論語語釈「コ」

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語釈 urlリンクミス

己(コ・3画)

論語 己 金文
己侯貉子簋蓋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯əɡ(上)。

下掲『学研漢和大字典』と『字通』で文字の淵源が乖離しているが、いずれにせよ”われ”の語義が原義でないことは共通している。近音で”われ”を意味しうるのは、『大漢和辞典』に所収の限りでは「台」のみで、カールグレン上古音はdi̯əɡ(平)またはtʰəɡ(平)。前者の韻目は「之」で、この音で「台」に”われ”の意があると『学研漢和大字典』はいう。

従って台di̯əɡ(平)→己ki̯əɡ(上)の音通ということになるが、音の共通が75%となるので、否定しがたい。なお「已」”止む”の字の、去声のカ音は不明だが、上声はzi̯əɡ。

学研漢和大字典

論語 己 篆書 論語 己 土器
(篆書)

象形。己は、古代の土器のもようの一部で、屈曲して目だつ目じるしの形を描いたもの。はっと注意をよびおこす意を含む。人から呼ばれてはっと起立する者の意から、おのれを意味することになった。起(はっとおきる)・紀(注意を呼びおこす糸口)と同系。

参考草書体をひらがな「こ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「こ」ができた。また、初画からカタカナの「コ」ができた。

意味

  1. {名詞}おのれ。自分。《対語》⇒他・人。「自己」「己欲立而立人=己立たんと欲して人を立つ」〔論語・雍也〕
  2. {名詞}つちのと。十干(ジッカン)の六番め。▽五行では土に当てる。日本の「兄弟(エト)」の「つちのと」は「土の弟(ト)」の意。順位の第六位も示す。
  3. 《日本語での特別な意味》おのれ。相手を見下して呼ぶことば。

字通

論語 己 曲尺
己形の矩(定規)の形に似た器。角度を定める定規や糸の巻取りに用いるもので、紀の初文。〔詩、小雅、節南山〕「もったひらぎ式にむ」のように用いる。自己の意に用いるのは仮借で、本義ではない。十干では戊己は五行の土。己はつちのとにあたる。〔説文〕十四下に「中宮なり。萬物の辟蔵してつくる形に象るなり。己は戊を承く。人の腹に象る」とするが、形義ともに無稽の説である。

訓義

  1. おさめる。
  2. おのれ、みずから、わたくし、ひとり。
  3. 語詞、助字に用いる。
  4. 十干の一。つちのと。

大漢和辞典

論語 己 冬

指事文字。五行説によれば、戊己は五行の中央にあたる。故に萬物形を曲げて縮まり蔵れる貌にかたどる。本義を中宮とし、之を引申して、外にある他人に対し、内にある自己、即ちおのれの意とする。つちのとと訓ずるのは、五行説で戊己は中央の土にあたるからである。説文通訓定声によれば、三横線と二縦線の合字。三横線は糸、二縦線はそれを分かつ意、故に紀の本字とする。

字解

おのれ。なにがし。つちのと。語勢を助ける助字。をさめる。古は𢀒に作る。姓。

戶/戸(コ・4画)

戶 金文
聿作父乙簋・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰo(上)。

学研漢和大字典

象形。門は二枚とびらのもんを描いた象形文字。戸は、その左半部をとり、一枚とびらの入り口を描いたもので、かってに出入りしないようにふせぐとびら。枑(ゴ)(木を交差させたバリケード)・護(中にはいらぬようふせぐ)・禦(ギョ)(ふせぐ)などと同系。類義語に門。

語義

  1. {名詞}と。家やへやの出入り口。また、出入り口にある片開きの一枚とびら。《類義語》門・扉(ヒ)。「門戸(入り口)」「外戸而不閉=外に戸あれども閉ぢず」〔礼記・礼運〕
  2. {名詞・単位詞}人民の住む家。また、民家を数えることば。「戸口」「購我頭千金、邑万戸=我が頭を千金と、邑万戸とに購ふ」〔史記・項羽〕
  3. {名詞}家の意から転じて、大人の男の人。「大戸」「上戸」。
  4. 《日本語での特別な意味》飲酒の量の程度をあらわすことば。「上戸」。

字通

[象形]一扇の戸。両扉あるものは門。〔説文〕十二上に「護なり。半門を戸と曰ふ」とみえる。啓・肇(ちよう)などに含まれている戸は神戸棚の戸。門戸は内外を分かつ神聖なところで、卜辞に三戸・三門を祀る儀礼がある。

互(コ・4画)

初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はgho(去)で、同音に虖”吠える”(金文あり)、胡とそれを部品とする漢字群、壺、戸など多数。

学研漢和大字典

象形。二本の棒に切りこみを入れ、かみあわせてつなぐさまを描いたもの。転じて、かみあう、たがい違いに交差するなどの意をあらわす副詞となった。枑(ゴ)(かみあわせ細工)の原字。五(交差する)と同系。

語義

{副詞}たがい(たがひ)。たがいに(たがひに)。AとBとが入れ違いになって。AからBへ、BからAへと、かみあうさま。「交互」「漁歌互答=漁歌互ひに答ふ」〔范仲淹・岳陽楼記〕

字通

[象形]縄(なわ)巻きの器の形。〔説文〕五上に正字を䇘に作り、「以て繩を收むべきなり。竹に從ひ、象形」とし、「中は人の手の推握する所に象るなり」という。交互に巻き進めるので交互の意となり、相互の意となり、また差互の意となる。

乎(コ・5画)

論語 乎 金文
師酉簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰo(平)。論語語釈「呼」も参照。

学研漢和大字典

論語 倦
会意文字。下部の伸びようとしたものが一線につかえた形と、上部の発散する形とからなるもので、胸からあがってきた息がのどにつかえて、はあと発散することをあらわす。感嘆・呼びかけ・疑問・反問など、文脈に応じて、はあという息でさまざまのムードをあらわすだけで、本来は一つである。呼(はあとのどをかすらせて呼ぶ)の原字。

草書体をひらがな「を」として使うこともある。▽「乎」の初三画からカタカナの「ヲ」ができた。

意味

  1. {感動詞}はあという息をあらわすことば。「於乎(アア)(あはあという感嘆の声)」。
  2. {助辞}か・や。→語法「①-1」。
  3. {助辞}か。→語法「③」。
  4. {助辞}や。→語法「①-2」。
  5. {助辞}や。→語法「④」。
  6. {助辞}形容詞・副詞につけて、その状態を示す助辞。「巍巍乎若太山=巍巍乎として太山のごとし」〔呂氏春秋・本味〕
  7. {助辞}に。より。→語法「⑤」

語法:

①「か」「や」とよみ、

  1. 「~であろうか」と訳す。疑問の意を示す。文末・句末におかれる。「管仲知礼乎=管仲は礼を知るか」〈管仲は礼をわきまえていたのですか〉〔論語・八佾〕▽「~乎、…乎」は、選択の疑問の意を示す。
  2. 「どうして~であろうか」と訳す。反語の意を示す。文末・句末におかれる。「以臣弑君、可謂仁乎=臣をもって君を弑(しい)す、仁と謂ふ可けんや」〈臣下の身でありながら主君をあやめるとは、仁と申せましょうか〉〔史記・伯夷〕▽「豈=あに」「安=いずくんぞ」「寧=むしろ」とともに多く用いられ、この場合は「や」とよむ。
  3. 「不亦~乎=また~ならずや」「豈不~乎=あに~ならずや」は、「なんと~ではないか」と訳す。「学而時習之、不亦説乎=学びて時にこれを習ふ、また説(よろこ)ばしからずや」〈学んで適当な時期におさらいする、いかにもうれしいことだね〉〔論語・学而〕

②「か」とよみ、「~だろう」と訳す。推測の意を示す。文末・句末におかれる。「魯患其不救乎=魯の患それ救われざらんか」〈魯の災難は救えないでしょう〉〔韓非子・説林上〕

③「か」「かな」とよみ、「~であるなあ」と訳す。感嘆の意を示す。文末・句末におかれる。「子謂顔淵曰、惜乎=子顔淵を謂ひて曰く、惜しいかな」〈先生が顔淵のことをこう言われた、惜しいことだ(彼の死は)〉〔論語・子罕〕

④「や」とよみ、「~よ」と訳す。呼びかけに用いる。「参乎、吾道一以貫之=参や、吾が道は一もってこれを貫く」〈参(シン)よ、我が道は一つのことで貫かれている〉〔論語・里仁〕

⑤「乎~」は、「~に」「~を」「~より」とよむ。起点・対象・比較・受身の意を示す。《同義語》於・于。「君子所貴乎道者三=君子の道に貴ぶ所の者は三つ」〈君子が礼について尊ぶことは三つあります〉〔論語・泰伯〕

字通

論語 兮 乎

板上に遊舌をつけた鳴子板の形。これを振って鳴らす。もと神事に用いられたものであろう。呼の初文。〔説文〕五上に「語の餘なり」というのは、けいと同義の字とみるもので、兮もまた鳴子板の形である。〔説文〕に「聲の上りて越揚するの形に象る」とするが、卜文・金文の字は、板上に小板の列する形に作る。卜文・金文に呼招・使役の意に用いる。これを感動詞に用いるのは、もと神霊をよび、祈るときの発声であったからであろう。

訓義

(1)よぶ、使役。(2)感動詞、ああ、あ。(3)助詞、や、か。(4)于・於と通じ、助詞、を、に、より。(5)上に形容語をとり、形況の副詞を作る。

大漢和辞典

乎 大漢和辞典

古(コ・5画)

論語 古 金文
史墻盤・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はko(上)。

学研漢和大字典

象形。口印は頭、その上は冠か髪飾りで、まつってある祖先の頭蓋骨(ズガイコツ)を描いたもの。克(重い頭をささえる)の字の上部と同じ。ひからびてかたい昔のものを意味する。固(こちこちにかたい)・枯(ひからびた)と同系。類義語の新旧の旧は、朽と同系で、ふるびて曲がりくぼんだ意。昔は、日かずを重ねたこと。草書体をひらがな「こ」として使うこともある。▽「ふるい」は「旧い」とも書く。

語義

  1. {形容詞}ふるい(ふるし)。ひからびているさま。こちこちのさま。《同義語》⇒故。《対語》⇒新。《類義語》旧。「古書」「古式」。
  2. {形容詞}ふるびたさま。ふるめかしいさま。《対語》俗。「古雅」「高古」。
  3. {名詞}いにしえ(いにしへ)。むかし。《対語》今。《類義語》昔。「尚古=古を尚ぶ」「信而好古=信じて古を好む」〔論語・述而〕

字通

[会意]十(干(たて))+口。口は𠙵(さい)。祝詞などを収める器の形。その器を、聖器としての干で固く守護し、久しくその祈りを機能させようとした。それで先例旧慣の意となり、久古の意となる。〔説文〕三上に字を十口の会意とし、「故なり。~前言を識る者なり」という。〔繫伝〕には多くの人による伝承の意に解するが、古事をいう。古に攴を加えて、その呪能を害することを故といい、事故・災厄を意味する。卜辞に「王の舌を疾(や)めるは、隹(こ)れ古(こと)(故(ゆゑ))シ 外字(あ)るか」と古を故の意に用い、また金文に「古(故)に」のようにいう例がある。故の形義を以ていえば、古が固閉された祝告・盟誓の意であることは疑いがない。〔説文〕に録する古文の字形は、廟中におけるその儀礼を示すものであろうと思われる。

固(コ・8画)

論語 固 篆書
(篆書)

この文字は、戦国時代末期の金文が初出で、論語の時代に遡れない。カールグレン上古音はko(去)。同音に古(ふるびた)があり、甲骨文から存在する。瞽(目が見えない、人の意志を図れない)があり、下掲甲骨文が存在する。同じく「罟」(あみ・おきて)は、”こだわる”の意に転じうるが、金文以前に遡れない。同「蠱」(むし)には”うたがう、まどう、みだれる”の意があり、下掲甲骨文が存在する。同「盬」(塩池)には”もろい、あらい”の意があるが、金文以前が存在しない。同「顧」は戦国末期の金文が初出。

瞽 甲骨文 蠱 甲骨文

同音同訓の「冱」には甲骨文・金文が存在しない。「股」(上古音ko)には西周末期の金文があり、おそらく論語の時代はこの文字を使っていたのだろう。『大漢和辞典』に”かたい”の語釈がある。
股 金文

股 古 大漢和辞典

学研漢和大字典

古は、かたくひからびた頭蓋骨を描いた象形文字。固は、「囗(かこい)+音符古」の会意兼形声文字で、周囲からかっちりと囲まれて動きのとれないこと。枯(かたく乾いた木)-各(かたくつかえる石)-個(かたい物)と同系のことば。

意味

  1. {形容詞}かたい(かたし)。しっかりと安定していて、動きもかわりもしないさま。「堅固」「法莫如一而固=法は一にして固きにしくはなし」〔韓非子・五蠹〕
  2. {副詞}かたく。→語法「①」。
  3. (コナリ){形容詞}かたくな。凝りかたまって融通がきかないさま。「頑固(ガンコ)」「固陋(コロウ)」「学則不固=学べば則ち固ならず」〔論語・学而〕
  4. {動詞}かためる(かたむ)。しっかりと安定したものにする。「固国不以山谿之険=国を固むるに山谿の険を以てせず」〔孟子・公下〕
  5. {副詞}もとより。→語法「②」

語法

①「かたく」とよみ、「かたくなに」「あくまでも」と訳す。「聶政驚怪其厚、固謝厳仲子=聶政その厚きに驚き怪しみ、固(かた)く厳仲子に謝す」〈聶政はそのあまりにも高額なのをいぶかって、厳仲子に(申し出を)固辞した〉〔史記・刺客〕

②「もとより」とよみ、「いうまでもなく」「もちろん」「もともと」「なんとしても」と訳す。必然、疑問の余地がない意、あるいは、事実をもとに論を進展させる意を示す。「君子固窮=君子固(もと)より窮す」〈君子はもともと困窮している〉〔論語・衛霊公〕

字通

+古。古は祈禱を収めた器(𠙵さい)の上に、聖器としてのたてをおき、その呪能を固く守る意で、久古の意がある。その古に外囲を加えて、堅固・固定の意となる。その程度をこえることを頑固という。〔説文〕六下に「四塞なり」と四境を固守する意とするが、本来は祝禱に関する字である。

訓義

かたい、かたくまもる。やすんずる、やすらか、ひさしい。もとより、もともと、もっぱら。まことに、つねに。かたくな。錮と通じ、とどめる、おしこめる、すたれる。

呼(コ・8画)

現在の書体の初出は後漢の『説文解字』。それ以前は「」と同じで初出は甲骨文。カールグレン上古音はgʰo(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。乎は、息が下から上へと伸びて、ハ型に分散するさま。呼は「口+(音符)乎」。乎・呼は同系だが、乎が文末の語気詞に専用されたため、呼の字で、その原義を示すようになった。類義語の喚は、人に声をかけること。喊は、大声でさけぶこと。叫は、のどをしめてかん高い声でさけぶこと。号は、大声でよぶこと。

語義

  1. {動詞}よぶ。のどを開いて、はあと大きい声を出す。《同義語》⇒淬(コ)。《類義語》喚(カン)。「吏呼一何怒=吏の呼ぶこと一に何ぞ怒れる」〔杜甫・石壕吏〕
  2. {動詞}よぶ。声をかける。他人によびかける。《対語》応(こたえる)。「欲呼張良与倶去=張良を呼びてともに倶に去らんと欲す」〔史記・項羽〕
  3. {動詞}よぶ。命名する。「呼称」「呼曰A=呼んでAと曰ふ」。
  4. {動詞}はあと息を吐く。《対語》吸。「呼吸」。
  5. 「嗚呼(アア)」とは、はあはあと嘆息する声を示す凝声語。

字通

[形声]声符は乎(こ)。乎は呼の初文。乎は板上に遊舌を結びつけた鳴子板の形。もと神を呼ぶときに用いた。〔説文〕二上に「息を外(は)くなり」とし、〔段注〕にこの字を呼招の意に用いるのは誤りであるとするが、乎の繁文とみてよい。乎を助詞・介詞に用い、字が分化したのである。

虎(コ・8画)

論語 虎 金文 論語 虎
師虎簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はxo(上)。

学研漢和大字典

象形。とらの全形を描いたもの。

語義

  1. {名詞}とら。猛獣の名。鋭い目・爪(ツメ)・牙(キバ)をもち、性質は荒々しい。▽荒くたけだけしいものにたとえる。
  2. {形容詞}とらのように勇猛な。また、凶悪な。
  3. 《日本語での特別な意味》とら。よっぱらいのこと。

字通

[象形]〔説文〕五上に「山獸の君なり」とあり、「虎足は人の足に象る」とするが、その部分は脚・尾の形である。楚では於兔(おと)といい、青銅器にみえる饕餮(とうてつ)の文様は、その展開文であるらしく、語としても関係があるかと思われる。

沽(コ・8画)

論語 沽 金文
『字通』所収金文

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はko(平)。論語語釈「賈」も参照。

学研漢和大字典

形声文字で、「水+(音符)古」で、ためておいた商品をうったりかったりすること。庫(品物をためておくくら)・賈(品物をかいだめておいてうる商人)・価(ねだん)などと同系のことば

語義

  1. {動詞}うる。かう(かふ)。商品と代金を交換する。値をつけて売買する。《同義語》⇒估。「沽酒(コシュ)」「求善賈而沽諸=善賈を求めて諸を沽らんか」〔論語・子罕〕
  2. {名詞}川の名。山東省東部にある。昔の姑水(コスイ)。
  3. {名詞}酒をうることを職業としている人。▽上声に読む。《同義語》⇒估。
  4. {形容詞}あらい(あらし)。大まかであらい。粗悪である。▽苦に当てた用法。上声に読む。

字通

[形声]声符は古(こ)。〔説文〕十一上に水名とするが、〔論語、子罕〕「善賈を求めて諸(こ)れを沽(う)らんか」、〔論語、郷党〕「沽酒市脯は食はず」のように、売買・市販の意に用いる。酒には酤酒のように酤を用いることがある。

故(コ・9画)

論語 故 金文 論語 故 字解
寺季故公簋・西周晚期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はko(去)。『大漢和辞典』の第一義は”もと・むかし”。攵(のぶん)は”行為”を意味する。類義語の「旧」はもと鳥の名だったが、久(年月をへて曲がった)・朽(キュウ)(曲がってくちる)と音が通じて転用されたことば。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、古は、かたくなった頭骨、またはかたいかぶとを描いた象形文字。故は「攴(動詞の記号)+〔音符〕古」で、かたまって固定した事実になること。

また、すでにかたまって確立した前提をふまえて、「そのことから」とつなげるので「ゆえに」という意の接続詞となる。固(かたい)・個(かたまった物体)などと同系のことば。

意味

  1. {名詞・形容詞}ふるい(ふるし)。以前にあった物・事がら。以前の。《同義語》⇒古。《対語》⇒新・現。「温故而知新=故きを温めて新しきを知る」〔論語・為政〕
  2. {形容詞・副詞}もと。もとより。→語法「①」。
  3. {名詞}もと。以前の状態。「吏民皆按堵如故=吏民皆按堵すること故のごとし」〔漢書・高帝〕
  4. {名詞}以前からのつきあい。また、以前からのいきさつ。なじみ。「君安与項伯有故=君安(いづ)くんぞ項伯と故有る」〔史記・項羽〕
  5. {名詞}事件や事故など、おこってくるよくない事がら。さしさわり。「事故」「多故(事件が多い)」「兄弟無故=兄弟にも故無し」〔孟子・尽上〕
  6. {動詞}死亡する。「病故」「物故(死ぬこと。没故のなまりという)」。
  7. {名詞}ゆえ(ゆゑ)。根本の事情。また、原因。「無故」「文献不足故也=文献足らざるが故なり」〔論語・八佾〕
  8. {接続詞}ゆえに(ゆゑに)。→語法「②」▽奈良時代には、「かれ」と訓読した。
  9. {副詞}ことさらに。→語法「③」。
  10. 《日本語での特別な意味》死者の名まえにつけて、すでに死んでしまったことをあらわすことば。「故山田氏」。

語法

①「もと」「もとより」とよみ、

  1. 「以前」「過去に」と訳す。「燕太子丹者、故嘗質於趙=燕の太子丹は、故(もと)嘗(かつ)て趙に質たり」〈燕の太子の丹は、以前趙に人質となっていたことがある〉〔史記・刺客〕
  2. 「本来」「まことに」「依然として」と訳す。「懶惰故無匹=懶惰なること故(もと)より匹無(な)し」〈なまけものであることは、もともと比類がなかった〉〔陶潜・責子〕

②「ゆえに」とよみ、「だから」「そこで」と訳す。因果関係の結果を示す接続詞。「吾少也賎、故多能鄙事=吾少(わか)くして賎し、故に鄙事(ひじ)に多能なり」〈私は若いときには身分が低かった、だからつまらないことがいろいろできるのだ〉〔論語・子罕〕

③「ことさらに」とよみ、「わざと」「わけあって」と訳す。「故賞以酒肉=故に賞するに酒肉をもってす」〈ものものしくも褒賞に酒や肉を用いたのだ〉〔柳宗元・送薛存義序〕

  1. 「以故」は、「ゆえをもって」とよみ、「だから」と訳す。前節の事情・理由をうける接続句。「以故荊軻乃逐秦王=故を以て荊軻乃(すなは)ち秦王を逐ふ」〈それゆえ荊軻はここぞとばかり秦王を追いかけた〉〔史記・刺客〕
  2. 「以~之故」は、「~をもってのゆえに」「~のゆえをもって」とよみ、「~のために」と訳す。「此独以跛之故、父子相保=これ独り跛(は)の故をもって、父子あひ保つ」〈片足が不自由であったがために、かの父子だけが生き延びた〉〔淮南子・人間〕

⑤「是故」は、「このゆえに」とよみ、「このようなわけで」と訳す。「是故以天下与人易、為天下得人難=この故に天下をもって人に易(やす)く、天下の為に人を得るは難(かた)し」〈だから天下を人に与えることは簡単だが、天下のために人材を確保することは困難である〉〔孟子・滕上〕

字通

[会意]古+攴(ぼく)。古は祝禱を収める器(𠙵(さい))の上に、聖器としての干(たて)を加え、その呪能を永く守る意。ゆえに古久の意がある。それに攴を加えるのは、その呪能をことさらに害しようとするものであるから、字は故意・事故を原義とする。そのことが原因をなすので事由の意となる。金文の〔大盂鼎(だいうてい)〕に「古(ゆゑ)に天、翼臨して子(いつくし)む」とあり、古を故の意に用いる。また〔小盂鼎〕に「厥(そ)の故(こと)を邎(と)ふ」とは事由の意。〔周礼、天官、宮正〕「國に故(こと)有りり」とは、事故・禍殃のあることをいう。

大漢和辞典

→リンク先を参照

孤(コ・9画)

孤 金文 論語 寡 字解
亞夫父丁觚・商代晚期

初出は殷末期の金文で、現行の書体と共通するのは「子」ぐらいで、「瓜」は含まれず、全く字形が違う。カールグレン上古音はkwo(平)。同音に瓜を部品とした漢字群。おそらく殷周革命の結果、重大な言語上の混乱があったと思われる。
孤 カールグレン上古音

学研漢和大字典

会意兼形声。「子+(音符)瓜(カ)」。寡(カ)(すくない、それだけ)と同系。瓜(ウリ)がまるく一つころがっているようなひとりぼっちの子どものこと。寡(カ)(すくない、それだけ)と同系。類義語に寡。

語義

  1. {名詞}みなしご。父に死にわかれた子。《類義語》寡。「孤児」「六尺(リクセキ)之孤」〔論語・泰伯〕
  2. (コナリ){形容詞}ひとりぼっちであるさま。「徳不孤=徳は孤ならず」〔論語・里仁〕
  3. (コナリ){形容詞}それだけ一つ残されるさま。また、一つだけ抜き出て見えるさま。「孤特」「平明送客楚山孤=平明客を送れば楚山孤なり」〔王昌齢・芙蓉楼送辛漸〕
  4. {代名詞}諸侯や国王が自分を謙そんしていうことば。わたし。「孤之有孔明猶魚之有水也=孤の孔明有るはなほ魚の水有るがごとし」〔蜀志・諸葛亮〕
  5. 「三孤」とは、周代、三公の次に位する少師・少傅(ショウフ)・少保の三官のこと。
  6. {動詞}そむく。ひとりだけ離れる。うらぎる。《類義語》辜(コ)。「孤負(=辜負)」「陵雖孤恩漢亦負徳=陵恩に孤くと雖も漢も亦た徳に負く」〔李陵・答蘇武書〕

字通

[形声]声符は瓜(か)。〔説文〕十四下に「父無きなり」とあり、孤児をいう。また尊貴の人の自称に用い、すべて孤独で寂しい状態のものに冠して用いる。

賈(コ/カ・13画)

賈 金文
頌簋・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はko(上)またはkɔ(去)。上声で馬-見の音は不明。

論語では衛の軍務大臣、王孫賈の名として出てくる。

学研漢和大字典

会意。上部は西ではなくて、覆(おおう)の字の上部と同じく、ふたをかぶせたさま。「襾(ふたの形)+貝(財貨)」で、金品におおいをかぶせて隠すことを示す。庫(コ)(物を隠すくら)と同系。類義語について、店の中や倉庫に品物をストックするあきんどを賈といい、行商するのを商といった。のち商と賈を区別せず、ともにあきんどの意に用いる。

語義

コ(上)
  1. {動詞}かう(かふ)。うる。商品をストックしてうりかいする。転じて、あきなう。とりひきする。《類義語》沽(コ)。「賈市(コシ)(あきない)」「賈人(コジン)(あきんど)」。
  2. {名詞}あきんど。商人。《同義語》估。「商賈(ショウコ)(あきんど)」。
カ(去/上)
  1. {名詞}ね。ねだん。《同義語》価。「求善賈而沽諸=善賈を求めて諸を沽らんか」〔論語・子罕〕
  2. {名詞}春秋時代の国の名。晋(シン)に滅ぼされた。今の山西省臨汾(リンフン)市のあたりにあった。▽上声に読む。
  3. 姓の一つ。▽上声に読む。

字通

[会意]襾(か)+貝。襾は物を覆う形。貝は財貨。財貨を蔵するを賈といい、財貨を网(あみ)するを買という。〔説文〕六下に「賈市なり」とし、襾声とするが、買と同じ構造法の字である。

狐(コ・9画)

論語 狐 楚系戦国文字
(楚系戦国文字)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgʰwo(平)。

学研漢和大字典

形声。「犬+(音符)瓜」。クヮクヮと鳴く声をまねた擬声語。

語義

  1. {名詞}きつね。獣の名。からだは細く、尾は太い。毛色は薄茶。毛皮はえりまきに使用される。▽疑い深くてずるがしこい、悪だくみに長じたもののたとえとして用いることがある。

字通

[形声]声符は瓜(か)。〔説文〕十上に「䄏(妖)獸なり。鬼の之れに乘る所なり。三徳有り。其の色は中和、前を小にして後を大にし、死するときは則ち丘首す。之れを三徳と謂ふ」(段注本)とあり、瓜声とする。丘首とは、死するとき故丘に頭を向ける意。狡獪な獣とされる。国語のキツネの語源は擬声語とされるが、狐もその鳴き声をとるものであろう。

瑚(コ・13画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰo(平)。同音は壺、胡を部品とした漢字群、乎、戸など。

学研漢和大字典

形声。「玉+(音符)胡(コ)」。

語義

  1. {名詞}赤色の玉石。
  2. {名詞}祭器の名。「瑚茂(コレン)」。
  3. 「珊瑚(サンゴ)」とは、熱帯の海中にすむさんご虫の群体の石灰質の骨格が集積して、樹枝状または塊状をなしたもの。装飾品の材料となる。

字通

[形声]声符は胡(こ)。〔説文〕一上に「珊瑚なり」とあり、珊瑚虫の骨骼によって形成される枝状のもの。赤・白・碧・黒などの色がある。また、瑚璉。黍稷(しよしよく)を盛る礼器。

觚(コ・13画)

初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkwo(平)で、同音に瓜を部品とする漢字群。いずれも”さかずき”の語義が無く、論語時代の金文や甲骨文にも遡れない。

盃の意味をもつ近縁の語、𨠋コ・觥コウ・柧コは論語の時代に遡れない。『大漢和辞典』に限れば、部品の角は甲骨文から、瓜は金文からあるが、あくまで”つの”・”うり”でしかない。ただし『字通』は次の通り、「角」を殷周時代の酒器とする。

[象形]獣角の形。〔説文〕四下に「獸角なり。象形」とし、字形について「角と刀魚と相ひ似たり」とする。漢碑の〔曹全碑〕〔景北海碑〕などの鰥(かん)の字形を、角に従う形に作る。殷周の酒器に角とよばれる酒器があり、古く角を酒器に用いたなごりである。

つまり「觚」は「角」でありうる。「角」の初出は甲骨文で、カールグレン上古音はkŭk。

明の万暦三十五年(1607)に完成した『三才図会』によれば下のような形。しかし論語時代の觚がいかなる姿で、孔子が奇異に思ったはやりの杯がどんな形だったか、もはや誰にもわからない。

学研漢和大字典

形声。「角+(音符)瓜(カ)・(コ)」。

語義

  1. {名詞}さかずき(さかづき)。昔、中国の量(かさ)の単位で二升(約〇・三八リットル)はいるさかずき。
  2. {名詞}昔、文字をしるした方形の木の札。「觚牘(コトク)」。
  3. {名詞}のり。きまり。《類義語》矩(ク)。
  4. {名詞}物のかど。すみ。また、剣の、手で握る部分。つか。木のまた。《類義語》稜(リョウ)。「觚稜(コリョウ)」。
  5. {名詞}四角。方形。《類義語》矩(ク)。
  6. {名詞}ひとり。仲間や相手がいないこと。▽孤に当てた用法。

字通

(条目無し)

大漢和辞典

リンク先を参照

鼓(コ・13画)

論語 鼓 金文
洹子孟姜壺・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はko(上)。

学研漢和大字典

会意。「上にひも飾り、下に台があるたいこのかたち+攴(棒をもってたたく)」。▽正しくは、蹣と書く。瓠(コ)(まるくふくれたうり)・壺(まるくふくれたつぼ)と同系。

語義

  1. {名詞}つづみ。木や土でつくった胴に革を張り、打ち鳴らす楽器。たいこ。「軍鼓」。
    ま(コス){動詞}つづみをうつ。たいこをうち鳴らす。「鹸然鼓之=鹸然としてこれに鼓す」〔孟子・梁上〕
  2. (コス){動詞}ぽんぽんたたく。リズムをつけて動かす。ふるいたたせる。勢いをつける。「鼓腹」「鼓励」「鼓舞」「鼓楫=楫を鼓す」。
  3. {形容詞}ぱんと張ったさま。まるくふくれているさま。

字通

[会意]壴(こ)(鼓の象形)+攴(ぼく)。鼓をうつ形。〔説文〕三下に「鼓を撃つなり」とし、また別に𡔷五上を録して「郭なり。春分の音なり」という。〔周礼、地官、鼓人〕の六鼓の字はその形に作る。〔説文〕は鼓を動詞、𡔷を名詞と解したのであろうが、両者は同字異構とみてよい。

瞽(コ・18画)

瞽 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はko(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「目+(音符)鼓(皮が張ってあるたいこ→ぴんと張ったままで働かない)」。

語義

  1. {名詞}めしい(めしひ)。目の働かない人。盲人。
  2. {名詞}昔の音楽家のこと。▽音楽家に盲人が多かったことから。「瞽師(コシ)」。
  3. {名詞}物事を見ぬく力の働かない人。

字通

[形声]声符は鼓(こ)。瞽が鼓に従うことについて、〔釈名、釈疾病〕に「瞽は鼓なり。瞑瞑然として、目の平合すること、鼓皮の如し」とするが、楽官に瞽者が多かったからではないかと思う。視力のないものは盲という。〔説文〕四上に「目に但だ朕(ちん)のみ有り」とあり、目睛あるも視力のない意とする。〔国語〕に「瞽史」「瞽師」、また「瞽史の記」などの名がみえ、瞽は古代礼楽の伝承に重要な地位を占めた。殷代の学を瞽宗という。

顧(コ・21画)

雇 甲骨文
「雇」(甲骨文)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はko(去)で、同音は膨大に存在する。日本語音で同音同義なのは、𪄮(上古音不明)の字の仮借。雇ɡʰo(上)の異体字とされ、雇は甲骨文から存在する。ただし語義は”フナシウズラ(ハトの一種)”であり、”やとう・むくいる”。古くは”かえりみる”の語義があった可能性はあるが、断定できない。

学研漢和大字典

会意兼形声。雇(コ)は、わくをかまえて、その中に鳥や動物をかかえこむこと。顧は「頁(あたま)+(音符)雇」で、せまいわくをかぎって、その中で頭をめぐらすこと。嘉(コ)(かかえこむ→やとう)と同系。異字同訓に省みる「自らを省みる。省みて恥じるところがない」。

語義

  1. {動詞}かえりみる(かへりみる)。外をみわたさず、内側だけをみまわす。身辺や後ろをふりかえる。▽訓の「かへりみる」は「かへり(反)+みる(見)」から。「反顧」「右顧左眄(ウコサベン)(左右をかえりみてうろうろする)」。
  2. {動詞}かえりみる(かへりみる)。わが身や過去をふりかえる。「回顧」「自顧非金石=自ら顧みるに金石に非ず」〔曹植・贈白馬王彪〕
  3. {動詞}かえりみる(かへりみる)。気にしてかばう。目をかけてたいせつにする。心を配る。「愛顧」「不顧(気にしない)」「三顧之礼」「先王顧洌天之明命=先王は洌の天の明命を顧みる」〔書経・太甲上〕
  4. {動詞}かえりみる(かへりみる)。周囲に気を配る。「顧全大局=大局を顧全す」。
  5. {動詞}客の来訪をていねいにいうことば。▽来て目をかけてくださる意から。「顧客」「恵顧(おいでくださる)」。
  6. {接続詞}かえって(かへって)。ただ。それとは反対に、の意をあらわすことば。《類義語》但。「卿非刺客、顧説客耳=卿は刺客に非ず、顧て説客なるのみ」〔後漢書・馬援〕
  1. (上){名詞}鳥の名。かごに入れて飼う。
  2. (去){動詞}やとう(やとふ)。賃金を支払って使用人をかかえる。《同義語》⇒嘉。《類義語》傭(ヨウ)。「雇用(=僱用)」。
  3. (去)(コス){動詞}賃金や代金を支払う。「以見銭雇直=見銭を以て直を雇す」〔後漢書・桓帝〕

字通

[会意]雇(こ)+頁(けつ)。雇は神戸棚の前で鳥占(とりうら)をして、神意を問う意。頁は神事の際の礼容。神の顧寵を拝する意である。〔書、太甲上〕「先王、諟(こ)の天の明命を顧みる」、〔詩、大雅、雲漢〕「大命止むに近し 瞻(み)る靡(な)く顧みる靡し」のように、神意の顧念をうることが字の原義であった。〔説文〕九上に「還(めぐ)り視るなり」とあり、後顧の意とするのは、のちの転義である。

五(ゴ・4画)

論語 五 金文
頌鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋo(上)。

学研漢和大字典

指事。×は交差をあらわすしるし。五は「上下二線+×」で、二線が交差することを示す。片手の指で十を数えるとき、→の方向に数えて五の数で←の方向にもどる。→←の交差点にあたる数を示す。また、語(ゴ)(話をかわす)・悟(ゴ)(感覚が交差してはっと思いあたる)に含まれる。互(ゴ)(互いに交差する)と同系。付表では、「五月雨」を「さみだれ」「五月晴れ」を「さつきばれ」と読む。▽証文や契約書では、改竄(カイザン)・誤解をさけるために「伍」と書くことがある。

語義

  1. {数詞}いつつ。「五刑」。
  2. {数詞}いつ。順番の五番め。「五月五日」。
  3. {副詞}いつたび。五回。五度。「五不克=五たび克たず」〔春秋穀梁伝・成二〕
  4. 《日本語での特別な意味》いつつ。午前八時、または午後八時のこと。▽江戸時代のことば。

字通

[仮借]斜めに交錯する木を以て作られた器物の蓋(ふた)の形。数字の五に用いる。〔説文〕十四下に「五行なり。二に從ふ。陰陽、天地の間に在りて交午するなり」と陰陽の相交わる形とし、古文×をあげて、上下の線を略した形とする。卜文に×を用いることが多く、もと算木をその形において数を示したものであろう。卜文では一より四までは横画を重ね、五に至って交画とする。×の形を以ていえば一・二と同じく指示となるが、古くから五の形もあるので、器蓋の象とし、数に用いるのを仮借とする。文字の要素としては×は吾・交・學(学)などの中にも含まれるが、これらの字は、数としての五の義をとるものではない。

吾(ゴ・7画)

論語 吾 金文 論語 吾
商尊・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋo(平・韻目「模」)、平/韻目「麻」は不明。

古くは中国語にも格変化があった名残で、一人称では「吾」(古代音ŋag)を主格と所有格に用い、「」(同ŋar)を所有格と目的格に用いた。しかし論語でその文法が崩れ、「我」と「吾」が区別されなくなっているのは、後世の創作が多数含まれているためである。西周末期の「毛公鼎」では、「吾」は所有格で用いられている。

王曰:父歆,已曰及茲卿事寮,大史寮,於父即君,命女攝司公族,雩三有司,小子,師氏,虎臣雩朕褻事,以乃族幹王身,取專卅寽,賜汝秬鬯一卣,裸圭瓚寶,朱市,悤黃,玉環,玉瑹金車,繹較,朱囂弘斬,虎冟熏裹,右厄,畫韝,畫輴,金甬,錯衡,金童,金豙,涑燢,金簟笰,魚箙,馬四匹,攸勒,金口,金膺,朱旂二鈴,易汝茲關,用歲於政,毛公對歆天子皇休,用作尊鼎,子子孫孫永寶用。

戦国末期の「四年相邦樛斿戈」では、文が短すぎて「吾」の語義を確定しがたい。

武内義雄『論語之研究』によると、斉に伝わった原・論語の一部分である先進篇~衛霊公篇、および子張篇・堯曰篇では格にかかわらず一人称に「予」が使われることを指摘している。ただし「」は戦国文字が初出で、論語の時代に存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「口+(音符)五(交差する)」。語の原字だが、我とともに一人称代名詞に当てる。▽古くは吾はおもに主格と所有格に用い、我はおもに目的格に用いた。ただし「不吾知=吾ヲ知ラズ」のような代名詞を含む否定文では吾を目的格に用いる。類義語に

語義

{代名詞}われ。わが。一人称の代名詞。《対語》⇒汝(ジョ)・爾(ジ)。《類義語》我。「吾日三省吾身=吾日に三たび吾が身を省みる」〔論語・学而〕

字通

五+口。五は木を交叉して器を蓋するもの。口は𠙵さい、祝禱を収めた器の形。その器に固く蓋して、祝禱の呪能を守るもので、まもる意。金文には五を二重にした形のものがある。〔説文〕二上に「我自らふなり」と一人称代名詞とする。〔毛公鼎〕に「王身を干吾かんぎょせよ」とあって、干吾は攼敔の初文。吾を一人称に用いるのは仮借。金文の〔也𣪘いき〕に「吾がちち」という語が両見し、所有格の用法である。主格・目的格には我を用いることが多い。

声系

〔説文〕に吾声として衙・語・敔・圄・悟・啎など十五字を収める。おおむね吾の声義をとる。語は言が攻撃的であるのに対して、防禦的な言語。敔は守る。圉も圉禁、守ることをいう。

語系

吾nga、敔・圄・圉ngiaは声義が近い。また我ngai、卬ngangは、一人称代名詞に用いる。卬は〔詩〕〔書〕にみえるが、金文にはみえない。

後(ゴ/コウ・9画)

論語 後 金文 論語 後 解字
帥隹鼎・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰu(上)、去声は不明。

学研漢和大字典

会意文字で、「幺(わずか)+夂(あしをひきずる)+彳(いく)」で、足をひいてわずかしか進めず、あとにおくれるさまをあらわす。のち、后(コウ)・(ゴ)(うしろ、しりの穴)と通じて用いられる。

意味

  1. {名詞}のち。あと。ある起点よりみて、あとの方。▽場所についても、時間についても用いる。《対語》⇒前・先。「事後」「落人後=人後に落つ」。
  2. {名詞}うしろ。しりえ(しりへ)。しり。▽もと、人体後部のしりの穴のこと。《同義語》⇒后(ゴ)・(コウ)。「是夕也、恵王之後而蛭出=是の夕に也、恵王之後より而蛭出づ」〔新書・春秋〕
  3. {形容詞}のち。あと。のちの。あとの。《対語》⇒先・初・前。「後世」「後生」「後必有災=後に必ず災ひ有らん」〔孟子・梁上〕
  4. {名詞}のち。あと。あとつぎの人。また、子孫。《対語》⇒先(祖先)。「三代之後(三王朝の子孫)」「其無後乎=其れ後無からんか」〔孟子・梁上〕
  5. {動詞}あとにする(あとにす)。のちにする(のちにす)。あと回しにする。「絵事後素=絵事は素を後にす」〔論語・八佾〕
  6. {動詞}おくれる(おくる)。あとになる。《類義語》遅。「非敢後也=敢へて後れしに非ざるなり」〔論語・雍也〕

字通

[会意]彳(てき)+幺(よう)+夊(すい)。〔説文〕二下に「遲きなり」と訓し、〔段注〕に幺は幼少、小足のゆえに歩行におくれる意とする。金文の字形は幺の下に夊をつけ、また各の字形を加えるものがある。各は祝詞を奏して神霊が降格する意であるから、この字も進退に関する呪儀を示すものであろう。幺は御の古い字形にも含まれるもので、御の初文には幺を拝する形に作るものがある。後は、あるいは敵の後退を祈る呪儀を示す字であろう。

吳/呉(ゴ・7画)

論語 期 金文
沇兒鎛沇兒鎛・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋo(平)。呉音では「グ」。

学研漢和大字典

会意。「口+人が頭をかしげるさま」。人が頭をかしげて口をあけ笑いさざめくさまを示し、娯楽の娯の原字。古くから国名に当てる。

語義

  1. {動詞}大声でさわぐ。
  2. {名詞}国名。周代に泰伯がたて、紀元前四七三年、夫差が越王勾践(コウセン)に敗れ、滅びた。句呉ともいう。
  3. {名詞}王朝名。三国の一つ。後漢末に孫権がたて、今の江蘇(コウソ)・浙江(セッコウ)両省のあたりを保有して、北の魏(ギ)や西の蜀(ショク)と天下を三分した。四代約六十年にわたったが、二八〇年晋(シン)に滅ぼされた。
  4. {名詞}王朝名。五代十国の一つ。楊行密(ヨウコウミツ)がたて、今の江蘇省一帯を領有して四代三十六年にわたったが、九三七年徐知誥(ジョチコウ)に滅ぼされた。
  5. {名詞}地名。昔の呉の地方で、今の江蘇省のうち長江以南の地を中心とする一帯。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①くれ。つ昔、日本で中国をさして呼んだ呼び名。▽日の暮れる西方の国の意。奈良時代の日本では江南の呉の地方を中国の代表と考えたので、呉の字を用いた。づ中国から渡ってきたものをあらわすことば。「呉竹(クレタケ)」「呉服(クレハトリ)・(ゴフク)」。
    ②くれる(くる)。物を与えるという場合の当て字。

字通

[会意]夨(そく)+口。口は祝禱を収めた器(𠙵(さい))の形。夨は人が手をあげて舞う形。片手に祝禱の器をささげて、神前で舞うのは、神を娯(たの)しませる意で、呉は娯・悞の初文とみてよい。〔説文〕十下に「姓なり。亦た郡なり」とし、また「一に曰く、呉は大言するなり」とするが、字は祝禱を掲げて舞う形である。〔詩、邶風、簡兮〕に「碩人(せきじん)(殷の子孫である舞人)俁俁(ごご)として 公庭に萬舞す」とあり、俁俁はその舞う姿を形容する。夨は身を傾けて舞う形。両手をあげ、身を傾けて舞う形は笑。また神を楽しませる所作をいう。そのあでやかな姿を夭・妖(よう)という。呉・笑・妖はみな神前に舞う姿を写す字である。

語(ゴ・14画)


余贎乘兒鐘・春秋晚期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はŋi̯o(上/去)。

学研漢和大字典

吾(ゴ)は、「口+音符五(交差する)」からなり、AとBが交差して話し合うこと。のち、吾が我(われ)とともに一人称をあらわす代名詞に転用されたので、語がその原義をあらわすこととなった。語は「言+音符吾」の会意兼形声文字。▽言は、かどめをたててものをいうこと。

意味

  1. {動詞}かたる。かたらう(かたらふ)。だれかにむかって話して告げる。また、話しあう。「対語」「語人曰、我不能=人に語りて曰はく、我能はずと」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}対話。話しあい。▽「論語」とは、対話を整理した書の意。「語録」。
  3. {名詞}ことば。かたられたことば。いいつたえ。はなし。「鳥語(チヨウゴ)(鳥のさえずり)」「語曰=語に曰はく」〔礼記・文王世子〕。「語云、盛徳之士、君不得而臣、父不得而子=語に云ふ、盛徳の士は、君も得て臣とせず、父も得て子とせずと」〔孟子・万上〕
  4. {名詞}「論語」のこと。「語孟」。
  5. {名詞}意味をあらわし、ことばの最小単位になるもの。単語。「語幹」。
  6. {名詞}ある民族社会の言語のこと。「日本語」「中国語」。
  7. {動詞}うったえる。つげる▽去声に読む。
  8. 《日本語での特別な意味》「物語」の略。「源語(源氏物語)」「勢語(伊勢物語)」。

字通

声符は吾。吾に敔・禦の意がある。言語と連称し、言は立誓による攻撃的な言語、語は防禦的な言語。〔説文〕三上に「論なり」とあり、是非を論ずる意とし、また〔礼記、雑記下〕に「言ひて語らず」とは、人を諭説しない意である。〔詩、大雅、公劉〕は都城の経営を歌う詩であるが、その地を定めて旅寝をし、「時(ここ)に于(おい)て宣言し 時に于て語語す」という句がある。これは〔周礼、地官、土制〕や〔地官、誦訓〕などの伝える呪誦を以て、地を祓うことにあたるものであろう。このような呪誦は、わが国の「風俗(くにぶり)の諺」に類するもので、地霊によびかけるものであった。言語はもと呪的な応対の語であったが、のち一般の語をいう。

訓義

かたる、呪語をのべて霊をしずめる、ことば。ことわざ、おしえ。はなし、ものがたり。ときさとす、つげる、いう。かたる、かたらう。国語、仲間とする。

工(コウ・3画)

論語 工 金文
史獸鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkuŋ(平)。金文の字形は握る柄の付いた器の象形。甲骨文の字形は取っ手の付いた器の象形。左手で器を手に取って食べる事から、手+工で左を意味した

論語 工 甲骨文
(甲骨文)

学研漢和大字典

指事。上下二線の間に┃線を描き、上下の面に穴を通すことを示す。また、かぎ型ものさしの象形ともいう。工は攻(コウ)(突き抜く)の原字で、孔(コウ)(突き抜けたあな)・空(穴)ときわめて近いことば。穴をあけるのは、高度のわざであるので、細工することを意味するようになった。類義語の巧は、曲がりくねったむずかしい細工をすること。「大工」の意味の「たくみ」は「匠」とも書く。

語義

  1. {名詞}たくみ。わざ。細工や技術。「技工」。
  2. {名詞}たくみ。細工や技術を心得た職人。「工人」「工欲善其事=工其の事を善くせんと欲す」〔論語・衛霊公〕
  3. (コウナリ){形容詞}たくみ。細工やわざがじょうずであるさま。《同義語》⇒巧。《対語》⇒拙(セツ)。「工緻(コウチ)(細工が細かくじょうずである)」「工於草書=草書に工なり」。
  4. {名詞}つかさ。専門の技術で仕える役人。「百工致功=百工は功を致す」〔史記・五帝〕
  5. {名詞}工芸を職とする階層。「士農工商」。
  6. {名詞}《俗語》労働者。「工人」「工会(労働組合)」。
  7. 「工尺(コウシャク)」とは、東洋音楽の楽譜に用いる記号。
  8. 《日本語での特別な意味》「工業」の略。「商工」「工大」。

字通

[象形]工具の形。〔説文〕五上に「巧飾なり」とし、「人の規矩(きく)有るに象るなり。巫と同意なり」とする。巫のもつところは、左・尋・隱(隠)の字形に含まれる工と同じく、神事に用いる呪具。工具の工は、金文に鍛冶の台の形にみえるものがあり、巫祝の用いるものとは異なるものであろう。金文の〔明公𣪘(めいこうき)〕に「魯侯に𡆥工(えうこう)又(あ)り」とは、祝禱の功あるをいい、また〔詩、小雅、楚茨〕「工祝告(いの)ることを致す」、〔詩、周頌、臣工〕「嗟嗟(ああ)臣工 爾(なんぢ)の公(宮)に在るを敬(つつし)め」とある工祝は巫祝、臣工は神事につかえるものであった。〔書、酒誥〕に「宗工」「百宗工」の名があり、これも神事を主とするものであろうが、のち百工・百官の意となった。西周後期の〔伊𣪘(いき)〕に「康宮の王の臣妾・百工を官𤔲(司)せよ」とあるのは、宮廟に隷属する職能的品部をさすものであろう。

大漢和辞典

工 大漢和辞典

口(コウ・3画)

論語 器 口 サイ 金文
亞古父己卣・殷台末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰ(上)。

学研漢和大字典

象形。人間のくちやあなを描いたもの。▽その音がつづまれば谷(あなのあいたたに)、語尾がxに伸びれば孔(あな)や空(筒抜けのあな)となる。いずれも、中空にあなのあいた意を含む。「巧」の代用字としても使う。「利口」。

語義

  1. {名詞}くち。人の顔にあり、飲食物を取りいれ、音声を発するあな。「口之於味也、目之於色也=口の味きにおけるや、目の色しきにおけるや」〔孟子・尽下〕
  2. {名詞・単位詞}食べる人の数や食べぐあい。また、食物を食べるくちの数によって人数や家畜を数えるときのことば。「戸口」「五口家」「人口」「損其家口充狙之欲=其の家口を損じて狙の欲を充たす」〔列子・黄帝〕
  3. {名詞}あな。ぽかっとくちをあけたあな。「山有小口=山に小口有り」〔陶潜・桃花源詩・古事記〕
  4. {名詞}くち。入りぐち。「関口(関所)」「口岸(商品の出入りする港)」。
  5. {副詞}くちずから(くちづから)。親しく自分のくちから。「口授」「口伝」。
  6. {単位詞}刀を数える単位。「一口之刀」。
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①くち。もののいい方。また、ことば。「口が悪い」。
    ②もののはじめ。「宵の口」。
    ③物事をいくつかにわけた一つ。「別口」。
    ④くち。入りこみうる場所。就職口。「よい口を捜す」。

字通

[象形]口の形。〔説文〕二上に「人の言食する所以なり。象形」という。ただ卜文・金文にみえる口を含む字形のうち、口耳の口と解すべきものはほとんどなく、おおむね祝禱・盟誓を収める器の形である𠙵(さい)に従う。すなわち祝告に関する字とみてよい。文字は祝告の最もさかんに行われた時期に成立し、その儀礼の必要によって成立したものである。

公(コウ・4画)

論語 公 金文
䧹公方鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkuŋ(平)。

学研漢和大字典

会意。「八印(開く)+口」で、入り口を開いて公開すること。個別に細分して隠さずおおっぴらに筒抜けにして見せる意を含む。▽「背私謂之公=私に背くを公と謂ふ」〔韓非〕とあるように、私(細かくわけてとりこむ)と公とは、反対のことば。工(突き抜く)・空(突き抜けた)・攻(突き抜く)などと同系。

意味

  1. {名詞・形容詞}おおやけ(おほやけ)。みんなにうちあけ、みんなとともにすること。▽訓の「おほやけ」は「大(オホ)+家(ヤケ)」の意で、大王家(天皇家)のこと。《対語》⇒私。「公共」「邪曲之害公也=邪曲の公を害す」〔史記・屈原〕
  2. {形容詞}一部にかたよらないさま。「公平」「公正」。
  3. {名詞・形容詞}個人のことでなく、官に関すること。また、個人のことでなく、官に関する。《対語》⇒私。「奉公」「公用」。
  4. {名詞}きみ。公・侯・伯・子・男の五等爵の第一位。▽周代には周公・魯公(ロコウ)のように王朝親族のおもな者に与えられた。のち広く爵位の名となる。「封燕国公=燕の国公に封ぜらる」〔枕中記〕
  5. {名詞}最高の官位。三公のこと。▽周代には、太師・太傅(タイフ)・太保を、前漢には丞相(ジョウショウ)(大司徒)・太尉(タイイ)(大司馬)・御史大夫(ギョシタイフ)(大司空)を、後漢には太尉・司徒・司空を三公という。
  6. {名詞}長老を呼ぶことば。転じて、ていねいに相手を呼ぶことば。「吾知公長者=吾公の長者なるを知る」〔史記・項羽〕
  7. {名詞}第三者を尊敬して某公という。「公等(コウラ)(あなたたち)」「従魂公受春秋=魂公に従ひて春秋を受く」〔漢書・怜弘〕▽「此公(コノコウ)」とは、このかたの意。また「乃公(ダイコウ)」とは、わが輩・おれさまの意で、もったいぶったいい方。
  8. 《日本語での特別な意味》人名・動物の名などの下につけて、親しみや軽べつの意をあらわすことば。「熊公」。

字通

[象形]儀礼の行われる宮廟の廷前のところの、平面形。廷前の左右に障壁があり、その中で儀礼が行われた。〔説文〕二上に「平分なり」とし、公平に分かつこと、また「韓非曰く」として「厶(わたくし)に背くを公と爲す」(〔韓非子、五蠹〕「私に背く、之れを公と謂ふ」)の語を引く。厶(私)と八とに従い、八を左右に背く形と解するものであるが、卜文・金文に厶に従う形のものはなく、方形の宮廟の前に、左右の障壁の線を加える。その廷前を公といい、その廟に祀る人を公という。そこで神徳をたたえる讚歌を頌といい、族内の争訟を裁くを訟という。〔詩、召南、小星〕「夙夜(しゆくや)公に在り」とは、公宮にあって、その祭事に従うことをいう。領主として祀られるものが公であり、その家の私属を私という。その関係を社会化して公私といい、公は公義・公正の義となる。

孔(コウ・4画)

論語 孔 金文
曾伯雨木二簠・春秋早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はkʰuŋ(上)。

学研漢和大字典

会意。「子+梓印」。「説文解字」は乙(つばめ)をまつって子を授かる意と解するが従いがたい。「子(小さい)+梓印(曲げて通す)」を組みあわせて、細いあなが通ったさまを示す。一説に孔雀(クジャク)をあらわすとも、子授けの吉祥をもたらす鳥のことともいう。普通は空(あな)に当てる。

語義

  1. {名詞}あな。中空のすきま。「眼孔」「穿孔=孔を穿つ」。
  2. {動詞・形容詞}突き通る。中空になっているさま。「孔道」。
  3. {副詞}はなはだ。程度のはげしいさま。▽周代の古典に用いられた。《類義語》甚(ハナハダ)。「謀夫孔多=謀夫孔だ多し」〔詩経・小雅・小旻〕
  4. {名詞}「孔子」の略。「孔孟(孔子と孟子)」。

字通

[象形]子の後頭部に竅(あな)のある形。〔説文〕十二上に「通るなり」と訓し、「乙(いつ)と子に從ふ。乙(燕)は子を請ふの候鳥なり。乙至りて子を得。之れを嘉美するなり」とするが、金文の字形は乙に従う形とはみえず、子の後頭部に、小曲点を加えた形である。金文の〔虢季子白盤(かくきしはくばん)〕に「王孔(はなは)だ白(子白)に義(儀)を加ふ」「孔だケン 外字(あき)らかにして光又(あ)(有)り」など、孔甚の意に用いる。出生児の後頭部に、生子儀礼として剃刀を加えるなどのことがあって、それは嘉礼とされたのであろう。〔説文〕にまた「古人、名は嘉、字は子孔」と名字対待の例をしるしている。嘉礼の意よりして、大なり、甚なりなどの義を生じたのであろう。

亢(コウ・4画)

亢 金文
亞高作父癸簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkɑŋ(平)。下掲『学研漢和大字典』は篆書しか参照しておらず、字源についての解説は話半分に読む必要がある。下掲『字通』もふくめた字源は、甲骨文・金文の字形がいずれも、足かせの形であることから違うように感じる。

学研漢和大字典

亢 解字

会意。「大(人の姿)の字の略形(亠。人の首にあたるところ)+∥印(まっすぐな首の線)」で、直立するの意味を含む。頏(コウ)・抗(たってふせぐ)・杭(コウ)(まっすぐにたったくい)に含まれる。「興」に書き換えることがある。「興奮」。

語義

  1. {動詞・形容詞}たかぶる。たかい(たかし)。頭をたかく持ちあげる。すっくとたつ。傲慢(ゴウマン)な態度をとる。また、そのさま。《同義語》⇒昂。「亢然(コウゼン)」「不亢不卑=亢からず卑からず」。
  2. {名詞}のど。まっすぐにたっているのどぶえ。平声に読む。「絶亢而死=亢を絶ちて死す」〔漢書・陳余〕
  3. {動詞}すっくとたちはだかる。▽抗に当てた用法。
  4. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のおとめ座に含まれる。あみぼし。

字通

[象形]人の咽喉(のど)、胡脈とよばれる動脈部分を含む形。〔説文〕十下に「人の頸(くび)なり」とし、「大の省に從ひ、頸脈の形に象る」という。絞首することを「亢を絶つ」「亢を縊(くび)る」、また首をあげて抗することを抵抗、優劣を争うことを頡頏(けつこう)のようにいう。首を抗直にする形が亢である。

巧(コウ・5画)

論語 巧 古文 論語 巧 篆書
(古文・篆書)

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。偏は工作を意味し、つくりは小刀の象形。中国の字書に収められた古い文字(古文)では、へんがてへんになっているものがある。カールグレン上古音はkʰ(上/去)。空とそれを部品とする漢字群など、非常に多くの同音を持つ。藤堂上古音はk’og。部品の工のカ音はkuŋ。藤音はkuŋ。巧と工は音通しているとは言いがたいが、部品として置換の可能性がある。

学研漢和大字典

会意兼形声で、丂(コウ)は、曲線が上につかえたさまで、細かく曲折する意を含む。巧は「工+〔音符〕丂」という。また「利口」の口は、本来巧の字だったのを略した。

意味

  1. {形容詞・名詞}たくみ。細工や技術がじょうずであるさま。手のこんだわざ。《対語》⇒拙。「巧拙」「絶巧棄利、盗賊無有=巧を絶ち利を棄つれば、盗賊有る無し」〔老子・一九〕
  2. {動詞・形容詞}たくみにうわべを飾る。また、そのさま。「巧言(ごまかし)」。
  3. 「乞巧(キッコウ)」とは、陰暦七月七日に、女性が細工の技量の上達を祈ること。また、陰暦七月を巧月という。
  4. {副詞}《俗語》偶然思うようにいくさま。まんまと。「湊巧(ソウコウ)(都合よく。うまいぐあいに)」。

字通

声符は工。工は工具。丂は曲刀の形。〔説文〕五上に「技なり」と技巧の意とし、工を亦声とする。工作についていう字であるが、巧言・巧笑など、人の言動に及ぼしていう。

訓義

1)たくみ、たくみなわざ、上手。2)こしらえ、つくり、いつわり、うわべ。3)うるわしい、さとい、すばやい、たくみに。

大漢和辞典

巧 大漢和辞典
巧 大漢和辞典

功(コウ・5画)

初出は戦国末期の金文だが、「工」と書き分けられていなかった。つまり論語の時代にも存在した。カールグレン上古音はkuŋ(平)で、同音に公、工、貢、攻。

学研漢和大字典

会意兼形声。工は、上下両面にあなをあけること。功は「力+(音符)工」。あなをあけるのはむずかしい仕事で努力を要するので、その工夫をこらした仕事とできばえを功という。攻(あなをあけて突き抜く)・孔(突き抜けたあな)・空(突き抜けたあな)と同系。

語義

  1. {名詞}いさお(いさを)。てがら。やりばえ。「論功=功を論ず」「功績」「其言大而功小者則罰=其の言大にして而功小なる者は則ち罰す」〔韓非子・二柄〕
  2. (コウトス){動詞}てがらと考える。功績とみなす。「公子乃自驕而功之=公子乃ち自ら驕りてこれを功とす」〔史記・信陵君〕
  3. {名詞}働きの結果。成し遂げた仕事。「成功=功を成す」「功遂身退天之道=功遂げ身退くは天之道なり」〔老子・九〕
  4. {名詞}ききめ。実り。「奏功=功を奏す」「夫伐深根者難為功=それ深根を伐る者は功を為し難し」〔曹冏・六代論〕
  5. {名詞}努力。または、工夫。「用功=功を用ふ」「人不暇施功=人功を施すに暇あらず」〔司馬相如・上書諫猟〕
  6. 「功服」とは、喪服の一種。大功と小功がある。
  7. {名詞}《仏教》よい行い。「功徳」。

字通

[形声]声符は工(こう)。工は工作の具。力は耒(すき)の象形。もと農功をいう字である。〔説文〕十三下に「勞を以て國を定むるなり」とする。成功・戎功・有功を、金文に成工・戎工・又工としるし、ときに攻の字を用いる。功は後起の字である。

語系

功・工・攻kongは同声。攻は攻治、その功を致すことをいう。

大漢和辞典

功 大漢和辞典

弘(コウ・5画)

論語 弘 金文
『字通』所載金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰwəŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。厶(コウ)は、ひじをひろく張り出したさま。肱(コウ)の原字。弘は「弓+(音符)厶」で、弓をじゅうぶんに張ることを示す。宏(コウ)(ひろい)・肱(コウ)(ひろく張ったひじ)・紘(コウ)(わくをひろげたなわ張り)などと同系。また、広ともきわめて近い。類義語に広。「広」に書き換えることがある。「広報」。

語義

  1. {形容詞}ひろい(ひろし)。わくいっぱいに張って、中がひろい。スケールが大きい。「弘大」。
  2. {動詞}ひろめる(ひろむ)。外わくをじゅうぶんに張りひろげる。《同義語》⇒広。《類義語》拡(カク)。「人能弘道=人能く道を弘む」〔論語・衛霊公〕
  3. {形容詞}緊張して強く張っているさま。「士不可以不弘毅=士はもって弘毅(こうき)ならざる可からず」〔論語・泰伯〕

字通

[象形]弓の握りのところに紐状のものをつけており、矢摺籐(やずりとう)のように巻き強めたものであろう。〔説文〕十二下に「弓聲なり」とし、字をム(し)声であるとするが、声が合わず、ムのようにみえる部分は弓の中把である。卜片に卜兆に対する繇辞(ちゆうじ)として「弘(おほ)いに吉なり」と附刻している例が多く、金文の〔毛公鼎〕に「皇天弘(おほ)いに厥(そ)の徳に猒(あ)く」とあり、古くから弘大の意に用いる。人の心意の上に移して、弘毅・弘達のように用いる。

叩(コウ・5画)

初出は不明。論語の時代に確認できない。カールグレン上古音はkʰu(上)。同音に摳”引っかける”、口、扣”控える・叩く”、釦”金属で器の口を飾る”、竘”すこやか”、寇、怐”おろか”、詬”恥じる・はずかしめる”。扣(上/去)の初出は楚系戦国文字で、論語の時代に存在しない。部品の卩(カ音不明)は甲骨文から存在するが、”たたく”の語義は『大漢和辞典』に無い

学研漢和大字典

形声。卩印は、人間の動作を示す。叩は「卩(人のひざまずいた姿)+(音符)口」。扣(コウ)と通用する。殻(こつこつとたたく)と同系。類義語に打。

語義

  1. {動詞}たたく。こつこつとたたく。ノックする。《類義語》敲(コウ)。「叩門=門を叩く」「我叩其両端=我其の両端を叩く」〔論語・子罕〕
  2. {動詞}ひれ伏して、頭で地面をたたくようにおじぎする。「叩首(コウシュ)」「叩頭(コウトウ)」。
  3. {動詞}ひかえる(ひかふ)。ぐっと、うしろへ引く。《類義語》控。▽扣(コウ)(ひかえる)に当てた用法。「伯夷叔斉叩馬而諫=伯夷叔斉馬を叩へて諫む」〔史記・伯夷〕

字通

[会意]口+卩(せつ)。口は台の形。卩は人の伏する形で、叩頭の意であろう。周の武王が殷の紂王を伐つとき、伯夷・叔斉が「馬を叩(ひか)へて」諫めた話が〔史記、伯夷伝〕にみえる。伯夷は周と通婚関係にあった姜姓諸族の祖神である。

交(コウ・6画)

交 金文
琱伐父簋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkŏɡ(平)。

学研漢和大字典

象形。人が足を交差させた姿を描いたもので、×型にまじわること。絞(コウ)(なわや布を×型にしぼる)・煌(コウ)(足を型にねじる)・校(×型のかせ)などに含まれる。異字同訓に混ざる・混じる・混ぜる「酒に水が混ざる。西洋人の血が混じる。異物が混じる。雑音が混じる。セメントに砂を混ぜる。絵の具を混ぜる」。「淆」の代用字としても使う。「混交」。

語義

  1. {動詞}まじわる(まじはる)。互いに行き来しあう。「交際」「与朋友交=朋友と交はる」〔論語・学而〕
  2. {動詞}まじわる(まじはる)。まじえる(まじふ)。型にまじわる。「交差」。
  3. {動詞}手渡して受けとらせる。「交付」。
  4. {名詞}まじわり(まじはり)。つきあい。「親交」「為刎頸之交=刎頸の交はりを為す」〔史記・廉頗藺相如〕
  5. {名詞}まじわるところ。まじわるとき。
  6. {副詞}こもごも。型に交差するさま。交互に。また、入れかわりたちかわり。「上下交征利=上下交利を征す」〔孟子・梁上〕

字通

[象形]人が足を組んでいる形。〔説文〕十下に「交脛なり」という。転じて交錯の意となり、交通・交友・交互のような相互の関係の意に用いる。

好(コウ・6画)

論語 好 金文 論語 好
伯歸夆簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はx(上/去)。藤堂上古音はhog。

学研漢和大字典

会意。「女+子(こども)」で、女性が子どもをたいせつにかばってかわいがるさまを示す。だいじにしてかわいがる意を含む。このむ(動詞)は去声、よい(形容詞)は上声に読む。休(かばってたいせつにする)・畜(キク)(大事に養う)・孝(親をたいせつにする)などと同系。

類義語に良。「よしみ」は「誼」とも書く。

意味

  1. {動詞}このむ。すく。愛する。たいせつにする。▽「すく」「すき」の訓は漢文では用いない。《対語》⇒悪(オ)・(ニクム)。「好悪(コウオ)」「王好戦=王戦ひを好む」〔孟子・梁上〕
  2. {形容詞}よい(よし)。このましい。▽上声に読む。「稍覚池亭好=稍覚ゆ池亭の好きことを」〔王績・初春〕
  3. {形容詞}よい(よし)。よろしい(よろし)。…するのにつごうがよい。▽上声に読む。「青春作伴好還郷=青春伴と作すは郷に還るに好し」〔杜甫・聞官軍収河南河北〕
  4. {形容詞}みめよい(みめよし)。姿や顔が美しい。愛らしい。▽上声に読む。「選斉国中女子好者八十人=斉国中の女子の好き者八十人を選ぶ」〔史記・孔子〕
  5. {名詞}よしみ。仲のよい関係。つきあい。▽上声に読む。「与不穀同好如何=不穀と好を同じうするはいかん」〔春秋左氏伝・僖四〕
  6. {動詞}きれいにできあがる。ととのう。「粧好」。
  7. {名詞}璧(ヘキ)のあな。《類義語》孔。「好三寸」。
  8. 《日本語での特別な意味》このみ。趣味。

字通

[会意]女+子。〔説文〕十二下に「美なり」、〔方言、二〕に「關よりして西、秦・晉の間、凡そ美色なるもの、或いは之れを好と謂ふ」とみえる。金文に「好賓」「好朋友」の語があり、また〔羋伯𣪘(びはくき)〕に「用て朋友と百諸婚媾に好せん」とあって、親好の意に用いる。のち美好・好悪の意となる。また璧玉の中央の孔をいう。

行(コウ・6画)

論語 行 甲骨文 論語 行 金文
(甲骨文)/巤季鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰɑŋ(平/去)またはɡʰăŋ(平)またはɡăŋ(去)。『大漢和辞典』の第一義は”あるく”。しかし甲骨文を見ると、『字通』の言う”十字路”が原義だろう。

学研漢和大字典

象形文字で、十字路を描いたもの。みち、みちをいく、動いて動作する(おこなう)などの意をあらわす。また、直線をなして進むことから、行列の意ともなる。衡(コウ)(まっすぐなはかり棒)・桁(コウ)(まっすぐなけた)などと同系のことば。

類義語の歩は、ひと足ずつあるくこと。

意味〔一〕コウ/ギョウ/アン

  1. {動詞}いく。ゆく。動いて進む。また、動かして進ませる。《類義語》進・歩・征。「行進」「歩行」「行不由径=行くに径に由らず」〔論語・雍也〕
    ま{名詞}たび。よそへ出発すること。「送行(たびだちを送る)」「辞行(出発のいとまごいをする)」。
  2. {動詞}おこなう(おこなふ)。やる。動いて事をする。動かす。やらせる。《類義語》為。「施行」「行為」「行有余力則以学文=行ひて余力有らば則ち以て文を学ぶ」〔論語・学而〕▽他動詞(うごかす、やらせる)のときは、「やる」と読むことがある。「行軍=軍を行る」「行酒=酒を行る」。
  3. {名詞}おこない(おこなひ)。ふるまい。身もち。また、仏に仕える者のつとめ。▽去声に読む(今ではxíng)。「品行」「修行(シュギョウ)(僧がおこないをおさめる)」。
  4. {名詞}みち。道路。「行彼周行=彼の周行を行く」〔詩経・小雅・大東〕
  5. {動詞}時が進む。「行年五十」。
  6. {名詞}楽府(ガフ)(歌謡曲)のスタイルをした長いうた。「歌行」「兵車行」。
  7. 「五行(ゴギョウ)」とは、宇宙をめぐり動く木・火・土・金・水の五つの基本的な物質。
  8. {名詞}書体の一つ。隷書(レイショ)の少しくずれたもの。「行書」。
  9. {副詞}ゆくゆく。「行+動詞(ゆくゆく…す)」とは、進みつつ…すること。みちすがら。また、「行将+動詞(ゆくゆくまさに…せんとす)」とは、やがて…しそうだとの意。「行乞(コウキツ)」「行略定秦地=行秦の地を略定す」〔史記・項羽〕。「行将休=行まさに休せんとす」。
  10. {形容詞・名詞}旅行の途中の、という意から転じて、臨時の役所のこと。「行署(コウショ)」「行省(コウショウ)(地方の出先の役所)」「行在(アンザイ)(地方にできた天子の臨時の執務所)」「行宮見月傷心色=行宮に月を見れば傷心の色」〔白居易・長恨歌〕

意味〔二〕コウ/ゴウ/ギョウ

  1. {名詞・単位詞}人・文字などの並び。また、昔、兵士二十五人を一行(イッコウ)といった。また転じて、一列に並んだものをあらわすことば。「行列」「行伍(コウゴ)(列をなした兵士)」「数行(スウコウ)」。
  2. {名詞}とんや。同業組合。また転じて、俗語では、大きな商店や専門の職業。「銀行(もと金銀の両替店)」「同行(同業者)」「洋行(外国人の店)」。
  3. {名詞}世代、仲間などの順序・序列。▽去声に読む(今ではháng)。「輩行(ハイコウ)(世代の序列)」「丈人行(妻の父に当たる序列をもつ人の意から、友人の父を敬って呼ぶことば)」。
  4. 《日本語での特別な意味》「銀行」の略。「行員」。

字通

[象形]十字路の形。交叉する道をいう。〔説文〕二下に「人の歩趨なり」とあり、字を彳(てき)、亍(ちょく)の合文とするものであるが、卜文・金文の字形は十字路の形に作る。金文に先行・行道のように用いる。呪力は道路で行うことによって、他の地に機能すると考えられ、術・衒など呪術に関する字に、行に従うものが多い。

后(コウ・6画)

后 金文
吳王光鑑・春秋末期

初出は甲骨文。はɡʰu(上/去)。

「夏后」は夏(カ)王朝のこと。

学研漢和大字典

会意。上部は人の字の変形で、下は囗(あな)。人体の後ろにあるしりの穴(后穴)を示す。後と同系で、後ろの意を示す。転じて、後宮に住むきさき。また、厚(重く大きい意を含む)に当て、重々しい大王をさすのに用いる。

語義

  1. {名詞}うしろ。のち。《同義語》⇒後。《対語》⇒前。「知止而后有定=止まるを知りて后に定まる有り」〔大学〕
  2. {名詞}きみ。王侯を尊んでいうことば。「后王(君王のこと)」「群后(諸侯のこと)」「我后不恤我衆=我が后我が衆を恤まず」〔書経・湯誓〕
  3. {名詞}きさき。天子の妻。《類義語》妃。「呂后(リョコウ)(漢の高祖の妻)」「皇后」。
  4. 「后土(コウド)」とは、地公と同じで、大地の神。土地神。

字通

[会意]人+口。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器。字の立意は君と似たところがある。〔説文〕九上に「繼體の君なり」とし、「人の形に象る。令を施して以て四方に告ぐ。故に之れを厂(た)る。一に從ふ。口もて號を發する者は君后なり」と説くが、字は一と厂(かん)とに分かつべきものではない。神話的な古帝王に、夏后・后羿(こうげい)のように后とよぶものが多い。卜文の后の字は毓の形に作り、母后の分娩の形に作る。卜文に后祖乙・后祖丁を毓祖乙・毓祖丁に作る。后は後の意。早くからその訓があったのであろう。

扣(コウ・6画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰu(上/去)。同音に摳(平)”ひきかける”、口、釦”わめく”、叩、竘”すこやか”(以上上)、寇”あだなす”、怐”おろか”、詬”はずかしめる”(以上去)。「叩」も初出は『説文解字』にすら見られない。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、口は、くぼんだ穴。うしろや下にくぼむ意を含む。扣は「手+(音符)口」で、進むものを引き止めて、うしろにくぼませる。つまり、ひかえることを、あらわす。▽控(ひかえる)はその語尾がxに転じた語。また殻(かたい物でこつんとたたく)や叩(コウ)(こつんとたたく)に当てる。「控」に書き換えることがある。

語義

  1. {動詞}ひかえる(ひかふ)。ひく。ひき止める。前進するものを押さえてうしろにひっぱる。《類義語》控。「扣馬=馬を扣ふ」。
  2. {動詞}たたく。こつこつと打つ。ノックする。《同義語》叩(コウ)。「扣門=門を扣く」「扣舷而歌之=舷を扣きてこれを歌ふ」〔蘇軾・赤壁賦〕
  3. {動詞・名詞}《俗語》割りびく。また、割引。《類義語》折。「折扣(セッコウ)(割引)」。
  4. {名詞}《俗語》ひっかけて止めるボタンや止め金。《同義語》鉤(コウ)。「帯扣(タイコウ)(=帯鉤。帯の止め金)」。
  5. 《日本語での特別な意味》地名に使う。「石扣(イシアタケ)」は、新潟県の地名。

字通

[形声]声符は口(こう)。馬の口をとってひかえる意。〔説文〕十二上に「馬を牽くなり」とあり、馬の轡をとる意とする。

孝(コウ・7画)

論語 孝 金文 論語 孝 解字
孝卣・商代晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はxŏɡ(去)。

学研漢和大字典

会意文字で、「老人の姿を示す老の字の上部+子」。音の「コウ」は、好(たいせつにする)と同系。また、効(力を尽くす、力をしぼり出す)と同系と考えることもできる。

意味

  1. {動詞・形容詞・名詞}子が心から親をたいせつにする。また、そのさま。また、親につかえる行い。「孝行」「其為人也孝弟而好犯上者鮮矣=其の人と為りや孝弟にして上を犯すことを好む者は鮮なし」〔論語・学而〕
  2. {名詞}祖先をたいせつにすること。「致孝乎鬼神=孝を鬼神に致す」〔論語・泰伯〕
  3. {名詞}《俗語》喪服。「穿孝(チュワンシャオ)(親の喪に服して白衣を着ること)」。

字通

老の省文+子。〔説文〕八上に「善く父母に事ふる者なり。老の省に従ひ、子に従ふ。子、老を承くるなり」という。〔礼記、祭統〕に「孝なる者はきくなり。道に従ひて倫に逆らはず。是を之れやしなふと謂ふ」とその声義を説く。金文に「もっキョウし(訳者注。すすめる)用て孝す」のように祀ることをいい、自ら称して孝孫という。〔詩、小雅、六月〕に「張仲の孝友なるあり」とみえ、老人に承順するという一般的な徳性をもいう。

語義

おやおもい、こうこう。父母をまつる。よく先祖につかえる。父母の喪に服する。年配者によくつかえる。

大漢和辞典

かうかう。よく父母に事へる。よく先祖に仕へる。父母の喪に服する。又、俗に喪服を言う。保母。諡。姓。

攻(コウ・7画)

論語 攻 金文
攻敔王夫差劍・春秋晚期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はkまたはkuŋ(共に平)。

学研漢和大字典

論語 工 金文 論語 攴 金文大篆
「工・攴」(金文)

工は、上下の面を|線で突き抜いたさまを示す指事文字。攻は、「攴(動詞の記号)+音符工」の会意兼形声文字で、突き抜く、突っこむの意。空(突き抜けた)-孔(突き抜けたあな)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞}せめる(せむ)。敵陣や敵城を突き抜くように突っこむ。「攻撃」「攻城略地=城を攻め地を略す」「戮力而攻秦=力を戮せて秦を攻む」〔史記・項羽〕
  2. {動詞}せめる(せむ)。相手の悪い点を突っこむ。責める。「小子鳴鼓而攻之可也=小子鼓を鳴らしてこれを攻めて可なり」〔論語・先進〕
  3. {動詞}おさめる(をさむ)。玉や金属を加工する。深く突っこんで学ぶ。研究する。「攻玉=玉を攻む」「攻究」。

字通

論語 工 甲骨文
「工」(甲骨文)

工+ぼく。工は工具、攴は打つこと。工を用いて器を作ることをいう。〔周礼、考工記〕に、攻木・攻皮・攻金の職があり、みなその材質に加工することをいう。攻・工は通用の字。考は仮借。金文に軍事を戎攻、また戎工という。学術をおさめることを攻学・攻究という。工はまた左・尋・隠の字中に含まれて、呪具の意がある。その呪具を用いて、攻撃する意がある。

訓義

おさめる、器物をつくる、なおす。みがく、する、かたい、たくみ。せめる、おかす、たたかう。

大漢和辞典

うつ、せめる。犯す、かすめる、盗む。去勢する。治める、加工する、直す。良い。祭りの名。たくみ、職人。かたい。とがめる、責める。備える、供給する。伏せる。姓。

苟(コウ・8画)

苟 金文
大盂鼎・西周早期

通説では、この文字の初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はku(上)で、同音に句・冓(組みたてる)とそれを部品とする漢字群。句・冓ともに、”かりそめ・かり”の語釈は『大漢和辞典』にない。

「まことに」の訓を「故」と共有し、「故」は論語時代の金文にある。「故」のカ音はko(「古」と同じ。古くは書き分けられていない)、藤音はkag。ku-ko、kug-kagは近音と言ってよいのではないか。ただし「苟」の「まことに」が”ひとつひとつ”の意であるのに対し、「故」は”確かに”の意である。論語語釈「故」、またはリンク先大漢和辞典を参照。

また「国学大師」苟字条は、「甲骨文有苟 甲骨文 外字字〈合21091〉,可隸作或羌。金文有苟 金文 外字字,用為敬的異體。」という。「敬」ki̯ĕŋ(去)が甲骨文まで遡れるのに、「苟」が遡れないとは理屈に合わない。

「敬」の字の字形変遷を、「国学大師」は下掲のように示すが、説明の順序として、まず殷代の異民族、「羌」の甲骨文を示す。

羌 甲骨文「羌」甲骨文・合集180

敬 国学大師

初出の甲骨文は、羊型のかぶりものをした人=羌が跪いている姿。異民族を従わせること、従うことを意味するのだろう。漢字は「乱」の字に見られるように、ある事物の、主体と客体両方の立場をともに意味することがある。そして現状、殷代でのこの字は甲骨文のみ。

次代の西周早期になって金文が現れるが、その字形にはくちや手と笞(攴→攵)が加わるようになる。おそらく周代になって、羌は反抗し始めたのではないか。口でやかましく言い、笞で引っぱたいて腕づくで押さえつけないと、恐れ入らなくなったらしい。

一説によると殷周革命は、殷に狩りの対象とされ、生きギモを抜き取られていた羌族が殷を恨み、周と同盟して成功させたという。武王の軍師・太公望は、羌族とも言われる。なお四角をパブロフ犬のように𠙵サイだという白川説は、空想が過ぎるため必ずしも訳者は支持しない。

「敬」から手と笞を取り去った姿が「苟」だが、口で言うだけでは言うことを聞かないから手が出たので、つまり「苟」とは、言われて一時的に従っている姿、とこじつけ得る。台湾の中央研究院も、字形としては西周早期の金文を初出としている

また「苟」ku(上)の同音に、「冓」があった。これは材木を井桁状に積み上げた象形で、「構」の初文だが、一時的に積み上げた仮組みと解せる。つまりkuという音は、”一時的”を意味しうる。
冓 大漢和辞典

冓(コウ)は、むこうとこちらに同じように木を組んでたてたさま。むこうがわのものは逆に書いてある。(『学研漢和大字典』構字条)
冓は組紐を結び合わせる形で、象徴的な方法で婚儀を示す。組み合わせる意。〔説文〕六上に「蓋(おほ)ふなり」とあって、屋を架構することをいう。木を組み合わせること、それよりすべてものを構成することをいう。(『字通』構字条)

以上から、「苟」は少なくとも西周早期の金文までは遡れると主張する。

学研漢和大字典

会意兼形声。句(ク)・(コウ)は「勹(つつむ)+口」の会意文字で、小さく区切ってまるめこむこと。苟は「艸+(音符)句」で、とりあえず草でしばってまるめること。小さくまとめるの意を含む。▽敬の字の左の部分(キョク。ぐいと引きしめる)は別字。拘(コウ)(とらえこむ)・区(ク)(小さく区切ってかこむ)・辧(コウ)(竹で小さくかこんだやな)などと同系。

語義

  1. {形容詞・副詞}かりそめ。とりあえず小さくまるめて一時のまにあわせにするさま。また、いいかげんに当座をやりすごすさま。「苟安(コウアン)」「苟且(コウショ)」→語法「③」。
  2. {動詞}いやしくもする(いやしくもす)。かりそめにする(かりそめにす)。とりあえずまるめこむ。いいかげんにすませる。「一筆不苟=一筆も苟もせず」。
  3. {副詞}まことに。→語法「②」。
  4. {接続詞}いやしくも。→語法「①」

語法

①「いやしくも」とよみ、「もしも」「かりに~」「ほんとうに」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「丘也幸、苟有過、人必知之=丘や幸ひなり、苟(いやし)くも過ち有れば、人必ずこれを知る」〈私はしあわせだ、もし過ちがあれば、人がきっと気付いてくれる〉〔論語・述而〕

②「まことに」とよみ、「そのつど」「ひとつひとつ」と訳す。行為・動作に区切りをつける意を示す。「苟日新日日新=苟(まこと)に日に新たにして日日に新たなり」〈一日一日とみずからを新しくし、また一日一日と新しくする〉〔大学〕

③「かりそめに(も)」とよみ、「とりあえず」「なんとか」「せめて~」と訳す。▽「いやしくも」とよんでもよい。「生亦我所欲、所欲有甚於生者、故不為苟得也=生もまた我が欲する所なれども、欲する所生より甚だしき者有り、故に苟(かりそめに)も得るを為さざるなり」〈生命も自分の欲するものだが、生命以上に欲するものがある、それ故、生命を欲していたずらに生きながらえようとはしないのである〉〔孟子・告上〕

字通

[形声]声符は句(こう)。〔説文〕一下に「艸なり」とあり、〔急就篇〕に貞夫(ていふ)という草の名であるとする。しかし字の用義法からみて、単に草の名とは思われず、あるいは敬字の従うところの苟の異文であろうかと思われる。敬は呪祝のことに従っている羌人を殴(う)って敬(いまし)める意で、その敬められるような状態にあることをいう字であろう。ゆえに苟且、その他の意となる。

幸(コウ・8画)

幸 金文
匚牛夭父辛方彝・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰĕŋ(上)。

学研漢和大字典

象形。手にはめる手かせを描いたもので、もと手かせの意。手かせをはめられる危険を、危うくのがれたこと。幸とは、もと刑や型と同系のことばで、報(仕返しの罰)や執(つかまえる)の字に含まれる。幸福の幸は、その範囲がやや広がったもの。類義語の倖(コウ)は、危うく難をまぬがれることから、思いがけない運に恵まれたこと。幸のもとの意味に近い。福は、豊かな恵み。祉は、神の恵みがそこにとどまること。「倖」の代用字としても使う。「射幸心・薄幸」▽「しあわせ」は「仕合わせ」とも書く。

語義

  1. {名詞}さいわい(さいはひ)。しあわせ。ひどい目にあわないですむこと。《同義語》⇒倖。「徼幸=幸ひを徼む」「丘也幸=丘也幸ひなり」〔論語・述而〕
  2. {副詞}さいわいにして(さいはひにして)。運よくやっと。「幸而得之=幸ひにしてこれを得たり」〔孟子・離下〕
  3. {動詞}さいわいとする(さいはひとす)。ねがう(ねがふ)。これはしめたと思う。うまくいったと考える。「幸災楽禍=災ひを幸ひとし禍を楽しむ」「幸災不仁=災ひを幸ひとするは不仁なり」〔春秋左氏伝・僖一四〕
  4. (コウス)(カウス){動詞・名詞}みゆき。天子が出かけることをいう敬語。▽思いがけないさいわいの意から。「行幸」「蜀主窺呉幸三峡=蜀主呉を窺ひて三峡に幸す」〔杜甫・詠懐古跡〕
  5. (コウス)(カウス){動詞・名詞}君主にかわいがられる。君主のめぐみ。▽思いがけないさいわいの意から。「寵幸(チョウコウ)」「得幸=幸を得」。
  6. 《日本語での特別な意味》さち。つさいわい。づ山や海からの収穫物。「海の幸、山の幸」。

字通

[象形]手械(てかせ)の形。これを手に加えることを執という。〔説文〕十下に「吉にして凶を免るるなり」とし、字を屰(ぎゃく)と夭(よう)とに従い、夭死を免れる意とするが、卜文・金文の字形は手械の象形。これを加えるのは報復刑の意があり、手械に服する人の形を報という。幸の義はおそらく倖、僥倖にして免れる意であろう。のち幸福の意となり、それをねがう意となり、行幸・侍幸・幸愛の意となるが、みな倖字の意であろう。〔説文〕にまた幸部十下があり、「人を驚かす所以なり。大に從ひ、𢆉(じん)に從ふ。一に曰く、大聲なり」とし、「一に曰く、讀みて瓠(こ)の若(ごと)くす。一に曰く、俗語、盜の止まざるを以てジョウ 外字(でふ)と爲す」とあり、睪(えき)・執・癸(ぎょ)・盩(ちゅう)・報・𥷚(きく)の諸字がその部に属する。睪は獣屍の斁解(とかい)する形、他はみな手械に従う字である。幸福の義は倖。〔独断、上〕に「幸は宜幸なり。世俗、幸を謂ひて僥倖と爲す。車駕の至る所、民臣其の徳澤を被り、以て僥倖となす。故に幸と曰ふなり」とみえる。

藤堂明保・漢文概説

論語 幸 解字最近、中国の黄河・淮河の堤防工事の現場から、大昔のハニワが出てきた。それを見ると、…奇妙な形の手かせをはめている。この手かせを文字にしたのが、幸という字である。だから刑と幸とは、手かせ足かせ――という点では、まったく同じであろう。

幸(さいわい)とが刑と同系のコトバだと申せば、みなさん目を丸くなさるだろう。しかし、牢獄に入れられた人をギョという。□印はとり巻いた牢屋を示し、中の幸とは明らかに刑具をはめた人である。

…幸とは元来「危なく・やっとのことで」という意味だとおわかりになるだろう。後に、ギョウコウの倖の字で表されるのが、幸の本来の意味である。非常な危険にさらされているが、危うく逃れえたことを僥倖という。だから幸とは、もともと刑(手かせ)をはめられるような、間一髪の事態を指したコトバなのであった。(藤堂明保『漢文入門』)

空(コウ・8画)

初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音はkʰuŋ(平/去)。同音に悾”まこと”、孔”通る・あな・大きい・空しい”、控。”あな・むなしい”の語義では、「孔」が論語時代の置換候補になる。

学研漢和大字典

会意兼形声。工は、つきぬく意を含む。「穴(あな)+(音符)工(コウ)・(クウ)」で、つきぬけてあながあき、中に何もないことを示す。孔(コウ)(つきぬけたあな)・腔(コウ)(のどのつきぬけたあな)・肛(コウ)(しりのあな)・攻(つきぬく)などと同系。類義語の虚は、中身がなくうつろである。徒は、何も物をもたないさま。異字同訓に明。「むなしい」は「虚しい」とも書く。

語義

  1. (クウナリ){形容詞}むなしい(むなし)。穴があいている。中に何もなくつきぬけている。「中空」「空隙(クウゲキ)」。
  2. (クウナリ){形容詞・動詞}むなしい(むなし)。あいている。何もない。からっぽ。からにする。《対語》⇒実。《類義語》虚。「空虚」「員瓢鮭空=員瓢(たんへう)鮭(しばしば)空なり」〔陶潜・五柳先生伝〕
  3. (クウナリ){形容詞・名詞}むなしい(むなし)。中身がないさま。実がない。からっぽなさま。うそ。うつけ。《対語》実。「空言」。
  4. {副詞}むなしく。なんの得るところもなく。いたずらに。《類義語》徒。「空自苦亡人之地=空しく自ら人亡きの地に苦しむ」〔漢書・蘇武〕
  5. {名詞}うつろ。空虚な状態。何のあとかたもないゼロの状態。あな。▽去声に読む。《類義語》無。「空白」「当年遺事久成空=当年の遺事久しく空と成る」〔曾鞏・虞美人草〕
  6. {名詞}《仏教》意識(色相)をこえてすべてをゼロとみなす悟りの境地。いっさいのものは、因縁によって生ずるもので、不変の実体はないという仏教の根本原理の一つ。▽自我の否定を説く我空と、万物に実体のないことを説く法空とが主なるものである。「空見」「空門(仏道)」。
  7. {名詞}そら。おおぞら。また、地上のなにもない空間。「航空」「旌旗蔽空=旌旗空を蔽ふ」〔蘇軾・赤壁賦〕
  8. 《日本語での特別な意味》「航空機」の略。「空襲」「空爆」。

字通

[形声]声符は工(こう)。工には虹・杠のようにゆるく彎曲する形のものを示すことがあり、穴のその形状のものを空という。〔説文〕七下に「竅(けう)なり」、前条の竅字条に「空なり」とあって、空竅互訓。竅とは肉の落ちた骨骼のように、すき間のある穴。空はのち天空の意に用いる。

肱(コウ・8画)

肱 金文
毛公鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯uk(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。∠は、∠型にひじを張り出したさま。右側は「手のかたち+∠」の会意文字でひじのこと。肱はそれを音符とし、肉をそえた字。宏(コウ)(張り出てひろい)・紘(コウ)(広く張り出たわく)などと同系。「ひじ」は「肘」「臂」とも書く。

語義

  1. {名詞}ひじ(ひぢ)。外に向けて∠型に張り出すひじ。「曲肱而枕之=肱を曲げてこれを枕とす」〔論語・述而〕

字通

[形声]声符は厷(こう)。厷は右の腕をまげて弓などを引く形。〔説文〕三下に「厷は臂(ひぢ)の上なり」という。〔易〕を伝えたという馯臂(かんび)子弓は臂と弓と名字対待。肱(厷)はその弓を引く腕をいう。〔論語、述而〕「肱を曲げて之れを枕とす」とは、世離れた気楽な生活をする意。

狎(コウ・8画)

初出は前漢宣帝期の定州竹簡論語。確実な初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰap(入)。同音に柙”檻・箱”、匣”檻・箱”。『大漢和辞典』で音コウ訓なれるに「押」ʔap(入)があり、「狎に通ず」というが、初出が不明、古文のみが知られる

学研漢和大字典

会意兼形声。「犬+(音符)甲(わくをかぶせる)」で、動物をわくに入れてならすこと。押(おさえて封じる)・柙(コウ)(おり)と同系。類義語に馴。

語義

  1. {動詞}ならす。動物をならす。動物を手なずける。《類義語》馴(ジュン)。
  2. {動詞}なれる(なる)。おとなしくして、安住する。「民狎其野=民其の野に狎る」〔春秋左氏伝・昭二三〕
  3. {動詞}なれる(なる)。人と親しくする。近づきになって遠慮をしないようになる。また、仕事になれる。「狎近(コウキン)」「欲狎林野人=林野の人に狎れんと欲す」〔高啓・出郊抵東屯〕
  4. {動詞}なれる(なる)。なれなれしくする。あなどる。「狎大人、侮聖人之言=大人に狎れ、聖人の言を侮る」〔論語・季氏〕
  5. {動詞}なれる(なる)。習慣となる。それが例となる。「晋楚狎主諸侯之盟也久矣=晋楚諸侯の盟を主るに狎るるや久し」〔春秋左氏伝・襄二七〕

字通

[形声]声符は甲(こう)。〔説文〕十上に「犬は習(なら)すべきなり」と、犬の飼養しやすいことをいう字とする。〔詩、衛風、芄蘭〕「能(すなは)ち我に甲(な)れず」のように、甲のままで用いることがある。狎るの意に用いる弄・玩・翫・習はみな呪器に関する字であるが、「狎る」が甲に従う理由は明らかでない。

厚(コウ・9画)

論語 厚 金文
史墻盤・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰu(上)。去声は不明。

学研漢和大字典

会意文字で、厚の原字は、高の字をさかさにした形。それに厂(がけ、つち)を加えたものが厚の字。土がぶあつくたまったがけをあらわす。上に高く出たのを高といい、下にぶあつくたまったのを厚という。基準面の下にぶあつく積もっていること。

垢(コウ)(下にたまったごみ)と同系のことば。また、后や後(いずれも基準線よりあとに、または下になる)とも縁が近い。

類義語の篤(あつい)は、念入りなこと。渥は、ねんごろなさま。淳は、真心があって、情け深い。惇は、落ち着いていて、人柄にあつみがある。敦は、ずっしりと安定している。

意味

  1. {形容詞}あつい(あつし)。ぶあついさま。《対語》⇒薄。「不臨深谿、不知地之厚也=深谿に臨まざれば、地の厚きを知らざるなり」〔荀子・勧学〕
  2. {名詞}あつさ。あつみ。「以無厚入有間=厚さ無きを以て間有るに入る」〔荘子・養生主〕
  3. {形容詞}あつい(あつし)。丁重なさま。「厚遇」。
  4. {形容詞}あつい(あつし)。ねんごろなさま。心づかいが深いさま。「厚意」「陵与子卿素厚=陵子卿と素より厚し」〔漢書・蘇武〕
  5. {形容詞}あつい(あつし)。程度がひどいさま。重いさま。「厚賦(コウフ)(重税)」「厚者為戮、薄者見疑=厚き者は戮(りく)せられ、薄き者は疑はる」〔韓非子・説難〕
  6. 《日本語での特別な意味》旧「厚生省」の略。「厚相」▽現在は「厚生労働省」。「厚労相」。

字通

[会意]厂(かん)+㫗(こう)。㫗は〔説文〕五下に「厚なり。反享に從ふ」とあり、鬯酒(ちようしゆ)を奉ずる象。厚とは厂(廟)中に厚く享饌することをいう。〔説文〕に「厚は山の陵の厚きなり」とし、山陵をいう語とするが、㫗の声義に関するところがない。〔詩、小雅、正月〕「地をば蓋(けだ)し厚しと謂ふ」、〔易、坤、彖伝〕「坤は厚く物を載す」など、地の深厚をいう例は多いが、金文に「厚詣」「厚命」などの語があり、もと神徳をいう語であり、〔井編鐘(けいへんしよう)〕に「余(われ)に厚く多福を降すこと無疆なり」のようにいう例がある。

巷(コウ・9画)

初出は戦国晩期の金文で、論語の時代には存在しない。カールグレン上古音はɡʰŭŋ(去)で、同音は鬨”たたかう”・項”うなじ”・鬨”戦う”。日本語で同音同訓の垙・衖・𨙵・䢽・𨞔・闀は論語の時代の文字が見つからない。ただし下記『字通』によれば、「コウ 外字」と書いて西周初期の金文にある。

学研漢和大字典

会意兼形声。「人のふせた姿+(音符)共」。人の住む里の公共の通路のこと。共はまた、突き抜ける意を含むから、つきぬける小路のことと解してもよい。「ちまた」は「衢」とも書く。

語義

  1. {名詞}ちまた。町や村の通路。小路。《類義語》街。「巷党(コウトウ)(町内の仲間)」「在陋巷=陋巷に在り」〔論語・雍也〕
  2. {名詞}ちまた。まち。世間。「巷間(コウカン)」。

字通

[形声]正字の字形は䣈(コウ)に従い、共(きよう)声。字はまた行に従う。〔説文〕六下に「衖は里中の道なり」という。〔礼記、檀弓上〕に「曾子、客と門側に立つ。其の徒趨(はし)りて出づ。~將(まさ)に出でて巷に哭せんとす」とあり、邑門の外の、儀礼を行うところを巷という。金文の〔倗生𣪘(ほうせいき)〕に「立(のぞ)みてちかう 外字(ちか)ひ、コウ 外字(かう)を成す」とあって、その字が巷の初文であるらしく、境界の榜示をなす意と思われる。のち里巷をいい、〔詩、鄭風、叔于田〕に「巷(ちまた)に居人無し」、〔伝〕に「巷は里の塗(みち)なり」とみえる。

恆/恒(コウ・9画)

初出は甲骨文で、カールグレン上古音は不明。藤堂上古音はɦəŋ(平)またはkəŋ(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。亙(コウ)は、三日月の上端下端を二本の線で示し、その間にある月の弦を示した会意文字。恆は「心+(音符)亙」で、月の弦のように、ぴんと張り詰めた心を示す。いつでも緊張してたるまない意となる。克(コク)(張りきる)・極(上から下まで張った大黒柱)などと同系で、kəkの語尾が鼻音となって伸びたことばである。類義語に常。旧字「恆」は人名漢字として使える。

語義

コウɦəŋ(平)
  1. {名詞・形容詞}つね。いつもかわりなく張りつめていること。いつも一定しているさま。《類義語》常。「有恒=恒有り」「無恒産而有恒心=恒産無くして恒心有り」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}つねにする(つねにす)。いつもたるみなく張りつめる。「不恒其徳=其の徳を恒にせず」〔論語・子路〕
  3. {動詞}つねとする(つねとす)。いつもそうだと考える。ふつうのこととみなす。ふだんのならわしとする。「無恒安息=安息を恒とする無かれ」。
  4. {副詞}つねに。いつも。「恒恐=恒に恐る」。
  5. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。▽陟陦(巽下震上(ソンカシンショウ))の形で、つねに安定してかわらないさまを示す。
コウkəŋ(去)
  1. {名詞}ぴんと張った月の弦。《同義語》亙。「如月之恒=月の恒のごとし」〔詩経・小雅・天保〕

字通

[形声]声符は亘(こう)。亘は上下二線の間に弦月の形を加えたもので、〔詩、小雅、天保〕に「月の恆(ゆみは)るが如し」とあるのがその原義。〔説文〕十三下に「常なり」とあり、恒久・恒常をいう。篆文の字は二線の間に舟形に作るが、卜文は月に従う。古文の字形も月に従う形である。

紅(コウ・9画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰuŋ(平)。同音は洪、訌”ついえる・みだれる”、虹、鴻、鬨”たたかう・かちどき”。下記『字通』の言う「絳」keuŋ(去)も初出は前漢の隷書

学研漢和大字典

形声。「糸+(音符)工」。類義語の赤は、火のあかくもえる色。茜(セン)は、夕やけ空のあかい色。壜(クン)は、黒ずんだ濃いあかい色。絳(コウ)は、深紅の色。緋(ヒ)は、目のさめるようなあざやかな赤色。付表では、「紅葉」を「もみじ」と読む。

語義

コウ(平)hong
  1. {名詞・形容詞}べに。くれない(くれなゐ)。もも色に近いあか色。あかい。▽もと白地を茜(セン)(あかね草)の染め汁にさっとつけた色。訓の「くれなゐ」は「呉(くれ)の藍(あゐ)」で、中国から来た染料の意。「深紅(濃いあか)」「紅蓮(コウレン)」「紅紫不以為褻服=紅紫は以て褻服と為さず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞・形容詞}はでな色。はでなさま。あでやかなさま。「紅顔」「紅塵(コウジン)(はでな遊びの世界)」。
  3. {名詞}べに色の花。あでやかな花。転じて、花のような女性。「落紅(落花)」「紅一点」。
  4. {名詞}べに。口べに。ほおべに。「紅粉」「紅脂」。
  5. {形容詞}《俗語》もてはやされてはでな。えんぎのよい。「紅人児(ホンレンル)(流行児)」。
コウ(平)kong
  1. {名詞}手細工。▽工(さいく)や功(手仕事)に当てた用法。「女紅(=女功。女の仕事、機織り)」。

字通

[形声]声符は工(こう)。〔説文〕十三上に「帛(はく)の赤白色なるものなり」とあり、桃紅色に近いものであろう。先秦の文献にほとんどみえず、古くは絳を用いる。絳はいわゆる大赤、濃紅色。「くれない」は「呉藍(くれあい)」の意である。

侯(コウ・9画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgʰu(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。侯の右側の原字は、的(マト)の幕をたらしたさまを示す厂印と、矢をあわせた会意文字。侯はそれを音符とし、さらに人を加えた字で弓の射手。転じて、近衛(コノエ)の軍人のこと。ひいては、軍功ある重臣・大名に与える爵位の名となった。意味のまったく異なる「候」と混同しないように。候は、天候・気候・立候補・居候・候文などに使う。

語義

  1. {名詞}弓を射るときの的(マト)。「射侯」。
  2. {名詞}爵位の一つ。公・侯・伯・子・男と五等級にわけた第二位。「侯爵」「公侯皆方百里=公侯は皆方百里なり」〔孟子・万下〕
  3. {名詞}封建時代の領主。大名の称号。「不事王侯=王や侯に事へず」〔易経・蠱〕
  4. {助辞}これ。文章のはじめにつけて相手の注意をひくことば。「侯誰在矣=侯れ誰か在る矣」〔詩経・小雅・六月〕

字通

[会意]人+厂(かん)+矢。初形は𥎦に作り、屋下に矢を放って祓うこと、すなわち侯禳の儀礼を示す字である。〔説文〕五下に「矦は春饗に射る所の矦(まと)なり。人に從ひ、厂に從ふ。布を張りて、矢の其の下に在るに象る」とし、天子以下の射儀に及んでいる。卜辞にすでに「周𥎦」の名がみえ、周初の〔大盂鼎(だいうてい)〕に殷の滅亡の因を論じて、「我聞くに、殷の(厥(そ)の)命を墜(おと)したるは、隹(こ)れ殷の邊𥎦甸と、殷の正百辟(氏族首長)と、率ゐて酒に肄(なら)ひたればなり。故に師を喪(うしな)ひたるなり」とみえ、「邊𥎦甸」とは外服の諸侯をいう。侯とは、外服にあって、王朝のために外敵を侯禳することを職とするものであろう。のち公侯伯子男五等の爵制が行われ、その爵号となった。

柙(コウ・9画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰap(入)。同音は、匣。匣は語義を共有するが、初出は楚系戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声。「木+(音符)甲(ふたをする)」。押(おさえこむ)・匣(コウ)(ふたつきの箱)・狎(コウ)(おさえられておとなしくなる)と同系。

語義

xiá
  1. {名詞}おり(をり)。動物をとらえておくもの。《類義語》檻。「虎兕出於柙=虎兕柙より出づ」〔論語・季氏〕
  2. {動詞}とらえる(とらふ)。罪人を牢にとらえておく。
  3. (コウス)(カフス){動詞}おさめる(をさむ)。箱に入れてふたをしておく。
jiǎ
  1. {名詞}香木の名。

字通

[形声]声符は甲(こう)。甲に匣の意がある。〔説文〕六上に「檻なり。虎兕(こじ)を臧(い)るる所以なり」(段注本)とあり、檻をいう。〔論語、季氏〕に「虎兕、柙より出で、龜玉、櫝中(とくちゆう)に毀(やぶ)る」の語があり、〔説文〕はその文による。刑具として用いるはさみ板を、柙板という。

高(コウ・10画)

論語 高 金文
叔高父匜・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkog(平)。

学研漢和大字典

象形。台地にたてたたかい建物を描いたもの。また槁(コウ)(かわいたかれ木)に通じて、かわいた意をも含む。蒿(コウ)(背のたかいよし)・稿(コウ)(背のたかいコウリャンの茎)・喬(キョウ)(たかい)などと同系。類義語の峻(シュン)は、すらりとたかい。崇は、たてにそびえてたかい。貴は、群れからとび出て目だつこと。「昂」の代用字としても使う。「高騰・高揚」。

語義

  1. {形容詞・名詞}たかい(たかし)。たかさ。場所や建物がたかい。また、たかい所。たかさの程度。《対語》⇒低・下・卑。「高原」「高楼」「登高=高きに登る」「高而不危=高くして危ふからず」〔孝経・諸侯〕
  2. {形容詞}たかい(たかし)。位・人がら・程度・腕まえなどがすぐれている。《対語》⇒卑。「崇高」「高手(名人)」「高足(すぐれた門人)」「高位高官」。
  3. {形容詞}たかい(たかし)。声や評判などがよくとおる。有名な。「高名」「高歌」「高唱」。
  4. {形容詞}たかい(たかし)。値がたかい。《対語》⇒低・廉。《類義語》貴。「高値」。
  5. {形容詞}年を経た。ものさびてとうとい。「年高」「高祖」「高宗」。
  6. {動詞}たかしとする(たかしとす)。たかくする(たかくす)。たかいとみなす。尊ぶ。また、たかぶる。えらそうにする。「雖死、天下愈高之=死すと雖も、天下愈これを高しとす」〔呂氏春秋・離俗〕
  7. {助辞}相手への敬意をあらわすことば。「高配」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①たか。収入・知行・生産物などの金額や分量。まとめたかさ。「金高(キンダカ)」「禄高(ロクダカ)」。
    ②「高をくくる」とは、程度に見当をつけて見くびること。
    ③「高等学校」の略。「女子高」。

字通

[会意]京の省文+口。京は戦場の遺棄屍体を塗りこんで作った凱旋門。そこで呪祝が行われた。口は𠙵(さい)、そのような祝詞を収める器の形。〔説文〕五下に「崇(たか)きなり」と訓し、崇大・崇高の意とするが、本来は名詞で台観の象。高明の神を招くところである。卜文の図象に、高の上に呪飾の標木をそえた形のものが多く、それは神の憑依するところとされた。それで高は神明のことに関して用いるのが原義であった。金文の〔秦公𣪘(しんこうき)〕に「高弘にして慶又(あ)り」とは祖徳をほめる語である。高祖・高祖妣などもその意。のち高大・高貴・高雅の意に用いる。

盍(コウ・10画)

盍 金文
楚王酓干心鼎・戦国末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰɑp(入)。論語語釈「蓋」も参照。

論語季氏篇では、現伝本の「蓋」を「盍」と書いている章がある。台湾中央研究院の「小学堂」では、「盍」は「蓋」の異体字として扱われている(上掲金文)。しかし『大漢和辞典』では、両者を通用する文字とはしていない。「盍」「蓋」共に「なんぞ」の訓を記しているが、「盍」に「けだし」の訓を記していない。

蓋 金文
「蓋」秦公簋・春秋中期

「蓋」は春秋時代に、すでにくさかんむりを獲得して現行字体と同じになっているし、秦系戦国文字・前漢の隷書でも同様。従って論語の場合、「盍」を「蓋」の誤字や通用と考えるのは理に合わない。

学研漢和大字典

会意文字で、去はふたつきのくぼんだ容器を描いた象形文字。盍は「去+皿」で、皿にがぷりとふたをかぶせたさまを示す。▽疑問(反問)の語としては、何ɦar・ɦa(カ)・曷ɦat→ɦat(カツ)・害ɦad・ɦai(ガイ)などを当て、盍ɦapはむしろ「何不」にあてることが多い。蓋はkab→kai(カイ・ガイ)と変化した語で、盍ときわめて近い。また合ɦəp(ゴウ)・盒(ゴウ)はこれと酷似したことばで、いずれもふたをしてとじること。

語義

{動詞・名詞}おおう(おほふ)。ふた。器の上にふたをかぶせる。よせあわせてとじる。また、かぶせぶた。《類義語》蓋(ガイ)(おおう、ふた)。
ま{疑問詞}なんぞ…ざる。→語法。
み{疑問詞}なんぞ。どうして、なぜなどの疑問・反問の意をあらわすことば。▽何ɦaや、曷ɦatに代用した字。「盍不出従乎=なんぞ出従せざるや」〔管子・戒〕

語法

「なんぞ~ざる」とよみ、「どうして~しないのか」と訳す。再読文字。相手に催促する反語の意を示す。▽「何不(カフ)」ɦa・puの二字を「盍(カフ)」ɦapの一字で代用した用法。「何不~」と意味・用法ともに同じ。「王欲行之、則盍反其本矣=王これを行はんと欲せば、則(すなは)ち盍(なん)ぞその本に反らざる」〈王がもし仁政を行おうとされるのなら、なぜその根本に立ち返らないのですか〉〔孟子・梁上〕

字通

[象形]器の上に蓋(ふた)をする形。〔説文〕五上に「覆(おほ)ふなり」と訓し、「血に從ひ、大(だい)聲なり」とするが声が合わず、器蓋全体の象形である。〔段注〕に「覆ふものは必ず下より大なり」と説くが、憶説にすぎない。去の上部は蓋の鈕(ちゆう)(つまみ)の形。「なんぞ」は盍を何不(かふ)の二音によみ、反語とするもので、下に動詞の語を伴う。

貢/贛(コウ・10画)

論語 貢 金文大篆 論語 貢 篆書
(金文大篆・篆書)

論語では、弟子の子貢の名として頻出。カールグレン上古音はkuŋ(去)。同音に公・功・工・攻。『字通』によれば初文は贛(カ音不明)。

初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在ぜず、孔子在世当時には「江」と書かれていた可能性が高い。「洪」の字も候補に挙がるが、甲骨文・金文共に見いだせず、『史記』貨殖列伝に子貢を「子コウ」と記しているのも候補だが、「贛」(たまう・たまもの)の字も甲骨文・金文共に見つかっておらず、楚系戦国文字から見いだせる。

面白いことに秦系戦国文字では「贛」が見られないから、南方諸国では子貢は子贛と呼ばれていたのだろう。

江 金文
「江」(「江小仲母生鼎」春秋早期)

音の変遷(『学研漢和大字典』による)
上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kuŋ kuŋ koŋ kuəŋ gòng
kǔŋ kɔŋ kiaŋ tšiaŋ jiāng

『風俗通義』山沢篇・四瀆に次のように言う。

謹按:《尚書大傳》、《禮三正記》:「江、河、淮、濟為四瀆。瀆者、通也,所以通中國垢濁,民陵居,殖五穀也。江者、貢也,珍物可貢獻也。河者、,播為九流,出龍圖也。淮者、均,均其務也。濟者、齊,齊其度量也。」

謹んで按ずるに、尚書大伝、礼三正記に「江、河、淮、済を四つのながれと為す。瀆者、通也。所以中国の垢濁を通じ、民陵もて居り、五穀を殖てる也。江者、貢也。珍物の貢ぎ献じる可き也。河者、りて九流と為り、龍図を出だす也。淮者、ならすなり。其のあなどりを均らす也。済者、ならばすなり。其の度量を斉ばす也。」

〔わたくし後漢の応劭が〕慎重に考えた結果、尚書大伝の礼三正記に「長江、黄河、淮河、済水を中国を代表する四つの河川に数える。瀆とは通すことだ。中国に溜まったちり泥のたぐいを押し流し、その河畔に民が住み、五穀を育てる。江とは貢ぐことだ。珍品のうち内貴人に差し上げるに足るものをいう。黄河は分かれて九つの流れとなり、昔龍馬が出てきて八卦図を中国人に与えた。淮とはならすことである。中国人の思い上がりを、洪水で懲らしめるのである。済とは等しくすることだ。物差しや計りのごまかしを消すのである。」とあるようです。

「江とは貢ぐことだ。珍品のうち内貴人に差し上げるに足るものをいう。」これを『大漢和辞典』は引用して、”みつぐ”の語釈を立てている。

なお贛系統の降k(去)も候補になり得、初出は甲骨文

学研漢和大字典

会意兼形声。工(コウ)は、上下の二線の間を縦の棒でつきぬいた姿を示す指事文字で、つらぬいて直通する意味をふくむ。貢は「貝+(音符)工」で、地方でとれた物産をかついで朝廷におさめること。

会意兼形声。貝の上の部分はもと夅で、贛は、「貝+上から下へおりる意の音符コウ」。

意味

  1. (コウス){動詞・名詞}みつぐ。みつぎもの。朝廷に地方の産物をたてまつる。また、その産物。「朝貢」「諸侯春不貢=諸侯春に貢せず」〔杜甫・有感〕
  2. (コウス){動詞}すぐれた人材を朝廷に推薦する。「貢挙」「貢薦」。

「カン」

  1. {名詞}江西省の別名。「贛州(カンシュウ)」。
  2. {名詞}川の名。江西省を流れ、睨陽(ハヨウ)湖に注ぐ。「贛水(カンスイ)」。

「コウ」

  1. {動詞}たまう(たまふ)。上から下に物を与える。《類義語》降・賜。
  2. {形容詞}おろか(おろかなり)。ばか正直なさま。《同義語》戇。

字通

[形声]声符は工(こう)。〔説文〕六下に「功を獻ずるなり」とあって、功すなわち生産品を献ずることをいう。金文の〔兮甲盤(けいこうばん)〕に「淮夷は舊(もと)我が■(上に白下に貝)畝(はくほ)の人なり」とあり、淮夷はその布帛や農産物を貢納する義務を負っていたのであろう。百工はもと神殿経済に奉仕するものであった。〔周礼、天官、大宰〕に祀・嬪・器・幣などの九貢を規定するが、それらは本来はみな貢物であった。

[形声]声符は貢(こう)。もとは夅(こう)に従う字であった。〔説文〕六下に「賜ふなり」という。孔門の端木賜は字は子貢、賜と貢と対待の字。貢の初文は贛に作り、〔漢石経〕には子贛に作る。字はもと夅に従い、神霊の下降を意味し、それで賜与の義がある。古く陷(陥)(かん)の音でよまれたらしく、〔書、顧命〕の〔馬鄭王本〕に「爾(なんぢ)釗(さう)(康王の名)を以て、非幾に冒贛(ばうかん)せしむること無(なか)れ」、〔馬融注〕に「贛は陷なり」とあって降陥の意とする。地名・人名にカンの音でよみ、おそらくその音が古いのであろう。また戇(とう)に通じ、戇愚の意に用いる。

※戇:愚直。

校(コウ・10画)

校 金文
焂戒鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰŏɡまたはkŏɡ(共に去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。交は、人が足を×型に交差させたさま。校は「木+(音符)交」で、木の棒を×型に交差したかせ。また、教える‐ならうという交差した授受が行われる所を校といい、×型に交差して引きくらべる意ともなる。傚(コウ)(みならう)・絞(型にしぼる)と同系。

意味〔一〕コウ・ギョウ

  1. {名詞}物事を教え、ならう所。知恵を交互に受け渡す所。《類義語》教・傚(コウ)(ならう)。「学校」「夏曰校、殷曰序=夏には校と曰ひ、殷には序と曰ふ」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞}型に木をくんだ矢来。ませ。また、軍営に設けたさく(朔)。また、転じて漢代には校尉(宮中守営の長)、近代には上校(大佐)・下校(少佐)などの官名となる。「将校」。

意味〔二〕コウ・キョウ

  1. {名詞}かせ。木を型に交差させ、手や足をしめる刑具の一つ。「囚校」。
  2. (コウス)(カウス){動詞}交互にわたりあう。やり返す。「校論(交互に言い争ってわたりあう)」「犯而不校=犯せども校せず」〔論語・泰伯〕
  3. {動詞}くらべる(くらぶ)。あれこれと引きあわせる。引きあわせて調べる。また、調べて正す。「考校(試験)」「校正」。
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①「学校」の略。「校則」「校長」。
    ②「校正」の略。また、校正の回数を数えることば。「校了」「初校」。

字通

[形声]声符は交(こう)。交に交錯の意がある。〔説文〕六上に「木囚なり」とあり、囚人に加える械などの校具をいう。〔易、噬嗑(ぜいかふ)、初九〕「校(あしかせ)を屨(ふ)みて趾(あし)を滅す」、〔上九〕「校(くびかせ)を何(にな)ひて耳を滅す」とみえる。他に校猟(かり)・比校・学校などの意もあり、字の本義について諸説がある。比校は挍・較・搉。猛獣を追いこむ虎城をまた校といったらしく、校猟とはその意。また校倉(あぜくら)は木を交積して作る。すなわち字は械具・校猟・校倉などの用義をその本義とするものであろう。学校の交は、學(学)の含む爻(こう)と関係があるようである。

降(コウ・10画)

論語 降 金文
史墻盤・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のk(去)のみ。藤堂上古音はkǔŋ(去)またはɦǒŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音コウ)は、下向きの左足と右足を描いた象形文字で、下へとくだることを示す。降はそれを音符とし、阜(おか)をそえた字で、丘をくだることを明示したもの。類義語の下は、した、したへさがる。落は、ぽろりとおちる、ぽろりとおとす。堕は、くずれおちる。異字同訓に下りる・下ろす「幕が下りる。錠が下りる。許可が下りる。枝を下ろす。貯金を下ろす」 卸す「小売りに卸す。卸値。たな卸し」。

語義

コウ(去)
  1. {動詞}おりる(おる)。くだる。高い所から低い所に移ってくる。古い時代から新しい時代へ時がうつる。《対語》⇒陟(チョク)・昇。「昇降」「陟降(チョクコウ)(のぼったりおりたり)」「以降」「降自西階=西階より降る」〔儀礼・士冠礼〕。「我心則降=我が心則ち降る」〔詩経・召南・草虫〕
  2. {動詞}くだす。高い所から低い所に位置・地位・価値などを動かす。さげる。《対語》⇒昇。「降官(官位をさげる)」「降災于夏=災を夏に降す」〔書経・湯誥〕。「降志辱身矣=志を降し身を辱む」〔論語・微子〕
  3. {動詞}ふる。空から雨・雪などが落ちてくる。《類義語》落。「霜降=霜降る」「降雨」。
コウ(平)
  1. (コウス)(カウス){動詞}くだる。くだす。敵に負けて従う。また、敵を負かして従わせる。「投降」「降敵」。

字通

[会意]夂(ち)+夅(か)。上から左右の足が下る形。神が神梯を上下することを陟降(ちよくこう)という。神梯を下る形が降。〔説文〕五下に「服するなり」と降服の意とするが、もと降下・降臨をいう字で降の初文。神が高杉などに降るを夆(ほう)といい、その山を峯という。夂は夅の省略形である。

[会意]𨸏(ふ)+夅(こう)。𨸏は神の陟降する神梯の象。〔説文〕十四下に「下るなり」とするが、神の降下することをいう。〔書、多士〕「惟(こ)れ帝、降格す」とみえる。卜辞に「帝は𡆥(とが)を降(くだ)さざるか」「帝は大𦰩(かん)(暵)を降さざるか」「疾を降すこと勿(な)きか」のように、これらはすべて上帝の意思によって下民に降されるものとされた。降雨も同じ。また「祖丁を降さんか」のように、祖霊の降下することを卜する例がある。神聖の命を以て与えられるものをすべて降といい、降命という。春秋期以後、降服の意にも用いる。

羔(コウ・10画)

羔 金文
索諆爵・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音は不明(平)。藤堂上古音はkog。

学研漢和大字典

会意。「羊+火」で、まる煮するのに適したこひつじのこと。

語義

  1. {名詞}こひつじ。ひつじの子。

字通

[象形]生まれおちた小羊が、ようやく立つ形。〔説文〕四上に「羊の子なり。羊に從ひ、照の省聲」とするが、下部は足の跂立するさまであろう。字の下部は馬や廌(ち)の足の形を四点にしるすのと同じで、火の形ではない。

耕(コウ・10画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkĕŋ(平)。同音に耿”耳が前に向かって垂れて頬につく・あきらか”。『大漢和辞典』で同音同訓の秴の初出は不明。耠の初出も不明。耩の初出も不明。下掲『字通』の正字とする畊の初出も不明。部品耒・井に”たがやす”の語釈は『大漢和辞典』に無い。つまり論語時代の置換候補は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。井(ケイ)は、形や型の原字で、四角いわくの形を描いた字。もと丼(セイ)(いど)とは別字だが、のち、混用された。耕は「耒(すき)+(音符)井(ケイ)」で、すきで畑地に、縦横のすじを入れて、四角く区切ること。類義語に墾。

語義

  1. {動詞・名詞}たがやす。すきや、くわで田畑の土をおこして区切りを入れる。田畑の土を掘り返す。転じて、広く野良仕事のこと。▽訓の「たがやす」は「田+返す」から。「農耕」「孥耕(グウコウ)(二人並んでたがやす。二人がペアで耕作するのが古代中国のやり方)」「深耕易耨=深く耕して易かに耨す」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞・名詞}農夫が耕作するように、労働して生活する。また、そのこと。「筆耕(ものを書いて生活する)」「舌耕(しゃべる商売)」。

字通

[形声]声符は井(けい)。井は刑の初文。〔説文〕四下に「犂(すき)なり」とあり、〔玉篇〕に畊(こう)を正字とする。〔広雅、釈詁四〕に「齊なり」というのは、耕keng、齊(斉)dzyeiの音の対転関係をとるものであろうが、声義の関係はない。

康(コウ・11画)

論語 康 金文
康丁器・商代晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰɑŋ(平)。論語ではほぼ、魯国門閥三家老家筆頭・季孫氏の若家老、季康子として登場する。

学研漢和大字典

会意兼形声。康は「米印+(音符)庚(コウ)(糸巻きのかたいしん棒)」で、かたい筋のはいった穀物の外皮のこと。兩(コウ)(米ぬか、もみがら)の原字。転じて、じょうぶでかたい。筋が通っているなどの意となる。剛(じょうぶでかたい)・綱(じょうぶな太づな)などと同系。類義語に安。

語義

  1. (コウナリ)(カウナリ){形容詞}からだに悪いところがなく、かっちりしているさま。すじ金入りであるさま。「壮康(じょうぶ)」「体已康矣=体已に康なり矣」〔李娃伝〕
  2. {形容詞}やすい(やすし)。やすらか(やすらかなり)。じょうぶで、危なげがない。かっちりとおさまっているさま。「康寧」。
  3. {名詞}太い道路。▽「爾雅」釈宮篇に「五達謂之康、六達謂之荘=五達をの康と謂ひ、六達をの荘と謂ふ」とある。「康衢(コウク)(太い街道)」。

字通

[会意]庚(こう)+米。庚は午(杵(きね))を両手でもつ形。康は脱穀精白の意で、穅・糠は康に従う。〔説文〕七上に「穅は穀の皮なり」とし、その条に重文として康を録し、「穅、或いは省して作る」とするが、康によって穅・糠がえられるのである。金文に「康右(佑)」「康靜」などの語があり、また〔毛公鼎〕に「四國を康んじ能(をさ)む」とあって、安康の意に用いる。金文に字をまた■(广+康)に作り、もと廟中の儀礼を示すようである。廟中で行われる農耕儀礼によって、康佑がえられるとするのが、字の原義であろう。〔詩、唐風、蟋蟀〕に「已(はなは)だ大いに康(たの)しむこと無(なか)れ」とあって、康楽の意にも用いる。

悾(コウ・11画)

初出は『説文解字』にすらない。カールグレン上古音はkʰuŋ(平/去)またはkʰŭŋ(平)

学研漢和大字典

会意兼形声。「心+(音符)空(むなしい)」で、心中のうつろなこと。

語義

  1. {形容詞}おろか(おろかなり)。無知なさま。あわててまともな考えもでないさま。心の中がうつろなさま。「悾悾(コウコウ)」「兵馬悾憁(ヘイバコウソウ)(戦争で、せわしくものを考えているいとまもないこと)」。
  2. {形容詞}きまじめで、気のきかないさま。

字通

[形声]声符は空(くう)。〔論語、泰伯〕に「悾悾にして信ならざる」者を「狂にして直ならず、侗(とう)(おろか)にして愿(げん)(謹直)ならざる」者とあわせて、どうにも話にならぬ部類のものとしている。まことらしくみえて、実のない者の意である。

黃/黄(コウ・11画)

黄 金文
哀成弔鼎・春秋晩期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰwɑŋ(平)。「オウ」は呉音。

学研漢和大字典

象形。火矢の形を描いたもの。上は炗(=光)の略体、下は、中央にふくらみのある矢の形で、油をしみこませ、火をつけて飛ばす火矢。火矢のきいろい光をあらわす。光(ひろがるひかり)と同系。旧字「黃」は人名漢字として使える。▽付表では、「硫黄」を「いおう」と読む。

語義

  1. {名詞・形容詞}き。きいろ。きいろい。五色(青・黄・赤・白・黒)の一つ。▽五方では、中央、五行では土の色に当たる。地上の支配者、皇帝の色。高貴な色とされる。「緑衣黄裏=緑の衣に黄なる裏」〔詩経・癩風・緑衣〕
  2. {動詞}きばむ。きいろになる。「草木黄落=草木は黄ばみ落つ」〔礼記・月令〕
  3. {名詞}唐代の戸籍で三歳以下の子どもをいった。▽口ばしがきいろい、ひなの意から。「黄口」。
  4. {名詞}きいろになった麦。「青黄(青い稲と黄ばんだ麦)」。

字通

[象形]卜文の字形は火矢の形かと思われ、金文の字形は佩玉の形にみえる。いずれも黃の声義を含みうる字である。〔説文〕十三下に「地の色なり」とし、字は田と光とに従うもので、光の声をとるというが、卜文・金文の字形は光を含む形ではない。金文に長寿を「黃耇(くわうこう)」といい、黄は黄髪の意。〔詩、周南、巻耳〕「我が馬玄黃たり」、また〔詩、小雅、何草不黄〕「何の草か黃ばまざる」「何の草か玄(くろ)まざる」の玄黄は、ともに衰老の色である。黄を土色、中央の色とするのは五行説によるもので、その説の起こった斉の田斉(田・陳)氏の器に、黄帝を高祖とする文がある。

※耇:老人の黒ずんだ顔。

皋(コウ・11画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はk(平)。同音多数。

学研漢和大字典

会意。皋は「白+大+十(まとめる)」で、白い光のさす大きな台地をあらわす。明るい、たかい、広がるなどの意を含む。皐は人名漢字で採用された字形。

語義

  1. {名詞}さわ(さは)。水辺の平らな地。《類義語》沢。
  2. {名詞}きし。沼・さわのきし辺。「平皐(ヘイコウ)」。
  3. {動詞・感動詞}ああ。声をゆるやかに長く引いて魂を呼ぶ。また、そのときの声。《類義語》号。
  4. {形容詞}声をのばして、大声で呼ぶさま。「皐然(コウゼン)」。
  5. {形容詞}たかい(たかし)。「皐門(コウモン)」。
  6. {名詞}さつき。明るくかわいた陰暦の五月。「皐月(コウゲツ)」。

字通

[象形]皐を人名用漢字として用いるが、字形としては皋に作るのがよい。皋は風雨にさらされている獣屍の形。〔説文〕十下に「气(き)、皋白なるものの進むなり」とし、字を白と夲(とう)とに従う会意字とするが、白は頭部、下は肢体の形。〔詩、小雅、鶴鳴〕「鶴、九皋に鳴く」の〔毛伝〕に「澤なり」、また〔楚辞、離騒〕「余が馬を蘭皋に歩ます」の〔王逸注〕に「澤曲を皋と曰ふ」とみえる。〔説文〕のいう「皋白の气」とは皋沢の気をいうのであろうが、字の正義でなく、皋白とは獣屍が暴露して白くさらされることをいう。また〔儀礼、士喪礼〕に、死後の復の儀礼をしるし、屋上に升って「皋(ああ)、某復(かへ)れ」と三たびよぶ礼をしるす。その叫ぶ声を示す擬声語である。㚖(こう)字条十下に「大白澤なり。~古文以て澤の字と爲す」とするが、これもおそらく皋の異文で、獣屍の象。風雨にさらされた獣屍には白の意があり、覇の初文である䨣は、獣屍が雨風に暴露して、革が脱色したことを示す意の字である。

絞(コウ・12画)

初出は前漢の隷書で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkŏɡ(上)で、同音に交とそれを部品とする漢字群。語義を共有する漢字は無い。『大漢和辞典』で音コウ訓しめるに𢩘があるが、初出は不明。音コウ訓くびるは他に存在しない。部品の交に”はさむ”語釈はあるが”しめる・くびる”は無い(論語語釈「交」)。結論として、論語時代の置換候補は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。交は、人が足を交差させたさまを描いた象形文字。絞は「糸+(音符)交」で、ひもを交差させて両方から引きしぼること。▽糾と非常に縁が近い。異字同訓に搾る「乳を搾る。搾り取る」 しまる・しめる⇒締。「しめる」は「搾める」とも書く。また、「しぼる」「しぼり」は「搾る」「搾り」とも書く。

語義

  1. {動詞}しぼる。しめる(しむ)。ひもなどを交差させてくくる。また、広く、しめつける。《類義語》糾。「絞手巾=手巾を絞る」「絞罪」。
  2. (コウナリ)(カウナリ){形容詞}しめられて窮屈なさま。「直而無礼則絞=直にして礼無ければ則ち絞す」〔論語・泰伯〕
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①しぼる。ねじったり押したりして水分をとる。
    ②しぼる。きびしくきたえる。また、きびしくしかる。
    ③しぼる。広がっているものを小さくする。また、問題を整理し、議論の範囲を制限する。
    ④しぼり。染色法の一つ。布地のところどころを糸でしばっておき、染料につけたのち糸をほどき、白い模様を染め残す染め方。「絞りのゆかた」。
    ⑤しぼり。カメラで、レンズに入る光の量を調節するしかけ。

字通

[形声]声符は交(こう)。交は人が足を組む形。交結の意がある。〔説文〕十下に「縊(くび)るなり」とあり、益の初形は糸を縊(くく)る形。そのようにして絞首することをいう。

硜(コウ・12画)

論語 磬 金文
「磬」𪒠鎛・春秋末期

初出は甲骨文。ただし字形は「磬」の形。下掲『字通』の説に従えば、初出は後漢の説文解字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰĕŋ(平)。呉音は「キョウ」。

学研漢和大字典

形声。「石+(音符)巠(ケイ)」。

語義

  1. 「硜硜(コウコウ)」とは、石をたたいたときの音の形容。また、石をたたいたときのこちこちとした感じ。また、こちこちの小人物の形容。「硜硜然小人哉=硜硜然として小人なる哉」〔論語・子路〕

字通

[形声]声符は巠(けい)。〔史記、楽書〕に「石聲は硜硜以て別を立つ」とあり、その堅くしまった音をいう。擬声的な語とみてよい。きりつめた、いやしい感じのものとされた。字はまた磬の古文とされるが、磬の初文は声、あるいは殸であった。

溝(コウ・13画)

冓 金文
冓斝・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はku(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「水+(音符)冓(コウ)」。冓は、両側を同じ形に組みたてること。構(組みたてた組み木)と同系。類義語の洫(キョク)は、田畑の通水路。

語義

  1. {名詞}みぞ。両岸を木や石で組んだみぞ。《類義語》渠(キョ)。「排水溝」「溝渠(コウキョ)」「血流入溝中=血流れて溝中に入る」〔漢書・劉屈特〕
  2. {動詞}へだてる。みぞを掘って、へだてる。
  3. {動詞}みぞをつくり、水の流れをよくするように、互いの意思を通じあわせる。「溝通(コウツウ)」。

字通

[形声]声符は冓(こう)。〔説文〕十一上に「水瀆(すいとく)なり。廣さ四尺、深さ四尺」とあり、〔周礼、考工記、匠人〕に井田の周囲をめぐる水路であるという。その深広二仞のものを澮(かい)という。冓に二者相遘通する意があり、潅漑用の水路をいう。谷を自然の溝とみなして、溝壑という。

綱(コウ・14画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkɑŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、岡(コウ)の原字は、太づなを描いた象形文字。それに山印を加えたのが岡(崗)の字で、丈夫でかたい山。綱は「糸+(音符)岡」で、丈夫でかたい太づなのこと。剛(ゴウ)・(コウ)(丈夫でかたい)と同系のことば。

語義

  1. {名詞・動詞}おおづな(おほづな)。つな。つなする(つなす)。丈夫な太づな。太づなで魚をとる。《類義語》維(つりづな)。「綱維」「子釣而不綱=子釣すれども綱せず」〔論語・述而〕
  2. {名詞}物事をしめくくる規則。「綱紀」「綱常(人の行いを締める大すじ)」。
  3. {名詞}小さい項目を締めくくる大すじ。物事の大要。「大綱」「綱目」。
  4. {名詞}隊や組をなして運ばれる荷物。「花石綱(珍しい石や花をまとめて運ぶ大荷物)」「茶綱(お茶の大荷物)」。
  5. {名詞}生物分類学上の一段階で、門の次で、目(モク)の上。

字通

[形声]声符は岡(こう)。岡は鋳造のときの鋳型。高熱によって堅強となるものであるから、その声義をとる。〔説文〕十三上に「网(あみ)の紘(おほづな)なり」(段注本)という。〔書、盤庚上〕に「網の、綱に在りて、條有りて紊(みだ)れざるが若(ごと)し」、〔詩、大雅、巻阿〕「四方、綱と爲す」のように、秩序の基本の意に用いる。

薨(コウ・16画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxmwəŋ(平)。同音は存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「死+(音符)瞢(ボウ)の略体」。牢は、目が見えなくなるの意。その意味を借りて死ぬことを暗示した忌みことば。類義語に死。

語義

  1. (コウズ){動詞}みまかる。諸侯が死去する。
  2. 「薨薨(コウコウ)」とは、もやもやと群がって、音をたてるさま。「螽斯羽、薨薨兮=螽斯の羽は、薨薨たり兮」〔詩経・周南・螽斯〕

字通

[会意]夢の省文+死。〔説文〕四下に「公侯の𣨛(しゆつ)するなり」とし、瞢(ぼう)の省声とするが、声が異なる。夢魔(むま)によって死することをいう字であろう。〔礼記、曲礼下〕に「天子の死を崩と曰ひ、諸侯には薨と曰ふ」とあり、高貴の人には夢魔の危険が多かったのであろう。薨の声は、昏睡のときの状をいう。

衡(コウ・16画)

衡 金文
毛公鼎・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はgʰăŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「角(つの)+大+(音符)行」。人にけがをさせないよう、牛の大きな角に横にまっすぐ渡した棒のこと。転じて、広くよこぎや、はかりの横棒のこと。行(まっすぐ)・桁(コウ)(まっすぐ渡したけた)などと同系。類義語に測。「考」に書き換えることがある。「選考」▽「はかり」は「秤」とも書く。

語義

  1. {名詞}よこぎ。くびき。まっすぐなよこぎ。つ門の、二本の柱の上にわたしたよこぎ。づ牛の角があたらないように、角に結びつけたよこぎ。「鎮衡(フクコウ)(牛のつのに結びつけるよこぎ)」て馬車の轅(ナガエ)の端にわたしたよこぎ。「在輿則見其倚於衡也=輿に在りては則ち其の衡に倚るを見るなり」〔論語・衛霊公〕⇒「車」で北斗七星の柄の部分。または、第五星。「衡杓(コウヒョウ)」。
  2. {名詞}はかり。はかりの横棒。棒ばかりのさお。また、転じて、はかり。めかた。標準。「権衡(はかり)」「度量衡」。
  3. {動詞}はかる。めかたをはかる。また、物事のよしあしや成否を考える。「衡量(みはからう)」「権衡(みつもる、考える)」。
  4. {名詞}横にのびたまゆ毛の線。
  5. {名詞・形容詞}横。横になったさま。横ざま。▽横(オウ)・(コウ)に当てた用法。《対語》⇒従(=縦。たて)。「従衡(=縦横。たてよこ)」。
  6. {形容詞}たいらか(たひらかなり)。横にまっすぐのびた。たいらな。つりあいがとれた。「平衡(ヘイコウ)」。
  7. 「衡山」とは、山の名。五岳の一つ。湖南省衡陽県の北、衡山県の北西にある。「南岳」「霍山(カクザン)」とも。

字通

[会意]行+角+大。行は道。角は牛角。大は牛身。つのぎをつけた牛を正面よりみた形。〔説文〕四下に「牛の觸るる横の大木なり」と楅衡(ふくこう)の意とし、「角大に從ひ、行(かう)聲」の字とするが、〔説文〕行部二下の行を左右に分書するものに行声の例がなく、行は限定符とみるべく、中央が象形字である。すなわち牛が道路をゆくとき、危険を防ぐため楅衡を用いる意。金文の車服賜与形式の冊命(さくめい)の文に「逪衡(さくかう)」を賜う例が多く、輈(ながえ)の前端の横木と軛(くびき)など、車服一式に及ぶ例が多い。角に横にわたすものであるから横の意に用い、合縦連衡のようにいう。

講(コウ・17画)

初出は後漢の説文解字。カールグレン上古音はkŭŋ(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。冓(コウ)は、上と下(向こうとこちら)を同じように構築した組み木を描いた象形文字で、双方が同じ構えとなるの意を含む。構(くみ木)の原字。講は「言+(音符)冓」で、双方が納得して同じ理解に達するように話すこと。篝(コウ)(同じ構えに組んだかがり火の木)・遘(コウ)(双方から出てきてあう)などと同系。「媾」の代用字としても使う。「講和」。

語義

  1. (コウズ)(カウズ){動詞}相手にわかるように書物の内容や道理・技術などをとく。「講経(コウケイ)」「講学=学を講ず」「講詩書=詩書を講ず」。
  2. (コウズ)(カウズ){動詞}相手も納得するようにといて、はからう。また、適切な手をうつ。《同義語》⇒媾。「講和=和を講ず」「講信修睦=信を講じ睦を修む」〔礼記・礼運〕
  3. {動詞}《俗語》話す。「講話(チアンホア)」。
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①こう。つ寺社への参詣(サンケイ)や寄附などのために集まる信者の団体。「念仏講」「伊勢講」づ同行者・同業者のよりあい。また、基金の融通のためのよりあい。「頼母子講(タノモシコウ)」。
    ②考えて適切な処置を行う。「策を講ずる」。

字通

[形声]声符は冓(こう)。冓は結合を象徴する組紐(くみひも)の形。〔説文〕三上に「和解するなり」という。その意には、古くは媾を用いることが多く、講和のために通婚することがあったのであろう。講は内部構造を解明することをいい、事理を通じ、事案を考えることをいう。ゆえに論講の意となる。

羹(コウ・19画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkăŋ(平)。同音に庚”かのえ”、更、賡”継ぐ・償う”、梗”ヤマニレ”、哽”どもる”、綆”つるべの縄”、鯁”魚の骨”。

学研漢和大字典

会意。「羔(まる煮した小羊)+美(おいしい)」。

語義

  1. {名詞}あつもの。肉と野菜を入れて煮た吸い物。

字通

[会意]羔(こう)+美。初文は𩱧に作り、𩰲(れき)+羊。鬲を以て羊を烹(に)る象。羹はその篆文で、その形も羹の左右に弜(きよう)を加えて、煮て湯気のあがる意を示している。〔説文〕三下に正字を𩱧に作り「五味の盉(和)する𩱧(羹)なり」という。また省文二、小篆の一字を加えており、羹は小篆の字である。

鏗(コウ・20画)

初出は不明。定州竹簡論語も欠字となっており存在証明にならない。論語の時代に存在した証拠がない。カールグレン上古音は不明(平)。王力上古音はkʰen。同音は存在しない。

学研漢和大字典

会意。「金+堅(かたい)」。かんかんという音をあらわす擬声語。

語義

  1. {形容詞}かんかんと、かたいものがうちあたる音の形容。
  2. {動詞}うつ。鐘をかんとうつ。鐘をつく。
  3. {形容詞}かん高いしわぶきの声の形容。《類義語》嗽(ソウ)。
  4. 「鏗鏘(コウソウ)」「鏗鎗(コウソウ)」「鏗糒(コウコウ)」とは、金玉のうちあたるすずしげな音の形容。また、琴のさわやかな音の形容。「始知楽与時政通、豈聴鏗鏘而已矣=始めて知る楽は時政と通ずるを、あに鏗鏘を聴くのみならん」〔白居易・華原磬〕

字通

(条目無し)

贛(コウ・24画)

初出は楚系医戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明。王力上古音はkɔŋ(去)、貢と同音。藤堂上古音は感と同音kəm(上)、貢と同音kuŋ(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。貝の上の部分はもと夅で、贛は、「貝+上から下へおりる意の音符コウ」。

語義

カン(上)
  1. {名詞}江西省の別名。「贛州(カンシュウ)」。
  2. {名詞}川の名。江西省を流れ、睨陽(ハヨウ)湖に注ぐ。「贛水(カンスイ)」。
コウ(去)
  1. {動詞}たまう(たまふ)。上から下に物を与える。《類義語》降・賜。
  2. {形容詞}おろか(おろかなり)。ばか正直なさま。《同義語》戇。

字通

[形声]声符は貢(こう)。もとは夅(こう)に従う字であった。〔説文〕六下に「賜ふなり」という。孔門の端木賜は字は子貢、賜と貢と対待の字。貢の初文は贛に作り、〔漢石経〕には子贛に作る。字はもと夅に従い、神霊の下降を意味し、それで賜与の義がある。古く陷(陥)(かん)の音でよまれたらしく、〔書、顧命〕の〔馬鄭王本〕に「爾(なんぢ)釗(さう)(康王の名)を以て、非幾に冒贛(ばうかん)せしむること無(なか)れ」、〔馬融注〕に「贛は陷なり」とあって降陥の意とする。地名・人名にカンの音でよみ、おそらくその音が古いのであろう。また戇(とう)に通じ、戇愚の意に用いる。

合(ゴウ・6画)

論語 合 金文
琱生簋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰəp(入)。韻目と成長は同じだがもう一つ入声があり、その音は不明。

会意。「亼(かぶせる)+口(あな)」で、穴にふたをかぶせてぴたりとあわせることを示す。▽促音語尾のpがtに転じた場合は、カッ・ガッと読む。

繪(=絵。色糸を寄せあわせた模様)・膾(カイ)(肉を寄せあわせたごちそう)と同系。また、和(寄せあわす)・話(ワ)(あつまって会話する)・括(カツ)(寄せまとめる)とも縁が近い。類義語の遇(グウ)は、二つのものがふと出あうこと。逢(ホウ)は、両方から進んで来て一点で出あうこと。

合は、ぴったりとあわさること。値は、まともにそこにあたること。遭は、ひょっこりと出あうこと。対は、双方がちょうど合致するようにむき合う意。向は、ある方向に進行すること。迎は、来る人を出むかえて双方がかみ合う意。

意味

  1. {名詞}あつまり。また、出会い。「宴会」「鴻門之会(コウモンノカイ)」。
  2. (カイス)(クワイス){動詞}あつまる。あつめる(あつむ)。ひと所にまとまる。また、多くのものを寄せあつめる。《類義語》合・集。「会合」「以文会友=文を以て友を会す」〔論語・顔淵〕
  3. {動詞}あう(あふ)。あつまって対面する。「会見」「会晤(カイゴ)(あって話しあう)」。
  4. {動詞}あう(あふ)。その物事に出くわす。《類義語》遇(グウ)。「会其怒不敢献=その怒に会ひ敢(あ)へて献ぜず」〔史記・項羽〕
  5. {名詞}巡りあわせ。また、物事の要点。「機会」。
  6. {副詞}たまたま。→語法「1.」。
  7. {副詞}かならず。→語法「1.」。
  8. (カイス)(クワイス){動詞}思いあたる。そうかと悟る。気持ちにかなう。「領会(なるほどとわかる)」「会心=心に会す」。
  9. {名詞}人々のあつまる所。「都会」「省会(ショウカイ)(中国の省の中心である都市)」。
  10. 「会計」とは、収支の結果をあつめて計算すること。

語法

  1. (1)「かならず」とよみ、「かならず~」と訳す。可能性が高いこと、あるいは予想通りの結果になることへの願望を示す。「会向瑶台月下逢=会(かなら)ず瑶台(やうだい)月下に向かひて逢はん」〈必ず(伝説の)瑶台(ヨウダイ)山の、月の下で会えるだろう〉〔李白・清平調詞一
    (2)「会須=かならずすべからく~すべし」「会当=かならずまさに~すべし」「会応=かならずまさに~すべし」と、助動詞とともに用いて、「どうしても~すべきである」「どうしても~する必要がある」と訳す。「丈夫会応有知己=丈夫会(かなら)ず応(まさ)に知己(ちこ)有るべし」〈男子たる者、必ず親友を持つべきである〉〔張謂・贈喬琳〕
  2. 「たまたま」とよみ、「おりしも」「ちょうどそのとき」と訳す。ある場面に出くわした意を示す。「居頃之、会燕太子丹質秦、亡帰燕=居ること頃(しばら)らくしてこれ、会(たまたま)燕の太子丹秦に質たり、亡(のが)れて燕に帰る」〈(荊軻が)しばらく燕に滞在するうちに、ちょうど秦に人質として行っていた燕の太子の丹が逃げ帰ってきた〉〔史記・刺客〕

字通

[象形]祝禱を収める器である口(𠙵(さい))の上に、深く蓋(ふた)をしている形。〔説文〕五下に「口を合はせるなり」とし、上を亼(しゅう)にして集、衆口を集める意とするが、そのような造字の法はない。盟誓などの書をその器中に収めて、合意の成ることをいう字で、金文の〔琱生簋(ちようせいき)〕に「來(きた)りて事(まつり)を合す」とは祭事の協議が成立すること、そのような会合に参加することを「䢔(あ)う」という。郷射のことを金文に「■(𨙵の間に合)射」というのもその意である。■は合を中にして二人対坐する形。卿は食膳を挟んで二人対坐する形で饗の初文。合議のため会するときは■がその字義にあう。合意のことをまた答といい、金文に「厥(そ)の徳に合(答)揚(たふやう)す」のように用い、〔左伝、宣二年〕にも「既に合(こた)へて來り奔る」のような例がある。

剛(ゴウ・10画)

論語 剛 金文
散氏盤・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkɑŋ(平)。鋼を意味するが、鋼鉄が中国に普及したのは前漢になってからで(矢田浩『鉄理論』)、論語の時代には鋳鉄として、主に農具や工具に使われた。ただし鋼鉄が皆無ではなかったことは、論語の時代と前後して、西の辺境の秦国の故地から、石鼓文が出土していることにより証明される。鋼の出現まで、花崗岩は硬くて刻めなかったからだ。
鋼鉄

学研漢和大字典

コウコウ(つよい太つな)の原字。またコウ(上部のかたい台地→おか)の原字。かたくじょうぶな意を含む。剛は「刀+音符岡」の会意兼形声文字で、刀の材料にする鋼(かたい鉄)のこと。のち、広く、かたい、つよいの意に用いる。強-キョウと同系のことば。▽慣用音「ゴウ(ガウ)」は、強(ゴウ)との混用か。

意味

  1. {形容詞}かたい(かたし)。かたくてじょうぶなさま。《対語》⇒柔。「剛強」「弱之勝強、柔之勝剛=弱の強に勝ち、柔の剛に勝つ」〔老子・七八〕
  2. {形容詞}つよい(つよし)。かたくてつよいさま。「血気方剛=血気方に剛し」〔論語・季氏〕
  3. {名詞}つよさ。かたくてつよいこと。こわおもて。「是匹夫之剛也=是れ匹夫之剛也」〔蘇軾・留侯論〕
  4. {副詞}《俗語》ちょうど、いましがたの意の副詞。「剛過(いましがた過ぎたばかり)」。
  5. 《日本語での特別な意味》武芸や腕っぷしのつよいこと。「大力無双の剛の者」。

字通

岡+刀。岡は鋳鉄に火を加える形。鋳造の後にその鋳型を裂き、器物を取り出す。高温に熱するので、外型が焼成されて堅剛となるので、刀を用いて裂く。〔説文〕四下に「ひて斷つなり」とし、岡声とするが、会意の字。岡の亦声である。人の性情の上に移して剛毅・剛健という。

訓義

かたい、かたい鋳型を断ち切る。つよい、意志がかたい、気がつよい、さかん。まさに、あたかも、わずかに、ようやく。

大漢和辞典

たちきる。切っ先が鋭い。つよい、かたい。さかん。意志が堅い。無欲、無私。陰陽の陽。奇数の日。牡牛。君主。まさに。わずかに、然る後。諡。姓。

奡(ゴウ・12画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明。王力上古音はauu(去)。同音は存在しない。

学研漢和大字典

会意。「頁(あたま)+夰(大きいひと)」で、からだや頭の大きい、いかつい姿の人をあらわす。

語義

  1. {動詞・名詞}おごる。いかつい偉そうなさまをする。また、そのような人。《同義語》⇒傲。
  2. {名詞}《人名》伝説上の荒武者の名。寒浞カンサクの子。舟を陸上で押し動かしたといわれる。「奡盪舟=奡は舟を盪かす」〔論語・憲問〕

字通

[象形]■(上下に一+自)(しゆ)は大きな頭。下部はその手足を垂れている形。〔説文〕十下に「嫚(あなど)るなり」とあり、傲と声義が近い。〔書、皋陶謨〕に「丹朱(尭の子)、奡(おご)る」とみえる。敖は長髪の架屍(かし)を殴(う)って、敵に傲(おご)る呪儀を示す字である。奡が声義において敖に近いとすれば、奡もそのような呪儀と関係のある字であろう。その手足を垂れる形は、死屍を祭梟(さいきよう)(首祭)とするものであろうかと思われる。

吿/告(コク・7画)

論語 告 金文
田告母辛方鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkのみ(去/入)。藤堂上古音はkok(入)またはkog(去)。

学研漢和大字典

論語 吿 解字

会意。「牛+囗(わく)」。梏(コク)(しばったかせ)の原字。これを、上位者につげる意に用いるのは、号や叫と同系のことばに当てた仮借字。▽「説文解字」では、つのにつけた棒が、人に危険を告知することから、ことばで告知する意を生じたとする。類義語の報は、返事をする意。訃(フ)は、人の死を知らせること。

意味

  1. {動詞}つげる(つぐ)。下位の者が上位の者のそばにいってつげる。転じて、広くことばで人に話しきかせる。「報告」「告諸往而知来者=諸に往を告げて来たることを知る者なり」〔論語・学而〕
  2. {動詞}つげる(つぐ)。訴える。おかみに申し出る。「告訴」「告発」「不告姦者、腰斬=姦を告げざる者は、腰斬す」〔史記・商君〕
  3. {動詞}つげさとす。ことばでさとす。「忠告」。
  4. {動詞}官吏が休暇や引退の意を申し出る。「告退(引退願い)」「賜告=告を賜ふ」。
  5. {名詞}君主が臣民を教えさとすことば。《同義語》⇒誥。

字通

[象形]旧字は吿に作り、木の小枝に、祝禱を収める器の𠙵(さい)を著けた形。分析していえば、木の省形と口(𠙵)とに従う字である。〔説文〕二上に「牛、人に觸る。角に横木を著く。人に告ぐる所以なり」とし、字を牛と口の会意とするが、俗説である。卜文・金文の字形は、牛とは関係がない。卜辞に「貞(と)ふ。疾又(あ)るに、羌甲(きやうかふ)(祖王の名)に告(いの)らんか」のように、祈る意に用いる。告はその祈りかたを示す字。祝告の器である口をもつ形は史、史は内祭として祖廟を祀るのが原義。その字形は申し文をつけた小枝をもつのにひとしい。外祭のときには、その枝に吹き流しなどをつけるので使・事(もと同形)の字となる。使は祭の使者で外祭、その祭を事・大事という。告・史・使・事はその字形において系列をなす字である。

克(コク・7画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰək(入)。

学研漢和大字典

会意。上部は重い頭、またはかぶとで、下に人体の形を添えたもので、人が重さに耐えてがんばるさまを示す。がんばって耐え抜く意から、かつ意となる。緊張してがんばる意を含む。革(ぴんと緊張させて張ったかわ)・極(ぴんと張って、重さに耐える大黒柱)と同系。また、戒(いましめる)や刻苦の刻とも縁が近い。類義語に捷。「剋」の代用字としても使う。「下克上・相克」。

語義

  1. {動詞}かつ。がんばって耐え抜く。やりぬく。「克服」「克己復礼為仁=己に克ちて礼に復るを仁と為す」〔論語・顔淵〕
  2. {動詞}かつ。力を尽くしてかち抜く。《同義語》⇒剋。「克復」「戦必克=戦へば必ず克つ」〔孟子・告下〕
  3. {助動詞}よく。→語法「①②」。
  4. {形容詞}かち気な。「忌克(しっと深く、かち気なこと)」。

語法

①「よく」とよみ、「耐えぬいて~できる」「苦労して~し終える」と訳す。可能の意を示す。否定形は訓読が変化するので、「②」を参照。《類義語》能。「惟孝、友于兄弟、克施有政=これ孝ならば、兄弟に友に、克(よ)く有政に施す」〈(親に)孝であれば、兄弟とも仲良くし、政治にもきっと反映させられる〉〔書経・君陳〕

②「不克」は、「あたわず」とよみ、「苦労したが~できなかった」と訳す。「克」の否定形。「雨不克葬、礼也=雨ふりて葬むる克(あた)はざるは、礼なり」〈雨のため葬儀が行えず(翌日挙行したのは)、礼に合している〉〔春秋左氏伝・宣八〕

字通

[象形]木を彫り刻む刻鑿(こくさく)の器の形。上部は把手、下は曲刀の象。〔説文〕七上に「肩(かつ)ぐなり。屋下の刻木の形に象る」とあり、支柱の意とする。しかし金文の字形では、下部が曲刀をなしており、また〔説文〕古文の第二字は明らかに刻彔の形、すなわち錐もみの器である。刻鑿・掘鑿(くつさく)に用いる。〔詩、大雅、雲漢〕「后稷(こうしよく)克(しる)さず」の〔鄭箋〕に「克は當(まさ)に刻に作るべし。刻は識(しる)すなり」とあり、克はその克識を施すための器である。ものを刻することから、克能・克勝の意となり、また克己のように用いる。

谷(コク・7画)

谷
倗生簋・西周中期

初出は甲骨文カールグレン上古音はkuk(入)。下掲『字通』によると、金文の時代「欲」gi̯uk(入)は「谷」と書かれたという。論語語釈「欲」も参照。

学研漢和大字典

会意。「八印(わかれ出る)二つ+口(あな)」で、水源の穴から水がわかれ出ることを示す。▽卻(=却)の音符谷(キャク)は、口の上、鼻の下の正中線のくぼみをあらわし、谷(コク)とは別字。口(くちの穴)・后(コウ)(しりの穴)・喉(コウ)(のどの穴)などと同系。また、容giuŋ→yioŋ(くぼんだ入れ物)は、その語尾の転じたことば。類義語の谿は、糸がつながるような細長いたに。「たに」は「渓」「谿」とも書く。

語義

コク(入)gǔ
  1. {名詞}たに。山の低くくぼんだ所。また、川の源となる水が、流れ出るくぼみ。転じて、うつろにくぼんだ所。《類義語》谿(ケイ)。「渓谷」「空谷(うつろなたに)」「谷神(うつろな穴にひそむ不思議な力)」。
  2. {動詞・形容詞}きわまる(きはまる)。いちばん奥に達して動きがとれない。▽いちばん奥の水源の意から。《類義語》窮。「進退維谷=進退維れ谷る」〔詩経・大雅・桑柔〕
  3. 「暘谷(ヨウコク)」とは、太陽が出るという所。
  4. 「昧谷(マイコク)」とは、太陽が没するという所。
  5. {名詞}こくもつ。▽穀に当てた用法。「陸谷(=陸穀。とうもろこし)」。
ヨク(入)yù
  1. 「吐谷渾(トヨクコン)」とは、晋(シン)代から唐代にかけて鮮卑(センピ)族がたてた国。今の青海省あたりにあった。
ロク(入)lù
  1. 「谷蠡(ロクリ)・(ロクレイ)」とは、匈奴(キョウド)の部族の長の称号。

字通

[象形]谷の入口の形。〔説文〕十一下に「泉出でて川に通ずるを谷と爲す。水半ば見えて口より出づるに從ふ」とするが、金文の字形は、左右から山がせまり、谷口が低く狭まった形で∨形をなすことを示す。口の部分は、字の初文では∨形に作る。卜文には𠙵(さい)形に作り、谷口を聖所として祀る意である。

國/国(コク・8画)

論語 国 金文
毛公鼎・西周晚期

→「」も参照。

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkwək(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。或(ワク)は「弋(くい)+囗(四角い区域)」の会意文字。金文の或の字は、囗印を上下両線で区切り、そこに標識のくいをたてることを示す。弋はのち戈(ほこ)の形となり、ほこで守る領域を示す。國は「囗(かこい)+(音符)或」で、わくで境界を限る意を含む。或・域・國はもと同系であったが、のち、或は有(ある、あるいは)に当てられ、域は地域の意に用いられ、國は統治されたくにの意に専用されるようになった。常用漢字の国は略字。

類義語のは、封(ホウ)(盛り土)と同系で、盛り土で境をつけたくに。圀は、唐の則天武后が國(コク)(=国)の字が或(=惑(マドウ))を含むのをきらって定めた文字。▽旧字「國」は人名漢字として使える。

意味

  1. {名詞}くに。境界で囲んだ領域。昔は諸侯の領地。▽今は人民・土地・主権を有する国家のこと。「大国」「兵者国之大事=兵者国之大事なり」〔孫子・始計〕
  2. {名詞}くに。国家の統治の仕組み。国家組織。「国破山河在=国破れて山河在り」〔杜甫・春望〕
  3. {名詞}くに。うまれ育った国家。祖国。「去国三巴遠=国を去りて三巴遠し」〔盧卸・南楼望詩〕
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①くに。郷里。「国に帰る」。
    ②日本の。「国学」「国文」。

字通

旧字は國に作り、+或。或は囗を戈とに従い、囗は都邑の城郭。戈を以てこれを守るので、或は國の初文。國は或にさらに外郭を加えた形である(訳者注。魯国の城壁が多重であったことが『左伝』に記されている)。もと国都をいう。〔説文〕六下に「邦なり」、邑部六下に「邦は國なり」とあって互訓。邦は社稷(訳者注。国家の祭殿、土地神と穀物神を祀る)に封樹(訳注。神の宿る土盛りに植えられた樹)のある邑で、邦建による国都を言う。〔周礼、天官、大宰、注〕に「大なるを邦という」とし、〔玉篇〕に「小なるを邦という」とするが、分別を加えるとすれば、國は軍事的、邦は宗教的な性格をもつ字である。金文に、古くは或を用い、また国家のことは邦家というのが例であった。圀は唐の則天武后が制定した新字の一。或は域で、限定を加える意があるので、八方を以てこれに代えたのである。

訓義

  1. くにのみやこ、国都。
  2. くに、邦家。

或(コク・8画)

論語 或 惑 金文
班簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgʰwək(入)。「ワク」は呉音。

学研漢和大字典

会意。「戈(ほこ)+囗印の地区」から成る。また囗印を四方から線で区切って囲んだ形を含む。ある領域を区切り、それを武器で守ることを示し、域や國(コク)(=国)の原字である。ただし一般には有(ɦɪuəg-ɦJɪəu(イウ))にあて、ある者、ある場合などの意に用いる。或の原義は、のちに域の字であらわすようになった。

語義

  1. {指示詞}ある。→語法「③」。
  2. {代名詞}あるいは。あるひと。→語法「②」。
  3. {接続詞}あるいは。→語法「①-ヂ」。
  4. {副詞}あるいは。→語法「①-チ」。
  5. {動詞}ある(あり)。《類義語》有。「未之或知也=いまだこれ知るあらざるなり」〔易経・壓辞下〕
  6. {動詞}まどう(まどふ)。狭い考えにとらわれて、まよう。▽惑(ワク)に当てた用法。「無或乎王之不智也=王の不智に或ふこと無かれ」〔孟子・告上〕

語法

①「あるいは」とよみ、

  1. 「~のこともある」「ひょっとしたら」と訳す。推測の意を示す。▽「或者」も、「あるいは」とよみ、意味・用法ともに同じ。「昔者辞以病、今日弔、或者不可乎=昔者(むかし)は辞するに病をもってし、今日は弔す、或は不可ならん」〈昨日は病気といってお断りになりながら、今日は弔問に行かれるのは、ひょっとしてまずいのではないですか〉〔孟子・公下〕
  2. 「ある場合は」「ある時は」「または」と訳す。選択の意を示す。「夫物之不斉、物之情也、或相倍戰、或相什百、或相千万=それ物の斉(ひと)しからざるは、物の情なり、或ひはあひ倍戰(ばいし)し、或ひはあひ什百(じゅうひゃく)し、或ひはあひ千万す」〈いったい物に差異があるのは、自然の理で、ある物は二倍五倍、ある物は十倍百倍、ある物は千倍万倍(の価格)となる〉〔孟子・滕上〕

②「あるいは」「あるひと」とよみ、不特定の人物を指示する。「或謂孔子曰=或いは孔子に謂ひて曰はく」〈ある人が孔子に向かって言った〉〔論語・為政〕

③「ある」とよみ、「ある~」と訳す。不特定の人・物・事を指示する。「或人嘉而称焉=或る人嘉して称す」〈ある人がお祝いをのべて、ほめたたえた〉〔後漢書・馬融〕

字通

[会意]囗(い)+戈(か)。囗は城郭の象。これを戈(ほこ)をもって守る意で、國(国)の初文。國は或にさらに囗を加えた形。金文に或を国の意に用いる。〔説文〕十二下に「邦なり。囗(ゐ)に從ひ、戈に從ひ、以て一を守る。一は地なり」とし、域を重文としてあげる。一は境界の意。或・域・國はもと一字。或がのち域と國とに分化したとみてよい。或はまた又(ゆう)・有とも声義が通用し、有が一般的にある意であるのに対して、或は限定的な有であるため「あるいは」の意となり、不特定の意となる。〔論語、為政〕「或(ある)ひと、孔子に謂ふ」は不特定の人、〔詩、豳風、鴟鴞(しけう)〕「敢て予(われ)を侮ること或(あ)らんや」は有の限定的用法である。惑と通用し、〔孟子、告子上〕「王の不智なるを或(うたが)ふこと無(なか)れ」とあり、疑惑の意に用いる。

剋(コク・9画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰək(入)。同音に刻、克。論語語釈「克」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。克は、重いかぶと、または、頭を人体がささえるさま。がんばって耐え抜く意を含む。剋は「刀+(音符)克」で、克の原義をあらわし、また、刻(力をこめてきざむ)に通じて用いる。「克」に書き換えることがある。「下克上・相克」。

語義

  1. {動詞}かつ。がんばって相手にうちかつ。耐えぬく。《同義語》⇒克。「下剋上=下上に剋つ」。
  2. (コクス){動詞}きざむ。きざみつける。《同義語》⇒刻。
  3. {形容詞}ごしごしときざみつけるようにきびしいさま。《同義語》⇒刻。「剋薄(コクハク)」。

字通

[形声]声符は克(こく)。克は刻木の器。上部は把手、下部は曲刀の形。克の古文は穴をあけるときの刻鑿(こくさく)の器の形に作る。克が剋の初文。克を克能・克己のように用いるようになり、刀を加えた剋が作られた。克と通用することが多い。尅はその俗字である。

哭(コク・10画)

論語 哭 金文
在線漢語字典所収字

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰuk(入)。

学研漢和大字典

会意。「口二つ+犬」で、大声でなくこと。犬は大声でなくものの代表で、口二つは、やかましい意を示す。類義語に啼。

語義

  1. (コクス){動詞}なく。大声をあげてなく。「慟哭(ドウコク)(からだを上下に動かして大なきをする)」。
  2. (コクス){動詞}葬式や墓前で大声でなく。「有婦人哭於墓者=婦人の墓に哭する者有り」〔礼記・檀弓下〕

字通

[会意]吅(けん)+犬。口は𠙵(さい)、祝禱を収める器の形。犬は犬牲。㗊(しゆう)と犬とに従うものは器で明器。喪葬に用いる。哭は葬に臨んで哭泣することをいう。〔説文〕二上に「哀しむ聲なり。吅に從ひ、獄(ごく)の省聲なり」とするが、一犬を以て獄の省とすることはできない。また〔段注〕に、家が豕(ぶた)に従うように、哭声も犬に従うとするが、犬は清めに用いる犠牲である。家も卜文は犬に従い、犬牲を以て清めて奠基(てんき)とする建物で、卜辞に「上甲の家」というように、もと祀廟をいう語であった。哭の声は、おそらくその哭泣の声をとるものであろう。

黑/黒(コク・11画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音は黙mək(入)→黒xmək(入)で、語頭のxは落ちうるのだろう。”だまる”の語釈は『大漢和辞典』に無いが、定州論語のような物的証拠がある以上、黙→黒を認めざるを得ない。

学研漢和大字典

会意。この字の下部は火、上部は煙突に点々とすすのついたさまをあらわす。墨(=墨。くろいすす)・晦(くらい)・煤(くろいすす)・灰(くろいはい)と同系。▽語頭のmが無声のmとなり、ついに、hにかわったので、墨(m)・黒(h)の差が生じたが、本来は、墨(すす)と黒(くろい)は同源。旧字「黑」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞・形容詞}くろ。くろい(くろし)。すすの色。くろ。くろい。また、暗い。「黒衣」「黒雲」「暗黒」。
  2. {名詞・形容詞}くろ。くろい(くろし)。有罪。やみの。けがれた。腹ぐろい。《対語》⇒白。「黒市(やみ市)」。
  3. {動詞}くろむ。くろくなる。暗くなる。《対語》⇒明。「行明白而日黒兮=行ひ明白なれども而日は黒む兮」〔楚辞・怨思〕

字通

[会意]旧字は黑に作り、柬(かん)+火。〔説文〕十上に「火、熏(くん)する所の色なり。炎の上りて、𡆧(まど)に出づるに從ふ。𡆧は古の窻の字なり」とするが、その形ではない。柬は東(橐(たく)、ふくろ)の中にもののある形。下に火を加えて熏蒸し、黑の色をとることを示し、黒色をいう。それより暗黒の意となる。幽は黝(ゆう)と声義近く、黝(ゆう)(いと)と火とに従い、糸をふすべて黒く染める意の字で、また幽暗の義に用いる。

穀(コク・14画)

穀 金文
辛鼎・商代晚期或西周早期

初出は殷代末期の金文。カールグレン上古音はkuk(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。殻(コク)・(カク)は、固い外わく、かたいものをたたくの意。穀は「禾(穀物)+(音符)殻」の略体で、かたいからをかぶった穀物の実。▽常用漢字の字体は禾の上の一を略したもの。角・殼(=殻。から)と同系。旧字「钁」は人名漢字として使える。▽常用漢字の字体は禾の上の一を略したもの。椿(コク)は、別字。

語義

  1. {名詞}穀物の総称。かたいからをつけた食べられる粒状の実のこと。豆やごまを含むことがある。「五穀」「九穀」「養穀不成=穀を養ひて成らず」〔李滉・啓蒙篇〕
  2. {動詞・形容詞・名詞}よくする(よくす)。よい(よし)。よくする。よい。かっちりとしまった状態。善。「三年学不至於穀不易得也=三年学びて穀に至らざるは得易からざるなり」〔論語・泰伯〕▽この例は一説に「め」の意という。
  3. {動詞}やしなう(やしなふ)。食物を与えてやしなう。「以穀我士女=以て我が士女を穀ふ」〔詩経・小雅・甫田〕
  4. {動詞}いきる(いく)。ものを食べていきる。「穀則異室、死則同穴=穀きては則ち室を異にするも、死しては則ち穴を同じうせん」〔詩経・王風・大車〕
  5. (コクス){動詞・名詞}俸禄(ホウロク)を受ける。俸禄。《類義語》禄。「邦無道穀恥也=邦に道無きに穀するは恥なり」〔論語・憲問〕

字通

[形声]旧字は穀に作り、声符は𣪊(かく)。〔説文〕七上に「續(つ)ぐなり。百穀の總名なり」とあり、穀・續(続)の畳韻を以て字義を解する。粟字条七上に「孔子曰く、粟(ぞく)の言爲(た)る、續なり」とあるのと同じく、当時の音義説である。𣪊は草木の実の殻で、殳(しゆ)に従うのは脱穀の象。穀とは穀実、実の充実しているものを穆(ぼく)という。〔詩、小雅、甫田〕「以て我が士女を穀(やしな)ふ」、また〔詩、王風、大車〕「穀(い)きては則ち室を異にするも 死しては則ち穴を同じうせん」のように、生息の意に用いる。

忽(コツ・8画)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxmwət(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。勿(ブツ)は、吹き流しがゆらゆらして、はっきりと見えないさまを描いた象形文字。忽は「心+(音符)勿」で、心がそこに存在せず、はっきりしないまま見すごしていること。勿(ない)・没(見えなくなる)などと同系。類義語の俄(ガ)は、きわだった断層が生じる意を含み、がくっと驚く、にわかに変化するなどの場合の副詞に用いる。怱(ソウ)は別字。

語義

  1. {副詞}たちまち。いつのまにか。うっかりしているまに。《類義語》俄(ガ)・(ニワカ)。「忽然」「忽聞=忽ち聞く」「歳月忽已晩=歳月忽ち已に晩し」〔古詩十九首〕
  2. {形容詞}心がうつろなさま。よく見定められないさま。とりとめのないさま。《同義語》惚。
  3. {形容詞・動詞}ゆるがせにする(ゆるがせにす)。気にとめないさま。気にとめずにほうっておく。しっかりととらえずに放置する。「忽略(コツリャク)」「禍乱生於所忽=禍乱は忽にする所より生ず」〔資治通鑑・唐太宗〕
  4. {単位詞}数の単位。一の十万分の一。糸の十分の一。微の十倍。

字通

[形声]声符は勿(ふつ)。勿に㫚・笏(こつ)の声がある。〔説文〕十下に「忘るるなり」とあり、〔漢書、揚雄伝賛〕に「時に人皆之れを㫚(ゆるがせ)にす」のように、字を㫚とし、㫚略の意に用いる。㫚は祝禱の器である曰(えつ)をみだりに啓(ひら)く意の字で、忽略の意は、その㫚開の意と関連がある。「たちまち」と訓する倏・溘・乍・奄は、みな状態をいう形況の語で、忽もその意が原義。その状を恍惚という。

紇(コツ・9画)

初出は不明。カールグレン上古音は不明(入)。藤堂上古音はɦət。部品の「乞」の初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯ət(入)。

学研漢和大字典

形声。「糸+(音符)乞(コツ)」。

語義

  1. {動詞}切れた糸のはしが、たつ。
  2. 「叔梁紇(シュクリョウコツ)」とは、孔子の父の名。
  3. 「回紇(カイコツ)」とは、民族の名。ウイグル。はじめモンゴル、のちトルキスタン地方に住んでいたトルコ系の民族。現在は新疆維吾爾(シンキョウウイグル)自治区に多く住む。「回鶻」「廻鶻」とも。

字通

(条目無し)

大漢和辞典

リンク先を参照

困(コン・7画)

困 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰwən(去)。

学研漢和大字典

会意。「囗(かこむ)+木」で、木をかこいの中に押しこんで動かないように縛ったさまを示す。縛られて動きがとれないでこまること。梱包(コンポウ)の梱(縛る)と同系。

語義

  1. (コンス){動詞}くるしむ。こまる。わくをはめられて動きがとれない。つかれる。「不為酒困=酒の為に困せず」〔論語・子罕〕
  2. {動詞}くるしむ。こまる。貧しくて動きがとれない。「貧困」「吾始困時、嘗与鮑叔賈=吾始め困(くる)しみし時、嘗(かつ)て鮑叔と賈す」〔史記・管仲〕
  3. {動詞}くるしむ。こまる。どうにかしようともがく。「困於心衡於慮而後作=心に困しみ慮に衡りて後作る」〔孟子・告下〕
  4. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陞陲(坎下兌上(カンカダショウ))の形で、困窮しているさまを示す。

字通

[象形]枠に木をはめて、出入を止める門限の形。閫(こん)の初文。〔説文〕六下に「故廬なり」というのは〔管子、地図〕にいう「困殖の地」すなわち開墾地の廬舎の意とするものであるが、字の本義としがたい。〔荀子、大略〕「井里の厥(けつ)」は〔晏子、雑上二十三〕の「井里の困」にあたり、門橛(もんけつ)を閫という。〔説文〕古文の字は■(上下に止+木)に作り、進入を防ぐ木の意であろう。のち門限の字に閫を用い、困急・困難の意に困を用いる。

昆(コン・8画)

論語 昆 金文
昆疕王鐘・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はkwən(平)。

学研漢和大字典

会意。「日+比(ならぶ)」。「日+人三人」は衆の字で、昆もまた多くの者が日光のもとに並んだことを示す。まるく一群を成した仲間のことで、混(まるく一つにまとまる)・渾(コン)(まるく一つにまとまる)・群などと同系。「昆布(こんぶ)」は、「コブ」とも読む。

語義

  1. {名詞}あに。なかま。もと、なかまのこと。転じて、なかまをなす兄弟を昆といい、のち、特に兄をさす。《類義語》群。「後昆(コウコン)(子孫の仲間)」「父母昆弟(コンテイ)(兄弟)之言」〔論語・先進〕
  2. {名詞}なかま。むれ。まるく集まったなかま。▽その代表的なものはこん虫である。《類義語》群。「昆虫(コンチュウ)」。

字通

[象形]昆虫の形。比の部分は足。〔夏小正〕に「昆小蟲」の語があり、小虫をいう。〔説文〕七上に「同じきなり」と訓するのは、混同の意であろう。〔詩、王風、葛藟〕に「他人を昆(あに)と謂ふ」とあるのは𥊽(こん)の意。また〔書、仲虺之誥〕「裕を後昆に垂る」の後昆は後裔の意であるが、これも通用の義であろう。

※𥊽:兄。

魂(コン・14画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰwən(平)。同音は䰟(異体字)、渾”にごる”、混、焜”輝く”、慁”憂える・乱す”、溷”乱れる・混じる・濁す”、圂”豚小屋”。

学研漢和大字典

会意兼形声。「鬼+(音符)云(=雲。もやもや)」。雲と同系で、もやもやとこもる意を含む。渾(コン)(もやもやとまとまる)と、非常に縁が近い。

語義

  1. {名詞}たましい(たましひ)。人の生命のもとになる、もやもやとして、きまった形のないもの。人が死ぬと、肉体から離れて天にのぼると考えられていた。《類義語》魄(ハク)・霊。「魂魄(コンパク)」。
  2. {名詞}人・物の精神。こころ。「心魂」「花魂」。
  3. {名詞}心。心持ち。心境。「旅魂」。

字通

[会意]云(うん)+鬼(き)。云は雲の初文で、雲気の象。人の魂は雲気となって浮遊すると考えられた。〔説文〕九上に「陽气なり」とあるのは、次条の魄字条に「陰气なり」とあるのに対するもので、白とは生色のない頭顱(とうろ)(されこうべ)の形。〔荘子、馬蹄〕に神(神)・魂・云・根を韻しており、云・魂は畳韻の語であった。

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コメント

  1. […] 引用文中で「司空」とあるのは、論語の時代にそう言ったか疑問はあるものの、史実とすれば空=うつろなところ(→語釈)に罪人を閉じこめることを司る職で、春秋時代の囚人は諸侯国にとって常備の労役集団でもあったから、治水や築城などの土木工事も管掌した。 […]