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論語語釈「キョ・ギョ」

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語釈 urlリンクミス

去(キョ・5画)

去 甲骨文 去 金文
甲骨文/哀成叔鼎・春秋晚期

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「大」”ひと”+「𠙵」”くち”で、甲骨文での「大」はとりわけ上長者を指す。原義はおそらく”去れ”という命令。

音:カールグレン上古音はkʰi̯ab(上/キョ)。

用例:現代中国語で「チィ」と言えば”ゆく”が第一義で、この語義は甲骨文からあった。

『甲骨文合集』01724正.1に「王其去告于祖辛」とあり、「王其れ去きて祖辛告げんか」と読め、また『小屯南地甲骨』679.1に「甲申卜去雨于河 吉」とあり、「甲申うらなう、去きて河あまごいせんか。し。」と読め、”ゆく・おもむく”の語義が確認できる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文・春秋までの金文では”去る”の意に(哀成弔鼎・春秋末期)、戦国の金文では”除く”の意に用いた(中山王円壺)。

学研漢和大字典

象形。ふたつきのくぼんだ容器を描いたもの。くぼむ・引っこむの意を含み、却と最も近い。転じて、現場から退却する、姿を隠す意となる。屆(キョ)(くぼんだわきの下)・棄(キョ)(口をくぼめる)と同系。

語義

  1. {動詞}さる。その場から離れる。たちさる。《対語》⇒来。「退去」「壮士一去兮不復還=壮士一たび去つて復た還らず」〔史記・荊軻〕
  2. {動詞}さる。ゆく。その場から引き下がって他所へ行く。《対語》⇒留。「去留」「去任(職をやめる)」。
  3. {動詞}さる。引っこめる。取り下げる。《対語》⇒留。「除去」「去関市之征=関市の征を去る」〔孟子・滕下〕
  4. {動詞}さる。距離がへだたる。間があく。《類義語》距。「離去」「邯鄲之去魏也遠於市=邯鄲の魏を去ること市より遠し」〔韓非子・内儲説上〕
  5. {動詞}さる。時間がへだたる。▽「過去」という場合は、呉音で、コと読む。「紂之去武丁未久也=紂の武丁を去ることいまだ久しからず」〔孟子・公上〕
  6. (キョス){動詞}引っこめる。かげに隠しておく。「掘野鼠去屮(=草)実而食之=野鼠の去せしところの屮(=草)実を掘りて之を食らふ」〔漢書・蘇武〕
  7. 「去声(キョセイ)・(キョショウ)」は、四声の一つ。

字通

[会意]大+𠙴(きょ)。大は人の正面形。𠙴は、盟誓の器の蓋を外し無効としたもの。獄訟に敗れた人(大)を、その自己盟誓の器(𠙴)とともに廃棄する意。水に流棄するを法、羊神判に用いた解廌(かいたい)の廌をも加えたものは灋で、法の初文。みな「祛(はら)う」ことを本義とする。廃棄の意より、場所的にそこを離れることをいう。〔説文〕五上に「人相ひ違(さ)るなり。大に從ひ、𠙴聲」とするが、字は灋(法)との関連において解すべきである。

去 字形
http://www.guoxuedashi.com/zixing/yanbian/2070jm/

殷代の祀りのデータが残されているわけではないから、自分の妄想を自由に書き綴れる。でも、それが真実だと証明できる人はいない。白川氏の祭祀に関する主張はそういうレベルのものばかりなので、真に受けないように。

文字下部の口型図形は城市を表し、人が城市から離れていく象形だという説があり、これに従いたい。手前に人が大きく、捨て去った城市が遠景として股の間に小さく見える。つたない遠近法の表現ではないか。甲骨文字2(訳者注:上図では左上の字形)の人は歩いている。

塚田敬章氏 漢字の起源(白川静氏を買わない理由)去(キョ)

居(キョ・8画)

居 金文
居簋・春秋(金文總集04.2677)

初出:「小学堂」による初出は春秋時代の金文。これに先行して「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1795に「㡴」の字形で西周早期の金文があると言う。

字形:字形は横向きに座った”人”+「古」で、金文以降の「古」は”ふるい”を意味する。詳細は論語語釈「古」を参照。「居」全体で、古くからその場に座ること。

居 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔尸ユ凵〕」と記す。「魏元乂墓志」(北魏)刻。

音:カールグレン上古音はki̯o(平・韻目「魚」)。平・韻目「之」の音は不明。

用例:「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1795に「隹(唯)十月甲子,王才(在)宗周,師中眔靜省南或(國)相,外字 おさめる㡴(居),八月初吉庚申至,告于成周。」とあり、解釈は訳者の能を越えるが、あるいはこう読めるだろうか。「これ十月甲子、王は宗周に在り、師はもろもろに中りて静かに南国の相を省み、居るに外字 おさめるおさまる。八月初吉庚申至りて、成周に告ぐ。」→”十月甲子、王は宗周(鎬京)に滞在し、軍は諸国を巡歴してひそかに南方諸国の模様を観察し、駐屯地に戻った。八月初吉庚申の日になって、その結果を洛邑で報告した。”

居→居るべき場所、と解した。

春秋の「婁君盂」(殷周金文集成10319)に「隹正月初吉。婁君白居自乍𩞑盂。」とあり、人名と思われる。字形は「广」+「古」。ただし「古」は「T」+「曰」の形。

漢語多功能字庫」によると、金文では姓名に(九年呂不韋戟・戦国)、地名に(鄂君啟車節・戦国)用いる例があるという。「處」(処)と混用されたのは戦国時代以降の竹簡からと言う。

学研漢和大字典

会意兼形声。「尸(しり)+音符古(=固。固定させる、すえる)」の会意兼形声文字で、台上にしりを乗せて腰を落ち着けること。「尸(しり)+(だい)」とも書く。キョク(しりをおろして構える)の原字。キョ(=拠。何らかの上によりかかる)や、固定の固とも同系のことば。▽処は、キョの口蓋化したことばで、のち、場所。ある場所におるの意に用いる。

語義

  1. {動詞}いる(ゐる)。おる(をる)。腰をおろす。そこに腰を落ち着けて住む。《類義語》処。「居住」「燕居(エンキョ)(安楽に家で暮らす)」「昔者大王居癇=昔、大王癇に居る」〔孟子・梁下〕
    ま(キョス){動詞}おく。住まわせる。「真可以居吾子矣=真に以て吾が子を居くべし」〔列女伝・鄒孟軻母〕
  2. {動詞}おる(をる)。腰をすえて日を過ごす。事もなく暇でいる。「居常(キョジョウ)(平生)」「居則曰=居れば則ち曰はく」〔論語・先進〕
  3. {名詞}すまい。「卜居=居を卜す」「依依昔人居=依依たり昔人の居」〔陶潜・帰園田居〕
  4. {動詞}おく。とっておく。たくわえる。「居積」「奇貨可居=奇貨居くべし」〔史記・呂不韋〕
  5. 「居然(キョゼン)」とは、思ったとおりである、なるほどの意。
  6. {助辞}や。其と同じで、語調を整える助辞。「何居(=何其。なんぞや)」。

字通

正字は凥に作り、。祖祭のとき、かたしろとなる者が几(机)に腰かけている姿。居はその形声字で古声。〔説文〕は両字を区別し、凥十四上に「るなり」、居八上に「うずくまるなり」とする。また凥字条に「仲尼、凥す」と〔古文孝経〕の句を引き、〔釋文〕に引く〔鄭本〕も同じ。今本は居に作る。凥・居が同字として用いられるに及んで、別に形声字の跼が作られた。

訓義

いる、こしかけている、動かずにいる、そのまま、いながら。うずくまる、箕跼している、おごる。くらす、すまい、つねのすまい、へや、はか。きょと通じ、たくわえ、つむ。疑問の助詞、や、か。

據/拠(キョ・8画)

拠 秦系戦国文字
十鐘・戦国秦

初出:初出は秦系戦国文字

字形:「扌」”て”+「虍」”トラの頭”+〔豕〕”ブタ”で、トラが野ブタを捕らえるさまか。

音:カールグレン上古音はki̯waɡ(去)で、同音に「鐻」”かねかけのあし・のこぎり・銀の耳輪”。

用例:戦国の楚系竹簡で「據」と釈文する例があるが、いずれも人名の一部。論語に次ぐ文献上の初出は、『墨子』『荘子』『荀子』に用例がある。

「志不彊者智不達,言不信者行不果。據財不能以分人者,不足與友。」”意志が強固でないと智慧は発達せず、言葉にまことがないと行動しても成果を出せない。財産に自分を据えていないと人に恵むことは出来ず、友に与えることも出来ない。(『墨子』修身4)
「昭文之鼓琴也,師曠之枝策也,惠子之據梧也,三子之知幾乎。」昭文君が琴を弾き、師曠が指揮棒を振り、恵子がアオギリに拠る(琴を弾く)のを見ると、この三人の知は似通っていると言える。(『荘子』斉物7)
「葉公子高入據楚,誅白公,定楚國」”葉公子高は楚の都城に入城して根拠地とし、白公を責め殺し、楚国を鎮定した”(『荀子』非相2)

論語時代の置換候補:存在しない。

『大漢和辞典』に同音同訓は無い。

同音の「鐻」は春秋末期の金文が発掘されているが、語義が通じない。部品の豦は西周中期の金文が初出だが、語義が”おおぶた・虎が立ち上がる・組んでほぐれない”であり、語義が通じない。

『大漢和辞典』で通字として載る「据」ki̯oは初出が後漢の『説文解字』だが、同音部品の「居」ki̯o(平)は論語の時代に存在するが、音が遠すぎる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字。據は「手+(音符)豦(キョ)」の形声文字。拠は「手+(音符)處(しりを落ち着ける)の略体」。居(しりを落ち着ける)・据(すえる)と同系。類義語に憑。

語義

  1. {動詞}よる。その場所に座を占めてよりどころにする。《類義語》居。「占拠」「拠於徳=徳に拠る」〔論語・述而〕
  2. {名詞}よりどころ。たよりとする所。「根拠」「憑拠(ヒョウキョ)(しょうこ)」。

字通

[形声]旧字は據に作り、豦(きょ)声。〔説文〕十二上に「杖もて持するなり」とあり、杖に拠る意とする。豦はおそらく鐘鐻(しょうきょ)のように安定してつながるものをいい、それに依拠する意であろう。また拠有することをいう。「法に拠る」「徳に拠る」のように、抽象的なものにも用いる。

拒(キョ・8画)

初出不明。論語の時代に存在が確認できない。異体字「歫」の初出は秦系戦国文字。「𢼑」の初出は楚系戦国文字。カールグレン上古音はɡʰi̯o(上)。同音は下記の通り。論語時代の置換候補は同音同調の「距」。論語語釈「距」を参照。

初出 声調 備考
キョ みぞ 戦国金文
鳥のほじし 説文解字
さしがね 西周早期金文
こばむ 初出不明
くろきび 西周中期金文
けづめ・こばむ 春秋末期或戦国早期金文 →語釈
(米菓子の名) 前漢隷書
鐘かけ台のたてばしら 春秋末期金文
かたい 秦系戦国文字
あに・なんぞ 燕系戦国文字 上/去

漢語多功能字庫

從「」,「」聲,本義為抵禦。


「手」の字形に属し、「巨」の音。原義はあらがい防ぐこと。

学研漢和大字典

会意兼形声。巨(キョ)は、取っ手のついた定規の形を描いた字。定規は上線と下線とが距離をおいて隔たっている。拒は「手+(音符)巨」で、間隔をおし隔てて、そばに寄せないこと。距(キョ)(へだたる)と同系。類義語に防。

語義

  1. {動詞}こばむ。間を隔てて寄せつけない。ことわる。「来者不拒=来たる者は拒まず」〔孟子・尽下〕
  2. {動詞}ふせぐ。そばに寄せつけないようにふせぐ。「拒敵=敵を拒ぐ」「挙衆拒之=衆を挙りてこれを拒ぐ」〔蜀志・諸葛亮〕

字通

[形声]声符は巨(きよ)。巨は矩(さしがね)の形。そのような形に木を組んで、交通を遮断する行為を拒といい、防禦する意。ゆえに拒絶の意となる。すべて反抗的な行為をいう。

擧・舉/挙(キョ・10画)

挙 金文
中山王壺・戦国末期

初出:初出は戦国時代の金文または竹書。

字形:中国と台湾では、「舉」がコード上の正字として扱われている。初出の字形は「與」zi̯o(平/上/去)”与える”に「犬」を添えており、おそらく犬を犠牲に捧げるさまで、原義は”捧げる”。論語語釈「与」を参照。『説文解字』が手部に収めたのは、現行字体が「與」+「手」であるため。だが「手」ではなく「ホウ」”(実ったお供えを)捧げる”で、全体で神霊や目上に対し差し上げるさま。「丰」は「奉」の初文。なお異体字として〔與丰〕と記すコードは「𦦙」として存在する。

音:藤堂上古音はkɪag(ɪはエに近い音)。カールグレン上古音はki̯o(上)。同音に車と、居とそれを部品とする漢字群。定州漢墓竹簡の「擧」は異体字。『大漢和辞典』はこちらを正字とする。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」性情論30に「言及則明□(舉)之而毋□(訛)。」とあり、”とりあげる”と解せ。

論語時代の置換候補:居ki̯o(平)に”おく・すまわせる”の語釈が『大漢和辞典』にあり、ある人物をある地位に就けることを意味する。初出は春秋の金文。ただし春秋時代での語義は、”古くからその地位にいる”ことであり、”推挙する”ではない。詳細は論語語釈「居」を参照。

「居」以外の置換候補として、「渠」(キョ)は戦国にならないと現れず、「袪」(キョ)「撟」「撬」「擏」「矯」「翹」「蹺」「鯨」(キョウ)は甲骨文・金文ともに存在しない。

唯一可能性があるのは「喬」(カ音ki̯oɡ平またはɡʰi̯oɡ平)で、論語時代の金文の出土があり、かつ藤堂上古音はgɪɔg(ɔは気を失った人のうなり声に似ている)。これがkɪagと音通するかは思う人次第である。

備考:「丰」の習慣はおそらく南朝には残っており、それがかろうじて日本に伝わって玉串として残ったのだが、隋の統一によって少なからぬ古代中華文明の遺産が永遠に失われた。隋唐帝国は中華世界の盛時の一つだが、支配民族は匈奴とほとんど分類が出来ない鮮卑人で、つまりは北方遊牧民による征服王朝だった。

漢語多功能字庫

」の字形に属し、「」の音。原義は両手で物を持ち上げること。


從「手」,「與」聲,本義為雙手托物使之向上。

学研漢和大字典

会意兼形声。与は、かみあったさまを示す指事文字。與(ヨ)は「両手+両手+(音符)与」からなり、手を同時にそろえ、力をあわせて動かすこと。擧は「手+(音符)與」で、手をそろえて同時に持ちあげること。舁(ヨ)(力をそろえてかごをかつぎあげる)・與(=与。同時にそろえて働く)などと同系。類義語の揚は、高々とあげる。上は、低い所から高い所にあげる。昂は、高く上にあげる。異字同訓に
あがる・あげる。

語義

  1. {動詞}あげる(あぐ)。あがる。手をそろえて持ちあげる。転じて、高く持ちあげる。また、高く上にあがる。「挙杯=杯を挙ぐ」「吾力足以挙百鈞=吾が力以て百鈞を挙ぐるに足る」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}あげる(あぐ)。事をおこす。「挙兵=兵を挙ぐ」「挙行」。
  3. {動詞}あげる(あぐ)。多くの中からすぐれた人や物をもちあげる。「推挙」「挙賢才=賢才を挙ぐ」〔論語・子路〕
  4. {動詞}あげる(あぐ)。問題点やめぼしいものをとりあげる。「列挙」「検挙」。
  5. {動詞}あげる(あぐ)・あげられる(あげらる)任官試験を受ける。試験に受かってとりたてられる。「挙進士=進士に挙げらる」。
  6. {動詞}あげる(あぐ)。都市を占領する。「三十日而挙燕国=三十日にして燕国を挙ぐ」〔戦国策・斉〕
  7. {名詞}行動。ふるまい。「壮挙」。
  8. {名詞}「科挙(カキョ)(官吏登用試験)」の略。「赴挙至京=挙に赴き京に至る」〔孟挑・唐詩紀事〕
  9. {副詞}あげて。こぞって。…じゅうをあげてみな。全部。「挙国=国を挙げて」「挙世皆濁=世を挙げて皆濁る」〔楚辞・漁父〕
  10. {副詞}ことごとく。みんな。《類義語》尽。「挙集目前=挙く目前に集まる」。

字通

[会意]旧字は擧に作り、與(与)+手。〔説文〕十二上に「對擧するなり」とあり、揚に「飛擧」、掲に「高擧」、抍に「上擧」というのに対し、𦥑(きよく)(両手)に従う意を以て解し、字を「與聲」とする。〔説文〕に「與聲」とする八字のうち、この字だけが音が異なる。與は四手で与(象牙を組み合わせた形)をもつ形で平挙、擧はそれに手を加えて高く挙げる意。すべて儀礼をはじめ、ことを行うことを挙行という。共同の作業でみなが参与することであるから、みな、ことごとくの意となる。

莒(キョ・10画)

莒 篆書 梠 金文
説文解字・後漢/中子化盤・春秋

初出:初出は前漢の隷書。ただし「梠」の字形で春秋の金文にも見える(「中子化盤」集成10137)。『大漢和辞典』「梠」条には「ひさしの端の横木」とある。

字形:〔艹〕+音符〔呂〕。春秋の金文では「梠」以外の複数の漢字が「莒」と釈文されている。

音:カールグレン上古音はkli̯o(上)。同音は「筥」”はこ”のみ。初出は西周末期の金文

用例:春秋の金文「中子化盤」に「用正(征)梠(莒)」とあり、地名(諸侯国名)と解せる。

論語時代の置換候補:「梠」のほか、部品の呂gli̯o(上)の初出は甲骨文。”いも”の語釈は『大漢和辞典』にない。また周の穆王の時代から呂国(河南省南陽県)

春秋諸侯国に莒国がある。下掲『字通』は「古くは吕の形に作る」といい、台湾の小学堂も大陸の国学大師も、吕を呂と同じに扱っており、初出は甲骨文

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)呂(リョ)・(キョ)(まるいものがつらなる)」。

語義

  1. {名詞}いも。ころころしたいも。
  2. {名詞}周代の国名。今の山東省莒(キョ)県の地。

字通

[形声]声符は呂(りよ)。古くは吕(きよ)の形に作る。〔説文〕一下に「齊にては、芋を謂ひて莒と爲す」とあり、いもをいう。また、国名、地名。わが国の古訓に「ハコ」とよむのは、筥と通用の字とみたのであろう。

虛/虚(キョ・11画)

虚 楚系戦国文字
「郭店楚簡」・戦国中末期

初出:初出は戦国中末期の楚系戦国文字

字形:「虍」”トラの頭”+「丘」。原義は未詳。丘の上に曝された白骨化した虎の頭の、すでに威力の無さを指すか。

音:カールグレン上古音はxi̯o(平)またはkʰi̯o(平)。前者の同音で部品に「虛」を含まない漢字は「許」のみ。後者は「椐」”ヘビノキ”のみ。

用例:戦国中末期「郭店楚簡」老子甲23に「虛而不屈」とあり、”むなしい”・”空っぽ”と解せる。現伝の『老子道徳経』と同じ文字列。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。上古音で同音同訓は存在しない。

学研漢和大字典

形声。丘(キュウ)は、両側におかがあり、中央にくぼんだ空地のあるさま。虚(キョ)は「丘の原字(くぼみ)+(音符)虍(コ)」。虍(とら)とは直接の関係はない。▽呉音コは虚空(コクウ)・虚無僧(コムソウ)のような場合にしか用いない。去(くぼんで退く)・屆(キョ)(くぼんだ脇(ワキ)の下)・渠(キョ)(くぼんだみぞ)などと同系。類義語に空。旧字「虛」は人名漢字として使える。▽「むなしい」は「空しい」とも書く。

語義

  1. {形容詞・名詞}むなしい(むなし)。くぼんで、中があいているさま。転じて、中身がなくうつろであるさま。から。《対語》⇒実。《類義語》空。「空虚」。
  2. (キョニス){動詞}むなしくする(むなしくす)。うつろにする。からにする。「虚己=己を虚しくす」。
  3. {形容詞・名詞}漢方医学では、精気や血液がなくなって、うつろになったさま。また、その症状。《対語》実。「虚弱」。
  4. {形容詞・名詞}いつわり(いつはり)。中身がうつろな。実質がともなわないさま。うわべだけ。うそ。むだ。「虚言」。
  5. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のみずがめ座に含まれる。とみて。
  6. 《日本語での特別な意味》きょ。油断。

字通

[形声]声符は虍(こ)。旧字は虛に作り、その字の下部はもと丘の形。丘は墳丘。古くはそこに聖地を作り、また墓地とされた。〔説文〕八上に「大丘なり」と訓し、「崑崙(こんろん)丘、之れを崑崙の虛と謂ふ」と〔山海経〕の説を引く。崑崙はもとジグラット形式の神殿や聖所を意味する語であったらしく、死後の霊の帰するところとされた。廃墟・墟址の意より、現実に存しないもの、空虚・虚無の意となり、虚偽・虚構の意となる。

距(キョ・12画)

距 金文
口于距末・春秋末期或戦国早期

初出は春秋末期または戦国早期の金文。論語の時代に存在しなかった可能性がある。カールグレン上古音はɡʰi̯o(上)。同音は論語語釈「拒」を参照。

漢語多功能字庫

」表示雄雞的腿後面突出像腳趾的部分。


「距」は雄鶏の足の後ろにある突き出た蹴爪の部分を意味する。

学研漢和大字典

会意兼形声。巨(キョ)は、I型の定木にとっ手のついた姿を描いた象形文字で、上下の幅がIの間隔だけあいていること。距は「足+(音符)巨」で、他の四本の指との間がへだたったけづめ。転じて、両端の間が広くあいていること。

語義

  1. {動詞}へだたる。AとBとが上下に間をあける。「距離」「相距万余里=相ひ距ること万余里」。
  2. {名詞}けづめ。他の四本の指との間があいた、雄鶏の蹴爪(ケヅメ)。「距爪(キョソウ)」。
  3. {動詞}こばむ。へだてる(へだつ)。くっつかないように間をあける。幅をあけてよせつけない。《同義語》⇒拒。「距戦(=拒戦)」「距楊墨=楊墨を距む」〔孟子・滕下〕

字通

[形声]声符は巨(きよ)。巨は矩(さしがね)の初文。雞の脛後にある「けづめ」がその形に似ているので、距という。拒と通用し、これで敵を拒(ふせ)ぐ。それで彼此相隔てる意となり、距離をおくことをいう。また跳躍のときのように、足首に強く力を加えることをいう。

蘧(キョ・20画)

蘧 隷書
説文解字・後漢

初出:前漢の篆書

字形:〔艹〕+〔辶〕+〔豦〕。花弁が細かく別れ絡むような姿の道ばたの草。

音:カールグレン上古音はɡʰi̯waɡ(平)。同音は「籧」”たかむしろ”、「醵」”さかもり”、「豦」”戦ってほどけない”、「遽」”早追い”。呉音は「ゴ」。

用例:論語憲問篇26論語衛霊公篇7では衛国の大夫、蘧伯玉の姓氏として登場。

論語時代の置換候補:固有名詞のため、論語の時代に文字は無くとも、さまざまな文字が置換候補になり得る。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)遽(キョ)(はっとする、不安定に動く)」。

語義

  1. {名詞}草の名。たけが高くて、ゆらゆらする。かわらなでしこ。「蘧麦(キョバク)」とも。
  2. 「芙蘧(フキョ)」とは、蓮(ハス)の花。《同義語》⇒芙蕖。
  3. 「蘧蘧(キョキョ)」とは、つ物のたけが高いさま。づぎょっとして悟るさま。
  4. 「蘧然(キョゼン)」とは、はっとするさま。▽遽(キョ)に当てた用法。《同義語》⇒遽然。「成然寐、蘧然覚=成然として寐り、蘧然として覚む」〔荘子・大宗師〕

字通

(条目無し)

新漢語林

形声。艹(艸)+遽。

  1. 草の名。なでしこ。かわらなでしこ。蘧麦。
  2. はす(蓮)。
  3. 蘧蔬(キョソ)は、まこもだけ。まこも(真菰)に生ずる菌。
  4. 蘧廬(キョロ)は、はたごや。旅館。
  5. ものの形容。「蘧蘧」

中日大字典

(1) 驚き喜ぶさま.

〔蘧蘧〕同前.
(2) 〈姓〉蘧(きよ)

御(ギョ・11画)

御 甲骨文 御 金文
甲骨文/遹簋・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「馭」と未分化で、「ヨウ」”あざなった縄の手綱”+「セツ」”隷属民”で、御者を務める奴隷。原義は”御者(を務める)”。のちさまざまな部品が加わって「御」の字となった。金文では「禦」と未分化。

御 異体字
慶大蔵論語疏は「〔彳上卩〕」と記し、「教育部異體字字典」にも見えないが、上掲「魏女尚書馮迎男墓誌」(北魏)の異体字に似ている。

音:「ゴ」は呉音。カールグレン上古音はŋi̯o(去)で、禦・魚・漁・衙・語・馭などと同音。

用例:西周中期の金文「󱞅方鼎」(集成2824)では「禦」と未分化で、”ふせぐ”と解せる。論語語釈「禦」を参照。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では祭礼の名や地名・国名、また「禦」”ふせぐ”の意に用いられ、金文では加えて”もてなす”(遹簋・西周)、”管理・処理する”(洹子孟姜壺・春秋末期)、”用いる”(攻吳王鑑・春秋末期?)に、また官職名に用いられた。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、原字は「午(きね)+卩(ひと)」の会意文字で、堅い物をきねでついて柔らかくするさま。御はそれに止(あし)と彳(いく)を加えた字で、馬を穏やかにならして行かせることを示す。

つきならす意から、でこぼこや阻害する部分を調整して、うまくおさめる意となる。「ギョ」(防ぐ)の代用字としても使う。「防御・制御」また、「ギョ」(馬車を操る)の代用字としても使う。「御・御者・制御」。

類義語の治(チ)は、自然物に人工を加えて整えること。駕(ガ)は、馬の背に馬具や車の柄を載せること、乗ること。

語義

  1. {動詞}おさめる(をさむ)。でこぼこをならして調整する。転じて、家や国家を平和におさめる。「統御」「以御于家邦=以て家邦を御む」〔孟子・梁上〕
  2. (ギョス){動詞}馬を調教しておとなしく手なずける。思うとおりにあやつる。《同義語》⇒馭(ギョ)。「御者(ギョシャ)(=馭者)」「御風=風に御す」「樊遅御=樊遅御す」〔論語・為政〕
  3. {名詞}馬を使いこなすこと。また、馬をならす役目。「執御=御を執る」。
  4. (ギョス){動詞}はべる。天子*のそば近く仕えてその言いつけに従い起居の調和をとる。「進御(シンギョ)(天子の身辺にはべる)」。
  5. {名詞}天子のそばに仕える人。「女御(ジョギョ)・(ニョウゴ)(天子のそば近くに仕える正妃以外の夫人)」「侍御(ジギョ)(天子のそばに仕える侍臣の官)」。
  6. {形容詞}皇帝の動作や所有物につけて、尊敬をあらわすことば。「御衣」「御苑(ギョエン)」「御幸」。
  7. {動詞}ふせぐ。▽禦(ギョ)(ふせぐ)に当てた用法。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①お。おん。おおん(おほん)。み。相手の動作や持ち物につけて、尊敬の意をあらわすことば。「御便り」「御身(オンミ)」「御台所(ミダイドコロ)」。
    ②自分の動作をあらわす語につけて、相手に対する謙そんの意をあらわすことば。「御説明申しあげます」。
    ③相手の親族をさすときにつけて、尊敬の意をあらわすことば。「嫁御」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[形声]声符は卸(しや)。卸は御の初文。卜辞や金文には多く卸の形を用いる。字はもと午と卩(せつ)とに従い、午は杵形の呪器。これを拝(卩)して神を降ろし迎え、邪悪を防いだ。ゆえに「むかう」「ふせぐ」が字の初義。卜辞に「茲(こ)れを御(もち)ひよ」、金文に「事(まつり)に御(もち)ふ」「厥(そ)の辟(きみ)に御(つか)ふ」のようにいう。神聖を迎え、神聖につかえる意であったので、のちにもすべて尊貴の人に関して用いる語となった。〔説文〕二下に「馬を使ふなり。彳に從ひ、卸に從ふ」として古文の馭の字をあげるが、御と馭とは別の字である。〔説文〕はまた卸字条九上に「車を舍(す)てて馬を解くなり。卩・止・午に從ふ」とし、馬より下りる意とするが、初形は午と卩、杵を拝跪する形、すなわち神降ろしの形である。のち卸と御とは別の字となった。

魚(ギョ・11画)

魚 甲骨文 魚 金文
合10472/魚父乙鼎・殷代末期または西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:釣り上げた魚の象形。

音:カールグレン上古音はŋi̯o(平)。

用例:「甲骨文合集」16203に「甲申卜不其網魚」とあり、”さかな”と解せる。

同14591.4に「貞今日其雨十月在甫魚」とあり、”めでたい”と解されている。

『春秋左氏伝』では、人名に用いた。

学研漢和大字典

象形。骨組みのはった魚の全体を描いたもの。齬(ゴ)(かたい物がごつごつつかえる)と同系。鯁(コウ)(さかなのかたい骨)・骾(コウ)(かたい骨がつかえる)・硬(かたくつかえる)は、語尾がxに転じたことば。付表では、「雑魚」を「ざこ」と読む。

語義

  1. {名詞}うお(うを)。さかな。かたい背骨のあるさかな。「猶縁木而求魚也=なほ木に縁りて魚を求むるがごとし」〔孟子・梁上〕。「猶魚之有水也=なほ魚の水有るがごとし」〔蜀志・諸葛亮〕
  2. {名詞}唐代に官吏が腰につけた飾り。さかなの形をしている。「魚袋」。
  3. {代名詞}われ。第一人称。▽吾・我に当てた用法。「魚語女=魚は女に語げん」〔列子・黄帝〕

字通

[象形]魚の形。〔説文〕十一下に「水蟲なり。象形。魚尾と燕尾と相ひ似たり」という。金文に魚を図象とするものが多く、王室の祭祀に、魚を供薦する部族があったのであろう。〔春秋、隠五年〕「公、魚を棠に矢(つら)ぬ」という儀礼のことがしるされている。〔詩〕にみえる結婚の祝頌詩に、魚を象徴として歌うものが多い。

圉(ギョ・11画)

圉 甲骨文 圉 金文
合集139/史墻盤・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は〔囗〕”囲い”+〔幸〕”手かせをかけられた人”。

音:カールグレン上古音はŋi̯o(上)。「ゴ」は呉音。

用例:甲骨文では「圉羌」の語が見られ(集成139)、”捕らえる”と解せる。

殷代金文ではおそらく族徽(家紋)に用いた(「圉觚」集成6631)。

西周中期「史墻盤」(集成10175)に「󱨄(訊)圉武王。遹征四方。達殷㽙民。」とあるが、語義がよく分からない。

学研漢和大字典

会意。幸の原字は上下から手首をはさむ手かせを描いた象形文字。圉は「囗(かこい)+幸(手かせ)」で、罪人に刑を加え、囲いの中に押しこめることをあらわす。ギョという音は行動を押さえ取り締まる意を含む。馭・御・禦と同系。

語義

  1. {名詞}ひとや。罪人を押しこめる所。ろうや。転じて、周囲をかこんだ領域。《同義語》⇒圄(ギョ)。
  2. {名詞}馬飼い。馬を御する人。《同義語》⇒馭。「圉人(ギョジン)」。
  3. (ギョス){動詞}行動を押さえ縛る。▽「制御」の御に当てた用法。
  4. (ギョス){動詞}相手の行動をふさぎとめる。▽禦に当てた用法。「其来、不可圉=其の来たるや、圉すべからず」〔荘子・繕性〕

字通

[会意]囗(い)+幸。幸は手械(てかせ)の形。これを人の手に加えた形は執。拘執の人をおく所を圉という。〔説文〕十下に「囹圄(れいぎよ)、罪人を拘する所以なり。幸に從ひ、囗に從ふ」とし、また「一に曰く、(辺)垂なり。一に曰く、圉人、馬を掌る者なり」とする。この一曰両義は〔繫伝本〕にはみえない。囹圄は辺地に設けることも多く、馬の畜養も、そのような地で行われたのであろう。〔広雅、釈詁一〕に「臣なり」、〔墨子、天志下〕に「僕圉胥靡(しよび)」とは、臣僕の類をいう。

語(ギョ・14画)


余贎乘兒鐘・春秋晚期

初出:初出は春秋末期の金文

字形:「言」+「吾」で、初出の字形では「吾」は「五」二つ。初出の用例は”たのしむ”と解せられている。「音」または「言」”ことば”を互いに交わし喜ぶさま。

音:「ゴ」は呉音。カールグレン上古音はŋi̯o(上/去)。

用例:春秋末期「余贎󱜽兒鐘」(楚余義鐘、󱰑兒)(集成183・184)に「後民是語」とあり、「娯」”たのしむ”と解せられている。春秋末期以前の用例はこれだけであり、”かたる”の用例は確認できない。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。語釈については論語子罕篇20余話「消えて無くならない」も参照。

学研漢和大字典

吾(ゴ)は、「口+音符五(交差する)」からなり、AとBが交差して話し合うこと。のち、吾が我(われ)とともに一人称をあらわす代名詞に転用されたので、語がその原義をあらわすこととなった。語は「言+音符吾」の会意兼形声文字。▽言は、かどめをたててものをいうこと。

語義

  1. {動詞}かたる。かたらう(かたらふ)。だれかにむかって話して告げる。また、話しあう。「対語」「語人曰、我不能=人に語りて曰はく、我能はずと」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}対話。話しあい。▽「論語」とは、対話を整理した書の意。「語録」。
  3. {名詞}ことば。かたられたことば。いいつたえ。はなし。「鳥語(チヨウゴ)(鳥のさえずり)」「語曰=語に曰はく」〔礼記・文王世子〕。「語云、盛徳之士、君不得而臣、父不得而子=語に云ふ、盛徳の士は、君も得て臣とせず、父も得て子とせずと」〔孟子・万上〕
  4. {名詞}「論語」のこと。「語孟」。
  5. {名詞}意味をあらわし、ことばの最小単位になるもの。単語。「語幹」。
  6. {名詞}ある民族社会の言語のこと。「日本語」「中国語」。
  7. {動詞}うったえる。つげる▽去声に読む。
  8. 《日本語での特別な意味》「物語」の略。「源語(源氏物語)」「勢語(伊勢物語)」。

字通

声符は吾。吾に敔・禦の意がある。言語と連称し、言は立誓による攻撃的な言語、語は防禦的な言語。〔説文〕三上に「論なり」とあり、是非を論ずる意とし、また〔礼記、雑記下〕に「言ひて語らず」とは、人を諭説しない意である。〔詩、大雅、公劉〕は都城の経営を歌う詩であるが、その地を定めて旅寝をし、「時(ここ)に于(おい)て宣言し 時に于て語語す」という句がある。これは〔周礼、地官、土制〕や〔地官、誦訓〕などの伝える呪誦を以て、地を祓うことにあたるものであろう。このような呪誦は、わが国の「風俗(くにぶり)の諺」に類するもので、地霊によびかけるものであった。言語はもと呪的な応対の語であったが、のち一般の語をいう。

訓義

かたる、呪語をのべて霊をしずめる、ことば。ことわざ、おしえ。はなし、ものがたり。ときさとす、つげる、いう。かたる、かたらう。国語、仲間とする。

禦(ギョ・16画)

禦 甲骨文 禦 金文
甲骨文/㝬簋・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形は「示」”祭壇または位牌”+「土」+「㔾」”ひざまずいた人”で、土盛りをして神霊を祀るさま。原義はおそらく”祈って祟りを防ぐ”。

音:カールグレン上古音はŋi̯o(上)。

用例:「甲骨文合集」1576に「貞禦于祖乙」とあり、”まつる”と解せる。

西周中期「󱞅方鼎」(集成2824)に「率虎臣御淮戎。」とあり、「御」は「禦」と釈文され、「いさむしもべを率いて淮のえびすをふせぐ」と読め、”防ぐ”と解せる。論語語釈「御」も参照。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文や金文では祭礼の名に用いた(乍冊益卣・西周中期)。

学研漢和大字典

会意兼形声。御は、もと「卩(ひと)+午(きね)」の会意文字で、人がきねを上下させ、かたい穀物に逆らってそれをつきならすさま。のち、それに彳印と止印(足)をそえて御の字となり、手ごわいものを制御し押さえる動作を示す。禦は「示(祭壇)+(音符)御」で、手ごわいものの進入をおさえとめる祭礼を示す。牾(ゴ)(さからってとめる)・御(手向かう者をおさえる)・逆(手向かう者をおさえる)などと同系類義語に防。「御」に書き換えることがある。「防御・制御」。

語義

  1. {動詞}ふせぐ。じゃまをして通さない。逆らって抵抗する。おさえてとめる。《類義語》防。「誰能禦之=誰か能くこれを禦がんや」〔孟子・梁上〕
  2. (ギョス){動詞・名詞}たたりや悪神の進入をふせぐため、まじないをする。また、そのための古代の祭礼。御祭ともいう。▽風神が荒れるのをふせぐため、犬の皮を張るなどした漢代の風習はその名残。

字通

[形声]声符は御(ぎよ)。御は禦の初文。〔説文〕一上に「祀るなり」とし、御声とする。卜文・金文に字を■(午+卩)・御に作り、また禦に作るものもあり、みな同字である。午は杵形。これを拝して神を降し「御(むか)え」、災禍を「御(ふせ)ぐ」儀礼を意味する。それで御は多く神事的な儀礼や神聖のことに関して用いる。ゆえにまた神示の意で示を加えるが、字義は守禦・防禦を主とする限定的な用法となった。

凶(キョウ・4画)

凶 甲骨文 凶 楚系戦国文字
合集14790/帛乙7.22・戦国

初出:初出は甲骨文とされるが、欠損がひどく語義が不明。その後は殷末または西周早期の金文に部品として見られるが(集成1883・7649)、用例は族徽(家紋)と見られ、”まがまがしい”の意だったとは思えない。確実な初出は楚系戦国文字。西周・春秋に見られず、殷周革命で一旦滅んだ漢語と思われる。

字形:「カン」”落とし穴”+「ガイ」”かぶせ物”。隠された落とし穴のさま。

音:カールグレン上古音はxi̯uŋ(平)。同音に「洶」”水が湧く”、「兇」”恐れる”、「匈」”胸”。

「上海博物館蔵戦国楚竹簡」周易04に「中吉,冬(終)凶。利用見大人」とあり、”わざわい”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓で「凶」を含まない漢字で、訓「わるい」に「獷」「磽」(初出説文解字)、「わざわい」に「鯁」(初出説文解字)。

学研漢和大字典

会意。「凵(あな)+×印」。落とし穴にはまってもがく意を示す。吉(充実する)の反対で、むなしい意から悪い意となった。空(むなしい)・孔(あな)・胸(むねの空洞→胸郭)と同系。「兇」の代用字としても使う。「凶・凶悪・凶漢・凶器・凶行・凶刃・凶変・凶暴・元凶」。

語義

  1. (キョウナリ){形容詞}むなしいさま。何もとれないさま。「凶年」「河内凶、則移其民於河東=河内凶なれば、則ち其の民を河東に移す」〔孟子・梁上〕
  2. (キョウナリ){形容詞・名詞}悪いさま。災い。不吉なこと。《対語》⇒吉。《類義語》咎(キュウ)・禍・災。「凶礼(喪式)」「応之以乱則凶=これに応ずるに乱を以てすれば則ち凶なり」〔荀子・天論〕
  3. (キョウナリ){形容詞・名詞}ひどいさま。悪いこと。《同義語》兇。「凶悪」「元凶(=元兇。悪者の親玉)」。
  4. (キョウナリ){形容詞}人を殺傷するような。《同義語》兇。「凶器」。

字通

[象形]凵(かん)は胸郭の形。その中央に文身としての×形を加える。枉死者の屍にこの文身を施すことによって、その霊を鎮め、災厄を祓うことができるとされた。すなわち凶礼を示す字である。身分ある人の胸には朱でえがく絵身を加えて、文という。文は人の正面形の胸に絵身を加えた形で、卜文・金文の字は、文身として∨や心字形を加えるものが多い。婦人のときには乳房をモチーフとするので、爽・奭・爾の×や百はその形である。凶を〔説文〕七上に「惡なり。地穿たれて、其の中に交陷するに象るなり」と人の陥没する意とするが、凶が凶事における胸部の文身を示す形であることは、兇・匈・胸など、その系列の字形から考えても、明らかなことである。

共(キョウ・6画)

共 甲骨文 共 金文
甲骨文/禹鼎・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「又」”手”二つ=両手+「口」。「漢語多功能字庫」は「両手でものを捧げ持つさま、派生義として敬うこと」というがその通りだろう。「供」の原字。つまり”ともに”の語義は派生義という事になる。

音:カールグレン上古音はɡʰi̯uŋ(去)。平声の音は不明。

用例:甲骨文で氏族名・人名の例がある。

西周中期の「師䢅鼎」(集成2817)に「𤔲馬共右師晨。入門。立中廷。」とあり、人名か、あるいは”ともに”と解せる。

西周中期の「善鼎」(集成2820)では「共」を「恭」と釈文している。

「漢語多功能字庫」は「金文の用例は、捧げ持つ、渡す、命令に従う」という。春秋後期の「叔夷鐘」に”謹んで従う”の用例があり、「恭」を「共」と記している。「恭」ki̯uŋ(平)は論語では頻出。論語語釈「恭」を参照。

学研漢和大字典

会意。上部はある物の形、下部に左右両手でそれをささげ持つ姿を添えたもの。拱(両手を胸の前にそろえる)・供(両手でささげる)の原字。両手をそろえる意から、「ともに」の意を派生する。類義語の倶(トモニ)(連れだって、そろって)と近いが、おもに倶は副詞に用い、共は動詞(ともにす)に用いる。熟語ではも用いられる。

語義

  1. {副詞}ともに。→語法「①」。
  2. {副詞}ともに。→語法「②」。
  3. {前置詞}とともに。→語法「③」。
  4. {動詞}ともにする(ともにす)。共有する。いっしょにわけあう。「三代共之=三代これを共にす」〔孟子・滕上〕
  5. (キョウス){動詞}両手を胸の前であわせる。▽拱に当てた用法。▽上声に読む。「共手(=拱手)」「子路共之=子路これに共す」〔論語・郷党〕
  6. (キョウス){動詞}両手でうやうやしくささげ持つ。たいせつに保持する。▽恭に当てた用法。平声に読む。「靖共爾位=爾の位を靖共す」〔詩経・小雅・小明〕
  7. (キョウス){動詞}物をそろえてささげる。▽供に当てた用法。平声に読む。「共張」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①とも。たとえ…でも。
    ②ども。つ人をあらわすことばについて、複数をあらわす。づ第一人称について、へりくだった意をあらわす。「わたくし共」。
    ③「共産党」「共産主義」の略。「反共」「日共」。

語法

①「ともに」とよみ、「いっしょに」「みなで」と訳す。多数が共同・共通でという意を示す。《類義語》与・倶(グ)。「而卒惶急、無以撃軻、而以手共搏之=而(しか)うして卒(にわ)かに惶急して、もって軻を撃つ無(な)くして、手をもって共にこれを搏(う)つ」〈あわてふためき、荊軻を撃つ道具が見当たらず、やむなくみなで素手でなぐりかかった〉〔史記・刺客〕
②「ともに」とよみ、「全部で」「合計で」と訳す。すべてに目を通した上で、あわせてという意を示す。「自第十八将以下共七将、在府畿=第十八将自(よ)り以下共に七将、府畿に在り」〈第十八将軍以下、合計七(人の)将軍は、首都に駐屯する〉〔宋史・兵〕
③「~とともに」とよみ、「~といっしょに」と訳す。対象・従属の意を示す。「昨日共君語、与余心膂然=昨日君と共に語り、余と心膂(しんりょ)然たり」〈昨日君と語りあい、私とは心臓と背骨のよう(に親密)であると思った〉〔白居易・贈杓直〕

字通

[会意]𠬞(きよう)(廾)と同じく左右の手。卜文は𠬞に作り、金文はそれぞれ上に丨(こん)形のものをもって奉ずる形で、恭の意に用いる。すなわち共は恭の初文である。〔説文〕三上に「同(とも)にするなり。廿(しふ)・廾(きよう)に從ふ」とし、〔段注〕に廿を二十人と解して、二十人がみな竦手(しようしゆ)して拝する形とするが、廿は捧げるものの形、おそらく礼器であろう。礼器を奉じて拱手するので恭の意となる。〔儀礼、郷飲酒礼〕「退きて共す」は拱手。左右の手を共にするので共同の意となり、また供献の意となる。

向(キョウ・6画)

向 甲骨文 向 金文
甲骨文合集28965/向卣・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:「宀」”屋根”+「𠙵」”くち”で、屋内で発した声がひびくさま。

音:カールグレン上古音はxi̯aŋ(去・字母「曉」)。字母「書」の去声は音不明。藤堂上古音はhɪaŋ(去)、現代北京語音はxiàng。呉音は「コウ」。『大漢和辞典』は国名・地名・姓としての音を「ショウ」と記す。

用例:「甲骨文合集」28947.3に「于向無災」とあり、地名と解せる。

西周早期「向方鼎」(集成2180)に「向乍厥󰓼彝」とあり、人名と解せる。

西周中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0663に「立中廷北鄉」とあり、「鄉」は「向」と釈文され、”場所”と解せる。

学研漢和大字典

向 解字会意。「宀(やね)+口(あな)」で、家屋の北壁にあけた通気孔を示す。通風窓から空気が出ていくように、気体や物がある方向に進行すること。▽姓のときは、ショウと読む。響(音波がむこうへ進行していく)・亨(キョウ)(かおりが天にむかって進む)・香(においをのせた空気がむこうへ流れていく)・卿(ケイ)(むかい合う)と同系。

類義語に会・返。「嚮」の代用字としても使う。「意向」。

語義

  1. {動詞}むく。むかう(むかふ)。ある方向をむいて進行する。「向上=上に向かふ」「裴方向壁臥=裴方に壁に向きて臥す」〔世説新語・容止〕
  2. {名詞}むき。むかう方向。
  3. {動詞}顔をまともにむけて従う。「向背」。
  4. {前置詞}中世の俗語で、於と同じく、動作の向かうところを示す前置詞。▽訓読では読まない。「洒向枝上花=向枝上の花に洒ぐ」〔王安石・明妃曲〕
  5. {副詞}さきに。→語法「①」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①むこう(むかう・むかふ)。あちらがわ。
    ②むかう(むかふ)。反抗する。「手向かう」。
    ③むく。…に合う。…にちょうどよい。

語法

①「さきに」とよみ、「以前に」「先ほど」と訳す。日時が先にむかって進行したことから、転じて、過去の意を示す。《類義語》嚮・郷・代。「尋向所誌=向(さき)に誌(しる)せし所を尋ぬ」〈その時にしるしをつけた場所を訪ねる〉〔陶潜・桃花源記〕▽「向者=さきには」も、意味・用法ともに同じ。
②「さきに」「もし」とよみ、「もし以前に~だったなら」と訳す。過去の仮定条件の意を示す。「爾向不取、我豈能得=爾(なんぢ)向(も)し取らずんば、我あによく得んや」〈君がもし(その時に剣を)拾い上げてくれなかったら、どうして私の手元に戻ってくることがあっただろうか〉〔晋書・郭翻〕▽「向~則(便)…」と多く用いる。
③「向使(令)」は、「もし」「たとい」とよみ、「もしも~だったならば」と訳す。過去の仮定条件の意を示す。▽「さきに~しめば」とよむこともある。「向使傭一夫於家、受若直怠若事、又盗若貨器、則必甚怒而黜罰之矣=向使し一夫を家に傭(やと)ふに、若(なんぢ)の直を受けて若(なんぢ)の事を怠り、また若(なんぢ)の貨器を盗まば、則(すなは)ち必ず甚だ怒りてこれを黜罰(ちゅつばつ)せん」〈もし一人の召使いを家で雇い、君の給料を受け取り、君の仕事をしない、その上君の持ち物まで盗んだら、必ず激怒し、追い出して罰を与えるはずだ〉〔柳宗元・送薛存義序〕

字通

[会意]ケイ 外字(けい)(窓の形)+口。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器の形。窓は神明を迎えるところ。そこに神を迎えて祀った。〔説文〕七下に「北に出づる牖(まど)なり。宀(べん)に從ひ、口に從ふ」とし、〔段注〕に口を窓枠の形とするが、窓枠は冏(けい)の形にしるす。古く地下形式の住居は、中央に空庭を設けて光を取り、そこから横穴式に四方に房を設けた。その窓明かりを神明にみたて、月光の入るところを明として祀った。〔儀礼、士虞礼記〕「祝(しゆく)、從ひて牖郷(いうきやう)を啓(ひら)く」とは、その窓を開くことをいう。嚮はその向(まど)に郷(むか)う意。姓に用いるときは、ショウの音でよむ。

匡(キョウ・6画)

匡 甲骨文 匡 金文
CHANT:2249/尹氏貯良簠・西周末期

初出:初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周中期の金文

字形:「匚」”塀”+「羊」または「牛」。家畜を大事に囲っておくさま。

匡 異体字
慶大蔵論語疏では経(本文)と注に「オウ」と記し、疏(注の付け足し)には上掲「〔𠃊主〕」(unicode 2CEFB)と記す。「迬」は「往」「匡」の異体字で、出典は『正字通』(明)。「〔𠃊主〕」は「匡」の異体字で、『敦煌俗字譜』所収。

音:カールグレン上古音はkʰi̯waŋ(平)。

用例:甲骨文の用例は不明。

西周中期「曶鼎」(集成2838)に「匡眾氒(厥)臣廿夫」とあり、人名と解せる。

西周末期「史免簠」(集成4579)に「史免乍(作)旅匡」とあり、”四角い青銅器”と解せる。

備考:論語では孔子一行が襲撃された町の名として登場。衛国領、鄭国領二説がある。宋国領とも言う。

匡:(1)衛国領。現河南省長垣県〔上〕。(2)鄭国領。現河南省扶溝県〔下〕。

学研漢和大字典

会意兼形声。「匚(わく)+(音符)王(大きく広がる)」で、わくの中いっぱいに張る意を含む。廓(カク)(家や町のそとわく)や槨(カク)(棺おけのそとわく)は、匡の入声(ニッショウ)(つまり音)に当たる。広・拡と同系。類義語の矯正の矯(ためる)は、押し曲げてこのましい姿に整えること。直は、まっすぐにすること。正は、誤りを道理に合うように直すこと。

語義

  1. {動詞}ただす。わくの中いっぱいに押しこめて形を直す。転じて、型にはずれたものを型通りの形に修正する。「匡之直之=これを匡しこれを直す」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞・形容詞}背が曲がっているさま。▽咋(オウ)に当てた用法。
  3. {名詞}地名。
    (ア)春秋時代の衛の地。河南省長垣(チョウエン)県西南にあたる。
    (イ)春秋時代の宋(ソウ)の地。河南省聯(スイ)県西にあたる。

字通

[形声]正字は■(匚+㞷)に作り、㞷(こう)声。〔説文〕十二下に「飯器、筥(きよ)なり」というのは筐の意。竹部五上に「𥴧(きよ)、牛に飮(みづか)ふ筐なり。方を筐と曰ひ、圜(ゑん)を𥴧と曰ふ」とある筐を、匡の異文とする。匡に方の意があり、匡正・匡救の意に用いる。㞷は王の上にシ 外字(止(あし))を加える形。軍などの出行のときにあたって、聖器としての鉞(まさかり)(王はその頭部の形)に止を加え、一種の授霊の儀式をする。それを秘匿のところで行うことを■(匚+㞷)という。それで軍行にあたって、〔詩、小雅、六月〕「以て王國を匡(ただ)せ」のようにいう。金文には辵に従う字があり、〔麦尊〕「明命に■(辶+匚+㞷)(こた)へん」のように用いる。みな征命を行う意。征伐して王命を布き明らかにすることが、字の初義であった。

狂(キョウ・7画)

狂 甲骨文
合29234

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「止」”ゆく”+「斧」+「犬」で、その場に出向いて犠牲獣の犬を屠るさま。原義は”自分で”・”近くで”。

「止」+「王」は「㞷」、「往」の原字、けものへんの存在意義は不詳という「漢語多功能字庫」の説には従いがたい。

音:カールグレン上古音はgʰi̯waŋ(平)。同音に「俇」(上)=”あわただしいさま”。近音にgi̯waŋに「王」(平/去)、「往」(上)、「迋」(去)=”ゆく”。去声の音は不明。

用例:「甲骨文合集」29234の用例は「王狂(邇)田,湄日不遘大風。」と、「邇」”ちかい”と釈文されている。29236も同様。

西周中期「孟員鼎」は原文を確認できない。

漢語多功能字庫」は甲骨文で”近い”・”近づく”、金文で人名での用例(孟員鼎・西周)があるという。

漢語多功能字庫

甲金篆文皆從「」從「」,可隸字為「𤝵」或「𤝶」。「」是「」的初文,用作聲符。至隸、楷書,因「」不再獨立使用,從「」旁的字都改成了「」旁。「𤝵」於是寫作「」。(裘錫圭)《說文》以為「」的本義是狗隻發瘋。


甲骨文、金文、篆書、全て「犬」と「㞷」の字形の系列に属し、隷書では「𤝵」や「𤝶」とも書かれた。「㞷」は「往」の最古の字形で、これが音符の働きをしている。隷書や楷書になると、「㞷」がふたたび単独では使われなくなったので、「㞷」のつくりを持つ字は全て「王」に書き換えられた。「𤝵」は「狂」から派生した異体字である(裘錫圭)。説文解字は「狂」の原義を犬が一匹で狂い走る様だとした。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、王は二線の間にたつ大きな人を示す会意文字、または末広がりの大きなおのの形を描いた象形文字。狂は「犬+(音符)王」で、大げさにむやみに走りまわる犬。あるわくを外れて広がる意を含む。徨(コウ)(むやみにさまよう)・逛(キョウ)(やたらに歩き回る)・晃(コウ)(むやみと広がる光)などと同系のことば。

語義

  1. {動詞・形容詞}くるう(くるふ)。なにをしでかすかわからない。むちゃなさま。「狂妄(キョウモウ)」。
  2. {名詞}きい(きひ)。気のくるった人。また、なにをしでかすかわからない人。「狂人」「癲狂(テンキョウ)(発作的に気がくるう病気)」。
  3. (キョウナリ)(キャウナリ){形容詞・名詞}普通の型をこえてスケールが大きいさま。常識にとらわれないさま。また、そのような人がら。「狂狷(キョウケン)」「古之狂也肆」〔論語・陽貨〕。「狂者進取=狂者は進取す」〔論語・子路〕
  4. {形容詞}むちゃではげしいさま。「狂瀾(キョウラン)」。
  5. {名詞}くるい(くるひ)。あることにむちゅうになって、常軌をはずれること。また、その人。「殺人狂」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①くるう(くるふ)。つ調子がおかしくなる。「時計が狂う」づねらいがはずれる。
    ②こっけいである。「狂言」「狂歌」。

字通

正字は㞷に従い、ごう声。㞷は〔説文〕六下に「艸木妄生するなり」とするが、卜文・金文の字形は、鉞頭の形である王の上にシ 外字あし(止)を加えた形。おそらく出行にあたって行われる呪儀で、魂振りの意があり、神の力が与えられるのであろう。秘匿のところでその礼を行うのを匡といい、神意を以て邪悪をただすことを匡正という。その霊力が獣性のもので、誤って作用し、制御しがたいものになることを狂という。〔説文〕十上に「狾犬セキケンなり」と嚙み癖のある犬の名とするが、発狂・狂痴の状態を言う語である。〔書、微子〕「我は其れ狂を發出せん」、〔論語、公冶長〕「我が黨の小子狂簡にして斐然として章を成す」、〔論語、子路〕「子曰く、中行を得て之と與にせざるときは、必ずや狂狷か」のように、古くから理性と対立する逸脱の精神として理解された。清狂・風狂なども、日常性の否定に連なる一種の詩的狂気を示す語であった。

訓義

くるう。狂気。おろか。あわただしい。

抂(キョウ/オウ・7画)

抂 楷書
楷書

初出:初出は北宋の『集韻』であると『康煕字典』にいう。

字形:〔扌〕+音符〔王〕。

音:音「キョウ」で”乱れる”の意に、「オウ」で”曲がる”の意になる。

カールグレン上古音は理屈の上から存在しない。声調は平声。『康煕字典』所収『集韻』に「渠王切,音狂。」とあるので、「狂」ɡʰi̯waŋ(平)と同音ということになる。

用例:『康煕字典』所収『集韻』のみ発見。

論語時代の置換候補:「」(初出楚系戦国文字)と同様に存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「手+(音符)王(四方に出る、むやみにのび広がる)」。狂や往と同系のことば。

語義

  1. {形容詞}「抂攘(キョウジョウ)」とは、むやみにやって乱れるさま。
  2. {動詞}むりやり曲げる。《同義語》⇒枉(オウ)。

字通

(条目無し)

新漢語林

枉の俗字。

羌(キョウ・8画)

羌 甲骨文
(甲骨文)

初出:初出は甲骨文

字形:頭に羊の角型のかぶり物をかぶった人の横姿で、ギャンクと呼ばれた異民族の姿。多くの漢字に、隷属民を指す部品として用いられる。

美 甲骨文
「美」甲骨文

甲骨文では、人の横姿「人」は人間一般のほかに隷属民を意味しうるが、正面形「大」はかぶり物の有無や形にかかわらず、下級者を意味しない。論語語釈「美」を参照。

音:カールグレン上古音はkʰi̯aŋ(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、「羌」の甲骨文の字形には「土」「石」「糸」「火」などを加えた字形のものがあり、虐待を表しているという。また甲骨文・金文一貫して、「羌」族人を意味しているという。

学研漢和大字典

会意兼形声。「人+(音符)羊」で、羊を放牧する人のこと。

語義

  1. {名詞}えびす。中国北西部に住んでいた民族の名。五胡(ゴコ)の一つ。現在、四川省北部に茂汶(モブン)羌族自治県がある。
  2. {感動詞・助辞}ああ。「楚辞」にあらわれる助辞。「羌、内恕己以量人兮=羌、内に己を恕して以て人を量る」〔楚辞・離騒〕

字通

羊頭の人に象る。羌人は西戎の一、牧羊族。古く羊頭神の信仰をもち、岳神を祖とした。岳神伯夷は姜姓諸族の祖とされる。卜文の岳の字は、山上に羊頭をおく形に作る。〔説文〕四上に「西戎、牧羊人なり」とし、字を会意にして羊の亦声とするが、羊頭人の象形。卜文にときに辮髪を加える形のものがあり、チベット系の古族であるように思われる。卜辞に「獲羌」を卜する例が多く、軍門である義京・磬京(けいきよう)の儀礼に「羌三十人を宜(ころ)さんか」のように卜する例があり、犠牲として用いるために捕獲されている。殷墓に残る数千に及ぶ断首葬は、羌人犠牲のあとであると考えられる。仮借して感動詞に用いる。

供(キョウ・8画)

供 甲骨文 供 篆書
合集37874.2/説文解字・後漢

初出:初出は甲骨文とされるが、欠損が激しく疑問がある。その後は前漢まで用例が無く、殷周革命で一旦滅んだ漢語である可能性がある。「小学堂」による初出は前漢の隷書

字形:「亻」+「共」”差し出す”。人に差し出すさま。

音:カールグレン上古音はki̯uŋ(平/去)。同音は論語語釈「拱」を参照。

用例:「甲骨文合集」37874.2に「癸未卜貞王旬供〔𡆥犬〕在□月」と釈文されている。語義は不明。

西周末期の金文で「工」を、戦国の金文・竹簡で「共」を「供」と釈文する例がある。

文献上の初出は論語郷党篇19の古注。『墨子』『孟子』『荘子』『荀子』『韓非子』にも用例がある。

論語時代の置換候補:部品の「共」。論語語釈「共」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。共は「□印(ある物)+両手」の会意文字で、供の原字。□印で示されたある物を左右の両手で、うやうやしくささげるさまを示す。ささげる動作は、両手を同時に動かすため、共はともにの意に転じ、供の字がその原義をあらわすようになった。供は「人+(音符)共」。⇒共

恭(うやうやしい)・拱(キョウ)(左右の手を組む、こまぬく)と同系。異字同訓に備。「饗」の代用字としても使う。「供応」▽「複数を表すことば、ども」の意味の場合、かな書きが望ましい。

語義

  1. {動詞}そなえる(そなふ)。左右の手をそろえて曲げ、その間にうやうやしく物をささげ持つ。物をそなえる意。「供養」「有献蓮華供仏者=蓮華を献げて仏に供ふる者有り」〔南史・晋安王子懋〕
  2. (キョウス){動詞}差し出す。差しあげる。「提供」「王之諸臣、皆足以供之=王の諸臣、皆以てこれを供するに足る」〔孟子・梁上〕
  3. (キョウス){動詞}役だてる。「供職(職について役にたつ、奉仕する)」▽平声に読む。
  4. 「口供」「供述」とは、裁判に役だてる申したて。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①とも。身分の高い人に付き従うこと。また、その人。
    ②ども。お供の衆の意から、名詞の下について、複数であることをあらわすことば。
    ③ども。一人称代名詞について、へりくだった気持ちをあらわすことば。「身供」。

字通

[形声]声符は共(きょう)。共は両手でものを奉ずる形で、供の初文。〔説文〕八上に「設くるなり」と供設の意とし、「一に曰く、供給するなり」という。金文に共を供・恭の意に用い、恭にはまた龔(きょう)の字を用いる。共は玉器を奉ずる形、龔は龍(竜)形の呪器を奉ずる形であろう。供も、もと神事に関する供設の意であった。

享(キョウ・8画)

享 甲骨文 享 金文
京津1046/邾公華鐘・春秋末期

初出:初出は甲骨文

字形:盛り土の上に建てたたかどのの象形。「京」と同形の語で、「京」が木組みの上に建てたたかどのであるのに対し、土盛りの上に建てたたかどのを示す。論語語釈「京」を参照。金文では「亯」の字形に記される例が多い。

音:カールグレン上古音はxi̯aŋ(上)。

用例:「甲骨文合集」32691.1に「于享京燎」とあり、”祭殿”と解せる。

西周早期「白盂」(集成10312)に「孫孫子子永寶用亯。」とあり、”供え物をする”・”もてなす”と解せる。「饗」xi̯aŋ(上)に同じ。

西周末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0891に「顉(欽)□(融)內(入)鄉(享)赤金九萬鈞。」とあり、”得る”と解せる。

学研漢和大字典

象形。亨(コウ)と同じく、南北に通じる城郭の姿を描いたもので、さわりなくとおる、すらりと通じるの意を含む。また、祈りや接待の気持ちを相手に通じさせる、また、その気持ちをすなおにうけ入れるの両方の意を派生した。のち、亨(コウ)はおもに、とおる(亨通(コウツウ))の意に、享(キョウ)はおもに、うける(享受)の意に分用された。象形。亨(コウ)と同じく、南北に通じる城郭の姿を描いたもので、さわりなくとおる、すらりと通じるの意を含む。また、祈りや接待の気持ちを相手に通じさせる、また、その気持ちをすなおにうけ入れるの両方の意を派生した。のち、亨(コウ)はおもに、とおる(亨通(コウツウ))の意に、享(キョウ)はおもに、うける(享受)の意に分用された。

語義

  1. (キョウス)(キャウス){動詞}神や客にごちそうをしてもてなす。▽供え物のかおりを神に通わせることから。《同義語》⇒饗・亨。「享宴(キョウエン)」「享于祖考=祖考に享す」〔詩経・小雅・信南山〕
  2. {動詞}うける(うく)。供え物や祈りをすなおにうけ入れる。また、もてなしをうける。《同義語》⇒饗。「享受」「使之主祭而百神享之=これをして祭を主らしむれば百神もこれを享く」〔孟子・万上

字通

[象形]卜文・金文の字形は、上部は京・高に近い建物、下部はその台基の形。字は亨・享・亯のように釈されるが、金文では享(饗)の意に用いる。〔説文〕五下に「獻ずるなり。高の省に從ふ。曰(えつ)は孰(じゆく)(熟)、物を進むる形に象る」とし、建物と烹飪(ほうじん)と、両義を含めて解するが、下部は台基の形である。金文では先人を祀るに「用(もつ)て享し用て孝せん」のように享といい、生人に供するときには「用て倗友(ほういう)を饗せん」のように饗という。金文に亯の下にさらに京をそえた享 キョウ 外字という字があり、再命のことを「ショウ 外字享 キョウ 外字(しょうきゃう)す」という。享 キョウ 外字は二層の建物で、ゆえに再・続の意となる。そこに先人を祀ることを享といい、その祭祀を享(う)けることをまた享という。副詞として〔大盂鼎〕「享(よ)く奔走して天畏を畏れよ」のようにもいう。のち饗と通じて、饗食の意にも用いる。

拱(キョウ・9画)

初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は「龏」。「小学堂」による初出は説文解字

字形:初出の字形は「龍」+「廾」”持ち上げる”。龍のように天高くのぼるさま。現行の字体は「扌」”て”+「共」”うやうやしい”。

音:カールグレン上古音はki̯uŋ(上)。同音は下記の通り。

西周末期「毛公鼎」(集成2841)に「王曰…母敢龏㯱。龏㯱廼敄鰥寡。」とあり、「龏㯱」は「共嚢」”税を厳しく取り立てる”と解されており、「共」は”同じくする”と解せる。「龏」のままとすると”取り上げる”と解せる。

戦国の金文「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1408(器名「王子𪭍戈」?)に「戉(越)王差(佐)䣄(徐),以其╱鐘金,𥃘(鑄)其𪭍(拱)〔𠃊丰戈〕(戟)。」とあり、おそらく固有名詞と思われる。

論語時代の置換候補:同音の「廾」。

初出 声調 備考
キョウ つつしむ 楚系戦国文字 →語釈
そなへる 西周末期金文
まうける 前漢隷書 平/去 →語釈
こまぬく 説文解字
てかせ 殷代末期金文
つかねる 西周末期金文
ささげる 甲骨文 →大漢和辞典
(ものを運ぶコロ) 不明

漢語多功能字庫

從「」,「」聲。本義是拱手,即兩手相合以示敬意。


「手」の字形の系統に属し、「共」の音。原義は手をこまねくこと、つまり両手を合わせて敬意を示すこと。

学研漢和大字典

会意兼形声。共は、両手をそろえて物をささげるさま。拱は「手+(音符)共」で、両手をそろえて組むこと。共が「そろえる、いっしょ」の意に転用されたため、拱の字がその原義をあらわした。恭(キョウ)(両手を組んでかしこまる→うやうやしい)・迅(キョウ)(両手を組ませた上にかける手かせ)と同系。

語義

  1. (キョウス){動詞}こまぬく。敬意をあらわすために、両手を胸の前で組みあわせる。こまねく。《類義語》翠(ユウ)。「拱手=手を拱く」「子路拱而立=子路拱して而立つ」〔論語・微子〕
  2. {単位詞}両手でひとかこみできる大きさ。《類義語》抱・把(ハ)(ひとにぎり)。「拱把之桐梓(キョウハノドウシ)」〔孟子・告上〕
  3. {動詞}こまぬく。手を組んだままで、なにもしない。こまねく。

字通

[形声]声符は共(きょう)。共は左右の手にものをもち奉ずる形。拱は前で両手を組む拱手をいう。〔説文〕十二上に「手を斂(をさ)むるなり」とあり、拱手して拝する姿勢をいう。手は左外右内、女子はこれと逆にする。凶礼のときには、男女とも逆とする。拱木は一かかえの木。

姜(キョウ・9画)

姜 甲骨文
合22099

初出:初出は甲骨文

字形:頭に羊のかぶり物をかぶり、跪いた女性の象形。中国・台湾では「薑」の異体字として用いる。論語語釈「薑」を参照。

用例:「甲骨文合集」22099に「戊午卜,姜力。 一 二 三」とあり、”羌族の女性”と解せる。「力」は労働させること。

西周・春秋戦国の金文は、全て人名または器名と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「女+(音符)羊」。太古の西北中国で羊を放牧していた民族が羊にちなむ姓をつけたものであろう。周代のはじめ、この一族の頭領であった太公望呂尚(リョショウ)が山東の斉(セイ)に封ぜられた。中国では薑の簡体字に用いる。

語義

  1. {名詞}姓の一つ。▽春秋時代の斉(セイ)の国の公室の姓を姜といった。
  2. {名詞}美しい娘。美女。▽周代、春秋時代に斉の国(姜姓)の娘が、他の諸侯に多くとついだことから。「姫姜(キキョウ)」。
  3. 「姜水(キョウスイ)」とは、陝西(センセイ)省にある川の名。岐水(キスイ)の別名。

字通

[形声]羌(きょう)の下部を女にかえ、羌人出自の姓であることを示す。羌の省声。〔説文〕十二下に「神農、姜水に居り、以て姓と爲す」と水名とするが、種族の名によって水名をえたものであろう。神農炎帝を以て姜姓の始祖とすることは〔国語、晋語四〕にみえるが、卜文に岳の字形を山上に羊頭を加えた形に作り、その岳神伯夷が姜姓諸族の始祖である。許由・皋陶(こうよう)は許・皋の地で祀られる伯夷の異名。夷・由・陶は同じ音系の字。姜姓の神話を経典化した〔書、呂刑〕に、伯夷降典のことをしるし、〔尭典〕〔舜典〕〔皋陶謨〕にみな同系の説話がある。姜姓は姫姓の周と通婚しており、殷代には厳しい弾圧を受け、その聖地の岳(嵩嶽(すうがく))も殷の制圧下にあった。周の武王が殷を伐つとき、伯夷・叔斉がこれをおし止めようとしたのは、そのためである。のち周の王朝となり、申・呂(甫)・許・斉の四国が建てられ、申・呂は周の雄藩であった。

恭(キョウ・10画)

恭 楚系戦国文字 恭 古文
(楚系戦国文字・古文)

初出:初出は楚系戦国文字

字形:字形は「共」”捧げる”+「心」で、ものを捧げるような心のさま。古文の字形での「共」は「廿」+「廾」”両手で捧げる”に分解できるが、「廿」は通常”二十”を意味する。先行する戦国文字では「廿」とは判別できない。

音:カールグレン上古音はki̯uŋ(平)。同音は論語語釈「拱」を参照。

用例:『殷周金文集成』02537「靜弔鼎」に「靜弔乍鄙□旅貞(鼎)」とある□は、字形が明瞭でないが「恭」と釈文されている。

西周早期『殷周金文集成』6014「𣄰尊」に「叀王龏德谷(裕)天」とあり、「龏」は「恭」と釈文されており、「これ王徳をつつしんで天をたすけ」と読め、”うやうやしくする”の語義が確認できる。

備考:

龏 甲骨文 龏 金文
「龏」甲骨文/龏作又母辛鬲・西周早期

漢語多功能字庫」によると、原字は「キョウ」とされ、甲骨文より存在する。字形は「ケン」”刃物”+「虫」”へび”+「廾」”両手”で、毒蛇の頭を突いて捌くこと。原義は不明。「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・人名・祖先の名に用い、金文では人名の他は「恭」と同じく”恐れ慎む”を意味した(秦公簋・春秋中期)。

春秋後期の「叔夷鐘」に近音の「共」ɡʰi̯uŋ(去、平声の音は不明)と記して”謹んで従う”の用例がある。「共」の初出は甲骨文、詳細は論語語釈「共」を参照。

同音のうち金文が存在する字に「拲」(手かせ)があり、やはり同音の拱(こまねく)に通じると『大漢和辞典』にある。また「廾」(ささげる)は甲骨文が存在する。孔子在世当時は「キョウ」(カ音ki̯əŋ)と書かれていた可能性がある。

『学研漢和大字典』による音の変遷
上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kɪuŋ kɪoŋ koŋ kuəŋ gōng
kɪəŋ kɪəŋ kɪəŋ tšiəŋ jīng

学研漢和大字典

会意兼形声。共(キョウ)は、廿型のものを両手でささげることを示す会意文字。恭は「心+(音符)共」で、目上の人の前に、物をささげるときのかしこまった気持ち。拱(キョウ)(両手をそろえてかしこまる)と同系。類義語に慎。

語義

{形容詞・名詞}うやうやしい(うやうやし)。かしこまっているさま。ていねいで慎み深いさま。慎んで物をささげるような気持ち。《同義語》⇒共。《対語》⇒倨(キョ)・傲(ゴウ)・驕(キョウ)。「恭敬」「其行己也恭=其の己を行ふや恭し」〔論語・公冶長〕

字通

[形声]声符は共(きよう)。共の金文形は玉などの呪器を奉ずる形で、恭敬の意を含む。〔説文〕十下に「肅(つつし)むなり」という。金文に〔伯■(戈+冬)𣪘(はくしゆうき)〕「徳を秉(と)ること共純(恭純)」、〔叔向父禹𣪘(しゆくしようほうき)〕「明徳を共(つつし)む」のように共を用いる。金文に別に龔・■(龍+廾+兄)などの字があって、供・恭の意に用いる。〔三体石経〕の古文にその字がある。龍(竜)形の呪器を奉ずる儀礼であるらしく、兄は巫祝。その呪儀は巫祝者の行うところであった。

恐(キョウ・10画)

恐 金文
「中山王□鼎」・戦国末期毛公鼎・西周末期

初出:初出は戦国時代末期の金文

字形:「工」”ふた”+「心」で、勢いを閉じられた心のさま。原義は”恐れる”。

音:カールグレン上古音はkʰi̯uŋ(上)。同音は存在しない。去声は音不明。

用例:西周中期「史牆盤」(集成10175)に「永不𢀜狄虘。」とあり、「𢀜キョウ」(カールグレン上古音不明/上)は「恐」と釈文されている。「𢀜」の異体字「鞏」のカールグレン上古音はki̯uŋ(上)。

戦国の竹簡や金文では「𢖶」と記される例が多い。

戦国最末期「睡虎地秦簡」為吏2伍に「耤。肖人聶心,不敢徒語恐見惡。」とあり、”おそれる”と解せる。

論語時代の置換候補:上掲「𢀜」。

近音「恭」ki̯uŋ(平)の原字「龏」は甲骨文より存在し、原義は”恐れ慎む”。詳細は論語語釈「恭」を参照。

なお「凶」にも”おそれる”の語釈が『大漢和辞典』にあるが、カ音がxi̯uŋで音通しない。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。上部の字(音キョウ)は「人が両手を出した姿+(音符)工」からなり、突き通して穴をあける作業をすること。恐はそれを音符とし、心を加えた字で、心の中がつき抜けて、穴のあいたようなうつろな感じがすること。攻(コウ)(穴を貫く)・空(うつろな)と同系。

類義語の懼(ク)はびくびくして落ち着かぬ感じ。怖(フ)は、心が布のように薄く、ひやひやすること。怯は、おじおじと心がしりごみをすること。怕は、ひやひやして心配すること。畏は、威圧を感じて心がすくむこと。宵(テキ)は、いまにも大事がおこりはしないかと心細く、ひやひやすること。虞は、あらかじめ心をくばること。

」の代用字としても使う。「戦々恐々」▽「おそろしい」は「怖ろしい」とも書く。

語義

  1. {動詞}おそれる(おそる)。おどす。こわがらせる。こわがる。また、そうなりはしないかと心配する。《同義語》⇒虞(グ)。《類義語》懼(ク)。「恐怖」「燕君臣皆恐禍之至=燕の君臣皆禍の至らんことを恐る」〔史記・荊軻〕
  2. {副詞}おそらくは。…するかもしれない。こうなりはせぬかと心配だ。ひょっとしたら。「恐終敗事=恐らくは終に事を敗らん」〔近思録〕
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①おそろしい(おそろし)。こわい。
    ②おそれ。悪いことの起こる可能性。

字通

[形声]声符は巩(きよう)。巩は呪具の工を掲げる形で、神を迎え、神を送るときの所作。〔説文〕十下に「懼(おそ)るるなり」とあり、神に対して恐懼することをいう。巩巩は金文の〔毛公鼎〕に「烏虖(ああ)懼(おそ)るる余(われ)小子、家艱(かん)に湛(しづ)み、永く先王に巩(おそ)れあらしめんとす」、また〔師■(嫠の厂の中女→又)𣪘(しりき)〕に「巩(つつし)みて王に告ぐ」のように用い、恐の初文。のちその心情を示す意で恐となった。

敎/教(キョウ・11画)

→論語語釈「教」

鄕/郷(キョウ・11画)

卿 甲骨文 郷 金文
甲骨文/毛公鼎・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:新字体は「郷」、「鄕」は異体字。周初は「卿」と書き分けられなかった。中国・台湾・香港では、新字体に一画多い「鄉」がコード上の正字とされる。定州竹簡論語も「鄉」と釈文している。唐石経・清家本は新字体と同じく「郷」と記す。字形は山盛りの食事を盛った器に相対する人で、原義は”宴会”。

鄕 郷 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔歹即〕」と記す。上掲「北魏元欽墓誌銘」刻字近似。

音:「ゴウ」は慣用音、「コウ」は呉音。カールグレン上古音はxi̯aŋ(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”宴会”・”方角”を意味し、金文では”宴会”(曾伯陭壺・春秋早期)、”方角”(善夫山鼎・西周末期)に用い、また郷里・貴族の地位の一つ・城壁都市を意味した。

備考:

郷 音通

「郷」の原義は、中心となる城郭都市と、周囲の農地その他生産活動に供する地面のセットをいい、高校世界史教科書で「ヨーロッパ中世の荘園」として描かれる風景によくあてはまる。春秋時代の身分制度では、領主貴族=大夫のうち、「郷」単位の領地を持つ者を「卿」といった。「卿」は「郷」と当時は書き分けられず、音も同じである。

ベリ公の時祷書

これにつき、卿大夫士=春秋時代の身分制度も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。卿(ケイ)・(キョウ)は「ごちそう+向かいあった人」からなる会意文字で、会食するさまをあらわす。饗(キョウ)の原字で、向きあう意を含む。郷は「邑(むら)+(音符)卿の略体」で、たがいに向かいあって、音や煙の通りあう村々。向(むく)・香(においがむこうへ動く)・響(音がむこうへ動く)などと同系。卿(ケイ)と混同しやすいので注意。

語義

  1. {名詞}さと。ふるさと。都市に対して、いなかのこと。「故郷」「郷党(いなかの村の仲間)」「郷人皆好之=郷人皆これを好む」〔論語・子路〕
  2. {名詞}行政区画の名。周代、一万二千五百戸の区画。郷大夫(キョウタイフ)を置いた。また、近世中国では、人口五万までの村々をあわせた区画。区とともに県に所属する。「郷長」「郷飲酒」。
  3. {動詞}むく。その方向に面する。▽向・嚮に当てた用法。去声に読む。「北郷戸(=北向戸。北側に入り口を設けた亜熱帯地方の家)」。
  4. {名詞・副詞}さきに。以前。かつて。▽向・嚮・曩・代などに当てた用法。去声に読む。「郷也、吾見於夫子而問知=郷に、吾夫子に見えて知を問ふ」〔論語・顔淵〕
  5. 《日本語での特別な意味》さと。ごう(がう)。昔、地方の行政区画の名。郡に所属する。「郷士」。

字通

[会意]キ 外字(き)+卯(ぼう)。卯は人の対坐する形。饗宴のときの盛食の器であるキ 外字(𣪘・簋)を中にして左右に相対坐する形。すなわち卿がその初形。卜辞に饗の意に用い、金文に「北郷」のように「嚮(むか)ふ」意や、「卿事寮」「正卿」「卿大夫」のように卿相の意に用い、また「曏(さき)に」の意に用いることがある。すなわち饗・嚮・卿・曏の初文。〔説文〕六下に「國の離邑、民の封ぜらるる所の郷なり。嗇夫(しよくふ)の別治なり。封圻(ほうき)の内の六郷は、六卿之れを治む」と郷里・郷遂の意とする。両旁を邑の相対う形と解するのである。また別に卿九下を録し「章(あき)らかなり」と訓し、卯を「事の制なり」とするが、卿は𣪘を挟(さしはさ)んで左右対坐する形で、饗の初文。その饗宴に与(あずか)るものを卿、その卿の領する采地を郷という。のちその采地の意を含めて、両邑相対する形に作るが、それは卜文・金文にみえず、後起の字である。

兢(キョウ・14画)

兢 金文
𩰬比盨・西周末期

初出:初出は西周末期の金文

字形:「丰」”実った穀物”+「兄」”長老”が二つ。各地の長老が貢ぎ物を頭に捧げて服従の姿勢を示すさま。

音:カールグレン上古音はki̯əŋ(平)。

用例:春秋末期までの例は一例しか知られない。上掲西周末期「𩰬比盨」(集成4466)に「其邑兢」とあり、”恭順である”と解せる。

学研漢和大字典

音の変遷
上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kɪəŋ kɪəŋ kɪəŋ tšiəŋ jīng

会意。克(コク)は、重いかぶとをささえて、全身を緊張させた姿を示す会意文字。兢は、克の字を二つあわせたもので、ひどく緊張する意を示す。▽「説文解字」に「競(きそう、張りあう)なり」とある。克・戒(緊張していましめる)・極(ぴんと張った大黒柱)などと同系。競は別字。「恐」に書き換えることがある。「戦々恐々」。

語義

  1. {動詞}緊張して慎む。《類義語》戒。
  2. {形容詞}緊張してびくびくするさま。「戦戦兢兢(センセンキョウキョウ)」〔詩経・小雅・小旻〕

字通

[会意]二克(こく)に従う。篆文(てんぶん)は兄の上に丯(かい)を加えた形。〔説文〕八下に「競ふなり。二兄に從ふ。二兄競ふ意なり。丯(かい)聲に從ふ。讀みて矜(きょう)の若(ごと)くす。一に曰く、兢は敬なり」とし、丯を声とするが、声異なる。兄は巫祝が祝告を奉ずる象。丯はその祝告の器に加えた呪飾であろう。競は誩(きよう)に従い、言も祝禱の器。競は二人並んで祈る形で競進の意、兢は二人並んで謹んで祈る意であろう。〔詩、小雅、小旻〕「戰戰兢兢」、〔書、皋陶謨(こうようぼ)〕「兢兢業業」のようにいう。金文の〔毛公旅鼎〕に「つつしむ 外字(つつし)まざるあること毋(な)し」とあって恭敬の意に用いており、〔説文〕篆文の字形は、そこから出ているものであろう。

徼(キョウ・16画)

徼 金文 徼 秦系戦国文字
章子戈・春秋早期/秦系戦国文字

初出:初出は春秋早期の金文。ただし字形は「交戈」。「小学堂」による初出は秦系戦国文字

字形:現伝字形は「彳」”みち”+「敫」”日陰が移りゆく”。

音:カールグレン上古音はkioɡ(平/去)。同訓近音に樛(kli̯ŏɡ)。こちらは戦国末期の金文「四年相邦樛斿戈」に見られる。

用例:春秋早期の「章子戈」に「為其󱪧戈。」とあり、「󱪧」の字形は「交戈」、人名と解せる。

戦国最末期の「睡虎地秦簡」に易の用語として現れる。

学研漢和大字典

形声。「彳(いく)+(音符)喪(ケキ)」。喪は涼(キョウ)(白い)の原字だが、ここでは単なる音符。徼は、引き締めて取り締まって歩く意。また、絞りあげる意から、むりをしてもとめる意を派生した。絞(コウ)(細く引き絞る)・覈(カク)(締め上げて調べる)などと同系。

語義

  1. {動詞}もとめる(もとむ)。得られそうもないことを得たいと願う。むりにもとめる。▽僥倖(ギョウコウ)の僥と混用して徼(ギョウ)とも読む。「徼福=福を徼む」「徼幸=幸ひを徼む」。
  2. (キョウス)(ケウス){動詞}むりに…のふりをする。「悪徼以為智者=徼して以て智と為す者を悪む」〔論語・陽貨〕
  3. {動詞・名詞}うかがう(うかがふ)。取り締まる。悪事を取り締まるために巡察する。また、見張りをおくとりで。国境。▽名詞の場合は去声に読む。「游徼(ユウキョウ)(巡察して回る)」「辺徼(ヘンキョウ)(国境の巡察。またそのとりで)」。
  4. {動詞}出口をしぼって追いつめる。
  5. {動詞}むかえうつ。▽邀(ヨウ)に当てた用法。「徼撃(ヨウゲキ)(=邀撃)」。
  6. {名詞}こまかに微妙なところ。▽竅(キョウ)(小さな穴、微妙なところ)に当てた用法。「常有欲以観其徼=常有欲以て其の徼を観る」〔老子・一〕

字通

[形声]声符は敫(きょう)。敫は架屍を殴(う)って、その呪霊によって呪詛を行う祭梟(さいきよう)(首祭)の俗を示す字。放と字の立意同じく、放の架屍の上に頭顱(とうろ)(されこうべ)を加えた形である。〔説文〕二下に「循(めぐ)るなり」とし、〔玉篇〕には「要なり、求なり」とする。外界に接する辺徼の地で、外族に対して行う呪儀であるから、また辺徼の意となり、神霊の祐助を請う行為であるから「徼(もと)む」といい、また「徼(むか)う」意となる。

興(キョウ・16画)

興 甲骨文 興 金文
「甲骨文合集」6530/興父辛爵・殷代末期或西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:「同」”乗り物のこし”+「又」”手”四つ。こしを担ぎ挙げるさま。

音:「コウ」は呉音。カールグレン上古音xi̯əŋ(平/去)。

用例:「甲骨文合集」339.4に「丁卯卜𡧊貞歲不興無匄五月」とあり、命辞(占った内容)は”この先一年、疫病が流行らず、死者が出ないだろうか”の意。”勢いが盛んになる”と解せる。

このほか甲骨文では地名氏族名人名、金文でも同様に用いた。

学研漢和大字典

会意。舁は「左右の手+左右の手」で、四本の手でかつぐこと。興は「舁+同」で、四本の手を同じく動かして、いっせいにもちあげおこすことを示す。類義語に建。異字同訓に起。「昂」「亢」の代用字としても使う。「興奮」▽「愉快に思う」の意味では「キョウ」と読む。

語義

  1. {動詞}おこる。おきる(おく)。おこす。おきたつ。また、たちあがる。ささえて、もちあげる。「復興」「興国=国を興す」「夙興夜寐(シュクコウヤビ)(はやくおき、おそくねる→勤勉な暮らし)」〔詩経・衛風・氓〕
  2. {動詞}おこる。盛んになる。《対語》⇒廃・衰。「興廃」「興旺(コウオウ)(さかん)」「則民興於仁=則ち民仁に興る」〔論語・泰伯〕
  3. {動詞}感情が盛んにおこる。「興奮」。
  4. {動詞}もてはやす。▽去声に読む。《類義語》喜。
  5. {名詞}おこりたつ感情。▽去声に読む。「感興」「寄興=興を寄す」。
  6. {名詞}「詩経」の六義(リクギ)の一つ。事物によって感興をのべおこす詩体。▽去声に読む。

字通

興[会意]同+⺽(きよく)+廾(きよう)。同は酒器。⺽と廾は四手。酒器である同を、上下よりもつ形。儀礼のとき、地に酒をそそいで、地霊を慰撫することが行われた。〔礼記、楽記〕に「上下(しやうか)の神を降興す」とあり、上帝には降、地霊には興という。〔周礼、地官、舞師〕に「小祭祀には則ち興舞せず」とあり、小祭祀のときにはその礼を略した。地霊に酒を灌いで祀るとき、おそらく呪詞が唱えられたと思われるが、その語はのち〔詩〕の発想法として一の定型をなし、これを興(きよう)という。わが国の序詞・枕詞の成立と相似た関係のものである。酒を人にそそぐことを釁(きん)といい、新しい建造の物や器物の制作の際にも用いる。〔礼記、文王世子〕に「器を興(きん)するに幣を用ふ」とある興は、釁の略体とみてよい。〔説文〕三上に「起こすなり」とし、字を舁(よ)(かつぐ)に従い同に従うもので、共同してものを起こす意とするが、地霊をよび興すのが字の原義である。それよりして、すべてものが発動し、興起する意に用いる。興趣の意は、発想としての興の引伸義であろう。

薑(キョウ・16画)

薑 隷書 薑 古文
居延簡甲1962・前漢/「𧅁」海2.13・北宋

初出:初出は楚系戦国文字。「小学堂」による初出は前漢の隷書

字形:初出の字形は未公開だが、上掲「𧅁」と釈文されている。「𧅁」を『大漢和辞典』では「薑に同じ」という。現行字形は「艹」+音符「畺」(カ音不明、類字の「疆」はki̯aŋ平)。台湾では「姜」(=太古の西北中国で羊を放牧していた民族のうち、女性)は薑の異体字として扱われる。論語語釈「姜」を参照。

音:カールグレン上古音はki̯aŋ(平)。同音に「疆」「姜」「僵」”行き倒れ”、「繈」”ふしいと”「襁」。

用例:戦国中末期「包山楚簡」258に「𧅁(薑)二𥬹」とあり、”はじかみ”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は無い。上古音の同音「姜」に”はじかみ”の語義は春秋末期までに確認できない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)畺(キョウ)(ひとこまずつわかれる)」。根茎がひとこまずつ区切れることからいう。疆(キョウ)(区切った境)と同系。

語義

  1. {名詞}はじかみ。草の名。塊状の根茎は香気があってからい。食用。薬用。しょうが。「生薑(ショウキョウ)」とも。▽日本では「生薑(ショウキョウ)」の音をなまって、「しょうが」といった。

字通

[形声]声符は畺(きよう)。〔説文〕一下に彊に従う字に作り、「溼(しふ)を御(ふせ)ぐの菜なり」とあり、〔神農本草〕に風や溼疾に効ありとするもので、しょうが・はじかみの類。古くなると、その辛味は特に強烈を加える。

※溼:湿る。

襁(キョウ・16画)

襁 篆書 強 金文
説文解字・後漢/「強」𠇝盤埜匕・戦国末期

初出:初出は後漢の説文解字

字形:〔衣〕”布”+〔強〕”堅く締めた”。赤ん坊を背負う堅く締めた帯の意。

音:カールグレン上古音はki̯aŋ(上)。同音に「薑」「疆」「姜」「僵」「繈」。

用例:戦国時代の『墨子』『列子』に見え、また漢初の『韓詩外伝』にも見えるが、いつ記されたのか分からない。

論語時代の置換候補:部品の「強」に”むつき”の語釈があるが、初出は戦国末期。

学研漢和大字典

会意兼形声。「衣+(音符)強(丈夫な、きつくしめる)」。

語義

  1. {名詞}幼児を背負う帯。《同義語》⇒繦。《類義語》褓(ホウ)。
  2. 《日本語での特別な意味》むつき。おしめ。おむつ。

字通

[形声]声符は強(きょう)。強は繮と声義近く、襁は背負いの帯をいう。

繮:手綱。

皦(キョウ・18画)

論語 皦 古文
古文

初出:初出は後漢の『説文解字』

字形:「白」+「敫」”日光の輝き”(上古音不明)で、白く明るく輝くさま。

音:カールグレン上古音はkiog(上)。

用例:漢代になって出来た新しい言葉で、論語の時代に存在しない。『老子道徳経』14に「其上不皦」とあるが、後世の加筆の可能性を排除できない。儒家での再出は、後漢の『潜夫論』まで下る。

論語時代の置換候補:”あきらか”の意で「耿」kĕŋ(上)だが、音素の共通率が25%で50%を下回っており、音通とは言いがたい。

『大漢和辞典』で音キョウ訓しろいに「的」初出は後漢の『説文解字』、「㿟」初出不明、「皎」初出は後漢の『説文解字』、「皛」初出は後漢の『説文解字』、「皢」初出は後漢の『説文解字』

訓あきらかに「冏」初出不明、「㫛」初出不明、「𣅻」初出不明、「晑」初出不明、「景」初出は前漢の隷書(語釈)、「暀」初出は後漢の『説文解字』、「暞」初出不明、「暻」初出不明、「曉」初出は前漢の隷書、「曒」初出不明、「激」初出は後漢の『説文解字』、「熀」初出不明、「熒」初出は西周早期の金文、ただし春秋末期までの用例は人名(「白󺿱𣪕蓋」、集成3692・3693)、「熲」初出は後漢の『説文解字』、「䁶」初出不明、「羌」初出は甲骨文、ただし春秋末期までの用例は全て名詞、「耿」初出は西周末期の金文、西周末期「禹鼎」(集成2833)に「敢對揚武公不顯耿光。」とあり論語時代の置換候補になり得る。「較」初出不明、「鏡」初出は前漢の隷書

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「白+(音符)敫(ケキ)・(キョウ)(白く広がる)」。

語義

  1. {形容詞}白く輝くさま。《類義語》皎(キョウ)。「皦若夜光尋扶桑=皦として夜光の扶桑を尋(タヅ)ぬるがごとし」〔曹植・芙蓉賦〕
  2. {形容詞}さやか(さやかなり)。鮮明ではっきりしたさま。「皦然(キョウゼン)」「皦如(キョウジョ)」。
  3. 姓の一つ。

字通

(項目無し)

新漢語林

形声。白+敫。音符の敫(キョウ)は、日の光が流れるの意味。白くてつやのある宝石の意味を表す。

嚮(キョウ・19画)

初出:初出は甲骨文だが、「鄕」(鄉)と未分化。文献上の初出は戦国中期の『荘子』だが、いつからこの漢字で記されたか分からない。戦国末期の『荀子』にも見える。

字形:「鄕」xi̯aŋ(平)+「向」xi̯aŋ(去)。戦国末期の竹簡まで「鄕」と未分化。

音:カールグレン上古音はxi̯aŋ(去)。上声は不明。

用例:論語顔淵篇22の日本伝承古注本は「鄕」を「嚮」と記す。

『荘子』養生主篇に「庖丁為文惠君解牛,手之所觸,肩之所倚,足之所履,膝之所踦,砉然嚮然,奏刀騞然,莫不中音。」とあり、『大漢和辞典』はこの部分を引いて「嚮然」を”音の響く様”と解する。

”先立つ”意での確実な初出は『荀子』正名篇で、「故嚮萬物之美而盛憂」とある。

論語時代の置換候補:「鄕」(→語釈)。

学研漢和大字典

会意兼形声。向は、窓穴から空気がむこうへ抜け去るさま。郷は、ごちそうをはさんで、左右から人がむかいあうさまを示す。嚮は「向(キョウ)+郷(キョウ)」で、どちらを音符と考えてもよい。むかう、むこうの方角へ動いて去るの意を含む。饗(キョウ)(むかいあって食事する)・響(音がむこうへ流れ去る)と同系。「向」に書き換えることがある。「意向」。

語義

  1. {動詞}むかう(むかふ)。むこうへ動いて去る。《同義語》⇒向。「嚮導(キョウドウ)(目標めざして導く)」。
  2. {名詞・副詞}さき。過ぎ去ったとき。また、むこうに過ぎ去った意をあらわすことば。「嚮者(サキニ)」「嚮之憑恃険阻者=嚮(さき)の険阻を憑恃(ひょうじ)せし者」〔欧陽脩・豊楽亭記〕

字通

[形声]声符は鄉(郷)(きよう)。鄉は礼器の盛食の器である𣪕(㿝(き))をはさんで、左右に人の対坐する形で、饗の初文。ゆえに「鄉(むか)う」意となる。嚮はその繁文とみてよい。金文の冊命(さくめい)廷礼の文に「中廷に立ちて北鄉す」と、鄕を用いる。

驕(キョウ・22画)

驕 睡虎地秦墓竹簡 喬 金文
秦系戦国文字/「喬」郘弋黑鐘・春嚮秋末期
春秋晚期

初出:初出は戦国末期の金文

字形:秦系戦国文字の字形は「馬」+「喬」で、馬が跳ね上がった様。

音:カールグレンによる上古音はki̯oɡ(平)。

用例:春秋末期の「郘󱜰鐘」(殷周金文集成225)に「余不敢為喬」とあり、「喬」は「驕」と釈文され、”おごる”の語義が確認できる。

論語時代の置換候補:日本語音で同訓音通の候補として「狂」があるが上古音がɡʰi̯waŋで音通しない。部品で同訓がある「喬」はgʰi̯oɡまたはki̯oɡ(共に平)であり、初出は春秋末期の金文。「漢語多功能字庫」は上掲春秋末期の「郘鐘」に、「余不敢為喬(驕)」として”おごる”の解釈を載せる。

喬 大漢和辞典
『大漢和辞典』喬条(画像クリックで拡大)

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「馬+(音符)喬(キョウ)(高くのびて先が曲がる)」。背の高い馬。また、高く上に出て、他を見さげること。橋(高く曲がったはし)・撟(キョウ)(高くかかげる)と同系のことば。

語義

  1. (キョウタリ)(ケウタリ){動詞・形容詞}馬が首を高くあげる。馬が首をたてて、勇みたつさま。たくましい。「四牡有驕=四牡驕たる有り」〔詩経・衛風・碩人〕
  2. (キョウタリ)(ケウタリ){動詞・形容詞}おごる。背のびして、人の上に出る。おごり高ぶる。また、おごり高ぶって見くだすさま。《対語》⇒謙。「富而無驕何如=富んで驕ること無きはいかん」〔論語・学而〕
  3. {名詞}背の高い馬。《類義語》驍。

字通

[形声]声符は喬(きよう)。喬は高楼の上に呪飾として表木を立てた形。そこに神を招く。神威を借りて驕る意がある。〔説文〕十上に「馬の高さ六尺なるものを驕と爲す」とし、「一に曰く、野馬なり」とする。字はおおむね驕奢・驕泰の意に用いられ、〔段注〕に「旁義行はれて本義廢す」という。もと野性の悍馬の意であろう。

仰(ギョウ・6画)→卬(ギョウ)

卬 金文
毛公鼎・西周末期

初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は「卬」で、「印」「抑」と未分離。現行字体の初出は後漢の『説文解字』

字形:「爪」”て”+「卩」”跪いた人”。原義は”押さえる”。立場を変えて押さえられる人から見れば、”あおぐ”となる。のちにんべんが加わる。

音:カールグレン上古音はŋi̯aŋ(上)で、去声の音は不明。「卬」のカ音はŋɑŋ(平)またはŋi̯aŋ(上)で事実上の異体字。

用例:西周末期「毛公鼎」(集成2841)に「用卬卲皇天」とあり、”あおぐ”と解せる。

備考:『大漢和辞典』で音ギョウ訓あおぐに、ほかに「喁」ŋi̯uŋ(平)があるが、初出は説文解字。「顒」ŋi̯uŋ(平)の初出は説文解字。音キョウ訓あおぐに「𢓯」(上古音・初出不明)、近音に「堯」ŋiog(平)。初出は甲骨文。論語語釈「堯」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側は、高くたって見おろす人と低くひざまずいて見あげる人との会意文字。仰はそれを音符とし、↓↑の方向にかみあう動作を意味する。迎(ゲイ)(→の方向に来る者を←の方向に出迎えて→←型に出あう)と同系。

会意。左の人がたかく立ち、右の人が低くひざまずいてふり仰ぐさまを示す。たかいほうを仰ぐ意味で、仰の原字。「われ」という代名詞をあらわすのに用いるのは、吾(ゴ)と同じく仮借(当て字)である。

語義

  1. {動詞}あおぐ(あふぐ)。高いほうを見あげる。《対語》⇒伏・俯(フ)。「仰不愧於天=仰いで天に愧ぢず」〔孟子・尽上〕
  2. {動詞}あおぐ(あふぐ)。ふりあおいで尊敬する。「景仰(ケイギョウ)・(ケイコウ)」「仰之弥高=これを仰げば弥高し」〔論語・子罕〕
  3. {動詞}あおぐ(あふぐ)。他人から物をもらう。また、何かしてもらう。▽去声に読む。「仰仗(ギョウジョウ)(他人にたよってしてもらう)」「以衣食異、無仰於漢也=衣食異に以て、漢に仰ぐこと無きなり」〔史記・匈奴〕
  4. {名詞}上級から下級に命じる公文書の最初の部分につけることば。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①おおせられる(おほせらる)。おっしゃる。身分の高い人が話したり命令したりすることの尊敬語。
    ②おおせ(おほせ)。身分の高い人の命令やことば。「主君の仰せ」。

ゴウ(平)

  1. {形容詞・動詞}たかい(たかし)。上の位置にあるさま。また、たかい位置になる。《対語》⇒低。「低款(テイゴウ)」。
  2. 「款款(ゴウゴウ)」は、たかく盛んなさま。「莅莅款款、如圭如璋=莅莅(ぎょうぎょう)款款として、圭(けい)の如(ごと)く璋(しゃう)の如し」〔詩経・大雅・巻阿〕
  3. {代名詞}われ。吾(ゴ)と同系の一人称代名詞。▽非常に古い古典にしか用いない。「款須我友=款我が友を須つ」〔詩経・癩風・匏有苦葉〕

ギョウ(上)

  1. {動詞}あおぐ(あふぐ)。上を向く。▽仰に当てた用法。《対語》⇒伏。「款天(ギョウテン)」。

字通

[形声]声符は卬(こう)。卬は二人相対する形であるが、上下の関係を以ていえば、上からは抑、下からは仰となり、左右では迎となる。仰は〔説文〕八上に「擧ぐるなり。人に從ひ、卬に從ふ」と会意に解するが、その訓も字義に適切でなく、字もその構造法からは形声としてよい。卬の繁文で、仰ぐことをいう。〔詩、小雅、車舝(しやかつ)〕に「高山は卬(あふ)ぐ」と、なお卬の字を用いている。

[会意]二人相対する形。路上に相迎えることを迎(迎)、上下の関係にあるときは、上なるものは抑、下なるものは仰となる。卬は仰の初文。〔説文〕八上に「望むなり。庶及する所有らんと欲するなり」とし、匕と卪(せつ)とに従うとするが、仰望の意を示す字ではない。また「詩に曰く、高山は卬(あふ)ぐ」と〔詩、小雅、車舝(しゃかつ)〕の句を引く。〔広雅、釈詁四〕に「嚮(むか)ふなり」、〔玉篇〕に「向ふなり」と訓するのは転義。また昂と通用する。一人称の我の意に用いるのは仮借。

堯/尭(ギョウ・8画)

尭 甲骨文 堯 金文
甲骨文/堯盤・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は頭にものを載せ、跪く人「㔾」で、これがなぜ「堯」の字に比定されたか判然としない。金文の字形は上下に「土」+「一」+「人」で、頭に土を乗せた人。甲骨文・金文では身分ある人間を正面形で「大」と描き、ただの人は横向きに「人」と描き、隷属民は跪かせて「㔾」と描く。金文の「堯」は横向きであることから、聖王「堯」の意ではない。

音:カールグレン上古音はŋioɡ(平)。同音は「僥」(平)”ねがふ”のみ。近音に「仰」ŋi̯aŋ(上)。論語語釈「仰」を参照。

用例:「甲骨文合集」9379は欠損がひどくて一時しか判読できず、これがなぜ「堯」の字に比定されたか判然としない。

西周早期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0340に「堯」、NA0343に「堯氏」とあり、前者は意味不明、後者は氏族名と解せる。

西周中期「堯杯」(集成9436)に「󺷔敢乍堯盉。」とあり、人名と解せ、「国学大師」では「堯」ではなく「姜」と釈文する。

西周中期「堯作壺」(集成9518)に「堯乍壺。」とあり、人名と解せ、「国学大師」では解読不能とする。

西周中期「堯盤」(集成10106)に「󺷔敢乍堯般。」とあり、青銅器の名と解せ、「国学大師」では「堯」ではなく「姜」と釈文する。

春秋末期までのよう例は異常で全て。

漢語多功能字庫

甲骨文上從二「」,下從「」,「」表示高而上平,「」表示高高的土丘。本義是高山,引申為高、高遠之貌。


甲骨文の上部は二つの「土」の字形に属し、下部は「兀」の字形に属す。「兀」は高くて上が平らである事を意味し、「堯」は高くそびえる土の丘の意。原義は高い山、派生義として高い、崇高な姿。

学研漢和大字典

会意。堯の原字は、背にたかく物をかついだ人の姿。のち「軽(うずたかく盛った土)+人のからだ」となる。背のたかい人、崇高な巨人の意。▽聖天子*を尭というのも「たかい巨人」の意をふまえたいい方。翹(ギョウ)(たかくかかげた羽)・嶢(ギョウ)(たかい山)・高・喬(キョウ)(たかい)などと同系。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

語義

  1. {形容詞}たかい(たかし)。けだかい。《類義語》高。
  2. {名詞}《人名》古代の伝説上の聖天子。名は放勲(ホウクン)。五帝のひとり。舜(シュン)を起用して治水にあたらせた。のち舜の有能さを認めて天下を譲ったことは、儒家から理想の君主政治とされた。陶唐氏とも、唐尭ともいう。

字通

[会意]旧字は堯に作り、垚(ぎよう)+兀(こつ)。〔説文〕十三下に「高なり」と訓し、また「高遠なり」という。山の尭高、また石の多いさまを嶢崅(ぎようかく)という。古帝王の尭は「陶唐氏」と号し、その名号は土器文化と関係があるらしく、尭はその創始者とされたのであろう。燒(焼)は堯に従う。土器を焼成するとき、竈に多くの土器を列することから、堯の字形が生れたものと思われる。段々にして積みあげるので尭高の意となった。本来山の尭高をいう字ではない。

曲(キョク・6画)

曲 甲骨文 曲 金文
合1022甲/曲父丁爵・殷代末期

初出:初出は甲骨文

字形:曲げた肘の象形。

音:カールグレン上古音はkʰi̯uk(入)。

用例:「甲骨文合集」01022甲.3に「貞曲」とあり、この二字だけでは語義を判定しかねる。

春秋早期「曾子斿鼎」(集成2757)に「曾子倝擇其吉金。用鑄舄彝。惠于剌曲。」とあり、「剌」は「烈」(列)と釈文されており、「剌曲」は”列なったそれぞれの部分”→”家臣たち”と解せる。

春秋の「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1978に「十一年,命(令)少曲慎彔」とあり、職名と解せる。

学研漢和大字典

象形。まがったものさしを描いたもので、まがって入り組んだ意を含む。局(狭く入り組んだ所)・句(まがってくぼむ)と同系。類義語の屈は、くぼむこと。折は、がくんと中断すること。彎(ワン)は、まるくまがること。挫(ザ)は、切れめがぎざぎざになるよう、むぞうさにおること。「正しくない」の意味の「まげる」は「枉げる」とも書く。また、「くま」は「隈」とも書く。

語義

  1. {動詞・形容詞}まがる。まげる(まぐ)。《対語》⇒直。《類義語》屈。「屈曲」「曲折」「曲肱而枕之=肱を曲げてこれを枕とす」〔論語・述而〕
  2. {形容詞}まがって入り組んでいるさま。こまごまとこまかく複雑であるさま。「曲礼」「委曲」。
  3. {形容詞・名詞}よこしま。むりにこじつけている。ひねくれている。ねじまがっていること。《対語》直。《類義語》邪。「曲邪」「曲学阿世(キョクガクアセイ)」。
  4. {動詞}まげる(まぐ)。むりにこじつける。「曲為之説=曲げてこれが説を為す」。
  5. {名詞}すみ。まがっていて入り組んでいる所。入り組んでいて、人目につかない所。くま。「河曲(かわの入りこんだすみ)」「郷曲(キョウキョク)(片いなかのすみ)」。
  6. {名詞}ふし。音調を高く低くまげたふし。▽中国の現代音はq?と読む。《類義語》節。「音曲」。
  7. {名詞}元(ゲン)代以降に流行した芝居や、その台本。
  8. {名詞}蚕を飼うための、わく組み。
  9. {名詞}芸人や職人の仲間。「部曲」。
  10. 《日本語での特別な意味》
    ①くせ。こまごまと複雑な悪さをする。「曲者(クセモノ)」。
    ②きょく。おもしろみ。「曲がない」。
    ③技巧の複雑な芸。「曲芸(軽わざ)」「曲馬(キョクバ)(馬乗りの軽わざ)」。
    ④まげる(まぐ)。品物を質に入れる。

字通

[象形]竹などで編んで作った器の形。〔説文〕十二下に「器の曲りて物を受くる形に象る」とあり、一説として蚕薄(養蚕のす)の意とする。すべて竹籠の類をいい、金文の簠(ほ)はその形に従う。簠の遺存するものは青銅の器であるが、常用の器は竹器であったのであろう。それで屈曲・委曲の意となり、直方に対して曲折・邪曲の意がある。

亟(キョク・8画)

亟 金文
曾大保盆・春秋

初出は甲骨文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯ək(入)

学研漢和大字典

会意。上下二線の間に人を描いて頭上から足先の端までの間を示し、それに人間の動作を示す口と手とを加え、からだの端から端までを緊張させて動作することをあらわす。亟は、たるまない、すぐになどの意味を含む。極(端から端までの間)、また、克(コク)(はりきる)と同系。

語義

キョクjí
  1. {副詞}すみやかに。たるまずに、急いで。「亟其乗屋=亟(すみや)かにそれ屋に乗れ」〔詩経・漿風・七月〕
キqì
  1. {副詞}→語法「②」。
  2. (キナリ){形容詞}物事がさし迫っているさま。「需用甚亟=需用甚だ亟なり」。

語法

①「すみやかに」とよみ、「いそいで」「たるまずに」と訳す。緊張した状態をたもったまま次の行為・動作に移行する意を示す。「亟其乗屋=亟(すみや)かにそれ屋に乗れ」〈はやく屋根に登って普請せよ〉〔詩経・漿風・七月〕

②「しばしば」「しきりに」とよみ、「しきりに」と訳す。くりかえされる行為・動作の間が短い意を示す。《類義語》数。「好従事而亟失時、可謂知乎=事に従ふを好みて亟(しばしば)時を失ふ、知と謂ふ可きや」〈政治をすることが好きなのにたびたびその機会を逃していて、智といえますか〉〔論語・陽貨〕

字通

[会意]二+人+口+(又)。二は上下の間の狭い空間。ここに人をおしこめ、前に自己詛盟を示す祝禱の器(𠙵(さい))をおき、後ろから手でおしこむ。人を極所に陥れて罰する方法を示す。これによって殺すことを殛、その場所を極という。罪によって殺すことを原義とし、極所・究極の意よりして君位をいう。また棘(きよく)に仮借して急棘、すみやかの意となる。〔詩、大雅、文王有声〕「其の欲を亟(すみ)やかにするに匪(あら)ず」の亟を、棘に作るテキストがある。〔説文〕十三下「敏疾なり」はその仮借義。また〔繫伝〕に「天の時を承け、地の利に因り、口もて之れを謀り、手もて之れを執る。時は失ふべからず。疾きなり」と字形を説くが、曲説に近い。亟は殛・極の初文。その殛殺の法を示す。放竄の刑をもまた亟(極)といった。金文の〔毛公鼎〕に「女(なんぢ)に命じて一方に亟(きみ)たらしむ」、〔晋姜鼎〕「乍(すなは)ち疐(とど)まりて亟と爲らん。萬年無疆ならんことを」のような用法がある。亟を君の義に用いることは文献に例をみないが、金文にみえて最も古い用義。〔詩、周頌、思文〕「我が烝民を立(粒)するは 爾(なんぢ)の極に匪(あら)ざる莫(な)し」の極は、おそらく君の意であろう。

洫(キョク・9画)

洫 隷書
老子乙前58下・前漢

初出:初出は前漢の隷書

字形:「氵」+「血」。血がほとばしるさま。

音:カールグレン上古音は声母のxi̯wək(入)。同音は存在しない。

用例:『墨子』明鬼篇に「於是泏洫𢵣羊」とあり、”血を出させる”と解せる。

淢 金文
「淢」㝨盤・西周末期

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「淢」があり、初出は西周中期の金文。西周中期「長甶盉」(集成9455)に「穆王在下淢㡴。」とあり、”みぞ”と解しうる。

学研漢和大字典

意。血は、皿(さら)の上に、━印をそえて血のたまったさまを描いた象形文字。洫(キョク)は「水+血」で、血がからだの血管をめぐるように、田畑をめぐって水を与えるみぞを示す。ただしキョクという語は、域(くぎり、わく)・淢(イキ)(外わくのみぞ)などと同系で、田畑の外わくをなすみぞのこと。類義語の溝は、構と同系で、対照に組みたてて構えたみぞ。

語義

  1. {名詞}みぞ。田畑の外わくをなすみぞ。田畑の通水路。《類義語》梅(イキ)・溝(コウ)。「尽力乎溝洫=力を溝洫に尽くす」〔論語・泰伯〕

字通

[形声]声符は血(けつ)。田間の水を通ずるところをいう。〔説文〕十一上に「十里を成と爲す。成の閒、廣さ八尺、深さ八尺、之れを洫と謂ふ」とあり、〔周礼、考工記、匠人〕の文による。字はまた淢(きよく)に作る。〔詩、大雅、文王有声〕「城を築き伊(ここ)に淢す」の淢を、〔韓詩〕に洫に作る。〔説文〕に「淢は疾(はや)く流るるなり」と形況の語とするが、或(わく)に界域の意があり、洫の本字であろう。

茍(キョク/コク・9画)

茍 甲骨文 苟 金文
合27147/大盂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:初出の甲骨文は、羊型のかぶりものをした人=羌が跪いている姿。異民族を従わせること、従うことを意味するのだろう。「苟」とは別字。論語語釈「苟」を参照。

音:カールグレン上古音・藤堂上古音は不明。発展形である「敬」のカールグレン上古音はki̯ĕŋ(去)。論語語釈「敬」を参照。

用例:甲骨文は複数の用例が見られるが、破損のためか釈文されていない。

西周早期「苟乍父丁鬲」(集成543)では、人名に用いた。

西周早期「𣄰尊」(集成6014)に「徹令茍(敬)□(享)□(哉)」とあり、「敬」と釈文され”慎み深く”と解せる。

西周中期「𤼈鐘」(集成252)に「夙夕虔茍(敬)」とあり、「敬」と釈文され”慎み深く”と解せる。

文献時代になると「苟」と区別がつかなくなったらしく、漢代の成立とみられる『小載礼記』大学篇に「茍日新,日日新,又日新。」”一日一日とみずからを新しくし、また一日一日と新しくする”とあるのを、「苟」と記す例がある。

参考:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”警戒”、地名に用いられ、金文では”敬う”(大保簋・西周早期)の意に用いた。

「国学大師」苟字条は、「甲骨文有苟 甲骨文 外字字〈合21091〉,可隸作或羌。金文有苟 金文 外字字,用為敬的異體。」という。「敬」の字の字形変遷を、「国学大師」は下掲のように示すが、説明の順序として、まず殷代の異民族、「羌」の甲骨文を示す。

羌 甲骨文「羌」甲骨文・合集180

敬 国学大師

初出の甲骨文は、羊型のかぶりものをした人=羌が跪いている姿。異民族を従わせること、従うことを意味するのだろう。漢字は「乱」の字に見られるように、ある事物の、主体と客体両方の立場をともに意味することがある。そして現状、殷代でのこの字は甲骨文のみ。

次代の西周早期になって金文が現れるが、その字形にはくちや手と笞(攴→攵)が加わるようになる。おそらく周代になって、羌は反抗し始めたのではないか。口でやかましく言い、笞で引っぱたいて腕づくで押さえつけないと、恐れ入らなくなったらしい。

一説によると殷周革命は、殷に狩りの対象とされ、生きギモを抜き取られていた羌族が殷を恨み、周と同盟して成功させたという。武王の軍師・太公望は、羌族とも言われる。なお四角をパブロフ犬のように𠙵サイだという白川説は、空想が過ぎるため必ずしも訳者は支持しない。

「敬」から手と笞を取り去った姿が「茍」だが、口で言うだけでは言うことを聞かないから手が出たので、つまり「茍」とは、言われて一時的に従っている姿、とこじつけ得る。台湾の中央研究院も、字形としては西周早期の金文を初出としている

※『学研漢和大字典』『字通』『漢字源』『新漢語林』『新字源』『中日大字典』に条目無し。

大漢和辞典

茍 大漢和辞典

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棘(キョク・12画)

棘 甲骨文棘 金文
集成31957/蔡子□鼎・春秋末期或戦国早期

初出:「国学大師」による初出は甲骨文。「小学堂」による初出は春秋末期あるいは戦国早期の金文

字形:甲骨文の字形は「」”とげ”2つ。金文以降も同様とみられる。

音:カールグレン上古音はki̯ək(入)。

用例:甲骨文の用例は欠損が激しく語義を明確にしがたい。西周早期「󻇨卣」(集成5322)は部品か独立した字か不明だが、人名と解せる。春秋から戦国に掛けては、武器の”ほこ”を意味した。

学研漢和大字典

会意。刺の字の左がわの朿(とげでさす)を二つ並べたもので、とげで人をひやひやさせるいばらの木。棗(ソウ)(とげのあるなつめ)は、別字。▽「いばら」は「茨」「荊」とも書く。また「とげ」は「刺」とも書く。

語義

  1. {名詞}いばら。とげ。木の名。うばら。茎に堅いとげのある草木の総称。「荊棘(ケイキョク)(いばら、けわしい道)」。
  2. {名詞}刺(シ)がとげのように出たほこ。武器の一種。
  3. {形容詞}とげとげしい。つらい。
  4. {名詞}罪人を入れておく獄舎。
  5. {形容詞}すみやか。さしせまっているさま。きびしい。▽亟(キョク)に当てた用法。
  6. {名詞}公卿(コウケイ)の位のこと。▽昔、宮廷の左右に、それぞれ、三本の槐(えんじゅ)と九本のいばらを植えて、三公九卿の位置を示したことから。「三槐九棘(サンカイキュウキョク)」。

字通

[会意]二朿(し)を並べた形。朿はとげのある木。〔説文〕七上に「小棘、叢生する者なり」という。古く公卿はその庭に九棘を植えたので、大理卿(司法)のところを棘寺・棘署といった。宮門には矛戟(ぼうげき)の類を立てて、棘門という。棘疾の意は亟・革の音と通用の義である。

玉(ギョク・5画)

玉 甲骨文 玉 金文
合33233/『字通』所収金文

初出:初出は甲骨文

字形:数珠つなぎにした玉の象形。

音:カールグレン上古音はŋi̯uk(入)。

用例:「甲骨文合集」06033反.3に「貞王夢玉惟𡆥」とあり、”たま”と解しうるのだが、”たま”でなくとも文意が通る。

西周中期「尹姞鬲」(集成755)に「易(賜)玉五品、馬三匹」とあり、”たま”と解せる。

学研漢和大字典

象形。細長い大理石の彫刻を描いたもので、かたくて質の充実した宝石のこと。三つの玉石をつないだ姿とみてもよい。楷書では王と区別して丶印をつける。頊(ギョク)(かたく充実した頭)・嶽(ガク)(=岳。かたい山)などと同系。類義語の璧(ヘキ)は、薄く平らな宝石。珠は、真珠。異字同訓に球「電気の球。球を投げる」 弾「ピストルの弾」。「丸い形をしたもの」の意味の「たま」は「球」とも書く。

語義

  1. {名詞}たま。大理石などの美しい石。▽つややかなはだざわりが好まれた。「宝玉」「玉器」「有美玉於斯=斯に美玉有り」〔論語・子罕〕
  2. {形容詞}宝石のように、すぐれていて美しい。「玉肌(ギョッキ)」「玉姿」。
  3. {形容詞}天子*、または他人に関する事物につけて、天子や他人を尊ぶことば。「玉体」「玉座」「玉稿(あなたの原稿)」。
  4. {動詞}たまとする(たまとす)。たまにする(たまにす)。玉のようにたいせつにする。また、玉のように美しくりっぱなものにする。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①たま。まるいもの。「あめ玉」「玉子(タマゴ)」。
    ②たま。ある性質をもった人。「善玉」「悪玉」。
    ③芸者。「半玉(ハンギョク)(一人前でない芸者)」。
    ④ぎょく。将棋の駒の一つ。玉将のこと。「入玉」。
    ⑤ぎょく。料理屋・すし屋で、鶏のたまごのこと。また、たまご焼きのこと。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[象形]玉を紐で貫いた形。佩玉の類をいう。〔説文〕一上に「石の美なるもの、五徳有る者なり」とし、「潤澤にして以て溫なるは仁の方なり」など、仁義智勇絜の五徳を説く。そのことは〔荀子、法行〕〔管子、水地〕にみえる。玉は魂振りとして身に佩びるほか、呪具として用いられたもので、殷の武丁の妃とされる婦好墓からは、多くの精巧な玉器が発見されている。玉の旧字は王。王は完全な玉。玉は〔説文〕一上に「朽玉なり。王に從うて點有り。讀みて畜牧(きうぼく)の畜の若(ごと)くす」(段注本)とあり、瑕(きず)のある玉をいう。〔詩、大雅、民労〕「王、女(なんぢ)を玉にせんと欲す」の玉は、おそらくその畜の音でよみ、「好(よみ)す」の意に解すべきであろう。

獄(ギョク・14画)

獄 金文
六年召伯虎簋・西周末期

初出:初出は西周末期の金文

字形:「ギン」”犬が吠え合う”+「言」”ことば”。言葉の言い争い、訴訟の意。

音:カールグレン上古音はŋi̯uk(入)。「ゴク」は呉音。

用例:西周末期「六年召白虎𣪕」(集成4293)に「用獄󻇘為白」とあり、”言い争う”と解せる。

西周末期「蔡𣪕」(集成4340)に「勿事敢又疾止從獄」とあり、”判決する”と解せる。

学研漢和大字典

会意。「犬+犬+言(かどだてていう)」で、二匹の犬が争うように、いがみあっていいあうことを示す。かたくとげとげしいの意を含む。嶽(ガク)(=岳。ごつごつした山)・玉(かたい大理石)などと同系。

語義

  1. {名詞}とげとげしくいがみあう裁判。うったえごと。「訟獄」「疑獄(疑いのもたれる裁判事件)」。
  2. {名詞}ひとや。かたくごつごつとかためたろうや。「牢獄(ロウゴク)」「獄吏」。
  3. (ゴクス){動詞}裁判する。うったえる。

字通

[会意]言+㹜(ぎん)。言は神に詛盟すること。二犬はその犠牲として当事者の双方から提出されるもので、これによって審判が開始される。善が羊と誩(きよう)とに従い、盟誓して羊牲を立て、羊神判を行うのと似ている。〔説文〕十上に「确(かく)なり」と牢屋の意とし、「二犬は守る所以なり」とするが、そのような立意の字ではない。金文に「從獄」という語があり、獄訟に連なることをいう。獄舎のことは、古く夏台・羑里(ゆうり)・圜土(えんど)・土室・囹圄(れいご)・犴獄(かんごく)などといった。

論語語釈
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