夕(セキ・3画)
甲骨文/秦公鎛・春秋早期
初出:初出は甲骨文。
字形:甲骨文の段階では「月」と未分化。中に一画あるものを「夕」、無いものを「月」と区別するとされるが比定は曖昧。論語語釈「月」を参照。「夕」の原義は”夕方”。
音:カールグレン上古音はdzi̯ăk(入)。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義に、金文でも原義に用いた。
学研漢和大字典
象形。三日月を描いたもの。夜(ヤ)と同系で月の出る夜のこと。diak→yiεk→ziεkと変化したもので、夜diag→yiaときわめて近い。▽もとの字体は月と同じだが、ことばとしては別。類義語に暮。付表では、「七夕」を「たなばた」と読む。
語義
- {名詞}ゆう(ゆふ)。ゆうべ(ゆふべ)。日暮れがた。太陽が西にかたむくとき。《対語》⇒朝。「朝聞道、夕死可矣=朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」〔論語・里仁〕
- {名詞}よる。《類義語》夜。「経夕=夕を経」「此夕我心、君知之乎=此の夕の我が心、君これを知るか」〔白居易・与微之書〕
- {動詞・名詞}月をまつる。また、その祭礼。
字通
[象形]夕の月の形。〔説文〕七上に「莫(くれ)なり。月の半ば見ゆるに從ふ」と半月の象とする。卜辞に「卜夕」とよばれるものがあり、王のために毎夕「今夕、𡆥(とが)亡(な)きか」と卜しており、わが国平安期の毎日招魂の礼に近い。殷周期には古く朝夕の礼があり、金文に「夙夕(しゆくせき)を敬(つつし)む」という語がみえ、夙夕に政務が行われた。また大采・小采といい、そのとき会食し、同時に政務をとった。その大采の礼を朝といい、朝政という。〔国語、魯語下〕にも「少采に月に夕す」とあって、その古儀を伝えている。
尺(セキ・4画)
睡虎地秦簡・戦国末期
初出:初出は戦国末期の金文だが、「乇」”寄せ木にぶら下げる”と解すべき字。事実上の初出は戦国最末期の秦系戦国文字。
字形:秦系戦国文字の字形は、おそらく手を広げた形。
音:カールグレン上古音はȶʰi̯ăk(入)で、同音に赤、斥。「シャク」は呉音。
用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」倉律51に「城旦高不盈六尺五寸」とあり、長さの単位と解せる。周代の一尺には大尺と小尺があり、おおむね20cm。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。上古音での同音に長さの単位の語義は無い。
学研漢和大字典
象形文字で、人が手幅で長さをはかる。その手の姿を描いたもの。手ひと幅の長さは二二センチメートル余り。指一本の幅を一寸といい、指十本の幅が一尺に当たる。一つ一つと渡っていく意を含み、度(ド)・(タク)(手幅で計る)・渡(一足一足とわたる)などと同系のことば。
語義
- {単位詞}長さの単位。一尺は十寸。▽周代の一尺は、大尺で二二・五センチメートル。小尺(咫(シ))で一八センチメートル。のち、日本では約三〇・三センチメートル。
- {名詞}ものさし。「刀尺」「巻尺」。
- {形容詞}わずかであるさま。「尺地莫非其有也=尺地も其の有に非ざるはなし」〔孟子・公上〕
- 《日本語での特別な意味》手紙のこと。「尺牘」。
字通
[象形]手の指の拇指(おやゆび)と中指とを展(ひら)いた形。上部は手首、下部は両指を又状に展いた形で、わが国の「あた(咫)」にあたり、寸の十倍。寸は一本の指の幅。わが国の「つか(握、指四本の幅)」の四分の一にあたる。〔説文〕八下に「十寸なり。人の手、十分を卻(しりぞ)きたる動脈を寸口と爲す。十寸を尺と爲す。尺は規榘(きく)(ものさし)の事を指尺(しせき)(斥)する所以なり。尸(し)に從ひ、乙(いつ)に從ふ。乙は識(しる)す所なり。周の制、寸尺咫尋(しじん)常仞の諸度量、皆人の體を以て法と爲す」といい、尺を尸と乙に従う字とするが、それでは字の形義を説きがたい。尺蠖(せきかく)は尺とり虫。指間を展く形が、この虫の進むときの姿勢に似ている。
石(セキ・5画)
鄭子石鼎・春秋中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はȡi̯ăk(入)。呉音は「ジャク」、「シャク・コク」は慣用音。
学研漢和大字典
象形。がけの下に口型のいしのあるさまを描いたもの。碩(セキ)(充実したあたま)・妬(ト)(勘気がいっぱいにつまる)・貯(いっぱい)・堵(ト)(土をつめてかためる)などと同系。類義語の岩は、ごつごつしたいわ。「岩の小さなかけら。いし」の意味では、硬かったり価値がなかったりして役に立たないものにたとえることもある。
語義
- {名詞}いし。質のかたくつまったいし。「岩石」「隕石(インセキ)」。
- {名詞}文字を刻んだ石碑。また、いしでつくった楽器。磬(ケイ)や石鼓など。「金石(古代の青銅器と石碑)」。
- {形容詞}かたくて融通がきかない。働きがなくて不毛である。物が育たず、価値がない。「石田(作物が育たない田地)」「石女(うまずめ)」。
- {単位詞}容量の単位。一石は十斗で、周代では一九・四リットル。▽現代はd!nと読む。担(ひとかつぎの重さ)に当て、タンと読むことがある。また、斛(コク)に当て、コクと読む。
- {名詞}古代の漢方医学で、はり治療に用いた石のはり。石ばり。《類義語》鍼(シン)。「鍼石(シンセキ)(金属や石のはり)」。
- 《日本語での特別な意味》
①容量の単位。一石とは十斗のこと。
②昔、船の大きさの単位。一石は、十立方尺。
③材木の容積の単位。一石は十立方尺。▽「斛」と同じ。
字通
[会意]厂(かん)+口。厂は崖岸の象。口は卜文・金文の字形によると𠙵(さい)に作り、祝禱を収める器の形。〔説文〕九下に「山石なり。厂の下に在り。口は象形なり」と口を石塊の形とするが、嚴(厳)・巖(巌)の従うところも𠙵の形であり、嚴は敢(鬯酌(ちようしやく)の形)に従っており、儀礼を示す字である。宕(とう)は廟、祏(せき)は祭卓の示の形に従い、宗廟の主、いわゆる郊宗石室の神主である。啓母石の神話をはじめ、石に対する古代の信仰を伝える資料が多い。
赤(セキ・7画)
甲骨文/頌鼎・西周末期
初出:初出は甲骨文。
字形は:「大」”身分ある者”を火あぶりにするさまで、おそらく原義は”火祭り”。
音:カールグレン上古音はȶʰi̯ăk(入)。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では人名、または”あか色”の意に用い、金文でも”あか色”に用いた。
論語では孔子の弟子・公西赤子華の名として登場。
学研漢和大字典
会意。「大+火」で、大いにもえる火の色。赭(シャ)(あか)・灼(シャク)(まっかにもえる)・炙(シャ)(火をもやす)などと同系。類義語に紅。
語義
- {名詞}あか。火のもえる、あかい色。▽五行説では、殷(イン)の人は白を、周の人は赤をとうとんだという。また、南の色、夏の色に当てる。《類義語》紅・朱。「近朱者赤=朱に近づく者は赤し」。
- {形容詞}あかい(あかし)。色があかい。まじりけがなく熱っぽい。「赤子」「赤誠(真心)」「赤心」。
- {形容詞}中心にあってたいせつな。▽唐代に県を中央から地方へ赤・畿(キ)・緊(キン)・望と分類した。「赤県神州(セキケンシンシュウ)(中央にあるたいせつな土地の意で、中国のこと。乕衍(スウエン)の用いたことば)」。
- {形容詞}はだかの。なにもないむき出しの。《類義語》空。「赤手(すで)」「赤裸裸」「赤地千里(みわたすかぎりの荒れ地)」。
- {動詞・形容詞}赤い血を流す。血がふき出すようにひどい。「赤舌(ひどい悪口)」「赤族(一族すべてを殺す)」。
- {形容詞}《俗語》共産主義の象徴。共産軍や労働組合が赤を旗じるしとしたことから。「赤軍(中国では紅軍)」。
- 《日本語での特別な意味》あか。あかい(あかし)。共産主義者。また、共産主義の思想をもっていること。
字通
[会意]大+火。〔説文〕十下に「南方の色なり。大に從ひ、火に從ふ」とあり、〔段注〕に南方大明の色の意であるという。大は人の正面形。これに火を加えるのは禍殃を祓うための修祓の方法であり、また、さらに攴(ぼく)を加える赦(しや)は、赦免を意味する字である。〔周礼、秋官、赤犮(せきふつ)氏〕は、火を用いて禍害を防ぐことを掌る。一切を清め終わった心を赤心、一切を失い果てたことを赤貧・赤手のようにいう。
昔(セキ・8画)
合1772/國差𦉜・春秋
初出:初出は甲骨文。
字形:「𡿧」(災)+「日」。「𡿧」は洪水。洪水のあった過去を意味する。甲骨文の字形には部品配置が上下で入れ替わっているものがある。
音:カールグレン上古音はsi̯ăk(入)。
用例:「甲骨文合集」3523に「□昔我舊□之齒今□」とあり、”むかし”と解せる。
備考:下記『字通』によれば原義は”干し肉”で、”むかし”の意に転じたのは仮借。原義を示すための「腊」の字の初出は前漢の武威簡で、王莽の時代の資料と言われている。つまり「昔」→”むかし”の意に確定するのは、前漢末期ということになるが、『字通』そのものがこんにちでは信用しがたい。
学研漢和大字典
会意。「日+しきかさねるしるし」で、時日を重ねたこと。藉(重ねた敷き草)・籍(重ねておく竹簡の書物)・席(重ね敷く敷物)などと同系。また、昨(一つ前に重なった日)とも縁が近い。類義語に古。
語義
- {名詞・副詞}むかし。時日の重なったこと。▽文の最初に抜き出す場合は、「昔者(むかし)」「疇昔(チュウセキ)(むかし)」などという。《対語》⇒今。《類義語》前。「昔日」「昔者、斉景公問於晏子=昔、斉の景公晏子に問ふ」〔孟子・梁下〕
- 「憶昔(オモウムカシ)」とは、唐詩の常用語で、過ぎ去ったことを思い浮かべて歌う意。「憶昔、封書与君夜=憶ふ昔、書を封じて君にあたへし夜」〔白居易・与微之書〕
- {名詞}夜。または前夜。「通昔(一晩じゅう)」。
字通
[仮借]本義は腊肉で、うす切りの肉片と日に従い、腊の初文。旧昔の意に用いるのは仮借。〔説文〕七上に「乾肉なり。殘肉に從ふ。日以て之れを晞(かわ)かす。俎(そ)と同意なり」とあって、腊の意とする。のち旧昔の字に用い、乾肉には形声字の腊が作られた。時を示す今・曾・嘗・未などは、もとみな別にその初義があり、副詞とするのは仮借の用法である。
※「腊」の初出は前漢の武威簡。
析(セキ・8画)
合14161/倗生簋・西周中期
初出:初出は甲骨文。
字形:〔木〕+〔斤〕”おの”。木材を薪割りするさま。
音:カールグレン上古音はsiek(入)。
用例:甲骨文の用例は”東方”、または地名と解されている。
西周中期「格白𣪕」(集成4262)に「則析」とあり、契約の割り符を半分に”裂く”の意に解されている。
学研漢和大字典
会意。「木+斤(おの)」で、木をおので細かに切りわけることを示す。皙(セキ)(分明な)と同系。
語義
- {動詞}さく。べつべつにはなす。また、こまかくわけはなす。「離析」「析薪(セキシン)(たきぎをわる)」。
- {動詞}複雑な事がらをひとつずつわけて明らかにする。「分析」「剖析」。
字通
[会意]木+斤(きん)。卜文の字形は、手斧で枝を落とす形。〔説文〕六上に「木を破(さ)くなり」とし、また「一に曰く、折るなり」という。析薪とは採薪をいう。〔詩〕に採薪の俗を発想とするものが多く、それらは多く祭事・祝頌の詩で、予祝の意をもつものである。
席(セキ・10画)
九年衛鼎・西周中期
初出:初出は西周中期の金文。「国学大師」が「甲骨文合集」1167の字を初文とするが、字形が「因」で”しきもの”の意。
字形:「厂」”屋根”+「巾」布の敷物”。座布団の意。「廿」が加わったのは戦国文字からで、「廿」”にじゅう”ではなく「𠙵」”くち→ひと”の意。座布団に人が座ったさま。
音:カールグレン上古音はdzi̯ăk(入)。近音の類語に「藉」dzʰi̯ăɡ(去)”草で編んだ敷物”。論語郷党篇9語釈参照。
用例:西周中期「九年衛鼎」(集成2831)に「王大黹…畫𩌏。(席)𩌈。帛轡乘。」とあり、身の回りのしつらえであろうと想像できる。春秋時代以前の用例はこの一つのみ。
学研漢和大字典
形声。「巾(ぬの)+(音符)庶(ショ)の略体」で、巾印をつけて座ぶとんを示す。苴(ショ)(敷物)・藉(セキ)(敷き草)と同系。類義語の筵(エン)は、延ばし広げるむしろ。蓐(ジョク)・褥(ジョク)は、柔らかい敷きぶとん。茵(イン)は、草で編んだ敷物。付表では、「寄席」を「よせ」と読む。▽敷物の意味の「むしろ」は「筵」とも書く。
語義
- {名詞}むしろ。がまや、いぐさで編んだ敷物。転じて、広くすわる所や寝る所にしく敷物。《類義語》薦(わらの敷物)。「織席=席を織る」「避席=席を避く」「席不正不坐=席正しからざれば坐せず」〔論語・郷党〕
- {名詞}すわる場所。「同席=席を同じうす」。
- (セキス){動詞}しく。敷物をしく。転じて、前人の働きの上に便乗する。《同義語》藉。「席渓畔=渓畔に席す」。
- {名詞}職務上のポストや成績表の中のポスト。「首席」。
- 《日本語での特別な意味》せき。
①つ落語や講談を演じる場所。寄席。「席亭」
②宴会や会合の場。「席料」。
字通
[会意]初形は广(げん)+蓆の形。室中に席を布く意。〔説文〕七下に「藉(し)くものなり」(段注本)とし、字を庶の省に従うとするが、庶は烹炊の象であるから、関係がない。藉は祭藉。神への供薦のものをおく席。長者との席の間は一丈を函(い)れるので、目上への手紙の脇つけには函丈という。
借(セキ・10画)
璽彙2805
初出:初出は燕系戦国文字。ただし印章の字形であり語義が不明。戦国中末期の「郭店楚簡」には「〔辶+昔〕」の字形で見える。
音:カールグレン上古音はtsi̯ăɡ(去)。同音に「唶」”泣く・歎く”。「シャク」は呉音。
用例:戦国中末期「郭店楚簡」成之37に「唯君子道可近求而〔不〕可遠□(借)也。」とあり、”真似をする”と解せる。
文献時代では論語衛霊公篇26を除き、『荘子』『荀子』『韓非子』に見え、戦国時代に表れた言葉であることを補強する。
論語時代の置換候補:部品の「昔」に”借りる・貸す”の語釈は『大漢和辞典』に無い。『大漢和辞典』の同音同訓に「耤」(藉)、初出は甲骨文。ただし”耕作”の意と人名が確認できるだけで、春秋末期までに”かりる・かす”の用例が無い。
学研漢和大字典
会意兼形声。昔は「重なりを示すしるし+日」の会意文字で、日数を重ねること。借は「人+(音符)昔」で、金・物・力が足りないとき、それを上に重ねて補助すること。金や力を重ね加えてやるの意だから、かす、かりるの両方に用いる。助(ジョ)(力を重ね加える)・苴(ショ)(重ね敷く)・藉(シャ)・(セキ)(重ね敷く)と同系。
語義
セキ
- {動詞}かりる(かる)。人のものをかりる。「尽借巴人之車=尽く巴人の車を借る」〔春秋左氏伝・定九〕
- {動詞}かす。人にものをかす。「有馬者借人乗之=馬有る者は人に借してこれに乗らしむ」〔論語・衛霊公〕
シャ
- {動詞}固有のものではなく、かりにあてがう。「仮借」。
- 「借問(シャモン)」とは、「ちょっとお尋ねしたい」の意。▽唐詩で用いられる慣用語。《同義語》⇒且問。「借問酒家何処在=借問す酒家は何処に在りや」〔杜牧・清明〕
字通
[形声]声符は昔(せき)。〔説文〕八上に「假(か)るなり」とあり、他の力によることをいう。〔詩、大雅、抑〕「借(たと)ひ未だ知らずと曰ふも」のように、古くから仮令(たとい)の意にも用いる。
戚(セキ・11画)
甲骨文/戈戈火姬簋・西周中期
初出:初出は甲骨文。
字形:甲骨文の字形は、刃がノコギリ状になったおのの象形で、原義は”おの”。西周の金文から字形が急変し、「尗」”豆(のように小さい)”+「戈」”カマ状のほこ”と記される。現伝の字形はこの系統。両者の字形を古文字学者が同一文字に比定した理屈は分からない。戦国から前漢に掛けての字形は、「冊」”のこぎり”+「戈」であり、甲骨文の意匠を引き継いでいる。
音:カールグレン上古音はtsʰ(入)。藤堂上古音はts’ök”。
用例:「甲骨文合集」31036.2に「于丁亥奏戚不雨」とあり、”憂える”と解せる。
春秋末期までの金文では、器名・人名または氏族名の例しか確認できない。
「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義に、金文では氏族名に(戚姬簋・西周)、戦国の竹簡では”憂う”、人名に、前漢の帛書で”親戚”の意に用いた。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、尗は、まめの細いつるで、小さく縮んだ意を含む。戚は「戉(まさかり)+〔音符〕尗(ちいさい)」で、もと小さい手おののこと。促(ソク)(身近にせまる)に当てて、身近な親戚の意に用い、寂(セキ)(心細い)に似た意に用いて、心細く思いわずらう意となった。原義のままではあまり用いられない。
語義
- {名詞}みうち。ごく身近な人の意から、親戚(シンセキ)の意。▽特に、女の縁でつながる親戚。「外戚(ガイセキ)」「国戚(コクセキ)(皇室と縁組している親族)」。
- {動詞}うれえる(うれふ)。身近にひしひしと感ずる。思いわずらう。細かく小さく心をくだく。「戚戚(セキセキ)(くよくよするさま)」「小人長戚戚=小人は長に戚戚たり」〔論語・述而〕
- {名詞}うれい(うれひ)。思いわずらい。心配。「休戚相関=休戚相ひ関す」「自詒伊戚=自ら伊の戚を詒す」〔詩経・小雅・小明〕
- {名詞}おの(をの)。まさかり。小さい手おの。のち、武楽の舞のとき、手に持って舞うおの。「朱干(シュカン)、玉戚(ギョクセキ)(朱塗りの楯(タテ)と玉の斧)」〔礼記・明堂位〕
字通
[形声]声符は尗(しゆく)。尗は戚(まさかり)の頭部の形画像に、刃光の下放するさまを加えたもの。尗に戈を加えて、戉戚の象とする。〔説文〕十二下に「戉(ゑつ)なり」とあり、鉞(まさかり)の意。〔詩、大雅、公劉〕「干戈(かんくわ)戚揚(せきやう)あり」の〔伝〕に、「戚は斧なり。揚は鉞(まさかり)なり」とあり、戚は楽舞に用いた。〔礼記、文王世子〕に「大樂正は、干戚(かんせき)を舞ふこと~を學(をし)ふ」、また〔礼記、楽記〕「干戚羽旄(うばう)」、〔礼記、明堂位〕「朱干玉戚」など、干(たて)と戚とを以て武舞を舞う。〔左伝、昭十二年〕に圭玉を削って戚の柲(ひつ)(柄を装着するところ)とする話があり、戚は多く儀器として用いられた。
惜(セキ・11画)
説文解字・後漢
初出:初出は戦国の竹簡。「小学堂」による初出は後漢の説文解字。前漢中期の定州漢墓竹簡・論語子罕篇21の現伝論語「惜」部分は、判読不能になっている。
字形:〔忄〕”こころ”+音符「昔」。
慶大蔵論語疏では異体字「𢛻」と記す。「日」が「月」になっている。上掲「故夫人杜氏墓誌銘」(唐)刻。
音:カールグレン上古音はsi̯ăk(入)。同音は「昔」とそれを部品とする「腊」”ほじし”、「舄」”カササギ”とそれを部品とする「潟」。「シャク」は呉音。
用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」競公瘧03では「夕」を「惜」と釈文している。
「清華大学蔵戦国竹簡」清華一・祭公08では「惜」を「措」と釈文している。
文献上での初出は論語子罕篇21。
論語時代の置換候補:上古音の同音に語義を共有する字は無い。部品の「昔」に”惜しむ”の語釈は大漢和辞典に無い。『大漢和辞典』に同音「セキ」同訓は存在しない。近音「ソク」(呉音「シキ」ʂək入)同訓「嗇」の初出は甲骨文だが、語義は”ざんねんがる”ではなく”ケチケチする”の意。しかもその語義の初見は戦国末期の『荀子』仲尼篇に「吝嗇」と見えるもので、西周の金文、戦国の竹簡までは”倉庫に穀物を仕舞う”の意だった。なお甲骨文では人名に用いた。
学研漢和大字典
会意兼形声。昔(セキ)は、日が重なることで、重なる意を含む。惜は「心+(音符)昔」で、一度きりでは忘れ去らず、心中に残り重なって思いがつのること。類義語の吝(リン)は、けちけちすること。嗇(ショク)は、自分の手に取りこんで出さないこと。愛は、おしくて胸の詰まる思いのすること。
語義
- {形容詞}おしい(をし)。いつまでも心が残って、残念だ。もったいない。「惜乎=惜しい乎」〔論語・子罕〕
- {動詞}おしむ(をしむ)。もったいないと思う。思い切れず、残念がる。また、大切にする。「愛惜(アイセキ)」「可惜=惜しむべし」「洛陽女児惜顔色=洛陽の女児顔色を惜しむ」〔劉廷芝・代悲白頭翁〕
- {副詞}おしむらくは(をしむらくは)。文の初めにつけて、おしいことにはの意をあらわす。「惜未知兵法=惜しむらくはいまだ兵法を知らず」〔日本外史・義家〕
字通
[形声]声符は昔(せき)。〔説文〕十下に「痛むなり」とあり、痛惜の意とし、〔広雅、釈詁一〕に「愛(をし)むなり」とあって愛惜の意とする。昔声の字に数しげく乱れる意があり、いくたびも思いかえすような情をいう。
跡(セキ・13画)
「𢓣+止」(𨒪)師㝨簋・西周末期
初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は〔𢓣+止〕。現行字形の初出は論語先進篇19の定州竹簡論語。
字形:初出の字形は「彳」”道”+「朿」”貫く”+「止」”足”。道をその通りに進むさま。
音:カールグレン上古音はtsi̯ăk(入)。同音に「借」、「踖」”ふむ”。
用例:西周末期「師㝨簋」(集成4313)に「弗𨒪東䧕」とあり、”道をたどる”と解せる。
戦国最末期「睡虎地秦簡」封診1に「治獄,能以書從跡其言」とあり、”形跡”と解せる。
学研漢和大字典
会意。亦は、胸幅の間をおいて、両わきにあるわきの下を示す指事文字。腋(エキ)の原字。跡は「足+亦」で、○‐○‐○と間隔をおいて同じ形の続く足あと。類義語の痕(コン)は、根を残す傷あと。蹤(ショウ)は、縦に細長く続く足あと。址(シ)は建造物の土台が残ったもの。異字同訓にあと 跡「足の跡。苦心の跡が見える。容疑者の跡を追う。跡目を継ぐ」 後「後の祭り。後を頼んで行く。後から行く。後になり先になり」。「蹟」の代用字としても使う。「跡・手跡・史跡・奇跡・真跡・筆跡・旧跡・古跡・遺跡」。
語義
- {名詞}あと。○‐○‐○型に、同じ間をおいて点々と続く歩いたあと。転じて、足あと。《同義語》⇒迹(セキ)・蹟(セキ)。「足跡」「踪跡(ソウセキ)(たてに長く続く足あと→ゆくえ)」。
- {名詞}あと。物があったあと。また、物事が行われたあと。《同義語》⇒蹟・迹。「筆跡(=筆蹟)」。
字通
[形声]正字は〔説文〕二下に迹(せき)の重文としてあげる𨒪・蹟。迹・跡はその俗字。〔説文〕に「迹は歩む處なり」と歩迹の意とする。字の初形𨒪・蹟の形義によっていえば、朿(せき)は神聖な表木で征服支配、貝はその地より徴する賦貢、その徴する織物を績、農穀を積という。その支配の遂行を成蹟という。亦は朿の譌形。本来は政治的意味をもつ字であるが、のち、あしあとの意に用いる。
皙(セキ・13画)
説文解字・後漢
初出:初出は後漢の説文解字。戦国最末期「睡虎地秦簡」封診60では「析」の字形を「皙」と釈文する例がある。
字形:「析」”薪を割る”+「白」。薪の白い木肌のさま。
音:カールグレン上古音はsiek(入)。同音は「錫」、「析」”裂く”、「裼」”肩脱ぐ”、「緆」”細布”、「淅」”米をとぐ”。
用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」封診60では「析」と記し”肌が白い人”の意に用いた。文献上では論語先進篇25のほか『孟子』に曽子の父の名として見える。『春秋左氏伝』にも用例があり、”白い”と解せる。
論語時代の置換候補:上古音の同音に語義を共有する漢字は無い。『大漢和辞典』の同音同訓は、自他半分が「日」になった異体字の「晢」のみで、初出は後漢の説文解字。古文には「晣」の字形も見えるが年代不詳。
備考:論語では曽子の父、曽点子皙(皙は下記の通り肌が白いこと)のあざ名として登場するが、そもそも曽子は孔子の弟子ではないし、父親はなおさらで、おそらく漢代になって創作された人物。その結果名前の表記も揺れている。『史記』弟子伝では「曾蒧字皙」とあるが(蒧は草の名)、早くから異論があったことが『論語集釋』より知れる。史記の異本では「曾𪒹字皙」とあり、𪒹は”顔が黒い”ことで、いみ名とあざ名が対応しない。イシダイではあるまいし、白黒段だら模様の顔など想像も付かない。
学研漢和大字典
会意兼形声。「白+(音符)析(セキ)(くっきりとわける)」で、くっきりと区分されてしろいこと。▽晳(セキ)は、別字。
※晳:あきらか。下が”白”ではなく”日”。
語義
- {形容詞}しろい(しろし)。くっきりと浮き出てしろいさま。「白皙(ハクセキ)」。
字通
[形声]声符は析(せき)。〔玉篇〕に折(せつ)声の晣を正字とし、晢を重文として録し、「明らかなり」という。また制(せい)声の字をも録している。〔説文〕七下に白に従う皙の字があり、「人の色白きなり」という。〔論語〕にみえる曾子の父曾点(點)は、字は子皙、色の黒白によって対待の義をとり、名字とする。皙はのち晳の形に誤記されることが多く、また晰とも混用されるが、晰は日光の昭晰なること、皙・晳は人の色白であることをいう。
踖(セキ・15画)
説文解字・後漢
初出:初出は後漢の説文解字。
字形:「𧾷」+「昔」。「昔」の字形は水平線に沈んだ太陽のさま。全体で沈み行くような小刻みな足取りのさま。
音:カールグレン上古音はtsi̯ăk(入)。同音に「借」「跡」。
用例:文献上の初出は論語郷党篇2。前漢中期『塩鉄論』にも見える。
論語時代の置換候補:上古音の同音字は、”小刻み”の語義を持たない。『大漢和辞典』に同音同訓字は無い。
学研漢和大字典
会意兼形声。「足+(音符)昔(セキ)(しきかさねる)」。
語義
セキ(入)
- {動詞}小きざみに足ぶみする。小またで、ちぢこまって歩く。
- 「踖踧(セキシュク)」「踧踖(シュクセキ)」とは、身をちぢめてつつしむさま。
セキ(入)
- {動詞}ふむ。下にしいてふむ。《同義語》⇒藉。
字通
[形声]声符は昔(せき)。〔説文〕二下に「長脛にて行くなり」という。〔礼記、曲礼上〕に「席を踖(ふ)むこと毋(なか)れ」とあり、〔爾雅、釈訓〕に「踖踖は敏なり」とみえ、足早にふみ歩く意。趞と声義の近い字である。〔論語、郷党〕「君在(いま)すときは、踧踖如(しゆくせきじよ)たり」とは、足をすくめて歩くような恭敬の状をいう。
切(セツ・4画)
武威簡・前漢/「七」甲骨文
初出:現行字体の初出は前漢の隷書。
字形:「七」たてよこに刻んだ切り目+「刀」。原義は”切る”。
音:カールグレン上古音はtsʰiet(入)で、同音は無し。去声の音は不明。
用例:論語以降の文献では、『列子』湯問篇に「其劍長尺有咫,練鋼赤刃,用之切玉如切泥焉。」とある。また『荀子』勧学篇に「學莫便乎近其人。禮樂法而不說,詩書故而不切,春秋約而不速。」とある。
論語時代の置換候補:存在しない。「七」は戦国時代までは全て数字の”なな”で、”切る”と解せる用例が無い。
備考:論語子路篇28の定州竹簡論語では「」と記すが、この字は『大漢和辞典』にも記載が無い。
ただし旁はおそらく「丰+心」で、「丰」は『学研漢和大字典』に「散乱した草」というが、これは別字「丯」の語義。『字通』に「草木のさかんに茂るさま」と言い、「金文の字形は、禾の穂が高く伸びる形に作る」という。現代中国語では「豊」の簡体字として用いる。
従って「」は、心豊かに言う言葉、心のこもった言葉と解せる。
音については、会意・形声ともに旁が優先するのが通常だから、「丰」または「心」いずれかと思われる。いずれであるかは、被修飾部より修飾部が優先されるのが通常だから、「ホウ」と思われる。
学研漢和大字典
会意兼形声。七は、┃印の中ほどを━印できりとることを示す指事文字。切は「刀+(音符)七」で、刃物をぴったりときり口に当ててきること。類義語の断は、上から下へと、ずばりときり離すこと。絶は、途中でぷつりときること。剪(セン)は、刀で端をそろえてきること。載(サイ)・截は、きって小さくすること。斬は、刃が食いこんできれめをつけること。斯は、ばらばらにきり離すこと。伐は、刃物で二つにきること。
語義
- {動詞}きる。刃物をぴたりと当て、切れめをきれいにきる。「抜剣切而啗之=剣を抜き切りてこれを啗ふ」〔史記・項羽〕
- (セッス){動詞}骨を刃物できったりこすったりして、細工する。「如切如磋、如琢如磨=切するがごとく磋するがごとく、琢するがごとく磨するがごとし」〔詩経・衛風・淇奥〕
- (セツナリ){形容詞}刃物をじかに当てるように、ぴたりとくっついて膚にこたえるさま。「懇切」「親切(身近についてゆきとどく)」「切問而近思=切に問ひて而近く思ふ」〔論語・子張〕《類義語》親・即。
- (セツナリ){動詞・形容詞}せまる。片時も休まずせきたてる。すぐ目前にくっついているさま。「切迫」「秋吟切骨玉声寒=秋吟は骨に切りて玉声寒し」〔白居易・酬厳郎中詩〕
- (セツニ){副詞}痛切にいう、との意から、打ち消しや禁止を強めることばとなった。けっして。「切不可為=切に為すべからず」。
- 「切脈(セツミャク)」とは、漢方で医者が脈を見ること。
- 「諷切(フウセツ)」「譏切(キセツ)」とは、相手をちくりときるように責めてけなすこと。
- {名詞}中国に古くからある漢字音の表記法の一つ。たとえば、東の音は「徳紅の反」「徳紅の切」のように、徳で子音 t を示し、紅で母音uxを示す。この発音のあらわし方を「反切(略して切)」という。▽「ぽま」の現代音は(gi.)「み~や」は(gi))と読む。
- 「一切(イッサイ)」とは、すべての意。
- 《日本語での特別な意味》
①きれ。布や紙のきれ端。転じて、布のこと。
②きり。きれ。くぎれ。「切りが悪い」「幕切れ」。
字通
[会意]七+刀。〔説文〕四下に「刌(き)るなり」とし、七(しち)声とするが、七は骨節の形。膝のような部分をいう。そこを切り離して分解する。〔詩、衛風、淇奥(きいく)〕「切するが如く磋(さ)するが如し」の〔伝〕に、「骨を治するを切と曰ふ」とみえる。切断には殊に注意と技術とを要するので、緊切・切要の意となる。
舌(セツ・6画)
合19092/舌方鼎・殷代末期
初出:初出は甲骨文。
字形:「水」+「丫」”二股の舌”+「𠙵」”くち”。ヘビが舌を濡らして口から出している様。
音:カールグレン上古音はʰi̯at(入)。「ゼツ」は呉音。
用例:「甲骨文合集」13634正.0に「甲辰卜古貞疾舌惟有□」とあり、”した”と解せる。
同17410正.2に「辛亥卜古貞王夢有舌惟之」とあり、”告げる”と解せる。
殷代末期の金文では、族徽(家紋)の一部として見られる。
西周の事例は、全て人名と解せる。
戦国最末期「睡虎地秦簡」日甲74正壹に「取妻,妻多舌。生子,貧富半。」とあり、”しゃべる”と解せる。
学研漢和大字典
会意。「干(おかして出入りする棒)+口」で、口の中から自由に出入りする棒状のしたをあらわす。▽舌(カツ)(活・括に含まれる)とは別字だが、楷書(カイショ)では混同される。達(自由に出入りする)と同系。「楽器などの、振動して音を出すもの」の意味の「した」は「簧」とも書く。
語義
- {名詞}した。口中で自由に動くした。「舌頭」。
- {名詞}ことばを話すこと。▽舌でものをいうことから。「饒舌(ジョウゼツ)(おしゃべり)」「舌人」「駟不及舌=駟も舌に及ばず」〔論語・顔淵〕
- {名詞}した。器の中で自由に動くもの。鐘や吹奏楽器の中の振れる所など。
字通
[象形]口中より舌が出ている形。卜文の字形は舌端が分かれている。〔説文〕三上に「口に在りて言ひ、味を別つ所以(ゆゑん)の者なり」(段注本)とし、また「干口に從ふ。干は亦聲なり」とするが、形も声も異なる。〔段注〕に「言は口を犯して之れを出だし、食は口を犯して之れに入る」と干犯の義を説くが、拘泥の説である。〔六書略〕に「吐舌の形に象る」とするのがよい。卜文の聞・㱃には、口舌の形をそえている。
折(セツ・7画)
合7923/翏生盨・西周末期
初出:初出は甲骨文。
字形:「斤」”おの”+「木」2つで、刃物で木を二つに断つさま。
音:カールグレン上古音はdʰi̯ad(平)またはȶi̯atまたはȡi̯at(共に入)。
用例:甲骨文の用例は欠損がひどく語義を判定しがたい。ただし「在折」の用例が2例あり、地名の可能性がある。
西周早期「小盂鼎」(集成2839)に「折嘼于□」とあり、”斬る”と解せる。
西周末期「毛公鼎」(集成2841)に「母(毋)折緘」とあり、”ふさぐ”と解せる。
学研漢和大字典
「折」は会意文字で、「木を二つに切ったさま+斤(おのできる)」。ざくんと中断すること。▽析(セキ)(ばらばらに離す)・拆(タク)(たたき割る)は、別字。
語義
- {動詞}おる(をる)。中ほどでざくんと木や骨をおる。また、おりたたむ。「折柳=柳を折る」「折頸而死=頸を折りて死す」〔韓非子・五蠹〕
- {動詞}おる(をる)。くじく。途中で中断する。「挫折(ザセツ)」「面折(面と向かって相手の気勢をくじく)」「折節=節を折る」「百敗而其志不折=百敗すれども其の志折けず」〔蘇轍・三国論〕
- {動詞}おる(をる)。がくんと曲げる。おれ曲がる。「転折」「折腰=腰を折る」。
- (セッス){動詞}さだめる(さだむ)。判定をくだす。さばく。「折獄(セツゴク)(刑をきめる)」「君子以折獄致刑=君子は以て獄を折め刑を致す」〔易経・豊〕
- {動詞}命がたえる。死ぬ。「夭折(ヨウセツ)(若いのに命が中断される。若死にすること)」。
- {動詞}損をする。▽この場合の中国音はsh.。「折本(セッホ°ン)(元手に食いこむ)」「良賈不為折閲不市=良賈は折閲の為にとて市せずんばあらず」〔荀子・修身〕
- {動詞}《俗語》換算して値を決める。「折色(南から北へ運河で運ぶ米を、銀に換算して納める)」。
- {単位詞}《俗語》割引。一割引を九折(九掛け)という。《類義語》扣(コウ)。「折扣(セッコウ)」。
- 《日本語での特別な意味》
(1)おり(をり)。そのとき。また、機会。「お会いした折に」「折をみて」。
(2)おり(をり)。おり箱。
字通
[会意]初形は㪿に作り、両屮(てつ)+斤。両屮(草)を手にもつ形は芻(すう)で、蒭の初文。斤を加えて草木を折断することを折という。〔説文〕一下に「斷つなり。斤もて艸を斷つに從ふ」とあり、金文の字形と合う。金文に「大巫司誓」を「大無𤔲折(しせい)」に作り、折は誓と声義の通ずる字。草木などを折ることが、誓約に関する行為であった。「矢誓」というときの矢は「矢(ちか)う」とよみ、その誓の初文は、矢を折る形にしるす。
竊/窃(セツ・9画)
包2.120・戦国
初出:初出は楚系戦国文字。異体字の「窃」も論語の時代に存在しない。
字形:初出の字形は「戈」二つ+「攵」”うつ”+「米」で、武装して穀物を奪う事か。
音:カールグレン上古音はtsʰiat(入)で、同音は存在しない。近音同訓も存在しない。
用例:戦国中末期「郭店楚簡」121に「(小人)不信(竊)馬」とあり、”ぬすむ”と解せる。
同成之19に「古(故)君子所(復)之不多,所求之不(遠),竊反者(諸)(己)」とあり、”ひそかに”あるいは”切実に”と解せる。
論語時代の置換候補:結論として存在しない。
音セツ訓ひそかには他に存在しない。訓ぬすむに「𥧼」があるが、初出不明。
新字体の部品「切」tsʰiet(入)と音が近く、「切」に”ねんごろ・ていねい・つつしむ・せまる”の語釈が『大漢和辞典』にあるが、春秋末期までに”ねんごろ・ていねい・つつしむ・せまる”の語義は確認できない。論語語釈「切」を参照。
学研漢和大字典
会意兼形声。原字は「穴(あな)+廿(両手を示す形の変形)+米+虫」の会意文字で、穴にしまった米を、虫が人知れず食いとることを示す。窃は「穴+(音符)切」で、すばやく一部を切りとること。切(さっと一部分をきりとる)・疾(すばやい)などと同系。類義語の偸(トウ)は、中みを抜きとる。盗は、討(さがし求める)と同系で、ほしい物をさぐってぬすみとること。「ぬすむ」は普通「盗む」と書く。また、「ひそか」は「密か」「私か」とも書く。
語義
- {動詞・名詞}ぬすむ。ぬすみ。人に気づかれず、そっとすばやく人のものをとる。また、ぬすみ。また、その人。《類義語》盗・偸(トウ)。「剽窃(ヒョウセツ)(他人の文を人知れずぬすみまねる)」「攘窃(ジョウセツ)(入りこんでぬすむ)」「窃命=命を窃む」「雖賞之不窃=これを賞すと雖も窃まず」〔論語・顔淵〕
- {副詞}ひそかに。→語法「①」。
- {副詞}ひそかに。→語法「②」
語法
①「ひそかに」とよみ、「人知れず」「こっそり」と訳す。「窃比我於老彭=窃(ひそ)かに我を老彭に比す」〈こっそり自分を老彭(の態度)に比べている〉〔論語・述而〕
②「ひそかに」とよみ、「私個人としては」「自分勝手にいえば」と訳す。私見を述べる場合の謙譲の意を示す。「窃為大王不取也=窃(ひそ)かに大王の為に取らざるなり」〈勝手な言い分ながら、大王(項羽)のためにとりあげません〉〔史記・項羽〕。「窃謂=窃かに謂へらく」「窃以為=窃かに以為へらく」。
字通
[会意]旧字は竊に作り、穴+米+禼(せつ)。禼は小さな虫の集まる形。穀中の小虫が穀実を食いあらし、外面からは気づかれないような状態を竊という。ゆえにひそかに盗む意がある。〔説文〕七上に「盜、中より出づるを竊と曰ふ」とし、「禼・廿(じふ)は皆聲なり。廿は古文疾、禼は古文偰(せつ)なり」とするが、字は土倉中の穀が蠹食(としよく)されるさまを示す字である。蠹の初文は東(槖(ふくろ)の象形)の中に虫のいる形。囊中の穀が蠹食されることを蠹といい、倉中の穀が蠹食されることを竊という。
※蠹:キクイムシのたぐいで、食い荒らして穴を開ける虫を言う。
梲(セツ/タツ・11画)
『説文解字』篆書
初出:初出は後漢の『説文解字』。
字形:「木」+「兌」”抜け出る”で、突き出した柱のさま。原義は”うだつ”。
音:「セツ」の音で”うだつ”=”梁の上の短い支柱”を意味し、「タツ」のおとで”つえ”を意味する。カールグレン上古音はȶi̯wat(入)。同音は「拙」(入)”つたない”のみ。入声で入-没、入-末の音は不明。
用例:戦国末期の『荀子』礼論篇に「凡禮,始乎梲,成乎文,終乎悅校。故至備,情文俱盡;其次,情文代勝;其下復情以歸大一也。」とある。”梲”では意味が通じない。金谷本では「脱」とする。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で訓うだちに「棳」(初出不明)、「檽」」(初出不明)。
「兌」が”抜け出る・突き出す”の語義を獲得するのは、戦国時代まで時代が下る。論語語釈「兌」を参照。
備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報が無い。
学研漢和大字典
会意兼形声。「木+(音符)兌(ぬけ出る)」で、ぬけ出た棒や支柱。
語義
セツ
- {名詞}うだち。うだつ。家のはりの上に出た短い支柱。「山節藻貯=節を山にし貯に藻けり」〔論語・公冶長〕
タツ
- {名詞}つえ(つゑ)。ふところにしのばせてぬき出す護身用の棒。しこみづえ。
字通
[形声]声符は兌(えつ)。兌に説(せつ)の声がある。〔説文〕六上に「木杖なり」とある。〔爾雅、釈宮〕「梁~の上楹、之れを梲と謂ふ」とあり、梁上の短柱をいうのは、また別の一義。
紲(セツ・11画)
老子乙195上・前漢
初出は前漢の隷書。カールグレン上古音はsi̯at(入)。字形は「糸」+「世」。「世」の同音に「勢」があり、「太に通ず」と『大漢和辞典』はいう。全体でふとい綱のこと。
論語公冶長篇1の唐本は、太祖李世民の名をはばかって「絏」と書いたと武内本に言う。唐石経では、確かに「絏」へと書き換えられている。
学研漢和大字典
形声。「糸+(音符)世(セイ)」。長いひもをつけて引っぱること。拽(エイ)(ずるずると引く)と同系。
語義
- {名詞}きずな(きづな)。犬馬や罪人をつなぐつな。《同義語》⇒緤・絏。「羈紲(キセツ)(きずな)」。
- {動詞}つなぐ。つながれる(つながる)。俘虜(フリョ)・罪人をひもでつなぐ。また、俘虜・罪人としてつながれる。「何事紲塵羈=何事ぞ塵羈に紲る」〔陶潜・飲酒〕
字通
[形声]声符は世(せい)。世に泄(せつ)の声がある。〔説文〕十三上に「系なり」とし、〔左伝、僖二十四年〕「臣、覊紲(きせつ)を負ふ」の文を引く。覊紲は馬の手綱。〔礼記、少儀〕に「犬には則ち紲を執る」とあり、犬にもいう。獄に繋がれることを縲紲(るいせつ)という。紲袢(せつぱん)は夏のうすい肌襦袢で、また別義。唐の太宗世民の名を避けて、泄を洩、紲を絏に作り、その字体の字も用いられている。
絏(セツ・12画)
初出:初出は不明。事実上、唐石経『論語』。同義語の「紲」の初出は前漢の隷書。
字形:「糸」+「曳」で、ものを引っ張るつな。「紲」は「糸」+「世」ɕi̯ad(去)で、「世」は音符。
音:カールグレン上古音は不明。藤堂上古音は泄と同じで、siat(入)またはdiad(去、頭のdの下に○)。「紲」のカ音はsi̯at(入)、藤音はsiat(入)。
用例:「絏」の論語以降の再出は『管子』に「絏繑而踵相隨」とある。「紲」は『国語』晋語に「從者為羈紲之仆」とある。
論語時代の置換候補:存在しない。『大漢和辞典』で「絏」の音セツ訓きずな/ひもに「緤」初出は前漢の隷書。訓きずなに「紲」。訓すなぐに「綴」初出は後漢の『説文解字』。
学研漢和大字典
会意兼形声。「糸+(音符)曳(エイ)(横にひきのばす、ひっぱる)」で、横にひっぱる意を含む。拽(エイ)(横にひきのばす)・世(横にのびた一連の年)と同系。
語義
- {名詞}きずな(きづな)。馬を引くなわ。《同義語》⇒紲。
- 「縲絏(ルイセツ)」とは、罪人をしばる長いなわ。また、転じて牢屋(ロウヤ)。「雖在縲絏之中、非其罪也=縲絏の中に在りと雖も、其の罪に非ざるなり」〔論語・公冶長〕
字通
[形声]声符は世(せい)。世に泄(せつ)の声がある。〔説文〕十三上に「系なり」とし、〔左伝、僖二十四年〕「臣、覊紲(きせつ)を負ふ」の文を引く。覊紲は馬の手綱。〔礼記、少儀〕に「犬には則ち紲を執る」とあり、犬にもいう。獄に繋がれることを縲紲(るいせつ)という。紲袢(せつぱん)は夏のうすい肌襦袢で、また別義。唐の太宗世民の名を避けて、泄を洩、紲を絏に作り、その字体の字も用いられている。
絕/絶(セツ・12画)
合780/倗生簋・西周中期
初出:初出は甲骨文。
字形:「糸」+「刀」。糸を切るさま。「斷」(断)=「㡭」+「斤」”おの”と発生を同じくする字で、「㡭」もまた「糸」+「刀」。戦国文字までは両者は混用されている。戦国最末期の「睡虎地秦簡」から「巴」”うずくまった人”が付け加わる。斬首刑のさまを記すか。
音:カールグレン上古音はdzʰi̯wat(入)で、同音は無い。「ゼツ」は呉音。
用例:「甲骨文合集」780.5に「鼎(貞):奠于丘(絕)。」とあるが、”たつ”であろうと想像できるのみ。何を絶ったのか分からない。
西周中期「格白𣪕」(倗生簋)(集成4262・4265)に「殷厥糿谷。」とあり、「糿」は「絕」と釈文されているが、”たつ”であろうと想像できるのみ。金文はこの例のみが知られる。
学研漢和大字典
会意。「糸+刀+卩(セツ)(節の右下)」で、刀で糸や人を短い節に切ることを示す。ふっつりと横に切ること。右側の部分は、もと色ではなくて刀印を含む。卩は、また、人の姿と解してもよい。脆(セイ)(もろくて切れやすい)・最(きわめて小さいこま切れ)などと同系。類義語に切。異字同訓に断。
語義
- {動詞}たつ。ずばりと横にたち切る。つながりを切る。《対語》⇒継。《類義語》断。「断絶」。
- {動詞}たつ。たち切ってやめる。また、関係をたち切る。切りすてる。きっぱりことわる。「絶交」「絶聖棄智=聖を絶ち智を棄つ」〔老子・一九〕
- {動詞}たつ。たえる(たゆ)。物が切れてとだえる。「絶命」「読易韋編三絶=易を読みて韋編三たび絶つ」〔史記・孔子〕。「在陳絶糧=陳に在りて糧を絶つ」〔論語・衛霊公〕
- {動詞}わたる。直線的に横切る。「絶漠=漠を絶る」。
- {名詞}ふっつりとなくなること。死のこと。「就絶=絶に就く」。
- {形容詞}たえてないほど、非常にすばらしい。《類義語》殊。「絶景」「絶色」。
- {形容詞}人がいない。「絶域」。
- {副詞}非常に。また、ひどく。「絶賛」「秦女絶美」〔史記・伍子胥〕
- {副詞}たえて。下に「不」「無」など否定のことばをともなって、完全にそうであるさまをあらわすことば。まったく。《類義語》断(ダンジテ)・決(ケッシテ)。「絶不可得=絶えて得べからず」「絶無僅有=絶えて無く僅かに有り」。
- 「絶対」とは、もと、相対する例がないこと。転じて、まったくの意。
- {名詞}「絶句」の略。四句より成る、漢詩の一体。六朝時代末期から唐代にかけて流行した。「五絶(五言絶句)」。p;:
字通
[形声]声符は色(しよく)。色に脃(ぜい)の声がある。〔説文〕十三上に「斷絲なり。糸に從ひ、刀に從ひ、卩(せつ)に從ふ」とあり、〔段注〕に卩声の字とするが、字は明らかに色に従う。金文に字をに作り、〔説文〕に古文としてその字形を録する。絶は色糸の意であろうが、染色のため脆弱となることがある。またその色の絶妙の意がある。おそらくに代わって、のち、その字が行われたものであろう。
節(セツ・13画)
鄂君啟車節・戦国中期/子禾子釜・戦国
初出:初出は戦国時代の金文。
字形:字形は「⺮」+「卽」”満腹のさま”で、膨れた竹の節のさま。原義は”ふし”。
音:カールグレン/藤堂上古音はtsiest(入)/tset。カールグレン音による同音は存在しない。
用例:「漢語多功能字庫」によると、戦国の金文では”控え包む”(中山王壺・戦国初期)、”通行証”(鄂君啟車節・戦国中期)の意に用いた。
論語時代の置換候補:
「𠬝」(甲骨文)
『広韻』で声調・韻目・字母を同じくする「𠬝」(フク/セツ、上古音不明)(節=”はた”を手にして治める)があり、カ・藤上古音共に不明だが、初出は甲骨文。字形はひざまずいた人+「又」”手”で、降服した人の頭を押さえつけて下げさせるさま。原義は”征服”・”降服”。”征服される”・”降服する”とも解せる。漢字では立場の違いを超えて意味を表すものがあり、「乱」に”おさめる”・”乱れる”の両義があるのが一例。
「漢語多功能字庫」𠬝条によると、甲骨文で”征服する”、”捕虜・奴隷”、”いけにえ”を意味し、金文では異民族の首領の名に見える(㝬鐘・西周)という。ただし”節約”の用例は春秋末期までに見られない。
学研漢和大字典
会意文字。即(ソク)は「ごちそう+ひざを折ってひざまずいた人」の会意文字。ここでは「卩」の部分(ひざを折ること)に重点がある。節は「竹+ひざを折った人」で、ひざをふしとして足が区切れるように、一段ずつ区切れる竹のふし。⇒即。膝(シツ)(関節で区切れるひざ)・切(小さくくぎる)・屑(セツ)(小さく区切れた物)などと同系のことば。異体字「節」は人名漢字として使える。
語義
- {名詞}ふし。竹のふし。さかいめがあって、ひとふしずつ区切れた部分。また、竹のひとふしを割ってつくったひょうし木。「盤根錯節」「関節」「撃節=節を撃つ」。
- {名詞}ふし。音楽の調子。ひと区切りずつのリズムに乗る音曲のひとふし。「節奏」。
- {名詞}一年を時候の変わりめで区切った区分。▽一年を二十四節に区切る。「季節」「節季」。
- {名詞}季節や生活の区切りとなる祝日。「節会(セチエ)」「国慶節」。
- {名詞}区切りの一つ一つ。またそれを数えることば。「一節(ひと区切り)」「章節」「文節」。
- {名詞}割り符。竹の札を二つに割り、甲と乙がその片方ずつを持っており、後日ふしめをつきあわせて証拠とするもの。「符節」。
- {名詞}使者が使者のしるしとして持つ割り符。「使節(割り符を持った使者)」「持節=節を持す」。
- (セッス){動詞}物事の範囲をはみ出さないようにおさえる。ふしめを越えないように、ほどほどにおさえる。「節制」「節約」「節用而愛人=用を節して人を愛す」〔論語・学而〕
- {名詞}行いをおさえるかどめ。みさお。「節操」「枉節=節を枉ぐ」「守節=節を守る」「礼節」。
- {形容詞}かってな行いをおさえて、切れめをつけるさま。みさおがかたいさま。「節婦」。
- {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陲陞(兌下坎上(ダカカンショウ))の形で、ほどほどにおさえるさまを示す。
- 《日本語での特別な意味》
- ふし。民謡ふうの音曲。また、メロディ。「追分節(オイワケブシ)」「浪花節(ナニワブシ)」。
- せつ。手紙やあいさつなどで、とき。おり。「その節は失礼」。
- ふし。部分。箇所。「怪しむべき節あり」。
- ノット。船のはやさの単位。一ノットは、一時間に一海里(一八五二メートル)走るはやさのこと。▽英語knotの意訳。
字通
声符は卽(即)〔説文〕五上に「竹の約なり」とあり、竹節をいう。〔説文〕に卩を節の初文とするが、卩は人の跪坐する形で、人の膝の部分を強調する字。節は卽声。竹約とは竹節。〔鄂君啓節〕は楚の懐王六年、鄂君に与えた車節・舟節で、銅製の節であるが、竹節の形に鋳込まれている。〔周礼、秋官、小行人〕に六節の規定があり、道路・門関・都鄙の管節はみな竹符を用いた。符節によってその行為が規定されているので、節度・節義・節操の意となり、また節侯・節奏まど、すべて秩序・法度のある意に用いられる。
說/説(セツ・14画)
各店楚簡成之29・戦国中期あるいは末期
初出:初出は楚系戦国文字。
字形:「言」+「兌」。言葉でことわりを解き明かすこと。
慶大蔵論語疏は”よろこぶ”の意味では「悅」の異体字「〔忄䒑兀〕」と記す場合がある。初出は戦国時代の竹簡。新字体は「悦」。語義は出現当初から”よろこぶ”。論語時代の置換候補は部品の「兌」。詳細は論語語釈「悦」を参照。
音:カールグレン上古音は”とく”の場合はɕi̯wad(去、漢音では「セツ」)または”よろこぶ”の場合ɕi̯wat(入・韻目「薛」字母「書」、漢音では「エツ」)。同音は存在しない。入声で韻目「薛」字母「以」の音は不明。
用例:「郭店楚簡」成之29に「害(蓋)道不說(悅)之□(詞)也。」とあるのは、「悅」”よろこぶ”と釈文されている。忠信4の「大忠不兌(說),大信不期。不兌(說)而足□(養)者,□(地)也」は、「兌」を「説く」と釈文している。
論語時代の置換候補:同音部品の「兌」が甲骨文から確認できる。「兌」は”よろこぶ”の他に”ことば”の語釈と、「タイ」の他に「エツ」の音を『大漢和辞典』が載せる。
「兌」(甲骨文・金文)
「兌」のカールグレン上古音はdʰwɑd(去。hは有気音の記号)。論語語釈「兌」を参照。
武内本による置換字「悅/悦」の初出は戦国文字で、カールグレン上古音はdi̯wat(入)。論語語釈「悦」も参照。
学研漢和大字典
会意兼形声文字。兌(タイ)・(ダ)は「ハ(ときはなす)+兄(頭の大きい人)」の会意文字で、人の着物をときはなすこと。脱の原字。説は「言+(音符)兌」で、ことばでしこりをときはなすこと。脱(ときはがす)・税(収穫物をはがしてとる)などと同系のことば。
語義
- (1){動詞}とく。しこりや難点を、ことばでときあかす。《類義語》釈(シャク)。「解説」「説明」「説之不以道、不説也=これを説くに道を以てせざるは、説ばざるなり」〔論語・子路〕
(2){動詞}とく。結んでしばってあったものを、ときはなす。《類義語》解。
(3){名詞}いわれや理屈をときあかした意見・主張。また、議論や解説をもりこんだ文章。「邪説」「異説」。
(4){動詞}《俗語》はなす。また、ものがたる。「説書(講談)」「説白(せりふ)」。 - {動詞}とく。相手に説明して自分の意見に従わせる。▽「説得(セットク)」「説伏(セッフ°ク)」などは、今ではセツと読む。「遊説(ユウゼイ)」「説大人則藐之=大人に説くには則ちこれを藐んぜよ」〔孟子・尽下〕
- {動詞・形容詞}よろこぶ。よろこばしい(よろこばし)。心のしこりがとけてよろこぶ。はればれするさま。《同義語》悦。「喜説(キエツ)(=喜悦)」「学而時習之、不亦説乎=学びて時にこれを習ふ、また説(よろこ)ばしからずや」〔論語・学而〕
字通
声符は兌。兌は巫祝(兄)が神に祈り、神意を承けて惝悦(訳者注:エクスタシー)の状態にある意で、八の形は神気の降る意。悅(悦)・脫(脱)と声義の通ずるところがある。〔説文〕三上に「說き釋くなり」とし、「一に曰く、談說するなり」というが、普通の談説のことではない。〔周礼、春官、大祝〕の「六祈」の一に「說」があり、神に祈り、神意を承けることをいう。「説す」「説ぶ」の訓があり、稅(税)・悅と通ずる。
薛(セツ・16画)
薛侯壺・春秋中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はsi̯at(入)。
学研漢和大字典
会意。「艸+𨸏(つみかさねる)+辛(刃物で切る)」。たばね重ねて切るよもぎをあらわす。▽薜(ヘイ)は、別字。
語義
- {名詞}よもぎの一種。かわらよもぎ。
- {名詞}砂浜に自生する草の名。乾燥させた根は「香附子(コウブシ)」と呼び、薬用にする。はますげ。
- {名詞}周代の国名。今の山東省滕(トウ)県の東南部にあった。戦国時代に斉(セイ)に滅ぼされた。
字通
(条目無し)
褻(セツ・17画)
毛公鼎・西周末期
初出:初出は西周末期の金文。
字形:金文の字形は上下に「埶」”身近に仕える”+「衣」。普段着の意。
音:カールグレン上古音はsi̯at(入)。
用例:西周末期「毛公鼎」(集成2841)に「□(與)朕褻事」とあり、”身の回りの”と解せる。
春秋時代には用例が無い。再出は戦国時代から。
学研漢和大字典
会意兼形声。「衣+(音符)熱(身近い、ねばりつく)の略体」。無声のnがsにかわったことば。
語義
- {名詞}はだにつけるふだん着。はだぎ。「紅紫不以為褻服=紅紫は以て褻服と為さず」〔論語・郷党〕
- {動詞・形容詞}けがれる(けがる)。けがす。からだにつけてけがれる。よごす。よごれている。「褻器(セッキ)」。
- {動詞}身近においておろそかにする。「褻必(セットク)」。
- {動詞・名詞}なれる(なる)。なれしたしむ。親しい間がら。《同義語》⇒穀。「褻狎(セッコウ)」「雖褻必以貌=褻と雖も必ず貌を以てす」〔論語・郷党〕
- 《日本語での特別な意味》け。日常。平生。《対語》⇒晴(ハレ)。「褻にも晴れにも」。
字通
[形声]声符は埶(じ)。埶は金文では邇近(じきん)の邇の意で、その初文。〔説文〕八上に「私服なり」とあり、ふだん着をいう。また〔詩、鄘風、君子偕老〕「是れを褻袢とす」の句を引く。いま紲袢(せつぱん)に作る。褻に邇近の意があり、金文の〔毛公鼎〕に「朕(わ)が褻事」とあり、〔詩、小雅、雨無正〕「曾(すなは)ち我が暬御(せつぎよ)」というのと近い。褻翫・褻瀆・褻狎の意に用い、また便器をもいう。
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