論語語釈「ク」

矩(ク・10画)

論語 矩 金文 論語 己 曲尺
(金文)

原義は”直角定規”。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、巨(キョ)は、かぎ型の定規にとっ手のついたさまを描いた象形文字。矩は「矢(昔は、物の長さを矢ではかった)+〔音符〕巨」で、角度や長さを計るかぎ型の定規。

距(上端と下端がへだたっている)・虚(真ん中がくぼんでいる)などと同系のことば。

意味

  1. {名詞}さしがね。かぎ型の定規。《類義語》規。「規矩(キク)(はかる道具、物事の標準)」。
  2. {名詞}のり。一定の規準。かどめ。コースや、わく。「不踰矩=矩を踰えず」〔論語・為政〕

懼(ク・21画)

論語 懼 金文 論語 鳩 懼
(金文)

論語の本章では『大漢和辞典』の第一義と同じく”おそれる”。この字の初出は上掲の戦国末期の中山王の青銅器に鋳込まれた金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡhi̯woで、同音は瞿(見る・驚き見る)を部品とする漢字群。しかし瞿の初出も戦国文字で、置換候補は存在しない。

学研漢和大字典

意兼形声。瞿(ク)は「目二つ+隹(とり)」の会意文字で、鳥が目をきょろきょろさせること。懼は「心+(音符)瞿」で、目をおどおどさせる不安な気持ち。危虞(キグ)の虞(おそれ)と同系。類義語に恐。

語義

  1. {動詞}おそれる(おそる)。びくびくする。目をおどおどと動かす。「恐懼(キョウク)」「一則以懼=一に則ち以て懼る」〔論語・里仁〕
  2. {名詞}おそれ。おどおどする気持ち。心配。「能無懼而已矣=能く懼れ無きのみ」〔孟子・公上〕
  3. {名詞}おそれ。警戒すべき事がら。あってはならないと用心すること。

愚(グ・13画)

論語 愚 金文 佝 金文
「愚」「佝」(金文)

カールグレン上古音はŋi̯u。同音に下掲禺(オナガザル)を筆頭にそれを部品に持つ漢字群。おそらく論語の時代「禺」と書き、”猿真似(する愚か者)”を意味していたと想像する。
禺 愚 金文

上掲の金文は戦国末期のもの。どうも中国古代で「ク・グ」という音には”おろか”の意があったらしく、𡓿・遇(以上グ)、溝・瞉・贛・佝・倥・傋・怐・戇(以上ク)などを挙げ得、k系統の近音となると更に多数にのぼる。

中でも「佝」はカールグレン上古音は不明だが、『学研漢和大字典』に記載の藤堂上古音はhugであり、同「愚」のŋugときわめて近い。もう一つの置換候補として提示する。

また『字通』愚条では部品の禺を禹と「構造は…近く」と述べ、「二竜相交わる形。禺もおそらくその形で、竜蛇の類であるらしく、禺𤠾ちゅは東海の海神、禺きょうは北海の海神の名。顒然といて動作のゆるやかな状態は機略に乏しく、愚鈍の意に用いられる」という。

なお孔子は論語先進篇17で曽子を「ウスノロ」と評すると同時に、弟子の子羔を「柴や愚」と評している。

学研漢和大字典

論語 猿 愚
会意兼形声文字で、禺(グウ)は、おろかな物まねざるのこと。愚は「心+〔音符〕禺」で、おろかで鈍い心のこと。偶像の偶(人に似ているが動作のできない人形)と同系のことば。

意味

  1. {形容詞}おろか(おろかなり)。知恵の働きが鈍い。《対語》⇒智・賢。「暗愚」「容貌若愚=容貌愚かなるがごとし」〔史記・老子〕
  2. {名詞}おろか者。「鮑叔不以我為愚=鮑叔我を以て愚と為さず」〔史記・管仲〕
  3. {名詞}自分、または自分に関するものを謙そんしていうことば。「愚見」「愚以為=愚以為へらく」〔諸葛亮・出師表〕
  4. (グトス){動詞}おろかな者と考える。ばかにする。

字通

禺(グウ)は頭の大きなものの形。字の構造は禺より禹(ウ)に近く、禹は二竜相交わる形。禺もおそらくその形で、竜蛇のたぐいであるらしく、頭が大きくて動作の緩やかな状態は機略に乏しく、愚鈍の意に用いる。

君(クン・7画)

論語 君 金文
(金文)

論語では「君子」との熟語で他出。その意味には多様性がある。「君子」については論語語釈「君子」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、尹は、手と亅印の会意文字。上下を調和する働きを示す。もと、神と人の間をとりもっておさめる聖職のこと。君は「口+(音符)尹(イン)」で、尹に口を加えて号令する意を添えたもの。人々に号令して円満周到におさめまとめる人をいう。

「平均」の均(まんべんなくまとめる)と同系のことば。

意味

  1. {名詞}きみ。人民をおさめる王。▽もと、天と地、神と人の間を周到にとりもつ聖なる職のことをいい、のち、人々をおさめる王のことをいう。「君主」「君哉舜也=君なる哉舜也」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞}きみ。諸侯や大名。「弑其君=其の君を弑す」〔孟子・梁上〕
  3. {名詞}きみ。人を尊んで呼ぶことば。「如其不才、君可自取=もし其れ不才ならば、君自ら取るべし」〔蜀志・諸葛亮〕
  4. {名詞}世代が上位である肉親、またそれに準ずる者を尊んで呼ぶことば。「先君(先祖を尊んで呼ぶことば)」「厳君(父を尊んで呼ぶことば)」。
  5. {名詞}きみ。夫婦の間で互いに敬愛して呼ぶ呼び方。「君家、婦難為=君の家、婦は為り難し」〔古楽府・焦仲卿妻〕
  6. {名詞}妻や、貴婦人を呼ぶ呼び方。「細君(妻のこと)」「帰遺細君=帰りて細君に遺る」〔漢書・東方朔〕
  7. {動詞}君主としての役を果たす。君として臨む。「君不君=君君たらず」〔論語・顔淵〕
  8. 《日本語での特別な意味》きみ。つ男が対等または目下の相手をややていねいに呼ぶことば。づ遊女のこと。

字通

「君」はいん+口。尹は神杖をもつ聖職者、口(口さい)は祝詞を収める器。巫祝の長をいう字であった。〔説文〕二上に「尊なり」と訓し「尹に従い、号を発す。故に口に従う」とするが、口は祝禱を示す。周の創業をたすけた召公は金文に「皇天尹大保」とよばれ、〔書〕では「君せき」とあって、尹・君・保はみな聖職者としての称号であった。王侯の夫人を古く「君氏」というのも、かつて女巫が君長であったなごりであろう。〔左伝、襄十四年〕に「夫れ君は神の主なり」とあり、君はもと神巫の称であった。のち祭政の権を兼ねて君王の意となり、古い氏族時代には、その地域の統治者を里君といった。

訓義

(1)きみ、君王、統治者。(2)おさ、かしら、身分ある人の敬称。(3)尊属者の敬称。(4)対称。敬愛の意を含めていう。(5)神霊その他、畏敬すべきものに用いる。

大漢和辞典

君 大漢和辞典
君 大漢和辞典
君 大漢和辞典
君 大漢和辞典

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