論語語釈「フ」

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語釈 urlリンクミス

不(フ・4画)

論語 不 金文
大克鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯ŭɡ(平/上)。去声と入声は音不明。

花の構造

(c)白岩卓巳

学研漢和大字典

論語 虫払い 不
象形。不は芣(フウ)や菩(フウ)・(ホ)(つぼみ)などの原字で、ふっくらとふくれた花のがくを描いたもの。丕(ヒ)(ふくれて大きい)・胚(ハイ)(ふくれた胚芽)・杯(ふくれた形のさかずき)の字の音符となる。不の音を借りて口へんをつけ、否定詞の否(ヒ)がつくられたが、不もまたその音を利用して、拒否する否定詞に転用された。意向や判定を打ち消すのに用いる。また弗(フツ)(払いのけ拒否する)とも通じる。草書体をひらがな「ふ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「ふ」、また、初画からカタカナの「フ」ができた。

意味

  1. {副詞}…ず。下のことばを打ち消す否定詞。▽弗(フツ)に当てた用法。「不知=知らず」。
  2. {感動詞}しからず。否認の意を告げるときのことば。▽否(ヒ)に当てた用法。
  3. {助辞}いなや。文末に付いて、「そうなのか、違うのか」と聞くときのことば。「視吾舌尚在不=吾が舌を視よ尚ほ在りやいなや」〔史記・張儀〕
  4. {接続詞}しからずんば。すでにおきた事実と異なることを仮定するときのことば。もしそうしないのなら。「不者若属皆且為所虜=しからずんば若が属皆まさに虜とする所と為らんとす」〔史記・頂羽〕
  5. {形容詞}ふっくらとして大きいさま。▽丕(ヒ)に当てた用法。「不顕其光=其の光を不顕にす」〔詩経・大雅・韓奕〕

語法

①「ず」「ざる」とよみ、「~でない」と訳す。否定の意を示す。「席不正不坐=席正しからざれば坐せず」〈座席がきちんとしていなければ座らない〉〔論語・郷党〕

②「不~而…」は、

  1. 「~して…せず」とよみ、「~して…するのではない」と訳す。「~而…」をどちらとも否定。「不得中行而与之、必也狂狷乎=中行を得てこれに与(とも)にせずんば、必ずや狂狷(きょうけん)か」〈中庸の人をみつけて交われないとすれば、それは型破りな者か偏屈な者だ〉〔論語・子路〕
  2. 「~せずして…す」とよみ、「~しないで…する」と訳す。「~」だけを否定。「不好犯上而好作乱者、未之有也=上を犯すことを好まずして乱を作(な)すことを好む者は、未だこれ有らざるなり」〈目上にさからうことを好まないのに、乱れを起こすことを好むような者は、今までいたことがない〉〔論語・学而〕▽(1)と(2)の判断は文脈によるが、チの用例はそれほど多くなく、「~而不…」となる。

③「無(莫)不~」は、「~せざるなし」とよみ、「~しないことはない」「必ず~する」と訳す。二重否定。不確かな断定、あるいは強い肯定の意を示す。「吾矛之利、於物無不陥也=吾が矛の利(と)きこと、物におひて陥(おと)せざる無(な)きなり」〈私の矛の鋭いことは、どんな物でも突き通せない物はない〉〔韓非子・難一〕▽「非不~」は、「~せざるにあらず」とよみ、意味・用法ともに同じ。

④「不(未)~不…」は、「~せずんば…あらず」とよみ、「~しないことはない」「必ず~する」と訳す。二重否定。強い肯定の意を示す。「喪事不敢不勉=喪の事は敢(あ)へて勉(つと)めずんばあらず」〈葬儀のことは必ず進んでする〉〔論語・子罕〕

⑤「不可~」は、「~べからず」とよみ、「~できない」と訳す。否定の意を示す。「時惶急剣堅、故不可立抜=時に惶急(こうきふ)して剣堅し、故に立ちどころに抜く可からず」〈とっさのことであわてており鞘が堅くてサッと抜けない〉〔史記・刺客〕

⑥「不能~」は、「~(すること)あたわず(あた/はず)」とよみ、「~する能力がない」「~できない」と訳す。否定の意を示す。「不能死、出我袴下=死すること能はずんば、我が袴下(こか)より出でよ」〈(俺を)殺せないなら、俺の股ぐらをくぐれ〉〔史記・淮陰侯〕

⑦「不得~」は、「~(するを)えず」とよみ、「~する機会が得られない」「~できない」と訳す。否定の意を示す。「項伯亦抜剣起舞、常以身翼蔽沛公、荘不得撃=項伯もまた剣を抜き起(た)つて舞ひ、常に身をもって沛公を翼蔽(よくへい)す、荘撃つを得ず」〈項伯も剣を抜いて舞い出し、絶えず身をもって沛公をかばうので、(項)荘は撃ちかかることができない〉〔史記・項羽〕

⑧「不足~」は、「~するにたらず」とよみ、「~するに充分でない」「~する価値がない」と訳す。否定の意を示す。「吃、豎子不足与謀、奪項王天下者、必沛公也=吃、豎子(じゅし)与(とも)に謀(はか)るに足らず、項王の天下を奪ふ者は、必ず沛公なり」〈うう、小僧め、とても一緒に事をすることはできない、項王の天下を奪う者は必ず沛公だ〉〔史記・項羽〕▽「不足以~」は、「もって~するにたらず」とよみ、意味・用法ともに同じ。

⑨「不+副詞~」は、部分否定となる。「不必~=必ずしも~せず」「不甚=はなはだしくは~せず」「不常=つねには~せず」「不倶=ともには~せず」は、「~とは限らない」と訳す。▽部分否定の場合、訓読は「しも」「は」がはいる。「有徳者、必有言、有言者、不必有徳=徳有る者は、必ず言有り、言有る者は、必ずしも徳有らず」〈徳のある人にはきっとよい言葉があるが、よい言葉のある人に徳があるとは限らない〉〔論語・憲問〕

⑩「副詞+不~」は、全部否定となる。「必不=かならず~せず」「甚不=はなはだしく~せず」「常不=つねに~せず」「倶不=ともに~せず」は、「~しない」と訳す。「必不得已而去、於斯三者何先=必ず已(や)むことを得ずして去らば、この三者におひて何をか先にせん」〈どうしてもやむを得ずに捨てるなら、この三つの中でどれを先にしますか〉〔論語・顔淵〕

⑪「不忍~」は、「~(する)にしのびず」とよみ、「~する気になれない」と訳す。「吾騎此馬五歳、所当無敵、嘗一日行千里、不忍殺之=吾この馬に騎すること五歳、当たる所敵無(な)し、嘗(かつ)て一日に千里を行けり、これを殺すに忍びず」〈わし(項羽)はこの馬に五年乗って来たが、当たるところ敵なく、かつては一日に千里を走った駿馬で、とても殺すに忍びない〉〔史記・項羽〕

⑫「不堪~」「不勝~」「不任~」は、「~(するに)たえず(たへ/ず)」とよみ、「~することにたえられないので、できない」と訳す。「陰蟲切切不堪聞=陰蟲(いんちゅう)切切として聞くに堪(た)へず」〈細くかすかに鳴く虫の声は、(せつなくて)聞くことができない〉〔皇甫冉・送魏十六還蘇州〕

⑬「いなや」とよみ、「~かどうか」と訳す。文末におかれ、肯定か否定かを選択する疑問の意を示す。「視吾舌、尚在不=吾が舌を視よ、尚ほ在りや不(いな)やと」〈おれの舌をみろ、まだついているか、ついていないか〉〔史記・張儀〕

字通

否定・打ち消しの「ず」に借用する。字はもと象形、花の萼柎がくふ*の形であるが、その義に用いることはほとんどない。〔説文〕十二上に「鳥飛んで上翔し、下りて來たらざるなり。一に從ふ。一は猶天のごときなり」とするが、卜文の字形には一を含むことがなく、鳥のぶ形でもない。〔詩、小雅、常棣〕「常棣からなしの華萼不がくふ韡韡ゐゐたり」とある萼不は萼柎、花のつけ根のところで、これが字の本義に用いる例である。金文に「不顯」とあるものは「丕顯ひけん」、「おおいにあきらかなる」の意。萼柎に実がつきはじめて丕となり、否・ほうとなり、さけて剖判ほうはん*となる。不・丕・否は通用することがあり、金文に「論語 外字 不不 ヒヒヒ」「論語 外字 否否 ヒヒヒ」のように用いる。
訓義:はなぶさ、へた。丕と通じ、大きい。仮借して否定語に用いる、ず、あらず、せず、なし、しからず、なかれ。否と通じ、いな、いなや。


*萼柎:花のがく。漢文では兄弟に喩えられる。/剖判:わかれて開いた花。

大漢和辞典

不 大漢和辞典

夫(フ/フウ・4画)

論語 夫 金文
大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰi̯woまたはpi̯wo(共に平)。論語では「夫子」として多出。”あの人”の意で、貴人を遠回りに言う敬称。多くは孔子を意味する。

学研漢和大字典

象形。大の字にたった人の頭に、まげ、または冠のしるしをつけた姿を描いたもので、成年に達したおとこをあらわす。父(自分より世代が一段上である男子)・伯(長老の男)と同系。

意味〔一〕フ/フ

  1. {名詞}おとこ(をとこ)。成年に達したおとこ。「人夫」「丈夫(背たけの大きいおとこ→成年男子)」「匹夫」「頑夫廉=頑夫も廉なり」〔孟子・万下〕
  2. {名詞}おっと(をっと)。配偶者であるおとこ。《対語》⇒婦。「吾夫又死焉=吾が夫またここに死す」〔礼記・檀弓下〕

意味〔二〕フ/ブ

  1. {助辞}それ。→語法「①」。
  2. {指示詞}かの。→語法「②」。
  3. {助辞}か。かな。→語法「③」

語法

①「それ」とよみ、「そもそも」「さて」と訳す。文のはじめや話題の転換の意を示す。文頭におかれる。「夫秦王有虎狼之心=それ秦王虎狼の心有り」〈だいたい秦王は虎や狼のような残忍な心を持っている〉〔史記・項羽〕▽「且夫=かつそれ」は、「夫」を強調する場合に用いる。

②「かの」とよみ、「あの」「例の」と訳す。共通に知る人・物・事を指示する。「楽夫天命=かの天命を楽しむ」〈皆も知る天から与えられた運命を楽しむ〉〔陶潜・帰去来辞〕

③「か」「かな」とよみ、「~だなあ」と訳す。推定・感嘆の意を示す。文末・句末におかれる。《同義語》哉・与。「亡之、命矣夫=これを亡(ほろぼ)せり、命なるかな」〈おしまいだ、運命だねえ〉〔論語・雍也〕

「夫子」意味

①男子の通称。

②大夫(タイフ)の位にある者、官位にある者の敬称。

③太子・先生・年長者を呼ぶ尊称。

④孔子のでしたちが、孔子を呼ぶ尊称。「曾子曰、夫子之道忠恕而已矣=曾子曰はく、夫子之道は忠恕而已矣と」〔論語・里仁〕

⑤広く、男が男の相手を呼ぶことば。「夫子固拙於用大矣=夫子固より大を用ゐるに拙なり」〔荘子・逍遥遊〕

⑥妻が夫を呼ぶことば。「無違夫子=夫子に違ふこと無かれ」〔孟子・滕下〕

⑦子が父を呼ぶことば。「夫子教我以正、夫子未出於正也=夫子我に教ふるに正を以てするも、夫子いまだ正に出でざるなり」〔孟子・離上〕

字通

[象形]大は人の正面形。その頭に髪飾りの簪(かんざし)を加えて、男子の正装の姿を示す。妻は女子が髪飾りを加えた形。夫妻は結婚のときの男女の正装を示す字形である。〔説文〕十下に「丈夫なり。大に從ふ。一は以て簪(しん)に象るなり」という。金文に人を数えるとき、〔舀鼎(こつてい)〕「厥(そ)の臣二十夫」「衆一夫」のようにいう。夫は労務に服するもの、その管理者を大夫という。夫人とは「夫(か)の人」、先生を「夫子(ふうし)(夫(か)の人)」というのと同じく、婉曲にいう語法である。「それ」は発語、「かな」は詠嘆の助詞。

父(フ・4画)

論語 父 金文 論語 父 解字
仲𠭯父簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯woまたはbʰi̯wo(共に上)。

学研漢和大字典

会意。父は「おの+又(手)」で、手に石おのを持って打つ姿を示す。斧(フ)(おの)の原字。もと拍(うつ)と同系。成人した男性を示すのに、夫(おとこ)という字を用いたが、のち、父の字をおとこの意に当て、細分して父は「ちち」を、夫は「おとこ、おっと」をあらわすようになった。また、甫を当てることもある。覇(ハ)(おとこの長老)・伯(長老)もこれと同系。付表では、「お父さん」を「おとうさん」「叔父・伯父」を「おじ」と読む。

意味〔一〕フ/ブ

  1. {名詞}ちち。男親。▽昔は、ちちと同輩の一族中の男子も諸父と称した。のち、本生父(実の父)・伯父(父の兄)・叔父(父の弟)などに呼びわけるようになった。《対語》⇒母。

意味〔二〕フ(ホ)

  1. {名詞}年老いた男。おやじ。「漁父」「田父(百姓のおやじ)」。
  2. {名詞}長老の男性。また、年長の男子に対する敬称。《同義語》⇒甫(フ)・(ホ)。「亜父(アホ)(同族の中の長老)」「尚父(シヨウホ)(斉の太公望、呂尚)」「尼父(ジホ)(孔子のこと)」。
  3. 《日本語での特別な意味》ちちのような人。「神父」。

字通

[会意]斧頭の形+又(ゆう)。又は手。斧鉞(ふえつ)をもつ。指揮権をもつ人。その儀器。〔説文〕三下に「矩(く)なり」と畳韻を以て訓し、「家長の率ゐて教ふる者なり。又(手)を以て杖を擧ぐるに從ふ」と杖をもつ形とするが、卜文・金文の字形は斧(おの)の頭部をもつ形である。王・士はそれぞれ鉞(まさかり)の刃部の形で、その身分を示す儀器によって、その人を示す。尊称として用いることもあり、金文に毛公■(厂+音)(あん)を毛父(もうほ)・父■(厂+音)(ほあん)のようによぶことがある。また尊称的に伯懋父(はくぼうほ)・伯龢父(はくわほ)のように下につけて用いる。のちその字に甫を用いる。

付(フ・5画)

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はpi̯u(去)。

学研漢和大字典

会意。「人+寸(手のかたち)」で、手をぴたりと他人のからだにくっつけることを示す。▽附は、もと、土をくっつけてかためた土盛りや小さな丘を意味するが、のち、付と通用するようになった。府(物をびっしりくっつけて貯蔵する倉)・腐(肉が原形を失ってぴったりくっつく→くさる)と同系。また、服(船べりにぴたりとつける板。からだにぴたりとつける着物)とも縁が近い。類義語に就。異字同訓に着く・着ける「席に着く。手紙が着く。東京に着く。舟を岸に着ける。仕事に手を着ける。衣服を身に着ける」 就く・就ける「床に就く。緒に就く。職に就く。役に就ける」。

語義

  1. (フス){動詞}つく。つける(つく)。くっつく。くっつける。《同義語》⇒附。「付着」「付和」。
  2. (フス){動詞}手渡す。▽相手の手中にぴたりとつける意から。《同義語》⇒附。「付与」「交付」。
  3. (フス){動詞}相手にくっつけて任せる。たのむ。また、預ける。《同義語》⇒附。「付託」「嘱付(頼んで任せる)」。
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①つき。ようす。「顔付き」。
    ②つき。上のことばがあらわすものが付属していることをあらわすことば。「保証付き」。
    ③つき。上のことばがあらわすものに所属していることをあらわすことば。「社長付き」。
    ④つけ。つ勘定書。づ帳面などに記入しておいて、あとでまとめて代金をはらうこと。

字通

[会意]人+寸。寸はものを手にもつ形。〔説文〕八上に「與ふるなり。寸に從ふ。物を持して人に對(こた)ふ」とあり、付与の義とする。付託・付与の意がある。

甫(フ・7画)

甫 金文
為甫人盨・春秋早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯wo(上)。「ホ」は慣用音。

学研漢和大字典

会意。「屮(芽ばえ)+田」で、苗を育てる畑、つまり苗代(ナワシロ)のこと。平らに広がる意を含む。また、父(ホ)(年長の男)や伯(男の長老)に当てて、男性の相手を尊敬して呼ぶ場合につける。普(平らに広がる)・博(平らに広がる)と同系。

語義

  1. {名詞}苗を育てる平らな畑。《同義語》⇒圃(ホ)。
  2. {名詞}男性の長老。転じて、年長の男を呼ぶとき、その名につけることば。《同義語》⇒父(ホ)。「尼甫(ジホ)(孔子のこと)」「尊甫(ソンポ)(=尊父。あなたのお父さん)」。
  3. {名詞}人の字(アザナ)を尋ねるとき、「台甫(タイフ)(お名前は)」という。
  4. {名詞・副詞}はじめ。はじめて。おこりはじめ。やっと。《類義語》方(ハジメテ)。「甫有端倪=甫めて端倪有り」。
  5. {形容詞}広く平らなさま。大きいさま。▽博に当てた用法。「甫甫(フフ)」。

字通

[象形]苗木の根を立ててかこう形。上部を父の形にしるすことがあるのは、父(ほ)の声に近づけたもので、本来の字形は尃(ふ)・專(専)が苗木の根を包みこむ形であったのと同じである。〔説文〕三下に「男子の美稱なり。用と父とに從ふ」とするが、金文では「伯懋父(はくぼうほ)」「師雍父(しようほ)」のようにすべて父を用い、〔詩〕にみえる吉甫・中山甫のような用いかたは仮借。甫は苗木の形で、植樹のはじめ、その植えるところを圃といい、苗木を地に著けることを尃・傅(ふ)といい、輔・補にはみな輔助の意がある。

扶(フ・7画)

論語 扶 金文
父辛卣・殷代末期

初出は殷代末期の金文。カールグレン上古音はbʰi̯wo(平)。

学研漢和大字典

形声。「手+(音符)夫」で、手の指四本をわきの下にぴたりと当てがってささえること。夫は発音を示し、意味に関係がない。拍(手のひらを当てる)・布(ぴたりと当てがう)・補(当てがう)などと同系。類義語に助。

語義

  1. {動詞}たすける(たすく)。わきの下にぴったりと手を当ててささえる。そえ木を当ててささえる。力をかす。助力する。「扶起=扶け起こす」「莖而不扶=莖(たふ)るれども扶けず」〔論語・季氏〕
  2. {形容詞}広がって大きいさま。《類義語》博・普。「扶疏(フソ)」「扶桑」。

字通

[形声]声符は夫(ふ)。〔説文〕十二上に「左(たす)くるなり」とあり、扶持し保護する意。傅・附と声義が近い。

府(フ・8画)

初出は戦国中期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpi̯u(上)。同音に跗”足の甲”、柎”器の足・いかだ”、俯、付。部品の「付」(初出は西周中期の金文)に”くら”の語義は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。付(フ)は、人の背に手をぴたりとひっつけるさま。府は「广(いえ)+(音符)付」で物をびっしりとひっつけて入れるくら。富(フ)(物をびっしり詰めこむ→とむ)・腑(フ)(食べ物のはいるくらに似た内臓)・腐(フ)(肉がくさって、ぴったりひっつく)などと同系。類義語に倉。

語義

  1. {名詞}くら。宝物や文書をしまう建物。《類義語》庫。「府庫」「内府(宮中の金蔵)」。
  2. {名詞}役所。「政府」「大宰府(ダザイフ)」。
  3. {名詞}みやこ。政府のある町。また、地方政府のある町。
  4. {名詞}唐から清(シン)代にかけての行政区画の一つ。州の上位に位置し、州・県を統轄する。「知府(府の長官)」「府治(府の行政庁のある町)」。
  5. {名詞}邸宅。やしき。「府君(他人の家長を尊んでいうことば)」「王府(親王の屋敷)」。
  6. {名詞}集まる所。「怨府(エンプ)(多くの人の怨(ウラ)みの集まる所)」。
  7. {名詞}胃や腸などの消化器官のこと。▽「臓腑(ゾウフ)」の腑に当てた用法。「六府(=六腑)」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①ふ。地方公共団体の一つ。「大阪府」。
    ②幕府時代の江戸のこと。「出府」。

字通

[形声]声符は付(ふ)。〔説文〕九下に「文書の藏なり」とあり、重要な文書は府庫に収蔵した。〔左伝、定四年〕「載書(盟約の書)は藏して周府に在り」、〔左伝、襄十一年〕「藏して盟府に在り」のようにいう。列国期の字に貝を加えて■(府+貝)に作るものがあり、多く財物を蔵したのであろう。のち政府・官府の意となり、その所在の地をいう。

附(フ・8画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰi̯u(去)。同音は「付」を部品とする漢字群。論語時代の置換候補は「付」pi̯u(去)

学研漢和大字典

会意兼形声。付は「人+寸(手)」の会意文字で、手をぴたりと他人のからだにくっつけることを示す。附は「阜(土もり)+(音符)付」で、もと、土をくっつけた土盛りのこと。のち付と通用する。▽付は、つけるの意に、附は、つくの意に用いるのが例であったが、混用される。類義語に近。「付」とも書く。

語義

フ(去)
  1. (フス){動詞}つく。つける(つく)。くっつく。ぴたりとよりそう。くっつける。《同義語》⇒付。「依附(よりそう)」「親附(ぴたりとくっついて離れない)」「附於諸侯、曰附庸=諸侯に附くを、附庸と曰ふ」〔孟子・万下〕
  2. (フス){動詞}くっつけてそろえる。手渡す。とどける。《同義語》⇒付。「交附(=交付)」「寄附(=寄付)」「附益(そえてふやす)」「一男附書至=一男は書を附して至る」〔杜甫・石壕吏〕
  3. (フス){動詞}相手にくっつけて任せる。たのむ。また、預ける。《同義語》⇒付。「附託」「附嘱」。
ホウ(上)
  1. {名詞}土をくっつけて固めた土盛りや、小さい丘。「附婁(フロウ)(=培減。小丘)」。
  2. 《日本語での特別な意味》⇒付

字通

[形声]声符は付(ふ)。付に付与・付加の意がある。𨸏は神の陟降する神梯の象。そこに合祀すること、すなわち附祭することが字の原義であろう。〔説文〕十四下に「附婁(ふろう)、小さき土山なり」とするが、それは部婁・培塿・坿塿ともいわれる語である。〔礼記、雑記〕「大夫は士に附す」とあるのは附祭の意。のち附託・附著・附属のように用いる。附会とは似たものを無理に会わせることで、傅会の字が語義に合う。。

浮(フ・10画)

論語 浮 金文
浮公之孫公父宅匜・春秋

初出は春秋時代の金文。カールグレン上古音は声母のbʰ(平)のみ。藤堂上古音はbɪog。

学研漢和大字典

会意兼形声。孚は「爪(手をふせた形)+子」の会意文字で、親どりがたまごをつつむように手でおおうこと。浮は「水+(音符)孚」で、上から水をかかえるようにふせて、うくこと。抱(両手でだく)・覆(おおう)と同系。類義語に泛。付表では、「浮つく」を「うわつく」「浮気」を「うわき」と読む。

語義

  1. {動詞}うかぶ。うかべる(うかぶ)。うく。水面や、空中にふわふわただよう。また、舟で水上を行く。《対語》⇒沈・没。「浮雲」「乗桴浮于海=桴に乗りて海に浮かばん」〔論語・公冶長〕
  2. {名詞}うき。うきぶくろ。《同義語》⇒匏。「百人抗浮=百人もて浮を抗ぐ」〔淮南子・説山〕
  3. {形容詞}よりどころがない。はかない。とりとめのない。表面だけで実質がない。うわついている。「浮薄」「浮言」「浮浪」「浮生」。
  4. {動詞}すぎる(すぐ)。必要な限度をこえる。「浮冗」「人浮於事=人事に浮ぐ」「恥名之浮於行也=名の行に浮ぐるを恥づ」〔礼記・表記〕
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①うく。うかぶ。余りが出る。また、ふと考えつく。「千円浮いた」「思い浮かぶ」。
    ②うかれる(うかる)。陽気になる。

字通

[形声]声符は孚(ふ)。〔説文〕十一上に「氾(うか)ぶなり」、また氾字条に「濫(はびこ)るなり」とあって氾濫(はんらん)の義とするが、浮は浮漂・浮流のように、水上に漂い流れることをいう。氾・泛・浮はみな浮かぶ意であるが、すべて流屍の象、氾は俯(うつ)むけ、泛は仰むけ、浮は上から手を加えている形。なお漂・流もまた流屍の象。古い時代には、大氾濫のときに夥(おびただ)しい被害を生んだのであろう。よるべなく、根拠のないものをすべて浮といい、浮雲・浮言のように用いる。

釜(フ・10画)

初出は戦国時代の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰi̯wo(上)。

学研漢和大字典

形声。「金+(音符)父」。類義語の鍋(カ)は、まるくくぼんだなべ。鬴(フ)は、平らにひらいた大型のなべ。

語義

  1. {名詞}かま。飲食物を煮たきする金属製の大なべ。《同義語》⇒蟯。《類義語》粲(フク)。「釜甑(フソウ)」。
  2. {単位詞}春秋・戦国時代の量をあらわす単位。一釜は六斗四升(約十二リットル)。「与之釜=これに釜をあたふ」〔論語・雍也〕

字通

[形声]声符は父(ふ)。〔説文〕三下に鬴を正字とし、「鍑(かま)の屬なり」といい、重文として釜を録する。金文に〔子禾子釜(しかしふ)〕〔陳純釜(ちんじゆんふ)〕のように釜と称する器があり、その字は缶(ふ)に従って父声。鬴は後起の字である。〔左伝、昭三十年〕に量器として「豆・區・釜・鍾」の名がみえ、〔子禾子釜(しかしふ)〕など斉国の器もみな量器であった。平底にして無足、大腹の器制である。〔詩、召南、采蘋〕に「于(ここ)に以て之れを湘(に)る 維(こ)れ錡(き)と釜とに」とあって、西方では炊器であった。水草を煮て祖祭に供することを歌う詩である。

桴(フウ/フ・11画)

初出は戦国時代末期の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpʰi̯uɡまたはbʰ(共に平)。同音に孚(卵をかえす)とそれを部品とする漢字群、卜を部品とする漢字群。漢字で”いかだ”を意味する言葉に柎「フ」があり、カールグレン上古音は部品の「付」と同じでpi̯u。桴pʰi̯uɡと近い。柎は後漢の『説文解字』が初出だが、付は論語時代の金文が存在する。

学研漢和大字典

会意兼形声。「フウ」(平)は「木+(音符)孚(手でかばって持つ)」で、手でもつばち。「フ」(平)は「木+(音符)浮の略体」で、木を組んで水に浮かべるいかだ。

語義

フウ(平)
  1. {名詞}ばち。たいこのばち。たいこを打つ棒。《同義語》⇒枹(フ)。
  2. {名詞}宙にういている見える横木。棟木(ムナギ)。
フ(平)
  1. {名詞}いかだ。小形のいかだ。▽大形のものを筏(ハツ)という。「乗桴浮于海=桴に乗りて海に浮かばん」〔論語・公冶長〕

字通

[形声]声符は孚(ふ)。孚に浮かぶものの意がある。〔説文〕六上に「眉棟(びとう)の名なり」(段注本)と棟木の意とするが、〔論語、公冶長〕「道行はれずんば、桴に乘じて海に浮ばん」のように、筏の意に用いる。鼓のばちの音は、枹(ふう)と通用の義である。

冨/富(フ・12画)

論語 富 金文
富奠劍・戦国

初出は上掲戦国時代の金文で、論語の時代に存在しない。国学大師は甲骨文があると言うが、出典を示しておらず信用できない。やはり大陸中国人は、こういう細かい仕事がいい加減で当てにならない。カールグレン上古音はpi̯ŭɡ(去)。同音に不、否。藤堂上古音はpɪuəg。日本語音では豊の字と音通しそうだが、豊p’ɪoŋで音通するかな、というところ。

無理にかなに直すとpɪuəg→ピョウエグ、p’ɪoŋ→プッェオング。豊のカールグレン上古音は子音のpʰのみ判明。やはり音通すると言うには無理がある。

包の字には”草木がしげるさま”の語釈を『大漢和辞典』が載せるが、カ音pのみ、藤音pǒgで音通しない。苞に”ゆたか”の語釈を『大漢和辞典』が載せるが、カ音pのみ、藤音不明。

畐 金文
「畐」士父鐘・西周晚期

部品の畐(カ音・藤音不明)に”満ちる”の語釈を『大漢和辞典』が載せており、甲骨文から存在する。

学研漢和大字典

会意兼形声。畐(フク)は、中にいっぱい酒を詰めたとっくりの形を描いた象形文字。富は「宀(いえ)+(音符)畐」で、家の中がいっぱいに満ちること。福(神の恩恵がゆたかに満ちる)・丕(ヒ)(ゆたか)などと同系。類義語に豊。

意味

  1. {動詞}とむ。とます。財産がたっぷりと多くなる。財産を家いっぱいに満たす。「富強」「富而無驕=富みて驕ること無し」〔論語・学而〕。「君不行仁政而富之=君が仁政を行はざるにしかもこれを富ます」〔孟子・離上〕
  2. {名詞・形容詞}ゆたか(ゆたかなり)。たっぷりある状態。金持ち。ゆたかに満ちたさま。《対語》⇒貧。《類義語》裕。「豊富」「富裕」「辞富居貧=富を辞して貧に居る」〔孟子・万下〕
  3. {名詞}とみ。たくさんの財産。また、豊かさ。「秦富十倍天下=秦の富は天下に十倍す」〔漢書・高帝〕

字通

[形声]声符は畐(ふく)。畐は腹の大きい酒樽の形。〔説文〕七下に「備はるなり」と備(ふく)の声を以て解する。福(福)も同声の字。金文に福を■(宀+福)に作るものがあり、富は神に多く供えることを原義とする字であろう。〔論語〕には、富を斥け、賤しむ語が多い。

賦(フ・15画)

論語 賦 金文
毛公鼎・西周晚期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はpi̯wo(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。武は「止(あし)+戈(ほこ、武器)」の会意文字で、敵を探し求めて、むりに進むの意味を含む。賦は「貝+(音符)武」で、乏しい財貨を、むりに探り求めること。▽詩をつくるという意味の場合は、布・敷(しきのべる、展開する)に当てて、自分の心情を敷きのべること。

語義

  1. (フス){動詞・名詞}役所が人民にわりあてた労力や財物を強制的に徴用する。とりたてる。また、とりたて。「征賦」。
  2. {名詞}みつぎ。役所に財物を進上すること。また、その財物。みつぎもの。また、ねんぐ。「貢賦」。
  3. {名詞}役所が公の仕事のために、人民を徴発して使役すること。また、その人夫。夫役(ブヤク)。「賦役」「可使治其賦也=其の賦を治めしむべきなり」〔論語・公冶長〕
  4. {動詞・名詞}わかつ。わりあてる。あまねくくばる。また、わりあてられた持ち分。《類義語》布・敷。「夫賦」「賦性」。
  5. (フス){動詞}思うことをのべる。詩をつくる。「横槊賦詩=槊を横たへて詩を賦す」〔蘇軾・赤壁賦〕
  6. {名詞}詩の六義(風・雅・頌(ショウ)・比・賦・興)の一つ。心に感じたことをそのまま詠じたもの。〔詩経・大序〕
  7. {名詞}韻文の文体の様式の名。四字・六字・七字などの対句を多く用いる。「東京賦」。

字通

[形声]声符は武(ぶ)。〔説文〕六下に「斂(をさ)むるなり」と訓し、賦斂(ふれん)の意とする。金文の〔毛公鼎〕に「命を尃(し)き、政を尃き、小大の楚賦(ふそ)を外字 おさめる(をさ)めよ」とあり、政令の実質は賦斂を徴することにあった。賦斂の意より分賦・賦予の意となり、天性のものを天賦・賦稟(ふりん)という。文学としての賦は、その対象を詩的な言語で賦陳することによって、その内的な生命との交感を目的とする、一種の魂振り的な言語呪術から発したもので、いわゆる辞賦の文学はその系統に属する。〔万葉〕の「寄物陳思(きぶつちんし)」も、本来はそのような呪誦文学の系列に属するものであった。

膚(フ・15画)

論語 膚 金文
引尊・西周早期或中期

初出は西周の金文。カールグレン上古音はpli̯wo(平)。

学研漢和大字典

会意。「肉+盧(つぼ)の略体」。つぼの外側のように肉体を外からおおう皮。布(平らでうすい)・普(広がっておおう)と同系。類義語の肌(キ)は、きめ細かいはだ。「はだ」の訓は常用漢字表で削除。

語義

  1. {名詞}はだ。はだえ(はだへ)。身体の表皮。「膚如凝脂=膚は凝脂のごとし」〔詩経・衛風・碩人〕
  2. {名詞・形容詞}外部にあらわれた物の表面。平らに広がってうすい。表面的なさま。「膚浅」。
  3. {形容詞}広がって大きい。《類義語》普・布。「膚公」。
  4. {形容詞}のびのびして美しい。「公孫碩膚、徳音不瑕=公は孫にして碩に膚しく、徳音に瑕あらず」〔詩経・漿風・狼跋〕
  5. {名詞}平らに切った肉。また、ぶたの肉。
  6. {名詞}四本の指を平らにならべた長さ。昔、物をはかるのに用いた寸。《同義語》扶。「膚寸」。

字通

[形声]〔説文〕四下は正字を臚に作り、「皮なり」とし盧(ろ)声。重文として膚をあげる。金文の字形は膚に作り、おそらくそれが初形であろう。膚に臚(ふ)の声がある。皮膚の意から膚浅・膚薄のように用いるが、〔詩、大雅、文王〕に「殷士の膚敏なるも 京に祼將(くわんしやう)(清めの祭)す」、また〔詩、豳風、狼跋〕に「公孫碩膚(せきふ)」の句があり、膚には碩大の意がある。〔易、釈文〕に「柔脆(じうぜい)肥美なるを膚と曰ふ」とあり、皮下の脂肪を含めていう語と思われる。

毋(ブ・4画)

論語 母 金文
刀大母癸甗・商代晚期

現伝書体の初出は戦国文字。カールグレン上古音はmi̯wo(平)。論語の時代、「母」məɡ(上、初出は甲骨文)と書き分けられていない。

学研漢和大字典

指事。「女+━印」からなり、女性を犯してはならないとさし止めることを━印で示したもの。無(ム)・(ブ)や莫(マク)・(バク)と同系で、ないの意味を含む。とくに禁止の場合に多く用いられる。

語義

  1. {動詞}なかれ。→語法「①」。
  2. {動詞}ない(なし)。→語法「②」

語法

①「なかれ」とよみ、「~するな」と訳す。禁止・命令の意を示す。《同義語》無・勿・莫。「距関毋内諸侯=関を距(ふせ)ぎて諸侯を内(い)るること毋(な)かれ」〈函谷関をふさいで、諸侯を入れてはいけません〉〔史記・項羽〕

②「なし」とよみ、「~ない」と訳す。否定の意を示す。《同義語》無。「子絶四、毋意、毋必、毋固、毋我=子四を絶つ、意毋(な)く、必毋く、固毋く、我毋し」〈先生は四つのことを絶たれた。勝手な心を持たず、無理おしをせず、執着せず、我を張らず〉〔論語・子罕〕

③「毋乃~」「毋寧~」は、「むしろ~」とよみ、「やはり~なのだ」「どちらかといえば~だろう」と訳す。婉曲に断定する意を示す。《同義語》無乃。「毋乃任刑之意与=毋乃(むしろ)刑を任ずるの意か」〈刑罰を用いる意志があることだろう〉〔漢書・董仲舒〕

字通

[仮借]もと母の字で象形。金文に母の字形のままで打消に用いる。のち両乳を直線化して、母・毋を区別した。〔説文〕十二下に「之れを止むるなり。女に從ふ。之れを奸(をか)す者有り」とし、〔繫伝〕に「能く守ること有るなり。此れ指事なり」とするが、声による仮借義である。禁止の意に無(ぶ)・亡(ぼう)・莫(ばく)などの音を借り用いる。無は舞の初文、亡は死亡者の骨、莫は暮の初文で、それぞれ別に本義のある字である。

巫(ブ・7画)

論語 巫 金文
齊巫姜簋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wo(平)。

学研漢和大字典

会意。篆文の右の字体は「工+人二人」の会意文字。工印を玉の形と解する説もあるが、神を招く技術を示したものであろう。左の字体は「工+召(招く)二つ+両手」の会意文字で、神を招く手ぶりを示す。目に見えない神を手ぶり足ぶりして呼ぶこと。舞(手ぶり足ぶりをして神を楽しませる)と同系。また募(ないものを求める)とも縁が近い。

語義

{名詞}みこ。かんなぎ。舞や音楽で神を招いて、神仕えをする人。
▽信仰と生活の結びついた古代には、巫は王と同等の聖職であった。のち、人権の伸張につれ、術によって神がかりとなる祈偃(キトウ)師になった。特に、女みこを巫といい、男みこを覡(ゲキ)といった。「巫咸(フカン)(殷(イン)代の伝説上のみこの名)」「巫匠亦然=巫匠も亦た然り」〔孟子・公上〕

字通

[会意]工+両手(左右の手)。工は神につかえるときに操る呪具。神をもとめることを左右といい、左は工を操る形。左右を重ねた形は尋、神の所在を尋ねる意。神隠れの隠の旧字は隱、呪具の工を以て神の形を隠した。左・尋・隱は、みな工の形を含む。その工を左右の手で奉ずる形は巫、神につかえ、神意をたしかめる者をいう。〔説文〕五上に「祝するなり。女の能く無形に事(つか)へ、舞を以て神を降す者なり。人の兩褎(りゃうしう)もて舞ふ形に象る。工と意を同じうす。古者(いにしへ)巫咸、初めて巫と作(な)る」といい、無・舞との声の関係を以て説く。春秋期の楚の巫臣、字(あざな)は子靈(霊)といい、靈は雨乞いする巫の意。卜文・金文の巫の字形はブ 巫 外字に作り、工を縦横に組み合わせた形。卜辞にブ 巫 外字を祀ることを卜する例があり、巫祖を祀るものであろう。〔山海経、大荒西経〕に十巫の名がみえ、巫はみなその伝統を伝えた。のち女巫を巫といい、男巫を覡(げき)という。

武(ブ・8画)

論語 武 金文
聿作父乙簋・商代晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wo(上)。

学研漢和大字典

会意。「戈(ほこ)+止(あし)」で、戈をもって足で堂々と前進するさま。ない物を求めてがむしゃらに進む意を含む。▽「春秋左氏伝」宣公十二年に「戈(カ)を止(トド)むるを武となす」とあるのは誤り。賦(求める)・慕(求める)・摸(ボ)(さぐる)・驀(バク)(馬がむやみに前進する)・罵(バ)(むやみにつきかかる、ののしる)などと同系。草書体をひらがな「む」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「む」ができた。

意味

  1. {形容詞・名詞}たけだけしい(たけだけし)。荒くて勇ましい。力で相手をおさえる行いや気持ち。▽文に対することば。《類義語》猛・勇。「武勲」「文武兼備」。
  2. {名詞}戦争。また、戦争のための兵器や兵士。「武備」。
  3. {名詞}勇ましく前進する歩み。「歩武堂堂(足どり勇ましく進むさま)」。
  4. {名詞}前にいった人の足跡。また、前人が行った物事のあと。《類義語》歩。
  5. {名詞}一歩(ふたあし)の半分の長さで、昔の三尺。▽「歩」は、長さの単位で、一歩は昔の六尺。
  6. {名詞}周の文王を文というのに対して、周の武王のこと。「文武周公(文王・武王・周公)」。
  7. {名詞}周の武王のつくった音楽。「謂武、尽美矣、未尽善也=武を謂はく、美を尽くせり、いまだ善を尽くさざるなり」〔論語・八佾〕
  8. 《日本語での特別な意味》「武蔵(ムサシ)」の略。「武州」。

字通

[会意]止(し)+戈(か)。止は趾の形で、歩の略形。戈(ほこ)を執って前進することを歩武という。〔説文〕十二下に〔左伝、宣十二年〕「楚の荘王曰く、夫(そ)れ武は功を定め、兵を戢(をさ)む。故に止戈を武と爲す」の文を引いて、武を止戈の義とするが、歩武の堂々たることをいう字である。〔詩、大雅、生民〕「帝の武(あしあと)の敏(おやゆび)を履(ふ)みて歆(う)く」の〔毛伝〕に「武は迹なり」とあり、〔国語、周語下〕に「歩武尺寸の間」という語がある。また〔礼記、曲礼上〕に「堂上には武を接し、堂下には武を布(し)く」のように、その歩きかたをいう。武徳を称する語として古くから文武を対称し、殷・周の王に文・武を称するものがある。列国期の〔■(厂+馬×3)羌鐘(ひゆうきようしよう)〕に「武文咸(ことごと)く剌(れつ)(烈)なり」の語がみえる。

舞(ブ・15画)

論語 舞 金文
作冊般甗・商代晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wo(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。舛(セン)は、左足と右足を開いたさま。無(ブ)は、人が両手に飾りを持ってまうさまで、舞の原字。舞は「舛+(音符)無」で、幸いを求める神楽のまいのこと。巫(フ)・(ブ)(神前でまって神に幸いを求めるみこ)・募(求める)と同系。草書体をひらがな「む」として使うこともある。

語義

  1. {動詞・名詞}まう(まふ)。まい(まひ)。手足を動かして神の恵みを求める。「舞踏」「韶舞(ショウブ)(周の武王のときのまい)」「長袖善舞=長袖は善く舞ふ」「不知手之舞之足之蹈之也=手の舞ひの足の蹈むをの知らざるなり」〔礼記・楽記〕
  2. (ブス){動詞}心をはずませる。また、まい出すようなはずんだ気持ちにさせる。「鼓舞」。
  3. {動詞}まう(まふ)。ゆっくりと飛ぶ。「鳳鳥来舞=鳳鳥は来たり舞ふ」。
  4. {動詞}むやみにでたらめなことをする。「舞文(身がってな文章をつくる、条文を乱用する)」「舞弊」。

字通

[会意]無+舛(せん)。無は舞の初文。両袖に呪飾をつけて舞う形。無がのち有無の無に専用されるに及んで、舞うときの足の形である舛をそえて舞となった。〔説文〕五下に「樂しむなり。足を用(もつ)て相ひ背く」といい「舛に從ひ、無(ぶ)聲」とする。〔荘子、在宥〕や〔山海経〕〔孔子家語〕には儛の字を用いるが、舞楽をいう後起の字とみてよい。無はもと舞雩(ぶう)という雨乞いの儀礼で、卜辞には舞雩のことが多くみえる。また羽をかざして舞うこともあって、〔説文〕に録する重文の字は■(上下に羽+亡)に作る。金文に辵(ちやく)に従って■(辶+舞)に作る字があり、舞雩は特定の地に赴いて行われた。強く勢いをはげますことを鼓舞という。

服(フク・8画)

論語 服 金文 論語 服 解字
大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰi̯ŭk(入)。

学研漢和大字典

論語 ナガラ1
会意兼形声文字で、𠬝(フク)は、人に又(手)をぴたりとつけたさまを示す会意文字で、付(つける)と同じ。服は「舟+(音符)𠬝」で、もと舟べりにぴたりとつける板(舟服)のこと。のち、からだにぴたりとつける衣(衣服)のこと。

服の左の部分はもと舟印であったが、月と書き誤って今日に及んだ。伏(ぴたりとくっつく)・付(つける)と同系のことば。

意味〔一〕フク・ブク

  1. {名詞}からだにぴたりとつけるきもの。身につけて着るもの。きもの。「衣服」「美其服=其の服を美しくす」「紅紫不以為褻服=紅紫は以て褻服と為さず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}喪服(もふく)のこと。▽昔の中国には五とおりの喪服があり、それを「五服」といった。⇒「五服」。
  3. (フクス){動詞}ぴたりと身に着けて離さない。ぴったりとくっつける。「服牛」「服周之冕=周の冕を服す」〔論語・衛霊公〕
  4. (フクス){動詞}ぴたりとつき従って離れない。従う。《対語》⇒叛(ハン)。《類義語》伏。「服従」「降服(=降伏)」「心悦誠服=心より悦び誠に服す」「何為則民服=何をか為せば則ち民服するや」〔論語・為政〕
  5. (フクス){動詞}その仕事や判定に従って離れない。「服田=田に服す」「服刑=刑に服す」「有事、弟子服其労=事有れば、弟子其の労に服す」〔論語・為政〕
  6. (フクス){動詞}ぴたりとつき従わせる。離反させずにつき従わせておく。《対語》叛(ハン)。「征服」「以一服八=一を以て八を服す」〔孟子・梁上〕
  7. (フクス){動詞}薬を常に用いて離さない。薬をのんで体内にとり入れる。「服用」「医不三世不服其薬=医三世ならざれば其の薬を服せず」〔礼記・曲礼下〕
  8. (フクス){動詞}なれる。なじむ。「不服水土=水土に服せず」「君子之服之也=君子のこれに服するなり」〔礼記・孔子間居〕
  9. (フクス){動詞}喪にこもる。「服忌=忌に服す」。
  10. {名詞}周代に、王畿(都)の外の服属地を五百里ごとに区分した地域。「五服」。
  11. {名詞}矢をぴたりとくっつけて並べて入れる矢立て。えびら。▽箙に当てた用法。
  12. {名詞}四頭立ての馬車で、中央のながえにぴたりとつけた内側の二頭の馬。「両服」。

意味〔一〕フウ・ブ

{単位詞}一回に服用する薬の分量を数える単位。▽日本では、たばこに火をつけて吸う回数を数える単位にも用いる。「一服の薬」「一服吸う」。

字通

[形声]声符は𠬝(ふく)。𠬝は人に屈服する形。左偏は舟で、盤の初形。盤に臨んで服事の儀礼を行う意であろう。〔説文〕八下に「用ふるなり。一に曰く、車右の騑(そへうま)なり。舟旋(周旋)する所以(ゆゑん)なり。舟に從ひ、𠬝聲」とする。一曰は服馬の義。舟は礼器としての盤。服事の儀礼を終えて、服属の職事が与えられる。周初の金文〔班𣪘(はんき)〕に「虢(くわく)城公の服(こと)を更(つ)ぐ」「大服に登る」など、その職事や身分をいう。それで事を行うことを服すといい、儀礼に服するときの車馬器用の類をすべて服といい、車服という。また身につけることから、心にかけることをも服という。

負(フウ・9画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰi̯ŭɡ(上)。同音に罘”網”、芣”花が盛んなさま”、婦、萯”カラスウリ”、偩”たよる”、伏。伏は『大漢和辞典』に同義が有りそうで無い。「フ」は慣用音。呉音は「ブ」。

貝を含む他の漢字同様、貨幣経済の存在しない論語の時代に有った言葉ではない

学研漢和大字典

会意。「人+貝(財貨)」で、人が財貨をせおうことを示す。背(ハイ)puəg→puəi(せなか)・北(ホク)puək→puək(せをむける)などと同系。類義語の敗(ハイ)は、まとまったものがやぶれて二つに割れること。「相手に破れる」の意味の「まける」「まけ」は「敗ける」「敗け」とも書く。

語義

  1. {動詞}おう(おふ)。せなかにのせる。せおう。《類義語》背。「負剣=剣を負ふ」「負手曳杖=手を負ひ杖を曳く」〔礼記・檀弓上〕。「負耒耜而自宋之滕=耒耜を負ひて宋より滕にゆく」〔孟子・滕上〕
  2. {動詞}おう(おふ)。やっかいなものをせおう。やっかいなものを引き受ける。《類義語》担。「負担」「負債」「負罪=罪を負ふ」。
  3. {動詞}おう(おふ)。何かを背後において頼りにする。たのむ。「自負」「虎負嵎=虎は嵎を負ふ」〔孟子・尽下〕
  4. {動詞}せにする(せにす)。せなかをむける。《類義語》背。「負東塾=東塾を負にす」。
  5. {動詞}そむく。せをむける。そむく。そっぽをむく。《類義語》背。「負命毀族=命に負き族を毀る」〔史記・五帝〕
  6. {動詞・名詞}まける(まく)。まけ。敵にせをむけてにげる。広く、敵と争って敗れること。転じて、相手よりおとる。《類義語》北。
  7. {名詞}数学で、正に対して、零より小さいこと。マイナス。「負数」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①まける(まく)。値引きする。
    ②電子の電荷のうち、陰極に生じるもの。マイナス。《対語》正。

字通

[会意]人+貝。貝を負う形。〔説文〕六下に「恃(たの)むなり。人の貝を守るに從ふ。恃む所有るなり」とする。また「一に曰く、貸を受けて償はず」とあり、負債の意。古い字形を見ないが、古い時代には貝は財宝の主たるものであるから、これを負担する形とみてよい。金文の図象に貝を綴って一朋とし、これを前後ふりわけにして荷う形のものがある。負恃の意はその引伸の義。勝負の意は、敗北することによって負荷を加える意とも解されるが、敗・背の声義の関係を考えることもできる。

婦(フウ・11画)

婦 金文
守婦觶・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰi̯ŭɡ(上)。「フ」は慣用音。呉音は「ブ」。

学研漢和大字典

会意。「女+帚(ほうきを持つさま)」で、掃除などの家庭の仕事をして、主人にぴったりと寄り添うよめやつまのこと。付(つき添う)・服(ぴたりとひっつく)・副(主たる者にぴたりと寄り添う添え人)・備(添え人)などと同系。草書体をひらがな「ふ」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}おんな(をんな)。成人した女子。「婦人」。
  2. {名詞}よめ。つま。子のつま。また自分のつま。《対語》⇒夫。「夫婦」「甑婦(シイフウ)(息子のよめ)」「帰而謀諸婦=帰りて諸を婦に謀る」〔蘇軾・後赤壁賦〕
  3. 《日本語での特別な意味》「看護婦」の略。「婦長」。

字通

[形声]旧字は■(女+帚)に作り、帚(ふ)声。帚は婦の初文で、卜辞には帚好・帚妌(ふけい)のように帚を婦の字に用いる。〔説文〕十二下に「服なり。女の帚(はうき)を持つに從ふ。灑埽(さいさう)するなり」とあり、服従と灑埽をその義とする。帚は掃除の具ではなく、これに鬯酒(ちようしゆ)(香り酒)をそそいで宗廟の内を清めるための「玉ははき」であり、一家の主婦としてそのことにあたるものを婦という。〔爾雅、釈親〕に「其の妻を婦と爲す」とあるのは、子の婦、よめをいう。金文の〔令𣪘(れいき)〕に「婦子後人」の語があり、宗廟につかえるべきものをいう。殷代の婦は、その出自の氏族を代表する者として、極めて重要な地位にあり、婦好の卜辞には外征を卜するものがある。

復(フク/フウ・12画)

論語 復 金文 復 解字
曶鼎・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰ(去/入)。藤堂上古音はbuək(入)またはbɪuəg(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。复(フク)は「夂(あし)+(音符)畐(フク)」の形声文字。畐は腹のふくれたほとぎ(湯水を入れる器)で、ここでは音を示すだけで、意味には関係がない。報道の報(仕返す)と同系のことばで、↓の方向に来たものを↑の方向にもどすこと。復は、さらに彳(いく)を加えたもので、同じコースを往復すること。類義語に二・反。「さらにもう一度」の意味の「また」は「又」とも書く。

意味〔一〕フク・ブク

  1. {動詞}かえる(かへる)。同じ道を引きかえす。《対語》⇒往。《類義語》帰。「復原(もとにもどす)」「復帰」。
  2. (フクス){動詞}もとの状態にもどる。もとの状態にもどす。また、仕返しをする。《類義語》
  3. 報。「回復」「復仇=仇を復す」「復其位=其の位を復す」〔論語・郷党〕
    (フクス){動詞}結果を報告する。こたえる。《類義語》報。「有復於王者=王に復する者有り」〔孟子・梁上〕
  4. {副詞}また。→語法「①-チ」。
  5. {副詞}また。→語法「①-ヂ」。
  6. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。震下坤上(シンカコンショウ)の形で、陰が去りわずかに陽がもどって来たさまを示す。

意味〔二〕フウ・ブ

  1. {動詞}ふたたびする(ふたたびす)。もう一度くり返す。▽俗にはフクと読む。「不可復=復びすべからず」。

語法

①「また」とよみ、
(1)「もう一度」「再び」と訳す。ある行為・状態が重複・反復する意を示す。「聖人復起、必従吾言矣=聖人また起こるとも、必ず吾が言に従はん」〈聖人が再び出現したとしても、きっとわたしの言葉に賛成されるであろう〉〔孟子・公上〕
(2)「いったい」と訳す。強調の意を示す。「相去復幾許=あひ去ることまた幾許(いくばく)ぞ」〈お互いの距離はいったいどれくらいか〉〔古詩十九首〕
②「不復~」は、「また~ず」とよみ、「二度とは~しない」と訳す。部分否定。「雖有槁暴、不復挺者瑾使之然也=槁暴(かうばく)有りと雖(いへど)も、また挺(の)びざる者は瑾(たわ)めたることこれをして然ら使めしなり」〈木が枯れて固くなったとしても、二度ともとにもどることがないのは、たわめるという外からの力が、木を変えてしまうからだ〉〔荀子・勧学〕▽「無復~=また~なし」「非復~=また~にあらず」「勿復~=また~なかれ(なし)」も、意味・用法ともに同じ。
③「復不~」は、「また~ず」とよみ、「今度もまた~しない」と訳す。「韓豫章遺絹百匹、不受、減五十匹、復不受=韓豫章絹百匹を遺(おく)るも、受けず、五十匹を減ずるも、また受けず」〈韓豫章が絹百匹を贈ったけれども受け取らず、五十匹を減らしたけれども、それでも受け取らなかった〉〔世説新語・徳行〕

覆(フク・18画)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のpʰ(去)のみ。藤堂上古音はp’ɪok(入)またはp’ɪog(去)またはbɪuəg(「婦」と同じ音の去声、去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。復の右側は、包みかぶさって二重になるようなぐあいに歩く、つまり復(もとにもどる、うらがえし)のこと。のち彳を加えた。覆は「襾(かぶせる)+(音符)復」で、かぶさってふせる、おおうの意。腹(フク)(はらわたを包んだはら)・孚(フ)(おおいかぶさる)・伏(かぶさってふせる)などと同系。類義語に弇。「おおう」は、「蔽う」「被う」「蓋う」とも書く。

語義

フク(入)
  1. {動詞}くつがえる(くつがへる)。くつがえす(くつがへす)。うらがえしになる。また、うらがえしにする。《類義語》伏。「莖覆(テンプク)(=転覆。ひっくりかえる)」「覆轍(フクテツ)」「覆手=手を覆す」。
  2. {動詞}かえる(かへる)。かえす(かへす)。もとにもどってやりなおす。《同義語》復。「反覆(=反復)」「覆試(再試験)」。
  3. {動詞}くつがえる(くつがへる)。くつがえす(くつがへす)。ひっくりかえって、だめになる。転じて、滅びる。滅ぼす。「全軍覆滅(全軍が完敗する)」。
フク(去)
  1. {動詞}おおう(おほふ)。うつぶせにしてかぶせる。《類義語》伏。「覆蔵(かぶせて隠す)」「仁覆天下矣=仁は天下を覆へり」〔孟子・離上〕
フク(去)
  1. {名詞}ふせて隠した兵隊。伏兵。「君為三覆以待之=君三覆を為して以てこれを待て」〔春秋左氏伝・隠九〕

字通

[形声]声符は復(ふく)。復に反復の意がある。〔説文〕七下に「覂(くつがへ)るなり」とあり、覂(ほう)字条に「反覆するなり」という。〔説文〕は覆・覂を同義とするものであるが、覂は乏に従い、乏は変死者、水死者を泛という。その屍(しかばね)を土で覆うことを覂という。覆は蓋う意にも用い、上より覆う意。反覆・転覆・被覆・覆育のように用いる。また〔爾雅、釈詁〕に「審なり」、〔広雅、釈言〕に「索(もと)むるなり」とあり、覆視求索の意に用いる。〔左伝、定四年〕「其の載書(盟書)、~藏して周府に在り。覆視すべきなり」とは、何度もうちかえしてしらべる意である。

弗(フツ・5画)

論語 弗 金文
旂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯wət(入)。

学研漢和大字典

会意。「ひもまたはつるのたれた形+左右にはらいのけるしるし」で、いやだめだと払いのけて強く否定する意。拂(=払。左右に払いのける)と同系。

語義

  1. {副詞}ず。→語法。
  2. {動詞・形容詞}もとる。気に入らないとして退ける。ふさぎこむさま。《同義語》⇒気。《類義語》払。
  3. 《日本語での特別な意味》ドル。記号$に当てて、アメリカの貨幣の単位ドルをあらわすことば。「五十弗(ドル)」。

語法

「~ず」とよみ、「~しない」と訳す。否定の意を示す。▽漢代以前は、「弗+動詞」=「不+動詞+之」と目的語を省略した動詞の否定の場合に用いる。漢代以後は、「不」と同じ用法で、形容詞や動詞を否定する。「弗如也、吾与女弗如也=如(し)かざるなり、吾と女(なんぢ)と如かざるなり」〈およばないね、私もお前と一緒で及ばないよ〉〔論語・公冶長〕

字通

[象形]縦の木二三本をつかね、縄でまきつけた形。曲直のあるものを強くたばねることをいう。〔説文〕十二下に「撟(もと)るなり」とし、韋の省文に従って丿(へつ)・乀(ふつ)する意であるとするが、字は韋とは関係がなく、枝をまげて強くたばねるので「払戻(ふつれい)」の意があり、拂(払)の初文とみてよい。〔詩、大雅、生民〕「以て子無きを弗(はら)ふ」は祓去の意。不・勿(ふつ)などと同じく否定詞に用いるのは仮借。金文の〔叔夷鎛(しゆくいはく)〕に「敢て憼戒(けいかい)し、乃(そ)の司事を虔卹(けんじゆつ)せ弗(ず)んば不(あら)ず」「休命に對揚せ不(ず)んば弗(あら)ず」のように用いる。

黻(フツ・17画)

論語 黻冕

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のpi̯wət(入)。同音に弗、紱”ひも・祭服”、綍”ひつぎなわ”、紼”乱れた麻、おおづな”、巿”ひざかけ・草木が盛ん”、韍”ひざかけ・組み紐”、笰”車の後ろの戸”。論語時代の置換候補は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音フツ)は、はらいのける、左右にはねるの意をもつ。黻はそれを音符とし、黹(布地)を加えた字で、弓の字を二つせなかあわせにした形に、左右にひらいた模様。また、歩くとき左右にはねのけるひざかけ。

語義

  1. {名詞}弓の字を二つせなかあわせにしたぬいとり。また、その模様。昔の礼服の模様。
  2. {名詞}ひざかけ。なめし皮や、ひとはばの布でつくったひざかけ。《同義語》⇒韍。

字通

[形声]声符は犮(ふつ)。〔説文〕七下に「黒と靑と相次するの文なり」とあり、前条の黼(ほ)に「白と黒と相次するの文なり」とみえ、黼黻(ほふつ)と連ねていう。祭服にぬいとりする黒白の文様で、両己相背く形に加えた。

勿(ブツ・4画)

論語 勿 金文
大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wət(入)。『大漢和辞典』の第一義は”旗”。

学研漢和大字典

論語 勿 解字
象形文字で、さまざまな色の吹き流しの旗を描いたもの。色が乱れてよくわからない意を示す。転じて、広く「ない」という否定詞となり、「そういう事がないように」という禁止のことばとなった。昒(コツ)(暗くて見えない)・忽(コツ)(心がぼんやりして、よくわからない)と同系のことば。

意味

  1. {動詞}なかれ。→語法「①」。
  2. {動詞}ない(なし)。→語法「②」。
  3. 「勿勿(ブツブツ)」とは、あわただしく、心がそぞろなさま。うつろなさま。《類義語》忽忽(コツコツ)。「世中書翰、多称勿勿=世中の書翰、多く勿勿を称す」〔顔氏家訓・勉学〕

語法

①「なかれ」とよみ、「~するな」と訳す。禁止・命令の意を示す。《類義語》毋(ブ)・(ム)。「王請勿疑=王請ふ疑ふこと勿(な)かれ」〈王よ、どうかお疑いを持たれませぬように〉〔孟子・梁上〕
②「なし」とよみ、「~ない」と訳す。否定の意を示す。《類義語》無。「賢者能勿喪耳=賢者はよく喪(うしな)ふこと勿(な)きのみ」〈賢者だけが(この心をずっと持ち続けて)失わなずにいられる〉〔孟子・告上〕

字通

象形、弓体に呪飾を付けた形。その字の初形は、弓弦の部分を断続したもので、弾弦の象を示すものかと思われる。すなわち弾㱾だんがいを行う意で、これによって邪悪を祓うものであるから、禁止の意となる。〔説文〕九下に字を旗幟の象とし、「州里建つる所の旗なり。其の柄の三游(吹き流し)有るに象る。雑帛(へり飾りのある旗ぎれ)幅半ば異なり。民をうながす所以なり。故ににわかなることを勿勿と称す」といい、重文としてえんに従う字を録する。〔説文〕は勿を物旌(氏族標識の旗)と解するが、卜文の字形は弓体を主とする形にみえ、金文の字体は、すきで土を撥ねる形に作り、字形に異同がある。おそらく弓弦の勿、撥土の勿と、それに〔説文〕のいう物旌の勿は、その声近く、字形も類しているために、時期によってその用字が推移したものであろう。ただ禁止の意を主として字形を求めるならば、弾弦の象を示す卜文の形が原義に近く、撥土の象を用いるのは仮借、物旌は呪飾としての吹き流しで、これにも呪禁の意がある。

訓義

  1. はた、吹き流しをつけたはた、はたじるし。
  2. ゆはずの音、弾弦。
  3. 土はね、つよくはねる、はね出す。
  4. なかれ、禁止の語。
  5. 勿勿は、いそぐ、あわただしい、つとめるさま。

分(フン・4画)

論語 分 金文
攸鳥分父甲觶・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯wən(平)。「フ」は慣用音。呉音は「ブ」。

学研漢和大字典

会意。「八印(左右にわける)+刀」で、二つに切りわける意を示す。払(フツ)(左右にわけてはらいのける)は、その入声(つまり音)に当たる。また、半・班(わける)・判(わける)・八(二分できる数)・別とも縁が近い。異字同訓に別れる「幼い時に両親と別れる。友と駅頭で別れる。家族と別れて住む」。

語義

  1. {動詞}わける(わく)。わかつ。わけて別々にする。▽漢文では「わかつ」という訓のみを用い、「わく」とはいわない。《対語》⇒合。「分割」「分道=道を分かつ」「分天下以為三十六郡=天下を分かちて以て三十六郡と為す」〔史記・秦始皇〕
  2. {動詞}わける(わく)。わかつ。判別する。見わける。《類義語》別・判。「分別」「五穀不分=五穀分かたず」〔論語・微子〕
  3. {動詞}わける(わく)。わかつ。わけあってとる。与える。「分配」「分財利多自与=財利を分かつに多く自らあたふ」〔史記・管仲〕
  4. {動詞}わかれる(わかる)。幾つかの部分にわかれる。「分裂」「陰陽不分=陰陽分かれず」〔日本書紀・神代〕
  5. {名詞}けじめ。区別。「明於天人之分=天人の分に明らかなり」〔荀子・天論〕
  6. {名詞}ポストに応じた責任と能力。もちまえ。▽去声に読む。「本分」「守分」「烈士有不易之分=烈士に不易の分有り」〔班固・答賓戯〕
  7. (ブントス){動詞}本分とする。▽去声に読む。「分作溝中瘠=溝中の瘠と作るを分とす」〔文天祥・正気歌〕
  8. 「十分(ジュウブン)」「十二分(ジュウニブン)」とは、完全に全部の意。「七八分(シチハチブン)」とは、十分の七から十分の八のこと。
  9. {単位詞}一分は、長さでは一寸の十分の一、面積では一畝(イッポ)の十分の一、利息などでは一割の十分の一、重さでは一両の百分の一。「一分銀(イチブギン)」。
  10. {単位詞}一分は、時間では一時間の六十分の一の時間、角度では六十分の一度。
  11. 《日本語での特別な意味》「分数」「分母」の略。「通分」「約分」。

字通

[会意]八+刀。八は両分の形。刀でものを両分する意。〔説文〕二上に「別つなり」とし、「刀は以て物を分別するなり」という。分割・分異の意より、その区分に従うこと、身分・名分などの意となる。

忿(フン・8画)

奮 金文
「奮」令鼎・西周早期

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpi̯wən(上)。同音は「分」とそれを部品とする漢字群、糞など。同音の「奮」に”憤る”の語釈を大漢和辞典が立て、初出は西周早期の金文

学研漢和大字典

会意兼形声。分は「刀+八印(両方に割れる)」からなり、両がわに割れること。忿は「心+(音符)分」で、かっと破裂するように急におこること。憤慨の憤と同系。類義語に怒。

語義

  1. {動詞・形容詞}いかる。かっといかる。ぷりぷりいかるさま。《同義語》⇒憤。「忿怒(フンド)・(フンヌ)」。
  2. {名詞}いかり。急激ないかり。「一朝之忿忘其身=一朝の忿に其の身を忘る」〔論語・顔淵〕
  3. 《俗語》「不忿」とは、なっとくがいかない、腹だたしい、いまいましい、の意。▽唐詩の俗語。

字通

[形声]声符は分(ふん)。〔説文〕十下に「悁(いか)るなり」とあり、忿怒・忿怨・忿懣のように用いる。憤と声義が近い。

※憤:bʰi̯wən(上)。

焚(フン・12画)

焚 金文

多友鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰi̯wən(平)。

学研漢和大字典

会意。「林+火」で、林が煙をふきあげてもえることを示す。噴(ふき出す)と同系。類義語の焼は、煙やほのおが高くのぼってもえること。燔(ハン)は、火の子がとび散ってやけること。燎(リョウ)は、ずるずると連なってもえること。燃は、熱を出してもえること。

語義

  1. {動詞}やく。たく。やける(やく)。ほのおや煙をふき出してもえる。もやす。《類義語》焼。「焚焼(フンショウ)」「焚香=香を焚く」「焚書=書を焚く」「廏焚=廏焚けたり」〔論語・郷党〕

字通

[会意]林+火。〔説文〕十上に字を燓に作り、「燒田するなり」とあって、田は田猟、やき狩りの意とし、棥(はん)の亦声であるという。棥は樊籬(はんり)、一定の区域を囲う意である。卜文の字形には棥に従うものがなく、燓は字の初形としがたい。〔春秋、桓七年〕に「火田」というのと同じ。山野に限らず、すべてものを焼くことを焚香・焚書のようにいう。

憤(フン・15画)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰi̯wən(上)で、同音に分・焚、賁とそれを部品とする漢字群。賁に”いきどおる”の語釈があるが、初出は後漢の『説文解字』。

学研漢和大字典

会意兼形声。奔(ホン)は「人+止(あし)三つ」の会意文字で、人がぱっと足で走り出すさま。賁(フン)は「貝(かい)+(音符)奔(ひらく、ふくれる)の略体」の会意兼形声文字で、中身の詰まった太い貝のこと。憤は「心+(音符)賁」で、胸いっぱいに詰まった感情が、ぱっとはけ口を開いてふき出すこと。
奔(ぱっと駆け出す)・噴(ぱっとふき出す)と同系。忿(フン)(かっとする)・奮(フン)(かっといきりたつ)とも近い。類義語に怒。

語義

  1. {動詞}いきどおる(いきどほる)。かっと、いきりたつ。ふき出すように怒る。《同義語》⇒忿(フン)。《類義語》怒。「憤慨」「憤世疾邪=世を憤り邪を疾む」〔劉基・売柑者言〕
  2. {名詞}いきどおり(いきどほり)。かっと怒ること。「孤憤(人知れない怒り)」「積多士之憤、蓄四海之怒=多士の憤りを積み、四海の怒りを蓄ふ」〔資治通鑑・後漢〕
  3. (フンス){動詞}いきりたつ。やっきとなる。《同義語》奮。「発憤(=発奮)」「不憤不啓=憤せずんば啓せず」〔論語・述而〕

字通

[形声]声符は賁(ふん)。賁はもとヒ 外字(ひ)に従う字で、ヒ 外字は華の形。中にある生命が、外にはげしくあらわれる意がある。〔説文〕二上に「吒(いか)るなり」、また「一に曰く、鼻を鼓(な)らすなり」とあり、はげしく気をふき出すことをいい、そのときの擬声的な語である。勢いよくふき出すもので、噴出・噴飯のようにいう。

糞(フン・17画)

糞 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯wən(去)。金文は見つかっていない。

学研漢和大字典

会意。「畑にばらまくさま+両手」。

語義

  1. {名詞}くそ。動物の排泄する、食べた物のかす。「糞土(フンド)」。
  2. (フンス){動詞}肥料をまいて土地を肥やす。「可以糞田疇=以て田疇を糞すべし」〔礼記・月令〕
  3. {動詞}はらう(はらふ)。ごみをはらいのける。よごれをとり除く。《類義語》腎(フン)・払。「糞除(フンジョ)」「堂上不糞=堂上糞はず」〔荀子・彊国〕

字通

[会意]米+𠦒(はん)+廾(きよう)。米は屎(し)の形、𠦒は長い柄のある塵取り、廾は両手。両手で推して塵を棄除することをいう。〔説文〕四下に「棄除するなり」とし、「廾に從ふ。𠦒を推し、釆(べん)を棄つるなり」とする。釆は獣爪の象で、掌の部分を加えると番となり、膰の初文。糞の従うところは米の形で屎、糞屎を糞といい、これを除くことをまた糞という。〔説文〕にまた〔官溥説〕を引いて「米に似て米に非ざる者は矢(し)なり」とあって、矢は屎。この説がよい。矢の本字は𦳊に作り、糞屎の象。〔礼記、曲礼上〕「長者の爲に糞するの禮」とは、長者の前で塵をとるときの心得をいう。

文(ブン・4画)

論語 文 金文 論語 遠山の金さん
一丞卣・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wən(平)。『大漢和辞典』の第一義は”文様”。首から下に入れた入れ墨のことを「文身」という。『字通』も「文」の原義を入れ墨だという。

学研漢和大字典

論語 文 甲骨文 論語 己 土器
(甲骨文)

象形文字で、もと、土器につけた縄文(ジョウモン)の模様のひとこまを描いたもので、こまごまとかざりたてた模様のこと。のち、模様式に描いた文字や、生活のかざりである文化などの意となり、紋の原字。紊(ビン)(色糸が交差して模様をなす)・美(細かくうつくしい)などと同系のことば。

語義

  1. {名詞}あや。きれいな模様。また、外面のかざり。《対語》⇒質(実質)。《類義語》紋(モン)。「繁文(煩わしいかざり)」「天文(天上をかざる星や月などの模様→天体におこる現象)」。
  2. (ブンナリ)・(ブンタリ){形容詞・名詞}きれいにかざったさま。外面の美しさ。「郁郁乎文哉=郁郁として乎文なる哉」〔論語・八佾〕。「文質彬彬=文質彬彬たり」〔論語・雍也〕
  3. {動詞}かざる。表面をかざる。また、うわべを繕う。《類義語》飾。「文身(からだに入れ墨する)」「小人之過也、必文=小人之過つ也、必ず文る」〔論語・子張〕
  4. {名詞}もじ。もと、象形文字や指事文字のように、事物を模様のように描いた文字のこと。のち広く文字のこと。▽「説文解字」の序に「依類象形、故謂之文=類に依り形に象る、故にこれを文と謂ふ」とある。《対語》字(形声文字や会意文字など、のちに派生した字)。
  5. {名詞}ふみ。文字で書いた文章や手紙。▽詩文という場合の文は、散文のこと。文‐筆とあい対するときは、文は韻文、筆は散文のこと。「名文」「文献」「不以文害辞=文を以て辞を害せず」〔孟子・万上〕
  6. {名詞・形容詞}武に対して文といい、文化や教養・学芸など。転じて、荒々しくなく、おだやかなさま。《対語》武。「文弱」「斯文(シブン)(孔子の伝えた文化と思想)」「則以学文=則ち以て文を学べ」〔論語・学而〕
  7. {形容詞}たくみ。じょうずにうまくかざってあるさま。《類義語》巧。「文飾」。
  8. {名詞}周の文王のこと。
  9. 《日本語での特別な意味》
    ①もん。(ア)昔の貨幣の単位。一文は一貫の千分の一。(イ)足袋(タビ)・靴(クツ)の大きさの単位。▽足袋の長さを一文銭を並べて数えたことから。
    ②ふみ。手紙。
    ③旧「文部省」の略。「文相」▽現在は「文部科学省」。「文科相」。
    ④「文学」「文学部」の略。「文博」「英文」。

字通

[象形]文身の形。卜文・金文の字形は、人の正面形の胸部に文身の文様を加えた形。文様には×や心字形を用いる。〔説文〕九上に「錯(まじ)はれる畫なり。交文に象る」と交画の象とするが、字の全体は人の正面形である。〔書、大誥〕に「前寧人」「寧王」などの語がみえるが、文身として文に心字形を加えた形を寧とよみ誤ったもので、「前文人」「文王」とよむべきところである。凶礼のときには×形を胸廓に加えるので、凶・兇・匈・胸(きよう)は一系の字。また婦人を葬るときなどに両乳をモチーフとして加え、爽・爾(じ)・奭(せき)はその象。みな美しい意がある。儀礼の際には朱で加え、爽明の意となる。元服を示す彦は旧字は彥に作り、産は產に作る。その文は、厂(かん)(額)に文身を加える意で、産は生子の額にアヤツコをしるす意。額に文身を加えたものを顏(顔)という。中国の古代に文身の俗があったことは卜文によって明らかであり、のち呉・越・東方の諸族には、長くその俗が残された。

汶(ブン・7画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はmi̯wən(去)。平声の真-明、文-微の音は不明。

論語では、魯と斉の国境を流れる川とされる。
論語 地図 汶水
出典:http://shibakyumei.web.fc2.com/

学研漢和大字典

形声。「水+(音符)文」。

語義

ブン
  1. {名詞}川の名。山東省莱蕪(ライブ)県に源を発し黄河に注ぐ。汶水(ブンスイ)。
ビン
  1. {名詞}山の名。四川(シセン)省北部の岷山(ビンザン)のこと。
ボン
  1. {形容詞}暗い。道理に暗いさま。《類義語》昏(コン)・招(ビン)。「汶汶(モンモン)・(ボンボン)」。

字通

[形声]声符は文(ぶん)。〔説文〕十一上に、泰山より発する魯の水名とする。〔楚辞、漁父〕に「汶汶(もんもん)」の語があり、〔注〕に「垢塵を蒙るなり」とあって、汚れるさまをいう。

聞(ブン・14画)

論語 聞 金文
大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wən(平/去)。現行の書体を『字通』は「聞は戦国期に至ってみえる後起の字である」という。

学研漢和大字典

論語 聞 論語 聞
会意兼形声。門は、とじて中を隠すもんを描いた象形文字。中がよくわからない意を含む。聞は「耳+(音符)門」で、よくわからないこと、へだたったことが、耳にはいること。問(わからないことをとう)と同系。類義語の聴は、まっすぐに耳を向けてききとること。

異字同訓に聞く「物音を聞いた。話し声を聞く。うわさを聞く。聞き流しにする」 聴く「音楽を聴く。国民の声を聴く」。

意味

  1. {動詞}きく。へだたりをとおして耳にする。人の話やよそからの音をきく。《類義語》聴。「風聞」「斉人聞而懼=斉人聞きて而懼る」〔史記・孔子〕
  2. {動詞}きく。きいて関係する。あずかりきく。「必聞其政=必ず其の政を聞く」〔論語・学而〕
  3. {動詞}きこえる(きこゆ)。へだたりをこえてきこえる。「鶏犬之声相聞=鶏犬之声相ひ聞こゆ」〔老子・八〇〕
  4. {名詞}きいて知っている事がら。耳からきいて得た知識。▽去声に読む。《類義語》見。「見聞」「友多聞=多聞を友とす」〔論語・季氏〕
  5. {動詞・名詞}きこえる(きこゆ)。きこえ。評判がたつ。評判。▽名詞のときは去声に読む。「令聞(よい評判)」「在家必聞=家に在りても必ず聞こゆ」〔論語・顔淵〕
  6. {動詞}きく。においをかぐ。「聞香=香を聞く」。

字通

[形声]声符は門(もん)。卜文にみえる字の初形は象形。挺立する人の側身形の上に、大きな耳をしるす形で、望の初文が、挺立する人の側身形の上に、大きな目をしるすのと、同じ構造法である。その望み、聞くものは、神の啓示するところを求める意である。また卜文の聞字に、口のあたりに手を近づけている形のものがあり、これは「以聞(いぶん)(天子に奏上すること)」をいう形であろう。のち昏(こん)声の字となる。〔説文〕十二上に門声の字を正字、昏・昬に従う字を重文とし、「聲を知るなり」(小徐本)と聞知の意とする。聽(聴)・聖の初形は、卜文の聞の初形に、祝詞の器の形である𠙵(さい)を加えたもので、みな神の声を聞く意である。周初の金文の〔大盂鼎〕に「我聞くに、殷の、命(天命)を墜せるは」の聞を䎽の形に作る。その昏は、金文の婚・勳(勲)・■(車+昏)(こん)の従うところと同じく爵の形を含む。神意を聞くときに、そのような儀礼があったのかもしれない。䎽はその形を存するものであろう。聞は戦国期に至ってみえる後起の字である。門は声符であるが、闇・問が廟門において「神の音ずれ(訪れ)」を聞く意であることからいえば、廟門において神の声を聞く意を以て、門に従うものであるかもしれない。

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