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論語語釈「ソ」

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語釈 urlリンクミス

助(ソ・7画)

助 秦系戦国文字 助 甲骨文 助 金文
睡虎地簡52.9・戦国最末期/合集27736/彔伯簋蓋・西周中期

初出:初出は秦系戦国文字。甲骨文・金文も比定されているが、字形が違いすぎる。

字形:「且」(tsi̯o平/tsʰi̯ɔ上)”盛り上げる”+「力」。積み増すさま。甲骨文・金文とされる字形は、穀物が実ったさま。

音:カールグレン上古音はdʐʰi̯o(去)。同音は「鋤」「耡」「鉏」(三つとも農具のスキ)。「ジョ」は呉音。

用例:「甲骨文合集」5532正の用例は、「漢語多功能字庫」では「南庚弗助父乙害王。」と釈文しているが、どうしてそう読めるか判然としない。

西周末期「禹鼎」(集成2833)の用例は、「命」と釈文されている。

戦国最末期「睡虎地秦簡」為吏9伍に「非以官祿夬助治。不賃(任)其人」とあり、”補助する”と解せる。

疋 金文
「疋」是尹番戈・春秋末期

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓で「助」を含まない漢字に「胥」(初出戦国文字)。その原字に「疋」ʂi̯o(平)があり、西周中期「善鼎」(集成2820)に「令女(汝)左(佐)疋(胥)□侯」とあって”助ける”と解せる。「足」tsi̯uŋ(去)/i̯uk(入)と同根の字で、同様に”足す”の語義がある。

学研漢和大字典

会意兼形声。且は、積み重ねたさまを描いた象形文字。助は「力+(音符)且(シャ)・(ショ)」で、力の足りないとき、その上にプラスして力をそえてやること。祖(世代の重なり)・苴(ショ)(敷き重ねる草)・且(かつ。その上に重ねて)などと同系。類義語の佑(ユウ)・祐(ユウ)は、かばう。佐は、ささえる。扶は、わきの下をささえる。援は、急場にゆとりをあけてやる。裨(ヒ)は、つけ足す。補は、つぎ当てる。救は、危険におちいらないようにひき止めること。輔(ホ)はぴったりくっついて力をそえる。

語義

  1. {動詞}たすける(たすく)。力を貸す。「補助」「回也、非助我者也=回や、我を助くる者に非ざるなり」〔論語・先進〕
  2. {名詞}たすけ。援助。「得道者多助=道を得たる者には助け多し」〔孟子・公下〕
  3. 「耕助(コウジョ)」とは、畑にすきを入れて耕すこと。▽鋤(ジョ)に当てた用法。
  4. 「助法」とは、古代の税法。孟子の説では、田地を井字型に九区画にわけ、周囲の八区を八家に与え、中央を公田として共同で耕させ、その全収穫を租税とした。⇒「井田法」。
  5. (ジョス){動詞}「む」の方法で租税を納める。また、納めさせる。「殷人七十而助=殷人は七十にして而助す」〔孟子・滕上〕
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①すけ。四等官で、寮の第二位。
    ②すけ。人の特徴をあらわす語につけ、人名めかしていうことば。「飲み助」「ちび助」。

字通

[会意]且(しょ)+力。〔説文〕十三下に「左(たす)くるなり」とし、且声とするが、且は耒(すき)、力は耒(すき)。両者を組み合わせて、鋤耕の意を示す。鋤耕に協力することから、助耕・助力の意となる。共耕によって税を出すことを助法という。すべて助勢する意に用いる。

所(ソ・8画)

所 金文
宋公差戈・春秋晚期

初出:初出は春秋末期の金文

字形:「戸」+「斤」”おの”。「斤」は家父長権の象徴で、原義は”一家(の居所)”。

所 異体字 所 異体字 所 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔一冫丿亇〕」と記す。「魏李謀墓誌」(北魏?)刻。また「〔一尸斤〕」と記す。「漢鄭同碑」(後漢?)刻。また「〔丨可丁〕」と記す。上掲「佛頂尊勝陀羅尼経幢(一)」(唐?)刻字近似。

音:カールグレン上古音はʂi̯o(上)。「ショ」は呉音。

用例:「漢語多功能字庫」には一説に原義は”守備する場所”といい、金文では”ところ”の意があると言う(庚壺・春秋末期)。だが「…するところの…」の用法は、戦国時代の「中山王方壺」まで時代が下るという。ただし春秋時代の金文「𤔲料盆蓋」に「𤔲料𣐺所〔持。〕」とあり(『殷周金文集成』10326)、論語の時代にも「…するところの…」の用法は確認できる。

学研漢和大字典

形声。「斤(おの)+(音符)戸」で、もと「伐木所所=木を伐ること所所たり」〔詩経〕のように、木をさくさくと切り分けること。その音を借りて指示代名詞に用い、「所+動詞」の形で、…するその対称をさし示すようになった。「所欲」とは、欲するその物、「所至」とは、至るその目標地をさし示したいい方。後者の用法から、さらに場所の意を派生した。草書体をひらがな「そ」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}ところ。場所。また、地位。《類義語》処。「住所」「居其所=其の所に居る」〔論語・為政〕
  2. {助辞}ところ。→語法「①」。
  3. {助動詞}れる(る)・られる(らる)→語法「②」。
  4. 「所有(アラユル)」とは、おのずとそこに存在するかぎりのとの意をあらわす。▽訓読で「ゆ(ゆる)」をつけるのは「見ゆ」「泣かゆ」の「ゆ」と同じで、自発・受身の意味を含ませたもの。
  5. {助辞}ばかり。数量をあらわすことばのあとにつけ、それくらい、の意をあらわす。《同義語》許(バカリ)。「父去里所、復還曰=父去ること里所にして、復た還りて曰はく」〔史記・留侯〕
  6. 「幾所(イクバク)」とは、どれくらい、の意をあらわす。《同義語》幾許(イクバク)。
  7. 《日本語での特別な意味》ところ。…したところ、その場合に。「門を出た所が」。

語法

  1. 「~するところ」とよみ、「~するもの」「~であること」などと訳す。▽「所」は「者」と同じく、用言を体言化して、主語・述語・目的語・修飾語となる。「所」は、行為の対象を示し、「者」は、行為の主体を示す違いがある。「所欲=欲する所」は、「ほしいその物」となり、「所在=在る所」は、「存在するその場所」となる。「将以求吾所大欲也=将にもって吾が大いに欲する所を求めんとす」〈わたしの大望を遂げようとしている〉〔孟子・梁上〕
  2. 意味上、受身となるので、「る」「らる」とよみ、「~される」と訳してもよい場合がある。「嘗事范氏及中行氏、而無所知名=嘗(かつ)て范氏及び中行氏に事(つか)へしも、名を知らる無(な)し」〈以前、范氏と中行氏とに仕えたが、名前さえ認められなかった〉〔史記・刺客〕

  1. 「為~所…」は、「~の…するところとなる」とよみ、「~に…される」と訳す。受身の意を示す。「嘗遊楚、為楚相所辱=嘗(かつ)て楚に遊び、楚の相の辱むる所と為る」〈かつて楚の国に遊説に出かけ、楚の宰相から侮辱を受けた〉〔十八史略・春秋戦国〕▽ほかに「~がために…らる」「~に…らる」とよんでもよい。
  2. 「為所~」のように動作主が省略されることもあり、「~らる」「~するところとなる」とよむ。「不者、若属皆且為所虜=不(しから)ずんば者、若(なんぢ)が属皆且(まさ)に虜にせられんと」〈そう(=殺す)でなければ、お前たちはみな、沛公に捕虜にされてしまう〉〔史記・項羽〕

③「所以~」は、

  1. 「~するゆえん」「もって~するところ」とよみ、「~する理由」「~する方法(手段)」などと訳す。理由・根拠・手段・目的の意を示す。「所以遣将守関者、備他盗之出入与非常也=将を遣はして関を守らしめしゆゑんは、他の盗の出入と非常とに備へしなり」〈部将をやって函谷関を守らせましたのは、盗賊どもの出入と非常の事態とに備えるためです〉〔史記・項羽〕
  2. 「ゆえに~」とよみ、「だから~」と訳す。理由・根拠の意を示す接続句。「偸本非礼、所以不拝=偸は本礼に非ず、ゆゑに拝せず」〈盗みはもともと礼にはずれている、だからおじぎをしなかった〉〔世説新語・言語〕

④「所謂」は、「いわゆる」「いうところの」とよみ、「一般に言われている」「ここで言っている」と訳す。「彼所謂豪傑之士也=彼は所謂(いはゆる)豪傑の士なり」〈彼はいわゆる(才徳が人並み優れた)豪傑の士である〉〔孟子・滕上〕。「所謂天道是邪非邪」〈(公平無私と皆がいう)あの天道は、果たしてほんとうに正しいのか、正しくないのか〉〔史記・伯夷〕

字通

[会意]戸+斤(きん)。〔説文〕十四上に「木を伐る聲なり」とし、〔詩、小雅、伐木〕「木を伐ること所所たり」の句を引くが、今本は「許許」に作る。擬声語の他に、本義のあるべき字である。金文の〔叔夷鎛(しゆくいはく)〕に「カク 外字カク 外字(くわくくわく)たる成唐(湯(とう)、殷の祖王)、嚴として帝所に在り」「桓武なる靈公の所に共(供)する又(あ)り」のように用い、所とは聖所・霊廟をいう。戸は神位を蔵する所の戸、その前に呪鎮として斧鉞の類をおく。その神戸を啓(ひら)くを啓、その神意を拝するを肇といい、金文には肈に作る。■(戸+戈)は所と字の立意同じ。のち御所・御座所のようにいい、また一般住居の意とするが、本来は聖所をいう字である。處(処)が虎皮を蒙る神霊の代位者が居るところであるのと同じ。所を関係代名詞や受身に用いるのは後起の用義法で、音の仮借によるものである。

阼(ソ・8画)

阼 金文
阼冢壟戈・戦国中末期

初出:初出は戦国中期の金文

字形:初出の字形は「阝」”はしご”+「乍」”切って作る”+「土」。字面から上向けに立てかけたはしごの意。「土」が取れた現行字形は前漢の隷書から。

乍 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔阝𠂉卜一〕」と記す。〔𠂉卜一〕部は上掲「唐申恭墓誌」刻。

音:カールグレン上古音はdzʰɑɡ(上)。同音は「祚」”さいわい”、「胙」”ひもろぎ”。

用例:戦国中末期「阼冢壟戈」(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA1861)に「阼冢壟戈」とあり、人名の一部と解せる。

戦国中末期「郭店楚簡」成之7に「立於〔乍攵〕(阼)」とあり、”きざはし”と解せるが字形が違いすぎる。

文献上の初出は論語郷党篇10。戦国最末期の『呂氏春秋』にも見える。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「胙」(初出春秋早期金文)。ただし春秋末期までの用例は早期の「鼄友父鬲」(集成717)のみで、「作」”作る”と釈文される。

藤堂説では同音の「祚」が同義というが、初出は楚系戦国文字。白川説によると部首の「阝」=「𨸏」に階段の語義があるといい、初出は甲骨文。だが「阝」を部品に持ち”きざはし”の意を持つ漢字はあまたあり、全部「阝」に集約されると考えるのは無理。漢語は字が違えば語義が違うか、方言が違うからだ。

学研漢和大字典

会意兼形声。「阜(盛り土)+(音符)乍(=作。たつ、しつらえる)」。

語義

  1. {名詞}堂(客間)の東側にある階段。客を迎えるとき、主人がたつ所。
  2. {名詞}玉座にのぼる階段。転じて、天子*の位。《同義語》⇒祚。「践祚(センソ)」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[形声]声符は乍(そ)。〔説文〕十四下に「主の階なり」とあり、主人が堂に升るときの東の階段。賓は西の階段より升る。天子即位のとき、この阼階より升るので、践阼という。〔礼記、曲礼下〕に「阼を踐(ふ)みて祭祀に臨む」とみえる。

俎(ソ・9画)

俎 甲骨文 俎 金文
合集14396/三年𤼈壺・西周中期

初出:初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周中期の金文

字形:甲骨文の字形は〔月〕”にく”。つまり「肉」字と不分離。金文以降は〔爿〕”台”+〔月〕。

音:カールグレン上古音はtʂi̯o(上)。呉音は「ショ」。

用例:「甲骨文合集」14396に「貞燎于土一牛俎宰」とあり、”生け贄に捧げる”と解せる。釈文には別解もあって、「国学大師」は「宜」と解している。

西周中期「三年𤼈壺」(集成9726)に「易(賜)羔俎」とあり、”切り分けた肉”、あるいは”供え物のお下がりの肉”と解せる。

春秋の金文では、「祖」を「俎」と記す例がある(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA1980)。

学研漢和大字典

会意兼形声。且(シャ)は平らな台を示す一印の上に、物を積み重ねたさまを描いた象形文字。俎(ソ)は「積み重ねるさま+(音符)且」。且が、その上に重ねる→かつ、の意の接続詞となったため、俎がその原義をあらわすようになった。祖(世代の重なった先祖)・助(力を積み重ねる)・苴(ショ)(重ねて敷く草)などと同系。

語義

  1. {名詞}供物を積み重ねてのせる台。「礼俎(レイソ)」。
  2. {名詞}まないた。さかなや肉を積み重ねて料理する台。「人方為刀俎、我為魚肉=人は方に刀俎為り、我は魚肉為り」〔史記・項羽〕

字通

[会意]両肉片+且(そ)。且は俎(まないた)の形。且の上に大きな祭肉をおく形は宜。金文に「ソン 外字宜(そんぎ)」という語があり、饗宴を献ずることをいう。〔説文〕十四上に「禮俎なり。半肉の且上に在るに從ふ」とあり、〔礼記、玉藻〕に三俎・五俎、〔儀礼、士昏礼〕に匕俎従設のことがみえる。宴会のことを樽俎という。

素(ソ・10画)

素 金文
師克盨蓋・西周末期

初出:「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では甲骨文とするが、「国学大師」は「素」と釈文していない。「小学堂」による初出は西周末期の金文

字形は両手で絹糸を紡ぐさま。原義は”白い”。

音:「ス」は呉音。カールグレン上古音はso(去)。同音は「蘇」(平)”シソ”、「穌」(平)”かきあつめる”。

用例:西周中期「󺷡白壺蓋」(集成9702)に「易󺷡白□束。素絲束。」とあり、”白い”と解せる。

西周末期「大克鼎」(集成2836)の「叔」は「素」と釈文されている。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意文字で、「垂(スイ)(たれる)の略体+糸」で、ひとすじずつ離れてたれた原糸。疏(ソ)(一つずつ離れる)・索(ひとすじずつ離れた糸)などと同系のことば。

語義

  1. {名詞}より糸にする前のもとの繊維。蚕から引き出した絹の原糸。《類義語》索。
  2. {名詞}もと。人工を加えたり、結合したりする前の、もととなるもの。「要素」「元素」。
  3. {名詞・形容詞}もと。人工を加えない本質。生地のままのさま。飾りけのないさま。《類義語》樸(ボク)・朴。「素朴」「素質」「質素」。
  4. {形容詞・名詞}しろい(しろし)。しろ。模様や染色を加えない生地のままのさま。また、そのしろい布。「織素=素を織る」「素衣(白い衣)」「素以為絢兮=素以て絢と為す」〔論語・八佾〕
  5. {名詞}もとからの下地。もとからのつきあい。「有平生之素=平生の素有り」。
  6. {形容詞・副詞}資産や金をかけていない。ただで。道具を使わずに。地のままで。「素餐(ソサン)(ただ食い)」「素封(ソホウ)(爵位のない大名、つまり民間の金持ち)」→語法。
  7. {副詞}もとより。もともと。はじめから。昔から。《類義語》固(モトヨリ)。「素善留侯張良=素より留侯張良に善し」〔史記・項羽〕→語法。
  8. (ソス){動詞}もとづく。生地のままに安んじる。そのままで安んじる。「君子素其位而行=君子は其の位に素して行ふ」〔中庸〕
  9. {名詞}なま野菜。蔬菜(ソサイ)。「茹素(ジョソ)(柔らかいあお菜)」。
  10. 《日本語での特別な意味》まったく何もない。ただの。「素寒貧(スカンヒ°ン)」。

語法

「もと」「もとより」とよみ、「平素より」「素性からして」「ふだん」「日頃」などと訳す。▽「素」には、金や手間をかけずに、地のままでという意や、平素より、日頃という意、むかしから、はじめからという意などがあるので、文脈によって訳が異なる。「且相如素賤人=かつ相如は素(もと)賤人なり」〈それに相如はもともと微賤の出だ〉〔史記・廉頗藺相如〕

字通

[象形]糸を染めるとき、束の上部の結んだ部分が白く染め残される。その部分を素という。糸の上部は、その結んだところ。〔説文〕十三上に「白の緻(きめこま)かき繒(きぬ)なり。糸と垂とに從ふ。其の澤あるを取るなり」とするが、垂に従う字ではない。染め残されたところが本来の色であるので、すべて手を加えない以前の状態をいう。

措(ソ・11画)

措 金文
中山王󱩾方壺・戦国末期

初出:初出は戦国の竹簡。ただし字形は「散」「惜」などと記された。金文も戦国末期に確認できるが、字形は「㪚」。現行字形の初出は後漢の『説文解字』。

字形:金文の字形は「昔」”農地”+「攴」”手で作業する”で、”植える”の意。

音:カールグレン上古音はtsʰɑɡ(去)。同音は無し。呉音は「ス」。

用例:戦国末期「中山王󱩾方壺」(集成3735)に「進孯(賢)㪚(措)能。」とあり、”地位に就ける”と解せる。

論語時代の置換候補:存在しない。

『大漢和辞典』で同音同訓の「厝」の初出は戦国末期の金文(集成11406)、「錯」の初出は戦国の金文。論語語釈「錯」を参照。部品の「昔」に”おく”の語釈は無い。

備考:敗戦の詔勅に「拳々措カサル所」とあるのは、”拳を丸めるように体を丸めるような恭しい態度で、放置しない”の意。壊滅的な敗戦を仕出かしたというのに、まだこんな呪文をラジオでまき散らしていた。旧制中学の漢文の先生以外、一体誰が聞いて分かったのだろう。

学研漢和大字典

会意兼形声。昔(セキ)は「かさねるしるし+日」からなる会意文字で、日数を重ねた昔のこと。措は「手+(音符)昔」で、手を物や台の上に重ねておくこと。錯(地金の上に金をぬり重ねること)・籍(セキ)(重ねておく竹の冊子)と同系。類義語に寘。

語義

  1. {動詞}おく。上に重ねておく。台におく。《類義語》置。「挙措(上げたりおいたりする→動作、ふるまい)」「民無所措手足=民手足を措く所無し」〔論語・子路〕
  2. {動詞}おく。手をくだす。「措置」「措手不及=措手及ばず」。
  3. {動詞}おく。そのままにしておく。手を下におろして、仕事をやめる。《類義語》捨。「学之弗能弗措也=これを学んで能はずんば措かず」〔中庸〕

字通

[形声]声符は昔(せき)。昔に錯(そ)の声がある。〔説文〕十二上に「置くなり」とは赦すこと。措置(そち)とは、手足を伸ばして安んずること。すべて、そのような状態に処置することをいう。

疏・踈・䟽(ソ・12画)

疏 楚系戦国文字
楚系戦国文字

初出:初出は楚系戦国文字。ただし字形は「糸」+「疋」。現行字体の初出は秦系戦国文字。

字形:「疋」ʂi̯o(平)”足”+「㐬」(音不明)”吹き流し”。「疋」は音符。原義は”通じる”の意とも言われるが不明。「踈」「䟽」は異体字。

音:カールグレン上古音は”うとい・まばら”の場合平声でʂi̯o(平)。同音にその意味の漢字は存在しない。その意味での同義語である疎の字(「漢字古今音資料庫」では疏の異体字として取り扱っている。すなわち同音)には、甲骨文・金文が存在しない。去声の音は不明。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」などの事例があるが、語義はよく分からない。

戦国中末期「郭店楚簡」老子甲28では「疋」を「疏」と釈文している。

戦国最末期の「睡虎地秦簡」封診91に「即疏書甲等名」とあり、”一条ずつ書き連ねる”と解せる。

論語郷党篇8、定州竹簡論語は「踈」と記す。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同音同訓に「粗」「𧇿」(初出説文解字)、「苴」(甲骨文のあとは戦国文字まで絶えており、春秋時代に存在した証拠がない)、「蔬」(初出説文解字、論語語釈「蔬」を参照)、「觕」「麆」(初出不明)、「麤」(初出前漢隷書)。

部品「疋」に”まばら”の用例は確認できない。

部品「㐬」=「旈」は垂れ下がった”のぼり・玉すだれ”で、”うとい・まばら”の意は無いが、カ音l(平)/藤堂上古音lɪogは「流」(l・平/lɪog)に通じると『大漢和辞典』はいう。

「流」の初出は戦国末期の金文だが、その古形であるㄊは甲骨文からあり、論語の時代に存在した。ただし”うとい・まばら”の語義は春秋時代では確認できない。詳細は論語語釈「流」を参照。
疏 古今音

学研漢和大字典

会意兼形声。「流(すらすらとながす)の略体+(音符)疋(ショ)」。「疎」に書き換えることがある。「疎水・疎通」▽「流れが通ずる」「親しくない」「まばら」の意味では「疎」とも書く。

語義

漢音ソ・平声
  1. {形容詞}まばら。一つずつ離れているさま。《同義語》⇒疏。《対語》⇒密。「疎散」「天網恢恢、疎而不失=天網恢恢、疎なれども失はず」〔老子・七三〕
  2. {形容詞・名詞}うとい(うとし)。すきまがあいていて離れているさま。また、親密でないさま。近づきの少ない人。疎遠な人。《同義語》⇒疏。《対語》⇒親(したしい)。「疎遠」「疎客」「去者日以疎=去る者は日に以て疎し」〔古詩十九首〕
  3. {動詞}うとんずる(うとんず)。うとむ。すきまをおく。精神的に離れて親しくしない。《同義語》⇒疏。「疎外」。
  4. (ソス){動詞}とおす(とほす)。とおる(とほる)。ふさがった所を、わけ離してとおす。水をわけて引く。《同義語》⇒疏。「疎水」「疎泉=泉を疎す」「禹疏(=疎)九河=禹(う)九河を疏(=疎)す」〔孟子・滕上〕
  5. (ソス){動詞・名詞}くしけずる(くしけづる)。くし。もつれた髪の毛を別々にわけて、くしをとおす。めのあらいくし。▽梳に当てた用法。「疎比」。
  6. {名詞}裏までぬき通した彫刻。すかしぼり。「疎櫺(ソレイ)(すかしぼりをした格子窓)」。
  7. {形容詞}あらいさま。おろそかなさま。そまつなさま。▽粗に当てた用法。《同義語》⇒疏。《対語》⇒精。「疎食(ソシ)(=粗食)」。
漢音ソ・去声
  1. {名詞}一条ずつわけて意見をのべた上奏文。「上疏(意見書をたてまつる)」。
  2. {名詞}むずかしい文句を、ときわけて、意味をとおした解説。《類義語》注。「注疏」。
  3. 《日本語での特別な意味》さかん(さくわん)。四等官で、弾正台(ダンジョウダイ)の第四位。

字通

[形声]声符は疋(しよ)。もと疏の俗字。のち、あらい、まばら、うといの意にこの字を用いることがあるが、上疏・疏通の意には用いることがない。束はものを束ねる意。その結束の疏緩なることをいう字であろう。梁の簡文帝の〔初秋詩〕に「疎螢(そけい)」、〔論衡、非韓〕に「交黨疎耐す」のように用いる。束ねることの疎緩であることから、疎遠・迂疎の意となる。

[形声]いま常用漢字に疎を用いるが、正字は疏。ともに疋(しよ)声。疋は■(爻+疋)(そ)。爻(こう)はあらめの模様。疏は■(爻+疋)の爻に代えて、梳く(そ)(あらい櫛)の㐬を加えた形。〔説文〕十四下に「通ずるなり」とあり、疏通の意と、疏野の意とに用いる。疏野は粗野。字はまた疎に作り、疏・疎は同字であるが、上疏・疏通には疏、疎略・疎忽には疎を用いる。字に慣用上の相違があるが、いま同字として扱う。

(条目なし)

楚(ソ・13画)

楚 金文
刱田䈪鐘・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtʂʰi̯o(上)。同音は以下の通り。去声のカ音は不明。「ソ」は漢音、「ショ」は呉音。wikipedia「楚(春秋)」も参照。

初出 声調 備考
ショ はじめ 甲骨文
ショ 木の名 甲骨文
𪓐 ショ 五采があつまってあざやかなさま 西周中期金文
楚国周辺地図

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学研漢和大字典

会意兼形声。「木二つ+(音符)疋(ショ)(一本ずつ離れた足)」。ばらばらに離れた柴や木の枝。疎(まばら)・蘇(ソ)(すきまがあく)と同系。草書体をひらがな「そ」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}一本ずつばらばらになった柴(シバ)。そだ。また、むち。
  2. {形容詞}すっきりしたさま。ねちっこくなく、さばさばしたさま。《類義語》疎。「清楚(セイソ)」。
  3. {形容詞}枝でつくように、つんと痛いさま。「酸楚(サンソ)」。
  4. {名詞}国名。つ春秋戦国時代、長江中流の地を領有した国。郢(エイ)(今の湖北省江陵県付近)に都を置いた。戦国時代には七雄の一つとなったが、のち、秦(シン)に滅ぼされた。づ五代十国の一つ。馬殷(バイン)がたて六代で南唐に滅ぼされた。九〇七~九五一。
  5. {名詞}現在の湖南・湖北の両省、または湖北省の古称。
  6. {名詞}いばら。木の名。にんじんぼく。くまつづら科の落葉低木。淡紫色の花がさく。「牡荊(ボケイ)」とも。▽去声に読む。

字通

[形声]声符は疋(しよ)。〔説文〕六上に「叢木なり。一名、荊なり」とあって、叢木(にんじんぼく)を本義とする。〔詩、周南、漢広〕「言(ここ)に其の楚を刈る」、〔詩、王風、揚之水〕「束楚を流さず」、〔詩、小雅、楚茨〕「楚楚たるものは茨(し)」など、荊棘(けいきよく)の類をいう。これを以て鞭笞(べんち)とするので、またむちの意となる。西周中期の金文〔𤞷𣪘(じき)〕に「王の南征に從ひ、楚荊を伐つ」とあって楚荊を連言しており、楚をまた荊ということもあった。〔春秋〕には、荘公以前は荊、僖公以後は楚という。巫俗のさかんなところで、のち〔楚辞〕の文学がその地に生まれた。

愬/訴(ソ・14画)

愬 隷書
隷書

初出:初出は後漢の『説文解字』

字形:「訴」は同音同調異体字。「朔」sɑk(入)+「心」。原義は不明。前漢の『爾雅』では「朔,北方也。」とあるのみで語義の説明にならない。「朔」の同音同調に「索」があり、”すがる心”と解したい所だがなぜ字形が「索」+「心」でないかの説明が付かない。

音:カールグレン上古音は不明(入声)。呉音は「ス」。熟語「愬愬」”ぎくりと驚く”の漢音は「サク」、呉音は「シャク」でsɑɡ(去)となる。同音同調に「泝」”さかのぼる”。

用例:文献上の初出は論語顔淵篇6。次いで戦国中期の『孟子』、戦国末期の『荀子』『韓非子』。異体字の「訴」は戦国時代を通じて編まれた『列子』に見えるが、いつ記されたのか分からない。墨家・道家・法家の書に見えないから、前漢になって現れた字と見るのが理にかなう。

論語時代の置換候補:日本語での同音同訓に「遡」があるが、初出は後漢の『説文解字』。

学研漢和大字典

会意兼形声。朔(サク)は「大(ひと)の逆になった形拶+月」からなり、逆の方向に戻ること。愬は「心+(音符)朔」で、さからう気持ちをおこすこと。遡(ソ)(逆にさかのぼる)・訴(反抗して言い争う)と同系。

会意。「言+斥(逆方向に切りこみを入れる)」。乍(サ)(ざくっと切れ目を入れる)・作(作為を加える)・泝(ソ)(川をさかのぼる)と同系。

語義(愬)

  1. {動詞}うったえる(うったふ)。反感を持ってうったえる。現実にさからう気持ちをおこす。《同義語》⇒訴。「皆欲赴愬於王=皆愬へんと王に赴きて欲す」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}うったえ(うったへ)。《同義語》⇒訴。「膚受之愬(切実なうったえ)」〔論語・顔淵〕
サク
  1. 「愬愬(サクサク)」とは、ぎくりと驚くさま。「履虎尾、愬愬、終吉=虎(とら)の尾を履(ふ)む、愬愬たり、終(つひ)に吉なり」〔易経・履〕

語義(訴)

{動詞・名詞}うったえる(うつたふ)。うったえ(うつたへ)。だまってなりゆきにまかせておかずに、上に申し出て人を動かそうとする。また、その行為や事の内容。《同義語》⇒愬。《類義語》告。「訴訟」。

字通

[形声]声符は朔(さく)。訴と同義の字で、〔説文〕三上に訴の別体の字としているが、訴は告訴・訴訟など訟獄の意に用い、愬は情を以て告げる意に用いる。〔詩、邶風、柏舟〕「薄(しばら)く言(ここ)に往き愬(うつた)へて 彼の怒りに逢へり」とみえる。〔易、履、九四〕に「虎の尾を履(ふ)む。愬愬(さくさく)たらば終(つひ)に吉なり」とは、恐懼のさまをいう。

[形声]声符は斥(そ)。斥の初文は㡿(さく)。ゆえに字はまた愬に作る。〔説文〕三上に「告ぐるなり」とあり、上訴することをいう。告訴するので譖毀(しんき)の意を含む。〔論語、顔淵〕「膚受(ふじゆ)の愬(うつた)へ」とは、かけこみ式の哀訴をいう。ただ訴訟のときには、愬ではなく訴を用いる。

蔬(ソ・15画)

蔬 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は後漢の『説文解字』

字形:「艹」+「疏」。「疏」に”荒い”・”粗末な”の意があり、粗末な植物性の食品を言う。論語語釈「疏」も参照。

音:カールグレン上古音はʂi̯o(平)。

用例:『小載礼記』に「稻曰嘉蔬」「有能取蔬食」とあり、食べられる植物、または質素な食事の意に用いる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で音「ショ」訓「あらい」に「疏」(初出楚系戦国文字、論語語釈「疏」を参照))、「苴」(甲骨文のあとは戦国文字まで絶えており、春秋時代に存在した証拠がない)、「野」(甲骨文)、「麆」(不明)。

『大漢和辞典』で音「ソ」訓「あらい」に「粗」「𧇿」(初出説文解字)、「苴」、「疏」、「觕」「麆」(初出不明)、「麤」(初出前漢隷書)。

「苴」のカールグレン上古音はtsʰi̯o(平)/tsi̯o(平/上)/tsɔ(平)。「野」はdi̯o(上)/di̯ɔ(上)。

苴 甲骨文
「苴」甲骨文合集36965

「苴」のtsʰi̯o(平)の音に”草”・”荒い”・”植物の漬物”の語釈が『大漢和辞典』にあり、「蔬」と音素が50%以上共通する。戦国中期「守宫盤」(集成10168)に「易(賜)守宮絲束、蔖(苴)󱩾(幕)五」とあり、「蔖」は「苴」と釈文され、”草を編んで作った”と解せる。しかし”あらい”ではない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)疏(ショ)・(ソ)(すき間があく)」。

語義

  1. {名詞}な。食用になる草の総称。あおもの。「蔬菜(ソサイ)」。
  2. {形容詞}あらい。粗末であるさま。《同義語》⇒疏。

字通

[形声]声符は疏(そ)。疏に疏大の意がある。〔説文新附〕一下に「菜なり」という。〔礼記、曲礼下〕に「稻を嘉蔬(かそ)と曰ふ」とあり、穀実をもいう。〔論語、述而〕「疏食(そし)を飯(く)らひ水を飮み、肱を曲げて之れを枕とす」の疏は蔬と通用の義。また粗に通じる。

爭/争(ソウ・6画)

争 甲骨文
甲骨文

初出:初出は甲骨文。金文は見つかっていない。

字形:甲骨文の字形は「戈」”カマ状のほこ”+「又」”手”で、ほこをとって争うさま。原義はおそらく”争う”。

音:カールグレン上古音はtsĕŋ(平)。

用例:甲骨文では貞人(占い師)の名として見える。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では人名に用いた。

争 金文
備考:上掲春秋早期「郳白鬲」(集成596)の「郳𡛳󺸒母鑄其羞鬲。」とある󺸒を、「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では「爭」と釈文するが、字形から見て賛成しかねる。

学研漢和大字典

会意文字で、「爪(手)+━印+手」で、ある物を両者が手で引っぱりあうさまを示す。反対の方向に引っぱりあう、の意を含む。諍(ソウ)(言いあってあらそう)・箏(ソウ)(両方から引きあって弦を張った琴)などと同系のことば。

語義

  1. {動詞}あらそう(あらそふ)。両方からとりあいをする。力ずくであらそう。「争奪」「君子無所争=君子は争ふ所無し」〔論語・八佾〕
  2. {助辞}いかでか。疑問・反語をあらわす助詞。どうして。▽やや口語的なことば。「誠知老去風情少、見此争無一句詩=誠に老い去りては風情の少なきを知るも、此を見ては争でか一句の詩無からんや」〔白居易・題峡中石上〕
  3. {動詞}いさめる(いさむ)。あやまちを改めるようにいう。▽諍(ソウ)に当てた用法。「争臣(=諍臣)」。

字通

[会意]旧字は爭に作り、杖形のものを両端より相援(ひ)いて争う形。〔説文〕四下に「引くなり」とし、字形を𠬪(ひよう)(両手)と𠂆(えい)とに従うとするが、両手の間にあるものは杖形の棒。爰(えん)と相近く、爰は援引の意、爭は相争うことをいう。

壯/壮(ソウ・6画)

壯 壮 金文 壯 壮 金文
虢季子白盤・西周末期/者尸鎛・戦国早期(楚)

初出:初出は西周末期の金文。「小学堂」による初出は戦国早期の金文

字形:初出の字形は〔爿〕”寝台”+〔軍〕。軍隊が野営する様。現行字形の初出は戦国早期の金文。

音:カールグレン上古音はtʂi̯aŋ(去)。同音に「莊」”草の盛んなさま”(→語釈)、「妝」”装う”、「裝」”つつむ”。うち「莊」の初出は春秋中期の金文

用例:西周末期「虢季子白盤」(集成10173)に「〔爿由〕(壯)武于戎工(功)」とあり、”さかんにする”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。爿(ショウ)は、寝台にする長い板を縦に描いた象形文字で、長い意を含む。壯は「士(おとこ)+(音符)爿」で、堂々とした背たけの長い男のこと。また、堂々と体格の伸びた意から、勇ましい意を派生する。牀(ショウ)(長い板でつくる寝台)・牆(ショウ)(長いかきね)・檣(ショウ)(長い柱)などと同系。類義語に盛。旧字「壯」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}体格も精神も充実した年ごろ。三、四十歳の男。「壮年」「壮者以暇日脩其孝悌忠信=壮者は暇日をもってその孝悌忠信を脩(おさ)む」〔孟子・梁上〕
  2. (ソウナリ)(サウナリ){形容詞}さかん。堂々として勇ましい。また、元気にあふれているさま。「勇壮」「壱何壮也=壱に何ぞ壮なる也」〔漢書・東方朔〕
  3. (ソウトス)(サウトス){動詞}勇ましくりっぱだと感心する。「壮其意気=其の意気を壮とす」。
  4. {動詞}さかんにする。元気づける。「壮気=気を壮にす」。

字通

[形声]旧字は壯に作り、爿(しょう)声。〔説文〕一上に「大なり」とし、〔方言、一〕に「秦・晉の閒、凡そ人の大なるもの、之れを奘(しゃう)と謂ひ、或いは之れを壯と謂ふ」とみえる。〔説文〕に爿の字はみえないが、爿に従う字には版築の版木の形と、また牀に従う形との二系がある。ただ壯・將(将)の従うところは、この二系に属するものとみえず、殷金文に多くみえる画像形(↓)の図象から出ているものであろう。
字通 将

銘文の内容によって考えると、画像は王子の後、いわば親王家の身分を示す図象とみられ、王朝の軍政の執行者であった。壯はそのような特定身分の集団を将(ひき)いるものであり、將はその指揮官、壯はその年齢階層的なよびかたであったと思われる。〔礼記、曲礼上〕「人生まれて~三十を壯と曰ふ」とあり、〔広雅、釈詁二〕に「健なり」という。健児(こんでい)の類であろう。士は鉞頭(えつとう)を儀器とする意で、戦士階級をいう。

狀/状(ソウ・7画)

状 秦系戦国文字
商鞅方升・戦国秦

初出:初出は秦系戦国文字

字形:「爿」”ねどこ”+「犬」で、犬が寝そべったさまを示すのだろうが、明瞭には原義が分からない。

音:「ジョウ」は呉音。カールグレン上古音はdʐʰi̯aŋ(去)。同音は床(平)のみ。

用例:秦代の金文「商鞅量」(集成10372)に「乃詔丞相狀綰」とあり、王綰と並んで丞相だった 隗状の名。

漢語多功能字庫」によると、戦国の金文では人名に(十七年丞相啟狀戈)、竹簡では”ものの様子”の意に用いられた。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「相」(si̯aŋ平/去、初出甲骨文)、「采」(tsʰəɡ上、初出甲骨文)。いずれにも春秋時代以前に”すがた”の語義は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。爿(ショウ)は、細長い寝台の形を縦に描いた象形文字。狀は「犬+(音符)爿」で、細長い犬の姿。細長いかたちの意を含むが、広く事物のすがたの意に拡大された。壯(=壮。せたけの高い男)・裝(=装。すらりと高い姿)などと同系。類義語の態は、もちまえの姿。姿は、身づくろいしたすがた。情は、ありのままの実情。様は、像と同系で、形やありさま。旧字「狀」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}すがた。かたち。物事のかたち・すがた・ようす。「形状」「状態」「孔子状、類陽虎=孔子の状、陽虎に類す」〔史記・孔子〕
  2. {動詞}かたちづくる。かたちをなす。かたちにあらわす。「状乎無形影=形影無きところに状る」〔荀子・礼論〕
  3. {動詞}すがたを形容する。ありさまをのべる。「状詞(形容詞)」「不可名状=名状すべからず」。
  4. {名詞}事実や、ようすをのべる書面。裁判のさい事情を説明する書面。また、転じて広く手紙のこと。「行状(いきさつ、いきさつをのべた書面)」「書状(手紙)」。
  5. 《日本語での特別な意味》手紙で、…ということの意に用いる。「…の状」。

字通

[形声]旧字は狀に作り、爿(しよう)声。爿は版築に用いる板の形。〔説文〕十上に「犬の形なり」とするが、その用義例もなく、信じがたい。また〔繫伝、袪妄〕に「犬は動止多狀、人の意を曉(さと)り、人の審(つまび)らかにし易き所なり」とするのも、臆測の言である。就・獻(献)・猷がみな犬牲を用いることから考えると、狀とは版築(はんちく)のとき、犬牲を用いることを意味するのであろう。版築の際に犬牲を供えて、その規模・状況を定めたものと思われ、現状や将来の予想を意味する語となる。〔左伝、僖二十八年〕「狀を獻ぜよ」とは、状態の経過について報告を求めることをいう。工事の進捗の状態より、ものの形状、人の状貌をいい、状を報ずる書を書状という。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

宋(ソウ・7画)

宋 甲骨文 宋 金文
甲骨文/北子宋盤・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:「宀」”祭殿”+「木」”神木”で、祭殿と鎮守の森を組み合わせた祖先祭殿。原義は”祖先祭殿”。

音:カールグレン上古音はs(去)。同音は論語語釈「脩」を参照。藤堂上古音はsoŋ。

用例:「甲骨文合集」7898に「己卯卜,…〔鼎(貞)〕:令■…受(?)夫…于宋。」とあり、地名と解せる。

「甲骨文合集」20034.2に「乙巳卜王侑子宋」とあり、人名と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・人名に用い、金文では国名・人名・氏族名に用いた(𧽙亥鼎・春秋中期)。

備考:周が殷を滅亡させたとき、摂政の周公が殷王族の微子啓に領地を与えて建てさせた国とされる(→Wikipedia)。

学研漢和大字典

会意。「宀(やね)+木」で、木を家の中に移し植えるさまを示す。遺民を集めてたてた国の名。寄せ集める意を含み、束(寄せ集めてたばねる)・造(寄せ集める)と同系であろう。

語義

  1. {名詞}国名。周が殷(イン)を滅ぼしたのち、紂(チュウ)王の弟微子に命じ、その遺民を集め祖先の祭りを継ぐことを許してたてさせた国。春秋・戦国時代に、強国の間にはさまれた弱国であり、他国の人からは亡国の遺民としてののしられたが、古い文化を継ぐという自負心を持っていた。紀元前二八六年、楚(ソ)や斉(セイ)に滅ぼされた。今の河南省商邱(ショウキュウ)県にあった。
  2. {名詞}王朝名。中国の南北朝時代、南朝の一つ。劉裕(リュウユウ)がたて、都を建康(今の南京(ナンキン)市)に置いた。八代五十九年で、斉(セイ)に滅ぼされた。劉宋ともいう。四二〇~四七九。
    み{名詞}王朝名。五代ののち、趙匡胤(チョウキョウイン)がたてた。都は凪京(ベンケイ)(今の河南省開封市)。一一二七年高宗のとき、金に攻められて南方の臨安(今の浙江(セッコウ)省杭州(コウシュウ)市)に都を移した。それ以前を北宋(ホクソウ)、以後を南宋(ナンソウ)という。計十八代三百二十年で、一二七九年、元(ゲン)に滅ぼされた。趙宋ともいう。九六〇~一二七九。

字通

[会意]宀(べん)+木。〔説文〕七下に「居るなり。宀に從ひ、木に從ふ。讀みて送の若(ごと)くす」とするが、その用例はない。字の初形は宀に従うものではなく、卜文・金文の宋と思われる字形は、木の上を覆う形に作っている。〔礼記、郊特牲〕に「喪國の社は之れに屋す」とあり、これを勝社という。宋は亡殷の後であるから、木に屋する字を用いたのであろう。

宗(ソウ・8画)

宗 甲骨文 宗 金文
甲骨文/作宗寶彝卣・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「宀」”屋根”+「示」”先祖の位牌”。原義は一族の祖先を祀った祭殿。

音:カールグレン上古音はts(平)。同音は論語語釈「脩」を参照。藤堂上古音はtsoŋ。

用例:「漢語多功能字庫」によると、西周中期の「虘鐘」から、”祖先の霊”の用法があり、戦国時代の竹簡から”尊ぶ”、また地名の用例があるという。

学研漢和大字典

宗 解字
会意文字で、「宀(やね)+示(祭壇)」で、祭壇を設けたみたまやを示す。転じて、一族の集団を意味する。族はその語尾がつまってkに転じたことば。叢(ソウ)(草の集まり)・聚(シュウ)(あつまる)などと同系のことば。

語義

  1. {名詞}みたまや。先祖をまつる所。▽一族団結の中心の象徴であった。「宗廟(ソウビョウ)」。
    {名詞}一族の中心となる本家。「宗家」。
  2. {名詞}同じ祖先から出た一族。「同宗(同姓の族)」。
  3. {名詞}氏族団結の中心。「宗法」。
  4. {名詞}むね。中心となるもの。また、主となる考え。「宗旨(ソウシ)」「以道為宗=道を以て宗と為す」〔呂氏春秋・下賢〕
  5. (ソウトス){動詞}たっとぶ。中心として重んじる。「亦可宗也=亦た宗とすべきなり」〔論語・学而〕
  6. {名詞}開祖の思想。また、それを中心に集まった信仰の団体。「宗派」「禅宗」。
  7. {単位詞}《俗語》まとまった品物・物件などを数えることば。「一宗(一件)」「大宗(量の多い物件)」。

字通

べん+示。宀は廟屋。示は祭卓の形。〔説文〕七下に「尊祖の廟なり」とあり、宗廟のあるところ、またその祭る祖宗をいう。卜辞に大宗・中宗・小宗の名があり、周に大宗・小宗を本支とする宗法制度があった。宗廟の祭器を宗彝そういという。本宗として尊崇すべきものを宗といい、その本旨のあるところを宗旨、信教の上では宗旨しゅうしという。

訓義

みたまや。みたまやにまつる人、おやすじの人、特に主としてまつるべき人、その家すじの人。たっとい、とうとぶ、あがめる、おもだつ、むねとする。

大漢和辞典

会意。宀と示の合字。示は神、宀は屋、故に本義を祖廟、すなわちみたまやの義とす。又、段注によれば、宗と尊とは双声、故にたっとい義に用う。また、叢・眾(衆)・𥟛(稷)に仮借す。

字解

たまや。位牌。社。まつりの主体。まつり、まつる。祭祀・礼儀を司る官。たっとい。むね。むねとする、あがめる。むねとし崇める人物。始祖の嫡長子。正嫡、長子。祖先中の有徳者、またその廟号。一族。まみえる。多い。あつまる。布、布の糸。禜*と読む。〔仏〕教義の流派。春秋の国名。姓。〔現〕西蔵地方の行政区域の名。

*禜:(エイ・ヨウ)なわばりの檀域を設けて凶災をはらう祭事。

莊/荘(ソウ・9画)

荘 金文
𧽙亥鼎・春秋中期

初出:初出は春秋中期の金文。『字通』によると、西周宣王(BC828-BC782)時代の「毛公鼎」に「唯天壮 外字集厥命」(これてん”おおいに”そのめいをなす)に現れた「壮 外字」が原字だとする。下掲右から三行目が「唯天壮 外字集」だが、通説では「壮 外字」は「將」だと釈文されている。
毛公鼎

初出の字形は「ショウ」”寝床”+「」”容器”+「𠙵」”くち”で、何を意味しているのか分からない。

音:カールグレン上古音はtʂi̯aŋ(平)。

用例:春秋巻までの用例は金文の二例しか無い。いずれも「莊公」という国君のおくり名。ただし字形は「爿甾口」(春秋中期「𧽙亥鼎」集成2588)、「戈甾口」(春秋末期「庚壺」集成9733)。

文献時代では戦国最末期の『呂氏春秋』孝行篇に「居處不莊,非孝也。」とあり、後漢の高誘が「莊,敬。」と注を付けている。

漢語多功能字庫」によると、金文では諸侯のおくり名として用いた。”おごそか”の意が確認できるのは、新~後漢初期の論語古注まで時代が下る。

註苞氏曰莊嚴也君臨民以嚴則民敬其上也(『論語集解義疏』)

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「艸+〔音符〕壯(すらりと長い)」で、草のたけが長くおいたつことで、細長い草ぶきの納屋。また、いなかの農家のこと。転じて、形が整って勢いが盛んである意。

壯(=壮。背の高い男)と同系。また、荘園の荘(=莊)は、蔵・倉(穀物をしまう納屋)などと同系のことば。

語義

  1. (ソウナリ)(サウナリ){形容詞}おごそかなさま。すらりと形が整ったさま。「臨之以荘則敬=これに臨むに荘なるを以てすれば則ち敬す」〔論語・為政〕
  2. {名詞}納屋。転じて、いなかの家。また、農村の集落。「荘田」。
  3. {名詞}いなかにある仮ずまい。「別荘」。
  4. {名詞}四方八方に通ずる長い道。「康荘」。
  5. {名詞}商店。「銭荘」。
  6. 荘周(荘子)のこと。「老荘」。
  7. 《日本語での特別な意味》しょう(しゃう)。「荘園」の略。

字通

字通 将
[形声]旧字は莊に作り、壯(壮)(そう)声。壯に盛大の意がある。〔説文〕一下に「上(しやう)の諱(いみな)なり」として、説解を加えていない。後漢の明帝の諱。当時荘姓の人は、その諱を避けて厳と改め、厳助・厳安のようにいった。金文に字を壮 外字(そう)に作り、ときに祝禱の器である𠙵(さい)を加える。〔毛公鼎〕に「唯(こ)れ天壮 外字(おほ)いに厥(そ)の命を集(な)す」とあり、壮 外字は将大の意。また〔虢季子白盤(かくきしはくばん)〕に「戎工(軍事)に壮 外字武なり」とは、その厳荘なることをいう。宋器の〔■(走+馬)亥鼎(ばがいてい)〕に莊公を壮 外字公としるしているので壮 外字が莊と声近く、おそらくその初文とみてよいであろう。壮 外字の従う爿(しよう)は、將(将)・壯の爿と同じく、殷器の上掲画像(しよう)図象から出て、のち將・壯の字となった。〔説文〕古文の字形は艸に従わず、もと厳荘の意の字であろう。

送(ソウ・9画)

送 金文
□𧊒壺・戦国末期

初出:初出は戦国末期の金文

字形:初出の字形は「彳」”道”+「貴」の古体+「廾」”両手”+「二」+「止」”足”。貴重品を遠路送り届けるさまだが、「朕」”我が”と釈文されている。論語語釈「貴」を参照。

音:カールグレン上古音はsuŋ(去)。同音は存在しない。

用例:戦国末期「□𧊒壺」(集成9734)に「隹(惟)送(朕)先王」とあり、「朕」と釈文されている。

戦国最末期「睡虎地秦簡」日甲90正壹に「可以送鬼」とあり、”送り届ける”・”行かせる”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「贈」(贈)。初出は楚系戦国文字。

学研漢和大字典

会意。「辶(足の動作)+物を両手でささえるさま」で、物をそろえて他所へはこぶことを示す。そろえまとめて、すうっと押し出すの意を含む。奏(ソウ)(そろえる)・窓(ソウ)(空気をまとめて出すまど)・縦(ジュウ)・(ショウ)(細長くのばす)と同系。類義語に贈。異字同訓に贈る「お祝いの品を贈る。感謝状を贈る。故人に位を贈る」。

語義

  1. {動詞}おくる。出かける人やすぎゆくものを、ていねいにおくり出す。《対語》⇒迎。「歓送会」「送賓」「送往迎来=往くを送り来たるを迎ふ」〔中庸〕
  2. {動詞}おくる。物をととのえて人に与える。また、Aの所からBの所へ、さしさわりなく物をはこぶ。《対語》⇒受。《類義語》贈(ソウ)「奉送(おおくりする)」「運送」。

字通

[形声]声符は关(そう)。关は両手でものを奉じて献ずる形。〔説文〕二下に「遣(おく)るなり」と訓する。金文の〔毛公鼎〕に「女(なんぢ)に𢆶(こ)の关(おくりもの)を易(たま)ふ」とあって、关は送の初文。𠈖(そう)字条八上に「送るなり。~呂不韋曰く、有侁(いうしん)氏、伊尹を以て女に𠈖す」とあって、𡟒の意に用いる。关を〔玉篇〕に火種を奉ずる意とするが、盤(舟)にいれて賸(おく)るものを朕といい、𡟒・賸は女・貝を以て贈ることをいう。朕はもと𦨶の形に作り、盤中のものを奉ずる意である。

草(ソウ・9画)

草 早 甲骨文 草 金文
合6691/作原・春秋末期或戰国早期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「𣎵ハツ」。現伝字形の初出は春秋末期あるいは戦国早期の石鼓文

字形:甲骨文の字形は草の象形。現行字形は「ソウ」”くさ”2つ+「早」”日の出”。草原に日がのぼるさま。

音:カールグレン上古音はtsʰ(上)。

用例:「甲骨文合集」6691に「今𣎵方其大出」とあり、氏族名と解せる。

西周・春秋の金文では、「屮」「艸」の字形で人名に用いた。”くさ”の用例が見られるのは戦国時代の竹簡からになる(「上海博物館蔵戦国楚竹簡」容成16など)。

備考:現行の「屮」は「テツ」とも読んで「又」”手”をも意味するが、由来が全く異なる。甲骨文では”(手で)捧げる”の意に用いた。

学研漢和大字典

形声。「艸+(音符)早」。原義はくぬぎ、または、はんのきの実であるが、のち、原義は、皁(ソウ)の字であらわし、草の字を古くから艸の字に当てて代用する。艸(いくらでも生える雑草)・造(ざっと集めてこしらえる)・糟(ソウ)(ざっとしたかす)などと同系。付表では、「草履」を「ぞうり」と読む。▽「材料になるもの」の意味の「ぐさ」は「種」とも書く。

語義

  1. {名詞}くさ。草本植物の総称。どこにでも生えている雑草。《同義語》⇒艸。
  2. {形容詞}ぞんざいなさま。まにあわせの。上等でない。「草率」「草紙」。
  3. {名詞・形容詞}くさ深いいなか。また、官に仕えず、民間にいることのたとえ。「草沢(ソウタク)」「草莽(ソウモウ)」。
  4. {名詞}ざっとした下書き。「草案」「起草」。
  5. {名詞}書体の一つ。前漢代中期に発生する。「草書」。
  6. {名詞}物のはじまり。「草創」。

字通

[形声]声符は早(そう)。〔説文〕一下に「草斗、櫟(くぬぎ)の實なり」とし、また「一に曰く、斗の子(み)に象る」とする。櫟の実で染めて黒色となるを皁(そう)というが、その字と解するものであろう。草は艸の俗字。また草昧・草稿・草書・草次などの意に用いる。

造(ソウ・10画)

造 甲骨文 造 金文
甲骨文/頌鼎・西周末期

初出:初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周末期の金文

字形:甲骨文の字形は多様で、「艸」”くさ”だけのもの、下に「𠙵」”くち”をくわえたものなど。これがどうして「造」に比定されたのか明瞭でない。金文の字形は「广」”屋根”+「舟」+「辛」”刃物”+「𠙵」”人のくち”で、造船のさま。原義は”舟を作る”。

音:カールグレン上古音はtsʰ(上)またはdzʰ(去)。藤堂上古音はdzɔg(上)またはts’ɔg(去、操と同音)。「ゾウ」は呉音(上)または慣用音(去)。

用例:春秋早期の「衛公孫呂戈」(集成11200)に「衛公孫呂之告(造)戈。」とあり、”つくる”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、金文では”進む・至る”(師同鼎・西周中期)、官職名(頌壺・西周末期)に用い、戦国の竹簡では”至る”、人名に用いた。

学研漢和大字典

会意。告は「牛+口(わく)」の会意文字で、牛の角(ツノ)にくっつけるとめ木。梏(コク)の原字。造は「辶(足の動作)+告(くっつける)」で、ある所まで届いてくっつく、材料をくっつけあわすなどの意。類義語の作・創は、素材に切れめを入れて、新たにつくり出す。為は、現にあるものの形や質をかえて、あつらえること。異字同訓につくる⇒作。

語義

ソウ(上)
  1. (ゾウス)(ザウス){動詞}つくる。材料をくっつけあわせてこしらえる。《類義語》作・為。「修造」「造舟為梁=舟を造して梁と為す」〔詩経・大雅・大明〕
  2. {動詞}つくる。なす。手あたりしだいによせ集めてでっちあげる。「捏造(ネツゾウ)(でっちあげる)」「造謡(ゾウヨウ)(うわさをでっちあげる)」「造化(そそくさと万物をでっちあげる)」。
ソウ(去)
  1. {動詞}いたる。くっつく。ある所までとどく。「造詣(ゾウケイ)(学問の到達の程度)」「深造(奥までとどく)」「造於莱門=莱門(らいもん)に造る」〔春秋左氏伝・哀八〕
  2. {形容詞}そそくさとしてあわただしいさま。《類義語》草。「造猝(ソウソツ)(=草卒)」「造次」。
  3. {名詞}二つくっついてペアをなすもののうちの、一つのもの。「両造(原告と被告)」「乾造坤造(ケンゾウコンゾウ)(男と女)」。
  4. {名詞}年のめぐり。年代。「末造(末世)」。
  5. {名詞}運勢を占うために、その人のうまれた年・月・日・時間の干支(全部で八字)をよせ集めたもの。
  6. 《日本語での特別な意味》みやつこ。上古の姓(カバネ)の一つ。「国造(クニノミヤツコ)(国守)」。

字通

[会意]字の初形は艁・ゾウ 外字に作り、艁は舟+告。舟は盤の形。告は木の枝に祝禱を収める器(𠙵(さい))をつけて神に訴え祈る意。わが国の申し文にあたる。盤中に供えものを薦め、申し文をつけてささげ、神のいたるのを迎えることを造という。艁は廟前でその儀礼を行う意。造は艁・ゾウ 外字の省文に従う字である。〔説文〕二下に「就(な)るなり」と訓するが、就は訓義多く、「就(な)る」「就(つ)く」などとよむ。〔説文〕に造を告(こく)声とするが、造は字の初形でなく、古文として録する艁の省文に従う。金文の〔令彝(れいい)〕に「用(もつ)て王の逆造(げきざう)に饗す」とあり、逆造は出入の意。〔礼記、王制〕「禰(でい)(父廟)に造す」は祭名。〔麦盉(ばくか)〕「終(つひ)に用て徳を造(な)す」は成就の意。〔頌壺(しようこ)〕「新造(艁)の貯」は新しく屯倉を設営する意。造字の初義は、ほとんどすでに金文の用義のうちにみえる。字は草・曹に通用することがあり、造次・両造のようにいう。

桑(ソウ・10画)

桑 甲骨文
(甲骨文)

初出:初出は甲骨文

字形:クワの木の象形。原義は”クワ”。

音:カールグレン上古音はsɑŋ(平)。

用例:金文は西周中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」0364に「君命(令)宰茀易(賜)𢎨季姬畋臣于空桑」とあるのだが、元画像が確認できない。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名に用い、戦国時代の竹簡では原義に用いた。

学研漢和大字典

会意。叒は、大きな葉をつけた三本の枝を描いた象形文字。桑は「叒+木」で、しなやかにまがったくわの木。韓も桑も、くわの木を意味し、古くは同じであったが、のち、桑を使うようになった。女(しなやかなおんな)・若(しなやか、従順)・茹(ジョ)(やわらかい草)と同系。

語義

  1. {名詞}くわ(くは)。木の名。くわ科の落葉高木。くわ類の総称。葉は蚕のえさとなる。材木は農具・家具などに使う。実は憙(シン)といい、赤黒く熟したものは甘くて食べられる。
    ま{動詞}くわとる(くはとる)。桑の葉を摘む。
    み{動詞}桑を植え、蚕をかう。養蚕する。

字通

[象形]桑の葉の茂る形。その全体象形の字。〔説文〕六下に「蠶(かひこ)の葉を食らふ所の木なり。叒(じやく)木に從ふ」という。叒は〔説文〕六下に「榑桑(ふさう)叒木なり」とあり、字はまた若木に作る。日が東方のこの木より昇るとされる神木であるが、桑とは関係がない。ただ若の卜文の字形は巫が手をかざして舞う形で、いくらか似たところがある。養蚕のことはすでに殷代に行われ、卜辞には蚕示(さんじ)(蚕の神)を祀ることがみえる。また大きな桑の葉の上に、蚕の繭(まゆ)作りの形をしるしたものもある。古く桑林は歌垣の場所でもあり、のち採桑女を主題とする文学が生まれた。

曾/曽(ソウ・11画)

曽 甲骨文 曽 金文
甲骨文/曾伯雨木二簠・春秋早期

初出:初出は甲骨文

字形:蒸し器のせいろうの象形で、だから”かさねる”の意味がある。

音:カールグレン上古音はtsəŋまたはdzʰəŋ(共に平)。

用例:甲骨文に「于曾」の例があり、地名と見られる。「小屯南地甲骨」1098.3の「惟王往曾征無災永王 吉」は、「これ王、曽に往きて征つに災い無きか、王永からんか。吉」と読める。

西周中期の金文「衛𣪕」に「王曾令衛。易赤市。」とあり、「王かつて/すなわち衛をして、赤市(赤い前掛け)を賜わしむ」と読め、”かつて”または”すなわち”の語義が確認できる。

「かつて」・「すなはち」など副詞的に用いるのは仮借で、西周の金文以降、その意味が現れたため、「ショウ」”こしき”の字が作られた。「甑」の初出は前漢の隷書

備考:「漢語多功能字庫」には、論語読解に関して見るべき情報は無い。

学研漢和大字典

象形文字で、「ハ印(ゆげ)+せいろう+こんろ」をあわせてあり、上にせいろうを重ね、下にこんろを置き、穀物をふかすこしきの姿を描いたもので、層をなして重ねる意を含む。甑(ソウ)(こしき)の原字。

また、曾は、前にその経験が重なっているとの意から、かつて…したことがあるとの意を示す副詞となった。鑰(=層。幾重にも重なる)・鑠(=増。重なってふえる)と同系のことば。

意味〔一〕ソウ/ゾ・ゾウ

  1. {副詞}かつて。→語法「①」。
  2. {助辞}すなわち(すなはち)。→語法「④⑤」。
  3. {動詞}ます。上に重ねてふやす。▽増に当てた用法。

意味〔ニ〕ソウ/ソ・ソウ

  1. {形容詞}層をなして世代が重なるさま。《類義語》重。「曾祖父(ソウソフ)(ひいじいさん)」「曾孫(ソウソン)(ひまご)」。
  2. {形容詞}層をなして重なるさま。▽層に当てた用法。

語法

①「かつて」とよみ、「以前に~(したことがあった)」と訳す。過去の経験の意を示す。《類義語》嘗(カツテ)。「曾貌先帝照夜白=曾(かつ)て先帝の照夜白を貌(か)く」〈かつて先帝(玄宗)の照夜白(という名の名馬)を描いた〉〔杜甫・韋諷録事宅観曹将軍画馬図引〕▽「曾経=かつて」も、意味・用法ともに同じ。
②(1)「曾不~」は、「かつて~せず」とよみ、「決して~でない」と訳す。否定の強調の意を示す。「曾不吝情去留=曾(かつ)て情を去留に吝(やぶさ)かにせず」〈心を自然のなりゆきにまかせてくよくよなどしない〉〔陶潜・五柳先生伝〕
(2)「曾無=かつて~なし」も、意味・用法ともに同じ。「曾無黄石公=曾(かつ)て黄石公無(な)し」〈黄石公は影すらない〉〔李白・経下癢袈橋懐張子房〕
③「未曾~」は、「いまだかつて~せず」とよみ、「これまで~したことがない」と訳す。否定の強調の意を示す。「緩賢忘士、而能以其国存者、未曾有也=賢を緩(うとん)じ士を忘れ、而(しか)してよくその国をもって存せし者は、未だ曾(かつ)て有らざるなり」〈賢い者をうとんじ優れた者を無視して、国を保つことのできた者は、いままでに存在したためしがない〉〔墨子・親士〕▽唐代以後は、「不曾=かつて~せず」を用いることもある。
④「すなわち」とよみ、「なんと~」「いったいぜんたい」と訳す。感嘆の意を示す。「吾以子為異之問、曾由与求之問=吾子をもって異なるをこれ問ふと為す、曾(すなは)ち由と求とをこれ問ふか」〈私はあなたがもっと別なことを尋ねられると思いましたが、なんと由と求とのことですか〉〔論語・先進〕▽「何曾」は、「なんぞすなわち」とよみ、「どうしてまた~」と訳す。
⑤「すなわち」とよみ、「まさか~ではあるまい」と訳す。反語の意を示す。「越曾足以為大虞乎=越は曾(すなは)ちもって大虞為るに足らん」〈越など大して心配するに足りないのだ〉〔国語・呉〕

字通

[象形]甑(こしき)の形で、甑の初文。八は湯気のたちのぼる形。〔説文〕二上に「詞の舒(ゆる)やかなるなり」とし、「すなはち」という承接の語とする。それで字形について「八に從ひ、曰(えつ)に從ひ、𡆧(さう)聲」と口気の意とする解を試みているが、金文の字形によって明らかであるように、甑の象形字。釜甑(ふそう)をいう。ゆえに累層するものの意に用いる。「かつて」「すなはち」など副詞的に用いるのは仮借。

掃(ソウ・11画)

掃 金文
隹斝・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はs(上/去)。同音は論語語釈「脩」を参照。

漢語多功能字庫

從「」從「」,表示持帚清潔之意。


「手」と「帚」の字形に属し、箒を持って掃除すること。

学研漢和大字典

会意兼形声。帚(シュウ)・(ソウ)は、ほうきを持つさまを示す会意文字。掃は「手+(音符)帚」で、ほうきで地表をひっかくこと。掻(ソウ)(かく)と同系。「剿」の代用字としても使う。「掃滅」。

語義

  1. {動詞}はく。はらう(はらふ)。ほうきではく。また、地表面をかくようにはいてきれいにする。《同義語》⇒埽。《類義語》洒(サイ)(水で流す)。「掃除(ソウジ)・(ソウジョ)」「落葉満階紅不掃=落葉階に満ちて紅掃はず」〔白居易・長恨歌〕
  2. {動詞}はき清めたように全部なくなる。「人道掃地=人道地を掃ふ」。

字通

[形声]旧字は掃に作り、帚(そう)声。〔説文〕七下に帚を掃の字とし、掃を収めていない。帚は卜文では婦(婦)の初文。〔説文〕十三下に埽を掃の字とするが、経籍にはみな掃を用いる。〔詩、豳風、東山〕に「穹室を洒埽(さいそう)す」とあり、〔周礼、夏官、隷僕〕に「五寢の掃除糞灑(ふんさい)の事を掌る」とみえる。掃とはもと寝廟を洒掃することで、〔韓非子、難三〕に「宗廟をして掃除せられず、社稷(しやしよく)をして血食せざらしむ」とは、国の滅亡することをいう。寢(寝)とは廟の正寝、帚は鬯酒(ちようしゆ)(鬯草で香りをつけた酒)を灌(そそ)いで清める意で、寢は古くは𡨦と書かれ、あるいは𡩠(しん)に従う字であった。掃除の除は、神の陟降する聖域を、余(大きな針)で除(はら)い、祓い清めて塗絶することをいう。

喪(ソウ・12画)

喪 甲骨文 喪 金文
甲骨文/毛公鼎・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:中央に「桑」+「𠙵」”くち”一つ~四つで、「器」と同形の文字。詳細は論語語釈「器」を参照。「器」の犬に対して、桑の葉を捧げて行う葬祭を言う。甲骨文では出典によって「𠙵」祈る者の口の数が安定しないことから、葬祭一般を指す言葉と思われる。

音:カールグレン上古音はsɑŋ(平/去)。同音に桑・顙”ひたい”。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文の語義は曖昧だが、金文では”失う”・”滅ぶ”・”災い”の用例がある(毛公鼎・西周末期/大盂鼎・西周早期/禹鼎・西周末期)。

学研漢和大字典

会意。喪は「哭(なく)+口二つ+亡(死んでいなくなる)」で、死人を送って口々に泣くことを示す。ばらばらに離散する意を含み、相(二つにわかれる)と同系。疏(ソ)(ばらばらになる)はその語尾の縮まったことば。

語義

  1. {名詞}も。死者の別れ去ることを悲しむ礼儀作法。▽「三年の喪」とは、父母が死んだときから二十五か月、足かけ三年の間、服する喪をいう。「喪中」「服喪=喪に服す」。
  2. (ソウス)(サウス){動詞}うしなう(うしなふ)。離れ去る。分離して自分のものでなくなってしまう。▽去声に読む。「喪明(失明する)」「喪地於秦七百里=地を秦に喪ふこと七百里」〔孟子・梁上〕
  3. {動詞}ほろびる(ほろぶ)。ほろぼす。見放される。見捨てられる。▽去声に読む。「天喪予=天予を喪ぼせり」〔論語・先進〕

字通

亡 外字

[会意]哭(こく)+亡 外字/亾(亡)。哭は祝禱を収めた器(𠙵(さい))を並べて、犬牲を加え、哀哭する意。亡 外字(亡)は死者。〔説文〕二上に「亡なり。哭亡に從ふ。~亡は亦聲なり」とするが、亡(ぼう)声ではない。葬の意に用いることがあり、金文の〔卯𣪘(ぼうき)〕に「不淑(不幸、死亡)なりしとき、我が家の朱を取りて、用(もつ)て喪(葬)せしめたり」とみえる。天災にも「奕喪(えきそう)」「降喪」のようにいう。また喪失の意に用い、卜辞に「喪家」「喪師」のことを卜する例がある。亡命者を喪人といい、すべて死喪の礼を以て遇した。

葬(ソウ・12画)

葬 甲骨文 葬 金文 葬 秦系戦国文字
甲骨文/兆域圖銅版・戦国末期/秦系戦国文字

初出:初出は甲骨文。西周・春秋に用例が無く、一旦滅んだ漢語である可能性がある。

字形:甲骨文の字形は「」”墓室”+「ショウ」”寝台”で、現行の字体とは大きく異なるが、古文字学者がなぜ「葬」と断じているかは明らかでない。上掲金文の字形は「爿」+「𣦵」だが、同じ字形が甲骨文合集22415にもある。金文は戦国時代にならないと現れない。現行の字体の初出は秦系戦国文字。「死」+「又」”手”が二つで、丁寧に死者を弔うさま。原義は”ほうむる”。

葬 異体字葬 異体字
慶大蔵論語疏では異体字「〔艹夕夂土〕」と記す。上左「車騎將軍馮緄碑」(後漢)刻。上右「魏元誘妻馮氏墓誌」刻字に近似。

音:カールグレン上古音はtsɑŋ(去)。「喪」sɑŋ(平/去)とは近音。

用例:甲骨文合集6943に「己酉卜,㱿鼎(貞):乎(呼)󱩾(葬)󱩾侯。」とあり、”ほうむる”と解せる。

戦国の金文「兆域圖銅版」(集成10478)に「丌(其)葬眂(視)㥋后」とあり、”ほうむる”と解せる。なお「㥋」は”悼む声”。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では、原義に用いられ、戦国の竹簡でも同様という。

論語時代の置換候補:「葬」が殷周革命に伴い滅んだ漢語だとすると、論語時代の置換候補は漢音で同音、上古音で近音の「喪」sɑŋ(平/去)。論語語釈「喪」を参照。

備考:台湾中央研究院の「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、戦国時代以降の例しか載せていない。字形について議論が多いものと想像される。

学研漢和大字典

会意。「艸二つ+死」で、死体を草むす土の中に隠し去ることをあらわす。「礼記」檀弓上篇に「葬とは蔵なり」とある。蔵(ゾウ)(しまいこむ)・倉(しまう)と同系。類義語の喪(ソウ)は、相(ソウ)(二つに離れる)と同系で、離れ去ること。

語義

  1. {動詞・名詞}ほうむる(はうむる)。儀式をおこなって死んだ人を生きた人の世界から隠し去る。また、そのためのいとなみ。▽火葬(死体を火で焼く)・土葬(死体を地中に埋める)・水葬(死体を水に流す)・風葬(死体を風にさらす)などのやり方があり、中国では土葬が本則であった。「大葬(大げさな葬式)」「葬我君定公=我が君定公を葬る」〔春秋・定一五〕
  2. {動詞}ほうむる(はうむる)。うずめさる。隠してなきものにする。「葬花(落ちた花を埋める)」。

字通

[会意]茻(ぼう)+死。死は風化した残骨の象である歺(がつ)を拝する形。茻は原野。その叢中に屍をすて、風化を待って骨を収め葬るのであるから、葬は複葬を意味する字とみてよい。〔説文〕一下に「蔵するなり」と畳韻の字を以て訓する。また字形について「死の茻中に在るに從ふ。其の中に一あるは、之れを薦(すす)むる所以(ゆゑん)なり」というが、一を含む字形ではない。〔孟子、滕文公上〕に、「蓋(けだ)し上世嘗(かつ)て其の親を葬らざる者有り。其の親死するときは、則ち擧げて之れを壑(たに)に委(す)つ」とみえるが、西方では一時板屋に納める俗があったようである。その風化の期間が、殯(ひん)(かりもがり)の礼となった。

創(ソウ・12画)

刅 金文
刅作寶彝壺・西周早期

初出は西周早期の金文。ただし字形は「荊」。カールグレン上古音はtʂʰi̯aŋ(平)。

学研漢和大字典

形声。「刀+(音符)倉」で、倉という原義とは関係がない。刃物で切れめをつけること。素材に切れめを入れるのは、工作の最初の段階であることからはじめるの意に転じても使われた。食(ショウ)(切る、きずつける)・槍(ソウ)(やり)と同系。類義語に傷・始・造。

語義

  1. {動詞}きずつける(きずつく)。刃物で切る。切れめをつける。
  2. {名詞}きず。切りきず。《類義語》食(ショウ)。「項王身亦被十余創=項王の身も亦た十余創を被る」〔史記・項羽〕
  3. {動詞}はじめる(はじむ)。仕事をはじめる。はじめてつくり出す。▽去声に読む。「創始」「先帝創業=先帝業を創む」〔諸葛亮・出師表〕

字通

[形声]声符は倉(そう)。〔説文〕四下に刅を正字とし、「傷つくなり。刃に從ひ、一に從ふ」とし、重文として創を録する。いま創傷の字に創を用いる。創始の意には、刱がその初文と考えられる。刱は鋳型を刀で割く形。鋳型を外して制作のものをとり出すので、創出の意となる。刅・創・刱はもとそれぞれ立意のある字で、刅は創傷、創はその形声の字、刱が創出の意を示す字である。いま創を創傷・創始の両義に用いる。

廋(ソウ・13画)

廋 金文 廋 隷書 廋 古文
󱨰季廋車盤・春秋早期/「石経論語残碑」・後漢/古文

初出:初出は春秋早期の金文。ただし字形は「宀蒐」または「广蒐」。「小学堂」による初出は後漢の隷書、「石経論語残碑」で、論語を刻んだ石碑が現存最古の字体。『説文解字』には見られないが、下記するとおり前漢の楊雄が記したことになっている。

字形:初出の字形は「蒐」”髪がもじゃもじゃで頭の大きな化け物”を「广」建物の中に閉じこめるさまで、原義は”かくす”。蒐現行字体は「广」”屋根”+「叟」”おきな”だが、「廋人」は、前漢ごろにでっち上げられた「周礼」によると、馬の飼育を管轄する官吏。上掲古文の字形は異体字の「廀」。

音:「シュ」は呉音。「シュウ」の音は周法高が上古音として提唱している(siəw)。カールグレン上古音はʂ(平)。同音は「搜」(捜)「廀」”かくす”「蒐」”かくす”「獀」”狩り・えらぶ”(以上平)、「醙」”しろざけ”「𣸈」”注ぎ洗う”(以上上)、「瘦」「漱」”くちすすぐ”「縮」(以上去)「蹜」”歩き悩む”(入)。上声は不明。藤堂上古音はsīog。

用例:春秋早期に「󱨰季廋車盤」(集成10109)などに「广蒐」の字形で三例が見られるが、全て人名に用いている。うち「㠱甫人匜」(集成10261)は「蒐」が跪かされて描かれており、全文は「㠱甫人余。余王廋𠭯孫𢆶乍寶也。子子孫孫永寶用。」

戦国時代に成立した史書『国語』晋語五58に、孔子生誕20年ほど前の人物の伝記があり、「有秦客廋辭于朝」とある。”かくす”と解せる。

『論語』以降では『孟子』に用例がある。論語為政篇10検証参照。漢代以降では『礼記』に例があり、それ以外では『淮南子』『史記』『漢書』『後漢書』に用例がある。

備考:前漢の楊雄は、『方言』に「廋」を載せて「隱也」と記し(第三43)、すると当時の帝都長安のあった陝西では聴き慣れない言葉だったことになる。ただ残念ながら、どの地法の方言か記していない。

漢語多功能字庫」には、論語の読解に関して見るべき情報は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声で、叟は「宀(あな)+火+又(て)」の会意文字で、細い穴の奥の残り火を、手でさぐるさま。捜の原字。秀(細い)・痩(ソウ)(細くやせる)と同系で、細い意を含む。廋は「广(いえ)+〔音符〕叟」で、細い穴の奥にかくすこと。

語義

  1. {動詞}かくす。入り口を狭く細くしてその中にかくす。「人焉社哉=人焉くんぞ社さん哉」〔論語・為政〕
  2. {動詞}さがす。▽捜に当てた用法。

字通

「叟」は祖先祭殿でともし火を手に取る形で、一族の長老を指す。火を掲げることから”捜索”の意味が出来、それに対する”隠す”の語義が出来た。

筲(ソウ・13画)

筲 隷書
熹平石経・後漢

初出:初出は前漢の『定州竹簡論語』。ただし画像が非公開。「小学堂」による初出は後漢の隷書

字形:〔⺮〕+〔小〕+〔月〕”にく”で、少量のものを入れる竹かご。

音:カールグレン上古音はsŏɡ(平)。同音に「梢」”木の名”、「蛸」、「稍」”末・やや”、「揱」”二の腕の細長くしなやかなさま”。稍の初出は秦系戦国文字。「ショウ」は呉音。

用例:事実上の初出は論語子路篇20。春秋以前に見えず、年代が怪しい『小載禮記』を除き戦国の文献にも見えない。

論語時代の置換候補:上古音の同音で語義を共有する漢字は無い。日本語音で同音同訓は存在しない。

備考:「升」について『学研漢和大字典』は「十升を一斗という。周代の一升は約〇・一九四リットル。のち次第に大きくなり、唐代には約〇・五九リットル」と説明するので、1筲=12斗≒2.328リットルとなる。現代では焼酎などを入れる大型のペットボトルが4リットルなので、「次第に大きくなり…」を加味すると、それと同等かやや小さい容量という事になる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「竹+(音符)肖(細い)」。

語義

  1. {名詞}竹を編んでつくった、米を入れる細長いかご。一斗二升はいる。「斗筲之人(トショウノヒト)(器量のせまい人、小人物)」〔論語・子路〕

字通

[形声]声符は肖(しよう)。〔方言、十三〕に「𥰠(りよ)、南楚にては之れを筲と謂ふ」、また〔広雅、釈器〕に「筲は𥰠なり」とあり、めしびつの類をいう。

增/増(ソウ・14画)

増 金文 増 楚系戦国文字
輔師𠭰簋・西周末期/楚系戦国文字

初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は「曾」(曽)。つちへんが付くのは戦国文字から。それまでは「曾」と書き分けられていない。

字形:「土」+「曾」”かさねる”。

音:「ゾウ」は慣用音。カールグレン上古音はtsəŋ(平)。去声の音は不明。論語語釈「曽」も参照。

用例:西周末期の「輔師𠭰𣪕」(集成4286)に「今余曾乃命。」とあるのは「增」と釈文されており、”かさねて”と解せる。春秋末期まではこの一例しか無い。

「清華大学蔵戦国竹簡」清華七・晉文公入於晉04に「泃(溝)、增舊芳(防)」とあり、”建て増す”・”増築する”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。曾(ソウ)は、八(湯気がわかれて出る)の下にせいろうとこんろの形を描いた象形文字で、こんろの上に、せいろうを重ねて穀物をふかし、湯気が発散するさまを示す。後世の甑(コシキ)の原字であり、層をなして上に重ねる意を含む。鑠は「土+(音符)曾」で、土を上へ何層にも積むこと。

層(=層。上へかさなる)と同系。類義語の益は、ふやしていっぱいに満たすこと。加は、上にプラスすること。倍は、もう一つつけたすこと。滋は、子どもがつぎつぎにうまれるようにふえること。異字同訓にふえる・ふやす⇒殖。旧字「增」は人名漢字として使える。

語義

  1. {動詞}ます。ふえる。また、ふやす。上へ上へと層をなしてつぎたす。転じて広く、つけ加わる、つみあげる意をあらわす。《対語》⇒減。《類義語》益。「重修岳陽楼増其旧制=岳陽楼を重修し其の旧制を増す」〔范仲淹・岳陽楼記〕
  2. {副詞}ますます。程度が上へ上へと加わって、強くなるさまをあらわすことば。

字通

[形声]旧字は增に作り、曾(そう)声。曾は甑(こしき)の初文で、こしきから湯気のあがる形。〔説文〕十三下に「益(ま)すなり」という。甑は上下二器の重なるもので、層累の意がある。増は増大・増加の意に用いる。

大漢和辞典

増 大漢和辞典

憎/憎(ソウ・14画)

憎 篆書
「説文解字」篆書

初出:初出は戦国の竹簡。「小学堂」による初出は後漢の『説文解字』

字形:「忄」”こころ”+「曾」。「曾」は音符。新字体は「憎」。中国・台湾ではこちらが正字体として扱われている。

音:「ゾウ」は慣用音。カールグレン上古音はtsəŋ(平)。同音に曾(=曽)を部品とする漢字群。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」三德02に「上帝󱩾(將)憎之。」とあり、”にくむ”と解せる。

同季庚21に「毋信予(諛)曾(憎)」とあり、「曾」が「憎」と釈文されている。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

「曾」に”にくむ”の語義は、春秋末期までに確認できない。

『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。「にくむ」と読む字は以下の通りだが、音通する文字は無い。
憎

学研漢和大字典

会意兼形声。曾(ソウ)は、こしきの形で、層を成してなん段も上にふかし器を載せたさま。憎は「心+(音符)曾」で、いやな感じが層を成してつのり、簡単に除けぬほどいやなこと⇒曾。類義語の悪は、押さえられて発散せず、胸に詰まる感じのこと。旧字「憎」は人名漢字として使える。

語義

  1. {動詞}にくむ。つくづくいやになる。きらう。そねむ。《対語》⇒愛。《類義語》悪(オ)。「屢憎於人=縷人に憎まる」〔論語・公冶長〕
  2. {名詞}にくしみ。にくく思う感情。つもる反感。「有憎於主、則智不当=主に憎しみ有れば、則ち智も当たらず」〔韓非子・説難〕

字通

[形声]声符は曾(そう)。〔説文〕十下に「惡(にく)むなり」とあり、憎悪の意。〔礼記、曲礼上〕「愛して其の惡を知り、憎みて其の善を知る」の語がある。

增/増(ソウ・14画)

初出は西周末期の金文。「曾」tsəŋ(平)と書き分けられていない。カールグレン上古音はtsəŋ(平)。「ゾウ」は慣用音。呉音も「ソウ」。

学研漢和大字典

会意兼形声。曾(ソウ)は、八(湯気がわかれて出る)の下にせいろうとこんろの形を描いた象形文字で、こんろの上に、せいろうを重ねて穀物をふかし、湯気が発散するさまを示す。後世の甑(コシキ)の原字であり、層をなして上に重ねる意を含む。鑠は「土+(音符)曾」で、土を上へ何層にも積むこと。層(上へかさなる)と同系。類義語の益は、ふやしていっぱいに満たすこと。加は、上にプラスすること。倍は、もう一つつけたすこと。滋は、子どもがつぎつぎにうまれるようにふえること。異字同訓にふえる・ふやす⇒殖。旧字「增」は人名漢字として使える。

語義

  1. {動詞}ます。ふえる。また、ふやす。上へ上へと層をなしてつぎたす。転じて広く、つけ加わる、つみあげる意をあらわす。《対語》⇒減。《類義語》益。「重修岳陽楼増其旧制=岳陽楼を重修し其の旧制を増す」〔范仲淹・岳陽楼記〕
  2. {副詞}ますます。程度が上へ上へと加わって、強くなるさまをあらわすことば。

字通

[形声]旧字は增に作り、曾(そう)声。曾は甑(こしき)の初文で、こしきから湯気のあがる形。〔説文〕十三下に「益(ま)すなり」という。甑は上下二器の重なるもので、層累の意がある。増は増大・増加の意に用いる。

總/総(ソウ・14画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsuŋ(上)。同音に鬷”釜の一種・あつまる”、豵”子猪”、稯”稲四十束”、緫(異体字)、揔”総べる”。鬷・緫・揔に甲骨文・金文は存在しない。呉音は「ス」。

学研漢和大字典

会意兼形声。囱は、もと空気抜きのまどを描いた象形文字で、窓の原字。へやの空気が一本にまとまり、縦に抜け出ること。それに心を加えた悤(ソウ)(=怱)は、多くの用事を一手にまとめて忙しいこと。總は「糸+(音符)悤」で、多くの糸を一つにまとめてしめたふさ。一手にまとめる意となる。総はその略字。類義語の統は、一本にまとめて筋を通す。「惣」の代用字としても使う。「総・総菜」また、「綜」の代用字としても使う。「総合」。

語義

  1. {名詞}ふさ。糸をたてにまとめて束ねて一か所をしめくくって垂らしたもの。《類義語》房。「総角(子どもの束ね髪)」。
  2. {動詞}すべる(すぶ)。引きしめる。すべてを一つにまとめる。また、すべおさめる。《類義語》綜(ソウ)。「総合」「総括」「百官総己=百官己を総ぶ」〔論語・憲問〕
  3. {名詞}全体をまとめる役。また、その役目の長。「総統」「千総(元(ゲン)・明(ミン)代のころの大隊長)」。
  4. {副詞}すべて。みんな。また、どれもこれも結局は。▽俗語として「どうしても」の意に用いることもある。「総是玉関情=総て是れ玉関の情」〔李白・子夜呉歌〕
  5. 「総之=これを総ずるに」とは、まとめていうと、の意。
  6. 「総総(ソウソウ)」とは、たくさんあるさま。「紛総総兮九州、何寿夭兮在予=紛として総総たる九州、何ぞ寿夭の予に在る」〔楚辞・大司命〕
  7. 《日本語での特別な意味》「上総(カズサ)」「下総(シモフサ)」の略。「総州」。

字通

[形声]旧字は總に作り、悤(そう)声。〔説文〕十三上に「聚めて束ぬるなり」とあり、糸の末端を結んで、まとめることをいう。〔釈名、釈首飾〕に「總は束髮なり」、また〔急就篇、三、注〕に「總は絲縷(しる)を以て之れを爲す。髮を束ぬる所以(ゆゑん)なり」という。〔儀礼、喪服〕「布總」の〔注〕に「總は束髮なり」とあり、幼童のあげまきを「総角」、さかやきを剃らぬことを「総髪」というなど、多く結髪の語に用いる。集めて総(ふさ)状にすることをいう。糸を縦横に交えて織成するものは綜、糸の末端を結んでとめる形は屯(とん)、へり飾りすることを純という。

聰/聡(ソウ・14画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsʰuŋ(平)。同音は葱(蔥”ネギ”の俗字)のみ。『大漢和辞典』で音ソウ訓さといに捷dzʰi̯ap(入)、瞍(カ音不明・平)、𦖪(カ音不明・上)。うち捷の初出は西周中期の金文だが、上古音が遠すぎる。従って論語時代の置換候補は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。囱(ソウ)や窗(ソウ)は、空気がさっとぬけるまど。悤(ソウ)は、それに心を加え、さっと通るわかりのよい心を示す。聰は「耳+(音符)悤」で、耳がさっと通って聞こえること。従(ショウ)(たてに通る)・窓(ソウ)(通りのよいまど)と同系。類義語に賢。

語義

  1. {形容詞}さとい(さとし)。耳がよくとおる。すばやくわかる。わかりがよい。「耳目之聡明(耳と目がさとい)」。

字通

[形声]旧字は聰に作り、悤(そう)声。悤は聰の初文。〔説文〕十二上に「察なり」とあり、明察をいう。金文の〔大克鼎〕に「厥(そ)の心を悤襄にす」とあり、悤の字を用いている。

臧(ソウ・15画)

臧 甲骨文 臧 金文
「臧」甲骨文/孫鐘・春秋末期

初出:初出は甲骨文

字形:「臣」”うつむいた目”+「戈」”カマ状のほこ”で、威儀を整え敬礼した近衛兵の姿。原義は”格好のよい”。

臧 蔵 異体字
慶大蔵論語疏では異体字「〔戊㠯〕」と記す。上掲「唐北平県令董明墓誌銘」刻。『五経文字』(唐)所収。

音:「ゾウ」は慣用音。カールグレン上古音はtsɑŋ(平)。同音は「牂」(初出・楚系戦国文字)”牝羊”、「贓」(前漢隷書)”隠す”、「駔」(秦系戦国文字)”駻馬”、「葬」(甲骨文)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”よい”を意味し、金文では”成功”(小盂鼎・西周早期)の意に用いた。楚系戦国文字でも同義に用いた。

学研漢和大字典

会意兼形声。食(ソウ)・(ショウ)は、すらりと長いやり。臧は「臣(どれい)+(音符)食」で、背の高いどれい。また、すらりとしたの意から、裝(=装。かっこうがよい)の意にも用い、よいの意となる。壯(ソウ)(=壮。背の高い男)と同系。

語義

  1. {形容詞}よい(よし)。すらりとしていて、かっこうがよい。また、手ぎわがよい。《対語》⇒否(ヒ)。「臧否(ソウヒ)(よしあし)」「執事順成為臧=事を執りて順成するを臧と為す」〔春秋左氏伝・宣一二〕
  2. {名詞}ボディーガードの役をする体格のよい男のどれい。「臧獲(ソウカク)」。

字通

[形声]声符は戕(しよう)。〔説文〕三下に「善なり」とあり、〔詩、邶風、雄雉〕に「何を用(もつ)て臧(よ)からざらん」のように用いる。字の原義は臧獲の臧。もと俘虜をいう語であろう。臣は神の徒隷としてつかえる臣僕。戕(しよう)はその臣僕に聖器である戕を加えて祓う意で、すでに清められたのちに神に捧げられる。ゆえに臧善の義となったのであろう。卜文に、臣に戈(か)を加える形、また金文・古陶文に、戕と祝告の器である𠙵(さい)を加えた形の字がある。

藏/蔵(ソウ・18画)

蔵 金文
兆域圖銅版・戦国末期

初出:初出は戦国末期の金文。ただし字形は「宀+爿+酉」。楚系戦国文字にも見られるが、字形は上下に「臧+貝」。現行字形の初出は後漢の説文解字。

字形:「艹」+「臧」で、「臧」に「葬」の音があり、草むらに隠すさま。原義は”仕舞い込む”。

音:「ゾウ」は呉音。カールグレン上古音はdzʰɑŋ(平/去)で、同音は無い。

用例:戦国中末期「江陵九店東周墓」50に「無藏貨。」とあり、”仕舞う”と解せる。

学研漢和大字典

形声。艸は、収蔵する作物を示す。臧(ソウ)は「臣+戈(ほこ)+(音符)爿(ソウ)・(ショウ)」からなり、武器をもった壮士ふうの臣下。藏は「艸+(音符)臧」で、臧の原義とは関係がない。倉(ソウ)(作物をしまいこむ納屋)と同系。類義語の納は、入や内と同系で、中へいれること。隠は、目だたぬようおしさげてかくすこと。匿は、わくやかこいの中にかくすこと。異字同訓に倉。異体字「藏」は人名漢字として使える。▽「くら」は「倉」「庫」とも書く。

語義

  1. (ゾウス)(ザウス){動詞}かくす。かくれる(かくる)。おさめる(をさむ)。しまいこむ。入りこんで出てこない。▽平声に読む。《対語》⇒露(外へ出す)。「収蔵」「蔵頭露尾(頭かくして尻(シリ)かくさず)」「用之則行、舎之則蔵=これを用ゐれば則ち行ひ、これを舎つれば則ち蔵る」〔論語・述而〕
  2. {名詞}くら。物をしまっておく建物。▽去声に読む。《類義語》倉・府・庫。「宝蔵」。
  3. {名詞}しまいこんでかくした物。▽去声に読む。《同義語》贓。
  4. {名詞}精気や栄養をしまいこむ内臓。▽去声に読む。《同義語》臓。「五蔵(=五臓。肺・心・肝・腎(ジン)・脾(ヒ)の五つの内臓のこと)」。
  5. {名詞}「西蔵(チベット)」の略。▽去声に読む。「漢蔵語(シナ・チベット語族)」「蔵族(チベット族)」。
  6. 《日本語での特別な意味》旧「大蔵省」の略。「蔵相」▽現在は、「財務省」。

字通

[形声]旧字は藏に作り、臧(ぞう)声。〔説文新附〕一下に「匿(かく)すなり」と訓する。徐鉉の案語に「漢書に通じて臧を用ふ。艸に從ふは、後人の加ふる所なり」という。〔礼記、檀弓上〕に「葬なる者は藏なり。藏なる藏は、人の見るを得ざることを欲するなり」と、葬の義を以て説く。俘囚を祓うときには、死葬の礼を加えることがあるので、臧獲(ぞうかく)の臧の字説として、参考することができよう。藏には古い字形がなく、その艸に従う意を確かめがたい。倉と声義の関係があるようである。

藻(ソウ・19画)

藻 篆書
『説文解字』篆書

初出:初出は後漢の『説文解字』

字形:「艹」+「氵」+「喿」で、みずくさのさま。原義は”みずくさ”。

音:カールグレン上古音はtsoɡ(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、戦国時代から漢代にかけて成立した『山海経』に、”華美”の用例がある。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で訓も義みずくさ音モはほかに存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)澡(ソウ)(表面をさっと流す、表に浮かぶ)」。水面に浮かぶ水草をいう。

語義

  1. {名詞}も。水中に生える草の総称。水草。
  2. {形容詞・名詞}あやがあって、きらびやかなさま。また、表面に浮き出て、模様をなすもの。「藻井(ソウセイ)」。
  3. {形容詞・名詞}文章で、修辞が巧みなさま。また、ことばのあや。文章のあや。「辞藻(ジソウ)」「文藻(ブンソウ)」。
  4. (ソウス)(サウス){動詞}模様を描く。かざる。「藻飾(ソウショク)」「山節藻梲=節を山にし梲に藻けり」〔論語・公冶長〕

字通

[形声]正字は薻に作り、巢(巣)(そう)声。巢は細い木の枝を組み、あやなす意。〔説文〕一下に「水艸なり」とし、重文として藻を録する。藻が通行の字である。水藻の文様のような美しさから、藻麗の意となり、文彩・文章に関して、文藻・才藻という。


※藻麗:あやがあり、美しい。

躁(ソウ・20画)

初出は前漢の篆書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsoɡ(去)。同音に澡”洗う”、藻、璪”帝冠のたれ飾り”、繰(以上上)、趮”速い”(去)。”速い”の意味で趮と語義を共有するが、趮の初出は秦系戦国文字。音ソウ訓さわぐに部品の喿soɡ(去)があり、初出は西周早期の金文

喿 金文
「喿」叔喿父簋・西周早期

学研漢和大字典

会意兼形声。「足+(音符)喿(ソウ)(がやがやさわぐ、せかせかしてあせる)」。騒(さわがしい)と同系。
「燥」に書き換えることがある。「焦燥」。

語義

  1. {形容詞・動詞}さわがしい(さわがし)。さわぐ。落ち着きがなくせっかちである。うわついてざわつく。がやがやとさわぐ。《同義語》⇒譟・噪。「浮躁(フソウ)」「踊躍躁鵬峯=踊躍して鵬峯躁ぐ」〔韓愈・南山詩〕
  2. (ソウナリ)(サウナリ){形容詞}荒々しい。粗暴である。「暴躁(ボウソウ)」「躁者皆化而愨=躁なる者皆化して而愨なり」〔荀子・富国〕

字通

[形声]声符は喿(そう)。〔説文〕二上に字を趮に作り、「疾(はや)きなり」という。喿は多くの祝禱の器(𠙵(さい))を木の枝に著けて、やかましく祈る意。字はまた躁に作り、〔広雅、釈詁一〕に「疾(はや)きなり」とあり、あわてさわぐさまをいう。

竈(ソウ・21画)

竈 金文 竈 金文
秦公簋・春秋中期/郘弋黑鐘・春秋末期

初出:初出は春秋中期の金文

字形:「穴」+「土」+「黽」で、「土」「黽」は”ひきがえる”とも、”わに”とも解せる。原義はおそらく水生動物の巣。「灶」”かまど”の異体字とされるが、字形がまるで違い受け入れられない。

上掲春秋中期の「秦公簋」(集成4315)は「国学大師」で「󱜚囿四方。」とある「󱜚」の画像。つまり釈文されていない。春秋末期「郘弋黑鐘」(集成226)の例は「大鐘八聿(肆),其□(竈)四□(堵)と釈文されているもので、”かまど”の意とは断じがたい。

”かまど”と解せる例は、戦国時代の竹簡以降になる。戦国最末期の「睡虎地秦簡」日甲54背壹に「竈毋(無)故不可以孰(熟)食」とある。

音:カールグレン上古音は不明(去)。藤堂上古音はtsog。

備考:「漢語多功能字庫」には条目がない。

学研漢和大字典

会意。「穴+土+黽(細長いへび)」。土できずいて、細長い煙穴を通すことを示す。焦(こげる)・燥(ソウ)(火がさかんにもえる)などと同系。

語義

  1. {名詞}かまど。土で穴をきずき、火をもやして煮たきするところ。へっつい。また、かまどの神。「寧媚於竈=寧ろ竈に媚びよ」〔論語・八佾〕
  2. 「祭竈(サイソウ)」とは、陰暦十二月二十三日にかまどの神をまつる中国の古い習慣。「祀竈(シソウ)」ともいう。

字通

[形声]声符はシュウ 外字(しゅう)の省文。〔説文〕七下に黽(びん)に従う𥨫を正形とし、「炊竈なり」という。〔段注〕に「周禮に、𥨫を以て祝融を祠る」の文を補う。〔左伝、昭二十九年疏に引く賈逵注〕に「句芒(こうぼう)は戸に祀り、祝融は𥨫に祀り、■(上下に辱+寸)收は門に祀り、玄冥は井に祀り、后土は中霤(ちゆうりう)(雨だれ落ち)に祀る」とみえる。祝融は火神。竈神は老婦。年末に家族の功過を携えて升天し、上帝に報告するというので、おそれられた。竈の上部は穴ではなく、蓋に空気抜けのあながある形。金文の〔秦公鐘(しんこうしよう)〕に「下國を𥨫有(さういう)す」とあり、その字形が確かめられる。竈有は奄有の意である。

色(ソク・6画)

色 金文
𪒠アン鐘・春秋末期

初出:初出は春秋末期の金文。ただし「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、西周早期の金文を載せる。語義は明瞭でないが、金文の定型文に「き金をもって…をつくる」と有ることから推測して、”よい”の意だと思われる。

中(仲)□(爫面))父令以旁壺□□,才四朋。(『新收殷周青銅器銘文暨器影彙編』NA0955)

字形:不詳。

音:カールグレン上古音はʂi̯ək(入)。「ショク」は慣用音、「シキ」は呉音。

用例:春秋末期の金文、上掲「𪒠鐘」では”外見”。”音色”の可能性もある。

□□(擇)吉金,□(鑄)其反(編)鐘,其音□(贏)少(小)□(則)湯(蕩),龢(和)平均(韻)□,霝若華,□(比)者(諸),□(毊)□(磬),至者(諸)長□□(竽),□(會)平倉(鎗)倉(鎗),謌(歌)樂自喜,凡(泛)君子父止土兄(兄),千歲鼓之,□(眉)壽(『新收殷周青銅器銘文暨器影彙編』NA0482)

戦国中末期の「郭店楚簡」五行32に「顔色容貌」とあり、”かおいろ”の語義が確認できる。

戦国時代の「上海博物館藏戰國楚竹書」性情論36に「目之好色,耳之樂聖(聲)」とあり、”色鮮やか”の語義が確認できる。

戦国末期の竹簡に至るまで、”いろごと”の語義は確認できない。

備考:「漢語多功能字庫」によると、字形は「爪」”手”+「卩」”ひざまずく人”で、人が手で押さえつけられているさま。「印」の古字で、「印」は「抑」の初文。「印」の初出は甲骨文だが、必ずしも「色」と解せるわけではないという。

印 字形

「小学堂」印条

学研漢和大字典

象形文字で、かがんだ女性と、かがんでその上に乗った男性とがからだをすりよせて行為するさまを描いたもの。行為には容色が関係することから、顔やすがた、いろどりなどの意となる。また、すり寄せる意を含む。

即(そばにすりよってくっつく)・則(ソク)(くっつく)・塞(ソク)(すりあわす、ふさぐ)などと同系のことば。

語義

  1. {名詞}いろ。男女間の情欲。色欲の色。「女色」「漁色」「寡人好色=寡人色を好む」〔孟子・梁下〕
  2. {名詞}いろ。顔かたちのようす。顔の表情。「喜色」「慍色(ウンショク)(むっとした顔つき)」「失色=色を失ふ」「民有飢色=民に飢ゑたる色有り」〔孟子・梁上〕
  3. {名詞}いろ。外にあらわれた形やようす。「秋色(秋げしき)」「行色匆匆(コウショクソウソウ)(旅だとうとしてあわただしいようす)」。
  4. {名詞}いろ。いろどり。色彩の色。「五色(紅・黄・青・白・黒)」「三五夜中新月色=三五夜中新月の色」〔白居易・八月十五日夜禁中独直〕
  5. {名詞}《仏教》感覚でとらえる客観の世界のこと。精神的要素に対して、物質的性質をいう。「色即是空(シキソクゼクウ)」。
  6. {名詞}《俗語》くさ。品物の一種類のこと。《類義語》種。「貨色」。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①いろ。ひびき。「音色(ネイロ)」。
    ②いろ。愛人。情人。

字通

色 篆書
(篆書)

人+せつ。人の後ろから抱いて相交わる形。〔説文〕九上に「顔气なり。人に従ひ、せつに従ふ」とし、人の儀節(卪)(訳者注。行動や態度が、適切でほどよいこと)が自然に顔色にあらわれる意とするが、男女のことを言う字。尼も字形が近く、昵懇の状を示す。特に感情の高揚する意に用い、〔左伝、昭十九年〕「市に色す」は怒る意。「色斯しょくし」とはおどろくことをいう。

訓義

1)いろ、かおいろ、かおにあらわれる、けしきばむ。2)いろどり、つや、つややか、おもむき、うつくしい。3)おだやか、なごむ。4)しな、たぐい。5)男女の情、なさけ。

大漢和辞典

→リンク先を参照

足(ソク・7画)

論語語釈「足」

束(ソク・7画)

→論語語釈「束」

𠟭/則(ソク・9画)

則 甲骨文 則 金文
甲骨文/𣄰尊・西周早期

初出:「国学大師」によると初出は甲骨文。ただし「西周甲骨文」という。「小学堂」によると初出は西周中期の金文

字形:「国学大師」は「用刀刻畫鼎紋之義」という。「漢語多功能字庫」も原義については同じとし、「法則」だとする。

音:カールグレン上古音はtsək(入)。

用例:西周早期の「𣄰尊」に、「隹(唯)□(武)王既克大邑商,則廷告于天,曰…」とあり、「これ王すでに大邑商をくだし、すなわちおおにわ、天に告げていわく」と読め、接続詞「すなわち」の用例が確認できる。

「漢語多功能字庫」によると、金文では”法則”・”法則を遵守させる”・”刻む”の意だという。また”はかる”の意で漢墓竹簡に見られると言うが、「測」の独立前から、「則」がこの語義を持っていても不思議は無い。

備考:「すなわち」と訓む一連の漢字については、漢文読解メモ「すなわち」を参照。

学研漢和大字典

則 解字
会意文字で、「刀+鼎(カナエ)の略形」。鼎にスープや肉を入れ、すぐそばにナイフをそえたさま。そばにくっついて離れない意を含む。即(そばにくっつく)と同じ。転じて、常によりそう法則の意となる。さらにAのあとすぐBがくっついておこる意をあらわす助詞となった。類義語の乃(スナワチ)は、Aのあと曲折をへてBがおこる際に用い、やっと、そこで、ついになどの意を含む。而(ジ)は乃ほどではないが、やはり曲折した、しかも、しこうしてなどの意をあらわす。斯(ココニ)・即は、則と同じように、前後をさらりと直結して、…ならすぐの意をあらわす。

語義

  1. {名詞}のり。いつもそのそばによりそって離れてはならない道理・手本・基準。「法則」「不識不知、順帝之則=識らず知らず、帝の則に順ふ」〔詩経・大雅・皇矣〕
  2. (ソクス){動詞}のっとる。手本として守り従う。▽訓の「のっとる」は、「のり(則)+とる(取る)」の音便。「則天=天に則る」「唯尭則之=唯だ尭これに則る」〔論語・泰伯〕
  3. {接続詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-チ」。
  4. {副詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-ヂ」。
  5. {副詞}すなわち(すなはち)。→語法「②-ッ」。
  6. 列挙した事柄を数えることば。「第一則」。

語法

▽前の状況が後の状況に続く場合に用いる。
①「~則…」は、(1)「~(ならば)すなわち…」とよみ、「もし~ならば…」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。▽「レバ則(ソク)」といわれるように、順接の仮定条件の文で多く用いる。「嚮吾不為斯役、則久已病矣=嚮(さき)に吾かの役を為さざりせば、則(すなは)ち久しくすでに病みしならん」〈以前もし私がこの仕事をしなかったならば、長いこと苦しんできただろう〉〔柳宗元・捕蛇者説〕
(2)「~すなわち…」とよみ、「すぐさま」と訳す。《同義語》即。「項王則夜起飲帳中=項王則(すなは)ち夜起ちて帳中に飲す」〈項王はすぐさま夜起ってとばりの中で酒を飲んだ〉〔史記・項羽〕
(3)「~(は)すなわち…」とよみ、「~の場合は…」と訳す。強調の意を示す。「父母之年、不可不知也、一則以喜、一則以懼=父母の年は、知らざる可からず、一は則(すなは)ちもって喜び、一は則ちもって懼(おそ)る」〈父母の年齢は知っておかなければいけない、一つにはそれで(長生きを)喜び、一つにはそれで(老い先を)気づかうのだ〉〔論語・里仁〕
②「否則」は、「しからずんばすなわち」とよみ、「さもなければ」と訳す。前節とは逆の条件を提示する意を示す。「聴則進、否則退=聴かば則(すなは)ち進み、否(しから)ずんば則ち退く」〈(自分の意見が)聞かれれば進み、聞かれなければ退く〉〔国語・晋〕

字通

正字は𠟭に作り、鼎+刀。鼎側に刀を加えて銘文として刻する意。叙任や賜賞など、重要なことは鼎銘に刻して記録し、あるいは約剤とした。約剤は契約書、剤の初文劑はもとせいに従う字で、齎とは方鼎を言う。円鼎に刻したものを則、方鼎に刻したものを剤という。鼎銘に刻するところは軌範とすべきものであるから、定則・法則の意となる。また承接の語に用い、金文には行為の儀節の間に加えて「𠟭ち拝す」「𠟭ち誓う」のようにいう。またものを分別していうときにも用いる。

訓義

  1. ほる、銘文にほる。
  2. のり、のっとる、ならう、軌範とする。
  3. 約束、約剤と同じ。
  4. 件・条と同じ意。一くだり。
  5. すなわち、そのときには、それは、もし。

速(ソク・10画)

速 甲骨文 速 金文
合集15109/叔家父簠・春秋早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は〔夂〕”あし”+〔東〕”ふくろ”。金文から〔彳〕”みち”が加わる。原義不明だが、「東」に”袋に詰める”→”集める”の意があり、春秋の金文が人々を”呼び集める”と解しているのには無理が無い。

音:カールグレン上古音はsuk(入)。

用例:甲骨文の用例は断片化しており明瞭でない。西周の金文ではおそらく人名に用いた(「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1567「榮中(仲)速內(芮)白(伯)」)。

春秋早期「叔家父簠」(集成4615)に「用速先後者󱸄(兄)」とあり、「漢語多効能字庫」は”招き呼ぶ”と解している。”はやい”の語義が見られるのは戦国の竹簡から。

学研漢和大字典

会意兼形声。束は、木の枝を○印のわくでたばねたさまを示す会意文字。ぐっとちぢめて間をあけないの意を含む。速は、「辶(足の動作)+(音符)束」で、間のびしないよう、間をつめていくこと。促(ちぢめる、せく)・縮(シュク)(ちぢめる)・蹙(シュク)(ちぢめる)などと同系。類義語に早。異字同訓に早。

語義

  1. {形容詞}はやい(はやし)。すみやか(すみやかなり)。間がちぢまっている。テンポやスピードがはやい。すかさずに。急いで。《対語》⇒遅(のろい)・慢(マン)(間のびする)。《類義語》疾(シツ)・迅(ジン)・早。「急速」「迅速」「王、速出令=王、速やかに令を出だせ」〔孟子・梁下〕
  2. {動詞}まねく。せきたてる。さあさあと、さそいよせる。うながして来させる。《同義語》促(ソク)。「速禍=禍を速く」「不速之客=速かざるの客」〔易経・需〕
  3. 「速速」とは、せかせかとちぢまるさま。《類義語》蹙蹙(シュクシュク)。
  4. 《日本語での特別な意味》はやさ。「時速」。

字通

[形声]声符は束(そく)。〔説文〕二下に「疾(すみ)やかなり」とあり、重文として遬など二字を加える。金文に■(言+速)の字があり、人名に用いる。また〔叔家父簠(しゆくかほほ)〕に「以て諸兄を速(まね)く」、〔詩、小雅、伐木〕「以て諸父を速く」、〔詩、召南、行露〕「何を以てか我を獄に速く」など、祭事や獄訟に招く意に用いる。また〔大盂鼎(だいうてい)〕に「罰訟を敏(いそ)しみ敕(つつし)む」とあり、束声に束ねて緊束する意がある。

側(ソク・11画)

側 金文
無鼎・西周末期

初出:初出は西周末期の金文

字形:初出の字形は「亻」”ひと”二人が「鼎」”三本足の青銅器”を間に挟んでいる姿で、”すぐそば”の意。

音:カールグレン上古音はtʂi̯ək(入)。

用例:西周末期「無󰼬鼎」(集成2814)に「王…曰、官𤔲(司)穆王遉側虎臣,易(賜)女(汝)玄衣黹屯(純)」とあり、”側仕えの”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。則は「鼎(カナエ)の略形+刀」の会意文字で、食器の鼎のそばに食事用のナイフをくっつけたさま。則が接続詞や法則(ひっついて離れないおきて)の意に転用されたため、側の字がその原義をあらわすようになった。側は「人+(音符)則」で、そばにくっつければ一方にかたよることから、そば、かたよるの意をあらわす。類義語に傾。

語義

  1. {名詞}かたわら(かたはら)。物のそば。わき。「側室」「子食於有喪者之側=子喪有る者の側に食す」〔論語・述而〕
  2. {動詞}そばだてる(そばだつ)。そばめる(そばむ)。片方に寄せる。またかたむける。「側目=目を側む」。
  3. {動詞}そばだてる(そばだつ)。耳や盾など、ねているものをたてておこす。▽かたよせるの意から。「側其盾以撞=其の盾を側だてて以て撞く」〔史記・項羽〕
  4. {形容詞}正面からはずれて片すみにあるさま。かたよっているさま。《同義語》⇒仄。「側地(へんぴな所)」。
  5. {名詞}永字八法の一つ。⇒「永字八法」。
  6. 《日本語での特別な意味》がわ(がは)。あい対するものの一方。…のほう。

字通

[形声]声符は則(そく)。則は鼎側に銘刻を施すことをいう。〔説文〕八上に「旁(かたは)らなり」とあり、人に施して人の旁ら、また傾仄の状態をいう。

族(ソク・11画)

族 甲骨文 族 金文
合集31803/明公簋・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:〔方〕”はた”+〔矢〕。「矢」に”連なる”の語義が甲骨文からあり(合集10899反「矢隻(獲)」)、旗の下に集まる一族の意。

音:カールグレン上古音はdzʰuk(入)。「ゾク」は呉音。

用例:甲骨文に「王族」「子族」の語が見え、”うから”と解せる。西周・春秋の金文でも同義に用いた。

学研漢和大字典

会意。「はた+矢」で、旗の下に矢を集めて置いたさま。同じ物を集めてグループにまとめた意を含む。のち血族集団の意に専用された。蔟(ソウ)(集めた草、草むら)・簇(ゾク)(群がって生えた竹)・束(たばねる)・聚(シュウ)(集める)などと同系。叢(ソウ)(草むら)は、その語尾が鼻音に転じた語。類義語の群は、まるく固まった集団。類は、よく似た物の集まり。氏は、一貫した名(祖先の名)を持つ人々のグループ。叢(ソウ)は、長短のちがう多くの物の集まり。「簇」の代用字としても使う。「族生」。

語義

  1. {名詞}やから。同じ血族の人々のグループ。同じ姓の人々のグループ。みうち。のち、さらに範囲を広げて、同じ階層のグループ。「族人(同姓の人々)」「三族(父・母・妻の族。あるいは、父母・兄弟・妻子)」。
  2. {名詞}人間や動植物の同じ種類のグループ。「靺鞨族」「魚族」。
  3. (ゾクス){動詞・名詞}一族をみな殺しにする。また、その重い刑の名。「族滅」「毋妄言、族矣=妄言する毋かれ、族せられん」〔史記・項羽〕
  4. {名詞}何本もそろえた矢。また、矢のやじり。▽鏃(ゾク)や簇(ソウ)に当てた用法。
  5. {動詞}むらがる。▽簇に当てた用法。

字通

[会意]㫃(えん)+矢。㫃は氏族旗。矢は矢誓(しせい)、誓約に用いるもの。氏族旗のもとで誓約する族人をいう。〔説文〕七上に「矢鋒なり。之れを束ぬること族族たり」と鏃(やじり)を束ねる意で、族集のさまをいうとするが、鏃はのちの形声字で、族の初義ではない。族は矢誓の族盟に参加するもので、氏族軍、その構成者をいう。金文の〔毛公鼎〕に「乃(なんぢ)の族を以(ひき)ゐて、王の身を干吾(かんぎょ)(扞敔)せよ」とあり、軍を派遣するときには、〔明公𣪘(めいこうき)〕「唯(こ)れ王、明公に命じ、三族を遣はして東或(国)(とうごく)を伐たしむ」のようにいう。また族集の意となる。

塞(ソク/サイ・13画)

塞 甲骨文 塞 金文
甲骨文/塞公屈顙戈・春秋末期或戦国早期

初出:初出は甲骨文

字形:「宀」”屋根”+「工」”工具”二つ+「廾」”両手”で、両手で建物にかんぬきを掛けるさま。原義は”閉じる”。

音:「ソク」(入)の音で”ふさぐ”を意味し、「サイ」(去)の音で”とりで”を意味する。カールグレン上古音はsəɡ(去)またはsək(入)。

用例:初出の「甲骨文合集」29365は欠損が多くて判読できない。

春秋末期までの金文の用例は3例のみで、うち2例が判読でき、共に国名・人名と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文での語義は不明。金文では「息」として国名に(塞公孫[爿言]父匜・春秋早期)、戦国や漢代の竹簡・帛書では原義に用いた。

学研漢和大字典

会意兼形声。「宀(やね)+工印四つ+両手」の形が原形。両手でかわらや土を持ち、屋根の下の穴をふさぐことを示す会意文字。塞はそれを音符とし、土を加えた字で、すきまのないように、かわらや土をぴったりあわせつけること。即(そばにひっつく)・則(ぴったりとひっつく)などと同系。

語義

ソク(入)
  1. {動詞}ふさぐ。すきまを詰めて通れなくする。「厄塞(ヤクソク)(運勢がふさがって悪い)」「茅塞之矣=茅もてこれを塞がん」〔孟子・尽下〕
    ま{動詞}ふさがる。すきまなく満ちる。「充塞(ジュウソク)」「塞于天地之間=天地の間に塞がる」〔孟子・公上〕
  2. {名詞}中央アジアにいた民族の名。サカ族。
サイ(去)
  1. {名詞}とりで。通路をふさいで、守りを固めるための小規模の出城。《同義語》⇒砦。「要塞(ヨウサイ)」。
  2. {名詞}地形の険しい要害の地。
  3. {名詞}中国北方をふさぐ万里の長城のこと。▽長城付近を塞上(サイジョウ)・塞下(サイカ)といい、長城の外を塞外(サイガイ)という。「近塞之人、死者十九=塞に近きの人、死する者十に九なり」〔淮南子・人間〕

字通

[会意]正字は𡫳(そく)+土。𡫳は塞の初文。建物などの入口を、呪具の工を重ねて填塞し、邪霊などをそこに封じこめる意。土は土主(土地神)。道路や辺境の要地に塞を設けて土神を祀り、異族神や邪霊の通行を禁ずる呪禁とした。〔説文〕十三下に「隔つるなり」とあり、また〔文選、西京の賦、注〕に引く〔説文〕に「隔は塞ぐなり」とあって互訓。隔は神域を示す𨸏(ふ)(神梯の象)に鬲(れき)(壺の類)を埋めて、聖俗の境を示し、隔離する意。塞をまた、とりでの意に用いるのは、軍事的な施設に転用したものである。わが国の「塞(さえ)の神」が、古い用法である。

賊(ソク・13画)

賊 金文
散氏盤・西周末期

初出:初出は西周末期の金文

字形:音符「則」”食器とカトラリー”+「戈」”カマ状のほこ”。傷付けること。

音:カールグレン上古音はdzʰək(入)。去声は音不明。藤堂上古音はdzək(入)。「ゾク」は呉音。

用例:西周末期「散氏盤」(集成10176)に「實余有散氏心賊」とあり、”害を与える”と解せる。

学研漢和大字典

会意。戎は「戈(ほこ)+甲(かぶと)」の会意文字で、ほこや、かぶとでおどしつけること。賊は「貝+戎」で、凶器で傷つけて財貨をとることをあらわす。

語義

  1. (ゾクス){動詞}そこなう(そこなふ)。傷つける。害を与える。無法なことをする。《類義語》害。「賊害」「賊夫人之子=かの人の子を賊はん」〔論語・先進〕
  2. {動詞・名詞}ぬすむ。傷つけて奪いとる。強盗。「盗賊」。
  3. {名詞}国家に反逆する者。また、社会の秩序や倫理を乱す者。「賊徒」「逆賊」。
  4. {名詞}攻めて来る外敵。「寇賊(コウゾク)」。

字通

[会意]正字はもと鼎(てい)に従い、鼎+戎(じゅう)。金文にはその字形に作る。鼎銘を戈(か)で刊(けず)りとり、其の鼎銘を無効とする行為をいう。〔説文〕十二下に「敗るなり。戈に從ひ、則(そく)聲」とする。則はもと𠟭に作り、鼎の銘刻をいう。もしその声をとるならば、𠟭の省声というべきである。金文の〔散氏盤〕に「余に、散氏を心に賊とすること有らば、則ち爰(鍰(くわん)、罰金)千、罰千ならん」という盟約の辞があり、そのような盟約にそむき、これを廃棄することを賊という。盜も血盟の盤中に㳄(ぜん)(よだれ)を加えて汚し、その盟約をけがし、盟約から離脱する行為を示す字。盗賊とはただ財宝を掠めとる小盗の類ではなく、盟誓に違背する反逆的行為をいう。

粟(ゾク・12画)

→論語語釈「粟」

卒(ソツ・8画)

卒 金文
多友鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsi̯wət(入)。同音は以下の通り。

初出 声調 備考
シュツ・ジュチ 高くけはしい 説文解字
ソツ・ソチ しもべ 甲骨文

学研漢和大字典

会意。「衣+十」で、はっぴのような上着を着て、十人ごと一隊になって引率される雑兵や小者をあらわす。小さいものという意を含む。「にわか」の意は猝(ソツ)に当てたもの。また、小さくまとめて引き締める意から、最後に締めくくる意となり、「おわり」の意を派生した。碎(=砕。小さくくだいた石)また、引率の率(引き締めてまとめる)と同系。「にわかである」の意味では「率」とも書く。

※”にわかである”の但し書きは、『論語』先進篇25で漢帝国の儒者がやらかした、古くさく見せるためのでっち上げに、つじつまを付けるための記述。

語義

ソツ(入)
  1. {名詞}十ぱひとからげの雑兵(ゾウヒョウ)や人夫。小者たち。「従卒」「料度諸侯之卒=諸侯の卒を料度す」〔史記・蘇秦〕
  2. {形容詞・副詞}にわかに(にはかに)。急なさま。突然に。《同義語》⇒猝。▽この場合の現代音はcù。「卒然」「卒中(急にのぼせて中風になる)」「卒起不意、尽失其度=卒かに起こり不意なり、尽く其の度を失ふ」〔史記・荊軻〕
シュツ(入)
  1. {動詞}おわる(をはる)。おえる(をふ)。締めくくる。「卒業」。
  2. {名詞}おわり(をはり)。締めくくり。「有始有卒者、其惟聖人乎=始め有り卒り有る者は、其れ惟だ聖人か」〔論語・子張〕
  3. (シュッス){動詞}身分の高い人が死ぬ。▽直接「死」といわず「(年を)卒(オ)えた」と表現した忌みことば。「古公卒、季歴立=古公卒し、季歴立つ」〔史記・周〕
  4. {副詞}ついに(つひに)。→語法
  5. 《日本語での特別な意味》「卒業」の略。「大卒」「卒論」。

字通

[象形]衣の襟(えり)をかさねて、結びとめた形。死者の卒衣をいう。死没するとき、死者の衣の襟もとを重ね合わせて結び、死者の霊が迷い出るのを防ぐのである。〔説文〕八上に「人に隷して事を給する者の衣を卒と爲す。卒衣とは題識有る者なり」という。受刑者などが服役するときの、法被(はつぴ)のような仕事服と解するものであるが、卒の原義は死卒、死喪のときの儀礼を示すものであるから、終卒また急卒の意に用いる。

存(ソン・6画)

存 秦系戦国文字
睡虎地簡・戦国末期

初出:初出は戦国中末期の楚系戦国文字。ただし字形は「廌」または「才」。「小学堂」による初出は秦系戦国文字

字形:「方」”旗”の略体+「子」で、地位を示す標識を掲げた人の姿。

音:カールグレン上古音はdzʰwən(平)。「ゾン」は呉音。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」置吏161に「官嗇夫節(即)不存」とあり、”所持している”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。上古音の同音に語義を共有する漢字は無い。

学研漢和大字典

会意。「在の字の左上部+子」で、残された孤児をいたわり落ち着ける意をあらわす。もと、存問(いたわり問う)の存の意。のち、たいせつにとどめおく意となる。尊(ソン)(すわりのよい酒つぼ)・蹲(ソン)(じっとうずくまる)などと同系。

語義

  1. (ソンス){動詞}ある(あり)。…にある。…にいる。《対語》⇒亡。《類義語》在。「存在」「猶有存者=なほ存する者有り」〔孟子・公上〕
  2. (ソンス){動詞}たもつ。じっととどめておく。たいせつにとっておく。《対語》亡。「竜蛇之蟄以存身也=竜蛇の蟄するは以て身を存するなり」〔易経・壓辞下〕
  3. (ソンス){動詞}この世に生きている。《対語》歿(ボツ)。死。「吾以捕蛇独存=吾蛇を捕らふるを以て独り存す」〔柳宗元・捕蛇者説〕
  4. (ソンス){動詞}なだめて落ち着ける。状況をいたわり尋ねる。「存問」「存恤(ソンジュツ)」。
  5. {動詞}《俗語》金品を保管してもらうため預ける。「存款(預金)」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①「存ず」とは、知っている。心得ている。「ご存じない」。
    ②思う。考える。「存外」。

字通

[会意]才(さい)+子。才は榜示の木。木に祝禱の器である𠙵(さい)をつけた形は才。在の初文で、神がここに在り、その占有支配する意を示す。その聖化の儀礼によって、生存が保障されることを存という。〔説文〕十四下に「恤(うれ)ひ問ふなり」とあり、才声とするが声が合わず、〔段注〕に在の省文に従うとする。才は在の初文である。在は才と士に従い、士は鉞頭の象。才にさらに聖器の鉞(まさかり)を加えた形で、存在はほとんど同義に用いる。

孫(ソン・10画)

孫 甲骨文 孫 金文
甲骨文/魯大𤔲徒子仲伯匜・春秋早期

初出:初出は甲骨文

字形:「子」+「幺」”糸束”とされ、後漢の『説文解字』以降は、”糸のように連綿と続く子孫のさま”と解する。ただし甲骨文は「子」”王子”+「𠂤タイ」”兵糧袋”で、戦時に補給部隊を率いる若年の王族を意味する可能性がある。

音:カールグレン上古音はswən(平)。論語語釈「遜」を参照。

用例:甲骨文の例は四例しか無く、断片的で解読が困難。

「甲骨文合集」10554「□多子□孫田」/30527.1「□孫□」/31217「□卜□孫□受祐」/「懷特氏等所藏甲骨」434.2「壬午卜□余勿在孫□」

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名に、金文では原義のほか人名に用いた。

学研漢和大字典

会意。「子+糸(小さく細い糸)」で、小さい子どもを示す。のち、右側に系をそえるが、系もまた、つないだ糸のこと。子の系統をひくいちだんと小さい子すなわち、まごのこと。遜(ソン)(小さくなって遠慮する)・損(小さくへらす)などと同系。

語義

  1. {名詞}まご。子の子。▽子‐孫‐曾孫(ソウソン)‐玄孫‐来孫‐昆孫(コンソン)‐仍孫(ジョウソン)‐雲孫の順にいう。「乳下孫(まだ乳を飲んでいる幼いまご)」「雖孝子慈孫、百世不能改也=孝子慈孫と雖も、百世改むること能はざるなり」〔孟子・離上〕
  2. {名詞}祖先の血筋を引く者。「荀卿十一世孫也=荀卿十一世の孫也」〔後漢書・荀淑〕
  3. {名詞}切り株から再生した植物。「稲孫(トウソン)(稲のひこばえ)」。
  4. (ソンナリ){動詞・形容詞}控え目にうしろにさがる。のがれる。へりくだるさま。▽遜(ソン)に当てた用法。去声に読む。「奢則不孫=奢なれば則ち孫ならず」〔論語・述而〕

字通

[会意]子+系(けい)。系はおそらく呪飾として加える糸飾り。祖祭のとき、尸(かたしろ)となる子に加えたものであろう。〔説文〕十二下に「子の子を孫と曰ふ。子に從ひ、系に從ふ。系は續なり」と系続の意とする。卜文・金文の字形は、子の頭部に糸飾りをつけている形である。〔礼記、祭統〕に「夫(そ)れ祭の道、孫は王父(祖)の尸と爲る」、また〔礼記、曲礼上〕「禮に曰く、君子は孫を抱きて、子を抱かず」とあり、孫が尸となる定めであった。

巽(ソン・12画)

選 金文 巽 晋系戦国文字
九年衛鼎・西周中期/璽彙3023・戦国晋

初出:初出は西周中期の金文。ただし「選」と釈文されている。「巽」単独での初出は戦国早期の金文

字形:「㔾」”跪いた人”×2人+「止」”止まる”。大勢の人から望む者を選び抜くさま。

音:カールグレン上古音はswən(去)。

用例:西周早期「九年衛鼎」(集成2831)に「巽皮二」とあり、”選び抜いた”と解せる。

戦国の金文では、音階の一つに用いられた。

学研漢和大字典

会意文字で、原字は「人二人+台を示すしるし」で、物をきちんとそろえて台上に供えるさま。饌(セン)の原字。一般には、遜(ソン)に当て、柔軟にへりくだる意に用いる、という。

語義

  1. {名詞}周易の八卦(ハッカ)の一つ。陦の形であらわし、表面が強いのに中の柔順な意を含み、風に当てる。また、六十四卦の一つ。陦陦(巽下巽上(ソンカソンショウ))の形で、柔順なさまを示す。
  2. {名詞}たつみ。南東の方角。
  3. {動詞}へりくだる。小さくなって遠慮する。《同義語》⇒遜。「巽与(ソンヨ)」。
  4. {動詞}食事をそろえて供える。《同義語》⇒饌(セン)。

字通

外字 ソンソン。丌は神殿の前の舞台。外字 ソンは二人並んで舞楽する形。並んで舞楽し、その舞楽を以て神に献ずる意で、撰の初文。〔説文〕五上に「そなはるなり」とし、外字 ソン声とする。外字 ソンについては〔説文〕九上に「二せつなり。巽は此れに従ふ。闕」とし、その形義について説くところがない。丌上に二人舞楽して供するので、そのことを撰、舞人を僎、舞容を選選(選選)、膳羞を供えることを饌という。〔易、巽〕にみえるそん順*は、字の本義ではなく、そん(ゆずる)と通仮してその義を用いるものであろう。

訓義:そなえる、神前にそなえる、神前に舞楽する。ふむ、ちらす。遜と通じ、したがう、つつしむ、うやうやしい。八卦の一。方位において、たつみ(東南)にあたる。

*易のソンの形(☴)。含意は風。天と雲の下にあって流動する。方角南東たつみ。性入る。

尊(ソン・12画)

尊 金文
楚季哶盤・春秋

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtswən(平)。同音は下記の通り。

 

初出 声調 備考
ソン 甲骨文
材木の盛んなさま・樽 前漢隷書
女のこしおび 説文解字
おさへる 不明
あつまって語る 説文解字
あつまる 説文解字
シュン 火でやく 説文解字
ソン 押す 説文解字

漢語多功能字庫

甲金文從「」從「」(象兩手形),甲骨文或作一「」,字象雙手捧奉酒樽之形。本義是放置。


甲骨文・金文は「酉」と「廾」(両手)の字形に属し、甲骨文はあるいは「又」の字形を含む。この字は両手で酒樽を捧げ持つさまを示し、原義は据え付ける、安置すること。

学研漢和大字典

会意。「酒どっくりの形+手」で、すらりと形のよい礼式用の酒器。形よく上品で安定している意から、たっといの意に用いる。竣(シュン)(すらりとたつ)と同系。類義語の貴は、高く大きく抜き出たことから、身分や値の高いこと。異字同訓にたっとい・とうとい 尊い「尊い神。尊い犠牲を払う」 貴い「貴い資料。貴い体験」。

語義

  1. {形容詞}たっとい(たっとし)。とうとい(たふとし)。ねうちや地位が高い。たっているものが、すっくとしかも落ち着いている。《対語》⇒卑(ヒ)。《類義語》貴。
  2. {動詞}たっとぶ。とうとぶ(たふとぶ)。人や物を大事にして敬う。「尊重」「夫礼者、自卑而尊人=それ礼は、自ら卑しみ人を尊ぶ」〔礼記・曲礼上〕
  3. {形容詞}相手を尊敬する意をあらわすことば。「尊名」「尊駕(ソンガ)(おでまし)」「令尊(他人の父の敬称)」。
  4. {名詞}酒を盛る容器。▽すらりとたって、すわりがよく、祖先の祭祀(サイシ)に用いることが多い。「酒尊」。
  5. {名詞}たる。酒だる。酒つぼ。《同義語》樽。
  6. {単位詞}安置する像を数えることば。
  7. 《日本語での特別な意味》みこと。神や皇族を尊敬して、その名につけた呼び名。「日本武尊(ヤマトタケルノミコト)」。

字通

[会意]正字は𢍜に作り、酋(ゆう)+廾(きよう)。酋は酒気が酒器の上にあらわれている形。上部の八は酒気の発する意。金文の字形は𢍜・■(阝+𢍜)に作り、酒器を両手で捧げ、これを神前におく形。〔説文〕十四下に「酒器なり。酋に從ふ。廾は以て之れを奉ず」という。尊は𢍜を略して、一手(寸)に従う形。字を尊卑の意に用いるのは、尊爵を賜うことによって、位階の次第が定められたからである。

遜(ソン・13画)

遜 金文
師𩛥鼎・西周中期

初出:初出は西周中期の金文。ただし字形は〔王孫〕。現行字体の確実な初出は後漢の『説文解字』

字形:初出の字形の由来は不明。現行字体は〔辶〕”みち”+「孫」swən(平)”年少者”で、年長者に道を譲るさま。部品の「孫」は「子」+「幺」”いとたば”とされ、後漢の『説文解字』以降は、”糸のように連綿と続く子孫のさま”と解する。論語語釈「孫」を参照。

音:カールグレン上古音はswən(去)。

用例:西周中期「師𩛥鼎」(集成2830)に王の臣下に対する発言として「用乃孔德〔王孫〕屯」とあり、”譲る”と解せる。「孔徳」とは”大いなる能力”、「屯」とは”従う”こと。

学研漢和大字典

会意兼形声。孫(ソン)は「子+系(細い糸)」の会意文字で、細く小さい子ども(まご)をあらわす。遜は「辵(足の動作)+(音符)孫」で、細く小さくなって退くこと。損(ソン)(小さくなる)・巽(ソン)(へりくだる)・寸(スン)(小さい幅)などと同系。「へりくだる」は「謙る」とも書く。

語義

  1. {動詞・形容詞}へりくだる。小さくなってあとへさがる。一歩さがる。相手を敬って自分を卑下する。ひかえめな。転じて、少しだけ劣る。「謙遜(ケンソン)」「不遜(フソン)(えらそうなさま)」「遜色(ソンショク)」。
  2. {動詞}ゆずる(ゆづる)。自分があとへひく。「遜譲(ソンジョウ)」「遜位=位を遜る」「皇帝遜位魏=皇帝位を魏に遜る」〔後漢書・献帝〕
  3. {動詞}のがれる(のがる)。しりぞいてのがれる。「遜辞」「吾家耄遜于荒=吾が家の耄は荒に遜る」〔書経・微子〕

字通

[形声]声符は孫(そん)。〔説文〕二下に「遁(のが)るるなり」とあり、〔爾雅、釈言〕に「遯(のが)るるなり」とみえる。古くは遜逃の意に孫を用い、〔春秋経、荘元年〕「夫人、齊に孫(のが)る」のようにいう。遜逃の意より、遜順の意となった。

損(ソン・13画)

損 隷書
老子乙前26上・前漢隷書

初出:初出は戦国中期の竹簡(新蔡葛陵楚簡・乙二3.4)。ただし字形は「𢿃」。現行字体の初出は前漢の隷書

字形:「扌」”手”+音符「員」gi̯wən(平)で、全体で手ずから減らすさま。原義は”減らす”。

音:カールグレン上古音はswən(上)。同音に「飧」”晩飯・茶漬け”、「巽」”たつみ”、「孫」とそれを部品とする漢字群。

用例:戦国中末期の「郭店楚簡」老子乙3に「〔為〕學者日嗌(益),為道者日員(損),員(損)之或(又)員(損),以至亡(無)為」とあり、”減る”・”減らす”と解せる。現伝『老子道徳経』は「為學日益,為道日損。損之又損,以至於無為。」(48)と記す。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。訓そこなう・へる音ソンの文字は他に無く、部品の「員」には”ふやす”訓はあっても”へらす”訓は無い。ただし「損」と「孫」は同音であり、「孫」は戦国の竹簡から「遜」”譲る”を意味した。

備考:「漢語多功能字庫」には、見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意文字で、員(ウン)は、口のまるくあいた鼎(テイ)(かなえ)の姿。損(ソン)は「手+員」で、まるい穴をあけて、くぼめること。穴をあけるのは減らすことであり、くぼめて減らす、の意を持つ。遜(ソン)(後ろに下がる、小さくなる)などと同系のことば。

語義

  1. (ソンズ){動詞}そこなう(そこなふ)。一部分を穴をあけたりこわしたりする。また、勢力を小さくする。くぼませる。「破損」「損害」「損兵=兵を損なふ」。
  2. (ソンズ){動詞}減らす。また、減る。《対語》⇒益(増す)。「減損」「損上益下=上を損じて下を益す」「所損益可知也=損益する所知るべきなり」〔論語・為政〕
  3. (ソンズ){動詞}へりくだる。また、うしろに下がる。《類義語》遜(ソン)。「抑損(へりくだる)」。
  4. {名詞}利益を失うこと。不利益。《対語》得(もうけ)。「損得」。
  5. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。(兌下艮上(ダカゴンショウ))の形で、下のものが減少するさまを示す。
  6. 《日本語での特別な意味》そこなう(そこなふ)。そんずる(そんず)。つ失敗する。「し損ずる」づチャンスを失ってやるべきことをやらないでしまう。「行き損なう」。

字通

[会意]手+員(えん)。〔説文〕十二上に「減るなり」と減損の意とし、員声の字とするが、声が異なる。孔門の閔損は字(あざな)は子騫(しけん)。騫は蹇足(けんそく)。員はもと圓(円)の初文で円鼎の意であるから、損とはその鼎足などを損する意であろう。それより増損・損益の意となった。

論語語釈
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