
區/区(ク・4画)
子禾子釜・戦国
初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯u(平)またはʔu(平)。同音は下記の通り。
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
區 | ク | さかひうち(境内) | 甲骨文 | 平 | |
驅 | 〃 | かる | 西周末期金文 | 〃 | |
敺 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | |
軀 | 〃 | み | 説文解字 | 〃 | |
竘 | 〃 | すこやか | 斉系戦国文字 | 上 |
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
謳 | オウ・ウ | 歌ふ | 説文解字 | 平 | |
嘔 | オウ | 声 | 不明 | 平/上 | |
甌 | オウ・ウ | 小さい鉢 | 説文解字 | 平 | |
區 | 〃 | ものをかくすところ | 甲骨文 | 〃 | |
毆 | 〃 | うつ | 春秋末或戦国早期晋系文字 | 上 | |
漚 | 〃 | ひたす | 説文解字 | 去 |
学研漢和大字典
会意。「匸印+狭いかっこ三つ」で、こまごました狭い区画をいくつもくぎるさま。
語義
ク(平)qū
- (クス){動詞}細かく仕切る。くぎる。「区別」「区以別矣=区して以て別る矣」〔論語・子張〕
- {名詞・単位詞}くぎり。▽くぎった場所は一区・二区と数える。「区域」「公田二頃、宅一区」〔漢書・蘇武〕
- {名詞}天と地でくぎられた世界。この世の中。「区中」。
- 「区区(クク)」とは、こまごまと狭苦しいさま。転じて、自分のことをへりくだっていうことば。「区区之心」。
オウ(平)ōu
- {単位詞}古代の斉(セイ)国のますめの単位。一区(イチオウ)は、四豆(一豆は四升)。
字通
[会意]旧字は區。匸(けい)+品。匸は秘匿のところ。品は多くの祝詞の器(𠙵(さい))を列する形。ここでひそかに祝禱や呪詛を行うので、嘔・歐(欧)・毆(殴)など、その呪儀に関する字は區に従う。小さな区域をかこって行うので、区域・区分・区別、また区々の意となる。〔説文〕十二下に「踦區(きく)、藏匿するなり」とするが、その両義の関連が明らかでなく、字形について「品の匸中に在るに從ふ。品は衆なり」と品を衆口の意とするが、もと呪祝のことに関する字である。
具(ク・8画)
合22153/圅皇父簋・西周末期
初出:初出は甲骨文。
字形:「鼎」を両手で捧げるさま。
音:カールグレン上古音はgʰi̯u(去)。「グ」は呉音。
用例:甲骨文の文を構成する用例は1例のみ知られ、合集05057甲.1に「□□貞示若王具出五月」とある。語義は明瞭でないが、”供え物をする”と解せなくもない。
殷代末期(集成05380)に「王易(賜)□(馭)a12貝一具」とあり、”一そろい”と解せる。
西周早期「弔具鼎」(集成2341)に「弔(叔)具乍(作)氒(厥)考寶□彝。」とあり、人名と解せる。
西周末期「圅皇父鼎」(集成2745)に「鼎𣪕具。」とあり、”道具”と解せる。
春秋早期「秦公鐘」(集成265)「具即其服。」とあり、”つぶさに”・”すべて”と解せる。
学研漢和大字典
会意。上部は鼎(カナエ)の形、下部に両手を添えて、食物を鼎にそろえてさし出すさまを示す。そろえる、ひとそろい、そろえた用具などの意を含む。類義語に備。草書体をひらがな「く」として使うこともある。
語義
- {動詞}そなわる(そなはる)。そなえる(そなふ)。おぜんだてがそろう。必要な物をそろえる。「具備」「令既具未布=令既に具はりていまだ布かず」〔史記・商君〕
- {動詞}そなわる(そなはる)。そなえる(そなふ)。いちおう形をそなえる。どうにか数だけそろえる。「具数(頭数だけそろえる)」「冉牛閔子顔淵、則具体而微=冉牛閔子顔淵は、則ち体を具へて微なり」〔孟子・公上〕
- {名詞}仕事のためそろえておく用具。「道具」。
- {副詞}つぶさに。具体的に。こまごまと。欠けめなくひとそろい。「具答之=具にこれに答ふ」〔陶潜・桃花源詩・古事記〕
- {副詞}ともに。あれもこれも。
- 《日本語での特別な意味》
①ぐ。五目ずし・雑煮などの料理にきざんでまぜ加える魚肉や野菜などのこと。
②衣服・器具などの一そろいになっているものを数えることば。「よろい二具」。
字通
[会意]貝+廾(きょう)。廾は両手。貝はもと鼎の形に作り、両手で鼎を奉ずる象。〔説文〕三上に「共(供)置するなり。廾に從ひ、貝の省に從ふ。古は貝を以て貨と爲す」というが、〔詩、小雅、無羊〕に「爾(なんぢ)の牲則ち具(そな)はる」というように、犠牲などの具備する意。儀礼のときの彝器(いき)鼎実(鼎の中実)の備わることを具といった。その数などに定めがあり、その備わることを備具という。
矩(ク・10画)
伯矩盤・西周早期
初出:初出は西周早期の金文。
字形:「工」形の定規を手に取った人の姿。原義は”(直角)定規”。
音:カールグレン上古音はki̯wo(上)。
用例:西周早期の「白矩鬲」(集成689)に「易白矩貝」とあり、「白き矩貝を賜う」と読め、”整形された”と解せる。その他金文では地名・人名の例がある。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、巨(キョ)は、かぎ型の定規にとっ手のついたさまを描いた象形文字。矩は「矢(昔は、物の長さを矢ではかった)+〔音符〕巨」で、角度や長さを計るかぎ型の定規。
距(上端と下端がへだたっている)・虚(真ん中がくぼんでいる)などと同系のことば。
語義
- {名詞}さしがね。かぎ型の定規。《類義語》規。「規矩(キク)(はかる道具、物事の標準)」。
- {名詞}のり。一定の規準。かどめ。コースや、わく。「不踰矩=矩を踰えず」〔論語・為政〕
字通
[形声]声符は巨。巨は矩の初文で、さしがねの形。〔説文〕五上に巨をその正字とし、「或いは木・矢に從ふ。矢なる者は其の中正なり」とする。その矢の部分は、金文では巨をもつ人の形に作る。規矩と連用し、規は円を作るぶんまわしをいう字であるが、今は定規のように用いる。
俱/倶(ク・10画)
㝬鐘(金)・西周末期
初出:初出は西周末期の金文。
字形:宝器を両手で捧げ持つさま。
音:カールグレン上古音はki̯u(平)。「グ」は慣用音。
用例:金文の用例(集成260「㝬鐘(」)の語義は判然としない。
学研漢和大字典
会意兼形声。具(グ)は、「貴重な物+両手」の会意文字で、物をそろえて両手で差し出すさま。そろえる、そろうの意を含む。倶は「人+(音符)具」で、人々がいっしょにそろって行動すること。のち、副詞となる。類義語に共。
語義
- {副詞}ともに。→語法。
- {動詞}ともにする(ともにす)。いっしょにいく。「道可載而与之倶也=道は載せてこれと倶にすべきなり」〔荘子・天運〕
語法
「ともに」とよみ、「つれだって」「そろって」「両方とも」と訳す。二者が同様にという意を示す。《対語》独(ドク)。《類義語》偕(カイ)。「父母倶存兄弟無故、一楽也=父母倶(とも)に存し兄弟故無(な)きは、一の楽しみなり」〈父母がそろって健在で兄弟にもさしたる事がない、これが一つの楽しみである〉〔孟子・尽上〕
字通
[形声]声符は具(ぐ)。具は鼎を両手で奉ずる形で、供薦するものが備具する意。〔説文〕八上に「皆なり」とあり、祭事に奉仕する人員の備わることをいう。
屨(ク・17画)
睡.日甲61背・戦国最末期
初出:初出は秦系戦国文字。
字形:「尸」”覆うもの”に留めヒモ2つ+音符「婁」(ルまたはロウ)。「婁」のカールグレン上古音はgli̯uまたはglu(共に平)。
音:カールグレン上古音はkli̯u(去)。同音は存在しない。
用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」日甲57背參に「票(飄)風入人宮而有取焉,乃投以屨,得其所」とあり、”はきもの”と解せるが、台風が来てどこに隠れるか、草履を放って占うというのが、異国のこんな古代からあったかと驚かされる。
同日甲61背貳に「 (賁)屨以紙(抵),即止矣。」とあり、何かが吹き出しているのに、「屨」を当てれば止まる、とあるので、”平たいはきもの”と解せる。ただし履き物の底は必ず平たいから、長い履き物の可能性は排除できない。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は無い。
備考:論語語釈「履」も参照。
学研漢和大字典
会意兼形声。「履(はきもの)の略体+(音符)婁(ク)・(ル)(つらねる)」で、わらや麻ひもを連ねて曲げて編んであるくつのこと。
語義
- {名詞}くつ。わらや麻で編んだくつ。《類義語》屩(キャク)。「皆衣褐捆屨織席以為食=皆褐を衣屨を捆り席を織りて以て食を為す」〔孟子・滕上〕
- {動詞}はく。くつをはく。
字通
[形声]声符は婁(る)。婁に寠(く)の声がある。〔説文〕八下に「履なり」とし、履の省文に婁声を加えた字とする。〔古今注、輿服〕に「履は屨の帶あらざる者なり」とあるから、屨はかけ紐のあるもの、履は草履の類であろう。
懼(ク・21画)
中山王□鼎・戦国末期/「瞿」毛公鼎・西周末期
初出:初出は戦国末期の金文。
字形は「忄」+「瞿」ki̯wo(去、平は不明)で、「瞿」は「目」二つ+「隹」。鳥が大きく目を見開いて驚くさまで、初出は西周末期の金文。「懼」全体でおそれおののくさま。原義は”恐れる”。
音:「グ」は呉音。カールグレン上古音はɡhi̯wo(去)で、同音は瞿(見る・驚き見る)を部品とする漢字群。
用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」從政乙3に「愳(懼)則怀(背),恥則𨊠(犯)。」とあり、”おそれる”と解せる。
「漢語多功能字庫」によると、戦国の金文でも竹簡でも原義に用いた。
論語時代の置換候補:結論として存在しない。『大漢和辞典』で同音同訓は次の通り。
- 「兇」:初出は戦国時代の金文。
- 「凶」:初出は戦国文字。
- 「匈」:初出は戦国文字。
- 「恐」:初出は戦国末期の金文。
- 「恗」:初出不明
- 「恟」:初出不明
- 「𢡇」:初出不明
- 「𥉁」:初出は甲骨文。上古音不明(上)
- 「遽」:初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はɡʰi̯waɡ(去)。音素の共通率60%。春秋末期以前に”おそれる”の用例が確認できない。
- 「銎」:初出は後漢の『説文解字』。
- 「鞏」:初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はki̯uŋ(上)。音素の共通率は25%。「巩」の字形で西周末期より”おそれうやまう”を意味した。
部品の「瞿」には、春秋末期までに”おそれる”の用例が確認できない。もう一つは近音の「虞」ŋi̯wo(平)だが、やはり春秋末期までに”おそれる”の用例が確認できない。論語語釈「虞」も参照。
学研漢和大字典
意兼形声。瞿(ク)は「目二つ+隹(とり)」の会意文字で、鳥が目をきょろきょろさせること。懼は「心+(音符)瞿」で、目をおどおどさせる不安な気持ち。危虞(キグ)の虞(おそれ)と同系。類義語に恐。
語義
- {動詞}おそれる(おそる)。びくびくする。目をおどおどと動かす。「恐懼(キョウク)」「一則以懼=一に則ち以て懼る」〔論語・里仁〕
- {名詞}おそれ。おどおどする気持ち。心配。「能無懼而已矣=能く懼れ無きのみ」〔孟子・公上〕
- {名詞}おそれ。警戒すべき事がら。あってはならないと用心すること。
字通
[形声]声符は瞿(く)。瞿は鳥が左右視しておどろくさま。その心情を懼という。金文の〔毛公鼎〕に「烏虖(ああ)、𧾱(おそ)るる余(われ)小子、家、艱(かん)に湛(しづ)めり」の句があり、古くは𧾱をその義に用いた。〔説文〕二上に「𧾱は走り顧みる皃なり」とするが、懼の初文である。
隅(グ・12画)
晋侯𩵦鐘・西周末期/睡虎地秦簡・戦国末期
初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は「遇」。論語語釈「遇」を参照。「小学堂」による初出は秦系戦国文字。
字形:初出の字形は「辵」(辶)”みち”+「禺」”おながざる”だが、由来と原義は明らかでない。
音:「グウ」は慣用音。カールグレン上古音はŋi̯u(平)。同音に「禺」”おながざる”とそれを部品とする漢字群。
用例:西周末期「侯𩵦鐘」(新収NA0873)に「自西北遇(隅)(敦)伐(城)」とあり、”すみ”と解せる。
戦国中末期「郭店楚簡」老子乙12では、「禺」を「隅」と釈文している。
戦国最末期「睡虎地秦簡」日甲40背貳に「西南隅,去地五尺」とあり、”すみ”と解せる。
備考:同音の「嵎」に”すみ”の意があるが、初出は後漢の『説文解字』。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、禺(グウ)は、頭の大きい人まねざるを描いた象形文字で、似たものが他にもう一つある、の意を含む。隅は「阜(土盛り)+(音符)禺」で、土盛りをして□型や冂型にかこんだとき、一つ以上同じようなかどのできるかたすみ。偶(グウ)(人に似た人形)・寓(グウ)(本宅のほかにもう一つある仮住まい)などと同系。類義語に隩。
語義
- {名詞}すみ。かたすみ。二つの線または面が、まじわってできたかど。「辺隅(遠いかたすみ)」「北断剣閣隅=北のかた剣閣の隅を断つ」〔杜甫・草堂〕
- {名詞}すみ。方形の四すみの一つ。「挙隅」「挙一隅不以三隅反=一隅を挙げて三隅を以て反せず」〔論語・述而〕
- {名詞}廉(二面のまじわったかどの線)に対して、三面がまじわってできたかどのこと。「廉隅(かどめ、けじめ。かどばって筋をたて、ゆるがせにしないこと)」。
- 《日本語での特別な意味》「大隅(オオスミ)」の略。「薩隅」。
字通
[形声]声符は禺(ぐ)。〔説文〕十四下に「陬(すう)なり」、前条の陬に「阪隅なり」とあり、山隅の意とする。およそ僻隅のところは神霊の住むところで、字もまた神梯を示す阜(ふ)に従う。禺は顒然(ぎょうぜん)たる木偶の意があり、神異のものを示すとみられる。
遇(グ・12画)
子寓鼎・西周末期
初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は「辶寓」。
字形:「辵」(辶)”みち”+「寓」”やどる”で、「寓」は音符と判断するしかない。
音:「グウ」は慣用音。呉音は漢音と同じく「グ」。カールグレン上古音はŋi̯u(去)。
用例:西周末期「子(辶寓)鼎」(集成2416)に「子(辶寓)乍寶鼎。」とあり、人名の一部と解せる。
西周末期「侯𩵦鐘」(新収NA0873)に「自西北遇(隅)(敦)伐(城)」とあり、”すみ”と解せる。論語語釈「隅」を参照。
春秋末期までの用例は以上で全て。
学研漢和大字典
会意兼形声。禺(グウ)は、頭が大きくて人に似たさるを描いた象形文字で、よく似た相手や二つのものがペアをなすとの意を含む。遇は「辶(足の動作)+(音符)禺」で、AとBが歩いていき、ふと両者が出あって、ペアをなすこと。偶(グウ)(ペアをなす二人)・隅(グウ)(右と左でペアをなすすみ)などと同系。類義語に会。にた字(偶・隅・遇)の覚え方「人さとに行きて、たまたま(偶)すみ(隅)にあう(遇)」。
語義
- {動詞}あう(あふ)。AとBとがひょっこりあう。転じて、思いがけずに出あう。《類義語》逢(ホウ)。「遭遇」「遇諸塗=諸に塗に遇ふ」〔論語・陽貨〕
- (グウス){動詞}相手と関係しあう。また、ある態度で相手にのぞむ。「待遇」「礼遇」「殊遇(特別のもてなし)」。
- {名詞}出あい。チャンスに出あって運がよいこと。「遇不遇(運のよしあし)」「際遇(めぐりあわせ)」「未遇(まだチャンスにあえない下づみの人)」。
- {副詞}たまたま。ひょっこりと。思いがけず。《類義語》適。「遇然」「遇識之=遇これを識る」。
字通
[形声]声符は禺(ぐ)。禺は顒然(ぎょうぜん)たる姿のもので、もと神異のものをいう。そのような神異のものに遭遇することを遇という。〔説文〕二下に「逢ふなり」とあり、逢とは夆、峯の秀つ枝に神の降る形に従う字で、これも神異のものに遭遇する意である。遇・逢いずれも、偶然の意を含む。
愚(グ・13画)
「愚」中山王鼎・戦国末期
初出:初出は戦国末期の金文。または戦国中末期の「郭店楚簡」。
「禺」趙孟庎壺・春秋末期/「鬼」鬼作父丙壺・西周中期/「畏」大盂鼎・西周早期
字形:「禺」+「心」。「禺」は手を差し伸べる頭の大きな人の形で、「鬼」と同じく存在の確かでない人の姿をした者のうち、手を差し伸べて連れ添う者。これが手に長柄武器をとると「畏」”化け物”になる。
「禺」は同音から察するに”かりそめの”・”真ん中ではない”の意を含むと思われ、偶然に連れ添う者の意か。「愚」は”真ん中でない・まっとうでない心”で、”おろか”を意味するか。「禺」を「尾なが猿」と解したのは後漢の説文解字で、あまり信用できない。
音:カールグレン上古音はŋi̯u(平/去)。同音に「禺」とそれを部品に持つ漢字群。
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
愚 | グ | おろか | 戦国末期金文 | 平/去 | |
嵎 | 〃 | 山のくま | 説文解字 | 平 | |
禺 | 〃 | 尾なが猿 | 西周早期 | 〃 | |
隅 | 〃 | すみ | 睡虎地秦簡 | 〃 | |
齵 | ゴウ・グ | 歯が正しくない | 説文解字 | 〃 | |
遇 | グ | あう | 西周末期 | 去 | |
寓 | グ | 拠る・仮住まい | 西周早期 | 〃 |
用例:戦国末期「中山王鼎」(集成2840)に「事小子女。事愚女智。此易言而難行施。」とあり、”おろか”と解せる。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「𡓿」(初出不明)、「戇」(初出説文解字)、「遇」(初出西周末期金文)。春秋末期までの「遇」の用例は”隅”の意で、”おろか”の用例が無い。
「𡓿」(漢音ギュウ)は呉音「グ」で「愚」の漢音・呉音と同音なのだが、「嚚」(漢音ギン・ガン、呉音ゲン)の異体字とされ、両字ともカールグレン上古音・藤堂上古音は不明。他説でも「愚」「嚚」の上古音は異なる。うち「愚」と「嚚」の音素共通率が50%を超えるのは李方桂音のみ。
カールグレン | 藤堂 | 王力 | 董同龢 | 周法高 | 李方桂 | |
愚(平) | ŋi̯u | ŋɪug | ŋǐwɔ | ŋjuɡ | ŋ | ngjug |
𡓿(?) | ||||||
嚚(平) | ŋǐen | ŋjen | ŋien | ngjin |
部品の「禺」の用例は、西周早期「小臣𣪕(白懋父𣪕)」(集成4238・4239)では下賜された「貝」に対する修飾語で、おそらく”偶数”の意。西周末期「史頌鼎」(集成2787・2788)、「史頌𣪕」(集成4229~4236)に「帥□禺(堣)盩于成周」とあるのは語義が分からない。成周の都城の”すみ”の意か。
備考:本字について論語との関わりは、論語先進篇17語釈を参照。
どうも中国古代で「ク・グ」という音には”おろか”の意があったらしく、𡓿・遇(以上グ)、溝・瞉・贛・佝・倥・傋・怐・戇(以上ク)などを挙げ得、k系統の近音となると更に多数にのぼる。
「佝」季□父簋蓋・西周末期(集成3877)
中でも「佝」はカールグレン上古音は不明だが、『学研漢和大字典』に記載の藤堂上古音はhugであり、同「愚」のŋugときわめて近い。ただし人名の一部に用いており、語義が不明。
孔子は論語先進篇17で曽子を「ウスノロ」と評すると同時に、弟子の子羔を「柴や愚」と評している。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、禺(グウ)は、おろかな物まねざるのこと。愚は「心+〔音符〕禺」で、おろかで鈍い心のこと。偶像の偶(人に似ているが動作のできない人形)と同系のことば。
語義
- {形容詞}おろか(おろかなり)。知恵の働きが鈍い。《対語》⇒智・賢。「暗愚」「容貌若愚=容貌愚かなるがごとし」〔史記・老子〕
- {名詞}おろか者。「鮑叔不以我為愚=鮑叔我を以て愚と為さず」〔史記・管仲〕
- {名詞}自分、または自分に関するものを謙そんしていうことば。「愚見」「愚以為=愚以為へらく」〔諸葛亮・出師表〕
- (グトス){動詞}おろかな者と考える。ばかにする。
字通
禺(グウ)は頭の大きなものの形。字の構造は禺より禹(ウ)に近く、禹は二竜相交わる形。禺もおそらくその形で、竜蛇のたぐいであるらしく、頭が大きくて動作の緩やかな状態は機略に乏しく、愚鈍の意に用いる。
虞(グ・13画)
宜侯夨簋・西周早期/虞𤔲寇壺・西周末期
初出:初出は西周早期の金文。
字形:「虍」”トラの頭”+「人」。のち「𠙵」”くち”が加わる。「人」は正面形で、かつ首が曲がっている事から、身分ある者がトラに喰われるさまと見える。
音:カールグレン上古音はŋi̯wo(平)。
用例:西周早期「宜𥎦𣪕」(集成4320)に「乍虞公父丁彝」とあり、地名、人名と解せる。
西周中期「恒𣪕蓋」(集成4199)に「世子子孫孫虞寶用」とあり、”長く”と解釈されている。
学研漢和大字典
形声。「虍(とら)+(音符)呉(ゴ)」で、もと、虎(トラ)のようにすばしこい動物のこと。ただし、普通は、あらかじめ心を配るの意に用いる。類義語に思・恐。
語義
- {動詞}おもんぱかる。あらかじめ、先のことを考える。先を見こして考慮する。《類義語》慮。「不虞(フグ)(不慮。予想もしない)」「有不虞之誉=虞らざるの誉れ有り」〔孟子・離上〕
- {動詞・名詞}おそれる(おそる)。おそれ。先のことを考えて心配する。あれこれと気をまわして心配する。うれい。心配。「危虞(あやぶんで心配する)」「可虞=虞るべし」。
- {動詞・形容詞}にぎやかに楽しむ。また、そのさま。▽娯楽の娯に当てた用法。「覇者之民、驩虞如也=覇者之民は、驩虞如也」〔孟子・尽上〕
- {名詞}中国古代の王朝の名。舜(シュン)が帝位についていた時代。▽今の山西省平陸県の虞城は、その子孫の封地。また、河南省の虞城もそのゆかりの地であるという。「虞舜(グシュン)(帝舜のこと)」。
- {名詞}周代、山林や沼沢を管理し狩猟のことをつかさどった役目の官。〔書経・舜典〕
- {名詞}父母の埋葬をおわり、家に帰ってから行う忌み明けの祭り。「虞祭(グサイ)」。
- 「騶虞(スウグ)」とは、足のはやい馬のこと。
字通
[形声]声符は吳(呉)(ご)。吳は祝禱の器(𠙵(さい))を捧げて舞い祈る形。神を楽しませ、神意をやわらげることをいう。〔説文〕五上に「騶虞(すうぐ)なり。白虎黒文、尾は身より長し。仁獸なり。自ら死せるの肉を食す」とあり、〔詩、召南、騶虞〕にその徳を歌うが、想象上の聖獣である。〔周礼、地官〕に山虞・沢虞の職があり、山沢の狩猟を掌る。〔国語、晋語四〕に「(周の文王)其の位に卽くに及び、八虞に詢(はか)る」とあって、軍事を諮問するをいう。字が虎頭の形に従うのは、劇・戲(戯)が軍戯から出た字であるように、虞も軍礼や狩猟と関係があるのであろう。その予備儀礼として、神を楽しませる祝禱の儀礼が行われた。
君(クン・7画)
甲骨文/史頌鼎・西周晚期
初出:初出は甲骨文。
字形:甲骨文の字形は「丨」”通路”+「又」”手”+「𠙵」”くち”で、人間の言うことを天界と取り持つ聖職者。「尹」に「𠙵」を加えた字形。論語語釈「尹」を参照。
慶大蔵論語疏は異体字「コ丿口」と記す。上掲・蔡卞「跋鶺鴒頌」(北宋)行書に近似。
音:カールグレン上古音はki̯wən(平)。
用例:甲骨文の用例は欠損が多く判読しがたいが、称号の一つだったと思われる。「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」は、春秋末期までの用例を全て人名・官職名・称号に分類している。
「漢語多功能字庫」によると、甲骨文での語義は明瞭でないが、おそらく”諸侯”の意で用い、金文では”重臣”(內史龏鼎・西周中期)、”君臨する”(晉姜鼎・春秋早期)、戦国の金文では”諸侯”(中山王方壺・戦国早期)の意で用いた。また地名・人名、敬称に用いた。
論語では「君子」との熟語で多出。その意味には多様性がある。「君子」については論語における「君子」を参照。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、尹は、手と亅印の会意文字。上下を調和する働きを示す。もと、神と人の間をとりもっておさめる聖職のこと。君は「口+(音符)尹(イン)」で、尹に口を加えて号令する意を添えたもの。人々に号令して円満周到におさめまとめる人をいう。
「平均」の均(まんべんなくまとめる)と同系のことば。
語義
- {名詞}きみ。人民をおさめる王。▽もと、天と地、神と人の間を周到にとりもつ聖なる職のことをいい、のち、人々をおさめる王のことをいう。「君主」「君哉舜也=君なる哉舜也」〔孟子・滕上〕
- {名詞}きみ。諸侯や大名。「弑其君=其の君を弑す」〔孟子・梁上〕
- {名詞}きみ。人を尊んで呼ぶことば。「如其不才、君可自取=もし其れ不才ならば、君自ら取るべし」〔蜀志・諸葛亮〕
- {名詞}世代が上位である肉親、またそれに準ずる者を尊んで呼ぶことば。「先君(先祖を尊んで呼ぶことば)」「厳君(父を尊んで呼ぶことば)」。
- {名詞}きみ。夫婦の間で互いに敬愛して呼ぶ呼び方。「君家、婦難為=君の家、婦は為り難し」〔古楽府・焦仲卿妻〕
- {名詞}妻や、貴婦人を呼ぶ呼び方。「細君(妻のこと)」「帰遺細君=帰りて細君に遺る」〔漢書・東方朔〕
- {動詞}君主としての役を果たす。君として臨む。「君不君=君君たらず」〔論語・顔淵〕
- 《日本語での特別な意味》きみ。つ男が対等または目下の相手をややていねいに呼ぶことば。づ遊女のこと。
字通
「君」は尹+口。尹は神杖をもつ聖職者、口(𠙵)は祝詞を収める器。巫祝の長をいう字であった。〔説文〕二上に「尊なり」と訓し「尹に従い、号を発す。故に口に従う」とするが、口は祝禱を示す。周の創業をたすけた召公は金文に「皇天尹大保」とよばれ、〔書〕では「君奭」とあって、尹・君・保はみな聖職者としての称号であった。王侯の夫人を古く「君氏」というのも、かつて女巫が君長であったなごりであろう。〔左伝、襄十四年〕に「夫れ君は神の主なり」とあり、君はもと神巫の称であった。のち祭政の権を兼ねて君王の意となり、古い氏族時代には、その地域の統治者を里君といった。
訓義
(1)きみ、君王、統治者。(2)おさ、かしら、身分ある人の敬称。(3)尊属者の敬称。(4)対称。敬愛の意を含めていう。(5)神霊その他、畏敬すべきものに用いる。
大漢和辞典
軍(クン・9画)
庚壺・春秋晚期/〔軍廾〕鼎・西周
初出:初出は春秋末期の金文。ただし一説に、部品として西周の金文にも見える。
字形:部品としての初出、西周「〔軍廾〕鼎」(集成1771)での字形は上下に「馬」+「車」+「廾」”両手”で、「〔軍廾〕乍寶」とのみ鋳込まれ、〔軍廾〕は人名と解されており、語義は明瞭でない。再出の春秋末期では「勹」”包む”の中に「車」であり、戦車に天蓋ととばりを付けた指揮車を示すか。
音:カールグレン上古音はki̯wən(平)。呉音も漢音も「クン」。「グン」は慣用音。
用例:春秋末期「叔尸鐘」(集成272)に「三軍」とあり、”軍の部隊”と解せる。
学研漢和大字典
会意。「車+勹(外側をとりまく)」で、兵車で円陣をつくってとりまくことを示す。古代の戦争は車戦であって、まるく円をえがいて陣どった集団の意。のち、軍隊の集団をあらわす。運(まるくめぐる)・群(まるくまとまった集団)と同系。
語義
- {名詞}つわもの(つはもの)。兵士。兵士で組織した集団。「軍団」。
- {名詞}いくさ。軍隊を用いるたたかい。「軍役」「軍船」。
- (グンス){動詞}兵隊が駐屯(チュウトン)する。
- {名詞}古代の兵制。一軍は、一万二千五百人。
- {名詞}宋(ソウ)代の行政区画の名。州・府・監とともに路に属した。
- {名詞}刑罰の一つ。犯罪者を遠隔地に送って服役させた。「充軍」。
字通
[象形]車上に旗を立て、なびかせている形。兵車を以て全軍に指麾(しき)することをいう。〔説文〕十四上に「圜(まる)く圍むなり。四千人を軍と爲す。車に從ひ、包の省に從ふ。車は兵車なり」という。包に従って包囲の意を示すとするが、勹(ほう)は金文の字形によると旗のなびく形。旌旗を以て指麾する意。〔礼記、曲礼上〕に「前に士師有るときは、則ち虎皮を載(あ)ぐ」のように、情況に応じて指示する徽号の旗をあげた。指麾を取ることをまた揮といい、軍を動詞化した語である。指麾に従って軍を移動することを運という。
羣/群(クン・13画)
子璋鐘・春秋末期
初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はgʰi̯wən(平)。「グン」は呉音。
学研漢和大字典
会意兼形声。君(クン)は「口+(音符)尹(イン)」から成り、まるくまとめる意を含む。群は「羊+(音符)君」で、羊がまるくまとまってむれをなすこと。裙(クン)(まるくすそをまくスカート)・梱(コン)(まるくまとめてしばる)・軍(円陣をなしてむれる軍隊)・郡(中心をとりまいた地方区)などと同系。類義語に族。「むらがる」「むらがり」は「叢る」「簇る」「叢り」「簇り」とも書く。
語義
- {名詞}むれ。ひとかたまりになったあつまり。また、なかま。「大群」「吾離群而索居=吾群を離れて索居す」〔礼記・檀弓上〕
- (グンス){動詞}むらがる。むれる(むる)。まるく円陣をなして集まる。仲間たちが一つ所に集まる。「群集」「群而不党=群して党せず」〔論語・衛霊公〕
字通
[形声]声符は君(くん)。〔説文〕四上に「輩なり」、〔玉篇〕に「朋なり」と訓するが、もと獣の群集する意である。〔詩、小雅、無羊〕は牧場開きを祝う詩で、「三百維(こ)れ群す」とその多産を予祝する。羊や鹿の類には群集する習性があるので、羊には群といい、鹿には攈(くん)という。これを人に移して群衆という。金文の〔陳侯午敦(ちんこうごたい)〕に「群諸侯」の語がみえている。
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