
是(ゼ/シ・9画)
井(セイ・4画)
大盂鼎・西周早期
初出は甲骨文。カールグレン上古音は不明。藤堂上古音はtsieŋ(上)。
学研漢和大字典
象形。井は、四角いわく型を描いたもので、もと、ケイと読む。形や型の字に含まれる按印の原字。丼は、「四角いわく+・印」の会意文字で清水のたまったさまを示す。セイと読み、のち、両者の字形が混同して井と書くようになった。井は、また、四角にきちんと井型に区切るの意を派生する。「井」の全画の変形からカタカナの「ヰ」ができた。
語義
- {名詞}い(ゐ)。いど。
- {名詞}人が集まって住んでいる所。▽公共の井戸を掘ると、人が集まり周囲に住居ができるので、市(まち)を「市井」といい、郷村を「郷井」という。
- {形容詞}井げたのように、正方形にきちんとくぎったさま。「井然」。
- {名詞}周代、土地の行政区画で、一里四方の区画。「井田」「方里而井、井九百畝=方里にして而井なり、井は九百畝なり」〔孟子・滕上〕
- {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のふたご座にふくまれる。ちちり。
- {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。巽下坎上(ソンカカンショウ)の形で、井戸が人を養うような恩沢があるさまを示す。
字通
[象形]井げたのわくの形。〔説文〕五下に「八家一井、構韓(こうかん)(井の垣)の形に象る」とする。篆字は丼に作り、丼中の点を「𦉥(かめ)の象なり」と解し、伯益がはじめて井を作ったという起原説話をしるしている。卜文・金文には字を邢(けい)という国名に用いるほか、井の形には、人の首足に加える枷(かせ)の形で、のちの刑となるもの、鋳型のわくの形で、のちの形・型となるもの、陥穽として設けるもので、のちの穽となるものがあり、井は邢・刑・形・型・穽の初文である。〔孟子〕にみえるような井田法は、西周期の資料にその徴証を求めることはできず、文字が生まれた殷代には、もとより存しなかったものである。
正(セイ・5画)
君夫簋蓋・西周中期
初出は甲骨文。論語語釈「政」も参照。『定州竹簡論語』は「正・政可通、古多以政為正。」”正は政を代用できる。古くは政を正と書いた例が多い”と言う。カールグレン上古音はȶi̯ĕŋ(平/去)。
学研漢和大字典
会意。「一+止(あし)」で、足が目標の線めがけてまっすぐに進むさまを示す。征(まっすぐに進む)の原字。聖(純正な人)・貞(ただしい)・挺(まっすぐ)などと同系。また是(ゼ)・(シ)(ただしい)と縁が近い。類義語に匡。
意味
- {形容詞・名詞}ただしい(ただし)。まっすぐであるさま。まっすぐであること。《対語》⇒邪(よこしま)。「公正」「正義」「其身正、不令而行=其の身正しければ、令せずして行はる」〔論語・子路〕
- {動詞}ただす。まっすぐにする。また、誤りを道理にあうように直す。「改正」「就有道而正焉=有道に就いて正す」〔論語・学而〕
- {形容詞}まともであるさま。また、まっすぐに向いているさま。まんなかの。《対語》⇒反・裏。「正面」「正中」「正坐(セイザ)」。
- {形容詞}まじりけのないさま。また、ほんとうのものであるさま。《類義語》純。「正白(まっしろ)」「正方形」。
- {形容詞}主なものである。本式のものである。《対語》副・従・略。「正式」「正三位」「正本」。
- {名詞}役目の長官。「楽正(音楽をつかさどる役所の長官)」。
- {名詞・形容詞}ちょうどの時刻。また、時刻がちょうどであるさま。「正五時」「正午(ちょうど十二時)」。
- {名詞}中国の暦法で、一年の基準になるもの。▽平声に読む。「正月」「正朔(セイサク)(こよみ)」「改正(王朝が変わった時、正月をいつとするかの規準を改めて、新たに暦をきめること)」。
- {名詞}まと。弓を射てまっすぐにあてるまと。▽平声に読む。「正鵠(セイコク)(まとの中心)」。
- {副詞}まさに。まさしく。ちょうど。「正当其時=正に其の時に当たる」「正唯弟子不能学也=正に唯れ弟子学ぶ能はざるなり」〔論語・述而〕
- {名詞}数学で、負に対して、零より大きいこと。プラス。「正数」。
- 《日本語での特別な意味》
①かみ。四等官で、司・監の第一位。
②電子の電荷のうち、陽性に生じるもの。プラス。《対語》負。
③特定の官職で、その上位であることをあらわすことば。「検事正」。
字通
[会意]一+止。卜文・金文の字形は、一の部分を囗(い)の形に作り、囗は都邑・城郭の象。これに向かって進む意であるから、正は征の初文。征服者の行為は正当とされ、その地から貢納を徴することを征といい、強制を加えて治めることを政という。〔説文〕二下に「是なり。止に從ひ、一以て止まる」とするが、一に従う字ではない。その支配にあたるものを正といい、周初の金文〔大盂鼎(だいうてい)〕に「殷の正百辟」という語がみえ、官長たる諸侯の意。官の同僚を「友正」という。征服・征取・政治の意より、正義・中正、また純正・正気の意となる。
生(セイ・5画)
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsĕŋ(平)。
学研漢和大字典
会意。「若芽の形+土」で、地上に若芽のはえたさまを示す。いきいきとして新しい意を含む。青(あおあお)・清(すみきった)・牲(いきている牛)・姓(うまれによってつける名)・性(うまれつきのすんだ心)などと同系。異字同訓に産む・産まれる「卵を産み付ける。産みの苦しみ。産み月。予定日が来てもなかなか産まれない」。「棲」の代用字としても使う。「生息」また、「栖」の代用字としても使う。「生息」▽付表では、「芝生」を「しばふ」と読む。
語義
- {動詞}いきる(いく)。いかす。《対語》⇒死。《類義語》活。「生活」「生存」「両虎共闘、其勢不倶生=両虎共に闘はば、其の勢ひ倶には生きず」〔史記・廉頗藺相如〕
- {動詞}うむ。うまれる(うまる)。子をうむ。子がうまれる。物をつくり出す。物ができる。《類義語》産。「産生」「与顔氏女野合而生孔子=顔氏の女と野合して孔子を生む」〔史記・孔子〕
- (ショウズ)(シャウズ){動詞}はえる(はゆ)。おう(おふ)。おこる。発生する。植物の芽がはえる。「生春草=春草生ず」「本立而道生=本立ちて而道生ず」〔論語・学而〕
- {形容詞・名詞}なま。いきいきとして新しいさま。煮たきしてない。また、そのもの。《対語》熟。《類義語》鮮。「生鮮」「与一生樹肩=一生樹肩をあたふ」〔史記・項羽〕
- {名詞}いきていること。いきているもの。また、いのち。「生物」「生命」「養生喪死=生を養ひ死を喪ふ」〔孟子・梁上〕
- {名詞}学問をしている若い人。「学生」「生員」「儒生」「諸生」。
- {名詞}自分のことをへりくだって、でし、また、青二才の意を含めていうことば。「晩生(後輩。自称の語)」。
- {名詞}中国旧劇の男役。「老生(ふけ役)」「武生(武者役)」。
- {形容詞・副詞}いきながら。いきたまま。「生擒(セイキン)(いけどり)」「生劫之=生きながらこれを劫さん」〔史記・荊軻〕
- {形容詞・副詞}うまれながら。うまれつき。「生来」「人、生而有欲=人、生まれながらにして欲有り」〔荀子・礼論〕
- {形容詞}《俗語》なれていないさま。未熟なさま。《対語》熟。「生硬」「生路(ションルウ)(なれないみち)」。
- {副詞}《俗語》ひどく。非常に。《類義語》死。「生憎(ひどくにくらしい。あやにくと訓じる)」「生怕(ションパア)(ほんとにこわい)」。
- 《日本語での特別な意味》
①き。まじりけのない。純な。「生一本(キイッポン)」「生粋(キッスイ)の江戸っ子」。
②うぶ。ういういしい。
③なる。草木の実がなる。
字通
[象形]草の生え出る形。〔説文〕六下に「進むなり。艸木の生じて土上に出づるに象る」と生・進の音を以て解するが、声義の関係はない。卜辞の多生は多姓、金文の百生は百姓で、姓の意に用いる。また〔𦅫鎛(そはく)〕に「用(もつ)て考命彌生(びせい)ならんことを求む」とあるように、生命の義に用いる。〔舀鼎(こつてい)〕の「𣪘生覇(きせいは)」の生を眚の形に作り、目の部分は種の形で、種の発芽の状を示す。生は発芽生成の象を示す字である。すべて新しい生命のおこることをいう。
世(セイ・5画)
吳方彝蓋・西周中期
初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はɕi̯ad(去)。
学研漢和大字典
会意。十の字を三つ並べて、その一つの縦棒を横に引きのばし、三十年間にわたり期間がのびることを示し、長くのびた期間をあらわす。泄(セツ)・(エイ)(もれて、横にのびて流れる)・拽(エイ)(横に引きのばす)と同系。草書体をひらがな「せ」「よ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「せ」、また、草書体の変形からカタカナの「セ」ができた。
語義
- {名詞}親が子に引き継ぐまでの約三十年間。ゼネレーション。「世代」「必世而後仁=必ず世にして而後に仁ならん」〔論語・子路〕
- {名詞}よ。時代。「中世」「上古之世(ジョウコノヨ)」。
- {名詞}よ。人間の社会。「世間」「能与世推移=能く世と推移す」〔楚辞・漁父〕
- {副詞}よよ。代々。「項氏世世為楚将=項氏は世世楚の将為り」〔史記・項羽〕
- {形容詞}代々の。先祖からの。「世交」。
- 地質時代の区分で、「紀」と「期」の間。「沖積世」。
字通
[象形]草木の枝葉が分かれて、新芽が出ている形。新しい枝葉を示す。〔説文〕卉部三上に「三十年を一世と爲す。卉(き)に從ひて、之れを曳長す。亦た其の聲を取るなり」とするが、形も声も異なる。字形は生に近く、生もまた草木枝葉の生ずる形である。金文に世を枻・枼に作る。木には世、草には生の形となる。世をまた葉といい、万世を万葉という。
成(セイ・6画)
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ĕŋ(平)。
学研漢和大字典
会意兼形声。丁は、打ってまとめ固める意を含み、打の原字。成は「戈(ほこ)+(音符)丁」で、まとめあげる意を含む。▽締(ひとまとめ)の語尾がngに転じたことば。城(土で固めあげたしろ)・誠(まとまって欠けめのない心)と同系。
語義
- {動詞}なる。つくろうとしたものがしあがる。できあがる。「落成」「学難成=学成り難し」「大器晩成=大器は晩成す」〔老子・四一〕
- {動詞}なす。しあげる。りっぱになし遂げる。「成家=家を成す」「覇業可成=覇業成すべし」「悪乎成名=いづくにか名を成さんや」〔論語・里仁〕
- {動詞}なる。なす。変化して、ある状態になる。また、そうする。「成空=空と成る」「衰病已成翁=衰病已に翁と成る」〔杜甫・客亭〕
- {形容詞}できあがった。既成の。「成見(既成の考え)」「成事不説=成事は説かず」〔論語・八飲〕
- {名詞}すでにしあがった状態。「守成(すでに完成した現状を守り続けること)」。
- {名詞}たいらぎ(たひらぎ)。平和。また、争いごとのまとめ。「求成=成を求む」。
- {単位詞}音楽の段落や、土盛りの層を数えることば。「九成(九段落)」。
- {名詞・単位詞}古代、十里四方の田畑のこと。また、それを数えることば。
- {単位詞}《俗語》北京(ペキン)語で、十分の一。「一成(一割)」。
字通
[会意]戈(か)+丨(こん)。〔説文〕十四下に「就(な)るなり。戊に從ひ、丁(てい)聲」とするが、卜文・金文の字形は、戈(ほこ)に綏飾としての丨を加える形。器の制作が終わったときに、綏飾を加えてお祓いをする意で、それが成就の儀礼であった。就は凱旋門である京の完成のときに、犬牲を加えて、いわば竣工式を行う意。すべて築造や制作の完成のときには、その成就の儀礼を行ったものである。
西(セイ・6画)
戍B180鼎・殷代末期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsiər(平)。呉音では「サイ」。
学研漢和大字典
象形。ざる・かごを描いたもので、栖(セイ)(ざる状の鳥の巣)にその原義が残る。ざるに水を入れるとさらさらと流れ去って、ざるが後に残ることから、日の光や昼間の陽気が、ざるの目からぬけるように流れ去る方向、つまり「にし」を意味することとなった。洒(セイ)(さらさらと流し去る)・遷(セン)(形を残して中身がうつり去る)と同系。
語義
- {名詞}にし。日の沈む方角。五行では金、季節では秋、色では白に当てる。「関西(カンセイ)・(カンサイ)(中国では、函谷関(カンコクカン)より西の地方。日本では、逢坂の関より西、おもに近畿地方)」。
- {名詞・形容詞}東洋・中(中国)・和(日本)に対して、ヨーロッパのこと。▽「西洋」の略。「泰西(タイセイ)(欧米)」「西医(西洋式の医者)」。
- {名詞}《仏教》仏のいる死後の世界。極楽。▽「西方浄土(サイホウジョウド)」の略。仏教はインドから伝わったので、西方を仏の地と考えた。「帰西(キセイ)・(キサイ)(死んで魂が仏土に帰すること)」。
- {動詞}にしする(にしす)。西方に向かって進む。「且布聞之、鼓行而西耳=且つ布これを聞き、鼓行して西するのみ」〔漢書・張良〕
- {副詞}にしのかた。西に向かって。また西のほうで。「西流」「西出陽関無故人=西のかた陽関を出づれば故人無からん」〔王維・送元二使安西〕
- 《日本語での特別な意味》「西班牙(スペイン)」の略。スペインのこと。「米西戦争」「西和辞典」。
字通
[仮借]卜文・金文の字形は、荒目の籠(かご)の形。〔説文〕十二上に「鳥、巢上に在るなり。象形。日、西方に在りて、鳥西す(巣に入る)。故に因りて以て東西の西と爲す」とする。方位の字はみな仮借。東は橐(たく)(ふくろ)の象形、南は南人(苗族)の聖器として用いる銅鼓の象形で、苗人はその器を南任という。北は相背く形。西の篆文の字形は疑うべく、東西の意に用いるのは仮借である。
聲/声(セイ・7画)
(甲骨文)
初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯ĕŋ(平)。
学研漢和大字典
会意。声は、石板をぶらさげてたたいて音を出す、磬(ケイ)という楽器を描いた象形文字。殳は、磬をたたく棒を手に持つ姿。聲は「磬の略体+耳」で、耳で磬の音を聞くさまを示す。広く、耳をうつ音響や音声をいう。旧字「聲」の草書体をひらがな「せ」として使うこともある。
語義
- {名詞}こえ(こゑ)。▽人の声、動物の鳴き声、物の響きを含めていう。「音声」「聞其声不忍食其肉=其の声を聞けば其の肉を食らふに忍びず」〔孟子・梁上〕
- {名詞}うわさ。評判。「名声」「声、振礼羌=声、礼羌に振るふ」〔李娃伝〕
- {名詞}おと。音楽の響き。「錚錚然有京都声=錚錚然として京都の声有り」〔白居易・琵琶行・序〕
- {単位詞}こえ(こゑ)。声や、響きの回数を数えることば。「二三声(ニサンセイ)」。
- 「五声」とは、音楽の階名で、宮・商・角・徴(チ)・羽の五種(=五音)のこと。
- {名詞}中国語で、声調の区別。「四声」。
- {名詞}語頭子音のこと。「声母」⇒韻
字通
[会意]旧字は聲に作り、殸(けい)+耳。殸は声(けい)(磬石)を鼓(う)つ形。その鼓つ音を聲という。声(けい)は磬石を繋けた形である。〔説文〕十二上に「音なり。耳に從ふ。殸聲」という。卜文に声・殸に作り、ときに祝禱を収める器の形である𠙵(さい)を加えることがあり、磬声は神を招くときに鼓つものであった。もと神聴に達する音をいう。
齊/斉(セイ・8画)
齊侯敦・春秋晚期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzʰiər(平)。去声の音は不明。『字通』によると語源は三本のかんざしを揃えた象形。揃える所から”整える”の意が生まれた。論語語釈「斎」も参照。
学研漢和大字典
象形文字で、◇印が三つそろったさまを描いたもの。のち下に板または布のかたちをそえた。
儕(セイ)(そろった仲間)・臍(セイ)(上下左右そろったまん中にあるへそ)・劑(セイ)(=剤。そろえて切る)・濟(サイ)(=済。水量をそろえる)などと同系のことば。
意味〔一〕セイ/ザイ
- {動詞・形容詞}ととのう(ととのふ)。ひとしい(ひとし)。きちんとそろう。大小・長さ・行為などが、ちぐはぐすることなくそろう。「均斉」「整斉」「斉一」。
ま{動詞}ととのえる(ととのふ)。ひとしくする(ひとしくす)。きちんとそろえる。「斉駒並駕(セイクヘイガ)(車馬をそろえて進む)」「斉之以刑=これを斉ふるに刑を以てす」〔論語・為政〕 - {名詞}過不足なくそろえて調和した状態。調和のとれた味。「八珍之斉(ハッチンノセイ)」〔周礼・食医〕
- {副詞}ひとしく。そろって。みんな。《類義語》均。「民不斉出於南畝=民は斉しく南畝に出でず」〔史記・平準書〕
- {名詞}国名。周代に太公望呂尚(リョショウ)の封ぜられた国。今の山東省。桓公(カンコウ)の代に覇者(ハシャ)となった。戦国時代には臣下の田氏が国を奪って、戦国の七雄となったが、前二二一年秦(シン)に滅ぼされた。
- {名詞}王朝名。南北朝時代、南朝の一つ。南斉。蕭斉。蕭道成(ショウドウセイ)が宋(ソウ)から位を奪ってたて、建康(今の南京)に都をおいた。七代で梁(リョウ)に滅ぼされた。四七九~五〇二。
- {名詞}王朝名。南北朝時代、北朝の一つ。北斉。高斉。高洋がたて五代で北周に滅ぼされた。五五〇~五七七。
- {名詞}心身をきちんとととのえること。ものいみ。▽斎に当てた用法。zh(iと読む。「斉戒以事鬼神=斉戒してもつて鬼神に事ふ」〔礼記・表記〕
意味〔二〕セイ/ザイ
- {名詞}層がきちんと重なった赤色の雲母。
意味〔三〕シ
- {名詞}衣のすそ。▽長さをそろえてあるので斉という。「斉衰(シサイ)(衣のすそを縫わず、切ったままにした喪服)」「摂斉升堂=斉を摂げて堂に升る」〔論語・郷党〕
字通
[象形]髪の上に、三本の簪笄(しんけい)を立てて並べた形。祭祀に奉仕するときの婦人の髪飾り。祭卓の形である示を加えると齋(斎)となり、斎敬をいう。〔説文〕七上に「禾麥(くわばく)穗を吐きて、上平らかなり」と禾穂の象とするが、髪飾りの整うことをいう字である。簪笄を中央に集める形は參(参)で、簪(かんざし)の「参(まじ)わり」「参差(しんし)」として美しい意となる。〔詩、召南、采蘋〕「齊(うるは)しき季女有り」の齊を、〔玉篇〕に引いて䶒に作り、婦人簪飾の姿をいう。殷周期の方鼎を、自名の器に「齎(せい)」としるしており、斉に方斉の意がある。訓義の多い字であるが、斉敬の義の引伸義が多い。
姓(セイ・8画)
𦅫鎛・春秋中期
論語語釈「氏」も参照。初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯ĕŋ(去)。
血統集団の意が強い「姓」に対して、「氏」は祭祀・軍事共同体で、現代語的に言うと「族」に近い。「姓」は女系、「氏」はローマのgensのような男系と考える事も出来るが、それをまるまる論語の時代に当てはめると勘違いの素となる。(→wiki「氏」)
周代の諸侯に、周王と同じ「姫」姓を名乗る者は多いが、そのほとんどがうそデタラメであること、とうに宮崎市定博士が論文に書いたとおりだ。江戸期の大大名に「松平」姓が多いのと同じで、これはあくまで立て前である。事情が変われば薩長のように倒幕に走る。
対して、中国の「氏」は山賊だと思えばよい。まるで血のつながりはないが、あたかも家族のように結束が強く、末端はお山のためなら命も捨てる。そうでない山賊は、あっという間に崩壊する。イメージとデタラメが先行する「姓」とは違うのだ(論語憲問篇41付記参照)。
学研漢和大字典
会意兼形声。「女+(音符)生」で、うまれた血筋をあらわし、かつ女系祖先にちなむ名なので、女へんを添えた。生・性(うまれつき)と同系。
語義
- {名詞}かばね。血筋をあらわす名。▽姜姓(キョウセイ)(斉(セイ)の姓)・姫姓(キセイ)(周の姓)のように、多くは女系の祖の名に由来し、またはその祖先の住んだ地名にちなむ。同姓は結婚しないというおきては最近にまで及んだ。氏(シ)(うじ)は、職業・身分の名や、地名などにちなんでつける。漢以後は姓と氏は混同し、合わせて姓といい、女性には氏ということが多い。「姓氏」「異姓」「同姓不婚(ドウセイフコン)」。
- (セイトス){動詞}その姓を名のる。「封於項、故姓項氏=項に封ぜらる、故に項氏を姓とす」〔史記・項羽〕
- み「百姓(ヒャクセイ)」とは、もろもろの姓。転じて、多くの庶民のこと。
- 《日本語での特別な意味》かばね。上代、家がらや、世襲の職業をあらわした称号。朝廷からたまわるもので、古くは、臣(オミ)・連(ムラジ)・国造(クニノミヤツコ)・県主(アガタヌシ)などがあった。のち、天武天皇のとき、家がらの尊卑をあらわす称号として、真人(マヒト)・朝臣(アソミ)・宿禰(スクネ)・忌寸(イミキ)・道師(ミチノシ)・臣・連・稲置(イナギ)の八種の姓をおいた。
▽訓の「かばね」は、もと、骨のこと。父系の血筋は、骨に宿ると考えられたことから。
字通
[形声]声符は生(せい)。〔説文〕十二下に「人の生まるる所なり。古の神聖人、母、天に感じて子を生む。故に天子と稱す」(段注本)と、感生帝説話を以て解する。姓の起原が多く神話の形態で語られているからであろう。金文に百生・多生・子■(亻+生)のように、生・(亻+生)の字を用いる。卜文の好・妌・妊など、女部の字には、その姓を示すものが多いと考えられる。
性(セイ・8画)
七年趞曹鼎・西周中期
初出は西周中期の金文。論語の時代は「生」と書き分けられていない。カールグレン上古音はsi̯ĕŋ(去)で、省、姓、騂と同じ。
学研漢和大字典
会意兼形声。生は、芽が地上に生え出るさま。性は「心+(音符)生」で、うまれつきのすみきった心のこと。情とは、心から生じるむきだしの反応の働きのことで、感情の意。
語義
- {名詞}うまれつき持っている心の働きの特徴。▽人間にうまれつき与えられたのが、おおらかな良知だと考えるのが性善説であり、うまれつき与えられたのが、欲求不満だと考えるのが性悪説である。「人之性悪=人之性は悪なり」〔荀子・性悪〕
- {名詞}さが。ひととなり。人や物に備わる本質・傾向。たち。「性本愛邱山=性本邱山を愛す」〔陶潜・帰園田居〕
- {名詞}肉体上の男女の区別。また、インド=ヨーロッパ語文法における名詞・代名詞の性質の一つ。「中性」。
- {名詞}中にひそむもの。外形のもとになるもの。《対語》⇒形(外にあらわれたもの)。「形性」「物性」。
- 《日本語での特別な意味》せい。インド=ヨーロッパ語などにみられる男性・中性・女性などの文法上の区別。
字通
[形声]声符は生(せい)。〔説文〕十下に「人の陽气、性善なる者なり」という。〔左伝、昭二十五年〕「地の性に因る」、〔孟子、告子上〕「是れ豈に水の性ならんや」のように、生物でなくても、それぞれのもつ本質や属性についてもいう。
妻(セイ・8画)
鑄叔皮父簋・春秋早期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsʰiər(平/去)。「サイ」は呉音。
学研漢和大字典
会意。又(て)は、家事を処理することを示す。妻は「又(て)+かんざしをつけた女」で、家事を扱う成人女性を示すが、サイ・セイということばは、夫と肩をそろえるあいてをあらわす。斉(整える、そろう)と同系。また、淒(セイ)(雨足がそろう)とも同系。草書体をかな「め」として使うこともある。
語義
- {名詞}つま。夫の配偶者。「荊妻(ケイサイ)」「糟糠之妻(ソウコウノツマ)(生活苦をともにしたつま)」「兄弟妻子離散=兄弟妻子離散す」〔孟子・梁上〕
- {動詞}めあわす(めあはす)。とつがせてつまとする。▽去声に読む。訓の「めあはす」は「め(女)+あはす」から。《類義語》嫁。「以其子妻之=其の子を以てこれに妻す」〔論語・公冶長〕
字通
[象形]髪飾りを整えた婦人の形。髪に三本の簪(かんざし)を加えて盛装した姿で、婚儀のときの儀容をいう。夫は冠して笄(けい)を加えた人の形。夫妻は結婚するときの儀容を示す字である。〔説文〕十二下に「婦なり。己と齊(ひと)しき者なり」(小徐本)とし、字形について女・屮(てつ)・又(ゆう)に従い、「又は事を持す。妻の職なり」とするが、字形に又を含まず、字も屮声ではない。妻が祭事にいそしむ字は敏で、その字形は妻に手をそえた形である。
省(セイ/ショウ・9画)
大盂鼎・西周早期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はʂi̯ĕŋまたはsi̯ĕŋ(共に上)。
学研漢和大字典
会意文字で、「目+少(小さくする)」で、目を細めてこまごまとみること。析sek(細かくわける)はその語尾がkに転じたことば。
意味〔一〕セイ
- (セイス){動詞}みる。目を細くして注意してみる。細かに分析して調べてみる。「省察」「退而省其私=退いて其の私を省す」〔論語・為政〕
- {動詞}かえりみる(かへりみる)。自分の心を細かにふりかえってみる。「反省」「吾日三省吾身=吾日に三たび吾が身を省みる」〔論語・学而〕
- {動詞}人の安否をねんごろにたずねる。親の安否をよくみてたしかめる。▽親のきげんを朝にうかがうのを定、夕方にたずねるのを省という。「省問」「帰省」。
意味〔二〕ショウ
- {動詞}はぶく。よけいな部分をとりさる。へらす。《類義語》略。「省略」「省刑罰=刑罰を省く」〔孟子・梁上〕
- {名詞}中国の行政区画の一つ。行政区画の単位として最も大きい。「省政府」。
- {名詞}役所。また、役所のランクをあらわすことば。「中書省」。
字通
卜文・金文の形は生に従い、生声。〔説文〕四上に屮に従う形とし、「視るなり。眉の省に従い、屮に従う」という。〔段注〕に「眉に従う者は、未だ目に形われざるなり。屮に従う者は、之れを微に察するなり」とするが、屮はおそらくもと目の上の呪飾、のち生の声が意識されて屮の下部に肥点を加える形になったものであろう。卜辞に王の順省を卜して「王省するに、往来災い亡きか」という。金文に「遹省」の語があり、遹は矛を台上に樹てて示威巡察を行う意。古くは眉飾などを施し、あるいは黥目を加えたものであろう。わが国の「など黥ける利目」もその類であろう。巡察することにより省察の意となり、省察して除くべきものを去るので省略の意となる。
訓義
1)みる、めぐりみる、つまびらかにみる。2)かえりみる、あきらかにする、さとる。3)あやまちをみる、あやまちをさる。4)はぶく、さる、へらす、すくなくする。5)役所、公卿の居る所、禁中、行政の区画名。6)眚と通じ、わざわい。
大漢和辞典
星(セイ・9画)
麓伯星父簋・西周
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsieŋ(平)。
学研漢和大字典
会意兼形声。「きらめく三つのほし+(音符)生」で、澄んで清らかに光るほし。晶(ショウ)・(セイ)と生(ショウ)・(セイ)のどちらを音符と考えてもよい。生は、はえ出たばかりのみずみずしい芽の姿。晶(清らかな光)・青(澄み切ったみず色)・清(澄み切った水)などと同系。
語義
- {名詞}ほし。清らかに光るほし。《類義語》宿。「星宿」。
- {形容詞・名詞}星粒のように小さい。小さい点。「星星(点々と小さい)」「零星(細かい)」。
- {名詞}星占い。「星家」「星士(星占いをする人)」。
- {名詞}かぶとに点々と打ちつけたくぎの頭。
- {名詞}きら星のように並んだ将軍や高官。「将星」。
- {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のうみへび座にふくまれる。ほとほり。
- 《日本語での特別な意味》ほし。つ点。づめぼし。ねらった点。「図星」てねらいをつけた容疑者。「星をあげる」。
字通
[形声]声符は生(せい)。正字は晶に従い、曐に作り、晶は星光の象。〔説文〕七上に「萬物の精、上りて列星と爲る」という。參(参)(しん)は簪(かんざし)の形で、その初形は晶の形を含み、簪の玉光を示す形であった。
政(セイ・9画)
蔡侯紐鐘・春秋晚期
論語語釈「正」も参照。初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯ĕŋ(去)。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、正とは、止(あし)が目標線の━印に向けてまっすぐ進むさまを示す会意文字。征(セイ)(まっすぐ進む)の原字。政は「攴(動詞の記号)+(音符)正」で、もと、まっすぐに整えること。のち、社会を整えるすべての仕事のこと。
正・整(セイ)と同系のことば、という。
意味
- {名詞}まつりごと。社会生活をただしくとりしきる仕事。▽「まつりごと」の訓は、祭りが社会統制のための行事であった日本古代の祭政一致の意識を伝えている。「政治」「任政=政に任ず」「為政者(政をなす者)」「必聞其政=必ず其の政を聞く」〔論語・学而〕
- {動詞}ただす。ただしくする。《類義語》正。「呈政(テイセイ)(著書を他人に贈呈してただしてもらう)」。
- {名詞}物事を行うときの一定の決まりや、やり方。「家政(家を管理する仕事と、そのとりしきり方)」「塩政(塩の専売に関する仕事)」。
- {名詞}公務の責任者。「学政(清(シン)代の学務の長官)」「主政(主任)」。
字通
声符は正。正は他邑を征服すること。これに攴撃を加えて、支配する事を政という。〔説文〕三下に「正なり。攴に從ひ、正に從ふ。正は亦聲なり」とする。正は征服、征は征取、政は支配することをいう。金文の〔禹鼎〕に、「井(邢)方を政めよ」、〔毛公鼎〕に「命を敷き政を敷くに𩁹て、小大の楚賦(胥賦・賦税)をめよ」とあり、政治的経済的な支配を意味するが、ときには〔叔夷鎛〕「朕が三軍を政めよ」のように、軍事・軍政にもいう。
訓義
まつりごと、おさめる。つかさどる、ただす。おきて、おきてとする、とりきめ。えたち、征役。正と通じ、まさに、まさしく。征と通じ、うつ。
大漢和辞典
会意形声文字。攴(軽く叩いて注意する)と正の合字。注意を与えて正す義。正しくないものを正す意。正は声を兼ねて形声。
字解
ただす。まつりごと。おきて、行政を行う。政治を行う人。やくめ。えだち、ぶやく、役。教え、道、人の道。人民の生活を支えるもの。つかさどる。星、日月五星。まさに、まさしく。清朝で京察における人物挙用の基準。姓。とりたて。伐つ。
城(セイ・9画)
元年師兌簋・西周晚期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ĕŋ(平)。「ジョウ」は呉音。
学研漢和大字典
会意兼形声。成は「戈(ほこ)+(音符)丁(うって固める)」の会意兼形声文字で、とんとんたたいて、固める意を含む。城は「土+(音符)成」で、住民全体をまとめて防壁の中に入れるため、土を盛って固めた城のこと。「説文解字」には「城とは民を盛るもの」とある。成・城・盛は同系。
語義
- {名詞}しろ。都市をめぐる城壁。▽中国では、日本とは違い、町全体を城壁でとり巻き、その中に住民をまとめて住まわせる。四方に城門がある。城外の街道沿いに発達した市街地には、さらに郭(外城)をめぐらして、外敵から守る。「城郭」「今雖割六城何益=今六城を割くと雖も何ぞ益せん」〔史記・虞卿〕
- {名詞}城壁で囲まれた町全体。「城市」「城春草木深=城春にして草木深し」〔杜甫・春望〕
- {動詞}きずく(きづく)。城をつくる。「城彼朔方=彼の朔方に城く」〔詩経・小雅・出車〕
- 《日本語での特別な意味》
①しろ。敵を防ぐために土や石で堅固にきずいた大規模な構造物。
②「山城(ヤマシロ)」の略。「城州」。
字通
[形声]声符は成(せい)。成に戍守の意がある。〔説文〕十三下に「以て民を盛(い)るるなり」とし、成を盛れる意とする。〔釈名、釈宮室〕にも「盛なり」とするが、盛はもと粢盛(しせい)(お供え)をいう字であった。成は武器の制作に呪祝を加える意であるから、城とは武装都市をいう。国の初文或(わく)も、城邑の形(囗(ゐ))と戈とに従い、城邑をいう字である。
逝(セイ・10画)
初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȡi̯ad(去)で、同音の忕”ならう”・誓・筮”うらなう”・澨”つきぢ・みぎわ”には、”いく”の語義が無い。噬”およぶ”の初出は同じく『説文解字』。
日本語音で同音の𠧟は、カールグレン上古音・藤堂上古音が不明だが、”ゆく”の意があり、甲骨文から存在する。また征のカ音はȶi̯ĕŋで、音通するとは言いがたいが、”ゆく”の意があり、甲骨文より存在する。
学研漢和大字典
会意兼形声。「辵+(音符)折」。ふっつりと折れるようにいってしまうこと。類義語に死。
語義
{動詞}ゆく。さる。いってしまう。思いきってたち去る。また、ふっつりと死ぬ。「逝者如斯夫=逝く者は斯くの如きかな」〔論語・子罕〕。「騅不逝兮=騅逝かず」〔史記・項羽〕
字通
[形声]声符は折(せつ)。〔説文〕二下に「往くなり」とあり、〔書、大誥〕「昔朕(われ)逝きしとき」、〔詩、小雅、小弁(しょうはん)〕「我が梁(りやう)に逝くこと無(なか)れ」のような古い用例がある。また〔詩〕に「逝(ここ)に」という語詞の用法が多い。のち長逝死去の意に用いる。
栖(セイ・10画)
現行字体の初出は三国時代の隷書。論語の時代に存在しない。「棲」の字体では秦系戦国文字。カールグレン上古音はsiər(平)。同音に西、棲、犀、屖”休む・堅い”、洗、洒”洗う・そそぐ”。”巣・住む”の意では部品の「西」が通用するが、「西」に”せかせか”の語義は『大漢和辞典』にない。
学研漢和大字典
会意兼形声。西は、ざる状をした、鳥のすを描いた象形文字。栖は「木+(音符)西」で、ざるの形をした木の上の鳥のす。類義語に巣。「生」に書き換えることがある。「生息」▽「ねぐらとして住む」の意味では「棲」とも書く。また、「すみか」は「住処」とも書く。
語義
- {名詞}す。ざる状をした、鳥のすみか。《同義語》⇒棲。
- {動詞}すむ。鳥が、すでいこうように、動物が自分のすみかにすむ。《同義語》⇒棲。「栖息(セイソク)(=棲息)」。
- 「栖栖(セイセイ)」とは、息をはずませて忙しそうなさま。せかせか。▽現代音はx4と読む。《同義語》⇒棲棲。「微生畝謂孔子曰、丘何為是栖栖者与=微生畝孔子に謂ひて曰はく、丘なんすれぞ是く栖栖たるや」〔論語・憲問〕
字通
[形声]声符は西(せい)。〔説文〕十二上に「西は、鳥、巣上に在るなり。象形」とし、その鳥巣の形。樹上に巣のあることを栖という。棲はその形声の字。
大漢和辞典
忙しいさま。棲棲、皇皇、徨徨と同じ。「棲棲」は、車馬を調べるさま。安居しないさま。落ち着かないさま。あくせくするさま。忙しいさま。求める所あるが如くで得ない意。栖栖、徨徨。
淸/清(セイ・11画)
者減鐘・春秋早期
初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はtsʰi̯ĕŋ(平)。「シン」は唐音=宋代以降の発音。
学研漢和大字典
会意兼形声。青(セイ)は「生(芽ばえ)+井戸の中に清水のある姿」からなり、きよくすんだことを示す。清は「水+(音符)青」で、きよらかにすんだ水のこと。▽呉音のショウは、六根清浄(ショウジョウ)や清水(ショウズ)のような特殊な場合にしか用いない。浄(きよい)・精(すんだ米)・晴(すみきった日)・睛(セイ)(すみきった目)・晶(すみきった光)などと同系。類義語の澄は、水面にのぼったうわずみのこと。潔は、さっぱりして欲がないこと。付表では、「清水」を「しみず」と読む。
語義
- {動詞}すてる(すつ)。ふりすてる。思いきりよくすてさる。《類義語》捨。「放棄」「棄甲曳兵而走=甲を棄て兵を曳いて走る」〔孟子・梁上〕
字通
[形声]声符は青(せい)。〔説文〕十一上に「朖(あき)らかなり」とあり、清朗の意とし、また「澂(す)みたる水の皃なり」と清澄の意とする。澂は澂澈(ちょうてつ)、澄みきった水をいう。
盛(セイ・11画)
殳季良父壺・西周末期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ĕŋ(平)。
学研漢和大字典
会意兼形声。丁は、たんたんとたたくことをあらわし、打の原字。成は「戊(ほこ)+(音符)丁(テイ)」からなり、四方から土をもりあげたんたんとたたいて城壁をつくることを示す。城(ジョウ)・(セイ)(土を盛った城壁)の原字。盛は「皿(さら)+(音符)成」で、容器の中に山もりにもりあげること。類義語の昌は、明るくさかんなこと。隆は、高くたちのぼってさかんなこと。熾(シ)は、あかあかと目だってさかんなこと。壮は、元気よく強そうなこと。
語義
- {動詞}もる。四方からつみあげて△型にまとめあげる。山もりにする。「盛於盆=盆に盛る」〔礼記・礼器〕
- {名詞}器に山もりにいれたもの。「粢盛(シセイ)(穀物をもったお供え)」。
- {形容詞・動詞・名詞}さかん。さかる。さかんにする(さかんにす)。さかり。力や勢いがたっぷりあるさま。力や勢いがもりあがっているさま。力や勢いが充実する。また、充実させる。また、その状態。▽去声に読む。《対語》⇒衰(おとろえる)。《類義語》昌・隆。「盛大」「茂盛(さかんにしげる)」「盛服(はれ着)」「盛徳之至也=盛徳之至り也」〔孟子・尽下〕
- 《日本語での特別な意味》
①もる。薬を調合して紙や皿にのせる。土をもりあげる。「毒を盛る」「土を盛る」。
②もり。もりあげた量。「盛りがよい」。
③さかり。さかんにあらわれ出る時。「花盛り」。
④さかり。動物が交尾しようとする衝動。「盛りがつく」。
字通
[形声]声符は成(せい)。〔説文〕五上に「黍稷(しよしよく)、器中に在り。以て祀る者なり」とあり、黍稷を盛る意とする。金文の〔史免簠(しめんほ)〕の銘文に「用(もつ)て稻粱を盛(い)る」とあり、その供薦するところを粢盛(しせい)という。〔左伝、哀十三年〕に「旨酒一盛」とあって、酒にもいう。簠には大型の器もあり、多く供えて祀るので、盛多・豊盛の意となる。また尊称として盛意・盛旨など、相手の行為につけていう。
細(セイ・11画)
初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明。王力上古音はsiei(去)、同音無し。董同龢上古音はsiei、同音に西、棲、犀。周法高上古音はser、同音に董同龢+洗、栖、洒、𣳦”川の名”。李方桂上古音はsidh、同音は𣳦のみ。藤堂上古音はser。「サイ」は呉音。
学研漢和大字典
会意兼形声。囟は、小児の頭にある小さいすきまの泉門を描いた象形文字。細は「糸(ほそい)+(音符)囟(シン)・(セイ)」で、小さくこまかく分離していること。先(小さく分離した足さき)・洗(水をほそく分離して流す)・私(小さくわける)・汚(シ)(息が小さくわかれて出る)などと同系。セン(sen)とセイ(ser→sei)の音は、語尾の転じた形で、もと同系。類義語の繊は、先がほそくて物の中にはいりこむこと。「こまやか」は普通「濃やか」と書く。
語義
- {形容詞}ほそい(ほそし)。《類義語》小。「細小」「細声(こごえ)」「膾不厭細=膾は細きを厭はず」〔論語・郷党〕
- {形容詞・名詞}こまかい(こまかし)。こまごましたさま。また、小さい事がら。《対語》粗・略。《類義語》些(サ)。「細密」「詳細」。
- 《俗語》「細作」「奸細(カンサイ)」とは、スパイのこと。
- 《日本語での特別な意味》ささ。名詞について、小さい、かわいらしいの意味をあらわすことば。
字通
[形声]正字は囟(し)に従い、囟声。のち略して田となった。〔説文〕十三上に「𢼸(び)なり」(段注本)と訓し、囟声とする。囟は細かい網目の形。もと織り目の細かいことをいう字であったが、のち細微・微賤の意となる。
※𢼸=微。段注本でなければ元からそう書いてある。白川博士は、どうしてわざわざ分かりにくい字を使いたがるのだろう。幼児性の発露としか思えない。
聖(セイ・13画)
大克鼎・西周晚期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯ĕŋ(去)。
論語の時代、”神聖”の意は全くない。耳や口が優れていることが原義で、”万能”を意味する。おそらく無神論者だったろう孔子は、神秘主義や黒魔術を一切説かなかった。現在で論語をそのように読むのは、後世の儒者が論語に塗り付けたうそデタラメや、現代の世間師の都合による。
学研漢和大字典
会意兼形声。壬(テイ)は、人が足をまっすぐのばしたさま。呈(テイ)は、それに口をそえて、まっすぐ述べる、まっすぐさし出すの意を示す。聖は「耳+(音符)呈」で、耳がまっすぐに通ること。わかりがよい、さといなどの意となる。
意味
- {名詞}ひじり。賢くて、徳のすぐれた人。▽儒家では最高の人格者をいう。《類義語》賢・智。「聖賢」「亜聖(孔子につぐ聖人。孟子のこと)」「必也聖乎=必ず也聖乎」〔論語・雍也〕
- {形容詞}おかしがたくおごそかなさま。「神聖」「聖域」。
- {名詞・形容詞}その道で最高にすぐれた人。この上なくすぐれている。「詩聖」「書聖」。
- {名詞・形容詞}天子のこと。また、天子に関する事につけることば。「今聖」「聖諭(天子のおおせ)」。
- 《日本語での特別な意味》
①ひじり。すぐれた僧。「日蓮聖人(ニチレンショウニン)」「高野聖(コウヤヒジリ)」。
②キリスト教のすぐれた宣教師の名につけることば。▽英語Saint。「聖フランシスコ」。
字通
旧字はに作り、耳+口+壬。〔説文〕十二上に「通なり」と通達の意とし、字を呈声に従うものとするが、字形と合わず、声もまた異なる。卜文に、壬(人の挺立する形)の上に耳をそえた形に作り、聞の初文。神の声を聞きうる人をいう。口(𠙵)は祝禱を収める器の形で、その神の声を聞きうる人を聖という。〔左伝、襄十八年〕に、当時神瞽といわれた師曠が、晋と楚とが戦うにあたって、その勝敗を卜し、風声を聞いて「南風競わず、死声多し」と、楚の敗北を予言した話がある。そのような者が聖者であった。周初の金文〔班𣪘〕に「文王王娰の聖孫」という語がみえ、また金文に「聖なる祖考」や「聖武」「哲聖」など、先人に聖を付していうことが多い。〔詩、小雅、正月〕に「具な予をば聖なりと曰うも、誰か烏の雌雄を知らんや」の句がある。〔論語、述而〕に、孔子は「聖と仁の若きは、則ち吾豈に敢えてせんや」と述べており、聖は人間最高の理想像とされた。
訓義
- ひじり、聖人、知徳のすぐれた人。
- さと、一芸に達した人。
- 天子。天子に関して敬語としてそえる。
- 清酒。濁酒を賢という。
歲/歳(セイ・13画)
公子土折壺・春秋末期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯wad(去)。「サイ」は呉音。
学研漢和大字典
会意。「戉(エツ)(刃物)+歩(としのあゆみ)」で手鎌の刃で作物の穂を刈りとるまでの時間の流れを示す。太古には種まきから収穫までの期間をあらわし、のち一年の意となった。穂(スイ)(作物のほがみのる)と縁が近い。もと、サイのほかに、カイ(クワイ)という音もあった。年は稔(ネン)と近く、作物の実がねばりをもって成熟するまでの期間。殷(イン)代には、一年のことを一祀といった。付表では、「二十・二十歳」を「はたち」と読む。▽年齢を表すとき、俗に「歳」の代わりに「才」を用いることがある。
語義
- {名詞}とし。よわい(よはひ)。一年。また、としつき。年齢。《類義語》年・載(サイ)・祀(シ)。「歳暮」「歳月不待人=歳月人を待たず」〔陶潜・雑詩〕
- {名詞}そのとしの作物のみのり。作柄。また、豊作。《類義語》年(ネン)。「歳凶=歳凶なり」〔礼記・曲礼下〕
- {名詞}その時の運勢。としまわり。「歳、不我与=歳、我にくみせず」〔論語・陽貨〕
- {副詞}としごとに。毎年。一年について。「歳一見=歳ごとに一たび見る」。
- {名詞}木星のこと。▽木星は、ほぼ十二年で太陽を一周するので、これを「歳星」といい、略して「歳」という。昔は歳星の位置を天文測量のたいせつな目じるしとした。「歳在鶉火=歳は鶉火に在り」〔春秋左氏伝・昭八〕
- {単位詞}としや年齢を数えるときのことば。
字通
[会意]字の初形は犠牲を割く戉(えつ)(鉞(まさかり))の形。のちその刃部に步(歩)を大小に分けてしるし、歲の字形となった。従って今の字形は、戉+步。〔説文〕二上に「木星なり」とし、步に従って戌(じゆつ)声とするが、戌に従う字ではない。卜文に祭名として戉の字がみえ、のち歲の字形を用いる。戉は犠牲を宰割する意であろう。〔書、洛誥〕に「王、新邑に在りて烝・祭・歲す」とあって、古くは祭名に用いた。金文の〔毛公鼎〕に「用(もつ)て歲し、用て政(征)せよ」とあるのも祭祀の意。また卜辞や〔舀鼎(こつてい)〕に「來歲」、斉器の〔国差𦉜(こくさたん)〕に「國差、立事(事に涖(のぞ)む)の歲」のように、年歳の意とする。おそらく歳祭は、年に一度の大祭であったのであろう。木星を歳星といい、古い暦術と関係が深いが、歳星の知識は戦国期以後にみえる。
腥(セイ・13画)
初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsieŋ(平)。同音は星、醒、猩。部品の星の初出は甲骨文だが、”なまぐさい・生肉”の語義は無い。
学研漢和大字典
会意兼形声。「肉+(音符)星(ちかちか光るほし、刺激がするどい)」。醒(セイ)(つんと刺激されてさめる)と同系。「なまぐさ」「なまぐさい」は「生臭」「生臭い」とも書く。
語義
- {名詞・形容詞}なまぐさい(なまぐさし)。なま肉や脂肪の、つんと鼻にくるにおい。また、そのようなにおいがするさま。「高原水出山河改、戦地風来草木腥=高原水出でて山河改まり、戦地風来たりて草木腥し」〔元好問・壬辰十二月〕
- {名詞}においがつんと鼻にくるなま肉。「君賜腥、必熟而薦之=君腥を賜へば、必ず熟してこれを薦む」〔論語・郷党〕
字通
[形声]声符は星(せい)。〔説文〕四下に「星の見(あら)はるる食豕(しよくし)なり。肉中をして小息肉を生ぜしむるなり。肉星に從ひ、星は亦聲なり」とあり、小息肉とは小さなつき肉をいう。〔周礼、天官、庖人〕に「膏腥(かうせい)を膳す」とあり、脂肪の多い生肉をいい、臭気の強いものである。〔書、酒誥〕に「腥聞、上に在り」のように、古くから腥臭の意に用いる。しもふり肉は、星に従うことからの転義であろう。
誠(セイ・13画)
「成」獻侯鼎・西周早期
初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȡi̯ĕŋ(平)。同音は成、城、盛。部品の「成」に”まこと(に)”の語釈を大漢和辞典が載せ、初出は甲骨文。
学研漢和大字典
会意兼形声。成(セイ)は「戈(ほこ)+(音符)丁(とんとうつ)」からなり、道具でとんとんとうち固めて城壁をつくること。かけめなくまとまるの意を含む。誠は「言+(音符)成」で、かけめない言行。城(かけめなく固めたしろ)・成(かけめなくまとまる)などと同系。類義語に信。「まこと」は「実」「真」とも書く。
語義
- {名詞}まこと。うそのない心。また、ごまかしのない言行。▽訓は「真事(まこと)」の意。《類義語》真。「推誠=誠を推す」「誠者天之道也=誠なる者は天之道也」〔中庸〕
- (セイナリ){形容詞}まこと。かけめやごまかしのない。真実の。「誠心誠意」「誠哉是言也=誠なる哉是の言也」〔論語・子路〕
- {動詞}まことにする(まことにす)。ごまかしのない状態にする。かけめのないものにしあげる。「誠之者人之道也=これを誠にするは人の道なり」〔中庸〕
- {副詞}まことに。→語法「①」
語法
①「まことに」とよみ、「本当に」「いつわりなく」と訳す。「是誠不能也=これ誠に能はざるなり」〈これは本当にできないのです〉〔孟子・梁上〕
②「まことに~ば」「もし~ば」とよみ、「かりに~だとすると」と訳す。強い仮定条件の意を示す。反訓のひとつ。「誠如是則覇業可成、漢室可興矣=誠にかくの如(ごと)くんば則(すなは)ち覇業成る可く、漢室興る可し」〈もしこのようになるならば、天下を平定することもできるし、漢の帝室を復興させることもできる〉〔蜀志・諸葛亮〕
字通
[形声]声符は成(せい)。〔説文〕三上に「信なり」と訓する。〔書、太甲下〕に「鬼神に常享(じゃうきゃう)無し。克(よ)く誠なるものは享(う)く」とあり、誠信・誠実をいう。言は神に対する誓約、成は戈に呪飾を施して聖化したもので、これを加えて、其の意を誠にすることをいう。
靜/静(セイ・14画)
初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はdzʰi̯ĕŋ(上)。
学研漢和大字典
会意兼形声。「爭(とりあい)+(音符)靑」。靑(=青)は、すみきった意を含み、とりあいをやめて、しんとすみわたった雑音のない状態になること。清(すみわたる)・靖(セイ)(しずまる)と同系。類義語の閑(カン)はなにもしないであいまがあくこと。異字同訓に鎮まる・鎮める「内乱が鎮まる。反乱を鎮める。痛みを鎮める」 沈める「船を沈める」。旧字「靜」は人名漢字として使える。
語義
- {形容詞・動詞}しずか(しづかなり)。しずめる(しづむ)。しずまる(しづまる)。しんとすみわたった。雑音や動きがなくしずまりかえったさま。しんとする。動かない。《対語》⇒動・噪(ソウ)(さわがしい)・乱。「安静」「静寂」「鎮静」。
- {名詞・形容詞}からだや心を動かさないこと。また、そのさま。▽禅宗では、さとりに入る静坐(セイザ)を重んじ、宋(ソウ)学では主静(心を散らさないことを重んじる)の説をとなえた。「静止」。
- {名詞}しずけさ。動かない状態。しずかな所。「処静=静に処る」。
字通
[会意]旧字は靜に作り、靑(青)+爭(争)。靑は青丹、爭は力(耒耜(らいし)の形。すき)を上下よりもつ形。争奪の爭とは同じでない。耜(すき)を清めて虫害を祓う儀礼。〔説文〕五下に「審らかにするなり」、〔繋伝〕に「丹靑明審するなり」と采色を施す意とするが、耜を修祓する儀礼。これによって耕作の寧静をうることができるとされたのであろう。周初の金文〔班𣪘(はんき)〕に「東或(国)を靜(やす)んず」、後期の〔毛公鼎(もうこうてい)〕に「大いに從(みだ)れて靜(やす)らかならず」とみえ、寧静の意に用いる。本来は農耕儀礼として農器を修祓する儀礼であった。粢盛(しせい)の清らかなことを〔詩、大雅、既酔〕に、「籩豆(へんとう)靜嘉」といい、嘉も字形中に力(すき)の形を含み、鼓声を加え、祝禱して祓う農耕儀礼をいう字であった。静嘉と合わせて、粢盛の明潔の意とする。竫(せい)・靖(せい)・瀞(せい)には通用の義がある。斉器の〔国差■(缶+詹)(こくさたん)〕に「用(もつ)て旨酒を實(みた)さん。旨(うま)からしめ靜(きよ)からしめん」とあるのは、瀞の意である。
際(セイ・14画)
初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯ad(去)。同音に祭、穄”くろきび”。部品の「祭」(カ音tsi̯adまたはtsăd)に”その時”の語釈は『大漢和辞典』に無い。「サイ」は呉音。
学研漢和大字典
会意兼形声文字。祭は「肉+手+示(まつり)」からなる会意文字で、お供えの肉をこすってよごれをとることを示す。こすりあわせるの意を含む。際は「阜(かべ)+(音符)祭」で、壁と壁とがこすりあうように、すれすれに接することをあらわす。察(サツ)(こすってよごれをとって見る)・擦(こすってよごれをとる)などと同系。また、搓(サ)(こする)・拶(サツ)(こする、もみあう)などとも縁が近い
語義
- (サイス){動詞・名詞}相接してたがいにすれあう。ふれあう。また、他とのふれあいや交わり。「際会」「交際(人と人とがもみあいふれあうこと)」「国際(国どうしがふれあうこと)」「高不可際=高くして際すべからず」〔淮南子・原道〕
- {名詞}きわ(きは)。二つの物がすれすれに接する境め。「水際」「天際(空と地の接するさかいめ)」「秋冬之際(秋と冬の接するさかい)」。
- {名詞}きわ(きは)。他のものとのふれあい方。また、互いの領域の接しぐあい。「分際(他とのふれあいからみた自分の領域)」「実際(物事のふれあい方の実情)」「真際(物事のふれあい方の真相)」。
- {名詞}時勢や変化などとのふれあい方。また、その時の接しぐあい。しおどき。めぐりあわせ。「際遇」「際可之仕(サイカノシ)」〔孟子・万下〕
- 《日本語での特別な意味》とき。また、場合。「この際はとりやめる」。
字通
[会意]𨸏(ふ)+祭(さい)。𨸏は神霊の陟降する神梯。そこに祭卓をすえて祭る。神と人との相接するところ、いわゆる神人の際である。〔説文〕十四下に「壁の會なり」と壁間の空隙の意とするが、際は人の至りうる極限のところで、〔淮南子、原道訓〕「高くして際(いた)るべからず」のようにいう。際会・際限のように用いる。金輪際とは、地底の果てをいう。
大漢和辞典
→リンク先を参照。
精(セイ・14画)
初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯ĕŋ(平)。同音に菁”ニラの花”、晶”ひかり”、旌”はた”。晶の字に水晶という如く鉱物結晶の意があり、「精に通ず」と大漢和辞典は語釈を立てている。晶は甲骨文から存在する。
学研漢和大字典
会意兼形声。青(セイ)は「生(はえたばかりの芽)+丼(井戸にたまった清い水)」の会意文字で、よごれなく澄んだ色をあらわす。精は「米+(音符)青」で、よごれなく精白した米。清(すみきった)・靜(セイ)(=静。しんとすみきった)・睛(セイ)(すんだひとみ)・晴(すみきった空)などと同系。
語義
- {名詞}きれいについて白くした米。▽粗・喞(ソウ)(玄米)に対する。「精米」「食不厭精=食は精を厭かず」〔論語・郷党〕▽この用例は、「精を厭(イト)はず」と読み、「精白するほどよい」とする説もある。
- {名詞}よごれやまじりけをとり去って残ったエキス。「酒精(アルコール)」「精髄」。
- {名詞}こころ。人間のエキスであるこころ。「精気」「励精(心をはげます)」「精神」「精、交接以来往兮=精、交接して以て来往す兮」〔宋玉・神女賦〕
- {名詞}もののけ。山川にひそむ神。「精霊」「山精水怪(山の精と、海のばけもの)」。
- {名詞}男性のエキスである液。「精液」「遺精」「精子」「男女構精、万物化生=男女精を構せて、万物化生す」〔易経・壓辞下〕
- {形容詞}よごれがなく澄みきっている。「精白」「精良」。
- {形容詞}くわしい(くはし)。手がゆきとどいていてきれいなさま。また、巧みですぐれているさま。《対語》⇒粗(あらい)・雑。「精巧」「精兵」「精明強幹(ゆきとどいて、やり手である)」「尤精書法=尤も書法に精し」「精義入神、以致用也=義を精しうして神に入るは、以て用を致すなり」〔易経・壓辞下〕
- {形容詞}雑念をまじえず、それひと筋であるさま。《類義語》専。「専精」「精進(ショウジン)」「心意不精=心意精ならず」。
- {形容詞}《俗語》きれいさっぱり。「精光」。
- {名詞}すみきった光。▽晶に当てた用法。「五精(五つのすみきった星)」「水精(=水晶)」。
- {名詞}澄んだひとみ。▽睛(セイ)に当てた用法。「目精(ひとみ)」。
字通
[形声]声符は靑(青)(せい)。〔説文〕七上に「擇ぶなり」とあり、米を択ぶ意とする。〔論語、郷党〕に「食(し)は精を厭(いと)はず」とあり、また〔山海経、中山経〕に「糈(しよ)(供米)には五種の精を用ふ」とあって、糈とは神に供えるため、しらげた穀米をいう。のちすべて精美・精良のものをいい、精神をもいう。
請(セイ・15画)
中山王壺・戦国末期
初出は上掲戦国末期の金文で、論語の時代に存在しないが、『学研漢和大字典』に以下の通り言う。
従って論語の時代には「(言)青」と書いた可能性があり、こちらは論語時代の金文が存在する。
また音には平声(カールグレン上古音dzʰi̯ĕŋ:うける)と去声(tsʰi̯ĕŋ:もとめる)の二系統があり、前者の同音に靜(静)の字がある。『大漢和辞典』によるその語釈に”はかる”があり、四声を無視すれば音通する。
また同音に情の字があって、”こころ・意欲”の意があり、音通するが、戦国文字までしか遡れない。後者の同音は清と凊”つめたい”で、意味上からは置換候補にならない。
学研漢和大字典
会意兼形声。青(セイ)とは「生(あお草)+丼(井戸の清水)」をあわせた会意文字で、あおく澄んでいること。請は「言+(音符)青」で、澄んだ目をまともに向けて、応対すること。心から相手に対するの意から、まじめにたのむの意となった。類義語の乞は、物ごいをすること。
語義
セイ/シン(上声)
- {動詞・名詞}こう(こふ)。まともに目を向けて相手にお願いする。心からたのむ。たのみごと。《類義語》乞(キツ)。「懇請」「請託」「請益=益さんことを請ふ」〔論語・雍也〕
- {動詞}こう(こふ)。上役や君主にお願いする。「請示(指示を願う)」「請罪=罪を請ふ」。
- {動詞}こう(こふ)。→語法「①」。
- {動詞}まともに接待する。また、目上の人に心をこめておめにかかる。《同義語》腟。「請安(心からごきげんをうかがう)」「召請(まねいて、たいせつにもてなす)」。
- 「普請(フシン)」とは、寺社をたてるため、あまねく寄附をこうこと。
セイ/ジョウ(平声)
- {動詞}もらいうける。「勧請(カンジョウ)(寺社で寄附をもらいうけること)」。
- 《日本語での特別な意味》うける(うく)。うけとる。また、引きうける。「請け合う」「請負(ウケオイ)」。
字通
形声・声符は青。〔説文〕三上に「謁するなり」とあり、入謁することをいう。情と通用することがあり、〔荀子、成相〕「其の請を明らかにす」〔史記、礼書〕「請文倶に尽くす」の例がある。
騂(セイ・17画)
初出は後漢の『説文解字』も見えない。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsi̯ĕŋ(平)。
学研漢和大字典
形声。「馬+(音符)辛(シン)」。あるいは、辛(刃物で切る)と同系で、切った血のようにあかい意か。
語義
- {名詞}あかうま。やや黄色がかったあかい毛色の馬。
- {形容詞・動詞}あかい(あかし)。あかい。また、あかくする。「騂顔(セイガン)」「渉筆騂我顔=渉筆我が顔を薹うす」〔陸游・秋興〕
- {名詞}いけにえにする、あかい毛色の牛。
- 「薹薹(セイセイ)」とは、弓の調子のよいさま。「騂騂角弓、翩其反矣=騂騂たる角弓は、翩として其れ反す矣」〔詩経・小雅・角弓〕
字通
[形声]もと𩥍に作り、声符は■(上下に羊+牛)(せい)。卜文にその字がある。赤黄色の馬、また牛をいう。〔説文新附〕十上に「馬の赤色なるものなり」とあり、犠牲に用いた。〔論語、雍也〕に「犂(り)牛(雑毛の耕牛)の子も、騂(あか)くして且つ角あらば、用ふること勿(なか)らんと欲すと雖も、山川(の神)其れ諸(こ)れを舍(す)てんや」とみえる。
夕(セキ・3画)
秦公鎛・春秋早期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzi̯ăk(入)。
学研漢和大字典
象形。三日月を描いたもの。夜(ヤ)と同系で月の出る夜のこと。diak→yiεk→ziεkと変化したもので、夜diag→yiaときわめて近い。▽もとの字体は月と同じだが、ことばとしては別。類義語に暮。付表では、「七夕」を「たなばた」と読む。
語義
- {名詞}ゆう(ゆふ)。ゆうべ(ゆふべ)。日暮れがた。太陽が西にかたむくとき。《対語》⇒朝。「朝聞道、夕死可矣=朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」〔論語・里仁〕
- {名詞}よる。《類義語》夜。「経夕=夕を経」「此夕我心、君知之乎=此の夕の我が心、君これを知るか」〔白居易・与微之書〕
- {動詞・名詞}月をまつる。また、その祭礼。
字通
[象形]夕の月の形。〔説文〕七上に「莫(くれ)なり。月の半ば見ゆるに從ふ」と半月の象とする。卜辞に「卜夕」とよばれるものがあり、王のために毎夕「今夕、𡆥(とが)亡(な)きか」と卜しており、わが国平安期の毎日招魂の礼に近い。殷周期には古く朝夕の礼があり、金文に「夙夕(しゆくせき)を敬(つつし)む」という語がみえ、夙夕に政務が行われた。また大采・小采といい、そのとき会食し、同時に政務をとった。その大采の礼を朝といい、朝政という。〔国語、魯語下〕にも「少采に月に夕す」とあって、その古儀を伝えている。
尺(セキ・4画)
初出は戦国末期の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶʰi̯ăk(入)で、同音に赤、斥。「シャク」は呉音。
学研漢和大字典
象形文字で、人が手幅で長さをはかる。その手の姿を描いたもの。手ひと幅の長さは二二センチメートル余り。指一本の幅を一寸といい、指十本の幅が一尺に当たる。一つ一つと渡っていく意を含み、度(ド)・(タク)(手幅で計る)・渡(一足一足とわたる)などと同系のことば。
語義
- {単位詞}長さの単位。一尺は十寸。▽周代の一尺は、大尺で二二・五センチメートル。小尺(咫(シ))で一八センチメートル。のち、日本では約三〇・三センチメートル。
- {名詞}ものさし。「刀尺」「巻尺」。
- {形容詞}わずかであるさま。「尺地莫非其有也=尺地も其の有に非ざるはなし」〔孟子・公上〕
- 《日本語での特別な意味》手紙のこと。「尺牘」。
字通
[象形]手の指の拇指(おやゆび)と中指とを展(ひら)いた形。上部は手首、下部は両指を又状に展いた形で、わが国の「あた(咫)」にあたり、寸の十倍。寸は一本の指の幅。わが国の「つか(握、指四本の幅)」の四分の一にあたる。〔説文〕八下に「十寸なり。人の手、十分を卻(しりぞ)きたる動脈を寸口と爲す。十寸を尺と爲す。尺は規榘(きく)(ものさし)の事を指尺(しせき)(斥)する所以なり。尸(し)に從ひ、乙(いつ)に從ふ。乙は識(しる)す所なり。周の制、寸尺咫尋(しじん)常仞の諸度量、皆人の體を以て法と爲す」といい、尺を尸と乙に従う字とするが、それでは字の形義を説きがたい。尺蠖(せきかく)は尺とり虫。指間を展く形が、この虫の進むときの姿勢に似ている。
石(セキ・5画)
鄭子石鼎・春秋中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ăk(入)。呉音は「ジャク」、「シャク・コク」は慣用音。
学研漢和大字典
象形。がけの下に口型のいしのあるさまを描いたもの。碩(セキ)(充実したあたま)・妬(ト)(勘気がいっぱいにつまる)・貯(いっぱい)・堵(ト)(土をつめてかためる)などと同系。類義語の岩は、ごつごつしたいわ。「岩の小さなかけら。いし」の意味では、硬かったり価値がなかったりして役に立たないものにたとえることもある。
語義
- {名詞}いし。質のかたくつまったいし。「岩石」「隕石(インセキ)」。
- {名詞}文字を刻んだ石碑。また、いしでつくった楽器。磬(ケイ)や石鼓など。「金石(古代の青銅器と石碑)」。
- {形容詞}かたくて融通がきかない。働きがなくて不毛である。物が育たず、価値がない。「石田(作物が育たない田地)」「石女(うまずめ)」。
- {単位詞}容量の単位。一石は十斗で、周代では一九・四リットル。▽現代はd!nと読む。担(ひとかつぎの重さ)に当て、タンと読むことがある。また、斛(コク)に当て、コクと読む。
- {名詞}古代の漢方医学で、はり治療に用いた石のはり。石ばり。《類義語》鍼(シン)。「鍼石(シンセキ)(金属や石のはり)」。
- 《日本語での特別な意味》
①容量の単位。一石とは十斗のこと。
②昔、船の大きさの単位。一石は、十立方尺。
③材木の容積の単位。一石は十立方尺。▽「斛」と同じ。
字通
[会意]厂(かん)+口。厂は崖岸の象。口は卜文・金文の字形によると𠙵(さい)に作り、祝禱を収める器の形。〔説文〕九下に「山石なり。厂の下に在り。口は象形なり」と口を石塊の形とするが、嚴(厳)・巖(巌)の従うところも𠙵の形であり、嚴は敢(鬯酌(ちようしやく)の形)に従っており、儀礼を示す字である。宕(とう)は廟、祏(せき)は祭卓の示の形に従い、宗廟の主、いわゆる郊宗石室の神主である。啓母石の神話をはじめ、石に対する古代の信仰を伝える資料が多い。
赤(セキ・7画)
頌鼎・西周末期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶʰi̯ăk(入)。
論語では孔子の弟子・公西赤子華の名として登場。
学研漢和大字典
会意。「大+火」で、大いにもえる火の色。赭(シャ)(あか)・灼(シャク)(まっかにもえる)・炙(シャ)(火をもやす)などと同系。類義語に紅。
語義
- {名詞}あか。火のもえる、あかい色。▽五行説では、殷(イン)の人は白を、周の人は赤をとうとんだという。また、南の色、夏の色に当てる。《類義語》紅・朱。「近朱者赤=朱に近づく者は赤し」。
- {形容詞}あかい(あかし)。色があかい。まじりけがなく熱っぽい。「赤子」「赤誠(真心)」「赤心」。
- {形容詞}中心にあってたいせつな。▽唐代に県を中央から地方へ赤・畿(キ)・緊(キン)・望と分類した。「赤県神州(セキケンシンシュウ)(中央にあるたいせつな土地の意で、中国のこと。乕衍(スウエン)の用いたことば)」。
- {形容詞}はだかの。なにもないむき出しの。《類義語》空。「赤手(すで)」「赤裸裸」「赤地千里(みわたすかぎりの荒れ地)」。
- {動詞・形容詞}赤い血を流す。血がふき出すようにひどい。「赤舌(ひどい悪口)」「赤族(一族すべてを殺す)」。
- {形容詞}《俗語》共産主義の象徴。共産軍や労働組合が赤を旗じるしとしたことから。「赤軍(中国では紅軍)」。
- 《日本語での特別な意味》あか。あかい(あかし)。共産主義者。また、共産主義の思想をもっていること。
字通
[会意]大+火。〔説文〕十下に「南方の色なり。大に從ひ、火に從ふ」とあり、〔段注〕に南方大明の色の意であるという。大は人の正面形。これに火を加えるのは禍殃を祓うための修祓の方法であり、また、さらに攴(ぼく)を加える赦(しや)は、赦免を意味する字である。〔周礼、秋官、赤犮(せきふつ)氏〕は、火を用いて禍害を防ぐことを掌る。一切を清め終わった心を赤心、一切を失い果てたことを赤貧・赤手のようにいう。
昔(セキ・8画)
國差𦉜・春秋
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯ăk(入)。下記『字通』によれば原義は”干し肉”で、”むかし”の意に転じたのは仮借。原義を示すための「腊」の字の初出は前漢の武威簡で、王莽の時代の資料と言われている。つまり「昔」→”むかし”の意に確定するのは、前漢末期。
学研漢和大字典
会意。「日+しきかさねるしるし」で、時日を重ねたこと。藉(重ねた敷き草)・籍(重ねておく竹簡の書物)・席(重ね敷く敷物)などと同系。また、昨(一つ前に重なった日)とも縁が近い。類義語に古。
語義
- {名詞・副詞}むかし。時日の重なったこと。▽文の最初に抜き出す場合は、「昔者(むかし)」「疇昔(チュウセキ)(むかし)」などという。《対語》⇒今。《類義語》前。「昔日」「昔者、斉景公問於晏子=昔、斉の景公晏子に問ふ」〔孟子・梁下〕
- 「憶昔(オモウムカシ)」とは、唐詩の常用語で、過ぎ去ったことを思い浮かべて歌う意。「憶昔、封書与君夜=憶ふ昔、書を封じて君にあたへし夜」〔白居易・与微之書〕
- {名詞}夜。または前夜。「通昔(一晩じゅう)」。
字通
[仮借]本義は腊肉で、うす切りの肉片と日に従い、腊の初文。旧昔の意に用いるのは仮借。〔説文〕七上に「乾肉なり。殘肉に從ふ。日以て之れを晞(かわ)かす。俎(そ)と同意なり」とあって、腊の意とする。のち旧昔の字に用い、乾肉には形声字の腊が作られた。時を示す今・曾・嘗・未などは、もとみな別にその初義があり、副詞とするのは仮借の用法である。
※「腊」の初出は前漢の武威簡である。
席(セキ・10画)
九年衛鼎・西周中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzi̯ăk(入)。
学研漢和大字典
形声。「巾(ぬの)+(音符)庶(ショ)の略体」で、巾印をつけて座ぶとんを示す。苴(ショ)(敷物)・藉(セキ)(敷き草)と同系。類義語の筵(エン)は、延ばし広げるむしろ。蓐(ジョク)・褥(ジョク)は、柔らかい敷きぶとん。茵(イン)は、草で編んだ敷物。付表では、「寄席」を「よせ」と読む。▽敷物の意味の「むしろ」は「筵」とも書く。
語義
- {名詞}むしろ。がまや、いぐさで編んだ敷物。転じて、広くすわる所や寝る所にしく敷物。《類義語》薦(わらの敷物)。「織席=席を織る」「避席=席を避く」「席不正不坐=席正しからざれば坐せず」〔論語・郷党〕
- {名詞}すわる場所。「同席=席を同じうす」。
- (セキス){動詞}しく。敷物をしく。転じて、前人の働きの上に便乗する。《同義語》藉。「席渓畔=渓畔に席す」。
- {名詞}職務上のポストや成績表の中のポスト。「首席」。
- 《日本語での特別な意味》せき。
①つ落語や講談を演じる場所。寄席。「席亭」
②宴会や会合の場。「席料」。
字通
[会意]初形は广(げん)+蓆の形。室中に席を布く意。〔説文〕七下に「藉(し)くものなり」(段注本)とし、字を庶の省に従うとするが、庶は烹炊の象であるから、関係がない。藉は祭藉。神への供薦のものをおく席。長者との席の間は一丈を函(い)れるので、目上への手紙の脇つけには函丈という。
借(セキ・10画)
初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯ăɡ(去)。同音に唶”泣く・歎く”。部品の「昔」に”借りる・貸す”の語釈は『大漢和辞典』に無い。「シャク」は呉音。
学研漢和大字典
会意兼形声。昔は「重なりを示すしるし+日」の会意文字で、日数を重ねること。借は「人+(音符)昔」で、金・物・力が足りないとき、それを上に重ねて補助すること。金や力を重ね加えてやるの意だから、かす、かりるの両方に用いる。助(ジョ)(力を重ね加える)・苴(ショ)(重ね敷く)・藉(シャ)・(セキ)(重ね敷く)と同系。
語義
セキ
- {動詞}かりる(かる)。人のものをかりる。「尽借巴人之車=尽く巴人の車を借る」〔春秋左氏伝・定九〕
- {動詞}かす。人にものをかす。「有馬者借人乗之=馬有る者は人に借してこれに乗らしむ」〔論語・衛霊公〕
シャ
- {動詞}固有のものではなく、かりにあてがう。「仮借」。
- 「借問(シャモン)」とは、「ちょっとお尋ねしたい」の意。▽唐詩で用いられる慣用語。《同義語》⇒且問。「借問酒家何処在=借問す酒家は何処に在りや」〔杜牧・清明〕
字通
[形声]声符は昔(せき)。〔説文〕八上に「假(か)るなり」とあり、他の力によることをいう。〔詩、大雅、抑〕「借(たと)ひ未だ知らずと曰ふも」のように、古くから仮令(たとい)の意にも用いる。
戚(セキ・11画)
戈戈火姬簋・西周中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsʰ(入)。藤堂上古音はts’ök”。『大漢和辞典』の第一義は”オノ・まさかり”。第二義として”いたむ”等が現れる。では、親族や友人など、人が亡くなって悲しむ範囲を指すという。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、尗は、まめの細いつるで、小さく縮んだ意を含む。戚は「戉(まさかり)+〔音符〕尗(ちいさい)」で、もと小さい手おののこと。促(ソク)(身近にせまる)に当てて、身近な親戚の意に用い、寂(セキ)(心細い)に似た意に用いて、心細く思いわずらう意となった。原義のままではあまり用いられない。
意味
- {名詞}みうち。ごく身近な人の意から、親戚(シンセキ)の意。▽特に、女の縁でつながる親戚。「外戚(ガイセキ)」「国戚(コクセキ)(皇室と縁組している親族)」。
- {動詞}うれえる(うれふ)。身近にひしひしと感ずる。思いわずらう。細かく小さく心をくだく。「戚戚(セキセキ)(くよくよするさま)」「小人長戚戚=小人は長に戚戚たり」〔論語・述而〕
- {名詞}うれい(うれひ)。思いわずらい。心配。「休戚相関=休戚相ひ関す」「自詒伊戚=自ら伊の戚を詒す」〔詩経・小雅・小明〕
- {名詞}おの(をの)。まさかり。小さい手おの。のち、武楽の舞のとき、手に持って舞うおの。「朱干(シュカン)、玉戚(ギョクセキ)(朱塗りの楯(タテ)と玉の斧)」〔礼記・明堂位〕
字通
[形声]声符は尗(しゆく)。尗は戚(まさかり)の頭部の形画像に、刃光の下放するさまを加えたもの。尗に戈を加えて、戉戚の象とする。〔説文〕十二下に「戉(ゑつ)なり」とあり、鉞(まさかり)の意。〔詩、大雅、公劉〕「干戈(かんくわ)戚揚(せきやう)あり」の〔伝〕に、「戚は斧なり。揚は鉞(まさかり)なり」とあり、戚は楽舞に用いた。〔礼記、文王世子〕に「大樂正は、干戚(かんせき)を舞ふこと~を學(をし)ふ」、また〔礼記、楽記〕「干戚羽旄(うばう)」、〔礼記、明堂位〕「朱干玉戚」など、干(たて)と戚とを以て武舞を舞う。〔左伝、昭十二年〕に圭玉を削って戚の柲(ひつ)(柄を装着するところ)とする話があり、戚は多く儀器として用いられた。
惜(セキ・11画)
初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsi̯ăk(入)。同音は昔とそれを部品とする腊”ほじし”、舄”カササギ”とそれを部品とする潟。部品の「昔」に”惜しむ”の語釈は大漢和辞典に無い。「シャク」は呉音。
学研漢和大字典
会意兼形声。昔(セキ)は、日が重なることで、重なる意を含む。惜は「心+(音符)昔」で、一度きりでは忘れ去らず、心中に残り重なって思いがつのること。類義語の吝(リン)は、けちけちすること。嗇(ショク)は、自分の手に取りこんで出さないこと。愛は、おしくて胸の詰まる思いのすること。
語義
- {形容詞}おしい(をし)。いつまでも心が残って、残念だ。もったいない。「惜乎=惜しい乎」〔論語・子罕〕
- {動詞}おしむ(をしむ)。もったいないと思う。思い切れず、残念がる。また、大切にする。「愛惜(アイセキ)」「可惜=惜しむべし」「洛陽女児惜顔色=洛陽の女児顔色を惜しむ」〔劉廷芝・代悲白頭翁〕
- {副詞}おしむらくは(をしむらくは)。文の初めにつけて、おしいことにはの意をあらわす。「惜未知兵法=惜しむらくはいまだ兵法を知らず」〔日本外史・義家〕
字通
[形声]声符は昔(せき)。〔説文〕十下に「痛むなり」とあり、痛惜の意とし、〔広雅、釈詁一〕に「愛(をし)むなり」とあって愛惜の意とする。昔声の字に数しげく乱れる意があり、いくたびも思いかえすような情をいう。
跡(セキ・13画)
「𨒪」師㝨簋・西周末期
初出は不明。論語の時代に確認できない。カールグレン上古音はtsi̯ăk(入)。同音に借、踖”ふむ”。異体字「蹟」「𨒪」「迹」の初出は西周末期の金文。
学研漢和大字典
会意。亦は、胸幅の間をおいて、両わきにあるわきの下を示す指事文字。腋(エキ)の原字。跡は「足+亦」で、○‐○‐○と間隔をおいて同じ形の続く足あと。類義語の痕(コン)は、根を残す傷あと。蹤(ショウ)は、縦に細長く続く足あと。址(シ)は建造物の土台が残ったもの。異字同訓にあと 跡「足の跡。苦心の跡が見える。容疑者の跡を追う。跡目を継ぐ」 後「後の祭り。後を頼んで行く。後から行く。後になり先になり」。「蹟」の代用字としても使う。「跡・手跡・史跡・奇跡・真跡・筆跡・旧跡・古跡・遺跡」。
語義
- {名詞}あと。○‐○‐○型に、同じ間をおいて点々と続く歩いたあと。転じて、足あと。《同義語》⇒迹(セキ)・蹟(セキ)。「足跡」「踪跡(ソウセキ)(たてに長く続く足あと→ゆくえ)」。
- {名詞}あと。物があったあと。また、物事が行われたあと。《同義語》⇒蹟・迹。「筆跡(=筆蹟)」。
字通
[形声]正字は〔説文〕二下に迹(せき)の重文としてあげる𨒪・蹟。迹・跡はその俗字。〔説文〕に「迹は歩む處なり」と歩迹の意とする。字の初形𨒪・蹟の形義によっていえば、朿(せき)は神聖な表木で征服支配、貝はその地より徴する賦貢、その徴する織物を績、農穀を積という。その支配の遂行を成蹟という。亦は朿の譌形。本来は政治的意味をもつ字であるが、のち、あしあとの意に用いる。
皙(セキ・13画)
初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsiek(入)。同音は錫、析”裂く”、裼”肩脱ぐ”、緆”細布”、淅”米をとぐ”。
論語では曽子の父、曽点子皙(皙は下記の通り肌が白いこと)のあざ名として登場するが、そもそも曽子は孔子の弟子ではないし、父親はなおさらで、おそらく漢代になって創作された人物。その結果名前の表記も揺れている。『史記』弟子伝では「曾蒧字皙」とあるが(蒧は草の名)、早くから異論があったことが『論語集釋』より知れる。史記の異本では「曾𪒹字皙」とあり、𪒹は”顔が黒い”ことで、いみ名とあざ名が対応しない。イシダイではあるまいし、白黒段だら模様の顔など想像も付かない。
学研漢和大字典
会意兼形声。「白+(音符)析(セキ)(くっきりとわける)」で、くっきりと区分されてしろいこと。▽晳(セキ)は、別字。
※晳:あきらか。下が”白”ではなく”日”。
語義
- {形容詞}しろい(しろし)。くっきりと浮き出てしろいさま。「白皙(ハクセキ)」。
字通
[形声]声符は析(せき)。〔玉篇〕に折(せつ)声の晣を正字とし、晢を重文として録し、「明らかなり」という。また制(せい)声の字をも録している。〔説文〕七下に白に従う皙の字があり、「人の色白きなり」という。〔論語〕にみえる曾子の父曾点(點)は、字は子皙、色の黒白によって対待の義をとり、名字とする。皙はのち晳の形に誤記されることが多く、また晰とも混用されるが、晰は日光の昭晰なること、皙・晳は人の色白であることをいう。
踖(セキ・15画)
初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯ăk(入)。同音に借、跡で、共に”小刻み”の語義を持たない。
学研漢和大字典
会意兼形声。「足+(音符)昔(セキ)(しきかさねる)」。
語義
セキ(入)
- {動詞}小きざみに足ぶみする。小またで、ちぢこまって歩く。
- 「踖踧(セキシュク)」「踧踖(シュクセキ)」とは、身をちぢめてつつしむさま。
セキ(入)
- {動詞}ふむ。下にしいてふむ。《同義語》⇒藉。
字通
[形声]声符は昔(せき)。〔説文〕二下に「長脛にて行くなり」という。〔礼記、曲礼上〕に「席を踖(ふ)むこと毋(なか)れ」とあり、〔爾雅、釈訓〕に「踖踖は敏なり」とみえ、足早にふみ歩く意。趞と声義の近い字である。〔論語、郷党〕「君在(いま)すときは、踧踖如(しゆくせきじよ)たり」とは、足をすくめて歩くような恭敬の状をいう。
切(セツ・4画)
「七・切」(金文「乙鼎」春秋晚期・集成2607)
現行字体の初出は後漢の『説文解字』。それ以前は「七」と書き分けられなかった。カールグレン上古音はtsʰiet(入)で、同音は無し。去声の音は不明。
七の字は、甲骨文から存在する。「国学大師」は次の通り言う。
また李学勤「字源」に、次の通りある。
論語子路篇28では定州竹簡論語で「」と記すが、この字は『大漢和辞典』にも記載が無い。
ただし旁はおそらく「丰+心」で、「丰」は『学研漢和大字典』に「散乱した草」というが、これは別字「丯」の語義。『字通』に「草木のさかんに茂るさま」と言い、「金文の字形は、禾の穂が高く伸びる形に作る」という。現代中国語では「豊」の簡体字として用いる。
従って「」は、心豊かに言う言葉、心のこもった言葉と解せる。
音については、会意・形声ともに旁が優先するのが通常だから、「丰」または「心」いずれかと思われる。いずれであるかは、被修飾部より修飾部が優先されるのが通常だから、「ホウ」と思われる。
学研漢和大字典
会意兼形声。七は、┃印の中ほどを━印できりとることを示す指事文字。切は「刀+(音符)七」で、刃物をぴったりときり口に当ててきること。類義語の断は、上から下へと、ずばりときり離すこと。絶は、途中でぷつりときること。剪(セン)は、刀で端をそろえてきること。載(サイ)・截は、きって小さくすること。斬は、刃が食いこんできれめをつけること。斯は、ばらばらにきり離すこと。伐は、刃物で二つにきること。
語義
- {動詞}きる。刃物をぴたりと当て、切れめをきれいにきる。「抜剣切而啗之=剣を抜き切りてこれを啗ふ」〔史記・項羽〕
- (セッス){動詞}骨を刃物できったりこすったりして、細工する。「如切如磋、如琢如磨=切するがごとく磋するがごとく、琢するがごとく磨するがごとし」〔詩経・衛風・淇奥〕
- (セツナリ){形容詞}刃物をじかに当てるように、ぴたりとくっついて膚にこたえるさま。「懇切」「親切(身近についてゆきとどく)」「切問而近思=切に問ひて而近く思ふ」〔論語・子張〕《類義語》親・即。
- (セツナリ){動詞・形容詞}せまる。片時も休まずせきたてる。すぐ目前にくっついているさま。「切迫」「秋吟切骨玉声寒=秋吟は骨に切りて玉声寒し」〔白居易・酬厳郎中詩〕
- (セツニ){副詞}痛切にいう、との意から、打ち消しや禁止を強めることばとなった。けっして。「切不可為=切に為すべからず」。
- 「切脈(セツミャク)」とは、漢方で医者が脈を見ること。
- 「諷切(フウセツ)」「譏切(キセツ)」とは、相手をちくりときるように責めてけなすこと。
- {名詞}中国に古くからある漢字音の表記法の一つ。たとえば、東の音は「徳紅の反」「徳紅の切」のように、徳で子音 t を示し、紅で母音uxを示す。この発音のあらわし方を「反切(略して切)」という。▽「ぽま」の現代音は(gi.)「み~や」は(gi))と読む。
- 「一切(イッサイ)」とは、すべての意。
- 《日本語での特別な意味》
①きれ。布や紙のきれ端。転じて、布のこと。
②きり。きれ。くぎれ。「切りが悪い」「幕切れ」。
字通
[会意]七+刀。〔説文〕四下に「刌(き)るなり」とし、七(しち)声とするが、七は骨節の形。膝のような部分をいう。そこを切り離して分解する。〔詩、衛風、淇奥(きいく)〕「切するが如く磋(さ)するが如し」の〔伝〕に、「骨を治するを切と曰ふ」とみえる。切断には殊に注意と技術とを要するので、緊切・切要の意となる。
舌(セツ・6画)
舌方鼎・殷代末期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はʰi̯at(入)。「ゼツ」は呉音。
学研漢和大字典
会意。「干(おかして出入りする棒)+口」で、口の中から自由に出入りする棒状のしたをあらわす。▽舌(カツ)(活・括に含まれる)とは別字だが、楷書(カイショ)では混同される。達(自由に出入りする)と同系。「楽器などの、振動して音を出すもの」の意味の「した」は「簧」とも書く。
語義
- {名詞}した。口中で自由に動くした。「舌頭」。
- {名詞}ことばを話すこと。▽舌でものをいうことから。「饒舌(ジョウゼツ)(おしゃべり)」「舌人」「駟不及舌=駟も舌に及ばず」〔論語・顔淵〕
- {名詞}した。器の中で自由に動くもの。鐘や吹奏楽器の中の振れる所など。
字通
[象形]口中より舌が出ている形。卜文の字形は舌端が分かれている。〔説文〕三上に「口に在りて言ひ、味を別つ所以(ゆゑん)の者なり」(段注本)とし、また「干口に從ふ。干は亦聲なり」とするが、形も声も異なる。〔段注〕に「言は口を犯して之れを出だし、食は口を犯して之れに入る」と干犯の義を説くが、拘泥の説である。〔六書略〕に「吐舌の形に象る」とするのがよい。卜文の聞・㱃には、口舌の形をそえている。
折(セツ・7画)
翏生盨・西周末期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯ad(平)またはȶi̯atまたはȡi̯at(共に入)。
学研漢和大字典
「折」は会意文字で、「木を二つに切ったさま+斤(おのできる)」。ざくんと中断すること。▽析(セキ)(ばらばらに離す)・拆(タク)(たたき割る)は、別字。
意味
- {動詞}おる(をる)。中ほどでざくんと木や骨をおる。また、おりたたむ。「折柳=柳を折る」「折頸而死=頸を折りて死す」〔韓非子・五蠹〕
- {動詞}おる(をる)。くじく。途中で中断する。「挫折(ザセツ)」「面折(面と向かって相手の気勢をくじく)」「折節=節を折る」「百敗而其志不折=百敗すれども其の志折けず」〔蘇轍・三国論〕
- {動詞}おる(をる)。がくんと曲げる。おれ曲がる。「転折」「折腰=腰を折る」。
- (セッス){動詞}さだめる(さだむ)。判定をくだす。さばく。「折獄(セツゴク)(刑をきめる)」「君子以折獄致刑=君子は以て獄を折め刑を致す」〔易経・豊〕
- {動詞}命がたえる。死ぬ。「夭折(ヨウセツ)(若いのに命が中断される。若死にすること)」。
- {動詞}損をする。▽この場合の中国音はsh.。「折本(セッホ°ン)(元手に食いこむ)」「良賈不為折閲不市=良賈は折閲の為にとて市せずんばあらず」〔荀子・修身〕
- {動詞}《俗語》換算して値を決める。「折色(南から北へ運河で運ぶ米を、銀に換算して納める)」。
- {単位詞}《俗語》割引。一割引を九折(九掛け)という。《類義語》扣(コウ)。「折扣(セッコウ)」。
- 《日本語での特別な意味》
(1)おり(をり)。そのとき。また、機会。「お会いした折に」「折をみて」。
(2)おり(をり)。おり箱。
字通
[会意]初形は㪿に作り、両屮(てつ)+斤。両屮(草)を手にもつ形は芻(すう)で、蒭の初文。斤を加えて草木を折断することを折という。〔説文〕一下に「斷つなり。斤もて艸を斷つに從ふ」とあり、金文の字形と合う。金文に「大巫司誓」を「大無𤔲折(しせい)」に作り、折は誓と声義の通ずる字。草木などを折ることが、誓約に関する行為であった。「矢誓」というときの矢は「矢(ちか)う」とよみ、その誓の初文は、矢を折る形にしるす。
竊/窃(セツ・9画)
初出は戦国文字で、異体字の「窃」と共に論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsʰiat(入)で、同音は存在しない。近音同訓も存在しない。
学研漢和大字典
会意兼形声。原字は「穴(あな)+廿(両手を示す形の変形)+米+虫」の会意文字で、穴にしまった米を、虫が人知れず食いとることを示す。窃は「穴+(音符)切」で、すばやく一部を切りとること。切(さっと一部分をきりとる)・疾(すばやい)などと同系。類義語の偸(トウ)は、中みを抜きとる。盗は、討(さがし求める)と同系で、ほしい物をさぐってぬすみとること。「ぬすむ」は普通「盗む」と書く。また、「ひそか」は「密か」「私か」とも書く。
語義
- {動詞・名詞}ぬすむ。ぬすみ。人に気づかれず、そっとすばやく人のものをとる。また、ぬすみ。また、その人。《類義語》盗・偸(トウ)。「剽窃(ヒョウセツ)(他人の文を人知れずぬすみまねる)」「攘窃(ジョウセツ)(入りこんでぬすむ)」「窃命=命を窃む」「雖賞之不窃=これを賞すと雖も窃まず」〔論語・顔淵〕
- {副詞}ひそかに。→語法「①」。
- {副詞}ひそかに。→語法「②」
語法
①「ひそかに」とよみ、「人知れず」「こっそり」と訳す。「窃比我於老彭=窃(ひそ)かに我を老彭に比す」〈こっそり自分を老彭(の態度)に比べている〉〔論語・述而〕
②「ひそかに」とよみ、「私個人としては」「自分勝手にいえば」と訳す。私見を述べる場合の謙譲の意を示す。「窃為大王不取也=窃(ひそ)かに大王の為に取らざるなり」〈勝手な言い分ながら、大王(項羽)のためにとりあげません〉〔史記・項羽〕。「窃謂=窃かに謂へらく」「窃以為=窃かに以為へらく」。
字通
[会意]旧字は竊に作り、穴+米+禼(せつ)。禼は小さな虫の集まる形。穀中の小虫が穀実を食いあらし、外面からは気づかれないような状態を竊という。ゆえにひそかに盗む意がある。〔説文〕七上に「盜、中より出づるを竊と曰ふ」とし、「禼・廿(じふ)は皆聲なり。廿は古文疾、禼は古文偰(せつ)なり」とするが、字は土倉中の穀が蠹食(としよく)されるさまを示す字である。蠹の初文は東(槖(ふくろ)の象形)の中に虫のいる形。囊中の穀が蠹食されることを蠹といい、倉中の穀が蠹食されることを竊という。
梲(セツ/タツ・11画)
初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶi̯wat(入)。入声で入-没、入-末の音は不明。
学研漢和大字典
会意兼形声。「木+(音符)兌(ぬけ出る)」で、ぬけ出た棒や支柱。
語義
セツ
- {名詞}うだち。うだつ。家のはりの上に出た短い支柱。「山節藻貯=節を山にし貯に藻けり」〔論語・公冶長〕
タツ
- {名詞}つえ(つゑ)。ふところにしのばせてぬき出す護身用の棒。しこみづえ。
字通
[形声]声符は兌(えつ)。兌に説(せつ)の声がある。〔説文〕六上に「木杖なり」とある。〔爾雅、釈宮〕「梁~の上楹、之れを梲と謂ふ」とあり、梁上の短柱をいうのは、また別の一義。
絏/紲(セツ・12画)
初出は後漢の『説文解字』にも見えない。同義語の「紲」の初出は『説文解字』。カールグレン上古音は不明。藤堂上古音は泄と同じで、siat(入)またはdiad(去、頭のdの下に○)。「紲」のカ音はsi̯at(入)、藤音はsiat(入)。
学研漢和大字典
会意兼形声。「糸+(音符)曳(エイ)(横にひきのばす、ひっぱる)」で、横にひっぱる意を含む。拽(エイ)(横にひきのばす)・世(横にのびた一連の年)と同系。
語義
- {名詞}きずな(きづな)。馬を引くなわ。《同義語》⇒紲。
- 「縲絏(ルイセツ)」とは、罪人をしばる長いなわ。また、転じて牢屋(ロウヤ)。「雖在縲絏之中、非其罪也=縲絏の中に在りと雖も、其の罪に非ざるなり」〔論語・公冶長〕
字通
[形声]声符は世(せい)。世に泄(せつ)の声がある。〔説文〕十三上に「系なり」とし、〔左伝、僖二十四年〕「臣、覊紲(きせつ)を負ふ」の文を引く。覊紲は馬の手綱。〔礼記、少儀〕に「犬には則ち紲を執る」とあり、犬にもいう。獄に繋がれることを縲紲(るいせつ)という。紲袢(せつぱん)は夏のうすい肌襦袢で、また別義。唐の太宗世民の名を避けて、泄を洩、紲を絏に作り、その字体の字も用いられている。
節(セツ・13画)
子禾子釜・戦国
初出は戦国時代の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン/藤堂上古音はtsiest(入)/tset。カールグレン音による同音は存在しない。
「𠬝」(金文)
ただし『広韻』で声調・韻目・字母を同じくする「𠬝」(フク/セツ、上古音不明)(節=はたを手にして治める)があり、カ・藤上古音共に不明だが、甲骨文から存在する。すると「節用」は「𠬝用」であり、”費用をよく管理して=節約して”の意となる。
論語の時代、君主が軍隊など支配下にある組織や器物の使用を臣下に許可する際、割り符の片方を臣下に与えた。もう片方は君主が保管しておき、使用を許可する際には使者に持たせて、割り符が一致すれば動員できた。
その割り符を「節」といい、おそらく竹の節のようにその割れ目で二つの割り符が一致するからだろう。ここから、権限はあっても使用には許可が要るような、制御状態にあることを節制といい、使用を慎むことから”つましい”の意味になった。
これは虎符と呼ばれる割り符。
縦にスパリと二分され、片方を前線の将軍が、片方を君主が保管した。文字が刻まれることがあり、片身に「これを某地の将軍に与える」もう片身に「これを首都に置く」のように記された。銅で作られたものは戦時に用い、竹で作られたものは演習に用いられたという。
また君主の権限を使者や将軍に委任したことを示す旗印があり、これも「節」という。
学研漢和大字典
会意文字。即(ソク)は「ごちそう+ひざを折ってひざまずいた人」の会意文字。ここでは「卩」の部分(ひざを折ること)に重点がある。節は「竹+ひざを折った人」で、ひざをふしとして足が区切れるように、一段ずつ区切れる竹のふし。⇒即。膝(シツ)(関節で区切れるひざ)・切(小さくくぎる)・屑(セツ)(小さく区切れた物)などと同系のことば。異体字「節」は人名漢字として使える。
意味
- {名詞}ふし。竹のふし。さかいめがあって、ひとふしずつ区切れた部分。また、竹のひとふしを割ってつくったひょうし木。「盤根錯節」「関節」「撃節=節を撃つ」。
- {名詞}ふし。音楽の調子。ひと区切りずつのリズムに乗る音曲のひとふし。「節奏」。
- {名詞}一年を時候の変わりめで区切った区分。▽一年を二十四節に区切る。「季節」「節季」。
- {名詞}季節や生活の区切りとなる祝日。「節会(セチエ)」「国慶節」。
- {名詞}区切りの一つ一つ。またそれを数えることば。「一節(ひと区切り)」「章節」「文節」。
- {名詞}割り符。竹の札を二つに割り、甲と乙がその片方ずつを持っており、後日ふしめをつきあわせて証拠とするもの。「符節」。
- {名詞}使者が使者のしるしとして持つ割り符。「使節(割り符を持った使者)」「持節=節を持す」。
- (セッス){動詞}物事の範囲をはみ出さないようにおさえる。ふしめを越えないように、ほどほどにおさえる。「節制」「節約」「節用而愛人=用を節して人を愛す」〔論語・学而〕
- {名詞}行いをおさえるかどめ。みさお。「節操」「枉節=節を枉ぐ」「守節=節を守る」「礼節」。
- {形容詞}かってな行いをおさえて、切れめをつけるさま。みさおがかたいさま。「節婦」。
- {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陲陞(兌下坎上(ダカカンショウ))の形で、ほどほどにおさえるさまを示す。
- 《日本語での特別な意味》
- ふし。民謡ふうの音曲。また、メロディ。「追分節(オイワケブシ)」「浪花節(ナニワブシ)」。
- せつ。手紙やあいさつなどで、とき。おり。「その節は失礼」。
- ふし。部分。箇所。「怪しむべき節あり」。
- ノット。船のはやさの単位。一ノットは、一時間に一海里(一八五二メートル)走るはやさのこと。▽英語knotの意訳。
字通
声符は卽(即)〔説文〕五上に「竹の約なり」とあり、竹節をいう。〔説文〕に卩を節の初文とするが、卩は人の跪坐する形で、人の膝の部分を強調する字。節は卽声。竹約とは竹節。〔鄂君啓節〕は楚の懐王六年、鄂君に与えた車節・舟節で、銅製の節であるが、竹節の形に鋳込まれている。〔周礼、秋官、小行人〕に六節の規定があり、道路・門関・都鄙の管節はみな竹符を用いた。符節によってその行為が規定されているので、節度・節義・節操の意となり、また節侯・節奏まど、すべて秩序・法度のある意に用いられる。
大漢和辞典
ふし。みさお。さだめ。のり、法度。礼節。しん、等差。ほどめ。くぎり。ならい、ならわし。おこない、行事。とき、おり。時候の区分の名。まわりあわせ。ますがた。とまる。やむ、とどめる。ほどよい。かなう。はぶく。かぎる。ただす。つましい。やすらか。割り符、手形。はたじるし。いわい日。ともまわり。楽器のない。高く険しいさま。易、六十四卦の一。諡。姓。
攝/摂(セツ・13画)
初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はi̯ap(入・韻目「葉」)で、同音に葉・妾と、これらを部品とする漢字群など多数。獵(猟。戦国晩期の金文が初出)もその一つであり、i̯apの音には”とる”意があるようだ。葉に『大漢和辞典』は”おさえる・あつめる”の語釈を載せる。
入声・韻目「帖」の音は不明。部品の聶(ささやく・とる)は戦国文字が初出。
学研漢和大字典
会意兼形声。聶(ニョウ)は、耳三つを描き、いくつかの物をくっつけることを示す。囁(ショウ)(耳に口をつけてささやく)の原字。攝は「手+(音符)聶」で、あわせくっつけること。散乱しないよう多くの物をあわせて手に持つ意に用いる。旧字「攝」は人名漢字として使える。
語義
- {動詞}とる。そろえて持つ。からげて持つ。「摂衣=衣を摂る」「摂斉升堂=斉を摂げて堂に升る」〔論語・郷党〕
- {動詞}とる。手や、わくの中におさめる。散乱しないようにおさめる。「摂生」「摂影(写真をとる)」。
- {動詞}かねる(かぬ)。いくつかの物事をひと手にあわせ持つ。「統摂(あわせ統べる)」「官事不摂=官事は摂せず」〔論語・八佾〕
- (セッス){動詞}かわる(かはる)。代行してすべてを手中におさめる。「代摂」「尭老而舜摂也=尭老いて而舜摂す也」〔孟子・万上〕
- {動詞}はさまる。二つ以上のものの間にはさまれる。両がわに合わせ持ったさまになる。《類義語》介。「摂乎大国之間=大国の間に摂る」〔論語・先進〕
- (ショウス)(セフス){動詞}押さえる。押さえられる。また、自由にできないようにおどす。《同義語》懾(ショウ)。
- 《日本語での特別な意味》「摂津(セッツ)」の略。「摂州」。
字通
[形声]旧字は攝に作り、聶(しよう)声。〔説文〕十二上に「引きて持するなり」とあり、衣のすそをとって、整える意の字であろう。訓義多く、摂政・摂生・摂理・摂取など、他より取って、これを保持する意がある。
說/説(セツ・14画)→悅/悦
(金文大篆・篆書)
初出は戦国文字。カールグレン上古音は”とく”の場合はɕi̯wad(去)または”よろこぶ”の場合ɕi̯wat(入・韻目「薛」字母「書」)。同音は存在しない。入声で韻目「薛」字母「以」の音は不明。甲骨文・金文には見られないが、同音同訓の「兌」が確認できる。「兌」は”よろこぶ”の他に”ことば”の語釈を『大漢和辞典』が載せる。
「兌」(甲骨文・金文)
「兌」のカールグレン上古音はdʰwɑd(去。hは息漏れの記号)。
武内本による置換字「悅/悦」の初出は戦国文字で、カールグレン上古音はdi̯wat(入)。論語語釈「悦」も参照。
学研漢和大字典
会意兼形声文字。兌(タイ)・(ダ)は「ハ(ときはなす)+兄(頭の大きい人)」の会意文字で、人の着物をときはなすこと。脱の原字。説は「言+(音符)兌」で、ことばでしこりをときはなすこと。脱(ときはがす)・税(収穫物をはがしてとる)などと同系のことば。
意味
- (1){動詞}とく。しこりや難点を、ことばでときあかす。《類義語》釈(シャク)。「解説」「説明」「説之不以道、不説也=これを説くに道を以てせざるは、説ばざるなり」〔論語・子路〕
(2){動詞}とく。結んでしばってあったものを、ときはなす。《類義語》解。
(3){名詞}いわれや理屈をときあかした意見・主張。また、議論や解説をもりこんだ文章。「邪説」「異説」。
(4){動詞}《俗語》はなす。また、ものがたる。「説書(講談)」「説白(せりふ)」。 - {動詞}とく。相手に説明して自分の意見に従わせる。▽「説得(セットク)」「説伏(セッフ°ク)」などは、今ではセツと読む。「遊説(ユウゼイ)」「説大人則藐之=大人に説くには則ちこれを藐んぜよ」〔孟子・尽下〕
- {動詞・形容詞}よろこぶ。よろこばしい(よろこばし)。心のしこりがとけてよろこぶ。はればれするさま。《同義語》悦。「喜説(キエツ)(=喜悦)」「学而時習之、不亦説乎=学びて時にこれを習ふ、また説(よろこ)ばしからずや」〔論語・学而〕
字通
声符は兌。兌は巫祝(兄)が神に祈り、神意を承けて惝悦(訳者注:エクスタシー)の状態にある意で、八の形は神気の降る意。悅(悦)・脫(脱)と声義の通ずるところがある。〔説文〕三上に「說き釋くなり」とし、「一に曰く、談說するなり」というが、普通の談説のことではない。〔周礼、春官、大祝〕の「六祈」の一に「說」があり、神に祈り、神意を承けることをいう。「説す」「説ぶ」の訓があり、稅(税)・悅と通ずる。
訓義
(1)とく、神につげいのる。(2)のべる、あげつらう。(3)さとす、おしえる。(4)ときあかす、ときほぐす。(5)悦と通じ、よろこぶ、神意がとける、うちとける、たのしむ。(6)税と通じ、おく、とりさる、やどる。
大漢和辞典
薛(セツ・16画)
薛侯壺・春秋中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯at(入)。
学研漢和大字典
会意。「艸+𨸏(つみかさねる)+辛(刃物で切る)」。たばね重ねて切るよもぎをあらわす。▽薜(ヘイ)は、別字。
語義
- {名詞}よもぎの一種。かわらよもぎ。
- {名詞}砂浜に自生する草の名。乾燥させた根は「香附子(コウブシ)」と呼び、薬用にする。はますげ。
- {名詞}周代の国名。今の山東省滕(トウ)県の東南部にあった。戦国時代に斉(セイ)に滅ぼされた。
字通
(条目無し)
新漢語林
形声。
- 草の名。よもぎ(蓬(ホウ))。
- はますげ。海辺に生ずる草の一種。
- 周代の国名。今の山東省内。
中日大字典
褻(セツ・17画)
毛公鼎・西周末期
初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はsi̯at(入)。
学研漢和大字典
会意兼形声。「衣+(音符)熱(身近い、ねばりつく)の略体」。無声のnがsにかわったことば。
語義
- {名詞}はだにつけるふだん着。はだぎ。「紅紫不以為褻服=紅紫は以て褻服と為さず」〔論語・郷党〕
- {動詞・形容詞}けがれる(けがる)。けがす。からだにつけてけがれる。よごす。よごれている。「褻器(セッキ)」。
- {動詞}身近においておろそかにする。「褻必(セットク)」。
- {動詞・名詞}なれる(なる)。なれしたしむ。親しい間がら。《同義語》⇒穀。「褻狎(セッコウ)」「雖褻必以貌=褻と雖も必ず貌を以てす」〔論語・郷党〕
- 《日本語での特別な意味》け。日常。平生。《対語》⇒晴(ハレ)。「褻にも晴れにも」。
字通
[形声]声符は埶(じ)。埶は金文では邇近(じきん)の邇の意で、その初文。〔説文〕八上に「私服なり」とあり、ふだん着をいう。また〔詩、鄘風、君子偕老〕「是れを褻袢とす」の句を引く。いま紲袢(せつぱん)に作る。褻に邇近の意があり、金文の〔毛公鼎〕に「朕(わ)が褻事」とあり、〔詩、小雅、雨無正〕「曾(すなは)ち我が暬御(せつぎよ)」というのと近い。褻翫・褻瀆・褻狎の意に用い、また便器をもいう。
絶/絕(ゼツ・12画)
『字通』所収金文
初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzʰi̯wat(入)で、同音は無い。
学研漢和大字典
会意。「糸+刀+卩(セツ)(節の右下)」で、刀で糸や人を短い節に切ることを示す。ふっつりと横に切ること。右側の部分は、もと色ではなくて刀印を含む。卩は、また、人の姿と解してもよい。脆(セイ)(もろくて切れやすい)・最(きわめて小さいこま切れ)などと同系。類義語に切。異字同訓に断。
語義
- {動詞}たつ。ずばりと横にたち切る。つながりを切る。《対語》⇒継。《類義語》断。「断絶」。
- {動詞}たつ。たち切ってやめる。また、関係をたち切る。切りすてる。きっぱりことわる。「絶交」「絶聖棄智=聖を絶ち智を棄つ」〔老子・一九〕
- {動詞}たつ。たえる(たゆ)。物が切れてとだえる。「絶命」「読易韋編三絶=易を読みて韋編三たび絶つ」〔史記・孔子〕。「在陳絶糧=陳に在りて糧を絶つ」〔論語・衛霊公〕
- {動詞}わたる。直線的に横切る。「絶漠=漠を絶る」。
- {名詞}ふっつりとなくなること。死のこと。「就絶=絶に就く」。
- {形容詞}たえてないほど、非常にすばらしい。《類義語》殊。「絶景」「絶色」。
- {形容詞}人がいない。「絶域」。
- {副詞}非常に。また、ひどく。「絶賛」「秦女絶美」〔史記・伍子胥〕
- {副詞}たえて。下に「不」「無」など否定のことばをともなって、完全にそうであるさまをあらわすことば。まったく。《類義語》断(ダンジテ)・決(ケッシテ)。「絶不可得=絶えて得べからず」「絶無僅有=絶えて無く僅かに有り」。
- 「絶対」とは、もと、相対する例がないこと。転じて、まったくの意。
- {名詞}「絶句」の略。四句より成る、漢詩の一体。六朝時代末期から唐代にかけて流行した。「五絶(五言絶句)」。p;:
字通
[形声]声符は色(しよく)。色に脃(ぜい)の声がある。〔説文〕十三上に「斷絲なり。糸に從ひ、刀に從ひ、卩(せつ)に從ふ」とあり、〔段注〕に卩声の字とするが、字は明らかに色に従う。金文に字をに作り、〔説文〕に古文としてその字形を録する。絶は色糸の意であろうが、染色のため脆弱となることがある。またその色の絶妙の意がある。おそらく
に代わって、のち、その字が行われたものであろう。
千(セン・3画)
大盂鼎・西周早期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsʰien(平)。
学研漢和大字典
仮借。原字は人と同形だが、センということばはニンと縁がない。たぶん人の前進するさまから、進・晋(シン)(すすむ)の音をあらわし、その音を借りて一〇〇〇という数詞に当てた仮借字であろう。それに一印を加え、「一千」をあらわしたのが、千という字形となった。あるいは、どんどん数え進んだ数の意か。証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるため、「阡」「仟」と書くことがある。▽草書体をひらがな「ち」として使うこともある。▽「千」の全画の変形からカタカナの「チ」ができた。
語義
- {数詞}ち。数で、百の十倍。▽漢文では「ち」という訓は用いない。「千歳(センザイ)・(チトセ)」「千代(センダイ)・(チヨ)」。
- (センタビ)・(センタビス){副詞・動詞}千回。千回する。「人十能之己千之=人十たびしてこれを能くすれば己これを千たびす」〔中庸〕
- {副詞}数の多いことを示すことば。「千万」「千山万水」。
字通
[形声]声符は人(じん)。卜文・金文は、人の下部に肥点を加えて、人と区別する。〔説文〕十部三上に「十百なり。十に從ひ、人に從ふ」と会意に解するが、〔繫伝〕には人声とする。金文に「萬年」を「萬人」としるす例があって、人を年の意に用いる。人にその声もあったのであろう。卜文に二千・三千を、人の下部に二横画・三横画を加えてしるす例があるので、千が人声に従う字であったことは疑いがない。
川(セン・3画)
五祀衛鼎・西周中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶʰi̯wan(平)。
学研漢和大字典
象形。く印は地の間を縫って流れる川の象形。川は、三筋のく印で川の流れを描いたもの。貫(つらぬく)と同系であろう。穿(セン)(つらぬく、うがつ)と最も近い。類義語に河。付表では、「川原」を「かわら」と読む。▽草書体をひらがな「つ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「つ」ができ、略体からカタカナの「ツ」ができたか。▽「かわ」は「河」とも書く。
語義
- {名詞}かわ(かは)。くねくねと地の間を縫って流れるかわ。《類義語》河・江。「山川」「川沢」「猶防川=なほ川を防ぐがごとし」〔春秋左氏伝・襄三一〕
字通
[象形]水の流れる形。〔説文〕十一下に「毋(貫)穿(くわんせん)して通流する水なり」(段注本)とあり、穿(せん)の声を以て説く。〔詩、大雅、雲漢〕に焚(ふん)・薫(くん)・聞(ぶん)・遯(とん)と韻しており、それが古音であろう。仮名の「つ・ツ」の字源と考えられている字である。
占(セン・5画)
(甲骨文)
初出は甲骨文。カールグレン上古音はtɕi̯am(平)。
学研漢和大字典
会意。「卜(うらなう)+口」。この口は、くちではなく、ある物やある場所を示す記号。卜(うらない)によって、一つの物や場所を選び決めること。佔拠(センキョ)の佔(場所をとる)・店(場所をきめたみせ)・粘(ネン)(一か所にねばる)と同系。「うらなう」「うらない」は「卜う」「卜い」とも書く。
語義
- (センス){動詞・名詞}うらなう(うらなふ)。うらない(うらなひ)。うらないをしてAかBかどちらかに決める。また、そのこと。▽平声に読む。「占卜(センボク)」「不占而已矣=占はざらんのみ」〔論語・子路〕
- {動詞}しめる(しむ)。どれかを選んでそれを決める。どれか、どこまでかと、自分の持ち分を決めて、いすわる。「独占」「占小善者率以録=小善を占むる者も率ね以て録せらる」〔韓愈・進学解〕
- {動詞}決定した結論を述べる。「口占」。
字通
[会意]卜(ぼく)+口。卜は卜兆の形。口は𠙵(さい)で、祝詞の器。神に祈って卜し、神意を問うことを占という。〔説文〕三下に「兆(てう)を視て問ふなり」とあり、会意とする。その卜占の辞は、のち神託にふさわしい神聖な形式、韻文で示されることが多く、卜筮の書である〔易〕の爻辞(こうじ)は、多く有韻である。
先(セン・6画)
師望鼎・西周中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsiən(平/去)。
学研漢和大字典
会意文字で、「足+人の形」。跣(セン)(はだしの足さき)の原字。足さきは人体の先端にあるので、先後の先の意となった。
意味
- {名詞・形容詞}さき。前のところ。いちばん前。前の。《対語》⇒後・后。「先端」「不敢為天下先=敢へて天下の先と為らず」〔老子・六七〕
- {名詞・形容詞}さき。前のとき。以前の。▽また、先妻・先君のように、亡くなった人につける。《対語》⇒後。「先例」「先人」。
- {名詞}さき。祖先。▽子孫を後という。「荊軻者衛人也、其先乃斉人=荊軻者衛の人也、其の先は乃ち斉の人なり」〔史記・荊軻〕
- {動詞}さきにする(さきにす)。さきにとりあげる。▽去声に読む。「子将奚先=子まさになにをか先にせんとする」〔論語・子路〕
- {動詞}さきんずる(さきんず)。さきだつ。人よりさきにたつ。▽「さきにす」の音便。去声に読む。《対語》⇒後。「先天下之憂而憂=天下の憂ひに先んじて憂ふ」〔范仲淹・岳陽楼記〕
- {副詞}まず(まづ)。さきに。「欲治其国者、先斉其家=其の国を治めんと欲する者は、先づ其の家を斉ふ」〔大学〕
- 《日本語での特別な意味》せん。囲碁で、相手より先に打ち始めること。「先番」「互先」。
字通
[会意]之(し)+人。之は趾(あし)の形。人の趾先をいう。趾を人の上にしるすのは、見・望・聞の初形が目や耳を人の上に加える形に作るのと同じ。その主とする行為を示す方法で、先は先行の意。〔説文〕八下に「前進するなり」と先・前の畳韻を以て訓する。前進の前は、もと趾指の爪を切る意で、剪の初文。前の初文は歬で、歬は洗の初文。舟(盤)で止(趾)を洗う意である。先は先行。卜辞に先行を卜する例が多く、もと除道のために人を派遣することをいう。先行のために、羌族のような異族、あるいは供人と呼ばれる生口(奴隷として献上されたもの)の類を用いた。のち騎馬の俗が行われるようになって、先馬走・先駆という。先後は前後と同じく、時間にも場所にもいう。
㑒/僉(セン・8画)
(金文)「蔡侯產劍」戰國早期
初出は戦国早期の金文で、”つるぎ”として出る。ただし金+僉の字形で、論語と同時代の「越王勾践剣」に出る。カールグレン上古音はkʰsi̯am(平)で、同音に憸”かたよる”・譣”問う・悪賢い”。藤堂上古音はts’iam。なお「劍」のカ音は不明、藤音はkliǎm。
学研漢和大字典
会意。「集めるしるし+口ふたつ+人ふたり」で、複数の人や物を寄せ集めることを示す。
語義
{副詞}みな。いっしょにそろって。すべて。「僉曰、於鯀哉=僉曰はく、於鯀なる哉と」〔書経・尭典〕
字通
[会意]亼(しゆう)+㒭(こん)。亼は令・命の字の上部と同じく、神事に従うものが用いる礼冠の形。神に接するときに用いた。㒭は二兄の形。兄は祝告の器(𠙵(さい))を捧げて祈る人。二人相並んで祈る。ゆえに「みな」「ともに」の意となる。〔説文〕五下に「皆なり。亼に從ひ、吅(けん)に從ひ、从(しよう)に從ふ」とするが、兄の字形を上下に分つべきでない。一人祝禱して神意を待つを令といい、その神託を命といい、二人相祝禱するを僉といい、二人舞踏して神意を楽しませることを巽(そん)・選という。
訓義
1.みな、ともに、ことごとく。
2.えらぶ、えらびとる。
3.おおい、おびただしい、すぎる。
4.からさお。連架して穀をうつもの。
声系
〔説文〕に僉声として譣・劒・檢(検)・儉(倹)・驗(験)・險(険)など十七字を収める。古劒銘に、僉を劒の意に用いる。譣(せん)は〔説文〕三上に「問ふなり」と訓し、神意を問う意の字である。
語系
僉tsiam、占tjiamは声近く、占は卜占によって、僉は祝禱によって神意を問うことをいう。また巽suən、選siuan、撰dzhianは舞楽して神を楽しませる意で、ほぼ同系の語とみられる。
前(セン・9画)
丼人𡚬鐘・西周末期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzʰian(平)。「ゼン」は呉音。
学研漢和大字典
会意兼形声。前の刂を除いた部分歬は「止(あし)+舟」で、進むものを二つあわせてそろって進む意を示す会意文字。前はそれに刀を加えた字で、剪(セン)(そろえて切る)の原字だが、「止+舟」の字がすたれたため、進むの意味に前の字を用いる。もと、左足を右足のところまでそろえ、半歩ずつ進む礼儀正しい歩き方。のち、広く、前進する。前方などの意に用いる。揃(セン)(そろえる)・翦(セン)(そろった矢)と同系。践(セン)(小さく足ぶみする)とも縁が近い。
語義
- {名詞}まえ(まへ)。場所にも時間にも用いる。《対語》⇒後。《類義語》先。「前後」「瞻之在前=これを瞻れば前に在り」〔論語・子罕〕
- {副詞}さき。さきに。以前に。「何前倨而後恭也=何ぞ前には倨りて而後には恭しき也」〔史記・蘇秦〕
- {形容詞}まえ(まへ)。昔の。以前の。《対語》後。《類義語》先。「前賢(昔の賢者)」「前人」。
- {名詞}まえ(まへ)。目のまえ。「目前」「面前」「効死於前=死を前に効さん」〔漢書・蘇武〕
- {動詞}すすむ。まえにすすむ。「左右既前殺軻=左右既に前みて軻を殺す」〔史記・荊軻〕
- 《日本語での特別な意味》
①まえ(まへ)。その人数分の量をあらわすことば。また、割り当て分。「三人前」「割り前」。
②まえ(まへ)。相手を呼ぶときのことば。▽人を直接ささず、その前のところをさす習慣からおこった。
③「紀元前」のこと。「前一世紀」。
字通
[会意]正字は歬、あるいは歬に刀を加えた形。止+舟+刀。止は趾(あし)ゆび。舟は盤。盤中の水で止(あし)を洗って、刀で爪を剪り揃えるのである。前は趾指の爪を切る意の字であるが、前後の意から前進、また往昔などの意となる。〔説文〕二上に「行かずして進む。之れを歬と曰ふ。止の舟上に在るに從ふ」と歬を舟行の意とするのは、盤形の舟を舟船、また趾の形を行止の止と誤り解したもので、前系列の字の形義が理解されていない。〔史記、蒙恬伝〕に「公旦(周公)自ら其の爪を揃(き)り、以て河に沈む」とあって、爪切ることは修祓の儀礼。その爪を河に投ずるのは、自己犠牲としての意味をもつことであった。喪礼のときにも、蚤(そう)(爪切り)・鬋(せん)(髪切り)をする俗があった。
淺/浅(セン・9画)
越王句踐之子劍・春秋末期
初出は春秋末期の金文。戔の字と書き分けられていない。カールグレン上古音はtsʰi̯an(上)。
学研漢和大字典
会意兼形声。戔(セン)は、戈(ほこ)二つからなり、戈(刃物)で切って小さくすることを示す。柿(セン)(小さくけずる)の原字で、小さく少ない意を含む。淺は「水+(音符)戔」で、水が少ないこと。賤(セン)(財貨が少ない→いやしい)・箋(セン)(小さい竹札)・錢(=銭。小ぜに)・盞(サン)(小ざら)などと同系。
語義
- {形容詞}あさい(あさし)。水かさが少ない。《対語》⇒深。「浅瀬」「浅則掲=浅ければ則ち掲ぐ」〔論語・憲問〕
- {形容詞}あさい(あさし)。少ない。いくらもない。色が薄い。《対語》⇒深。「浅学」「浅緑」「功浅=功浅し」。
- 「浅浅(センセン)」とは、水がさらさらと流れるさま。▽平声に読む。
字通
[形声]旧字は淺に作り、戔(せん)声。戔に薄いものを重ねる意がある。〔説文〕十一上に「深からざるなり」とあり、水の浅い意。それよりすべて浅少の意に用い、浅知・浅薄のようにいう。
專/専(セン・9画)
『字通』所収金文
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯wan(平)。
学研漢和大字典
会意兼形声。叀は、つり下げたまるい紡錘(ボウスイ)を描いた象形文字。專は「寸(て)+(音符)叀(セン)・(タン)」。紡錘は、何本もの原糸を一つにまとめ、かつ一か所にとどまり動揺しないので、そこから専一の意を生じた。また、まるい意を含み、甎(セン)・磚(セン)(まるいかわらや石)などの原字である。旧字「專」は人名漢字として使える。▽「擅」の代用字としても使う。「専断」▽博のつくりと混同して右肩に点を打たないように。センと読む「専槫甎磚」などに点はない。
語義
- {副詞・形容詞}もっぱら。それだけひとすじに。ひたすら。《対語》⇒雑。「専一」「専以其事責其功=専ら其の事を以て其の功を責む」〔韓非子・二柄〕
- {動詞}もっぱらにする(もっぱらにす)。ひとりじめにする。また、自分ひとりでする。《同義語》⇒擅。「専政=政を専らにす」「専夜=夜を専らにす」「専其利三世矣=其の利を専らにすること三世なり」〔柳宗元・捕蛇者説〕
- 《日本語での特別な意味》「専門学校」の略。「医専」。
字通
[会意]旧字は專に作り、叀(せん)+寸。叀は槖(ふくろ)の上部を括(くく)った形。寸は手。專は槖の中にものを入れ、これを手で摶(う)ってうち固める意。その丸くうち固めたものを團(団)という。〔説文〕三下に「六寸の簿なり」とメモ用の手版の意とし、また「一に曰く、專は紡專なり」という。いわゆる紡塼で、糸をつむぐのに用いる。ものをうち固めることを摶(たん)といい、丸めたものを團、土をやき固めたものを塼(せん)という。
倩(セン・10画)
(金文大篆)
初出は後漢の『説文解字』で、カールグレン上古音は不明(去)。藤堂上古音はts’ieŋ(セン呉/セン漢)またはts’ieŋ(ショウ呉/セイ漢)
学研漢和大字典
によると会意兼形声文字で、「人+〔音符〕隗(セイ)」で、清らかに澄んだ人のこと。▽センはセイの転音。青(澄みきったあお色)・清(澄んだ水)・晴(澄んだ空)と同系のことば。
意味〔一〕セン
- {名詞}すっきりした男。転じて、婿のこと。《類義語》婿。「妹倩(マイセン)(妹の婿)」。
- (センタリ){形容詞}笑ったとき、口もとがすっきりと美しいさま。また、いきなさま。「巧笑倩兮=巧笑倩たり兮」〔詩経・衛風・硯人〕
意味〔二〕セイ/ショウ
- {動詞}人に代理をたのむ。《類義語》請。「倩代(セイダイ)」。
- 《日本語での特別な意味》つらつら。よくよく。念を入れて。
字通
[形声]声符は青(せい)。〔説文〕八上に「人の美(よ)き字(あざな)なり」(段注本)とあり、人の美好の意で、男の字に用いた。漢の蕭望之・東方朔はいずれも字を曼倩という。曼は眉目の清きもの、倩は口もとのよろしきものの意。東斉では壻を倩とよんだ。士の美称とすることがある。
戰/戦(セン・13画)
楚王酓干心鼎・戰國晚期
初出は戦国末期の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶi̯an(去)で、同音は存在しない。部品の單(単)は甲骨文から存在し、カールグレン上古音はtɑn。同音は丹や旦、亶などのほか、単を部品とする漢字群。『大漢和辞典』が『集韻』を引いて通じる字としている嘽(タン・あえぐ)に、『大漢和辞典』は”おそれ(てむせび泣く)”の語釈を載せるが、初出は後漢の『説文解字』。
”たたかう”意では、甲骨文から鬥(=闘)が存在し、長柄武器を持った二人の武人が向き合う様。合、格にも”たたかう”意がある。闘トウ→単タン→戦セン、という連想ゲームは出来るが、ゲームに過ぎず、「セン」系統の”たたかう”言葉は、戦国時代の楚の方言といってよい。
学研漢和大字典
会意兼形声。單(=単)とは、平らな扇状をした、ちりたたきを描いた象形文字。その平面でぱたぱたとたたく。戰は「戈+(音符)單」で、武器でぱたぱたと敵をなぎ倒すこと。また憚(タン)(はばかる)に通じて、心や皮膚がふるえる意に用いる。殫(タン)(なぎ倒す)と同系。また、顫(セン)(ふるえる)・扇(セン)(振動させてあおぐうちわ)などとも同系。類義語に震・闘。異字同訓に 戦・闘。旧字「戰」は人名漢字として使える。▽「たたかう」「たたかい」は「闘う」「闘い」とも書く。また、「いくさ」は「軍」とも書く。
語義
- {動詞}たたかう(たたかふ)。武器を持って敵とたたかう。戦争をする。また、勝負を争う。《類義語》闘。「戦闘」「三戦三走=三たび戦ひ三たび走る」「将軍戦河北=将軍は河北に戦ふ」〔史記・項羽〕
- {名詞}たたかい(たたかひ)。たたかうこと。戦争。争い。「挑戦=戦ひを挑む」「王好戦=王戦ひを好む」〔孟子・梁上〕
- {動詞}おののく(をののく)。こわくてぶるぶるふるえる。平面が振動する。《同義語》顫(セン)(ふるえる)。「戦栗(センリツ)(ふるえてぞっとする)」「戦戦兢兢(センセンキョウキョウ)」。
- 《日本語での特別な意味》
①競技・試合。「リーグ戦」「名人戦」。
②競争。「商戦」「舌戦」。
字通
[会意]旧字は戰に作り、單(単)+戈(か)。單は盾の上部に羽飾りのある形。左に盾をもち、右に戈を執って戦う。〔説文〕十二下に「鬭ふなり」とし、單声とするが、単は隋円形の盾で、羽飾りなどをつけた。狩の初文は獸(獣)。獸は單と犬と、狩りの成功を祈る祝詞の器(𠙵(さい))の形の会意字。戦と狩りとは、古くは相似た態勢で行われた。顓(せん)と声が同じく、おののく、そよぐの意にも用いる。
踐/践(セン・13画)
初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzʰi̯an(上)。同音に錢、諓”よくもの言う”、餞”みおくる・はなむけ”、俴”あさい・はだか”、賤。
学研漢和大字典
会意兼形声。「足+(音符)戔(セン)(小さい)」で小きざみに歩くこと。また、前もってきまっている位置に足をのせ、両足をそろえること。そろえるの意を含む。剪(セン)(切りそろえる)・前(足をそろえて進む)と同系。類義語に蹈。
語義
- {形容詞}あさい(あさし)。水かさが少ない。《対語》⇒深。「浅瀬」「浅則掲=浅ければ則ち掲ぐ」〔論語・憲問〕
- {形容詞}あさい(あさし)。少ない。いくらもない。色が薄い。《対語》⇒深。「浅学」「浅緑」「功浅=功浅し」。
- 「浅浅(センセン)」とは、水がさらさらと流れるさま。▽平声に読む。
字通
[形声]旧字は踐に作り、戔(せん)声。戔に薄いものを重ねる意があり、足あとの連続することをいう。〔説文〕二下に「履むなり」とあり、履践し実行する意である。〔説文〕二下にまた「㣤(せん)は迹なり」とあり、行部二下にも戔声にして同訓の語がある。いずれも道路で行われる践土の儀礼を示すものであろう。〔書、召誥〕「王、朝(あした)に周より歩して則ち豐に至る」のように、重要な儀礼には「朝に歩して」赴くのが礼であった。わが国の反閉(へんぱい)という地霊を鎮(しず)める儀礼は、古い践土の礼の形式を伝えているものであろう。
僎(セン・14画)
初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(上)。部品の「巽」swən(去)の初出は戦国早期の金文。
学研漢和大字典
会意兼形声。「人+(音符)巽(そろえる)」。
語義
セン
- {動詞・名詞}集めそろえる。集めそろえたもの。《同義語》撰。
シュン
- {名詞}主人を補佐して儀礼を進行させる人。
字通
[形声]声符は巽(そん)。巽は二人並んで、神前で舞う形。舞楽を以て神に供することをいう。ゆえに神に薦めるものを僎・饌という。〔説文〕八上に「具(そな)ふるなり」とあり、具は貝を薦める意。二人並び舞うので数の意となり、また選ぶ意となる。
遷(セン・15画)
『字通』所収金文
上掲金文は『字通』オリジナルで出典不明。確実な初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsʰi̯an(平)で、同音に淺。春秋末期の金文から存在するが、”うつす”の語義は無い。部品の䙴の初出は戦国文字。類義語の僊の初出は後漢の『説文解字』。
学研漢和大字典
会意兼形声。僊の右側の字(音セン)は「両手+人のしゃがんだ形+(音符)西(水がぬけるざる)」の会意兼形声文字で、人がぬけさる動作を示す。遷はそれを音符とし、甦を加えた字で、そこからぬけ出て中身が他所へうつること。死(精気が散りうせる)・西(水がぬけるざる、光が散りうせる方角)と同系。僊(セン)(魂が肉体からぬけ出て、空に遊ぶ仙人(センニン))と最も縁が近い。類義語に徙。
語義
- {動詞}うつる。うつす。もとの場所・地位をはなれて、中身だけが他にうつる。うつす。《類義語》移。「遷移」「左遷」「以我賄遷=我が賄を以ちて遷らん」〔詩経・衛風・氓〕
- {動詞}うつる。うつす。形・中身をかえる。変更する。「見異思遷=異を見て遷ることを思ふ」。
- {名詞}魂が肉体からぬけて、自在に遊ぶようになった人。仙人(センニン)。▽僊(セン)に当てた用法。
字通
[形声]声符は䙴(せん)。䙴は死者を殯(かりもがり)するために板屋に収め、その風化を待って葬うことを示し、そのために屍を遷すことを遷という。〔説文〕二下に「登るなり」と登僊(仙)の意とするが、神仙の意に用いるのは後起の義。もと葬送の礼に関する字であった。国都は宗廟のある地であるから、都を移すことを遷都といい、国都を棄てて他に大去することをも遷という。〔穀梁伝、荘十年〕に「遷とは亡ぶるの辭なり」とみえる。のち、此れより彼に及ぶことをみな遷という。
選(セン・15画)
散氏盤・西周晚期
初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はswɑn(上)またはsi̯wan(上/去)。
学研漢和大字典
会意兼形声。巽(ソン)は「人ふたり+台を示すしるし」で、多くの人をそろえることをあらわす会意文字。選は「辶(動詞の記号)+(音符)巽(ソン)」で、そろえてみてえらぶこと。全(そろえる)・銓(セン)(そろえる)と同系。類義語の択は、ならべた中からえらび出すこと。簡(カン)は、よりわけること。「銓」の代用字としても使う。「選考」▽「えらぶ」「えらび」は「択ぶ」「択び」とも書く。
語義
- {動詞}えらぶ。いろいろなものをそろえてみて、その中からよしあしをよりわける。《同義語》⇒撰。《類義語》択(タク)。「選択」「精選」「選賢与能=賢と能とを選ぶ」〔礼記・礼運〕
- {名詞}えらぶこと。また、えらばれた人や物。「落選」「当選」「一時之選」。
- {名詞}いろいろな人の詩文をえらび出して集めた書物。▽去声に読む。「文選」「詩選」。
- {動詞}役人をえらび出す。▽去声に読む。《同義語》銓(セン)。「選挙」。
- 「少選」とは、しばらく。
字通
[形声]声符は巽(そん)。巽は神前の舞台で、二人並んで揃い舞をする形。これを神に献ずることを撰という。〔説文〕二下に「遣(つか)はすなり」と、選と遣の畳韻を以て訓するが、巽・選は神に対する行為であり、神に供えることを饌(せん)という。〔詩、斉風、猗嗟〕「舞へば則ち選(ととの)ふ」とは舞いそろうさま。それより、すぐれる、えらぶなどの意となる。〔説文〕に「一に曰く、擇ぶなり」(段注本)とあり、のちその義に用いる。
賤(セン・15画)
王四年相邦張儀戈・戦国
初出は上掲戦国時代の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzʰi̯an(去)で、同音に戔dzʰɑnを部品とする漢字群。『字通』は部品の「戔に薄小なるものの意がある」とするが、『大漢和辞典』では、戔に”いやしい”の語義はない。
[会意]戈(か)+戈。両戈の象で、相戦うことをいう。〔説文〕十二下に「賊(そこ)なふなり」とあって、相残賊する意。戰(戦)は單(単。盾の象形)と戈とに従い、戔は両戈相接することをいう。鬭(闘)の初文は鬥で、手で格闘する形。のち斲(たく)を加えるが、斲は盾と斤(斧鉞(ふえつ))の形である。
俴”浅い・裸=鎧をつけない”。諓”巧みに弁じる”。「諓諓」は”いやしい”。ただし初出は後漢の『説文解字』。餞”見送る・ははむけする”。
ただし『大漢和辞典』は「戔」dzʰɑnを「殘(残)」tsʰɑnと「音も義も同じ」といい、「残」に”こぼつ・悪い・悪者”の語釈を載せる。
学研漢和大字典
会意兼形声。戔は、戈(ほこ)を二つ重ねた会意文字で、物を刃物で小さく切るの意をあらわす。殘(=残。小さいきれはし)の原字で、少ない、小さいの意を含む。賤は「貝+(音符)戔」で、財貨が少ないこと。淺(=浅。水が少ない)・箋(セン)(小さい竹札や紙きれ)・錢(=銭。小さいかね)と同系。
語義
- (センナリ){形容詞}やすい(やすし)。値段がやすい。「糴甚貴傷民、甚賤傷農=糴甚だしく貴きときは民を傷ひ、甚だしく賤しきときは農を傷ふ」〔漢書・食貨志〕
- {形容詞}いやしい(いやし)。身分が低い。また、品性がおとっている。みすぼらしい。《対語》⇒貴。「吾少也賤=吾少くして也賤し」〔論語・子罕〕
- {名詞}身分の低いこと。また、身分の低い人。《対語》⇒貴。「貧与賤是人之所悪也=貧と賤とは是れ人の悪む所なり」〔論語・里仁〕
- {動詞}いやしむ。みさげる。さげすむ。
- 《日本語での特別な意味》しず(しづ)。身分が低い。また、その者。そまつな。「賤女(シズノメ)」「賤家(シズノヤ)」。
字通
[形声]声符は戔(せん)。戔に薄小なるものの意がある。〔説文〕六下に「賈(あたひ)少なきなり」とあり、貴に対して、財貨の薄小・粗悪なものをいう。貴は貝を両手で奉ずる形である。
薦(セン・16画)
卲王之諻簋・春秋末期
初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はtsiən(去)。
学研漢和大字典
会意。「艸+廌(チ)(牛に似ていて角が一本の獣)」で、煮が食うというきちんとそろった草を示す。揃(セン)(そろえる)・前(出した足に、もう一方の足をそろえてまえへ出る)と同系。類義語に勧・献。異字同訓に進。
語義
- {動詞}すすめる(すすむ)。きちんとそろえて神前にそなえる。「君賜腥、必熟而薦之=君腥を賜へば、必ず熟してこれを薦む」〔論語・郷党〕
- {名詞}形をととのえたおそなえ。供物。《類義語》饌(セン)。
- {動詞}すすめる(すすむ)。よいと思う人や物をえらんで採用するように他の人に説く。「推薦」「天子能薦人於天=天子は能く人を天に薦む」〔孟子・万上〕
- {動詞}しく。草をしく。しき重ねる。《類義語》荐(セン)。
- {副詞}しきりに。しばしば。なんども重ねて。「饑饉薦臻=饑饉薦に臻る」〔詩経・大雅・雲漢〕
- {名詞}神聖な獣が食うという、大きさのそろった草。また、しき草。草を編んでつくったしきもの。むしろ。《類義語》藉(セキ)・席。「薦席」「麋鹿食薦=麋鹿薦を食らふ」〔荘子・斉物論〕
字通
[会意]艸(そう)+廌(たい)。廌は解廌(かいたい)、神判のときに用いる神羊。〔説文〕十上に「獸の食する所の艸なり。廌艸に從ふ。古は神人、廌を以て黄帝に遣(おく)る。帝曰く、何をか食らひ、何(いづ)くにか處(を)ると。曰く、廌を食らひ、夏は水澤に處(を)り、冬は松柏に處る」という語を載せる。金文の字形に、艸中に廌をおく形があり、白茅を以て犠牲を包み薦める意であろう。〔周礼、天官、籩人(へんじん)〕に「凡そ祭祀には、其の籩の廌羞の實を共(供)す」という語があり、まだ飲食しない初物を薦、他を進という。供薦の意より、薦進の意となる。荐(せん)と通用し、副詞に用いる。
※廌を用いた神判については、『墨子』明鬼下篇:現代語訳を参照。
鮮(セン・17画)
伯鮮盨・西周晚期
初出は西周末期の金文で、カールグレン上古音はsi̯an(平/上)。同音に仙、僊”千人”、線、綫”糸”、尟”少ない”、鱻”生魚”、癬”たむし”。去声の音は不明。
原義は”生魚・生肉”で、伝統的に多くの場合”すくない”の意味だと解釈されてきた。『学研漢和大字典』による、なぜそういう意味になるかの説明は、きわめて回りくどい。
『字通』では、次のように説明する。
この説明の方が、まだしも単純で解りやすいが、音が通じたから別義に転用されたというのなら、その用法は時代が下ると見なければならない。論語は最古の古典の一つであり、原義で解釈出来るなら、そうする方が理に叶う。
「尟」(篆書)
また「尟」という言葉がいつ中国語に現れたかと言えば、秦漢帝国になってからであり、具体的には後漢の『説文解字』が初出になる。カールグレンによるその上古音は「鮮」と共にsi̯anだが、『学研漢和大字典』によると、発声の仕方は上声(尻上がりの調子)だという。
対して「鮮」は”生魚・生臭い”の場合の平声(平らな甲高い調子)だが、”すくない”の場合は上声という。つまりもともと平声しか無かったのが、”すくない”の語義を獲得してから上声が加わったと見るべきだろう。
すると孔子に向かって”すくない”のつもりで尻上がりにsi̯an(◌̯は音節副音、すなわち弱い音を示し、全体を無理にかなに直すとシャン)といくら言おうとも、「何じゃそれは。どこの蛮族の言葉かな」と言われることほぼ確定である。
次に、「鮮」の論語での用例は六カ所。
- 其爲人也孝弟、而好犯上者、鮮矣。(論語学而篇2)
- 巧言令色、鮮矣仁。(本章)
- 以約失之者、鮮矣。(論語里仁篇23)
- 民鮮久矣。(論語雍也篇29)
- 由、知德者鮮矣。(論語衛霊公篇4)
- 巧言令色、鮮矣仁。(論語陽貨篇17)
各章の「鮮」をどう解釈するかはそれぞれに検討が必要だが、学而篇2については発言者が実在のうろんな有若であり、成立そのものが怪しい章であり、後世の創作であることはほぼ確実だから、”すくない”意で用いられたとしても不思議はない。
また音の「セン」は、”なまぐさい”を意味しうる。音が近い文字を集めた次の表で、「鮮」以外の語義はいずれも”なまぐさい”(表中の記号は藤堂上古音)。
上古(周・秦) | 中古(隋・唐) | 元 | 現代北京語 | ピンイン | |
鮮(セン) | sian | siɛn | sien | šian | xiān |
羶(セン) | thian | ʃıɛn | ʃıen | ṣan | shān |
膻(セン) | thian | ʃıɛn | ʃıen | ṣan | shān |
腥(セイ) | seŋ | seŋ | siəŋ | šiəŋ | xīng |
鮭(セイ) | seŋ | seŋ | siəŋ | šiəŋ | xīng |
腥(セイ) | seŋ | seŋ | siəŋ | šiəŋ | xīng |
胜(セイ) | |||||
鱢(ソウ) |
学研漢和大字典
会意文字で、「魚(さかな)+羊(ひつじ)」で、なま肉の意味をあらわす。なまの、切りたての、切りめがはっきりしたなどの意を含む。ごたごたとしていない。それだけが目だつさま。めったにない。
意味
- {名詞}なまの魚。「鮮魚」「治大国若烹小鮮=大国を治むるには小鮮を烹るがごとくす」〔老子・六〇〕
- {名詞}新しいなま肉。殺したての鳥獣。「肥鮮」「割鮮野食=鮮を割き野に食す」〔班固・西都賦〕
- {形容詞}あたらしい(あたらし)。できたてである。古びていない。みずみずしい。「新鮮」「鮮果」。
- {形容詞}あざやか(あざやかなり)。境めがはっきりしている。できたてのようにけがれがない。すっきりした色合いで美しい。「鮮明」「鮮紅」。
- {形容詞}すくない(すくなし)。ごたごたとしていない。それだけが目だつさま。めったにない▽上声に読む。「巧言令色、鮮矣仁=巧言令色、鮮なし矣仁」〔論語・学而〕
- 《日本語での特別な意味》朝鮮の略。▽現在は、「朝」と略す。
字通
声符は羊。羊は羴の省略形。また魚にも鱻の形があり、ともに腥臭の意。〔説文〕十一下に「魚の名なり。貉國に出づ。魚と羴の省聲に從ふ」という。新鮮のものは、また腥臭のあるものである。鮮少の意は尟と音の通用する訓である。
訓義
(1)なまうお、なまざかな、なまにく。(2)あたらしい、あざやか。(3)よい、うるわしい、いさぎよい。(4)尟と通じ、すくない、まれ。
『学研漢和大字典』による音の変遷は以下の通り。
[一]セン【呉】【漢】(平)先(仙)
sian-siɛn-sien-šian(xiān)
[二]セン【呉】【漢】(上)銑(獮)
仙の上声の音。(xiăn)
対して「尠」(セン・ショウ=少ない。尟、尠の異体字)の音は以下の通り
【呉】【漢】(上)銑(獮)鮮の上声の音(xiăn)。
つまり「鮮」と「尟」は声調は違っても、音が同じだった。ここから字通が言う、音が通用するから転用された、との説明が「オッカムのカミソリ」に一番かなうように思う。
大漢和辞典
瞻(セン・18画)
初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtɕi̯am(平)。
学研漢和大字典
会意兼形声。「目+(音符)汪(セン)(もちあげる)」で、目をもちあげてみること。擔(タン)(=担。重い物をもちあげる)・檐(エン)(ひさしを持ちあげるたるき)などと同系。
語義
- {動詞}みる。目をあげてみる。見あげる。《対語》⇒瞰(カン)(下をみる)。「瞻望(センボウ)(目をあげて遠くをみる)」「瞻之在前=これを瞻れば前に在り」〔論語・子罕〕
字通
[形声]声符は詹(せん)。〔説文〕四上に「臨み視るなり」とあり、瞻仰・瞻望など、遠く遥かに望み、また見めぐらす意がある。〔詩、衛風、淇奥〕「彼の淇奧(きゐく)を瞻るに 綠竹猗猗(いい)たり」と青く茂る竹を視るという祝頌の発想は、〔万葉〕の「~見る」「見れど飽かぬ」という魂振りの発想と同質のものである。〔詩〕では「瞻彼~」という定型の発想をとる。
襜(セン・18画)
初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶʰi̯am(平)。同音に幨”とばり”、裧”車の垂れぎぬ・ひざかけ”。裧が語義を経于有するが、古文からしか見つかっておらず、初出が確定できない。部品の詹tɕi̯am(平)の初出も戦国文字であり、語義を共有しない。
学研漢和大字典
会意兼形声。「衣+(音符)詹(セン)(上からたらす)」。檐(上からたれた軒)と同系。
語義
- {名詞}ひざかけ・前だれなど、上からたらしておおう衣類。
- {名詞}車の上からたらしたとばり。《同義語》⇒幨。
- 「襜襜(センセン)」とは、布が長くたれるさま。「裳襜襜而含風兮=裳は橦橦として風を含む」〔楚辞・逢紛〕
字通
[形声]声符は詹(せん)。〔説文〕八上に「衣の蔽前(へいぜん)なり」とあって、蔽膝、ひざかけをいう。〔詩、小雅、采緑〕「終朝に藍(あゐ)を采るも 一襜に盈(み)たず」とあり、予祝としての草摘みを歌う。願かけして一定量の草摘みをし、その草をひざかけに収めるのである。
※異体字として衻を載せる。古文で見られる。
饌(セン/サン・21画)
曾侯乙鐘・戰國早期
初出は上掲戦国早期の金文。カールグレン上古音はdʐʰi̯wan(去)で、同音は旁を共有する漢字のみ。上声の音は不明。
「饌」の書体は秦漢帝国になってから現れる。部品の「巽」は戦国早期に現れる。同訓(そなえる)近音の「僝」「僎」「撰」「繕」は金文以前に遡れない。「膳」は西周末期の金文から見られるが、「善」と書き分けられていない。論語の時代には「善」と書かれていたことはほぼ確実。
「善」(金文)
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、「食+(音符)巽(ソン)(とりそろえる)」で、とりそろえたごちそうのこと。算(算木をそろえてかぞえる)・選(セン)(とりそろえる)・全(そろう)と同系のことば。
動詞の場合はそなえる(そなふ)とし、酒食をそろえてすすめてごちそうする。ごちそうを並べて食べる、と書き、論語を引用している。
意味
- {名詞}とりそろえたごちそう。「射得寒魚入饌鮮=寒魚を射得て饌に入つて鮮やかなり」〔呉偉業・贈遼左故人〕
- (センス){動詞}そなえる(そなふ)。酒食をそろえてすすめてごちそうする。ごちそうを並べて食べる。「有酒食、先生饌=酒食有れば、先生に饌す」〔論語・為政〕
字通
[形声]声符は巽(そん)。巽に僎・選(せん)の声がある。巽は神前の舞台で二人並んで舞楽を献ずる形。〔説文〕五下に「食を具(そな)ふるなり」とあり、神饌を供することをいう。〔説文〕に䉵を正字とするが、䉵は算(さん)声。神饌を供する意からすれば、饌が正字である。䉵はのち多く集の意に用いる。
冉(ゼン・5画)
師㝨簋・西周晚期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯am(上)。平声の音は不明。
「冉」は日本語に見慣れない漢字だが、中国の姓にはよく見られる。論語では孔子の弟子・冉求子有や、冉耕伯牛・冉雍仲弓の姓として見られる。
(甲骨文・金文)
学研漢和大字典
象形。しなやかなさま。長くたれたひげのようなさま。ひげのように、じわじわと伸びて進むさま。ふたすじのひげがしなやかにたれた姿を描いたもの。
髯(ゼン)(やわらかいひげ)・染(セン)・(ゼン)(じわじわと汁に浸す)・粘(やわらかくねばりつく)と同系のことば。
意味
- {形容詞}しなやかなさま。長くたれたひげのようなさま。
- {形容詞}ひげのように、じわじわと伸びて進むさま。「荏冉(ジンゼン)(じわじわとのびるさま)」。
字通
飾り紐や毛の垂れる形で、麻を織った古代の喪服を着る際に、首または腰につける紐の形という。また喪服のうち、裾を端縫いしたものを衰絰、端を切り放しにして縫わないものを斬衰と言う。死者との関係によって着る服が異なる。
善(ゼン・12画)
毛公鼎・西周末期
初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はȡi̯an(上)。
論語語釈「美と善」も参照。羊神判については、『墨子』明鬼下篇:現代語訳を参照。
学研漢和大字典
羊は、義(よい)や祥(めでたい)に含まれ、おいしくみごとな供え物の代表。言は、かどある明白なもののいい方。善は「羊+言二つ」の会意文字で、たっぷりとみごとなの意をあらわす。饘(おいしい食べ物)-饍(みごとにそろった食べ物)-亶(たっぷりとする)と同系のことば。のち、広く「よい」意となる。
意味
- 形容詞}よい(よし)。好ましい。《対語》⇒悪。「善哉問=善い哉問ひや」〔論語・顔淵〕
- {名詞}よいこと。「教人以善=人に教ふるに善を以てす」〔孟子・滕上〕
- {形容詞}よい(よし)。じょうずな。巧みな。「善戦者服上刑=善く戦ふ者は上刑に服せしむ」〔孟子・離上〕
- {形容詞}よい(よし)。…しがちである。しばしば…する。「善怒=善く怒る」。
- {形容詞}よい(よし)。仲がよい。「不善=善からず」「素善留侯張良=素より留侯張良に善し」〔史記・項羽〕
- {動詞}よみする(よみす)。ほめる。よいと認めてたいせつにする。▽去声に読む。「太守張公善其志行=太守張公其の志行を善す」〔謝小娥伝〕
字通
正字は譱に作り、羊+誩。羊は神判に用いるもので、解廌。誩は両言で原告と被告の当事者。この当事者が盟誓ののち神判を受け、その善否を決するのである。〔説文〕三上に「吉なり。誩に従ひ、羊に従ふ。これ義・美と同意なり」とするが、義・美は犠牲として供するものについていうもので、羊神判をいう善とは立意が異なる。敗訴者の解廌は、その人(大)と、自己詛盟の𠙵の器蓋を外した𠙴とを、合わせて水に投じ、その穢れを祓った。その字は灋で法の初文。廌を略して、のち法の字となる。勝訴した解廌の胸に、心字形の文飾を加えて神寵に感謝する。その字は慶。善・慶・灋(法)は羊神判に関する一連の字。のち神意にかなうことをすべて善といい、また徳の究極をいう語となった。
大漢和辞典
よい。よく。よくする。さいはひ。徳の名。善行。善政。善人。よし。姓。よみす。をしむ。をさめる。膳に通ず。
然(ゼン・12画)
者減鐘・春秋早期
初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はȵi̯an(平)。
学研漢和大字典
会意。萌は、犬の脂肪肉を示す会意文字。然は「萌の略体+火」で、脂(アブラ)の肉を火でもやすことを示す。燃の原字で、難(自然発火した火災)と同系。のち、然を指示詞ゼン・ネンに当て、それ・その・そのとおりなどの意をあらわすようになった。そのため、燃という字でその原義(もえる)をあらわすようになった。▽熱(ネツ)niat→niεtは、然の語尾のnがtに転じたことば。
語義
- {指示詞}しかり。→語法「①-2」。
- {指示詞}しかり。→語法「①-1」。
- {接続詞}しかれども。しかし。しかるに。→語法「②」。
- {助辞}形容詞や副詞につく助詞。《類義語》焉(エン)・爾(ジ)。「忽然(コツゼン)」「泰然」「鹸然鼓之=鹸然としてこれに鼓す」〔孟子・梁上〕
- {助辞}文末について推量や判定の気持ちをあらわす助詞。▽訓読では読まない。「若由也、不得其死然=由のごときや、其の死を得ざらん然」〔論語・先進〕
- {動詞}もえる(もゆ)。熱を出してもえる。《同義語》燃。「若火之始然=火の始めて然ゆるがごとし」〔孟子・公上〕
語法
①
- 「しかり」とよみ、「そのとおり」「そうである」と訳す。肯定・同意・承認の意を示す。否定形は「不然=しからず」。「子曰、雍之言然=子曰く、雍の言は然りと」〈先生は、雍の言葉は正しいと言われた〉〔論語・雍也〕
- 「しかり」とよみ、「そうである」と訳す。会話文では、肯定・同意のことば。否定形は「不然=しからず」。「然諾」は、「そう、よろしい」と引き受けること。「然否」は、「イエスかノーか」選択すること。「対曰然=対へて曰はく然りと」〔論語・衛霊公〕
- 「以為然」は、「もってしかりとなす・おもえらくしかり」とよみ、「そう思う」と訳す。
②「しかるに」「しかれども」とよみ、「けれども」と訳す。逆接の意を示す接続詞。《類義語》而(シカモ)。「然今卒困於此=然れども今卒(つひ)にここに困(くる)しむ」〈それが、今ここに及んで進退に窮している〉〔史記・項羽〕
③「然而」は、「しかりしこうして」とよみ、「それにもかかわらず」「そうなので」と訳す。逆接・順接の意を示す接続句。「黎民不飢不寒、然而不王者未之有也=黎民(れいみん)は飢ゑず寒(こご)えず、然り而(しこ)うして王たらざる者は未だこれ有らざるなり」〈庶民は飢えることも凍えることもない、このような政治をして天下の王とならなかった者はこれまであったためしがない〉〔孟子・梁上〕
④「然後」は、「しかるのち」とよみ、「そうしたあとで」と訳す。事柄や時間の前後関係を示す。《同義語》而後。「権然後知軽重=権して然る後に軽重を知る」〈秤にかけてみて、はじめて物の軽重を知ることができる〉〔孟子・梁上〕
⑤「然則~」は、「しからばすなわち~」とよみ、「以上のようだとすると~だ」と訳す。順接の意を示す接続句。「用此観之、然則人之性悪明矣=これをもってこれを観れば、然らば則(すなは)ち人の性の悪なること明らかなり」〈これによってよく見きわめれば、人の本生が悪であることは明白である〉〔荀子・性悪〕
⑥「不然」は、「しからずんば」とよみ、「そうでなければ」と訳す。仮定条件の意を示す。「此沛公左司馬曹無傷言之、不然籍何以至此=これ沛公の左司馬曹無傷これを言へり、然らずんば籍何をもってかここに至らん」〈それは、沛公、そなたの左司馬の曹無傷が言って来たのだ、そうでなかったら、わたしがこんなことまでするはずはない〉〔史記・項羽〕
⑦「雖然」は、「しかりといえども(いへ/ども)」とよみ、「そうとはいっても」と訳す。逆接の意を示す、接続句。「雖然未聞道=然りと雖(いへど)も未だ道を聞かざる」〈そうとはいっても、いまだ道というものを聞いたことがない〉〔孟子・滕上〕
⑧「若~然」「如~然」は、「~のごとくしかり」とよみ、「~のようである」と訳す。比較して判断する意を示す。「人之視己、如見肺肝然、則何益矣=人の己を視ること、肺肝を見るが如(ごと)く然らば、則(すなは)ち何の益かあらん」〈他の人が自分を見ることが、肺や肝臓まで見通すようならば、(隠す事に)どのような利益があろうか〉〔大学〕
字通
[会意]肰(ぜん)+火。肰は犬肉。犬肉を焼いて、その脂が燃える意で、燃の初文。〔説文〕十下に「燒くなり。火に從ひ、肰聲」とするが、犬の肉を焼く意で、天を祀る祭儀などに用いた。卜辞に犬牲を燎(や)いて天を祀る祭儀があり、文献にいう類・禷(るい)にあたる。類は米と犬と頁(けつ)とに従い、天を祀る礼。天神は犬牲を燎く臭いによって、その祭儀を享けるとされた。「しかり」「しかれども」は通用の訓であるが、その本義ではない。また形況の語の接尾語に用い、突然・端然のようにいう。