論語語釈「ム」

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語釈 urlリンクミス

務(ム・11画)

論語 務 金文
毛公鼎?・西周末期

初出は西周末期の金文?。上掲金文は古今字資料庫になく、白川博士オリジナルと思われるが、字形から見て戦国時代らしい細長い金文ではないので、暫定的に論語時代にも通用したと判定する。カールグレン上古音はmi̯uɡ(去)。

学研漢和大字典

論語 矛

会意兼形声文字で、矛は、困難を排して切り進むほこ。敄(ム)は「攴+〔音符〕矛(ボウ)・(ム)」の会意兼形声文字で、むりに局面を打開する努力を示す。務はさらに力を加えたもので、敄の後出の字。困難を克服しようとりきむことという。

意味:

  1. {名詞}つとめ。やらねばならない仕事。「職務」「故能成天下之務=故に能く天下の務めを成す」〔易経・繫辞上〕
  2. {動詞}つとめる(つとむ)。困難をおかしても、やろうと力を尽くす。「君子務本=君子は本を務む」〔論語・学而〕
  3. {副詞}つとめて。ぜひとも。困難をおかして。「務必(かならず)」「務引其君以当道=務めて其の君を引きて以て道に当たらしむ」〔孟子・告下〕
  4. {動詞・名詞}あなどる。あなどり。▽侮に当てた用法。上声に読む。「外禦其務=外其の務を禦ぐ」〔詩経・小雅・常棣〕

字通

形声、声符はぼう。敄は矛をあげて人にせまる形。〔説文〕十三下に「おもむくなり」とあり、〔玄応音義〕に引いて「趣くことすみややかなり」とする。〔爾雅、釈詁〕〔玉篇〕に「つとむるなり」とあり、努めてそのことに赴くことをいう。力はすきの象形で、農耕につとめる意。〔国語、周語上〕「三時には農に務め、一時には武をあがなふ」、〔呂覧、上農〕「先づ農民に努む」など、農事に用いるのが本義である。

訓義

(1)つとめる、農事につとめる、はげむ。(2)はげます、すすめる。(3)つとめ、しごと。(4)おもむく、むかう。(5)敄、侮と通じ、あなどる。(6)ぼうと通じ、くらい。

大漢和辞典

務 大漢和辞典
務 大漢和辞典

無(ム・12画)

論語 無 金文
作冊般甗・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wo(平)。

学研漢和大字典

形声。甲骨文字は、人が両手に飾りを持って舞うさまで、のちの舞(ブ)・(ム)の原字。無は「亡(ない)+(音符)舞の略体」。古典では无の字で無をあらわすことが多く、今の中国の簡体字でも无を用いる。蕪(ブ)(茂って見えない)・舞(ない物を神に求めようとして、神楽をまう)などと同系。莫(マク)・(バク)mak(ない)は、無の語尾がkに転じたことば。亡(モウ)・(ボウ)mɪaŋ(ない)は無の語尾がŋに転じたことば。異字同訓に 無い「金が無い。無い物ねだり」 亡い「亡き父をしのぶ」。草書体をひらがな「む」として使うこともある。

意味

  1. {動詞}ない(なし)。形や姿がない。物や事がらが存在しない。▽日本語の「なし」は形容詞であるが、漢語では「無」は動詞である。《同義語》⇒无(ム)・(ブ)。《対語》⇒有。→語法「①」。
  2. {動詞}なかれ。→語法「③」。
  3. {動詞}なみする(なみす)。無視する。ないがしろにする。「無天子=天子を無す」。
  4. {動詞}なく。→語法「⑤」。
  5. {名詞}ないこと。また、老子や荘子の考えでは、現実の現象以前のもので有を生み出すもとになるもの。「天下万物生於有有生於無=天下の万物は有より生じ有は無より生ず」〔老子・四〇〕
  6. {助辞}ないの意をあらわす接頭辞。「無根」「無為」。
  7. 「無端(ムタン)・(ハシナクモ)」とは、かくべつの理由なしに、ひょっこりとの意をあらわすことば。「無端更渡桑乾水=端無くも更に渡る桑乾の水」〔賈島・渡桑乾〕
  8. 《日本語での特別な意味》なくす。失う。また、消滅させる。

語法

①「~無…」は、

  1. 「~に…なし」とよみ、「~には…がない」と訳す。人・物が空間に存在しない意を示す。「…」が主語。《対語》有。「執策而臨之曰、天下無馬=策を執りてこれに臨んで曰く、天下に馬無(な)しと」〈むちを手に取り、馬の前に立ちはだかって、この世には名馬がいないと言う〉〔韓愈・雑説〕
  2. 「~、…なし」とよみ、「~は…がない」「~は…をもっていない」と訳す。所有の否定の意を示す。《対語》有。「天道無親、常与善人=天道親無(な)く、常に善人に与(くみ)す」〈天道は私心を持たぬ、いつも善人に味方する〉〔史記・伯夷〕

②「無~…(=~の説明)」は、「~の…する(こと)なし」とよみ、「~は…することはない」「…する~はない・いない」と訳す。《対語》有。「渡江而西、今無一人還=江を渡りて西せり、今一人として還るもの無(な)し」〈長江を渡り西征の途についたが、今は誰ひとりとして生きてもどって来ない〉〔史記・項羽〕

③「なかれ」とよみ、「~するな」と訳す。禁止の意を示す。《同義語》毋。《類義語》勿(ナカレ)。「無友不如己者=己に如(し)かざる者を友とする無(な)かれ」〈自分より劣ったものを友達にはするな〉〔論語・学而〕

④「なくんば」とよみ、「もし~がなければ」と訳す。存在の否定による順接の仮定条件の意を示す。「人而無信、不知其可也=人にして信無(な)くんば、その可なることを知らざるなり」〈人として信義がなければ、うまくやっていけるはずがない〉〔論語・為政〕

⑤「無~無…」は、「~となく、…となく」とよみ、「~も…も区別なく」と訳す。範囲・条件が限定されない意を示す。「~」「…」には、対立する語がはいる。「無遠無近同欣欣=遠と無(な)く近と無く同じく欣欣(きんきん)たらしめん」〈遠くの人も近くの人も、ひとしく喜ばせたい〉〔白居易・昆明春水満〕▽「無~…=~…となく」「無論~…=~…をろんずるなく」も、意味・用法ともに同じ。

⑥「無~不…」は、

  1. 「~として…ざるなし」とよみ、「どんな~でも…しないものはない」と訳す。二重否定。範囲・条件が限定されない意を示す。「自西自東、自南自北、無思不服=西自(よ)り東自り、南自り北自り、思ひて服せざる無(な)し」〈西より東より、南より北より(諸侯がやってきて)、心から服従しないものはいなかった〉〔詩経・大雅・文王有声〕
  2. 「無~不…」は、「~なくんば…ず」とよみ、「~がなければ…ない」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「民無信不立=民信無(な)くんば立たず」〈人民は信がなければ安定しない〉〔論語・顔淵〕

⑦「無不~」は、「~ざるはなし」とよみ、「~しないものはない」と訳す。二重否定。「有才無不適=才有らば適せざる無(な)し」〈才能があれば、(どこにいても)心にかなわないことはないでしょう〉〔高適・送柴司戸充劉卿判官之嶺外〕▽「莫不~」も、「~ざるはなし」とよみ、意味・用法ともに同じ。

⑧「無非~」は、「~(に)あらざるはなし」とよみ、「~でないものはない」と訳す。二重否定。「動無非法=動くこと法に非(あら)ざるは無(な)し」〈いっさいの行動はすべて法に基づかないものはなくなる〉〔韓非子・有度〕▽「莫非~」も、「~(に)あらざるはなし」とよみ、意味・用法ともに同じ。

⑨「無寧~」は、「むしろ~か・や」「むしろ~なからんか・や」とよみ、「~のほうがいい」「~のほうがましである」と訳す。反語で、婉曲に断定する意を示す。「且予与其死於臣之手也、無寧死於二三子之手乎=かつ予(わ)れその臣の手に死なん与(よ)りは、無寧(むしろ)二三子の手に死なん」〈それにわしは家来などの手で死ぬよりは、むしろお前たちの手で死にたいものだね〉〔論語・子罕〕

⑩「無(毋)乃~乎(与)」は、「すなわち~なからんや」「むしろ~や」とよみ、「どちらかといえば~ではないか」と訳す。婉曲に断定する意を示す。「居簡而行簡、無乃大簡乎=簡に居て簡を行ふは、乃(すなは)ち大(はなは)だ簡なること無(な)からん」〈鷹揚に構えて鷹揚に行うのでは、余りに鷹揚すぎるのではないだろうか〉〔論語・雍也〕

字通

仮借、もと象形。人の舞う形で、舞の初文。卜文に無を舞(雨乞いの祭)の字に用い、ときに雨に従う形に作る。有無の無の意に用いるのは仮借。のちもっぱらその仮借義に用いる。〔説文〕六上に「豊かなり」と訓し、字を林に従う字とする。〔説文〕が林とするその部分は、舞袖の飾りとして加えたもので、金文に見えるその字形を、誤り伝えたものである。また「豊かなり」の訓も、〔爾雅、釈詁〕「蕪は豊かなり」とみえる蕪字の訓である。〔説文〕にまた「或いはう、規模の字なり。大册に従うは、数の積なり。林なる者は、木の多きなり。册と庶と同意なり」とし、「商書に曰く、庶草繁蕪す」と〔書、洪範〕の文を引く。今本に「蕪 外字ばんぶ」に作る。〔説文〕は字を林に従うものとして林部に属し、そこから繁蕪の意を求めるが、林は袖の飾り、字は人が両袖をひろげて舞う形。のち両足を開く形であるせんを加えて、舞となる。いま舞には舞を用い、無は有無の意に専用して区別する。

訓義

  1. まう、まい。舞の初文。
  2. ない、なし、あらず、なかれ、いな。
  3. むなしい、虚無。
  4. 蕪と通じ、しげる、ゆたか。
  5. 字はまた无に作る。

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コメント

  1. […] 論語の本章では”途中で止めるな”。「無」は古くは「毋」だったと陸徳明の『釋文』は書いている。意味は全く変わらない。ただし「無」は甲骨文から存在するが、「毋」は戦国時代にならないと現れない。詳細は論語語釈「無」を参照。 […]