論語語釈「オ」

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語釈 urlリンクミス

杇(オ・7画)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔwo(平)。同音に洿”たまり水”、污=汚、圬”こて、左官、壁を塗る”。部品の亏kʰwia(平)は于gi̯wo(平)の本字とされ、于に”壁を塗る”の語釈は無い。「ウ」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。「木+(音符)于(くぼんでまがる)」。粘土をおさえて、くぼみにおしこんでいく木製のこて。

語義

  1. {名詞}こて。壁をぬる道具。
  2. {動詞}ぬる。こてで壁をぬる。「糞土之牆不可濁也=糞土の牆は濁るべからず」〔論語・公冶長〕

字通

(条目無し)

新漢語林

形声。木+亏。音符の亏(ウ)は、弓なりに曲がるの意味。柄の曲がった、こての意味を表す。

  1. こて。ぬりごて。壁をぬる道具。
  2. ぬ-る(塗)。壁をぬる。こてでぬる。

〔論語、公冶長〕糞土之牆不レ可レ杇也(フンドのショウはぬるべからず)。ぼろ土の垣根に上塗りはできない。

於(オ・8画)

論語 於 金文 論語 於 解字
余贎乘兒鐘・春秋晚期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はʔi̯oまたはʔo(共に平)。

学研漢和大字典

会意。「はた+=印(重なって止まる)」で、じっとつかえて止まることを示す。ただし、ああと鳴くからすを烏というのと同じく、於もまたああという感嘆詞にあてる。「説文解字」では於の字はからすの形の変形だとする。淤(オ)(水の流れがとどこおる)・瘀(オ)(血液の流れが悪くなる病気)などと同系。
論語 於

草書体をひらがな「お」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「お」ができた。また、行書体の偏からカタカナの「オ」ができた。

意味〔一〕ヨ・オ

  1. {動詞}おいてする(おいてす)。おる(をる)。そこにいる。じっとそこに止まる。「相於(ソウオ)(いっしょにいる)」「造次必於是=造次にも必ず是においてす」〔論語・里仁〕
  2. {前置詞}おいて。おける。→語法「①」。
  3. {前置詞}→語法「⑥」。
  4. {前置詞}→語法「③」。
  5. {前置詞}より。→語法「⑤」。

意味〔二〕オ・ウ

  1. {感動詞}ああ。ああという感嘆の声をあらわすことば。▽擬声語から。「於戯(アア)」「於乎(アア)」「於、鯀哉=於、鯀なる哉」〔書経・尭典〕
  2. {助辞}古い時代の地名につく接頭辞。「於越(オエツ)(越の国の古称)」。

語法

▽「於」も「于」も用法はほとんど同じ。於の方が用法は広く、用例は多い。

  1. 「~に」「~において」とよみ、
    1. 「~において」「~で」「~になって」「~にとって」と訳す。動作・行為の時間・空間・範囲・位置を示す。「於今為庶為清門=今において庶為(た)れども清門為り」〈今では平民の身ではあるが、けがれなき名門である〉〔杜甫・丹青引贈曹将軍覇〕。「蘇子与客泛舟、遊於赤壁之下=蘇子客と舟を泛(うか)べて、赤壁の下に遊ぶ」〈私、蘇軾は客人と舟を出して、赤壁の下に遊んだ〉〔蘇軾・赤壁賦〕
    2. 「~に対して」「~にむかって」「~の」「~と」と訳す。動作・行為の対象・方向を示す。「夫子言之、於我心有戚戚焉=夫子これを言ひ、我が心におひて戚戚たる有り」〈先生が言われて、(なるほどそうかと)我が心にひしひしと感じられる〉〔孟子・梁上〕。「君子喩於義、小人喩於利=君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る」〈君子は正義に明るく、小人は利益に明るい〉〔論語・里仁〕▽「~における(や)」とよみ、「~に対しては」と訳し、強調表現となる。▽「~之於…」は、「~の…における」とよみ、意味は同じ。「君子之於禽獣也、見其生、不忍見其死=君子の禽獣に於けるや、その生を見ては、その死を見るに忍びず」〈君子は鳥や獣に対して、その生きている姿を見ると、もはや死んだ姿を見るに忍びません〉〔孟子・梁上〕
    3. 「~によって」「~なので」「~だから」と訳す。原因・理由・根拠を示す。「常恐驕奢生於富貴、禍乱生於所忽=常に驕奢(きょうしゃ)は富貴に生じ、禍乱は忽(ゆるがせ)せにする所に生ずるを恐る」〈常に驕奢は富貴から生じ、禍乱は物事をなおざりにするところから起こることを心配している〉〔十八史略・唐〕
  2. 「~を」とよみ、「~を」と訳す。対象・範囲を示す。目的語となる。「沛公居山東時、貪於財貨、好美姫=沛公山東に居りし時、財貨を貪(むさぼ)り、美姫を好めり」〈沛公が山東にいたときは、金品をむさぼり、美人を好んでいた〉〔史記・項羽〕
  3. 「~を」「~より」とよみ、「~から」と訳す。動作・行為が発生する時間・空間・位置を示す。「吾聞出於幽谷遷于喬木者=吾幽谷を出でて喬木に遷(うつ)る者を聞く」〈(鳥が)奥深い谷間から出て高い木へ移り住むというのを聞いたことがある〉〔孟子・滕上〕
  4. 「~においてす」とよみ、「~において行動する」と訳す。「人之過也、各於其党=人の過つや、各(おのおの)その党ひにおひてす」〈人の過ちというのは、それぞれの人物の種類に応じている〉〔論語・里仁〕
  5. 「AB(=形容詞)於C」は、「AはBよりC(=形容詞)」とよみ、比較の対象を示す。「季氏富於周公=季氏周公より富めり」〈(魯の家老の)季氏は(魯の君主の先祖)周公よりも富んでいる〉〔論語・先進〕
  6. 「A(=動詞)於B」は、「BにAせらる」とよみ、「BによってAされる」「BからAされる」と訳す。受身の意を示す。「治於人者食人、治人者食於人=人に治めらるる者は人を食(やしな)ひ、人を治むる者は人に食はる」〈人に治められる者は賦税を出して治める者を養い、人を治める者は治められる者に養われる〉〔孟子・滕上〕
    1. 「於是」は、「ここにおいて」とよみ、「このとき」「そこで」「だから」と訳す。時間的前後・因果関係がある接続の意を示す。「於是項伯復夜去=ここにおひて項伯また夜去る」〈そこで項伯は、再び夜に道を取って返した〉〔史記・項羽〕
    2. 「於是乎」は、「ここにおいてか」とよみ、「この時点で」と訳す。「於是」よりも時間・空間を限定する。「於是乎、不務令徳、而欲以乱成=ここにおひてか、令徳を務めずして、乱をもって成さんと欲す」〈(悪事を重ねた)そうした上、徳を高めるどころか、かえって乱を利用して(地位を固めようとして)います〉〔春秋左氏伝・隠四〕

字通

[象形]〔説文〕四上に烏の古文としてこの字形を出しているが、字形についての説明はない。金文の字形は、烏の羽を解いて縄にかけわたした形。烏も死烏を懸けた形で、いずれも鳥害を避けるためのもの。その鳥追いの声を感動詞に用いた。金文に「烏虖 (ああ)」「オ 於 外字(ああ)」を用いる。オ 於 外字は於の初文である。

大漢和辞典

リンク先を参照。

王(オウ・4画)

論語 王 金文
成王方鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgi̯waŋ(平/去)。

学研漢和大字典

会意。「大+━印(天)+━印(地)」で、手足を広げた人が、天と地の間にたつさまを示す。あるいは、下が大きく広がった、おのの形を描いた象形文字ともいう。もと偉大な人の意。旺(オウ)(さかん)・汪(オウ)(ひろく大きい)などと同系。類義語の皇は、もと初代の偉大な王の意で、王と皇とは同系だが、のち皇の格があがり、王の格が下がった。帝は、天下のもとじめ(締)のこと。君は、人々に号令しておさめる王。公は、五等爵の第一位で、転じて長老のこと。

「親王(しんのう)・勤王(きんのう)」など、「ノウ」と読むことがある。▽草書体をひらがな「わ」として使うこともある。

意味

  1. {名詞}きみ。偉大な統率者。君主。▽周代までは天下を統率する君主の称号だったが、春秋戦国時代には、呉王夫差(フサ)、梁(リョウ)の恵王のように、諸侯も称するようになった。《類義語》皇(オウ)・(コウ)。
  2. {名詞}漢代以後、君主を皇帝というのに対して、皇帝の親族のこと。▽王族で地方に封ぜられた者を~王という。「王室」「王族」「中山王」。
  3. {名詞・形容詞}覇(ハ)(力による統一)に対して、徳によって天下をおさめること。また、そのさま。
  4. {形容詞}上流のおかたという意味を含んだ尊称。ひいては、たんなる尊敬・親愛の意をあらわすことば。「王父(あなたのおとうさま)」「王孫(お若いかた)」。
  5. {名詞}実力・権力などがすぐれていて最高位の人。「魔王」。
  6. (オウタリ)(ワウタリ){動詞}王となる。▽去声に読む。「王之不王、不為也=王の王たらざるは、為さざるなり」〔孟子・梁上〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①天皇の子のこと。また、五世(現在は三世)以内の皇族の男子のこと。
    ②ある方面で、実力のいちばん上の者。「打撃王」「百獣の王」。
    ③おう(わう)。将棋の駒の一つ。王将のこと。

字通

論語 戊 鉞
鉞の刃部を下にしておく形。王位を象徴する儀器。〔説文〕一上に「天下の帰往するところなり」と帰往の意を以て説くが、音義説に過ぎない。字形について、董仲舒説として「古の文を造る者、三画して其の中を連ね、之を王と謂う。三なる者は天地人なり。而して之れを参通するものは王なり」とするが、卜文・金文の下画は強く湾曲して、鉞刃の形をしている。

訓義

  1. きみ、天子・諸侯、統治者をいう。
  2. きみとなる。

大漢和辞典

王 大漢和辞典

枉(オウ・8画)

枉 楚系戦国文字
(楚系戦国文字)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔi̯waŋ(上)で、同音別漢字は存在しない。藤堂上古音は・ɪuaŋ(ɪはエに近い音)。

置換候補の同音「区」(オウ)は甲骨文からあるがk’ɪugと音通しているかは微妙。「岰」「柪」「窐」「紆」「靿」は甲骨文・金文共に無し。意外にも「凹」も金文以前に遡れない。部品の「王」に”曲げる・悪用する”の語釈は、『大漢和辞典』にも無い。

日本語で音が同じ「横」ɡʰwăŋには”まがる”の意があるが、初出は後漢の『説文解字』。部品の「黄」には”やむ・やまい・やみつかれるさま”の語釈を『大漢和辞典』が載せ、甲骨文から存在するが、カールグレン上古音はɡʰwɑŋ(藤堂上古音ɦuaŋ)で、音通するとは断言しがたいが、uaŋが共通し、・ɪは無理に言うとエの音で咳き込んだ音、ɦはhの濁音。論語時代の置換候補として提示する。
黄 大漢和辞典

学研漢和大字典

形声。「木+(音符)王」。王(おうさま)の原義とは関係がない。
尫(オウ)(すねが⊂型にまがる)・汚(∪型にくぼんだ水たまり)などと同系.

意味

  1. {動詞}まげる(まぐ)。まがる。まっすぐな線や面をゆるやかな曲線をなすようにおしまげる。また、道理をおしまげる。《対語》⇒直。「枉道(オウドウ)(道理をおしまげる)」「挙直、錯諸枉=直きを挙げて、諸を枉れるに錯く」〔論語・為政〕
  2. {形容詞}道理をゆがめた。また、罪をむりやりにおしつけた。《類義語》冤(エン)。「枉死(オウシ)」「冤枉(エンオウ)(無実)」。
  3. {動詞}まげて。面子(メンツ)をむりにおしまげて…してくださった、との意をあらわすていねいなことば。「枉顧(オウコ)・(マゲテカエリミル)(わざわざ立ち寄ってくださる)」「枉駕(オウガ)」。
  4. {副詞}いたずらに(いたづらに)。むりをして。役にもたたないのに。「枉費精神=枉らに精神を費やす」。

字通

[形声]正字は㞷に従い、㞷(おう)声。㞷は鉞頭の形である王に之(止(あし))を加え、出行のときに魂振りする呪儀。これによって足に呪力が加えられる。他に力を加える意があり、無理にことを運ぶ意がある。〔説文〕六上に「邪曲なり」とあり、枉戻をいう。

往(オウ・8画)

論語 往 金文 論語 往
吳王光鑑・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgi̯waŋ(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。王は、大きく広がる意を含む。往の原字は「人の足+(音符)王」の会意兼形声文字。往は、それにさらに彳(いく)を加えたもので、勢いよく広がるようにどんどんと前進すること。徨(コウ)(向こう見ずに進む)・逛(キョウ)(むやみに進む)・広(コウ)(大きくひろがる)などと同系。類義語の行は、まっすぐに進む。適や之(シ)・征は、目標めがけて直進すること。

語義

  1. {動詞}いく。ゆく。どんどんと前進する。さきに向かっていく。《対語》⇒来・返・復。《類義語》征・行。「往来」「雖千万人吾往矣=千万人と雖も吾往かん」〔孟子・公上〕
  2. {動詞}いく。ゆく。過ぎ去る。いってしまう。また、転じて、人が死去する。
  3. {名詞}過ぎ去ったこと。死去した人。「往者」「既往不咎=既往は咎めず」〔論語・八飲〕。「送往事居=往を送り居に事ふ」〔春秋左氏伝・僖九〕
  4. 「而往(ジオウ)」とは、それよりさきの意。▽「而後(ジゴ)」と同じ。「俶自既灌而往者=俶すでに灌(かん)して自(よ)り往(のち)は」〔論語・八飲〕
  5. {動詞}おくる。物を人に届ける。▽魏(ギ)・晋(シン)代、手紙に用いたことば。「以物往=物を以て往る」。
  6. 「往往(オウオウ)」とは、しばしば。「往往而死者、相藉也=往往にして而死する者、相ひ藉けり也」〔柳宗元・捕蛇者説〕
  7. {前置詞}《俗語》…へ。向かう方向をあらわすことば。▽去声に読む。「往北京去(北京へいく)」。

字通

[形声]声符は王(おう)。〔説文〕二下に「之(ゆ)くなり」と訓し㞷(おう)声とするが、㞷は往の初文。卜文の「往來」の往は、鉞頭の形である王の上に、之(止(あし))を加えて、出行に当たって行う魂振りの呪儀を示す。すなわち㞷の字形。のちこれに彳・辵を加えて往・迋となった。

奧/奥(オウ/イク・12画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔ(去)のみ。・ok(去)または・iok(入)。同訓「㝔」(ヨウ)は甲骨文・金文が存在しない。

学研漢和大字典

会意。釆は、播(ハ)の原字で、こまごましたものが散在するさま。奧は「宀(おおい)+釆+両手」で、屋根に囲まれたへやのすみにあるこまごましたものを、手さぐりするさまを示す。幽(おく深い)・窈(ヨウ)(おく深い)・杳(ヨウ)(暗い)などと同系。旧字「奧」は人名漢字として使える。

語義

オウ(去)
  1. {名詞}へやの西南のすみ。おく深く暗くて祖先の神をまつる神だなのある所であった。「与其媚於奥、寧媚於竈=其の奥に媚びんよりは、寧ろ竈に媚びよ」〔論語・八佾〕
  2. {名詞}おく深い場所や、おく深く容易に解せられない事がら。「奥義」「奥旨(オウシ)」。
イク(入)
  1. {名詞}くま。川のおく深くはいりこんだ所。▽澳(イク)に当てた用法。
  2. {名詞}くま。山ぎわのおく深くはいりこんだ所。▽墺(イク)に当てた用法。
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①おく。「奥方」の略。もと家のおく深く住む、身分の高い人の夫人のこと。のち大名や武家の夫人、さらに庶民の妻をもさすようになった。
    ②「陸奥(ムツ)」の略。「奥州」。

字通

[会意]旧字は奧に作る。宀(べん)+釆(べん)+廾(きよう)。〔説文〕七下に「宛なり。室の西南隅なり」とするが、宛は字の誤りであろう。宀は神聖な建物。釆は獣掌の象で膰肉の類。廾はこれを神に薦める意。その祀所を奧という。

億(オク・15画)

初出は戦国末期の金文戦国中期とも言う。いずれにせよ論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔi̯ək(入)。同音は憶、臆、繶”つかねる・うちひも”、醷”梅酢”、檍”モチノキ”、抑。憶、臆は論語の時代に存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。意は「音(口をつぐむ)+心」の会意文字で、黙って心で考えるの意を示す。憶の原字。意や憶は、考えて胸がいっぱいにつまるの意を含み、抑(おさえる、いっぱいにおしこむ)と同系のことば。億は「人+(音符)意」で、胸いっぱいに考えうるだけ考えた大きな数のこと。▽かつては、実在の物としては存しない想像上の数であった。

語義

  1. {数詞}数で、一万の一万倍。
  2. {数詞}昔の数の単位。十万のこと。▽昔は、千-万-億と十進法で単位をかえた。「其麗不億=其の麗億のみならず」〔孟子・離上〕
  3. (オクス){動詞}あれこれと思い巡らす。《同義語》⇒憶。「億則鮭中=億すれば則(すなは)ち鮭(しばしば)中(あ)たる」〔論語・先進〕

字通

[形声]声符は意(おく)。億は古くは十万、のち万万をいう。列国期金文の〔嗣子壺〕に「萬意年」とあり、古くは意を借用した。〔詩、大雅、仮楽〕に「子孫千億」とみえる。〔説文〕八上に「安きなり」と訓するのは、〔左伝、昭二十一年〕「心億(やす)きときは則ち樂し」、〔国語、晋語四〕「百神を億寧す」などによる。それが本義である。

※億寧:安んずる

大漢和辞典

数の一単位。やすらか。はかる。かけごと。ああ。惜しむ。みちる。抑に通ず。臆に通ず。姓。

𥁕/昷(オン・9画)

𥁕 金文
秦子簋蓋・春秋早期

初出は甲骨文(下掲「坊間3.81」から)。先学の学説にかかわらず、「囚」系統の文字は𥁕の原字とは認めがたい。カールグレン上古音は不明。藤堂上古音は「温」と同じで・uən。

𥁕 字形

先学は溫の原字が𥁕だといい、囚と同形とするが、囚の字形は人を四角い空間や穴の中に閉じこめる姿であり。溫は温泉の姿で字の発生が異なる。𥁕は溫の氵を略した形で、溫が𥁕の原字。詳細は論語語釈「温」を参照。

学研漢和大字典

象形。皿(さら)に食物を入れ、上からふたをかぶせたさまを描いたもの。

語義

  1. {動詞・形容詞}むれる。ぬくぬくと中にこもるさま。《同義語》⇒温

字通

[象形]皿(盤)上の器中のものが、温熱の状態にあることを示す。温・煴(おん)の初文とみてよい。〔説文〕五上に「仁なり」と訓し、「皿に從ふ。以て囚に食はしむるなり」とするが、囚形の部分は、熱によって器中に気がめぐる象。囚とは形義が異なる。

溫/温(オン・12画)

論語 温 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はʔwən(平)。同音に𥁕(カールグレン上古音不明・藤堂上古音は温と同じで・uən)を部品とする文字群。

”習熟する”の意があり、「たずねる」という読みが出来る。『大漢和辞典』の第一義は”温める・暖まる”。じわじわと温めること。この文字は論語時代に通用した金文では見つかっていないが、それより古い甲骨文が発掘されているので、孔子在世当時に存在したと言える。

溫 温 字解
藤堂・白川両博士もこの漢字を、鍋に蓋をして下からゆるゆる温める姿とみるが、平明に見ればそれは間違いで、この甲骨文は人を火あぶりにする姿で無ければ、水+人+皿(風呂桶)の”風呂”を象形した会意文字。それゆえ『大漢和辞典』にも、「温」に”いでゆ”の語釈を載せる。

温 大漢和辞典

温 楚系戦国文字 温 篆書
(楚系戦国文字・説文解字篆書)

両博士が見誤った理由は察するしか無いが、楚系戦国文字までは五右衛門風呂とその蓋の形を保っていたのに、儒者がでっち上げた秦帝国期の文字である『説文解字』の篆書では、もうその姿が失われ、ただの鍋をこんろに掛けた形になっていたからだろう。

その証拠に『学研漢和大字典』も『字通』も、篆書しか参照していない。でもよく見れば、□の中に人が入っているのだが。

『説文解字』は「かわ。犍為〔郡〕より出でてフウ〔水〕たり、南してケン水に入る。水にしたが𥁕ウン聲。」といい、川の固有名詞が元という。そして𥁕については、「ひと也。皿に从い、食を以て囚うる也(別訓み:囚に食を以いる也)。官溥說く」と、同時代の他人の説で誤魔化している。

現在、𥁕の最古の書体は困=閉じこめる、とされている。要するに、もともとさんずいの取れた𥁕、などという漢字はありはしなかったのに、説文のデタラメにつじつまを合わせただけ。このような頼りないことしか書いてないから、両博士も参考には出来なかったに違いない。

これについては論語語釈「𥁕」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、𥁕(オン)は、ふたをうつぶせて皿の中に物を入れたさまを描いた象形文字。熱が発散せぬよう、中に熱気をこもらせること。溫は「水+〔音符〕掬」で、水気が中にこもって、むっとあたたかいこと。

蘊(ウン)(こもる)・煴(くすべてあたためる)と同系のことば。また鬱(ウツ)(中にこもる)はその語尾がtに転じたことば。

意味

  1. (オンナリ)(ヲンナリ){形容詞}あたたか(あたたかなり)。あたたかい(あたたかし)。ほんのりとあたたかいさま。中に熱がこもってあたたかいさま。また、心や顔色などがおだやかでやさしいさま。《対語》⇒冷・寒。《類義語》暖。「温暖」「温和」「子温而莞=子は温にして而莞し」〔論語・述而〕
  2. {名詞}ぬくもり。「温度」「気温」。
  3. {動詞}あたためる(あたたむ)。あたたまる。じわじわとあたためる。熱を中にこもらせる。「温酒=酒を温む」。
  4. {動詞}あたためる(あたたむ)。古いもの、冷えたものを、もう一度あたためてよみ返らせる。《類義語》文(ジン)。「温習」「温故而知新=故きを温めて新しきを知る」〔論語・為政〕

字通

[形声]声符は𥁕(おん)。𥁕は皿(べい)(盤)上の器中が温められて、熱気がみちている形で、溫の初文。〔広雅、釈詁三〕に「煗(あたた)むるなり」、〔玉篇〕に「漸く熱きなり」とあり、温煖の意。

韞(オン・20画)

初出は後漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔi̯wən(上)。同音は䡝”大車の後ろのおさえ”と𥁕を部品とする漢字群で、論語時代の置換候補になる字は無い。陰ʔi̯əm(平)”隠す”は甲骨文から存在する近音だが、音通とは断言できない。隠の初出は戦国文字。暗の初出は後漢の説文解字

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「韋(なめしがわ)+(音符)𥁕(オン)(中に入れてとじこめる)」。

語義

オン
  1. {名詞}赤と黄の中間色。かきいろ。
ウン
  1. {動詞}おさめる(をさむ)。つつむ。入れ物におさめてかくす。「有美玉於斯、韞寛而蔵諸=斯に美玉有り、寛に韞めて諸を蔵せんか」〔論語・子罕〕

字通

(条目無し)

㥯(オン・20画)・カ音ʔi̯ən

[形声]声符は𤔌(いん)。〔説文〕十下に「謹むなり」という。𤔌は呪具の工の上下に手を加える形。その呪具によって、神聖なものを隠す意。その心情を㥯という。のち隱(隠)、穩(穏)の字を用いる。

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