論語語釈「シ」(2)

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且(シャ/ショ・5画)

論語 且 金文
師𠭰簋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsi̯o(平)またはtsʰi̯ɔ(上)。

学研漢和大字典

象形。物を積み重ねたさまを描いたもので、物を積み重ねること。転じて、かさねての意の接続詞となる。また、物の上に仮にちょっとのせたものの意から、とりあえず、まにあわせの意にも転じた。俎(ソ)(肉を重ねて置いたまないた)・祖(ソ)(世代の重なり)・阻(ソ)(石を重ねて行く手をはばむ)・組(ソ)(糸をくみ重ねる)・助(ジョ)(力を重ねてそえる)などと同系。

語義

シャ(上/去)
  1. {接続詞}かつ。→語法「②」。
  2. {助辞}かつは。→語法「④」。
  3. {助辞}…すらかつ。→語法「③」。
  4. {副詞}しばらく。まあまあという気持ちを示すことば。とりあえず。「姑且(コショ)(しばらく)」→語法「⑤」。
  5. {形容詞}かりそめであること。「苟且(コウショ)・(コウシャ)」。
  6. {助動詞}まさに…せんとす。→語法「①」。
ショ(平)
  1. {助辞}詩句で、語調を整える助辞。「其楽只且=其れ楽しまんかな只且」〔詩経・王風・君子陽陽〕

字通

[象形]俎(そ)の初形。まないた。俎は且上にもののある形。〔説文〕十四上に「薦(すす)むるなり」とあり、几(き)(机)の形であるとする。且は卜文に祖の意に用いる。且に物をのせ薦めて、祀る意であろう。金文に祖考を「■(且+又)考」に作り、且を奉ずる形に作る。郭沫若は且を男根の象と解するが、奇僻にすぎる。祖廟にソン 外字宜(そんぎ)するを宜といい、宜もまた且に従う。

社/社(シャ・7画)

論語 社 金文
『字通』所収金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ɔ(上)、藤堂上古音はdhiǎg。

学研漢和大字典

会意兼形声。土(ド)・(ト)は、地上につちを盛った姿。また、その土地の代表的な木を、土地のかたしろとしてたてたさま。鏈は「示(祭壇)+(音符)土」で、土地の生産力をまつる土地神の祭り。地中に充実した物を外にはき出す土の生産力をあがめること。吐(はき出す)・奢(シャ)(充実した力を盛大に外に出す)と同系。旧字「社」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}もと、土の生産力をまつった土地の神。土地をまつった所。今の中国の土地廟(トチビョウ)の原形。▽君主は領内の五色の土で壇を築き、社壇と呼んだ。「社稷(シャショク)(土地の神と穀物の神。あわせて国の守り神)」「諸侯為百姓立社、曰国社=諸侯百姓の為に社を立つるを、国社と曰ふ」〔礼記・祭法〕
  2. {名詞}その地の代表的な木を、土地神のかたしろとしたもの。▽のち、その土地にゆかりのある豪族や将軍をまつる。「社主」「哀公問社於宰我=哀公社を宰我に問ふ」〔論語・八飲〕
  3. {名詞}土地の氏神を中心に集まった組合。昔は二十五戸を一つの単位とした。
  4. {名詞}同志の集まった団体や組合。「詩社」「結社」。
  5. {名詞}公社や人民公社などの団体。「社員」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①やしろ。神社。「社務所」。
    ②しゃ。「会社」の略。「本社」。
    ③こそ。助詞の「こそ」。

字通

[形声]声符は土(ど)。土は社の初文。卜文・金文の字形は土主の形。それに酒などを灌(そそ)ぐ形に作るものがある。〔説文〕一上に「地主なり」とあり、産土神(うぶすながみ)をいう。山川叢林の地はすべて神の住むところで、そこに社樹を植えて祀った。また〔周礼、地官、大司徒〕に「其の社稷(しやしよく)の壝(ゐ)(社壇とその封界)を設けて、之れが田主を樹う。各〻其の野の宜しき所の木を以てす。遂に以て其の社と其の野とに名づく」とあり、いわゆる封建の礼をいう。亡国の社には、これに屋を加える。各地に土主があり、その地で儀礼を行うときは、まずその土主に酒などを灌いで祀る。これを興(きよう)という。〔礼記、楽記〕に「上下の灌に降興す」とは、上神には降、下神には興の礼をする意。また〔周礼、地官、舞師〕に「小祭祀には興舞せず」とあり、重要な祭祀のときには地霊に興舞したことが知られる。社の古い形態はモンゴルのオボに似ており、社主の下部を盛り土で堅めた。そこに野鼠が棲むので、君側の奸を社鼠という。水や火を以て攻めがたいからである。

車(シャ・7画)

車 金文
奚季蒐車匜・春秋早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯oまたはȶʰi̯ɔ(共に平)。現代中国語を習うとき、真っ先に苦労する字でもある。

学研漢和大字典

象形。車輪を軸どめでとめた二輪車を描いたもので、その上に尻(シリ)をすえて乗る、または乗せるものの意。もと、居(キョ)と同系。キョ(魚韻)の音に読むことがあるのは、上古音の残ったもの。類義語の輪は、きちんと車輻(シャフク)を、並べてくみたてたくるま。付表では、「山車」を「だし」と読む。

語義

シャ(平)
  1. {名詞}くるま。人や物を乗せて陸上を運ぶ物。車輪を軸で受け、その上に台(輿(ヨ))をのせる。人力または馬や牛にひかせた。「牛車」「車服」「車中不内顧=車中にては内顧せず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}くるま。一つの軸を中心にして回転する輪。また、輪の形をした物。「水車」「紡車(糸とりぐるま)」。

キョ/コ(平)

  1. {名詞}象棋のこまの一つ。香車(キョウシャ)のこと。
  2. 《日本語での特別な意味》くるま。かつては、人力車のこと。今では、自動車、とくに、乗用車やタクシーのこと。

字通

[象形]車の形に象る。籀文(ちゆうぶん)の字形には、轅(ながえ)を加えている。〔説文〕十四上に「輿輪(よりん)の總名なり」とあり、車の全体をいう。殷墟をはじめ古代の墳墓から車馬坑の類が多く出土しており、古代の車制を知ることができる。

者/者(シャ・8画)

論語 者 金文 論語 者 解字
『字通』所収金文

初出は殷代末期の金文。カールグレン上古音はȶi̯ɔ(上)。

学研漢和大字典

象形。者(=者)は、柴(シバ)がこんろの上で燃えているさまを描いたもので、煮(=煮。火力を集中してにる)の原字。ただし、古くから「これ」を意味する近称指示詞に当てて用いられ、諸(=諸。これ)と同系のことばをあらわす。ひいては直前の語や句を、「…するそれ」ともう一度指示して浮き出させる助詞となった。また、転じて「…するそのもの」の意となる。唐・宋(ソウ)代には「者箇(これ)」をまた「遮箇」「適箇」とも書き、近世には適の草書を誤って「這箇」と書くようになった。

旧字「者」は人名漢字として使える。▽付表では、「猛者」を「もさ」と読む。▽草書体をひらがな「は」として使うこともある。

意味

  1. {名詞}もの。こと。…するその人。…であるそのもの。…であるその人。…すること。「使者(使いする人)」→語法「①」。
  2. {助辞}上の文句を「それは」と、特に提示することば。…は。…とは。▽「説文解字」では「者、別事詞也=者とは、事を別つ詞なり」という。→語法「②」。
  3. {助辞}時間名詞や疑問詞を特に強調することば。→語法「⑤⑥」。
  4. 「者箇(シャコ)」とは、「これ」という意。▽唐代末期から宋(ソウ)・元(ゲン)代にかけての口語で、今の北京語の「這箇(これ)」の原形。《同義語》⇒遮箇・適箇。
  5. {助辞}《俗語》文末につけて命令の語気をあらわすことば。▽明(ミン)・清(シン)代のころの俗語。「快去者(はやくいけよ)」。

語法

①(1)「~するもの」とよみ、「~であるもの」と訳す。▽「者」は「所」と同じく、用言を体言化して、主語・述語・目的語となる。「者」は、行為の主体を示し、「所」は、行為の対象を示す違いがある。「菊花之隠逸者也=菊は花の隠逸なる者なり」〈菊は、花における隠逸者(のように気高いもの)である〉〔周敦頤・愛蓮説〕
(2)「~する(なる)こと」とよみ、「~すること」と訳す。「范増数目項王、挙所佩玉凡、以示之者三=范増項王に数目し、佩(お)ぶる所の玉凡(ぎょっけつ)を挙げて、もってこれに示すこと三たび」〈范増はしばしば項王に目配せし、腰に帯びていた玉の凡を持ち上げて、決断の合図を送ること三度であった〉〔史記・項羽〕
②(1)「~(もの)は」「~とは」とよみ、「~は」「~とは」と訳す。主語を明示して強調する意を示す。「政者正也」〈政(政治)とは正(正義)です〉〔論語・顔淵〕
(2)「也者」は、「なるものは」「というものは」とよむ。「孝弟也者、其為仁之本与=孝弟なる者は、それ仁を為(おこ)なふの本か」〈孝と弟(悌)ということこそ、仁徳の根本であろう〉〔論語・学而〕
③「~ば」とよみ、「もし~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「文帝嘗令東阿王七歩中作詩、不成者行大法=文帝嘗(かつ)て東阿王をして七歩の中に詩を作ら令め、成らざれば大法を行はんとす」〈文帝はあるとき東阿王に、七歩歩くあいだに詩を作れ、できなければ極刑に処するぞ(と言った)〉〔世説新語・文学〕
④「不者」は、「しからずんば」とよみ、「~でないと」と訳す。前節とは逆の条件を提示する意を示す。「不者、若属皆且為所虜=不(しから)ずんば者、若(なんぢ)が属皆且(まさ)に虜にせられんと」〈そう(=殺す)でなければ、お前たちはみな、沛公に捕虜にされてしまう〉〔史記・項羽〕
⑤「何者」は、「なんとなれ(ら)ば」とよみ、「どうゆうわけかといえば」と訳す。疑問詞「何」を強調し、理由を問う意を示す。「何者、功多秦不能尽封、因以法誅之=何となれば、功多きは秦尽く封ずること能はず、因(よ)りて法をもってこれを誅するなり」〈なぜかと言えば、功績が大きすぎて、とてもそのすべてに対して褒美の土地を与えきれないから、そこで法にかこつけて殺した〉〔史記・項羽〕
⑥「今者=いま」「近者=ちかごろ」「昔者=むかし」「古者=いにしえ」「昨者=きのう」「頃者=このごろ」「比者=このごろ」「間者=このごろ・ちかごろ」「向者=さきに」「先者=さきに」「日者=さきに」「嚮者=さきに」など、時間をあらわす語を強調する。「今者有小人之言、令将軍与臣有郤=今者(いま)小人の言有り、将軍をして臣と郤(げき)有ら令む」〈今、卑劣な奴が口を出し、将軍と私(劉邦)の間を割こうといたしました〉〔史記・項羽〕。「古者民有三疾=古者(いにしへ)は民に三疾有り」〈昔は人民に三つの疾病というのがあった〉〔論語・陽貨〕。「比者海内大乱、社稷将傾=比者(このごろ)海内大いに乱れ、社稷(しゃしょく)将に傾かんとす」〈ちかごろ、国内は大きく乱れ、国家は今にも傾こうとしています〉〔魏志・涼茂〕

字通

叉枝さしの形+えつ。上部は叉枝を重ね、それに土を示す小点を加えた形。曰は祝禱を収めた器。者はの初文。住居地の周囲にめぐらしたお土居に、呪祝としての書を埋め、外からの邪霊を遮蔽する意。字の全体を象形とみてもよい。堵中に埋めた呪祝の字を書という。書は者にいつ(筆)を加えた形。城邑にめぐらすものを堵といい、城壁の方丈の単位を堵という。〔説文〕は字を白部四上に属し、「事を別つの詞なり」とするが、それはものを特定して指す意で仮借の義。また、金文ので字形は𠙵さいまたは曰に従う形で、その系統の字である。

訓義

(1)堵の初文。お土居、お土居に埋めかくした呪祝、かくす、遮と通じる。(2)ものを特定していう、もの、人にも事物にもいう。(3)ある状態を特定していう。~は、~のときは、~ならば。(4)這と通じ、この。(5)終助詞として、諸と通じる。

大漢和辞典

者 大漢和辞典
者 大漢和辞典

舍(シャ・8画)

論語 舍 金文
夨令方尊・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯ɔ(上/去)。原義は”家屋”だが、論語では全て”顧みない・置く”の語義で用いられる。現行の「捨」の初出は後漢の説文解字で、それまでは「舎」が”すてる”の語義を兼任した。

学研漢和大字典

会意兼形声。余の原字は、土を伸ばすスコップのさま。舍は「口(ある場所)+(音符)余」で、手足を伸ばす場所。つまり、休み所や宿舎のこと。捨(つかんだ指を伸ばす→はなしてそのままにしておく)・赦(シャ)(ゆるめてはなす)・舒(ジョ)(のばす)・射(シャ)(張った矢をはなす)などと同系。類義語に家。付表では、「田舎」を「いなか」と読む。

語義

  1. {名詞}やど。いえ(いへ)。手足をのばしてくつろぐいえ。ひと休みするやど。「宿舎」「其舎近墓=其の舎墓に近し」〔列女伝・鄒孟軻母〕
  2. (シャス){動詞}やどる。やどす。からだをのばしてくつろぐ。やどをとって休む。いえをかまえて住む。「出舎於郊=出でて郊に舎る」〔孟子・梁下〕。「乃去舎市傍=乃ち去りて市の傍に舎す」〔列女伝・鄒孟軻母〕
  3. {動詞}おく。すてる(すつ)。手をゆるめてはなしおく。また、すておく。はなす。▽上声に読む。《同義語》⇒捨。「舎箸=箸を舎く」「舎而不問=舎きて問はず」「山川其舎諸=山川其れこれを舎てんや」〔論語・雍也〕
  4. {動詞}ゆるしてはなす。▽上声に読む。《同義語》⇒赦。「饒舎(ジョウシャ)(ゆるして放免する)」。
  5. {動詞}持っていた物をはなして人にやる。▽上声に読む。「施舎」。
  6. {動詞}そなえ物をならべておく。▽釈(セキ)に当てた用法。「舎奠(セキテン)(=釈奠)」「舎采(セキサイ)(=釈采)」。
  7. {単位詞}軍隊の行軍の距離をあらわすことば。一舎は、周代、三十里。約一二キロメートル。▽昔の軍隊が大休止(舎)するまでの行程を基準とした。「退辟三舎=退辟すること三舎」。
  8. {形容詞}自分の身うちや自分が所有するものを謙そんしていうことば。▽自分のうちの、の意。「舎弟(わたしの弟)」。

字通

[会意]論語 外字 舎+口。論語 外字 舎は把手のある掘鑿(くつさく)刀。これで木や土を除くことを余という。口は祝詞を収める器の𠙵(さい)。この器を長い針で突き通すことによって、その祝禱の機能を失わせることをいう。ゆえに「すてる」が字の原義で、捨の初文。それより、ことを中止し、留め滞る意となる。〔説文〕五下に「市居を舍と曰ふ」とし、字形を宿舎の建物の形と亼(しゆう)(集)に従う会意の字とするが、宿舎の意は後起の義。金文の〔令彝(れいい)〕「三事の命を舍(お)く」、〔小克鼎〕「命を成周に舍く」のように、命を発する意に用い、また〔舀鼎(こつてい)〕「矢五束を舍(あた)ふ」のように用いる。

射(シャ・10画)

論語 射 金文
令鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はi̯ăɡ(去)またはdi̯ăk(入)またはi̯ăɡ(入)。去声で禡-以の音は不明。

学研漢和大字典

会意文字で、原字は、弓に矢をつがえている姿。のち寸(て)を添えたものとなる。張った弓の弦を放して、緊張を解くこと。赦(シャ)(ゆるめる)・捨(ゆるめて放す)と同系のことば。

意味〔一〕シャ/ジャ

  1. ぽ{動詞}いる。弓を張って矢をいる。「射雉=雉を射る」「弋射(ヨクシャ)(いぐるみ)」「弋不射宿=弋するには宿を射ず」〔論語・述而〕
  2. {名詞}弓をいる術。弓術。▽古代には礼・楽・射・御(乗馬)・書・数を「六芸(リクゲイ)」といい、男子の教養の主要課目であった。「射有似乎君子=射は君子に似たること有り」〔中庸〕
  3. {動詞}あてる(あつ)。ねらって的にあてる。また一点めざして光や弾をあてる。▽もとセキ(漢音)と読み、上古dhiak→中古ʒɪɛkの音であったが、今はシャと読むことが多い。「照射(ショウシャ)」「射利(シャリ)(もうけをねらう)」「射倖心(シャコウシン)(=射幸心。まぐれをねらう心)」。

意味〔二〕ヤ

  1. 「僕射(ボクヤ)」とは、秦(シン)代以後の官名。左僕射・右僕射があった。▽唐・宋(ソウ)代は、宰相のこと。

意味〔三〕エキ/ヤク

  1. {動詞}いとう(いとふ)。あきる(あく)。ありすぎていやになる。ありすぎてだれる。《同義語》⇒爽(エキ)。《類義語》厭(エン)。「無射・無射=射ふこと無し・射くこと無し」。
  2. 「無射(ブエキ)」とは、音階の十二律の一つ。また、季節では九月に当たることから、九月の別名。

字通

[会意]初形は弓+矢+又(ゆう)(手)。弓に矢をつがえてこれを射る形。のち弓矢の形を身と誤り、金文にすでにその形に近いものがある。〔説文〕五下に「弓弩(きゆうど)、身より發して、遠きに中(あた)るなり。矢に從ひ、身に從ふ」とするのは、のちの篆文の字形によって説くもので、身の部分は弓の形である。射は重要な儀礼の際に、修祓の呪儀として行われたもので、盟誓のときには「■(卿の皀を合)射(くわいしや)(会射)」して、たがいに誓う定めであった。字にまた釋(釈)(せき)・斁(えき)の音があり、その字義にも用いる。

赦(シャ・11画)

赦 金文
𠑇匜・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はɕi̯ăɡ(去)。

学研漢和大字典

形声。「攴(動詞の記号)+(音符)赤」で、赤(あか)には関係がない。ゆるむ、のびるの意味を含む。舒(ゆるくのびる)・捨(手を放して放置する)と同系。類義語に釈・許。

語義

  1. {動詞}ゆるす。大目にみる。いましめをとく。罪・あやまちをとがめない。「赦免」「君子以赦過宥罪=君子以て過ちを赦し罪を宥む」〔易経・解〕
  2. {名詞}ゆるし。刑罰・罪をゆるすこと。「赦従重=赦は重きよりす」〔礼記・王制〕

字通

[会意]赤+攴(ぼく)。赤は人に火を加えて、その穢れを祓う意。さらに攴を加えて殴(う)ち、その罪を祓う。それで赦免の意となる。〔説文〕三下に「置くなり」とあり、赦置して罪を免ずることをいう。〔玉篇〕に「放なり」とし、放免の意とする。〔書、舜典〕「眚災(せいさい)は肆赦(ししや)す」とは、不可抗力や不作為の罪は罰しないことをいう。

奢(シャ・12画)

論語 奢 金文
奢虎簠・春秋早期

初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はɕi̯ɔ(平)。”豪勢に行う”。『大漢和辞典』の第一義は”張る”。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、者は、煮(熱を充実する)の原字でいっぱいに充実する意を含む。奢は「大+〔音符〕者」で、おおげさに充実しすぎること。都(人の充実したまち)・儲(チョ)(いっぱいためる)・庶(たくさん)・諸(たくさん)と同系のことば。

意味

  1. (シャナリ){動詞・名詞・形容詞}おごる。おごり。ぜいたくをする。物や金をふんだんに集めて使う。また、ぜいたく。おおげさな。《対語》⇒倹。「奢侈(シャシ)」「礼与其奢也寧倹=礼はその奢(おご)らんよりは寧ろ倹なれ」〔論語・八佾〕
  2. {形容詞}やりすぎたさま。分にすぎたさま。「奢願(シャガン)(分にすぎた願い)」。

字通

[会意]大+者。者は、祝禱の器(曰(えつ))を埋めて呪禁とする境界の土堤。邑居の周囲にめぐらすお土居の類。それを跨(また)げて、誇越する形であるから、他を侵し、奢る意象の字である。〔説文〕十下に「張るなり」とし、者声とするが、者の声義を用いる亦声の字。また〔説文〕に籀文として奓をあげるが、その字は侈の初文。西周期の金文に奢の字がみえ、古くからある字である。

邪(ジャ・8画)

論語 邪 金文
十七年丞相啟狀戈・戦国末期

初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音はzi̯ɔまたはdzi̯ɔ(共に平)で、前者の同音耶(よこしま)は金文以前に遡れない。後者の同音衺(ななめ・よこしま・わるい)も同様。同訓近音の「𧘪」は篆書すら見つからず、「𧻀」は篆書からしか見られない。

部品の「牙」は西周中期の金文から見られ、『大漢和辞典』に”すなほでないこと”の語釈を載せる。カールグレン上古音はŋɔ(平)、藤堂上古音はngǎg。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、牙は、くい違った組み木のかみあったさまを描いた象形文字。邪は「阝=邑(むら)+(音符)牙」。もと琅邪ロウヤという地名をあらわした字だが、牙の原義であるくい違いの意をもあらわす。齬(ゴ)(くい違い)・忤(ゴ)(くい違い)・牙と同系のことば。

意味〔一〕ジャ/シャ

  1. (ジャナリ){名詞・形容詞}よこしま。くいちがい。正道からはずれて、ねじけている。《対語》⇒正。「姦邪(カンジャ)(わる者)」「邪不勝正=邪は正に勝たず」「邪説暴行有作=邪説暴行作ること有り」〔孟子・滕下〕
  2. {名詞}漢方医学で、陰陽がバランスを失ってひずんだこと。また、アンバランスによって生じる病気のこと。「邪気」「風邪(フウジャ)(かぜの病)」「湿邪(シツジャ)(湿気が多すぎておこる病)」。

意味〔二〕ヤ

  1. {助辞}や。か。→語法「①②」▽yéと読む。
  2. 「琅邪(ロウヤ)」とは、つ地名。山東半島の東岸、今の諸城県の地にあたる。漢代に郡が置かれた。づ山東省東南部にある山の名。琅邪山。▽yáと読む。

語法

「や」「か」とよみ、
①「~であるか」と訳す。疑問の意を示す。文末・句末におかれる。《同義語》耶・也。「顧不易邪=顧(かへ)つて易(やす)からざるや」〈その方がずっとたやすいじゃないか〉〔史記・刺客〕
②「どうして~であろか」と訳す。反語の意を示す。文末・句末におかれる。《同義語》耶・也。「其真無馬邪=それ真に馬無(な)きや」〈ほんとうに名馬がいないのだろうか〉〔韓愈・雑説〕

字通

[形声]声符は牙(が)。牙に形の不正なるものの意がある。〔説文〕六下に「琅邪(らうや)郡」と地名を以て解するが、衺(じや)と通用してその義に用いられる。衺は奇衺(きじや)。呪詛をなすものなどが服するもので、邪悪の意となる。

綽(シャク・14画)

綽 金文
善夫山鼎・西周末期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はȶʰi̯ok(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「糸+(音符)卓(タク)(高くひいでる、ゆとりをあける)」。

語義

  1. (シャクタリ){形容詞}ゆったりとしたさま。また、ゆとりをあけているさま。じゅうぶん。「寛兮綽兮=寛たり兮綽たり兮」〔詩経・衛風・淇奥〕。「妖姿媚態、綽有余妍=妖姿媚態、綽として余妍(よけん)有り」〔孟挑・人面桃花〕

字通

[形声]声符は卓(たく)。卓に淖約(しやくやく)の淖(しやく)の声がある。〔説文〕十三上に素に従う繛を正字とし、「緩(ゆる)やかなり」という。緩の正字もまた、素に従う字である。素は糸たばを括って染め残した部分で、余分となるところをいう。ゆえに綽緩(しやくかん)の意が生ずる。〔孟子、公孫丑下〕に「綽綽然として餘裕有らざらんや」とは、進退にゆとりのあることをいう。

若(ジャク・8画)

論語 若 金文
亞若癸方彝・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯ak(入)。平/上の音は不明。

学研漢和大字典

象形。しなやかな髪の毛をとく、からだの柔らかい女性の姿を描いたもの。のち、草かんむりのように変形し、また口印を加えて若の字となった。しなやか、柔らかく従う、遠まわしに柔らかくゆびさす、などの意をあらわす。のち、汝(ジョ)・如(ジョ)とともに、「なんじ」「それ」をさす中称の指示詞に当てて用い、助詞や接続詞にも転用された。女(ジョ)(しなやかな女性)・茹(ジョ)(柔らかい菜)・弱(ジャク)(柔らかい)などと同系。付表では、「若人」を「わこうど」と読む。▽「ごとし」は「如し」とも書く。

語義

ジャク(入声)
  1. {形容詞}わかい(わかし)。からだが柔らかい。しなやかでわかい。《対語》⇒老。「老若(ロウジャク)・(ロウニャク)」。
  2. {名詞}しなやかな桑の木。また、柔らかい菜や草。
  3. {代名詞}なんじ(なんぢ)。二人称の代名詞。あなた。きみ。《類義語》汝(ジョ)。「吾翁即若翁=吾が翁は即ち若の翁」〔史記・項羽〕
  4. {動詞}したがう(したがふ)。なびいてしたがう。「下上不若=下も上も若はず」「有若(ユウジャク)(順調な、めでたい)」「不若(フジャク)(したがわない魔物)」。
  5. {指示詞}かくのごとき。その。前文を受けて、その、そのような、などの意をあらわす指示のことば。《類義語》而・然。「君子哉、若人=君子なる哉、若くのごとき人」〔論語・公冶長〕
  6. {接続詞}もしくは。→語法「⑤」。
  7. {接続詞}もし。→語法「④」。
  8. {動詞}ごとし。→語法「①」。
  9. {助辞}疑問詞を組みたてることば。▽如に当てた用法。「奚若(=何如)」「若何(=如何)=若何(=如何)せん」→語法「⑥⑦」。
  10. {助辞}形容詞を組みたてることば。《同義語》然・如。「自若」「瞠若(ドウジャク)」。
  11. {名詞・形容詞}しなやかな干し草。草やひげのたれたさま。
  12. 「若干(ジャッカン)・(ソコバク)」「若箇(ジャッコ)」とは、数量がそれほど多くなく、はっきりしないこと。いくつか。いくらか。
ジャ(上声)
  1. 「般若(ハンニャ)」とは、多くの迷いを去って悟りを開く最上の知恵。▽梵語(ボンゴ)prajG(の音訳。
  2. 《日本語での特別な意味》「若狭(ワカサ)」の略。「若州」。

語法

  1. 「~のごとし」とよみ、「~のようだ」と訳す。比較して判断する意を示す。「旁若無人者=旁(かたはら)に人の無(な)き若(ごと)し」〈誰はばかることのない振舞いであった〉〔史記・刺客〕
  2. 「~のごときは」とよみ、「~の場合は」「~に関しては」と訳す。話題を提示する意を示す。「若季氏則吾不能=季氏の若(ごと)きは則(すなは)ち吾能はず」〈(魯の上卿である)季氏のようには、わたしはできない〉〔論語・微子〕

②「しく」とよみ、「同等である」と訳す。比較して判断する意を示す。「彼与彼年相若=かれとかれとは年あひ若(し)けり」〈あの人とあの人とは年格好がよく似ている〉〔韓愈・師説〕

  1. 「~不若…」は、「~は…にしかず」とよみ、「~は…に及ばない」「~より…の方がよい」と訳す。比較して優劣を判断する意を示す。「徐公不若君之美也=徐公は君の美なるに若(し)かざるなり」〈徐公は、君の美しさにはかなわない〉〔戦国策・斉〕
  2. 「~未若…=~いまだ…にしかず」は、「~はいまだ…に及ばない」と訳す。比較して優劣を判断する意を示す。「吾斯役之不幸、未若復吾賦不幸之甚也=吾がこの役の不幸は、未だ吾が賦を復するの不幸の甚だしきに若(し)かざるなり」〈私のこの仕事の不幸は、元の税に戻される不幸のはなはだしさにはまだ及ばない〉〔柳宗元・捕蛇者説〕
  3. 「~莫若…」は、「~は…にしくはなし」とよみ、「~に関しては…に及ぶものはない(=…が最もよい)」と訳す。比較して優劣を判断する意を示す。「為大王計、莫若六国従親以擯秦=大王の為に計るに、六国従親してもって秦を擯(しりぞく)くるに若(し)くは莫(な)し」〈大王のために計略を立てるならば、六国が同盟して、秦をしりぞけるに越したことはない〉〔十八史略・春秋戦国〕

④「もし」とよみ、「もし~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「公子若反晋国、則何以報不穀=公子若(も)し晋国に反らば、則(すなは)ち何をもってか不穀に報いん」〈公子(重耳)がもし晋に帰国されたら、何を不穀(わたし)に返礼としていただけますか〉〔春秋左氏伝・僖二三〕

⑤「~若…」は、「~もしくは…」とよみ、「~か…かのどちらか」と訳す。選択の意を示す。「願取呉王若将軍頭、以報父之仇=願はくは呉王若(も)しくは将軍の頭を取り、もって父の仇に報いん」〈呉王か将軍の首を討ち取って、父の仇を討ちたい〉〔史記・魏其武安侯〕

⑥「何若」は、

  1. 「いかん」とよみ、「どうであるか」と訳す。内容・状態・真偽を問う疑問の意を示す。《同義語》何如。「所謂小物則知之者何若=所謂(いはゆる)小物は則(すなは)ちこれを知るとは何若(いかん)」〈いわゆる小さな問題については明るいということはどういうことか〉〔墨子・天志〕
  2. 「いかんせん」とよみ、「どうしたらよいか」と訳す。方法・処置を問う疑問・反語の意を示す。「僕欲北攻燕、東伐斉、何若而有功=僕北のかた燕を攻め、東のかた斉を伐たんと欲す、何若(いかん)せば功有らん」〈私は北方の燕を攻め、東方の斉を撃ちたいと思いますが、どうすればうまくゆきましょうか〉〔史記・淮陰侯〕
  3. 「いかなる」とよみ、「どんな」と訳す。「趙強何若=趙の強きこと何若(いか)なりしぞ」〈趙の強さはどれほどであったのか〉〔戦国策・秦〕

⑦「若何~」は、

  1. 「~をいかん(せん)」とよみ、「~をどうするか」「どうしたらよいか」と訳す。方法・処置を問う疑問の意を示す。目的語がある場合は「若~何」と、その目的語を間にはさむ。《同義語》如何。「遂進而問脩身若何=遂に進みて問ふ身を脩(おさ)むるに若何(いかん)せんと」〈そのまま前に進み出てたずねた、我が身を修めるには、どうすればよいのでしょうか〉〔荘子・天道〕
  2. 「いかんぞ~せん」「~をいかんせん」とよみ、「どうして~しようか(いやそうしない)」と訳す。原因・手段を問う疑問・反語の意を示す。「若何其沈於酒也=若何(いかん)ぞそれ酒に沈まん」〈どうして酒などに耽っておられましょうか〉〔呂氏春秋・恃君〕

字通

[象形]巫女が両手をあげて舞い、神託を受けようとしてエクスタシーの状態にあることを示す。艸はふりかざしている両手の形。口は𠙵(さい)、祝禱を収める器。〔説文〕一下に「菜を擇(えら)ぶなり。艸右に從ふ。右は手なり」という。〔詩、周南、関雎〕「參差(しんし)たる荇菜(かうさい)は 左右に之れを采る」などの詩句によって解したものであろうが、卜文の字形は巫女の舞い、忘我の状態にある形で、神託を求める意。神が祈りをうけ入れることを諾といい、卜文・金文には、若を諾の意に用いる。卜辞に「王、邑を作るに、帝は若(よし)とせんか」「帝は若を降さんか、不若(ふじやく)を降さんか」のようにいい、不若とは邪神、邪悪なるものをいう。〔左伝、宣三年〕「民、川澤山林に入るも、不若に逢はず。魑魅(ちみ)罔兩(まうりやう)(怪物)も能く之れに逢ふ莫(な)し」とみえる。金文に「上下の若否」というのは、上下帝の諾否(だくひ)の意である。神意に従うことより若順の意となり、神意のままに伝達することから「若(かく)のごとし」の意となる。王が神意によって命を発することを、金文では「王、若(かく)のごとく曰く」といい、〔書〕〔詩〕にもその形式の語が残されている。「若(わか)し」は神託を受ける女巫が若い女であることから、「若(ごと)し」はそのエクスタシーの状態になって神人一如の境にあることからの引伸義であろう。「若(なんじ)」「若(も)し」などは仮借。如も若と同じく女巫が神託を求める象で、両字通用の例が多い。

主(シュ・5画)

論語 主 金文
丶庚爵・殷代末期或西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶi̯u(上)。『大漢和辞典』の第一義は”あるじ”。この金文は『説文解字』に記載がある「丶」(音チュ)という漢字で、主の古形とされ、殷末~周初の金文で確認できる。

学研漢和大字典

論語 主 解字
象形文字で、﹅は、じっと燃えたつ灯火を描いた象形文字。主は、灯火が燭台の上でじっと燃えるさまを描いたもので、じっとひと所にとまるの意を含む。住(ひと所にじっとすむ)・駐(とまる)・柱(じっとたつはしら)・注(じっとひと所に水をそそぐ)などに音符として含まれ、同系。また逗留(トウリュウ)の逗(とどまる)と縁が近い。

意味

  1. {名詞}あるじ。所をかえて転々と寄留する者を客というのに対して、ひと所にじっととどまって動かない者を主という。「家無二主=家に二主無し」〔礼記・坊記〕
  2. ま{名詞}霊魂が宿るしるしとして、じっとたてておくかたしろ。位牌(イハイ)。「尸主(シシュ)(かたしろ)」「木主(ボクシュ)(木の位牌)」。
  3. {名詞}君主の略。「人主」「主上」。
  4. {名詞}ぬし。所有し管理する人。「田主」。
  5. {名詞}あるじ。団体や組織の中心となるリーダー。かしら。「盟主」。
  6. {名詞}キリスト教の神。「天主」。
  7. (シュタリ){動詞}客となってやっかいになる。主賓のあつかいを受ける。「主司城貞子=司城の貞子に主たり」〔孟子・万上〕
  8. (シュトス){動詞}その物事の中心として尊ぶ。「主忠信=忠信を主とす」〔論語・学而〕
  9. {動詞}つかさどる。中心となって処理する。「主其社稷=其の社稷を主る」〔春秋左氏伝・昭七〕
  10. (シュトシテ){副詞}おもに。「主由此=主として此に由る」。
  11. {形容詞・副詞}おも。おもに。中心となって切り回したり、考えたりするさま。「主宰」「主張」。
  12. 《日本語での特別な意味》
    ①ぬし。湖・山・川などに宿る神霊。「山の主」。
    ②ぬし。もと、女性が親しい男性を呼ぶことば。また、転じて、広く相手を呼ぶことば。

字通

象形、火主の形。金文はしゅ(火主の形)に作り、のちあぶらざらの形をそえて主となった。〔説文〕五上に「鐙中の火主なり。王に従い、象形。丶に従う。丶は亦声なり」とするが、その全体を象形と見てよい。中山王墓出土の十五連盞燭台は、神仙や霊獣を盞盤の間に配し、聖火の観念を示している。火は神聖なものとされ、廟中に火を操る者は叜。長老を意味する叟の初文である。火は主人・家長・長老の扱うもので、その人をも主という。炷は主の繁文。建物においては、これを主持するものを柱という。

訓義

  1. ひ、炎の部分、火主、あかし。
  2. 火をもつ人、あるじ、きみ、一家の長。
  3. 神霊のやどるところ、神主(訳者注。かんぬしではなく位牌)、木主(訳者注。これも位牌)。
  4. つかさ、おさ。
  5. まもる、やどる。
  6. おもに、かなめのものとして。
  7. 夫人の尊称、公主。

守(シュ・6画)

論語 守 金文
雨人守鬲・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕ(上/去)。藤堂上古音はthiog。

学研漢和大字典

会意文字で、「宀(やね)+寸(て)」。手で屋根の下に囲いこんでまもるさまを示す。肘(チュウ)(物を抱きこむひじ)・受(手中にうけとめる)・手(曲げてものを抱きこむて)・収(とりこむ)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞}まもる。手中におさめて離さないようにする。《対語》⇒奪・失。「失守(シッシュ)(まもりきれず敵に奪われる)」「与民守之=民とこれを守る」〔孟子・梁下〕
  2. {動詞・名詞}まもる。まもり。失わないように番をする。また、その備え。「留守(リュウシュ)・(ルス)(あとに残って番をする)」「去来江口守空船=去りてより来のかた江口に空船を守る」〔白居易・琵琶行〕
  3. {動詞・名詞}まもる。心構えをいつまでもかえないで、保つ。また、まもって変えないみさお。「守拙=拙を守る」「操守」。
  4. {名詞}郡の長官。地方長官のこと。▽去声に読む。「太守(地方の長官)」「分天下以為三十六郡、郡置守尉監=天下を分けて以て三十六郡と為し、郡に守尉監を置く」〔史記・秦始皇〕
  5. (シュタリ){動詞}太守となる。地方長官として赴任する。▽去声に読む。「守巴陵郡=巴陵郡に守たり」〔范仲淹・岳陽楼記〕
  6. 《日本語での特別な意味》もり。幼君や子どもの、保護者や番人。「お守り役」。
  7. 《日本語での特別な意味》かみ。四等官で、国司の第一位。

字通

[会意]宀(べん)+寸。宀は廟屋。廟屋の中で、ことを執ることをいう。〔説文〕七下に「守官なり」とし、宀を寺府、寸を法度の意とするが、金文には又(ゆう)に従う形もあり、また干又に従う字もあり、扞衛を主とする字である。のち官守のことをいい、また「道を守る」「拙を守る」のように、抱持・操守の意に用いる。

取(シュ・8画)

論語 取 金文
倗生簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsʰi̯uまたはtsʰu(共に上)。

学研漢和大字典

会意。「耳+又(て)」で、捕虜や敵の耳を戦功のしるしとして、しっかり手に持つことを示す。手の筋肉を引き締めて物を離さない意を含む。掫(シュ)(つかむ)・揪(シュウ)(しっかり引き締めてつかむ)と同系。また、縮(ちぢめる)はその入声(ニッショウ)(つまり音)に当たる。類義語の操は、たぐりよせてつかむ。持は、手にじっと止める。採は、指先でつまみとる。把(ハ)は、手のひらを物に当ててにぎる。握は、外から手をかぶせてにぎる。執は、手にしっかりにぎる。攫は、手の中につかみとる、わしづかみのこと。異字同訓に採る「血を採る。高校の卒業生を採る。会議で決を採る」 執る「筆を執る。事務を執る。式を執り行う」 捕る「ねずみを捕る。生け捕る。捕り物」 撮る「写真を撮る。映画を撮る」。

語義

  1. {動詞}とる。指を引き締めて、手中ににぎる。つかんで離さない。《対語》⇒捨。
    ま{動詞}とる。自分のものとする。手に入れる。「攻必取=攻むれば必ず取る」〔史記・高祖〕
  2. {動詞}とる。選びとる。「採取」「取友=友を取る」「無所取材=材を取る所無し」〔論語・公冶長〕
  3. {動詞}とる。そのことを好んで自分のものとする。「取酔=酔を取る」「取暖=暖を取る」。
  4. {動詞}めとる。妻をもらう。《同義語》⇒娶。「君取於呉=君呉より取る」〔論語・述而〕

字通

[会意]耳+又(ゆう)。〔説文〕三下に「捕取するなり」とあり、戦場で討ちとった者の左耳を切り取る意。これを聝(かく)といい、その聝数によって戦功を定めた。凱旋してその聝を廟に献じ、論功した。首を取ることは、馘(かく)という。聝耳をとり集めることを最・撮(さつ)といい、また聚(しゆう)という。妻を娶ることをも取という。

酒(シュ・10画)

論語 酒 金文
『字通』所収金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はts(上)。藤堂上古音はtsiog。

甘くて色の濁った濁り酒「レイ」に対し、それを布袋でチュウと漉して作った、色の澄んだ清酒を言う。上掲の金文は出典が不明で、白川静博士の独自採取と思われるが、甲骨文は出土しており、論語の時代にあった文字だと判定する。

学研漢和大字典

会意。酋(シュウ)は、酒つぼから発酵した香りの出るさまを描いた象形文字で酒の原字。酒は「水+酉(さけつぼ)」で、もと、しぼり出した液体の意を含む。就(シュウ)(引きしめる)などと同系。類義語の酪(ラク)は、乳を発酵させた飲料。醇(ジュン)は、精製したこい酒。醪(ロウ)は、どぶろく。付表では、「お神酒」を「おみき」と読む。

意味

  1. {名詞}さけ。穀物を発酵させ、その上ずみをしぼってつくった、アルコール分を含む飲み物。《類義語》酋(シュウ)。「濁酒(ダクシュ)(どぶろく)」「太白酒(李白(リハク)にちなんだしろ酒)」「不為酒困=酒の為に困せず」〔論語・子罕〕

字通

[形声]声符は酉(ゆう)、酋(しゆう)の省文。酉は酒樽の形。酒樽より酒気の発することを酋といい、酋をもつことを尊(樽)という。〔説文〕十四下に「就(な)すなり。人性の善惡を就す所以(ゆゑん)なり」とし、また「一に曰く、造(はじ)まるなり。吉凶の造まる所なり」という。就・造はともに声の近い字であるが、語源的に関係があるとはしがたい。禹のとき、儀狄(ぎてき)が酒を作り、また杜康が酒を作ったという起源説話がある。殷・周期には酒器に精美なものが多く、当時の祭祀や儀礼に酒を用いることが多かった。祭祀には鬱鬯(うつちょう)(香草)で香りをつけたものを用いた。

須(シュ・12画)

須 金文
伯孝鼓盨・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯u(平)。「ス」は呉音。

学研漢和大字典

会意。もと、あごひげの垂れた老人を描いた象形文字。のち「彡(ひげ)+頁(あたま)」で、しっとりとしたひげのこと。柔らかくしめって、きびきびと動かぬ意から、しぶる、じっとたってまつの意となり、他者を頼りにして期待する、必要としてまちうけるなどの意となった。需も同じ経過をたどって必需の意となり、須と通用する。需(柔らかい)・濡(しっとり)・乳(ねっとり)などと同系。類義語に可・必・胡。草書体をひらがな「す」として使うこともある。▽行書体の旁の末画からカタカナの「ス」ができた。

語義

  1. {名詞}ひげ。柔らかいひげ。とくに、あごひげ。《同義語》⇒鬚(シュ)。《類義語》螂(コ)。「竜須(リュウシュ)(竜のひげ)」「須蜷(シュゼン)」。
  2. {動詞}もちいる(もちゐる・もちふ)。もとめる(もとむ)。他の何物かにたよろうとしてまちうける。ぜひ必要とする。ぜひにと期待する。《類義語》需(シュ)・(ジュ)。「必須(ヒッス)・(ヒッシュ)」「急須(キュウシュ)(さし迫って必要とする。日本では急いで湯をわかすきゅうすのこと)」「何須…=何ぞ…するを須ゐんや」「不須…=…するを須ゐず」。
  3. {動詞}まつ。こちらが動かず、相手の動きをまち望む。その機会をまちうける。《類義語》待。「須待(シュタイ)」「相須甚切=相ひ須つこと甚だ切なり」「須其成列而後撃之=其の列を成すを須ちて後これを撃つ」〔春秋穀梁伝・僖二二〕
  4. {名詞}もとめ。要求。需要。《同義語》需。「不給使君須=使君の須を給せず」〔李賀・感諷〕
  5. {助動詞}すべからく。…すべし。→語法「①」。
  6. 「須臾(シュユ)」とは、ほんの短い間、ごくわずかの時間がたって、の意。また、仏教で一昼夜の三十分の一の時間。▽「須」は、細いひげ。「臾」は、細く抜き出すこと。いずれも細く小さいの意を含む。「不可須臾離也=須臾も離るべからざるなり」〔中庸〕
  7. 《日本語での特別な意味》梵語(ボンゴ)「シュ・ス」の音訳字。「須彌山(シュミセン)・(スミセン)」。

語法

①「すべからく~すべし」とよみ、

  1. 「ぜひ~する必要がある」と訳す。ある事実を成立させるために、行為・動作が必要である意を示す。再読文字。
  2. 「当然~すべきである」「きっと~にちがいない」と訳す。ある事実が成立したので、行為・動作が必然としておこなわれる意を示す。再読文字。否定形は訓読が変化するので、「②」を参照。「今日送君須尽酔=今日君を送る須(すべから)く酔を尽くすべし」〈君を見送る今日という日、当然したたかに酔うべきである〉〔賈至・送李侍郎赴常州〕
    ▽「須」は、唐詩で多く用いる。1.2.の意味は、文脈により変化する。
  3. 「応須」は、「まさにすべからく~すべし」とよみ、意味・用法ともに同じ。「簾前春色応須惜=簾前の春色応(まさ)に須(すべから)く惜しむべし」〈すだれごしの春の景色は、これこそ惜しむべきものである〉〔岑参・暮春畋州東亭送李司馬帰扶風別廬〕

②「不須~」は、「~(する)をもちいず」とよみ、「~する必要はない」と訳す。「①」の否定形。▽「すべからく~すべからず」とはよまない。「飽食不須憂内熱=飽くまで食して内熱を憂(うれ)ふることを須(もち)ひず」〈食べ過ぎても発熱を心配するには及ばない〉〔王維・勅賜百官桜桃〕

③「何須」は、「なんぞもちいん(や)」とよみ、「どうしてする必要があろうか」と訳す。反語の意を示す。「羌笛何須怨楊柳=羌笛(きゃうてき)なんぞ須(もち)ひん楊柳を怨(うら)むを」〈騎馬民の笛が、芽吹かぬ怨みを楊柳へうったえるのに、どうして必要があろうか〉〔王之渙・涼州詞〕

字通

[会意]頁(けつ)+彡(さん)。頁は儀礼を行うときの人の形。彡はひげ。金文の盨の字形からみると、彡は顔に密着しており、全体を象形とみてもよい字である。〔説文〕九上に「面の毛なり」とし、会意とする。鬚(しゅ)の初文。〔礼記、喪大記〕に「小臣(葬儀役)手を爪きり、須(ひげ)を剪(き)る」とあって、面の毛を剃ることをいう。須を他の意に用いるものは、すべて音の仮借による通用である。

聚(シュ・14画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzʰi̯u(上/去)。同音は存在しない。「シュウ・ジュ」は慣用音。呉音は「ズ」。「集」dzʰi̯əp(入)の初出は甲骨文。近音で置換候補になり得る。

学研漢和大字典

会意兼形声。取は、敵の耳をとってあつめ持つさま。聚は「三人の人+(音符)取」で、多くの人がひと所にあつまることを示す。湊(ソウ)(あつまる)・芻(スウ)(束ねあつめた草)などと縁が近い。類義語に斂。「集」に書き換えることがある。「集落」。

語義

  1. {動詞}あつめる(あつむ)。あつまる。ぐっとひきしめるように多くのものをあつめる。ひと所にあつまる。《対語》⇒散。《類義語》集。「積聚(セキシュウ)」「物以類聚=物は類を以て聚まる」「復聚其騎=復た其の騎を聚む」〔史記・項羽〕
  2. {名詞}人のあつまり住む所。むら。「聚落(シュウラク)」「所居成聚=居る所聚を成す」〔史記・五帝〕
  3. 「聚楽(ジュラク)」とは、あつまり楽しむ意で、邸や閣の名に用いる。

字通

[形声]声符は取(しゆ)。取は戦場で左耳を切り取って戦功の証とするもので、その耳をあつめることを会撮という。〔説文〕八上に「會するなり。~邑落を聚と云ふ」とあって、会聚の意とするが、聚はもと会撮を意味する字であろう。〔方言、三〕に「萃・雜は集なり。東齊にては聚と曰ふ」とあり、これらは声義の近い語である。

※会撮:もとどり。まげ。

趨(シュ・17画)

論語 趨 金文
趨子作父庚器・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はtʂʰi̯u(平)。「スウ」は慣用音。呉音はス(平)、ソク(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。芻(スウ)は、牧草をぐっとちぢめて束ねたもの。趨は「走(はしる)+(音符)芻」で、間をちぢめてさっさといくこと。趣(シュ)・走(ソウ)と同系。また、促(ソク)や速(ソク)とも縁が近い。類義語に奔。

語義

シュ(平声)
  1. {動詞}はしる。おもむく。足ばやにいく。また、さっさとある方向に進む。《同義語》⇒趣(シュ)。「趨進(スウシン)」「趨勢(スウセイ)」「趨而迎之=趨りてこれを迎ふ」〔孟子・尽下〕
  2. {動詞}はしる。急いでさけるとき、貴人の前を通ったりするときなどに、小またで足ばやに歩く。「趨而辟之=趨りてこれを辟く」〔論語・微子〕
ショク(入声)
  1. {動詞・形容詞}すみやか(すみやかなり)。はやく進めとせきたてる。やつぎばやに。はやい。▽促(ソク)・趣(ソク)に当てた用法。「王命相者趨射之=王は相者に命じて趨やかにこれを射しむ」〔荘子・徐無鬼〕

字通

[形声]声符は乍(さく)。乍は作の初文。〔説文〕八上に「起すなり」と作興の意とする。乍は木の枝を強く撓める形で、垣などを作る意。卜辞に「墉を乍(つく)る」「邑を乍る」のように、大きな土木工事をする意に用いる。金文に至っても「寶ソン 外字彝(はうそんい)を乍る」のように用い、また「乍邑」「乍邦」の語がある。また「乍鑄」「乍爲」より「厥(そ)の爪牙と乍(な)る」のようにひろく一般の制作・行為をいい、まだ作の字はみえない。〔周礼、秋官、柞氏〕は、柞薪を以て獣の陥穽を作ることを掌り、その阱中(せいちゆう)の逆木(さかぎ)を柞鄂(さくがく)という。木の枝を撓めてこれを作るもので、乍の初義を知ることができる。

壽/寿(ジュ・7画)

壽 金文
小克鼎・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音は声母のȡ(上)のみ。去声の音は不明。藤堂上古音はdhiog。

学研漢和大字典

会意兼形声。下部は、長く曲がって続く田畑の中のあぜ道をあらわし、長い意を含む(音トウ・チュン)。壽はそれを音符とし、老人を示す遘印を加えた字で、老人の長命を意味する。禱(トウ)(長く声をのばしてのりとを告げる)・疇(チュウ)(長いあぜ道)・道(長いみち)などと同系。旧字「壽」は人名漢字として使える。▽旧字の「壽」は字形から「さむらい(士)のフエは一インチ(吋)」と覚える。

語義

  1. (ジュナリ){形容詞}いのちながし。長命である。長生きしている。《対語》⇒夭(ヨウ)。「上寿」「仁者寿=仁者は寿ながし」〔論語・雍也〕。「寿則多辱=寿ければ則ち辱多し」〔荘子・天地〕
  2. {名詞}とし。長生き。「長寿」。
  3. {名詞}年長の人に対する長命の祝い。▽多くは誕生日に祝い物を送り宴を開く。「寿辰(ジュシン)(老人の誕生日)」「沛公奉卮酒為寿=沛公卮酒を奉じて寿を為す」〔史記・項羽〕
  4. {名詞}老人や長上におくる祝い物。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①ことぶき。めでたいこと。祝い。
    ②ことほぐ。祝いのことばをのべる。

字通

[形声]声符は𠷎(ちゅう)。𠷎は田の疇(うね)で豊穣を祈る意で、禱の初文。〔説文〕八上に「久なり」とあり、金文に「眉壽萬年」のように祝頌の語に用いる。〔詩、秦風、終南〕「壽考忘(や)まず」も祝頌の語。考にも寿の意がある。

儒(ジュ・16画)

論語 儒 金文大篆
(金文大篆・篆書)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵi̯u(平)。同音は需を部品とする漢字群と乳。部品の需のカ音はsni̯u(平)。下記『字通』の言う語源から、論語時代の置換候補は需(みこ)。

論語では雍也篇13にのみ登場。初出が後漢である事から分かるように、儒とは新しい言葉で、恐らく論語の時代には、孔子一門は儒家を自称しなかっただろう。

実際、『左伝』には「儒」という言葉がほとんど見られず、文公・襄公の時代に「朱儒」=”こびと”として見えるほかは、『左伝』の最後近く、哀公二十一年に「儒書」として現れるのみ。その「儒」でさえ、”拝み屋の本”の意か、”孔子一門の本”の意かは分からない。

孔子は礼儀作法を教えはしたが、それは仕官のための基礎教養としてであり、冠婚葬祭業者を養成する気は無かったし、教えた内容もそこまで繁雑では無かった。

儒家が冠婚葬祭業者の色合いを帯びるのは、高弟の一人・子游の学派が戦国期にそれを飯のタネにしてからである(『荀子』非十二子篇)。さらに現伝儒教のような繁雑な礼儀作法は、ほぼ、漢帝国になってから創作された。

学研漢和大字典

需は、「雨+而(ひげ)」の会意文字で、水にぬれて柔らかいひげを示す。濡(しっとりとぬれて柔らかい)の原字。儒は「人+音符需」の会意兼形声文字で、性行ののしっとりとして柔和な人、文物にたずさわる穏やかな人のこと。無骨者の反対の意味。

意味

  1. {名詞}孔子の教えを伝える人。潤いのある人情と博愛の心を説き、仁義の政治を唱えた。「儒教」「逃墨必帰於楊、逃楊必帰於儒=墨を逃るれば必ず楊に帰し、楊を逃るれば必ず儒に帰す」〔孟子・尽下〕
  2. {名詞}教養のある人。また、学者。「女為君子儒=女は君子の儒と為れ」〔論語・雍也〕
  3. {名詞・形容詞}広く文物に関する趣味や仕事。潤いがあるさま。教養があるさま。「風流儒雅」。

字通

声符は需(じゅ)。需は雨乞いする下級の巫祝、而はまげを結ばない髡頭(こんとう)の巫祝の形。その人を耎(ぜん)といい、また偄 (ぜん)・儒という。〔説文〕八上に「柔なり。術士の偁(しょう)なり」とあり、儒は巫祝の出身であった。〔礼記、儒行〕の〔鄭目録〕に「儒の言たる、優なり。柔なり。能く人を安んじ、能く人を服す。また、儒なるものは濡なり。先王の道を以て、能く其の身を濡(うるほ)す」とするが、みなその音によって説くものにすぎない。儒はもと巫祝・葬礼のことなどにも従い、儒家の文献には葬礼に関するものがきわめて多い。

訓義

じゅがく、じゅしゃ。やわらか、おだやか、やさしい。よわい、したがう、おろか。字はまた偄に作る。

大漢和辞典

柔らか。潤す。学者。周の制度で、六芸に通じて郷里に師たる者。孔子を宗師とする学派。天地人に通じた学徳の優れた人。従う。弱い・若い。愚か。短い・侏儒。偄に通ず。もののさま、儒兒を見よ。あるいは𠍶に作る。姓。

樹(ジュ・16画)

論語 樹 金文
『字通』所収金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯u(上/去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。加は、太鼓(タイコ)または豆(たかつき)を直立させたさま。尌(ジュ)はそれに寸(手)を加えて、┻型にたてる動作を示す。樹は「木+(音符)尌」で、たった木のこと。豎(ジュ)(たてる、たて)・逗(トウ)(じっとたち止まる)などと同系。類義語に木・建。

語義

  1. {名詞}き。たってはえているき。たちき。▽切ったきを材という。「植樹」「落葉樹」。
  2. {名詞}ついたて。たてて中を見えなくする小塀(コベイ)。「邦君樹塞門=邦君は樹もて門を塞ぐ」〔論語・八飲〕
  3. {動詞}たてる(たつ)。たつ。うえる(うう)。┻型にじっとたてる。また、たつ。木をうえる。《類義語》豎(ジュ)。「建樹(たてる)」「十年之計、莫如樹木、終身之計、莫如樹人=十年の計には、木を樹うるにしくはなし、終身の計には、人を樹つるにしくはなし」〔管子・権修〕

字通

[形声]声符は尌(じゅ)。〔説文〕六上に「木の生植するものの總名なり」(段注本)とあり、樹木をいう。籀文(ちゆうぶん)の字形は尌。卜文に鼓と耒耜(らいし)(すき)とに従う字があり、農耕のとき、鼓声を以て邪気を払い、その成熟を祈る儀礼があったようである。樹芸の意より、すべてものを樹立することをいう。

十(シュウ・2画)

十 金文
秦公簋・春秋中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯əp(入)。「ジュウ」は呉音。

学研漢和大字典

指事。全部を一本に集めて一単位とすることを┃印で示すもの。その中央がまるくふくれ、のち十の字体となった。多くのものを寄せ集めてまとめる意を含む。▽促音の語尾pがtに転じた場合はジツまたはジュツと読み、mに転じた場合はシン(シム)と読む。拾(シュウ)(あわせ集める)と同系。付表では、「二十日」を「はつか」「二十・二十歳」を「はたち」「十重二十重」を「とえはたえ」と読む。▽証文や契約書では改竄(カイザン)や誤解をさけるため「拾」と書くことがある。

語義

  1. {数詞}とお(とを)。「聞一以知十=一を聞いて以て十を知る」〔論語・公冶長〕
  2. {数詞}と。順番の十番め。「十月十日」。
  3. {副詞・動詞}とたび。とたびする(とたびす)。十回。十回する。「人十能之、己千之=人十たびしてこれを能くすれば、己これを千たびす」〔中庸〕
  4. {形容詞}すべて、まとまっているさま。十分なさま。「十全(完全)の備え」。

字通

[指事]算木に用いる縦(たて)の木の形。〔説文〕三上に「數の具(そな)はれるなり。一を東西と爲し、丨(こん)を南北と爲す。則ち四方中央備(そな)はれり」とするが、卜文・金文の字形は、横画によって一、縦画によって十、×によって五をあらわす。金文ではのち、縦画の下方に肥点を加え、十の字となった。

手(シュウ・4画)

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音は声母のɕ(上)のみ。藤堂上古音はthiog。「シュ」は呉音。

学研漢和大字典

象形。五本の指のある手首を描いたもの。シュという音は、守(とられぬよう持つ)・受(しっかり持つ)と同系で、外まわりを囲んでその中に物を持つ意を含む。類義語の腕は、もと、手首。肘(チュウ)は、ひじ。臂(ヒ)は、肩からひじまで。掌(ショウ)は、手のひら。付表では、「上手」を「じょうず」「下手」を「へた」「手伝う」を「てつだう」と読む。

語義

  1. {名詞}て。手首。転じて、上肢(ジョウシ)全体。《対語》⇒足。「握手=手を握る」「自牖執其手=牖より其の手を執る」〔論語・雍也〕
  2. {動詞}てにする(てにす)。手にとる。手でうつ。「手剣而従之=剣を手にしてこれに従ふ」〔春秋公羊伝・荘一三〕
  3. {副詞}てずから(てづから)。てもて。手でもって。自分の手で。「手写」「手植」「子欲手援天下乎=子手づから天下を援けんと欲するか」〔孟子・離上〕。「手以棉覆之=手づから棉を以てこれを覆ふ」〔轆自珍・冬日小病寄家書作〕
  4. {名詞}仕事。「着手」「下手=手を下す」。
  5. {名詞}技芸や細工のうまい人。「名手」「能手(うまい技術家)」「国手(国いちばんの名医)」。
  6. {名詞}ある種の技芸や仕事を習得した人。「技手」「画手」。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①て。字の書き方、駒(コマ)のさし方、舞の手さばき、武道の術など。「さし手」「舞の手」。
    ②て。方法。手段。「奥の手」。
    ③方向。「行く手」「搦手(カラメテ)」。
    ④て。部下の働く者。「手の者」。
    ⑤傷。「深手(フカデ)を負う」。
    ⑥て。つきあいや関係。「手を切る」。
    ⑦代金。「酒手(サカテ)」。

字通

[象形]手の形。手首から上、五本の指をしるす。〔説文〕十二上に「拳なり」とするが、指を伸ばしている形である。金文に「拜手䭫(稽)首(けいしゆ)」のようにいい、ときに「拜手䭫手」「拜䭫手」のようにしるすことがあるのは、手・首が同声であるからであろう。

舟(シュウ・6画)

舟 金文
舟父壬尊・商代末期或西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtɕ(平)。

学研漢和大字典

象形。中国の小舟は長方形で、その姿を描いたものが舟。周(シュウ)・週と同系のことばで、まわりをとりまいたふね。服・兪(ユ)・朕・前・朝などの字の月印は、舟の変形したもの。類義語の船は、沿と同系で、流れに沿って下るふね。舶は、泊と同系で、沖にもやいして岸には着かない大ぶね。艇は、挺(まっすぐ)と同系で、直進するはやぶね。艦(カン)は、いかめしいいくさぶね。異字同訓に船「船の甲板。船で帰国する。船旅。親船」。「ふね」は「船」とも書く。

語義

  1. {名詞}ふね。まわりをとりまいて、水がはいらないようにしたふね。▽漢代には東方では舟、西方では船といった。《類義語》船。「軽舟(こぶね)」「舟車之便(シュウシャノベン)(交通の便)」「以為舟、則沈=以て舟と為せば、則ち沈む」〔荘子・人間世〕
  2. {名詞}尊(ソン)(酒つぼ)の下に敷くうけ台。うけざら。
  3. {動詞}まわりをとりまく。めぐらす。《同義語》周。《類義語》帯。「何以舟之=何を以てかこれに舟らさん」〔詩経・大雅・公劉〕
  4. 《日本語での特別な意味》ふね。水などの液体を入れるおけ。また、酒やしょう油をしぼるおけ。「湯舟」「酒舟」。

字通

[象形]舟の形。〔説文〕八下に「船なり」とあり、「古者、共鼓・貨狄、木を刳(く)りて舟と爲し、木を剡(けづ)りて楫(かぢ)と爲し、以て通ぜざるを濟(わた)すなり」という起源説話をしるしている。もと盤と同形で、盤の初文般は舟に従う。ものを授受するとき盤を用いたので、受・賸(よう)の初形は舟の形を含む字であった。また止(あし)を洗う形の歬(前の初文)、余(はり)で膿血を除く兪(愈の初文)も、盤の形である舟に従っている。

州(シュウ・6画)

州 金文
作周公簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtɕ(平)。呉音は「ス」。

学研漢和大字典

象形。川の中になかすのできたさまを描いたもので、砂地の周囲を、水がとり巻くことを示す。欠けめなくとり巻く意を含む。周囲の周(まわりをとり巻く)・舟(周囲をとり巻いて水のはいらぬふね)などと同系。洲は、州にさんずいを添えた字。大陸のことを、特にアジア洲のように書いたこともあるが、州・洲は区別するに及ばない。▽「洲」の代用字としても使う。「州・座州」。

語義

  1. {名詞}す。しま。なかす。砂がたまって、水面に出た陸地。《同義語》⇒洲。「三角州(サンカクス)」。
  2. {名詞}大陸。《同義語》⇒洲。「アジア州」「欧州」。
  3. {名詞}上古の中国では、名山大川にちなんで、全国を九つの州にわけた、その一つ。▽九州とは、冀(キ)州・芽(エン)州・青州・幽州・揚州・荊(ケイ)州・予州・并(ヘイ)州・雍(ヨウ)州をいう。▽異説もある。
  4. {名詞}地方の行政区画。周代では、約二千五百戸を州といい、明(ミン)・清(シン)時代には一省を数十にわけ、大きいのを州、小さいのを県といった。「州郡」「跨州連郡=州に跨り郡に連なる」〔蜀志・諸葛亮〕
  5. {形容詞}なかすのように、まとまっているさま。

字通

[象形]川の州の形に象る。〔説文〕十一下に「水中の居るべき者を州と曰ふ。水、其の側を周繞(しうぜう)す。重川に從ふ」(段注本)という。デルタ状の地形をいうものであろうが、州渚の意にも用いる。また水流によって区画された地域をいい、のち行政の区画名に用いる。洲はのちの俗字である。

秀(シュウ・7画)

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のs(去)のみ。藤堂上古音はt’uk。

学研漢和大字典

会意。「禾(禾本科の植物)+乃(なよなよ)」で、なよなよした稲の穂がすらりと伸びることを示す。修(すらりと形の整った)・脩(シュウ)(細長い干し肉)・蕭(ショウ)(ほそい)などと同系。類義語の優は、しなやかなしぐさをする人で、エレガントなこと。俊は、すらりとひいでた人で、スマートなこと。

語義

  1. (シュウス)(シウス){動詞・名詞}すらりと高く穂や花になる芽が出る。また、すらりとぬきんでた穂。「秀而不実者、有矣夫=秀して実らざる者、有るかな」〔論語・子罕〕
  2. {動詞・形容詞・名詞}ひいでる(ひいづ)。すらりと高く出る。また、ほかの人よりすぐれる。目だってすぐれたさま。すらりとして美しいさま。また、すぐれたもの。▽訓の「ひいづ」は「ひ(穂)+いづ(出)」から。「秀逸」「秀才」「眉目秀麗(ビモクシュウレイ)」。

字通

[象形]禾穀(かこく)の穂が垂れて、花が咲く形。禾頭から華を吐いている形である。〔説文〕七上に「上(しゃう)の諱(いみな)なり」として、説解を加えていない。後漢の光武帝の名は劉秀、その諱(いみな)を避けたのである。〔玉篇〕に「出なり、榮なり」と訓する。「出なり」とは近い声を以て訓したものであろう。〔段注〕に字を禾と人とに従い、人(じん)とは果穀の実をいうとするが、人の形のところはしべのあらわれている形。その落ちたものを禿(とく)という。花英の意より、俊秀の意に用いる。

周(シュウ・8画)

論語 周 金文
成周鈴・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶ(平)。藤堂上古音はtiog。『大漢和辞典』の第一義は”いきとどく”。

学研漢和大字典

周 解字
会意文字で、「田の中いっぱいに米のある形+口印」で、欠け目なく全部に行き渡る意を含む。「稠密(チュウミツ)」の稠の原字。また、口印はくちではなくて四角い領域を示し、全部にまんべんなく行き渡ることから周囲の意となる。州(まんべんなく取り巻いた砂地)・舟(ふちを取り巻いて水がはいらないようにしたふね)と同系のことば。

意味

  1. (シュウス)(シウス){動詞・形容詞}あまねし。すみずみまで欠け目なく行き届いている。転じて、すべての人と欠け目なくまじわっている。また、そのさま。「周到」「君子周而不比=君子は周して比せず」〔論語・為政〕
  2. (シュウス)(シウス){動詞}欠け目なく全部をまとめる。不足を補い満たす。《同義語》⇒潦。「周全」「君子周急不継富=君子は急を周して富を継がず」〔論語・雍也〕
  3. {名詞}まわり(まはり)。あるものの周囲。「一周」「死於道周=道周に死す」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  4. {動詞}めぐる。周囲をぐるりとまわる。《同義語》⇒週。「流水周於舎下=流水舎下を周る」〔白居易・与微之書〕
  5. {名詞}中国古代の王朝名。武王が殷(イン)を滅ぼしてたてた。もと西北中国の遊牧民であったが、陝西(センセイ)の岐山(キザン)に移り、農耕をおこした。武王のとき、殷の紂(チュウ)王をうって華北・華中を統一し、鎬京(コウケイ)(今の陝西省西安付近)に都を置いて漢文化の基礎を築いた。のち、紀元前七七〇年に犬戎(ケンジュウ)の侵攻によって東遷し、都を洛邑(ラクユウ)(洛陽)に移した。それ以前を「西周」、以後を「東周」といい、三十七代続いたが、紀元前二五六年に秦(シン)に滅ぼされた。
  6. {名詞}王朝名。中国の南北朝時代、北朝の一つ。宇文覚がたてた。「北周」「後周」ともいう。五代二十五年で、隋(ズイ)に滅ぼされた。
  7. {名詞}国名。唐の高宗の皇后則天武后がとなえた国号。「武周」ともいう。
  8. {名詞}王朝名。五代の一つ。郭威が後漢(コウカン)に次いでたてた。三代十年で滅びた。「後周(コウシユウ)」ともいう。

字通

たて+口。周の国号に用いる字は、卜文(甲骨文)では方形の干を四分して、彫り飾りの点を加えた形、金文に至って下に祝禱の器の形である𠙵さいを加える。彫飾が稠密であることから、”あまねくめぐる”の意になった。

その盾が周族の徽号的な聖器だったらしく、その器に祈って行動したので、周が国号・王号になった。

受(シュウ・8画)

論語 受 金文

頌簋・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のȡ(上)のみ。藤堂上古音はdhiog。論語の時代、「授」カ音ȡ(去)、藤音dhiogと書き分けられていない。「ジュ」は慣用音、呉音は「ズ」。

学研漢和大字典

形声。「爪(て)+又(て)+(音符)舟」。舟は音符で、ふねには関係がない。Aの手からBの手に落とさないように渡し、失わないようにうけとるさまを示す。守(しっかり持つ→まもる)と同系。類義語の承は、両手でささげてうける。異字同訓に請ける「請け負う。下請け」。もらうがわからは受といい、渡すがわからは授という。受と授は、同じ動作の両面にすぎない。

語義

  1. {動詞}うける(うく)。手中にうけとる。「受領」「拝而受之=拝してこれを受く」〔論語・郷党〕
  2. {動詞}うける(うく)。うけ入れる。「受諾」「太子受而舎之=太子受けてこれを舎せしむ」〔史記・荊軻〕
  3. {動詞}うける(うく)。よい物をうけとる。授かる。「受賜=賜を受く」。
  4. {動詞}うける(うく)。ひどいめにあう。「受罰=罰を受く」「幽囚受辱=幽囚せられて辱を受く」〔史記・管仲〕
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①うけ。人にうけとられる印象。また、物をうけ入れる容器。「気受け」「受けがよい」「郵便受け」。
    ②うける。うかる。うけ入れて、それに応ずる。「受験」。

字通

[会意]𠬪(ひょう)+舟(しゅう)。舟は上下の手。舟は盤の形。盤中にものを入れ、これを授受することをいう。〔説文〕四下に「相ひ付(わた)すなり」とし、舟の省声とするが、舟を声符に用いる字ではない。「朕(おく)る」「般(はこ)ぶ」など、みなその器を用いる。〔周礼、春官、司尊彝〕に、彝(い)の下に「皆舟あり」、その〔注〕に「今時の槃(ばん)の若(ごと)し」とあり、舟が盤の形の器である。受は金文に授・受の両義に用い、のち授・受の二字に分かれた。

臭/臭(シュウ・9画)

臭 金文
子臭卣・商代末期あるいは西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のȶʰ(去)のみ。藤堂上古音はkjogまたはkɪog(共に去)。大陸や台湾では、「臭」を正字として扱っている。

学研漢和大字典

会意。犬は、よく鼻でにおいをかぐいぬ。臭は「自(はな)+犬」で、ひろくかぐことをあらわした字。もとは臭・嗅(キュウ)は同じ字であったが、のち「におい」「かぐ」の二つに分用された。略字では、下部を「大」に改めた。類義語に匂。旧字「臭」は人名漢字として使える。

語義

シュウ
  1. {名詞}におい(にほひ)。鼻をとおして感じるにおい。後世おもに、悪いにおいのこと。「悪臭」「臭悪不食=臭の悪しきは食らはず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞・形容詞}くさい(くさし)。いやなにおい。いやな。「臭気」「臭聞」。
キュウ
  1. {動詞}かぐ。鼻の穴をとおして、においをかぐ。《同義語》⇒嗅。「三臭之不食也=三たびこれを臭げども食らはず」〔荀子・礼論〕

字通

[会意]旧字は臭に作り、自(じ)+犬。自は鼻の象形字。犬は嗅覚のすぐれたものであるから、自(鼻)と犬とを以て臭香の字とする。〔説文〕十上に「禽走りて、臭(か)ぎて其の迹を知る者は犬なり」という。臭はもと芳・臭を分かたずに用い、〔易、繫辞伝上〕に「其の臭、蘭の如し」と蘭芳を臭といい、〔礼記、内則〕に「皆容臭を帶ぶ」とは、香嚢をいう。のち臭腥・臭穢の意となり、人に移して臭行・臭聞のようにいう。

首(シュウ・9画)

論語 首 金文
外字作周公簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のɕ(上)のみ。藤堂上古音はthiog。「シュ」は呉音。

学研漢和大字典

象形。頭髪のはえた頭部全体を描いたもの。抽(チュウ)(ぬけ出る)と同系で、胴体から抜け出たくび。また、道(頭をむけて進む)の字の音符となる。類義語に領。からだの部分の意味の「くび」は「頸」とも書く。「こうべ」は普通「頭」と書く。また、「おさ」は普通「長」と書く。

語義

  1. {名詞}くび。こうべ(かうべ)。かしら。あたまとそれを支えるくびのこと。「首級(くび)」「愛而不見、惜首踟狷=愛すれど見えず、首を惜(か)きつつ踟狷(ちちゅう)す」〔詩経・癩風・静女〕。「首足、異門而出=首足、門を異にして出づ」〔春秋穀梁伝・定一〇〕
  2. {名詞・動詞}はじめ。はじめる(はじむ)。先頭。また、一ばんめのもの。最初の口火を切る。先がけとなる。「首子」「首席」「身被堅執鋭首事=身に堅を被り鋭を執り事を首む」〔史記・項羽〕
  3. {名詞}かしら。人々の中でおもだっていて、人々を率いる人。おさ。「元首」「首領」。
  4. {単位詞}詩歌を数えることば。「詩一首」。
  5. (シュス){動詞}罪を申し出る。白状する。▽去声に読む。「自首」。
  6. {動詞}むかう(むかふ)。おもむく。頭をむける。▽去声に読む。「或偃然北首=或いは偃然として北に首かふ」〔韓愈・南山詩〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①かみ。四等官で、署の第一位。
    ②おびと。つ部曲(トモベ)の長。づ上代のかばねの一つ。
    ③しるし。戦いでとった敵の首。

字通

[象形]頭髪のある首の形。古文は𦣻(しゅ)に作り、〔説文〕九上に「𦣻同じ。古文𦣻なり。巛は髮に象る。之れを鬊(しゅん)と謂ふ。鬊は卽ち巛なり」とするが、巛を含めて象形の字である。儀容を示す頁(けつ)の字形からいえば、𦣻は髪を整えた首の形であろう。金文に「拜𦣻𩒨首(けいしゆ)」のようにしるす例があり、手と同音の字であった。首長・首謀のように用いる。首を倒懸する形は𥄉(きよう)、懸繋することを縣(県)という。

修(シュウ・10画)

初出は前漢の篆書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はs(平)。同音多数。同音の「脩」の初出は戦国末期の金文。部品のユウd(平)の初出は甲骨文。「修に通ず」と『大漢和辞典』に言う。論語の時代の金文にも存在する。
攸 大漢和辞典

学研漢和大字典

会意。攸(ユウ)は、人の背中にさらさらと細く長く水を注いで行水させるさまを示す会意文字で、隼(シュウ)(細長くたれる水)の原字。修は「彡(飾り)+攸(細長い)」で、でこぼこやきれめがなくてすらりと細長く姿が整ったことをあらわす。脩(シュウ)(細長いほし肉)・秀(すらりと細長く高くひいでる)・痩(ソウ)(細長くやせた)と同系。類義語に治。異字同訓におさまる・おさめる⇒収。「おさめる」の意のときは「脩」と書くこともある。

語義

  1. {動詞}おさめる(をさむ)。でこぼこをとり去り、すらりとした形に整える。物や文章を形よくする。「行人子羽、修飾之=行人の子羽、これを修飾す」〔論語・憲問〕。「修其祖廟=其の祖廟を修む」〔中庸〕
  2. {動詞}おさめる(をさむ)。性質や品行のかどだった点をとり去り、すらりとした人がらにする。「修養」「修己以安人=己を修めて以て人を安んず」〔論語・憲問〕
  3. {動詞}おさめる(をさむ)。資料を添削して編集し、すらりとした書物の形に整える。「退而修詩書礼楽=退いて詩書礼楽を修む」〔史記・孔子〕
  4. {動詞}おさめる(をさむ)。欠けた点を補い繕ってすらりとした形にまとめる。「修我牆屋=我が牆屋を修む」〔孟子・離下〕
  5. {形容詞・名詞}すらりと長い。また、長さ。▽脩(シュウ)に当てた用法。「修竹(細長い竹)」。
  6. 《日本語での特別な意味》梵語(ボンゴ)「シュ」の音訳字。「修羅(シュラ)」。

字通

[会意]攸(ゆう)+彡(さん)。攸は人の背後に水をかけて洗う形で、みそぎをすること。彡は清められたことを示す記号的な文字。修祓を示す字である。〔説文〕九上に「飾るなり」とあり、払飾する意。修祓・修禊が字の本義。それより修治・修理の意となり、修辞・修撰の意となる。修祓のとき用いるものは條(条)、それで滌(あら)うことを滌(でき)という。

習(シュウ・11画)

論語 習 甲骨文 論語 習 金文
(甲骨文・金文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzi̯əp(入)。

甲骨文では、「習一卜」「習二卜」「習三卜」「習四卜」のように用いられ(→甲骨文合集)、占いを”なれて繰り返した”ことを意味している。上掲の金文は『字通』独自のもので、出典が不明。これ以外の「習」の金文は、現在見つけられない。

学研漢和大字典

「羽+白」の会意文字で、羽を重ねること、または鳥がなんども羽を動かす動作をくり返すことを示す。この白は、自の変形で、「しろ」ではなく、替の下部と同じく動詞の記号である。シュウ(重ねる)-シュウ(衣を重ねてつくるひだ)-襲(衣をいくえにも重ねる)などと同系のことば。▽ホウは、並べて見くらべてまねること、慣は、一貫してかえないこと。

意味

  1. {動詞}ならう(ならふ)。いくえにも重ねる。広く、なんども重ねて身につける。「学習」「講習」「学而時習之=学びて時にこれを習ふ」〔論語・学而〕
  2. {動詞}ならう(ならふ)。なんどもくり返してなれしたしむ。「習熟」「習見(見なれている)」「明習法令=明らかに法令に習ふ」。
  3. {名詞}ならわし(ならはし)。ならい(ならひ)。長い間重ねてなれたやり方。《類義語》慣。「習慣」「因習」「性相近也、習相遠也=性相ひ近き也、習相ひ遠き也」〔論語・陽貨〕
  4. 「近習(キンジュウ)」とは、主君の身近にいて見なれたそばづきの家来。
  5. 「習習(シュウシュウ)」とは、重なるさま。「習習谷風=習習たる谷風」〔詩経・邶風・谷風〕

字通

羽+えつ。〔説文〕四上に、「しば〻飛ぶなり」とし、〔段注本〕ははく声とするが、声が合わない。金文の字形は曰に従い、曰は祝禱*を収めた器。これを羽でってくりかえし、その呪能を発することを促す行為を習という。これは神意を弄ぶ行為であるから、あまりしばしばすると褻翫*の意となり、狎習*の意となる。羽は呪飾に用い、また呪儀に用いる。曰に対して呪儀的に行為することを示す字に論語 外字 ユウ すすむ たすくゆう(両手を加えて、すすたすける)、たい(替、しんけい*を加える)、しん(しんかんざしを加えて譖*する)などがあり、この種の呪儀のあったことが知られる。習は祝禱に対して、褻翫の意をもつ行為である。

訓義

くりかえす、祝告を羽でなでることをくりかえす、ならう、なれる。かさねる、つづける、つもる。したしむ、かろんずる。てなれる、よくできる。


*祝禱:シュクトウ、神に告げて祈る。お祈り。/褻翫:セツガン、なれもてあそぶ。/狎習:コウシュウ、なれる。習熟する。/簪笄:かんざしとこうがい=髪をかき上げるかんざしの一種。元はかゆい頭をく道具。/譖:シン・セン。うったえる。

部首

〔説文〕に翫をこの部に属し、〔玉篇〕に𣤊(ろう)の字を加える。翫は玩と同じく、呪的な意味をもって常時に弄ぶ意。𣤊も呪的な意をもつ字であろう。

声系

〔説文〕に習声として謵・熠・慴・摺など七字を収める。謵・慴・摺は習の呪儀と関係のある字で、その声義を承けるものとみてよい。

語系

習・襲ziəpは同声。ともにかさねる意がある。疊(畳)・褻dyapも声近く、褻に翫褻の意がある。咠tsiəp、集dziəp、雜(雑)dzəpなども、くりかえして煩雑の意を含む語である。

大漢和辞典

説文通訓定声に従えば、会意。羽と白(自の字、自は鼻の本字)との合字。雛が親鳥に倣い羽ばたいてしば〻飛ぶと、その気息が口鼻に現れるにより、羽と白とを合わせて、雛が飛び方をならいまなぶ意を表す。

字解

ならう、雛が翼を動かしてとび方を練習する。よく知る、よくできる。なれる。ならす。ならい。かさなる。かさねる。つむ、つもる。調節。なれ親しんでいる者。姓。

終(シュウ・11画)

論語 終 金文
頌鼎・西周末期?

初出は甲骨文。カールグレン上古音はt(平)。藤堂上古音はtioŋ。上掲の金文は、春秋早期の「外字作周公簋」に記された「冬」の字に類似しており、甲骨文の形は「冬」と全く同一。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、冬(トウ)は、冬の貯蔵用の食物をぶらさげたさまを描いた象形文字。のち日印や冫印(氷)を加えて、寒い季節を示した。収穫物をいっぱいたくわえた一年のおわり。中(なかにいっぱい)・蓄(中いっぱいにたくわえる)と同系のことば。

終は「糸+(音符)冬」で、糸巻きに糸をはじめからおわりまで、いっぱい巻いて蓄えた糸の玉。最後までいきつくの意を含む。類義語の畢(ヒツ)は、ぴたりと押さえてすべてけりがつくこと。了は、余分をからげて、ひと区切りつけること。

意味

  1. {動詞}おわる(をはる)。おえる(をふ)。物事が最後の段階まで進行してそれでおしまいになる。最後までいきつく。《対語》⇒始。《類義語》畢(ヒツ)・了。「終了」「得終其天年=其の天年を終ふるを得」〔荘子・山木〕
  2. {名詞}おわり(をはり)。物事のおしまい。また、人間のさいご。死。「臨終=終はりに臨む」「終焉(シュウエン)」。
  3. {副詞}おわりに(をはりに)。→語法「①」。
  4. {副詞}ついに(つひに)。→語法「②」。
  5. 「一終」とは、一つの楽章のこと。また、十二年間のこと。▽歳星(木星)が十二年間で一公転することから。

語法

①「おわりに」とよみ、「最後に」と訳す。「終論平生交分=終はりに平生の交分を論ず」〈最後に普段の交友を言っておこう〉〔白居易・与微之書〕
②「ついに」とよみ、「しまいには」「しまいまで」と訳す。前後の状況を見通して、はじめからおわりまでという意を示す。「管仲貧困、常欺鮑叔、鮑叔終善遇之、不以爲言=管仲貧困にして、常に鮑叔を欺くも、鮑叔終(つひ)に善くこれを遇し、もって言を爲さず」〈管仲は貧乏のあまり、しょっちゅう鮑叔をだましたが、鮑叔はずっと好意を捨てず、とやかく不平を言わなかった〉〔史記・管晏〕

字通

[形声]声符は冬(とう)。冬は古音終(しゆう)。糸の末端を結びとめた形で、終の初文。終は〔説文〕十三上に「絿絲(きうし)なり」とあり、糸を締める意とするが、末端を結んで終結とする意である。ゆえに、ことの終わることをいい、終わるまでを始終という。

脩(シュウ・11画)

論語 脩 金文
『字通』所収金文

初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音は声母のs(平)のみで、sを声母に持つ漢字は膨大にあるが、藤堂上古音ならsiog。そして部品のユウd(平)(藤音ḍiog。下〇は下点で代用。無声音を示す)の初出は甲骨文。論語の時代の金文にも存在する。

辞書が「ほじし」”干し肉”と解しているのは、南北朝時代の儒者・皇侃のデタラメで、根拠が無い。詳細は論語における束脩を参照。

学研漢和大字典

会意。攸(ユウ)は、人の背に細ながく水を流すさま。脩は「肉+攸」で、細ながく引きさいた肉。秀(すらりと細ながい)・痩(ソウ)(細ながくやせた)などと同系。

語義

  1. {名詞}ほじし。肉をほして細ながくさいたもの。▽訓の「ほじし」は、「干したしし(肉)」のつづまったもの。「束脩(ソクシュウ)(先生へのお礼。生徒が先生に対する月謝には、脩を束ねて用いた)」。
  2. {動詞・形容詞}おさめる(をさむ)。ながい(ながし)。すらりと姿を整える。すらりと細ながい。はるかに遠い。▽修に当てた用法。《対語》⇒短。「脩身=身を脩む」「脩竹(シュウチク)」。

字通

[形声]声符は攸(ゆう)。〔説文〕四下に「脯(ほ)なり」とあり、脯字条に「乾肉なり」とあって、儀礼のとき贈答に用いるほじしをいう。〔周礼、天官、膳夫〕に、肉脩の頒賜のことがみえる。礼物として束ねて用いるので束脩(そくしゆう)といい、わが国の「のし」は、その古礼のなごりである。攸は背を水で滌(あら)うみそぎの形。そのとき用いる束ねた草木の枝を條(条)といい、そのように長く切りそろえて束ねた乾肉を脩という。それで脩に永長の意があり、宋の欧陽脩は字を永叔という。修はみそぎして修潔となる意の字であるが、脩と通用することが多い。

授(シュウ・11画)

論語 受 金文
頌簋・西周末期

初出は甲骨文。原版はこちらを参照。カールグレン上古音は声母のȡ(去)のみ。「受」ȡ(上)と音は同じ。藤堂上古音はdhiog(去)。金文の通用した論語の時代、「受」と書き分けられていない。「ジュ」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。受は「爪(て)+又(て)+(音符)舟」からなる形声文字で、物を手から手に渡して受けとること。舟は音符で意味に関係はない。授は「手+(音符)受」で、渡して受けとらせること。▽受と授は、一つの動作の両面をあらわすにすぎない。守(シュ)(受けとってしっかり持つ)と同系。参考もらうがわからは受といい、渡すがわからは授という。受と授は、一つの動作の両面をあらわすにすぎない。

語義

  1. {動詞}さずける(さづく)。手から手へ与える。受け取らせる。「授与」「天授」「授之以政=これに授くるに政を以てす」〔論語・子路〕
  2. {動詞}さずける(さづく)。だれかに何かを与える。「授之書=これに書を授く」〔韓愈・師説〕
  3. {動詞}さずける(さづく)。官位や命令を与える。また、与えられる。「授成都府参軍=成都府参軍を授けらる」〔李娃伝〕

字通

[形声]声符は受(じゅ)。受は舟(盤の形)の中にものを入れ、これを授受する形の字である。金文では受を授・受の両義に用いた。〔説文〕十二上に「予(あた)ふるなり」とあり、授与することをいう。

崇(シュウ・11画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdʐʰ(平)。同音は愁のみ。藤堂上古音はdzïoŋ。「スウ」は慣用音。呉音は「ズウ」。近音同義に「尚」(藤堂上古音dhiaŋ)「上」(同)

学研漢和大字典

形声。「山+(音符)宗」で、↑型にたかいこと。転じて、↑型に貫く意を派生した。縦(ショウ)(たて)・嵩(スウ)(縦にたかい)などと同系。類義語に高。祟(スイ)と混同しやすい。崇は「山+宗」。祟は「出+示」で「たたる・たたり」などの意味をもつ字。

語義

  1. {形容詞}たかい(たかし)。山が縦にたかくそびえているさま。転じて、けだかい。《同義語》⇒嵩。「崇高」「崇山峻嶺(スウザンシュンレイ)(たかい山々)」。
  2. {動詞}たっとぶ。あがめる(あがむ)。たかくそびえるものをあがめる。たかくもちあげる。「崇拝」「崇財利=財利を崇ぶ」〔漢書・貢禹〕
  3. {動詞}おえる(をふ)。おわる(をはる)。おわりまでつらぬき通す。「曾不崇朝=曾ぞ朝を崇へざる」〔詩経・衛風・河広〕

字通

[形声]声符は宗(そう)。〔説文〕九下に「嵬(たか)くして、高きなり」とあり、字はまた嵩・崧と通用する。山の崇高の意より、人の徳性の上に移して、尊崇・崇尚のように用いる。

※嵩s(平)の初出は楚系戦国文字。崧s(平)の初出は不明

羞(シュウ・11画)

羞 金文
魯伯愈父鬲・春秋早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はs(平)。

学研漢和大字典

会意。「羊+丑(手をちぢめた形)」で、羊の肉を手で細く引きしめる意をあらわす。引きしぼる、細くちぢむの意を含む。脩(シュウ)(細くしぼった干し肉)・縮と同系。類義語に恥。「はじる」は普通「恥じる」と書く。

語義

  1. {動詞}すすめる(すすむ)。ごちそうを人にすすめる。
  2. {名詞}細く引きさいた肉。転じて、ごちそう。《同義語》⇒脩。「時羞(ジシュウ)(その季節の食べ物)」。
  3. {名詞}はじ(はぢ)。身が縮まる感じ。《類義語》恥。「不恒其徳、或承之羞=其の徳を恒にせざれば、或いはこれが羞を承く」〔論語・子路〕
  4. {動詞・形容詞}はじる(はづ)。はずかしい(はづかし)。はずかしくて身の縮む思いをする。肩身がせまい。
  5. {動詞}はずかしめる(はづかしむ)。相手に肩身のせまい思いをさせる。名誉などをけがす。「以羞先帝之遺徳=以て先帝の遺徳を羞しむ」〔漢書・文帝〕

字通

[会意]羊+丑(ちゅう)。羊は羊牲。丑は指先に力を入れてものを持つ形。羊肉を祭事に薦めることを「羞(すす)む」という。〔説文〕十四下に「進め獻ずるなり」とあり、膳羞の意。また丑を亦声とするが、卜文・金文の字形は羊と又(ゆう)とに従っており、それがもとの形である。羞悪・羞恥の意があり、醜の仮借義とする説もあるが、〔左伝、襄十八年〕「神の羞を爲す」のように、神に恥を羞(すす)める意であろう。

就(シュウ・12画)

就 金文
散氏盤・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzʰ(去)。藤堂上古音はdziog。上掲の金文は就 異体字 外字の書体で書かれている。

学研漢和大字典

会意。「京(おおきいおか)+尤(て)」で、大きい丘に設けた都に人々を寄せ集めるさまを示す。よせ集めてある場所やポストにひっつけること。転じて、まとめをつける意にも用いる。揪(シュウ)(引きしめまとめる)と同系。

類義語の付・副は、主たるもののそばにぴたりとよりそうこと。著(チャク)・着(チャク)は、くっついてじっととまること。異字同訓に付。

意味

  1. {動詞}つく。ある物事・人物につき従う。《対語》⇒去・離。「就酔=酔に就く」「就有道而正焉=有道に就いて正す」〔論語・学而〕
  2. {動詞}つく。その場所までいく。ある所にひっつく。「就第=第に就く」「此人可就見、不可屈致也=此の人就きて見るべく、屈して致すべからざるなり」〔蜀志・諸葛亮〕
  3. {動詞}つく。しはじめる。「就緒=緒に就く」「三径就荒=三径荒に就く」〔陶潜・帰去来辞〕
  4. {動詞}なる。なす。物事が成功する。物事がまとまる。「成就」「軻自知事不就=軻自ら事の就らざるを知る」〔史記・荊軻〕。「可以就大事=以て大事を就すべし」〔蘇軾・留侯論〕
  5. {接続詞}《俗語》すなわち(すなはち)。…すると。そこで。すぐ。▽古典語の則・即に当たる俗語。
  6. 《日本語での特別な意味》つき。(ア)…に関して。(イ)それが原因・理由で。…のために。「病気に就き」て…に対して。ごとに。「一回に就き」。

字通

[会意]京+尤(ゆう)。尤は犬の形。〔説文〕五下に「高きなり」とし、「尤は凡に異なるなり」とする。〔繫伝〕に「尤高は、人の就く所の處なり」とし、いずれも就を尤高の意とするが、その義に用いた例はない。京は京観の象。戦場の屍骨を収め、これを塗りこんで建てる軍門の建物で、のちの凱旋門にあたる。建物が完成すると、牲血を濺(そそ)いで修祓する釁礼(きんれい)を行う。就はおそらく落成のとき犬牲を用いるもので、ゆえに成就の意となる。それよりことがはじまるので「緒に就く」といい、就学・就業のようにいう。

眾/衆(シュウ・12画)

論語 衆 金文 論語 衆
師㝨簋・西周晚期

「眾」と同じ。初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のt(去)のみ。藤堂上古音はtioŋ。

郭沫若 藤堂明保
現中国政権成立後、中国で漢学の親分格だった郭沫若が、毛沢東と共産党のやらかした無差別大量殺人に震え上がって、”灼熱の太陽の下で大勢の人が働くさま”と解してごまをすり、同時期に頭が真っ赤になってしまった藤堂博士もその線に沿った解釈をした。

しかしソヴィエトロシアでペテルブルクをレニングラード、ボルゴグラードをスターリングラードと言い換えたのと同じで、こういう政治的解釈は長持ちせず、もとより間違いである。

なお藤堂博士は主義のためには東大教授も辞めてしまう硬骨漢だったが、郭沫若は変転常ならぬ時の権力者を渡り歩いてゴマをすり、学界の大立て者としてチヤホヤされた人生を全うした。この男のように、中国のインテリの言うことは昔も今も、ぜんぜん当てにならない。

学研漢和大字典

会意。「日(太陽)+人が三人(おおくの人)」で、太陽のもとでおおくの人が集団労働をしているさま。上部は、のち誤って血と書かれた。充(シュウ)・(ジュウ)(いっぱいつまる)・蓄(たくさんたまる)などと同系。類義語に民。

語義

  1. {名詞}おおぜいの人。▽もと、おおくの臣下、または庶民をさしたが、今では大衆の意に用いる。衆は、集団をなした人間にしか用いない。《類義語》庶。「衆庶」「群衆」「衆悪之、必察焉=衆これを悪むも、必ず察せよ」〔論語・衛霊公〕
  2. {形容詞}おおい(おほし)。おおくの。また、数がおおい。転じて、ふつうの人の。人並みの。「衆工(多くの専門職)」「衆賓(シュウヒン)(おおくの客)」「衆子(長男をのぞく、おおくの子どもたち)」「衆口」。
  3. {名詞}一般の僧たち。「衆徒(僧たち)」。
    《日本語での特別な意味》「衆議院」の略。「衆参両院」。

字通

[会意]目+三人。目は古くは囗(い)の形に作り、邑の外郭を示す。その下に人の跪居する形は邑。三人を列する形は衆であるから、衆とは邑人をいう語である。〔説文〕八上に「多きなり」とあり、衆多の意とする。卜文の字形に、囗を日の形にしるすものがあり、郭沫若は灼熱の日の下に労働する奴隷の意としたが、卜文では囗(邑)に従う字形が多い。金文に目に従う字が多くなるのは、神の徒隷とされた臣や民が、目の形に従い、あるいは目を傷なう形にしるされていることと関係があろう。金文には衆僕の語があり、戦争に従い、農耕に従う例がある。衆は集合名詞的な語であるから、特定の氏人としての身分を失ったものの称と考えられる。

集(シュウ・12画)

集 金文
毛公鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzhi̯əp(入)。近音同義に亼tsjəp(入)、初出は説文解字。戢tʂi̯əp(入)、初出は説文解字。揂・上古音不明、初出は説文解字。揖ʔi̯əp(入)、初出は説文解字

学研漢和大字典

会意。篆文(テンブン)は「三つの隹(とり)+木」の会意文字で、たくさんの鳥が木の上にあつまることをあらわす。現在の字体は隹を二つ省略した略字体。▽語尾のpがtに転じたばあいは、シッと発音する。雑(いろいろな色をあつめた衣)・緝(繊維をあつめあわせて糸にする)・輯(シュウ)(まとめる)と同系。類義語に斂。「輯」の代用字としても使う。「集・特集・編集」また、「蒐」の代用字としても使う。「集荷」また、「聚」の代用字としても使う。「集落」。

語義

  1. {動詞}あつまる。つどう(つどふ)。あつめる(あつむ)。たくさんの物や人が、ひと所に寄りあう。また、寄せあつめる。《同義語》⇒輯。《対語》⇒散。「集中」「集散」。
  2. {動詞}とどまる。とどめる(とどむ)。ひと所にとまる。とめる。「翔而後集=翔りて而る後に集まる」〔論語・郷党〕。「親集矢於其目=親ら矢を其の目に集む」〔春秋左氏伝・襄二〕
  3. {動詞}いたる。なす。なる。まとめる。ある状態に達する。また、物事をなしとげる。物事ができあがる。《類義語》蒐(シュウ)・就。「集成」「集事=事を集す」「我行既集=我が行既に集る」〔詩経・小雅・黍苗〕
  4. {動詞}なる。ひとつにまとまる。なつく。まとまって調和する。《類義語》輯(シュウ)・緝(シュウ)。「集睦(シュウボク)」「天下未集=天下いまだ集らず」〔漢書・荊燕呉・賛〕
  5. {名詞}詩文をあつめてつくった書物。また、そのシリーズ。▽四部(書籍の四つの分類)の一つとしても用いる。「詩集」「陶淵明集」。
  6. {名詞}常設でない市場(イチバ)。郷村にたつ市(イチ)。▽転じて、市のたつ村落の地名にそえることば。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①つどい(つどひ)。あつまり。会合。集会。
    ②あつまり。たくさんのものがあつまったもの。また、あつまり方。

字通

[会意]正字は雧に作り、雥(そう)+木。群鳥が木に集まる形。〔説文〕四上に「群鳥、木上に在るなり」とあり、のち集の字を用いる。〔詩、唐風、鴇羽(はうう)〕「苞栩(はうく)に集(とど)まる」とあるのが初義。〔詩、大雅、大明〕「有命旣に集(な)る」とあるのは、金文の〔毛公鼎〕に「維(こ)れ天、丕(おほ)いに厥(そ)の命を集(な)す」とあるのと同じく、就とその声義が通ずる用法である。鳥の集散する状態によって、ことの成否を卜する鳥占(とりうら)の俗があったのであろう。

廋(シュウ・13画)

廋(ソウ/シュ(シュウ)・13画)

獸/獣(シュウ・16画)

獣 金文
王子午鼎・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕ(去)。「ジュウ」は慣用音。呉音は「シュ」。

学研漢和大字典

会意。「單(=単。小動物をたたく、はたき)+口(かこい)+犬」で、囲いの中に追いつめて捕らえる動物をあらわす。狩と同系で、もと狩りのえもののこと。転じて、けだものの意となる。旧字「獸」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}けもの。けだもの。四本足で全身に毛を生やした動物の総称。また、転じて、野生のけだもの。「禽獣」。
  2. {名詞}ほじし。ほした肉。

字通

[会意]旧字は獸に作り、嘼(きゆう)+犬。嘼は〔説文〕十四下に「㹌(さん)なり。耳頭足、地を厹(ふ)むの形に象る」と家畜の意に解するが、嘼の上部は單(単)、羽飾りのある楕円形の盾の形、下部の口は祝詞を収める器(𠙵(さい))の形で、狩猟に先だって収獲を祈る儀礼を示す。それに猟犬を加えて狩猟の意を示したもので、獸は狩の初文。卜文・金文には狩猟の狩を獸としるし、卜辞には狩することを「獸せんか」のようにいう。のち獸は獣畜の意となり、狩が狩猟の字となった。

襲(シュウ・22画)

襲 金文
戈冬方鼎・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はdzi̯əp(入)。同音に習など。

学研漢和大字典

会意兼形声。襲の上部は、もと龍を二つ並べた字(音トウ)で、かさねるの意をあらわす。襲はそれを音符とし、衣を加えた字で、衣服をかさねること。踏(トウ)(足ぶみをかさねる)・習(シュウ)(かさねる)・摺(ショウ)(かさねる)などと同系。類義語に重。

語義

  1. {動詞}かさねる(かさぬ)。衣服をかさねて着る。また、物事をかさねる。「襲衣=衣を襲ぬ」「重仁襲義兮=仁を重ね義を襲ぬ」〔楚辞・懐沙〕
  2. {単位詞}かさね。上下がそろった衣服を一セットとして数えるときのことば。《類義語》套(トウ)。「一襲」。
  3. {動詞}おそう(おそふ)。つぐ。今までのやり方やポストの上にかさなる。転じて、従来の方法や地位をそのまま引きつぐ。「世襲」「沿襲(従来の方法にそってつぐ)」「襲封=封を襲ぐ」。
  4. {動詞}おそう(おそふ)。不意に攻める。▽訓の「おそふ」は「おす(押)」の派生語で、相手に押しかかること。「非義襲而取之也=義襲ひてこれを取れるものには非ざるなり」〔孟子・公上〕
  5. 《日本語での特別な意味》かさね。平安時代、袍(ホウ)の下に着た衣服。

字通

[形声]声符は竜(りゆう)。籀文の字形は龖(とう)に従う。〔説文〕八上に「衽(えり)を左にしたる袍(はう)なり。衣に從ひ、龖(たふさふ)の省聲」とする。金文の字形は衣上の左右に龍を加えており、龍は衮竜(こんりゆう)の文様であろうと思われる。即位嗣襲のときに服するものであるらしく、〔左伝、昭二十八年〕「天祿を襲(う)く」、〔荘子、大宗師〕「伏戲(ふくぎ)之れを得て、以て气母に襲(い)る」のように用いる。儀礼用に上からこの衣を着用することから襲(かさ)ねる意となり、〔礼記、玉藻〕「襲裘して公門に入らず」というように、羔裘(こうきゆう)(小羊の裘(かわごろも))の上には襲衣しない定めであった。襲用の意から、襲取・襲撃のように用いるが、本来は嗣襲継体の儀礼を意味する字である。

入(ジュウ・2画)

論語 入 金文
頌鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯əp(入)。「ニュウ」は呉音。

学研漢和大字典

指事。↑型に中へつきこんでいくことを示す。また、入り口を描いた象形と考えてもよい。内の字に音符として含まれる。▽捉音語尾のpがtに転じたばあいはニッと読む。入と納は同系のことばだが、のち、入はおもに「はいる」意に、納は「いれる→おさめる」意に分用された。類義語の容は、器物の中にいれる。異字同訓に要る「金が要る。保証人が要る。親の承諾が要る。何も要らない」。

語義

  1. {動詞}いる。はいる。《対語》⇒出。「入京」「入門」。
  2. {動詞}いれる(いる)。おさめる(をさむ)。「納入」「入穀者補吏=穀を入るる者は吏に補す」〔漢書・貢禹〕
  3. {動詞}いる。家庭の中にはいる。▽家庭の外に出るのを出という。「弟子入則孝、出則弟=弟子入りては則ち孝、出でては則ち弟」〔論語・学而〕
  4. {動詞}いる。中央の朝廷に仕える。▽地方に赴任するのを出という。「入官」「出将入相=出でては将たり入りては相たり」〔枕中記〕
  5. {動詞・名詞}いる。いり。みいり。「収入」「量入倹用=入るを量りて用を倹にす」〔白居易・与微之書〕
  6. 「入声(ニッショウ)・(ニュウセイ)」とは、四声の一つ。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①しお(しほ)。物を染料に浸す度数をあらわすことば。「一入(ヒトシオ)」。
    ②「入学」の略。「入試」。
    ③「輸入」の略。「入超」。

字通

[象形]室の入口の形。これに屋形を加えたものは内。〔説文〕五下に「内(い)るるなり。上より倶(とも)に下るに象るなり」とするが、卜文・金文は木を∧形に組んだ形で、出入口を示す。国語では入内(じゆだい)・入御(じゆぎよ)の音がある。

戎(ジュウ・6画)

戎 金文
邾伯御戎鼎・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵ(平)。

学研漢和大字典

会意。もと「戈(ほこ)+甲(よろい)」で、さまざまな兵器をあらわす。ねばり強くて、こわれない意を含む。「えびす」は「夷」とも書く。似た字(戎・戒)の覚え方。「じゅう(十)ジュウ(戎)」。

語義

  1. {名詞}つわもの(つはもの)。武器を持つ兵士。
  2. {名詞}武器。「治戎=戎を治む」。
  3. {名詞}戦争。「戎事(ジュウジ)」「亦可以即戎矣=亦た以て戎に即くべし」〔論語・子路〕
  4. {名詞}えびす。中国の北西方に住む異民族の蔑称。《類義語》夷(イ)・狄(テキ)。「犬戎(ケンジュウ)(周王朝を苦しめた北方民族)」「西戎(セイジュウ)(中国古代、黄河上流に住んでいた民族)」「戎狄是膺=戎狄を是れ膺つ」〔詩経・魯頌・罘宮〕
  5. {形容詞}大きい。「戎菽(ジュウシュク)(大豆のこと)」「戎功(ジュウコウ)」。
  6. {代名詞}なんじ(なんぢ)。第二人称代名詞。《類義語》汝(ナンジ)。「壼戎祖考=戎の祖考を壼(つ)ぐ」〔詩経・大雅・烝民〕

字通

[会意]戈(か)(ほこ)+干(かん)(たて)。干戈を組み合わせた字で、兵器をいい、また軍事をいう。〔説文〕十二下に「兵なり。戈甲に從ふ」とするが、金文の字形は甲ではなく、干(盾)の形である。金文に戎工・戎攻・戎■(乍+殳)(さく)・戎兵などの語がある。また西戎・戎狄のように夷狄の意に用いる。〔詩〕にも戎功・戎醜のような用例がある。

狃(ジュウ・7画)

狃 金文
復公仲簋蓋・春秋末期

初出は春秋末期の金文カールグレン上古音はn(上)論語陽貨篇5に登場の公山不擾は、左伝では公山不狃と記される『史記』孔子世家でも同様

おじゃる公家 林羅山
呉音は「ニュウ」。『学研漢和大字典』所載の音は「紐」と同じとされ、上古nɪog-中古ṇɪəu(ṇḍɪəu)-元代niəu-現代niəu(niǔ)。公山不狃に「こうざんふちゅう」とふりがなを付ける版本は少なからずあるが、おじゃる公家のデタラメか、くそ坊主の知ったかぶりか、江戸のちんこ儒者のハッタリを猿真似しているだけだから、いい加減やめた方がいい。

学研漢和大字典

会意兼形声。「犬+(音符)丑(チュウ)(くねくね曲がる)」。

語義

  1. {動詞}なれる(なる)。身をよじらせて、なれ親しむ。なれなれしくする。
  2. {動詞・形容詞}ならう(ならふ)。よくなれてかどばらない。また、そのさま。《類義語》習。

字通

[形声]声符は丑(ちゅう)。〔説文〕十上に「犬の性忕(な)るるなり」(段注本)とあり、〔玉篇〕に「狎るるなり、習ふなり」、〔爾雅、釈言〕に「復(くりかへ)すなり」とあり、なれ親しむことをいう。

柔(ジュウ・9画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵ(平)。同音多数。『大漢和辞典』で音ジュウ訓やわらかいで、柔を含まない漢字は𧘥のみ、初出は不明。音ジュウ訓よわいは孨(上古音不明)のみ、初出は後漢の説文解字。音ジュウ訓もろいは存在しない。従って論語時代の置換候補は無い。

『大漢和辞典』に”よわい・もろい”の語釈がある。

学研漢和大字典

会意。「矛(ほこ)+木」で、ほこの柄にする弾力のある木のこと。曲げても折れないしなやかさを意味する。鞣(ジュウ)(なめし皮)・紐(ニュウ)(しなやかなひも)・乳(ねっとりしたちち)などと同系。類義語に軟やわらかい・やわらかだ 柔らかい・柔らかだ「柔らかい毛。身のこなしが柔らかだ。物柔らかな態度」軟らかい・軟らかだ「表情が軟(柔)らかい。軟(柔)らかい語。軟(柔)らかな土」。

語義

  1. {形容詞}やわらかい(やはらかし)。曲げても折れない。ねっとりしているさま。物や人などがしなやか。また人や風などがおだやか。《対語》⇒剛。《類義語》軟。「柔軟」「柔和」。
  2. {動詞}やわらげる(やはらぐ)。おだやかにする。「柔色=色を柔らぐ」「柔遠人則四方帰之=遠人を柔らぐれば則ち四方これに帰す」〔中庸〕
  3. 《日本語での特別な意味》やわら(やはら)。柔術。

字通

[会意]矛(ぼう)+木。〔説文〕六上に「木、曲直する者なり」とし、矛声。また〔段注〕に木を曲直するを矛というとするが、いずれも声義が合わない。字の初文は、おそらく■(卣+夔)に作るもので、「遠きを柔らげ、近きを能(をさ)む」という語を金文に「遠きを■(卣+夔)(やは)らげ、𤞷(ちか)きを能む」のようにしるしている。■(卣+夔)は卣(ゆう)に従い、卣は酒器。夔(どう)は礼装した人が酒に酔い、両袖を揚げ、足をあげて歌舞する形。「擾(みだ)れる」の初文は、もと夔に従うべき字である。神前に酒を酌み、手足をあげて歌舞し、神意を安んじ柔らげることをいうもので、のち柔の字を代用する。柔に含まれる矛形の部分は柔枝を揉撓(じゅうとう)(ためまげる)した形を示すものとみるべく、矛戟の字に従うものではない。■(卣+夔)と柔は声近く、のち柔を用い、■(卣+夔)の字は失われた。〔説文〕𦣻(しゆ)部九上に「脜は面和するなり。讀みて柔の若(ごと)くす」とあり、その脜が、おそらく(卣+夔)の省変の字であろう。

大漢和辞典

→リンク先を参照

從/従(ジュウ・10画)

論語 従 金文
過伯簋・西周早期

初出は甲骨文。その形「从」は、現代中国での通用字になっている。カールグレン上古音はdzʰi̯uŋ(平/去)またはtsʰi̯uŋ(平)。

学研漢和大字典

論語 従 解字
会意兼形声文字で、从(ジュウ)は、前の人のあとにうしろの人がつきしたがうさま。從は「止(あし)+彳(いく)+(音符)从」で、つきしたがうこと。AのあとにBがしたがえば長い縦隊となるので、長く縦に伸びる意となった。

意味〔一〕ショウ/ジュウ・ジュ

  1. {動詞}したがう(したがふ)。したがえる(したがふ)。前のもののあとについて行く。あとに引き連れる。「従属」「従駕=駕に従ふ」。
  2. {動詞}したがう(したがふ)。いうことをきき入れて、その通りに行う。「聴従=聴き従ふ」「従心所欲=心の欲する所に従ふ」〔論論・為政〕
  3. {動詞}したがう(したがふ)。ある仕事につく。「従事」「従政=政に従ふ」。
  4. {接続詞}したがって。→語法「④」。
  5. {前置詞}より。→語法「①」。
  6. {名詞}つきしたがう人。▽去声に読む。《対語》⇒主。「主従(シュジュウ)・(シュジュ)」。
  7. {助辞}親族の名称につけて、主なものの次にあることを示すことば。▽去声に読む。「従兄」「再従兄弟(またいとこ)」。
  8. {助辞}官位の正式なものに対して、それに次ぐ官位をあらわすことば。▽去声に読む。「従三位」。

意味〔二〕ショウ・ジュウ/シュ

  1. {名詞}たて。南北のこと。▽東西は衡(コウ)。《同義語》⇒縦。「従横家」「合従(南北の同盟)」。

意味〔三〕ショウ・シュ

  1. {動詞}ゆるめる(ゆるむ)。束縛をといてのばす。存分に手足をのばす。《同義語》⇒縦。「従容(ショウヨウ)」。
  2. 《日本語での特別な意味》したがって。それだから。

語法

①「より」とよみ、「~から」「~によって」と訳す。時間・空間の起点の意を示す。《類義語》自・由。「従此道至吾軍、不過二十里耳=この道従(よ)り吾が軍に至るは、二十里に過ぎざるのみ」〈この道によってわが軍に合流するのは、たかだか二十里だ〉〔史記・項羽〕

②「(~に)よりて」「(~に)よって」とよみ、「だから」「~の理由で」と訳す。原因・理由の意を示す。▽「無従~」と多く用いられ、「よりて~するなし」とよみ、前節をうけて「…なので~しない」と訳す。「備危恐殆、急置太子、禍乃無従起=危ふきに備へ殆(あやふ)きを恐れ、急に太子を置かば、禍乃(すなは)ち従(よ)りて起こる無(な)し」〈国の危険に備え身の危険を恐れるというのならば、早く太子を立てておけば、災いは起こってきようがない〉〔韓非子・揚権〕

③「~により」「~にしたがって」とよみ、「~と」「~に」「~に対して」と訳す。相手の従属、行為の対象の意を示す。「樊巾従良坐=樊巾良に従つて坐す」〈樊巾は張良のすぐ後ろに坐った〉〔史記・項羽〕

④「したがって」とよみ、「それに加えて」と訳す。上文をうけて、継続・追加する意を示す。「既入其苙、又従而招之=すでにその苙(おり)に入れば、また従つてこれを招(つな)ぐ」〈おりの中に入れるだけでなく、その上さらに手足を縛りあげる〉〔孟子・尽下〕

字通

[形声]旧字は從に作り、从(じゆう)声。从は二人前後する形で、從の初文。〔説文〕八上に「从は相ひ聽くなり。二人に從ふ」とし、聴従・聴許の意とし、また次条の從字条に「隨行するなり。辵(ちやく)从に從ふ。从は亦聲なり」とするが、卜文・金文に从に作り、從はその繁文。服従・従事の意に用いる。

縱/縦(ジュウ・16画)

論語 縦 睡虎地秦墓竹簡 論語 縱
(秦系戦国文字)

初出は上掲の戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯uŋ(去)で、同音に足。「足」に”満ち足りる”の語釈があり、また”よしとしてゆるす”の語釈もある。平声の音は不明。
足 大漢和辞典

学研漢和大字典

会意兼形声。从(ジュウ)は、Aの人のあとにBの人が従うさまを示す会意文字。それに止(足)と彳印を加えたのが從(=従)の字。縱は「糸+(音符)從(ジュウ)」で、糸がつぎつぎと連なって、細長くのびること。たてに長く縦隊をつくるから、たての意となり、縦隊は、どこまでものびるので、のびほうだいの意となる。類義語に肆。旧字「縱」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}たて。上下・前後の方向に、まっすぐのびた線。また、南北の方向にのびた線。▽平声に読む。今の北京語ではzòng。《対語》⇒横。「縦横」「縦横家(南北、または東西の連盟を策した、中国の戦国時代の弁論家)」「合縦(ガッショウ)(南北連盟)」。
  2. {形容詞}ほしいまま。したいほうだい。かって気ままにするさま。▽以下、去声に読む。《類義語》放。「放縦(ホウショウ)」「天縦(テンショウ)(うまれつき、天命のまま)」。
  3. {動詞}ほしいままにする(ほしいままにす)。したいほうだいにまかせる。また、かって気ままにする。《対語》縮(ちぢむ)。《類義語》放・任(まかす)。「縦酒=酒を縦にす」「縦目=目を縦にす」「縦欲=欲を縦にす」「縦性情=性情を縦にす」〔荀子・性悪〕
  4. {動詞}はなつ。ゆるす。思いきりのばす。かってに遠くへいかせる。ときはなしてゆるす。「遂縦兵追之=遂に兵を縦ちてこれを追はしむ」〔史記・呉太伯〕
  5. {接続詞}たとえ(たとへ)。→語法

語法

  1. 「たとい~とも」とよみ、「たとえ~とも」「万が一~とも」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。「縦彼不言、籍独不愧於心乎=縦(たと)ひかれ言はずとも、籍独り心に愧(は)ぢざらんや」〈たとえ彼ら(長老たち)が何ひとつ批難めいたことを口にしなくとも、わしは心に恥じずにいられようか〉〔史記・項羽〕
  2. 「縦令」「縦使」も、「たとい~とも」とよみ、意味・用法ともに同じ。「縦令然諾暫相許、終是悠悠行路心=縦令(たとひ)然諾して暫(しばら)くあひ許すとも、終にこれ悠悠たる行路の心」〈たとえ(友人になると)承諾して、しばらく心を許しても、結局は無関心な行きずりの人の気持ちになってしまう〉〔張謂・題長安主人壁〕

字通

[形声]声符は從(従)(じゆう)。從は二人相従う意。縦にならぶことをいう。〔説文〕十三上に「緩やかなり」というのは、縦糸をゆるやかに張る意であろう。また「一に曰く、舍(はな)つなり」と放縦の意とする。

叔(シュク・8画)

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はɕ(入)。藤堂上古音はthiok(入)。

学研漢和大字典

会意。「つるの巻いた豆の形+小+又(て)」で、菽(シュク)(小豆。そばの実)の原字。小さい豆やそばの実を手で拾うことを示し、のち、細く小さい末の兄弟の意に用いる。淑(シュク)(細くしとやか)・老少の少(小さくわかい)と同系。付表では、「叔父」を「おじ」「叔母」を「おば」と読む。

語義

  1. {名詞}兄弟の序列で、上から三番目の者をいうことば。▽上から、伯・仲・叔・季と数える。
  2. {名詞}妻から見て夫の弟のこと。
  3. {名詞・形容詞}すえ。すえであるさま。《類義語》末。「叔世」。
  4. {名詞}父の弟に当たる人。おじ。「叔父」「吾父吾叔皆黎明即起=吾が父吾が叔皆黎明にして即ち起く」〔曾国藩・家訓〕

字通

[会意]尗(しゆく)+又(ゆう)。尗は鉞頭の形。上は鉞(まさかり)の刀と柲部、下はその刃光の放射する形。金文に「叔金」「叔巿(しゆくふつ)」の語があり、白色に光る銀や錫、また素巿をいう。〔説文〕三下に「拾ふなり」と訓し、「汝南にて芋(いも)を收むるを名づけて叔と爲す」とするが、それは方言音にすぎない。拾の義や、また伯叔の意に用いるのは、声の仮借である。


巿フツ:ひざかけ。草木の盛んなさま。市シとは別字。

祝/祝(シュク・9画)

論語 祝 金文
大祝禽方鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のȶ(入)のみ。藤堂上古音は”祝う・神官”の意ではtiok、”のりと”の意ではtiog。

学研漢和大字典

会意。「示(祭壇)+兄(人のひざまずいたさま)」で、祭壇でのりとを告げる神職をあらわす。禱(トウ)(声を長くのばしてのりとをあげて祈る)・呪(シュウ)(のりと)と同系。▽日本では、呪(のろい)は、悪意をこめたいのりの意に用いる。旧字「祝」は人名漢字として使える。▽付表では、「祝詞」を「のりと」と読む。▽「ほぐ」「ほぎ」は「寿ぐ」「寿」とも書く。

語義

シュク
  1. {名詞}はふり。神官やみこなど、神に仕えてのりとをあげる人。《類義語》巫(フ)。「巫祝(フシュク)」「祝史(神官・神職と記録役)」。
  2. (シュクス){動詞・名詞}いわう(いはふ)。ほぐ。いわい(いはひ)。もと神にめでたいことばを告げる意。転じて、おめでたいとことほぐこと。「祝賀」「慶祝(よろこびいわう)」。
  3. {動詞}短く切る。▽革(ショク)に当てた用法。「祝髪(断髪)文身」〔春秋穀梁伝・哀一三〕
シュウ
  1. {名詞}のりと。神に申しあげることば。長く声を引いてのべるのりと。転じてめでたいと、ことほぐことば。▽訓の「のりと」は、「告(の)り+言(ごと)」から。《同義語》呪。《類義語》偃(トウ)。「祝詞」。
  2. (シュウス)(シウス){動詞}のりとをあげる。祈りのことばをのべる。《同義語》呪。《類義語》禱。

字通

[会意]示+兄。示は祭卓。兄は祝禱の器である𠙵(さい)を戴く人の形で、巫祝。〔説文〕一上に「祭に贊詞を主(つかさど)る者なり」とあり、〔詩、小雅、楚茨〕に「工祝、致告す」とみえるものである。女巫を巫、男巫を祝といい、また覡(げき)という。〔段注〕に「人の、口を以て神に交はる者なり」とするが、祝の奉ずるものは、祝詞を収めた器である。祝の長官は大祝。祭政的な政治が行われた古代には、大祝が聖職者として最高の地位にあり、周公の子伯禽の作器に〔大祝禽鼎〕がある。また〔禽𣪘(きんき)〕に「周公某(はか)(謀)り、禽シュク 祝 外字(いの)る」とあって、周公父子が神事に当たる聖職者であった。王朝滅亡の後には、その祝は賤官とされ、〔儀礼〕には夏祝・商祝は喪祭の末事に従うものとされた。

孰(シュク・11画)

論語 孰 金文
伯至人簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡ(入)。藤堂上古音はdhiok。

学研漢和大字典

会意文字で、「享(築き固めた城)+茜(て)」。塾(ジュク)(ついじ)・熟(中までよく煮る)などの原字。また、その音をかりて、選択を求める疑問詞に用いる。

意味

  1. {疑問詞}いずれ(いづれ)。→語法「①」。
  2. {疑問詞}たれ。→語法「②」。
  3. {動詞}よく煮る。また、中までしんがとおる。《同義語》⇒熟。「孰視(ジュクシ)」。

語法

①「いずれか」「いずれをか」とよみ、「どちらが」「どちらを」と訳す。比較して選択する意を示す。「女与回也孰愈=女(なんぢ)と回と孰(いづ)れか愈(まさ)れる」〈お前と回とは、どちらがすぐれているか〉〔論語・公冶長〕
②「たれか」「たれをか」とよみ、「だれが」「だれを」と訳す。不明の人を問う疑問代名詞。▽疑問文・反語文に用いる。《類義語》誰。「季康子問、弟子孰為好学=季康子問ふ、弟子孰(たれ)か学を好むと為す」〈季康子が、弟子の中で誰が学問好きといえますかと尋ねた〉〔論語・先進〕
③(1)「孰与」は、「いずれぞ」とよみ、「どちらか」と訳す。比較して選択する意を示す。
(2)「~孰与…」は、「~は、…といずれぞ」とよみ、「~は、…とどちらがよいか(…のほうがよい)」と訳す。比較しているが、実は後者を選択する意を示す。「陛下精兵孰与楚=陛下の精兵は楚に孰与(いづれ)ぞ」〈陛下の兵の精鋭さは、楚とくらべてどちら(が精鋭)でしょうか〉〔史記・陳丞相〕
④(1)「孰若」は、「いずれぞ」とよみ、「どちらか」と訳す。比較して選択する意を示す。
(2)「与其~、孰若…」「与其~、孰…」は、「その~よりは…するにいずれぞ」とよみ、「~よりも…の方がよい」と訳す。
(3)「孰若…与其~」「孰…与其~」は、「…するにいずれぞ、その~よりは」とよみ、「…の方がよい、~よりも」と訳す。▽語順は(2)と(3)の二通りあるが、どちらにせよ「孰」「孰若」以下を選択することになる。「夫勝一臣之厳焉、孰若勝天下之威大耶=それ一臣に勝つの厳たるは、天下に勝つの威大なるに孰若(いづれ)ぞ」〈いったい、一人の臣下に勝つ威厳の重みと、天下の諸侯に勝つ威厳の大きさとでは、どちらがまさっているでしょうか〉〔戦国策・中山〕
(4)選択すべきものが先に提示されている場合は、それを省略して「孰与其~」となり、「その~よりはいずれぞ」とよみ、「~よりはましである」と訳す。「文之為魏、孰与其為斉也=文の魏の為にするは、その斉の為にするに孰与(いづれ)ぞ」〈(田)文が魏のためにするのは、斉のためにするのに比べて、どちら(が熱心)でしょうか〉〔戦国策・魏〕

字通

[会意]正字は𦏧に作り、■(亠+昌)(きよう)+羊+丮(けき)。■(亠+昌)は烹飪(ほうじん)の器。その器で羊肉を煮る意で、よく煮ることをいう。〔説文〕三下に「食飪(に)ゆるなり」とし、𦎫(じゆん)声とする。丮はものを奉ずる形で、献享の意。すべて醇熟することをいう。のち火を加えて熟とする。疑問詞や比較・選択の意に用いるのは、仮借義である。

宿(シュク・11画)

論語 宿 金文
『字通』所収金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のsのみ(去/入)。藤堂上古音はsiok。

学研漢和大字典

会意兼形声。宿の原字は四角い物が縮んで、しわのよったさま。また、囗印であらわされるふとんに、二人の人が縮んで寝るさまと考えてもよい。宿は、それに人と宀(やね)を加えたもので、狭い所に縮んで泊まる意味を含む。また、伸(のびる)や信(のびる)の反対で、進行や発散をやめてとまるの意に転じて用いる。縮(ちぢむ)・蹙(シュク)(ちぢむ)・粛(ひきしめる)と同系。類義語に家。

語義

シュク(入)
  1. (シュクス){動詞}やどる。泊まる。からだを縮めて、かりねする。▽一夜の泊まりを宿、二夜の泊まりを信、三夜以上の泊まりを次という。「宿泊」「子路宿於石門=子路石門に宿る」〔論語・憲問〕
  2. (シュクス){動詞}やどる。ねぐらで休む。「宿枝=枝に宿る」「宿鳥」。
  3. (シュクス){動詞・形容詞}一夜とどめて置く。一夜の。「宿雨」「不宿肉=肉を宿せず」〔論語・郷党〕
  4. (シュクス){動詞}ある気持ち・考えなどを久しくとどめ置く。とどまって離れない。その職務にとどまる。「不宿怨焉=怨みを宿せず」〔孟子・万上〕
  5. {形容詞}年を経ている。かねてからの。「宿老」。
  6. {名詞}やど。泊まる所。「旅宿」「宿舎」。
  7. {名詞・形容詞}《仏教》前世。前世からの。「宿世」「宿縁」。
シュウ(去)
  1. {名詞}星座。▽北斗七星を軸として、天空を二十八にわける。「二十八宿」。
  2. 《日本語での特別な意味》しゅく。街道すじの泊まり場。「宿場」。

字通

[会意]宀(べん)+𠈇(しゆく)。宀は廟屋、㐁(てん)は㐁席(しきもの)。人が廟中など神聖な建物に宿直することを示す字。〔説文〕七下に「止まるなり」とするが、留宿して守ることをいい、また致斎(ものいみ)の意がある。〔礼記、礼器〕「三日宿す」とは斎宿すること三日の意。また宿戒ともいい、〔周礼、春官、世婦〕に「女官の宿戒を掌る」とあり、祭祀の前には宿戒する定めであった。それより予(あらかじ)めすること、久しくすること、残存することなどの意となる。

(シュク・15画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のdʰ(入)のみ。藤堂上古音は蹙と同じでtsiok(入)または狄と同じでdek(入)。「蹙」(カ音tsのみ)にも”縮まる”の語義はあるが、初出は同じく説文解字

学研漢和大字典

会意兼形声。「足+(音符)叔(シュク)(小さくちぢまる)」。

語義

シュク(入)
  1. {動詞・形容詞}足がちぢまる。小きざみに歩くさま。《同義語》⇒蹙。「踧踖(シュクセキ)」。
テキ(入)
  1. {形容詞}平らな。《同義語》⇒逖(テキ)・逷(テキ)。「踧踧(テキテキ)(道が平らで行きやすいこと)」。

字通

[形声]声符は叔(しゆく)。〔説文〕二下に「行くこと平易なるなり」とするが、声義は縮・蹴・蹙(しゆく)に近く、踧踖とは恐懼して進みがたいことをいう。〔詩、小雅、小弁(しようはん)〕「踧踧(てきてき)たる周道」の〔伝〕に「踧踧は平易なり」とあるのは、声義の異なる用法である。

中日大字典


Ⅰ 〈文〉いぶかるさま.
〔踧尔ěr〕同前.
〔踧踖jí〕恭しくおそれつつしむさま.
Ⅱ ⇒〔蹙〕

熟(シュク・15画)

初出は後漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のȡ(入)のみ。藤堂上古音はdhiok。同音に「孰」があり、初出は甲骨文で、”煮る”の語義がある。「ジュク」は呉音。

学研漢和大字典

会意。享は、郭の字の左側の部分で、南北に通じた城郭の形。つき通る意を含む。熟の左上は、享の字の下部に羊印を加えた会意文字で、羊肉にしんを通すことを示す。熟は丸(人が手で動作するさま。動詞の記号)と火を加えた字で、しんに通るまで柔らかくにること。毒(くたくたに柔らかくなった物)・粥(シュク)(しんが柔らかくなったおかゆ)と同系。「つらつら」「つくづく」は「熟熟」とも書く。

語義

  1. (ジュクス){動詞}にる。にえる(にゆ)。火でくたくたになるまでにる。しんに通るまで、柔らかくにる。「必熟而薦之=必ず熟してこれを薦む」〔論語・郷党〕
  2. (ジュクス){動詞}うれる(うる)。うらす。果物などがよくみのって柔らかくなる。また、そのようにする。「熟柿(ジュクシ)」。
  3. (ジュクス){動詞}作物がみのる。《対語》⇒荒(みのらない)。「未熟」「五穀熟而民人育=五穀熟して而民人育す」〔孟子・滕上〕
  4. (ジュクス){動詞}条件がじゅうぶんなところまで発展する。
  5. (ジュクス){動詞・形容詞}奥底までよく知っている。すっかりなれる。すっかりなれているさま。《対語》⇒生。「精熟」「手熟=手熟す」。
  6. {形容詞・副詞}つらつら。奥底まで詳しいさま。とくと。「熟考」「信、熟視之=信、これを熟視す」〔史記・淮陰侯〕
  7. 《日本語での特別な意味》にぎ。柔らかい。また、なじみ深い。

字通

[形声]声符は孰(じゆく)。孰は熟の初文。〔説文〕に収めず、古くは孰を用いた。のち烹飪(ほうじん)のことだけでなく、すべて醇熟することをいう。

※烹飪:料理する。/醇熟:成熟する。

蹜(シュク・18画)

初出は後漢の説文解字でも確認できない。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は「縮」と同じで声母のʂ(入)のみ。同音は縮、漱、瘦、𣸈”そそぐ・こねる”、醙”しろざけ”、獀”狩り”、蒐”狩り・集める”、廋”隠す”、搜。縮の初出は後漢の説文解字

藤堂上古音は「縮」と同じでsïok(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。宿(シュク)の甲骨文字は、一枚の敷物(□)の中に、人がちぢまって寝るさまをあらわす。宀(やね)を添えた宿は、宀(やね)の下で人が足をちぢめてとまることで、細くちぢむという基本義をふくむ。縮の原字。蹜は「足+(音符)宿」で、歩幅をひきしめて小またで歩くこと。

語義

  1. {動詞・形容詞}小きざみに歩く。また、そのさま。「足蹜蹜如有循=足は蹜蹜として循ふ有るがごとし」〔論語・郷党〕
  2. {動詞}ちぢむ。《同義語》⇒縮。

字通

[形声]声符は宿(しゆく)。〔論語、郷党〕「足蹜蹜として循(したが)ふこと有るが如し」とは、こまたの足運びをいう。

出(シュツ・5画)

論語 出 金文
頌簋・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶʰi̯wəd(去)またはȶʰi̯wət(入)。

学研漢和大字典

会意文字で、足が一線の外にでるさまを示す。突(外に急にでる)・凸(トツ)(つきでる)と同系のことば。

語義

  1. {動詞}でる(いづ)。内から外へでる。《対語》⇒入。「出郷関=郷関を出づ」「出我胯下=我が胯下より出でよ」〔史記・淮陰侯〕
  2. {動詞}でる(いづ)。外にあらわれる。「水落石出=水落ち石出づ」〔蘇軾・後赤壁賦〕
  3. {動詞}でる(いづ)。家の外にでて、公共の場所で働く。また、嫁になって、里の家からでていく。「弟子入則孝、出則弟=弟子入りては則ち孝、出でては則ち弟」〔論語・学而〕
  4. {動詞}でる(いづ)。地方官として中央を離れる。《対語》⇒入(中央で仕える)。「出将入相=出でては将たり入りては相たり」〔枕中記〕
  5. {動詞}でる(いづ)。範囲を越えてでる。「祭肉不出三日=祭の肉は三日を出でず」〔論語・郷党〕
  6. {動詞}でる(いづ)。ぬきんでる。「出倫」「古之聖人、其出人也遠矣=古の聖人、其の人を出づるや遠し」〔韓愈・師説〕
  7. {動詞}でる(いづ)。のがれる。難所を越えて平地にぬけでる。「出塵(シュツジン)」「変名姓、以出関=名姓を変へて、以て関を出づ」〔史記・孟嘗君〕
  8. {動詞}だす(いだす)。内から外へだす。「出奇計=奇計を出だす」「鶏鳴而出客=鶏鳴きて客を出だす」〔史記・孟嘗君〕
  9. {動詞}だす(いだす)。妻を離縁する。「出妻屏子=妻を出だし子を屏(しりぞ)く」〔孟子・離下〕
  10. {名詞}産出するもの。《類義語》産。「殫其地之出=其の地の出を殫す」〔柳宗元・捕蛇者説〕
  11. {名詞}「支出」の略。でていく金。《対語》入(=収入)。
  12. {名詞}ある家系からでた親戚。特に、おいや、めい。
  13. {動詞}だす(いだす)。だす。▽自動詞はシュツ、他動詞にはシュツ・スイの両方の音を用いる。「出納」「出師」。
  14. 《日本語での特別な意味》
    (1)で。出身。うまれ。「私大の出」「四国の出」。
    (2)で。ある場所にでること。でる状態。「人の出」「水道の出」。

字通

[象形]歩行を示す止(あし)のかかとの部分に、かかとのあとの曲線を加えた形。そこより出行する意を示す。〔説文〕六下に「進むなり。草木の益滋して、上に出達するに象るなり」といい、草木の伸び出す象とするが、卜文の字形は趾(あし)あとの形。金文の字形はそれに祝禱の器(𠙵(さい))の形をそえており、出行の儀礼であることを示す。いわゆる祖道にあたるものであろう。

恂(シュン・9画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsi̯wĕn(平)。同音に旬とそれを部品とする漢字群など膨大。異体字「洵」の初出も説文解字。部品の「旬」に”まこと”の語釈は無い。「ジュン」は慣用音。

論語郷党篇の「恂恂」は、漢帝国の儒者が近音の「順順」i̯wən(去)を古風に仕立てもっともらしくした作為で、要するにコケ脅し。真に受けるとバカを見る。

学研漢和大字典

会意兼形声。旬は「日+(音符)逢の略体」からなり、甲乙丙…と進んでひと巡りした十日間のこと。恂は「心+(音符)旬」で、心をすべての面に行き巡らすこと。恤(ジュツ)(思い巡らす)と同系。

語義

  1. {名詞}まこと。行き届いた心。《類義語》誠。
  2. 「恂恂(ジュンジュン)」とは、ねんごろなさま。「孔子於郷党恂恂如也=孔子の郷党におけるや恂恂如たり」〔論語・郷党〕
  3. {動詞・形容詞}気を配ってつつしむ。また、行き届くさま。「恂慄(ジュンリツ)」。

字通

[形声]声符は旬(じゅん)。〔説文〕十下に「信(まこと)の心なり」とあり、おそれつつしむさまをいう。〔論語、郷党〕「恂恂如たり」のように、形況の語として用いる。〔漢書、李広伝〕に「恂恂として鄙人の如く、口に辭を出だすこと能はず」というような、誠実のさまをいう。字はまた洵に作ることがある。

春(シュン・9画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtʰi̯wən(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。屯(トン)・(チュン)は、生気が中にこもって、芽がおい出るさま。春はもと「艸+日+(音符)屯」で、地中に陽気がこもり、草木がはえ出る季節を示す。ずっしり重く、中に力がこもる意を含む。頓(トン)(ずっしりと頭を下げる)・純(ずっしりとたれた縁どり)・蠢(シュン)(中にこもってうごめく)などと同系。草書体をひらがな「す」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}はる。四季の第一。立春から立夏までの間。陰暦の一月・二月・三月の季節。陽暦の三月から五月はじめ。陽気が地中にうごめいて、外に出てくるころ。「尋春=春を尋ぬ」「春省耕而補不足=春には耕を省みて不足を補ふ」〔孟子・梁下〕
  2. {名詞}はる。若く元気な時期。若さや精力。「青春」「春気勃勃(ボツボツ)(若さが盛んなさま)」「回春(若さを取りもどす)」「踏花同惜少年春=花を踏みて同に惜しむ少年の春」〔白居易・春夜〕
  3. {名詞}はる。男女の慕い合う心。仲春に、歌垣(ウタガキ)を催して、若い男女を結ばせる習慣があった。「有女懐春=女有りて春を懐ふ」〔詩経・召南・野有死麕〕
  4. {名詞}男女の情欲。エロス。「春情」「春画」。

字通

[形声]正字は萅に作り、屯(ちゅん)声。〔説文〕一下に「推なり」と訓し、字形について「日と艸と屯とに從ひ、屯の亦聲」(段注本)とする。屯の声義をとるとすれば、屯を屯蒙の象として、草木初生の時とするものであるが、屯はもと屯頓(ちゆんとん)の意ではなく、衣の純縁(へりぬい)の象である。ただ金文の春の字に若の初形に従うらしい形があり、草木の初生を以て春とする考えかたはあったものと思われる。「推なり」は春と双声の訓。〔礼記、郷飲酒義〕に「蠢(しゆん)なり」とするのは、啓蟄(けいちつ)(虫が地下よりはい出す)の意をとるものであろう。卜辞中に四季の名を確かめる資料はなく、後期の列国期の金文に至って、〔越王鐘〕「隹(こ)れ正月孟春、吉日丁亥」のようにいう。

循(シュン・12画)

論語 徳 甲骨文

「国学大師」によると初出は上掲の甲骨文。ただし「徳」と全く同形であり、どう判別するか明瞭でない。台湾ではこの字形を「循」と判読しない。従って確実な初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzi̯wən(平)。「ジュン」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。盾(ジュン)は、たてによりそって、目を射られないよう隠すことを示す会意文字。楯(タテ)の原字。循は「彳(いく)+(音符)盾」で、何かをたよりにし、それによりそって行くこと。遁(トン)(何かに身をよせつつ隠れて逃げる)と同系。類義語に随。

語義

  1. {動詞}したがう(したがふ)。たよりとなるものに寄り添う。《類義語》遵。「循行」「人物各循其性之自然=人物は各其の性の自然に循ふ」〔中庸・集注〕
  2. {動詞}そう(そふ)。よる。何かによりそう。《類義語》沿。「循牆而走=牆に循りて走る」〔春秋左氏伝・昭七〕
  3. {形容詞}旧来のことにしたがうだけで、独自の行いをしないさま。「因循」。
  4. {動詞}穏やかにしたがわせるためになだめる。「撫循(ブジュン)(なだめる)」。
  5. {動詞}めぐる。あちこちとまわる。▽巡に当てた用法。「循回(ジュンカイ)(=巡回)」。
  6. 「循循(ジュンジュン)」とは、穏やかになだめるさま。「夫子循循然善誘人=夫子は循循然として善く人を誘ふ」〔論語・子罕〕

字通

[形声]声符は盾(じゅん)。盾(たて)をもって巡行し、循撫することをいう。〔説文〕二下に「行くなり」(段注本)と訓する。〔爾雅、釈詁〕に「遹(いつ)・遵・率は循なり」とあり、遹とは矛を台座に樹(た)てて巡行し遹正することをいう。盾や矛を聖器として、巡撫する儀礼があった。
遹 大漢和辞典

舜(シュン・13画)

舜 金文 論語 舜
丁再献、丁蕾《东夷文化与山东·骨刻文释读》十九章第二节,中国文史出版社2012年2月版

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。上掲の金文は年代が不明。カールグレン上古音はɕi̯wən(去)。同音に蕣”むくげ・あさがお”、瞬、瞚”またたく”、鬊”抜け毛”(全て去)。『大漢和辞典』での同音同訓は訓むくげで「蕣」・「橓」(初出・音不明、去)、訓さといで「懏」(初出・音不明、去)、「䜭」(初出は西周中期の金文、音は不明、平・上・去)。

「䜭」の音シュンはいくつかある音のうちの一つで(→『大漢和辞典』䜭条)、しかも”さとい”の訓での音はエイ。シュンの音での訓は”さらう”、すなわちドブさらいのことで、その音通である。とうてい「舜」の音通とは断じがたい。

結論として、論語の時代の置換候補は無い。

学研漢和大字典

会意。舛(セン)は、左と右の足をふみ出してすばやく動くさま。舜は「炎(ゆれ動くほのお)+匸印+舛」で、炎のゆれや足ぶみのようなすばやい動作を示す。急にさいてはやく散る華やかなむくげの花。また、動作の機敏な華やかな英雄の名として、伝説上の古代聖王に当てられた。

語義

  1. {名詞}《人名》古代、伝説上の聖天子。姓は有虞氏(ユウグシ)、名は重華(チョウカ)。五帝のひとり。尭(ギョウ)から位を譲られ、また自分の後任には禹(ウ)を推した。
  2. {名詞}むくげ。《同義語》⇒蕣。《類義語》槿(キン)。「顔如舜華=顔は舜の華のごとし」〔詩経・鄭風・有女同車〕

字通

[象形]殷の神話的祖神とされる舜の神像。下に両足を垂れている形。卜文の字形に側面形にしるしたものがあり、殷の祖神夔(き)と解されているが、舜も帝嚳(ていこく)ともいわれ、夔も𦥑(きょく)に従う形に近く、神話としても舜・夔・嚳の間に関係がある。〔説文〕五下に舜を䑞に作り、「䑞艸なり。楚には之れを葍(ふく)と謂ひ、秦には之れを藑(けい)と謂ふ。地に蔓(まん)し、生じて華を連ぬ。象形」(段注本)とするが、字形は草の象ではない。蔓地連華の字は蕣(しゆん)。〔説文〕一下に「木堇(もくきん)なり」とする字である。

の譌字(うそ字。間違い)と『大漢和辞典』にある。

純(ジュン・10画)

純 屯 金文
頌簋蓋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯wən(平)またはȶi̯wən(上)。論語の春秋時代までは「屯」と書き分けられていなかった。

「屯」は”行き悩む”の場合カールグレン上古音がti̯wən、”たむろする”の場合dʰwən。「純」もまた”へり・ふち”の場合ȶi̯wən、”まじりけなし”の場合ȡi̯wən。行き悩む→へり、は理屈が通る。たむろする→まじりけなし、は無理がある。

学研漢和大字典

会意兼形声。屯(チュン)・(トン)は、芽が地上に出かねてずっしりと精気をたくわえたさま。純は「糸+(音符)屯」で、布地の両はしの房がずっしりと垂れたことを示す。房の糸は単色で、他の色がまじらないので、純色の糸の意となる。醇(ジュン)(まじりけのない酒)・淳(ジュン)(まじりけのない水)などと同系。また端(垂れたはし)とも近い。類義語に粋。

語義

シュン(平声)
  1. {名詞}模様織りの端にはみ出た地糸。また、赤は赤、黄は黄のように、色のまじらない糸。《対語》⇒雑。「純糸」「今也純=今也純なり」〔論語・子罕〕
  2. (ジュンナリ){形容詞}まじりけがないさま。《対語》⇒雑。《同義語》⇒淳(ジュン)。「純一」「清純」「純白」。
シュン(上声)
  1. {名詞}布の端。布のへり。《類義語》縁(へり)。
  2. {名詞・単位詞}布の端に垂れたふち。また、布地の長さをあらわすことば。一純は布地の端から端まで二十尺のこと。《類義語》端。
トン(平声)

{動詞}つつむ。たばねて一つにまとめる。「白芽純束」〔詩経・召南・野有死麕〕

字通

[形声]声符は屯(じゆん)。屯は織物の糸の末端を結びとめた形。〔説文〕十三上に「絲なり」とし、屯声とするが、金文に屯を純の意に用い、「玄衣黹屯(黻純(ふつじゅん))」「徳を秉(と)ること共屯(恭純)」のようにいう。屯は純の初文。のち屯を屯集、純を純一の意に用いる。

大漢和辞典

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順(ジュン・12画)

論語 順 金文
𣄰尊・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はi̯wən(去)。藤堂上古音はdhiuən。

学研漢和大字典

会意文字で、「川+頁(あたま)」。ルートに沿って水が流れるように、頭を向けて進むことを示す。循(ジュン)・巡(ジュン)(したがう)・馴(ジュン)(おとなしくしたがう)などと同系のことば。遁(トン)(他の物のかげに沿って去る)や盾(ジュン)(そのかげに沿って隠れるたて)などとも縁が近い。

意味

  1. {動詞}したがう(したがふ)。ルールや道すじどおりに進む。《同義語》⇒循。《対語》⇒逆。「順帝之則=帝の則に順ふ」〔詩経・大雅・皇矣〕。「順天者存=天に順ふ者は存す」〔孟子・離上〕
  2. {動詞}したがう(したがふ)。相手のいうことや意図にしたがう。道理に逆らわずに進む。《対語》⇒逆・叛(ハン)。「帰順」「六十而耳順=六十にして而耳順ふ」〔論語・為政〕
  3. {名詞}道すじや次第。「順序」「順番」「六順(君は義、臣は行、父は慈、子は孝、兄は愛、弟は敬)」。
  4. (ジュンナリ){形容詞}さからわずおとなしい。「従順」。
  5. (ジュンナリ){形容詞}順序どおりの。さわりなく、つごうがよい。「順当」「順調」。

字通

[形声]声符は川(せん)。〔説文〕九上に「理(をさ)むるなり」とあり、字を会意とする。〔段注〕に「川の流るるは順の至りなり。故に字は頁(けつ)川に從うて會意、而して川聲を取る」と亦声の字と解する。金文の字形は渉と頁とに従い、頁は儀礼のときの礼容を示す字であるから、字はおそらく水瀕の儀礼をいうものであろう。金文に「順子」「順福」の語があり、字は古くは渉に従う。水瀕で孝祀するような儀礼があったものと考えられる。

閏(ジュン・12画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(上)。『大漢和辞典』でほかに”うるう”を意味する漢字は存在しない。”うるおす”の語釈は語釈は『大漢和辞典』にもないから、「潤」の出現後失ったと思われる。呉音は「ニン」。

学研漢和大字典

会意。「門+王」で、暦からはみ出た日には、王が門の中にとじこもって政務をとらないことをあらわす。定数からはみ出る。不正規なものの意を含む。

語義

  1. {名詞・形容詞}うるう(うるふ)。一年の日数、または月数が、きまった数からはみ出て平年より多いこと。「閏年(ジュンネン)」。
  2. {名詞}正統でない天子の位。《対語》⇒正。「正閏(セイジュン)」。

字通

[形声]字は王に従うものとされるが、おそらく壬(じん)声の字であろう。〔説文〕一上に「餘分の月なり。五再にして再び閏す。告朔(こくさく)(月初めの儀礼)の禮、天子宗廟に居り、閏月には門中に居る。王の門中に在るに從ふ」とするが、そのような閏月告朔の礼を証しうるものはなく、古文家の礼説にみえるのみである。〔爾雅、釈天〕に「月、壬に在るを終と曰ふ」とあり、壬に任大・閏余の意がある。卜文・金文には閏月を十三月といい、西周期にも年末置閏のときにはなおその称を用いた。

潤(ジュン・15画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵ(去)。同音多数。濡ȵi̯u(平)は語義を共有するが、初出は秦系戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声。閏(ジュン)は「門+王」の会意文字で、暦からはみ出た「うるう」のとき、王が門内にとじこもって静養するさまを示す。じわじわと暦の計算の外にはみ出てきた日や月のこと。潤は「水+(音符)閏」で、じわじわとしみ出て、余分にはみ出る水分のこと。類義語に濡。

語義

  1. {動詞}うるおう(うるほふ)。じわじわと水分がしみ出る。「湿潤」。
  2. {形容詞}うるおいがあるさま。《対語》⇒枯・渇。「温潤(あたたかでうるおいがある)」。
  3. {動詞}うるおす(うるほす)。つじわじわと水分をしみわたらせる。「雨露之所潤=雨露の潤す所」〔孟子・告上〕づ金や物を与えてゆとりをつけてやる。「富潤屋、徳潤身=富は屋を潤し、徳は身を潤す」〔大学〕て色つやをつけてりっぱにする。
  4. {名詞}うるおい(うるほひ)。しめり。色つや。転じて、元金からしみ出たもうけ。「利潤」。

字通

[形声]声符は閏(じゅん)。〔説文〕十一上に「水には潤下と曰ふ」と、〔書、洪範〕の文をとる。閏はおそらく壬(じん)声の字で任大・閏余の意をもつ字。水の浸潤の意よりして水に従う。そのさまを潤沢・潤滑・潤余・潤飾という。

處/処(ショ・5画)

處 金文
㝬鐘・西周晚期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はȶʰi̯o(上/去)。

学研漢和大字典

会意。処は「夂(あし)+几(だい)」。足を止めて床几(ショウギ)に腰を落ち着ける意を示す。處は、のち音符として虎の略体「虍」を添えた会意兼形声文字。居・据と同系。また、著(ひと所に止まる)や定着の着とも縁が近い。「ところ」は「所」とも書く。▽旧字「處」の草書体をひらがな「そ」として使うこともある。

語義

  1. {動詞}おる(をる)。ある場所に落ち着く。《対語》⇒出。《類義語》居。「処世=世に処る」「処女(家にいてまだ嫁にいかない娘)」「夫賢士之処世也、譬若錐之処苦中=夫(そ)れ賢士の世に処るや、譬(たと)へば錐(きり)の苦中(なうちゅう)に処るが若(ごと)し」〔史記・平原君〕
  2. {動詞}おく。しかるべきところにおく。「何以処我=何を以て我を処かん」〔礼記・檀弓下〕
  3. (ショス){動詞}あるべき所に落ち着ける。しまつする。「処理」「処置」。
  4. (ショス){動詞}しかるべく決める。「処刑=刑に処す」。
  5. {名詞}ところ。しかるべきところ。▽去声に読む。「到処(イタルトコロ)」「白雲生処有人家=白雲生ずる処人家有り」〔杜牧・山行〕
  6. {単位詞}場所を数える単位。▽去声に読む。「期山東為三処=山の東に三処と為らんと期す」〔史記・項羽〕
  7. 《日本語での特別な意味》ところ。「…したところが」という接続のことばに当てる。「候処(ソウロウトコロ)」。

字通

[会意]旧字は處に作り、虎+几(き)。虎形のものが几(腰かけ)にかけている形。〔説文〕十四上に処を正字とし、「止まるなり。夂(ち)(足)、几を得て止まるなり。夂几に從ふ」とし、重文として處を録するが、金文の字形は、すべて處に作る。虎は虎皮を蒙るもので、戲(戯)・劇がその形に従うように、神事的な所作で、軍戯のように軍事に際して行われた。金文の〔井人鐘(けいじんしよう)〕「疐(とど)まりて宗室に處(を)らん」、〔叔夷鎛(しゆくいはく)〕「禹の堵(と)(水土を治めた地)に處る」など、聖所に処る意に用いる。〔左伝、襄四年〕「民に寢廟有り、獸に茂草有り。各〻其の處る所有り」とは、霊の安んずるところ。所も〔叔夷鎛〕「桓武なる靈公の所に共(供)する又(あ)り」のように、もと廟所を意味する字であった。所は名詞、處は動詞的な語であったように思われる。

所(ショ・8画)

論語 所 金文
宋公差戈・春秋晚期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はʂi̯o(上)。

学研漢和大字典

形声。「斤(おの)+(音符)戸」で、もと「伐木所所=木を伐ること所所たり」〔詩経〕のように、木をさくさくと切り分けること。その音を借りて指示代名詞に用い、「所+動詞」の形で、…するその対称をさし示すようになった。「所欲」とは、欲するその物、「所至」とは、至るその目標地をさし示したいい方。後者の用法から、さらに場所の意を派生した。草書体をひらがな「そ」として使うこともある。

意味

  1. {名詞}ところ。場所。また、地位。《類義語》処。「住所」「居其所=其の所に居る」〔論語・為政〕
  2. {助辞}ところ。→語法「①」。
  3. {助動詞}れる(る)・られる(らる)→語法「②」。
  4. 「所有(アラユル)」とは、おのずとそこに存在するかぎりのとの意をあらわす。▽訓読で「ゆ(ゆる)」をつけるのは「見ゆ」「泣かゆ」の「ゆ」と同じで、自発・受身の意味を含ませたもの。
  5. {助辞}ばかり。数量をあらわすことばのあとにつけ、それくらい、の意をあらわす。《同義語》許(バカリ)。「父去里所、復還曰=父去ること里所にして、復た還りて曰はく」〔史記・留侯〕
  6. 「幾所(イクバク)」とは、どれくらい、の意をあらわす。《同義語》幾許(イクバク)。
  7. 《日本語での特別な意味》ところ。…したところ、その場合に。「門を出た所が」。

語法

①(1)「~するところ」とよみ、「~するもの」「~であること」などと訳す。▽「所」は「者」と同じく、用言を体言化して、主語・述語・目的語・修飾語となる。「所」は、行為の対象を示し、「者」は、行為の主体を示す違いがある。「所欲=欲する所」は、「ほしいその物」となり、「所在=在る所」は、「存在するその場所」となる。「将以求吾所大欲也=将にもって吾が大いに欲する所を求めんとす」〈わたしの大望を遂げようとしている〉〔孟子・梁上〕
(2)意味上、受身となるので、「る」「らる」とよみ、「~される」と訳してもよい場合がある。「嘗事范氏及中行氏、而無所知名=嘗(かつ)て范氏及び中行氏に事(つか)へしも、名を知らる無(な)し」〈以前、范氏と中行氏とに仕えたが、名前さえ認められなかった〉〔史記・刺客〕
②チ「為~所…」は、「~の…するところとなる」とよみ、「~に…される」と訳す。受身の意を示す。「嘗遊楚、為楚相所辱=嘗(かつ)て楚に遊び、楚の相の辱むる所と為る」〈かつて楚の国に遊説に出かけ、楚の宰相から侮辱を受けた〉〔十八史略・春秋戦国〕▽ほかに「~がために…らる」「~に…らる」とよんでもよい。ヂ「為所~」のように動作主が省略されることもあり、「~らる」「~するところとなる」とよむ。「不者、若属皆且為所虜=不(しから)ずんば者、若(なんぢ)が属皆且(まさ)に虜にせられんと」〈そう(=殺す)でなければ、お前たちはみな、沛公に捕虜にされてしまう〉〔史記・項羽〕
③「所以~」は、(1)「~するゆえん」「もって~するところ」とよみ、「~する理由」「~する方法(手段)」などと訳す。理由・根拠・手段・目的の意を示す。「所以遣将守関者、備他盗之出入与非常也=将を遣はして関を守らしめしゆゑんは、他の盗の出入と非常とに備へしなり」〈部将をやって函谷関を守らせましたのは、盗賊どもの出入と非常の事態とに備えるためです〉〔史記・項羽〕
(2)「ゆえに~」とよみ、「だから~」と訳す。理由・根拠の意を示す接続句。「偸本非礼、所以不拝=偸は本礼に非ず、ゆゑに拝せず」〈盗みはもともと礼にはずれている、だからおじぎをしなかった〉〔世説新語・言語〕
④「所謂」は、「いわゆる」「いうところの」とよみ、「一般に言われている」「ここで言っている」と訳す。「彼所謂豪傑之士也=彼は所謂(いはゆる)豪傑の士なり」〈彼はいわゆる(才徳が人並み優れた)豪傑の士である〉〔孟子・滕上〕。「所謂天道是邪非邪」〈(公平無私と皆がいう)あの天道は、果たしてほんとうに正しいのか、正しくないのか〉〔史記・伯夷〕

字通

[会意]戸+斤(きん)。〔説文〕十四上に「木を伐る聲なり」とし、〔詩、小雅、伐木〕「木を伐ること所所たり」の句を引くが、今本は「許許」に作る。擬声語の他に、本義のあるべき字である。金文の〔叔夷鎛(しゆくいはく)〕に「カク 外字カク 外字(くわくくわく)たる成唐(湯(とう)、殷の祖王)、嚴として帝所に在り」「桓武なる靈公の所に共(供)する又(あ)り」のように用い、所とは聖所・霊廟をいう。戸は神位を蔵する所の戸、その前に呪鎮として斧鉞の類をおく。その神戸を啓(ひら)くを啓、その神意を拝するを肇といい、金文には肈に作る。■(戸+戈)は所と字の立意同じ。のち御所・御座所のようにいい、また一般住居の意とするが、本来は聖所をいう字である。處(処)が虎皮を蒙る神霊の代位者が居るところであるのと同じ。所を関係代名詞や受身に用いるのは後起の用義法で、音の仮借によるものである。

書(ショ・10画)

論語 書 金文
頌簋・西周晚期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はɕi̯o(平)。論語では『書経』、別名『尚書』のこと。歴史書の一種で、孔子時代までの為政者の宣言を集めた書。現在では失われており、後世の偽作のみ伝わる。

学研漢和大字典

形声文字で、「聿(ふで)+(音符)者」で、ひと所に定着させる意を含む。筆で字をかきつけて、紙や木簡に定着させること。類義語の写は、Aの場所にかかれたものをBの場所にうつすこと。つまりかきうつす意、という。

意味

  1. (ショス){動詞}かく。かきつける。《類義語》著・写。「書写」「子張書諸紳=子張諸を紳に書す」〔論語・衛霊公〕
  2. {名詞}ふみ。書物。またはかきしるしたもの。「書籍」「何必読書=何ぞ必ずしも書を読まん」〔論語・先進〕
  3. {名詞}ふみ。手紙。「書信」「家書」「叔向使詒子産書=叔向子産に書を詒らしむ」〔春秋左氏伝・昭六〕
  4. {名詞}意見や命令をかきつけた文書。「上書(意見書を奉る)」「詔書」。
  5. {名詞}文字。または文字のかき方。字をかく術。「六書(リクショ)(漢字の六種の造字法)」「書法」。
  6. {名詞}文字のスタイル。▽篆書(テンショ)・隷書(レイショ)・楷書(カイショ)・行書(ギョウショ)・草書(ソウショ)など。
  7. {名詞}「書経」のこと。上古の歴史や皇帝の命令を載せた書物。「詩書礼楽」「尽信書、則不如無書=尽く書を信ずれば、則ち書無きに如かず」〔孟子・尽下〕

字通

[会意]聿(いつ)+者。〔説文〕三下に「箸(あら)はすなり」と書・箸の畳韻を以て訓し、者(しや)声とする。聿は筆、者が書そのものに外ならぬ形であるから、会意字である。者は遮蔽されている曰(えつ)。曰は呪符を収めた器。曰の上は、小枝を交え、土をかけた形で、曰を土中に埋める意。古代の聚落には、おおむね馬蹄形にお土居を作って守ったが、そのお土居中に書をおいて呪禁とした。そのお土居を堵(と)(かき)といい、その呪禁としてしるしたものを書という。のち、ひろく書冊・文字をいう。

庶(ショ・11画)

論語 庶 金文
邾公華鐘・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶiaɡ(去)。

学研漢和大字典

会意。この字の下部は動物の頭(廿印)のあぶらを燃やすさまで、光の字の古文。庶はそれに广(いえ)を添えたもので、家の中で火を集め燃やすこと。さらにまた、諸(これ)と同様に、近称の指示詞にあて「これこそは」と強く指示して、「ぜひこれだけは」の意をあらわす副詞に転用された。煮(にる)・暑(あつい)と同系のことば。また、集める意を含み、仙(セキ)(集める)・諸(もろもろ)とともに、多くの物が集まった意に用いられる。貯(チョ)(多く集めてたくわえる)と同系。類義語に民。

語義

  1. {名詞・形容詞}もろもろ。多くの物。数多くの。《類義語》諸(ショ)。「庶物(多くの物)」「臣庶(多くの家来)」。
  2. {名詞}もろびと。大衆。「庶無罪悔=庶に罪悔無し」〔詩経・大雅・生民〕
  3. {形容詞}おおい(おほし)。物が豊かで多い。「富庶(フウショ)」「庶矣哉=庶き矣哉」〔論語・子路〕
  4. 「庶子(ショシ)」とは、嫡子(チャクシ)・適子(テキシ)に対して、めかけの子のこと。▽正妻の子は限られているが、めかけの子は多いことから。
  5. {形容詞}ちかい(ちかし)。→語法「②」。
  6. {動詞}こいねがう(こひねがふ)。ぜひこれだけはと、望む。「庶幾(コイネガウ)」。
  7. {副詞}こいねがわくは(こひねがはくは)。→語法「①」

語法

①「こいねがわくは~せん」とよみ、チ「どうか~したい」と訳す。自らの願望の意を示す。「庶竭駑鈍攘除姦凶=庶(こひねが)はくは駑鈍(どどん)を竭(けつ)して姦凶を攘除(じゃうじょ)せんことを」〈どうか、にぶくて劣った才能をふりしぼり、悪者をはらいのけたい〉〔蜀志・諸葛亮〕▽「庶幾」も「こいねがわくは~せん」とよみ、意味・用法ともに同じ。「庶幾息兵革=庶幾(こひねが)はくは兵革を息(や)めんことを」〈戦争をやめたいと願った〉〔史記・秦始皇〕ヂ「どうか~してほしい」と訳す。相手への願望の意を示す。「庶可已矣=庶(こひねが)はくは已(や)む可し」〈どうかおやめになってください〉〔国語・魯〕▽「庶幾」も、「こいねがわくは~せん」とよみ、意味・用法ともに同じ。「王庶幾改之=王庶幾(こひねが)はくはこれを改めよ」〈王よ、どうか考えを改めくだされ〉〔孟子・公下〕

②「ちかし」とよみ、「おおかた」「ほとんど」と訳す。状況・程度に接近する意を示す。「回也其庶乎=回やそれ庶(ちか)きか」〈回(顔淵)はまあ(理想に)近いね〉〔論語・先進〕

字通

[会意]广(げん)+廿(じゆう)+火。〔説文〕九下に「屋下の衆なり。广炗に從ふ。炗は古文の光字なり」とし、徐鉉は「光も亦た衆盛なり」と補説している。衆庶の意とするものである。广は廚房(ちゆうぼう)、廿は鍋など烹炊(ほうすい)の器の形。鍋の下に火を加え、烹炊を原義とする字。煮はその形声字である。者(者)は堵中に呪符として埋めた書であるから、これは煮るべきものではない。また庶は煮る意の字であるが、それを諸の意に用い、庶人・衆庶のようにいう。〔儀礼〕に正饌(せいせん)に対して盛り合わせたものを庶羞(しよしゆう)といい、庶はもと炊き合わせたものをいう。それで庶多の意となり、衆庶の意となり、嫡庶の意となる。庶幾は、それに近い状態をねがうことをいう。

暑(ショ・12画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯o(上)。同音に書、舒、紓”ゆるい”、鼠、黍、癙”気病み・ペスト”、恕。

学研漢和大字典

会意兼形声。者(=者)は、こんろで柴を燃やすさま。火力を集中する意を含み鐚(=煮。にる)の原字。鏃は「日+(音符)者」で、日光のあつさが集中すること。炙(シャ)(あぶる)・赭(シャ)(まっかに焼ける)などと同系。類義語の熱は、じわじわとねつを加えて柔らげること。暖は、ぬくぬくとあたたかいこと。異字同訓に熱い「熱い湯」 厚い「厚い壁で隔てる。支持者の層が厚い。手厚いもてなし」。旧字「暑」は人名漢字として使える。

語義

  1. {形容詞・名詞}あつい(あつし)。あつさ。日光が集中して、うだるようにあつい。また、夏のあつさ。《対語》⇒寒・涼。「残暑」「暑熱」「寒往則暑来=寒往けば則ち暑来たる」〔易経・壓辞下〕

字通

[形声]声符は者(者)(しや)。〔説文〕七上に「熱きなり」とあり、暑熱をいう。火を用いるものは庶。者は堵中の呪符であるが、庶・者の声近く、暑は者声をとる。者と庶と、声符として互易する例が多い。

雎(ショ・13画)

初出は後漢の『説文解字』にすら載っていない。はtsʰi̯o(平)で、同音は「且」を部品に持つ漢字群。

論語では、『詩経』の題「関雎」として登場する。下記『学研漢和大字典』のいう「雌雄の別が正しいとされる。夫婦間に正しい礼儀があることにたとえる」といううそデタラメがあるからには、恐らく詩経のこの歌も、後世の儒者のでっち上げだろう。

学研漢和大字典

会意兼形声。「隹(とり)+(音符)且(ショ)」。

語義

  1. 「雎鳩(ショキュウ)」とは、みさご。水辺にすむ鳥。雌雄の別が正しいとされる。▽夫婦間に正しい礼儀があることにたとえる。「関関雎鳩、在河之洲=関関たる雎鳩は、河の洲に在り」〔詩経・周南・関雎〕

字通

[形声]声符は且(しよ)。〔詩、周南、関雎〕「關關たる雎鳩」の〔伝〕に「王雎なり」とあって、みさごと解されているが、みさごは海辺の巌島に住む猛禽で、房中歌としての〔関雎〕の発想としてふさわしいものではない。雎鳩は、おそらくかもめのような川鳥であろう。この詩は原詩を改編したもので、原詩は祭事詩、雎鳩は鳥形霊としてその発想に用いられたものであろう。「參差(しんし)たる荇菜」は、原詩においては神前にそなえる水草であったと考えられる。

諸(ショ・15画)

論語 諸 金文 諸 秦系戦国文字
兮甲盤・西周晚期/秦系戦国文字・陶彙5.389

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はȶi̯o(平)。平声で麻-章の音は不明。論語の時代では、まだ「者」と「諸」は分化していない。現行字体の初出は秦系戦国文字

論語では”これを…に”の意味で用いられることがある。「之於」(シヲ:ȶi̯əɡ(平)+ʔo(平))と音が通じてこの意味を獲得したとされる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、者(シャ)(=者)は、こんろに薪をいっぱいつめこんで火気を充満させているさまを描いた象形文字で、その原義は暑(=暑)・煮(=煮)などにあらわれている。諸は「言+〔音符〕者」で、ひと所に多くのものが集まること。

転じて、多くの、さまざまな、の意を示す。▽者・諸の音を借りて「これ」という近称の指示詞をあらわすのは当て字。都(=都。人が多く集まるみやこ→すべての)に近く、また、庶民(おおぜいの人々)の庶(ショ)とほとんど同じ。

意味

  1. {形容詞}もろもろ。多くの。また、さまざまな。《類義語》庶。「諸人」「諸大夫皆曰不可、勿聴=諸大夫皆不可なりと曰ふも、聴く勿かれ」〔孟子・梁下〕
  2. {指示詞}これ。→語法「①②」。
  3. {助辞}語調をととのえることば。「日居月諸=日や居月や諸」〔詩経・邶風・日月〕

語法

①「これ」とよみ、「これを」「これに」と訳す。近称の指示詞。▽「之於=シオ」の二字をあわせて一字にしたもの。「之於」と意味・用法ともに同じ。「君子求諸己、小人求諸人=君子はこれを己に求め、小人はこれを人に求む」〈君子はこれ(失敗の原因)を自分に求めるが、小人は他人に求める〉〔論語・衛霊公〕

②「これ~や」とよみ、「どうして~か(いやそのようなことはない)」と訳す。反語の意を示す。「之乎」の二字をあわせて一字にしたもの。「之乎」と意味・用法ともに同じ。「一言而可以興邦、有諸=一言にしてもって邦(くに)を興す可きこと、これ有りや」〈ひとことで国を盛んにできるということがあるだろうか〉〔論語・子路〕

③「~其諸…乎(与)」は、「~それこれ…や」とよみ、「~は…だろうか(いやそうではない)」「~はなんと…だなあ」と訳す。▽「~其…乎=~それ…や」を強調したいい方。「夫子之求之也、其諸異乎人之求之与=夫子のこれを求むるや、それこれ人のこれを求むるに異なるや」〈先生の求めかたといえば、そう、他人の求めかたとは違うらしいね〉〔論語・学而〕

字通

声符は者(者)。〔説文〕三上「辯なり」とあり、〔爾雅、釈訓〕「諸諸・便便は辯なり」との訓をとる。「あまねし」の意である。〔段注〕に「辯つなり」の誤りとし、分別より諸多の意となったという。金文に「者侯」「者士」など、者を諸の意に用いる。者は、邑落をめぐらした堵仲に、呪禁として埋めた書をいう。その祝禱の辞が種々の呪禁に及ぶので、それを諸というのであろう。

訓義

もろもろ、多くの辞、多い。之と通じ、これ、之於・之乎と通じ、これを~に、これ~か(や)の意に合字として用いる。語末に付けて、形容の語を作る。忽諸。

女(ジョ・3画)

論語 女 金文
彭女甗・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はni̯o(上/去)。さんずいのついた「汝」(ȵi̯o。汝の字も甲骨文から出土がある)と同じく”お前”を意味することがある。唐石経では、もれなく汝を女と書いている。

学研漢和大字典

象形文字で、なよなよとしたからだつきの女性を描いたもの。弱(ジャク)・(ニャク)・若(ジャク)・(ニャク)(柔らかい)・娘(ジョウ)・(ニョウ)と同系のことば、という。

意味

  1. {名詞}おんな(をんな)。め。《対語》⇒男。「士与女、方秉拂兮=士と女と、方し拂を秉る」〔詩経・鄭風・溌粘〕
  2. ま{名詞}むすめ。ある人のおんなの子。「楊家有女初長成=楊家に女(むすめ)有り初めて長成す」〔白居易・長恨歌〕
  3. {名詞}娘や嫁が親に対して自分をさしていうことば。「女行無偏斜=女の行ひに偏斜無し」〔古楽府・焦仲卿妻〕
  4. {代名詞}なんじ(なんぢ)。おまえ。第二人称。《同義語》⇒汝。《類義語》爾。「予及女偕亡=予と女及偕に亡びん」〔孟子・梁上〕
  5. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のみずがめ座に含まれる。うるき。
  6. {動詞}めあわす(めあはす)。嫁にやる。とつがせる。▽去声に読む。《類義語》妻。「女以驪姫=女すに驪姫を以てす」〔春秋左氏伝・荘二八〕

字通

[象形]女子が跪(ひざまず)いて坐する形。〔説文〕十二下に「婦人なり。象形」とあり、手を前に交え、裾をおさえるように跪く形。動詞として妻とすること、また代名詞として二人称に用いる。代名詞には、のち汝を用いる。

汝(ジョ・6画)

汝 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯o(上)。論語の場合、唐石経では、もれなく汝を女(ni̯o)と書いている。上古の時代、ほぼ区別されず使われたが、なぜか金文では見られない。

学研漢和大字典

形声。「水+(音符)女」で、もと、汝水という川の名。昔は二人称代名詞をniag・niakなどといったので、その音に近い発音をもつ女(おんな)nɪag・汝niag・若(わかい)niakなどの字を当ててあらわした。漢字の仮借(当て字)の用法の一つである。▽「書経」は汝を用い、「論語」は多く女を用いている。「なんじ」は「爾」とも書く。

語義

  1. {代名詞}なんじ(なんぢ)。きみ。おまえ。おまえたち。《対語》⇒吾(われ)・我。《類義語》女(ナンジ)・若(ナンジ)・爾(ナンジ)。「汝我之間(ジョガノアイダ)(きみ、ぼくというほどの親しいつきあい)」「汝平水土=汝水土を平らかにせよ」〔書経・舜典〕
  2. {名詞}川の名。河南省の嵩(スウ)県から発して東流し、淮水(ワイスイ)に注ぐ。汝水(ジョスイ)。▽臨汝(リンジョ)・汝陽(ジョヨウ)などはその沿岸の地名。

字通

[形声]声符は女(じょ)。女は汝の初文。〔説文〕十一上に水の名とする。〔詩、周南、汝墳〕にその名がみえる。二人称として、〔詩、大雅、蕩〕「咨(ああ)、汝殷商」のように用いるが、金文にはすべて女を用いる。

如(ジョ・6画)

論語 如 甲骨文 如 金文
(甲骨文)/十年鈹・年代不明

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȵi̯o(平)。去声の音は不明。『大漢和辞典』の第一義は”ごとくす”。年代確実な金文は未発掘。『殷周金文集成』所収の「十年鈹」に「十年。得工嗇夫𡉣相女(=如)。左得工工帀韓段。冶𪱛朝執齊」とあり、論語の時代も同様に「女」と書かれたと推察される。

「如」の原義を下掲『学研漢和大字典』は音しか検討していないので、賛同しがたい。一方『字通』は、「女は巫女。口は祝詞を収めた𠙵さい器。巫女がトウ文を前にして祈る形」と言うが、これはもっと賛成できない。字形はどう見ても、女の後ろに口が描いてあるからだ。

尊い祈祷文にシリを向けて祈ればバチが当たるだろう。四角い図形についても、漢字でそれを見つけるとすぐさま「祈祷文を容れた𠙵さいだ」とパブロフ犬のように言い立てるのも間抜けと思う。素直に文字の古形を見れば、誰かの発言=口を、神との間で巫女が仲立ちしている姿だ。

つまり発言者の「言う通りに」神に上げ伝えることを示す字で、甲骨文の「王は其れはからんか」とはそういう事だろう。『字通』の言う下りてきた「神意を受けて従う」意では断じてない。

『学研漢和大字典』の語釈「もしくは」は、論語先進篇26を偽作した前漢の儒者が、偽作を古くさく見せるために、「與」zi̯o(上)と書くべき所に「如」ȵi̯o(平)と記したハッタリで、こんな珍妙な語義は、同時代以降の猿真似を除けば、やはり前漢儒者による『儀礼』の「公如大夫」『書経』の「如五器」ぐらいしかない。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「口+〔音符〕女」。もと、しなやかにいう、柔和に従うの意。ただし、一般には、若とともに、近くもなく遠くもない物をさす指示詞に当てる。

「A是B」とは、AはとりもなおさずBだの意で、近称の是を用い、「A如B(AはほぼBに同じ、似ている)」という不即不離の意を示すには中称の如を用いる。仮定の条件を指示する「如(モシ)」も、現場にないものをさす働きの一用法である。

意味

  1. {指示詞・動詞}ごとし。→語法「①-(1)」。
  2. {動詞}しく。…と同じぐらいだ。…に匹敵する。▽「しく」とは奈良時代の日本語で「及ぶ、届く」の意。「不如(シカズ)(…に及ばない)」「莫如(シクナシ)・(シクハナシ)(それに及ぶものはない)」→語法「②③④」。
  3. {動詞}ごとくする(ごとくす)。…のようにする。「如約=約のごとくせん」〔史記・高祖〕
  4. {動詞}ゆく。いく。《類義語》之(ユク)。「公、将如棠、観魚者=公、まさに棠に如き、魚する者を観んとす」〔春秋左氏伝・隠五〕
  5. {接続詞}もし。→語法「⑤」。
  6. {接続詞}もしくは。→語法「⑥」。
  7. {接続詞}ごときは。→語法「①-(2)」。
  8. {動詞}いかん。いかんせん。→語法「⑦⑧」。
  9. {助辞}状態をあらわす形容詞につくことば。《類義語》…然(ゼン)。「申申如也」〔論語・述而〕

語法

  1. 「~のごとし」とよみ、「~のようだ」と訳す。比較して判断する意を示す。《同義語》若。「其仁如天、其知如神=その仁は天の如(ごと)く、その知は神の如し」〈その慈愛心(の大きいこと)は、天のようであり、その智恵(の秀いでたこと)は、神のようである〉〔史記・五帝〕。「富貴不帰故郷、如衣繍夜行=富貴にして故郷に帰らざるは、繍を衣(き)て夜行くが如(ごと)し」〈富貴の身となったのに故郷に帰らぬというのでは、美しい錦を着て、夜歩くようなものだ〉〔史記・項羽〕
  2. 「~のごときは」とよみ、「~の場合は」「~に関しては」と訳す。話題の程度を進める、また話題を転換する意を示す。「如其礼楽、以俟君子=その礼楽の如(ごと)きは、もって君子に俟(ま)たん」〈礼楽などのことは、それは君子にたのみます〉〔論語・先進〕

②「しく」とよみ、「同等である」と訳す。比較して優劣を判定する意を示す。「為之両相如=これを為るに両(ふた)つながらあひ如(し)く」〈二つ作るのに両方とも似たようにする〉〔墨子・備城門〕

  1. 「~不如…」は、「~は…にしかず」とよみ、「~は…に及ばない」「~より…の方がよい」と訳す。比較して優劣を判定する意を示す。「百聞不如一見=百聞は一見に如(し)かず」〈百回聞くことは、一回見ることには及ばない〉〔漢書・趙充国〕
  2. 「~未如…」は、「~いまだ…にしかず」とよみ、「~はいまだ…に及ばない」と訳す。比較して優劣を判定する意を示す。「今学曾未如肬贅、則具然欲為人師=今の学は曾(すなは)ち未だ肬贅(いうぜい)にも如(し)かざるに、則(すなは)ち具然(ぐぜん)として人の師為らんことを欲す」〈今の学者ときたら、まだいぼやこぶほどの知識も持っていないのに、一人前の顔をして他人の師になろうと思っている〉〔荀子・宥坐〕

④「~莫如…」は、「~は…にしくはなし」とよみ、「~に関しては…に及ぶものはない(=…が最もよい)」と訳す。比較して優劣を判定する意を示す。「知臣莫如君=臣を知るは君に如(し)くは莫(な)し」〈臣下を知ること主君に優るものはない〉〔史記・斉太公〕

  1. 「もし~せば」とよみ、「もし~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「王如知此、則無望民之多於隣国也=王如(も)しこれを知らば、則(すなは)ち民の隣国より多からんことを望む無(な)かれ」〈王がそのことをお分かりでしたら、人民が隣国より多くなるのを望んではなりません〉〔孟子・梁上〕
  2. 「もし~ども」とよみ、「もし~としても」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。「如有周公之才之美、使驕且吝、其余不足観也已=如(も)し周公の才の美有りとも、驕(おご)りかつ吝(やぶさ)かなら使めば、その余は観るに足らざる」〈たとえ周公ほどの立派な才能があったとしても、傲慢で物惜しみするようなら、そのほかは目をとめるねうちもない〉〔論語・泰伯〕

⑥「~如…」は、「~もしくは…」とよみ、「~か…かのどちらか」と訳す。選択の意を示す。《類義語》或(アルイハ)。「安見方六七十、如五六十、而非邦也者=安(いづく)んぞ方六七十、如(も)しくは五六十にして、邦(くに)に非(あら)ざる者を見ん」〈どうして六七十里か五六十里四方で国でないものがあるだろうか〉〔論語・先進〕

⑦「何如」は、

  1. 「いかん」とよみ、「どうであるか」と訳す。内容・状態・真偽を問う疑問の意を示す。《同義語》何若。「子貢問曰、賜也何如=子貢問ひて曰く、賜や何如(いかん)」〈子貢がお尋ねして、賜(この私)などはどうでしょうかと言う〉〔論語・公冶長〕
  2. 「いかんせん」とよみ、「どうしたらよいか」と訳す。方法・処置を問う疑問・反語の意を示す。「鳳兮鳳兮何如徳之衰=鳳鳳徳の衰へたるを何如(いかん)せん」〈鳳(おおとり)よ、おまえの徳が衰えたことをどうしたらよいか〉〔荘子・人間世〕
  3. 「いかなる」とよみ、「どんな」と訳す。「斉王亦何如主也=斉王はまた何如(いか)なる主ぞ」〈斉王はいったいどういう君主かな〉〔韓非子・外儲説右下〕

⑧「如何~」は、

  1. 「~をいかん(せん)」とよみ、「~をどうするか」「どうしたらよいか」と訳す。方法・処置を問う疑問の意を示す。目的語がある場合は「如~何」と、その目的語を間にはさむ。《同義語》若何。「是則可憂也、憂之如何=これ則(すなは)ち憂ふ可きなり、これを憂へば如何(いかん)せん」〈これこそまことに憂うべきことなのである、これを憂えるならばどうすればよいのか〉〔孟子・離下〕
  2. 「いかんぞ~せん」「~をいかんせん」とよみ、「どうして~しようか(いやそうしない)」と訳す。原因・手段を問う疑問・反語の意を示す。「斯居三公位、如何令盗如此=斯三公の位に居りながら、如何(いかん)ぞ盗をしてかくの如(ごと)くなら令むる」〈(李)斯は宰相という最高の地位にありながら、どうして盗賊をこのように横行させたのか〉〔史記・李斯〕

字通

論語 如 字解
会意、「女+口」。女は巫女。口は祝詞を収めた𠙵さい器。巫女がトウ文を前にして祈る形で、その手をかざして舞う形は「若」。〔説文〕十二下に「従い随うなり」とあり、〔段注〕に「随従するに必ず口を以てす。女に従う者は、女子は人に従う者なればなり」とするが、如・若に従う意があるのは、巫女によって示された神意に従うことをいう。〔爾雅、釈詁〕に「謀るなり」とは、神意にう意。〔郭璞注〕に茹と同声とし、はかる意。茹は若と同構の字。卜辞に「王は其れはからんか」という例があり、巫によって神意を諮う意であろう。神意を受けて従うので、また従順の意となり、「如くす」と意となる。「如何」とは、神意を問うことをいう。字の用義は若と近く、形義に通ずるところがある。

訓義

  1. はかる、神にはかる、神意をとう。
  2. したがう、神意に従う、神意のままにする。
  3. ごとくする、ごとし、神意に合うようにする。
  4. しく、およぶ、神意に近づく、ゆく、いたる。
  5. 如何、いかん、神意は何かととう、いかんせん。
  6. 若と通じ、もし。形容語を作る、忽若~忽茹。

恕(ジョ・10画)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。「如心」と二文字で書いた可能性はある。カールグレン上古音はɕi̯o(去)。「如」はȵi̯o(平)で、音素の共通率は66.7%。ただし「如」に”思いやる”の語釈は『大漢和辞典』に無い。

ɕ o
ȵ o

論語 如 甲骨文 論語 恕 古文
「如」(甲骨文)・「恕」(古文)

『字通』では、「心+如」とし、如は巫女がお祈りしてエクスタシー状態になり、神意をうかがい、はかる意とする。それゆえ恕は、他の心意をうかがいはかることという。
論語 恕

しかし『説文解字』に載せる古文の形は「心+如」ではなく、「心+女」で、古文の時代には辞書に見られるような意味でなかった。

論語 恕 金文戦国末期 論語 恕 楚系簡帛文字
「妾子𧊒壺」戦国末期・「荊門郭店楚墓竹簡‧語叢2.26」戦国後期

『荀子』は孔子の言葉として記すというウソを行いつつも、”他人を自分と対等に扱う”・”お互い様”の意で用いている。

孔子「君子は三種類の”恕”を身につけねばならぬ。とうてい仕えられないバカ殿が、”ワシに仕えよ”と求めるのは、恕ではない。恩返しする気にもならないバカ親がいて、子供に”孝行しろ”と求めるのは、恕ではない。尊敬する気にもならないバカ兄がいて、”俺の言う通りにしろ”と弟に言うのは、恕ではない。君子たる者この三つをわきまえて、やっと身持ちをすがすがしく出来るのだ。」(『荀子』法行7。ほぼ同文が『孔子家語』三恕1にある)

戦国末期に”お互い様”を示す文字=言葉として表れた「恕」を、”相手を思いやる”という言葉に用い始めたのは、おそらく前漢の儒者である。詳細は論語における恕を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。如は、汝(ジョ)(自分とペアをなす相手)と同系のことば。自分と同じような対者という意味を含む。恕は「心+(音符)如(ジョ)」で、相手を自分と同じように見る心のこと。類義語に許。

語義

  1. {動詞・名詞}自分を思うのと同じように相手を思いやる。思いやり。「其恕乎、己所不欲勿施於人=其れ恕か、己の欲せざる所は人に施すこと勿かれ」〔論語・衛霊公〕
  2. {動詞}ゆるす。自分に引き比べてみて、他人を寛大に扱う。また、同情して相手をとがめずにおく。「寛恕(カンジョ)」「宥恕(ユウジョ)」。

字通

[形声]声符は如(じょ)。〔説文〕十下に「仁なり」とし、如声とする。如は女巫がお祈りしてエクスタシーの状態となり、神意をうかがい、はかる意。他の心意をうかがいはかることを、恕という。〔論語、里仁〕に「夫子(ふうし)の道は忠恕のみ」とあり、それが仁への道とされた。

大漢和辞典

→リンク先を参照

小(ショウ・3画)

論語 小 金文
大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯oɡ(上)。

学研漢和大字典

象形。中心の┃線の両わきに点々をつけ、棒を削ってちいさく細くそぐさまを描いたもの。消(火をちいさくする)・宵(日光がちいさくなる夕方)・肖(肉づきをちいさく削る)・削(サク)(ちいさくけずる)などと同系。付表では、「小豆」を「あずき」と読む。

語義

  1. (ショウナリ)(セウナリ){形容詞・名詞}ちいさい(ちひさし)。ちいさいこと。ちいさいもの。《対語》⇒大。「大兼小=大は小を兼ぬ」「国小力不能=国小さくして力能はず」〔史記・荊軻〕
  2. (ショウトス)(セウトス){動詞}ちいさいと思う。価値のないつまらないものとして軽んじる。「小視」「登太山而小天下=太山に登りて天下を小とす」〔孟子・尽上〕
  3. {名詞}ちいさい者。幼い者。つまらない者。「小人」の略。「卑小」「群小(小人ども)」「家小(妻子ども)」。
  4. {形容詞}自分側のことを謙そんしていうことば。「小店」「小社」。
  5. {副詞}すこしく。わずかに。《類義語》稍・少。「病小愈=病小しく愈ゆ」〔孟子・公下〕
  6. {名詞}しばらく。すこしの間。「小憩(ひと休み)」「開門小立月明中=門を開きて小く立つ月明の中」〔楊万里・夏夜追涼〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①お(を)。こ。ちいさい、すこしの、の意をあらわす接頭語。「小川(オガワ)」「小雨(コサメ)」。
    ②こ。大体それに近い、軽んじてあなどる、の意をあらわす接頭語。「小一時間」「小利口」。
    ③「小の月」の略。太陽暦で、三十日または、二十八日(うるう年は二十九日)の月。
    ④脇差。「大小二本差し」。
    ⑤「小便」の略。「小水」。
    ⑥「小学校」の略。「公立小」。

字通

[象形]微小なるものに象る。金文の字形は、貝または玉を示すものであろう。〔説文〕二上に「物の微なるものなり。八に從ふ。丨(わづ)かに見えて、之れを八分す」とするが、卜文・金文の字形は、相似た三点を配するのみの形である。字はおそらく𧴪・瑣(さ)の字形に含まれるものと同じく、貝・玉の類。これを連ねるを少という。

上(ショウ・3画)

論語 上 金文
士上盉・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯aŋ(上/去)。「ジョウ」は呉音。

学研漢和大字典

指事。ものが下敷きの上にのっていることを示す。うえ、うえにのるの意を示す。下の字の反対の形。尚(ショウ)(たかい、上にあがる)と同系。また、揚(ヨウ)(あがる)とも同系。類義語に献・挙。異字同訓に揚がる・揚げる「花火が揚がる。歓声が揚がる。たこを揚げる。船荷を揚げる。てんぷらを揚げる」 挙げる「例を挙げる。全力を挙げる。国を挙げて。犯人を挙げる」 のぼる 上る「水銀柱が上る。損害が一億円に上る。川を上る。坂を上る。上り列車」 登る「山に登る。木に登る。演壇に登る」 昇る「日が昇(上)る。天に昇(上)る」。付表では、「上手」を「じょうず」と読む。

語義

  1. {名詞・形容詞}うえ(うへ)。かみ。位置・場所・順序・品性・価値などが高いほう。また、物・物事の流れのもとのほう。また、物・物事のもとのほうであるさま。《対語》⇒下。「上端」「上流」「上品」。
  2. {名詞}かみ。目上の人。また、身分の高い人。「上下交征利=上下交利を征す」〔孟子・梁上〕
  3. {名詞}かみ。順序の前のほう。《対語》⇒下・後。《類義語》前。「上巻」。
  4. {名詞}帝王をさす尊敬のことば。「今上(キンジョウ)(今の皇帝)」。
  5. {動詞}あげる(あぐ)。あがる。高くする。また、高くなる。《対語》下。「上其手=其の手を上ぐ」。
  6. {動詞}のぼる。高いほうへいく。《対語》下。
  7. {動詞}たてまつる。目上の人や上級の役所にさしあげる。「上書=書を上る」。
  8. {名詞}ほとり。あたり。「子、在川上=子、川の上に在り」〔論語・子罕〕
  9. {名詞}関係する面。…において。「理論上」。
  10. {形容詞}《俗語》この前の。「上次(前回)」「上月(まえの月)」。
  11. 「上声(ジョウセイ)・(ジョウショウ)」とは、四声の一つ。▽上声に読む。
  12. 《日本語での特別な意味》「上野(コウズケ)」の略。「上州」。

字通

[指事]掌上に指示点を加えて、掌上の意を示す。〔説文〕一上に古文の字形をあげ、「高なり。此れ古文の上、指事なり」という。卜文の字形は掌を上に向け、上に点を加え、下は掌を以て覆い覈(かく)す形で、下に点を加える。天子の意に用いるときは、清音でよむ。

升(ショウ・4画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

会意。「ます+手」で、穀物や液体をますに入れて持ちあげ、はかるさまを示す。持ちあげるの意。昇や陞は、その原義を伝え、升や枡は、ますの意に専用された。上へあげる点では、勝(持ちあげる)・乗(上にのる)・登などと同系。「穀物や液体の量をはかる道具。ます」の意味では「枡」とも書く。

語義

  1. {単位詞}ますめの単位。一升は、一合の十倍。▽十升を一斗という。周代の一升は約〇・一九四リットル。のち次第に大きくなり、唐代には約〇・五九リットル。
  2. {名詞}ます。《同義語》⇒枡。
  3. {動詞}のぼる。上方へ移る。《同義語》⇒昇・陞。《対語》⇒降。「升進」。
  4. {動詞}のぼる。茎の上方に実をむすぶ。実る。実った穀物を刈りあげる。《同義語》⇒登。「新穀既升=新穀既に升る」〔論語・陽貨〕
  5. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。巽下坤上(ソンカコンショウ)の形で、上方の弱点に乗じて、下方の陽気がのぼるさまを示す。

字通

[象形]穀量をはかる器の形。〔説文〕十四上に「十合なり」(段注本)とあり、勺形の器。斗の字形もこれと近く、一斗を入れる。升降の意に用いるのは、陞の意。〔呂覧、孟夏〕に「農(官名)乃ち麥を升(すす)む」とあって、供薦の意に用いる。昇・陞の意に用いることがある。

[形声]声符は升(しよう)。〔広雅、釈詁一〕に「上るなり」とあり、〔楚辞、離騒〕「勉めて陞降して以て上下せよ」のように、天地の間に往来する意に用いる。𨸏(ふ)は神梯の象。陟降は神の陞降することをいう。升・阩は陞の略字とみてよい。

少(ショウ・4画)

論語 少 金文
𨟭侯少子簋・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯oɡ(上/去)。

学研漢和大字典

会意。「小(ちいさくけずる)+ノ印(そぎとる)」で、削って減らすこと。のち、分量や数が満ち足りない意に用い、年齢の満ち足りないのを少年という。抄(ショウ)(さっとかすめる)と同系。類義語に寡。

語義

  1. {形容詞}すくない(すくなし)。たくさんない。わずかな。▽後に名詞を伴うときは、前に返って訓読する。《対語》⇒多・衆。《類義語》寡・稀。「兵少食尽=兵少なく食尽く」〔史記・項羽〕。「峨嵋山下少人行=峨嵋山下人行少なし」〔白居易・長恨歌〕
  2. {名詞}少数。また、少数の人。《対語》衆。「与少楽楽=少と楽を楽しむ」〔孟子・梁下〕
  3. {動詞}かく。足りない。「欠少」「衆挿茱萸少一人=衆(あまね)く茱萸(しゅゆ)を挿して一人を少く」〔王維・九月九日憶山東兄弟〕
  4. {副詞}すこし。すこしく。程度・数量がすくないこと。わずかに。「少光王室=少しく王室を光かす」〔国語・周〕
  5. {副詞}しばらく。すこしの間たって。しばし。「少則洋洋焉=少くすれば則ち洋洋たり焉」〔孟子・万上〕
  6. {形容詞・名詞}わかい(わかし)。年がわかい。わかい者。▽去声に読む。《対語》長・老。「少年」「少時(わかい時)」「人少則慕父母=人少ければ則ち父母を慕ふ」〔孟子・万上〕。「比少已憔悴=少に比ぶれば已に憔悴す」〔袁宏道・白香山三十四歳〕
  7. {名詞}添え役。▽「太師」「太傅(タイフ)」に対して、そのわき役を「少師」「少傅」という。去声に読む。

字通

[象形]小さな貝や玉を綴った形。〔説文〕二上に「多からざるなり」とし、字を丿(へつ)声とするが、声が合わない。貝や玉を綴ったものを𧴪・瑣(さ)という。

邵/召(ショウ・5画)

論語 召 金文
召仲鬲・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯oɡ(去)。「召」から周王朝配下の小諸侯の名である「邵」の字が分化したのは、春秋時代末から。分化後の語義はリンク先を参照

学研漢和大字典

会意兼形声。刀は、)型に曲線を描いた刀。召は「口(くち)+(音符)刀」で、口でまねき寄せること。沼(曲線を描いた池)・超(曲線を描いて飛び越える)・招(手を曲線状に曲げてまねく)と同系。

語義

ショウ(去zhào)
  1. {動詞}めす。呼び出す。▽口で呼び寄せるのを召、手でまねきよせるのを招という。「召喚」「召門弟子=門弟子を召す」〔論語・泰伯〕
  2. {動詞}まねく。まねき寄せる。▽招に当てた用法。「況陽春召我以煙景=況んや陽春我を召くに煙景を以てするをや」〔李白・春夜宴桃李園序〕
  3. {名詞}目上の人からのまねき。お召し。《同義語》⇒詔。「応召(官のお召しに応ずる)」「非有詔召、不得上=詔召有るに非ずんば、上るを得ず」〔史記・荊軻〕
ショウ(去shào)
  1. {名詞}古代の国名。また、姓の一つ。
  2. 《日本語での特別な意味》
    ①めす。動作の主体者を尊敬する意をあらわすことば。「思(オボ)し召す」。
    ②めす。食う・着る・乗るなどの敬語。「召し上がれ」

字通

[会意]人+口。人は上から降下する形。口は祝詞を収める器の𠙵(さい)。祝禱して霊の降格することを求める意で、招きに応じて霊が降りてくることを「昭格」という。格の初文は各。夂(ち)は足より降下する意で、字の形象は召と同じ。周初の召公は皇天尹大保とよばれる聖職者で、その召を金文では𥃝(しよう)としるす。祝告し、酒を供えて、霊をよぶ意である。〔説文〕二上に「召は𧦝(よ)ぶなり」、𧦝字条三上に「𧦝は召すなり」とあって互訓。𧦝の初文は乎。鳴子板を以て神をよぶ意の字。「昭格」は金文では「卲各」に作り、卲は神霊の降格を迎えて拝する形。金文に召公の字を𥃝に作ることから、召公の家がそのような聖職者であったことが知られる。

松(ショウ・8画)

初出は戦国中期の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzi̯uŋ(平)。同音に誦、頌、訟。異体字に㮤。いずれにせよ”マツ”の意で春秋時代には遡れない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「木+(音符)公(つつぬけ)」。葉が細くて、葉の間がすけて通るまつ。鬆(ショウ)(すけて通る)・頌(ショウ)(つまらずに最後まで通してとなえる)と同系。

語義

  1. {名詞}まつ。木の名。常緑針葉樹。広く建築材料などに用いられる。
  2. {形容詞・名詞}松は常緑であるところから、節操・長寿・繁茂などのたとえにつかう。「如松茂矣=松茂のごとし」〔詩経・小雅・斯干〕

字通

[形声]声符は公(こう)。公に頌・訟(しよう)の声がある。〔説文〕六上に「木なり」とし、重文として梥を録する。常緑の木で多節、偃蹇(えんけん)としておごり高ぶる姿が愛されて、古くから祝頌の詩に用いられ、〔詩、小雅、斯干〕に「松の茂るが如く」、また〔詩、小雅、天保〕に「松柏の茂るが如く」のように歌われている。

尙/尚(ショウ・8画)

尙 尚 金文
喪史員瓶・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯aŋ(去)。平声の音は不明。藤堂上古音はdhiaŋ。

学研漢和大字典

会意。「向(まど)+八(わかれる)」で、空気抜きの窓から空気が上にたち上って、分散することを示す。上、上にあがるの意を含む。また、上に持ちあげる意から、あがめる、とうとぶ、身分以上の願いなどの意を派生し、また、その上になお、の意を含む副詞となる。上・揚(あがる)と同系。「なお」は「猶」とも書く。

語義

ショウ(去声)
  1. {副詞}なお(なほ)。→語法「①-1」。
  2. {副詞}なお(なほ)。→語法「①-3」。
  3. {副詞}なお(なほ)。→語法「②」。
  4. {動詞}くわえる(くはふ)。その上につけくわえる。「好仁者無以尚之=仁を好む者は以てこれに尚ふる無し」〔論語・里仁〕
  5. {動詞}とうとぶ(たふとぶ)。上をあがめる。「尊尚」「好尚(好みとうとぶ)」「不尚賢、使民不争=賢を尚ばざれば、民をして争はざらしむ」〔老子・三〕
  6. {動詞・形容詞}たかくする(たかくす)。たかい(たかし)。上にもちあげる。たかくする。格がたかい。「高尚」「尚志=志を尚くす」〔孟子・尽上〕
  7. {形容詞}ひさしい(ひさし)。上の時代から続いていて古い。▽「尚書(書経)」とは、上古の書、の意。《類義語》久。
  8. {動詞}こいねがう(こひねがふ)。こいねがわくは(こひねがはくは)。→語法「③」。
  9. (ショウス)(シャウス){動詞}天子の娘をめとる。▽身分より上に出た婚姻であることから。「漢家列侯尚公主=漢家の列侯公主に尚す」〔漢書・王吉〕
ショウ(平声)
  1. 「尚羊(ショウヨウ)・尚佯(ショウヨウ)」とは、さまよう。《同義語》臭秋。

語法

①「なお」とよみ、

  1. 「さらにそのうえ」と訳す。累加の意を示す。「今君又尚厚積余蔵=今君また尚ほ積を厚くし蔵を余す」〈今父上はさらに財産を集め、倉に余るほど貯めこんでおります〉〔史記・孟嘗君〕
  2. 「尚且~=なおかつ」「尚復~=なおまた」も、意味・用法ともに1.と同じ。▽「尚且」は、後漢以後多く用いる。「尚復」は、唐以後多く用いる。「猶且=なおかつ」「猶復=なおまた」は、よみは同じだが、意味は「それでもなお」と異なる。「瞽叟尚復欲殺之=瞽叟(こさう)尚ほまたこれを殺さんと欲す」〈瞽叟(舜の父親)はまたしても舜を殺そうと思った〉〔史記・五帝〕
  3. 「今もなお」「まだ」「やはり」と訳す。以前からの状況が続いている意を示す。「視吾舌、尚在不=吾が舌を視よ、尚ほ在りや不(いな)やと」〈おれの舌をみろ、まだついているか、ついていないか〉〔史記・張儀〕

②「~すらなお」とよみ、「~でさえも」と訳す。抑揚の意を示す。《類義語》猶。「好尚不可為、其況悪乎=好きことすら尚ほ為す可からざるに、それ況(いはん)や悪きことをや」〈善いことでさえしてはならないのだから、まして悪いことなんかしてはなるまい〉〔世説新語・賢媛〕

③「こいねがわくは」とよみ、「~を願う」「どうか~してほしい」と訳す。相応以上の願望を述べる意を示す。「爾尚及予一人致天之罰=爾(なんぢ)尚(こひねが)はくは予一人と天の罰を致(いた)せ」〈おまえたちよ、どうかわれと力を併せて天の罰を夏の桀に加えよ〉〔史記・殷〕

④「~尚…、而況=」は、「~すらなお…、しかるをいわんや=をや」とよみ、「~でさえもなお…であるのだから、ましてや=はなおさら…である」と訳す。抑揚の意を示す。「臣尚自悪也、而況於君=臣すら尚ほ自ら悪(にく)む、而(しか)るを況(いはん)や君におひてをや」〈自分自身でさえ、自分がいやになるほどですから、まして君におかれてはなおさらのことでしょう〉〔韓非子・外儲説左上〕

⑤「尚~、安…乎」は、「なお~、いずくんぞ…せんや」とよみ、「なお~ですらあるのだから、どうして…であろうか」と訳す。反語の意を示す。「其桀虧尚如斯、安肯以愛子而為質乎=その桀虧(けつごう)尚ほかくの如(ごと)し、安(いづ)くんぞ肯(あへ)て愛子をもって為さん質と」〈乱暴で服従しないのはこのようであるのだから、どうして可愛いわが子を人質にすることに納得するであろうか〉〔漢書・匈奴〕

字通

[会意]向(こう)+八。向はまど。光の入るところに、神を迎えて祀る。上のh八の形は、そこに神気があらわれ、ただようことを示す。〔説文〕二上に「曾なり。庶幾(しよき)するなり。八に從ひ、向聲」とするが、向は窓の形。「曾なり」の訓は、前条の「曾は詞の舒なり」の意を承け、「曾(すなわ)ち」の意。尚が八に従う意を説くものであろうが、兄(祝)が祝禱して神気を歆(う)け、恍惚の状となることを兌(悦・脱)というように、八は神気を示す。「尚(ねが)う」「尚(たか)し」「尚(くわ)う」「尚(たつと)ぶ」は、みなその引伸義。金文に「子〻孫〻、是れを尙(つね)とせよ」「永く典尙と爲せ」のように、常の意にも用いる。また掌と通じ、つかさどる意がある。

承(ショウ・8画)

承 金文
匽侯簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

会意。「人+りょうて+手」で、人がひざまずいて、両手でささげうけるさま。上へ持ちあげる意を含む。拯(ジョウ)(両手で上へすくいあげる)・乗(上へのせる)・称(もちあげる)と同系。類義語に受。

語義

  1. {動詞}うける(うく)。両手で上にささげてうける。「奉承(おしいただく。転じて相手の意を迎えてへつらう)」「寡人願安承教=寡人願はくは安んじて教へを承けん」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}うける(うく)。引き継ぐ。うけ継ぐ。「継承」「承前啓後=前を承け後を啓く」「承先人後=先人の後を承く」〔韓愈・祭十二郎文〕
  3. {動詞}うける(うく)。うけたまわる(うけたまはる)。相手の意にそって、引きうける。「承諾」「承歓=歓を承く」。
  4. {名詞}「承句」の略。「起承転結」。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①うけたまわる(うけたまはる)。「聞く」の謙譲語。「御用件を承ります」。
    ②うけたまわる(うけたまはる)。伝え聞く。「承りますれば」。

字通

[会意]卩(せつ)+𠬞(きょう)。卩は人の坐する形。𠬞は左右の手。左右の手で人を奉ずる形。〔説文〕十二上に「奉ずるなり。受くるなり」とあり、尊者の命を受けることをいう。また承継の意がある。字の要素は丞と同じく、丞は両手で引きあげる形で、「拯(すく)う」動作をいう。

承(ショウ・8画)

承 金文
匽侯簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

会意。「人+りょうて+手」で、人がひざまずいて、両手でささげうけるさま。上へ持ちあげる意を含む。拯(ジョウ)(両手で上へすくいあげる)・乗(上へのせる)・称(もちあげる)と同系。類義語に受。

語義

  1. {動詞}うける(うく)。両手で上にささげてうける。「奉承(おしいただく。転じて相手の意を迎えてへつらう)」「寡人願安承教=寡人願はくは安んじて教へを承けん」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}うける(うく)。引き継ぐ。うけ継ぐ。「継承」「承前啓後=前を承け後を啓く」「承先人後=先人の後を承く」〔韓愈・祭十二郎文〕
  3. {動詞}うける(うく)。うけたまわる(うけたまはる)。相手の意にそって、引きうける。「承諾」「承歓=歓を承く」。
  4. {名詞}「承句」の略。「起承転結」。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①うけたまわる(うけたまはる)。「聞く」の謙譲語。「御用件を承ります」。
    ②うけたまわる(うけたまはる)。伝え聞く。「承りますれば」。

字通

[会意]卩(せつ)+𠬞(きょう)。卩は人の坐する形。𠬞は左右の手。左右の手で人を奉ずる形。〔説文〕十二上に「奉ずるなり。受くるなり」とあり、尊者の命を受けることをいう。また承継の意がある。字の要素は丞と同じく、丞は両手で引きあげる形で、「拯(すく)う」動作をいう。

相(ショウ・9画)

相 金文
庚壺・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯aŋ(平/去)。

”みる”類義語の一覧については、論語語釈「見」を参照。

学研漢和大字典

会意。「木+目」の会意文字で、木を対象において目でみること。AとBとがむきあう関係をあらわす。爽(ソウ)(離れて対する)・霜(離れてむきあうしも柱)と同系。胥siag・sioは、その語尾がgに転じたことばで、相と同じ意。付表では、「相撲」を「すもう」と読む。

語義

  1. {副詞}あい(あひ)。→語法「①」▽平声に読む。「相思」「相与」。
  2. {副詞}AからBへ。AとBの間で。→語法「②」▽平声に読む。「相伝」。
  3. {動詞}みる。対象をよくみる。《類義語》看。「相機行事=機を相て事を行ふ」。
  4. {動詞}たすける(たすく)。そばにつく。わきぞえとなる。「相成王為左右=成王を相けて左右と為る」〔書経・君向〕
  5. {名詞}かいぞえ役。「相者」「願為小相焉=願はくは小相と為らん」〔論語・先進〕
  6. {名詞}君主をわきからたすける大臣。「丞相(ジョウショウ)(宰相)」「相国」。
  7. (ショウタリ)(シャウタリ){動詞}宰相になる。「又相之=又これに相たり」〔論語・憲問〕
  8. {名詞}すがたや形。《類義語》像。「人相」「相術(人相をみる方法)」「骨相」。
  9. (ソウス)(サウス){動詞}人間を対象としてその人相をみる。
  10. (ソウス)(サウス){動詞}娘のためよいむこをみて選ぶ。「相攸(ソウユウ)(むこえらび)」。
  11. 《日本語での特別な意味》
    ①あい(あひ)。語勢をそえる助辞。「相すまぬ」。
    ②文法で、受身・可能・使役などの用法の分類。「能相」「使役相」。
    ③「相模(サガミ)」の略。「相州」。

語法

①「あい~」とよみ

  1. 「たがいに~」「いっしょに」と訳す。《類義語》胥(ショ)。「隣国相望、鶏犬之声相聞、民至老死不相往来=隣国あひ望み、鶏犬の声あひ聞ゆるも、民老死に至るまであひ往来せず」〈(理想的な社会では)隣国が互いに眺められ、鶏や犬の鳴き声が互いに聞こえても、人民は年老いて死ぬまで、他国に行き来することはない〉〔老子・八〇〕
  2. 「(対象に)~する」「(対象を)~する」と訳す。▽文脈によって、対象が自分・相手・第三者とかわる。六朝時代からあと、二者の間に生じる動作につけることば。「深林人不知、明月来相照=深林人は知らず、明月来たりてあひ照らす」〈深い竹林の中の楽しさを人は知らないが、明るい月はやってきて私を照らしてくれる〉〔王維・竹里館〕

字通

[会意]木+目。〔説文〕四上に「省視するなり」とあって、見ることを本義とする。〔詩、大雅、棫樸(よくぼく)〕に「其の相を金玉にす」、〔詩、大雅、桑柔〕に「其の相を考へ愼む」とあって、本質が外にあらわれる意であろう。〔詩〕の発想に、樹木の繁茂するさまを瞻(み)ることが、祝頌の意をもつ魂振り的行爲として歌われており、見ることが対者との呪的な交渉に入る方法とされた。相もそのような古代の呪儀を背景とする字であろう。〔書、召誥〕「惟(こ)れ太保(召公奭(せき))、周公に先んじて宅(居るべきところ)を相(み)る」は、相地相宅のことであるが、これも古くは呪儀としての行為であろう。

昭(ショウ・9画)

初出は戦国文字だが、春秋時代に存在しないとなると、論語ばかりか左伝まで崩壊する(「昭公」など)。藤堂上古音はtiɔg。カールグレン上古音はȶi̯oɡ(平)。同音に召を部品とする漢字群、釗”けずる・みる”(金文あり)、盄”うつわ”(金文あり)。部品の召の字に”あきらか”の語釈はなく、卲”たかい”に音通すると『大漢和辞典』は言う。

日本語で語義を共有し音通するのは以下の漢字。論語の時代の置換候補として、「章」カ音ȶi̯aŋ(藤音tiaŋ)を挙げておく。
ショウ あきらか 大漢和辞典

学研漢和大字典

会意兼形声。刀は、曲線をなしたかたな。召は、口でまねき寄せること。昭は「日+(音符)召」で、光をぐるりと回して、すみまでてらすこと。照の原字。

語義

  1. {形容詞}あきらか(あきらかなり)。ぐるりと照らしたように、すみまでよくわかる。《対語》⇒昧(マイ)・暗。《類義語》明。「昭昭」「昭著」「敢昭告于皇皇后帝=敢へて昭かに皇皇たる后帝に告ぐ」〔論語・尭曰〕
  2. {動詞}あきらかにする(あきらかにす)。すみずみまで照らし出す。隠れた所をあきらかにする。「昭雪」「昭陛下平明之治=陛下の平明の治を昭かにす」〔諸葛亮・出師表〕
  3. {動詞}てる。てらす。▽照に当てた用法。
  4. {名詞}祖先をまつる廟(ビョウ)の順序の名。始祖廟(シソビョウ)を中央に置き、初代をその左に置いて昭といい、その子を右に置いて穆(ボク)という。昭穆とは、中国古代の、祖先をまつる廟(ビョウ)(みたまや)の順位を示す名。太祖の廟を中央に置き、左側に二世・四世・六世と並べて昭といい、右側に三世・五世・七世と並べて穆(ボク)という。▽昭(はっきり)と、穆(あいまい)とは、あい対することば。〔周礼・小宗伯〕

字通

[形声]声符は召(しょう)。〔説文〕七上に「日明らかなるなり」とする。昭穆(しようぼく)の昭は古くは卲に作り、卲がその初文。卲とは祝禱して神の降格を求め、これを拝して迎える形。霊威の昭らかであることをいう。文献にはみな昭を用い、〔詩、大雅、雲漢〕「倬(たく)たる彼の雲漢(天の川) 天に昭回す」、また〔書、尭典〕「百姓昭明す」のように用いる。西周金文にみえる宮廟は、康宮大廟につづいて康卲宮・康穆宮があり、諸王を順次そのように昭穆に配比し、次第に大廟に上す定めであったらしく、それが昭穆制の起源をなすものであろう。

昭穆 大漢和辞典

笑(ショウ・10画)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsi̯oɡ(去)で、同音に「小」と、「肖」を部品とする漢字群。下記『字通』の言う、关 外字(关)→笑が成立するとすると、「朕」の字が甲骨文からあり「月」を省いた形で存在する。ただし同じ『字通』の朕条で、关を「両手でものを奉ずる形」と言う。どちらなのか判別しかねる。

「国学大師」は漢字の成り立ちを、現行の竹+夭ではなく、艹+犬の会意とし、狩りで犬が草を分けて進む様子に、人が思わず微笑むことが語源という。確かに最古の楚系戦国文字では、艹+犬の形をしている。しかし笑si̯oɡと夭ʔi̯oɡまたはʔoɡは韻母を共有しており、明らかに系統性のある形声文字とみるべき(犬のカ音はkhiwən)。

学研漢和大字典

会意。夭(ヨウ)は、細くしなやかな人。笑は「竹+夭(ほそい)」で、もと細い竹のこと。正字は「口+(音符)笑」の会意兼形声文字で、口を細くすぼめて、ほほとわらうこと。それを誤って咲(わらう→さく)と書き、また、略して笑を用いる。嘯(ショウ)(口をすぼめてうそぶく)・哨(ショウ)(口をすぼめて口笛をふく)などと同系。類義語の哂(シン)は、息をもらして失笑すること。嗤(シ)は、歯をむき出してあざわらうこと。付表では、「笑顔」を「えがお」と読む。

語義

  1. {動詞}わらう(わらふ)。口をすぼめてほほとわらう。のち、広くわらう。《類義語》哂(シン)。「巧笑(しなをつくってわらう)」「嘲笑(チョウショウ)」「以五十歩笑百歩=五十歩を以て百歩を笑ふ」〔孟子・梁上〕
  2. {形容詞}わらい出しそうな。おかしい。「笑話」「笑談」。
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①えむ(ゑむ)。花が開く。また、くりのいがなどが熟してさけ開く。
    ②つまらないものであるが、受け入れを希望するとき謙遜していうことば。「笑納下さい」。

字通

[象形]巫女が手をあげ、首を傾けて舞う形。若も巫女が両手をかざして舞う形で、その前に祝詞の器である𠙵(さい)をおく。両字の構造は近く、艸・竹は両手の形である。字はもと关 外字(关)・咲に作り、〔漢書、叙伝〕に「談关」とあり、关は笑の初文。〔説文新附〕五上に笑を録し、竹と犬とに従うとする旧説や、竹と夭(よう)とに従うとする李陽冰の説をしるしている。夭は夭屈して巫女が舞う形。上部はかざした手の形。神意をやわらげるために、「笑いえらぐ」動作をすることをいう。

→「咲」

[形声]声符は关 外字(关)(しょう)。〔説文新附〕五上に笑を録し、竹夭(よう)に従って、竹葉の風になびくさまとする説をしるしているが、もと若と同じく、巫女が手をかざして歌舞する形。えらぎ笑うことが、神を楽しませる方法であった。关はその略形とみるべき字である。咲は笑の古文とされるが、古い字書にみえず、李義山の〔雑纂〕に「未だ語らざるに先づ咲ふ」ものを、「かたはらいたきもの」とする一条がある。「花咲く」は、古くは「花開(さ)く」「花披(さ)く」といい、〔色葉字類抄〕にも「さく」という訓はなおみえない。

將/将(ショウ・10画)

將 甲骨文 論語 将 金文
(甲骨文)・『字通』所収金文

初出は甲骨文。上掲金文は『字通』所収で、出典が不明。金文の確実な初出は戦国末期で、論語の時代にどのように書かれていたかは判然としない。カールグレン上古音はtsi̯aŋ(平/去)。同音に漿”早酢”、蔣”真菰・励ます”、獎”すすめる・たすける”、醬”ししびしお”。漢去文読解メモ「まさに」も参照。

論語憲問篇47の「将命」は、『礼記』に多用される漢代の熟語で、「将」tsi̯aŋ(平)が近音「承」ȡi̯əŋ(平)と同じく”伝える”、「命」が目上の言葉→”言いつけ”(◌̯は音節副音(弱い発声)、◌̥は無声音)。

学研漢和大字典

会意兼形声。爿(ショウ)は、長い台をたてに描いた字で、長い意を含む。將は「肉+寸(て)+(音符)爿」。もといちばん長い指(中指)を将指といった。転じて、手で物をもつ、長となってひきいるなどの意味を派生する。また、もつ意から、何かでもって処置すること、これから何かの動作をしようとする意などをあらわす助動詞となった。将と同じく「まさに…せんとす」と訓読することばには、且(ショ)がある。旧字「將」は人名漢字として使える。

語義

ショウ(去声)
  1. {名詞}軍をひきいる長。《対語》⇒兵・卒。「上将(最高の司令官)」「遣将守関=将を遣はして関を守らしむ」〔史記・項羽〕
  2. (ショウタリ)(シャウタリ){動詞}将軍となる。また、将軍である。「出将入相=出でては将たり入りては相たり」〔枕中記〕
  3. {動詞}ひきいる(ひきゐる)。引き連れていく。「将荊州之軍、以向宛洛=荊州の軍を将ゐて、以て宛洛に向かふ」〔蜀志・諸葛亮〕
ショウ(平声)
  1. {動詞}もちいる(もちゐる・もちふ)。おこなう(おこなふ)。自分で処置する。「童子将命=童子命を将ふ」〔論語・憲問〕
  2. {前置詞}もって。もちいて(もちゐて)。→語法「④」。
  3. {動詞}もつ。手にもつ。「呼児将出換美酒=児を呼び将ち出だして美酒に換へん」〔李白・将進酒〕
  4. {動詞}ゆく。送っていく。もっていく。つれていく。「将迎」「之子于帰、遠于将之=この子于き帰ぐ、遠く于きてこれを将く」〔詩経・癩風・燕燕〕
  5. {助辞}動詞のあとにつけて、動作・過程が一定の方向に進行することを示すことば。▽「ゆきて」「もちて」と訓じてもよいし、読まないでもよい。「宮使駆将惜不得=宮使駆り将きて惜しめども得ず」〔白居易・売炭翁〕
  6. {前置詞}《俗語》行為の対象や手段を示す前置詞。▽近世には把が、これにかわる。「将酒飲(酒を飲む)」。
  7. {助動詞}まさに…せんとす。→語法「①」。
  8. {助動詞}まさに…ならんとす。→語法「②」。
  9. {接続詞}はた。→語法「③」。
  10. {接続詞}…と…。→語法「⑤」。
  11. 《日本語での特別な意味》旧軍隊・自衛隊で、尉・佐の上の階級。「将官」。

語法

①「まさに~せんとす」とよみ、

  1. 「やがて~になろうとする」「いまにも~しそうである」と訳す。未来の意志・状態を推量する意を示す。《類義語》且。「天将以夫子為木鐸=天将にもって夫子を木鐸(ぼくたく)と為さんとす」〈天はやがて先生を天下の指導者になされましょう〉〔論語・八飲〕
  2. 「これから~しようとする」「~したい」と訳す。未来の意志の意を示す。▽会話文などでは「さあ~しなさい」と訳し、勧誘の意を示すこともある。「諾、吾将問之=諾、吾将にこれを問はんとす」〈よし、私がお尋ねしよう〉〔論語・述而〕
  3. 「きっと~だろう」「~のはず」と訳す。判断を加えたうえの推量の意を示す。「不築必将有盗=築かざれば必ず将に盗有らんとす」〈(塀を)直しておかないと必ず泥棒に入られますよ〉〔韓非子・説難〕

②「まさに~ならんとす」とよみ、「ほぼ~に近い」と訳す。数量などがある水準に近づく意を示す。「将五十里也=将に五十里ならんとす」〈五十里(四方の国)というところでしょう〉〔孟子・滕上〕

  1. 「はた」とよみ、「または」「しかし」「それとも」「まあ」と訳す。判断を加えて、少しの間を置き別の判断を追加する意を示す。「若非侵小、将何所取=若(も)し小を侵すに非(あら)ずんば、将(は)た何くにか取る所あらん」〈(晋が)もし小国を侵さなければ、いったいどこに攻め取る土地がありますか〉〔春秋左氏伝・襄二九〕
  2. 「~(乎)、将…(乎・邪)」は、「~か、はた…か」とよみ、「~か、それとも…か」と訳す。選択の意を示す。「人生受命於天、将受命於戸邪=人生まれて命を天より受くるか、将(は)た命を戸より受くるか」〈人の運命は天から受けるものでしょうか。それとも門の戸から受けるのでしょうか〉〔史記・孟嘗君〕

④「~をもって」「~をもちいて」とよみ、「~によって」「~をもちいて」「~の身でもって」と訳す。《類義語》以。「唯将旧物表深情=ただ旧物をもって深情を表さん」〈昔の品物によって、深く思う気持ちを表すだけです〉〔白居易・長恨歌〕

⑤「~と」とよみ、「~と」と訳す。並列の意を示す。「暫将弓竝曲、翻与扇倶団=暫(しばら)く弓と竝(ならび)に曲りしに、翻て扇と倶(とも)に団なり」〈(月は)しばし弓と同じく半月であったのに、いつの間にかうちわと同じくまん丸になった〉〔杜審言・和康五庭芝望月有懐〕

字通

字通 将[会意]旧字は將に作り、爿(しよう)+肉+寸。爿は足のある几(き)(机)の形で、その上に肉をおいて奨(すす)め、神に供える。軍事には、将軍が軍祭の胙肉(そにく)を奉じて行動した。その胙肉を𠂤(し)といい、師の初文。帥(そつ)もその形に従う。これを以ていえば、將とはその胙肉を携えて、軍を率いる人である。殷器には(右の)画像を標識として用いるものがあり、王族出自の親王家を示す図象であるらしく、その身分のものが軍将に任じ、作戦の中核となった。將・壯(壮)の字に含まれる爿は、その図象と関係があるものと思われる。〔説文〕三下に「帥(ひき)ゐるなり」と訓し、醤(しよう)の省声とするが、醤は將声に従う字であるから、將が醤の省声ということはありえない。奬(奨)は將の繁文。將は訓義多く、字書に列するものは五十数義に及ぶが、将帥が字の原義である。

稱/称(ショウ・10画)

称 金文
集成9456金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶʰi̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。爯(ショウ)は「爪(手)+物が左右に平均してたれた姿」の会意文字で、左右平均してたれた物を手で持ちあげるさま。稱は「禾(作物)+(音符)爯」で、作物をぶらさげて重さをはかること。持ちあげる、はかるなどの意を含む。丞(ジョウ)(持ちあげる)・勝(持ちあげる)・昇(上にあげる)などと同系。

語義

  1. {動詞}はかる。物を持ちあげて重さをはかる。はかりの左右を平均させてはかる。転じて広く、なりゆきをはかりにかけて考えること。《同義語》⇒秤。《類義語》量。「称量(はかる)」「称家之有亡=家の有亡を称る」〔礼記・檀弓上〕
  2. (ショウス){動詞}となえる(となふ)。世間を相手にしておおっぴらにいう。《類義語》唱・号。「称呼」「称夫之母曰姑=夫の母を称して姑と曰ふ」〔爾雅・釈親〕
  3. {名詞}となえ(となへ)。おおやけにいう名前。「尊称」「称号」。
  4. (ショウス){動詞}ほめる(ほむ)。たたえる(たたふ)。わいわいと持ちあげる。おおっぴらにほめあげる。《類義語》誉。「称誉」「驥不称其力、称其徳也=驥(き)はその力を称せず、その徳を称するなり」〔論語・憲問〕
  5. {動詞}あげる(あぐ)。持ちあげる。「称爾戈=爾の戈を称げよ」〔書経・牧誓〕
  6. {名詞}はかり。物をはかる道具。てんびんや棒のはかり。▽去声に読む。《同義語》秤。
  7. {動詞}かなう(かなふ)。はかりが左右平均するように、両方があい匹敵する。ちょうど対応しあう。▽去声に読む。「相称」「対称」「称意=意に称ふ」。
  8. {動詞}かなう(かなう)。ぴったりあう。▽この場合はchēngと読む。「常傲然以称情=常に傲然(がうぜん)としてもつて情に称ふ」〔陶潜・感士不遇賦〕

字通

[形声]旧字は爯に作り、爯(しよう)声。爯は「稱錘(しようすい)」(はかりの重り)を上から下げている形で、穀量を称(はか)ることをいう。〔説文〕七上に「銓(はか)るなり」とみえる。織物の糸数を数えるときにも用いる。称るときの動作から、上に挙げる意となる。人を称揚するときは、偁がその本字である。

稱/称(ショウ・10画)

称 金文
集成9456金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶʰi̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。爯(ショウ)は「爪(手)+物が左右に平均してたれた姿」の会意文字で、左右平均してたれた物を手で持ちあげるさま。稱は「禾(作物)+(音符)爯」で、作物をぶらさげて重さをはかること。持ちあげる、はかるなどの意を含む。丞(ジョウ)(持ちあげる)・勝(持ちあげる)・昇(上にあげる)などと同系。

語義

  1. {動詞}はかる。物を持ちあげて重さをはかる。はかりの左右を平均させてはかる。転じて広く、なりゆきをはかりにかけて考えること。《同義語》⇒秤。《類義語》量。「称量(はかる)」「称家之有亡=家の有亡を称る」〔礼記・檀弓上〕
  2. (ショウス){動詞}となえる(となふ)。世間を相手にしておおっぴらにいう。《類義語》唱・号。「称呼」「称夫之母曰姑=夫の母を称して姑と曰ふ」〔爾雅・釈親〕
  3. {名詞}となえ(となへ)。おおやけにいう名前。「尊称」「称号」。
  4. (ショウス){動詞}ほめる(ほむ)。たたえる(たたふ)。わいわいと持ちあげる。おおっぴらにほめあげる。《類義語》誉。「称誉」「驥不称其力、称其徳也=驥(き)はその力を称せず、その徳を称するなり」〔論語・憲問〕
  5. {動詞}あげる(あぐ)。持ちあげる。「称爾戈=爾の戈を称げよ」〔書経・牧誓〕
  6. {名詞}はかり。物をはかる道具。てんびんや棒のはかり。▽去声に読む。《同義語》秤。
  7. {動詞}かなう(かなふ)。はかりが左右平均するように、両方があい匹敵する。ちょうど対応しあう。▽去声に読む。「相称」「対称」「称意=意に称ふ」。
  8. {動詞}かなう(かなう)。ぴったりあう。▽この場合はchēngと読む。「常傲然以称情=常に傲然(がうぜん)としてもつて情に称ふ」〔陶潜・感士不遇賦〕

字通

[形声]旧字は爯に作り、爯(しよう)声。爯は「稱錘(しようすい)」(はかりの重り)を上から下げている形で、穀量を称(はか)ることをいう。〔説文〕七上に「銓(はか)るなり」とみえる。織物の糸数を数えるときにも用いる。称るときの動作から、上に挙げる意となる。人を称揚するときは、偁がその本字である。

商(ショウ・11画)

論語 商 金文
作冊般甗・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɕi̯aŋ(平)。

史実の確認できる中国最古の王朝・殷王朝の自称。他称は「殷」で、”人の生きギモを取る残忍な奴ら”の意。論語では孔子の弟子・卜商子夏の名として現れる。

学研漢和大字典

形声。「高い台の形+(音符)章の略体」で、もと、平原の中の明るい高台。殷人は高台に聚落(シュウラク)をつくり商と自称した。周に滅ぼされたのち、その一部は工芸品を行商するジプシーと化し、中国に商業がはじまったので、商国の人の意から転じて、行商人の意となった。陽(明るい高台)・敞(ショウ)(広く高い所)・場(広い台地)と同系。

意味

  1. {動詞・名詞}あきなう(あきなふ)。あきない(あきなひ)。商売する。商売。▽もと、行商を商、店を構えるのを賈(コ)といったが、のち広く商売を商という。「商易」。
  2. {名詞}あきんど。商人。「天下之商」〔孟子・公上〕
  3. {動詞}はかる。物事を比べ考える。▽値段の駆け引きをする意から。「商議」「商量」。
  4. {名詞}中国古代の王朝名。殷商(インショウ)ともいう。湯(トウ)王が夏(カ)の桀(ケツ)王を滅ぼしてたて、商と自称した。商は、遠祖の契(セツ)が都を置いたと伝えられる地名。もと河南の亳(ハク)に都を置き、のち今の河南省安陽県小屯(ショウトン)に移った。その遺跡が殷墟(インキョ)である。紂(チュウ)王のとき周の武王に滅ぼされた。周人は彼らを殷と呼んだ。
  5. {名詞}五音の一つ。古代中国の音楽で、階名をあらわす。七音のレにあたる。▽五音は、宮・商・角・徴(チ)・羽。「十二律」は、音名。
  6. {名詞}星座の名。心宿のこと。
  7. {名詞}割り算の答え。

字通

[会意]辛(しん)+■(冏-口)+口。辛は把手のある大きな辛器で、入墨に用いるもの。刑罰権を示す。■(冏-口)はこれを樹てる台座の形。その前に、神に祈る祝詞の器(𠙵(さい))をおく。神に「商(はか)」ることを原義とする字である。遹(いつ)の従うところの矞と似ており、矞は台座の上に矛(ほこ)を立て、祝詞をそえた形。遹は神威を奉じて巡察遹正(いつせい)を加えることをいう。商は殷王朝の正号。その都を卜辞に「大邑商」という。〔説文〕三上に「外よりして内を知るなり」という。すなわち商搉すること、推測の意とするが、神意を問うことを原義とする。商は古くは賞の意に用い、商の下に貝を加えた。𧶜はその略字であろう。賞は報償として与えられることが多く、また償の意となる。商をその義に用い、ついに商賈の意となる。商賈の意は最も後起の義である。

章(ショウ・11画)

論語 章 金文
頌簋・西周晚期

初出は西周早期の金文で、カールグレン上古音はȶi̯aŋ(平)。

学研漢和大字典

会意。「辛(鋭い刃物)+模様」の会意文字で、刃物で刺して入れ墨の模様をつけること。または「音++印(まとめる)」で、ひとまとめをなした音楽の段落を示す。いずれもまとまってくっきりと目だつ意を含む。昌(ショウ)(あきらか)・彰(あきらか)・陽(明るく浮き出る)などと同系。

語義

  1. {名詞}楽曲のひと区切り。「楽章」。
  2. {名詞}まとまってひと区切りをなした文や詩。《類義語》句。「文章」「奏章(奏上文)」「章句学(ショウクノガク)」。
  3. {単位詞}文・詩・条令などのひとまとまりを数えることば。「第一章」「高祖初入関、約法三章=高祖初めて関に入るや、法を約すること三章のみ」〔漢書・刑法志〕
  4. {名詞}けじめ。また、まとまったきまり。「章程(きまり)」「賞罰無章=賞罰に章無し」「将以講事成章=まさに以て事を講じて章を成さんとす」〔国語・周〕
  5. {名詞}あや。しるし。ひとまとまりを成して目だつ、印や模様。「紋章」「徽章(キショウ)(記章)」「印章」「斐然成章=斐然として章を成す」〔論語・公冶長〕
  6. {形容詞}あきらか(あきらかなり)。くっきりと目だつ。《同義語》彰。「斯其績用之最章章者也=斯れ其の績用之最も章章たる者也」〔後漢書・循吏・叙〕
  7. {動詞}あきらかにする(あきらかにす)。あざやかに目だたせる。《同義語》彰。「表章」「章民之別=民の別を章かにす」〔礼記・坊記〕
  8. {名詞}文章様式の一つ。上奏文のスタイル。また、書体の一種。漢の元帝のとき、史游(シユウ)が当時の隷書(レイショ)をやや改めた書体で「急就章」という本をあらわした。その書体。「章草」。
  9. {単位詞}大木の太さをはかる単位。「千章之材(センショウノザイ)」。

字通

[象形]入墨の器である辛(しん)(針)の針先の部分に、墨だまりを示す肥点を加えた形。これによって入墨を行う。その文身の文彩あるものを文章といい、その美しさを彣彰(ぶんしよう)という。〔説文〕三上に「樂の竟(をは)るを一章と爲す。音と十とに從ふ。十は數の終わりなり」とし、楽章の意とするが、音とは関係のない字形である。入墨の美を章といい、その賦彩を示す彡(さん)を加えて彰となる。入墨は刑罰の他にも、通過儀礼として、社会生活上の身分的なしるしとして多く用いられた。それで章明・喪章の意より、章程・憲章をいい、また詩文の章節・楽章の意となる。文が文身の意より文雅・文章の意となったように、章も入墨の意から諸義が展開する。その展開の過程は、両者に似たところがある。

訟(ショウ・11画)

論語 訟 金文
揚簋・西周晚期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はdzi̯uŋ(平/去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。公は、松(ショウ)・頌(ショウ)の場合と同じでショウの音をあらわし、あけすけに通るの意を含む。訟は「言+(音符)公」で、ことばであけすけにいうこと。頌(ショウ)(あけすけにとなえる)・誦(ショウ)(あけすけにいいとおす)・松(葉があけすけに離れ、すきまが通っているまつ)などと同系。

語義

  1. {動詞・名詞}あらそう(あらそふ)。うったえる(うつたふ)。うったえ(うつたへ)。公の場所で、あけすけにいい分をいいとおす。裁判でいいあらそう。いいあらそい。「訴訟」「訟獄者、不之尭之子、而之舜=獄に訟ふる者、尭の子にゆかずして、舜にゆく」〔孟子・万上〕。「必也使無訟乎=必ずや訟無から使めんか」〔論語・顔淵〕
  2. {動詞}せめる(せむ)。あけすけに議論する。条理をいいあらそう。まちがいをとがめる。「訟論」「吾未見能見其過、而内自訟者也=吾いまだ能く其の過ちを見て、内に自ら訟むる者を見ざるなり」〔論語・公冶長〕
  3. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。坎下乾上(カンカケンショウ)の形で、裏では弱く表では強くいいあらそうさまを示す。

字通

[形声]声符は公(こう)。公に頌・松(しよう)の声がある。〔説文〕三上に「爭ふなり」とし、「一に曰く、歌頌なり」(段注本)という。歌訟は歌頌・祝頌の意であろう。公は公廷を平面図的にしるしたもので、訟とはその祖廟の前で是非を争うこと、頌とは廟前で祝頌することをいう。

掌(ショウ・12画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶi̯aŋ(上)。藤堂上古音はtiaŋ。

『大漢和辞典』に”つかさどる”の意味で部品の「尚」ȡi̯aŋが「掌」に通ず、とあるが、”たなごころ”の意ではない。同音同訓の𤓯(上古音不明)の初出は後漢の『説文解字』。「手」(カ音ɕ、藤音thiog)は”たなごころ”の語釈が『大漢和辞典』にあり、金文から存在するが同音でない。

学研漢和大字典

会意兼形声。尚は「向(まど)+八印(発散する)」からなり、空気抜きの窓から空気が上へ広がるさま。上(うえ、たかい)と同系。また、平らに広がる、の意をも含み、敝(ショウ)(ひろい)・廠(ショウ)(広間)と同系のことば。掌は「手+(音符)尚」で、平らに広げた手のひら。類義語に手・司。

語義

  1. {名詞}たなごころ。手のひら。▽「たなごころ」という訓は、中国語の「手心(てのひら)」の意訳。「合掌(両手の手のひらをあわせて拝む)」「指掌=掌を指さす」「天下可運於掌=天下は掌に運らすべし」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}つかさどる。手のひらにおさめて処置する。《類義語》司。「掌管」「分掌(分担して受け持つ)」「舜使益掌火=舜益をして火を掌らしむ」〔孟子・滕上〕

字通

[形声]声符は尚(しよう)。〔説文〕十二上に「手中なり」とあり、たなごころをいう。掌握することから、「掌(つかさど)る」意となる。尚に上の意があり、掌上を上、掌下を下という。上下は掌の上下を示す指事の字である。

勝(ショウ・12画)

初出は戦国末期の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯əŋ(平/去)で、同音は存在しない。同訓の奢のカ音はɕi̯ɔ(平)。

右側の旁は「券」(割り符、手形)・「劵」(倦”つかれる”の本字)の二種類考え得るが、いずれも”勝つ”の語釈が無い。

学研漢和大字典

会意。朕(チン)は「舟+両手で持ち上げる姿」の会意文字で、舟を水上に持ちあげる浮力。上にあげる意を含む。勝は「力+朕(持ちあげる)」で、力を入れて重さにたえ、物を持ちあげること。「たえる」意と「上に出る」意とを含む。たえ抜いて他のものの上に出るのが勝つことである。

上に出る点では、昇(のぼる)・乗(上にのる)と同系。類義語に捷。似た字(勝・騰・謄)の覚え方「力でかつ(勝)、馬でのぼる(騰)、ことばでうつす(謄)」。

語義

  1. {動詞}かつ。力比べにたえ抜いて、相手の上に出る。《対語》⇒負・敗。《類義語》克(コク)。「戦必勝=戦へば必ず勝つ」〔史記・高祖〕
  2. {名詞}かち。相手を倒して上に出ること。《対語》負・敗。「勝利」「決勝於千里之外=勝ちを千里の外に決す」〔史記・高祖〕
  3. {動詞}たえる(たふ)。がんばる。持ちこたえる。▽平声に読む。「渾欲不勝簪=渾て簪に勝へざらんと欲す」〔杜甫・春望〕▽「不勝=勝へず」とは、こらえきれない、やり尽くせないの意。→語法。
  4. {動詞・形容詞}まさる。すぐれる(すぐる)。他のものの上に出る。上に出ている。「紅顔勝人多薄命=紅顔人に勝るは薄命多し」〔欧陽脩・明妃曲〕
  5. {名詞}すぐれたけしき。「形勝」。

語法

「~不可勝…」は、「~はあげて…すべからず」「~は…するにたうべからず」とよみ、「~は(多すぎて)…しきれない」と訳す。▽よみ方は二通りあるが、どちらのよみ方でも意味はかわらない(「あげて」は副詞、「たう」は動詞)。「不違農時、穀不可勝食也=農の時を違へずんば、穀勝(あ)げて食ふ可からず」〈(人民を徴用するのに)農繁期を間違えなければ、穀物は食べきれないほどとれるでしょう〉〔孟子・梁上〕

字通

[形声]声符は朕(よう)。勝(しよう)・滕(とう)はその転音。朕はもと𦨶に作り、盤(舟)中にものを盛(い)れ、これを捧げて賸(おく)る意。〔説文〕十三下に「任(た)ふるなり」とあり、堪える意とする。任とは肩にかつぐこと。力は耒(すき)の象形。勝に勝敗の意があるのは、耒(すき)(力)にものを供えて祀り、農事の吉凶を卜し、神意にかなうことを勝としたのであろう。敗の卜文の最も古い形は、貝を殴(う)つ形で、貝占いの法を示す字と思われる。勝敗はいずれも、占卜に関する語であった。また婦人の髪飾りを華勝(かしよう)・戴勝(たいしよう)のようにいうのは、呪飾の意があるのであろう。神意にかなうことから、勝は「勝(た)う」「勝(まさ)る」「勝(すぐ)れる」の意となり、また名勝・勝遊・勝友のように用いる。〔礼記、楽記〕「樂しみ勝(す)ぐるときは則ち流る」とは、過甚の意である。

翔(ショウ・12画)

初出は前漢の篆書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzi̯aŋ(平)。同音は詳、庠”学び舎”、祥、痒”病む”、象、像、橡”トキノキ”。日本語音で同音同義の鴹は、上古音不明。初出不明

学研漢和大字典

形声。「羽+(音符)羊」。様(かっこいい姿)・像(大きい姿)と同系。

語義

  1. {動詞}かける。羽を大きく広げて飛びまう。「飛翔」「翔而後集=翔りて而る後に集まる」〔論・郷党〕
  2. (ショウス)(シャウス){動詞}鳥が羽をのばすように、両ひじを広げていく。「室中不翔=室中にて翔せず」〔礼記・曲礼上〕
  3. {形容詞}くわしい。▽詳に当てた用法。「翔実」。

字通

[形声]声符は羊(よう)。羊に庠・祥(祥)(しよう)の声がある。〔説文〕四上に「回飛するなり」とあり、鳥が羽をひろげて、ゆるく飛びめぐることをいう。〔礼記、曲礼上〕に「室中には翔(はし)らず」とあり、翔は堂上の儀礼のときの歩きかたで、〔論語、郷党〕に「趨進すること翼如(よくじよ)たり」とみえる。翶翔(こうしよう)は畳韻の連語。〔詩、鄭風、清人〕に「河上に翶翔す」というのは、敵軍の示威行動を冷評する語である。

證/証(ショウ・12画)

「證」の初出は前漢の隷書(居延漢簡)「証」の初出は後漢の説文解字。いずれも論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶi̯əŋ(去)。同音に蒸、烝”蒸す”、脀”おろか”、拯”すくう”。

学研漢和大字典

会意兼形声。「言+(音符)登」で、事実を上司の耳にのせる→上申すること。転じて、事実を申しのべて、うらづけるの意となる。

会意兼形声。「言+(音符)正(ただす)」。意見を述べて、あやまりをただすこと。今は、證の常用漢字字体として用いられる。

語義

  1. (ショウス){動詞}あかす。実情を上司や役所に申しあげて登録する。このとおりであると、ありのままを上司や役所に申したてる。あかしをたてる。「証言」「子、証之=子、これを証す」〔論語・子路〕
  2. (ショウス){動詞}事実をのべてうらづける。「証明」「論証」。
  3. {名詞}あかし。あかしをたてる書類や物件。「物証」「通行証」。
  4. {名詞}病気であることをうらづける実際の病状。《同義語》⇒症。「証候(=症候)」。
  5. {動詞・名詞}《仏教》さとる。さとり。「証果」
  1. {動詞}いさめて誤りをただす。

字通

[形声]旧字は證に作り、登(とう)声。登に澄(ちよう)の声があり、證はもと徴と声義の通ずる字であった。証はその俗体であるが、証は別にその本義の字がある。〔説文〕三上に「證は告ぐるなり」とし、その言に徴験のあることをいう。〔中庸、二十八〕「徴無きは信ぜず」の〔釈文〕に、徴を證に作る本があるという。徴・證は声義の近い字である。

傷(ショウ・13画)

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯aŋ(平)で、同音は商、賞、湯、傷と旁を同じくする漢字群、殤”若死に・そこなう”、觴、禓”道の祭・追儺”。去声の音は不明。

日本語で同音同義に刅があり、創傷の創tʂʰi̯aŋ(平/去)の古形とされる。初出は西周早期の金文。』

刅 大漢和辞典

国際発音記号で◌̜は「弱めの円唇」を示し、◌̯は音節副音=弱い音を示す。◌ʰは有気音=声帯の震えのある発音を示し、ɕはシュに近しシである。ɕi̯aŋを無理にかなに直すとシュアンクであり、tʂʰi̯aŋはスゥアンクだろうか。これを音通と評価する。従って「刅」は、「傷」の論語の時代の置換候補となる。
刅 金文
「刅」刅作寶彝壺・西周早期

学研漢和大字典

会意兼形声。昜(ヨウ)は、太陽の陽(暘)の原字。傷は「人+(音符)殤(ショウ)の略体」。傷・殤ともに昜が音をあらわすが、昜(太陽)とは関係はない。強く物にぶちあたってきずつくこと。當(=当)・擋(トウ)(あたる)と同系。類義語の創(ソウ)は、切りきず。疵(シ)は、ぎざぎざのかすりきず。異字同訓に痛。

語義

  1. {名詞}きず。皮膚や肉をそこなうこと。また、その部分。「負傷」「創傷(きりきず)」「火傷(やけど)」。
  2. {動詞}きずつく。きずつける(きずつく)。けがをする。また、けがをさせる。「傷害」「傷人乎=人を傷つけたるか」〔論語・郷党〕
  3. {動詞}やぶる。ぶちあたってきずをつける。「中傷(悪口をいって人をきずつける)」。
  4. {動詞}いたむ。心配する。「傷心(つらく思う)」「行宮見月傷心色=行宮に月を見れば傷心の色」〔白居易・長恨歌〕

字通

[形声]声符はショウ 外字(しよう)。ショウ 外字は昜(よう)(陽)の上を覆う形。昜は台上に玉(日の形)をおき、その玉光が下方に放射する意。魂振りとしての呪儀を示すものとみられる。これを上から覆って、その呪儀を妨げることをショウ 外字といい、そのような害を人に及ぼすことを傷といい、殤という。〔説文〕八上に「創(きず)なり」というのは槍傷。〔説文〕はまた字を𥏻(しよう)の省声とするが、𥏻は矢傷。ともにショウ 外字の声義を承ける。

頌(ショウ・13画)

頌 金文
頌鼎・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はdzi̯uŋ(去)。平声の音は不明。同音同義に暗誦の誦。論語語釈「誦」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。公は、さえぎることなく、あけすけに通す意を含み、松や頌においてはショウの音をあらわす。頌は「頁(あたま)+(音符)公」で、頭をふりつつ、よどみなく終わりまでとなえ通すことを示し、よどみなく、たてに通るとの意を含む。松(ショウ)(葉がたてに通ったまつ)・鬆(ショウ)(たてに通る)・縦(ショウ)・(ジュウ)(たてに通る)などと同系。

語義

ショウ(去)

  1. (ショウス){動詞}となえる(となふ)。始めから終わりまでとおして節(フシ)をつけていう。声をあげて読みとおす。《同義語》⇒誦。「吟頌(ギンショウ)」「読頌(ドクショウ)(=読誦)」「頌其詩=其の詩を頌す」〔孟子・万下〕
  2. (ショウス){動詞}たたえる(たたふ)。功績や人がらをほめたことばを相手に向けてのべる。「頌徳(ショウトク)」。
  3. {名詞}「詩経」のジャンルを風・雅・頌にわけたうちの一つ。祭礼のとき、祖先の徳をたたえる歌のこと。▽一説に、容(容姿、振る舞い)に通じ、舞踊をともなった歌であるともいう。国別にわけて、魯頌(ロショウ)・周頌・商頌の三種がある。「頌者美盛徳之形容、以其成功、告於神明者也=頌とは盛徳の形容を美し、其の成功を以て、神明に告ぐる者なり」〔詩経・大序〕
  4. {名詞}文体の一つ。功績や人がらをたたえるもの。「伯夷(ハクイ)頌」「酒徳頌」。
  5. {名詞}《仏教》仏徳を賛美した教理を説く詩。「偈頌(ゲジュ)」。

ヨウ(平)

  1. {名詞}姿。かたち。▽容(ヨウ)に当てた用法。「頌礼(ヨウレイ)」。

字通

[形声]声符は公(こう)。公に訟・松(しよう)の声がある。公は廟前の公廷の平面形。その公廷で祝頌のことを行う。〔説文〕九上に「皃(かたち)なり」というのは、重文に■(容+頁)の字があり、その字形によっていうものであろう。頁(けつ)は儀容を整えた形。公廷に拝舞して祖徳を頌することをいう。阮元の〔釈頌〕に頌を容とし、また王国維の〔釈頌〕に、頌を舞詩とすることを執一の見として廃し、「其の風雅に異なるものは聲に在り」とするが、頌の字形は声・容に関せず、公廷で祖徳を頌するにある。公廷で祖に訴えることを訟といい、公はいずれも公廷をいう。

韶(ショウ・14画)

初出は後漢の『説文解字』。カールグレン上古音はȡi̯oɡ(平)。同音に紹”つぐ・うける”、邵”邑の名・姓”、召。論語時代の置換候補は召dʰi̯oɡまたはȡi̯oɡ(共に去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「音+(音符)召(=昭。あかるい)」。

語義

  1. {形容詞}うつくしい(うつくし)。音や色がほがらかで明るい。優美である。
  2. {名詞}伝説上の古代の聖王、帝舜(シュン)がつくったといわれる音楽。▽明るい音楽の意。また、一説に、紹(つぐ)に通じ、帝尭(ギョウ)の徳をつぐ意とも。「子謂韶、尽美矣、又尽善也=子韶を謂ふ、美を尽くせり、又善を尽くせりと」〔論語・八佾〕

字通

[形声]声符は召(しよう)。召に招神の意がある。〔説文〕三上に「虞舜の樂なり」とあり、〔書、益稷〕に「簫韶(せうせう)九成して、鳳凰(ほうわう)來儀す」とあり、その楽の瑞応として鳳凰が来り舞うたという。〔論語、述而〕に「子、齊に在りて韶を聞く。三月、肉の味を知らず」、また〔論語、八佾〕に「子、韶を謂ふ、美を盡せり。又善を盡せり」と、その楽を賛嘆している。

嘗(ショウ・14画)

論語 嘗 金文
姬鼎・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はȡi̯aŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。嘗は「旨(うまいあじ)+(音符)尚(のせる)」で、食べ物を舌の上に乗せて味をみること。転じて、ためしてみる意になり、さらに、やってみた経験が以前にあるという意の副詞となった。尚(上に乗せる)・賞(上に持ちあげる)と同系。類義語の曾(ソウ)(かつて)は、経験が層をなして重なること。試は、用いてみてためすこと。「なめる」は「舐める」とも書く。

語義

  1. {動詞}なめる(なむ)。舌の上に乗せて味をためす。「嘗味(ショウミ)」「不敢嘗=敢へて嘗めず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}秋、その年新しくとれた穀物を祖先の霊に供える祭り。「嘗烝(ショウジョウ)」。
  3. {動詞}こころみる。ためしてみる。「嘗試(ショウシ)」。
  4. {副詞}こころみに。→語法「③」。
  5. {副詞}かつて。→語法「①」

語法

①「かつて」とよみ、「以前~したことがある」「以前~していた」と訳す。過去の経験の意を示す。▽文脈によっては、「つねに」とよみ、「いつも」と訳した方がよいこともある。「吾始困時、嘗与鮑叔賈=吾始め困(くる)しみし時、嘗(かつ)て鮑叔と賈す」〈むかし貧乏で困っていたころ、私は鮑叔と商売をやったことがある〉〔史記・管晏〕

②「未嘗~」は、「いまだかつて~ず」とよみ、「今まで~したことがない」と訳す。否定の強調の意を示す。「所当者破、所撃者服、未嘗敗北=当たる所の者は破り、撃つ所の者は服せしめ、未だ嘗(かつ)て敗北せず」〈出会う敵は打ち破り、攻める敵は降服させて、一度たりとも敗れたことはない〉〔史記・項羽〕

  1. 「こころみに」とよみ、「ためしに~してみる」と訳す。「雖然、請嘗言之=然りと雖(いへど)も、請ふ嘗(こころみ)にこれを言はん」〈そうではあるけれども、どうかためしに言わせてほしい〉〔荘子・斉物論〕
  2. 「嘗試」も、「こころみに」とよみ、意味・用法ともに同じ。「嘗試鑿之=嘗試(こころみ)にこれを鑿(さく)せん」〈ひとつ、あなを掘ってみよう〉〔荘子・応帝王〕

字通

[形声]声符は尚(しよう)。〔説文〕五上に「口にて之れを味ふなり」とし、尚声とする。金文の字形は、冂(けい)形の台下に旨をしるし、台上に小点を八の形に加える。八は神気の彷彿として下ることを示す形。旨は詣・稽の初文である𩒨(けい)が、祝禱して神霊を招き、神霊の詣(いた)るのを𩒨首(稽首)して迎える形であることからも知られるように、曰(えつ)(祝告)に対して霊の格(きた)り臨むことをいう字。それで嘗とは、供薦して神を迎え、神の詣(いた)ることをいう。〔漢書、礼楽志〕「百鬼迪(もつ)て嘗(しやう)す」の注に「之れを歆饗(きんきやう)するを謂ふなり」とあって、祭祀を歆(う)ける意である。新穀を供して、神が歆(う)け饗するので、神嘗といい、新嘗という。〔周礼、天官、膳夫〕「膳夫、祭に授くるに品ごとに嘗食(しやうしよく)し、王乃ち食す」とは試食の意。それで嘗試の意となる。嘗試を終えたことから「嘗(かつ)て」の意となる。

裳(ショウ・14画)

裳 金文
陳公子叔𨙅父甗・春秋早期

初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はȡi̯aŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。尚(ショウ)は、向(空気ぬきの窓)から、空気が長く高くたちのぼることを示す会意文字。裳は「衣+(音符)尚」で、長い布でつくった長いスカート。長(ながい)・常(ジョウ)(ながい)・杖(ジョウ)(長いつえ)などと同系。類義語の裾(キョ)は、下に垂れたすそ。裙(クン)は、下半身をとりまくこしまき。「装」に書き換えることがある。「衣装」▽草書体をひらがな「も」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}も。もすそ。衣(上半身につける上着)に対して、下半身につける長いスカート状の衣服。したばかま。「衣裳(イショウ)(きもの)」「霓裳(ゲイショウ)(虹(ニジ)模様のしたばかま)」。
  2. 「裳裳(ショウショウ)」とは、美しくて堂々としているさま。「裳裳者華、其葉迫兮=裳裳たる者華、其の葉迫たり兮」〔詩経・小雅・裳裳者華〕

字通

[形声]声符は尚(しよう)。〔説文〕七下に「常は下帬(かくん)なり。常、或いは衣に從ふ」とあり、常・裳を一字とするが、区別して用いる。〔詩、邶風、緑衣〕「綠衣黃裳」の〔伝〕に、上を衣、下を裳とする。下とは、はかまをいう。

誦(ショウ・14画)

初出は秦の篆書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzi̯uŋ(去)。同音は松、訟、頌。「頌」に”となえる”の語義があり、西周末期の金文から存在する。論語語釈「頌」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。用は「ト(くいの原字)+長方形のいた」の会意文字で、棒を板につき通して自由に出入りさせること。誦は「言+人+(音符)用(とおす)」で、よどみなく声を出していい通すこと。通(自由にとおる)・涌(ヨウ)(水が地面をつき通してわいてくる)と同系。「唱」に書き換えることがある。「暗唱・吟唱」。

語義

  1. (ショウス){動詞}となえる(となふ)。声を出して詩や文をよむ。また、よくわかるように説明する。「為王誦之=王の為にこれを誦す」〔孟子・公下〕
  2. (ショウス){動詞}そらんずる(そらんず)。その物を見ないで、記憶によって声を出していう。「暗誦(アンショウ)」「誦習(ショウシュウ)」。
  3. (ショウス){動詞}よむ。ふしをつけてよむ。

字通

[形声]声符は甬(よう)。〔説文〕に収める甬声十一字のうち、誦(しよう)声はこの一字のみであるが、喩(ゆ)母(j)、邪(じや)母(z)の間には、通用の例が多い。〔説文〕三上に「諷(ふう)するなり」とあり、〔周礼、春官、大司楽〕の「興道諷誦言語」とは、韻律をもつ語をいう。その〔注〕に「倍文(はいぶん)(暗誦)を諷と曰ひ、聲を以て之れを節するを誦と曰ふ」とみえる。古くは呪誦をいい、〔詩、小雅、節南山〕「家父(かほ)(人の名)誦を作り 以て王の訩(きよう)を究(せ)む」の誦は呪誦の意。また〔詩、大雅、烝民〕「吉甫(きつほ)(人の名)誦を作る 穆(ぼく)として淸風の如し」は祝頌の誦である。〔詩、大雅、桑柔〕「誦言酔ふが如し」のように、誦辞はその呪能を鼓舞するために、陶酔的な状態で歌われ、またその辞は修辞を極めたものであった。〔楚辞〕の祭祀的歌謡の篇末に、誦とよばれる一段をそえたものが多い。〔左伝〕に多くみえる「輿人(よじん)の誦」は、また輿論(世論)ともいわれるもので、古い呪誦の遺響を存するものである。

賞(ショウ・15画)

賞 金文
曶鼎・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はɕi̯aŋ(上)。

学研漢和大字典

形声。「貝(財貨)+(音符)尚(ショウ)」。この尚は原義とは関係なく、當(=当。あてる、あたる)と似た意味をあらわす。功労に相当するほうびをあてがうこと。類義語に奨。

語義

  1. (ショウス)(シャウス){動詞}功労のあった者に報いるために、それにあたる財貨を与える。《対語》⇒罰。《類義語》賜。「賞賜」「信賞必罰」。
  2. (ショウス)(シャウス){動詞}ほめる(ほむ)。人の功労や善行をほめたたえる。《類義語》称。「賞美」「賞嘆」。
  3. (ショウス)(シャウス){動詞}めでる(めづ)。いつくしんでたのしむ。「賞玩(ショウガン)」。
  4. {名詞}ほうびとしていただいたもの。ほうび。「恩賞」「受賞」。

字通

[形声]声符は尚(しよう)。〔説文〕六下に「有功に賜ふなり」とあり、尚声とするが、金文の字形は商に従い、商声の字。区別していえば、𧶜は賞賜、賞は償贖・賠償を意味する字であった。のちその別が失われ、賞賜の意に賞を用いる。

蕭(ショウ・16画)

初出は戦国時代の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はs(平)。同音多数。『大漢和辞典』で音ショウ訓かこいは存在しない。音ショウ訓へいも存在しない。音ショウ訓かきに墻があるが、初出不明。廧の初出は後漢の隷書。牆の初出は甲骨文。ただし音がdzʰi̯aŋ(平)と遠い。論語語釈「牆」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)肅(ショウ)(細くひきしまる)」。

語義

  1. {名詞}茎が細長く葉の小さい草の名。特有の香りがある。よもぎ。
  2. {名詞}細長いへい。かこい。「蕭牆(ショウショウ)」。
  3. {形容詞}心細い。ものさびしいさま。「蕭颯(ショウサツ)」。

字通

[形声]声符は肅(粛)(しゆく)。肅に嘯・簫(しよう)の声がある。〔説文〕一下に「艾蒿(がいかう)なり」とあり、かわらよもぎをいう。〔詩、大雅、生民〕に「蕭を取り脂を祭る」とあり、脂で蕭を焼いて、その芳香を以て神を祀ったことを歌う。〔周礼、天官、甸師〕に「祭祀には蕭茅(せうばう)を共(供)す」とあり、また〔周礼、春官、鬱人、注〕に引く〔王度記〕に、天子は鬯(ちよう)、諸侯は薫、大夫は蘭芝(らんし)、士は蕭、庶人は艾(がい)を用いるという。また蕭瑟(しようしつ)・蕭蕭のように形況の語に用いる。

牆/墻(ショウ・17画)

牆 金文
史墻盤・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzʰi̯aŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。嗇(ショク)は「麥+作物をとり入れる納屋」からなり、収穫物を入れる納屋を示す。牆は「嗇(納屋)+(音符)爿(ショウ)」で、納屋や倉のまわりにつくった細長いへいを示す。牀(ショウ)(細長い寝台)・檣(ショウ)(細長い柱)などと同系。類義語に垣。「障」に書き換えることがある。「障壁」。

語義

{名詞}かき。へい。石や土で築いた細長いへい。《類義語》屏(ヘイ)。「牆垣(ショウエン)」「囲牆(イショウ)(周囲をとりまいたへい)」「無踰我牆=我が牆を踰ゆる無かれ」〔詩経・鄭風・将仲子〕

字通

[形声]声符は爿(しよう)。嗇(しよく)は穀物倉の形。爿は版築のときに用いる挟板で、土垣を築くもの。もと穀倉の外壁をいう。〔説文〕五下に「垣蔽(ゑんぺい)なり」とあり、牆屋・牆宇のように住居をいう。〔詩、小雅、常棣〕に「兄弟、牆に鬩(せめ)ぐも 外、其の務(あなど)りを禦(ふせ)ぐ」の句がある。柩車の両旁に立てるわき板や、柩を飾る棺衣をも牆という。障壁として隔てる意であろう。

襄/㐮(ショウ・17画)

襄 金文
𩵦甫人匜・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsni̯aŋ(平)。同音に纕”うでまくりする・たすき”。「ジョウ」は慣用音。論語子路篇の定州竹簡論語では、”ぬすむ”の意味で襄を用いている。

学研漢和大字典

論語 襄 解字
会意兼形声。右の形が襄の原字で、中にいろいろなものを入れてまぜることをあらわす会意文字。含まれている爻印はまぜあわせることをあらわす。襄は、この形と衣(外側のおおい)とをあわせたもので、中に割りこむの意をあらわす。釀(=醸。つぼの中に材料を入れてかもす)・嚢(ノウ)(ふくろ)・攘(ジョウ)(まぎれこんできたものを始末してしまう)・讓(=譲。すきまに割りこませる)と同系。無声のnがsにかわったことば。

語義

  1. (ジョウス)(ジャウス){動詞}のぼる。割りこむ。▽「のぼる」という訓は正確でない。「懐山襄陵=山を懐き陵に襄す」〔書経・尭典〕
  2. {動詞}あげる(あぐ)。上に向ける。「交竜襄首奮翼=交竜は首を襄げ翼を奮ふ」〔漢書・鄒陽〕
  3. {動詞}はらう(はらふ)。わきにはらいのける。《同義語》⇒攘。「不可襄也=襄ふべからざるなり」〔詩経・眇風・牆有茨〕
  4. {動詞}たすける(たすく)。間に割りこみ、わきから仕事をたすける。また、たすけてやりとげさせる。「賛襄(サンジョウ)」「襄事=事を襄く」。
  5. {名詞}三頭または四頭だての馬車の、内側につける馬。《同義語》⇒驤。《対語》⇒服(両わきにつけるそえ馬)。「両服上襄(両わきのそえ馬とまん中の良馬)」〔詩経・鄭風・大叔于田〕

字通

[会意]衣+吅(けん)+㠭(てん)。衣は死者の衣。その襟もとに、祝禱の器(𠙵(さい))を二つおき、また呪具の工を四個おいて填塞し、邪気が放散することを防ぎ、禳(はら)うのである。ゆえに襄は「禳う」「攘(はら)う」の初文。金文の字形は、衣の間に種々の呪具をおく形に作る。〔説文〕八上に「漢の令に、衣を解きて耕す。之れを襄と謂ふ」とするが、襄声の諸字との間に声義の関係をえがたい。〔説文〕は字を𤕦(じよう)声とし、𤕦字条二上に「亂るるなり。爻・工・交・吅に從ふ」とするが、その字形について説くところがない。また𢒫(じん)字条三下に「此れ𤕦と同意なり」とするが、尋は左右の手を上下に組み合わせた形で、左右に𠙵と工との呪具をもち、神霊の所在を尋ねる意。襄は𠙵と工とを死者の衣襟の上に列して、邪霊を禳う意である。〔書、尭典〕「陵(をか)に襄(のぼ)る」の襄は、驤字の義。

訓義

1.はらう、はらいきよめる。
2.たすける、力をそえる。
3.驤と通じ、のぼる、あがる、あげる。

声系

〔説文〕二上に𤕦を部首とし、襄を𤕦声とするが、𤕦は襄の初文。死喪の礼として行う祓禳の呪儀を襄という。襄声の字として禳・讓(譲)・攘、また䑋・穰(穣)・孃(嬢)・壤(壌)・釀(醸)など、十七字を収める。前者は祓禳に関する字、後者は柔らかくゆたかな状態にあるものをいう。

語系

襄・驤siangは同声。それで襄を驤(のぼ)る意に用いる。禳・孃・穰njiangも声近く、孃・穰はまた襛・醲・濃niuəmと通ずる語で、豊穣の意をもつ語である。

大漢和辞典

リンク先を参照

醬/醤(ショウ・18画)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯aŋ(去)。同音に將、漿、蔣”まこも・励ます”、獎。部品の將に”ひしお”の語義は無い。台湾では日本アニメに字幕を付ける際、「○○”ちゃん”」に醬(jiàng→声帯の震えをせず、語尾で息を呑む”チャン”)を当てる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「酉+(音符)將(細長い)」。細長くたれる、どろどろとした汁。異体字「醤」は簡易慣用字体。

語義

  1. {名詞}肉を塩・こうじ・酒などで漬けたもの。肉のしおから。ししびしお。《類義語》醢(カイ)。
  2. {名詞}ひしお(ひしほ)。米・麦・豆などを塩とまぜて発酵させたもの。みそ・しょうゆの類。《類義語》漿(ショウ)。「不得其醬不食=その醬を得ずんば食らはず」〔論語・郷党〕

字通

[形声]声符は將(将)(しよう)。〔説文〕十四下に「醢(ししびしほ)なり」とあり、肉を細く切り、麹(こうじ)と塩とをまぜ、酒を加えて密蔵したもの。醤油は大豆と大麦とを塩につけてしぼったものである。

鐘(ショウ・20画)

鐘 金文
𠭯鐘・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はȶi̯uŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。童は、目をつきぬいたどれいのこと。つきぬく意を含む。また、撞の原字で、どんとつく意。鐘は「金+(音符)童」で、中を中空につらぬき、どんとついて音を出す銅製のかね。

語義

  1. {名詞}かね。打楽器の一つ。青銅製で、多くは十二律にあわせた十二個をひと組として用いた。また、つりがね。《同義語》⇒鍾。「編鐘」「梵鐘(ボンショウ)」「半鐘」。
  2. {名詞}時を知らせるかね。また、とけい。「自鳴鐘」。

字通

[形声]声符は重(じゆう)。重に衝・踵(しよう)の声がある。重は槖(ふくろ)(初文は東)の底におもりをつけた形。もと重量・容量をはかる意。〔説文〕十四上に「酒器なり」という。〔左伝、昭三年〕に、斉の器量に豆・區(区)(おう)・釜・鍾があるといい、その斉量の遺品に釜と称する青銅器があり、穀量をはかるのに用いた。〔列子、楊朱〕に「酒千鍾を聚む」、また〔孔叢子、中、儒服〕に「堯舜は千鍾、孔子は百觚」というのは、その酒量をいう。〔詩、小雅、鼓鍾〕は鼓鐘の意。列国期の楚・邾(ちゆ)の器には鐘を鍾に作り、漢碑にもなおその例がある。

仍(ジョウ・4画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵi̯əŋ(平)。同音は艿”草の名”、扔”よる”、陾”垣根を作る声”。同義「扔」の初出は甲骨文

学研漢和大字典

会意兼形声。人の右に、乃(柔らかい耳たぶ)を加え、乃(ナイ)の転音が音をあらわすもので、柔らかくねばりついて、なずむの意を含む。

語義

  1. {動詞}よる。ねばりついて離れない。なずむ。「仍旧貫=旧貫に仍る」〔論語・先進〕
  2. {動詞}かさなる。もとの物事につけ加わる。
  3. {副詞}かさねて。しきりに。しばしば。→語法「①」。
  4. 「仍仍(ジョウジョウ)」とは、幾重にもかさなり、数多いさま。
  5. {副詞}なお(なほ)。→語法「②」

語法

①「かさねて」「しきりに」「しばしば」とよみ、「そのうえ」「しきりに」と訳す。重複・連続の意を示す。「晋仍無道而鮮胄=晋は仍(しきり)に無道にして胄(ちゅう)鮮(すくな)し」〈晋はしきりに無道を行い、公族が少ない〉〔国語・周〕

②「なお」とよみ、「まだ」「やはり」と訳す。以前からの状況が続いている意を示す。「千場縦博家仍富=千場博を縦(ほしいまま)にして家仍(な)ほ富む」〈千の賭場でばくちの打ち放題、家はそれでもなお金がうなっている〉〔高適・邯鄲少年行〕

字通

[形声]声符は乃(じよう)。乃は弓弦をはずした形。弦を張らずに、そのままおくことをいう。〔説文〕八上に「因るなり」とあり、因仍の意。〔周礼、春官、司几筵〕「凡そ吉事には几(き)を變へ、凶事には几に仍(よ)る」とは、凶事には死者の几(机)をそのまま用いる意。〔論語、先進〕「舊貫(慣)に仍(よ)らば如何(いかん)」とは、先例に従うことをいう。

杖(ジョウ・7画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdʰi̯aŋ(上)。同音は長、萇”姓”、腸、場、丈。部品の「丈」は”つえ”の語義を持つが、初出は楚系戦国文字。古くは「枝」と書体が同じで、論語の時代は区別されていなかった可能性があるが、「枝」の初出は秦の隷書で、論語の時代に存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。丈は「十+攴(て)」の会意文字で、手尺の幅(=尺)の十倍の長さをあらわす。杖は「木+(音符)丈」で、長い棒のこと。類義語に棒。

語義

  1. {名詞}つえ(つゑ)。歩行をたすけるため手にもつ長い棒。「負手曳杖=手を負ひ杖を曳く」〔礼記・檀弓上〕
  2. {動詞}つえつく(つゑつく)。つえをつく。「八十杖於朝=八十にして朝に杖く」〔礼記・王制〕
  3. {動詞}よる。たよる。たよりにする。たよる。《同義語》⇒仗。「近臣已不足杖矣=近臣已に杖るに足らず」〔漢書・李尋〕
  4. {名詞}むち。人をたたく長い棒。「刑杖(ケイジョウ)」。
  5. {動詞}むちうつ。こらしめるために棒でたたく。「杖笞(ジョウチ)」。
  6. {名詞}五刑の一つ。棒でたたいてこらしめる刑。

字通

[形声]声符は丈(じよう)。丈は杖をもつ形で杖の初文。〔説文〕六上に「持つなり」とあり、杖を持つ意。漢・魏以後、賜杖免朝は臣下に賜う最高の礼遇とされ、国老には特に霊寿杖などを賜うた。刑罰には笞刑(ちけい)に杖を用い、また杖刑・徒刑(ずけい)という。喪礼にも杖を用いるので、喪期を杖期という。

狀/状(ジョウ・7画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdʐʰi̯aŋ(去)。同音は床(平)。『大漢和辞典』で音ジョウ訓かたちに相ɕi̯o(去)があるが、上古音で音通するとはとうてい言えない。

学研漢和大字典

会意兼形声。爿(ショウ)は、細長い寝台の形を縦に描いた象形文字。狀は「犬+(音符)爿」で、細長い犬の姿。細長いかたちの意を含むが、広く事物のすがたの意に拡大された。壯(=壮。せたけの高い男)・裝(=装。すらりと高い姿)などと同系。類義語の態は、もちまえの姿。姿は、身づくろいしたすがた。情は、ありのままの実情。様は、像と同系で、形やありさま。旧字「狀」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}すがた。かたち。物事のかたち・すがた・ようす。「形状」「状態」「孔子状、類陽虎=孔子の状、陽虎に類す」〔史記・孔子〕
  2. {動詞}かたちづくる。かたちをなす。かたちにあらわす。「状乎無形影=形影無きところに状る」〔荀子・礼論〕
  3. {動詞}すがたを形容する。ありさまをのべる。「状詞(形容詞)」「不可名状=名状すべからず」。
  4. {名詞}事実や、ようすをのべる書面。裁判のさい事情を説明する書面。また、転じて広く手紙のこと。「行状(いきさつ、いきさつをのべた書面)」「書状(手紙)」。
  5. 《日本語での特別な意味》手紙で、…ということの意に用いる。「…の状」。

字通

[形声]旧字は狀に作り、爿(しよう)声。爿は版築に用いる板の形。〔説文〕十上に「犬の形なり」とするが、その用義例もなく、信じがたい。また〔繫伝、袪妄〕に「犬は動止多狀、人の意を曉(さと)り、人の審(つまび)らかにし易き所なり」とするのも、臆測の言である。就・獻(献)・猷がみな犬牲を用いることから考えると、狀とは版築(はんちく)のとき、犬牲を用いることを意味するのであろう。版築の際に犬牲を供えて、その規模・状況を定めたものと思われ、現状や将来の予想を意味する語となる。〔左伝、僖二十八年〕「狀を獻ぜよ」とは、状態の経過について報告を求めることをいう。工事の進捗の状態より、ものの形状、人の状貌をいい、状を報ずる書を書状という。

大漢和辞典

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乘/乗(ジョウ・9画)

論語 乗 金文
虢季子白盤・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はi̯əŋ(平/去)。藤堂上古音はdiəŋ。

学研漢和大字典

会意。「人+舛印(左右の足の部分)+木」で、人が両足で木の上にのぼった姿を示す。剩(ジョウ)(=剰。水準より上にのぼる→あまり)の音符となる。蒸発の蒸(水気が上にのぼる)・昇(のぼる)・陞(ショウ)(のぼる)・騰貴(トウキ)の騰(のぼる)・登(のぼる)と同系のことば。類義語に載。異字同訓に
のせる・のる 乗せる・乗る「母を飛行機に乗せて帰す。電波に乗せる。計略に乗せる。電車に乗って行く。馬に乗る。風に乗って飛ぶ。時流に乗る。相談に乗る」 載せる・載る「自動車に貨物を載せる。たなに本を載せる。雑誌に広告を載せる。机に載っている本。新聞に載った事件」。

参考:旧字「乘」は人名漢字として使える。

意味

  1. {動詞}のる。車や舟や馬にのる。「乗肥馬=肥馬に乗る」〔論語・雍也〕
  2. (ジョウズ){動詞}のる。機会につけこむ。「便乗」「乗乱不祥=乱に乗ずるは不祥なり」〔春秋左氏伝・昭二七〕
  3. (ジョウズ){動詞}計算する。▽数を上へ上へとのせていくの意から。「乗其財用之出入=其の財用の出入を乗ず」〔周礼・宰夫〕
  4. (ジョウズ){動詞・名詞}掛け算をする。また、掛け算。「乗法」。
  5. {名詞}人がのるための馬。▽去声に読む。「此吾乗也=此れ吾が乗也」。
  6. {単位詞}兵車を数えることば。馬四頭で一車を引いた。紀元前の中国では兵車が戦いの主力であることから、国の武力の程度をあらわした。転じて、乗り物一般をいう。▽去声に読む。「万乗之国(バンジョウノクニ)(兵車一万台を備えた大国)」〔孟子・梁上〕
  7. {単位詞}馬四頭、または、矢四本で、ひとそろいになっているもの。▽去声に読む。「乗矢(ジョウシ)(四本の矢)」〔孟子・離下〕。「陳文子有馬十乗=陳文子馬十乗有り」〔論語・公冶長〕
  8. {名詞}記録をのせた本。▽去声に読む。「晋之乗(シンノジョウ)(晋の歴史書)」〔孟子・離下〕
  9. {名詞}《仏教》衆生(シュジョウ)を悟りの世界にいたらせるもの。仏法。▽去声に読む。「小乗」。

字通

旧字は乘に作り、の上に人が二人登っている形。木に登ることをいう。卜文・金文の字形は、禾ではなく枝の上竦する高い木である。〔説文〕五下に「覆うなり」と訓し、字形について「入桀に従う。桀はかつ(訳者注。わるがしこい)なり。軍法に乗と曰う」とする。黠は好悪。それで乗を、人を凌ぐ意とするものであろう。〔説文〕は字を桀部に属し、桀黠の意を以て説くが、桀は木の両旁に人をはりつけにすることで、梟殺の字、乗は一人が木に登って遠く望見することをいう。卜辞に「望乗」という族名があり、おそらく斥候を職とする者の氏族であろう。すべて他の勢いをかりて行動することを、「乗ずる」という。

訓義:1)のる、木にのる、高いところにのぼる、のぼる。2)つけこむ、つけいる、利用する。3)しのぐ、おかす。4)一そろいのかず、二つ、四つ。5)土地の広さの単位。6)歴史、春秋の晋の歴史。7)掛け算の、かける。

大漢和辞典

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情(ジョウ・11画)

論語 情 古文
(古文)

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdzʰi̯ĕŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、青(セイ)は、清く澄み切ったエキスの意を含む。情は「心+(音符)青」で、心の動きをもたらすエキスのこと。精(エキス)と同系のことば。

意味

  1. {名詞}感覚によっておこる心の動き。「情動於中而形於言=情中に動きて言に形る」〔詩経・大序〕。「順人之情、必出於争奪=人の情に順へば、必ず争奪に出づ」〔荀子・性悪〕
  2. {名詞}人の心の働きによるさまざまの思い。人の心の感じ方や社会の通念。「情理」「不近人情=人情に近からず」「人生有情涙沾臆=人生情有り涙臆を沾す」〔杜甫・哀江頭〕
  3. {名詞}男女の恋い慕う思い。「如不勝情而入=情に勝へざるがごとくにして入る」〔孟挑・本事詩〕
  4. {名詞}ほんとうの気持ち。本心。「無敢隠朕、皆言其情=敢へて朕に隠す無かれ、皆其の情を言へ」〔史記・高祖〕
  5. {名詞}ほんとうのこと。ほんとうの姿。「実情」「情偽(ほんとうとうそ)」「夫物之不斉物之情也=それ物の斉しからざるは物の情なり」〔孟子・滕上〕
  6. {名詞}個人的な感情や情実。「徇情=情に徇ふ」。
  7. {副詞}まことに。ほんとうに。「情知帯眼従前緩=情に知る帯眼の従前より緩きを」〔王安石・姑胥郭〕
  8. 《日本語での特別な意味》なさけ。人情。思いやり。「世は情け」。

字通

[形声]声符は青(せい)。〔説文〕十下に「人の陰气にして、欲有る者なり」とあり、性を陽、情を陰とする漢代の性情論によって説く。〔礼記、礼運〕に人の七情を「學ばずして能くするもの」、すなわち本能であるという。

常(ジョウ・11画)

常 金文
陳公子叔𨙅父甗・春秋早期

初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はȡi̯aŋ(平)。同訓近音に「」。「商」のそれはɕi̯aŋ(平)。「商」は『大漢和辞典』に『広雅』釈詁一を引いて「商、常也」と記す。

学研漢和大字典

形声。「巾(ぬの)+(音符)尚(ショウ)」。もとは裳(ショウ)と同じで、長いスカートのこと。のち時間が長い、いつまでも長く続く、の意となる。長・暢(チョウ)(のびる)と同系。類義語の恒は、いつも緊張してたるまないこと。経は、縦糸のように前後一貫して長くつらぬくこと。

意味

  1. {名詞・形容詞}つね。いつまでも同じ姿で長く続くこと。《類義語》恒。「恒常」「常師(決まった先生)」「天行有常=天行常有り」〔荀子・天論〕
  2. {名詞}つね。いつまでも長く続いてかわらない物事や道理。「五常(仁・義・礼・智・信の五つの不変の道徳)」。
  3. {副詞}つねに。→語法「①③」。
  4. 「不常=常ならず」とは、一定しないこと。「不常…=常には…せず」とは、いつもこうとは限らない、の意。→語法「②」。
  5. {副詞}とこしえに(とこしへに)。→語法「①」。
  6. {形容詞}普通の。並の。《対語》奇・特。「常識」「常人」「蓋世必有非常之人=蓋し世には必ず非常の人有り」〔史記・司馬相如〕
  7. {単位詞}長さの単位。一常は一尋(ジン)(八尺)の二倍。▽周代の一尺は二二・五センチメートル。「尋常(普通の長さ→並の)」。
  8. {名詞}日月や竜を描いた天子の旗じるし。
  9. 《日本語での特別な意味》「常陸(ヒタチ)」の略。「常州」。

語法

①「つねに」とよみ、「いつも」「つねづね」と訳す。日頃からという意を示す。▽文脈によって「いつまでも」「永遠に」という意味の場合は、「とこしえに」とよんでもよい。「駿馬、名騅、常騎之=駿馬あり、名は騅、常にこれに騎す」〈優れた名馬がいた、名は騅といい、(項王が)常に乗る馬であった〉〔史記・項羽〕
②「不常~」は、「つねには~ず」とよみ、「いつも~であるとは限らない」と訳す。部分否定。「伯楽不常有=伯楽は常には有らず」〈(名馬を見つける)名伯楽はいつもいるわけではない〉〔韓愈・雑説〕
③「常不~」は、「つねに~ず」とよみ、「いつも~ない」と訳す。全部否定。「大尹常不告、而以其欲称君命以令=大尹(たいいん)常に告げずして、その欲するところをもって君命と称してもって令す」〈君主の側近はいつも君主に報告せず、自分の意図を君命と称して布告した〉〔春秋左氏伝・哀二六〕
④「かつて」とよみ、「~したことがある」と訳す。過去の経験の意を示す。《同義語》嘗。「常數従其下郷南昌亭長寄食=常(かつ)て數(しば)しばその下郷の南昌の亭長に従ひて寄食す」〈かつて淮陰県下の下郷にある南昌亭の亭長の家に、しばしば出入りして厄介になったことがあった〉〔史記・淮陰侯〕

字通

[形声]声符は尚(しよう)。〔説文〕七下に「下帬(かくん)なり」とし、重文として裳を録する。いまは区別して用いる字である。常は一定幅の巾。金文に帬を常時の意に用い、〔舀鼎(こつてい)〕に「必ず帬(つね)に厥(そ)の邑に處(を)らしめよ」、また〔因諮敦(いんしたい)〕に「永く典尚と爲せ」のように用いる。嘗と通用し、「かつて」と訓することがある。

壤/壌(ジョウ・16画)

「土壌」の壌。初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵi̯aŋ(上)。同音は穰”きびがら”、禳”祭りの名”、攘、瀼”湿気の多い様”、讓。部品の襄sni̯aŋ(平)に、”つち”の語釈は無い

学研漢和大字典

会意兼形声。襄(ジョウ)は、中にまぜこむ、割りこむ意を含む。壤は「土+(音符)襄」で、まぜかえしたつち。釀(=醸。こうじをまぜこんで酒をかもす)・讓(=譲。割りこませる→場所を譲る)と同系。類義語の土は、万物を吐き出す充実したつち。地は、長く平らに伸びた大地。

語義

  1. {名詞}つち。すき返してまぜた柔らかいつち。「撃壌而歌=壌を撃ちて歌ふ」〔帝王世紀〕
    ま{名詞}つち。大地。「天壌(テンジョウ)」「霄壌(ショウジョウ)(天地のこと)」。
  2. (ジョウナリ)(ジャウナリ){形容詞}実り豊かなさま。▽穣(ジョウ)に当てた用法。平声に読む。「畏塁大壌=畏塁大いに壌なり」〔荘子・庚桑楚〕
  3. 「壌壌(ジョウジョウ)」とは、まぜかえされてごたつき、混乱するさま。《同義語》⇒攘攘。「天下壌壌、皆為利往=天下壌壌、皆利の為に往く」〔史記・貨殖〕

字通

[形声]旧字は壤に作り、襄(じよう)声。襄にゆたかなるものの意がある。〔説文〕十三下に「柔らかき土なり」、〔玉篇〕に「地の緩肥なるを壤と曰ふ」とあって、一度砕いた柔らかな土をいう。〔書、禹貢〕の〔伝〕に「塊(つちくれ)無きを壤と曰ふ」とあって、耕土の意である。

擾(ジョウ・18画)

擾 金文
大克鼎・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はȵi̯oɡ(上)。論語では、孔子の生国である魯国で謀反を起こした、公山不擾の名として、論語陽貨篇に一箇所記される

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の部分はもと人の子どもの形に似たさるを描いた象形文字。狃(ジュウ)とも書き、人にじゃれつくさるのこと。擾は、もとそれを音符とし、手を加えた字で、人になれたさるのように、うるさくじゃますること。のち音符を憂に書き誤り、擾と書くようになった。狃(なれる、まといつく)・鬧(ノウ)・(ドウ)(うるさい)と同系。

語義

  1. {動詞}みだす。みだれる(みだる)。ずるずるとかき回す。うるさくじゃまをして、みだす。「騒擾(ソウジョウ)」「擾乱(ジョウラン)」「其勢足以相擾而不足以相斃=其の勢ひ以て相ひ擾すに足れども以て相ひ斃すに足らず」〔蘇轍・三国論〕
  2. {形容詞}わずらわしい(わずらはし)。じゃまをしてうるさい。また、騒がしい。《類義語》鬧(ノウ)・(ドウ)・繞(ジョウ)(まといつく)。「擾擾(ジョウジョウ)(ごたごたと騒がしい)」。
  3. {動詞}ならす。なれる(なる)。じゃれつく。また、じゃれるように、なつかせる。「擾竜=竜を擾す」。

字通

[形声]正字は𢺕 に作り、夒(どう)声。擾は俗字。〔説文〕十二上に「煩なり」とあって、煩乱をいう。夒は手足をあげて舞い躍る形。酒を飲んで乱れさわぐことを■(酉+夒)(どう)という。憂は喪に服する人の形であるから、声義ともに異なる字である。

譲/讓(ジョウ・20画)

論語 譲 金文大篆
(金文大篆)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵi̯aŋ(去)。同音は旁に襄を持つ一連の漢字群。論語の時代には恐らく部品の「」(のぼる・たすける:カ音sni̯aŋ)と書かれたと考えられるが、「襄」に”譲る”の意味は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。襄(ジョウ)は、中にわりこむの意を含む。讓は「言+(音符)襄」で、どうぞといって間にわりこませること。転じて、間にはさんで両わきからせめる意ともなる。鑲(ジョウ)(中に金属をはめこむ)・饟(ジョウ)(中にわりこませたあん)などと同系。旧字「讓」は人名漢字として使える。

意味

  1. {動詞}ゆずる(ゆづる)。場所をあけてわりこませる。「譲歩」「三以天下譲=三たび天下を以て譲る」〔論語・泰伯〕
  2. {動詞・形容詞・名詞}自分をあとにして人を先にする。ひかえめな。ひかえめな態度や行い。「謙譲」「遜譲(ソンジョウ)」「揖譲而入=揖譲して而入る」〔礼記・曾子問〕。「禁者、政之本也、譲者、徳之主也」〔晏子春秋・雑下〕
  3. {動詞}せめる(せむ)。理屈で相手をせめたてる。なじる。「責譲」。
  4. {助動詞}《俗語》本人の希望どおりにさせてあげる。また、させてもらう。

字通

[形声]旧字は讓に作り、襄(じよう)声。襄に祓禳の意がある。〔説文〕三上に「相ひ責讓するなり」とあり、人を譲(せ)める意とする。もと祓禳するための祝禱する辞をいう。攘斥して退かせることから、推譲・揖譲(ゆうじよう)の意となる。避けて退くことを攘辟(じようへき)といい、讓・攘は声義の通ずる字である。

攘(ジョウ・20画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明。部品の襄は甲骨文より存在するが、”ぬすむ”の語釈は『大漢和辞典』に無い。元々無かったのか、攘の字が出来て二次的に失ったのかは不明。ただし論語子路篇の定州竹簡論語では、”ぬすむ”の意味で襄を用いている。

学研漢和大字典

会意兼形声。襄(ジョウ)は、衣の中にいろいろな物を入れこむさま。中に入れこむ意を含む。攘は「手+(音符)襄」で、中に入りこんだものを、払いのけたりぬすんだりすること。釀(=醸。中にこうじを入れて酒をかもす)・讓(=譲。間に入れてやる)と同系。類義語に払。

語義

  1. {動詞}ぬすむ。入りこんできたものをぬすむ。「攘窃(ジョウセツ)」「其父攘羊=其の父羊を攘む」〔論語・子路〕
  2. {動詞}はらう(はらふ)。入りこんできたものを、はらいのける。じゃまなものをはらい除く。▽平声に読む。「攘臂=臂を攘ふ」「桓公救中国、而攘夷狄=桓公中国を救ひて、夷狄を攘ふ」〔春秋公羊伝・僖四〕
  3. (ジョウス)(ジャウス){動詞}みだれる。みだす。「搶攘(ソウジョウ)」「心無天遊則六鑿相攘=心に天遊無ければ則ち六鑿相ひ攘す」〔荘子・外物〕
  4. {動詞}間に入れてやる。場所を譲って、そこへ他人を割りこませる。▽譲に当てた用法。去声に読む。

字通

[形声]声符は襄(じよう)。襄は禳の初文で、祓禳・禳斥の意があり、その行為を攘という。〔説文〕十二上に「推すなり」というのは推譲の意であろう。〔漢書、礼楽志〕「揖攘(いふじやう)の容を盛んにす」、〔漢書、司馬遷伝〕「小子何ぞ敢て攘(ゆづ)らん」などは譲る意で、のち讓(譲)の字を用いる。讓の初義は譲斥で、「譲(せ)める」意。襄は多くの呪具を以て、邪気を攘うことをいう。

式(ショク・6画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯ək(入)。同音に識、拭、軾”車の手すり”、飾(全て入)。「シキ」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。弋(ヨク)は、先端の割れたくいを描いた象形文字。この棒を工作や耕作・狩りなどに用いた。式は「工(仕事)+(音符)弋」で、道具でもって工作することを示す。のち道具の使い方や行事のしかたの意となる。以(何かで仕事する)と同系。もと、杙(ヨク)(くい)と同系。

語義

  1. {名詞}のり。決まり。また、一定のやり方。《類義語》則。「法式」「抱一為天下式=一を抱いて天下の式と為る」〔老子・二二〕
  2. {名詞}決まった型。「様式」。
  3. {名詞}型通り行う作法や行事。「閲兵式」。
  4. {名詞}計算のしかたを示す型。「算式」。
  5. {名詞}乗った人が寄りかかるための車の手すり。《同義語》軾(ショク)。
  6. (ショクス){動詞}車の手すりに寄りかかる。また手すりに寄りかかって頭を下げあいさつする。《同義語》軾(ショク)。「夫子式而聴之=夫子式してこれを聴く」〔礼記・檀弓下〕
  7. {動詞}もちいる(もちゐる・もちふ)。何かでもって仕事をする。《類義語》以。「式穀似之=穀きを式ゐてこれに似せしめん」〔詩経・小雅・小宛〕
  8. {助辞}もって。語調をととのえる助辞。「詩経」で用い、特に訓読しないことが多い。「式微=式て微ふ」「式歌且舞=式て歌ひ且つ舞ふ」〔詩経・小雅・車幵〕

字通

[会意]弋(よく)+工。工は呪具。巫祝が左手にもつもので、左・尋・隱(隠)・塞𡫳などの字に含まれ、神聖を守り、悪邪を祓うのに用いる。〔説文〕五上に「法なり」とし、弋声とする。拭・試・弑はその声義を承ける字で、すべて呪的な行為を意味する。〔書、仲虺之誥〕「商を式(もつ)て、命を受く」、〔左伝、成二年〕「王命を式ひず」のように、一定の規範に従って行為することを「式(もち)う」という。それでまた〔詩、大雅、烝民〕「古訓に是れ式(のつと)る」、〔詩、大雅、崧高〕「南國に是れ式らしむ」のように用いて法式・規範の意となる。


𡫳:音ソク。ふさぐ、ふさがる。塞と同じ。大漢和所収書体は𡫟。

色(ショク・6画)

論語 色 金文 論語 色
𪒠鐘・春秋晚期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はʂi̯ək(入)。

学研漢和大字典

象形文字で、かがんだ女性と、かがんでその上に乗った男性とがからだをすりよせて行為するさまを描いたもの。行為には容色が関係することから、顔やすがた、いろどりなどの意となる。また、すり寄せる意を含む。

即(そばにすりよってくっつく)・則(ソク)(くっつく)・塞(ソク)(すりあわす、ふさぐ)などと同系のことば。

意味

  1. {名詞}いろ。男女間の情欲。色欲の色。「女色」「漁色」「寡人好色=寡人色を好む」〔孟子・梁下〕
  2. {名詞}いろ。顔かたちのようす。顔の表情。「喜色」「慍色(ウンショク)(むっとした顔つき)」「失色=色を失ふ」「民有飢色=民に飢ゑたる色有り」〔孟子・梁上〕
  3. {名詞}いろ。外にあらわれた形やようす。「秋色(秋げしき)」「行色匆匆(コウショクソウソウ)(旅だとうとしてあわただしいようす)」。
  4. {名詞}いろ。いろどり。色彩の色。「五色(紅・黄・青・白・黒)」「三五夜中新月色=三五夜中新月の色」〔白居易・八月十五日夜禁中独直〕
  5. {名詞}《仏教》感覚でとらえる客観の世界のこと。精神的要素に対して、物質的性質をいう。「色即是空(シキソクゼクウ)」。
  6. {名詞}《俗語》くさ。品物の一種類のこと。《類義語》種。「貨色」。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①いろ。ひびき。「音色(ネイロ)」。
    ②いろ。愛人。情人。

字通

論語 色 篆書
(篆書)

人+せつ。人の後ろから抱いて相交わる形。〔説文〕九上に「顔气なり。人に従ひ、せつに従ふ」とし、人の儀節(卪)(訳者注。行動や態度が、適切でほどよいこと)が自然に顔色にあらわれる意とするが、男女のことを言う字。尼も字形が近く、昵懇の状を示す。特に感情の高揚する意に用い、〔左伝、昭十九年〕「市に色す」は怒る意。「色斯しょくし」とはおどろくことをいう。

訓義

1)いろ、かおいろ、かおにあらわれる、けしきばむ。2)いろどり、つや、つややか、おもむき、うつくしい。3)おだやか、なごむ。4)しな、たぐい。5)男女の情、なさけ。

大漢和辞典

色 大漢和辞典
色 大漢和辞典

卽/即(ショク・7画)

即 金文
秦公鎛 春秋早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtsi̯ək(入)。「ソク」は呉音。

学研漢和大字典

会意。人がすわって食物を盛った食卓のそばにくっついたさまを示す。のち、副詞や接続詞に転じ、口語では便・就などの語にとってかわられた。則(そばにくっつく)・側(そば)と同系。類義語に則。旧字「卽」は人名漢字として使える。

語義

  1. (ソクス){動詞}つく。すぐそばにくっつく。「即位」「即之也温=これに即けば温なり」〔論語・子張〕
  2. {副詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-3」。
  3. {副詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-2」「色即是空(シキソクゼクウ)」。
  4. {接続詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-1」。
  5. {接続詞}もし。→語法「②」。
  6. {接続詞}たとえ(たとへ)。→語法「③」

語法

▽前後の状況が直結する場合に用いる。

①「すなわち」とよみ、

  1. 「とりもなおさず」と訳す。原因と結果が直結する意を示す。「項王許之、即帰漢王父母妻子=項王これを許し、即(すなは)ち漢王の父母妻子を帰す」〈項王はこれを承認すると、ただちに漢王の父母妻子を帰した〉〔史記・項羽〕
  2. 「つまり」「これの場合は」と訳す。強調の意を示す。《類義語》則。「済北殻城山下黄石即我矣=済北の殻城山下の黄石は即(すなは)ち我なり」〈済北の穀城山のふもとの黄色い石、それがわしじゃ〉〔史記・留侯〕
  3. 「すぐに」「ただちに」と訳す。時間的に、前後に間をおかず直結する意を示す。「先即制人、後則為人所制=先んずれば即(すなは)ち人を制し、後るれば則(すなは)ち人の制する所と為る」〈先手を打てば人を制することができるが、後手にまわると人に制せられる〉〔史記・項羽〕ツ「そうであれば」と訳す。前節をうけて、後節の結果を導く意を示す。「其在朝、君語及之、即危言、語不及之、即危行=その朝に在るや、君の語これに及べば、即(すなは)ち言を危しくし、語これに及ばざれば、即ち行ひを危しくす」〈朝廷では、主君の御下問があれば直言し、御下問がなければ自分をきびしく律して政務に勤めた〉〔史記・管晏〕

②「もし」とよみ、「万一~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「吾即没、若必師之=吾即(も)し没せば、若(なんぢ)必ずこれを師とせよ」〈わしがもし死んだら、おまえは必ず彼(孔子)に師事しなさい〉〔史記・孔子〕

③「たとい~」とよみ、「~であっても」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。▽「即使~=たとい~」も意味・用法ともに同じ。「使斉北面伐燕、即雖五燕不能当=斉をして北面して燕を伐た使めば、即(たと)ひ五燕と雖(いへど)も当たる能はず」〈斉に北へ向かって燕を討たせようとすれば、燕が五つ集まっても、防ぐことはできない〉〔戦国策・燕〕

字通

[会意]旧字は卽に作り、皀(きゅう)+卩(せつ)。皀は𣪘(き)の初文。𣪘は文献に簋(き)に作り、盛食の器。皀の上に蓋(ふた)を加えると、食の字となる。卩は人の跪坐する形。食膳の前に人が坐する形は卽、すなわち席に即(つ)く意。左右に人が坐するときは郷、饗・嚮の初文。〔説文〕五下に「食に卽くなり」とする。〔段注〕に卩を節度・節食の意とするが、卩の声義をとる字ではない。すべてその位置に即き、その任に即くことをいう。遅滞なくそのあとで行動するので、即時の意となる。

食(ショク・9画)

論語 食 金文
(金文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzi̯əɡ(去)またはi̯ək(入)。後者の同音は大量にあるが、前者の同音は次の通り。

dzi̯əɡ 詞・祠・辭 似・祀・姒”あね”・巳・耜・汜”本流から離れてまた本流に入る川・岸”・鈶”矛の類” 寺・嗣

学研漢和大字典

会意。「亼(あつめて、ふたをする)+穀物を盛ったさま」をあわせたもの。容器に入れて手を加え、柔らかくしてたべることを意味する。飴(イ)(穀物に加工して柔らかくしたあめ)・飼(柔らかくしたえさ)・式(ショク)(作為を加える)などと同系。蝕(ショク)(くいこむ、むしばむ)と最も近い。

「蝕」の代用字としても使う。「日食・月食・腐食・浸食・侵食・皆既食・食尽」▽「くう」「くらう」は「喰う」「喰らう」とも書く。

語義

ショク/ジキi̯ək(入)
  1. (ショクス){動詞}くらう(くらふ)。くう(くふ)。はむ。もと、穀物を柔らかくしてたべること。のち、広くたべる意に用いる。「飲食」「食糧」「食而不知其味=食らへども其の味を知らず」〔大学〕
  2. {名詞}たべもの。たべること。「断食」「配食」「甘其食=其の食を甘しとす」〔老子・八〇〕
  3. {名詞}くいぶち。「食禄(ショクロク)」「君子謀道、不謀食=君子は道を謀り、食を謀らず」〔論語・衛霊公〕
  4. (ショクス){動詞・名詞}くいこむ。虫がくいこんだように、日や月が欠ける。また、そのこと。《同義語》⇒蝕。「月食(=月蝕)」「日有食之=日これを食する有り」〔春秋・隠三〕
  5. (ショクス){動詞}たべたようになくしてしまう。くいものにする。「食言=言を食す」「言不可食=言は食すべからず」〔国語・晋〕
  6. {動詞}くらう(くらふ)。打撃をうける。ひどい仕打ちをくらう。「不食膚受之愬=膚受の愬を食らはず」〔漢書・谷永〕
シキ/イi̯ək(入)
  1. {動詞}くらわす(くらはす)。はます。やしなう(やしなふ)。たべさせる。食物を与えてやしなう。《同義語》⇒飼(シ)。「飲之食之=これに飲ませこれに食らはす」〔詩経・小雅・緜蛮〕。「食我以其食=我に食らはすに其の食を以てす」〔史記・淮陰侯〕
  2. {名詞}いい(いひ)。めし。《同義語》⇒飼。「一員食、一瓢飲=一員(いったん)の食、一瓢の飲」〔論語・雍也〕
イ/イi̯ək(入)
  1. {名詞}「酈食其(レキイキ)」「審食其(シンイキ)」など人名に用いる読み方。

字通

[象形]食器である𣪘(き)(皀)に蓋(ふた)をした形。金文の𣪘を、文献には簋(き)に作るが、本来竹器ではない。〔説文〕五下に「米を亼(あつ)むるなり。皀に從ひ、亼(しふ)聲」(段注本)とするが、亼は器の蓋の形。飲食の字は金文に多く飤(し)に作り、「飮飤謌舞」、また「誨猷(くわいいう)(謀)飤(あやま)(食)たず」のように用いる。卜辞によると、古人は日に二食で、大食・小食という。また大采・小采ともいい、日を送迎する礼であるが、それがまた食事のときでもあった。また日月の蝕をもいう。

息(ショク・10画)

息 金文
息伯卣蓋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯ək(入)。「ソク」は呉音。

学研漢和大字典

会意。「自(はな)+心」で、心臓の動きにつれて、鼻からすうすうといきをすることを示す。狭い鼻孔をこすって、いきが出入りすること。すやすやと平静にいきづくことから、安息・生息などの意となる。また、生息する意から子孫をうむ→むすこの意ともなる。塞(ソク)(狭い所をこすって出入りする)と同系。「熄」の代用字としても使う。「終息」▽付表では、「息子」を「むすこ」「息吹」を「いぶき」と読む。

語義

  1. {名詞}いき。呼吸。「大息(ためいき)」。
  2. (ソクス){動詞}いきをする。「屏気似不息者=屏気(へいき)して息せざる者に似たり」〔論語・郷党〕
  3. (ソクス){動詞}いきづいて生存する。生きて子孫をうむ。ふえる。「生息」。
  4. (ソクス){動詞}やすむ。いこう(いこふ)。静かにいきづく意から転じて、休息する意。「安息」「労者弗息=労する者は息まず」〔孟子・梁下〕
  5. {動詞}やむ。やめる(やむ)。休止する。とだえる。《同義語》⇒熄(ソク)。《類義語》絶。「楊墨之道不息=楊墨の道息まず」〔孟子・滕下〕。「息交以絶游=交はりを息めて以て游を絶たん」〔陶潜・帰去来辞〕
  6. {名詞}むすこ。「子息」「令息」。
  7. {名詞}貸した元金からうみ出される金銭。利子。▽元金を親に、利子を子にたとえていうことば。「利息」「息銭」。

字通

[会意]自(じ)+心。自は鼻の象形字。鼻息で呼吸することは、生命のあかしである。〔説文〕十下に「喘(あへ)ぐなり」とするのは、気息の意。〔荘子、大宗師〕に「眞人の息(いき)するや踵(かかと)を以てし、衆人の息するや喉(のど)を以てす」とあり気息の法は養生の道とされた。生息・滋息(ふえる)の意に用いる。また〔戦国策、趙四〕に「老臣の賤息」という語があって、子息をいう。

殖(ショク・12画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȡi̯ək(入)。同音は植、埴”粘土・泥・土”。

学研漢和大字典

会意兼形声。直は、目をまっすぐに向けるさま。植(木をまっすぐたててうえる)と同系。殖は「歹(ほね)+(音符)直」で、植物をうえてふやすように、子孫をふやすこと。異字同訓に増える・増やす「人数が増える。水かさが増える。人数を増やす」。

語義

  1. {動詞}ふえる(ふゆ)。ふやす。植物のように、子孫がふえる。子どもや財産をふやす。《類義語》植。「蕃殖(ハンショク)(=繁殖)」「賜不受命而貨殖焉=賜は命を受けずして貨殖す」〔論語・先進〕

字通

[形声]声符は直(ちよく)。直に植・埴(しよく)の声がある。〔説文〕四下に「脂膏(しかう)久しうして殖(くさ)るなり」と腐殖の意とする。歹(がつ)は歺、残骨の象。動物性のものは、腐殖すると肥料としての効能が高く、そこからものの滋生増殖することをいう。

飾(ショク・13画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɕi̯ək(入)。同音は識、式、拭、軾。識に”しるし・めじるし”の意があり、西周早期の金文に存在するが、”かざる”と同義かと言えば微妙。

学研漢和大字典

形声。「巾(ぬのかざり)+運(人)+(音符)食」。人が布切れなどを用いて、外観に手を加えることをあらわす。人工を加えてととのえる意を含む。食のもとの意味とは関係がない。以(用いる)・治(手を加えて調整する)・式(道具、やり方)・飭(チョク)(形をととのえる)と同系。また、拭(よごれをとる)とも縁が近い。

語義

  1. {動詞}かざる。手を加えてきれいにする。「君子不以紺坎飾=君子は紺坎を以て飾らず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}かざり。きれいに見せるためにつけたもの。

字通

[会意]飤(しよく)+巾(きん)。飤は食器の前に人の在る形で、食の初文。そのときに巾を帯びる。〔説文〕七下に「㕞(ぬぐ)ふなり」とあり、㕞はまた刷に作る。刷も、同じく人が巾を帯びる形である。飾は拭い清めることが原義。〔周礼、地官、封人〕「其の牛牲を飾(ぬぐ)ふ」のようにいう。のち容飾・修飾の意となり、飾詐のように用いる。

稷(ショク・15画)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsi̯ək(入)。同音に即、蝍”飛ぶ虫の総称”、畟”田畑をすく”。しかし畟ですら初出は後漢の説文解字

ゆえに儒者の言う「社稷」=”国家”なる大げさな物言いは、定州竹簡の論語先進篇24に見られるので、漢帝国になってからの製造品である可能性がある。ただし『孟子』『荀子』にも「社稷」が見られる事から、仮説に止まる。

学研漢和大字典

会意兼形声。畟(ショク)は「田+人+夂(あし)」からなり、人が畑を足でふんで耕すことを示す。稷は「禾(穀物)+(音符)畟」。⇒「后稷(コウショク)」。

語義

  1. {名詞}穀物の一種。▽漢代にはあわ、唐代にはきびの意に用いることもある。一説に高梁(コーリャン)。
  2. {名詞}五穀の神。またそれをまつるやしろ。「社稷(シャショク)」。
  3. {名詞}昔、農事をつかさどった役。「后稷(コウショク)」。
  4. {名詞}周王室の祖先、棄のこと。▽后稷の官であったことから。

※熱帯アフリカ原産のコウリャンが中国に入るのは、DNAの分布からは950年ごろ(唐と宋の間の五代)と考えられている、とwikipediaに言う

字通

[形声]声符は畟(しよく)。畟は田神の象。〔説文〕七上に「𪗉(たかきび)なり。五穀の長なり」とみえ、今の高粱(こうりやん)をいう。次条に「𪗉は稷なり」と互訓している。畟字条五下に「稼を治むること、畟畟として進むなり」とするが、〔左伝、昭二十九年〕に「稷は田正なり」、〔周礼、地官、大司徒〕「社稷」の注に「后土及び田正の神なり」とあって、それが初義。周の始祖后稷(こうしよく)は農業神であり、地の神である社と合わせて社稷といい、国家の意に用いる。

※上記の通りコウリャンが中国に入るのは五代である。

識(ショク・19画)

識 金文
𣄰尊・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音は、”しる”ではɕi̯ək(入声)、”しるす”ではȶi̯əɡ(去声)。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字の原字は「弋(棒ぐい)+Y型のくい」で、目じるしのくいをあらわす。のち、口または音をそえた字となった。識はそれを音符とし、言を加えた字で、目じるしや名によって、いちいち区別して、その名をしること。樴(シキ)(目じるしのくい)・幟(シ)(目じるしの旗)などと同系。類義語に知・誌。

語義

シキɕi̯ək(入声)
  1. {動詞}しる。特色によってそれと見わける。また、他と区別して物や人の名称をしる。《類義語》知。「知識」「識別」「多識於鳥獣艸木之名=多く鳥獣艸木の名を識る」〔論語・陽貨〕
    ま{名詞}物事の是非・善悪の見わけ方。判別のしかた。また、それをつかさどる心の能力。「見識」「良識」。
  2. {名詞}しりあい。「旧識」「相識(しりあいの仲)」。
  3. {名詞}《仏教》精神が対象を認識する作用。十二因縁の一つ。前世の生の煩悩を因として、現在の生に託する人生の意識。
シȶi̯əɡ(去声)
  1. {動詞}しるす。書きとめる。▽誌(=志)に当てた用法。
  2. {名詞}しるし。目じるしや旗じるしのこと。▽幟(シ)に当てた用法。
  3. {名詞}銅器や石碑に、平面より高く刻みしるした文字。陽文。「款識(カンシ)」。

字通

[形声]声符は戠(しよく)。戠は戈(ほこ)に呪飾を加えた形で、標識とする意がある。〔説文〕三上に「常なり」、また「一に曰く、知るなり」という。常は太常、織文のある旗の意で、いわゆる旗幟(きし)。戠は〔説文〕に説解を欠く字であるが、戈に赤い呪飾を加えるので幟・織なども戠に従う字である。標識の意から、知る、知識などの意となる。

辱(ジョク・10画)

論語 辱 金文
出典不明・大陸系サイト掲載の金文

この文字は上掲の金文のほか甲骨文も大陸系サイトが掲載するが、いずれも出典が不明で論語の時代に存在したと断定できない。確実な初出は戦国文字。部品「辰」に”はじ”の語義は『大漢和辞典』で確認できない。

カールグレン上古音はȵi̯uk(入)。同音は辱を部品とする漢字群。近音に「匿」音ジョクがあり、カ音はni̯ək(入)。殷代末期の金文からあり、”逃げ隠れる”・”隠す”・”縮む”の語釈を『大漢和辞典』が載せる。また「慝」tʰnək(入)と通ず、と大漢和辞典が言い、「慝」には”悪い・汚れる・いつわる”の語釈がある。

また「濁」”濁る・汚す”の日本語音に「ジョク」があり、カ音はtŭk(入)で、戦国早期の金文から確認できる

原義は「くさぎる」と読んで、雑草を刈り取る・すき込むこと。現在ではその意味には「耨」を用いる。”はずかしめる”の語義は仮借。

学研漢和大字典

会意。「辰(やわらかい貝の肉)+寸(手。動詞の記号)」で、強さをくじいて、ぐったりと柔らかくさせること。褥(ジョク)(柔らかい下じき)・耨(ジョク)(土を柔らかくする)と同系。類義語に恥。「かたじけない」は「忝い」とも書く。

意味

  1. (ジョクス){動詞・名詞}はじる(はづ)。はずかしめる(はづかしむ)。はじ(はぢ)。はずかしめ(はづかしめ)。くじけてがっくりする。自信や体面をくじく。また、くじけた気持ち。だいなしにされたつらさ。《類義語》恥(チ)。「恥辱」「辱在泥塗=辱して泥塗に在り」〔春秋左氏伝・襄三〇〕
  2. {形容詞・動詞}かたじけない(かたじけなし)。かたじけなくする(かたじけなくす)。相手が体面をけがしてまで、おやりくださったという意をそえる語。ありがたい。申しわけない。「辱臨」「辱知」。

字通

[会意]辰(しん)+寸。辰は貝。その貝殻をうち砕いて刃器とし、それを手(寸)にもつ形。農具として用いる。「耕耨(こうどう)」の耨は、耒(すき)と辱とに従い、耕作することをいう。〔説文〕十四下に「恥づるなり。寸の、辰の下に在るに從ふ。耕時を失ふときは、封畺(疆)上に於て之れを戮(ころ)すなり。辰なる者は、農の時なり。故に房星を辰と爲す。田つくる候(とき)なり」と説くが、まったく根拠のない説である。汚辱の意はおそらく仮借。〔左伝〕に「辱(かたじけな)く寡君を收めよ」「辱く敝邑に至る」のように、一種の自謙・尊敬の語として用いる。尊者に対して、敢てすることを詫びる意味の用法で、のち恥辱の意に転じたものであろう。交友を辱知・辱友といい、許されることを謝して辱収という。

匿(ジョク・10画)

論語 匿 金文
大盂鼎・西周早期

初出は殷台末期の金文。カールグレン上古音はni̯ək(入)。「トク」は慣用音。

学研漢和大字典

会意。若は、柔らかい桑の葉。匿は「匸(かくす)+若(くわ)」で、蚕に与える桑の葉を、容器の中にびっしりとしまいこむことを示す。わくや、かこいの中に入れてかくすこと。類義語に蔵。

語義

  1. {動詞}かくれる(かくる)。かくす。入れ物や壁を利用してその中に姿をかくす。「匿姦者与降敵同罰=姦を匿す者は敵に降ると罰を同じうす」〔史記・商君〕

字通

[会意]匸(けい)+若(じやく)。若は巫女が舞い祈る形。匸は秘匿の所。巫女が秘匿の所にあって、ひそかに祈禱することをいう。〔説文〕十二下に「亡(に)ぐるなり」とし、字を若声とするが、匸部には匽・医など、秘匿のところで呪儀を行うことを示す字が多い。〔爾雅、釈詁〕に「微なり」とあるのは陰微、また〔玉篇〕に「陰姦なり」とみえる。匿れて呪詛などを行う陰姦のことをいう。金文には周初の〔大盂鼎(だいうてい)〕に「厥(そ)の匿を闢(ひら)き、四方を匍(ふ)(敷)有す」とあり、服從しないものは匿を懐くものとされた。〔周礼、地官、土訓〕「地慝(ちとく)」の〔鄭司農注〕に「地生ずる所の惡物、人を害する者、虺蝮(きふく)の屬の若(ごと)し」とあり、地妖の類をいう。もと呪的なものをさしていう語である。

述(ジュツ・8画)

論語 述 金文
史述作父乙簋・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音は韻母のi̯wət(入)のみ判明。藤堂上古音はdiuet。

学研漢和大字典

会意兼形声。朮(ジュツ)は、穂の茎にもちあわのくっついたさまを描いた象形文字で、中心軸にくっついて離れないの意を含む。述は「辶+(音符)朮」で、従来のルートにそっていくこと。術(だれもがそっていく道、伝統的なやり方)と同系。また、順・循(ジュン)(したがう)とも同系。順や循は、述の語尾がnとなったことば。類義語の陳(チン)は、ならべること。

語義

  1. {動詞}のべる(のぶ)。旧来の道に沿っていく。今までのやり方どおりにしたがう。《対語》⇒作(新たに自分でつくりだす)。「祖述」「父作之、子述之=父これを作せば、子これを述ぶ」〔中庸〕
  2. {動詞}のべる(のぶ)。すでにある考えや、今までのいきさつを、いったり書いたりして知らせる。転じて、考えや事がらをいいあらわす。「陳述」「述而不作=述べて作らず」〔論語・述而〕

字通

[会意]旧字は■(辶+朮)に作り、朮(じゆつ)+辵(ちやく)。辵は道路をゆく意。朮は呪霊をもつ獣の形。これを用いて道路の安全を祈り、進退を定めた。金文の字形は遂と同形。辵は遂行、行為を継続することをいう。述もその意で、〔説文〕二下に「循(したが)ふなり」という。循・述・遹は古く通用することのある字で、〔論語、述而〕「述べて作らず」を、〔墨子、非儒〕に「循(の)べて作らず」とする。術も行、すなわち道路でその呪儀を行い神意を問うもので、その法を術という。術にまた道路の意がある。

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