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論語語釈「ウ」

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語釈 urlリンクミス

于(ウ・3画)

于 甲骨文 于 金文
甲骨文/趙孟庎壺・春秋末期

初出:初出は甲骨文

字形:字形の由来と原義は不明。

音:カールグレン上古音はgi̯wo(平)。

用例:『甲骨文合集』295.5に「三百羌用于丁」とあり、”~に”と解せる。

『甲骨文合集』22915に「甲申卜旅貞今日至亍(于)丁亥晹日不雨在五月」とあり、”いたる”と解せる。

西周早期「令鼎」(集成2893)に「王至于溓宮」とあり、”~に”と解せる。

春秋末期「王孫遺者鐘」(集成261)に「于我皇且(祖)文考」とあり、”~に”と解せる。

学研漢和大字典

指事。篆文(テンブン)は、「亜印(息がつかえて曲がる)+一印」で、息がのどにつかえてわあ、ああと漏れ出るさまを示す。直進せずに曲がるの意を含む。また、於・乎に当てて用いる。迂(ウ)(遠回りする)・宇(まるく曲がった屋根)・曇(オ)(=汚。くぼんで曲がった水たまり)・盂(ウ)(まるくくぼんだ皿(サラ))などと同系。于の最後のたて棒をはねないと別字「干(カン)」になる。「ウばね、カンぼう」と覚える。ウ「宇迂吁紆盂剔」カン「汗刊肝竿幹奸扞杆罕旱悍捍桿稈骭」などがある。

語義

  1. {感動詞}ああ。わあ、ああという嘆息の声をあらわすことば。《同義語》⇒吁。
  2. {助辞}ここに。→語法「③」。
  3. {前置詞}に。→語法「①」。
  4. {前置詞}より。→語法「②」。
  5. {前置詞}→語法「⑤」。
  6. {動詞}ゆく。いく。▽往(ゆく)と同じ。「之子于帰=之の子于き帰ぐ」〔詩経・周南・桃夭〕

語法

▽「于」も「於」も用法はほとんど同じ。于の方が用法はせまく、用例も少ない。

①置き字としてよまないか、または、「~に」「~において」とよみ、「~において」「~にいたって」「~から」と訳す。動作・行為の時間・空間・範囲・位置を示す。「伯夷・叔斉、餓于首陽之下、民到于今称之=伯夷・叔斉、首陽の下に餓う、民今に到るまでこれを称す」〈伯夷と叔斉とは首陽山のふもとで飢え死にしたが、人民は今日までもほめている〉〔論語・季氏〕

②「~に」とよみ、

  1. 「~を」「~に」「~に対して」と訳す。動作・行為の対象・方向を示す。「余将告于莅事者、更若役復若賦=余(わ)れ将に事に莅(のぞ)む者に告げて、若(なんぢ)の役を更(あらた)め若(なんぢ)の賦を復せんとす」〈行政を仕切る者に対して、君の仕事をかえて、君の税を元に戻すように、報告しよう〉〔柳宗元・捕蛇者説〕
  2. 「~によって」「~なので」「~をもって」と訳す。原因・理由・根拠を示す。「凡我同盟之人、既盟之後、言帰于好=凡そ我が同盟の人、すでに盟(ちか)ふの後、言に好みに帰せん」〈同盟に加われる者よ、盟約を結べるからには、友好を続けるべし〉〔春秋左氏伝・僖九〕

③「ここに」とよみ、語調を整える。▽詩のリズムを整える間拍子に用いる。「有竜于飛、周衆天下=竜ここに有り飛ばんとして、天下を周衆(しうへん)す」〈竜(晋文公)は飛翔しようとして、天下を周遊していた〉〔呂氏春秋・季冬〕

④「おいてす」とよみ、「~において行動する」と訳す。▽前出の動詞を省略して「おいて」で受けて、それを動詞化したもの。「尚桓桓、如虎如羆、如豺如離于商郊=尚(こひねが)はくは桓桓(かんかん)たること、虎の如く羆の如く、豺の如く離の如く商郊に于(おひ)てせよ」〈ねがわくば、武者ぶりは、虎のように、ひぐまのように、やまいぬのように、竜のように、殷の都の郊外に勇戦せよ〉〔史記・周〕

⑤「~より…」とよみ、「~より…である」と訳す。比較の対象の意を示す。「脅肩諂笑、病于夏畦=肩を脅し諂笑するは、夏畦よりも病る」〔孟子・滕下〕

⑥「于嗟」は、「ああ」とよみ、感嘆の意を示す。「于嗟徂兮、命之衰矣=于嗟徂かん、命の衰へたり」〈ああもうこれまでか、わが天命も衰えたものよ〉〔史記・伯夷〕

字通

[象形]〔説文〕五上に「於(ああ)なり。气の舒(おもむ)ろに亏(まが)るに象る。丂(かう)に從ひ、一に從ふ」とし、「一とは其の气の平らかなるなり」という。感動詞にはもとその字なく、仮借の用義。仮借の義を以て字形を説くのは誤りである。字形は、曲がった形を作るためのそえ木。また刃の長い曲刀の形。卜文・金文の■(干+弓)は、弓にそえ木をそえた形である。

迂(ウ・6画)

迂 金文
居簋・春秋

初出:初出は春秋時代の金文

字形:「大」”人”+「于」”突き立てた刃物”+「止」”足”。足止めされて迂回する様。

音:カールグレン上古音はgi̯wo(平)。

用例:初出の画像が見つからないため、春秋時代の語義は不明。再出は前漢の隷書。文献上の初出は論語子路篇3。次いで戦国中期の『荘子』、戦国末期の『荀子』。

学研漢和大字典

会意兼形声。「辵+(音符)于(ウ)(つかえてまがる)」。宇(⌒型にまがった屋根)・盂(ウ)(∪型にまがった器)・紆(ウ)(曲線をなす)と同系。

語義

  1. (ウナリ){形容詞・動詞}まわりくどい。また、物事にうとくて実際的でない。目的にまっすぐ向かわず、遠まわりする。「迂遠(ウエン)」「迂闊(ウカツ)」「有是哉、子之迂也=有るこれかな、子の迂(う)なるや」〔論語・子路〕
  2. {名詞}まわり道。

字通

[形声]声符は于(う)。于に于曲の意がある。〔説文〕二下に「避くるなり」とあり、迂曲・迂回する意。また迂遠の意がある。

羽(ウ・6画)

羽 金文
『字通』所収金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgi̯wo(上)。

学研漢和大字典

象形。二枚のはねを並べたもので、鳥のからだにおおいかぶさるはね。宇(おおう屋根)・雨(地をおおって降りかかるあめ)などと同系。類義語の翅(シ)は、まっすぐにのびた短いはね。翼は、二つで対をなしたはね。「一羽(いちわ)・三羽(さんば)・六羽(ろっぱ)」など、前に来る音によって「わ・ば・ぱ」と読む。

語義

  1. {名詞}は。はね。鳥のはね。▽飛ぶ虫のはねも含めていう。《類義語》翅(シ)・翼。「羽翼」「白羽之白也=白羽之白きこと也」〔孟子・告上〕
  2. {名詞}やばね。矢につけたはね。《類義語》婢(レイ)。
  3. {名詞}はねのある鳥。「羽属(とり)」「羽類」。
  4. {名詞}舞のとき手に持つ、きじの尾ばねでつくった飾り。「羽舞」。
  5. {名詞}五音の一つ。古代中国の音楽で、階名をあらわす。七音のラにあたる。▽五音は、宮・商・角・徴(チ)・羽。「十二律」は、音名。
  6. {動詞}はねをのばす。▽去声に読む。
  7. 「羽林」とは、星の名。天の軍隊をつかさどるという。その名をとって漢代の近衛隊(キンエイタイ)の名とした。▽去声に読む。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①わ。鳥・うさぎを数えるときのことば。
    ②「出羽(デワ)」の略。「羽前」「奥羽」▽平安中期以降、「は」が「わ」に転化した。

字通

[象形]鳥の羽の形。〔説文〕四上に羽を「鳥の長毛なり」とし、𠘧(しゆ)三下を短羽の象とする。

禹(ウ・9画)

禹 金文 禹
叔向父禹簋・西周末期

初出:初出は殷代末期の金文

音:カールグレン上古音はgi̯wo(上)。同音に于(平)、羽・雨(上)、芋(去)など多数。つまりありふれた音の言葉で、声調まで同じくするのは「羽」「雨」「宇」”軒・屋根”のみ。「羽」に目をつぶれば、イモリのたぐいを意味するだろう。また平声に「雩」”あまごい”があり、初出は甲骨文。詳細は論語語釈「雩」を参照。

字形:古書体とされる文字には大きな変遷があるものの、現伝の禹王を指すとは断じかねる。

殷代末期「且辛禹方鼎」(集成2111)
用例:上掲殷代末期「且辛禹方鼎」(集成2111)に「󱝓且辛禹。亞󺺖。」とある。頭の□は「北」によく似た形と、「子」と、それを抱き上げる人の三字で構成される。後ろの□は、「亞」字形の中に「目」や「犭」などを記したいわゆる族徽(家紋)で、両者とも何を意味しているかは判じ物でしかない。

「且辛」は「祖辛」と釈文されており、殷の第15代王とされる。素直に読めば「禹」は殷王だったことになる。同様の例は殷代末期「且辛󱝓罍」(集成9806)にも見られ、同じく「且(祖)辛禹」と釈文できる金文は合計5つある。

西周末期の「叔向父禹簋」(集成4242)には文末に「禹其邁年永寶用。」とあり、「禹」はどう読んでも作器者の子孫の誰かになる。同じく西周末期の「禹鼎」(集成2833)は「禹曰」で始まるが、「武公廼遣禹率公戎車百乘。」とあり、明らかに「武公」の家臣だったと分かる。この「武公」とは誰かは判然としない。

つまり「禹」は古くから人名に用いたが、それが治水を実行し夏王朝を開いた人物を指す証拠は無い。「叔尸鐘」(春秋末期)の銘文を、郭沫若など中共の御用学者が、一生懸命夏王朝の実在を証する器物だと言い張っているが、中世のローマ坊主が異端者を火あぶりにするついでに書いた「神の実在について」との論文を、誰が真に受けるだろう。

禹 金文

用例:論語では夏王朝の始祖である禹王の名として記される。書誌文献上「禹」の字の初出は論語なのだが、禹を記した論語の章は全てでっち上げで、孔子の生前に知られた人物ではない。次に現れるのは『墨子』だが、墨子は孔子と入れ替わるように春秋末戦国の世を生きた。儒家に対抗して墨家を立てるため、儒家の持ち上げる周の文王より古い聖王として禹を創作した。禹が墨家の得意とした土木技術に優れていたとされるのはそのためである。

学研漢和大字典

象形。後足をふまえて尾をたらした、頭の大きい大とかげを描いたもので、もと大とかげの姿をした黄河の水の精。からだをくねらせた竜神のこと。のち、それが儒家によって人間の聖王に転化された。迂(ウ)(大きく曲がる)・踽(ウ)(背を曲げてのそのそ歩く)などと同系。

語義

  1. {名詞}夏(カ)の開祖とされる伝説上の聖王。黄河の洪水をおさめたといわれる。夏后氏禹、または有虞(ユウグ)氏禹ともいう。帝舜(シュン)に推されて王となった。その子は啓。「巍巍乎、舜禹之有天下也=巍巍乎たり、舜禹の天下を有つや」〔論語・泰伯〕

字通

[会意]虫+九。九は竜の形。雌雄の竜を組み合わせた形で、洪水神の禹を示す。〔説文〕十四下に「蟲なり」とする。

雩(ウ・11画)

雩 甲骨文 雩 金文
合11423/大盂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「雨」+「干」”さすまた”。さすまた状の祭具を手に取って雨乞いする様。字形によっては「干」→「示」”祭壇”になっているものもある。

音:カールグレン上古音はgi̯wo(平)。

用例:甲骨文については元データが公開されていないが、漢語多功能字庫によると人名の例があるという。

西周早期「靜𣪕」(集成4273)に「𩁹八月初吉庚寅」とあり、”雨乞い”とも、「于」”~に”とも解せる。

西周中期「史牆盤」(集成10175)に「𩁹武王既𢦏殷」とあり、”いわく”と解されている。「語」ŋi̯o(上)との音通と言えそうで言えそうにない。

春秋末期「九里墩鼓座」(集成429)に「乃于之雩」とあり、”雨乞い”と解せる。

 

学研漢和大字典

形声。「雨+(音符)于」。大声で天に訴えてあまごいをすること。吁(ウ)(わあわあと叫ぶ)・歹(ク)(おおという叫び)と同系。

語義

  1. {名詞・動詞}あまごい(あまごひ)。夏のひでりのときに、雨が降るように、声をあげて天に祈る祭り。また、あまごいの祭りをする。
  2. {名詞}虹(ニジ)。▽去声に読む。
  1. 「脛婁(クロウ)・(クル)」とは、春秋時代の呉の地名。

字通

[形声]声符は于(う)。〔説文〕十一下に「夏(か)の祭なり。赤帝に樂して、以て甘雨を祈るなり」とあり、雨乞いの祭をいう。重文として𦏴を録するのは、羽舞の意であろう。

鬱(ウツ・29画)

鬱 甲骨文 鬱 金文
甲骨文/孟𧧬父壺・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形は「大」”上長”に率いられて「人」”服従者”が、「林」茂みの中に入る姿で、原義は”むせかえるように草木が茂ったさま”。

音:カールグレン上古音はʔi̯wət(入)。

用例:甲骨文に「于鬱」「往鬱」の語が見え、地名と思われる。

西周早期「弔𣪕」(集成4132)に「隹(唯)王□于宗周,王姜史(使)叔事于大□(保),賞叔鬱鬯、白金、趨(芻)牛」とあり、「鬱鬯」とはチューリップのような花で香りを付けた酒とされる。”香り”・”におい”と解せる。

春秋時代の用例は見られず、戦国時代に再出するが、器名の例が多い。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名に、金文では香草の一種の名に用いた(叔簋・西周早期)。この香草「ウツチョウ」で臭いを付けた酒を、祭祀に用いた。一説にチューリップのたぐいという。

学研漢和大字典

会意兼形声。鬱の原字は「臼(両手)+缶(かめ)+鬯(香草でにおいをつけた酒)」の会意文字で、かめにとじこめて酒ににおいをつける草。鬱はその略体を音符とし、林をそえた字で、木々が一定の場所にとじこめられて、こんもりと茂ることをあらわす。中に香りや空気がこもる意を含む。尉(イ)・(ウツ)(おしこめる)と同系。温(中にこもる)は、その語尾がnに転じたことば。「ふさぐ」「ふさぎ」は「塞ぐ」「塞ぎ」とも書く。

語義

  1. (ウツタリ){形容詞}木がこんもりと茂るさま。「鬱彼北林=鬱たる彼の北林」〔詩経・秦風・晨風〕
  2. {動詞・形容詞}こもる。ふさぐ。ふさがる。煙、蒸気、ある気分などが、いっぱいにこもる。また、そのさま。「忠良切言、皆鬱於胸=忠良の切言は、皆胸に鬱がる」〔漢書・路温舒〕
  3. {名詞}ゆすらうめ。にわうめ。「六月食鬱及掫=六月には鬱及掫を食らふ」〔詩経・漿風・七月〕
  4. {名詞}香草の一つ。鬱金香(ウッコンコウ)。
  5. 《日本語での特別な意味》うつ。「鬱状態」の略。

字通

[会意]林+缶(ふ)+冖(べき)+鬯(ちよう)+彡(さん)。〔説文〕六上に「木、叢生する者なり」とし、𩰪(うつ)の省声に従うとする。鬯は酒をかもす形。彡はその酒気。密閉して香草を加え、その醞醸を待つ意。もと𩰪に作り、⺽(きよく)に従う。蔚と通じ、蔚茂の意に用い、字形も鬱を用いる。

鬱 𩰪

云(ウン・4画)

雲 金文 云 甲骨文
工大子姑發聑反劍・春秋晚期/甲骨文

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「一」+”うずまき”で、かなとこ雲(積乱雲)の象形。

音:カールグレン上古音はgi̯wən(平)。同音は論語語釈「耘」を参照

用例:殷代末期の「邑且辛父辛觶」(殷周金文集成6463)に「邑且辛。父辛云。」とあるのは、語順からあるいは”言う”を意味するかも知れない。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義の”雲”に用いた。金文では語義のない助辞としての用例がある(姑發衈反劍・春秋末期)。”いう”の語義はいつ現れたか分からないが、分化した「雲」の字形が現れるのは楚系戦国文字から。

学研漢和大字典

象形。息や空気が曲折してたちあがるさまを示す。もと、口の中に息がとぐろを巻いて口ごもること。雲(もくもくとあがる水気)の原字。耘(ウン)(土をもくもくとこね返す)・魂(もやもやした亡霊)に音符として含まれる。

語義

  1. {動詞}いう(いふ)。口ごもって声を出す。転じて、ものをいう。
  2. {助辞}ここに。文中・文末にあって、語調を整えたり、上の文をおさめたりすることば。「道之云遠、曷云能来=道之云に遠き、曷か云に能く来たらん」〔詩経・癩風・雄雉〕。「則可謂云爾已矣=則ち謂ふべきのみ」〔論語・述而〕
  3. 「…云云(ウンヌン)・(ウンウン)」とは、それ以下を省略する場合に用いることば。

語法

①「いう(い/ふ)」とよみ、「いう」と訳す。動詞。「其隣人之父亦云=その隣人の父もまた云ふ」〈その隣の老人も同じことをいった〉〔韓非子・説難〕

②「いわく(いは/く)」とよみ、「~という」と訳す。人の言葉や書物を引用する場合に用いる。「子貢曰、詩云、如切如磋、如琢如磨、其斯之謂与=子貢曰く、詩に云ふ、切するが如(ごと)く磋するが如く、琢するが如く磨するが如しとは、それこれをこれ謂ふか」〈子貢が、詩経・衛風・淇奥(キオウ)に、骨を切るように、象牙をするように、玉をうつように、石を磨くようにとうたっているのは、ちょうどこのことでしょうねと言った〉〔論語・学而〕

③「~云爾」は、「~のみ」「しかいう(い/ふ)」とよみ、「~というわけである」と訳す。文末におかれ、叙述をしめくくる役割を持つ。「発憤忘食、楽以忘憂、不知老之將至云爾=憤(いきどほ)りを発して食を忘れ、楽しみてもって憂ひを忘れ、老の將に至らんとするを知らざるのみ」〈(学問に)発憤しては食事も忘れ、(道を)楽しんでは心配事をも忘れ、やがて老いがやってくることにも気付かずにいるというわけだ〉〔論語・述而〕

④「云何」は、「いかん」とよみ、「何というか」「どう思うか」「どのようにするか」と訳す。手段・方法を問う意を示す。「平固辞謝曰、諸将云何=平固(かた)く辞謝して曰く、諸将は云何(いかん)と」〈(陳)平は固く返答を辞退して、諸将は何と申しましたか、と言った〉〔史記・陳丞相〕▽「如何」「謂何」も、「いかん」とよみ、意味・用法ともに同じ。

字通

雲 甲骨文

[象形]雲の形。〔説文〕十一下に雲の初文とする。卜文の字形は、竜が雲中に頭をかくし、その巻いた尾が下にあらわれている形に作る。

芸(ウン・7画)

芸 金文
子員廾夷土鼎・春秋末期或戦国早期

初出は春秋末期あるいは戦国早期の金文。ただし字形は「蒷」。論語の時代にギリギリ存在しなかった可能性がある。カールグレン上古音はgi̯wən(平)。同音は論語語釈「耘」を参照論語語釈「藝」(芸、ゲイ)も参照。

漢語多功能字庫

(解字無し)

学研漢和大字典

艸+(音符)「云」(ウン。もやもやとこもる、まぜかえす)の会意兼形声文字。「蓺」(ゲイ)は別字。藝(ウン)は芸の異体字だが、のち蓺と混同され、蓺と同じ意味に用いる。日本では芸を藝の略字として用いる。

語義

  1. {名詞}うまごやしに似た草の名。特有のかおりがある。昔、書物の間にはさんで、防虫剤とした。ヘンルーダ。▽転じて、蔵書や、書斎。芸香(ウンコウ)とも。「芸閣(ウンカク)」。
  2. {動詞}くさぎる。田畑の土をまぜかえして雑草をとる。同義語に耘。「植其杖而芸=その杖(ツエ)を植(タ)てて芸る」〔論・微子〕
  3. 「芸芸ウンウン」とは、草木の生い茂るさま。また、もやもやと数の多いさま。「夫物芸帰其根=それ物の芸芸たるや、おのおのその根に帰す」〔老子〕

字通

[形声]声符は云(うん)。〔説文〕一下に目宿(もくしゆ)に似た草とし、また淮南王説として、死を生に復しうるという。

新漢語林

形声。艹(艸)+云。音符の云(ウン)は、気のめぐりのぼる意味を表す。香気の強い草の意味。

語義

ウンyún
  1. 香草の名。芸香。くさのこう。ヘンルーダ。書物の虫食いを防ぐのに用いる。
  2. 野菜の名。
  3. さかんなさま。また、多いさま。
  4. くさぎ-る。草を刈る。=耘。
ウンyùn
  1. 黄ばむ。木の葉が枯れかけて黄色になること。

耘(ウン・10画)

初出は後漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡi̯wən(平)。同音は以下の通り。論語時代の置換候補は同音の「芸」。

初出 声調 備考
ウン くも 甲骨文 →語釈
くさぎる 春秋末期或戦国早期金文 →語釈
後漢隷書
姓・女のあざ名 西周末期金文
いふ 甲骨文 →語釈
エン かず 甲骨文
ウン うしなふ 甲骨文
うつる 秦刻石
かさ 甲骨文
食物をおくる 説文解字
くつ 説文解字

漢語多功能字庫

」,「」聲。本義是除草。


へんは「耒」つまり穀物植物の立ち姿。「云」の音。原義は除草。

学研漢和大字典

会意兼形声。云(ウン)は、雲気がもやもやと回るさま。耘は「耒(すき)+(音符)云」で、すきをめぐらして、土をまぜかえすこと。雲(水蒸気をまぜかえして生じるくも)と同系。

語義

  1. (ウンス){動詞}くさぎる。田畑の土をまぜかえして、雑草をとり、土の間に空気を入れる。「耕耘(コウウン)」「不耘苗者也=苗を耘せざる者なり」〔孟子・公上〕
  2. 「耘草(ウンソウ)(=芸草)」とは、草の名。うまごやしの仲間。その草を土の中に入れ、まぜかえして肥料にする。

字通

[形声]声符は云(うん)。〔説文〕四下に𦔐を正字とし、「𦔐は苗閒の穢れを除くなり」とする。耒はすき。耒で草の紛紜をすき取る意。

雲(ウン・12画)

雲 甲骨文 雲 金文
合13399/工大子姑發聑反劍・春秋末期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「云」。論語語釈「云」を参照。

字形:頂上にかなとこ雲を載せた積乱雲の象形。「雨」を伴うようになったのは楚系戦国文字から。「云」が音を借りて”言う”を意味するようになったため分離した。

音:カールグレン上古音はgi̯wən(平)。同音は論語語釈「耘」を参照

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」日甲44背參に「雲氣襲人之宮」とあり、”雲”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、云(ウン)は、たちのぼる湯気が━印につかえて、もやもやとこもったさまを描いた象形文字。雲は「雨+(音符)云」で、もやもやとたちこめた水蒸気。云(もぐもぐと口ごもる)・渾(コン)(もやもや)・魂(もやもやとしてさすらうたましい)と同系のことば。

語義

  1. {名詞}くも。空気ちゅうの水分が細かい粒となり、もやもやとまとまって空に浮かんでいるもの。「雲泥」「瑞雲(ズイウン)」。
  2. {名詞・形容詞}雲のように、もやもやとしたもの。また、高くはるかなもの、もやもやとかたまったものの形容。「雲鬢(ウンビン)」「星雲」「雲樹」。
  3. 《日本語での特別な意味》「出雲(イズモ)」の略。「雲州」。

字通

[形声]声符は云(うん)。云は雲の初文。雲気の下に竜尾のみえる形。〔説文〕十一下に「山川の气なり」という。

慍(ウン・13画)

慍 金文
慍兒盞・春秋中期或末期

初出:現行字体の初出は後漢の説文解字。部品の配置が異なる字体の初出は春秋時代の金文。

字形:「」(温)の字の甲骨文は、皿=平たい容器に氵=水を満たし、そのなかに人が入っている姿、つまり温泉の象形。慍はその部首をりっしんべんに替えた字で、”心が熱くなる”意となる。
溫 温 字解

音:カールグレン上古音はʔi̯wən(去)。同音は下記を参照。論語語釈「𥁕」も参照。

初出 声調 備考
ウン/オン くづあさ 説文解字 平/上/去 →語釈
ウン/エン 大車の後のおさへ 説文解字
ウン/オン 積む 説文解字 上/去 又音ʔwən(平)
積む 不明
柿色 後漢隷書
いかる 説文解字

用例:上掲金文の銘文が公開されていないので、春秋時代の語義は「溫」(温)から推測するしかない。

戦国の竹簡『上海博物館藏戰國楚竹書』昔者3に「能事其親,君子曰:子省何?喜於內,不見於外;喜於外,不見於內。𥁕(慍)於外,不見於內。內言不以出,外言不以入。興美廢惡。」とあり、「能く其の親に事うるには、君子曰く、子何を省ん。内に喜び、外に見せず。外に喜び、内に見せず。外にいかり、内に見せず。内に言いて出さず、外に言いて入るをもちいず。美を興し悪を廃つるなり」と読める。

漢語多功能字庫

(字解なし)

学研漢和大字典

会意兼形声文字。𥁕(オン)は、皿の上にうつぶせにふたをして物を封じこめたさま。中にこもる意を含む。慍は「心+(音符)𥁕」で、心中にいかりやうらみを含んで外に発散しないこと。溫(オン)(=温。水気がこもる)・熅(ウン)(熱気がこもる)と同系。また鬱(ウツ)(こもる)は、その語尾が入声(ニッショウ)(つまり音)となったことば。類義語に怨・怒。

語義

  1. {動詞}いかる。胸に不平がつかえ、むかついていかる。《類義語》怒。「人不知而不慍=人知らずして慍らず」〔論語・学而〕
  2. {動詞}うらむ。胸中にいかりを含んでうらむ。《類義語》怨(エン)。「慍于群小=群小に慍まる」〔詩経・邶風・柏舟〕

字通

声符は𥁕。〔説文〕十下に「怒るなり」とするが、〔段注〕に「怨む」の誤りであろうという。𥁕は器中のものが温められて、熱気が中に充溢する意。これを心情の上に移して慍という。

訳者注:段注とは『説文解字』に清代の儒者である段玉裁が付けた注のことで、例によって儒者らしい個人的感想の範疇を出ない。

訓義

(1)うらむ。(2)いかる。(3)うれえる。

大漢和辞典

慍 大漢和辞典

縕(ウン・16画)

縕 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は後漢の説文解字

字形:「糸」+「𥁕」。保温効果のある繊維の意。

縕 異体字
慶大蔵論語疏では「緼」と記し、「灬」を「一」と草書がきしている。上掲「唐濮州臨〓縣尉竇公夫人崔〓墓誌銘」刻。

音:カールグレン上古音はʔi̯wən(平/上/去)またはʔwən(平)。同音は𥁕を部品とする漢字群で、論語語釈「慍」を参照。”わた”・”こもる”の意での漢音は「ウン」(ʔi̯wən去/平)、”だいだい色”の意での漢音は「オン」(ʔwən平)。

用例:論語子罕篇27に”綿入れ”の意で見える。

論語時代の置換候補:上古音の同音に、語義を共有する字は無い。『大漢和辞典』での同音同訓は存在しない。

備考:「𥁕」を下記辞書が「器中のものを熱する・熱が籠もる」とするのは誤り。詳細は論語語釈「温」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「糸+(音符)溫(オン)の略体」で、温気をこもらせる綿。また、熱気がむれるの意。熅(オン)(煙がこもる)・溫(=温。蒸気がこもる)と同系。

語義

ウン(去/平)
  1. {名詞}もつれた麻のくず。ふやけた絹や綿。▽去声に読む。
  2. {動詞・形容詞}むれてふやける。中にこもってむんむんするさま。
  3. 「絪縕(インウン)」とは、むんむんと気が天地の間にみなぎるさま。《同義語》⇒氤氳。「天地絪縕、万物化醇=天地嚮縕として、万物化醇す」〔易経・壓辞下〕
  4. 「紛縕(フンウン)」とは、こもったものが盛んに発散するさま。また、乱れるさま。
オン(平)
  1. {名詞}赤色と黄色の間の色。

字通

[形声]声符は𥁕(おん)。〔説文〕十三上に「縕は紼なり」とあり、紼字条に「亂れたる枲(あさ)なり」とあり、麻が乱れて絮(わた)のような状態になるものをいう。纊とか旧絮(ふるわた)といわれるものである。𥁕は器中のものを熱する形。温熱の気がみちて、みだれる意がある。

論語語釈
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