今(キン・4画)
甲骨文/大盂鼎・西周早期
初出:初出は甲骨文。
字形:「亼」”集める”+「一」で、一箇所に人を集めるさまだが、それがなぜ”いま”を意味するのかは分からない。「一」を欠く字形もあり、英語で人を集めてものを言う際の第一声が”now”なのと何か関係があるかも知れない。
慶大蔵論語疏は異体字「〔𠆢〒〕」と記す。上掲「北魏一品嬪侯骨夫人墓誌銘」刻。
音:「コン」は呉音。カールグレン上古音はki̯əm(平)。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”今日”を意味し、金文でも同様(縣妃簋・西周中期)、また”いま”を意味するという(訓匜・西周末期/集成10285)。
学研漢和大字典
会意。「亼印(ふたで囲んで押さえたことを示す)+一印(とり押さえたものを示す)」で、囲みとじて押さえるの意味をあらわす。のがさずに捕らえ押さえている時間、目前にとり押さえた事態などの意を含む。また、含(ガン)(周囲をふさぎ口の中に含む)や、吟(ギン)(口をふさいで声だけ出す)などに含まれる。禽(キン)(とり押さえる)と同系。付表では、「今朝」を「けさ」「今日」を「きょう」「今年」を「ことし」と読む。
語義
- {名詞}いま。現在。《対語》⇒古。「今上(キンジョウ)」「今也不然=今や然らず」〔孟子・梁下〕
- {副詞}いまに。→語法「①」。
- {副詞}いま。→語法「③」
語法
①「いまに」とよみ、「まもなく」「そのうちきっと」と訳す。未来推量の意を示す。「吾属今為之虜矣=吾が属今これが虜と為らんとす」〈われわれはそのうちきっとこいつ(劉邦)のとりことなるだろう〉〔史記・項羽〕
②「いま」とよみ、「今は」「ところで」と訳す。過去と現在、説話と現実などの対比で、話題の転換を示す接続詞。「今天下三分、益州疲弊=今天下三分して、益州疲弊(ひへい)す」〈今や、天下は三つにわかれ、(そのうちの)益州は弱り衰えている〉〔諸葛亮・出師表〕
③「いま」とよみ、「もし~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。▽「則」「必」とともに多く用いる。「今有殺人者=今人を殺す者有り」〈たとえば、ここに人を殺した者がいるとしよう〉〔孟子・公下〕
④「今者」は、「いま」とよみ、「今」「今日」と訳す。「今者、妾観其出、志念深矣=今者(いま)、妾その出づるを観るに、志念深し」〈今日、わたくしはそのお出ましを拝見しましたが、ほんとうに思慮深いお姿でした〉〔史記・管晏〕
字通
[仮借]もと象形の字で、壺などの蓋栓の形。酒壺に蓋栓を施した形を酓(あん)という。飮(飲)の初形は酓に従い、㱃に作り、飲酒をいう。今は蓋栓の形であるが、その意に用いることはなく、のちもっぱら時の今昔の意に用いる。すなわち仮借の用法である。昔も腊肉の象であるが、のち仮借して今昔の意にのみ用い、初義には別に腊の字を作ってそれにあてた。〔説文〕五下に「是の時なり。亼(しふ)に從ひ、乁(きふ)に從ふ。乁は古文及なり」と字を会意とするが、字は蓋栓の形にすぎず、酓・㱃によって字の初義を考えることができる。今声の字に、上より蓋(ふた)して閉塞する意をもつものが多い。
斤(キン・4画)
征人鼎・西周早期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯ən(平)。同音は論語語釈「謹」を参照。字形は斧のかね部分。「漢語多功能字庫」は甲骨文での語義を不明とし、金文では地名(天君鼎・年代不詳)、重量単位(王子中府鼎・年代不詳)の用例を載せ、「謹」への転用は戦国の竹簡からと言う。
学研漢和大字典
象形。斤とは、ある物に、おのの刃を近づけて切ろうとするさまを描いたもので、おののこと。また、その石おのを、はかりの分銅に用いて、物の重さをはかったため、目方の単位となった。
語義
- {名詞}おの(をの)。《類義語》斧(フ)。「斧斤伐之=斧斤もてこれを伐る」〔孟子・告上〕
- {単位詞}重さの単位。一斤は十六両で、周代には二五六グラム、唐代以後は約六〇〇グラム、現代の中国では、五〇〇グラム。
- 「斤斤(キンキン)」とは、近づいて細かく見定めるさま。▽去声に読む。
- 《日本語での特別な意味》尺貫法の重さの単位。一斤は、普通一六〇匁で、約六〇〇グラム。ものによって一定していない。
字通
[象形]おのの形。〔説文〕十四上に「木を斫(き)るなり」とあり、手斧をいう。武器に用い、斤を両手でふりあげている形は兵。兵とは武器をいう。また重量の単位として用いる。
近(キン・7画)
(楚系戦国文字・秦系戦国文字)
初出:初出は楚系戦国文字。
字形:戦国文字の字形は「辵」(辶)”みちのり”+「斤」”おの”で、「斤」は音符、全体で”道のりが近い”。
音:カールグレン上古音はɡʰi̯ən(上/去) で、同音は論語語釈「勤」を参照。
用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」性情論02に「〔性〕自命出,命自天降。道(始)於情,情生於眚(性)。(始)者(近)情,冬(終)者(近)義。」とあり、”ちかい”と解せる。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同訓同音の「㞬」は小篆にすら見られない。同訓近音の「幾」ɡʰi̯ər(平)またはki̯ər(平/上)は西周中期から見られる。詳細は論語語釈「幾」を参照。
近 | ɡʰ | i̯ | ə | n | 上/去 |
幾 | ɡʰ | i̯ | ə | r | 平 |
上古音の同音に「勤」「懃」(つとめる)「芹」(せり)「慬」(うれえる・つつしむ)があるが”ちかい”の語釈が『大漢和辞典』にない。
備考:西周中期の「大克鼎」(『殷周金文集成』02836)に「柔遠能𤞷」とあり、「遠きを柔らげ𤞷くと能む」と釈文されている。上古音不明の「𤞷」を「邇」ȵi̯ărと解するのだが、「小学堂」「漢語多功能字庫」「国学大師」はそろって「邇」の金文を載せていない。
下記『学研漢和大字典』の解字から、部品の「斤」ki̯ən(平)が論語時代の置換字になりうるが、論語の時代までにその語義を確認できない。「漢語多功能字庫」は、戦国時代の金文を載せ、人名に用いる例があるという。
上古周秦 | 中古隋唐 | 元 | 現代北京語 | ピンイン | |
近 | gɪən | gɪən | kiən | tšɪən | jìn |
幾 | kɪər | kɪəi | kɪəi | tši | jǐ |
学研漢和大字典
会意兼形声。斤(キン)は、ふたつの線がふれそうになったさま。または、厂型の物に、<型の斧(オノ)の先端がちかづいたさまとみてもよい。近は「辵(すすむ)+(音符)斤」で、そばにちかよっていくこと。祈(キ)(幸福にちかづこうとする)・幾(キ)(ちかい)と同系。類義語の迫は、紙ひとえにせまること。附は、くっつくこと。切は、肌身をこするように、じかにこたえること。親は、じかに接すること。逼(ヒツ)・(ヒョク)は、ぴったりとくっつきそうにせまること。
語義
- {形容詞・名詞}ちかい(ちかし)。そばによって、ふれそうになっている。距離・場所・時間のへだたりが少ない。ちかい所。ちかくにあるもの。《対語》⇒遠。《類義語》幾(キ)・迫・切・親。「近接」「近代」「付近」。
- {形容詞}ちかい(ちかし)。身ぢかである。手ぢかでわかりやすい。《対語》遠。「言近而指遠者、善言也=言近くして而指の遠き者は、善言也」〔孟子・尽下〕
- {形容詞}ちかい(ちかし)。よく似ている。「近似」「近於愚=愚に近し」。
- {動詞}ちかづく。そばによっていく。▽去声に読む。《対語》遠(とおざかる)。「近利=利に近づく」。
- (キンス){動詞}身ぢかによせて親しむ。▽去声に読む。「近幸(そばにちかづけてかわいがる)」「有七孺子皆近=七孺子有り皆近せらる」〔戦国策・斉〕
字通
[形声]声符は斤(きん)。〔説文〕二下に「附くなり」とあり、附近の意。もと場所的に接近する意。のち側近・卑近、また近時・近年のように関係や時間の意に用いる。〔詩、大雅、崧高〕「往け近(こ)の王舅」は䢋(き)の誤字で、䢋は助詞。「往けや王舅」の意である。
均(キン・7画)
蔡侯紐鐘・春秋末期
初出:初出は春秋末期の金文。
字形:〔土〕+〔勻〕”等しくする”。西周までは「訇」の字を用いた。「勻」の正字体は「勻」(中が〔二〕)で「匀」(中が〔冫〕)は俗字。
音:カールグレン上古音はki̯wĕn(平)。
用例:春秋末期「蔡𥎦紐鐘」(集成210)に「均子大夫」とあり、”なごむ”または”あまねく”と解せる。
春秋末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0482では「韻」と釈文され、”音律”と解せる。
”等しくする”の語義は、明瞭には戦国の竹簡にならないと見られない。
学研漢和大字典
会意兼形声。勻(イン)は「手をひと回りさせた姿+二印(そろえる)」の会意文字で、全部にそろえて平均させること。均は「土+(音符)勻」で、土をならして全部に行き渡らせることを示す。類義語に斉。「ひとしい」は「等しい」「斉しい」とも書く。
語義
キン(平)
- {形容詞}ひとしい(ひとし)。全部に公平に行き渡っているさま。「平均」「不患寡、而患不均=寡なきを患へず、均しからざるを患ふ」〔論語・季氏〕
- {動詞}ひとしくする(ひとしくす)。公平に行き渡らせる。「願言均此施=願はくは言此の施しを均しうせん」〔蘇軾・足柳公権聯句〕
- {副詞}ひとしく。平均して。
ウン(去)
- {名詞}詩句の響きをあわせること。また、その調和のとれた部分。母音を含む音節の後半部。▽たとえば、単・干のanの部分。《同義語》⇒韻・韵(イン)。「押均(=押韻)」。
字通
[形声]声符は勻(きん)。勻は同量のものを鋳こんだ銅塊の形である〓に従う字。それで均等・平均の意がある。金もその形に従い、もと一定量の銅塊を意味する字であった。均は土をならして平衡にすること。〔説文〕十三下に「平徧なるなり」とし、字を会意にして亦声とするが、勻に平均の意があり、土は限定符である。
金(キン・8画)
合集41866.1/利簋・西周早期
初出:初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周早期の金文。
字形:甲骨文の字形は金文以降とまるで違い、「口」を二つ上下に並べた形「吕」。おそらくは延べ棒か金属粒の象形。金文以降は「冫」”液体”+「全」で、「全」は「𠆢」”屋根”+「王」”まさかり”。溶かして宮殿に備え付けるべきまさかりを作る材料の意。
音:カールグレン上古音はki̯əm(平)。
用例:「甲骨文合集」41866.1に「王其鑄黃金…」とあり、”金属”と解せる。
殷代末期「執尊」(集成5971)に「易吕二、聿二,執用乍(作)父丁□彝。」とあり、字形は「二」を上下に二つ並べた形。この器物が青銅以外の製品だという話を聞かないから、おそらく”青銅”の意。
以降西周になると「冫」+「全」の字形が通用するが、「赤金」「白金」などの言葉があり、「金」一字では「青銅」を意味し、「赤金」はおそらく銅、「白金」はおそらく錫。日本の十円玉は青銅貨だが、銅95%、錫1-2%、亜鉛3-4%という。
また戦国時代には、青銅を「美金」、鉄を「悪金」と呼んだ(『管子』小匡篇、『国語』斉語篇)。
備考:中国の漢学教授は「冫」を甲骨文の「吕」の変形としているが、根拠を言っていないので賛成できない。
学研漢和大字典
会意兼形声。今は「映(おさえたふた)+━」から成る会意文字で、何かを含んでおさえたさまを示す。金は「点々のしるし+土+(音符)今」で、土の中に点々ととじこもって含まれた砂金をあらわす。禁(キン)(おさえてとじこめる)・含(ガン)(ふくむ)などと同系。
語義
- {名詞}かね。金属の総称。▽殷(イン)・周代のころには、おもに青銅をいい、春秋時代以後には黄金をさす。「金石文(青銅器や石にほった古代文字)」「五金(金・銀・銅・鉄・錫)」「赤金(あかがね、銅)」「黒金(くろがね、鉄)」。
- {名詞}こがね。金属元素の名。黄金。元素記号はAu。かたいが、のびがよくてさびにくい。「金銀財宝」。
- {名詞・単位詞}かね。おかね。金銭。また、貨幣の単位をあらわす。▽漢代には、黄金一斤を、清(シン)代には、銀一両を一金という。「資金」「漢購我頭千金邑万戸=漢は我が頭を千金邑万戸に購ふ」〔史記・項羽〕
- {名詞}金属でつくった楽器。鐘や鉦(ショウ)など。「金石糸竹(いろいろな楽器)」。
- {形容詞}こがねいろの。黄色い。「金波」。
- {形容詞}こがねのようにたいせつな。「金言」「金科玉条」。
- {形容詞}黄金のようにかたい。「金城鉄壁」。
- {形容詞}こがねのように美しい。「金殿玉楼」。
- {名詞}五行の一つ。方角では西、季節では秋、音階では商、星では太白星(金星)、十干(ジッカン)では庚(コウ)・辛(シン)に当てる。
- {名詞}金星のこと。
- {名詞}王朝名。女真族の完顔部の阿骨打がたてた。北宋(ホクソウ)と遼(リョウ)を滅ぼして北中国を支配した。十代、一二〇年間で元(ゲン)に滅ぼされた。一一一五~一二三四
- 《日本語での特別な意味》
①{単位詞}黄金を含む率を示す単位。「十八金」。
②きん。将棋のこまの一つ。金将。
③七曜の一つ。「金曜日」の略。「花金」。
④きん。「金賞」の略。
字通
[象形]銅塊などを鋳こんだ形。金文の字形にみえる〓は匀の初文で、一定量の小塊の形。全の形がその鋳こみの形である。〔説文〕十四上に「五色の金なり」とあって、金・銀・銅の類の総称とする。またその字形について「西方の行なり。土に生ず。土に從ひ、左右に注するは、金の土中に在るの形に象る」とし、字を今(きん)声とする。声は近いが、字形は今に従う形ではない。金文の賜与に「金百寽(くわん)を賜ふ」のようにいうものは、銅器の素材としての材質で、寽もその円形の鋳金を持つ形である。
矜(キン・9画)
初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰi̯ĕn(平)。同音は存在しない。藤堂上古音では”ほこる”の語義でgɪən(平)、”あわれむ”の語義でkɪəm(平)。下掲『学研漢和大字典』では”あわれむ”の語義は「憐」藤音len(平)にあてたものという。「矜」kɪəm(平)とずいぶん違うが、つくりの「令」の藤音はlɪeŋ(去・平)で、音通と言えるのだろう。
「憐」石鼓文-呉人・春秋末期
『大漢和辞典』で音キン訓ほこるは他に存在しない。音キョウ訓ほこるに「𠑪」(初出・上古音不明)、「悙」(初出・上古音不明)、「憍」ki̯oɡ(平)・初出は楚系戦国文字、「譀」ɣam(去)・初出は後漢の説文解字がある。音キョウ・キン訓あわれむに「鹶」(初出・上古音不明)。
近音に「隱」(隠)”あわれむ”ʔi̯ən(上・去)、「憫」”あわれむ”mi̯wæn(上)、「愍」”あわれむ”mi̯wæn(上)、「𢛦」(イン)”あわれむ”(初出・上古音不明)、「憐」lien(初出は春秋末期の石鼓文、上)。
「国学大師」による古代の異体字に「矝」。初出は楚系戦国文字。論語語釈「矝」を参照。
呉音は「ゴン・キョウ・ケン」。
漢語多功能字庫
(解字無し)
学研漢和大字典
(篆書)
形声。篆文(テンブン)では「矛+令」、楷書(カイショ)では、「矛+今」。「あわれむ」という意味は、憐(レン)に当てたもので、「矛+(音符)令(レイ)・(レン)」。矛の柄や自信が強いの意に用いるのは「矛+(音符)今(キン)」。今では両者を混同して同一の字で書く。矜はかたく締めてとりつけた矛の柄。かたく固定することから、自信のかたいことをもあらわす。
語義
キンqín(平)
- {名詞}え。ほこのえ。刃物をかたくとりつけるえ。「伐棘棗而為矜=棘棗を伐りて矜と為す」〔淮南子・兵略〕
- {動詞}あわれむ(あはれむ)。かわいそうに思う。くよくよと思い悩む。《類義語》憐(レン)。「哀矜(アイキン)」「矜不能=不能を矜む」〔論語・子張〕
キョウjīn(平)
- {動詞}ほこる。かたく自信を持って自負する。「矜持(キョウジ)・(キンジ)」「君子矜而不争=君子は矜なれども争はず」〔論語・衛霊公〕
- {動詞}かたくまもる。
- 「矜矜(キョウキョウ)」とは、しっかりと構えて自信あるさま。
カンguān(平)
- {名詞}あわれな人。▽鰥(カン)(やもお)に当てた用法。「矜寡(カンカ)」。
字通
[形声]声符は今(きん)。〔説文〕十四上に「矛(ほこ)の柄なり」とあり、矛を意符とする字である。それが原義であろうが、用例はない。哀矜・矜持のように用いる。矛の柄を矛槿(ぼうきん)といい、矜にも槿の声がある。また「鰥寡(くわんくわ)」を「矜寡」に作ることがあり、鰥の義にも用いる。おそらく矛槿が字の原義、他の声義は仮借通用の義であろう。矜を哀矜の意とするのは、〔方言、一〕によると斉・魯の間の語であり、矜式の意は敬、矜急の意は緊、矜寡の意は鰥の仮借であろう。通用義の多い字である。
勤/勤(キン・12画)
㝬鐘・西周末期
初出は西周末期の金文。但し字形はつくりを欠く「堇」。現行書体の初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音はɡʰi̯ən(平)。同音は以下の通り。「ゴン」は呉音。
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
勤 | キン | つとめる | 西周末期の金文 | 平 | |
芹 | 〃 | せり | 楚系戦国文字 | ||
懃 | 〃 | つとめる | 後漢隷書 | ||
慬 | 〃 | うれへかなしむ | 楚系戦国文字 | ||
近 | 〃 | ちかい | 楚系戦国文字 | 上/去 | →語釈 |
漢語多功能字庫
学研漢和大字典
会意兼形声。左側の字(音キン)は「廿(動物のあたま)+火+土」の会意文字で、燃やした動物の頭骨のように、熱気でかわいた土のこと。水気を出し尽くして、こなごなになる意を含む。勤は、それを音符とし力を加えた字で、細かいところまで力を出し尽くして余力がないこと。それから、こまめに働く意をあらわす。饉(キン)(食物を食べ尽くして残り少ない)・僅(キン)(わずか)と同系。類義語に力。異字同訓につとめる⇒努。旧字「鏥」は人名漢字として使える。
語義
- {動詞・名詞}つとめる(つとむ)。つとめ。いそしむ。こまめに働く。精を出す。また、そのこと。《対語》⇒怠。《類義語》労。「勤労」「精勤」「四体不勤=四体勤めず」〔論語・微子〕
- {形容詞}こまごまと行き届くさま。《同義語》懃。「殷勤(インギン)(=殷懃。行き届いてていねいなさま)」。
- 《日本語での特別な意味》
①つとめる(つとむ)。つとめ。会社・役所などの職員・従業員として働く。またその仕事。「欠勤」。
②つとめ。僧の日課としての読経(ドキョウ)。「お勤め」。
字通
[形声]声符は堇(きん)。堇は飢饉のとき巫を焚いて祈る形。力は耒(すき)の象形。農耕のことに勤苦することをいう。〔説文〕十三下に「勞するなり」とあり、勞(労)もまた力に従う。金文に堇を勤の意に用い、〔宗周鐘〕「王肇(はじ)めて文武の堇(つと)めたまへる疆土を遹省(いつせい)す」、また〔単伯鐘(ぜんはくしよう)〕「大命に勳堇せり」のようにいう。堇は勤の初文とみてよい。もと飢饉を救うために特に奔走勤労する意であろう。
禽(キン・13画)
甲骨文/多友鼎・西周末期
初出:初出は甲骨文。
字形:甲骨文の字形は「隹」+「又」”手”で、「獲」の原字と同様、鳥を捕らえること。「漢語多功能字庫」は「鳥を捕らえる鳥網の象形」という。たも網状の甲骨文も存在する。西周の金文より「今」を音符として付けるようになったが、『甲骨文合集』7562にすでに「今」が付された字形が見える。
音:カールグレン上古音はgʰi̯əm(平)。
用例:『甲骨文合集』5618.5に「甲午卜貞呼朿尹有禽」とあるのは、「朿尹(人名もしくは槍猟師)を呼びて禽る有らんか」と読める。
『殷周金文集成』01937「大祝禽方鼎」に「大祝禽鼎」とあり、大祝(祭祀長官)の禽という人名と解せる。
『殷周金文集成』04329「不𡢁𣪕蓋」に「余來歸獻禽」とあり、「擒」”捕虜”の意と思われる。
春秋時代の出土物は現在確認できない。
備考:論語では子貢の弟弟子、子禽(姓は陳、諱は亢。『孔子家語』に依れば孔子より40年少)の名として現れる。
学研漢和大字典
会意兼形声。もと「柄つきの網+(音符)今(キン)(ふさぐ)」の会意兼形声文字。のち、下部に會(動物の尻)を加えたもので、動物を網でおさえて逃げられぬようにふさぎとめること。擒(キン)(とらえる)の原字。吟(口をふさいでうなる)・禁(ふさぎとめる)・陰(とじこめる)などと同系。類義語の鳥は、吊(チョウ)と同系で、長く尾をつり下げたとり。「とりこ」は「擒」「虜」とも書く。
語義
- {名詞}とり。網やわなで捕らえる動物。また、のち、猟をして捕らえるとりのこと。「禽獣(キンジュウ)(とりやけもの)」「君子之於禽獣也=君子の禽獣におけるや」〔孟子・梁上〕
- {動詞・名詞}とりこにする(とりこにす)。とりこ。捕らえる。また、捕らえられたもの。《同義語》⇒擒(キン)。「何為為我禽=なんすれぞ我が禽と為るや」〔史記・淮陰侯〕
字通
[会意]亼(しゆう)+畢(ひつ)。畢(あみ)でとらえ、上から覆う形で、擒の初文。〔説文〕十四下に「走獸の總名なり。厹(じう)に從ひ、象形。今(きん)聲なり。禽・离(り)・兕(じ)は頭相ひ似たり」という。象形にして今声というのは一貫せず、离・兕とは形も似ていない。周初の金文〔禽𣪘(きんき)〕は周公の子、伯禽の器で、その字は畢(あみ)の上を覆う形に作る。〔爾雅、釈鳥〕に「二足にして羽あるもの、之れを禽と謂ふ」とみえ、鳥の意とする。〔礼記、曲礼上〕に「猩猩(しやうじやう)は能く言(ものい)へども、禽獸を離れず」のように、禽と獣とを厳しく区別せずに用いることがある。擒は禽の動詞形の字である。
錦(キン・16画)
初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(上)。王力系統ではkǐəm。『大漢和辞典』で音キン訓にしきは他に存在しない。部品の「帛」bʰăk(入)の初出は甲骨文。訓は良く通じるが音がまるで違う。論語語釈「帛」を参照。
学研漢和大字典
会意兼形声。「帛(絹織り)+(音符)金」。金糸を織りこんだ絹織物。のち、布帛(フハク)の最高のものを錦といった。
語義
- {名詞}にしき。金糸や色糸を織りこんだ美しい模様の織物。あや織りの生地。「文錦」。
- {形容詞}錦(ニシキ)のように美しい。転じて、美しくほめたたえるときのことば。「錦雲」「錦心」「錦地」。
字通
[形声]声符は金(きん)。〔説文〕七下に「襄邑の織文なり」とあり、漢代にはその地で虎文などを織成し、歳貢とした。〔書、禹貢〕に揚州の織貝を歳貢としたことがみえる。蜀錦の起源も古く、金文の(艹+𠀆)伯(びはく)の器に、王室に帛(錦の類)を献ずることがみえる。伯は漢水流域の族であった。
謹(キン・17画)
「堇」甲骨文/司馬楙編鎛・春秋末期
初出:初出は春秋末期の金文。またごんべんを欠いた「堇」の字形の初出は甲骨文。
字形:字形は「𦰩」+「火」であり、「𦰩」は「口」+「大」”人の正面形”。天に口を利く人、つまりみこ。「堇」全体で、みこを火あぶりにするさま。原義は”雨乞いをする”・”日照り”。
慶大蔵論語疏は異体字「〔言艹口土〕」と記す。「魏高宗嬪耿壽姬墓誌」(北魏)刻。
音:カールグレン上古音はki̯ən(上)。同音は下記の通り。
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
斤 | キン | をの | 甲骨文 | 平/去 | →語釈 |
筋 | 〃 | すぢ | 秦系戦国文字 | 平 | |
釿 | ギン/キン | たつ | 晋系戦国文字 | 〃 | |
謹 | キン | つつしむ | 春秋末期金文 | 上 | |
巹 | 〃 | したがふ | 説文解字 | 〃 | |
靳 | 〃 | むながひ | 西周中期金文 | 去 |
藤堂上古音はkɪən。同音同訓の「仱」「憖」「矜」「禁」「赾」「緊」には、甲骨文・金文が存在しない。「欽」は戦国末期の金文からしか現れない。「肵」は甲骨文から存在するが、藤堂上古音・カールグレン上古音共に不明。
用例:春秋末期の「叔尸鐘」に「堇其政事。」とあり、「つつしんで其の政事を□れ」とあり、”つつしむ”の語義が確認できる。
「漢語多功能字庫」謹条によると、金文に「堇」の字形で”つつしむ”(啟卣・西周)の語義があるという。堇条によると、金文で”美玉”を(頌鼎・西周)を意味し、その他”朝見”・”勤労”・”謹慎”・国名人名を意味したとするが、出典を記していない。
漢語多功能字庫
金文寫作「堇」,「謹」是「堇」的後起字。啟卣:「啟從征,堇(謹)不憂(擾)。」「堇(謹)不憂(擾)」猶言「謹慎小心,沒有錯亂。」(參何琳儀、黃錫全)。參見「堇」。
金文では「堇」と書き、「謹」は「堇」より後に出来た。「啟卣」に、「啟從征,堇(謹)不憂(擾)。」とり、「堇(謹)不憂(擾)」とは、「慎重に気を付けよ、錯乱するな」の意。(參何琳儀、黃錫全)。「堇」条を参照。
→「堇」条
「堇」甲骨文從𦰩從火,象一人口向上張之形,置於火上,當與《說文》「熯」同字,會焚人牲以求雨,表示乾旱。
「堇」は甲骨文では「𦰩」と「火」の字形に属し、人が火の上で、口を上に向けて突き出す象形。『說文解字』の「熯」と同字であり、人を焼いて雨乞いする意を示し得、日照りを意味する。
学研漢和大字典
会意兼形声文字で、右側の堇(キン)は「動物の頭+火+土」からなり、かわいた細かい土砂のこと。謹はそれを音符とし、言を加えた字で、細かく言動に気を配ること。こまごまと小さい、の意を含む。
僅(キン)(細かい、わずか)・饉(キン)(食物がわずか)などと同系。懃(キン)ときわめて近く、懇切の懇(コン)とも縁が近いことば。
語義
- {動詞・形容詞}つつしむ。こまかに気を配る。また、ていねいにかしこまるさま。《同義語》⇒懃。《類義語》慎。「謹慎」「謹而信=謹みて而信あり」〔論語・学而〕
- {動詞}つつしむ。こまかに気を配って、狂いやもれのないようにつとめる。「謹権量=権量を謹む」〔論語・尭曰〕
- {動詞}あいてをうやまって使うていねい語。「謹白」「謹啓」。
字通
[形声]声符は堇(きん)。堇は焚巫(ふんぷ)の象に従う字で、飢饉に関する語は多くその声義に従う。〔説文〕三上に「愼むなり」と謹慎の意とする。行き倒れの道殣(どうきん)を葬り、その呪霊を封ずるために祈ることを謹という。その屍を殣(きん)、埋葬することを墐(きん)という。愼(慎)もまた顚死者の象である眞(真)を填(うず)め祈る字で、謹慎とは、もと道殣に対する呪儀をいう。
〔𦰩土〕/饉(キン・20画)
曶鼎・西周中期
初出:初出は西周中期の金文。
字形:「𩙿」(食)+「堇」で、「堇」は「𦰩」+「火」。雨乞いに失敗したみこを焼き殺す様。全体で”耕地の日照り”。定州竹簡論語・論語先進篇25では「𦰩」+「土」で、耕地が日照りで枯れ果てること。『大漢和辞典』にもなく、「饉」の異体字として扱う以外に方法が無い。
音:カールグレン上古音はgʰi̯æn(去)。
用例:西周中期「曶鼎」(集成2838)に「昔饉歲」とあり、”不作”と解せる。
論語の時代に存在が確認され、かつ”飢える”を意味しうる言葉だが、正確に言えば語義は”不作”であって”飢える”ではない。”飢える”を意味し得る言葉は、『大漢和辞典』によれば次の通り。
- 囂(ゴウ):”うゑるさま”。初出は西周末期の金文。
- 惄(デキ):”うゑる(さま)”。初出は春秋末期の金文。
- 腇(ダイ):”うゑる”。初出不明。
- 薖(カ):”うゑる”。初出は後漢の説文解字。
- 飢(キ):”うゑる”。初出は秦の隷書。
- 𩚬(アク):”うゑる(さま)”。初出は秦の隷書。
- 𩚮・饑(キ):”うゑ(る)”。初出は不明。
学研漢和大字典
会意兼形声。「食+(音符)僅(とぼしい)の略体」。▽飢・饑の語尾が転じたことば。僅(キン)(わずか)と最も近い。
語義
- {形容詞}食物がとぼしい。《類義語》飢・饑(キ)。「饑饉(キキン)」。
字通
[形声]声符は堇(きん)。堇は飢饉に際して巫を焚いて祈る形である𦰩(かん)に従う字。堇声の字には飢饉に関するものが多い。〔説文〕五下に「蔬の孰(みの)らざるを饉と爲す」とし、饑字条に「穀の孰らざるを饑と爲す」とするが、蔬と穀との区別なく、すべて凶作を饉といい、饉による飢餓の状態を饑という。
誾(ギン・15画)
師簋・西周末期
初出:初出は西周末期の金文。
字形:「門」+「言」。原義は不明。
音:カールグレン上古音はŋi̯æn(平)。
用例:論語の時代以前には西周末期「師𣪕」(集成4312)の一例のみ。「王若曰。師。才先王既令女。乍𤔲士。官𤔲汸誾。」とあり(はへんが上下に甘+水、つくりは頁)、「今余隹肈𤕌乃令。易女赤市。」と続く。「漢語多功能字庫」は「”汸誾”疑讀為”方垠”表示王畿四方的邊界(參陳秉新)。」というが、汸誾pʰwɑŋ(平)ŋi̯æn(平)→方垠pi̯waŋ(平)ŋi̯ən(平)で近音ではあるが”王畿四方的邊界”の意には賛成しがたい。「垠」の初出が戦国末期だからだ。
訓読は「王かくの若(ごと)く曰(の)る。師よ、先王既に女(なんじ)に令(おき)つる才(あ)り。𤔲士(もののふのつかさ)乍(た)れ。官(おおやけ)の𤔲(つとめ)汸(まさ)に誾たるべし」と読め、続けて「今余隹(た)だ肈(はじ)めて𤕌(かさ)ねて乃ち令(おき)つ。女に赤き市(ひざかけ)を易(や)らん」と読める。結局文脈からは語義が分からない。
ただ論語先進篇12の定州竹簡論語では、「誾誾如」を「言言如」と記しており、「木」が集まって「林」になり「森」になるように、言葉を重ねるさまと解せる。
備考:『大漢和辞典』は孔安国(架空の人物。論語郷党篇17語釈参照)の注を引いて「誾誾」を”中正のさま”という。また司馬相如の「長門賦」、「芳酷烈之誾誾」を引いて”香気の盛なさま”という。もちろん架空でない後者の方が信用できる。
『説文解字』は「誾:和說而諍也」”おだやかに相手を説得する”という。これにつき現伝『韓詩外伝』(前漢初期)に「子張曰:子亦聞夫子之議論邪?徐言誾誾,威儀翼翼,後言先默,得之推讓,巍巍乎!蕩蕩乎!道有歸矣」とあり、「徐言誾誾」は”ことばをゆっくりと、おだやかに言う”と解せるが、”ことばをゆっくりと、重ねて言う”とも解せる。
学研漢和大字典
会意。「言+門」。
語義
- 「誾誾(ギンギン)」とは、一方にかたよらず正当なさま。また、おだやかに是非を論じるさま。「与上大夫言、誾誾如也=上大夫と言ふ、誾誾如たり」〔論語・郷党〕
字通
[会意]門+言。〔説文〕三上に「和說(わえつ)して諍(あらそ)ふなり」とし、字を門(もん)声とするが音が合わず、もとより会意字である。門は廟門。その廟門に祝詞を収める器(𠙵(さい))をおいて神意をうかがうは問。言は盟誓して祈る意で、神意を待つことを誾という。夜中幽暗のとき、そこに声を発して神意が示されることがあり、その字は闇。〔玉篇〕に「和敬の皃なり」とあり、謹んで神意を待つことをいう。
新漢語林
- おだやかに議論する。
- やわらぐさま。うちとけるさま。
- 香気の強いさま。
新字源
訢訢ぎんぎん・言言ぎんぎん
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