論語語釈「エ」

亦(エキ・6画)

論語 亦 甲骨文 論語 亦 金文
(甲骨文・金文)

原義は人間の両脇で、ついで”…もまた”の意だが、論語での語義はほとんどの場合、”おおいに”。これは奕と音が通じるための仮借義で、原義よりは時代が下る可能性が高いが、”両脇・…もまた”では解釈出来ない場合、”おおいに”と解するしか仕方が無い。

『学研漢和大字典』による両者の音の変遷は次の通り。

  上古(周・秦) 中古(隋・唐) 現代北京語 ピンイン
ḍiǎk yiɛk iəi i
ḍiǎk yiɛk iəi i

全時代を通じてまったく同じであり、両者は音としてもと同じ言葉だったが、後世になって書き分けられたと判断できる。つまり”大いに”の意は、論語の時代にも妥当だと言っていい。

論語と同時代の金文として、「哀成弔鼎」がある。ただし未解読字が多く、「亦」の語義を定めがたい。

正月庚午。嘉曰。余󱳸。邦之產。少去母父。乍鑄飤器黃鑊。君既安惠。弗其󱢁󱳹。嘉是隹哀成弔。哀成弔之鼎。永用󱳺祀。死于下土。台事康公。勿或能󱞎 。

学研漢和大字典

指事文字。人間が大の字にたった全形を描き、その両わきの下をヽ印で示したもの。わきの下は左に一つ、右にもう一つある。同じ物事がもう一つあるの意を含む。腋(エキ)(わきの下)や掖(エキ)(わきの下に手をいれてささえる)の原字。類義語の又は、重ねて、その上に輪をかけての意。

意味

  1. {副詞}また。→語法「①」。
  2. {助辞}また。→語法「②」

語法

①{副詞}「(も)また~」とよみ、
(1)「~もまた」「~も同様に」と訳す。ある行為・状態が、別の人・物に波及・重複する意を示す。▽「亦」は、「A~、B亦~=A~して、Bもまた~す」と使用されるように、主語が異なり、述語が同じ。「A~、B亦~」は通常、「A~、B亦如是=A~す、Bもまたかくのごとし」と多く表現される。「又」は、「A~又…=A~してまた…す」と使用されるように、主語が同じで、述語が異なる。「賢者亦楽此乎=賢者もまたこれを楽しむか」〈賢者もやはりこうしたものを楽しむだろうか〉〔孟子・梁上〕
(2)「これはまあ」「これはまず」と訳す。婉曲の意を示す。「此後亦非而所知也=この後はまたその知る所に非(あら)ざるなり」〈そのあとは、まあ、お前の知るところではない〉〔史記・高祖〕
(3)「ただ~だけ」と訳す。限定の意を示す。「亦不用於耕耳=また耕すに用ひざるのみ」〈ただ耕作に心をくだかなかっただけのことだ〉〔孟子・滕上〕

②{助辞}「不亦~乎」は、「また~ずや」とよみ、「なんと~ではないか」と訳す。反語、あるいは反語の強調の意を示す。「有朋自遠方来、不亦楽乎=朋(とも)の遠方自(よ)り来たる有り、また楽しからずや」〈友達が遠い所からも訪ねて来る、いかにも楽しいことだね〉〔論語・学而〕

論語 学而 亦 エキ
『字通』

人の正面形である大の、両脇を示す。〔説文〕十下に「兩亦の形に象る」とし、腋の初文。

訓義

(1)わき、わきのした。(2)又・有・也と声近く通用する。また。(3)奕に通じ、おおいに。

大漢和辞典

亦 大漢和辞典
亦 大漢和辞典

易(エキ・8画)

論語 易 甲骨文 論語 易 金文
(甲骨文・金文)

『字通』に”宝玉を持った巫女がたまぶりをする姿”とある。最も古い甲骨文を見ると、『字通』の言う通り、とかげには見えないと訳者は思う。

また春秋時代早期の字体では、「賜」と書き分けられていないものがある。
論語 賜 金文
(「德鼎」西周早期)

学研漢和大字典

論語 ヤモリ 易
会意文字で、古歌通りとかげの意とし、文字の形は「やもり+彡印(もよう)」で、蜥蜴(セキエキ)の蜴の原字。もと、たいらにへばりつくやもりの特色に名づけたことば。

また、伝逓の逓(次々に、横に伝わる)にあて、AからBにと、横に、次々とかわっていくのを易という。地(たいらな土地)・紙(たいらなかみ)・錫(セキ)(たいらに伸ばす、すず)・也(ヤ)(たいらなさそり)などと同系のことば。

意味〔一〕エキ

  1. {動詞}かえる(かふ)。かわる(かはる)。とりかえる。次々に入れかわる。《類義語》逓(テイ)・変・改。「改易」「交易」「以羊易之=羊を以てこれに易ふ」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}とかげ。やもり。《同義語》蜴(エキ)。「蜥易(=蜥蜴(セキエキ))」。
  3. {名詞}昔の占いの書。「連山」「帰蔵」「周易」の三種があったと伝えるが、今では「周易」が残っているだけである。陰と陽との組み合わせでできた六十四卦(カ)が次々にかわる相をあらわすので易という。「易経」。
  4. 「辟易(ヘキエキ)」とは、横に避けからだを低めて、退却すること。のち、閉口して退く意に用いる。「辟易数里=辟易すること数里」〔史記・項羽〕

意味〔二〕イ

  1. {形容詞}やすい(やすし)。たやすい。抵抗がない。▽動詞の上につき、「易行(オコナイヤスシ)」のように用いる。《対語》難(ナン)・(カタシ)。「容易」「少年易老学難成=少年老い易く学成り難し」〔朱熹・偶成〕→語法。
  2. {形容詞・名詞}やすらか(やすらかなり)。たいら(たひら)。でこぼこや抵抗がない。手軽な。平穏な境地。《類義語》安・平。「安易」「平易」「君子居易以俟命=君子は易きに居て以て命を俟つ」〔中庸〕
  3. {動詞}やすしとする(やすしとす)。かろんずる(かろんず)。あなどる。なんでもないと思う。平気でいる。「仲尼賞而魯民易降北=仲尼賞して魯の民降北を易んず」〔韓非子・五蠹〕
  4. {動詞}おさめる(をさむ)。平らにおさめる。でこぼこをなくす。物事を順調にはこぶ。「易耨(イジョク)(田畑の土をかえしてならす)」「喪与其易也寧戚=喪は其の易めんよりは寧ろ戚め」〔論語・八佾〕

語法

「~しやすし」とよみ、「~するのがやさしい」「~しやすい」と訳す。「君子易事而難説也=君子は事(つか)へ易(やす)くして説(よろこ)ばしめ難(がた)きなり」〈君子は仕えやすいが喜ばせにくい〉〔論語・子路〕

字通

会意、日+勿。日は珠玉の形。勿はその玉光。玉光を以て魂振りを行う。玉を台上におく形はようで、陽と声義が近い。〔説文〕九下に「せき易・蝘蜓えんてい・守宮なり」と、とかげ・いもり・やもりの名をあげ、象形とする。また一説として「日月を易と為す。陰陽に象るなり」とするが、外部は勿の形。玉による魂振りをいう。

訓義

  1. あらためる、かわる。
  2. 魂振りにより、やさしい、やすらか。
  3. 平易より、あなどる、おろそか。
  4. 周易、えき。
  5. 蜥易、とかげ。

益(エキ・10画)

論語 益 金文 益 金文
(金文)

「益」の金文には二系統があり、上掲の左=白川フォントは[「」など”くくる・くびる”系統の金文。”ふやす”系統は右の字形となり、甲骨文から存在する。

学研漢和大字典

「益」は会意文字で、「水の字を横にした形+皿(さら)」で、水がいっぱいになるさま。溢(イツ)(あふれるほど、いっぱいになる)と同系のことば。

意味

  1. (エキス){動詞}ます。不足分をたしていっぱいにする。《対語》⇒損・減。《類義語》増。「増益」「益而不已必決=益してやまざれば必ず決す」〔易経・序卦〕
  2. {名詞}たらない所をうめるもの。もうけ。とく。ききめ。《対語》損。「得益=益を得」「有益」「益者三友」〔論語・季氏〕
  3. {名詞}漢代に置かれた州の名。ほぼ今の四川省の地。
  4. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。(震下巽上(シンカソンショウ))の形で、上をへらして下をふやすさまを示す。
  5. {副詞}ますます。どんどん上に加わって。いよいよ。《類義語》愈(イヨイヨ)。「益多=益多し」。

繹(エキ・19画)

初出は戦国時代の秦の文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdi̯ak。同音に睪(うかがい見る)を部品とする漢字群。『大漢和辞典』には睪に”引く”の語釈を載せる。ただし睪の初出は戦国早期の金文で、論語の時代に存在したとは言いがたい。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、繹(エキ)は「目+幸(手かせの形)」の会意文字で、ひとりずつ出てくる手かせをはめた罪人を目で選び出すさま。擇(タク)(=択。えらぶ)の原字。繹は「糸+〔音符〕錬」で、糸をたぐって一つずつ引き出すこと。○‐○‐○の形につづくの意を含む。驛(エキ)(=駅。一つ一つとつづいて並ぶ宿場)・擇(タク)(=択。一つずつ引き出して吟味する)・澤(タク)(=沢。つぎつぎとつづく湿地)と同系のことば。

語義

  1. {動詞}ぬく。たずねる(たづぬ)。つづいたものをずるずると一つずつ引き出す。つぎつぎと引き出して吟味する。「繹理=理を繹ぬ」「演繹(エンエキ)(ある理論をもとにして、一つずつ例にあてはめていく)」「繹之為貴=これを繹ぬるを貴しと為す」〔論語・子罕〕
  2. {動詞}つぐ。つづく。つらなる。一つずつ出てきて、ずるずると絶えずにつづく。「絡繹不絶=絡繹として絶えず」。
  3. {名詞}祭りの名。祖先をまつる正祭の翌日行う。「繹祭(エキサイ)」。

曰(エツ/オチ・4画)

論語 曰 金文
(金文)

学研漢和大字典

会意。「口+┗印」で、口の中からことばが出てくることを示す。謂(イ)(口をまるくあけて物をいう)・話(はなす)・聒(カツ)(口を開いてしゃべる)などと同系で、口にまるくゆとりをあけてことばを出す意。漢字を組みたてるさい、曰印は、いうの意に限らず、広く人間の行為を示す意符として用いられる。

意味

  1. {動詞}いう(いふ)。口をあけてものをいう。発言した内容を、次に導くときに用いる。名づけて…という。《類義語》謂(いう)。「君称之曰夫人=君これを称して夫人と曰ふ」〔論語・季氏〕
  2. {動詞}いわく(いはく)。のたまわく(のたまはく)。いうことには。▽「いはく」は、「おそらく」と同じく、動詞「いふ」の未然形に「く」をつけた奈良時代の言い方。「問之曰=これに問ひて曰く」「答曰=答へて曰く」。
  3. {助辞}ここに。さて。そこで。「曰為改歳=曰に改歳と為す」〔詩経・漿風・七月〕
    《日本語での特別な意味》いわく(いはく)。理由。わけ。「曰くがある」。

字通

祝詞や盟誓を収める器の上部の一端をあげて、中の書をみる形。その書の内容を他に告げる意。〔説文〕五上に「詞なり。口に従い、乙声」とし、「亦た口气の出づるに象るなり」とするが、字は乙声ではなく、口気の象を示すものでもない。金文にこつの字があり、曰の上部に手を加えて、これを曶開する形である。

訓義

1)いう。神聖な語のときは「のたまはく」。2)となえる。なづける。3)イツイツエツ・越・于に通じ、助詞に用いる。ここに。

大漢和辞典

曰 大漢和辞典

怨(エン・9画)

この文字の初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔi̯wănで、同音に夗とそれを部品とする漢字群など。夗の語釈を『大漢和辞典』は”ころがりふす”という。「国学大師」も同様だが、バクチの一種といい、音通に蛇が這う様子、カササギ、という

夗 怨 金文
「夗」金文(四十三年逨鼎・西周晚期)

「怨」も「時」=之日、と同様、論語の時代に夗心(地面を這うような心)と書かれた可能性がある。従って用例のある論語の章は、直ちに後世の捏造と断定できない。

学研漢和大字典

会意兼形声。上部の字(音エン)は、人が二人からだを曲げて小さくまるくかがんださま。怨はそれを音符とし、心を加えた字で、心が押し曲げられてかがんだ感じ。いじめられて発散できない残念な気持ちのこと。宛(エン)(人がからだをまるくかがめる)と同系。類義語の恨(コン)は、根や痕と同系で、心中にいつまでも根に持ち、傷あとを残すこと。慍(ウン)は、胸中にいかりやうらみがこもること。

語義

  1. {動詞}うらむ。人に押さえられて気が晴れない。残念でむかむかする。《類義語》恨(コン)。「怨恨(エンコン)」「上不怨天下不尤人=上は天を怨みず下は人を尤めず」〔中庸〕
  2. {名詞}うらみ。残念で不快な気持ち。無念さ。「構怨=怨みを構ふ」「匿怨而友其人=怨みを匿して其の人を友とす」〔論語・公冶長〕
  3. (エンナリ)(Zンナリ){形容詞}うらめしげである。「乱世之音、怨以怒=乱世之音は、怨にして以て怒し」〔詩経・大序〕
  4. {名詞}あだ。うらめしい相手。または、うらみを抱く相手。▽平声に読む。「怨仇(エンキュウ)」「放於利而行多怨=利に放にして行へば怨多し」〔論語・里仁〕

焉(エン・11画)

論語 焉 金文 論語 焉 篆書
(金文・篆書)

原義はそう呼ばれる黄色い鳥だという。上掲の金文は現在最も古い「焉」の字で、戦国末期の「中山王壺」に鋳込まれたもの。従って論語の当時には存在しないが、言葉としては下記『学研漢和大字典』の通り存在し、「」(藤堂上古音・an)と書かれた。

ただし句末の焉は、安との音通では説明できない。安に「然」と同様の助辞としての用法があることを、『大漢和辞典』は記すが、用例が戦国時代の『荀子』で、論語に適用できるかは検討を要する。

同じく句末の助辞で「ここに」と読む云の藤堂上古音は、ɦɪuən(ɦはロシア語のХ同様、hの濁音)で焉ɪanと音通しているとは言いがたい。『大漢和辞典』にいう「形容の辞=然」に着目し、然nian(しかり)と音通すると考えたいが、ʔ(空咳の音に似る)とnの音の違いは埋められそうにない。

  カールグレン上古音 カールグレン同音 藤堂上古音
ʔi̯an/ɡi̯an なし/衍 ɪan
ʔɑn 按案晏 ・an
ȵi̯an 然 同音 外字戁戁 nian

なお『字通』が「焉ian、安an、烏・悪a、於ia、于hiuaは声が近く通用する」といっているのは、どうにも釈然としない。IPAを用いていないし、音通するしないの基準が分からない。『字通』には如何わしい点がちらほらあり、鵜呑みにすると危険である。

学研漢和大字典

象形文字で、えんという鳥を描いたもので、燕(エン)(つばめ)に似た黄色い鳥。安・anと焉・ɪanとは似た発音であるので、ともに「いずれ」「いずこ」を意味する疑問副詞に当てて用い、また「ここ」を意味する指示詞にも用いる。

意味

  1. {副詞}いずくんぞ(いづくんぞ)。いずくにか(いづくにか)。→語法「1.2.」。
  2. {副詞}いずれ(いづれ)。なに。→語法「3.」。
  3. {名詞}江南に産する黄色い鳥。
  4. {指示詞}これ。これより。→語法「5.」。
  5. {指示詞}ここに。→語法「4.」。
  6. {助辞}→語法「6.」。
  7. {助辞}形容詞につける助詞。状態をあらわす。《類義語》然・如。「洋洋焉(ヨウヨウエン)」「瞻之在前忽焉在後=これを瞻るに前に在り忽焉として後ろに在り」〔論語・子罕〕
  8. 「少焉(ショウエン)」「頃焉(ケイエン)」とは、しばらく。しばらくして。

語法

  1. 「いずくんぞ~や」とよみ、「どうして~であろうか(いや~でない)」と訳す。方法を問う反語の意を示す。「後世可畏、焉知来者之不如今也=後世畏(おそ)る可し、焉(いづ)くんぞ来者の今に如(し)かざる知らんや」〈青年は恐るべきだ。これからの人が今(の自分)に及ばないなどと、どうして分かるものか〉〔論語・子罕〕
  2. 「いずくにか~」とよみ、「どこに~か」と訳す。場所を問う疑問・反語の意を示す。「君子哉若人、魯無君子者、斯焉取斯=君子なるや若(か)の人、魯に君子なる者無(な)かりせば、これ焉(いづ)くにかこれを取らん」〈君子だね、こうした人物は、魯に君子がいなかったら、この人もどこからその徳を得られたろう〉〔論語・公冶長〕
  3. 「なにをか~」「いずれ(いづ/れ)か~」とよみ、「なにを~か」「どれを~か」と訳す。疑問・反語の意を示す。「復駕言兮焉求=また駕して言に焉(なに)をか求めん」〈ふたたび車に乗って出仕し、そこに何を求めようというのか〉〔陶潜・帰去来辞〕
  4. 「ここに(空間)」とよみ、「ここに」と訳す。一字で「於是」「於此」の意を示し、文末におかれる。「吾夫又死焉=吾が夫またここに死す」〈私の夫も、また(虎のために)死にました〉〔礼記・檀弓〕
  5. 「これより(比較の対象)」「これに(対象)」とよみ、「これより」「これに」と訳す。一字で「於是」「於此」の意を示し、文末におかれる。「晋国天下莫強焉=晋国は天下これより強きは莫(な)し」〈晋国は天下にこれより強いものはない〉〔孟子・梁上〕。「是以君子悪居下流、天下之悪皆帰焉=これをもって君子は下流に居ることを悪(にく)む、天下の悪皆これに帰す」〈だからして君子は下等にいるのをいやがる。世界中の悪事がみなそこに集まってくるのだから〉〔論語・子張〕
  6. 文末において訓読せずに、「~なのだ」「~にちがいない」と訳す。語調を整え、断定の語気を示す助詞。▽「矣」と同じ用法だが、矣ほど断定の程度が強くない。「有君子之道四焉=君子の道四つ有り」〈君子の道を四つそなえていたのだ〉〔論語・公冶長〕
  7. 「や」「か」とよみ、「~か」「~であろか」と訳す。疑問・反語の意を示す助詞。「雖褐寛博、吾不惴焉=褐寛博(かつかんばく)と雖(いへど)も、吾惴(おそ)れざらんや」〈だぶだぶの粗末な服を着た卑しい者であっても、恐れずにいられようか〉〔孟子・公上〕

字通

論語 焉 字解
〔説文〕四上に「焉鳥なり。黄色。江淮に出づ」とするが、〔段注〕に「今未だ何の鳥なるかを審らかにせず」とあり、実体が知られない。烏・於が死鳥やその羽の象形であることからいえば、焉も呪的に用いる鳥の象形で、そのゆえに疑問詞にも用いるのであろう。

訓義

とりのな。この鳥の羽を掲げて、卜い問うことに用いたらしく、「いずくんぞ」「いずこ」のように疑問詞とする。ここに。また終助詞に用いる。

大漢和辞典

象形。鳥の形に作る。

字解

いづくんぞ、いづくにか、疑問の辞。ここに於いて、すなわち、上を承けて下を起こす辞。これ。物・事・処を指示する代名詞、発語の助辞。に、より、位置または比較を表す助辞。か、句末に置いて疑問を表す助辞。や、句末に置いて反語の意を表す助辞、句調を整える助辞。形容の辞、然に同じ。語調を整える助辞。語の終わりに添えて断定の意を表す助辞。鳥の名。馬に作る。姓。発声の辞、夷に通ず。言はない。

偃(エン・11画)

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はʔi̯ăn。

学研漢和大字典

会意兼形声。妟(アン)は、晏の異体字で、上から下へ押さえるの意を含む。幹(エン)は「匚(かくす)+(音符)妟(アン)」の会意兼形声文字で、物を上から下へ低く押さえて姿勢を低くし、隠れること。偃は「人+(音符)幹」で、低く押さえること。按(アン)(上から下へと押さえる)と同系。

語義

  1. {動詞}ふせる(ふす)。からだを低くしてふせる。「偃息(エンソク)」「偃於邸舎=邸舎に偃す」〔枕中記〕
  2. {動詞}たおれる(たふる)。低くふせたおれる。「草上之風必偃=草これに風を上ふれば必ず偃る」〔論語・顔淵〕
  3. {動詞}やすめる(やすむ)。ふせる(ふす)。道具を置いてひとやすみする。「偃武=武を偃す」。
  4. {動詞}土を押さえかためて水流をせきとめる。▽堰(エン)に当てた用法。

字通

[形声]声符は匽(えん)。〔説文〕八上に「僵(たふ)るるなり」と顛僵の意とする。匽は秘匿の場所(匸)で、女子に玉(日)を加えて魂振りすることを示す。女は伏してその玉を加えられるので、偃とはその姿勢をいう。

遠(エン・13画)

論語 遠 金文 論語 遠 篆書
(金文・篆書)

学研漢和大字典

会意兼形声文字。「甞+(音符)袁(エン)(間があいて、ゆとりがある)」。袁(エン)(ゆったりした外衣、ゆとりがある)・緩(カン)(ゆとりがある)・寛(カン)(ゆったり)と同系のことば。草書体からひらがなの「を」ができた。

意味

  1. {形容詞}とおい(とほし)。距離・時間の隔たりが大きい。間をあけて離れている。《対語》⇒近・邇(ジ)。「遠国」「永遠」「雖遠越、其可以安乎=越よりも遠しと雖も、其れ以て安かるべけんや」〔韓非子・説林上〕。「遠嫁単于国=遠く単于の国に嫁す」〔欧陽脩・明妃曲〕
  2. {名詞}とおき(とほき)。とおい所。とおくに住んでいる人。また、昔の人。昔の事がら。《対語》⇒近。「思遠=遠きを思ふ」「自遠而至=遠きよりして至る」。
  3. {動詞}とおしとする(とほしとす)。とおいと思う。《対語》⇒近。「不遠千里而来=千里を遠しとせずして来たる」〔孟子・梁上〕
  4. {動詞}とおざける(とほざく)。とおざかる(とほざかる)。さかる。間をあける。とおく離す。とおく離れる。▽去声に読む。《対語》⇒近。「是以君子遠庖廚也=是を以て君子は庖廚に遠ざかるなり」〔孟子・梁上〕。「兄弟無遠=兄弟遠ること無し」〔詩経・小雅・伐木〕
  5. 《日本語での特別な意味》「遠江(トオトウミ)」の略。「遠州」。

袁 甲骨文
「袁」(甲骨文)

字通

声符は袁。〔説文〕二下に「はるかなり」とし、遼と互訓。袁は死者の衣襟のうちに、玉(○)を加え、枕もとに之(あし、はきもの)を加えて、遠く送る意。それより遠方・遐遠の意となる。

訓義

(1)とおい、はるか。(2)とおざかる、けうとい。(3)ひさしい、ひろい。

大漢和辞典

遠 大漢和辞典
遠 大漢和辞典

厭(エン・14画)

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はʔăm(上声)またはʔi̯am(去声)またはʔi̯ap(入声)。

学研漢和大字典

会意。猒は熊の字の一部と犬とをあわせ、動物のしつこい脂肪の多い肉を示す。しつこい肉は食べあきていやになる。厂印は上からかぶさるがけや重しの石。厭は「厂+猒」。食べあきて、上からおさえられた重圧を感じることをあらわす。壓(=圧。上からおさえつける)と同系。類義語に忌。

語義

エン(去声・上声)
  1. {動詞}あきる(あく)。有り余っていやになる。また、やりすぎていやになる。《同義語》⇒饜(エン)。「学而不厭=学んで厭かず」〔論語・述而〕
  2. {動詞}いとう(いとふ)。しつこくていやになる。もうたくさんだと思う。「厭世(エンセイ)」「人不厭其言=人其の言を厭はず」〔論語・憲問〕
  3. {副詞}あくまで。とことんまで。「弟子厭観之=弟子厭くまでこれを観る」〔荘子・人間世〕
  4. {動詞}悪夢や精霊に押さえられる。うなされる。《同義語》⇒魘(エン)。
オウ(入声)
  1. {動詞・形容詞}おす。おさえる(おさふ)。上からおさえつける。上からかぶさったさま。《類義語》圧(オウ)・(アツ)。「厭勝(ヨウショウ)」。
  2. {動詞}隠す。上から下のものをおおい隠す。「厭然製其不善=厭然として其の不善を製ふ」〔大学〕

字通

[会意]厂(かん)+猒(えん)。〔説文〕は猒と厭とをそれぞれ別に録し、猒五上には「飽くなり。甘に從ひ肰(ぜん)に從ふ」と甘肉に飽く意とし、厭九下には「笮(さく)なり」として「壓笮」の壓(圧)と解する。厂は聖所。猒は犬の肩肉で厭の初文。猒を供えて祀り、神が満足する意。

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