論語語釈「イ」

已(イ・3画)

已 金文 已 標本
(金文)

論語の本文の中で、孔子在世当時に遡るとみられる章の「矣」は、もとこの文字で書かれていたと考えられる。

学研漢和大字典

  上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
ḍiəg yiei i i

象形。古代人がすき(農具)に使った曲がった木を描いたもの。のち・已・イン(=以)の三つの字体にわかれ、耜(シ)(すき)・以・塊(イ)(工具で仕事をする)・已(やめる)などの用法に分化した。已(やめる)は、止(とまる)・俟(イ)(とまって待つ)に当てた用法。また、以に当てて用いる。

似た字(巳・已・己)の覚え方「み・シは上(巳)、やむ・イは既に半ばなり(已)、おのれ・つちのと・コは下につく(己)」また、「みは上に(巳)、おのれ・つちのと下につき(己)、すでに・やむ・のみ中ほどにつく」また、「キ・コの声おのれ・つちのと下につき、い・すでには中に、し・みは皆つく」▽「すでに」は「既に」、「やむ」は「止む」、「範囲などの基点を示すことば」の意味は「以」ともそれぞれ書く。

意味

  1. {動詞}やめる(やむ)。そこまででやめる。中止する。《類義語》止。「予不得已也=予已むことを得ざるなり」〔孟子・滕下〕
  2. {動詞}やめる(やむ)。官職をやめる。「三已之、無慍色=三たびこれを已むるも、慍色無し」〔論語・公冶長〕
  3. {副詞}すでに。→語法「①②」「已然(イゼン)」「已往(イオウ)(すでに過ぎ去ったこと)」。
  4. {副詞}はなはだ。→語法「④」。
  5. {助辞}のみ。→語法「③」。
  6. {前置詞}範囲・方向などの起点をあらわすことば。より。

語法

①(1)「すでに」とよみ、「もはや」「もう」と訳す。行為が過去に完了している意を示す。《対語》未(イマダ)。「又聞沛公已破咸陽=また聞く沛公すでに咸陽を破れりと」〈その上、沛公がすでに(秦の都の)咸陽を陥れたと聞いた〉〔史記・項羽〕
(2)「已業」「業已」「既已」も、「すでに」とよみ、意味・用法ともに同じ。「既已委質臣事人而求殺之=すでに質を委(まか)して人に臣事し而(しか)うしてこれを殺さんことを求む」〈この身を捧げますと言って仕えながら、その人を殺そうとしている〉〔史記・刺客〕
②(1)「すでに」「すでにして」とよみ、「やがて」「ほどなく」と訳す。行為が未来に起こる意を示す。「已復攻、欲得地与民=すでにしてまた攻め、地と民とを得んと欲す」〈その後また攻めてきて、こんどは土地と人民とを得たいと望んできた〉〔史記・周〕
(2)「已而」も、「すでに」「すでにして」とよみ、意味・用法ともに同じ。「已而使毅伐斉=すでにして毅をして斉を伐た使む」〈やがて(楽)毅に命じて斉を伐たせた〉〔十八史略・春秋戦国〕
③「~のみ」とよみ、文末におかれ、
(1)「~なのである」と訳す。断定の意を示す。「苟無恒心、放辟邪侈、無不為已=苟(いや)しくも恒心無(な)ければ、放辟邪侈(はうへきじゃし)、為さざる無きのみ」〈いったんこの道徳心を持たなくなると、したいほうだい、(悪いことで)しないことはなくなります〉〔孟子・梁上〕
(2)「~だけ」「~であるにすぎない」と訳す。限定の意を示す。「不受也者、是亦不屑就已=受けざるは、これまた就くを屑(いさぎよ)しとせざるのみ」〈(招聘を)受けなかったのは、仕えるべきでない君には仕えることを潔しとしないだけのことである〉〔孟子・公上〕
(3)「而已」「而已矣」「也已」「已矣」も、「のみ」とよみ、「~なのである」「~だけである」と訳す。断定・限定の意を示す。「賜也、始可与言詩已矣=賜や、始めて与(とも)に詩を言ふ可きかな」〈賜よ、それでこそ一緒に詩経の話ができる〉〔論語・学而〕
④「はなはだ」とよみ、「きわめて」と訳す。程度がはげしすぎる意を示す。▽単独の用例は少なく、「已甚」などと多く用いる。「人而不仁、疾之已甚乱也=人にして不仁なる、これを疾むこと已甚(はなはだ)しきは乱なり」〈人が仁でないとしてそれをひどく嫌いすぎると、(相手は)乱暴する〉〔論語・泰伯〕
⑤「已矣」「已矣乎」「已矣哉」「已矣夫」は、「やんぬるかな」とよみ、「もうこれまでだ」「もうどうしようもない」と訳す。絶望の意を示す。「已矣哉、帰去来」〈もうどうしようもない、さあ田園の中に帰ろうではないか〉〔駱賓王・帝京篇〕

以(イ・5画)

論語 以 金文 論語 以 字解
(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「手または人+(音符)耜(シ)(すき)の略体」。手で道具を用いて仕事をするの意を示す。何かを用いて工作をやるの意を含む、…を、…で、…でもってなどの意を示す前置詞となった。

意味

  1. {動詞}もちいる(もちゐる・もちふ)。使用する。「殷人以柏=殷人は柏を以ふ」〔論語・八佾〕
    ま{動詞}もってする(もってす)。→語法「③」。
  2. {前置詞}もって。→語法「①」。
  3. {接続詞}もって。→語法「②」。
  4. {動詞}おもう(おもふ)。おもえらく(おもへらく)。…とおもう。「自以先王謀臣、今不用、常怏怏=自ら以へらく先王の謀臣なりと、今は用ゐられず、常に怏怏たり」〔説苑・正諫〕→語法「⑦」。
  5. {動詞}ひきいる(ひきいる)。《類義語》率・将。「魯人以惡人先済=魯人惡人を以ゐて先づ済る」〔国語・魯語下〕
  6. {名詞}ゆえ(ゆゑ)。理由や原因。「必有以也=必ず以有るなり」〔詩経・邶風・旄丘〕
  7. {前置詞}より。範囲・方向などの起点をあらわすことば。それより。「以上」「以前」。

語法

①「~をもって」とよみ、(1)「~で」「~を用いて」「~を使って」と訳す。手段・方法・材料を示す。「不以其道得之、不処也=その道をもってこれを得ざれば、処(お)らず」〈それ相当の方法(正しい勤勉や高潔な人格)で得たのでなければ、そこに安住しない〉〔論語・里仁〕
(2)「~を」「~に」と訳す。目的語、動作の対象・内容を強調する意を示す。「不敢以将軍言聞於上也=敢(あ)へて将軍の言をもって上に聞せず」〈将軍のお言葉を皇帝にお伝えするわけにはまいりません〉〔史記・蒙恬〕
(3)「~のために」「~によって」と訳す。理由・条件・根拠を示す。「秦王以十五城請易寡人之璧=秦王十五城をもって寡人(かじん)の璧に易(か)へんと請ふ」〈秦王が十五の町と、わしの宝玉を引き換えたいと言って来た〉〔史記・廉頗藺相如〕
(4)「~でありながら」「~として」と訳す。身分・資格を示す。「以臣弑君、可謂仁乎=臣をもって君を弑(しい)す、仁と謂ふ可けんや」〈臣下の身でありながら、主君をあやめるとは、仁と申せましょうか〉〔史記・伯夷〕
(5)「~のときに」「~において」と訳す。時間・空間を示す。「壮者以暇日脩其孝悌忠信=壮者は暇日をもってその孝悌忠信を脩(おさ)む」〈若者は農事の暇に孝悌忠信の徳を修める〉〔孟子・梁上〕
②「もって」とよみ、「そうして」と訳す。時間的先後がある独立した文を接続する。「退而甘食其土之有、以尽吾歯=退いてその土の有を甘食し、もって吾が歯を尽くす」〈(家に)戻り土地の物をうまいと思って食べ、そうして寿命を終えます〉〔柳宗元・捕蛇者説〕
③「~以…」は、「~するに…をもってす」とよみ、「~するには…を用いる」と訳す。▽述部に後置して「以」以下の補語を強調する場合のよみ方。「道之以徳、斉之以礼、有恥且格=これを道(みち)びくに徳をもってし、これを斉(ととの)ふるに礼をもってすれば、恥有りてかつ格(いた)る」〈導くには道徳で、整えるには礼であれば、道徳的な羞恥心を持ってそのうえに正しくなる〉〔論語・為政〕
④「~(=形容詞)以…」は、「もって…し~(=形容詞)」とよみ、「…することは~」と訳す。▽「難」「易」などの形容詞とともに使用される。「智巧不去、難以為常=智巧去らざれば、もって常と為し難(がた)し」〈知恵と技巧を捨て去らなければ、常道とすることはできない〉〔韓非子・揚権〕
⑤「不」「可」「得」「能」「有」「無」などとともに用い、語調を整える。「若寡人者、可以保民乎哉=寡人(かじん)の若(ごと)き者は、もって民を保(やす)んず可きかな」〈わたしのような者でも、人民を慈しみ守ることができるだろうか〉〔孟子・梁上〕
⑥「以~為…」は、「~をもって…となす」とよみ、(1)「~を…とみなす」と訳す。「…」は動詞・動詞句、形容詞・形容詞句。「二三子以我為隠乎=二三子我をもって隠せりと為すか」〈諸君は私が隠しごとをしていると思うか〉〔論語・述而〕
(2)「~を…とする」と訳す。「…」は名詞・名詞句。「天将以夫子為木鐸=天将にもって夫子を木鐸(ぼくたく)と為さんとす」〈天はやがて先生を天下の指導者になされましょう〉〔論語・八佾〕
⑦「以為」は、(1)「おもえらく」とよみ、「おもうに」「考えるに」と訳す。「虎不知獣畏己而走也、以為畏狐也=虎獣の己を畏(おそ)れて走るを知らず、以為(おも)へらく狐を畏るるかと」〈虎は、獣たちが自分を恐れて逃げ出すのだとは気づかず、狐を恐れているのだと思った〉〔戦国策・楚〕。「以」「以謂」も、意味・用法ともに同じ。
(2)「もって~となす」とよみ、「~と思う」「~と考える」と訳す。「然子之意自以為足=然るに子の意自らもって足れりと為す」〈しかも、それですっかり満足していらっしゃる〉〔史記・管晏〕

字通

すきの形。〔説文〕十四下に「㠯は用うるなり。反已に従う」とし、賈侍中説として「已、意已の実なり。象形」とする説を引く。意已は薏苡よくいという草(訳者注、野生のジュズダマのこと)。字は象形で、すきの形。もと㠯と同文。のち字形は・㠯・以に分かれた。

訓義

1)用・庸と通用し、もって、もちいる。2)為・謂と通用して、おもう。3)与と通用して、ともに。4)率と通用して、ひきいる。5)名詞として、ゆえ、理由説明的に用いる。

大漢和辞典

以 大漢和辞典
以 大漢和辞典

夷(イ・6画)

論語 夷 金文
(金文)

学研漢和大字典

会意文字で、大きい人のそばに寄った小さい人を示す。背たけのひくい人。小柄で背のひくい意を含み、たいら、ひくいなどの意を生じる。尸(シ)(からだを曲げ伏せた姿)の字で代用することもある。

姨(イ)(妻よりも小さい、妻の妹。母の妹)・弟(小さいおとうと)・低(背のひくい人)と同系のことば。

意味

  1. {名詞}えびす。未開の人。▽中国人は自分の民族文化を中華(中夏)と称し、その文化の恩恵をこうむらない民族を東夷・西戎(セイジュウ)・北狄(ホクテキ)・南蛮(ナンバン)と呼んだ。もと、中国の東部に住む背の低い民族のこと。一説に、殷(イン)代に、今の山東・江蘇(コウソ)の沿海地方に住み、殷人に敵対した小柄な人種という。周代に、東夷・淮南夷(ワイナンイ)と呼ばれ、しだいに漢人と混血した。のち漢人以外の総称にも用いる。「夷狄(イテキ)」。
  2. (イナリ){形容詞}ひくい(ひくし)。たいらか(たひらかなり)。背がひくい。たいらである。《類義語》低。「夷平(イヘイ)」「跛蔑易牧者夷也=跛蔑も牧し易きは夷なればなり」〔韓非子・五蠹〕
  3. (イス){動詞}あぐらをかいてひくくすわる。しゃがむ。「原壌、夷俟=原壌、夷して俟つ」〔論語・憲問〕
  4. (イス){動詞}たいらげる(たひらぐ)。平定する。「夷滅(イメツ)(みなごろしにたいらげる)」「夷九族=九族を夷す」。
  5. (イス){動詞}たいらかにする(たひらかにす)。たいらにならす。「夷考其行=其の行ひを夷考す」〔孟子・尽下〕
  6. {形容詞・名詞}つねに。平坦(ヘイタン)で、変化のないさま。また、そのやり方。平坦で、目だたない状態。「夷然(イゼン)」。
  7. {形容詞}たいらで広い。広く行き渡るさま。「降福孔夷=福を降すことは孔だ夷し」〔詩経・周頌・有客〕
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①えみし。えびす。古代に関東以北に住み、言語や風俗を異にして、朝廷に従わなかった人々。▽一説にアイヌ族のこと。えぞ。「蝦夷(エゾ)」。
    ②えびす。七福神の一。▽「恵比須」とも書く。

矣(イ・7画)

論語 矣 金文 矣 標本
(金文)

カールグレン上古音はzi̯əɡ。同音に以・苡・已。このうち苡だけは金文以前に遡れない。

この文字は、甲骨文では未発掘。上掲の金文も、戦国時代末期の出土で、これ以前に遡ることが出来ない。論語の当時、もともと使われていた文字の候補を挙げる。

①「」(di̯a)。かろうじて春秋と判明している金文に出土がある。
也 標本

ただし音が著しく違い、「也」と互換できるとは言いがたい。

『学研漢和大字典』(藤堂説)による音の変遷
  上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
ɦɪəg ɦɪei i i
ḍiǎg yiǎ ie ie

②下流に当たる「唉」(ʔəɡ)。

『学研漢和大字典』(藤堂説)による音の変遷
’əg ’əi ai ai āi / ài

『学研漢和大字典』に、ああ。のどをしめてアイと嘆息する声をあらわすことば、とある。金文以前の出土無く、候補からは外れる。

穴馬「哀」(ʔər)。

『学研漢和大字典』(藤堂説)による音の変遷
’ər ’əi ai ai āi

『学研漢和大字典』に、せつないさま。悲しいさま。また、その感情。もと、ある思いのために胸のつかえたような気持ちをいう、とある。金文に出土があるが、音訓の違いが甚だしい。

本命「已」(zi̯əɡ)。

『学研漢和大字典』(藤堂説)による音の変遷
ḍiəg yiei i i
ɦɪəg ɦɪei i i

もう一度「矣」のカールグレン上古音を繰り返すとzi̯əɡ。

『学研漢和大字典』に、古代人がすき(農具)に使った曲がった木を描いたもの。のち・已・イン(=以)の三つの字体にわかれ、耜(シ)(すき)・以・塊(イ)(工具で仕事をする)・已(やめる)などの用法に分化した。已(やめる)は、止(とまる)・俟(イ)(とまって待つ)に当てた用法。また、以に当てて用いる、とある。語義としては完了を意味し、矣とも音訓が通ずる。金文は春秋のものが発掘されている。
已 金文 已 標本

なおもう一つの候補として、カールグレン上古音で同音の「」にも、「已」と音通して”やむ”の語釈を『大漢和辞典』が載せている。

学研漢和大字典

論語 矣 解字

ɦɪəg – ɦɪei – i – i(yǐ)

象形文字。篆文(テンブン)Aの字形は「㠯(イ)+矢」のように見えるが、実はBが正しく、人が後ろをむいてとまったさまを描いたもの。疑の字の左側の部分と同じ。文末につく「あい」という嘆声であり、断定や慨嘆の気持ちをあらわす。息がつかえてとまるの意を含む。
音の「アイ」は、唉(アイ)(のどがつかえて嘆息する)と同系。なお類義語の也(ナリ)は、…なのだと、ことわけて説明し判定した気持ちをあらわす助辞。

意味

{助辞}文末につけて、断定や推定の語気をあらわすことば。

語法

①(1)文末・句末におかれて、訓読しない。「~だぞ」「~にちがいない」「~になってしまった」と訳す。断定・意志、推量・仮定、完了(過去・現在・未来)などの意を示す。《類義語》唉(アイ)・已。
(2)「~せり」「~せん」「~ならん」とよみ、強く言いきる断定の意を示す。「由也升堂矣、未入於室也=由や堂に升れり、未だ室に入らざるなり」〈由は表座敷には上がっているのだぞ、まだ奥座敷には入っていないだけだ〉〔論語・先進〕
②「や」「か」とよみ、「~であろうか(いやそうではない)」と訳す。反語の意を示す。文末・句末におかれる。「焉用彼相矣=焉(いづ)くんぞかの相を用いんや」〈あの介添えも何の必要があろうか〉〔論語・季氏〕
③「(なる)かな」とよみ、「~であることよ」と訳す。感嘆の意を示す。文末・句末におかれる。▽「矣哉」「矣夫」「矣乎」も、「(なる)かな」とよみ、意味・用法ともに同じ。「怨毒之於人、甚矣哉=怨毒の人に於ける、甚だしいかな」〈恨みが人に及ぼす害毒は、何とひどいものか〉〔史記・伍子胥〕
④(1)「のみ」とよみ、「~だけ」「~に過ぎない」と訳す。限定の意を示す。文末・句末におかれる。「有赴東海而死矣=東海に赴きて死する有るのみ」〈(わたしは)東海(斉国の東境の海)に赴いて死ぬ決意です〉〔戦国策・趙〕
(2)「而已矣」「焉耳矣」も、「のみ」とよみ、意味・用法ともに同じ。《同義語》耳。「夫子之道、忠恕而已矣=夫子の道は、忠恕のみ」〈先生の道は忠恕のまごころだけです〉〔論語・里仁〕

字通

論語 矣 金文大篆
(金文大篆)

+矢。厶の初形はすきの初文。耜に矢を加えて清め祓う意。その声を矣・アイアイ、その動作をアイ(訳者注。おす、ひらく、せまる)という。〔詩、小雅、十月之交〕にばいらいと韻している。〔説文〕五下に「語おはるの詞なり」とし、以声の字とするが、もとは矢で厶を祓う儀礼で、その声を言う。語句を強く結ぶとき、その声を加えたのであろう。

訓義

(1)語末の助詞。断定・決定・決意など、強い語気を示す語である。
論語 矣 字解

大漢和辞典

矣 大漢和辞典

位(イ・7画)

論語 位 甲骨文 論語 位 金文
(甲骨文・金文)

学研漢和大字典

立は、人が両足でしっかりたつ姿。位は「立+人」の会意文字で人がある位置にしっかりたつさまを示す。囲(まるくかこむ)-胃(まるくかこんだ胃袋)などと同系のことばで、もと、円座のこと。まるい座席にすわり、または円陣をなして並び、所定のポストを占めるの意を含む。また、のち広く、ポストや定位置などの意に用いられるようになった。

意味

  1. {名詞}くらい(くらゐ)。人や物があるべき場所。位置。ポスト。「材非長也、位高也=材長きに非ざるなり、位高ければなり」〔韓非子・功名〕
  2. {名詞}くらい(くらゐ)。役人としての階級の等級。「官位」「不患無位=位無きを患へず」〔論語・里仁〕
  3. {名詞}くらい(くらゐ)。天子・諸侯の位を略して位という。「即位」「春、王正月、公即位=春、王の正月、公位に即く」〔春秋・桓元〕
  4. {名詞}くらい(くらゐ)。地位。また、数をあらわすためにつけられている桁(ケタ)の名。「百の位」「見季子位高金多也=季子の位高く金多きを見ればなり」〔史記・蘇秦〕
  5. {動詞}くらいする(くらゐす)。ポストにつく。「位列将=列将に位す」〔漢書・蘇武〕
  6. {動詞}くらいする(くらゐす)。あるべきポストにすわる。「天地位焉、万物育焉=天地位し焉、万物育す焉」〔中庸〕
  7. {名詞}人を尊敬して、その人の位置をさしてその人をあらわすことば。「各位」「諸位」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①くらい(くらゐ)。地位などに伴ってうまれる、人としての重み。
    ②くらい(くらゐ)。大体の数量・程度をあらわすことば。ばかり。ほど。「七人位」。

字通

人+立。立は一定の場所に立つ人の形で、その位置を示し、位の初文。のち位を用いる。〔説文〕八上に「中庭の左右に列す。之れを位と謂ふ」とみえる。中廷は冊命など廷礼の行われる所で、金文では〔諌𣪘かんき〕「王、大室にいたり、立(位)に卽く」〔利鼎〕「王、般宮にいたる。邢伯はいりて利をたすけ、中庭に立ちて北嚮す」のようにいう。金文では、立を位と立つの両義に用いる。

訓義

くらい、その位に就く、禄・爵・朝位などについていう。涖・莅と通用し、のそむ、その場所に臨む。

大漢和辞典

会意文字。人と立の合字。人が庭中にとどまり立つ意。それより群臣の立つところ、位の意。金文は象形。立と同形で、人がある位置に立つさまに象る。

字解

位:中庭の左右、すなわち群臣の列するところ。坐立するところ、座席、君主の地位、官職の等級、地位、身分、位置、順序、方角、方向、易の形の一、壇位。くらいす、中庭の左右に並ぶ、正しい位置に居る。相似る。立つ。畫(かぎる)と同じ。人の数を示す敬語。姓。〔邦〕くらい、おもみ、品格、人格、ばかり、ほど、数の位。

爲/為(イ・9画)

論語 為 甲骨文 論語 為 金文
(甲骨文・金文)

学研漢和大字典

論語 為 解字会意。爲の甲骨文字は「手+象」で、象に手を加えて手なずけ、調教するさま。人手を加えて、うまくしあげるの意。転じて、作為を加える→するの意となる。また原形をかえて何かになるとの意を生じた。僞(=偽。作為する)・譌(カ)(作為を加えたうそ)・化(姿をかえる、姿がかわる)・訛(カ)(姿をかえたことば、なまり)などと同系。

類義語に造。旧字「爲」は人名漢字として使える。▽付表では、「為替」を「かわせ」と読む。▽草書体をひらがな「ゐ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「ゐ」ができた。

意味

  1. {動詞}なす。ある事に手を加えてうまくしあげる。作為する。《類義語》作。→語法「①」。
  2. {動詞}つくる。ある物に手を加えて、つくりあげる。「為此詩者其知道乎=此の詩を為る者は其れ道を知れるか」〔孟子・公上〕
  3. {動詞}おさめる(をさむ)。ある事に手を加えてうまくまとめる。「由也為之比及三年=由やこれを為め三年に及ぶ比ひ」〔論語・先進〕
  4. {動詞}なる。ある物事がもとの姿をかえて、他の物事に変化する。「変為」→語法「②」。
  5. {動詞}まなぶ。まねする。まねしておぼえる。▽古くは、「まねぶ」と訓じた。「女為周南召南矣乎=女周南召南を為びたるかな」〔論語・陽貨〕
  6. {動詞}たり。→語法「③」。
  7. 「為人(ヒトトナリ)」とは、人であるそのあり方、つまり人がらのこと。また、「其為物也(ソノモノタルヤ)」とは、物であるそのあり方、つまりその物の性質のこと。「其為人也孝弟而好犯上者鮮矣=其の人と為りや孝弟にして上を犯すことを好む者は鮮なし」〔論語・学而〕
  8. 「何以A為=何ぞAを以て為さんや」とは、どうしてAなどをする必要があろうかとの意。「何以文為=何ぞ文を以て為さんや」〔論語・顔淵〕
  9. {動詞}ため。ためにする(ためにす)。→語法「⑤」▽去声に読む。
  10. {前置詞}ため。ために。→語法「④」▽去声に読む。
  11. {接続詞}ためなり。→語法「⑥」▽去声に読む。

語法

①「~となす」とよみ、「~とする」「~である」「~と思う」と訳す。認定の意を示す。「晋太元中、武陵人捕魚為業=晋の太元中、武陵の人魚を捕へて業と為す」〈晋の太元年間に、武陵の人で、魚を捕らえることを仕事にしている者〉〔陶潜・桃花源記〕
②「~となる」とよみ、「~になる」と訳す。人・物・事が変化する意を示す。「故福之為禍、禍之為福、化不可極、深不可測也=故に福の禍と為り、禍の福と為るは、化極む可からず、深測る可からざるなり」〈つまりさいわいがわざわいとなり、わざわいがさいわいとなる、こうした変化は見極めることはできず、奥深さは予測することはできない〉〔淮南子・人間〕
③「たり」とよみ、「~である」と訳す。断定の意を示す。「是時赤泉侯為騎将=この時赤泉侯騎将たり」〈このとき赤泉侯(楊喜)は、騎馬隊長であった〉〔史記・項羽〕
④「A(=名詞)のために」「A(=代名詞)がために」とよみ、
(1)「Aのために」「Aのかわりに」と訳す。利益を受ける対象・目的を示す。「子以我為不信、吾為子先行=子我をもって信ならずと為さば、吾子が為に先行せん」〈君がわたしをうそつきと思うなら、わたしが君のかわりに前を歩こう〉〔戦国策・楚〕
(2)「~のせいで」「~によって」と訳す。原因・理由を示す。「為其老彊忍、下取履=その老なるが為に彊(し)ひて忍び、下りて履を取る」〈相手は老人であるのでじっと忍耐し、下におりてくつを取って来た〉〔史記・留侯〕
(3)「~に対して」「~にむかって」と訳す。行為・動作の対象を示す。「予嘗為女妄言之=予(わ)れ嘗(こころみ)に女(なんぢ)の為にこれを妄言せん」〈わたしがためしに、お前のためにでたらめにしゃべってみよう〉〔荘子・斉物論〕
⑤「A(=名詞)のために」「A(=代名詞)がためにす」とよみ、「~のためにする」と訳す。目的の意を示す。「④」を動詞化したもの。「嗟乎、予子、子之為智伯、名既成矣=嗟乎(ああ)、予子、子の智伯の為にするは、名すでに成れり」〈ああ、予譲よ、そなたが智伯のために(復讐しようと)した、その名誉はもはや全うされた〉〔史記・刺客〕
⑥「~がためなり」とよみ、「~のせいである」と訳す。原因・根拠の所在を示す。「為其象人而用之也=其の人に象りてこれを用ゐしがためなり」〈(俑という)人間に似たものをつくり、(副葬品として墓に)埋めたからである〉〔孟子・梁上〕
⑦「以~為…」は、「~をもって…となす」とよみ、「~を…とする(と思う)」と訳す。認定の意を示す。「天将以夫子為木鐸=天将にもって夫子を木鐸(ぼくたく)と為さんとす」〈天はやがて先生を天下の指導者になされましょう〉〔論語・八佾〕
⑧「以為~」は、「おもえらく~」「もって~となす」とよみ、「~と思う」「~と考える」と訳す。「以為直於君而曲於父=以為(おもへ)らく君に直なれども父に曲なり」〈思うに、君に対してはまっすぐであるが、父に対してはよこしまである〉〔韓非子・五蠹〕
⑨(1)「為~所…」は、「~の…するところとなる」とよみ、「~に…される」と訳す。受身の意を示す。「嘗遊楚、為楚相所辱=嘗(かつ)て楚に遊び、楚の相の辱むる所と為る」〈かつて楚の国に遊説に出かけ、楚の宰相から侮辱を受けた〉〔十八史略・春秋戦国〕▽ほかに「~がために…らる」「~に…らる」とよんでもよい。
(2)「為所~」のように動作主が省略されることがある。さらに「所」も省略されることがあり、「~となる」とよみ、「~される」と訳す。▽意味上受身となるので、「る」「らる」とよんでもよい。「厚者為戮、薄者見疑=厚き者は戮(りく)せられ、薄き者は疑はる」〈ひどい場合は殺され、軽い場合は疑われる(目に遭った)〉〔韓非子・説難〕
⑩「何為~」は、「なんすれぞ」とよみ、「どうして」「なぜ」と訳す。「何為其然也=何為(なんすれ)ぞそれ然らんか」〈どうしてそんなことがあろうか〉〔論語・雍也〕

威(イ・9画)

論語 威 金文 論語 威 篆書
(金文・篆書)

論語 女 金文 論語 戊 鉞
「女」(金文)

学研漢和大字典

会意文字で、「女+戊(エツ)(ほこ)」で、か弱い女性を武器でおどすさまを示す。力で上から押さえる意を含む。畏(イ)(こわさに押されおののく)・熨(イ)(ひのしで押しつける)・鬱(ウツ)(押さえこめる)と同系のことば。

意味

  1. {名詞}おどし。人をおどかす力やおごそかさ。「作威=威を作す」「畏天之威=天の威を畏る」〔孟子・梁下〕
  2. (イス)(Yス){動詞}おどす。力ずくで、相手をへこませる。おそれさす。「威圧」「威天下不以兵革之利=天下を威するに兵革の利を以てせず」〔孟子・公下〕
  3. (イアリ)(Yアリ){形容詞}たけし。相手を屈伏させる力や品格があるさま。いたけだか。「君子不重則不威=君子は重からざれば則ち威あらず」〔論語・学而〕
  4. 「威遅(イチ)」とは、うねうねと続くさま。

異(イ・11画)

論語 異 甲骨文 論語 異 金文
(甲骨文・金文)

学研漢和大字典

論語 こぶとりじいさん 異
音ḍiəg – yiei – i – i〔yi〕。「大きなざる、または頭+両手を出したからだ」の会意文字で、一本の手のほか、もう一本の別の手を添えて物を持つさま。同一ではなく、別にもう一つとの意。翼(一枚のほかもう一枚あるつばさ)-翌(当日のほかの別の日)と同系のことば。代dəg → dəi(別の、代わりの)や𡟒ヨウ ḍiəŋ → yiəŋ(もうひとりの別のそえ妻)などとも縁が近い。

意味

  1. (イナリ){形容詞}ことなる。もう一つ別の。また、同じではないさま。《対語》⇒同。「異類」「異端(正統でない他の説や信仰)」「無異=異なること無し」「是何異於刺人而殺之、曰非我也兵也=是れ何ぞ人を刺してこれを殺し、我に非ざるなり兵なりと曰ふに異ならんや」〔孟子・梁上〕
  2. {形容詞}自分とは違ったさま。よその。また、その時とは違ったさま。《類義語》他。「異邦」「異日」。
  3. (イナリ){形容詞}ことなる。あやしい(あやし)。普通とは違って奇妙なさま。変なさま。《対語》常・正。《類義語》殊。「異様」「卓異(とりわけ目だつさま)」「恩旨殊異=恩旨殊に異なる」〔枕中記〕
  4. {名詞}普通とは違った奇妙な事がら。《対語》常・正。「変異」「災異」「天変地異」「吾以子為異之問=吾子を以て異をの問ふと為す」〔論語・先進〕
  5. {動詞}ことにする(ことにす)。別々になる。また、わかれている。《対語》同。「首足異処=首足処を異にす」「同出而異名=同じく出でて名を異にす」〔老子・一〕
  6. (イトス){動詞}あやしむ。不思議だと思う。「驚異」「王、無異於百姓之以王為愛也=王、百姓の王を以て愛めりと為すを異しむこと無かれ」〔孟子・梁上〕
  7. 「分異(ブンイ)」とは、兄弟が別居すること。
  8. 「異途(イト)」とは、正式のコースを正途というのに対して、特殊なコースのこと。

字通

〔説文〕三上に「分かつなり」と分異の意とし、字を(与える)+きょう(両手)の会意とする。卜文・金文の字形によると、鬼頭のものが両手をあげている形。畏はその側身形。神異のものを示す。

訓義

ことなる、ことにする、わかつ。神異のものとして、あやし、あやしむ。異変のことで、わざわい。ものを翼戴する形で、古くは翼の音で用いた。

大漢和辞典

会意。畀(あたえる)と廾(両手)とを合わせて、まさに物を与えようとしてこれを両手に分割する意を表す。金文は象形文字で、鬼の面をかぶり両手をかざしている姿にかたどり、恐ろしい異形の意を表す。

字解

ことなる、ことなり。ことにする。ことなりとする。わざわい。謀反。姓。

惟(イ/ユイ・11画)

初出は殷代末期の金文。カールグレン上古音はdi̯wərで、唯、帷、維などと同じ。

学研漢和大字典

形声。「心+(音符)隹(スイ)」。隹(とり)は音符であり、意味には関係がない。▽惟・維はもと近い物をさし示す指示詞であり、「ただこれだけ」の意から、強く限定することばとなった。また、ある点に限って心を注ぐ意の動詞ともなった。「これ」の意なら「隹」「維」と書き、「ただ」の意なら「唯」と書き、「おもう」の意なら「惟」と書くのが正則。

語義

  1. {動詞}おもう(おもふ)。心をもっぱらある点に注ぐ。よく考えてみる。「思惟(シイ)・(シユイ)」「伏惟=伏して惟ふに」。
  2. {指示詞}これ。→語法「②」。
  3. {副詞}ただ。→語法「①」

語法

①「ただ(に)~のみ」「ただ~のままならん」とよみ、「ただ~だけ」「ただ~にすぎない」と訳す。限定の意を示す。《同義語》唯。「無恒産而有恒心者、惟士為能=恒産無(な)くして恒心有るは、ただ士のみよくすと為す」〈安定した生業がなくとも変わらぬ道徳心を持ち続けることは、士人だけができることです〉〔孟子・梁上〕
②「これ」とよむ。文頭または句間において語調を転じて強調する意を示す。《同義語》維。《類義語》是・此。「其命惟新=その命これ新たなり」〈天命を受けて王者となったのはまだ新しいことだ〉〔孟子・滕上〕

字通

[形声]声符は隹(すい)。隹に唯・維(い)の声がある。〔説文〕十下に「凡思なり」という。また慮に「謀思」、念に「常思」、想に「冀思」とあり、「凡思」とは汎(ひろ)く思う意であろう。隹は鳥占(とりうら)。その神意を示すことを唯といい、神意をはかることを惟といい、やがて人の思念する意となった。

唯(イ/ユイ・11画)

論語 唯 金文 論語 指差呼称 唯
(金文)

学研漢和大字典

形声。「口+(音符)隹(スイ)」。惟(ユイ)や維と同じで、本来は「これ」と指定することば。強く「これだけ」と限定することから「ただ」の意の副詞となる。限定をあらわす副詞は只(シ)・祇(シ)および特・徒などさまざまの字であらわすが、その働きは同じ。ことに唯と只は全く同様に用いる。「ただ」の意味のときは「只」とも書く。

意味

  1. {副詞}ただ。→語法「①」。
  2. {副詞}ただ。→語法「④」。
  3. 「唯見(タダミ)る」とは、詩の慣用語で、ただ…が見えるだけの意。「唯見長江天際流=唯だ見る長江の天際に流るるを」〔李白・送孟浩然〕
  4. {感動詞}「はい」とかしこまって急ぎ答える返事をあらわすことば。《類義語》諾(考えてゆっくり答える返事)。▽上声に読む。「曾子曰唯=曾子曰はく唯」〔論語・里仁〕

語法

①「ただ~のみ」とよみ、「ただ~だけ」「ただ~にすぎない」と訳す。単独・限定の意を示す。《同義語》惟・維。《類義語》只・祇。「唯聖人能外内無患=ただ聖人のみよく外内に患(うれ)ひ無(な)し」〈ただ聖人だけが、国の内外に心配事がない〉〔春秋左氏伝・成一六〕
②「不唯~」は、「ただ~のみならず」とよみ、「ただ~だけではない」と訳す。範囲・条件が限定されない意を示す。「不唯忘帰、可以終老=ただに帰るを忘るるのみならず、もって老を終う可し」〈ただ帰ることを忘れるだけではない、老年期を過ごしてもよい〉〔白居易・与微之書〕▽後節に「又(亦)…=また…」「且…=かつ…」と続けて、「~だけでなく、…もまたそうである」と訳す。後節では、さらに累加する意を示す。「寡人之使吾子処此、不唯許国之為、亦聊以固吾圉也=寡人(かじん)の吾子をしてここに処(お)ら使むるは、ただに許国の為のみならず、また聊(よ)つてもって吾が圉(ぎょ)を固(かた)くするなり」〈わたくしが吾子をここ(東辺)に居させるのは、ただ許国のためだけではなく、わが辺境を固めるためである〉〔春秋左氏伝・隠一一〕
③「A唯C是(之)B」は、「AただCのみこれBす」とよみ、「AはひたすらCだけをBする」と訳す。▽「A(=主語)唯B(=述語)C(=目的語)=AはただCをBするのみ」と限定の意を示す「唯」が使用される文で、「C(目的語)」を特に強調する場合に用いる。倒置して強調したことを明示するために「是」を入れる。「唯民是保、而利於主、国之宝也=ただ民をこれ保(やす)んじて、主を利するは、国の宝なり」〈ただ人民を保護することを目的として行動して、しかも利益が君主の意向と合致しているような将軍は、国家の宝である〉〔孫子・地形〕
④「ただ~のままに」「ただ~のままなり」とよみ、「ひたすら~のとおりにする」と訳す。行為を思いのままにさせる意を示す。▽「唯~所…」は、「ただ~の…するところのまま(なり)」とよみ、「ひたすら~の…するとおりにする」と訳す。「唯王所欲用之、雖赴水火猶可也=ただ王のこれを用ひんと欲する所のまま、水火に赴くと雖(いへど)も猶(な)ほ可なり」〈ただもう王がこの兵たちを用いようと思われることなら、たとい水火にとびこむことでも仰せのとおりにさせることができます〉〔史記・孫子呉起〕
⑤「いえども(いへ/ども)」とよみ、「~であっても」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。《同義語》雖。「唯禹不知仁義法正=禹と唯(いへど)も仁義法正を知らず」〈禹でも仁義や法規をわきまえない〉〔荀子・性悪〕
⑥「ただ~せよ」「ただ~せんことを」とよみ、「ひたすら~しなさい」と訳す。相手に対する希望・願望の意を示す。「唯荊卿留意焉=ただ荊卿意を留めよ」〈どうか荊卿とくとお考え頂けないでしょうか〉〔史記・刺客〕

意(イ・13画)

初出は西周中期の金文で、カールグレン上古音はʔi̯əɡ。同音に医の正字の他、意を部品とする漢字群。論語では子罕篇4でのみ登場。

『学研漢和大字典』『字通』『大漢和辞典』共に、名詞では”こころ・思い・憶測・意味”という語釈しか立てていない。『大漢和辞典』は本章の「意」をその派生義として”私意”と解している。「意なし」とは”私利私欲を考えない”ということだろうか。すると「我なし」とどう違うのだろうか。

『学研漢和大字典』では原義を音(口の中に物を含むさま)+心とし、”心中に考えめぐらし、おもいを胸中に含んで外に出さないこと”という。『字通』では「音は言(祝詞)に対して、”神の音なひ”を示す自鳴の音が加わることを示す字」とし、”その神意を憶度おくたくすること”という。

「音」(カ音ʔi̯əm)は甲骨文が発掘されていないので、「言」(同ŋi̯ăn)と金文同士で比較する。
論語 音 金文 論語 言 金文
「音」「言」

全く違いが無い。「音」の字形が分化したのは、春秋時代に入ってからになる。
音 金文

つまり春秋時代の作である論語では、「言」と違う意味が生まれていたことになる。藤堂説で「音」を”含むさま”と解するのは、おそらく音の藤堂上古音・ɪəmと、含のɦəmが音通することからだろう。・は空咳の音に近く、ɦはhの濁音で・に近く、ɪはエに近いアだからだ。

一方『字通』は「音」の原義を、「言は神に誓って祈ることばをいう。言の下部の祝禱の器を示すサイ 外字(さい)の中に、神の応答を示す一を加えた形。神はその音を以て神の訪れを示した。器の自鳴を示す意である」という。

いずれも卓説と言うべきだが、サイ 外字に一が加わった形を、白川博士は「祈祷文を収めた姿」とも説く。どちらなのだろうか。どちらでもありうるのだろうか。

学研漢和大字典

会意。音とは、口の中に物を含むさま。意は「音(含む)+心」で、心中に考えめぐらし、おもいを胸中に含んで外に出さないことを示す。憶(オク)(おもいを心中に含んで胸が詰まる)・抑(ヨク)(中におさえ含む)と同系。付表では、「意気地」を「いくじ」と読む。▽草書体をひらがな「い」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}こころ。おもい(おもひ)。心中でおもいめぐらした考え。心中のおもい。おもわく。気持ち。「留意(気をつける)」「得意=意を得」「其意常在沛公也=其の意常に沛公に在るなり」〔史記・項羽〕。「明朝有意抱琴来=明朝意有らば琴を抱いて来たれ」〔李白・山中与幽人対酌〕
  2. {名詞}わけ。意味。「文意」「略知其意=略ぼ其の意を知る」〔史記・項羽〕
  3. (イス){動詞}おもう(おもふ)。心の中でおもいめぐらす。かってな憶測をする。《類義語》憶。「毋意=意する毋し」〔論語・子罕〕→語法「①②」

語法

①「おもうに」とよみ、「かんがえるに」と訳す。推量の意を示す。▽「意者」も、意味・用法ともに同じ。「意者身不敬与=意(おも)ふに身の不敬なるや」〈思うに、それは態度が不敬なのではなかろうか〉〔荀子・子道〕
②「不意」は、「おもわざりき~せんとは」とよみ、「はからずも~とは」「おもいもよらず~」と訳す。予想もつかない、意表をつかれる意を示す。「我不意子学古之道、而以餔啜也=我意(おも)はざりき子古の道を学んで、而(しか)ももって餔啜(ほせつ)せんとは」〈わたしは思ってもみなかった、お前が昔の聖人の道を学びながら、飲食ばかりするとは〉〔孟子・離上〕▽「不料=はからざりき」も、意味・用法ともに同じ。
③「おもうに」「そもそも」とよみ、「それとも」「あるいは」と訳す。選択の意を示す。▽「邪」「乎」などとともに用いる。《類義語》抑。「意知而力不能行邪=意(そもそも)知れども力(ちから)行ふこと能はざるや」〈それとも分かってはいるけれど実行する力がないのか〉〔荘子・盗跖〕

字通

[会意]音+心。〔説文〕十下に「言を察して意を知るなり」とし、字を言に従うものと解するが、字は音に従う。音は言(祝詞)に対して、「神の音なひ」を示す自鳴の音が加わることを示す字。もと「神の音なひ」、すなわち「おとづれ」。意は、その神意を憶度おくたくすることをいう。

訓義

1.おしはかる。
2.ひろくものごとを推量して考えること、おもう。
3.考えてその意志を定めること、こころ。
4.噫と通用する。ああ。

声系

〔説文〕に意声として、噫・檍・薏など四字を録する。噫は深く意(おも)うときの嘆声である。

語系

意・噫iə、嘻・譆xiəは声義近く、感動詞に用いる。意・億iəkは同声、通用する。

違(イ・13画)

論語 違 金文
(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、韋(イ)は、物をあらわす口印を中心にして、左右の足が逆向きにあるさまを示す会意文字。違は「辶+(音符)韋」で、←→型にいきちがいになること。

諱(キ)(ことばがぶつからないよう避ける→あることばをいむ)と同系のことば。

意味

  1. {動詞}ちがう(ちがふ)。たがう(たがふ)。そむく。きまった方向と向きが逆になる。くいちがう。「違反」。
  2. {動詞}さる。離れさる。あわない。仲たがいする。「崔子弑斉君、陳文子有馬十乗、棄而違之=崔子斉の君を弑す、陳文子馬十乗有り、棄ててこれを違る」〔論語・公冶長〕

謂(イ・16画)

論語 謂 金文 論語 謂 篆書
(金文・篆書)

カールグレン上古音はgi̯wəd。

同じ「言う」でも、”事・人を論じてその実体を得る”こと。『大漢和辞典』の第一義は”あたる”。上掲の金文は春秋晩期の「少虡劍」の文字で、ごんべんがついていない。つまり「胃」を意味することば。確実に時代が遡れる秦系戦国文字「謂」とは書体がずいぶん違っている。しかも部品である「胃」(上古音同)には、『大漢和辞典』に”いう”の語義は載っていない。
謂 秦系戦国文字 
「謂」(秦系戦国文字)

加えて同音・近音で同訓の漢字は『大漢和辞典』を引いても見つからない。すると「謂」を用いた、多数の論語の章が後世の捏造ということになるが、それは考えにくい。恐らくは「胃」と書いて「いう」と読ませていたのだろう。

『字通』謂条にに以下の通り言う。

声符は胃。〔説文〕三上に「報ずるなり」とあるが、もとは「名づける」意であったと思われる。東周の〔吉日剣〕に「朕余之れに名づけて~と胃ふ」とあって、胃を用いる。曰・云と声近く、通用の字である。

百度で「吉日剣」検索してみると、山西省渾源県に東周時代の墓があり、吉日剣についても言及がある考古研究論文を発見したが、剣銘文についての次述は無かった。ただし「応為春秋中、晩期、不同于戦国時期文字単線刻劃類型」とある。
https://wenku.baidu.com/view/165b9b25ccbff121dd3683fb.html

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、胃は、「まるい胃袋の中に食べたものが点々と入っているさま+肉」で、まるい胃袋のこと。謂は、「言+〔音符〕胃」で、何かをめぐって、ものをいうこと。

囲(イ)(めぐってとりまく)・蝟(イ)(まるくめぐってとりまく)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞}いう(いふ)。ある人に向かって話しかける。「謂孔子曰=孔子に謂ひて曰はく」〔論語・陽貨〕
  2. {動詞}いう(いふ)。あることをめぐって話す。あることについて批評していう。「子、謂南容=子、南容を謂ふ」〔論語・公冶長〕
  3. {動詞}いう(いふ)。ある事物に、そう名づける。「謂其台曰霊台=其の台を謂ひて霊台と曰ふ」〔孟子・梁上〕
  4. {動詞}おもう(おもふ)。そう思う。こう考える。▽文頭につけば、「おもへらく」と訓読する。「謂為俑者不仁=謂へらく俑を為る者は不仁なりと」〔礼記・檀弓下〕
  5. {名詞}いい(いひ)。呼び名。「称謂(ショウイ)」。
  6. {名詞}いわれ(いはれ)。理由。わけ。「甚亡謂也=甚だ謂亡し」〔漢書・景帝〕
  7. 「所謂(イワユル)」とは、世の人に呼ばれるところの、の意。「所謂大臣者以道事君=所謂大臣なる者は道を以て君に事ふ」〔論語・先進〕
  8. {動詞}漢代、上官から下吏に対して通知・伝達すること。《対語》⇒言。〔居延旧簡〕

懿(イ・22画)

論語 懿 金文
(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声。壹(イツ)(=壱)は、つぼの中にいっぱいに酒が充実したさま。懿は、もと「欠(人がかがんだ姿、かける)+心+(音符)壹」で、欠けめなく充実した性格のこと。噎(イツ)(いっぱいつまる)・詰(キツ)(つまる)などと同系。

意味

  1. {形容詞}よい(よし)。充実してりっぱである。「懿徳」。
  2. {名詞}りっぱな行い。美徳。「君子之懿(クンシノイ)」。

佾(イツ・8画)

論語 佾 金文大篆
(金文)

”八人が(八列を作り)舞う舞踊”。初見は後漢の『説文解字』。史料上の初見は、『左伝』隱公五年(BC718)になる。

「経」
九月,考仲子之宮,初獻六羽。

「伝」
九月,考仲子之宮將萬焉,公問羽數於眾仲,對曰,天子用八,諸侯用六,大夫四,士二,夫舞所以節八音,而行八風,故自八以下,公從之,於是初獻六羽,始用六佾也。


本文。九月、考仲子が公宮に行って、本邦初の六枚の羽根踊りを上覧にいれた。

注釈。九月、考仲子が公宮に行って踊ろうとすると、隠公が羽根の数を衆仲に問うた。答えて言った。「天子は八枚、諸侯は六枚、大夫は四枚、士は二枚を用います。そして舞の形の区切りは、八つの音で合図し、それに従って八つの所作をします。だから八枚以下なのです。」隠公はそれに従った。こうして初めて六枚の羽根が献上され、六佾に用いられた。

『左伝』が孔子より200年以上前から年代記として成立しているからと言って、その文が全て当時のそれだとは言えない。「佾」の字が漢代からしか見られないという事は、「伝」は漢代まで下がる可能性が高い。

ただ、身分によって八から二まで下がる差別があったことは、おそらくそうだろう。しかしその数は「羽根」であって、踊りに八枚の羽根を用いるとしか書いていない。「佾」は人+八+月(=肉体)で、八人が並んで踊る、一説には八人×八列だと言うが、根拠が無い。

たった一人が、両手それぞれに4枚の羽根を指に挟んで、8枚羽根で踊ったかも知れないのだ。

なお『字通』は「䏌は肉を分かつ形」というが、『説文解字』その他に引っ張られすぎだろう。素直に「八人の肉体」と解した方がよい。また「䏌声に、小さく振動するものの意がある」とあり、下記するように『大漢和辞典』の裏付けがあるが、先秦両漢に用例が無く、佾の字を解説するために、『説文解字』がでっち上げた部品に過ぎない。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、右側は音キツで「八+肉」の会意文字。八人の人体を示す。飲の原字。佾(イツ)は「人+(音符)キツ」で、ひとまとめにしぼった隊列のこと。したがって、八佾とは舞人八隊列の意。

字通

[形声]声符は䏌(きつ)。䏌に肸(きつ)の声がある。䏌は頭音のkが脱した音。䏌は肉を分かつ形。〔説文新附〕八上に「舞の行列なり」とあり、䏌はその肉を列するように、舞列をなす意であろう。

声系

〔説文〕に䏌声として肸・㞕(せつ)の二字を収める。䏌声に、小さく振動するものの意がある。
䏌 大漢和辞典

因(イン・6画)

論語 因 金文 論語 因 解字
(金文)

この金文は白川博士オリジナルで、古今字資料庫にない。国学大師サイトに引く『殷周金文集集成』によると、戦国中期の陳侯󱤇𥎦因󱥕敦に酷似している。西周中期の金文もあるようだ。甲骨文は古今字資料庫でも確認できるため、金文は論語の時代に存在した。

学研漢和大字典

「因」は会意文字で、「囗(ふとん)+∧印(乗せた物)、または大(ひと)」で、ふとんを下に敷いて、その上に大の字に乗ることを示す。下地をふまえて、その上に乗ること。茵(イン)(しとね)の原字。印(上から下を押さえる)と同系のことば。

意味

  1. {動詞}よる。ふまえる。下になにかをふまえて、その上に乗る。「因循」「殷因於夏礼=殷は夏の礼に因る」〔論語・為政〕
  2. {動詞}よる。かさねる(かさぬ)。何かの下地の上に加わる。《類義語》依。「因之以饑饉=これに因ぬるに饑饉を以てす」〔論語・先進〕
  3. {動詞}よる。たよりにする。手づるにする。「因陳子而以告孟子=陳子に因りて以て孟子に告ぐ」〔孟子・公下〕
  4. {名詞}おこった事のよりどころ。《対語》果。「原因」「因由(インユウ)」。
  5. {副詞}よりて。よって。→語法「②」。
  6. {副詞}よりて。よって。→語法「①」。
  7. {動詞・副詞}ちなむ。ちなみに。ゆかりを持つ。機縁にする。何かを縁にして。
  8. {名詞}掛け算のこと。《類義語》乗。
  9. 《日本語での特別な意味》「因幡(イナバ)」の略。「因伯方言」。

語法

①「~により」「~によりて」とよみ、「~によって」「~の理由で」「~をもとに」と訳す。原因・理由・根拠・条件の意を示す。「因風想玉珂=風に因(よ)りて玉珂を想ふ」〈風によって(鳴る鈴の音を)、参内の馬車の鈴の音かと思い及ぶ〉〔杜甫・春宿左省〕
②「よりて」とよみ、「そこで」「それがもとになって」と訳す。前節をうけて、後節の結果を導く意を示す。「若民、則無恒産、因無恒心=民の若(ごと)きは、則(すなは)ち恒産無(な)ければ、因(よ)りて恒心無し」〈一般人民となりますと、安定した生業がなければ、変わらぬ道徳心を持ちえない〉〔孟子・梁上〕

殷(イン・10画)

論語 殷 金文
(金文)

学研漢和大字典

会意文字で、殷の字の左の部分は、身の字の逆形。身は、身ごもって腹の大きい姿を描いた象形文字。身の逆形も身ごもって腹の大きいことを示す。殷は「身の逆形+殳(動詞の記号)」で、腹中に胎児をかくす動作を示す。

転じて、中にものがいっぱいつまっている、充実しているの意をあらわす。

意味〔一〕イン

  1. {形容詞}充実して盛んなさま。
  2. {形容詞}おおい(おほし)。中身がつまっておおい。ゆたかなさま。「殷阜(インフ°)」「士与女、殷其盈矣=士と女と、殷くして其れ盈てり」〔詩経・鄭風・溌粘〕
  3. 「殷殷(インイン)」とは、悲しみがいっぱいになるさま。「出自北門、憂心殷殷=北門より出づれば、憂心殷殷たり」〔詩経・邶風・北門〕
  4. {名詞}中国古代の王朝名。湯(トウ)王が夏(カ)の桀(ケツ)王を滅ぼしてたて、はじめ黄河デルタの済水のほとりを中心として、亳(ハク)に都を置いた。のち盤庚(バンコウ)が、都を今の河南省安陽市小屯(この遺跡が殷墟(インキョ))に移した。紂(チュウ)王のとき(前一〇二三年)、周の武王に滅ぼされた。▽殷の人自身は、商といった。⇒商。
    め{形容詞}穏やかでねんごろなさま。《同義語》⇒慇。
  5. (インタリ){形容詞}雷や、大砲の重々しい音の形容。▽上声に読む。「殷其雷、在南山之陽=殷として其れ雷は、南山の陽に在り」〔詩経・召南・殷其雷〕

意味〔二〕アン

  1. {名詞・形容詞}あかい(あかし)。黒みがかった赤色のこと。また、その色をおびているさま。「殷紅(アンコウ)」「羅袖寨残殷色可=羅の袖は寨れ残ひ殷色の可し」〔李復・一斛珠〕

字通

𠂣いんしゅ。𠂣は身の反文。身は妊娠のかたち。これをほこつのは、何らかの意味をもつ呪的方法と思われる。その呪儀を廟中で行う。孕んでいる子の、生命力を鼓舞する意の呪儀であろう。字形から言えば、”朱殷しゅあん”のように、血の色を言うのが原義であろう。

訓義

さかん、大きい、ゆたか、多い。正しい、あたる、ただす。慇に通じ、ねんごろ、うれえる。血などの赤黒の色、あか、あかい。王朝名、姓。

淫(イン・11画)

論語 淫 金文大篆
(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声。右側は「爪(手)+壬(妊娠)」の会意文字(音イン)で、妊娠した女性に手をかけて色ごとにふけること。淫はそれを音符とし、水を加えた字で、水がどこまでもしみこむことをあらわす。邪道に深入りしてふけること。耽(タン)(ふける)・沈(チン)(深くしずむ)・深(ふかい)などと同系のことば。

意味

  1. (インス){動詞・形容詞}みだら。色ごとに深入りする。ふしだらなさま。《同義語》⇒婬(イン)。《類義語》耽(タン)。「姦淫(カンイン)」「淫蕩(イントウ)」。
  2. (インス){動詞・形容詞}邪悪なことに深入りしてとめどもなくなる。度を越えて深入りする。また、そのさま。「淫雨(インウ)(とめどもなく降り続く長雨)」「淫祠(インシ)」。
  3. (インス){動詞}物事にふける。邪道に深入りさせる。深く入りこんで悪くする。「富貴不能淫=富貴も淫する能はず」〔孟子・滕下〕
  4. {動詞}ひたる。ひたす。じわじわと深くしみこむ。「浸淫(シンイン)」。

字通

声符は論語 外字 イン。〔説文〕十一上に「侵淫して理に隨ふ也」とあり、地の脈理に従って水が浸してゆく意とする。また「久雨を淫と為す」とは、侵淫して止まぬ意であろう。論語 外字 イン(てい)(挺立して祝詞を捧げ祈る人)に手を加えて督促する形で、過甚の意。水の浸透することには淫といい、人の欲情においては婬という。

訓義

みだら、みだす、みだれる。水の過甚なもの。ひたす、あふれる、はびこる。長い雨、深い、沈む。一般に、甚だしい状態をいう。ふける、ほしいまま、久しい、大きい、よこしま。

大漢和辞典

みだら:色好み、私通、不取り締まり、よこしま。みだれる、みだす:みだれまじる、まどわす、順序を乱す、身分を超えて上になぞらえる、流し目に見る、侵す。ひたる、ひたす:脈理に従って順次に浸漬していく。うるおう、つやがある。いく:進む、あそぶ。あふれる。ふける、度を超す。おごり、おごる。はびこる。ほしいまま、わがまま。むさぼる。人の心を惑わすもの。大きい、多い。深い。沈む。久しい。長雨。止まる。つらねる。染める。泥でふさぐ。祀るべきでない神を祀ること。堆の名。川の名。〔邦〕淫欲。●液、●水。

飮(飲)(イン・12画)

論語 飲 甲骨文 論語 飲 金文
「飲」(甲骨文・金文)

学研漢和大字典

「飲」は会意兼形声文字で、飮の左側はもと「今+酉(かたくふたをして酒をつぼに入れる)」。飮の本字はそれを音符とし、欠(口をあけた人の形)を加えた会意兼形声文字。今の字体は、左側をよく似た形の食にかえたもの。

こぼれないように、口の中に入れて、とじこめること。擒(キン)(とじこめて捕らえる)・酓(イン)(かたくふたをして酒をつぼの中に入れこむ)・陰(ふさぎこむ)と同系のことば。

意味

  1. {動詞}のむ。水や汁物を口に入れてのみこむ。《対語》⇒吐。《類義語》呑(ドン)。「冬日則飲湯、夏日則飲水=冬日は則ち湯を飲み、夏日は則ち水を飲む」〔孟子・告上〕
  2. {動詞}のむ。外に出ようとする気持ちを、ぐっとのみこむ。《対語》吐。《類義語》呑。「莫不飲恨而呑声=恨みを飲みて声を呑まざるはなし」〔江淹・恨賦〕
  3. {名詞}のみもの。のむこと。また、特に飲酒。酒宴。《類義語》呑。「一瓢飲(イツヒ°ヨウノイン)」〔論語・雍也〕。「張楽設飲=楽を張り飲を設く」〔戦国策・秦〕
  4. {動詞}のます。水やのみものをのませる。▽去声に読む。「酌而飲寡人=酌みて寡人に飲ませよ」〔礼記・檀弓下〕

隠/隱(イン・14画)

論語 隠 金文大篆 論語 隠
(金文大篆)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔi̯ən(ʔは空咳の音に近い)で、同音に殷”さかん”・慇”ねんごろ”と、隱を部品とした漢字群。置換候補は近音の陰ʔi̯əm。

学研漢和大字典

会意兼形声。隱の右側の上部は「爪(手)+工印+ヨ(手)」の会意文字で、工形の物を上下の手で、おおいかくすさまをあらわす。隱はそれに心をそえた字を音符とし、阜(壁や、土べい)を加えた字で、壁でかくして見えなくすることをあらわす。隠は工印をはぶいた略字。

穩(オン)(=穏。動きをかくす→おだやか)・湮(イン)(かくす)・殷(イン)(かくして中にこもる)などと同系。衣(からだをかくすころも)・依は、その語尾のnが転じたことば。類義語に蔵。

似た字(隠・穏)の覚え方「丘があってかくれる(隠)、稲(禾)があっておだやか(穏)」。

語義

  1. {動詞・形容詞}かくれる(かくる)。かくす。外から見えなくなる。また、何かでおおって見えなくする。おおわれて見えないさま。《対語》⇒顕。「隠匿」「隠微」「隠悪而揚善=悪を隠して善を揚ぐ」〔中庸〕
  2. {動詞}かくす。人に知れないようにする。秘密にする。「父為子隠=父は子の為に隠す」〔論語・子路〕
  3. み{動詞・形容詞}かくれる(かくる)。出世を求めず、人目からかくれる。目だたない所に退いている。「隠民」「隠士」「隠居放言=隠居して放に言ふ」〔論語・微子〕
  4. {動詞}いたむ。相手の身により添って考える。親身になって心配する。おしはかる。《類義語》依。「惻隠(ソクイン)」「王若隠其無罪而就死地、則牛羊何択焉=王もし其の罪無くして死地に就くを隠まば、則ち牛羊何ぞ択ばん」〔孟子・梁上〕
  5. {名詞}人知れぬ悩み。その身になってみてわかる苦労。「民隠(人民の苦しみ)」。
  6. (インタリ)・(イントシテ){形容詞}おおわれてぼんやりしたさま。なんとなく。▽去声に読む。「隠若白虹起=隠として白虹の起つがごとし」〔李白・望廬山瀑布〕
  7. {形容詞}はででなく、ずっしりと中にこもっているさま。落ち着いているさま。▽去声に読む。《類義語》穏。「隠隠」。
  8. {動詞}よる。よりかかる。また、何かをたよりにする。何かのかげにかくれる。▽去声に読む。《類義語》依(イ)・倚(イ)。「隠几而臥=几に隠りて臥す」〔孟子・公下〕
  9. 《日本語での特別な意味》「隠岐(オキ)」の略。「隠州」。

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