名(メイ・6画)
甲骨文/南宮乎鐘・西周末期
初出:初出は甲骨文。
字形は「夕」”夕暮れ時”+「𠙵」”くち”で、伝統的には”たそがれ時には誰が誰だか分からないので、名を名乗るさま”と言う。
音:「ミョウ」は呉音。カールグレン上古音はmi̯ĕŋ(平)。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名に用い、金文では”名づける”(少虡劍・春秋末期)、”銘文”(鼄公華鐘・春秋末期)の意に用い、戦国の竹簡で”名前”を意味した。
学研漢和大字典
会意文字で、「夕(三日月)+口」。薄暗いやみの中で自分の存在を声で告げることを示す。よくわからないものをわからせる意を含む。鳴(鳥が自分の所在をわからせる→声を出してなく)・命(自分の気持ちや意志を声でわからせる)と同系のことば。
語義
- {名詞}な。人の名前。人の本名。
▽中国では元服(=冠)すると名のほかに字(アザナ)をつけ、長上に対する場合には本名を、友人の間では字を呼ぶ。また、屈原(原は字)の本名は平であるように、名と字は意味上関連するものが多い。「姓李氏、名耳、字伯陽=姓は李氏、名は耳、字は伯陽なり」〔史記・老子〕 - {名詞}な。内容を「実」というのに対して、それをあらわすことばのこと。転じて、称号・ことば・文字・表現など。「名家(中国の論理学派)」「刑名学」「名学(論理学のこと)」「必也正名乎=必ずや名を正さんか」〔論語・子路〕
- {名詞}な。評判。「文名」「揚名於後世=名を後世に揚ぐ」〔孝経・開宗明義〕
- {形容詞}有名である。すぐれているさま。「名勝」「常為名大夫=常に名大夫と為す」〔史記・管仲〕
- {動詞}なづける(なづく)。命名する。「自名秦羅敷=自ら秦羅敷と名づく」〔古楽府・焦仲卿妻〕
- {動詞}なあり。有名になっている。「名海内=海内に名あり」。
- {単位詞}人数を数えるときのことば。「三名」。
字通
[会意]夕(肉)+口。口は𠙵(さい)、祝禱を収める器。子が生まれて三月になると、家廟に告げる儀礼が行われ、そのとき名をつけた。〔説文〕二上に「自ら命(ない)ふなり。口夕に從ふ。夕なる者は冥(めい)なり。冥(くら)くして相ひ見ず。故に口を以て自ら名いふ」とするが、字の上部は祭肉の形。下は祝禱の器の𠙵の形である。〔礼記、内則〕に生子の礼を詳しく記している。命名は祖霊の前で行われ、加入儀礼としての意味をもつ。名実の意から、名分・名声・名流のように用いる。
明(メイ・8画)
甲骨文/明公簋・西周早期
初出:初出は甲骨文。
字形:太陽と月の組み合わせ。原義は”明るい”。
音:カールグレン上古音はmi̯ăŋ(平)。同音は論語語釈「命」を参照。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で、また”光”の意に用いた。金文では”清める”(師詢簋・西周後期)、”厳格に従う”(秦公鐘・春秋早期)、戦国の金文では”はっきりしている”(𠫑羌鐘・戦国早期)、”あきらかにする”(中山王鼎・戦国末期)の意に用いた。戦国の竹簡では”顕彰する”、”選別する”、”よく知る”の意に用いた。
学研漢和大字典
会意。「日+月」ではなくて、もと「冏(ケイ)(まど)+月」で、あかり取りの窓から、月光が差しこんで物が見えることを示す。あかるいこと。また、人に見えないものを見分ける力を明という。望(モウ)・(ボウ)(見えないものをのぞむ)・萌(モウ)・(ボウ)(見えなかった芽が外に出て、見える)などと同系。異字同訓に空く・空ける「席が空く。空き箱。家を空ける。時間を空ける」 開く・開ける「幕が開く。開いた口がふさがらない。店を開ける。窓を開ける」。付表では、「明日」を「あす」と読む。
語義
- {形容詞}あきらか(あきらかなり)。あかるい(あかるし)。光がさしてあかるい。よく物が見える。はっきりして疑う余地がない。《対語》⇒暗・昏(コン)。「明暗」「明白」「月明星稀=月明らかに星稀なり」〔曹操・短歌行〕。「人倫、明於上=人倫、上に明らかなり」〔孟子・滕上〕。「人之性悪明矣=人之性悪なること明らかなり矣」〔荀子・性悪〕
- {形容詞}あきらか(あきらかなり)。物事にあかるい。道理がよくわかっているさま。《対語》⇒昏(コン)・愚(おろか)。「明君」「雖愚必明=愚と雖も必ず明らかなり」〔中庸〕
- {動詞}あきらかにする(あきらかにす)。はっきりさせる。「在明明徳=明徳を明らかにするに在り」〔大学〕
- {名詞}ものを見分ける力。さとい目の働き。「失明」「離婁之明」〔孟子・離上〕
- {名詞}曇りない知恵。「蔽明=明を蔽ふ」。
- {動詞・名詞}あける(あく)。あけ。夜あけ。夜があけること。「未明(ミメイ)(まだあけやらぬころ)」「旦明(タンメイ)(朝)」「遅明(チメイ)(夜明け)」「欲明天=明けんと欲する天」〔白居易・与微之書〕
- {名詞}あかり。光線。ともしび。「取明=明を取る」。
- {名詞}この世。《対語》⇒幽(あの世)。「幽明、異所(生者と死者と、別の世に隔たる)」。
- {助辞}尊敬の意をあらわすためにつける接頭辞。「明公(あなた)」「明府(お宅、あなた)」。
- {形容詞}あけて次。「明日」「明春」。
- {名詞}何もかも見通している神。「神明」「明器(死者にそえて埋葬する器物)」。
- {名詞}王朝名。元(ゲン)を倒して朱元璋(シュゲンショウ)がたてた。一三六八~一六四四年の間、十七代続いたが、満州族の清(シン)に滅ぼされた。「明代(ミンダイ)」。
- 《日本語での特別な意味》
①あけ。期間が終わること。また、その時期。「彼岸明け」。
②あく。すき間ができる。
字通
[会意]正字は朙に作り、囧(けい)+月。囧は窓の形。窓から月光が入りこむことを明という。そこは神を迎えて祀るところであるから、神明という。〔説文〕七上に「照らすなり」とし、また古文の明を録し、その字は日月に従うが、卜文・金文の字はすべて囧に従う。〔詩、小雅、楚茨〕「祀事孔(はなは)だ明らかなり」のように、神明のことに用いるのが本義。ゆえに〔易、繫辞伝下〕「神明の徳に通ず」のようにいう。黄土層の地帯では地下に居室を作ることが多く、中央に方坑、その四方に横穴式の居室を作る。窓は方坑に面する一面のみで、そこから光をとる。光の入る所が神を迎えるところであった。この方坑の亞(亜)字形が明堂や墓坑の原型をなすものであったと考えられる。周初の聖職者を明公・明保といい、周公家がその職を世襲したと考えられる。すべて神明の徳に関することを明という。
命(メイ・8画)
「令」(甲骨文)/不𡢁簋蓋・西周末期
初出:初出は甲骨文。ただし「令」と未分化。現行字体の初出は西周末期の金文。
字形:「令」の字形は「亼」”呼び集める”+「卩」”ひざまずいた人”で、下僕を集めるさま。「命」では「口」が加わり、集めた下僕に命令するさま。原義は”命じる”・”命令”。
音:カールグレン上古音はmi̯ăŋ(去)。同音は下記の通り。
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
明 | メイ | あきらか | 甲骨文 | 平 | →語釈 |
盟 | 〃 | ちかふ | 甲骨文 | 〃 | |
皿 | 〃 | さら | 甲骨文 | 上 | |
命 | 〃 | いひつける | 甲骨文 | 去 |
用例:「漢語多功能字庫」によると、金文で原義(競卣・西周早期)、”任命”(豆閉𣪕・年代不明)、”褒美”(即𣪕・年代不明)、”寿命”(𦅫鎛・春秋)、官職名(十年洱陽令戈・戦国?)、地名(令狐君壺・戦国)の用例がある。ただし「天命」の用例は戦国時代の竹簡まで時代が下る。
しかし春秋末期BC518ごろの「蔡侯尊」には、「蔡𥎦虔共大命」とあり、「虔んで大命を共にす」と訓める。”天命”と解せなくもない。
「命」の原義は”天命”であり、天命によって享受するものだから”いのち”の意になった。論語の時代に含まれるBC518ごろの「蔡侯尊」には、「蔡𥎦虔共大命」とあり、「蔡侯□虔んで大命を共にす」と訓める。つまり”天命”の意。
「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。
学研漢和大字典
会意。「亼(シュウ)(あつめる)+人+口」。人々を集めて口で意向を表明し伝えるさまを示す。心意を口や音声で外にあらわす意を含む。特に神や君主が意向を表明すること。転じて、命令の意となる。名(ことばで素姓を明らかにする)・鳴(声で所在をつげる)と同系のことば。
語義
- {名詞}みこと。神や目上の人からのさしず・いいつけ。お告げ。「命令」「天命(天の神のさしず)」「使人致命懐王=人をして命を懐王に致さしむ」〔史記・項羽〕
- (メイズ){動詞}いいつける。「舜亦以命禹=舜も亦た以て禹に命ず」〔論語・尭曰〕
- {名詞}天からの使命。▽天の意向を自分の責任として自覚したもの。
- {名詞}天からの運命。▽天の定めを避けがたいものと自覚したもの。「命矣夫=命なる矣夫」〔論語・雍也〕
- {名詞}いのち。天から授かった生きる定め。のち広く、生命。「士見危致命=士は危ふきを見て命を致す」〔論語・子張〕
- {動詞}なづける(なづく)。名をつける。《同義語》⇒名。「命名」「命曰和氏之璧=命づけて和氏の璧と曰ふ」〔韓非子・和氏〕
- {名詞}ことば。名称。「誓命(誓いのことば)」「誥命(コウメイ)(天子*から爵位を与えられる賞詞)」。
- 《日本語での特別な意味》みこと。神の称号。「大国主命」。
*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。
字通
会意、令+口。令は礼帽を着けて、跪いて神の啓示を受ける形。口は祝詞を収める器の𠙵。神に祈って、その啓示として与えられるものを命という。〔説文〕二上に「使うなり。口に従い、令に従う」とし、口を以て使令する意とするが、もと神意を意味する字である。卜文・金文に令を命の意に用い、令がその初文。周初の金文〔大于鼎〕に「天の令する大令(命)を受けらる」とあり、のち〔賢𣪘〕に「公、事を命ず」のように、命の字を用いる。天命の思想は〔大于鼎〕をはじめ、〔也𣪘〕などにも「顕〻たる受令(命)」とあって、周王朝創建の理念として掲げられたものであった。人の寿夭も天与のものであるから、列国期の金文に「永命眉寿」を祈る語を著けるものが多い(訳者注、眉寿は眉の長い年寄り、転じて長寿)。金文にまた賜与の意に用い、〔献𣪘〕「厥の臣、献(人名)に金車を令う」のように用いる。天の命ずるところであるから、人為の及ばないこと全てを命といい、君子は命を知るべきものとされた。
訓義
- おおせ、いいつか、神のお告げ、おしえ、あたえる。
- いのち、うまれつき、さが、神よりうけたもの。
- さだめ、運命、めぐりあわせ。
- お上のいいつけ、命令、おきて。
鳴(メイ・14画)
合17367/王孫遺者鐘・春秋末期
初出:初出は甲骨文。
字形:「𠙵」”くち”+「鳥」。鳥の声。
音:カールグレン上古音はmi̯ĕŋ(平)。「嗚」とは別字。論語語釈「嗚」を参照。
用例:「甲骨文合集」4725.1に「辛未卜鳴獲井鳥」とあり、”鳥が鳴く”と解せる。
学研漢和大字典
会意。「口+鳥」で、鳥が口で音を出してその存在をつげること。名(口で音を出す)・命(声を出して意図をつげる)と同系。類義語に啼。「なく」「なかす」「なき」は「啼く」「啼かす」「啼き」とも書く。
語義
- {動詞}なく。鳥がなく。また、獣などが声を出す。「鶏鳴」「鳥之将死其鳴也哀=鳥のまさに死せんとするや其の鳴くこと哀し」〔論語・泰伯〕
- {名詞}鳥や獣のなき声。人のなき声やうめき声。「鹿鳴(ロクメイ)」「悲鳴」。
- {動詞・名詞}なる。物が音を出す。また、その音。「共鳴」「雷鳴」。
- {動詞}ならす。楽器などをならす。「小子鳴鼓而攻之可也=小子鼓を鳴らしてこれを攻めて可なり」〔論語・先進〕
- {動詞}なる。音がきこえる。名声が世の中にひろく伝わる。なりひびく。《類義語》名。「孟軻荀卿以道鳴者也=孟軻荀卿は道を以て鳴る者なり」〔韓愈・送孟東野序〕
字通
[会意]口+鳥。口は祝禱を収める器の𠙵(さい)。神に祈り、鳥の声などによって占う鳥占(とりうら)の俗を示す字。〔説文〕四上に「鳥の聲なり」とするが、おそらく唯と同じ立意の字で、唯も隹(すい)(鳥)と𠙵とに従い、神意を卜し、神の承諾を求める俗をいう。ゆえに唯諾の意がある。卜辞に「鳴鳥あり」というのは神の啓示を得る意であろう。〔書、君奭〕に「我は則ち鳴鳥を聞かず。矧(いは)んや曰(ここ)に其れ能く(神意に)格(いた)る有らんや」という文がある。〔詩〕に鳥声の発想をとるものがあり、神の来格を示すものが多い。
滅(メツ・13画)
甲骨文/子犯鐘・春秋中期
初出:「国学大師」の初出は甲骨文。「小学堂」の初出は春秋中期の金文。
字形:甲骨文の字形は「烕」で、「火」+”火消し”。かぶせ物をかぶせて火を消すさま。原義は”消す”。
音:カールグレン上古音はmi̯at(入)。
用例:春秋中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1010/1022に「楚刱(荊)喪氒(厥)𠂤(師),滅氒(厥)●(屬)。」とあり、”うしなう”・”ほろぼす”と解せる。
備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。
学研漢和大字典
会意兼形声。府(メツ)とは「戉(ほこ)+火」の会意文字で、刃物で火だねを切って火をけすことを示す。滅は「水+(音符)府」で、水をかけて火をけし、または見えなくすること。蔑(ベツ)・(メチ)(みとめない)・漆(ベツ)・(メチ)(足先を見えなくするたび)などと同系。類義語の亡は、完全になくなる。
語義
- (メッス){動詞}ほろぼす。ほろぶ。ほろびる(ほろぶ)。この世からなくする。姿をなくする。たえてなくなる。《対語》⇒興。《類義語》亡。「滅亡」「消滅」「滅国者五十=国を滅ぼす者五十」〔孟子・滕下〕。「万径人蹤滅=万径人蹤滅す」〔柳宗元・江雪〕
- (メッス){動詞}きえる(きゆ)。火がきえる。また、火をけす。《対語》点・明。「点滅」「残灯滅又明=残灯滅えて又明らかなり」〔白居易・夜雨〕
- 仏陀、または高僧の死。「滅度」。
字通
[形声]声符は烕(べつ)。烕は戉(えつ)(鉞(まさかり))を火に加えて、火を鎮(しず)める意の字。〔説文〕十一上に「盡くるなり」とあり、烕十上にも「滅ぶるなり」とあって、滅尽することをいう。戉を聖器として、火を鎮圧する呪儀をいい、それより滅尽・滅亡の意とする。〔詩、小雅、正月〕に「赫赫たる宗周 褒姒(はうじ)之れを烕(ほろ)ぼす」、その上文に「燎(ひ)の方(まさ)に揚ぐるとき 寧(なん)ぞ之れを滅ぼすこと或(あ)らんや」とあり、烕を滅亡、滅を消火の意に用いる。古くその別があったのであろう。
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