論語語釈「キ」

希(キ・7画)

論語 希 金文大篆 論語 希
(金文大篆)

この文字の初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxi̯ərで、同音は屎”くそ”のほかは希を部品とする漢字群。日本語で近音同訓の「寡」はkwɔ。「犧」はxiaだが、初出は戦国文字

学研漢和大字典

会意。「メ二つ(まじわる)+巾(ぬの)」で、細かく交差して織った布。すきまがほとんどないことから、微小で少ない意となり、またその小さいすきまを通して何かを求める意となった。幾(こまかい、わずか)と同系。類義語の望は、見えないものを待ち望むこと。「稀」の代用字としても使う。「希・希元素・希釈・希少・希代・希薄・希硫酸・古希」。

語義

  1. {形容詞}まれ。めずらしい。ごく少ない。うすい。かすか。▽希のあとに補語を伴うことがある。《同義語》⇒稀。《類義語》少。「希少」「幾希=幾んど希なり」「希不失矣=失はざること希なり」〔論語・季氏〕
  2. {動詞}ねがう(ねがふ)。めったにないことをあってほしいとねがう。「希望」「誰不希令顔=誰か令顔を希はざらん」〔曹植・美女篇〕
  3. {動詞}こいねがう(こひねがふ)。ねがい望む。手づるを求めてまさぐる。「先意希旨=意に先だつて旨を希ふ」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  4. {名詞}国名。「希臘(ギリシア)」の略。

貴(キ・12画)

貴 金文(戦国)
(金文)

カールグレン上古音はki̯wəd。同音は存在しない。この文字は戦国時代のベルトのバックルに鋳込まれたものが初出で、同訓の部品も同訓で音が通じる漢字も、甲骨文・金文共に存在しない。

学研漢和大字典

会意。貴は「臾(両手で荷物を持つさま)+貝(品物)」で、大きく目だった財貨。魁(カイ)(目だって大きい)・偉(イ)(目だって大きい)などと同系。類義語の尊(ソン)は、ずっしりと構えていること。異字同訓にたっとい・とうとい⇒尊。「とうとい」「たっとい」「とうとぶ」「たっとぶ」は「尊い」「尊ぶ」とも書く。

意味

  1. (キナリ){形容詞・名詞}たっとい(たつとし)。とうとい(たふとし)。目だって大きい。値うちや位が高くすぐれている。また、値うちのある物や身分の高い人。《対語》⇒賤(セン)(いやしい)。《類義語》尊。「顕貴(目だって位が高い)」「貴而知懼=貴にして懼を知る」〔春秋左氏伝・襄二四〕
  2. {動詞}たっとぶ。とうとぶ(たふとぶ)。価値のあるものとして、たいせつにする。うやまう。「珍貴」「賤貨而貴徳=貨を賤みて徳を貴ぶ」〔中庸〕
  3. {形容詞}相手の側にあるものにつけて、相手に対する敬意をあらわすことば。「貴宅」「貴国」。

字通

[会意]𦥑(きょく)+貝。貝を両手で捧げる形。貴重なものとして扱う意を示す。〔説文〕六下に「物賤(やす)からざるなり」とし、字形を貝に従い、臾(ゆ)声とするが、声が合わない。また「臾は古文簣なり」とするが、簣は物を運ぶ草器のもっこで、貝を草器に入れることはない。貝は系で貫いて前後にふりわけて荷ない、一朋という。古く貨として通用し、彝器(いき)の銘文に、その製作費に十数朋の貝を用いたと記すものがある。のち物のみでなく、人の身分や性行などに関しても用いる。

声系

〔説文〕に貴声として遺・殨・饋・穨・憒・潰・聵・匱・繢・隤など十七字を収める。饋・遺は遺贈の意であるが、殨・穨・憒などには憒乱の意がある。宝貝・貝貨の毀損しやすいことからの転義であろう。

其(キ・8画)

論語 其 金文 論語 其 解字
(金文)

学研漢和大字典

象形文字で、其の甲骨文字は、穀物を載せる四角い箕(キ)(み)の形を描いたもの。金文は、その下に台の形を加えた。其は、のちの箕の原字だが、その音を借りてやや遠い所の物をさす指示詞に当てた。▽単独では、主語や客語に用いない。

意味

  1. {指示詞}その。それ。→語法「①」。
  2. {助辞}それ。→語法「②-(1)」。
  3. {助辞}それ。→語法「②-(3)」。
  4. {助辞}その。語調を整える助辞。「灼灼其華=灼灼たる其の華」〔詩経・周南・桃夭〕

語法

①「その」「それ」とよみ、「その」「それ」と訳す。前述の人・物・事をうける指示代名詞として用い、単独では主語などに用いない。此(この)に対して、やや遠いところを指す。《対語》之・是。《類義語》厥。「此其志不在小=これその志小に在らざるなり」〈これはその野望が小さな所にとどまってはいない〉〔史記・項羽〕
②「それ」とよみ、(1)感嘆・強調などの語気を示す。▽「其~乎(哉・矣・也)(与)」は、「それ~かな」とよみ、「なんと~だなあ」と訳す。感嘆の意を示す。「語之而不惰者、其回也与=これに語(つ)げて惰(おこた)らざる者は、それ回なるか」〈話をしてやって、それに怠らないのは、顔淵だけだね〉〔論語・子罕〕
(2)「そもそも」「なんと」と訳す。反語・感嘆を強調する意を示す。▽多く文頭に使用され、物事の起源・原因などをのべる。「其言之不俊、則為之也難=それ言の俊(は)ぢざるは、則(すなは)ちこれを為すや難(かた)し」〈そもそも自分の言葉に恥じないようでは、それを実行するのは難しい〉〔論語・憲問〕
(3)「もし~ならば」と訳す。仮定を強調する意を示す。▽多く仮定の意を示す語とともに用いる。「其如是、孰能禦之=それかくの如(ごと)くんば、孰(いづれ)かよくこれを禦(とど)めん」〈もしこのような時、いったい誰が抑えとどめることができるでしょう〉〔孟子・梁上〕
③「其~乎(哉・矣・也)」は、(1)「それ~ならんや」とよみ、「どうして~だろうか(いやそうではない)」と訳す。反語の意を示す。《類義語》豈。「大車無瑕、小車無瑕、其何以行之哉=大車瑕(げい)無(な)く、小車瑕無くんば、それ何をもってかこれを行(や)らんや」〈牛車に轅(ナガエ)のはしの横木がなく、四頭だての馬車に轅のはしのくびき止めがないのでは、(牛馬をつなぐことはできず)一体どうやって動かせようか〉〔論語・為政〕▽「其諸~乎(哉・矣・也)(与)」は、「それこれ~や」とよみ、「~だろうか(いやそうではない)」と訳す。「其~乎(哉・矣・也)」を強調したいい方。「夫子之求之也、其諸異乎人之求之与=夫子のこれを求むるや、それこれ人のこれを求むるに異なるや」〈先生の求めかたといえば、そう、他人の求めかたとは違うらしいね〉〔論語・学而〕
(2)「それ~か」とよみ、「~だろうか」と訳す。推測の意を示す。「知我者其天乎=我を知る者はそれ天か」〈私のことを分かってくれるものは、まあ天だね〉〔論語・憲問〕
④「其~乎(邪)、其…乎(邪)」は、「それ~か、それ…か」とよみ、「~であろうか、…であろうか」と訳す。選択の意を示す。「天之蒼蒼、其正色邪、其遠而無所至極邪=天の蒼蒼たるは、それ正色なるか、それ遠くして至極する所無(な)きか」〈天空が青いのは、一体、本当の色であろうか、それとも遠く果てしないため(そう映るの)であろうか〉〔荘子・逍遙遊〕
⑤「其者」は、「それ」とよみ、「それは」「その訳は」「思うに」と訳す。「其者寡人之不及与=それ寡人(かじん)の及ばざるや」〈それは、わたくしめが及ばないからであろうか〉〔漢書・燕刺王劉旦〕
⑥「与其~寧…」は、「その~よりは、むしろ…」とよみ、「~よりも…がよい」と訳す。「礼与其奢也寧倹=礼はその奢(おご)らんよりは寧ろ倹なれ」〈礼ははでやかにするよりも、ひかえめのほうがよい〉〔論語・八佾〕
⑦「其斯之謂与」は、「それこれをこれいうか」とよみ、「(ことわざにいうことが)おそらくこのことであろうか」と訳す。「子貢曰、詩云、如切如磋、如琢如磨、其斯之謂与=子貢曰く、詩に云ふ、切するが如(ごと)く磋するが如く、琢するが如く磨するが如しとは、それこれをこれ謂ふか」〈子貢が、詩経・衛風・淇奥に、骨を切るように、象牙をするように、玉をうつように、石を磨くようにとうたっているのは、ちょうどこのことでしょうねと言った〉〔論語・学而〕

豈(キ・10画)

強調の助辞。初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯ərで、同音は存在しない。下記藤堂説により、「」と音通するとして扱う。

学研漢和大字典

象形。喜の字の上部や、鼓の字の左の部分とよく似た形で、神楽の太鼓をたてた姿を描いた象形文字であろう。もと、にぎやかな軍楽のこと。▽のち、その音を借りて指示詞の其(キ)(それ)に当て、指示・強調を加えて反問する語気をあらわす。「其非天乎=それ天にあらずや」は「豈非天乎=あに天にあらずや」と同じ。

語義

キ/ケ
  1. {助辞}あに。→語法「①」。
  2. {助辞}あに。→語法「④」。
カイ
  1. {形容詞}にこやかなさま。《同義語》⇒祥。「豈弟(ガイテイ)(=祥悌)」。
  2. {動詞・名詞}にこやかにどよめく。また、にぎやかな軍楽。▽凱旋(ガイセン)の凱に当てた用法。「豈楽飲酒=豈楽して酒を飲む」〔詩経・小雅・魚藻〕

語法

①「あに~(な)らんや」とよみ、「どうして~であろうか(まさかそんなことはあるまい)」と訳す。強い肯定となる反語の意を示す。▽文末に「乎」「哉」「与」などの助詞をつけて多く用いる。《類義語》其・安・焉(イズクンゾ)。「子為恭也、仲尼豈賢於子乎=子恭を為すなり、仲尼あに子より賢(まさ)らんや」〈あなたは謙遜されているのです、仲尼がどうしてあなたよりすぐれているものですか〉〔論語・子張〕
②「豈~乎(邪)(哉)」は、「あに~なるか」とよみ、「ことによると~なのだろうか」と訳す。推測の意を示す。「舜目蓋重瞳子、又聞項羽亦重瞳子、羽豈其苗裔邪=舜の目は蓋(けだ)し重瞳子ならん、また聞く項羽もまた重瞳子なりと、羽はあにその苗裔(べうえい)なるか」〈舜の目は二つ眸であったらしい、また、項羽も二つ眸であったと聞く、項羽は舜の子孫ででもあったのだろうか〉〔史記・項羽〕
③「あに」とよみ、「どうか~であってもらいたい」「~であればよい」と訳す。願望の意を示す。「天王豈辱裁之=天王あに辱(かたじけな)くこれを裁せんや」〈大王よ、願わくは裁定をくだされよ〉〔国語・呉〕
④「豈不~」は、「あに~ずや」とよみ、「なんと~ではないか」と訳す。感嘆・強調・反語の意を示す。「豈不憚艱険=あに艱険(かんけん)を憚(はばか)らざらんや」〈どうして険しい道を避けようとするだろうか〉〔魏徴・述懐〕▽「豈非~」は、「あに~にあらずや」とよみ、意味・用法ともに同じ。
⑤「豈惟」「豈唯」「豈徒」「豈特」は、「あにただに~(のみならんや)」とよみ、「どうして~だけに限ろうか(いや、決してそれだけではない)」と訳す。範囲・条件を限定しない反語の意を示す。▽文末に「耳=のみ」「而已=のみ」など、限定の助詞をつけて多く用いる。▽後節に「又…」と続けて、「どうして~だけに限ろうか、…もまたそうである」と訳す。さらに累加する意を示す。「豈惟怠之、又従而盗之=あにただにこれを怠るのみならんや、また従ひてこれを盗む」〈仕事をしないだけではない、それをいいことに盗みまで働くしまつだ〉〔柳宗元・送薛存義序〕

喜(キ・12画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音は不明。藤堂上古音はhɪəg。藤堂説も白川説も、原義は神を喜ばせるために、お供えをして太鼓をドンドン打って祈るさまとしており、人が喜ぶのは後起の義とする。論語と同時代の孫武兵法に、「怒可以復喜,慍可以復悅」とあるからすでにその義を獲得しているとみてよいが、同時代の出土金文では原義で用いられる事例が多い。

徐王子󱜼鐘(春秋末期)て宴し厶ていのる。」
沇兒鎛(春秋末期)すなどりてうたげし厶ていのり、厶てかなで賓をもてなせ。」
王孫遺者鐘(春秋末期)「用て匽しよろこいのり、用て樂で賓を嘉せ。」

学研漢和大字典

会意。壴(トウ)は、台のついた器に、うずたかく食物を盛って、飾りをつけたさま。また、鼓の左がわと同じと考え、飾りつきの太鼓をたてたさまとも解される。喜は「壴+口」。ごちそうを供え、または音楽を奏してよろこぶことを示す。嘻(キ)(ひひと笑う)・嬉(キ)(うれしがる)と同系。類義語の懌(エキ)は、心中のしこりがとれること。怡(イ)は、心がなごむこと。悦は、しこりが抜け去ること。欣(キン)と忻(キン)は、満足してうきうきすること。歓は、そろって声をあげてよろこぶこと。慶は、めでたいことを祝ってよろこぶこと。

語義

  1. {動詞}よろこぶ。にこにこする。うれしがる。《同義語》⇒矯・嬉。《対語》⇒悲。「喜怒哀楽」「秦王聞之大喜=秦王これを聞いて大いに喜ぶ」〔史記・荊軻〕
  2. {動詞}このむ。愛好する。《類義語》好。
  3. {名詞}よろこぶ。うれしい気持ち。「其喜洋洋=其の喜び洋洋たり」〔范仲淹・岳陽楼記〕
  4. {名詞・形容詞}よろこび。めでたい事がら。めでたいさま。▽婚礼・出産・寿の祝いなど。《対語》凶。《類義語》嘉(カ)。「喜事」。

字通

[会意]壴(こ)+口。壴は鼓、口はサイ 外字(さい)、祝禱を収める器の形。神に祈るとき、鼓をうって神を楽しませる意。耒(すき)を示す力を加えると嘉となり、嘉穀を求める農耕儀礼をいう。のち喜・嘉は人の心意の上に移していう字となった。〔詩、小雅、甫田〕〔詩、小雅、大田〕に「田畯至りて喜す」という句があり、田畯は田神。その神に供薦するものを、神が受けることを饎(し)といい、その〔鄭箋〕に「喜は讀んで饎と爲す」とみえる。

欺(キ・12画)

初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkhi̯əɡで、同音に僛”酔って舞う”・起・杞(国名)・屺”はげ山”・芑”白い穀物”。近音ki̯əɡに諆があり、”だます”の意を持ち論語時代の金文が存在する。

学研漢和大字典

会意兼形声。其(キ)は、四角い箕(ミ)を描いた象形文字。旗(四角いはた)や棋(キ)(四角い碁盤)などに含まれて、四角くかどばった意を含む。欺は「欠(人がからだをかがめる)+(音符)其」で、角ばった顔をして見せて、相手をへこませること。魌(キ)(四角いお面をつけて、鬼どもを追い払う)と同系。類義語の詐(サ)は、つくりごとをしてだます。騙(ヘン)は、うわついたそら事で相手をだます。瞞(マン)は、表面をうまく包み隠してだます。偽は、にせ物やうそごとをこしらえてだますこと。訛(カ)は、本来の意味をかえて相手をごまかす。

語義

  1. {動詞}あざむく。表面だけしかつめらしく見せておいて、実はごまかす。たぶらかす。だます。《類義語》詐(サ)・騙(ヘン)。「毋自欺也=自ら欺くこと毋きなり」〔大学〕。「周公、豈欺我哉=周公、あに我を欺かんや」〔孟子・滕上〕
  2. {動詞}あざむく。いばって相手をごまかす。あなどりいじめる。「欺負」。

字通

[形声]声符は其(き)。其は倛、蒙倛とよばれる仮面。その面貌を以て欺くことをいう。〔説文〕八下に「詐欺なり」、言部三上に「詐は欺なり」とあり、言を以てするを詐という。

疑(ギ・8画)

論語 疑 金文
(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声。矣(アイ)・(イ)は、人が後ろをふり返ってたちどまるさま。疑は「子+止(足をとめる)+(音符)矣」で、愛児に心引かれてたちどまり、進みかねるさまをあらわす。思案にくれて進まないこと。騃(ガイ)(馬がとまりがちで進まない)・礙(ガイ)(とまって進まない)・凝(ギョウ)(とまって進まない)と同系。類義語に惑。

意味

  1. {動詞・形容詞}うたがう(うたがふ)。うたがわしい(うたがはし)。こうではないかと思案して先へ進めない。きめかねてためらう。こうではないかと思案するさま。こうではないかとためらうほど似ているさま。《対語》⇒信・決(きめる)。《類義語》惑(まどう)。「疑似」「王請勿疑=王請ふ疑ふこと勿(な)かれ」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}うたがい(うたがひ)。うたがわしき(うたがはしき)。うたがわしきこと(うたがはしきこと)。こうではないかとうたがうこと。「懐疑」「多聞闕疑=多く聞きて疑はしきを闕く」〔論語・為政〕
  3. {副詞}うたごうらくは(うたがふらくは)。文のはじめにつき、こうではないかと思う気持ちをあらわす。多分…であろう。「疑是地上霜=疑ふらくは是れ地上の霜かと」〔李白・静夜思〕

歸/帰(キ・10画)

論語 帰 金文
(金文)

学研漢和大字典

形声。𠂤(タイ)・(カイ)は土盛りの堆積したさまで、堆・塊と同じことばをあらわす音符。歸はもと「帚(ほうき)+(音符)𠂤」の形声文字。回と同系のことば。

女性がとついで箒(ほうき)を持ち家事に従事するのは、あるべきポストに落ち着いたことなので、「キ(クヰ)」といい、のち止(あし)を加えて歩いてもどることを示した。歸は「帚(ほうき)+止(あし)+(音符)𠂤」。あちこち回ったすえ、定位置にもどって落ち着くのを広く「キ」という。

回・韋(イ)(回る)・囲(回る)・揆(キ)(ひと回り)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞}かえる(かへる)。回ってもどる。もとの所へもどってくる。《類義語》回・還。「帰還」「帰郷」「回帰線」「帰京」「帰札」。
  2. (キス){動詞}あるべき所に落ち着く。回ったあげくに適当な所におさまる。「帰服」「天下帰仁焉=天下仁に帰す」〔論語・顔淵〕
  3. (キス){動詞}罪や責任を、しかるべき人に当てはめる。「帰罪=罪を帰す」。
  4. {動詞}しぬ。「帰宿」。
  5. {動詞}とつぐ。嫁にいく。▽女性は夫を捜して身を落ち着けるということから。「之子于帰=之の子于き帰ぐ」〔詩経・周南・桃夭〕
  6. {動詞}おくる。食物や用品をおくること。▽饋(キ)に当てた用法。「帰孔子豚=孔子に豚を帰る」〔論語・陽貨〕
  7. 「九帰法」とは、中国の算術の除法(割り算)のこと。

鬼(キ・10画)

論語 鬼 甲骨文 論語 鬼 金文
(甲骨文・金文)

角を生やした”オニ”ではなく、”亡霊・祖先の霊”。

学研漢和大字典

象形文字で、大きなまるい頭をして足もとの定かでない亡霊を描いたもの。中国の百科事典「爾雅」に「鬼とは帰なり」とあるのは誤り。魁(カイ)(大きいまるい頭)・塊(カイ)(まるいかたまり)・回(カイ)(まるい)などと同系のことば。

意味

  1. {名詞}おに。死人のおばけ。おぼろげな形をしてこの世にあらわれる亡霊。▽中国では、魂がからだを離れてさまようと考え、三国・六朝以降には泰山の地下に鬼の世界(冥界(メイカイ))があると信じられた。「幽鬼」「厲鬼(レイキ)」「未能事人、焉能事鬼=いまだ人に事ふる能はず、いづくんぞ能く鬼に事へん」〔論語・先進〕
  2. {名詞}《仏教》おに。つ地獄で死者を扱う者や死人たち。づ人力以上の力をもち、人間を害するもの。
  3. {名詞}飢餓に苦しむ亡者。
  4. {名詞}いやな人。ずばぬけているが、いやらしい人。「債鬼(借金とり)」「鬼暸(キイキ)(陰険な人)」。
  5. {形容詞・名詞}あの世の。死後の世界の。転じて、人の住まない異様な所。「鬼籍」「鬼録」。
  6. {形容詞}人間わざとは思えない。並はずれてすぐれた。「鬼工」「鬼才」。
  7. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は、今のかに座に含まれる。たまほめ。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①おに。その道に一生をかけた人。「芸道の鬼」。
    ②おに。おにのようにむごい。「鬼婆(オニババ)」「鬼夫婦」。
    ③おに。おにのように強い。「鬼将軍」。
    ④おに。並はずれて大きい。ふつうとは違ったおかしな。「鬼ゆり」。

幾(キ・12画)

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はɡʰi̯ərまはたki̯ər。

学研漢和大字典

会意。幺二つは、細くかすかな糸を示す。戈は、ほこ。幾は「幺二つ(わずか)+戈(ほこ)+人」で、人の首にもうわずかで、戈の刃が届くさまを示す。もう少し、ちかいなどの意を含む。わずかの幅をともなう意からはしたの数(いくつ)を意味するようになった。
《単語家族》
畿(キ)(都にちかい土地)・近と同系。
《参考》
草書体をひらがな「き」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「き」ができた。また、草書体の初画からカタカナの「キ」ができた。

語義

  1. {疑問詞・数詞}いく。いくつ。いくばく。一から九までの数を尋ねる疑問詞。また九以下のはしたの数を示すことば。「幾人(イクニン)」「幾年(イクトセ)」「無幾=幾も無し」→語法「②③」。
  2. {形容詞}ちかい(ちかし)。ほぼ等しい。▽平声に読む。《類義語》近。「幾百里=百里に幾し」→語法「①」。
  3. {副詞}ほとんど。→語法「①」▽平声に読む。
  4. {副詞}少しずつ。それとなく。▽平声に読む。「幾諫(キカン)」。
  5. {名詞}細かいきざし。▽平声に読む。《類義語》機。「知幾=幾を知る」。
  6. 「庶幾(コイネガワクハ)」とは、なんとか目標にちかづきたい、もう少しだからそうしてほしい、と切望すること。▽去声に読む。「王庶幾改之=王庶幾(こひねが)はくはこれを改めよ」〔孟子・公下〕

語法

①「ほとんど」「~にちかし」とよみ、「すんでのところで」「あやうく」「ほとんど」と訳す。ある状況・程度に接近する意を示す。「今吾嗣為之十二年、幾死者数矣=今吾嗣(つ)いでこれを為すこと十二年、幾(ほとん)ど死せんとする者数(しば)しばなり」〈今私が跡を継いでこの仕事を十二年している、あやうく死にかけたことは何度もあった〉〔柳宗元・捕蛇者説〕
②「いく」「いくばく」とよみ、

  1. 「いくらか」「多少」などと訳す。不定数の意を示す。「未幾亮卒=未だ幾(いくばく)ならずして亮卒す」〈まもなく(諸葛)亮は亡くなった〉〔十八史略・三国〕
  2. 「どれくらい」「いくつ」などと訳す。数量に対する疑問・反語の意を示す。文脈により多数・少数ともに示す。「物換星移幾度秋=物換(かは)り星移りて幾度の秋ぞ」〈物はかわり、星はめぐり、いくたびの秋を経たことだろう〉〔王勃・滕王閣〕。「古来征戦幾人回=古来征戦幾人か回る」〈昔から戦争に行った人のうち、何人が無事に帰還できただろうか〉〔王翰・涼州詞〕

  1. 「幾何」は、「いくばくぞ」とよみ、「どれほどでしょうか」と訳す。数量に対する疑問・反語の意を示す。「為歓幾何=歓を為すこと幾何(いくばく)ぞ」〈(この世で)歓楽についやす時間は、どれほどでしょうか〉〔李白・春夜宴桃李園序〕
  2. 「幾所」「幾許」も、意味・用法ともに同じ。「雙蛾幾許長=雙蛾幾許(いくばく)か長き」〈二つの美しい眉は、(わたしより)どれぐらい長いのでしょうか〉〔皇甫冉・香康怨〕

④「あに~ならんや」とよみ、「どうして~であろうか(まさかそのようなことはあるまい)」と訳す。強い肯定となる反語の意を示す。「是於己長慮顧後、幾不甚善矣哉=これ己の慮を長くし後を顧(おも)ふにおひて、あに甚だ善ならざらんや」〈これはその人が思慮を巡らせてのちのちのことを心配するという点において、どうして立派でないといえようか〉〔荀子・栄辱〕

字通

[会意]𢆶(し)+戈(か)。〔説文〕四下に「微なり。殆(あやふ)きなり。𢆶(いう)に從ひ、戍(じゅ)に從ふ。戍は兵守なり。𢆶(幽)にして兵守する者は危きなり」という。𢆶を幽、幽微の意より危殆の意を導くものであるが、𢆶は絲(糸)の初文。戈に呪飾として著け、これを用いて譏察のことを行ったのであろう。〔周礼、天官、宮正〕「王宮の戒令糾禁を掌り、~其の出入を幾す」、〔周礼、地官、司門〕「管鍵を授けて、~出入する不物の者を幾す」など、みな譏呵・譏察の意に用いる。ことを未発のうちに察するので幾微の意となり、幾近・幾殆の意となる。

器(キ・15画)

論語 器 金文
(金文)

学研漢和大字典

「口四つ+犬」の会意文字で、さまざまな容器を示す。犬は種類の多いものの代表として加えた。意味:うつわ。才能。立派な才能の持ち主であると認める。こまごました実用に役立つだけのもの。朱子学や陽明学では、現実の物象を器といい、その根源を道という。

意味

  1. {名詞}うつわ(うつは)。いろいろな入れ物。また、道具。「土器」「兵者不祥之器=兵者不祥之器なり」〔老子・三一〕
  2. {名詞}うつわ(うつは)。才能。「斗勹之器(トショウノキ)(つまらぬ下級役人にしかなれない才能)」「管仲之器小哉=管仲之器は小なる哉」〔論語・八佾〕
  3. {動詞}うつわとする(うつはとす)。りっぱな才能の持ち主であることを認める。「器重」「先主器之=先主これを器とす」〔蜀志・諸葛亮〕
  4. {名詞}こまごました実用にだけ役だつもの。「君子不器=君子は器ならず」〔論語・為政〕
  5. {名詞}朱子学や陽明学では、現実の物象を器といい、その根原を道という。

字通

旧字は器に作り、しゅう+犬。㗊は〔説文〕三上に「衆口なり」とするが、口は口さいで、祝詞を収める器。犬は犬牲。犬牲を以て清める意である。〔説文〕三上に「器は皿なり・器の口に象る。犬は之を守る所以なり」とするが、金文の字形によると、犬は礫殺されている形である。犬牲を以て清めた器は、祭器・明器・礼器として用いられる。〔周礼、秋官、大行人〕「器物」の〔鄭玄注〕に「尊彝の屬なり」とあり、器はもと彝器をいう。彝は鶏血を以て清める意の字である。祭器の意より器具・器材・の意となり、人に移して器量・器度をいう。

訓義

うつわ。祭器。明器。儀礼の際に用いる器。器物、車服・兵器・器具の類。人物の才能・器量。器として役立つ、用いる。

㗊():http://en.glyphwiki.org/wiki/u35ca

義(ギ・13画)

論語 義 金文 論語 義 解字
(金文)

学研漢和大字典

我は、ぎざぎざとかどめのたったほこを描いた象形文字。義が「羊+音符我」の会意兼形声文字で、もと、かどめがたってかっこうのよいこと。きちんとしてかっこうがよいと認められるやり方を義(宜)という。峨(ガ、かどめのたった山)-儀(かどのあるさま)と同系のことば。▽岸(かどめのたったきし)や彦(ゲン、かどめの正しい顔をした美男)とも縁が近い。

意味

  1. {名詞・形容詞}すじ道。かどめ。かどめが正しい。▽孟子によると、よしあしの判断によって、適宜にかどめをたてること。荀子(ジュンシ)によると、長い経験によって、社会的によいと公認されているすじ道。儒教の五常(仁・義・礼・智・信)の一つ。《類義語》宜・誼(ギ)。「節義」「君臣有義=君臣には義有り」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞・形容詞}よい(よし)。利欲に引かれず、すじ道をたてる心。みさお。かどめただしい。▽日本では、特に、主君への義理だての意。「正義」「義士」。
  3. {名詞・形容詞}公共のためにつくすこと。また、そのさま。《対語》私。《類義語》公。「義倉」「義捐金(ギエンキン)」。
  4. {名詞}ことばや行いに含まれている理由。わけ。意味。《類義語》誼(ギ)。「字義」「意義」。
  5. {名詞・形容詞}約束してちかった親類関係。また、そのような関係の。「結義(義兄弟のちかいを結ぶ)」「義兄」「義子(養子)」。
  6. {形容詞}名目上の。かりの。人工の。「義足」「義髻(ギケイ)(のせたまげ)」。
  7. 《日本語での特別な意味》かどめや、約束をとおすやり方。「律義」「義理がたい」。
論語 青銅 我

銅製「我」
全長24.3cm・幅10.3cm・重量300g 扶風県博物館蔵

字通

羊+我。我は鋸(のこぎり)の象形。羊に鋸を加えて截り、犠牲とする。その牲体に何らの欠陥もなく、神意にかなうことを「義(ただ)し」という。〔説文〕十二下に「己の威儀なり」とするが、もと牲体の完全であることをいう。羲はその下体が截られて下に垂れている形。金文の〔師旂鼎(しきてい)〕に「義(よろ)しく~すべし」という語法がみえ、宜と通用する。宜は且(そ)(俎)上に肉をおく形。神に供薦し、神意にかなう意で、義と声義が通ずる。

訓義

ただしい、よい、神意にかなう。ただしい道、みち、のり。法則、道理、つとめ、義務。宜と通じ、よい、便宜、すぐれる。儀と通じ、威儀。

大漢和辞典

よい。ただしい。たひらか。きりもり。のり、みち。つとめ。君によく仕えること。をとこ気。ことわり。わけ。たよりがい。めぐみ。衆人が共に奉戴する。衆人と事を共にする。すぐれる。あはせる、まぜる。借り。よくない。誼に通ず。議に通ず。通じて儀に作る。文体の名。義太利の略称。姓。台の名。

客(キャク・9画)

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はkʰlăk

学研漢和大字典

会意兼形声。各とは、足が四角い石につかえてとまった姿を示す会意文字。客は「宀(やね、いえ)+(音符)各」で、他人の家にしばし足がつかえてとまること。また、その人。格(つかえる木)・閣(門のとびらをとめるくい)・擱(カク)(つかえてとまる)などと同系。

語義

  1. {名詞}まろうど(まらうど)。訪問者。よそから来て、一時足をとめた人。きゃく。《対語》⇒主。「賓客」「主人下馬客在船=主人馬を下り客船に在り」〔白居易・琵琶行〕
  2. {名詞}よそから来た者。旅人。「客舎(宿屋)」「鶏鳴而出客=鶏鳴きて客を出だす」〔史記・孟嘗君〕
  3. {名詞}いそうろう。「食客」「客之居下坐者有能為鶏鳴=客の下坐に居る者能く鶏鳴を為す有り」〔史記・孟嘗君〕
  4. {名詞}見知らぬ人を呼ぶことば。《類義語》君。「客何為者=客は何為る者ぞ」〔史記・項羽〕
  5. (キャクタリ)・(カクタリ){動詞}他人の家に食客としてやっかいになる。また、他郷に旅してとどまる。「客籍(よそ者)」「独将衰鬢客秦関=独り衰鬢を将て秦関に客たり」〔盧綸・長安春望〕
  6. {形容詞・名詞}自分がその事がらに当面していない。よそごと。「客歳(すでに過ぎ去った年、去年)」「客観(自分の意識の外)」。
  7. 「客家(カッカ)・(ハッカ)」とは、漢民族の一集団の名。広東(カントン)省・江西省・福建省・広西壮(チワン)族自治区などの地方に点在する。その人口は約二千万人以上といわれる。もと北方にいた漢民族のうち、集団で南へ移住したもので、周辺の部族からよそ者(客家)として扱われていた。そのことばは、客家語と呼ばれ、中国の五大方言の一つとされる。「客人」とも。▽ハッカは客家語の音。
  8. 《日本語での特別な意味》「過ぎ去った」意味をあらわすことば。「客月」。

字通

[会意]宀(べん)+各。宀は廟屋。各は祝禱の器(サイ 外字(さい))に対して、神霊が上より降下(夂(ち))する形。廟中に神霊を迎えることを客という。〔説文〕七下に「寄なり」と客寄・旅寓の意とするが、もとは客神をいう字であった。〔詩、周頌、振鷺〕「我が客戻(いた)る」、〔詩、周頌、有客〕「客有り、客有り 亦た其の馬を白(あを)くす」とは、周廟の祭祀に、客神として殷の祖霊を迎える意。「まろうど」は、わが国においても異族神を意味した。

及(キュウ・3画)

論語 及 甲骨文 論語 及 金文
(甲骨文・金文)

学研漢和大字典

「人+手」の会意文字で、逃げる人の背に追う人の手が届いたさまを示す。その場、その時にちょうど届くの意を含む。吸(口がぴたりと水面に届く→すいつく)-汲(つるべが水面に届く→くみ上げる)-給(おいつくようにぴたりとあてがう)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞}およぶ。追いつく。「往言不可及=往言は及ぶべからず」〔国語・晋〕
  2. {動詞}およぶ。能力が追いつく。「非爾所及也=爾の及ぶ所に非ざるなり」〔論語・公冶長〕
  3. {動詞}およぶ。→語法「②」。
  4. {動詞}およぶ。そんなことまで行う。「父死不葬、爰及干戈=父死して葬らず、爰に干戈に及ぶ」〔史記・伯夷〕
  5. {動詞}およぼす。そこまで物事の範囲を広げる。「老吾老以及人之老=吾が老を老として以て人の老に及ぼす」〔孟子・梁上〕
  6. {接続詞}および。→語法「①」

語法

①「~および…」「~と…」とよみ、「~と…」と訳す。並列の意を示す。「漢軍及諸侯兵、囲之数重=漢軍及び諸侯の兵、これを囲むこと数重」〈漢軍と諸侯の兵は、幾重にも包囲した〉〔史記・項羽〕
②「~におよび(て)」とよみ、(1)「~になると」「~になったとき」と訳す。時間の到達の意を示す。「及父卒、叔斉讓伯夷=父卒するに及びて、叔斉伯夷に讓らんとす」〈父が亡くなると、叔斉は長兄の伯夷に(位を)譲ろうとした〉〔史記・伯夷〕
(2)「~まで」「~に到って」と訳す。空間の到達の意を示す。「及郡下、詣太守、説如此=郡下に及び、太守に詣(いた)りて、説くことかくの如し」〈郡の役所に到って、太守にお目にかかり、しかじかと語った〉〔陶潜・桃花源記〕
(3)「~に乗じて」「~という状況になると」と訳す。機会・条件の意を示す。「及其使人也、器之=その人を使ふに及びては、これを器にす」〈人を使うときには、長所に応じた使い方をする〉〔論語・子路〕
③「~と」とよみ、「~とともに」と訳す。対象・従属の意を示す。「爾尚及予一人致天之罰=爾(なんぢ)尚(こひねが)はくは予一人と天の罰を致(いた)せ」〈おまえたちよ、どうかわれと力を併せて天の罰を夏の桀に加えよ〉〔史記・殷〕

字通

人+又(ゆう)。又は手。後ろより手を伸ばして、前の人に追い及ぶ形。〔説文〕三下に「およぶなり」と逮及・逮捕の意とする。古文には逮を誤入している字がある。伋は西周期の金文にみえ、途上に相及ぶ意である。

訓義

およぶ、追いつく、いたる、およぼす、つづく、つぐ。ともに、あわせて、あずかる。

大漢和辞典

会意。又と人の合字。又は手、後人の手が前人におよぶこと。追い及ぶ意。

字解

およぶ。およぼす。および。共に。共にする。弟が兄のあとをつぐ。もし。姓。

久(キュウ・3画)

論語 久 金文
(金文)

この文字は漢字古今字資料庫では甲骨文・金文共に存在しないが、白川フォントには独自の上掲金文を載せる。戦国期の細長い流麗な書体ではないが、論語の時代に存在したとは断定できない。書体が確実にたどれるのは、戦国文字から。「国学大師」は、原義を灸を据える姿とする。

カールグレン上古音はki̯ŭɡ。同音に九、灸、疚(やまい・やましい)、玖(黒い宝石)。”ひさしい・ながい”という語釈は、「舊」(旧、カ音ɡʰi̯ŭɡ)と音が通じて後世に生まれた語義だが、もとより「舊」と記されたとすると、むしろ「舊」の語義で解釈すべき。

なお「旧」の藤堂上古音はgɪog、久はkɪuəg。

学研漢和大字典

久 解字
会意。背の曲がった老人と、その背の所に、引っぱるしるしを加えたもので、曲がって長いの意を含む。灸(キュウ)(もぐさで長い間、火をもやす)・柩(キュウ)(長い間、死体を保存するひつぎ)の字の音符となる。旧(長く時がたつ)・九(長く数えていきづまった数)・究(曲がりくねって奥深くはいる)・考(背の曲がった老人)などと同系のことば。草書体をひらがな「く」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「く」ができた。また、初二画からカタカナの「ク」ができた。

意味

  1. {形容詞}曲がりくねって、くねくねと伸びているさま。「久腰(キュウヨウ)(老人の曲がった腰)」
    (訳者注。中国哲学書電子化計画では、「久腰」の出典が確認できなかった。巢元方『諸病源候論』に「久腰痛候」という言葉はあるが、”久しい腰痛の症状”の意で、「久腰」ではない)。
  2. {形容詞}ひさしい(ひさし)。長く時がたっているさま。いろいろと曲折をへてのびるさま。《対語》⇒暫(ザン)(しばし)。《類義語》旧。「天長地久」「丘之禱久矣=丘(きう)の禱(いの)ること久し」〔論語・述而〕
  3. {動詞}ひさしくする(ひさしうす)。長く時間をかける。ずっとそのままにしている。「可以久則久=以て久しかるべくんば則ち久しうす」〔孟子・公上〕

久 阿闍梨餅
京菓子舗”満月”名物”阿闍梨餅”のパッケージ

字通

屍体を後ろから木で支えている形。〔説文〕五下に「後よりこれを灸す。人の両脛の後に距有るに象るなり」とあり、うしろにものを詰める意とする。〔儀礼、士葬礼〕に「木桁もて之を久す」というように、木桁で支えることもあり、久とはその象であろう。これを櫃中に収めるときには匛・柩(訳者注。ともに”ひつぎ”)という。ぼう部十二下に「柩は棺なり」とあり、棺とは屍をつつんで納める意である。籀文の字形は匶に作る。久・舊(旧)は声義近く、通用する。久は屍を支える形、舊は鳥の足を繋いで係留する意で、ともに久遠の意において通ずる。久を久遠とするのは、顚死者(訳者注。行き倒れ)の象である眞(真)を、永遠に実在するものの意に転化するのと、相似た思弁の結果である。

訓義

1)ささえる、ものをつめる、ふさぐ、おおう。2)ひさしい、ひさしくする、とどまる、3)おくれる、まつ。

大漢和辞典

久 大漢和辞典

丘(キュウ・5画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯ŭɡ。

学研漢和大字典

象形。周囲が小高くて中央がくぼんだ盆地を描いたもの。畦・邱とも書く。図の二字めの形は、鎬(=虚。くぼみ)の字の下部にあって意符として用いられる。類義語に山。

語義

  1. {名詞}おか(をか)。小高い所。「丘陵」。
  2. {名詞}小高く土盛りをした墓。塚(ツカ)。「墳丘」。
  3. {形容詞}おかのように大きい。「丘嫂(キュウソウ)(あによめに対する敬称)」。
  4. {名詞}周代の土地区画で、八家を「井」、四井を「邑(ユウ)」、四邑を「丘」という。百二十八家。「丘民」。
  5. {名詞}孔子の名、孔丘(コウキュウ)の略称。

字通

[象形]墳丘の象。〔説文〕八上に「土の高きものなり。人の爲(つく)る所に非ざるなり。北に從ひ、一に從ふ。一は地なり。人の居は丘の南に在り。故に北に從ふ。中邦の居は崑崙の東南に在り。一に曰く、四方高く、中央下(ひく)きを丘と爲す。象形」とあり、会意・象形の二説をあげている。墳墓は多く北郊に営まれるので、北邙のようにいう。ゆえに北一に従うとの説を生じたのであろう。〔詩、小雅、緜蛮〕は悼亡の詩。「緜蠻(めんばん)たる黄鳥 丘阿に止まる」とは、鳥形霊による死者への追想を導く発想である。

大漢和辞典

丘 大漢和辞典

躬(キュウ・10画)

論語 躬 金文大篆 身 金文

「躬」(金文大篆)・「身」(金文)

『大漢和辞典』の第一義は”身”で、論語の本章では”自らする”。この文字の初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は子音のkのみ。母音は不明。部品の身の字(カールグレン上古音ɕi̯ĕn)は存在したので、置換候補になりうる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「身+(音符)弓(弓なりに曲がる)」で、屈曲するからだ。▽本字の猥は「身+呂(連なった背骨)」の会意文字。弓(曲がる)・窮(キュウ)(曲がりくねる)と同系。類義語に自。

語義

  1. {名詞}み。前後左右に曲がるからだ。背をかがめたからだ。《類義語》身。「鞠躬(キッキュウ)(からだをまるく曲げておじぎする)」「在爾躬=爾の躬に在り」〔論語・尭曰〕
  2. {名詞}わがみ。自身。
  3. {動詞}からだを弓形に曲げる。
  4. {副詞}みずから(みづから)。自分で行うさま。自分で。《類義語》身。「禹稷躬稼而有天下=禹稷は躬ら稼して天下を有つ」〔論語・憲問〕

裘(キュウ・13画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のɡʰのみ。

学研漢和大字典

会意兼形声。求は、裘の原字で、頭・両足・尾のついたままのかわごろもの姿を描いた象形文字。裘は「衣+(音符)求」。求がぐっと引きしめる→もとめる、の意に使われるようになったため、かわごろもの意には裘が使われるようになった。帯でぐっと引きしめてからだにまとう、かわごろも。類義語に皮。

語義

{名詞}かわごろも(かはごろも)。獣の毛皮でつくった服。「狐裘(コキュウ)」「緇衣羔裘=緇衣(しい)には羔(こひつじ)の裘」〔論語・郷党〕

字通

記載なし

居(キョ・8画)

論語 居 金文
(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声。「尸(しり)+音符古(=固。固定させる、すえる)」の会意兼形声文字で、台上にしりを乗せて腰を落ち着けること。「尸(しり)+(だい)」とも書く。キョク(しりをおろして構える)の原字。キョ(=拠。何らかの上によりかかる)や、固定の固とも同系のことば。▽処は、キョの口蓋化したことばで、のち、場所。ある場所におるの意に用いる。

意味

  1. {動詞}いる(ゐる)。おる(をる)。腰をおろす。そこに腰を落ち着けて住む。《類義語》処。「居住」「燕居(エンキョ)(安楽に家で暮らす)」「昔者大王居癇=昔、大王癇に居る」〔孟子・梁下〕
    ま(キョス){動詞}おく。住まわせる。「真可以居吾子矣=真に以て吾が子を居くべし」〔列女伝・鄒孟軻母〕
  2. {動詞}おる(をる)。腰をすえて日を過ごす。事もなく暇でいる。「居常(キョジョウ)(平生)」「居則曰=居れば則ち曰はく」〔論語・先進〕
  3. {名詞}すまい。「卜居=居を卜す」「依依昔人居=依依たり昔人の居」〔陶潜・帰園田居〕
  4. {動詞}おく。とっておく。たくわえる。「居積」「奇貨可居=奇貨居くべし」〔史記・呂不韋〕
  5. 「居然(キョゼン)」とは、思ったとおりである、なるほどの意。
  6. {助辞}や。其と同じで、語調を整える助辞。「何居(=何其。なんぞや)」。

字通

正字は凥に作り、。祖祭のとき、かたしろとなる者が几(机)に腰かけている姿。居はその形声字で古声。〔説文〕は両字を区別し、凥十四上に「るなり」、居八上に「うずくまるなり」とする。また凥字条に「仲尼、凥す」と〔古文孝経〕の句を引き、〔釈文〕に引く〔鄭本〕も同じ。今本は居に作る。凥・居が同字として用いられるに及んで、別に形声字の跼が作られた。

訓義

いる、こしかけている、動かずにいる、そのまま、いながら。うずくまる、箕跼している、おごる。くらす、すまい、つねのすまい、へや、はか。きょと通じ、たくわえ、つむ。疑問の助詞、や、か。

論語での用例

  1. 有子曰:「信近於,言可復也;恭近於禮,遠恥辱也;因不失其親,亦可宗也。」(学而篇)
  2. 子曰:「非其鬼而祭之,諂也。見不為,無勇也。」(為政篇)
  3. 子曰:「君子之於天下也,無適也,無莫也,之與比。」(里仁篇)
  4. 子曰:「君子喻於,小人喻於利。」(里仁篇)
  5. 子謂子產,「有君子之道四焉:其行己也恭,其事上也敬,其養民也惠,其使民也。」(公冶長篇)
  6. 樊遲問知。子曰:「務民之,敬鬼神而遠之,可謂知矣。」問仁。曰:「仁者先難而後獲,可謂仁矣。」(雍也篇)
  7. 子曰:「德之不脩,學之不講,聞不能徙,不善不能改,是吾憂也。」(述而篇)
  8. 子曰:「飯疏食飲水,曲肱而枕之,樂亦在其中矣。不而富且貴,於我如浮雲。」(述而篇)
  9. 子張問崇德、辨惑。子曰:「主忠信,徙,崇德也。愛之欲其生,惡之欲其死。既欲其生,又欲其死,是惑也。『誠不以富,亦祗以異。』」(顔淵篇)
  10. 子張問:「士何如斯可謂之達矣?」子曰:「何哉,爾所謂達者?」子張對曰:「在邦必聞,在家必聞。」子曰:「是聞也,非達也。夫達也者,質直而好,察言而觀色,慮以下人。在邦必達,在家必達。夫聞也者,色取仁而行違,居之不疑。在邦必聞,在家必聞。」(顔淵篇)
  11. 樊遲請學稼,子曰:「吾不如老農。」請學為圃。曰:「吾不如老圃。」樊遲出。子曰:「小人哉,樊須也!上好禮,則民莫敢不敬;上好,則民莫敢不服;上好信,則民莫敢不用情。夫如是,則四方之民襁負其子而至矣,焉用稼?」(子路篇)
  12.  
  13. 子路問成人。子曰:「若臧武仲之知,公綽之不欲,卞莊子之勇,冉求之藝,文之以禮樂,亦可以為成人矣。」曰:「今之成人者何必然?見利思,見危授命,久要不忘平生之言,亦可以為成人矣。」(憲問篇)
  14. 子曰:「群居終日,言不及,好行小慧,難矣哉!」(衛霊公篇)
  15. 子曰:「君子以為質,禮以行之,孫以出之,信以成之。君子哉!」(衛霊公篇)
  16. 孔子曰:「君子有九思:視思明,聽思聰,色思溫,貌思恭,言思忠,事思敬,疑思問,忿思難,見得思。」(季氏篇)
  17. 孔子曰:「見善如不及,見不善如探湯。吾見其人矣,吾聞其語矣。隱居以求其志,行以達其道。吾聞其語矣,未見其人也。」(季氏篇)
  18. 子路曰:「君子尚勇乎?」子曰:「君子以為上。君子有勇而無為亂,小人有勇而無為盜。」(陽貨篇)
  19. 子路從而後,遇丈人,以杖荷蓧。子路問曰:「子見夫子乎?」丈人曰:「四體不勤,五穀不分。孰為夫子?」植其杖而芸。子路拱而立。止子路宿,殺雞為黍而食之,見其二子焉。明日,子路行以告。子曰:「隱者也。」使子路反見之。至則行矣。子路曰:「不仕無。長幼之節,不可廢也;君臣之,如之何其廢之?欲潔其身,而亂大倫。君子之仕也,行其也。道之不行,已知之矣。」(微子篇)
  20. 子張曰:「士見危致命,見得思,祭思敬,喪思哀,其可已矣。」(子張篇)

舉/挙(キョ・10画)

論語 挙 金文 論語 挙
(金文)

カールグレン上古音はki̯o。同音に車と、居とそれを部品とする漢字群。居に”おく・すまわせる”の語釈が『大漢和辞典』にあり、ある人物をある地位に就けることを意味する。

上掲の文字は『字通』独自で年代不明だが、戦国時代の特徴を持つため、論語の時代には存在しない可能性が高い。「国学大師」に記載の中山王壺(戦国末期)に酷似している。そして「挙」には甲骨文が見つかっていない。

あえて面倒を引き起こすようだが、論語の当時には無かった文字で、「輿」に「手」を添えた新しい字と言える。藤堂上古音はkɪag(ɪはエに近い音)。

「居」以外の置換候補として、「渠」(キョ)は戦国にならないと現れず、「袪」(キョ)「撟」「撬」「擏」「矯」「翹」「蹺」「鯨」(キョウ)は甲骨文・金文ともに存在しない。

唯一可能性があるのは「喬」で、論語時代の金文の出土があり、かつ藤堂上古音はgɪɔg(ɔは気を失った人のうなり声に似ている)。これがkɪagと音通するかは思う人次第である。

学研漢和大字典

会意兼形声。与は、かみあったさまを示す指事文字。與(ヨ)は「両手+両手+(音符)与」からなり、手を同時にそろえ、力をあわせて動かすこと。擧は「手+(音符)與」で、手をそろえて同時に持ちあげること。舁(ヨ)(力をそろえてかごをかつぎあげる)・與(=与。同時にそろえて働く)などと同系。類義語の揚は、高々とあげる。上は、低い所から高い所にあげる。昂は、高く上にあげる。異字同訓に
あがる・あげる。

意味

  1. {動詞}あげる(あぐ)。あがる。手をそろえて持ちあげる。転じて、高く持ちあげる。また、高く上にあがる。「挙杯=杯を挙ぐ」「吾力足以挙百鈞=吾が力以て百鈞を挙ぐるに足る」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}あげる(あぐ)。事をおこす。「挙兵=兵を挙ぐ」「挙行」。
  3. {動詞}あげる(あぐ)。多くの中からすぐれた人や物をもちあげる。「推挙」「挙賢才=賢才を挙ぐ」〔論語・子路〕
  4. {動詞}あげる(あぐ)。問題点やめぼしいものをとりあげる。「列挙」「検挙」。
  5. {動詞}あげる(あぐ)・あげられる(あげらる)任官試験を受ける。試験に受かってとりたてられる。「挙進士=進士に挙げらる」。
  6. {動詞}あげる(あぐ)。都市を占領する。「三十日而挙燕国=三十日にして燕国を挙ぐ」〔戦国策・斉〕
  7. {名詞}行動。ふるまい。「壮挙」。
  8. {名詞}「科挙(カキョ)(官吏登用試験)」の略。「赴挙至京=挙に赴き京に至る」〔孟挑・唐詩紀事〕
  9. {副詞}あげて。こぞって。…じゅうをあげてみな。全部。「挙国=国を挙げて」「挙世皆濁=世を挙げて皆濁る」〔楚辞・漁父〕
  10. {副詞}ことごとく。みんな。《類義語》尽。「挙集目前=挙く目前に集まる」。

御(ギョ・11画)

論語 御 金文
(金文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯oで、禦・魚・漁・衙・語・馭などと同音。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、原字は「午(きね)+卩(ひと)」の会意文字で、堅い物をきねでついて柔らかくするさま。御はそれに止(あし)と彳(いく)を加えた字で、馬を穏やかにならして行かせることを示す。

つきならす意から、でこぼこや阻害する部分を調整して、うまくおさめる意となる。「ギョ」(防ぐ)の代用字としても使う。「防御・制御」また、「ギョ」(馬車を操る)の代用字としても使う。「御・御者・制御」。

類義語の治(チ)は、自然物に人工を加えて整えること。駕(ガ)は、馬の背に馬具や車の柄を載せること、乗ること。

意味

  1. {動詞}おさめる(をさむ)。でこぼこをならして調整する。転じて、家や国家を平和におさめる。「統御」「以御于家邦=以て家邦を御む」〔孟子・梁上〕
  2. (ギョス){動詞}馬を調教しておとなしく手なずける。思うとおりにあやつる。《同義語》⇒馭(ギョ)。「御者(ギョシャ)(=馭者)」「御風=風に御す」「樊遅御=樊遅御す」〔論語・為政〕
  3. {名詞}馬を使いこなすこと。また、馬をならす役目。「執御=御を執る」。
  4. (ギョス){動詞}はべる。天子のそば近く仕えてその言いつけに従い起居の調和をとる。「進御(シンギョ)(天子の身辺にはべる)」。
  5. {名詞}天子のそばに仕える人。「女御(ジョギョ)・(ニョウゴ)(天子のそば近くに仕える正妃以外の夫人)」「侍御(ジギョ)(天子のそばに仕える侍臣の官)」。
  6. {形容詞}皇帝の動作や所有物につけて、尊敬をあらわすことば。「御衣」「御苑(ギョエン)」「御幸」。
  7. {動詞}ふせぐ。▽禦(ギョ)(ふせぐ)に当てた用法。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①お。おん。おおん(おほん)。み。相手の動作や持ち物につけて、尊敬の意をあらわすことば。「御便り」「御身(オンミ)」「御台所(ミダイドコロ)」。
    ②自分の動作をあらわす語につけて、相手に対する謙そんの意をあらわすことば。「御説明申しあげます」。
    ③相手の親族をさすときにつけて、尊敬の意をあらわすことば。「嫁御」。

字通

[形声]声符は卸(しや)。卸は御の初文。卜辞や金文には多く卸の形を用いる。字はもと午と卩(せつ)とに従い、午は杵形の呪器。これを拝(卩)して神を降ろし迎え、邪悪を防いだ。ゆえに「むかう」「ふせぐ」が字の初義。卜辞に「茲(こ)れを御(もち)ひよ」、金文に「事(まつり)に御(もち)ふ」「厥(そ)の辟(きみ)に御(つか)ふ」のようにいう。神聖を迎え、神聖につかえる意であったので、のちにもすべて尊貴の人に関して用いる語となった。〔説文〕二下に「馬を使ふなり。彳に從ひ、卸に從ふ」として古文の馭の字をあげるが、御と馭とは別の字である。〔説文〕はまた卸字条九上に「車を舍(す)てて馬を解くなり。卩・止・午に從ふ」とし、馬より下りる意とするが、初形は午と卩、杵を拝跪する形、すなわち神降ろしの形である。のち卸と御とは別の字となった。

共(キョウ・6画)

論語 共 金文 論語 共
(金文)

学研漢和大字典

会意。上部はある物の形、下部に左右両手でそれをささげ持つ姿を添えたもの。拱(両手を胸の前にそろえる)・供(両手でささげる)の原字。両手をそろえる意から、「ともに」の意を派生する。類義語の倶(トモニ)(連れだって、そろって)と近いが、おもに倶は副詞に用い、共は動詞(ともにす)に用いる。熟語ではも用いられる。

意味

  1. {副詞}ともに。→語法「①」。
  2. {副詞}ともに。→語法「②」。
  3. {前置詞}とともに。→語法「③」。
  4. {動詞}ともにする(ともにす)。共有する。いっしょにわけあう。「三代共之=三代これを共にす」〔孟子・滕上〕
  5. (キョウス){動詞}両手を胸の前であわせる。▽拱に当てた用法。▽上声に読む。「共手(=拱手)」「子路共之=子路これに共す」〔論語・郷党〕
  6. (キョウス){動詞}両手でうやうやしくささげ持つ。たいせつに保持する。▽恭に当てた用法。平声に読む。「靖共爾位=爾の位を靖共す」〔詩経・小雅・小明〕
  7. (キョウス){動詞}物をそろえてささげる。▽供に当てた用法。平声に読む。「共張」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①とも。たとえ…でも。
    ②ども。つ人をあらわすことばについて、複数をあらわす。づ第一人称について、へりくだった意をあらわす。「わたくし共」。
    ③「共産党」「共産主義」の略。「反共」「日共」。

語法

①「ともに」とよみ、「いっしょに」「みなで」と訳す。多数が共同・共通でという意を示す。《類義語》与・倶(グ)。「而卒惶急、無以撃軻、而以手共搏之=而(しか)うして卒(にわ)かに惶急して、もって軻を撃つ無(な)くして、手をもって共にこれを搏(う)つ」〈あわてふためき、荊軻を撃つ道具が見当たらず、やむなくみなで素手でなぐりかかった〉〔史記・刺客〕
②「ともに」とよみ、「全部で」「合計で」と訳す。すべてに目を通した上で、あわせてという意を示す。「自第十八将以下共七将、在府畿=第十八将自(よ)り以下共に七将、府畿に在り」〈第十八将軍以下、合計七(人の)将軍は、首都に駐屯する〉〔宋史・兵〕
③「~とともに」とよみ、「~といっしょに」と訳す。対象・従属の意を示す。「昨日共君語、与余心膂然=昨日君と共に語り、余と心膂(しんりょ)然たり」〈昨日君と語りあい、私とは心臓と背骨のよう(に親密)であると思った〉〔白居易・贈杓直〕

向(キョウ・6画)

向 金文
(金文)

学研漢和大字典

向 解字会意。「宀(やね)+口(あな)」で、家屋の北壁にあけた通気孔を示す。通風窓から空気が出ていくように、気体や物がある方向に進行すること。▽姓のときは、ショウと読む。響(音波がむこうへ進行していく)・亨(キョウ)(かおりが天にむかって進む)・香(においをのせた空気がむこうへ流れていく)・卿(ケイ)(むかい合う)と同系。

類義語に会・返。「嚮」の代用字としても使う。「意向」。

意味

  1. {動詞}むく。むかう(むかふ)。ある方向をむいて進行する。「向上=上に向かふ」「裴方向壁臥=裴方に壁に向きて臥す」〔世説新語・容止〕
  2. {名詞}むき。むかう方向。
  3. {動詞}顔をまともにむけて従う。「向背」。
  4. {前置詞}中世の俗語で、於と同じく、動作の向かうところを示す前置詞。▽訓読では読まない。「洒向枝上花=向枝上の花に洒ぐ」〔王安石・明妃曲〕
  5. {副詞}さきに。→語法「①」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①むこう(むかう・むかふ)。あちらがわ。
    ②むかう(むかふ)。反抗する。「手向かう」。
    ③むく。…に合う。…にちょうどよい。

語法

①「さきに」とよみ、「以前に」「先ほど」と訳す。日時が先にむかって進行したことから、転じて、過去の意を示す。《類義語》嚮・郷・代。「尋向所誌=向(さき)に誌(しる)せし所を尋ぬ」〈その時にしるしをつけた場所を訪ねる〉〔陶潜・桃花源記〕▽「向者=さきには」も、意味・用法ともに同じ。
②「さきに」「もし」とよみ、「もし以前に~だったなら」と訳す。過去の仮定条件の意を示す。「爾向不取、我豈能得=爾(なんぢ)向(も)し取らずんば、我あによく得んや」〈君がもし(その時に剣を)拾い上げてくれなかったら、どうして私の手元に戻ってくることがあっただろうか〉〔晋書・郭翻〕▽「向~則(便)…」と多く用いる。
③「向使(令)」は、「もし」「たとい」とよみ、「もしも~だったならば」と訳す。過去の仮定条件の意を示す。▽「さきに~しめば」とよむこともある。「向使傭一夫於家、受若直怠若事、又盗若貨器、則必甚怒而黜罰之矣=向使し一夫を家に傭(やと)ふに、若(なんぢ)の直を受けて若(なんぢ)の事を怠り、また若(なんぢ)の貨器を盗まば、則(すなは)ち必ず甚だ怒りてこれを黜罰(ちゅつばつ)せん」〈もし一人の召使いを家で雇い、君の給料を受け取り、君の仕事をしない、その上君の持ち物まで盗んだら、必ず激怒し、追い出して罰を与えるはずだ〉〔柳宗元・送薛存義序〕

狂(キョウ・7画)

論語 狂 金文大篆 論語 狂
(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、王は二線の間にたつ大きな人を示す会意文字、または末広がりの大きなおのの形を描いた象形文字。狂は「犬+(音符)王」で、大げさにむやみに走りまわる犬。あるわくを外れて広がる意を含む。徨(コウ)(むやみにさまよう)・逛(キョウ)(やたらに歩き回る)・晃(コウ)(むやみと広がる光)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞・形容詞}くるう(くるふ)。なにをしでかすかわからない。むちゃなさま。「狂妄(キョウモウ)」。
  2. {名詞}きちがい(きちがひ)。気のくるった人。また、なにをしでかすかわからない人。「狂人」「癲狂(テンキョウ)(発作的に気がくるう病気)」。
  3. (キョウナリ)(キャウナリ){形容詞・名詞}普通の型をこえてスケールが大きいさま。常識にとらわれないさま。また、そのような人がら。「狂狷(キョウケン)」「古之狂也肆」〔論語・陽貨〕。「狂者進取=狂者は進取す」〔論語・子路〕
  4. {形容詞}むちゃではげしいさま。「狂瀾(キョウラン)」。
  5. {名詞}くるい(くるひ)。あることにむちゅうになって、常軌をはずれること。また、その人。「殺人狂」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①くるう(くるふ)。つ調子がおかしくなる。「時計が狂う」づねらいがはずれる。
    ②こっけいである。「狂言」「狂歌」。

字通

正字は㞷に従い、ごう声。㞷は〔説文〕六下に「艸木妄生するなり」とするが、卜文・金文の字形は、鉞頭の形である王の上に論語 外字 あしあし(止)を加えた形。おそらく出行にあたって行われる呪儀で、魂振りの意があり、神の力が与えられるのであろう。秘匿のところでその礼を行うのを匡といい、神意を以て邪悪をただすことを匡正という。その霊力が獣性のもので、誤って作用し、制御しがたいものになることを狂という。〔説文〕十上に「狾犬セキケンなり」と嚙み癖のある犬の名とするが、発狂・狂痴の状態を言う語である。〔書、微子〕「我は其れ狂を發出せん」、〔論語、公冶長〕「我が黨の小子狂簡にして斐然として章を成す」、〔論語、子路〕「子曰く、中行を得て之と與にせざるときは、必ずや狂狷か」のように、古くから理性と対立する逸脱の精神として理解された。清狂・風狂なども、日常性の否定に連なる一種の詩的狂気を示す語であった。

訓義

くるう。狂気。おろか。あわただしい。

供(キョウ・8画)

供 篆書
(篆書)

この文字は、論語時代以前の甲骨文・金文には見られず、戦国文字にも見られない。早くとも秦漢帝国以降に「共」と書き分けられるようになった文字と思われる。

学研漢和大字典

会意兼形声。共は「□印(ある物)+両手」の会意文字で、供の原字。□印で示されたある物を左右の両手で、うやうやしくささげるさまを示す。ささげる動作は、両手を同時に動かすため、共はともにの意に転じ、供の字がその原義をあらわすようになった。供は「人+(音符)共」。⇒共

恭(うやうやしい)・拱(キョウ)(左右の手を組む、こまぬく)と同系。異字同訓に備。「饗」の代用字としても使う。「供応」▽「複数を表すことば、ども」の意味の場合、かな書きが望ましい。

意味

  1. {動詞}そなえる(そなふ)。左右の手をそろえて曲げ、その間にうやうやしく物をささげ持つ。物をそなえる意。「供養」「有献蓮華供仏者=蓮華を献げて仏に供ふる者有り」〔南史・晋安王子懋〕
  2. (キョウス){動詞}差し出す。差しあげる。「提供」「王之諸臣、皆足以供之=王の諸臣、皆以てこれを供するに足る」〔孟子・梁上〕
  3. (キョウス){動詞}役だてる。「供職(職について役にたつ、奉仕する)」▽平声に読む。
  4. 「口供」「供述」とは、裁判に役だてる申したて。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①とも。身分の高い人に付き従うこと。また、その人。
    ②ども。お供の衆の意から、名詞の下について、複数であることをあらわすことば。
    ③ども。一人称代名詞について、へりくだった気持ちをあらわすことば。「身供」。

恭(キョウ・10画)

論語 恭 金文大篆 論語 恭 古文
(金文大篆・古文)

カールグレン上古音はki̯uŋ。同音は「供」など。うち金文が存在する字に「拲」(手かせ)があり、やはり同音の拱(こまねく)に通じると『大漢和辞典』にある。また「廾」(ささげる)は甲骨文が存在する。

この文字は秦帝国期の金文大篆が初見で、孔子在世当時は「キョウ」(カ音ki̯əŋ)と書かれていた可能性がある。

『学研漢和大字典』による音の変遷
  上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kɪuŋ kɪoŋ koŋ kuəŋ gōng
kɪəŋ kɪəŋ kɪəŋ tšiəŋ jīng

学研漢和大字典

会意兼形声。共(キョウ)は、廿型のものを両手でささげることを示す会意文字。恭は「心+(音符)共」で、目上の人の前に、物をささげるときのかしこまった気持ち。拱(キョウ)(両手をそろえてかしこまる)と同系。類義語に慎。

意味

{形容詞・名詞}うやうやしい(うやうやし)。かしこまっているさま。ていねいで慎み深いさま。慎んで物をささげるような気持ち。《同義語》⇒共。《対語》⇒倨(キョ)・傲(ゴウ)・驕(キョウ)。「恭敬」「其行己也恭=其の己を行ふや恭し」〔論語・公冶長〕

恐(キョウ・10画)

論語 恐 金文
(金文・「中山王□□□昔□鼎」)

この字の初出は戦国時代末期の金文であり、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯uŋ。同音は存在しない。部品の巩(カ音不明)”いだく・かかえる”の派生字である鞏(=𢀜、カ音ki̯uŋ)に、”おそれる”の語釈を『大漢和辞典』が載せる。
鞏 大漢和辞典

なお「凶」にも”おそれる”の語釈が『大漢和辞典』にあるが、カ音がxi̯uŋで音通しない。

学研漢和大字典

論語 恐 解字 論語 恐

会意兼形声。上部の字(音キョウ)は「人が両手を出した姿+(音符)工」からなり、突き通して穴をあける作業をすること。恐はそれを音符とし、心を加えた字で、心の中がつき抜けて、穴のあいたようなうつろな感じがすること。攻(コウ)(穴を貫く)・空(うつろな)と同系。

類義語の懼(ク)はびくびくして落ち着かぬ感じ。怖(フ)は、心が布のように薄く、ひやひやすること。怯は、おじおじと心がしりごみをすること。怕は、ひやひやして心配すること。畏は、威圧を感じて心がすくむこと。宵(テキ)は、いまにも大事がおこりはしないかと心細く、ひやひやすること。虞は、あらかじめ心をくばること。

」の代用字としても使う。「戦々恐々」▽「おそろしい」は「怖ろしい」とも書く。

語義

  1. {動詞}おそれる(おそる)。おどす。こわがらせる。こわがる。また、そうなりはしないかと心配する。《同義語》⇒虞(グ)。《類義語》懼(ク)。「恐怖」「燕君臣皆恐禍之至=燕の君臣皆禍の至らんことを恐る」〔史記・荊軻〕
  2. {副詞}おそらくは。…するかもしれない。こうなりはせぬかと心配だ。ひょっとしたら。「恐終敗事=恐らくは終に事を敗らん」〔近思録〕
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①おそろしい(おそろし)。こわい。
    ②おそれ。悪いことの起こる可能性。

敎/教(キョウ・11画)

教 金文 論語 教 金文
(金文)

上掲右の金文は古今字資料庫になく、白川静博士の独自採集と思われ、『字通』を参照してもその由来や年代が特定できないが、戦国時代の「燕侯載器」に酷似している。文字そのものは甲骨文から存在するので、論語の時代にも存在した。

学研漢和大字典

会意兼形声。もと「攴(動詞の記号)+(音符)爻(コウ)(まじえる)」で、さらに子を加えた字もある。子どもに対して、知識の受け渡し、つまり交流を行うこと。▽知識の交流を受ける側からいえば学・効(習う)といい、授ける側からは教という。交(まじえる)・較(コウ)・(カク)(まじえ比べる)・效(コウ)(=効。交流して習う)などと同系。類義語の誨は、よく知らない人をおしえさとす。訓は、物事の筋を通しておしえる。

意味

  1. {動詞}おしえる(をしふ)。先生とでしの間に、知識を交流させること。先生からでしに、知識・経験・技術を受け渡して知らせる。また、そうして導く。「教化」「挙善而教不能=善を挙げて能はざるを教ふ」〔論語・為政〕
  2. {名詞}おしえ(をしへ)。おしえる事がら。また、その内容。「敬奉教=敬んで教へを奉ぜん」〔史記・荊軻〕
  3. {名詞}おしえ(をしへ)。神や仏のおしえ。また、その内容。「教義」「教会」。
  4. {名詞}領主の命令。「教令」。
  5. {名詞}宗教。「回教」。
  6. {助動詞}しむ。せしむ。→語法▽平声に読む。

語法

「教~…」は、「~(をして)…せしむ」とよみ、「~に…させる」と訳す。使役の意を示す。「遂教方士殷勤覓=遂(つひ)に方士をして殷勤(いんぎん)に覓(もと)め教む」〈それで道士に念入りに捜索させた〉〔白居易・長恨歌〕▽本来の意味は「教えて~させる」で、後に転じて使役となった。

兢(キョウ・14画)

兢 金文
(金文)

カールグレン上古音はki̯əŋ。

学研漢和大字典

音の変遷
  上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kɪəŋ kɪəŋ kɪəŋ tšiəŋ jīng

会意。克(コク)は、重いかぶとをささえて、全身を緊張させた姿を示す会意文字。兢は、克の字を二つあわせたもので、ひどく緊張する意を示す。▽「説文解字」に「競(きそう、張りあう)なり」とある。克・戒(緊張していましめる)・極(ぴんと張った大黒柱)などと同系。競は別字。「恐」に書き換えることがある。「戦々恐々」。

意味

  1. {動詞}緊張して慎む。《類義語》戒。
  2. {形容詞}緊張してびくびくするさま。「戦戦兢兢(センセンキョウキョウ)」〔詩経・小雅・小旻〕

徼(キョウ・16画)

論語 徼 秦系戦国文字
(秦系戦国文字)

確認できる最古の書体は秦系戦国文字、楚系戦国文字は見つかっていない。カールグレン上古音はkioɡ。同訓近音に樛(kli̯ŏɡ)。こちらは戦国末期の金文「四年相邦樛斿戈」に見られる。

学研漢和大字典

形声。「彳(いく)+(音符)喪(ケキ)」。喪は涼(キョウ)(白い)の原字だが、ここでは単なる音符。徼は、引き締めて取り締まって歩く意。また、絞りあげる意から、むりをしてもとめる意を派生した。絞(コウ)(細く引き絞る)・覈(カク)(締め上げて調べる)などと同系。

意味

  1. {動詞}もとめる(もとむ)。得られそうもないことを得たいと願う。むりにもとめる。▽僥倖(ギョウコウ)の僥と混用して徼(ギョウ)とも読む。「徼福=福を徼む」「徼幸=幸ひを徼む」。
  2. (キョウス)(ケウス){動詞}むりに…のふりをする。「悪徼以為智者=徼して以て智と為す者を悪む」〔論語・陽貨〕
  3. {動詞・名詞}うかがう(うかがふ)。取り締まる。悪事を取り締まるために巡察する。また、見張りをおくとりで。国境。▽名詞の場合は去声に読む。「游徼(ユウキョウ)(巡察して回る)」「辺徼(ヘンキョウ)(国境の巡察。またそのとりで)」。
  4. {動詞}出口をしぼって追いつめる。
  5. {動詞}むかえうつ。▽邀(ヨウ)に当てた用法。「徼撃(ヨウゲキ)(=邀撃)」。
  6. {名詞}こまかに微妙なところ。▽竅(キョウ)(小さな穴、微妙なところ)に当てた用法。「常有欲以観其徼=常有欲以て其の徼を観る」〔老子・一〕

驕(キョウ・22画)

論語 驕 睡虎地秦墓竹簡
(秦系戦国文字)

「驕」の字は甲骨文・論語時代の金文は未発掘で、戦国時代の秦の国で初めて現れる。カールグレンによる上古音はki̯oɡであり、これと同訓音通の候補として「狂」があるが音がɡʰi̯waŋで音通しない。部品で同訓がある「喬」はki̯oɡであり、かつては「驕」と書き分けられなかったとほぼ断定できる。

喬 金文
「喬」(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「馬+(音符)喬(キョウ)(高くのびて先が曲がる)」。背の高い馬。また、高く上に出て、他を見さげること。橋(高く曲がったはし)・撟(キョウ)(高くかかげる)と同系のことば。

意味

  1. (キョウタリ)(ケウタリ){動詞・形容詞}馬が首を高くあげる。馬が首をたてて、勇みたつさま。たくましい。「四牡有驕=四牡驕たる有り」〔詩経・衛風・碩人〕
  2. (キョウタリ)(ケウタリ){動詞・形容詞}おごる。背のびして、人の上に出る。おごり高ぶる。また、おごり高ぶって見くだすさま。《対語》⇒謙。「富而無驕何如=富んで驕ること無きはいかん」〔論語・学而〕
  3. {名詞}背の高い馬。《類義語》驍。

近(キン・7画)

近 楚系戦国文字 近 秦系戦国文字
(楚系戦国文字・秦系戦国文字)

カールグレン上古音はɡʰi̯ən で、同音に「勤」「懃」(つとめる)「芹」(せり)「慬」(うれえる・つつしむ)があるが”ちかい”の語釈が『大漢和辞典』にない。

この文字は、戦国文字までしか遡れない。同訓同音の「㞬」は小篆にすら見られない。同訓近音の「幾」ɡʰi̯ərまたはki̯ərは西周中期から見られる。また『字通』は金文の時代、”ちかい”に「邇」ȵi̯ărを用いたという。

『学研漢和大字典』による音の変遷
  上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
gɪən gɪən kiən tšɪən jìn
kɪər kɪəi kɪəi tši

下記『学研漢和大字典』の解字から、部品の「斤」が論語時代の置換字になりうる。

学研漢和大字典

会意兼形声。斤(キン)は、ふたつの線がふれそうになったさま。または、厂型の物に、<型の斧(オノ)の先端がちかづいたさまとみてもよい。近は「辵(すすむ)+(音符)斤」で、そばにちかよっていくこと。祈(キ)(幸福にちかづこうとする)・幾(キ)(ちかい)と同系。類義語の迫は、紙ひとえにせまること。附は、くっつくこと。切は、肌身をこするように、じかにこたえること。親は、じかに接すること。逼(ヒツ)・(ヒョク)は、ぴったりとくっつきそうにせまること。

意味

  1. {形容詞・名詞}ちかい(ちかし)。そばによって、ふれそうになっている。距離・場所・時間のへだたりが少ない。ちかい所。ちかくにあるもの。《対語》⇒遠。《類義語》幾(キ)・迫・切・親。「近接」「近代」「付近」。
  2. {形容詞}ちかい(ちかし)。身ぢかである。手ぢかでわかりやすい。《対語》遠。「言近而指遠者、善言也=言近くして而指の遠き者は、善言也」〔孟子・尽下〕
  3. {形容詞}ちかい(ちかし)。よく似ている。「近似」「近於愚=愚に近し」。
  4. {動詞}ちかづく。そばによっていく。▽去声に読む。《対語》遠(とおざかる)。「近利=利に近づく」。
  5. (キンス){動詞}身ぢかによせて親しむ。▽去声に読む。「近幸(そばにちかづけてかわいがる)」「有七孺子皆近=七孺子有り皆近せらる」〔戦国策・斉〕

禽(キン・13画)

論語 禽 金文 論語 子禽
(金文)

論語では子貢の弟弟子、子禽(姓は陳、諱は亢。『孔子家語』に依れば孔子より40年少)の名として現れる。
子禽問於子貢曰…。(論語学而篇10)

学研漢和大字典

禽 解字会意兼形声。もと「柄つきの網+(音符)今(キン)(ふさぐ)」の会意兼形声文字。のち、下部に會(動物の尻)を加えたもので、動物を網でおさえて逃げられぬようにふさぎとめること。擒(キン)(とらえる)の原字。吟(口をふさいでうなる)・禁(ふさぎとめる)・陰(とじこめる)などと同系。類義語の鳥は、吊(チョウ)と同系で、長く尾をつり下げたとり。「とりこ」は「擒」「虜」とも書く。

意味

  1. {名詞}とり。網やわなで捕らえる動物。また、のち、猟をして捕らえるとりのこと。「禽獣(キンジュウ)(とりやけもの)」「君子之於禽獣也=君子の禽獣におけるや」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞・名詞}とりこにする(とりこにす)。とりこ。捕らえる。また、捕らえられたもの。《同義語》⇒擒(キン)。「何為為我禽=なんすれぞ我が禽と為るや」〔史記・淮陰侯〕

謹(キン・17画)

論語 謹 金文 論語 謹 篆書
(金文・篆書)

この文字=言葉は、戦国時代の末期になって現れる。従って論語の時代には存在しない。カールグレン上古音はki̯ən。藤堂上古音はkɪən。同音同訓の「仱」「憖」「矜」「禁」「赾」「緊」には、甲骨文・金文が存在しない。「欽」は戦国末期の金文からしか現れない。「肵」は甲骨文から存在するが、藤堂上古音・カールグレン上古音共に不明。

斤 謹 金文
「斤」(金文)

カールグレン上古音の同音に「斤」(おの)があり、甲骨文から存在し、『大漢和辞典』に”つつしむ”の語釈を載せる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、右側の堇(キン)は「動物の頭+火+土」からなり、かわいた細かい土砂のこと。謹はそれを音符とし、言を加えた字で、細かく言動に気を配ること。こまごまと小さい、の意を含む。

僅(キン)(細かい、わずか)・饉(キン)(食物がわずか)などと同系。懃(キン)ときわめて近く、懇切の懇(コン)とも縁が近いことば。

意味

  1. {動詞・形容詞}つつしむ。こまかに気を配る。また、ていねいにかしこまるさま。《同義語》⇒懃。《類義語》慎。「謹慎」「謹而信=謹みて而信あり」〔論語・学而〕
  2. {動詞}つつしむ。こまかに気を配って、狂いやもれのないようにつとめる。「謹権量=権量を謹む」〔論語・尭曰〕
  3. {動詞}あいてをうやまって使うていねい語。「謹白」「謹啓」。

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