないほどひどいの意をあらわす接尾辞。「笑殺(たまらないほどおかしがる)」「愁殺(心細くてやりきれないようにさせる)」「愁殺楼蘭征戍児=愁殺す楼蘭征戍の児」〔岑参・胡笳歌〕
サイ(去)

(サイス){動詞}そぐ。へらす。そぎとって量や大きさをへらす。「減殺」「相殺(ソウサイ)・(ソウサツ)(過不足をあわせて差をへらす)」「非帷裳必殺之=帷裳に非ずんば必ずこれを殺す」〔論語・郷党〕

字通

㣇(てい)+殳(しゆ)。㣇はたたりをなす獣の象形。祟(すい)の初形である。この呪霊をもつ獣に対して、殳(戈(ほこ))を加えて殺す意。この獣を殺すことによって、敵より加える呪詛が減殺(げんさい)される。そのような呪儀を示すことが、字の本義であった。〔説文〕三下に「戮(ころ)すなり」とし、人を刑殺することをいう。廟中でその呪儀を行うことを㝮(さい)といい、罪人を放竄(ほうざん)することをいう。〔書、舜典〕「三苗を三危に竄す」の竄を、〔孟子、万章上〕に殺、〔史記、五帝紀〕に遷、〔説文〕㝮字条七下に引いて㝮に作る。みな声義近く、通ずるところのある字である。〔左伝、昭元年〕に「蔡叔を蔡(ころ)す」とあり、蔡の初文は㣇、ゆえにその字をまた殺の字に用いた。殺はのち死殺の意に用いる。煞は近代の俗字。急疾の意を示したものであろう。また収煞・煞尾のように収束の意に用いる。

察(サツ・14画)

察 金文
弭叔師察簋・西周末期

初出:初出は西周末期の金文

字形:「宀」”屋根”+「」”ぶた”で、屋根の下で家畜を育てるさま。原義はおそらく”注意深く見守る”。

音:カールグレン上古音はtsʰăt(入)。

用例:西周中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0724に「史惠作寶鼎,惠其日就月將,察化惡臧,持純魯命,惠其子子孫孫永寶。」とあり、「察化惡臧」は「かうるを察しかくすをにくむ」と読め、”観察する”と解せる。

春秋末期までの例は、2022年1月現在、西周末期の金文2例のみだが、いずれも「師察」という人名の一部と思われる。

「漢語多功能字庫」によると、金文では人名に用いられ(弭弔簋・西周末期)、戦国の竹簡では”発見する”・”悟る”の意に用いられた。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、祭の原字は「肉+手+清めの水のたれる姿」の会意文字。のち示印が加わった。お供えの肉をすみずみまで清めることを示す。察は「宀(いえ)+〔音符〕祭」で、家のすみずみまで、曇りなく清めること。

転じて、曇りなく目をきかす意に用いる。擦(こすって清める)と同系のことば、という。

語義

  1. (サッス){動詞}曇りなく目を光らせる。細かく見わける。「洞察(ドウサツ)(見抜く)」「視察」「明足以察秋毫之末=明は以て秋毫の末を察するに足る」〔孟子・梁上〕
  2. (サッス){動詞}曇りなくすみずみまで調べ考える。「監察」「察鄰国之政=鄰国の政を察す」〔孟子・梁上〕。「察院(地方行政を調べて回る役目の監察御史の役所)」。
  3. {形容詞}あきらか(あきらかなり)。曇りがないさま。目がきくさま。すみずみまでよく見えるさま。「人、至察則無徒=人、至察ならば則ち徒無し」〔孔子家語・入官〕
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①深い思いやり。また、思いやる。見通し。推量。「察しがよい」。
    ②さつ。「警察」のことをいう隠語。

字通

[会意]宀(べん)+祭。宀は廟。廟中に祭って神意をうかがうを察という。〔説文〕七下に「覆審(ふくしん)するなり」(段注本)とあり、〔新書、道術〕に「讖微(しんび)皆審(つまび)らかにする、之れを察と謂ふ」とみえる。神意を明察にすること。

三(サン・3画)

三 甲骨文 三 金文
甲骨文/大盂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:字形は三本線を引いて数字の”さん”を示す指事文字。

音:カールグレン上古音はsəm(平/去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では数字の”さん”、助数詞の”第三”を意味し、金文の「三事」は、都で朝廷に仕える役人を指すと言う(令方彝・西周早期)。

学研漢和大字典

指事。三本の横線で三を示す。また、参加の参(サン)と通じて、いくつもまじること。また、杉(サン)・衫(サン)などの音符彡(サン)の原形で、いくつも並んで紋様を成すの意味を含む。▽日本では、奈良時代にはサムと音訳し、三位(サムミ)・三線(サムセン)といった。三郎(サブロウ)のサブはその転音である。森(シン)(なん本もまじった木立)と同系。付表では、「三味線」を「しゃみせん」と読む。▽証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるため、「参」と書くことがある。▽草書体をひらがな「み」として使うこともある。▽「三」の全画からカタカナの「ミ」ができた。

語義

  1. {数詞}みっつ。《同義語》⇒参。
  2. {数詞}み。順番の三番め。《同義語》⇒参。
  3. {数詞}いくつも。「三三五五」。
  4. {副詞}みたび。「三拝(サンパイ)九拝」。
  5. {副詞}みたび。たびたび。「再三」「三已之無慍色=三たびこれを已むるも慍色無し」〔論語・公冶長〕
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①三味線の糸のうちで、最も調子の高いもの。「三さがり」。
    ②「三河(ミカワ)」の略。「三州」。
    ③「三塁」の略。「三遊間」。

字通

[指事]横画三本をならべた形。細長い木を並べた数とりのしかたを、そのまま字形化した。卜文・金文では一より四までをこの形式であらわす。〔説文〕一上に「天地人の道なり」という。一には「道は一に立つ」、二十三下には「地の數なり」とし、三において天地人の道が備わるとする。古い自然哲学における、発生論的な考えかたである。それで王の字形を、天地人三才を貫くもので、道の実践者とするが、王の字形は大きな鉞頭の形。三は聖数とされ、その名数の語は千数百にも及び、〔駢字類編〕中の三巻を占めている。金文に、官名や分数的表示のときに參(参)を用いる。參は簪(かんざし)三本を髪に挿した形で参集の意があり、三と声義の通ずる字である。弎は古文。一、二にもその形式の古文がある。

山(サン・3画)

山 甲骨文 論語 山 金文
甲骨文/山且庚觚・殷代末期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は山の象形、原義は”やま”。

音:「セン」は呉音。カールグレン上古音はsăn(平)。

用例:「甲骨文合集」96.6に「勿于九山燎」とあり、「九山にひあぶりするなからんか」と読める。九つの山なのか、そのような名の山なのか判然としない。なお甲骨文では「九」は”腕”・”肘”を意味しうる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義、”山の神”、人名に用いた。金文では原義に、”某山”の山を示す接尾辞に(大克鼎・西周末期)、氏族名・人名に用いた。

学研漢和大字典

象形。△型のやまを描いたもので、△型をなした分水嶺のこと。傘(サン)(△型のかさ)・散(△型の両側にちり落ちる)と同系。類義語の峰は、△型に先のとがったやま。嶺(レイ)は、高く切りたったやま。岳は、ごつごつしたやま。丘は、盆地をかこむ外輪のやま。岡は、やまの背のかたく平らな台地。陵は、筋ばったやまの背の線。巓(テン)は、やまの頂上。付表では、「山車」を「だし」、「築山」を「つきやま」と読む。

語義

  1. {名詞}やま。△型のやま。《類義語》峰・嶺(レイ)。「山川」「仁者楽山=仁者は山を楽しむ」〔論語・雍也〕
  2. {名詞}やま。僧が深いやまを開いてたてた寺。また、寺の名につけることば。「開山」。
  3. {名詞}土盛りをした墓。《類義語》墳。「山向(サンコウ)(占って定めた墓の方角)」。
  4. {名詞}《俗語》蚕の幼虫がむらがってやま状をなしたもの。蚕の簇(マブシ)。「上山(蚕の上簇(ジョウゾク))」。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①やま。物事の頂点。「試合の山」「文章の山」。
    ②やま。不確実な予想をもとにしてねらった幸運。「山が当たる」。
    ③やま。比叡(ヒエイ)山延暦(エンリャク)寺のこと。

字通

[象形]山の突出する形に象る。〔説文〕九下に「宣(せん)なり。能く散气を宣べ、萬物を生ずるを謂ふなり。石有りて高し。象形」(段注本)という。宣の声義を以て解する。〔釈名、釈山〕には「山は産なり」とし、その声義を以て説くが、いずれも音義説にすぎない。山は霊気を生ずるところで、しばしば請雨の対象とされ、古代の自然信仰の中心をなすものであった。山には霊力を蔵する力があると考えられていたようである。

參/参(サン/シン・8画)

論語 参 參 金文
𤰇參父乙盉・殷代末期

初出:初出は殷代末期の金文

字形:跪いた人の頭に「晶」。「晶」は「參」の異体字として扱われることもある。「光」が跪いた人の頭に「火」であるのに対し、「參」は「星」か。論語語釈「晶」を参照。

音:漢音「サン」(平)で”三つ”・”まじわる”の意を、「シン」(平)で”まじりあう”・”どうやら”・”オリオン座の三つ星”の意を示す。日本語の「参る」も「シン」の音。カールグレン上古音はtʂʰi̯əmまたはtsʰəm(共に平)。平成で侵-生、談-心、去声の音は不明。

用例:初出の殷代末期「𤰈參父乙盉」(集成9370)に「𤰈參父乙。」とあり、「国学大師」は「參」を釈文していない。語義は不明だが、おそらく人名の一部。

西周中期の「五祀衛」(集成2832)に「廼令參有𤔲。」とあり、「すなわち參をして司どらしむ」と読め、人名と解せる。

西周末期「㝬鐘(宗周鐘)」(集成260)に「參壽隹(唯)利」とあるのは、数字の”さん”とも、天の三つ星とも言う。西周の金文からは字形に「三」が加わるようになるので、「三」に関わる語義ではあろうが、「晶」は星の象形であることから、語義はどちらとも決めがたい。

春秋末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0504などに「隹(唯)十又四年參(三)月」とあり、明確に数字の”さん”と解せる。

論語では曽子のいみ名「參」として見られるが、単に”三男”の意ではないか。

学研漢和大字典

象形。三つの玉のかんざしをきらめかせた女性の姿を描いたもの。のち彡印(三筋の模様)を加え參の字となる。入りまじってちらちらする意を含む。三(みっつ→いくつも)・森(何本もの木がはえたもり)・杉(サン)(多くの針葉のはえたすぎ)などと同系。証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるために「三」の代わりに用いることがある。

語義

サン(平)sān
  1. {数詞}みつ。みっつ。《同義語》⇒三。
サン(平)cān
  1. {動詞}まじわる(まじはる)。いくつもいっしょに入りまじる。ちらちらする。「立則見其参於前也=立てば則ち其の前に参はるを見る」〔論語・衛霊公〕
  2. (サンズ){動詞}仲間入りする。あずかる。「参加」「参政」「始参鎮東軍事=始め鎮東の軍事に参ず」〔晋書・孫楚〕
  3. (サンズ){動詞}目上の人にあう。お目にかかる。「参謁」「欲参楊素=楊素に参ぜんと欲す」〔侯白・啓顔録〕
シン(平)cēn
  1. 「参差(シンシ)」とは、長短入りまじっていっしょになるさま。唐代には、どうやら、たぶんの意の副詞に用いる。「参差恂菜=参差たる恂菜」〔詩経・周南・関雎〕。「雪膚花貌参差是=雪膚花貌参差として是れならん」〔白居易・長恨歌〕
シン(平)shēn
  1. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のオリオン座に含まれる。からすき。オリオン座の三つ星。「動如参与商=動もすれば参と商とのごとし」〔杜甫・贈衛八処士〕
  2. 《日本語での特別な意味》
    ①まいる(まゐる)。神社・寺などをおがみに行く。「墓参」。
    ②まいる(まゐる)。負けて相手に従う。「降参」。
    ③「参河(ミカワ)」の略。「参州」。
    ④「参議院」の略。「衆参両院」。

字通

[会意]旧字は參に作り、厽(るい)+㐱(しん)。厽は三本の簪(かんざし)の玉の光るところ。㐱は人の側身形に彡(さん)を加えて、人の鬒髪(しんぱつ)の長いさま。〔説文〕七上に晶に従う形に作り、「商星なり。晶に從ひ、㐱聲」とする。参星の名に用いるのは後の用義。卜文・金文の字形は、簪飾を加えた人が跪拝する形である。簪を並列に施す形は齊(斉)(せい)で、整う意があり、斜めに簪飾を加える參は参差(しんし)の意となる。簪飾三本の意より、数の三に用いる。金文では数字としての三は「參有𤔲(司)(さんいうし)」のような名数のほか、分数的表示のときに用いる。

殘/残(サン・10画)

戔 金文 殘 残 隷書
「戔」越王句踐之子劍・春秋晚期/「殘」縱橫家書67・前漢

初出:初出は前漢の隷書。戦国の竹簡に「戔」を「殘」と釈文する例がある。

字形:〔歹〕”死体”+「戔」”ほこで何度も切りつける”。人を殺すさま。

音:「ザン」は呉音。カールグレン上古音はtsʰɑn(平)。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」容成41に「戔(殘)群安(焉)備(服)」とあり、”殺し尽くす”と解せる。

戦国中期の『孟子』では”非道”の意に用いた。”残る”・”残す”の意が明瞭に確認出来るのは、後漢の『説文解字』からになる。

論語時代の置換候補:部品で同義の「戔」は、”傷つける”の意で甲骨文から存在する。

学研漢和大字典

会意兼形声。戔(サン)・(セン)は「戈(ほこ)+戈」の会意文字で、刃物で切って小さくすること。殘は「歹(ほね)+(音符)戔」で、切りとって小さくなったのこりの骨片。小さく少ないの意を含む。盞(セン)(小さい皿(サラ))・錢(=銭。小ぜに)・淺(セン)(=浅。水が少ない)・賤(セン)(財が少ない)などと同系。類義語の遺は、忘れてあとに置いておくこと。剰(ジョウ)は、定量以上になってあまること。付表では、「名残」を「なごり」と読む。

語義

  1. {動詞・名詞}のこる。のこす。のこり。わずかにあとにのこる。わずかにのこった端きれ。「残余」「残存」「残杯冷炙(ザンパイレイシャ)(飲み残した酒と冷えたあぶり肉)」。
  2. {形容詞}けずって小さくなったさま。また、のこり少ない。「残月」「残冬」。
  3. {動詞・形容詞}そこなう(そこなふ)。切って小さくする。痛められた。「残欠」「残賊之人、謂之一夫=残賊の人、これを一夫と謂ふ」〔孟子・梁下〕
  4. (ザンナリ){形容詞・名詞}平気で切ったりそこねたりするさま。むごい人。むごい行い。「残忍」「残暴」「勝残去殺=残に勝ち殺を去る」〔論語・子路〕

字通

[形声]旧字は殘に作り、戔(さん)声。戔は浅少偏薄のものをうち重ねる意がある。歹(がつ)は残骨の象。ゆえに残骨・残片をいう。〔説文〕四下に「賊なり」と残賊の意とする。戕賊によって害せられることを殘という。㱚字条に「禽獸の食する所の餘なり」とあり、その食余をいう。獣が獣を食うさまは残虐の極みであるので、そのさまを残虐という。虐(虐)は虎が人を襲う形である。

※戕(ショウ):ころす。そこなう。

產/産(サン・11画)

論語 産 金文
哀成叔鼎・春秋末期

初出:初出は春秋末期の金文

字形:「产」=「文」”屋根の煙穴”+「厂」”屋根”+『生」。屋内で子を生むさま。原義は”生む”。

音:カールグレン上古音はsăn(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では人名のほか”生む”・”生まれる”を意味した(哀成弔鼎・春秋末期)。

学研漢和大字典

会意。「文(あや、かざり)+厂(かどだつ)+生」。上部は「文+厂」で、彦(ゲン)(くっきりとかどだった顔をした美男)・顔(くっきりとかどだったかお)に含まれ、くっきりと切れめのある意を示す。産は、母体の一部がくっきりと切り離されてうまれること。のち、生(種・卵や合成によってうまれる)と混用される。緤(サン)(くっきりと切りとる)・格(サン)(くっきりと切りとる)と同系。異字同訓にうむ・うまれる⇒生。付表では、「土産」を「みやげ」と読む。

語義

  1. {動詞}うむ。うまれる(うまる)。子をうむ。子がうまれる。《類義語》生。「産児」。
  2. (サンス){動詞}うむ。土地や施設が物をつくり出す。また、生じる。「生産」「永州之野、産異蛇=永州の野、異蛇を産す」〔柳宗元・捕蛇者説〕
  3. {名詞}その土地でとれる物。また、その地方のうまれであること。「土産(その地の産物)」「量地之産=地の産を量る」〔欧陽脩・食貨志論〕。「陳良、楚産也=陳良は、楚の産也」〔孟子・滕上〕
  4. {名詞}生活のもとになる資財。「財産」「産業(日本では、生産の事業。中国では不動産)」「無恒産而有恒心者=恒産無くして恒心有る者」〔孟子・梁上〕
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①うぶ。うむ、また、うまれたままの意をあらわすことば。「産衣(ウブギ)」「産毛(ウブゲ)」。
    ②子をうむこと。「お産」。

字通

[会意]旧字は產に作り、文+厂(かん)+生。文は文身。通過儀礼として、加入の儀礼の際に文身を加えることがあり、初生のときは產、成人の際は彥(彦)、廟見の礼を顏(顔)、死喪のときを文・爽・奭といい、その字に含まれる文・乂・百は、みなその文身の象。產は生子の厂(額(ひたい)の形)に文を加える儀礼をいう。〔説文〕六下に「生まるるなり。生に從ふ。彥(げん)の省聲なり」とするが、彥と声の関係はなく、ともに会意の字である。わが国でも生子の額に×をつけて、あやつこという。あやは霊、呪的な意味を以て加えた。邪霊の憑依するのを防ぐためである。

撰(サン/セン・15画)

撰 隷書
孫臏88・前漢

初出:初出は前漢の隷書

字形:「扌」+音符「巽」”捧げる”swən(去)。

音:カールグレン上古音は不明。

用例:論語先進篇27のほかは、漢初になって『礼記』などに見られる。”手に取る”・”栗の実の皮を剝ぐ”・”えらぶ”などの用例がある。

論語時代の置換候補:日本語で同音同訓の「選」の初出は西周中期の金文。論語語釈「選」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。巽(セン)・(ソン)とは、人をそろえて台上に集めたさま。撰は「手+(音符)巽」で、多くのものを集めてそろえること。選(そろえてえらぶ)・饌(セン)(そろえたごちそう)・詮(セン)(そろえる)などと同系。「よい物を選ぶ」の意味の「えらぶ」は「選ぶ」とも書く。

語義

サン
  1. {名詞}えらんで集めそろえた物や事がら。「異乎三子者之撰=三子者の撰に異なり」〔論語・先進〕
  2. (センス){動詞}事がらをそろえ集め、それをもとにして文章をつくる。「撰述(センジュツ)」。
  3. (センス){動詞}記事を集めて述べる。編集する。
セン

(センス){動詞}えらぶ。多くそろえたものの中からえらびとる。《同義語》⇒選。

字通

[形声]声符は巽(そん)。巽は神前の舞台で、二人並んで舞楽する形。〔説文〕二下に選を収め、撰を手部に録入しないが、撰は供撰で舞楽を献ずる意。選はその舞容の選々たるをいう。〔易、繫辞伝下〕「以て天地の撰に體す」とは、天地によって供与せられるものをいう。のち選別・撰述の意に用い、また算に通用することがある。

算・筭(サン・14画)

𪧯 金文 筮 金文
「𪧯」杕氏壺・西周末期/「筮」史懋壺・西周中期

初出:初出はおそらく春秋時代以前。「𪧯」字が春秋末期に見える。同字は「国学大師」では「籑」”選ぶ・備える・贈る”と釈文されている。また下掲『字通』は西周中期「史懋壺」に見える「筮」字を、「算」の異体字である「筭」に比定している。「小学堂」による初出は楚系戦国文字

字形:〔⺮〕”竹の算木”+〔目〕+〔廾〕”両手”で、竹串を操って計算するさま。「筭」は異体字。

音:カールグレン上古音はswɑn(上)。

用例:戦国の竹簡では、おそらく”数える”の意で用いている(「新蔡葛陵楚簡」甲三352「󱩾二畀,未𣉻(智)亓(其)攸里之算󱩾」)。

学研漢和大字典

会意。祘(サン)は、縦線三本、横線二本を一組とした二組をあわせた、計十本の算木を描いた象形文字。筭(サン)は「竹+(音符)祘の略体+両手」の会意兼形声文字で、竹の算木を両手で持ってかぞえることを示す。算は「竹+具(そろえる)」で、そろえてかぞえるの意。選(セン)(そろえてえらぶ)・詮(セン)(そろえて考える)などと同系。類義語に計。

語義

  1. {動詞}かぞえる(かぞふ)。そろえてかぞえる。数をまとめる。《類義語》数。「計算」「算定」。
  2. {動詞}かぞえる(かぞふ)。仲間として扱う。問題としてとりあげる。「噫、斗勹之人、何足算也=噫(ああ)、斗勹(とそう)の人、なんぞ算(かぞ)ふるに足らん」〔論語・子路〕
  3. (サンス){動詞・名詞}損得をはかって考える。また、見当をつける。見積もり。めど。「打算」「成算」。
  4. {名詞}かぞえるのに用いる細い木や竹の棒。数をかぞえるのにも、易の卦(カ)をおくのにも用いる。▽上声に読む。《同義語》儘(サン)。「算籌(サンチュウ)(かずとり)」。
  5. {名詞}かず。▽上声に読む。《類義語》数。「無算=算無し」。

字通

[会意]竹+弄(ろう)。弄は呪具として玉を玩ぶもので、玩弄という。筭の従うところは玩弄ではなく、算木をもつ形。〔説文〕五上に「長さ六寸、歴數を計(かぞ)ふる者なり」とし、また「常に弄するときは、乃ち誤らざるなり」と弄の義を以て説くが、玩弄の玉と算木とはやはり異なるものであろう。金文の〔史懋壺(しぼうこ)〕に「路筭(ろさん)」という語があり、その字は■に従い、算木を觚(こ)にしたものともみえる形である。算木には竹の径一分、長さ六寸のもの二百七十一枚を、一握の形に組み、大觚(だいこ)とする。■はまた筮の初文ともみられ、古くは筭法と筮法とは、極めて密接な関係をもつものであった。

鑽(サン・27画)

鑽 隷書
縱橫家書27

初出:初出は前漢の隷書

字形:「金」”金属の刃物”+音符「贊」(賛)。「鑚」は異体字。

鑚 鑽 異体字
慶大蔵論語疏では上掲異体字「鑚」と記す。「武榮碑」(後漢)刻。

音:カールグレン上古音はtswɑn(平)で、同音に「纂」”あつめる”・「纘」”継ぐ”・「酇」”しろざけ”。去声の音は不明。

用例:論語子罕篇11(偽作)、論語陽貨篇21(偽作)に見られる他、戦国時代の『孟子』『荀子』にも用例がある。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「鑱」(初出は説文解字)、「㔍」「劗」(初出不明)、「湔」(初出戦国文字)、「斬」。「斬」の初出を「小学堂」も「国学大師」も西周中期の金文「伯簋」とするが、まるで字形が違い賛成できない。現行字形の初出は楚系戦国文字。

学研漢和大字典

会意兼形声。「金+(音符)贊(力をあわせる、中心に集まる)」。力を一点に集中して穴をあけること。「たがね」は「鏨」とも書く。

語義

  1. {動詞}うがつ。きる。きりでもみこむ。あなをあける。「鑽穴=穴を鑽つ」。
  2. {動詞}うがつ。きりであなをうがつように、深く物事をきわめる。「仰之弥高、鑽之弥堅=これを仰げば弥高く、これを鑽てば弥堅し」〔論語・子罕〕
  3. {動詞}うまく、もぐりこむ。つてを求めて出世をはかる。
  4. {動詞}あつめる(あつむ)。▽疎(サン)・壼(サン)に当てた用法。
  5. {名詞}きり・のみ・たがねなど穴をあける道具。▽去声に読む。

字通

[形声]声符は贊(賛)(さん)。〔説文〕十四上に「穿つ所以なり」とあり、錐の類をいう。穴を穿つことを鑽穴、火をとることを鑽燧(さんすい)、亀卜に鑽を加えて灼くことを鑽灼という。髪を切ることを劗・翦(剪)といい、声義が通ずる。

論語語釈
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