論語語釈「シ」

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語釈 urlリンクミス

士(シ・3画)

士 金文
士上卣・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はdʐʰi̯əɡ(上)。「王」と字源を同じくする字で、斧を持った者=戦士を意味する。

条件の厳しい野営の経験者には同意して貰えると思うが、ちゃちなナイフに重ナイフの仕事をさせれば簡単に折れるし、重ナイフにナタの真似は出来ない。ナタをオノの代用にするとえらく手間暇と筋力が要る。

そしてオノはナポレオン戦争直前まで、軍隊の実用武器たりえた。また硬度と粘りを兼ね備える金属精錬と鍛冶が出来るまでは、オノは戦士のメインウェポンたり得た。長さがありつつ折れない金属の剣は貴重なのに対し、オノは石を欠いたり磨いたりすれば作れたからである。

のち「士」の大なる者を区別するため一本線を加え、「王」の字が出来た。

春秋時代の身分秩序も参照。論語では、塾生達が目指す貴族の最下級である士族のこと。孔子の生前では、道徳的な意味は全くない。道徳的な面倒くさい意味を塗り付けたのは、孔子より一世紀のちの孟子と、儒教の国教化作業に便乗した、前漢帝国の儒者である。

学研漢和大字典

象形。男の陰茎の突きたったさまを描いたもので、牡(おす)の字の右側にも含まれる。成人して自立するおとこ。事(旗をたてる、たつ)と同系。また、仕(シ)・(ジ)(身分の高い人のそばにたつおとこ→つかえる)とも同系。

語義

  1. {名詞}おとこ(をとこ)。青年のおとこ。ひとりだちする成人したおとこ。《対語》⇒女。「士女(若い男女)」「士与女、方秉拂兮=士と女と、方し拂を秉る」〔詩経・鄭風・溌粘〕
  2. {名詞}中堅の役人層。▽周代の支配層には、天子の直轄地は、卿・大夫・士の禄位があり、長官や将軍を卿と称した。諸侯は、大夫・士の二層で、上大夫を卿と称した。士は上士・中士・下士にわかれた。「執鞭之士(シツベンノシ)」〔論語・述而〕
  3. {名詞}春秋・戦国時代以後に生じた知識人。のち広く、学問や知識によって身をたてる人のこと。「士不可以不弘毅=士はもって弘毅(こうき)ならざる可からず」〔論語・泰伯〕
  4. {名詞}身分で、士・農・工・商の四階層の最上の層、官僚の母体となる知識人の層。「無論大家小家、士農工商=大家小家、士農工商を論ずる無し」〔曾国藩・家訓〕
  5. {名詞}「士師(昔の司法官)」の略。
  6. {名詞}りっぱな男子。「人士」「壮士」。
  7. {名詞}兵隊。近代は特に、士官のこと。「兵士」「士兵」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①さむらい(さむらひ)。武士のこと。
    ②一定の職業、または資格のある人。「弁護士」「代議士」。
    ③自衛隊で、最下級。「陸士」「一士」。

字通

[象形]鉞(まさかり)の刃部を下にしておく形。その大なるものは王。王・士ともにその身分を示す儀器。〔説文〕一上に「事(じ)なり」と畳韻を以て解し、「數は一に始まり、十に終わる。一と十とに從ふ。孔子曰く、十を推して一に合するを士と爲す」と孔子説を引くが、当時の俗説であろう。士は戦士階級。卿は廷礼の執行者。大夫は農夫の管理者。この三者が古代の治者階級を構成した。

大漢和辞典

士 大漢和辞典

子(シ・3画)

子 金文 子 甲骨文
頌鼎・西周晚期/甲骨文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsi̯əɡ(上)。

論語ではほとんどの章で孔子を指す。まれに、孔子と同格の貴族を指す場合もある。また当時の貴族や知識人への敬称でもあり、孔子の弟子に子○との例が多数ある。なお○子という敬称は、孔子のような学派の開祖級に付けられる敬称で、開祖でもないのにそのように敬称される曽子や有子は、それ自体の存在が疑わしい。

字通 将
下掲『字通』では、釈迦生誕のように天上天下を指さす子供の象形を、王子の身分を指す、と解す(「将」条)。それは画像に示す殷代の器に見られる文様を軍を率いる王子と解すことによる。従ってその根拠ははなはだ怪しいわけであり、割り引いて受け取る必要がある。

『論語集釋』には顧炎武の『日知録』を引用してこう言う。

周制公侯伯子男為五等之爵而大夫雖貴不敢稱子春秋自僖公以前大夫並以伯仲叔季為稱

顧炎武
周の制度では、公侯伯子男の五等爵があったが、それでも大夫(閣僚級の領主貴族)は身分の高さにかかわらず「子」と呼ばれようとはしなかった。『春秋』では、僖公以前の大夫はみな、某子ではなく、生誕順を示す伯仲叔季を某の後ろに付けて名乗った。(『日知録』巻四85)


春秋自僖、文以後,執政之卿始稱子。其後匹夫爲學者所宗亦得稱子,老子、孔子是也。

程樹德
それで『春秋』では、僖公・文公からあとになって、執政の卿(城郭都市を領する大貴族)が「子」と呼ばれ始めた。さらに時代が下ると、貴族でもない者が学問をすると、「子」と呼ばれるようになった。老子や孔子がその例である。(『論語集釋』学而)

君子 諸君 孔子

「子曰」は、論語ではほぼ”孔子先生が言った”。「子」は貴族や知識人に対する敬称で、論語では多くの場合孔子を指す。「子」は赤ん坊の象形、「曰」は口から息が出て来るさま。「子」も「曰」も、共に初出は甲骨文。辞書的には論語語釈「子」論語語釈「曰」を参照。

この二文字を、「し、のたまわく」と読み下す例がある。「言う」→「のたまう」の敬語化だが、漢語の「曰」に敬語の要素は無い。古来、論語業者が世間から金をむしるためのハッタリで、現在の論語読者が従うべき理由はないだろう。詳細は論語と日本儒教史を参照。

漢語多功能字庫

(詳解抜粋)

「子」本來指相對於父的一種稱謂,如《合集》94:「有子」,即懷孕的意思。由於早期人類常把指稱孩子之詞轉化為對男性顯貴人物的尊稱,如古羅馬人、居於美洲的古代馬雅人都有些慣例,因此甲骨文中「子」也可以用來指稱商代同姓的族長。


「子」は本来、父に対する語を意味した。『甲骨文合集』94に「有子」とあり、妊娠したことを意味する。だが早くから人類は、”子供”を意味する言葉を男性貴族の敬称に用いてきた。古代ローマやマヤ文明がそうである。だから甲骨文の「子」は、殷王家の同族の族長を意味し得た。


金文中,「子」又可通假作「慈」。如盂鼎:「古(故)天異(翼)臨子(慈)」,指因此上天將以慈惠來覆翼保護。而史墻盤中「子」又通「孜」,以「子(孜)汲」表示急切的意思。


金文での「子」は、「慈」をも意味する。「盂鼎」に「古天異臨子」とあり、天が味方し保護する意で用いられる。「史墻盤」では「孜」を意味し、「孜汲」とは差し迫った、の意である。

学研漢和大字典

子 解字

象形文字で、Aは小さい子どもを描いたもの。Bは子どもの頭髪がどんどん伸びるさまを示し、おもに十二支の子(シ)の場合に用いた。のちAとBは混同して子と書く。絲(シ)(=糸。小さく細いいと)と同系で、小さい意を含む。また、茲(ジ)(ふえる)・字(親字から分化してふえた文字)と同系で、繁殖する意を含む、という。

意味

  1. {名詞}こ。親のうんだこ。《対語》⇒父・母。《類義語》孫(まご)。「老而無子曰独=老いて子無きを独と曰ふ」〔孟子・梁下〕
  2. {名詞}むすこ。男のこ。▽狭い用法では男のこを子といい、女のこを女という。「子女(シジョ)」。
  3. {名詞}成人した男子に対する敬称。あなた。「二三子(ニサンシ)(あなたたち)」「子奚不為政=子奚(なん)ぞ政(まつりごと)を為さざる」〔論語・為政〕
  4. {名詞}…をする者。ひと。「読書子」。
  5. {名詞}学問があり、人格のすぐれた人の名につける敬称。▽特に「論語」の中では孔子を子という。「孟子」「老子」「諸子百家(あまたの古代の思想家)」。
  6. {名詞}中国の書籍を、経・史・子・集の四部に分類したうちの子部のこと。→子部。
  7. {名詞}公・侯・伯・子・男の五等爵の第四位。のち日本でも用いられた。「子爵」。
  8. {動詞}こたり。こどもらしくする。子としての役を果たす。「子不子=子子たらず」〔論語・顔淵〕
  9. {動詞}ことする(ことす)。自分のこどもとみなす。「子庶民=庶民を子とす」〔中庸〕
  10. {名詞}み。実・種・動物のたまご。《同義語》哽(シ)。「鶏子」「桃子(もものみ)」。
  11. {名詞}こ。もとになるものから生じてできてきたもの。▽「母財(元金)」に対して、「子金(利子)」という。《対語》母。
  12. {名詞}ね。十二支の一番め。▽時刻では夜十二時、およびその前後二時間、方角では北、動物ではねずみに当てる。
  13. {助辞}小さいものや道具の名につけて用いる接尾辞。「帽子(ボウシ)」「椅子(イス)」「金子(キンス)」「払子(ホッス)(ちりはらい)」。
  14. {動詞}ふえる。また、繁殖する。▽滋(ジ)に当てた用法。
  15. {動詞}いつくしむ。▽慈(ジ)に当てた用法。

字通

子 甲骨文 子 甲骨文
(甲骨文)

幼子の象。〔説文〕十四下に十二支の「ね」と解し、「十一月、陽气動き、萬物滋入す。以て稱と為す。象形」と子・滋(滋)の畳韻を以て解するが、卜文の「ね」にあたる字は、別の字で示されている。卜文では子は「巳」(み)にあたる字として用いる。十二支の字の用法は字の初義と関係なく、もちろん十二支獣とも関係はない。

子 甲骨文 𠂤賓間
(甲骨文)

子は幼子の象形。卜文・金文において、左右の手を一上一下する形のものがあり、それは王子の身分を示す。卜辞に見える子鄭・子雀は、おそらく鄭・雀の地に封ぜられた王子の称であろう。のち字(あざな)にこの形式を用いるのはその遺法であるが、所領の関係が失われたのちは、名と字義の対待による。仲由、字は子路、路は人の由る所。顔回、字は子淵、淵は回水の意。子は本来王子・公子など、貴族身分の身分称号的に用いられたもので、のち一般の児子にもいう。子を代名詞に用いるのは、その身分称号からの転用である。

訓義

〔1〕おとこ、男子の美称、身分ある人、身分ある者として生まれたもの、きみ。〔2〕徳ある人、先生、学者、士大夫の通称。〔3〕ひと、人々、わかもの、女子。〔4〕代名詞、対称。あなた、きみ、そなた。〔5〕親に対する子、鳥獣虫魚の卵、木の実、利息。〔6〕微小なもの、微少なものの名の下につける接尾語。帽子・釵子の類。〔7〕五等の爵の第四等。蛮夷の君も子という。〔8〕書籍の分類上、思想的な内容の書。経史子集の一。〔9〕滋に通じ、ふえる、いつくしむ。

大漢和辞典

子 大漢和辞典
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之(シ・3画)

之 金文 之 甲骨文 之 字解
邾公華鐘・春秋末期/(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯əɡ(平)。字形は「一」”地面”と「足」。原義は”ゆく”。甲骨文の段階で音を借りて”この・これ”を意味したが、”…の”のような助詞的用法は、戦国時代以降に現れる。

漢語多功能字庫

(詳解抜粋)

甲骨文從「止」從「一」,「止」象向外的人足,「一」象地,指腳向前走,離開原地將有所往(楊樹達、徐中舒、季旭昇)。「之」本義為往,《爾雅.釋詁》:「之,往也。」


甲骨文は「止」と「一」の字形に属し、「止」は外を向く人の足、「一」は地面の象形。脚は前に進むことを意味し、元の以地を離れて進もうとすること。(楊樹達、徐中舒、季旭昇)。「之」の原義は進むこと。


一說「一」是出發線,正如「至」字從「矢」從「一」,「一」是終點線(張日昇),「之」表示出發,「至」表示到達,參見「至」。


一説に、「一」は出発線で、「至」の字が「矢」と「一」の字形に属するのと同じ。「一」は終点線で(張日昇)、「之」は出発を示し、「至」は到着を示す。


甲骨文用作指示代詞,此也,「之日」、「之夕」猶言「是日」、「是夕」,《爾雅.釋訓》:「之子者,是子也。」又用作地名、人名。


甲骨文では指示代名詞に用いられ、”これ”を意味する。また地名や人名に用いる。


金文承甲骨文之形,而「止」形稍訛,漸失足形,為小篆所本。金文用作代詞,可代人與事物。君夫簋:「子子孫其永用之」。又相當於現代漢語助詞「的」,中山王壺:「夫古之聖王」;又相當於「所」,蔡公子果戈:「蔡公子果之用。」又用作人名,郾客銅量:「攻差(工佐)競之」。(參金文形義通解)


金文は甲骨文の字形を受け継ぎ、「止」の形がやや変化して、足の形を失った。小篆はこの形にならっている。金文では代名詞を意味し得、人や事物を指す。また現代中国語の「的」のよような用法は、中山王壺に見られる。また場所や人名を意味する。

学研漢和大字典

之 解字

象形文字で、足の先が線から出て進みいくさまを描いたもの。進みいく足の動作を意味する。先(跣(セン)の原字。足さき)の字の上部は、この字の変形である。「これ」ということばに当てたのは音を利用した当て字。

是(シ)・(コレ)、斯(シ)・(コレ)、此(シ)・(コレ)なども当て字で之(シ)に近いが、其‐之、彼‐此が相対して使われる。また、之は客語になる場合が多い。

語義

  1. {動詞}ゆく。いく。…に至る。「孔子之衛=孔子衛にゆく」〔礼記・檀弓上〕。「之死=死にいたるまで」。
  2. {指示詞}これ。→語法「②-1」。
  3. {指示詞}これ。→語法「②-2」。
  4. {助辞}の。→語法「①-1」。
  5. {助辞}の。→語法「①-2」。

語法

①「~の…」とよみ

  1. 「~」が「…」を修飾する関係を示し、名詞節となる。「万乗之国、弑其君者、必千乗之家=万乗の国、その君を弑(しい)する者は、必ず千乗の家なり」〈兵車一万台を出せるほどの大国でその主君を殺す者は、決まって兵車千台を出せる領地をもつ大臣である〉〔孟子・梁上〕
  2. 「~が…するさま」「~が…するとき」「~が…すること」と訳す。主述関係がある文の主語の直後に「之」をはさむと、その文は名詞節となる。「丘之祷久矣=丘之祷ること久し」〈自分のお祈りは久しいことだ〉〔論語・述而〕
  3. 「~のような…」と訳す。比喩を示す。「不有祝衵之佞、而有宋朝之美、難乎免於今之世矣=祝衵(しゅくだ)の佞(ねい)有らずして、宋朝の美有るは、難いかな今の世に免(まぬか)れんこと」〈祝衵(シュクダ)のような弁説がなくて、宋朝のような美貌があるだけなら、難しいことだよ、今の時世を無事に送るのは〉〔論語・雍也〕

②「これ」とよみ、

  1. 指示代名詞となる。「虎求百獣而食之=虎百獣を求めてこれを食ふ」〈虎はさまざまな獣を求めて、それを食らいます〉〔戦国策・楚〕
  2. 直前の語が動詞であることを示す。▽何をさすかは明示されない。「頃之、襄子当出、予譲伏於所当過之橋下=これを頃(しばら)くして、襄子出づるに当たり、予譲当(まさ)に過ぐべき所の橋下に伏す」〈しばらく経ち、襄子の外出を知り、予譲はその道筋の橋の下に待ち伏せた〉〔史記・刺客〕

③「~之…也」は、「~の…するや」とよみ、「~が…したとき」と訳す。時間・空間のある一部分を提示する意を示す。「君子之至於斯也、吾未嘗不得見也=君子のここに至るや、吾未だ嘗(かつ)て見ることを得ずんばあらざるなり」〈ここに来られた君子がたはね、私はまだお目にかかれなかったことはないのですよ〉〔論語・八佾〕→「也」語法「⑤」。

④「~之…」は、「~をこれ…す」とよみ、「~を…する」と訳す。倒置・強調の意を示す。「父母唯其疾之憂=父母にはただその疾(やま)ひをこれ憂へしめよ」〈父母にはただ自分の病気のことだけを心配させるようになさい〉〔論語・為政〕

字通

足あとの形。步(歩)の上半にあたり、左右の足あとを前後に連ねると步となる。足が前に進むことを示し、之往の義。〔説文〕六下に「出づるなり。艸のてつを過ぎ、枝莖益〻大にして、く所有るに象るなり。一なる者は地なり」という。地より屮・艸の伸びゆく形として、之往の意を導くが、あしの進む形。之を代名詞・語詞に用いるのは仮借であるが、代名詞としては卜文・金文に見え、語詞の用法は〔詩〕〔書〕にみえ、古くからその義に用いる。

訓義

(1)ゆく、すすむ、いたる。(2)是と通じ、代名詞として、これ、この。(3)語詞として、所有格、主語の指示、強意、終助詞に用いる。

大漢和辞典

之 大漢和辞典

尸(シ・3画)

尸 金文
大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯ər(平)。

学研漢和大字典

象形。人間がからだを硬直させて横たわった姿を描いたもの。屍(シ)の原字。また、尻(シリ)・尾の字におけるように、ボディーを示す意符に用いる。シは、矢(まっすぐなや)・雉(チ)(まっすぐ飛ぶきじ)のように、直線状にぴんとのびた意味を含む。

語義

  1. {名詞}しかばね。人間の死体。ぴんと硬直して伸びた人体。《同義語》⇒屍。「魂去尸長留=魂は去りて尸は長く留まる」〔古楽府・焦仲卿妻〕
  2. {名詞}かたしろ。古代の祭りで、神霊の寄る所と考えられた祭主。▽孫などの子どもをこれに当て、その前に供物を供えてまつった。のち肖像や人形でこれにかえるようになった。「尸主(シシュ)」「弟為尸則誰敬=弟尸と為せば則ち誰をか敬せん」〔孟子・告上〕
  3. (シス){動詞}死体のように硬直して横たわる。「寝不尸=寝ぬるに尸せず」〔論語・郷党〕
  4. {形容詞}死人のように動かない。「尸解(シカイ)」。

字通

[象形]屍体の横たわる形。屍の初文。屍は尸と死とを合わせた字。〔説文〕八上に「陳(つら)ぬるなり。臥する形に象る」という。尸陳は後起の義。〔論語、郷党〕に「寢(い)ぬるに尸せず」というように、偃臥するとき、その姿勢を避けるべきものとされた。祭祀のとき、かたしろとなることを尸主という。〔礼記、郊特牲〕に「尸は神像なり」とあり、祖の尸主には孫が代わってつとめた。それで祭祀を司ることを「尸(つかさど)る」という。

止(シ・4画)

止 金文
琱生簋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯əɡ(上)。

止 標本

学研漢和大字典

象形。足の形を描いたもので、足がじっとひと所にとまることを示す。趾(シ)(あし)の原字。歯(ものをかんでとめる前歯)・阯(シ)・址(シ)(じっととどまったあと)などと同系。類義語の留は、溜(リュウ)(たまる)と同系で、一時そこにとまること。滞は、帯(長いおび)と同系で、長びくこと。停は、棒だちにたちどまること。泊は、舟がひと所にとまること。駐は、車馬がとまること。

異字同訓にとまる・とめる 止まる・止める「交通が止まる。水道が止まる。笑いが止まらない。息を止める。通行止め」 留まる・留める「小鳥が木の枝に留(止)まる。ボタンを留める。留め置く・書留」 泊まる・泊める「船が港に泊まる。宿直室に泊まる。友達を家に泊める」。

付表では、「波止場」を「はとば」と読む。▽草書体をひらがな「と」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「と」ができた。また、初二画からカタカナの「ト」ができた。▽「やむ」「やめる」は「已む」「罷む」「已める」「罷める」とも書く。

意味

  1. {動詞}とまる。とどまる。じっとひと所にとまる。《対語》⇒進。《類義語》留・滞。「停止」「或五十歩而後止=或いは五十歩にして而後に止まる」〔孟子・梁上〕。「知止而后有定=止まるを知りて后に定まる有り」〔大学〕
  2. {動詞}とめる(とむ)。とどめる(とどむ)。じっとひと所にとめる。行こうとするのを押さえてとめる。「制止」「止子路宿=子路を止めて宿せしむ」〔論語・微子〕
  3. {動詞}やめる(やむ)。進行をやめる。仕事をとりやめる。役目をやめる。《類義語》已。「中止」「止吾止也=止むは吾が止む也」〔論語・子罕〕
  4. {名詞}たちどまった姿。転じて、姿。「容止」「人而無止=人にして止無し」〔詩経・眇風・相鼠〕
  5. {副詞}ただ。それだけ、わずかにの意をあらわすことば。▽それだけにとどまるの意から。《類義語》只(タダ)。「止一人耳=止だ一人耳」「止可以一宿=止だ以て一宿すべし」〔荘子・天運〕
  6. {助辞}句末にそえることば。「百室盈止、婦子寧止=百室盈ちて止、婦子寧し止」〔詩経・周頌・良耜〕

字通

[象形]趾(あし)あとの形。歩の上半。もと之と同形であった。〔説文〕二上に「下基なり。艸木の出でて址(あし)有るに象る。故に止を以て足と爲す」とあり、止・基の畳韻を以て解する。〔説文〕は止・之をともに草木初生の象と解するが、いずれも趾あとの形である。〔礼記、曲礼上〕「何(いづ)くにか止(あし)せんかと問ふ」とは、寝臥のとき、趾を向ける方向を問う意。また強く趾あとを印するのは、そこに止まる意。副詞の「ただ」や終助詞に用いるのは、仮借の用法である。

氏(シ・4画)

氏 甲骨文 氏 金文
甲骨文/頌壺・西周末期

論語語釈「姓」も参照。(→wiki「氏」)。初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ĕɡ(上)。同音は論語語釈「是」を参照。平声は不明。甲骨文の字形は「以」zi̯əɡ(上)と同じで、人が手にものを提げた姿。論語語釈「以」を参照。原義は”提げる”。「提」は「氏」と同音。「漢語多功能字庫」によると、金文では官職の接尾辞(令鼎・西周早期)、夫人の呼称(乎簋・西周中期)、”氏族”(𠫑氏鐘・戦国早期)、”だから”(中山王方壺・戦国早期)、「是」”これ”(中山王鼎・戦国末期)の意に用いられた。戦国の竹簡では、”氏族”の意に用いられた。

下記藤堂説にかかわらず、氏は血統を同じくしなくても名乗れた。例えば山賊は血統を共有しなくとも、みな同じ氏を名乗り得た。それゆえ令鼎のように、氏に職能集団の語義がある。春秋時代の政党である孔子一門も同様だった(論語憲問篇41)。

「氏」は「是」とカールグレン上古音が全く同音同調で、論語憲問篇42の定州竹簡論語は「氏」を「是」と記す。

ただし下掲藤堂説は、「氏」の語源を「逓」とからめて説くが、「氏」のカールグレン上古音がȡi̯ĕɡ(上)に対して「逓」は不明。藤堂上古音は「氏」dhieg:「逓」degという。近音と言えば近音だが、「逓」の字形が見られる初出は、分からないほど新しい。従って逓の字を理由に語源を説くのは、無理があるように思う。

そもそも女系や男系と言った、ローマの氏姓制度が念頭にあるから、かえって中国古代の姓氏が分からないのであって、氏はもとから血統と関係なかったと解すれば、姓氏の違いがはっきりする。氏は共同でなにがしかの作業に当たる集団であり、血統が重なる場合はたまたまだ。

学研漢和大字典

象形。氏はもと、先の鋭いさじを描いたもので、匙(シ)(さじ)と同系。ただし古くより伝逓の逓(テイ)(つぎつぎと伝わる)に当て、代々と伝わっていく血統をあらわす。類義語に族。

語義

シ(上声)
  1. {名詞}うじ(うぢ)。中国で、同じ女性先祖から出たと信じられた古代の部族集団(姓)のうち、住地・職業、または兄弟の序列などによってわかれた小集団のこと。また、その小集団の名の下につけることば。「太史氏」「孟孫氏」。
  2. {名詞}うじ(うぢ)。古代には貴族の家がらの者の家の名の下につけることば。また、のち姓と氏とを混同し、すべて家の血統をあらわす名の下につけることば。
  3. {名詞}王朝名や国名の下につけることば。その王朝や国をたてた家の名の下につけたり、また、王朝名や国名そのものに氏をつけたりして呼ぶ。「劉氏(リュウシ)(漢の王朝)」「李氏(リシ)(唐の王朝)」。
  4. {名詞}結婚した女性の実家の姓の下にそえて、出身を示すことば。「焦仲卿の妻劉氏(リュウシ)」。
シ(平声)
  1. 「閼氏(アツシ)・(エンシ)」とは、匈奴(キョウド)の単于(ゼンウ)(君主)や王侯の正妻の称号。
  2. 《日本語での特別な意味》
    ①うじ(うぢ)。家の名の下につけることば。
    ②うじ(うぢ)。その土地の神社に奉仕する共同体の仲間。「氏子(ウジコ)」。
    ③し。人の名字または氏名の下につけて、敬意をあらわすことば。▽普通は、男につける。
    ④し。人をあらわすことば。「両氏」。

字通

[象形]小さな把手のある刀の形。共餐のときに用いる肉切り用のナイフ。その共餐に与(あずか)るものが氏族員であったので、氏族の意となる。族は㫃(えん)(はたあし)と矢に従い、矢は誓約に用い、氏族旗の下で誓約に加わる者の意。氏は祭祀、族は軍事、ともにその氏族儀礼に与るものをいう。〔説文〕十二下に「巴蜀、山岸の脅(むね)の𠂤(たい)(堆)、旁箸して落𡐦(らくだ)せんと欲する者を、名づけて氏と曰ふ。氏の崩るる聲、數百里に聞ゆ。象形」(段注本)とし、揚雄の〔解嘲〕「響くこと氏隤(したい)の若(ごと)し」の句を引くが、それは氏の本義本訓とも思われず、氏族の意と全く関するところがない。氏の音は是と近く、段玉裁は是を氏の本字とするが、是は匙(さじ)の象形字。先端がスプーンの形である。氏族共餐の儀礼としては、廟祭に長老が牲肉を頒(わか)つのを宰(廟屋の形と、牲肉を切る曲刀の形)というように、共餐の肉を頒つ氏の方がふさわしい。氏の大なるものは厥(けつ)、いわゆる剞劂(きけつ)(ほりもの刀)の劂の初文で、これは彫刻などに用いる。古代の氏族は、王朝との関係において、職能的に組織されることが多く、〔周礼〕の官制には保氏・媒氏・射鳥氏・方相氏のように、氏を官名とするものが多い。その古礼を伝承する氏族の名であろう。

示(シ/キ・5画)

示 甲骨文 示 金文
甲骨文/亞干示觚・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はi̯ər(去)。平声の音は不明。漢音「シ」(去)は”しめす”を意味し、「キ」(平)は「祇」”神霊”を意味する。字形は位牌または祭壇の姿で、原義は”神霊”。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”神霊”・”位牌”を意味し、金文では氏族名・人名に用いた。

学研漢和大字典

象形。神霊の降下してくる祭壇を描いたもの。そこに神々の心がしめされるので、しめすの意となった。▽のち佶印に書かれ、神・社など、神や祭りに関することをあらわす。

語義

シ(去)
  1. {動詞・名詞}しめす。しめし。外にあらわして見せる。人に見せる。さしず。また、おしえ。「指示」「顕示」「訓示」「其如示諸斯乎=其れ諸を斯に示すが如きか」〔論語・八佾〕
キ(平)
  1. {名詞}くにつかみ。地の神。祭壇にまつる神。《同義語》⇒祇・祁。

字通

[象形]神を祀る祭卓の形。〔説文〕一上に「天、象を垂れて吉凶を見(しめ)す。人に示す所以(ゆゑん)なり。二(古文上)に從ふ。三垂は日月星なり。天文に觀て、以て時變を察す。示とは神事なり」という。天が三垂を以て人に示す意の字とするが、卜文の字形は祭卓の象。ドルメン・石主・神桿・陽茎の形とする説などもあるが、卜文にはこの上に鳥牲をおく形があり、金文の祭は、この上に肉をおく形。卜文に殷の祖神を五示・十示のようによび、神霊の意とする。示の大なるものは下に締脚を加えて帝という。また祭卓を廟中におく形は宗。示は寘と通用し、寘は癲死者(てんししや)(行き倒れ)を葬ること。また音を以て視(視)とも通用する。

四(シ・5画)

四 金文
晉公盆・春秋中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯əd(去)。「四十」をまとめて「卌」で記す例は甲骨文から見られる。「卌」は『新字源』によると、会意文字で「十+十+十+十」の省略形。

卌 金文
「卌」曶鼎・西周中期

学研漢和大字典

会意。古くは一線四本で示したが、のち四と書く。四は「囗+八印(分かれる)」で、口から出た息が、ばらばらに分かれることをあらわす。分散した数。呬(キ)(ひっひと息を分散させて笑う)の原字。死(生気が分散し去る)・西(昼間の陽気が分散し去る方向)と同系。証文や契約書などで、改竄(カイザン)や誤解をさけるために「肆」を用いることがある。

語義

  1. {数詞}よつ。よっつ。「有君子之道四焉=君子の道四つ有り」〔論語・公冶長〕
  2. {数詞}よ。順番の四番め。「四月四日」。
  3. {動詞・副詞}よたびする(よたびす)。よたび。四度する。四回。「四遷荊州刺史=四たびして荊州の刺史に遷る」〔後漢書・楊震〕
  4. {副詞}よもに。四方に。四方から。あちこち。「四嚮=四もに嚮(むか)ふ」「乱者四応=乱者四もに応ず」〔欧陽脩・伶官伝叙論〕
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①よつ。午前十時、または午後十時。▽江戸時代のことば。「四つ時」。
    ②野球で、「四球」の略。「四死球」。

字通

[指事]初文は籀文(ちゆうぶん)の字形が示すように四横画を重ねた形で、数の四を示す。〔説文〕十四下に「陰の數なり。四分形に象る」とするが、四の形は〔石鼓文〕に至ってはじめてみえる。四は■(口+四)(し)の省文を仮借して用いるもので、口の形に従う。

司(シ・5画)

司 金文
㝬鐘・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯əɡ(平)。同音の「思」の論語時代の置換候補。

学研漢和大字典

会意文字で、「人+口」。上部は、人の字の変形、下部の口は、穴のこと。小さい穴からのぞくことをあらわす。覗(シ)(のぞく)や伺(うかがう)・祠(シ)(神意をのぞきうかがう→まつる)の原字。転じて、司察の司(よく一事を見きわめる)の意となった。

類義語の宰は、主任者として仕事をあずかる。掌は、手中におさめて処置する。職は、一定の仕事の責任を負う。主は、中心となって処理する。

意味

  1. {動詞}つかさどる。役目を担当する。一つの仕事に通じる。▽一事に通じてそれを担当する者を「有司(役人)」と称した。▽訓の「つかさどる」は、「つかさ+とる」から。「司法=法を司る」「司書」。
  2. {名詞}つかさ。役目を担当する人。役人。▽昔は担当官を「有司」「所司」といい、近代では「司事」「司務」という。《類義語》官。「漁豆之事則有司存=漁豆(へんとう)の事には則(すなは)ち有司存す」〔論語・泰伯〕
  3. {名詞}役目の名。▽周代の制では、司馬(兵馬を担当)・司徒(教育を担当)・司空(土地・人民のことを担当)などの役を置いた。のち、姓ともなる。「司馬遷」。
  4. {名詞}役所。▽清(シン)代には布政司(藩司ともいい、税務担当)や按察司(アンサツシ)(帋司(ゲッシ)ともいい、刑法担当)などの役所を置いた。
  5. 《日本語での特別な意味》
    (1)つかさ。役目の名。▽奈良・平安時代には、国司(コクシ)・(クニツカサ)を置いた。
    (2)「下司(ゲス)」とは、下役人の意から、転じて、卑しい者の意。

字通

[会意]シ 外字(し)+口。口は祝禱を収める器の形で𠙵(さい)。シ 外字はこれを啓(ひら)くもの。そこに示される神意を伺いみることを示す。神の啓示を受けることを司ることから、司の意となる。〔説文〕九上に字を后の反文(反対の左向きの形)とし、「臣にして事を外に司る者なり」とするが、卜文では后の初文は毓(いく)の形にしるされている。司はおそらくもと祭祀に関する字で、卜辞に「王の廿祀」を、また「王の廿司」としるしているものがあり、祀と声義の近い字であろう。金文に、長官として政を司ることを「死𤔲(しし)」といい、死は尸(し)で尸主、また司る意があり、𤔲は治める意。𤔔(らん)は亂(乱)の初文で、架にかけた糸のもつれ。それをシ 外字の形のもので紛(もつ)れを解く形である。司にまた「司(つ)ぐ」意があり、嗣の初文とみてよい。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

仕(シ・5画)

初出は戦国早期の金文。カールグレン上古音はdʐʰi̯əɡ(上)。藤堂上古音はdzïəg。同音異調の「事」dʐʰi̯əɡ(去)が論語時代の置換候補となる。論語語釈「事」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。士は、男の陰茎の直立するさまを描いた象形文字。男、直立するの二つの意味を含む。仕は「人+(音符)士(シ)」で、まっすぐにたつ男(身分の高い人のそばにまっすぐたつ侍従)のこと。事(ジ)や榎(ジ)(まっすぐたつ)と通じ、事君(君に事(ツカ)ふ)と仕君(君に仕ふ)とは同じことである。

語義

  1. {動詞}つかえる(つかふ)。身分の高い人のそばにたって世話する。広く、役目につく。また、役目についてサービスする。《類義語》事。「給仕」「仕官」。
  2. {名詞}つかえ(つかへ)。役人としてつかえること。また、役目につくこと。「退而致仕=退きて而致仕す」〔春秋公羊伝・宣元〕
  3. 《日本語での特別な意味》「す(為)」の連用形「し」に当てて用いる。「仕事」「仕儀」。

字通

[形声]声符は士(し)。〔説文〕八上に「學ぶなり」というが、その義に用いた例がない。古くは仕えることを宦(かん)といい、宀(べん)部七下に「宦(くわん)は仕なり」という。〔礼記、曲礼上〕に「宦學して師に事(つか)ふ」という語がみえ、仕官のために学ぶ意であろうが、仕にその意があるのではない。士は鉞頭の形で、戦士階級の身分を示す儀器。そのような身分のものとして、出仕することをいう。〔詩、小雅、四月〕に「盡瘁(じんすい)して以て仕ふ」という句がある。

史(シ・5画)

史 金文
史秦鬲・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsli̯əɡ(上)。

字源について、四角を見れば何でも「祈祷文の容れ物である𠙵さい」とパブロフ犬のように言う白川説には賛成できない。「史」はくちふでの会意文字で、口から出た言葉を、筆を手に取って書き記すことや記す行為者やその成果物を言い、漢字は占い文の記録から始まった経緯から、史は神官を兼任したし、記録を与ることから、歴史官や天文官を兼務した。

甲骨文には又を欠いた字形があり、やはり口から出た言葉を書き記すことを言う。筆に墨を付けて記すのを史 甲骨文と書き(鐵82.4・合10550)、先の尖った筆刀で刻むのを史 甲骨文と書いた(京津2016・合19137)。後者からは事・吏・使という派生字を生んだ。

学研漢和大字典

会意。「中(竹札を入れる筒)+手のかたち」で、記録をしるした竹札を筒に入れてたてている記録役の姿を示し、特定の役目をあずかる意を含む。使(役目をあずかるつかい)・事(旗をたてる旗本、その仕事を役目としてあずかる)と同系。

語義

  1. {名詞}ふびと。記録をつかさどった役目。歴史官。▽昔は、天文・暦法・祭祀(サイシ)をもあわせてつかさどる聖なる職で、内史・外史・左史・右史などがあった。周代、天子の左右にいる秘書官を御史といい、秦(シン)・漢代のころには、歴史官を太史といった。隋(ズイ)・唐代以後は、御史は監察の役目となる。「巫史(フシ)(神官と歴史官)」「吾猶及史之闕文也=吾なほ史の闕文に及びたり」〔論語・衛霊公〕
  2. {名詞}ふみ。歴史の書。▽勅撰(チョクセン)や公認の歴史を正史、民間でつくられたのを外史または外伝という。「史伝」「二十四史」。
  3. {名詞}あやのある文章。「文勝質則史=文質に勝れば則ち史なり」〔論語・雍也〕
  4. 「女史」とは、もと、妃の教養や礼法について担当した役。のち学問のある女性を呼ぶ尊称。
  5. 《日本語での特別な意味》さかん(さくゎん)。四等官で、神祇(ジンギ)官の第四位。

字通

[会意]中+又(ゆう)。中は祝禱を収める器である口(𠙵(さい))を木に著けて捧げ、神に祝告して祭る意で、卜辞にみえる史とは内祭をいう。卜辞に「又史」という語としてみえる。外に出て祭ることを「事(まつ)る」といい、その字はまた使の意にも用いる。事は史に吹き流しをつけた形で、史が内祭であるのに対して、外祭であることを示す。王使が祭の使者として行うことが王事であり、その王事に服することが祭政的支配の古い形態であった。史・使・事はもと一系の字である。祝詞を扱うものを巫史(ふし)といい、その文章を史といい、文の実に過ぎることをまた史という。巫史の文には史に過ぎることが多かったのである。祭祀の記録が、その祭政的支配の記録でもあった。〔説文〕三下に「史は事を記す者なり。又(手)の、中を持するに從ふ。中は正なり」とあって、史官が事を記すのにその中正を守る意であるとするが、中正のような抽象的観念を手に執ることは不可能である。それで江永は中を簿書にして簿書を奉ずる形とし、また王国維や内藤湖南は中を矢の容器の形とし、郷射礼などにおける的中の数を記録するものが史であるとする。卜辞に史を内祭とし、また史・使・事の系列字の用義から考えると、史が祭祀を意味する字であったことは疑いがない。

矢(シ・5画)

矢 金文
小盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯ər(上)。

学研漢和大字典

象形。まっすぐな矢を描いたもの。尸(シ)(まっすぐで短いからだ)・指(まっすぐで短いゆび)・屎(シ)(短い棒状のくそ)・雉(チ)(矢のようにまっすぐ飛ぶきじ)と同系。類義語の箭(セン)は、揃(セン)(そろえる)・剪(セン)(そろえて切る)と同系で、長さをそろえて切った矢。「や」は「箭」とも書く。

語義

  1. {名詞}や。直線をなしたや。▽まっすぐ直進する、ずばりと直言することなどにたとえる。《類義語》箭(セン)。「弓矢斯張=弓矢斯に張る」〔孟子・梁下〕。「邦有道如矢=邦に道有れば矢のごとし」〔論語・衛霊公〕
  2. {名詞}直線状で短いくそ。《同義語》屎(シ)。「馬矢(馬のふん)」「以筐盛矢=筐を以て矢を盛る」〔荘子・人間世〕
  3. (シス){動詞}ちかう(ちかふ)。神前に直言してちかう。ずばりと言いきる。《類義語》誓。「矢口=口に矢す」「夫子矢之=夫子これを矢ふ」〔論語・雍也〕
  4. {動詞}つらねる(つらぬ)。一直線状に並べる。《類義語》陳。「公、矢魚于棠=公、魚を棠に矢ぬ」〔春秋左氏伝・隠五〕

字通

[象形]矢の鏃(やじり)のある形。〔説文〕五下に「弓弩の矢なり。入に從ひ、鏑(たく)・栝羽(くわつう)の形に象る」とするが、〔説文〕にいう入の形は鏃(やじり)。字の全体が象形である。「矢(ちか)ふ」とよむのは、古く誓約のときに矢を用いることがあったのであろう。誓は矢を折る形に従い、知・智も矢に従う。また「矢(つら)ぬ」とよむのは、施・肆と同音で、その義に通用するのであろう。

市(シ・5画)

市 金文
兮甲盤・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯əɡ(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「平+(音符)止」で、うり手・かい手が集まって、足をとめ、平衡のとれた価を出すところの意をあらわす。止は、趾(あし)の原字で、そこに行ってとまる意をあらわす。類義語に都。

語義

  1. {名詞}いち。市場。おおぜいの人が物品の売買に集まる所。「門前成市=門前市を成す」「商賈皆欲蔵於王之市=商賈皆王の市に蔵せんことを欲す」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}うる。かう(かふ)。取り引きする。「沽酒市脯(コシュシホ)(うり物の酒やほし肉)」〔論語・郷党〕。「願為市鞍馬=願はくは為に鞍馬を市はん」〔古楽府・木蘭辞〕
  3. {名詞}うりかい。取り引き。「市価」「市面(取り引きの状況)」。
  4. {名詞}人の集まるにぎやかな町。「市街」。
  5. {名詞}今日では行政区の一つ。

字通

[象形]市の立つ場所を示す標識の形。交易の行われる場所には高い標識を樹て、監督者が派遣された。〔説文〕五下に「買賣するものの之(ゆ)く所なり」とし、字形について「市に垣有り。冂(けい)に從ひ、𠄎(きふ)に從ふ。𠄎は古文及なり。物の相ひ及ぶに象るなり。之(し)の省聲」とする。金文の字形は朿(し)と同じく標木を樹(た)てた形で、上に止(之)を加える。止が声符であるのか、意符であるのかは明らかでない。〔唐六典〕に市を「建標立候、陳肆(ちんし)辨物」というように、公認の場所に標識を樹て、監督官をおいた。城外近郊の広場などがその地にあてられ、古くはそこで歌垣なども行われた。〔詩(韓)、陳風、東門之枌(とうもんしふん)〕に「穀旦(こくたん)(よあけ)に于嗟(うさ)(雨乞いの祈りの声)す 南方の原に 其の麻を績(つむ)がず 市に婆娑(ばさ)す」というのは、その場所での歌垣を歌うものである。〔周礼、地官〕に「司市」の職があり、その規制の方法が詳しく記されている。またそこで、公開処刑が行われることがあった。

自(シ・6画)

自 金文 吾
(金文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音は不明。藤堂上古音はdzied。「ジ」は呉音。原義は人間の”鼻”。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”鼻”・”みずから”・”…から”の意に、金文では”…により”(令鼎・西周?/孟簋・西周中期)の意があった。戦国の竹簡では、「自然」の「自」に用いられるようになった。

『字通』によると、甲骨文ですでに”…から”の意に用いられたという。

学研漢和大字典

象形。人の鼻を描いたもの。「私が」というとき、鼻を指さすので、自分の意に転用された。また出生のさい、鼻を先にしてうまれ出るし、鼻は人体の最先端にあるので、「…からおこる、…から始まる」という起点をあらわすことばとなった。類義語の親(シン)(みずから)は、じかに、直接にの意。躬(キュウ)(みずから)は、自分の身での意。

語義

  1. {副詞}みずから(みづから)。→語法「①」。
  2. {副詞}おのずから(おのづから)。→語法「②-1」。
  3. {副詞}おのずから(おのづから)。→語法「②-2」。
  4. {前置詞}より。→語法「③」

語法

①「みずから」とよみ、「わたし」「自分」と訳す。

  1. 自分が自分自身を行為・動作の対象にする。動詞の前に置かれて、主語・目的語を兼ね、一種の再読文字のような形になる。「自殺=(みずからが)みずからを殺す」《類義語》親。「寧信度、無自信也=寧ろ度を信ずるも、自(みづか)ら信ずる無(な)きなり」〈寸法書きは信用できても、自分(の足)を信用できない〉〔韓非子・外儲説左上〕
  2. 自分が他を行為・動作の対象にする。主語と目的語は異なる。「項伯許諾、謂沛公曰、旦日不可不蚤自来謝項王=項伯許諾し、沛公に謂ひて曰く、旦日蚤く自ら来りて項王に謝せざる可からずと」〈項伯は承諾して沛公に、明朝早く、ご自身おいでになって、項王に詫びていただかねばなりませんと言った〉〔史記・項羽〕
  3. 一般論として、自分自身を行為・動作の対象にする。「自」は目的語となるが、必ず動詞の前に置かれる。

②「おのずから」とよみ、

  1. 「自然に」「ひとりでに」と訳す。「故得天時則不務而自生=故に天時を得れば則(すなは)ち務めずして自(おのづか)ら生ず」〈それゆえ、天の時にかなえば、特別に努力しなくても自然に(穂は)生える〉〔韓非子・功名〕
  2. 「もともとから」と訳す。「檻外長江空自流=檻外(かんがい)の長江空(むな)しく自(おのづか)ら流る」〈手すりの向こう、濺江が、むなしく自然と流れ行く〉〔王勃・滕王閣〕

③「より」とよみ、「~から」と訳す。時間・場所の起点・経由の意を示す。《類義語》従・由。「有朋自遠方来、不亦楽乎=朋(とも)の遠方自(よ)り来たる有り、また楽しからずや」〈友達が遠い所からも訪ねて来る、いかにも楽しいことだね〉〔論語・学而〕

④「自非」は、「~にあらざるよりは」とよみ、「~でない限りは」「もし~でないならば」と訳す。仮定・限定の意を示す。「自非攀竜客、何為棟来遊=竜に攀(よ)づるの客に非(あら)ざる自(よ)りは、何為(なんす)れぞ棟(たちま)ちに来り遊ばん」〈高貴の人に取り入って出世を望む人でない限り、どうしてあわててやって来ることがあろうか〉〔左思・詠史〕

⑤「よりす」とよみ、「~から始まる・来る」と訳す。▽「③」を動詞化したもの。「晨門曰、奚自=晨門曰く、奚(いづ)れ自(よ)りすと」〈門番が、どちらからですかと言った〉〔論語・憲問〕

字通

[象形]鼻の形。鼻は自に畀(ひ)を声符としてそえた形。〔説文〕四上に「畀なり。鼻の形に象る」という。卜辞に「~自(よ)り~に至る」の用法があり、「従(よ)り」と同義。金文に「自ら寶ソン 外字彝(はうそんい)を作る」のように自他の自の意に用いる。〔書、皋陶謨〕に「我が五禮を自(もち)ふ」とあり、その用義は、もと犠牲を用いるとき、その鼻血を用いたことからの引伸義であろう。〔穀梁伝、僖十九年〕に「之れを用ふとは、其の鼻を叩(たた)きて、以て社に衈(ちぬ)るなり」とみえる。

声系

〔説文〕に自声として洎・垍など六字を収めるが、自の声義を承けるところはない。また自の省文として白(じ)をあげ、替を白声の字と解するが、その字は兟(しん)(簪)と曰(えつ)とに従い、譖の呪儀を示すもので、自とは関係がない。

語系

自dzieiは從(従)dziongと声近く、古くより通用の例がある。

至(シ・6画)

至 甲骨文 至 金文
甲骨文/啟卣・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯ĕd(去)。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文の字形は「矢」+「一」で、矢が到達した位置を示し、原義は”いたる”とする。甲骨文では原義の他、祭礼の名を意味した可能性があったという。金文では「致」の字が派生し、原義のほか人名、伝達、また武勇を意味し得たという。ただし「致」の字は「至」とは別の字体ですでに甲骨文が比定されている。

論語語釈「致」も参照。

学研漢和大字典

至 解字
会意。「矢が下方に進むさま+━印(目ざす線)」で、矢が目標線までとどくさまを示す。室(いきづまりの奥のへや)・抵(いたる)・致(そこまでとどける)と同系。

意味

  1. {動詞}いたる。目ざす所までとどく。また、自分の所までやってくる。《類義語》到。「必至(必ずそうなる)」「風雨驟至=風雨驟かに至る」「斯天下之民至焉=斯に天下之民至らん焉」〔孟子・梁上〕
  2. {形容詞・副詞}いたれる。いたって。ぎりぎりの線までとどいたさま。最高の。このうえなく。「至大」「至聖」「中庸之為徳也、其至矣乎=中庸の徳為るや、其れ至れるかな」〔論語・雍也〕
  3. {接続詞}いたるまで。「以至A=以てAに至るまで」「乃至A=乃ちAに至るまで」「至若A=Aのごときに至るまで」などの形で用い、Aまでも含めてそこまでの意。「自耕稼陶漁、以至為帝=耕稼陶漁より、以て帝為るものに至るまで」〔孟子・公上〕
  4. {名詞}太陽がぎりぎりの線までとどいた日。夏至(ゲシ)・冬至(トウジ)を至日という。
  5. {名詞}いたり。「…之至」という形で用い、手紙や奏上文に用いられる。「恐懼之至=恐懼之至りなり」。

字通

[会意]矢の倒形+一。一は矢の到達点。矢の至るところをいう。〔説文〕十二上に「鳥飛んで高きよりし、下りて地に至るなり。一に從ふ。一は猶ほ地のごときなり。象形」といい、鳥が地に下る象とする。この字解は、不字条十二上に「鳥飛んで上翔し、下り來(きた)らざるなり。一に從ふ。一は猶ほ天のごときなり。象形」とあるものと対応するものであるが、不は萼柎(がくふ)の象。そのふくらむものは胚胎(はいたい)の丕(ひ)、実ってはじけるのは剖判の咅(ほう)。不・丕・否は一系をなす字である。至は矢の至るところによって地を卜し、そこに建物などを営んだ。それで室・屋・臺(台)などの字は至に従い、また一系をなす。〔説文〕は不・至の両部を連ね、字義に関連があるとするが、字の初形に即するものではない。

死(シ・6画)

死 甲骨文 死 金文
甲骨文/大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯ər(上)。字形は「𣦵ガツ」”祭壇上の祈祷文”+「人」で、人の死を弔うさま。原義は”死”。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では、原義に用いられ、金文では加えて、”消える”・”月齢の名”(夨令簋・西周早期)、”つかさどる”(卯簋蓋・西周中期)に用いられた。戦国の竹簡では、”死体”の用例があるという。

学研漢和大字典

会意。死は「歹(ほねの断片)+人」で、人がしんで、骨きれに分解することをあらわす。呬(シ)(息がばらばらに分散する)・撕(シ)(分解する)・細(こまかく分かれたさま)などと同系のことば。類義語の逝(セイ)は、あの世に行く。歿(ボツ)は、姿が見えなくなること。亡は、いなくなること。崩は、山がくずれるようになくなることで、天子の死に用いる。薨(コウ)は、見えなくなることで、諸侯の死に用いる。「屍」の代用字としても使う。「死体」。

語義

  1. (シス){動詞}しぬ。生物が命を失って、その機能やからだが分解する。《対語》⇒生・活。「死活」「死生、有命=死生、命有り」〔論語・顔淵〕
  2. (シス){動詞}死刑にする。「殺人者死=人を殺す者は死す」〔史記・高祖〕
  3. {名詞}しぬこと。また、死んだ人。死者。「臣死且不避=臣は死すら且つ避けず」〔史記・項羽〕。「事死如事生=死に事ふること生に事ふるがごとし」〔中庸〕
  4. {形容詞}しんだように、活動しなくて、現実には役だたないさま。「死灰(消えはてた灰)」「死文」。
  5. {形容詞}いのちがけの。しにものぐるい。「死守」「死力」。
  6. {形容詞・副詞}《俗語》はなはだ。とことんまで。「死恨(スーヘン)(あくまでも恨む)」。
  7. 《日本語での特別な意味》野球でアウト。「二死満塁」。

字通

[会意]𣦵(がつ)+人。𣦵は人の残骨の象。人はその残骨を拝し弔う人。〔説文〕四下に「澌(つ)くるなり。人の離るる所なり」とし、死澌(しし)・死離の畳韻の字を以て解する。死の字形からいえば、一度風化してのち、その残骨を収めて葬るのであろう。葬は草間に死を加えた字で、その残骨を収めて弔喪することを葬という。いわゆる複葬である。高はその骨格を存するもので、枯槁の象。口は祝詞の形(𠙵(さい))で、弔う意。草間においてするものを蒿(こう)といい、墓所を蒿里という。死の音は、尸陳(しちん)(連ねる)の意であろう。また屍と通じ、漢碑に「死、此の下に在り」とみえる。金文に主司することを「死𤔲(しし)」というのは、おそらく尸主の意に用いたものであろう。

此(シ・6画)

此 金文
叔之仲子平鐘・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsʰi̯ăr(上)。

学研漢和大字典

会意。「止(あし)+比(ならぶ)の略体」で、足を並べてもうまくそろわず、ちぐはぐになること。ただし普通には、その音を借用して、斯(シ)・是(シ)・之(シ)などとともに、近いものをさす指示詞に当て、その本義は忘れられた。眥(シ)(上下のまぶたがじぐざぐに交差したまなじり)・茨(シ)(ふぞろいに並べた草)などと同系。

語義

  1. {指示詞}これ。この。→語法「①②③」。
  2. {接続詞}ここに。→語法「④」

語法

①「これ」とよみ、「これ」「この人」「このもの」「このこと」と訳す。《同義語》是・之・斯。《対語》彼(ヒ)。「出一編書曰、読此則為王者師矣=一編の書を出して曰く、これを読まば則(すなは)ち王者の師と為らん」〈一編の書物を取り出して、これを読めば王者の師となれると言った〉〔史記・留侯〕

②「この」とよみ、「この」と訳す。「此時孟嘗君有一狐白裘=この時孟嘗君一の狐白裘(こはくきう)を有す」〈この時孟嘗君は白狐の皮衣を持っていた〉〔史記・孟嘗君〕

③「ここ」とよみ、「ここ」と訳す。「得復見将軍於此=また将軍をここに見ゆるを得んとは」〈ここで再び将軍にお目に掛かることができるなどとは〉〔史記・項羽〕

④「~此…」は、「~ここに…」とよみ、「~ならば…である」と訳す。前節と後節がすらりとつながる関係を示す。《類義語》則・斯。「有徳此有人=徳有ればここに人有り」〈徳があれば、人々がつき従う〉〔大学〕

⑤「於此」は、「ここにおいて」とよみ、「そこで」と訳す。「事君勇謀、於此用之=君に事(つか)へて勇謀あるは、ここにおひてこれを用ひん」〈君主に事えて勇気があり知謀がある者は、この際にこそ用いましょう〉〔国語・呉〕

⑥「如此」「若此」は、「かくのごとし」とよみ、「このようである」「このとおりである」と訳す。「求剣若此、不亦惑乎=剣を求むることかくの若(ごと)きは、また惑はず」〈剣をこのようにして探すのは、何とおろかなことであろう〉〔呂氏春秋・慎大〕

字通

[形声]声符は止(し)。〔説文〕二上に「止まるなり。止と匕(ひ)とに從ふ。匕は相ひ比次(ならべる)するなり」と会意に解するが、匕は相比次する意ではなく、牝牡の牝の初文。此は雌の初文。此に細小なるものの意がある。之と同声で、代名詞の近称として用いる。〔詩〕〔書〕にも、また金文では戦国期の〔南疆鐘(なんきようしよう)〕にも、代名詞としての用法がみえる。

旨(シ・6画)

旨 金文
殳季良父壺・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯ər(上)。同音は以下の通り。

初出 声調 備考
あぶら 楚系戦国文字
つつしむ 西周中期金文
うまい 甲骨文
ゆび 楚系戦国文字
と・みがく 前漢隷書
といし 前漢隷書

学研漢和大字典

会意。もと「匕+甘(うまい)」の会意文字。匕印は人の形であるが、まさか人肉の脂ではあるまい。匕(さじ)に当てた字であろう。つまり「さじ+甘」で、うまい食物のこと。のち指(ゆびで示す)に当て、さし示す内容の意に用いる。脂(こってりしたあぶら肉)と同系。類義語に甘。

語義

  1. {名詞}むね。さし示した内容・物事。転じて、そうしようと思う考えや意向。▽指に当てた用法。「主旨」「趣旨」「其旨遠=其の旨は遠し」〔易経・壓辞下〕
  2. {名詞}天子の考え・意向。「特旨(特別のおぼしめし)」「先意承旨=意に先んじて旨を承く」。
  3. {形容詞・名詞}うまい(うまし)。こってりとしてうまい。うまみ。うまい食物。《類義語》甘。「旨酒」「食旨不甘=旨きを食らへども甘しとせず」〔論語・陽貨〕
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①むね。述べたことの意向・意味。「右の旨、伝えておく」。
    ②むね。それを主な目標とすること。▽本来は「宗」と書く。「旨とする」。

字通

[会意]氏+曰(えつ)。曰は器中にものを収めた形。氏は把手のある小刀の形で、氏族共餐のときに用い、のち氏族の意となる。器中のものを、この小刀で切って食することをいい、美旨の意となる。〔説文〕五上に「美(うま)し」とし、「甘に從ひ、匕(ひ)聲」とするが声が合わず、また甘匕とするのも字形に合わない。甘は拑入(かんにゆう)の象で、旨とは関係がない。金文には斉器の〔国差𦉜(こくさたん)〕に「以て旨酒を實(みた)す」とあり、もと神に供するものなどに用いる語であった。

志(シ・7画)

志 金文 志 解字
中山王□鼎・ 戦国末期

初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音はȶi̯əɡ(去)。同音に之、芝、止、誌、織、識など。字形は「止」または「之」”ゆく”+「心」で、心の向かう先。

「識」に”かんがえ”の語釈を『大漢和辞典』が載せ、初出は西周早期の金文。ただし”こころざる”の語義は春秋時代では確認できない。論語語釈「識」を参照。

志 金文 李学勤
李学勤『字源』に、上掲春秋時代の字形を載せるが、出典を書いていないし、国学大師サイトが崩壊した今となっては、その淵源を求めることも出来ない。李学勤は先年死んだが、曲学阿世の見本のような中共の御用学者で、でたらめを平気で言うのでなおさら信用できない。

『大漢和辞典』に”こころざし”の語義で分pi̯wən(平)、”こころざす”で𢡒(音不明)・gʰi̯əɡ(去)がある。諅の初出は春秋の金文。ただしその字形は丌+言で、『説文解字』による原義は”忌む”。”こころざす”の語義は春秋時代では確認できない。

諅 金文
「諅」子諆盆・春秋
志:ȶi̯əɡ(去)
諅:gʰi̯əɡ(去)

学研漢和大字典

上古周秦-中古隋唐-元-現代北京語(ピンイン)
tiəg – tʃɪei – ṭṣī – ṭṣī (zhì)

この士印は、進み行く足の形が変形したもので、之(いく)と同じ。士女の士(おとこ)ではない。志は「心+音符之」の会意兼形声文字で、心が目標を目指して進み行くこと。詩(何かを志向する気持ちを表した韻文)と同系のことば。また止(とまる)に当て、書き留める意にも用いる。

意味

  1. {動詞}こころざす。ある目標の達成を目ざして心を向ける。▽「こころ(心)+さす」に由来する訓。「志向」「吾十有五而志于学=吾十有五にして学に志す」〔論語・為政〕
  2. {名詞}こころざし。ある目標を目ざした望み。また、あることを意図した気持ち。「大志」「立志=志を立つ」「願夫子輔吾志=願はくは夫子吾が志を輔けよ」〔孟子・梁上〕
  3. {動詞}しるす。書き留める。メモする。《同義語》⇒誌。「為之文以志=これが文を為りて以て志す」〔柳宗元・始得西山宴游記〕
  4. {名詞}書き留めた記録。▽止(とまる)に当てた用法。《同義語》⇒誌。「芸文志(ゲイモンシ)(書籍の目録)」。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①さかん(さくゎん)。四等官で、兵衛府(ヒョウエフ)・衛府門の第四位。
    ②シリング。英国で使われていた貨幣の単位。▽shillingの音訳。二十シリングで一ポンドになる。「五志」。
    ③「志摩(シマ)」の略。「志州」。

字通

字の初形は之に従い、之声。士はその楷書化した形。〔説文〕十下に「意なり」と訓する。大徐新修十九文の一として徐鍇が加えたもの。次条に「意は志なり」とあるので、互訓したものである。〔詩序〕に「詩は志の之く所なり。心に在るを志と爲し、言に發するを詩と爲す」とあり、それで志を「心の之往する(ゆく)」意の会意とする説もあり、〔段注本〕にも之の亦声とする。古くは誌・識の意に用い、むしろ心にある意こそが初義であろう。之はもと止と同形であった。

大漢和辞典

志 大漢和辞典

私(シ・7画)

私 金文 戦国末期 厶 楚系戦国文字
「私」(秦虎形轄・戦国末期)「厶」(楚系戦国文字)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsi̯ər(平)。同音は死のみ。音「シ」訓「わたし」で検索しても、他の漢字が『大漢和辞典』ではヒットしない。訓「わたくし」でようよう「厶」(カ音不明)が出てくる。

「厶」の初出は孔子より約一世紀前の「ラン書缶」で、㠯(シ・すき、カ音不明)と同じ形で記された。ただし「以」”用いる”の意で使われており、論語の時代に”わたし”を意味した証拠が無い。「厶」が”わたし”の語義を獲得するのは、燕系戦国文字からになる
㠯 以 金文 厶 䜌書缶
「㠯」(金文)・「厶」(䜌書缶)

結論として、もし孔子の時代にあった言葉だとすれば、下記『字通』を参考に、㠯(シ・すき、カ音不明)と書かれていたと考えるしかないが、それは無理というものである。㠯の同義語に耜があるが、そのカールグレン上古音はdzi̯əɡで、「私」si̯ərとは似ても似付かない。

漢語多功能字庫」には、論語の読解に関して見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。厶(シ)は、自分だけのものをうででかかえこむさま。私は「禾(作物)+(音符)厶」で、収穫物を細分して、自分のだけをかかえこむこと。ばらばらに細分する意を含む。四(細かい)・細(こまかい)などと同系。類義語に我。「ひそか」は「密か」「窃か」とも書く。

意味

  1. {名詞}わたくし。自分ひとりのこと。ひとり分ずつ別になったもの。《対語》⇒公。「私人」「反公為私=公に反するを私と為す」〔賈子・道術〕
  2. {名詞}わたくし。自分ひとりの利益や考え。わがままかってな好ききらい。《対語》⇒公。「排私=私を排す」「無信多私=信無くして私多し」〔春秋左氏伝・昭二〇〕
  3. {形容詞}ひとりだけの。また、かってな。《対語》⇒公。「私見」「私欲」「私有」。
  4. (シス){動詞}わたくしする(わたくしす)。自分だけのものにする。自分かってにする。《対語》⇒共・同。「不得私=私するを得ず」「八家皆私百畝、同養公田=八家皆百畝を私し、同じく公田を養ふ」〔孟子・滕上〕
  5. {名詞}わたくし。秘密の事がら。また、人に隠して内通すること。「陰私(ないしょ事)」「有私=私有り」。
  6. {形容詞}えこひいきの。よこしまなさま。「私曲」。
  7. {副詞}ひそかに。ないしょで。また、ひとりでこっそり。《類義語》窃。「私語」「私通」。
  8. {名詞}みうち。妻や子ども。また、姉妹の夫。「私喪(みうちの喪式)」。
  9. (シス){動詞・名詞}こっそり小便する。また、小便。《類義語》溲(ソウ)。「将私焉=まさに私せんとす」〔春秋左氏伝・襄一五〕
  10. {名詞}小さいもの。
  11. {名詞}男女の陰部。
  12. 《日本語での特別な意味》わたくし。わたし。自称の人称代名詞。

字通

会意、。厶はすき(㠯)の象形。耜を用いて耕作する人をいう。〔説文〕七上に「禾なり」とするが、その用例はない。私とは私属の耕作者をいう。〔韓非子、五蠱〕に「私に背く、之れを公と謂う」と公私対待の義とするが、公の字は祭祀儀礼の行われる公廷の平面形。公はその廟所を守る族長、私は私属の隷農で、本来対待の義をなすものではない。公私の観念を持つに至って、「ひそかに」の意を生じた。

忮(シ・7画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶi̯ĕɡ(去)。同音は支とそれを部品とする漢字群、枝、祇”くにつかみ”、肢・胑”てあし”、禔”さいわい”、坁”とまる・さか”。近音同義に「抵」tiər(上)があるが、初出は秦系戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声。支(シ)は、竹の枝を手に持つ姿で、分かれた枝、つかえるなどの意を含む。枝(シ)の原字。忮は「心+(音符)支」で、心中につっかかる気持ちを生じてじゃますること。支障の支(つかえる)と同系。

語義

  1. {動詞}そこなう(そこなふ)。心にひっかかる。ねたんでいじわるをする。「不淑不求=淑は不求めず」〔論語・子罕〕

字通

[形声]声符は支(し)。支に芰・跂(き)の声がある。〔説文〕十下に「很(もと)るなり」とあり、さからい、そこなうことをいう。

似(シ・7画)

似 金文
伯康簋・西周中期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はdzi̯əɡ(上)。「ジ」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。曲がった木のすきを手に持ったさまを示すのが以の字で、道具を用いて作為を加える意を含む。似は「人+(音符)以(ジ)」で、人間が作為や細工を加えて、物の形を整えることを示す。うまく細工して実物と同じ形をつくることから、にせる、にるの意となった。類義語の類は、同じグループに属する意。

語義

  1. {動詞}にる。類似する。「望之、不似人君=これを望むに、人君に似ず」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}にたり。…らしい。…のようだ。《類義語》如。「壱似重有憂者=壱に重ねて憂ひ有る者に似たり」〔礼記・檀弓下〕
  3. {指示詞}ごとし。→語法「①」。
  4. {助辞}より。→語法「②」。
  5. {動詞}つぐ。▽嗣に当てた用法。

語法

①「~のごとし」とよみ、「~のようだ」と訳す。《同義語》若・如。「白髪三千丈、縁愁似箇長=白髪三千丈、愁ひに縁(よ)りてかくの似(ごと)く長し」〈白髪が三千丈、愁いのためにこのように長くなってしまった〉〔李白・秋浦歌〕

②「~似…」は、「…より~」とよみ、「…より~である」「…に比べて~である」と訳す。比較の意を示す。《類義語》於。▽唐代より使用され、現代中国語でも使用されている。「本寺遠於日、新詩高似雲=本寺は日より遠く、新詩は雲似り高し」〈この寺は日より遠く、新しい詩は雲より高い〉〔姚合・贈供奉僧次融〕

字通

[形声]声符は以(い)。以は耜(し)(すき)の象形𠂤(し)ともと同形で、また厶(し)とも釈する形である。厶(すき)を祓うために祝詞の𠙵(さい)を加えた形は台。それで始と娰とはもと同形、通用の字であった。〔説文〕八上に「象(に)るなり」とするが、〔詩、周頌、良耜〕に「以て似(つ)ぎ以て續(つ)がん」と似続の意に用いるのが古い用法で、おそらく■(台+司)(し)(嗣)と通用したものであろう。

兕(シ・7画)

兕 甲骨文
甲骨文・殷(佚518背)

初出は甲骨文。金文は発掘されていない。カールグレン上古音はdzi̯ər(上)。「ジ」は呉音。

学研漢和大字典

象形。古代の中国の山野に野生していた、ジという一本の角がある獣の姿を描いたもの。

語義

  1. {名詞}一本の角がある、野牛に似た動物。犀(サイ)の一種ともいう。▽一角獣(イッカクジュウ)ともいう。「臥虎(ジコ)(ジと、とら。野獣の代表)」。

字通

[象形]〔説文〕九下に正字を𧰽に作り、「野牛の如くにして青色、其の皮は堅厚、鎧(よろひ)を制(つく)るべし。象形」(段注本)という。上部は角の形。〔周礼、考工記、函人〕に兕甲六属の名がみえ、武具の材とした。また角は酒器に用いて「兕觥(じこう)」という。〔詩、周南、巻耳〕に「我姑(しばら)く彼の兕觥に酌む」の句がある。いま青銅器の兕觥とよばれるものには、兕觥という器名をしるすものはなく、巵(し)の上に獣形の蓋(ふた)のあるものを、その名でよんでいる。

使(シ・8画)

使 金文 使 甲骨文
𦅫鎛・春秋中期/(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsli̯əɡ(上/去)。「ジ」は呉音。甲骨文や春秋時代の金文の形は「事」と同じ。「口」+「筆」+「又」”手”で、口に出した言葉を、小刀で刻んで書き記すこと。つまり事務。論語語釈「事」を参照。

漢語多功能字庫」によると、「史」「吏」「事」「使」は同じ原字から派生した。春秋時代以前は「吏」を用いて”使者(に出す・出る)”の意で、「使」の語義については戦国時代以降について記すのみ。春秋時代までに”させる”・”使う”の語義は確認できない。

学研漢和大字典

会意。吏は、手に記録用の竹を入れた筒をしっかり持った姿を示す。役目をきちんと処理する役人のこと。整理の理と同系のことば。使は「人+吏」で、仕事に奉仕する人を示す。公用や身分の高い人の用事のために仕えるの意を含む。また、他動詞に転じて、つかう、使役するの意に専用されるようになった。仕・事と同系のことば。類義語に遣。異字同訓に使う「機械を使って仕事をする。重油を使う」 遣う「気遣う。心遣い。小遣い銭。仮名遣い」。

意味

  1. {動詞}つかう(つかふ)。使用する。「使役」「使民以時=民を使ふに時を以てす」〔論語・学而〕
  2. {名詞}つかい(つかひ)。使者。▽去声に読む。「特使」「私見漢使=私かに漢の使ひを見る」。
  3. {動詞}つかいする(つかひす)。人のために用事をする。▽去声に読む。「子華使於斉=子華斉に使ひす」〔論語・雍也〕
  4. {助動詞}しむ。せしむ。→語法「①」。
  5. {助動詞}しめば。→語法「②」

語法

①(1)「使~…」は、「~(をして)…せしむ」とよみ、「~に…させる」と訳す。使役の意を示す。《類義語》令・教・遣・俾。「使子路問津焉=子路をして津を問は使む」〈子路に渡し場を尋ねさせた〉〔論語・微子〕
(2)「使…」は、「…せしむ」とよみ、「…させる」と訳す。▽使役の対象が省略される。

②(1)「使~…」は、「~(をして)…せしめば」とよみ、「もし~すれば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「使人之所悪、莫甚於死者、則凡可以辟患者、何不為也=人の悪(にく)む所をして、死より甚しき者莫(な)から使めば、則(すなは)ち凡そもって患(わずら)ひを辟(さ)く可き者は、なんぞ為さざらん」〈人の嫌うものに死以上のものがないとすると、死に壓がる患難を避けるためなら、しないことがあろうか〉〔孟子・告上〕▽「もし~、…すれば」とよんでもよい。「使趙不将括即已=使(も)し趙括を将とせずんば即(すなは)ち已(や)む」〈もし趙が(趙)括を将軍に起用しなければ、それでよい〉〔史記・廉頗藺相如〕▽「向使」「嚮使」「仮使」「縦使」「藉使」も、「もし」とよみ、意味・用法ともに同じ。
(2)「向使」「嚮使」「仮使」「縦使」「藉使」は、「たとい~、…すれども」とよみ、「たとえ~が…であっても」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。「仮使棄数百人、何苦而将軍以身赴之=仮使(たと)ひ数百人を棄つるとも、何を苦しみてか将軍身をもってこれに赴かん」〈たとえ数百人を見捨てようとも、何を苦しまれて、将軍はみずから(窮地に)赴くのでしょう〉〔魏志・曹仁〕

字通

声符は史。史・吏・使(事)はもと同系。〔説文〕八上に「伶なり」とあり、使令の意。金文では史を使役の意に用い、「令~使~」(~をして~せしむ)という形式を「~史~事~」という形式でしるす。事は遠くに使して史(祭の名)を行うことで、まつりの使者を意味する字であった。

訓義

1)つかい、使する、祭の使者。2)つかう、つかわす、命ずる。3)させる、しむ、せしむ。使役の助動詞。4)召使い。5)もし、仮設。

大漢和辞典

使 大漢和辞典
使 大漢和辞典

始(シ・8画)

始 金文 始 金文
者㚸爵・殷代末期/叔向父簋・西周末期

初出は殷代末期の金文。ただし字形は「㚸 外字」。字形は「司」+「女」+「㠯」”農具のスキ”。現伝字形の初出は西周末期の金文。ただし部品が左右で入れ替わっている。女性がスキをとって働くさま。原義は不詳。カールグレン上古音はɕi̯əɡ(上)。

漢語多功能字庫」によると、金文で姓氏名に用いられたという(頌鼎・西周)。また金文で字形に「司」si̯əɡ(平)を含んだものについて、「司は始の音符である」という。

学研漢和大字典

会意兼形声。厶印はすきの形。台は以と同系で、人間がすきを手に持ち、口でものをいい、行為をおこす意を含む。始は「女+(音符)台(イ)・(タイ)」で、女性としての行為のおこり、つまりはじめて胎児をはらむこと。胎と最も近い。転じて、広く物事のはじめの意に用いる。類義語の初は、はじめて衣料を裁断すること。創も、素材に切れ目を入れることから、はじめてつくり出すの意となった。元は、人間の頭で、先端にあるのではじめの意となる。原は、水源のことで、「みなもと」から、はじめの意となる。異字同訓に初。

語義

  1. {動詞}はじまる。はじめる(はじむ)。《対語》⇒終。《類義語》初。「開始」「千里之行、始於足下=千里の行も、足下より始まる」〔老子・六四〕
  2. {名詞}はじめ。→語法「②」。
  3. {副詞}はじめて。→語法「①」

語法

①「はじめて」とよみ、「~してやっと」「~してはじめて」と訳す。「十九世至寿夢、始称王=十九世にして寿夢に至り、始めて王と称す」〈十九代で寿夢(ジュボウ)に至り、はじめて王を称した〉〔十八史略・春秋戦国〕

②「はじめ」とよみ、「以前」「むかし」と訳す。「始嘗与蘇秦倶事鬼谷先生、学術=始め嘗(かつ)て蘇秦と倶(とも)に鬼谷先生に事(つか)へ、術を学ぶ」〈かつて蘇秦とともに鬼谷先生について、弁論術を学んだことがあった〉〔史記・張儀〕

③「未始~」は、「いまだはじめより~せず」とよみ、「~したことがない」「最初から~のためしはない」と訳す。「未嘗」と同じ。「有以為未始有物者=もって未だ始めより物有らずと為す者有り」〈(世界の)始めから物が存在していたわけではないと考えるものがあった〉〔荘子・斉物論〕

字通

[形声]字の初形は姒に作る。以は初形㠯(し)、耜(し)の初文。〔説文〕十二下に「女の初なり」とし、台(たい)声とするが、声が異なる。台は厶(し)(㠯・耜(すき))を、祝禱を収める器𠙵(さい)の前におく形で、耜を清める儀礼をいう。その儀礼に女子があずかるのは、農耕儀礼と生子儀礼との相関を示すものであろう。農耕の開始にあたって耜を清める儀礼があり、それがまた生子儀礼としても用いられて、始生・初生の意となる。

事(シ・8画)

事 金文 事 甲骨文
匽侯旨鼎・西周早期/(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʐʰi̯əɡ(去)。同音は士、仕、戺”戸軸を持つ木”、俟、涘”みぎわ”。去声の志-荘の音は不明。甲骨文の形は「使」と同じで、「口」+「筆」+「又」”手”で、口に出した言葉を、小刀で刻んで書き記すこと。つまり事務。論語語釈「使」を参照。

「漢語多功能字庫」によると、金文の時代に”仕事”・”命じる”・”出来事”の語義は確認できるが、”奉仕する”の語義は確認できない。”奉仕する”の初出は上博竹書という。

漢語多功能字庫

甲骨文從「手」從「◎」,後分化為「史」、「吏」、「事」、「使」,以「事」表示職事。


甲骨文は「手」と「中の上に一」の字形に属し、この字から「史」、「吏」、「事」、「使」の字が派生した。「事」は仕事を意味する。

学研漢和大字典

事 解字

会意。「計算に用いる竹のくじ+手」で、役人が竹棒を筒(ツツ)の中にたてるさまを示す。のち人のつかさどる所定の仕事や役目の意に転じた。また、仕(シ)(そばにたってつかえる)に当てる。草書体をひらがな「し」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}こと。用事。仕事。事がら。「大事小事」「有事、弟子服其労=事有れば、弟子其の労に服す」〔論語・為政〕
  2. {名詞}こと。出来事。「事件」「四方無事=四方に事無し」。
  3. {動詞}こととする(こととす)。問題として扱い、処理する。「吏及賓客見参不事事=吏及び賓客参の事を事とせざるを見る」〔史記・曹相国〕
  4. {動詞}つかえる(つかふ)。そばにたって雑用をする。用命に応ずる。《類義語》仕。「事之以犬馬=これに事ふるに犬馬を以てす」〔孟子・梁下〕

字通

[会意]史+吹き流し。史は木の枝に祝詞の器(𠙵(さい))をつけて捧げる形。廟中の神に告げ祈る意で、史とは古くは内祭をいう語であった。外に使して祭るときには、大きな木の枝にして「偃游(えんゆう)」(吹き流し)をつけて使し、その祭事は大事という。それを王事といい、王事を奉行することは政治的従属、すなわち「事(つか)える」ことを意味した。史・使・事は一系の字。卜辞には「人を河に事(つかひ)せしめんか」「人を嶽に事せしめんか」のようにいい、河岳の祭祀はいわゆる外祭である。金文に使役の形式を「~史(せ)しむ」のように、史を使役に用いる。

侍(シ・8画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȡi̯əɡ(去)。「ジ」は呉音。「寺」はdzi̯əɡ(去)。「𢓊」(=徒:dʰo平・初出は甲骨文・”しもべ”)の初出は西周末期の金文。カールグレン上古音は不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。寺は「寸(手)+(音符)之(シ)(足)」の会意兼形声文字で、手足を動かして雑用を弁じるの意。身分の高い人の身辺を世話する人を古く寺人と称したが、のち寺人の寺は、役所や仏寺の意に転用されたため、侍の字がその原義をあらわすようになった。侍は「人+(音符)寺」。

語義

  1. (ジス){動詞}はべる。身分の高い人のそば近くに仕える。「侍従」「顔淵、季路侍=顔淵、季路侍す」〔論語・公冶長〕
  2. (ジス){動詞}そばに控える。「侍坐」「沛公北嚮坐、張良西嚮侍=沛公北嚮(ほくきょう)して坐し、張良西嚮(せいきょう)して侍す」〔史記・項羽〕
  3. {名詞}身分の高い人のそばに控えている人。「女侍(ジョジ)」。
  4. 「侍生」とは、先輩に対して後輩がへりくだっていうことば。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①さむらい(さむらひ)。武士のこと。御前にさぶらう人の意。
    ②はべり。「あり」「居(ヲ)り」のていねい語。

字通

[形声]声符は寺(じ)。寺に侍の意がある。〔説文〕八上に「承くるなり」とあり、尊長の人に仕えて、その意を承けることをいう。金文には「大室に𢓊(じ)す」のように𢓊を用い、神に侍する意。〔論語、先進〕「閔子(びんし)(孔子の弟子)側に侍す」、〔礼記、曲礼上〕「先生に侍坐す」のように近侍すること。侍講・侍従のように、宮中の諸職に用いることが多い。

是(シ・9画)

是 金文 是 金文
毛公旅方鼎・西周早期/毛公鼎・西周末期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はȡi̯ĕɡ(上)。同音は下記の通り。論語では「~これ…」と読み、”~は…だ”と訳すことがある。認定の意を示す。英語のbe動詞にあたる。「ゼ」は呉音。字形は「早」+「止」”あし”で、「早」は「日」+十干の「甲」”一番目”。全体で、”第一日目に出掛ける”こと、と中国の漢学教授は言う。

しかし「早」は「睪」の古形と酷似しており、「睪」の語義は”向かってくる矢をまっすぐ見つめる”。よって字形は「睪」+「止」”あし”で、出向いてその目で「よし」と確認すること。同音への転用例を見ると、やはりおそらく原義は”正しい”。

初出 声調 備考
テイ/シ ひっさげる 秦系戦国文字
さいはひ 説文解字
ただしい 西周中期金文
うぢ 甲骨文 →語釈
ただす 説文解字
テイ/シ なまづ 不明

下掲「漢語多功能字庫」は、原義を不明としながらも、西周末期の「虢季子白盤」で、すでに”これ”・”この”の語義があるという。また春秋末期の「侯馬盟書」では、「氏」に通じて”氏族”を意味する例があるという。戦国時代の竹簡でも同様だが、ただし接続詞としての例は出土資料には見られないようだ。

漢語多功能字庫

金文從「」,「」聲。字形本義不明,「」字很早就被借用為虛詞。


金文は「早」の字形に属し、「止」の音。字形の原義は不明。「是」の字はかなり早くから虛詞(語義を持たない文法上の記号)に借用された。

学研漢和大字典

是 解字
会意文字で、「まっすぐなさじ+止(あし)」。匙(さじ)の原字。止(=趾)を添えたのは、まっすぐ進むことを示す。また、その音を借りて、之(シ)とともに、「これ」という近称の指示詞をあらわす。

適(まっすぐ進む)・提(まっすぐひっさげる)・題(ダイ)・(テイ)(まっすぐなひたい)・正・征(まっすぐ)などと同系のことば。

意味

  1. {指示詞}これ。この。→語法「①④⑤」。
  2. {指示詞}これ。→語法「③」。
  3. {指示詞}これ。→語法「②」。
  4. (ゼナリ){形容詞・名詞}正しい。ずぼしにあたっている。正しいこと。《対語》⇒非。「是非(正しいか誤りか。転じて、日本では、いずれにせよ、きっとの意の副詞に用いる)」「偃之言、是也」〔論語・陽貨〕
  5. (ゼトス){動詞}正しいと考える。「非而是之=非にしてこれを是とす」〔晏子春秋・不合経術者〕
  6. {名詞}正しい方針。「国是(国の政治の方針)」。

語法

①「これ」とよみ、「これ」「この人」「このこと」と訳す。《対語》其(ソレ)・彼(カレ)。《類義語》此・之・斯。「由是観之=これに由(よ)りてこれを観る」〈このことから考えてみて〉〔孟子・公上〕

②「~是…」は、「~これ…」とよみ、「~は…だ」と訳す。認定の意を示す。▽英語のbe動詞にあたる。もとは主語をさしていたが、六朝から認定をあらわす壓詞(ケイシ)となり、現代中国語でも用いられている。「自称臣是酒中仙=自ら称す臣はこれ酒中の仙と」〈自ら称している、わたくしは酒の中の仙人であると〉〔杜甫・飲中八仙歌〕

③「A(=主語)B(=述語)C(=目的語)=AはCを(に)Bする」という文で「C(目的語)」を強調する場合、「AC是B」となり、「A、Cを(に)これBす」とよむ。倒置して強調したことを明示するために「是」を入れる。▽限定の意を示す「唯」などとともに多く用いる。「孔徳之容、唯道是従=孔徳の容、ただ道にこれ従ふ」〈大いなる徳をそなえた人の姿は、ただ道にのみ従っている〉〔老子・二一〕

④「この」とよみ、「この」「その」と訳す。「子於是日哭、則不歌=子この日に哭すれば、則(すなは)ち歌はず」〈先生(孔子)はこの(葬儀の)日に声をあげて泣いたら、歌を一日歌わなかった〉〔論語・述而〕

⑤「ここ」とよみ、「ここ」と訳す。「今其人在是=今その人ここに在り」〈いま、その人はここにいる〉〔史記・魯仲連〕

  1. 「以是」は、「これをもって」とよみ、「この点から」「これにより」と訳す。前節での具体的内容を指示する。「陰以兵法部勒賓客及子弟、以是知其能=陰(ひそ)かに兵法をもって賓客及び子弟を部勒(ぶろく)す、これをもってその能を知る」〈ひそかに兵法を応用して子分や若者たちを動かしたので、彼らの能力をよく知ることができた〉〔史記・項羽〕
  2. 「以是観之」は、「これをもってこれをみれば」とよみ、「この点からみれば」と訳す。前節の事例をふまえて、結論を導く意を示す。「以是観之、夫君之直臣、父之暴子也=これをもってこれを観れば、かの君の直臣は、父の暴子なり」〈こういうことから考えてみると、あの君に対してまっすぐな臣は、父に対しては乱暴な子といういことになる〉〔韓非子・五蠹〕▽「用此観之」も、「これをもってこれをみれば」とよみ、意味・用法ともに同じ。

⑦「是以」は、「ここをもって」とよみ、「それゆえに」「だから」と訳す。前節で原因・理由を述べ、後節で結果・結論を述べる場合に用いる接続句。「敏而好学、不恥下問、是以謂之文也=敏にして学を好み、下問を恥ぢず、ここをもってこれを文と謂ふなり」〈利発なうえに学問好きで、目下のものに問うことも恥じなかった、だから文というのだよ〉〔論語・公冶長〕

⑧「於是」は、「ここにおいて」とよみ、「そこで」と訳す。時間的前後・因果関係がある場合に用いる接続句。「於是、信孰視之、俛出袴下蒲伏=ここにおひて、信これを孰視、俛(ふ)して袴下(こか)より出で蒲伏(ほふく)す」〈そう言われたので、韓信はじっとその男を見つめていたが、腹ばいになって股の下をくぐった〉〔史記・淮陰侯〕

  1. 「如是」「若是」は、「かくのごとし」とよみ、「このようである」「このとおりである」と訳す。「如是者則身危=かくの如(ごと)き者は則(すなは)ち身危し」〈こういう場合は身が危険になる〉〔史記・韓非子〕
  2. 「かくのごとくんば」とよみ、「このようであるならば」と訳す。仮定の意を示す。「夫如是、則四方之民、襁負其子而至矣=それかくの如(ごと)くんば、則(すなは)ち四方の民、その子を襁負(きょうふ)して至らん」〈まあそのようであれば、四方の人民たちもその子供を背負ってやってくる〉〔論語・子路〕

字通

[象形]匙(さじ)の形で、匙(し)の初文。のち是非の意や代名詞などに用いられ、その原義を示す字として匙が作られた。匙は是の形声字である。〔説文〕二下に「直(ただ)しきなり。日と正とに從ふ」とし、〔段注〕に「天下の物、日より正しきは莫(な)きなり」と説くが、日の部分は先端の杓(しやく)のところ、下部は止に近い形であるが、その柄。是非の非も、もと非櫛(すきぐし)の象形。これを是非の意に用いるのは、ともに仮借である。

指(シ・9画)

指 金文
乖伯簋・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はȶi̯ər(上)。同音に「脂」「祗」”つつしむ”(以上平)「旨」「厎」”みがく”「砥」”といし”(以上上)。字形は「旨」+「手」。「旨」は「ひt「漢語多功能字庫」によると、金文では”頭を下げる”の意に用いた(乖伯簋・西周中期)。

学研漢和大字典

形声。「手+(音符)旨」、まっすぐ伸びて直線に物をさすゆびで、まっすぐ進む意を含む。旨(シ)(うまいごちそう)は、ここではたんなる音符にすぎない。至(シ)(まっすぐ届く)・矢(シ)(直進する矢)などと同系。異字同訓に差。

語義

  1. {名詞}ゆび。「屈指(指を曲げる)」「今有無名之指、屈而不信=今無名の指、屈して信びざる有り」〔孟子・告上〕
  2. {動詞}ゆびさす。さす。さし示す。「指示」「指其掌=其の掌を指さす」〔論語・八飲〕
  3. {名詞}あらわし示す内容。考えの向かうところ。《同義語》⇒旨。「意指(イシ)(=意旨)」「願聞其指=願はくは其の指を聞かん」〔孟子・告下〕

字通

[形声]声符は旨(し)。旨に旨肉の意がある。〔説文〕十二上に「手指なり」という。第二指を食指というように、指は肉を執って食すべきものであった。また恉と通用する。恉は趣旨というときの旨にあたる字。

語系

指・恉・旨tjieiは同声。趣旨の意では三字みな通用する。古くは旨・指の字を用いた。

思(シ/サイ・9画)

思 金文 思 金文
五年龏令思戈・戦国末期/鮑子鼎・春秋末期

下掲「漢語多功能字庫」には春秋末期の「鮑子鼎」に鋳込まれた金文を載せ、春秋末期の産だと言うが、鮮明な画像が手に入らない。確実な初出は晋系戦国文字。画数が少なく基本的な動作を表す字だが、意外にも甲骨文には見えない。字形は「」”人間の頭”+「心」で、原義は頭で思うこと。カールグレン上古音はsi̯əɡ(平/去)。

「漢語多功能字庫」によると、金文では人名に(鮑子鼎・春秋末期)、戦国の竹簡では「使」”派遣する”の意に用いられたという。

同音に「司」があり”うかがう”・”まもる”などの語釈を『大漢和辞典』は載せ、甲骨文から存在する。他の置換候補は「止」で、カ音はȶi̯əɡ。◌̥は無声音を示し、ə(シュワー)は”あいまいなe”で、音素の共通率は75%、sとtが近いと評価するなら音通する。ちなみに「知」はti̯ĕɡで、「志」はȶi̯əɡになる。

s ə ɡ
ȶ ə ɡ

漢語多功能字庫

古文字「」從「」(指腦袋)從「」,古人認為「」、「」都是思維的器官,「」字表示心、腦交相運用,進行思考。


古書体の「思」は「囟」(脳みそを意味する)と「心」の字形に属し、古代人は「脳」と「心臓」はどちらも思考するための器官だと考えた。「思」の字は心臓を意味し、脳と共に働いて、思考を進めるとした。

学研漢和大字典

思 解字会意。㐫(シン)は、幼児の頭に泉門(㐫門)のある姿。俗にいうおどりこのこと。思は「㐫(あたま)+心(心臓)」で、おもうという働きが頭脳と心臓を中心として行われることを示す。小さいすきまを通して、ひくひくとこまかく動く意を含む。鰓(シ)・(サイ)(ひくひくする魚のえら)・崽(サイ)(小さい)と同系。

類義語の念は、心中深くおもうこと。想は、ある対象に向かって心でおもうこと。憶は、さまざまにおもいをはせること。懐は、心の中におもいをいだくこと。慮は、次から次へと心をくばること。虞(グ)は、あらかじめ心をくばること。

意味〔一〕シ

  1. {動詞}おもう(おもふ)。こまごまと考える。また、なつかしんでおもう。細かく心をくだく。《類義語》慮。「思慮」「思親=親を思ふ」「学而不思則罔=学んで思はざれば則ち罔し」〔論語・為政〕
  2. (シナリ){形容詞}物おもいに沈んでいるさま。憂いを帯びているさま。「亡国之音哀以思=亡国之音は哀にして以て思なり」〔詩経・大序〕
  3. {名詞}おもい(おもひ)。心でいろいろおもいめぐらすこと。▽去声に読む。「属思=思ひを属く」「焦思=思ひを焦がす」「独上江楼思渺然=独り江楼に上れば思ひ渺然たり」〔趙強・江楼書感〕
  4. 「相思(ソウシ)」は、男女が恋愛すること。「相思病(恋わずらい)」。
  5. {助辞}語調を整えることば。句末にあるときは読まない。▽「詩経」に用いられている。「不可泳思=泳ぐべからず思」〔詩経・周南・漢広〕

意味〔二〕サイ

  1. 「于思(ウサイ)」とは、あごひげのたれたさま。▽腮(サイ)(あご)に当てた用法。

字通

[形声]正字は囟(し)に従い、囟声。囟は脳蓋の象形。人の思惟するはたらきのあるところ。〔説文〕十下に「容なり」とあり、恵棟の説に「䜭(ふか)きなり」の誤りであろうという。深く思慮することをいう字である。〔詩〕では終助詞に用いることが多いが、〔魯頌、駉(けい)〕「思(ここ)に邪(よこしま)無し」のように句首に用いることがある。

施(シ/イ・9画)

施 秦系篆書 𢼊 甲骨文
「施」戦国秦篆書/「𢼊」甲骨文

現行字体の初出は秦の篆書。”ほどこす”場合の漢音は「シ」、呉音は「セ」。”のびる”場合は漢音呉音共に「イ」。同音同義に「𢼊」(𢻱)が甲骨文から存在する。甲骨文「𢼊」の字形は”水中の蛇”+「ボク」(攵)”棒を手に取って叩く”さまで、原義はおそらく”離れたところに力を及ぼす”。後漢の『説文解字』により、「施」と同音同義とされる。ただし論拠が書いていない。

𢻱:𢾭也。从攴也聲。讀與施同。(『説文解字』攴部)

ゆえに後漢の時代に「𢼊」を「施」と解釈したとは言えるが、論語の時代に「𢼊」が直ちに「施」である証拠はない。別系統の字だが、同義と判断するのが妥当。

現行の字体「施」は「㫃」”吹き流し”+「也」で、はたがたなびくさまを言うのだろうが、「也」は音符と解するほか無く、原義はおそらく”およぼす”。カールグレン上古音はɕia(平声/去声)/dia(去声)。同音は以下の通り。

ɕia
初出 声調
おなもみ 不明
みぢかいほこ 西周末期金文
ゆるめる 前漢隷書
dia
初出 声調
うつる 秦系戦国文字
うつる 楚系戦国文字
まがき 前漢隷書
衣摳いかう(ころもかけ) 説文解字
ななめ 説文解字
きびざけ 説文解字
ひさげ(水差し) 西周中期金文
へび 甲骨文
旗のなびくさま 戦国篆書

藤堂上古音は”ほどこす”の場合は平声又は去声に読んでthiar。”のびる・のばす・およぶ”の場合は去声に読んでḍiar。このため現在でも前者の場合は、セ/イ、後者の場合はイと読むのが正確。

日本語音で同音同訓の「𢻫」(シ)”ほどこす・しく”の初出は甲骨文。カ音・藤音不明だが董同龢系統上古音はɕja、周法高系統上古音はstʰjia、いずれも(平)で「施」と同じ。「𢻫」は「𢼊」とともに、小学堂では「施」の異体字とされる。ただし金文以前に何を意味したかは不明。

「麗」も甲骨文から存在するが、上古音がlieg/iārで音通は微妙。音シ訓いたるの「至」も甲骨文からあるが、上古音はȶi̯ĕd/tiedで音通しているとは言いがたい。「矢」は甲骨文から存在するが、カールグレン上古音がɕi̯ər(上)/藤堂上古音thierで音通するかは微妙な所。せいぜい置換候補として「矢」(大漢和に”ほどこす”の語釈有り)が挙がる程度と言えようか。

それも音節副音(◌̯。弱い音)は一致率半分とすると、音素の共通率は37.5%しかない。aとə(アとエの中間)が一致率半分とみなしても、やっと共通率50%。

ɕ i a
ɕ ə r

しかも語義が”およぼす”の場合、カ音の同音で論語の時代に存在したのは、匜”水差し”、蛇だけ。『字通』には金文以前への言及が無く、独自採集と思われる金文の字形を載せるが、その姿は戦国期の金文に特有な流麗な書体で(下掲)、おそらく春秋時代にさかのぼるものではない。

施 金文
『字通』所収金文

白川説的にこの字形を解釈すると、左のへん﹅﹅は阝で、神が天から降りてくる神梯であるはずだが、『字通』にその言及が無い。右のつくり﹅﹅﹅は髪の長い巫女が、神梯に向かって拝礼する様に見え、なんらかの土俗宗教的行為を言う、と白川博士なら言いそうなところ。だがそのようなことはやはり『字通』に書いていない。いったい何があったのだろう。

漢語多功能字庫

詳解

從「」,「」聲,表示旌旗搖曳貌。《說文》:「旗皃。从㫃,也聲。齊欒施字子旗,知施者旗也。」

  • 」可表示旄羽珥,旌旗竿頭飾物。《逸周書‧王會》:「樓煩以星施。」孔晁注:「施,所以為旄羽珥。」
  • 」也表示散布、鋪陳。《易‧乾》:「雲行雨施,品物流形。」孔穎達疏:「使雲氣流行,雨澤施布,故品類之物流布成形。」
  • 」還表示設置、安放。三國魏曹操〈奏定制度〉:「三公列侯,門施內外塾,方三十畝。」
  • 」也指施行、施展。《國語‧吳語》:「勾踐恐懼而改其謀,舍其愆令,輕其徵賦,施民所善,去民所惡。」
  • 」還指給予、施捨。《廣雅‧釋詁三》:「施,予也。」唐拾得〈詩〉之十八:「輟己惠於人,方可名為施。」
  • 」亦指施加。《論語‧衛靈公》:「己所不欲,勿施於人。」何晏集解:「言己之所惡,勿加施於人。」
  • 」也表示恩惠。《左傳‧僖公二十七年》:「報施救患,取威定霸,於是乎在矣。」
  • 」還表示用。《淮南子‧原道訓》:「夫道者……施之無窮而無所朝夕。」高誘注:「施,用也。用之無窮竭也,無所朝夕盛衰。」

「㫃」の字形に属し、「也」の音、軍旗がたなびく様を意味する。『説文解字』に、「はた。㫃に従い、也の音。斉の欒書鼎で施を”子旗”と書いているので、施は旗だとわかる。」

  • 「施」は旗竿の先に付ける羽毛と玉の飾り物を意味しうる。軍旗の先の飾りである。『逸周書』王会篇に、「樓煩は星施を用いる」とあり、孔晁の注に「施は旗竿の先の飾り」とある。
  • 「施」はまき散らす、敷き広げるを意味しうる。『易経』乾篇に、「雲が飛んで雨が降る。物事が流れようとする」とあり、孔穎達の付け足しに「雲が飛んでいき、雨が降り注ぎ、だから物事に流動性が出る」とある。
  • 「施」は設置、据え付けるを意味しうる。三国魏の曹操の「奏定制度」に、「三公と列侯は、門の内外に番屋を設置し、その大きさは平方三十畝」とある。
  • 「施」は施行する、展開するを意味しうる。『國語』呉語篇に、「勾踐は震え上がってたくらみを変え、無駄なお触れを廃止し、税と労役を安くし、民の喜ぶようなことを実施し、嫌がることを廃止した」とある。
  • 「施」は給付する、呉れてやるを意味しうる。『廣雅』釈詁三に、「施は呉れてやることである」とあり、唐拾得の詩の十八に、「自分ばかり溜め込まずに、人に恵んでやるのは、まったくもって呉れてやると言ってよい」とある。
  • 「施」は加える、…にするを意味しうる。『論語』衛靈公篇に、「自分の望まないことは、人にするな」とあり、何晏の集解に、「自分がいやな事は、人に加えるな」とある。
  • 「施」は恩恵を意味しうる。『左傳』僖公二十七年に、「恩恵に報い困難を救い、威力を見せつけて組頭を気取るというのは、こういうことを言うのだな」とある。
  • 「施」は持ちいるを意味しうる。『淮南子』原道訓篇に、「そもそも道とは……使っても使い切れず、朝から晩までそうしても無くならない」とあり、高誘の注に「施は用いることだ。用いても無くならず、朝晩で多い少ないも無い」とある。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、也は長いへびを描いた象形文字で、長くのびる意を含む。施は「はた+〔音符〕也」で、吹き流しが長くのびること。挓(タ)(長くひっぱりのばす)・迆(イ)(のびる)・移(イ)(横にのびていく)などと同系のことば。

意味〔一〕シ

  1. {動詞}ほどこす。手前の物を向こうへ押しやる。また、自分の金品を広く他人に与える。「博施(ハクシ)(広くほどこす)」「施舎」「施餓鬼(セガキ)」。
  2. {名詞}ほどこし。他人に与えるもの。
  3. {動詞}平らにのばす。「施粉(おしろいをのばしてぬる)」「施采(シサイ)(色彩をぬる)」。
  4. {動詞}ほどこす。技(ワザ)を展開する。また、計画を実際に行う。「実施」「施工」。

意味〔二〕イ

  1. {動詞}のびる(のぶ)。のばす。うつる。長くのびる。また、のびてうつっていく。《類義語》移。「施于中谷=中谷に施る」〔詩経・周南・葛覃〕
  2. 「施施(イイ)」とは、のびのびとするさま。また、ゆるゆるとするさま。▽平声に読む。「施施従外来=施施として外より来たる」〔孟子・離下〕

字通

[形声]声符は也(や)。也に弛(し)の声がある。〔説文〕七上に「旗の皃なり」とあり、旗のなびくことをいう。「齊の欒施(らんし)、字(あざな)は子旗と。施なる者は旗なることを知る」というように、施・旗は名字の対待に用いる。他に施すということから、移る・及ぶ意となり、〔詩、周南、葛覃〕に「中谷に施(うつ)る」の句がある。また〔左伝、昭十四年〕「乃ち邢侯を施(ころ)す」、〔国語、晋語三〕「秦人、冀芮(きぜい)を殺して、之れを施(さら)す」など、施を刳裂(これつ)陳尸(ちんし)の意に用いる。おそらく𢻫(し)と通用の義であろう。〔説文〕三下に𢻫を「𢾭(ふ)なり。~讀みて施と同じうす」とみえ、𢻫は蛇霊を殴(う)つ形。禍を他に転ずる㱾攺(かいし)の儀礼で、刳裂陳尸の意をもつのであろう。

時(シ/ジ・10画)

時 甲骨文 時 金文
(『字通』所収甲骨文・金文)

初出は春秋末期または戦国初期の、秦の石鼓文。論語の時代にぎりぎり存在しなかった可能性がある。カールグレン上古音はȡi̯əɡ(平)。同音に塒(ねぐら)、市、恃、侍。市は甲骨文から存在するが”とき”の意が無く、他は金文以前に遡れない。「ジ」は呉音。

音ジ訓ときの漢字は『大漢和辞典』に「時」しかない。上掲甲骨文と金文は、出典が示されていない。

時 石鼓文 時 金文 中山王鼎
(石鼓文-吾車・春秋末期または戦国早期)/(中山王昔壺・戦国末期)

出典が明らかで最も古い、上の石鼓文から論語の時代までの開きは、ざっと100年程度になる可能性がある。ただしこの文字はすでに、「日+土(止)+寸(手)」という現行字体と同じ構成になっており、戦国末期の金文より現行字体に近い。しかも出土地が西の辺境である秦であることから、中原の魯国ではもっと早く「時」の字が現れていたことを想像させる。

石鼓文とは陝西省で出土した花崗岩に刻まれた文字(→waikipedia)であり、彫り込むには鋼鉄が必要なことから、まだ軟鉄・鋳鉄しか存在しない青銅器時代の春秋時代のものではない、とされている。ただし異論もあり、wikipediaが「有力視されている」と言っている年代は、いずれも孔子の人生より前になる。

また論語の時代に”とき”の概念が無かったはずは無く、以下に示すようないずれかの文字で記されていただろう。
時 一覧 大漢和辞典

また『字通』によると、「寺」にある状態を持続する意があり、日景(ひかげ)・時間に関しては時という。古くは之と日の組み合わせで記され、之にものを指示特定する意がある。またそのときを持つ意に用いる古例もある、という。従って、論語の時代にはおそらく「止日」と二文字で書かれていただろう。これは広く認められた「諸」=「之於」と同様の語法になる。

国学大師http://www.guoxuedashi.com/では、「時」の初出を戦国末期の中山王の青銅器だとしていた。
時 国学大師

また別に甲骨文も載せるていたが、出典を書いていなかった。さらに甲骨文のデータベースを検索すると1件ヒットしたが、どうやら誤植のようである。

時 金文
さらに李学勤『字源』に所収という春秋時代の字形を載せていたが、上掲『説文解字』の篆書とそっくりであり、出典も記していなかった。

学研漢和大字典

時 解字
「時」は会意兼形声文字で、之(シ)(止)は、足の形を描いた象形文字。寺は「寸(て)+(音符)之(あし)」の会意兼形声文字で、手足を働かせて仕事すること。

時は「日+(音符)寺」で、日が進行すること。之(いく)と同系で、足が直進することを之といい、ときが直進することを時という。

意味

  1. {名詞}とき。時間。また、春・夏・秋・冬を四時という。「経時=時を経」「時移事去=時移り事去る」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  2. {名詞}とき。昔は一日を十二分し、十二支の名を当てて、「子時(シジ)・(ネノトキ)」「丑時(チュウジ)・(ウシノトキ)」などと呼んだ。今は二十四分して、「一時」「二時」という。「午時(ゴジ)・(ウマノトキ)(正午)」。
  3. {名詞}とき。時代。そのころ。その時代の状況。「時不利兮騅不逝=時に利あらず騅逝かず」〔史記・項羽〕
  4. {名詞}とき。適当な時機。ころあい。機会。「得其時=其の時を得」「農時(農作をすべき時)」「使民以時=民を使ふに時を以てす」〔論語・学而〕。「好従事而亟失時=事に従ふことを好みて亟時を失ふ」〔論語・陽貨〕
  5. {形容詞}とき。適時の。よいしおどきの。「時宜」「時雨(ジウ)(しおどきの雨)」「夫子、時然後言=夫子、時にして然る後言ふ」〔論語・憲問〕
  6. {名詞}とき。暦。「行夏之時=夏の時を行ふ」〔論語・衛霊公〕
  7. {副詞}ときに。ときどき。おりふしに。あるときには。「学而時習之=学びて時にこれを習ふ」〔論語・学而〕。「時大時小=時には大なり時には小なり」〔漢書・匈奴〕
  8. {動詞}うかがう(うかがふ)。よいしおどきをうかがう。《類義語》伺(シ)(うかがう)。「時其亡也而往拝之=其の亡きを時ひ往きてこれを拝す」〔論語・陽貨〕
  9. {指示詞}これ。この。▽之や是(コレ)・(コノ)に当てた用法。「時日害喪=時の日害か喪びん」〔孟子・梁上〕
  10. 《日本語での特別な意味》ときに。話題を転じるときに用いることば。ところで。

字通

時 金文 中山王鼎
(中山王壺)

声符は寺。寺に、ある状態を持続する意があり、日景(ひかげ)・時間に関しては時という。〔説文〕七上に「四時なり」と四季の意とする。〔書、堯典〕「つつしんで民に時を授く」は農事暦の意。古文の字形は中山王鼎にもみえ、と日に従う。之にものを指示特定する意があり、〔書、舜典〕「百揆れ叙す」、〔詩、大雅、緜〕「ここに止まり 曰にる」のような用法がある。また〔石鼓文、吾(吾)車右〕に「卽ち吾ふせぎ卽ちうかがふ」とあって、そのときを持つ意に用いている。

訓義

(1)とき、ひつき、きせつ。(2)おり、しお、そのとき、そのころ。(3)ときに、ときおりに、(4)そのときにあたる、ときをえる。(5)是・と通じ、よい。(6)是と通じ、この、これ。(7)司・伺と通じ、うかがう、つかさどる。(8)蒔と通じ、まく。(9)と通じ、まつ。

大漢和辞典

時 大漢和辞典
時 大漢和辞典
時 大漢和辞典
時 大漢和辞典

茲(シ・9画)

茲 金文
毛公鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsi̯əɡ(平)。「ジ」は呉音。

学研漢和大字典

会意。「艸+幺二つ(細く小さい物が並ぶ)」で、小さい芽がどんどん並んで生じることをあらわす。また、此とともに、近称の指示詞に当てて用いる。

語義

シ(平zī)
  1. {動詞}しげる。草木が繁茂する。
  2. {副詞}ますます。どんどん増えるさま。《同義語》⇒滋。「賦斂茲重=賦斂茲重し」〔漢書・五行志〕
  3. {名詞}わらの敷物。むしろ。《類義語》蓐(ジョク)。
  4. {指示詞}ここ。ここに。これ。この。《類義語》此・斯。「築室于茲=室を茲に築く」〔詩経・大雅・緜〕
  5. {接続詞}すなわち(すなはち)。前後の節がすらすらとつながることをあらわす。《類義語》則。「君而継之、茲無敵矣=君にしてこれを継がば、茲ち敵無からん」〔春秋左氏伝・昭二六〕
  6. 「今茲(コンジ)」とは、今年のこと。「今茲美禾、来茲美麦=今茲は禾に美しく、来茲は麦に美し」〔呂氏春秋・任地〕
  7. 「茲其(シキ)」とは、鋤のこと。
シ(平cí)
  1. 「亀茲(キュウジ)・(クジ)」とは、西域にあった国の名。現在の新彊ウィグル自治区庫車県。

字通

(条目無し)

俟(シ・9画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdʐʰi̯əɡ(上)。同音に士、仕、戺”戸軸を持つ木”、涘”水際”、事。”待つ”の語義を持つ漢字は無い。下記白川説による異体字「竢」(カ音不明)の初出も前漢の隷書

学研漢和大字典

会意。矣(イ)は、人が後ろを向いて、何かが来るのをまち、足を止めたさまを描いた象形文字。のち、文末について断定や感嘆の意に転用されたため、俟の字がその原義をあらわすようになった。俟は「人+矣」。仕(シ)・(ジ)(そばにじっとたつ→つかえる)と同系。

語義

  1. {動詞}まつ。止まって何かが来るのをまつ。たち止まる。《同義語》⇒竢。「不俟駕行矣=駕を俟たずして行く」〔論語・郷党〕

字通

[形声]声符は矣(い)。矣は喩(ゆ)母の字で、也(や)に施(し)、羊(よう)に祥(祥)(しよう)の声があるように、矣に俟(し)の声がある。矣は厶(し)(耜(すき)の象形字㠯(し)の楷書形)に呪器としての矢を加えたもので、厶を清める意。字はまた竢に作り、立は位、儀礼の場所をいう。〔詩、邶風、静女〕「我を城隅に俟つ」とあり、それが正訓であろう。〔説文〕八上に「大なり」とするのは、〔詩、小雅、吉日〕「儦儦(へうへう)俟俟(しし)として 或いは群し或いは友(つれだ)つ」のように用いる状態詞からの訓であろう。

咨(シ・9画)

初出は戦国中期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯ər(平)。同音は下記の通り。

初出 声調 備考
はかる 戦国中期金文
たから 楚系戦国文字
きび 説文解字
はかる 後漢隷書
黍稷を盛る祭器 殷代末期金文
セイ/シ もたらす 楚系戦国文字
あね 西周末期金文
量の名 西周中期金文
ほしいまま 説文解字

漢語多功能字庫

金文、小篆從「」從「」,「」亦是聲符。「」象人張口說話,是「」的初文,本義是商議、謀劃、徵詢意見。後借為歎詞,表示嗟歎聲。


金文と小篆は「口」と「次」の字形に属し、「次」は音符を兼ねる。「次」は人が口を突き出して話す象形で、「咨」の初文。原義は相談、たくらみ、意見の聞き取り。のちに音を借りて詠歎の語となり、舌打ちして歎く、感心して誉める声を意味した。

学研漢和大字典

会意兼形声。次は、ざっと並べる意を含む。咨は「口+(音符)次」で、意見を並べそろえて、もみあうこと。

語義

  1. {動詞}はかる。意見を並べ出して相談する。《同義語》⇒諮。「営中之事事無大小悉以咨之=営中の事事大小と無く悉く以てこれに咨る」〔諸葛亮・出師表〕
  2. {感動詞}ああ。感嘆の舌打ちをあらわす擬声語。▽中国では、よしあしどちらの場合にも舌打ちをする。《類義語》嗟(サ)。「咨爾舜=咨爾舜よ」〔論語・尭曰〕

字通

[会意]次+口。次は口を開いてなげき訴える形。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器。咨とは、祝詞を奏し、神にうれえ申し、訴えることをいう。〔説文〕二上に「事を謀るを咨と謂ふ」とし、字を形声とするが、次は咨嗟する意。そのうれえ申すさまを姿という。うれえ嘆きながら神に謀るのである。謀は某に従い、某は木の先に曰(えつ)(祝詞を収めた器)をつけ、神意に問うことで、字義は似ているが、咨にはなげき訴える意がある。

師(シ・10画)

𠂤 甲骨文 師 金文
「𠂤」甲骨文/師器父鼎・西周中期

初出は甲骨文。部品の「𠂤タイ」の字形と、すでに「ソウ」をともなったものとがある。カールグレン上古音はʂi̯ər(平)。「𠂤」は兵糧を縄で結わえた、あるいは長い袋に兵糧を入れて一食分だけ縛ったさま。原義は”出征軍”。「帀」の字形の由来と原義は不明だが、おそらく刀剣を意味すると思われる。全体で兵糧を担いだ兵と、指揮刀を持った将校で、原義は”軍隊”。

もともと”軍隊”を意味する語で、日本語での「師団」とはその用法。甲骨文の段階ではへんの𠂤だけでも”軍隊”を意味した。それが”教師”の意に転じた理由は、『学研漢和大字典』では明確でなく、『字通』では想像が過ぎる。”将校”→”指導者”と考えるのが素直と思う。
師 字解

漢語多功能字庫」によると、甲骨文の語義は不明。金文では原義の他、教育関係の官職名に(仲枏氏鬲・西周中期)、また人名に用いられたという。さらに甲骨文・金文では、”軍隊”の意ではおもに「𠂤」が用いられ、金文でははじめ「師」をおもに”教師”の意に用いたが、東周になると「帀」を”技能者”の意に用いたという。

学研漢和大字典

会意。𠂤(タイ)は、隊や堆(タイ)と同系のことばをあらわし、集団を示す。師は「𠂤(積み重ね、集団)+帀(あまねし)」で、あまねく、人々を集めた大集団のこと。転じて、人々を集めて教える人。付表では、「師走」を「しわす・しはす」と読む。▽帥(スイ)は、別字。右側の上に一がない。

語義

  1. {名詞}いくさ。集団をなした軍隊。▽周代には二千五百人を一師といった。《類義語》旅。「師旅(軍隊)」「師団」「行師=師を行る」。
  2. {名詞}おおぜいの人々。「京師(ケイシ)(人々の集まる都)」。
  3. {名詞}先生。学問を多くの人に教える人。また、宗教上の指導者。《対語》弟(テイ)(でし)。「先師(なくなった先生)」「牧師」「可以為師矣=以て師と為るべし」〔論語・為政〕
  4. (シトス){動詞}先生とする。手本として学ぶ。「師事」「莫若師文王=文王を師とするにしくはなし」〔孟子・離上〕
  5. {名詞}昔の音楽や礼儀の専門家。「師摯(シシ)(魯(ロ)の音楽の先生の名)」「師冕見=師の冕見ゆ」〔論語・衛霊公〕
  6. {名詞}芸に通じた親方。《対語》徒(でし)。「画師」「薬師」。
  7. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。坎下坤上(カンカコンショウ)の形で、多くの人を統率するさまを示す。

字通

[会意] 𠂤(し)+帀(し)。𠂤は軍が出行するとき、軍社に祀った脤肉の象形。将軍はこの祭肉を携えて出行する。帀は帀(そう)(めぐる)とは別の字で、把手のある曲刀の刃部に、血止めの叉枝を加えている形で、肉切りの包丁の類。脤肉をこれで切りとって携行する意で、師旅の意となる。〔説文〕六下に「二千五百人を師と爲す。帀に從ひ、𠂤に從ふ。𠂤の四帀なるは、衆の意なり」という。𠂤を〔説文〕十四上は小阜(ふ)の象と解しており、その阜を帀(めぐ)るほどの人であるから師衆の意となるとするが、卜文・金文の字形が示すように𠂤は肉の形。古くは𠂤がそのまま師の意で、卜辞には三軍を三𠂤といい、将軍・師長の職を「𠂤般」のようによぶ。すなわち𠂤は師の初文。卜文に、𠂤の下に一・二の横画を加えて、𠂤を安置するところを示し、軍の基地・駐屯地を示す。𠂤を安置する前に標木の朿(し)を立てたものはシ 外字。のちシ 外字が駐屯地を意味した。久しく基地とするところでは𠂤を建物中に安置し、官という。官はまた将軍の居るところで、館(館)という。朿はまた軍門に用い禾(か)という。軍を分遣するときその肉を分与したので、遣という。〔説文〕は𠂤を阜にして土堆丘陵の意と解したため、𠂤系の字形解釈をすべて誤ることとなった。師長が軍職を退いたのち、氏族子弟の教育にあたり、教学や軍楽のことを教えたので、教学・音楽は師氏の職掌とされた。〔周礼〕の師系統の職事は、多くこのような氏族社会の伝統から発している。

視/視(シ・11画)

視 甲骨文 視 金文
甲骨文/𣄰尊・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ər(上/去)。甲骨文の字形は大きく目を見開いた人で、原義は”よく見る”。現行字体の初出は秦系戦国文字。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”視察する”の意に、金文では”見る”の意に用いられた(𣄰尊・西周早期)。また地名や人名にも用いられた。

”みる”類義語の一覧については、論語語釈「見」を参照。

学研漢和大字典

形声。「見+(音符)示(シ)」で、まっすぐみること。示の原義(祭りの机)には直接の関係はない。指(まっすぐゆびさす)・示(まっすぐさししめす)と同系のことば。旧字「視」は人名漢字として使える。

類義語の

  1. 見は、目だつこと、目にとまること。看は、手をかざしてよくみること。
  2. 察(サツ)は、くもりなくみわけること。
  3. 臨(リン)・覧(ラン)・瞰(カン)は、高い所から下のものをみまわすこと。
  4. 観は、多くを並べてみくらべること。
  5. 監(カン)は、上から下のものをみおろして、みさだめること。
  6. 望は、遠くのみえにくいものを、もとめみること。
  7. 眺(チョウ)は、右に左にと、広くみわたすこと。

意味

  1. {動詞}みる。まっすぐ目をむけてみる。転じて、注意してよくみる。みてとる。《類義語》看・見。「熟視」「視而不見=視れども見えず」〔大学〕
  2. {動詞}みる。いたわり世話をする。まともに扱う。「視養」「視民如子=民を視ること子のごとし」〔春秋左氏伝・襄二五〕
  3. {動詞}みる。職務をまじめに行う。「崔子称疾不視事=崔子は疾を称して事を視ず」〔春秋左氏伝・襄二五〕
  4. {動詞}なぞらえる(なぞらふ)。よくみくらべる。《類義語》擬。「視此為佳=此に視べて佳しと為す」「大夫受地視伯=大夫地を受くること伯に視ふ」〔孟子・万下〕

字通

[形声]声符は示(じ)。示は祭卓の形。〔説文〕八下に「瞻(み)るなり」と訓し、示声の字とし、古文二形を録する。また瞻字条四上に「臨み視るなり」とあり、神の降鑒することをいう。示は祭卓の象で、視とは神意の示すところを見る意であり、ゆえに視にまた「しめす」の訓がある。〔詩、小雅、鹿鳴〕の〔箋〕に、「視は古の示の字なり」という。見も跪(ひざまず)いて神意を拝する意の字で、また「しめす」の訓がある。

徙(シ・11画)

徙 金文
鄭臧公之孫鼎・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯ĕɡ(上)。

学研漢和大字典

会意。「止(あし)+止(あし)+彳(いく)」で、左の足をA点よりB点にずらせることを示す。摩擦をおこしつつ、ずるずると動く意を含む。類義語の移は、横へ長く伸びて行くこと。遷(セン)は、抜けがらを残して、中身が他所へ去って行くこと。「徒」とまちがえないように。

語義

{動詞}うつる。うつす。ずれて動いて行く。場所をかえる。「遷徙(センシ)(うつる)」「聞義不能徙=義を聞いて徙る能はず」〔論語・述而〕。「能徙者予五十金=能く徙す者は五十金を予へん」〔史記・商君〕

字通

[形声]声符は止(し)。卜文・金文に字を■(彳+止)(し)に作る。〔説文〕二下に■(辶+止)を正字とし、「迻(うつ)るなり」とする。卜辞に「■(彳+止)雨」というものは長雨、金文の〔呂セイ かなえ 外字(りょせい)〕に「大室に■(彳+止)(侍)す」のように用い、おそらく■(彳+止)の初文であろう。また祝禱の器である𠙵(さい)を加えて■(彳+止+口)に作り、〔令彝(れいい)〕に「■(彳+止+口)(い)でて卿事寮を同(あつ)む」という。古くは歩を進めることに深い意味があり、■(彳+止)・■(彳+止+口)・徙はその系列の語である。

偲(シ・11画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsʰəɡ(平)。同音に采”採る”、採、菜=菜。

論語子路篇28の定州竹簡論語では「䛭 外字」(言+辛)と記し、『大漢和辞典』によると語義未詳で、『篇海類編』を引いて「音信」とある。

「辛」si̯ĕn(平)は甲骨文から存在し、『学研漢和大字典』では「鋭い刃物でぴりっと刺すこと」と言い、『字通』では「把手のある大きな直針の形。これを入墨の器として用いる」と言うが、「宰」の字のように、必ずしも入れ墨の針ばかりを意味せず、鋭い刃物一般と解せる。

「辛辣」とは”刺すような(厳しい批評)”を意味するが、患部を取り去り鍼療治を行うのもまた「辛」であり、「䛭 外字」は”うそいつわりや飾りのない、まことの言葉”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「人+(音符)思(こまやか)」。

語義

  1. {動詞・形容詞}うまず休まず努力する。また、そのさま。《同義語》⇒孜。「朋友切切偲偲=朋友には切切偲偲たり」〔論語・子路〕
サイ
  1. (サイナリ){形容詞}思慮が行き届いているさま。▽才に当てた用法。「其人美且偲=其の人は美にして且つ偲なり」〔詩経・斉風・盧令〕
  2. 《日本語での特別な意味》しのぶ。思いおこしてなつかしむ。

字通

[形声]声符は思(し)。〔説文〕八上に「彊力なり」とし、思声。「詩に曰く、其の人美にして且つ偲(さい)なり」の句を引く。〔詩〕は〔斉風、盧令〕。二章の「其の人美にして且つ鬈(けん)なり(髪長の人)」に対応する句で、偲は鬚がこくて美しいさまであろう。

斯(シ・12画)

斯 金文
余贎乘兒鐘・春秋晚期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はsi̯ĕɡ(平)。字形は「其」”ちりとり”+「斤」”おの”で、ばらばらに切り裂くさま。「漢語多功能字庫」によると、西周末期の「禹鼎」では”奴隷”を意味し、春秋中期の「叔尸鐘」では語調を整える”これ・この”を意味し、意味内容は持たない。戦国時代の竹簡になって、”…(こそ)は”を意味する助詞の機能を持った。

学研漢和大字典

斯 解字
会意。「其(=箕。穀物のごみなどをよりわける四角いあみかご)+斤(おの)」で、刃物で箕(ミ)をばらばらにさくことを示す。「爾雅」釈言篇に「斯とは離なり」とあり、また「広雅」釈詁篇に「斯とは裂なり」とある。分析の析(細かくさく)・撕(シ)(引きさく)・泌(シ)(小さく分かれた流れ)などと同系。類義語に則・切。

意味

  1. {動詞}きる。さく。ばらばらにきり離す。《類義語》析。「墓門有棘、斧以斯之=墓門に棘有り、斧を以てこれを斯く」〔詩経・陳風・墓門〕
  2. {指示詞}これ。この。→語法「①」。
  3. {接続詞}すなわち(すなはち)。ここに。→語法「②」。
  4. {助辞}詩のリズムを整えることば。「彼、何人斯=彼、何人ぞや斯」〔詩経・小雅・何人斯〕
  5. {形容詞}しろい(しろし)。▽鮮に当てた用法。「有兔、斯首=兔有り、斯首なり」〔詩経・小雅・瓠葉〕
  6. {名詞}小者。また、雑役夫。▽廝(シ)に当てた用法。「廝(=斯)徒十万」〔史記・蘇秦〕

語法

①「これ」「この」とよみ、「これ」「この」と訳す。《類義語》此・是(コレ)・之(コレ)。「先王之道、斯為美=先王の道は、これを美と為す」〈昔の聖王の道もそれでこそ立派であった〉〔論語・学而〕

②「~斯…」は、「~すなわち…」「~ここに…」とよみ、「~ならば…である」「~したら…する」と訳す。前後の句をつなぐ意を示す。《類義語》則。「清斯濯纓、濁斯濯足矣=清(す)みては斯(すなは)ち纓(えい)を濯(あら)ひ、濁りては斯ち足を濯ふ」〈川の流れが清むときは、我が冠の紐を洗おう、濁ったときは、我が足を洗おう〉〔孟子・離上〕。「人之過也、各於其党、観過斯知仁矣=人の過ちや、各(おのおの)その党におひてす、過を観てここに仁を知る」〈人の過ちというのは、それぞれの人物の種類に応じている、過ちを見れば仁かどうかが分かる〉〔論語・里仁〕

③「~斯…」は、「~これ…」とよみ、「~は…である」と訳す。▽用例はきわめて少ない。「攻乎異端、斯害也已矣=異端を攻むるは、これ害のみ」〈聖人の道と違ったことを研究するのは、ただ害があるだけだ〉〔論語・為政〕

④「かく」とよみ、「このように」と訳す。「子在川上曰、逝者如斯夫、不舎昼夜=子川の上に在りて曰はく、逝く者は斯くの如きかな、昼夜を舎かず」〈先生が川のほとりで言われた、過ぎゆくものはこの(流れの)ようであろうか、昼も夜も休まない〉〔論語・子罕〕

字通

[会意]其(き)+斤(きん)。〔説文〕十四上に「析(さ)くなり」とし、其声とするが、声が合わず、また其は箕(き)の初文であるから、斤を加うべきものではない。おそらく丌(き)(机)の上にものを置き、これを析く意であろう。〔詩、陳風、墓門〕「墓門に棘(きょく)有り 斧(ふ)を以て之れを斯(さ)く」、また〔列子、黄帝〕「齊國を斯(はな)るること幾十萬里なるかを知らず」のように用いる。指示代名詞としては、ものを強く特定する意があり、〔論語〕に「斯文」「斯の人」「斯の民」のようにいう。「斯須」は連語、「すなわち」のように副詞にも用いる。

弒(シ・12画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯əɡ(去)。同音は詩、邿”地名”(平)、始(上)、試、幟(去)。部品の杀は、『学研漢和大字典』によるとメ=刈り取る+朮=餅粟で、穀物を刈り取ること、『字通』によると不吉なけだもの。旁の刂は刀。同音の「」が仮借義で通用し、戦国文字からある。更にその部品「」ɕi̯ək(入)は戦国文字からあり、”もちいる”の意で「試と同じ」と『大漢和辞典』は言う。
試 大漢和辞典

学研漢和大字典

会意兼形声。式は以と同系で、人間が道具を用いて作為することを意味し、何かをする意。弑は「緯の略体+(音符)式」。下が上を殺すというのを避けて、「する、やった」といった一種の忌みことば。▽シイと伸ばすのは、「詩歌(シイカ)」の場合と同様の読みぐせ。

語義

  1. (シイス){動詞}臣下が主君を、また、子が親を殺す。「弑虐(シイギャク)・(シギャク)」。

字通

(条目無し)

大漢和辞典

リンク先を参照

葸(シ・12画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsi̯əɡ(上)だが、上古=秦以前に存在が確認できない言葉の上古音というのも不思議な気がする。同音に思とそれを部品とする漢字群など。思の字の初出は春秋末期の金文(→語釈)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)思(こまかく思いめぐらす)」。

語義

  1. (シス){動詞・形容詞}おそれる(おそる)。びくびくしてこわがる。また、おそれるさま。「慎而無礼則懊=慎にして礼無ければ則ち懊す」〔論語・泰伯〕
  2. {形容詞}くよくよするさま。

字通

(条目無し)

大漢和辞典

リンク先を参照

紫(シ・12画)

紫 金文
蔡侯墓殘鐘四十七片・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はtsi̯ăr(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。此(シ)は「止(=趾。あし)+比(ならぶ)の略体」の会意文字で、両足がそろわず、ちぐはぐに並ぶこと。紫は「糸+(音符)此」で、赤と青をまぜて染めた色がそろわず、ちぐはぐの中間色となること。眥(シ)(上下のまぶたがちぐはぐに重なった目じり)・雌(二枚の羽をちぐはぐに重ねるめす鳥)・柴(サイ)・(シ)(ふぞろいなしば)などと同系。

語義

  1. {名詞}むらさき。青と赤のまじった色。▽孔子はこれを中間色だとしてにくんだが、いっぽうまた、高貴の色として珍重された。「悪紫恐其乱朱也=紫を悪むは其の朱に乱れんことを恐るればなり」〔孟子・尽下〕
  2. 《日本語での特別な意味》むらさき。碵油(ショウユ)のこと。

字通

[形声]声符は此(し)。〔説文〕十三上に「帛(きぬ)の靑赤色なるものなり」とあり、紫宸・紫禁など宮廷、また紫霞・紫微など神仙のことをいう語に用いる。間色の美しいものであるので、〔論語、陽貨〕に「紫の朱を奪ふことを惡(にく)む」という語がある。

齒/歯(シ・12画)

歯 金文
齒受且丁尊・殷代末期或西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtʰi̯əɡ(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。甲骨文は口の中のはを描いた象形文字。篆文(テンブン)以下はこれに音符の止を加えてある。「前歯の形+(音符)止(とめる)」。物をかみとめる前歯。持(手で止める)と同系。類義語の牙(ガ)は、かみあう犬歯やきば。

語義

  1. {名詞}は。物をかんでとめる前ば。また、広く、はのこと。「門歯」「歯牙(シガ)」。
  2. {名詞}よわい(よはひ)。とし。年齢。▽歯が、年齢によって生滅するところから。「年歯」「飯疏食、没歯無怨言=疏食を飯ひ、歯を没るまで怨言無し」〔論語・憲問〕
  3. (シス){動詞}よわいする(よはひす)。年の順に並ぶ。
  4. (シス){動詞}馬の歯を見てその年をはかる。
  5. (シス){動詞}順番にならぶ。同類に数えられる。「不敢与諸任歯=敢(あ)へて諸任と歯せず」〔春秋左氏伝・隠一一〕

字通

[形声]声符は止(し)。卜文には声符を加えず、象形。〔説文〕二下に「口の齗骨(ぎんこつ)なり。口齒の形に象る」という。卜辞に歯の疾を卜するものがあり、また齒に虫を加えた齲(むしば)を示す字がある。歯によって獣畜の年を知りうるので齡(齢)といい、老いて徳の成就することを歯徳という。

詩(シ・13画)

詩 金文 詩 篆書
(金文大篆・篆書)

論語では『詩経』を指すことが多い。

『字通』「詩経」条

三百五。風(民謡、十五国風)百六十、雅(大雅・小雅、貴族の儀礼・宴遊歌)百五、頌(周・魯・商、歌)四十。〔大雅、江漢〕は周の宣王期(前二七―前七二)の金文の形式のもの、〔風、黄鳥〕は公(―前六二一)の殉葬を(そし)る。〔詩〕の時代はほぼこの両者の間にある。〔詩〕を伝えるもの三家、はじめ〔斉詩〕〔魯詩〕〔詩〕が行われ、のち〔毛詩〕が出た。〔毛詩〕には毛公の〔伝〕、玄の〔箋〕、唐の孔穎達の〔正義〕を加え、〔五経正義〕の一、のち〔十三経注〕の一。訓詁になお問題多く、馬瑞辰の〔毛詩伝箋通釈〕が参考となる。程俊英・見元の〔詩経注析〕がある。

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯əɡ(平、ɕはシュに近いシ)。同音に邿(国名・山名:金文あり)、始(:金文あり)、試、弒(主君を殺す)、幟。藤堂上古音はthiəg。『大漢和辞典』で音シ訓(から)うたは他に存在しない。

詩の字そのものの原義は、寺=”役所”の文書または命令のことで、”うた”の意味になったのは仮借である。そして詩は眺めるものではなくて歌うもので、”歌詞”と解した方がいい。

最も早い書体は楚系戦国文字に見られる詩 外字と書いた書体。
詩 楚系戦国文字
(上海博物館藏戰國楚竹書(1)䊷衣 『上海博物館藏戰國楚竹書(一)』上海古籍出版社2001年版より)

じっと眺めていると「旨」(シ・こころ)に見えてくるし、「旨」は甲骨文から存在するが、甲骨文の字形は人+口である上、カールグレン上古音はȶi̯ər、藤堂上古音はtierで音通するとは言いがたい。

また「国学大師」によると、荊門郭店楚墓竹簡に下掲の字形を載せ、必ずしも現行書体と違ってはいないことを示している。ただしこれは、”役所”関連を意味しているかも知れない。
詩 楚系戦国文字

部品の「寺」には”うた”の意味が、『大漢和辞典』を引いても出てこない。「詞」は戦国早期には遡れるが、そこで行き止まり。語義も「国学大師」は「”詞”在最初可能指官府文書的文字,因此從”言”表義」という。

『説文解字』は「詩、志なり」というが、「志」ȶi̯əɡ(去)は戦国末期の中山王の青銅器が初出で、論語の時代に存在しない。『大漢和辞典』には「毛詩指説」を引いて「詩は辞なり」といい、辞(辭)dzi̯əɡ(平)(詩ɕi̯əɡ)は春秋時代の金文で確認できるが、藤堂上古音ḍiəg(下点は1989以前のIPAで、”狭い変種・摩擦音”を示す)(詩thiəg)で、音通していると言いたいが断言しがたい。

漢語多功能字庫」は、文献時代以降のことのみ述べる。


ただし現行のIPA=国際発音記号では、下点は(˔)を用いて”上寄り”を示す記号に改められている。何が上寄りかと言えば舌であろう。すると辞ḍiəgは、詩thiəgとほとんど同じ音ではないか? ……と思って、念のため虫眼鏡で再確認したら、下点ではなく下〇=無声音だった。とほほ。ただしネット環境で表記できないから、上記の記号は訂正していない。それにしても、dの無声音なんてありえるのだろうか? やはりthに近いように思うが…。


結局、下記『学研漢和大字典』の解字を元に、「詩」ɕi̯əɡ/thiəgは古くは「之」(カ音ȶi̯əɡ/藤音tiəg)か、音訓から「辞」(カ音dzi̯əɡ/藤音ḍiəg)と書かれていたのだろうと想像するしかない。

之 金文
「之」(春秋晩期)

ここで改めて、上掲の楚系戦国文字を見ると、「之口」に見えてくる。
詩 楚系戦国文字

「口のくもの」。口に任せて、朗々と歌い上げる言葉。漢字で四角を見ると、何でも𠙵サイである、と言い回るのは、白川漢字学にあまりに毒されていると言うべきだ。ともあれ金文の釋文を随分引いたが、詩=「之口」という物証が出ない限り、断言は出来ないのが残念。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、之(シ)(いく)は、止(とまる)と同じく、人の足を描いた象形文字で、直線状に進む、直下に停止する、の意を含む。寺は「寸(手)+〔音符〕之」からなり、手でおし進める、手をじっととめる(持)の両方の意を含む。

詩は「言+〔音符〕寺」で、心の進むままをことばであらわしたもの(叙情詩)、心の中にとまった記憶をことばにしてとどめたもの(叙事詩)の両方の意を含む。

意味

  1. {名詞}うた。感動をあるリズムにのせて表現したもの。きまった型にのせたのを定型詩、型にとらわれないものを自由詩という。「詩歌」「唐詩」「詩言志=詩は志を言ふ」〔書経・舜典〕
  2. {名詞}「詩経」のこと。「詩三百」〔論語・為政〕
  3. 《日本語での特別な意味》し。漢詩のこと。

『詩経』=『毛詩』意味

《書名》中国最古の詩集。西周から東周にかけて(前九世紀~前七世紀)の歌謡三〇五編を収める。伝承によると孔子が編集したとされ、春秋時代にはすでに士人の必読の教養の書であった。全体の構成は「風(お国ぶり)」「雅(宴会や祭礼の歌)」「頌(ショウ)(祭礼の楽歌や神楽)」の三部に分かれる。五経の一つ。十三経の一つ。

字通

形声、声符は寺。古くは之に従い、之声。〔説文〕三上に「志なり」とあり、〔詩、大序〕に「詩は志の之く所なり。心に在るを志と為し、言に発するを詩と為す」とあるのによる。〔詩、大雅、巻阿〕「詩をつらぬること多からず 維を以て遂に歌う」、また〔大雅、シュウ高〕「吉甫、誦を作る 其の詩はなはおおいなり 其の風なびく好し 以て申伯に贈る」とあるのによると、詩は誦すべきものであり、呪誦であり、定められた儀礼の歌であったことが知られる。詩の呪誦的な性格は、〔小雅、何人斯〕「此の三物を出だして 以て爾を詛す」「此の好歌を作りて 以て反側(心変わり)をむ」などの語によって知ることができる。〔後漢書、五行志一〕に「五行伝に曰く、言の従わざる、是れを不がい(不治)と謂う。~の極憂には、時に則ち詩妖有り」とみえ、詩には呪霊があるものとされている。寺は金文に「たもつ」と読む用法がある。詩の起源は呪誦、その字義は呪能を保有するもののの意であろう。

訓義

  1. うた、からうた、定型のうた。
  2. 五経の一。〔詩〕〔詩経〕〔毛詩〕のようにいう。
  3. 弦歌するもの。譜によってうたうもの。
  4. 持と通じ、もつ。

大漢和辞典

詩経 毛詩 大漢和辞典
詩経 毛詩 大漢和辞典

試(シ・13画)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯əɡ(去)で、同音に詩、邿”周代の国名”、始、弑、幟。「試」と語義を共有する字は無い。「に通ず」と『大漢和辞典』にいう。

学研漢和大字典

会意兼形声。式は「工(仕事)+(音符)弋(ヨク)(棒)」から成り、棒をもちいて工作すること。試は「言+(音符)式」で、その人や物を使って仕事をやらせてみること。類義語に嘗。

語義

  1. {動詞・名詞}こころみる。こころみ。よしあしなどを実際に調べてみる。ためすこと。▽訓の「こころみる」は「心+見る」から。《類義語》嘗(ショウ)。「嘗試(ショウシ)」「試験」「明試以功=明試するに功を以てす」〔書経・舜典〕
  2. {動詞}もちいる(もちゐる・もちふ)。人を官職につけてもちいてみる。また、物を使ってみる。「吾不試、故芸=吾試ゐられず、故に芸あり」〔論語・子罕〕
  3. {名詞}官吏登用の試験。「郷試(昔の中国で行われた官吏登用のための地方試験)」。
  4. 《日本語での特別な意味》「試験」の略。「入試」。

字通

[形声]声符は式(しき)。式は呪具の工を用いて清め、払拭する意。〔説文〕三上に「用ふるなり」、前条に「課は試なり」とあって試用の意とする。もと行為に先だって神意を問う呪儀。その結果によって実行に移されるので、古くは用いる意であった。〔礼記、楽記〕「兵革試(もち)ひず」、〔緇衣〕「刑試(もち)ひずして、民悉(ことごと)く服す」のようにいう。〔周礼、夏官、藁人〕「其の弓弩を試む」は課試の意。弑(し)と通用することもあり、式がその呪具を用いる方法であった。

肆(シ・13画)

肆 金文
洹子孟姜壺・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯əd(去)。

学研漢和大字典

会意。もと「長(ながい)+隶(手でもつ)」。物を手にとってながく横にひろげて並べることをあらわす。のち、肆(長+聿)と誤って書く。類義語の縦は、たてにのびほうだいになること。放は、四方にのび広がる。恣(シ)は、かってきままなこと。慆(トウ)は、なりゆきまかせのさま。証文や契約書などで、改竄(カイザン)や誤解をさけるために「四」の代わりに用いることがある。

語義

  1. {動詞}つらねる(つらぬ)。横に長く並べる。並べて見せ物にする。死体を横にねかせて見せしめにする。「肆陳(シチン)」「吾力猶能肆諸市朝=吾が力なほ能く諸を市朝に肆さん」〔論語・憲問〕
  2. {名詞}みせ。品物を横に並べてみせるみせ。「書肆(ショシ)(書店)」「肆中(シチュウ)」「百工居肆以成其事=百工肆を居へて以て其の事を成す」〔論語・子張〕
  3. 「肆祀(シシ)」とは、動物のいけにえを解剖して並べ、お供えにする祭礼。
  4. (シナリ){動詞・形容詞}ほしいままにする(ほしいままにす)。ほしいまま。のびほうだいにまかせる。横にながい。気ままな。くつろいだ。《類義語》恣(シ)・縦(ショウ)・放。「放情肆志(ホウジョウシシ)(かって気まま)」「古之狂也肆=古之狂也肆なり」〔論語・陽貨〕
  5. (シナリ){形容詞}ながい(ながし)。ながくのびるさま。「其風肆好=其の風肆く好し」〔詩経・大雅・司高〕
  6. {助辞}ゆえに(ゆゑに)。ここに。詩の句調をととのえることば。「肆不殄厥慍=肆に厥の慍を殄たず」〔詩経・大雅・緜〕
  7. {数詞}数の四。

字通

[会意]正字は𨽸に作り、镸(ほう)+隶(たい)。镸は髟、長髪のものをいう。𨽸はその獣尾をもつ形。獣尾をとらえることを逮という。隶は手が尾に及ぶ意。字の構造は隷と似ており、隷は呪霊のある獣を用いて、禍殃を他のものに転移する呪儀。これによって禍殃を他に移すことを「隷(つ)く」といい、転移されたものを隷といい、隷属・奴隷の意となる。肆はおそらくこれによって人に死をもたらすもので、〔説文〕九下に「極陳なり」と訓し、隶声とする。極は殛、極陳とは殺して肆陳することをいう。〔周礼、秋官、掌戮〕に「凡そ人を殺す者は、諸(こ)れを市に踣(たふ)し、之れを肆(さら)すこと三日」とあり、それが字の原義。それより肆陳・放肆の意となり、肆赦の意となる。〔左伝、昭十二年〕「昔、穆王其の心を肆(ほしいまま)にせんと欲す」とは放肆、〔書、舜典〕「眚災(せいさい)は肆赦す」は赦免の意である。金文にこの字を〔毛公鼎〕「肆(ゆゑ)に皇天■(上下に日+矢)(いと)ふこと亡(な)し」のように接続の語に用い、〔詩、大雅、抑〕「肆に皇天尚(つね)とせず」というのと語法同じ。人を肆殺することが字の原義。他は引伸・仮借の義である。

[会意]字の正体は𨽸に作り、長毛の獣の尾をもつ形。呪霊のある獣によって呪儀を行い、災厄を人に移すことで、移されたものを隷という。肄は𨽸・肆の譌形とみられる。肄習・労苦の意がある。また長い枝の先をいう。肄余の意がある。

大漢和辞典

→リンク先を参照

緇(シ・14画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtʂi̯əɡ(平)。同音は甾”ほとぎ”とそれを部品とする漢字群など。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音シン)は、くろくにごった土のこと。緇はそれを音符とし、糸を加えた字。滓(シ)(水底に沈殿した泥)と同系。

語義

  1. {形容詞・名詞}くろい(くろし)。くろ。絹織物などの色がくろい。くろく染めたどろ染め。「緇衣羔裘(シイコウキュウ)」〔論語・郷党〕
  2. {動詞}くろめる(くろむ)。くろく染める。また、くろく染まる。「不曰白乎、涅而不緇=白しと曰はざらん、涅(でつ)すれども緇(くろ)まず」〔論語・陽貨〕
  3. {名詞}くろい衣服。また、僧が着る墨染めの衣。また、転じて僧のこと。「緇流(シリュウ)」。

字通

[形声]声符は甾(し)。〔説文〕十三上に「帛(きぬ)の黒色なるものなり」とみえる。〔周礼、考工記、鍾氏〕は染色のことを掌るもので、七入して黒となるものを緇という。僧衣にはその色を用いるので、僧を緇流・緇徒という。

雌(シ・14画)

匕 金文
「匕」仲枏父匕・西周中期

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsʰi̯ăr(平)。同音に此、跐”踏む”、佌”小さいさま”、玼”鮮やか・傷”、泚”きよい”、庛”鋤の部品”。部品の此に”メス”の意は無い。隹は”鳥”。

『字通』は「此はもと牝牡の牝を示す記号的な匕(ひ)に、止(し)声を加えた」というが、『大漢和辞典』匕条にその語釈は無い。『学研漢和大字典』此条は「会意。「止(あし)+比(ならぶ)の略体」で、足を並べてもうまくそろわず、ちぐはぐになること」という。ただし匕条は「象形。匕は、妣(女)の原字」といい、匕が論語時代の置換候補になる。

学研漢和大字典

会意兼形声。此(シ)は、足がちぐはぐに並んださまをあらわす会意文字。雌は「隹(とり)+(音符)此」で、左右の羽をちぐはぐに交差させて、尻(シリ)をかくすめすの鳥。眥(シ)(上下のまぶたの交わるめじり)・柴(サイ)(ふぞろいに束ねたたきぎ)と同系。「めす」「め」は「牝」とも書く。

語義

  1. {名詞}め。めす。鳥のめす。転じて、獣のめす。また、弱々しいものや小形のもののたとえ。《対語》⇒雄。「決雌雄=雌雄を決す」〔史記・項羽〕
  2. {形容詞}めめしい。弱々しい。ひかえめな。「雌伏」「雌声」。

字通

[形声]声符は此(し)。〔説文〕四上に「鳥母なり」とあり、めんどりをいう。此に細小なるものの意がある。此はもと牝牡の牝を示す記号的な匕(ひ)に、止(し)声を加えた形声字で、これを隹(とり)の類に及ぼして雌という。雌雄の意より、優劣の意となる。〔老子〕に謙下不争、雌を守って争わないことを、至道とする考えかたがある。

賜(シ・15画)

賜 金文 賜 金文
德鼎・西周早期/虢季子白盤・西周末期

初出は西周早期の金文だが、字形は「易」。現行字体の初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はsi̯ĕɡ(去)。字形は「貝」+「鳥」で、「貝」は宝物、「鳥」は「易」の変形。「易」は甲骨文から、”あたえる”を意味した。詳細は論語語釈「易」を参照。

論語では、端木賜子貢の名として頻出。

漢語多功能字庫」では原義を”あたえる”とし、戦国早期の金文では人名に用い(越王者旨於賜鐘)、越王家の姓氏名だったという。

学研漢和大字典

会意兼形声。「貝+(音符)易(イ)・(シ)(おしのばす、おしやる)」で、自分の前にある物を相手の前におしやること。転じて、たまわる意となった。錫(セキ)(うすくおしのばす金属)と同系。類義語に奨。

意味

  1. {動詞}たまう(たまふ)。目上の人が目下の者に物を与える。また、目上の人が目下の者に命令を下す。「賜給」「下賜」「賜命」。
  2. {動詞}たまわる(たまはる)。目上の人から物などをもらう。いただく。「賜暇」。
  3. {名詞}たまもの。いただきもの。恵み。おかげ。「民、到于今、受其賜=民、今に到るまで、其の賜を受く」〔論語・憲問〕

字通

[形声]声符は易。易は賜の初文で、爵から酒を注ぐときの注ぎ口と、下の把手と、注ぐ酒とを象形的にしるした字。のち貝など財貨を賜うことが多くて賜の字となったが、古くは爵酒を賜うことが恩賞とされた。経籍には錫の字を用いることが多いが、これは或いは彝器(いき)の料として赤金(銅)を賜うたことの名残であろう。すべて上より与えられるものをいい、〔礼記、檀弓下〕には「賜を受けて死す」のような語がある。

摯(シ・15画)

摯 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯əb(去)。藤堂上古音はtied(去)。藤音tiəp(去)に「鷙」(シ、たか)があり、『三国志』呂蒙伝に「鷙鳥シチョウ百をかさぬるも、一ガク。」と孫権が呂蒙を讃えた話が残る。鶚とはミサゴ、魚を捕る猛禽。あまり大きくないが、それより弱いのだから小さな猛禽類を言うのだろう。

学研漢和大字典

会意兼形声。執(シュウ)・(シツ)は、両手に手かせをはめて、しっかり捕らえたさま。摯は「手+(音符)執」で、手でしっかり持つこと。

語義

  1. {動詞}とる。しっかりと手にとって持つ。《類義語》執(シュウ)・(シツ)。
  2. {名詞}面会のとき、手に持っていくみやげ物。《同義語》贄。
  3. {動詞・形容詞}いたる。すみまで行き届く。また、いっぱいに満ちるさま。《類義語》至。「真摯(シンシ)(非常にまじめなさま)」。
  4. {名詞}小鳥をつかむ猛鳥。▽鷙(シ)に当てた用法。「摯鳥(シチョウ)(=鷙鳥)」。

字通

[形声]声符は執(しゆう)。執は手械(てかせ)を加える形で、強く執持し、拘執する意がある。〔説文〕十二上に「握持するなり」とし、字を会意とするが、執より分岐した形声の字である。字はまた贄と声義が通じ、贄質の意に用いる。

二(ジ・2画)

二 甲骨文二 金文
甲骨文/夨令方彝・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯ər(去)。「ニ」は呉音。「上」「下」字と異なり、上下同じ長さの線を引いた指事文字で、数字の”に”を示す。原義は数字の”に”。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文・金文では原義で用いた。

学研漢和大字典

指事。二本の横線を並べたさまを示すもので、二つの意を示す。二つの物がくっつくという意味では、爾(ニ)・(ジ)(そばにくっついた相手→二人称代名詞)・膩(ニ)・(ジ)(ねばってくっつく油)・泥(ナイ)・(デイ)(くっつくどろ)・人(ニン)・(ジン)(そばにくっついている仲間、隣人)・昵(ニチ)・(ジツ)(そばにくっついて親しむ)などと同系。その半面では、一つに合体せずわかれる、別になるとの意味を派生する。類義語の両・双は、二つ対(ツイ)をなすこと。再は、もう一度の意。復は、来た道をもう一度引き返すことから、もう一度の意。異字同訓に双「双子。双葉」。付表では、「二日」を「ふつか」「二十日」を「はつか」「二人」を「ふたり」「二十・二十歳」を「はたち」「十重二十重」を「とえはたえ」と読む。▽証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるため「弍・貳(=弐)」と書くことがある。▽草書体をひらがな「に」として使うこともある。▽「二」の全画からカタカナの「ニ」ができた。

語義

  1. {数詞}ふたつ。
  2. {動詞}ふたつにする(ふたつにす)。二分する。また、ふたつにわけて食い違わせる。《同義語》⇒弐。「二其心=其の心を二つにす」。
  3. {数詞}ふた。順番の二番め。「俯不俊於人二楽也=俯して人に俊ぢざるは二の楽しみなり」〔孟子・尽上〕
  4. {副詞}ふたたび。二度。二回。
  5. {形容詞}別の違ったものであるさま。《類義語》両。「二様」。
  6. {数詞}二三と連ねて用い、いくつかの、いろいろの、の意をあらわすことば。「二三子」「二三其徳=其の徳を二三にす」〔詩経・衛風・氓〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①邦楽で、三味線の第二の糸で、一の糸よりも音が高く、三の糸より低いもの。
    ②「二塁」の略。「二遊間」。

字通

[指事]横線二を以て、数の二を示す。算木を二本ならべた形。卜文・金文は同様の方法で一より四までの数字を示す。〔説文〕十三下に「地の數なり。偶に從ふ」とする。〔易、繫辞伝上〕に「天は一、地は二なり」とあるのによる。古文の字は弍に作り、金文では比例や分数的表示のときにその字を用いることがある。

尼(ジ・5画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はni̯ər(平)。同音は下記の通り。『大漢和辞典』に音ジ・ニ訓ちかづくは他に存在しない。音ジツ・ニチ訓ちかづくに「昵」ni̯ət(入)があるが、初出は説文解字。近音のniərの一覧は、論語語釈「泥」を参照。

初出 声調 備考
ちかづく 前漢隷書
はぢる 説文解字
木の名・糸枠 前漢隷書
あぶら 戦国末期金文

論語では孔子のあざ名「仲尼チュウジ」として出てくる。『史記』孔子世家によると、孔子の母(顔徴在)が出生前にキュウに祈って孔子が生まれたので、仲尼とあざ名が付いたという。だが「尼」の字が論語の時代に存在しないから、これは後世の作り話。

『学研漢和大字典』によると、「尼」の藤堂上古音はnɪerまたはneɪであり、「二」の上古音nierと近い。カールグレン上古音も「尼」ni̯ər(平)に対して「二」ȵi̯ər(去)。ここからもとは「仲二」と書き、単に”次男坊”を意味すると想像したくなる。

孔子はおそらく母が取った客の子であり、言わば社会の最底辺の出身だったからだ。つまり著名人になる前の孔子に、敬称の一種であるあ名があったと考えがたく、あ名が後世重々しい字で書かれるようになっただけではなかろうか。

学研漢和大字典

会意。「尸(ひとのからだ)+比(ならぶ)の略体」で、人が相並び親しむさまを示す。もと、人(ニン)(親しみあうひと)と同系。のち、「あま」の意に専用されたが、尼の原義は昵懇(ジッコン)の昵の字に保存された。

語義

  1. {名詞}あま。仏に仕える女性。▽梵語(ボンゴ)を漢訳した比丘尼(ビクニ)の略称。あまという日本語は、パーリ語のアンマ(母)から転化したものといわれる。「依撲果寺尼浄悟之室=撲果寺の尼浄悟の室に依る」〔謝小娥伝〕
  2. {動詞}ちかづく。そばによりそって親しむ。《同義語》⇒邇(ジ)・昵(ジツ)(親しむ)。
デイ
  1. {動詞}なずむ(なづむ)。ねばって親しむ。また、渋って動かない。《同義語》⇒泥(デイ)。「尼古=古に尼む」「或尼之=或いはこれに尼む」〔孟子・梁下〕
  2. 《日本語での特別な意味》出家した女子の名につけることば。「阿仏尼」。

字通

[会意]人が二人、たがいにもたれあう形。〔説文〕八上に「後ろより之れに近づく」とし、「尸(し)に從ひ、匕(ひ)聲」とするが声が合わず、人がもたれあう親昵(しんじつ)の状を示す字である。色・卬(ごう)・抑・迎などみな二人相倚(よ)る形で、尼・色・卬はいずれも男女のことを示す字。ゆえに尼声の字に、和らぐ・安んず・愛す・したしむなどの意がある。この字を尼僧の意に用いるのは、最も字の形義にそむくものである。

而(ジ・6画)

而 金文 而 甲骨文
蔡侯墓殘鐘四十七片・春秋末期/(甲骨文)

初出は甲骨文。「小学堂」によれば初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はȵi̯əɡ(平)。二人称に用いたり、”そして”の意に用いたりするのは金文から。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では祭りの名、食べ物を煮て祭りを行うこと、地名に用いられ、金文では”なんじ”(叔尸鐘・春秋中期)の意に用いられたが、”…して”のような接続詞の用例は、戦国時代まで時代が下るという(中山王鼎)。

学研漢和大字典

象形。柔らかくねばったひげの垂れたさまを描いたもの。▽ただし古くから、中称の指示詞niəg・nəgに当て、「それ」「その人(なんじ)」の意に用い、また指示詞から接続詞に転じて、「そして」「それなのに」というつながりを示す。

耳(柔らかいみみ)・屮(ジ)(柔らかい肉)・耐(ねばる)などと同系のことば。

意味

  1. {接続詞}しかして。しこうして(しかうして)。→語法「①」。
  2. {接続詞}しかも。→語法「②」。
  3. {代名詞}なんじ(なんぢ)。おまえ。《類義語》汝・若。「且而与其従辟人之士也=且つ而は其の人を辟くるの士に従はんよりは」〔論語・微子〕
  4. {指示詞}その。「而月斯征=而の月斯に征く」〔詩経・小雅・小宛〕
  5. {接続詞}→語法「⑥」

語法

①「しかして」「しこうして」とよみ、

  1. 「また~」「ここで~」と訳す。並列・選択の意を示す。
    ▽「~して」「~て」と直前の語に続けてよみ、訓読しないことが多い。「士不可以不弘毅、任重而道遠=士はもって弘毅(かうき)ならざる可からず、任重くして道遠し」〈士人はおおらかで強くなければならない。任務は重くて道は遠い〉〔論語・泰伯〕
  2. 「そして」と訳す。順接の意を示す。▽「~して」「~て」と、直前の語に続けてよみ、訓読しないことが多い。「学而時習之=学びて時にこれを習ふ」〈学んで適当な時期におさらいする〉〔論語・学而〕

②「しかも」「しかるに」「しかれども」とよみ、「~ではあるが」「しかし」「それなのに」「~であっても」と訳す。逆接の意を示す。
▽「~ども」「~ど」と直前の語に続けてよみ、訓読しないことが多い。「千里馬常有、而伯楽不常有=千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず」〈千里を走る名馬はいつもいるが、名馬を見つける名伯楽はいつもいるわけではない〉〔韓愈・雑説〕

③「しかも」とよみ、「そのうえ」「さらに」と訳す。累加の意を示す。
▽「~して」「~て」と直前の語に続けてよみ、訓読しないことが多い。「積仁潔行如此而餓死=仁を積み行ひを潔(いさぎよ)くすることかくの如(ごと)くにして而(しか)も餓死す」〈あれほど仁徳を積み、清廉潔白であったのに、餓死したのである〉〔史記・伯夷〕

④「すなわち」とよみ、「そうであれば」と訳す。《同義語》則。「上下交征利、而国危矣=上下交(こもごも)利を征(と)れば而(すなは)ち国危ふからん」〈上の者も、下の者も互いに利益を取りあってばかりいては、国は危うくなるでしょう〉〔孟子・梁上〕

⑤「~して」「~にして」とよみ、「~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。
▽「~して」「~て」と直前の語に続けてよみ、訓読しないことが多い。「倉廩実而知礼節、衣食足而知栄辱=倉廩(さうりん)実(み)ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る」〈倉庫に穀物がいっぱいになって、はじめて礼儀を心得るようになり、衣食が十分に足りてきて、はじめて名誉と恥とを知るようになる〉〔史記・管晏〕

⑥「~にして」とよみ、「~でありながら」と訳す。名詞の直後におかれ、条件文を導く。▽「~して」「~て」と直前の語に続けてよみ、訓読しないことが多い。「人而無信、不知其可也=人にして信無(な)くんば、その可なることを知らざるなり」〈人でありながら信義がなければ、うまくやっていけない〉〔論語・為政〕

字通

学而 而 ジ
頭髪を切って、結髪をしない人の正面形。雨乞いをするときの巫女ふじょの姿で、需とは雨をもとめ、つことを示す字で、雨と、巫女の形である而とに従う。濡・儒はその系統の字である。〔説文〕九下に「頬毛けふまうなり。毛の形に象る」とし、(ひげ)の初文とみている。〔段注本〕に「ひげなり」と改め、その象形であるという。〔説文〕のたい字条九下に「罪あるもこんに至らざるものなり」とあり、髠とは頭髪を落とす刑。耏はその一部を残すのでさんを加えるが、而は髠の形である。巫祝にその状のものが多かったのであろう。請雨を需といい、その人を儒という。儒はもとその階層の、特に葬事に従うものであった。ぜんは懦弱の人、たんは柔毛の生ずる意であろう。而を代名詞や接続詞・助詞に用いるのは、みな仮借義である。

訓義

(1)髪のないひと、みこ、雨乞いみこ。(2)ひげ、ほおひげ。(3)汝・爾・若と通用し、なんじ、二人称に用いる。(4)乃・然と通用し、しこうして、接続の意に用い、多く順接。ときに逆接に用いて、しかれども。(5)如・若・爾と通用し、形容詞の語尾、また終助詞に用いる。(6)能と通用し、よく、よくす。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

次(ジ・6画)

次 甲骨文 次 金文
甲骨文/史次鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsʰi̯ər(去)。現行字体の字形は「冫」+「欠」だが、甲骨文の字体は「𠂤タイ」の下に「一」または「二」。「𠂤」は兵士が携行する兵糧袋で、”軍隊”を意味する。下の数字は部隊番号と思われ、全体で”予備兵”を意味する。原義は”予備”。「漢語多功能字庫」によると、金文には氏族名・人名に用いる例が多い。

学研漢和大字典

会意。「二(並べる)+欠(人が体をかがめたさま)」で、ざっと身のまわりを整理しておいて休むこと。軍隊の小休止の意。のち、物をざっと順序づけて並べる意に用い、次第に順序をあらわすことばになった。茨(シ)(かや草をざっと並べる)・資(ざっと並べて整えた材料)などと同系。類義語に番。異字同訓に次「事件が相次ぐ。富士山に次ぐ山。取り次ぐ。次の間」 継「布を継ぐ。跡を継ぐ。引き継ぐ。継ぎ目。継ぎを当てる」 接「木を接ぐ。骨を接ぐ。接ぎ木」。

語義

  1. {名詞}つぎ。並んだもののうち、はじめのもののつぎ。「次年」「敢問其次=敢へて其の次を問ふ」〔論語・子路〕
  2. {動詞}つぐ。第一のものの下に位する。また、第一のもののあとに続く。「君又次之=君又これに次ぐ」「相次去世=相ひ次いで世を去る」。
  3. {副詞}つぎに。ついで。そのあとに続いて。「次叙病心=次に病む心を叙す」〔白居易・与微之書〕
  4. {名詞}順序。「序次」「班次(並べた順序)」「以次進至陛=次を以て進み陛に至る」〔史記・荊軻〕
  5. {単位詞}物事の回数・度数を数えるときのことば。また、物事の順序をあらわすことば。「数次(数回)」。
  6. {名詞}ある行為をしたとき。そのさい。「参内之次(サンダイノジ)(宮中にまいったとき)」。
  7. (ジス){動詞}やどる。とまる。もと、軍隊がざっと部署をととのえて宿営する。また、旅の間に一日だけとまる。「旅次(宿屋。また、旅の途上)」「師退次于召陵=師退きて召陵に次る」〔春秋左氏伝・僖四〕
  8. {名詞}星のとまる星座。また広く物のやどる場所。「胸次(むねのところ)」「席次(席のある所)」。
  9. 「造次」とは、そそくさと物をかたづけたり、あつらえたりすることから、あわただしい短時間のこと。

字通

[象形]人が咨嗟(しさ)してなげく形。口気のもれている姿である。〔説文〕八下に「前(すす)まず。精(くは)しからざるなり」とし、二(に)声とするが、二に従う字ではなく、〔説文〕の訓義の意も知られない。次は咨(なげ)き訴えるその口気を示す形。咨は祈るとき、その口気を祝詞の𠙵(さい)に加える形。神に憂え咨(なげ)いて訴え、神意に諮(はか)ることをいい、咨は諮の初文。そのたち嘆くさまを姿という。第二・次第の意は、おそらくくりかえすことから、また「次(やど)る」は軍行のときに用いるもので、古くはシ 外字(し)の字義にあたり、音を以て通用するものであろう。古文の字形は、他に徴すべきものがなく、中島竦の〔書契淵源〕に、婦人の首飾りを〔儀礼、士冠礼〕に次と称しており、その象形の字であろうという。〔説文〕の解は、〔易、夬、九四〕「其の行、次且(じしょ)」の語によって解したものであろうが、次且は二字連語、そこから次の字義を導くことはできない。

耳(ジ・6画)

耳 甲骨文 耳 金文
甲骨文/亞耳且丁尊・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯əɡ(上)。字形はみみを描いた象形。原義は”みみ”。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義と国名・人名に用いられ、金文でも同様だったが、”…のみ”のような形容詞・副詞的用法は、出土物からは確認できない。

学研漢和大字典

象形。みみを描いたもので、柔らかいの意を含む。餌(ジ)(柔らかいすりえ)・而(ニ)・(ジ)(柔らかいひげ)などと同系。草書体をひらがな「に」として使うこともある。

語義

    1. {名詞}みみ。柔らかいみみ。音を聞く役目をする器官。「耳朶(ジダ)」「側耳=耳を側つ(聞き耳をたてる)」「六十而耳順=六十にして而耳順ふ」〔論語・為政〕
    2. {名詞}物の両わきについたみみ状をしたもの。「鼎耳(テイジ)(かなえの両わきの突き出た所)」。
    3. {動詞・形容詞}みみからはいる。みみで聞いた。「耳聴途説(聞いたうわさや立ち話)」。
    4. {助辞}のみ。→語法「①」▽…而已(それでおわり、それだけ)をつづめて、…耳と書くようになった。

語法

①「~のみ」とよみ、文末におかれ、

  1. 「~なのである」と訳す。断定の意を示す。「且吾所為者極難耳=かつ吾が為す所の者は極めて難(かた)きのみ」〈たしかに、おれのやろうとすることは、とてつもなく困難なことだよ〉〔史記・刺客〕
  2. 「~だけ」「~であるにすぎない」と訳す。限定の意を示す。「復聚其騎、亡其両騎耳=またその騎を聚(あつ)むるに、その両騎を亡(うしな)ひしのみ」〈再び騎乗の部下を集めてみると、わずかに二騎を失っただけであった〉〔史記・項羽〕

  1. 「唯(直・但・止・徒)~耳」は、「ただ~のみ」とよみ、「ただ~であるにすぎない」「ただ~ばかりである」「わずかに~だけである」と訳す。限定の意を示す。「天下匈匈数歳者、徒以吾両人耳=天下匈匈(きゃうきゃう)たること数歳なるは、ただ吾両人をもってなるのみ」〈天下が何年も(戦乱に明け暮れ)騒然としているのは、ひとえに我ら二人のためだ〉〔史記・項羽〕
  2. 「独~耳」は、「ひとり~のみ」とよみ、「ただ~であるにすぎない」「ただ~ばかりである」「わずかに~だけである」と訳す。限定の意を示す。「能用秦柄者、独張儀可耳=よく秦の柄を用ゐん者は、独り張儀可なるのみ」〈秦の権力を自由にできる者は、張儀だけである〉〔史記・張儀〕

字通

[象形]耳の形。〔説文〕十二上に「聽くことを主(つかさど)るものなり」という。耳と目とは、神聖に接するのに最も重要なもので、耳目の聡明なのを合わせて聽(聴)という。聞の卜文は耳の下に壬(てい)(人の挺立する形)をかき、それに祝禱の器である𠙵(さい)を加えると、聖となる。聖とは神の声を聴きうる人をいう。聖に呪飾のある目と心とを加えた形が聽(聴)である。終助詞に用いるのは、而已(じい)の音にあてたもので、仮借の用法である。

駟(シ・15画)

駟 金文
魯宰駟父鬲・春秋早期

初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はsi̯əd(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「馬+(音符)四」。四頭の馬。春秋戦国時代の車は、四頭で引くのが正式であった。
戦車

語義

  1. {名詞}四頭だての馬車。▽外側の二頭の馬を驂(サン)、または藹(ヒ)といい、内側の二頭の馬を服という。「駟乗(シジョウ)(四頭だての車)」。
  2. {名詞}馬四頭のこと。「十駟(馬四十頭)」。

字通

[会意]馬+四。四頭立ての馬車。〔説文〕十上に「一乘なり」とあり、一乗に四馬をつなぐので、結駟ともいう。その車を車乗という。三馬のときは驂(さん)という。

事(ジ/シ・8画)

→事(シ・8画)

治(ジ・8画)

→治(チ・8画)

佴(ジ・8画)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵi̯əɡ(去、韻目「志」字母「日」)で、同音多数。とそれを部品とする漢字群:栭”ますがた”、胹”煮る”、鮞”はらご”、とそれを部品とする漢字群:咡”口(元)”、餌”粉餅”、珥”みみだま”、衈”ちぬる”、刵”耳切る”、眲”あなどる”。「而」「耳」に、”秩序”の語義は無い。去声・韻目「代」字母「泥」の音は不明。

論語では定州竹簡漢墓論語で、「恥」として使われている。論語語釈「恥」も参照。

『学研漢和大字典』『字通』には条がなく、『大漢和辞典』のみ。「漢語多功能字庫」には見るべき情報が無い。
佴 大漢和辞典

貳/弐(ジ・6画)

貳 金文
琱生簋・西周晚期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はȵi̯ər(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。弍は「弋(ヨク)(棒ぐい)+(音符)二」で、二本並んだ棒を示す。貳は「貝(財貨)+(音符)弍」。「弐」は「貳(ジ)」の古い字形を用いて、筆画を簡単にしたもの。証文や契約書では、改竄(カイザン)・誤解を防ぐために「二」の代わりに用いることがある。

語義

  1. {数詞}ふたつ。くっついて並んだふたつ。《同義語》⇒
  2. {動詞}ふたたびする。二度くりかえす。「不弐過=過ちを弐せず」〔論語・雍也〕
  3. {動詞}そう(そふ)。そえる(そふ)。ふたつくっつく。そばにくっつける。「弐車(ジシャ)(そえぐるま)」「副弐(フクジ)(そえもの)」。
  4. {動詞}そむく。ふたつに離れる。「弐心(ふたごころ)」「有弐=弐く有り」。
    《日本語での特別な意味》すけ。四等官で、大宰府の第二位。

字通

[形声]旧字は貳に作り、弍(じ)声。〔説文〕に、字を貝部六下に属し、「副益なり。貝に從ひ、弍聲」とし、「弍は古文二なり」という。貝は鼎の省形。鼎銘を刻することを則・劑(剤)といい、円鼎は則、方鼎を劑といい、盟誓・契約を約剤という。弍に従うのは、戈(か)(刀)を以て刻銘し、その副本を作る意、それで副弐・弐益の意となる。〔周礼、秋官、大司寇〕「大史・内史・司會及び六官、皆其の貳を受けて之れを藏す」とは副本の意。〔周礼、天官、酒正〕に「大祭には三貳、中祭には再貳、小祭には壹貳」とは副弐の器をいう。金文の〔琱生𣪘(ちようせいき)〕に、分数的な表示として「其の貳」「其の參」を用いる例がある。字は盟誓の副弐の意であるが、のち疑弐・違背の意となった。

慈(ジ・13画)

慈 金文
中山王□壺・戦国末期

初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音はdzʰi̯əɡ(平)。同音に「字」”やしなう・はぐくむ”・「孳」(甲骨文・金文無し)。藤堂上古音はdziəg。字形は「」tsi̯əɡ(平)”蚕の繭”+「心」で、「茲」には”しげる”の語釈もあり、「滋」の原字。原義は恐らく”慈しみの心”。

『大漢和辞典』で音ジ訓いつくしむは、この文字しか載っていない。候補として「仁」があるが、藤堂上古音nienで音通しているとは言いかねる。同音の「字」の原義は”屋根の下で子を大切に育てるさま”であり、論語時代の置換候補。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、茲(ジ)は、草の芽と細い糸とをあわせて、小さいものが成長しふえることを示す会意文字。慈は「心+〔音符〕茲」で、小さい子を育てる親心のこと。滋(ジ)(ふえる)・孳(ジ)(子どもを育てる)と同系のことば、という。

意味

  1. {動詞・形容詞}いつくしむ。母が子を大事に育てる。また、その愛情の深いさま。「慈母」「敬老慈幼=老を敬ひ幼を慈しむ」〔孟子・告下〕
  2. {動詞・形容詞}いつくしむ。父母のような愛情で、上の者が下の者をかわいがる。また、そのさま。「君之不慈臣、此亦天下之所謂乱也=君の臣を慈しまざる、此れ亦た天下の所謂乱れなり」〔墨子・兼愛上〕
  3. {形容詞}情け深い。また、愛情がこまやかな。「雖孝子慈孫、百世不能改也=孝子慈孫と雖も、百世改むること能はざるなり」〔孟子・離上〕
  4. {名詞}いつくしみ。「一曰慈=一に曰はく慈」〔老子・六七〕
  5. {名詞}母親のこと。《対語》⇒厳。「家慈(私の母)」。

慈 字解

字通

[形声]声符は兹(じ)。兹に孳生・孳育の意があり、その情を慈という。〔説文〕十下に「愛なり」とみえる。古くは子をその意に用い、金文の〔大盂鼎(だいうてい)〕に「故に天、異臨(よくりん)し、子(いつくし)みて先王を灋(法)保したまへり」、また〔也𣪘(やき)〕に「懿父(いほ)は廼(すなは)ち子まん」のように用いる。

辭/辞(ジ・13画)

辞 金文
𠑇匜・西周末期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はdzi̯əɡ(平)。

学研漢和大字典

会意。もとの字は「乱れた糸をさばくさま+辛(罪人に入れ墨をする刃物)」で、法廷で罪を論じて、みだれをさばくそのことばをあらわす。▽「荀子」正名篇に「辞也者、兼異実之名以論一意也=辞なる者は、異実の名を兼べて、もって一意を論ずるなり」とある。もと辞退の意は、辤と書いたが、のちに混用された。詞(シ)と同系。

語義

  1. {名詞}ことば。単語をつらねたことば。細かい表現。《類義語》詞。「言辞」「美辞麗句」「辞達而已矣=辞は達する而已矣」〔論語・衛霊公〕。「無情者不得尽其辞=情無き者は其の辞を尽くすを得ず」〔大学〕
  2. {名詞}ふみ。ことばをつらねて書いた文章。《類義語》文。「文辞」「辞章」。
  3. {動詞・名詞}供述する。供述書。裁判での申したて。「訟辞(法廷での論争)」。
  4. (ジス){動詞}ことわる。いいわけをする。いいわけをのべて、受けとらない。また、職をやめる。「推辞(ことわる)」「辞譲(ことわってゆずる)」「辞富居貧=富を辞して貧に居る」〔孟子・万下〕
  5. (ジス){動詞}あいさつをのべて去る。いとまごいをする。「辞去」「辞別」。
  6. {名詞}文体の様式の名。「楚辞」の流れを引いた韻文。のち、散文化して、風物に即して感興をのべるようになった。《類義語》賦(フ)。「辞賦」「秋風辞」。

字通

[会意]旧字は辭に作り、𤔔(らん)+辛(しん)。𤔔は架糸の上下に手を加えている形で、糸の乱れているさまを示し、亂(乱)の初文。亂はその乱れている糸を乙(いつ)(骨べらの形)で解きほぐしてゆくのであるから、「亂(をさ)む」とよむべき字である。辭はその乱れている糸を辛(はり)で解きほぐしてゆくのであるから、亂と同じく治める意で、辞説の意に用いる。それは獄訟のとき、その嫌疑を解き明かすこと、その弁解の辞をいう。〔説文〕十四下に「說くなり。𤔔・辛に從ふ。辛を𤔔(をさ)むるは、猶ほ辜(つみ)を理(をさ)むるがごときなり」(段注本)とする。辛を辜(こ)にして罪辜の意とし、𤔔を「𤔔(をさ)む」とよんで、その会意の字とするが、亂が骨べらで乱れた糸を解くのと同じく、辭は辛でその乱れを解く意である。〔説文〕に重文として𤔲(し)の字を録するが、𤔲は司の繁文。司は祝詞によって神を祠(まつ)る意の字。辭は神判のとき、その嫌疑を解く辞をいう。神に対して弁明を試みる意であるから、𤔲と声義が近い。〔楚辞〕の辞は、神に訴え申す歌辞をいう。

爾(ジ・14画)

爾 甲骨文 爾 金文
甲骨文/洹子孟姜壺・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯ăr(上)。王力上古音はȵǐei(上)。字形は剣山状の封泥の型の象形で、原義は”判(を押す)”。のち音を借りて二人称を表すようになって以降は、「土」「玉」を付して派生字の「壐」「璽」が現れた。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では人名・国名に用い、金文では二人称を意味した(洹子孟姜壺・春秋末期)。

派生字の「壐」の王力上古音はsǐei(上)、「璽」のカールグレン上古音はsni̯ăr(上)。派生字の「壐/璽」も参照。

研漢和大字典

象形。柄にひも飾りのついた大きいはんこを描いたもの。璽(はんこ)の原字であり、下地にひたとくっつけて印を押すことから、二(ふたつくっつく)と同系のことば。またそばにくっついて存在する人や物をさす指示詞に用い、それ・なんじの意をあらわす。邇(ジ)(そばにくっつく)・尼(ニ)・(ジ)(そばにくっつく人)と同系。▽現代北京語の你(ニ)はその子孫に当たることばで、你は儞の略字である。草書体をひらがな「に」として使うこともある。

語義

  1. {代名詞}なんじ(なんぢ)。近くにいるあい手をさす第二人称のことば。《対語》⇒我。「爾愛其羊=爾は其の羊を愛しむ」〔論語・八飲〕。「爾我之間」。
  2. {指示詞}しかり。しかる。それ。その。近くにある事物や前に述べた事物・事がらを示すことば。それ。そのような。《類義語》然。「問君何能爾=君に問ふ何ぞ能く爾るやと」〔陶潜・飲酒〕。「君爾妾亦然=君爾り妾も亦た然り」〔古楽府・焦仲卿妻〕
  3. {指示詞}しかり。そうだと肯定することば。《類義語》然(シカリ)。
  4. {助辞}形容詞につく助詞。もと、そのようなの意を含んでいた。「徒爾(トジ)(いたずらに)」「卓爾(タクジ)(すっくりと高く)」「莞爾(カンジ)(にっこりと)」「使己僕僕爾亟拝也=己をして僕僕爾として亟りに拝せしむるなり」〔孟子・万下〕
  5. {助辞}のみ。→語法「①」。
  6. {形容詞}ちかい(ちかし)。▽邇(ジ)(ちかい)に当てた用法。「爾雅(ジガ)(書名。雅言にちかいとの意)」。

語法

①「~のみ」とよみ、文末におかれ、

  1. 「~なのである」と訳す。断定の意を示す。「有本者如是、是之取爾=本有る者はかくの如(ごと)し、これをこれ取れるのみ」〈本源のあるものは、このようである、(孔子は)ほかならぬこの点をとらえたのである〉〔孟子・離下〕
  2. 「~だけ」「~であるにすぎない」と訳す。限定の意を示す。《同義語》耳・而已。「王大将軍当下、時咸謂無縁爾=王大将軍下らんとするに当たり、時に咸(みな)縁無(な)しと謂ふのみ」〈王大将軍(王敦)が(謀反を起こして都へ向かおうと長江を)攻め下ったとき、誰もがそんなはずはないと言うだけであった〉〔世説新語・方正〕

  1. 「唯(直・但・止・徒)~爾」は、「ただ~のみ」とよみ、「ただ~であるにすぎない」「ただ~ばかりである」「わずかに~だけである」と訳す。限定の意を示す。「新婦所乏唯容爾=新婦の乏しき所はただ容のみ」〈わたくしに欠けているのは器量だけです〉〔世説新語・賢媛〕
  2. 「独~爾」は、「ひとり~のみ」とよみ、「ただ~であるにすぎない」「ただ~ばかりである」「わずかに~だけである」と訳す。限定の意を示す。

③「~云爾」は、「~のみ」「しかいう」とよみ、「~というわけである」と訳す。文末におかれ、叙述をしめくくる役割を持つ。「発憤忘食、楽以忘憂、不知老之將至云爾=憤(いきどほ)りを発して食を忘れ、楽しみてもって憂ひを忘れ、老の將に至らんとするを知らざるのみ」〈(学問に)発憤しては食事も忘れ、(道を)楽しんでは心配事をも忘れ、やがて老いがやってくることにも気付かずにいるというわけだ〉〔論語・述而〕

字通

[象形]人の正面形の上半部と、その胸部に㸚(り)形の文様を加えた形。㸚を独立した字と解すれば会意となるが、全体象形と解してよい字である。㸚はその文身の模様。両乳を中心として加えるもので、爽(そう)・𡚐(せき)などは女子の文身を示す。爽の上半身の形が爾にあたる。みな爽明・靡麗(びれい)の意のある字である。〔説文〕三下に「麗爾なり。猶ほ靡麗のごときなり」とし、その字形は冂(けい)と㸚とに従い「其の孔(あな)㸚(うるは)し。𡭗(じ)聲」と形声に解し、窓飾りの格子の美しいさまであるという。㸚を二爻(こう)、疏窓の形とするものであるが、爽の字形からも知られるように、両乳の部分に文身を加えた形。通過儀礼の際に呪禁として加えるもので、おそらく死喪のとき、朱を以て絵身を施したものであろう。ゆえにまた靡麗の意となる。二人称に用い、また状態詞の語末、接続の語などに用いるのはみな仮借。〔詩、小雅、采薇〕「彼の爾(でい)たるは維(こ)れ何ぞ」の爾は薾の仮借。薾は文身の美を、花に移していうものであろう。

邇(ジ・18画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵi̯ăr(上)。同音は爾”はんこ・お前”(上)のみ。

学研漢和大字典

会意兼形声。「辶+(音符)爾(ジ)(紙や布にくっつけて押すはんこ)」で、ぺったりとねばりつくの意を含む。爾は璽の原字。爾(はんこ、身ぢかにいる相手)・二(ふたつくっつく)・昵(ジツ)(身ぢかになじむ)と同系。

語義

  1. {形容詞・名詞}ちかい(ちかし)。ちかい。また、ちかい所。《類義語》近。「遐邇(カジ)(遠近)」「道在邇而求諸遠=道は邇きに在りてしかも諸を遠きに求む」〔孟子・離上〕
  2. {形容詞}ちかい(ちかし)。身ぢかである。卑近である。「邇言(ジゲン)」。

字通

[形声]声符は爾(じ)。〔説文〕二下に「近きなり」という。〔書、舜典〕「遠きを柔らげ邇(ちか)きを能(をさ)む」を、金文の〔大克鼎(だいこくてい)〕に「遠きを■(卣+夔)(やは)らげ𤞷(ちか)きを能む」のようにいい、𤞷が邇のもとの字、邇はのちの形声字である。𤞷は土主の上に木を植え、犬牲を供えて祀る形で、ときには女が跪(ひざまず)いて拝する形を加えている例もあり、産土神(うぶすながみ)のような観念を示す字であろう。その本貫の地を示し、ゆえに邇近の意となったものと思われる。

壐/璽(ジ・19画)

初出は楚系戦国文字。カールグレン上古音はsni̯ăr(上)。同音無し。部品の「爾」ȵi̯ăr(上)が原字。「壐」は異体字。

学研漢和大字典

会意兼形声。爾(ジ)は、はんこの形を描いた象形文字で、璽の原字。上部はつまみで左右に飾りのひもがついており、下は印にほった文字の形。璽は、爾がのちに指示詞に用いられるようになったので意符の玉を添えたもの。璽は「玉+(音符)爾」。紙などに押してくっつける印。くっつくの意を含む。二(ふたつ、くっつく)・邇(ジ)(近くにくっつく)・泥(ねばるどろ)と同系。

語義

  1. {名詞}しるし。また、特に天子の印章。秦(シン)以前は諸侯・卿大夫(ケイタイフ)の印もいったが、秦の始皇帝以後、天子の印のみをいうようになった。「伝国璽」「皇帝六璽」。

字通

[形声]声符は爾(じ)。〔説文〕十三下に土に従う字とし、「王者の印なり。以て土を主(つかさど)る」(段注本)とし、璽を籀文とする。古く銅印の類は鉩に作り、鋳印であった。

識(シキ・19画)

→識(ショク・19画)

肉(ジク・6画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のȵ(入)のみ。藤堂上古音はniok。「ニク」は呉音。

学研漢和大字典

象形。筋肉の線が見える、動物のにくのひときれを描いたもの。▽肩・肝などの字の月の部分や、祭・然の字の左上の部分は肉の字の変形である。柔(ニュウ)・(ジュウ)(やわらかい)などと同系。

語義

  1. {名詞}しし。柔らかくねばりのあるにく。《同義語》⇒宍。「懸肉為林=肉を懸けて林と為す」〔史記・殷〕。「三月、不知肉味=三月、肉の味を知らず」〔論語・述而〕
  2. {名詞・形容詞}霊魂に対して、人のからだ。また、なま身の。「肉慾(ニクヨク)」「骨肉(同じ親からうまれた親族)」「霊肉一致」。
  3. {名詞}にくに似た柔らかい物。「果肉」「印肉」。
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①にく。牛肉のこと。
    ②にく。印肉のこと。
    ③にく。大体できた物事の構成につけ加えるべき細かい点。
    ④にく。物の厚み。

字通

[象形]切りとった肉塊の形。〔説文〕四下に「胾肉(しにく)なり」とあり、大きな一臠(れん)の肉をいう。〔釈名、釈形体〕に「肉は柔なり」とあり、その古音は相近い声であった。

七(シツ・2画)

七 甲骨文 七 金文
甲骨文/乙鼎・春秋晚期

初出は甲骨文。「シチ」は呉音。カールグレン上古音はtsʰi̯ĕt(入)。字形は「切」の原字と同じで、たてよこに入れた切れ目。これがなぜ数字の”7”を意味するようになったかは、音を借りた仮借と解する以外に方法が無い。原義は数字の”なな”。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文から戦国の竹簡まで一貫して、数字の”なな”の意で用いられている。

学研漢和大字典

指事。縦線を横線で切り止め、端を切り捨てるさまを示す。また、分配するとき、三と四になって、端数を切り捨てねばならないことから、中途はんぱな印象をもつ数を意味する。▽七は切の原字。付表では、「七夕」を「たなばた」と読む。▽「七日(なのか)」は、「なぬか」とも読む。▽証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるため「漆」「耽」と書くことがある。

語義

  1. {数詞}ななつ。「其子七兮=其の子七つ兮」〔詩経・曹風・諍鳩〕
  2. {数詞}なな。順番の七番め。「七位」。
  3. {副詞}ななたび。「七戦皆獲=七たび戦ひて皆獲」〔春秋左氏伝・哀二〕
  4. 《日本語での特別な意味》ななつ。昔の時刻の名。今の午前、または午後の四時。

字通

[仮借]もと、切断した骨の形。切は骨を刀で切る形。これを数の七に用いるのは、その音を仮借したものである。〔説文〕十四下に「陽の正なり。一に從ふ。微陰、中より衺(なな)めに出づるなり」と陰陽の象によって字形を解するが、卜文・金文の字形は十の縦画を短くした形。膝などの骨節の部分の形象と思われる。七は聖数とされ、〔文選〕に収める七の類、〔七発〕〔七啓〕などは、一種の呪誦文学であろうと思われる。

失(シツ・5画)

失 金文 失 金文
失鼎・殷代末期或西周早期/揚簋・西周晚期

初出は殷代末期の金文。カールグレン上古音はɕi̯ĕt(入)。同音は「室」(入)のみ。論語語釈「室」を参照。字形は頭にかぶり物をかぶり、腰掛けた人の横姿。それがなぜ”うしなう”の意になったかは明らかでないが、「キョウ」など頭に角型のかぶり物をかぶった人の横姿は、隷属民を意味するらしく(→論語語釈「羌」)、おそらく所属する氏族を失った奴隷が原義だろう。

美 甲骨文
「美」甲骨文

甲骨文では、人の横姿「人」は人間一般のほかに隷属民を意味しうるが、正面形「大」はかぶり物の有無や形にかかわらず、下級者を意味しない。論語語釈「美」を参照。

漢語多功能字庫」「国学大師」は戦国竹簡以降にのみ言及。

学研漢和大字典

会意。「手+よこへ引くしるし」で、手中のものがするりと横へ抜け去ることを示す。忘佚(ボウイツ)の佚(=逸)と同系。また更迭(コウテツ)の迭(横に抜けて入れかわる)・跌(テツ)(足がするりと横にすべる)とも縁が深い。

意味

  1. (シッス){動詞・名詞}うしなう(うしなふ)。とり逃がす。するりとなくすること。なくしたもの。《対語》⇒得・守・持。「損失」「猶恐失之=なほこれを失はんことを恐る」〔論語・泰伯〕
  2. (シッス){動詞}うしなう(うしなふ)。やるべき仕事や時期・道筋などを見のがす。「失其事=其の事を失ふ」「急撃勿失=急ぎ撃ちて失ふこと勿かれ」〔史記・項羽〕
  3. {名詞}あやまち。やりすぎや見のがしのしくじり。「失敗」「過失」「咎己之失=己の失を咎む」〔王陽明・勧学〕
  4. (シッス){動詞}うしなう(うしなふ)。中に押さえこんでおくべきものを押さえきれずに、またはうっかりして外へ出してしまう。「失言」「失火」。
  5. {動詞}するりと抜け去る。また、なくなる。▽佚(イツ)・逸に当てた用法。「失念」。
  6. 《日本語での特別な意味》野球で、「失策」の略。エラーのこと。「敵失」「凡失」。

字通

説 字解
手を挙げて舞い、恍惚の状態にあることを示す。祝禱してエクスタシーの状態になること。〔説文〕十二上に「はなつなり」とし、字を手に従い、いつ声とするが、乙に従う字ではない。似た字形にようがあり、身を傾けて舞う形。またそくは頭を傾けて舞う形。失は自失の意。すべて亡失のことをいう。

訓義

1)うしなう、気を失う、忘我・自失の状態となる。2)ものをうしなう、わすれる、にがす。3)あやまつ、あやまる、みだれる。4)たがう、くるう、ほしいままにする。5)佚と通じ、たのしむ。6)逸と通じ、のがれる。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

實(シツ・8画)

実 金文
國差𦉜・春秋

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はʰi̯ĕt(入)。「ジツ」は慣用音。

学研漢和大字典

会意。「宀(やね)+周(いっぱい)+貝(たから)」で、家の中に財宝をいっぱい満たす意を示す。中身がいっぱいで欠け目がないこと。また、真(中身がつまる)は、その語尾がnに転じたことば。質(中身)・窒(チツ)(ふさがる)・室(いきづまりのへや)などと同系。類義語の満は、容器にいっぱいに物をみたすこと。充は、中身をいっぱいにつめること。

語義

  1. {名詞}み。中身のつまった草木のみ。「果実」「草木之実足食也=草木の実食らふに足る」〔韓非子・五蠹〕
  2. {動詞}みのる。草木のみの中身がつまる。「秀而不実者有矣夫=秀して実らざる者有り」〔論語・子罕〕
  3. {動詞}みちる(みつ)。内容がいっぱいつまる。《対語》⇒虚。「充実」「君之倉廩実=君之倉廩実つ」〔孟子・梁下〕
  4. (ジツナリ){形容詞}まこと。内容があってそらごとでない。《対語》⇒虚・空。「事実」「后聴虚而黜実兮=后は虚を聴きいれて実を黜く」〔楚辞・逢紛〕
  5. (ジツニ){副詞}まことに。ほんとうに。実際に。「天実為之=天実にこれを為す」〔詩経・癩風・北門〕
  6. 「其実(ソノジツ)」とは、文頭につけて、「じつをいうと」、「実際は」の意味をあらわす。「其実皆什一也=其の実は皆什に一也」〔孟子・滕上〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①じつ。真心。親身の心。「実のある人」。
    ②み。内容。「実のある話」。

字通

[会意]旧字は實に作り、宀(べん)+貫(かん)。〔説文〕七下に「富なり」とし、「貫を貨物と爲す」(段注本)とするが、宀は宗廟、貫は貝貨を貫き連ねた形で、貝を宗廟に献ずる意。その貫盈するところから、充実の意となる。金文の〔散氏盤(さんしばん)〕に鼎に従う字があり、また〔国差𦉜(こくさたん)〕の字は、上部が冖(べき)の形に近い。鼎中にものを充たして供える意ともみられる。充実の意から誠実・実行の意となり、その副詞に用いる。

實(シツ・8画)

実 金文
國差𦉜・春秋

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はʰi̯ĕt(入)。「ジツ」は慣用音。

学研漢和大字典

会意。「宀(やね)+周(いっぱい)+貝(たから)」で、家の中に財宝をいっぱい満たす意を示す。中身がいっぱいで欠け目がないこと。また、真(中身がつまる)は、その語尾がnに転じたことば。質(中身)・窒(チツ)(ふさがる)・室(いきづまりのへや)などと同系。類義語の満は、容器にいっぱいに物をみたすこと。充は、中身をいっぱいにつめること。

語義

  1. {名詞}み。中身のつまった草木のみ。「果実」「草木之実足食也=草木の実食らふに足る」〔韓非子・五蠹〕
  2. {動詞}みのる。草木のみの中身がつまる。「秀而不実者有矣夫=秀して実らざる者有り」〔論語・子罕〕
  3. {動詞}みちる(みつ)。内容がいっぱいつまる。《対語》⇒虚。「充実」「君之倉廩実=君之倉廩実つ」〔孟子・梁下〕
  4. (ジツナリ){形容詞}まこと。内容があってそらごとでない。《対語》⇒虚・空。「事実」「后聴虚而黜実兮=后は虚を聴きいれて実を黜く」〔楚辞・逢紛〕
  5. (ジツニ){副詞}まことに。ほんとうに。実際に。「天実為之=天実にこれを為す」〔詩経・癩風・北門〕
  6. 「其実(ソノジツ)」とは、文頭につけて、「じつをいうと」、「実際は」の意味をあらわす。「其実皆什一也=其の実は皆什に一也」〔孟子・滕上〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①じつ。真心。親身の心。「実のある人」。
    ②み。内容。「実のある話」。

字通

[会意]旧字は實に作り、宀(べん)+貫(かん)。〔説文〕七下に「富なり」とし、「貫を貨物と爲す」(段注本)とするが、宀は宗廟、貫は貝貨を貫き連ねた形で、貝を宗廟に献ずる意。その貫盈するところから、充実の意となる。金文の〔散氏盤(さんしばん)〕に鼎に従う字があり、また〔国差𦉜(こくさたん)〕の字は、上部が冖(べき)の形に近い。鼎中にものを充たして供える意ともみられる。充実の意から誠実・実行の意となり、その副詞に用いる。

室(シツ・9画)

室 金文
杕氏壺・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯ĕt(入)。同音は「失」(入)のみ。論語語釈「失」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。至は、矢がぴたりと目標まで届いたさま。奥までいきづまり、その先へは進めない意を含む。室は「宀(やね、いえ)+(音符)至」で、いちばん奥のいきづまりのへや。窒(チツ)(いきづまり)・膣(チツ)と同系。類義語に家。

語義

  1. {名詞}へや。奥まったへや。《対語》⇒堂(表の広間)。「升堂矣、未入於室也=堂に升れり、いまだ室に入らざるなり」〔論語・先進〕
  2. {名詞}むろ。奥深くふさいだ穴。「氷室(ヒムロ)」。
  3. {名詞}いえ(いへ)。すまい。うち。「家室」「盗愛其室、不愛其異室=盗は其の室を愛して、其の異室を愛せず」〔墨子・兼愛上〕
  4. {単位詞}家の戸数を数えることば。《類義語》戸。「千室之邑」〔論語・公冶長〕
  5. {名詞}さや。刀剣のさや。「刀室」「剣長操其室=剣長くして其の室を操る」〔史記・荊軻〕
  6. {名詞}王朝をたてた一家。「周室」「功顕於漢室=功漢室に顕かなり」〔漢書・蘇武〕
  7. {名詞}奥べやに住む夫人。《対語》家。「室人(つま)」「令室(奥さま)」「丈夫生而願為之有室=丈夫生まれてはこれが為に室有らんことを願ふ」〔孟子・滕下〕
  8. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のペガスス座にふくまれる。はつい。「定」ともいう。

字通

[会意]宀(べん)+至。至は矢の至るところ。〔説文〕七下に「實なり」と音義的に解し、また「室屋は皆至に從ふ。止まる所なり」(段注本)と、人の至り、止まる意を以て解するが、至は矢の至る意。矢を放って、その造営の地を卜し、祓(はら)うことを意味する。室は祖霊の安んずるところで、いわゆる大室。屋は板屋で殯(かりもがり)する所である。臺(台)も至に従い、天を祀り、神明に接する所をいう。家・冢が犬牲を埋めて奠基(てんき)し、修祓する儀礼を示す字であるのと同じ。卜辞に中室・南室・血室などの名があり、みな祭祀の場所。また金文の冊命(さくめい)儀礼はすべて宗廟大室において行われている。金文の〔大豊𣪘(たいほうき)〕に「王、天室に祀る」とあり、室とはもと祭祀を行うところをいう。

疾(シツ・10画)

疾 甲骨文 疾 金文
甲骨文/毛公鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzʰi̯ət(入)。字形は「大」”人の正面形”+向かってくる「矢」で、原義は”速い”。現行の字体になるのは戦国時代から。別にカールグレン上古音不明の「疒」の字が甲骨文からあり、”疾病”を意味していたが、「漢語多功能字庫」によると音が近かったので混同されたという。

甲骨文では、”疾病”を意味し、金文では加えて、”急いで”の意が(毛公鼎・西周)、戦国の竹簡では加えて人名に用いられたという。

学研漢和大字典

疾 字解
会意。甲骨文字は人をめがけて進む矢を示す会意文字。金文以下は「容+矢」で、矢のようにはやく進む、また、急に進行する病気などを意味する。迅(シン)・(ジン)は、疾の語尾がnに転じた語で、疾にきわめて近い。類義語に早・病。

意味

  1. {形容詞}はやい(はやし)。スピードがはやい。あっというまに進むほどはやい。《類義語》速。「疾走」「疾風迅雷(シッフ°ウジンライ)(急激な風や雷)」。
  2. {名詞}やまい(やまひ)。急にひどくなる病気。急性で悪性の病気。転じて、広くやまいのこと。《類義語》病。「疾病」「父母唯其疾之憂=父母にはただその疾(やま)ひをこれ憂へしめよ」〔論語・為政〕
  3. {名詞}つらいこと。くるしみ。悩み。悪いくせ。「民疾(人民にとってつらい悩み)」。
  4. {動詞}やむ。くるしむ。病気になる。また、つらいと思う。悩む。
  5. {動詞}にくむ。いやなことだとしてにくみきらう。《同義語》嫉。「疾之已甚=これを疾むこと已甚し」〔論語・泰伯〕
  6. {形容詞}にくらしそうに。いやがって。《同義語》嫉。「疾視(にくにくしげにみる)」。

字通

[会意]卜文・金文の字形は大(人の正面形)の腋(わき)の下に矢のある形。腋の下に矢を受け、負傷する意である。〔説文〕七下に「病なり」とし、矢(し)声の字とし、古文・籀文(ちゆうぶん)の二形を録するが、卜文・金文にくらべると字形は全く異なり、ことに籀文は智の初形に近い。のち疾病の意によって疒(だく)部に属する。矢創の意であるから、急疾・疾速の意がある。

執(シツ・11画)

執 金文
不𡢁簋蓋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯əp(入)。

学研漢和大字典

会意。「手かせ+人が両手を出してひざまずいた姿」で、すわった人の両手に手かせをはめ、しっかりとつかまえたさまを示す。類義語に取・捕。異字同訓に取。蓺(ゲイ)・(セイ)は、別字。

語義

  1. {動詞}とる。手にしっかり握る。「執持」「自返執其手=返より其の手を執る」〔論語・雍也〕
  2. {動詞}とる。特定の仕事や職務をしっかりと握る。全権を引き受けて行う。「執行」「執政=政を執る」。
  3. {動詞}とる。選びとってしっかり守る。「吾執御矣=吾は御を執らん」〔論語・子罕〕
  4. {動詞}とらえる(とらふ)。人をつかまえる。「執而戮之=執へてこれを戮さんとす」〔春秋左氏伝・昭二五〕
  5. (シュウス)(シフス)・(シツス){動詞・形容詞}とらわれる(とらはる)。しっかりととりついて離れない。また、くっついている。親しい。「執着」「不可執一偏=一偏に執すべからず」〔伝習録・陸原静〕
  6. {名詞}名利や自分中心にとらわれた心。「我執」。

字通

[会意]幸+𩰊(げき)。幸は手械(てかせ)の形。手にかせを加えて、罪人を拘執することをいう。〔説文〕十下に「辠人(ざいにん)を捕ふるなり」(段注本)とし、字をジョウ 外字(じよう)の亦声とするが、卜文・金文の字形は両手に併せて械を加える形である。拘執の意より執持の意となり、執事・執行、また執礼などのように用いる。

瑟(シツ・13画)

瑟 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はʂi̯ĕt(入)。

学研漢和大字典

会意。「ことの形+必(びっしりくっつく)」で、多くの弦をびっしりと並べて張った楽器。類義語に琴。

語義

  1. {名詞}おおごと(おほごと)。弦楽器の一つ。琴の大形のもので、弦を指でつまんで演奏する。古くは五十弦であったが、のち、二十五弦・十九弦・十五弦などになった。「由之瑟、奚為於丘之門=由の瑟、なんすれぞ丘の門においてせん」〔論語・先進〕
  2. 「瑟瑟(シツシツ)」とは、風のさっさっと吹くさま。

字通

[形声]声符は必(ひつ)。〔説文〕十二下に「庖犧(はうぎ)作る所の弦樂なり」とみえ、大琴をいう。必声とするが、〔説文〕所収の必声二十一文のうち、瑟声の字は他にない。古く神事に用い、その音は蕭瑟(せうしつ)、風の音や泉の流れる音などを形容する語に用いる。

※字通は篆書以降のみしか参照していないようだが、甲骨文を見れば必声でないと言う想定は当たっている。

漆(シツ・14画)

漆 金文
曾伯雨木二簠・春秋早期

初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はtsʰi̯ĕt(入)。

論語では孔子の弟子・漆雕開の名として現れる。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字は、木汁が一滴ずつしたたるさま。漆はそれをさらに水をそえたもの。うるしをシツと称するのは、おそらく、津(したたる汁)の語尾が転じたもの。あるいは、密切の切(ぴったり)と同系で、物をぴったりとくっつける役割に着目した命名であろう。証文や契約書で、改竄(カイザン)や誤解をさけるため「七」の代わりに用いることがある。(中国では柒の字を使う。)

語義

  1. {名詞}うるし。うるしの木。また、その樹液からつくった塗料。
  2. {形容詞・名詞}くろい(くろし)。うるしのようにまっくろいさま。また、その色。「漆黒」。

字通

[象形]漆の木より漆をとる形。木の幹に傷つけ、漆液の流れる形。〔説文〕六下に「木の汁なり、以て物を䰍(ぬ)るべきものなり。象形。桼、水滴の如くにして下る」という。いま漆の字を用いる。金文に■(上下に雨+桼)の字があり、古くは朱や黒に加えて用いたらしく、金文の賜与にみえる彤弓(とうきゆう)・彤矢(朱塗り)、■(偏:玄・旁:上下に𠂉+𧘇)弓(りよきゆう)・■(玄+𠂉+𧘇)矢(黒塗り)は、漆を加えて塗飾したものと考えられる。漆は東アジアの特産品であった。〔書、禹貢〕に兗(えん)州・予州より漆を貢することがみえる。

質(シツ・15画)

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はti̯əd(去)またはȶi̯ət(入)。

学研漢和大字典

会意。斤(キン)は、重さを計る重りに用いたおの。質は「斤二つ(重さが等しい)+貝(財貨)」で、Aの財貨と匹敵するだけなかみのつまったBの財貨をあらわす。名目に相当するなかみがつまっていることから、実質、抵当の意となる。実(ジツ)(なかみ)・緻(チ)(きめ細かくなかみがつまる)・室(シツ)(つまったへや)・窒(チツ)(つまる)などと同系。また真(シン)(なかみがつまる)は、その語尾がnに転じたことば。

語義

シツ(入)
  1. {名詞}もと。しろ。なかにつまっているもの。なかみ。内容。《対語》⇒形。「実質」「形質倶変=形質倶に変ず」「君子義以為質=君子は義以て質と為す」〔論語・衛霊公〕
  2. {名詞}たち。もってうまれたなかみそのもの。もちまえ。うまれつき。「素質」「性質」。
  3. {名詞・形容詞}飾りけのないそのもののまま。生地のまま。すなおである。《対語》⇒文。「質、勝文則野=質、文に勝てば則ち野なり」〔論語・擁也〕
  4. (シッス){動詞}ただす。なかみをつきつめる。問いただす。「質問」「質諸鬼神而無疑=諸を鬼神に質して疑ひ無し」〔中庸〕
チ(去)
  1. {名詞}あかしをたてるだけの値うちあるものとして、相手にあずけおく人や物。人質や抵当。「納質=質を納る」「交質=質を交す」。
  2. (チス){動詞}人質にする。抵当に入れる。

字通

[会意]斦(ぎん)+貝。貝はもと鼎の形。二斤(きん)(手おの)を以て鼎側に銘刻を加える意で、重要な契約や盟誓の辞などを記した。これを約剤・質剤という。剤の正字は劑。齊(斉)はセイ かなえ 外字(せい)で方鼎、その方鼎に銘刻を加えることを劑といい、質と立意の同じ字である。〔説文〕六下に質を「物を以て相ひ贅(ぜい)す」とあって、質入れすることをいうとするが、それは字の初義ではない。〔説文〕は字が斦、二斤に従う意を解しえず、その義を闕としているが、劑・則(古くは𠟭)の字形によって、その意を解くことができる。それより質要・質剤・法則などの意となる。〔周礼、天官、小宰〕「官府の八成」のうち、「七に曰く、賣買を聽くに質劑を以てす」、また〔周礼、地官、質人〕に「大市には質を以てし、小市には劑を以てす」とみえる。質は訓義の多い字であるが、質剤の義が本義、他はその引伸義である。

訳者注:質剤→周代、官庁が発行し、交易の時、買手から売手に渡して取引の証拠とした手形証券。

日(ジツ・4画)

日 金文 日 甲骨文
小臣艅犀尊・殷代末期/甲骨文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯ĕt(入)。字形は太陽を描いた象形。原義は太陽。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文で原義の他”昼間”、”いちにち”、祭祀の名に、加えて金文では干支の出現前に時間的順序の一つ(作冊睘尊・西周早期)に用いられた。

甲骨文では曲線を刻みにくいので、四角く描いたが、「口」と区別するため真ん中に一本棒を入れた。金文になると角が取れて、丸くなったものが見られるようになる。骨に小刀で文字を刻む甲骨文と異なり、固まる前の粘土の鋳型に、曲線を描くのは簡単だったからだ。

それが再び四角く書かれるようになったのは、後漢時代の隷書以降になる。

学研漢和大字典

象形。太陽の姿を描いたもの。ニチ・ジツということばは、尼(近づく)・昵(ジツ)(親しむ)・泥(ネイ)・(デイ)(ねっとり)などと同系で、身近にねっとりとなごんで暖かさを与える意を含む。また燃(ネン)(暖かくもえる)とも一脈のつながりがある。

付表では、「一日」を「ついたち」「二日」を「ふつか」「二十日」を「はつか」「今日」を「きょう」「昨日」を「きのう」「明日」を「あす」「日和」を「ひより」と読む。▽草書体をかな「ひ」として使うこともある。

意味

  1. {名詞}ひ。太陽。「日月」「浮雲翳白日=浮雲白日を翳ふ」〔孔融・臨終詩〕
  2. {名詞}ひ。太陽の出ている間。昼間。《対語》⇒夜。《類義語》昼。「夜以継日=夜以て日に継ぐ」〔孟子・離下〕
  3. {名詞}ひ。か。一昼夜。「是日=是の日」「終日」。
  4. {単位詞}か。日数をかぞえることば。
  5. {副詞}ひび。ひに。毎日。「吾日三省吾身=吾日に三たび吾が身を省みる」〔論語・学而〕
  6. {副詞}ひび。ひに。一日一日と。「園日渉以成趣=園は日に渉りて以て趣を成す」〔陶潜・帰去来辞〕
  7. {名詞}広く、時期・ころ。「暇日(カジツ)(暇な時)」「他日(将来の、ある日)」「何日是帰年=何の日か是れ帰年」〔杜甫・絶句〕
  8. {名詞}「日本」の略。
  9. 《日本語での特別な意味》
    ①にち。七曜の一つ。日曜日の略。
    ②「日向(ヒュウガ)」の略。「日州」。

字通

[象形]太陽の形。中に小点を加えて、その実体があることを示す。三日月の形に小点を加えて、夕とするのと同じ。〔説文〕七上に「實(み)てるものなり。太陽の精は虧(か)けず」とするのは、〔釈名、釈天〕の「日は實なり。~月は缺なり」とするのによるもので、音義説である。日と實、月と缺とは、今の音ははるかに異なるが、古音は近く、わが国の漢字音にはなおその古音が残されている。

※訳者注:カールグレン音で日ȵi̯ĕt・實ʰi̯ĕt、月ŋi̯wăt・缺kʰi̯watまたはkʰiwat。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だし、訳者に連絡のお気遣いも不要だが(ただしネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。

言い訳無用。訳者が「やった」と思えば全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。空港の刃物検査通過は、やったことがあるが存外簡単だ。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。朴ったら○すぞ。それでもやるなら、覚悟致せ。



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コメント

  1. […] これが「君子」の価値暴落を呼び、時代は戦国時代へと移行する。論語語釈「使」も参照。 […]

  2. […] 論語語釈「師」条より […]