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論語語釈「キ」

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語釈 urlリンクミス
  1. 己(キ・3画)
  2. 氣/気(キ・6画)
  3. 杞(キ・7画)
  4. 希(キ・7画)
  5. 季(キ・8画)
  6. 祇(キ・8画)
  7. 其(キ・8画)
  8. 起(キ・10画)
  9. 旣/既(キ・10画)
  10. 豈(キ・10画)
  11. 歸/帰(キ・10画)
  12. 鬼(キ・10画)
  13. 飢(キ・10画)
  14. 寄(キ・11画)
  15. 龜/亀(キ・11画)
  16. 䂓/規(キ・11画)
  17. 貴(キ・12画)
  18. 喜(キ・12画)
  19. 欺(キ・12画)
  20. 喟(キ・12画)
  21. 幾(キ・12画)
  22. 期(キ・12画)
  23. 棄(キ・13画)
  24. 毀(キ・13画)
  25. 箕(キ・14画)
  26. 器/器(キ・15画)
  27. 蕢(キ・15画)
  28. 戲/戯(キ・15画)
  29. 窺(キ・16画)
  30. 簣(キ・18画)
  31. 餼(キ・19画)
  32. 闚(キ・19画)
  33. 饋(キ・21画)
  34. 饑(キ・21画)
  35. 驥(キ・26画)
  36. 危(ギ・6画)
  37. 沂(ギ・7画)
  38. 疑(ギ・8画)
  39. 宜(ギ・8画)
  40. 義(ギ・13画)
  41. 儀(ギ・15画)
  42. 毅(ギ・15画)
  43. 誼(ギ・15画)
  44. 魏(ギ・18画)
  45. 議(ギ・20画)
  46. 巍(ギ・21画)
  47. 鞠(キク・17画)
  48. 乞(キツ・3画)
  49. 吉(キツ・6画)
  50. 肸(キツ・8画)
  51. 客(キャク・9画)
  52. 躩(キャク・27画)
  53. 九(キュウ・2画)
  54. 及(キュウ・3画)
  55. 久(キュウ・3画)
  56. 弓(キュウ・3画)
  57. 丘(キュウ・5画)
  58. 舊/旧(キュウ・5画)
  59. 朽(キュウ・6画)
  60. 求(キュウ・7画)
  61. 咎(キュウ/コウ・8画)
  62. 疚(キュウ・8画)
  63. 急(キュウ・9画)
  64. 糾(キュウ・9画)
  65. 躬(キュウ・10画)
  66. 宮(キュウ・10画)
  67. 救(キュウ・11画)
  68. 翕(キュウ・12画)
  69. 給(キュウ・12画)
  70. 廄/厩(キュウ・12画)
  71. 裘(キュウ・13画)
  72. 嗅(キュウ・13画)
  73. 窮(キュウ・15画)
  74. 牛(ギュウ・4画)
  75. 去(キョ・5画)
  76. 居(キョ・8画)
  77. 據/拠(キョ・8画)
  78. 舉/挙(キョ・10画)
  79. 莒(キョ・10画)
  80. 虛/虚(キョ・11画)
  81. 蘧(キョ・20画)
  82. 御(ギョ・11画)
  83. 魚(ギョ・11画)
  84. 圉(ギョ・11画)
  85. 禦(ギョ・16画)
  86. 凶(キョウ・4画)
  87. 共(キョウ・6画)
  88. 向(キョウ・6画)
  89. 匡(キョウ・6画)
  90. “>狂(キョウ・7画)
  91. 供(キョウ・8画)
  92. 享(キョウ・8画)
  93. 拱(キョウ・9画)
  94. 恭(キョウ・10画)
  95. 恐(キョウ・10画)
  96. 敎/教(キョウ・11画)
  97. 鄕/郷(キョウ・11画)
  98. 兢(キョウ・14画)
  99. 徼(キョウ・16画)
  100. 興(キョウ・16画)
  101. 薑/姜(キョウ・16画)
  102. 襁(キョウ・16画)
  103. 皦(キョウ・18画)
  104. 驕(キョウ・22画)
  105. 仰(ギョウ・6画)→卬
  106. 堯/尭(ギョウ・8画)
  107. 曲(キョク・6画)
  108. 亟(キョク・8画)
  109. 洫(キョク・9画)
  110. 棘(キョク・12画)
  111. 玉(ギョク・5画)
  112. 獄(ギョク・14画)
  113. 今(キン・4画)
  114. 斤(キン・4画)
  115. 近(キン・7画)
  116. 均(キン・7画)
  117. 矜(キン・9画)
  118. 勤/勤(キン・12画)
  119. 禽(キン・13画)
  120. 錦(キン・16画)
  121. 謹(キン・17画)
  122. /饉(キン・20画)
  123. 誾(ギン・15画)

己(キ・3画)

己 金文 己 甲骨文
己侯貉子簋蓋・西周中期/甲骨文

初出:初出は甲骨文

字形:ものを束ねる縄の象形だが、甲骨文の時代から十干の六番目として用いられた。従って原義は不明。

己 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「巳」と記す。慶大本は「已」(→語釈)も「巳」と記し、区別していない。「已」「巳」の混用は西周の金文より見られたが、「己」とは前漢まで区別して書かれた。上掲「乙瑛碑」のように、後漢後半から「己」「巳」の混用が見られる。

音:カールグレン上古音はki̯əɡ(上)。「コ」は呉音。

用例:人名や地名「紀」としての用例が春秋末までの金文に見られる。

春秋末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0418など複数に「□(畏)己丮女□(忌)𧾌𧾌」とあり、「おのがなんじの忌むところをるを畏るること𧾌ソン𧾌(恐れて逃げるさま)たり」と読め、”自分”と解せる。

備考:「漢語多功能字庫」によると、”自分”の意での用例は戦国時代まで時代が下るという。

下掲『学研漢和大字典』と『字通』で文字の淵源が乖離しているが、いずれにせよ”われ”の語義が原義でないことは共通している。近音で”われ”を意味しうるのは、『大漢和辞典』に所収の限りでは「台」のみで、カールグレン上古音はdi̯əɡ(平)またはtʰəɡ(平)。前者の韻目は「之」で、この音で「台」に”われ”の意があると『学研漢和大字典』はいう。

従って台di̯əɡ(平)→己ki̯əɡ(上)の音通ということになるが、音の共通が75%となるので、否定しがたい。なお「已」”止む”の字の、去声のカ音は不明だが、上声はzi̯əɡ。

学研漢和大字典

己 篆書 己 土器
(篆書)

象形。己は、古代の土器のもようの一部で、屈曲して目だつ目じるしの形を描いたもの。はっと注意をよびおこす意を含む。人から呼ばれてはっと起立する者の意から、おのれを意味することになった。起(はっとおきる)・紀(注意を呼びおこす糸口)と同系。

参考草書体をひらがな「こ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「こ」ができた。また、初画からカタカナの「コ」ができた。

語義

  1. {名詞}おのれ。自分。《対語》⇒他・人。「自己」「己欲立而立人=己立たんと欲して人を立つ」〔論語・雍也〕
  2. {名詞}つちのと。十干(ジッカン)の六番め。▽五行では土に当てる。日本の「兄弟(エト)」の「つちのと」は「土の弟(ト)」の意。順位の第六位も示す。
  3. 《日本語での特別な意味》おのれ。相手を見下して呼ぶことば。

字通

己 曲尺
己形の矩(定規)の形に似た器。角度を定める定規や糸の巻取りに用いるもので、紀の初文。〔詩、小雅、節南山〕「もったひらぎ式にむ」のように用いる。自己の意に用いるのは仮借で、本義ではない。十干では戊己は五行の土。己はつちのとにあたる。〔説文〕十四下に「中宮なり。萬物の辟蔵してつくる形に象るなり。己は戊を承く。人の腹に象る」とするが、形義ともに無稽の説である。

訓義

  1. おさめる。
  2. おのれ、みずから、わたくし、ひとり。
  3. 語詞、助字に用いる。
  4. 十干の一。つちのと。

大漢和辞典

己 冬

指事文字。五行説によれば、戊己は五行の中央にあたる。故に萬物形を曲げて縮まり蔵れる貌にかたどる。本義を中宮とし、之を引申して、外にある他人に対し、内にある自己、即ちおのれの意とする。つちのとと訓ずるのは、五行説で戊己は中央の土にあたるからである。説文通訓定声によれば、三横線と二縦線の合字。三横線は糸、二縦線はそれを分かつ意、故に紀の本字とする。

字解

おのれ。なにがし。つちのと。語勢を助ける助字。をさめる。古は𢀒に作る。姓。

氣/気(キ・6画)

乞 甲骨文 気 金文
合集12532/洹子孟姜壺・春秋

初出:初出は甲骨文

字形:雲が垂れ下がって消えていくさま。原義は”終わる”。初文は「氣」ではなく「气」で、「氣」は「餼」の初文。論語語釈「餼」を参照。

音:カールグレン上古音はkʰi̯əd(去)またはxi̯əd(去)。

用例:甲金文では「气」と「乞」の書き分けは明瞭でない。

「甲骨文合集」12532に「鼎(貞):今日其〔雨〕。王(占)曰:“(疑)。茲乞雨。”之日允雨。三月。」とあり、「とう、今日それ雨ふるか。王占いて曰く、疑うらくはここに雨やまんと。この日まことに雨ふれり。三月。」とよめ、”やむ”と解せるが、「疑うらくはここに雨の気あらん」とも読め、”気配”と解せる。

「甲骨文合集」16243に「庚戌卜爭貞王气正河新□允正十月」とあり、「王正に河にわんか」と読め、”もとめる”と解しうる。

西周早期「乍册󰛭令𣪕」(集成4300)に「公尹白丁父兄于戍。戍冀𤔲气。令敢揚皇王󱟳。」とあり、真ん中は「まもりて气を𤔲べるをこいねがう」と読めるが、「气」の語義が明確でない。あるいは「くるに𤔲わかるるをこいねがう」と読み、”生きる”を意味するか。

西周早期「天亡𣪕」(集成4261)に「不克乞衣王祀。」の「衣」は「殷」と釈文されており、「かたずして殷王の祀おわんぬ」と読め、”終わる”と解せる。

春秋早期「鄀公□鼎」(集成2753)に「用气(乞)□(眉)壽萬年無彊(疆)」とあり、”もとめる”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。气(キ)は、いきが屈曲しながら出てくるさま。氣は「米+(音符)气」で、米をふかすときに出る蒸気のこと。乞(キツ)(のどをつまらせていきをはく)・嘅(カイ)・(ガイ)(のどをつまらせてげっぷを吐き出す)・慨(カイ)・(ガイ)(のどをつまらせてため息をはく)などと同系。旧字「氣」は人名漢字として使える。▽付表では、「意気地」を「いくじ」「浮気」を「うわき」と読む。

語義

  1. {名詞}いき。のどから屈曲して出てくるいき。《類義語》息。「気息」「呼気」「屏気似不息者=屏気(へいき)して息せざる者に似たり」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}固体ではなくて、ガス状をしたもの。▽とくに蒸気のことは汽という。「気体」「空気」「天朗気清=天は朗かに気は清む」「気蒸雲夢沢=気は蒸す雲夢沢」〔孟浩然・臨洞庭〕
  3. {名詞}人間の心身の活力。「気力」「正気」「養気=気を養ふ」「気、壱則動志也=気、壱ならば則ち志を動かす」〔孟子・公上〕
  4. {名詞}漢方医学で、人体を守り、生命を保つ陽性の力のこと。「衛気(人体をとりまいて守る活力)」。
  5. {名詞}天候や四時の変化をおこすもとになるもの。また、陰暦で、一年を二十四にわけた一期間。二十四気。「節気」「気候」。
  6. {名詞}人間の感情や衝動のもととなる、心の活力。「元気」「気力」「少年剛鋭之気(ゴウエイノキ)(若者の強い気力)」。
  7. {名詞}形はないが、なんとなく感じられる勢いや動き。「気運」「兵革之気(ヘイカクノキ)(戦争のおこりそうな感じ)」。
  8. {名詞}偉人のいる所にたち上るという雲気。「望気術(雲気を遠くから見て、運勢を定める術)」「吾、令人望其気=吾、人をして其の気を望ま令む」〔史記・項羽〕
  9. {名詞}宋(ソウ)学で、生きている、存在している現象をいう。▽存在するわけを理という。「理気二元論」。
  10. {名詞}《俗語》かっとする気持ち。「動気(かっとする)」。

字通

[形声]旧字は氣に作り、气(き)声。〔説文〕七上に「客に饋(おく)る芻米なり」とあり、〔左伝、桓六年〕「齊人、來(きた)りて諸侯に氣(おく)る」の文を引く。いま氣を餼に作る。气が氣の初文、また氣は餼の初文。いま气の意に気を用いる。

杞(キ・7画)

杞 甲骨文 杞 金文
甲骨文/亞酉凶兇杞婦卣・殷代末期

初出:初出は甲骨文

字形:「木」+「己」で、樹木の一種。

音:カールグレン上古音はkʰi̯əɡ(上)。

用例:「甲骨文合集」24473.2に「己卯卜行貞王其田無災在杞□」とあり、地名と解せる。

春秋早期「□子每刅鼎」(集成2428)に「□子每刅乍寶鼎。其萬年寶。」とある「□」は、「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では「杞」と釈文されている。諸侯の一つと解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名に用い、金文では諸侯国の一国の名(杞白每刃鼎・春秋早期)。文献では多く”クコ”の意に用いられるという。

備考:「杞」は夏王朝の開祖、禹の末裔を称する国(→Wikipedia)。だがそれを言い出したのは、滅亡後300年後に生まれた司馬遷で、司馬遷ですら夏の末裔という伝説を真に受けていたかどうか怪しい。

杞東樓公者,夏后禹之後苗裔也。殷時或封或絕。周武王克殷紂,求禹之後,得東樓公,封之於杞,以奉夏后氏祀。…杞小微,其事不足稱述。


杞の東樓公は、夏の禹王の末裔である。殷の時代に、おそらく国を失った。周の武王が殷の紂王を破ると、禹の末裔を探して、東樓公を見つけた。この人物を杞に封じ、夏王朝の祭祀をやらせた。…杞はあまりに小国で、実はどういう国だったかはっきりしない。(『史記』陳杞世家)

孔子は夏王朝の名は知っていたが詳細は知らず、開祖の禹王を創作したのは、孔子と入れ違うように戦国初期を生きた墨子で、自分ら技術者集団の開祖として、また儒家の持ち上げる周公・文王に先立つ聖王として禹王を創作した。

それにさらにかぶせるように、すでに杞が滅んでから現れた孟子が、舜王に位を譲った有り難い聖王として舜を創作した。仕えていた斉王は陳の末裔だったが、国を乗っ取って日が浅く、家格に箔付けを望んでいたからである。

学研漢和大字典

形声。「木+(音符)己」。

語義

  1. 「枸杞(クコ)」とは、なす科の落葉低木。葉・果実・根を食用・薬用にする。
  2. {名詞}柳の一種。こりやなぎ。枝を刈り、皮をとって行李(コウリ)などを編むのに用いる。「杞柳(キリュウ)」。
  3. {名詞}おうち(あふち)。くすに似た高木。木目が細かくなめらかなので、材木は家具などに用いられる。「杞梓(キシ)」。
  4. {名詞}周代の国名。周の武王が、夏(カ)王朝の子孫を封じた国。今の河南省杞県にあった。

字通

[形声]声符は己(き)。〔説文〕六上に「枸杞なり」とあり、くこをいう。その実は薬用として強精剤に、また枸杞油として用いられる。また杞柳をいう。

希(キ・7画)

希 隷書
「睡虎地秦簡」日甲71背・隷書

初出:初出は戦国中末期の「包山楚簡」。「小学堂」による初出は秦の隷書

字形:「爻」”占いの卦”+「巾」”垂れ帯”で、原義は不詳。

音:カールグレン上古音はxi̯ər(平)で、同音は「屎」”くそ”のほかは「希」を部品とする漢字群。

用例:文献ではまず”まれ”の意に用い、次いで”望む”の意に用いた。

論語時代の置換候補:結論として論語時代の置換候補はない。

『大漢和辞典』の同音同訓に「犧」初出は戦国の竹簡、「稀」初出は戦国最末期の「睡虎地秦簡」

日本語で近音同訓の「寡」はkwɔ。「犧」はxiaだが、初出は戦国文字。王力上古音hǐəi・董同龢上古音xjə̆dの同音に塈(墍の異体字)があるが、語義は”ぬる・かざる”。また董同龢上古音xjə̆dの同音には「气」を部品とする漢字群があるが、”まれ”の語義を持たない。周法高上古音xjərでは同音が多数となる。李方桂上古音xjədでの同音は希を部品とする3字のみ。

学研漢和大字典

会意。「メ二つ(まじわる)+巾(ぬの)」で、細かく交差して織った布。すきまがほとんどないことから、微小で少ない意となり、またその小さいすきまを通して何かを求める意となった。幾(こまかい、わずか)と同系。類義語の望は、見えないものを待ち望むこと。「稀」の代用字としても使う。「希・希元素・希釈・希少・希代・希薄・希硫酸・古希」。

語義

  1. {形容詞}まれ。めずらしい。ごく少ない。うすい。かすか。▽希のあとに補語を伴うことがある。《同義語》⇒稀。《類義語》少。「希少」「幾希=幾んど希なり」「希不失矣=失はざること希なり」〔論語・季氏〕
  2. {動詞}ねがう(ねがふ)。めったにないことをあってほしいとねがう。「希望」「誰不希令顔=誰か令顔を希はざらん」〔曹植・美女篇〕
  3. {動詞}こいねがう(こひねがふ)。ねがい望む。手づるを求めてまさぐる。「先意希旨=意に先だつて旨を希ふ」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  4. {名詞}国名。「希臘(ギリシア)」の略。

字通

[象形]すかし織りの布。上部の爻(こう)はその文様を示す。〔説文〕に希字を収めない。〔論語、先進〕「瑟を鼓すること希(まれ)なり」、〔論語、公冶長〕「怨み是(ここ)を用(もつ)て希なり」など、稀の意に用いる。〔爾雅、釈詁〕に「罕なり」とみえる。稀と通用し、希望の意は覬・冀・幾との通用義。〔周礼、春官、司服〕「社稷五祀を祭るときは、則ち希冕(ちべん)す」とあって絺(ち)の初文とみられ、希とはあらい麻織の織目の形を示す字であろう。

季(キ・8画)

季 甲骨文 季 金文
甲骨文/季良父盉・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「禾」”イネ科の植物”+「子」で、字形によっては「禾」に穂が付いている。字形の由来は不明。

音:カールグレン上古音はki̯wæd(去)。同音は存在しない。

用例:「甲骨文合集」14710.2などに「貞侑于季」とあり、「とう、季にたすけあらんか」と読めるが、「季」が地名なのか、人名なのか、末子を意味するのか分からない。金文も同様。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では人名に用いた。金文でも人名に用いたほか、”末子”を意味した(奠羌白鬲・西周末期)。

備考:論語ではほぼ、魯国門閥三家老家筆頭・季孫氏として登場する。

学研漢和大字典

会意。「禾(こくもつのほ)+子」。麦やあわの実る期間。作物のひと実りする三か月間。また、収穫する各季節のすえ。禾に子を加えてすえの子を意味する。のち、広くすえの意に用いる。李(リ)と混同しやすいので注意。

語義

  1. {名詞}三か月。▽一年を春・夏・秋・冬の四季にわける。《類義語》年・節(一年を二十四の節にわけたもの)。「節季」。
  2. {名詞}すえ(すゑ)。季節や時代の最後。「季春(春のすえ)」「季世(世のすえ)」「百王之弊、斉季斯甚=百王之弊、斉の季つかたこそ斯甚だしけれ」〔任遭・天覧三年〕
  3. {名詞}すえ(すゑ)。兄弟の序列で、すえの人。▽兄弟を年齢の上の者から順に、伯・仲・叔・季という。また、孟・仲・季ともいう。「伯仲叔季」「季曰周七=季を周七と曰ふ」〔韓愈・柳子厚墓誌銘〕
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①き。俳句の題材となる四季の区分。「季題」。
    ②き。一年を単位として数えることば。「半季」。

字通

[会意]禾(か)+子。〔説文〕十四下に「少(わか)き偁(な)なり。子に從ひ、稚の省に從ふ。稚は亦聲なり」とするが声が合わず、字形も年・委などと立意同じ。年は禾と人、委は禾と女。みな稲魂(いなだま)を示す禾を頭上に被って、田舞をする姿。年・委は男女、季は幼少の子が加わって、農耕儀礼としての田舞を舞った。字は卜辞・金文にみえ、稚の亦声とする理由はない。

祇(キ・8画)

祇 金文
者󱜒鐘・戦国早期

初出:初出は戦国早期の金文

字形:「示」”祭壇”+「氏」”非血統的同族”。氏族の氏神をさす。

音:カールグレン上古音はȶi̯ĕɡ(平)またはgʰi̯ĕɡ(平)。

用例:戦国早期「者󱜒鐘」(集成122)に「台(以)祗光朕立」とあり、”開祖の神”または”土地の神”と解せる。

論語述而篇34、定州竹簡論語では「」と記す。論語語釈「禔」を参照。

論語時代の置換候補:部品の「示」。『大漢和辞典』での同音同訓に、部品の「示」i̯ər(去、平は不明)があり、”神霊”を意味しうる。

『大漢和辞典』で「くにつかみ」と訓読する字に「示」「社」(社)「祇」があり、いかづちの象形で「申」(神)が「あまつかみ」を意味したのに対し、「示」は広く神霊一般を指した。のち、天の神と地の神を区別するため、「示」には「土」「氏」を付けて「くにつかみ」を表し、「申」には「示」を付けて「あまつかみ」を表した。詳細は論語語釈「示」を参照。

備考:春秋末期の金文に「」(カールグレン上古音不明)を「祇」と釈文する例がある。ただし”いのる”・”かみ”の意ではない。論語語釈「淄」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「氏+(音符)示(キ)・(シ)(祭壇)」で、氏神としてまつる土地神。示(キ)と同じ。「ぴ」の場合は祗(シ)の字と混同した用法。氏の下に一を書く祗(つつしむ・うやまう)は別字。共に「シ」の音があるので混同しやすい。

語義

{名詞}くにつかみ。地の神。▽神(天のかみ)に対する。《同義語》⇒示(キ)。「神祇(ジンギ)」「地祇(チギ)(地の神)」。

{副詞}ただ。ひたすらに、ただ…だけの意をあらわすことば。▽祗(シ)や只(シ)と同じに用いる。「祇攪我心=祇だ我が心を攪すのみ」〔詩経・小雅・何人斯〕

字通

[形声]声符は氏(し)。〔説文〕一上に「地祇なり。萬物を提出する者なり」と地・祇・提の声義の関係を以て説く。〔周礼、春官、大司楽〕「地示を祭る」と示を用いることもあり、古くは示(し)の声であろう。氏は氏族共餐のとき用いる小刀の形、祇は氏族の神で、産土神(うぶすながみ)を意味する字であろうと思われる。

其(キ・8画)

其 甲骨文 其 金文
『字通』所収甲骨文/師虎簋・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「𠀠」”かご”。かごに盛った、それと指させる事物の意。西周中期の金文から下に「二」”折敷”または「丌」”机”・”祭壇”を加えた。殷代末期の金文にも、下に「一」を加えた例が見られる。

音:カールグレン上古音はɡʰi̯əɡまたはki̯əɡ(共に平)。後者の同音は論語語釈「箕」を参照。

用例:『甲骨文合集』6.2に「貞其疾七月」とあり、「貞う其れ七月に疾まんか」と読め、未来を示す助辞の語義が確認できる。

西周の金文に、「其子子孫其永寶用」との結語の言い廻しが多数有り、「それ子々孫々永く宝と用いよ」と読め、感嘆などの語気を示す助辞の語義が確認できる。

春秋早期の「魯大𤔲徒厚氏元𥮉」に、「魯大𤔲徒厚氏元乍善𥮉。其眉壽萬年無彊。子子孫孫。永寶用之。」とあり、「魯大𤔲徒厚氏元、善𥮉を作る。その眉寿万年彊り無からん。子々孫々永く之を宝と用いよ」と読め、人称代名詞の語義が確認できる。

「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」は人称代名詞の初例を殷代末期の金文「或父己觚」とするが、銘文が「或其說父己彝。□。」とあるのみで、判別しがたい。指示代名詞に用いた例は、「」の字体で戦国中期の「新蔡葛陵楚簡」乙四128からとし、「其」の字体で戰國中期或末期の「包山楚墓」85からとしている。

漢語多功能字庫

」甲骨文作「𠀠」,象筲箕之形,是「」的初文。


「其」は甲骨文では「𠀠」と書き、ちりとりのたぐいの象形。「箕」の最古形。

甲骨文の段階で”…だろう”・”もしも”を意味し、金文の段階で希望や命令を意味し、代名詞や人名にもなった。「期」、「忌」とも音通するようになった、

学研漢和大字典

其 解字
象形文字で、其の甲骨文字は、穀物を載せる四角い箕(キ)(み)の形を描いたもの。金文は、その下に台の形を加えた。其は、のちの箕の原字だが、その音を借りてやや遠い所の物をさす指示詞に当てた。▽単独では、主語や客語に用いない。

語義

  1. {指示詞}その。それ。→語法「①」。
  2. {助辞}それ。→語法「②-(1)」。
  3. {助辞}それ。→語法「②-(3)」。
  4. {助辞}その。語調を整える助辞。「灼灼其華=灼灼たる其の華」〔詩経・周南・桃夭〕

語法

①「その」「それ」とよみ、「その」「それ」と訳す。前述の人・物・事をうける指示代名詞として用い、単独では主語などに用いない。此(この)に対して、やや遠いところを指す。《対語》之・是。《類義語》厥。「此其志不在小=これその志小に在らざるなり」〈これはその野望が小さな所にとどまってはいない〉〔史記・項羽〕

②「それ」とよみ、

  1. 感嘆・強調などの語気を示す。▽「其~乎(哉・矣・也)(与)」は、「それ~かな」とよみ、「なんと~だなあ」と訳す。感嘆の意を示す。「語之而不惰者、其回也与=これに語(つ)げて惰(おこた)らざる者は、それ回なるか」〈話をしてやって、それに怠らないのは、顔淵だけだね〉〔論語・子罕〕
  2. 「そもそも」「なんと」と訳す。反語・感嘆を強調する意を示す。▽多く文頭に使用され、物事の起源・原因などをのべる。「其言之不俊、則為之也難=それ言の怍(は)ぢざるは、則(すなは)ちこれを為すや難(かた)し」〈そもそも自分の言葉に恥じないようでは、それを実行するのは難しい〉〔論語・憲問〕
  3. 「もし~ならば」と訳す。仮定を強調する意を示す。▽多く仮定の意を示す語とともに用いる。「其如是、孰能禦之=それかくの如(ごと)くんば、孰(いづれ)かよくこれを禦(とど)めん」〈もしこのような時、いったい誰が抑えとどめることができるでしょう〉〔孟子・梁上〕

③「其~乎(哉・矣・也)」は、

  1. 「それ~ならんや」とよみ、「どうして~だろうか(いやそうではない)」と訳す。反語の意を示す。《類義語》豈。「大車無瑕、小車無瑕、其何以行之哉=大車瑕(げい)無(な)く、小車瑕無くんば、それ何をもってかこれを行(や)らんや」〈牛車に轅(ナガエ)のはしの横木がなく、四頭だての馬車に轅のはしのくびき止めがないのでは、(牛馬をつなぐことはできず)一体どうやって動かせようか〉〔論語・為政〕
    ▽「其諸~乎(哉・矣・也)(与)」は、「それこれ~や」とよみ、「~だろうか(いやそうではない)」と訳す。「其~乎(哉・矣・也)」を強調したいい方。「夫子之求之也、其諸異乎人之求之与=夫子のこれを求むるや、それこれ人のこれを求むるに異なるや」〈先生の求めかたといえば、そう、他人の求めかたとは違うらしいね〉〔論語・学而〕
  2. 「それ~か」とよみ、「~だろうか」と訳す。推測の意を示す。「知我者其天乎=我を知る者はそれ天か」〈私のことを分かってくれるものは、まあ天だね〉〔論語・憲問〕

④「其~乎(邪)、其…乎(邪)」は、「それ~か、それ…か」とよみ、「~であろうか、…であろうか」と訳す。選択の意を示す。「天之蒼蒼、其正色邪、其遠而無所至極邪=天の蒼蒼たるは、それ正色なるか、それ遠くして至極する所無(な)きか」〈天空が青いのは、一体、本当の色であろうか、それとも遠く果てしないため(そう映るの)であろうか〉〔荘子・逍遙遊〕

⑤「其者」は、「それ」とよみ、「それは」「その訳は」「思うに」と訳す。「其者寡人之不及与=それ寡人(かじん)の及ばざるや」〈それは、わたくしめが及ばないからであろうか〉〔漢書・燕刺王劉旦〕

⑥「与其~寧…」は、「その~よりは、むしろ…」とよみ、「~よりも…がよい」と訳す。「礼与其奢也寧倹=礼はその奢(おご)らんよりは寧ろ倹なれ」〈礼ははでやかにするよりも、ひかえめのほうがよい〉〔論語・八佾〕

⑦「其斯之謂与」は、「それこれをこれいうか」とよみ、「(ことわざにいうことが)おそらくこのことであろうか」と訳す。「子貢曰、詩云、如切如磋、如琢如磨、其斯之謂与=子貢曰く、詩に云ふ、切するが如(ごと)く磋するが如く、琢するが如く磨するが如しとは、それこれをこれ謂ふか」〈子貢が、詩経・衛風・淇奥に、骨を切るように、象牙をするように、玉をうつように、石を磨くようにとうたっているのは、ちょうどこのことでしょうねと言った〉〔論語・学而〕

字通

[象形]箕(み)の形で、箕の初文。其を代名詞・副詞に用いるに及んで、のち箕が作られた。〔説文〕五上に箕を正字として「簸なり」とし、古文・籀文の字形をあげる。金文には箕を簸揚する形、また女に従う形がある。終助詞として、己・記・忌と通用する。


※「己・記・忌と通用する」とは『大漢和辞典』では『経伝釈詞』(清)を引用して説明しており、引用元には「其,語助也。或作記,或作忌,或作己,或作䢋,義並同也。」とある。円周率を「円三径一」で済ませていた清儒の話を、安易に論語には適用できない。

起(キ・10画)

起 楚系戦国文字
新甲3.109・楚系戦国文字

初出:初出は戦国文字

字形:「彳」”みち”+「之」”ゆく”+「己」で、字形の由来は明瞭でない。

音:呉音は「コ」。カールグレン上古音はkʰi̯əɡ(上)。同音に欺”あざむく”・僛”酔って踊る”・杞”木の名・国名”・屺”はげ山”・芑”白い穀物”。

用例:「漢語多功能字庫」によると、戦国の竹簡では”おこすの意に用いた。戦国時代になってから出来た新しい言葉で、論語の時代に存在しない。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』による同音同訓に「隑」があるが、初出は不明。甲金文にはなく、文献上の初出は前漢の『方言』。

学研漢和大字典

会意兼形声。己(キ)は、曲がりつつおきあがるさま。または、注意をよびおこす己型の目じるし。起は「走(足の動作)+(音符)己」で、下に休んでいたものや目だたなかったものが、おきあがること。類義語に建。異字同訓に興す・興る「産業を興す。国が興る」。草書体をひらがな「き」として使うこともある。

語義

  1. {動詞}おきる(おく)。おこす。たつ。たてる(たつ)。横になっていたものがたつ。また、横になっているものをたてる。「奮起」「扶起(フキ)(手をわきにさし入れて助けおこす)」「鶏鳴而起=鶏鳴にして而起く」〔孟子・尽上〕
  2. {動詞}おこる。おこす。やんでいたものが動き出す。物事をはじめる。《対語》⇒滅・休。「起工」「起病=病起こる」「起兵=兵を起こす」。
  3. {動詞}おこす。自覚や記憶をよびおこす。「起用」「子曰、起予者商也、始可与言詩已矣=子曰はく、予を起こす者は商なり、始めてともに詩を言ふべきのみ」〔論語・八飲〕
  4. {名詞}物事のはじめ。「起源」。
  5. 「起句」の略。「起承転結」。
  6. {単位詞}回数をかぞえることば。《類義語》回・次。
  7. 《俗語》「一起(イーチー)」とは、いっせいに。いっしょに。

字通

[形声]旧字は■(走+巳)に作り、巳(し)声。〔説文〕二上に「能く立つなり」とする。金文・篆文の字形はすべて巳に従っており、それならば蛇が頭をもたげてゆく意である。坐して起(た)つときの動作をいい、それよりすべてことを始める意となる。

旣/既(キ・10画)

既 甲骨文 既 金文
甲骨文/夨令方尊・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:「ホウ」”たかつきに盛っためし”+「」”口を開けた人”で、腹一杯食べ終えたさま。「旣」は異体字だが、文字史上はこちらを正字とするのに理がある。原義は”…し終えた”・”すでに”。

旣 既 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔日厶元〕」と記す。「齊董洪達造象」(北斉)刻、『敦煌俗字譜』所収。

音:カールグレン上古音はki̯əd(去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義に、”やめる”の意に、祭祀名に用いた。金文では原義に(夨令方尊・西周早期)、”…し尽くす”(𠑇匜・西周末期)、誤って「即」の意に(逋盂・西周末期)用いた。

備考:論語陽貨篇21の定州竹簡論語に見られる「キ ガイ 旣 外字」は、小学堂では「旣」の異体字として扱われている

論語先進篇27の定州竹簡論語に見られる「既 外字」は、『大漢和辞典』によると音は「ガイ」、「墍」”ぬる・かざる・とる・いこう”の異体字という。もちろんこの語義では論語の該当章を解釈することは出来ない。「旣」の異体字と見なすべきで、定州竹簡論語でしばしば「爾」をわざわざ「壐」と書いているのと同じく、全く意味の無い漢儒のもったい付けで、まじめに検討する価値を感じない。

学研漢和大字典

会意兼形声。旡(キ)は、腹いっぱいになって、おくびの出るさま。既はもと「皀(ごちそう)+(音符)旡」で、ごちそうを食べて腹いっぱいになること。限度まで行ってしまう意から、「すでに」という意味を派生する。漑(ガイ)(田畑に水をいっぱいみたす)・概(ガイ)(ますに米をいっぱいに満たす、ますかき棒)・慨(ガイ)(胸いっぱいになる)などと同系。「すでに」は「已に」とも書く。

語義

  1. {副詞}すでに。→語法「①」。
  2. {動詞}つくす。つきる(つく)。食べつくす。…してしまう。「既食(食べつくす)」「日、有食之、既=日、これを食する有り、既くす」〔春秋・桓三〕

語法

①「すでに~」とよみ、

  1. 「~したのち」「~したので」と訳す。動作が完了したり、状態が変化した結果、次の動作・状態がおこる意を示す。「鮑叔既進管仲以身下之=鮑叔すでに管仲を進め身もってこれに下る」〈鮑叔は管仲を推薦すると、進んでその下位に立った〉〔史記・管晏〕▽「既已=すでに」も、意味・用法ともに同じ。
  2. 「すでに」「もはや」「以前から」と訳す。動作・状態が過去に完了・変化し、現在までそれが続いている意を示す。「文王既没、文不在茲乎=文王すでに没す、文ここに在らずや」〈文王はもはや亡くなられたが、その文化はここに(この我が身に)伝わっているぞ〉〔論語・子罕〕
  3. 「もう充分に」「すっかり」「完全に」と訳す。動作・状態が完全になる意を示す。「既酔而退、曾不吝情去留=すでに酔ひて退くときは、曾(かつ)て情を去留に吝(やぶさか)にせず」〈十分に酔って一人になっても、心を自然のなりゆきにまかせてくよくよなどしない〉〔陶潜・五柳先生伝〕
  4. 「~したからには」「~した以上」と訳す。前節の結果を条件として後節をみちびく意を示す。後節には、反語や意志の意を示すことばが続くことが多い。「嗟乎、独遭乱世、既以不能死、安託命哉=嗟乎(ああ)、独り乱世に遭ひ、すでにもって死すること能はず、安(いづ)くに命を託せんや」〈ああ、乱世に出遭ってしまった、死ねないからには、どこにわが命を託したものか〉〔史記・李斯〕
  5. 「やがて~」「そのまま~」と訳す。前節に引き続いて、後節に動作などがおこる意を示す。「至易水之上、既祖取道=易水の上に至る、すでに祖して道を取らんとす」〈易水のほとりまで来た、そこで道祖神を祭り、いよいよ旅路につく〉〔史記・刺客〕

②「既而」は、「すでにして」とよみ、「その後まもなく」と訳す。あることが終わって間もなくの意を示す。「意気揚揚、甚自得也、既而帰、其妻請去=意気揚揚として、甚だ自ら得たる、すでにして帰る、その妻去らんことを請ふ」〈意気揚揚と得意気であった、夫が帰ってきたとき、妻は、お暇を頂きたいと言った〉〔史記・管晏〕

③「既~則(便)…」は、「すでに~ならば、すなわち…」とよみ、「~であるからには…であろう」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「故遠人不服、則脩文徳以来之、既来之、則安之=故に遠人服せざれば、則(すなは)ち文徳を脩(おさ)めてもってこれを来たす、すでにこれを来たらしむれば、則ちこれを安んず」〈そこで遠方の人が従わなければ、(武には頼らないで)文の徳を修めてなつけ、なつけたならば、安定させる〉〔論語・季氏〕

④「既~又(亦)…」は、「すでに~にして、また…」とよみ、「~した上、さらに…」と訳す。累加の意を示す。「既窈窕以尋壑、亦崎嶇而経丘=すでに窈窕(えうてう)としてもって壑(がく)を尋ね、また崎嶇(きく)として丘を経」〈奥深い谷を訪ねた上に、さらに険しい丘をたどる〉〔陶潜・帰去来辞〕▽「既~且…=すでに~にしてかつ…」「既~終…=すでに~にしてついに…」も、意味・用法ともに同じ。

字通

[会意]旧字は旣に作り、皀と旡とに従う。皀は𣪘(簋)の初文。盛食の器。旡は食に飽いて、後ろに向かって口を開く形。食することすでに終わり、嘅気を催すさまを示す。〔説文〕五下に「小食なり」というのは、〔段注〕にいうように嘰の声義を以て解するもので、旣字の本義ではない。

豈(キ・10画)

𧽊 金文 豈 秦系戦国文字
𧽊簋・西周中期/「睡虎地秦簡」為10・戦国秦

初出:初出は西周中期の金文「𧽊カイ」(人名。語釈は”走る”)の部品とされる。「小学堂」による初出は戦国最末期の「睡虎地秦簡」。ただし「𧽊」の部品と秦系戦国文字とは似ているとも似て言えないとも言えない。

壴 金文
壴鼎・西周早期

字形:おそらく「豆」”たかつき”+”蓋”+”手”。原義は不明。

漢語多功能字庫」によると「鼓」の初文「シュ」ti̯u(去、初出は甲骨文)”太鼓”と同形というが、上古音がまるで違う。『説文解字』は「凱歌」の「凱」kʰər(上、初出は前漢の隷書)の初文と言うが、初出から”どうして…であろう”の意で用いられており、後漢儒の空耳アワーに過ぎない。

音:カールグレン上古音はkʰi̯ər(上)。近音同義に「幾」ki̯ər(平)。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」為吏10伍に「官之暋豈可悔」とあり、「おおやけのつとめあにくゆべきや」と読め、”どうして…だろうか”と解せる。

論語時代の置換候補:存在しない。『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。上古音で近音同訓の「幾」には、春秋末期までに”どうして…だろうか”の用例が確認できない。

備考:強調の助辞。初出は秦系戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯ər(上)で、同音は存在しない。下記藤堂説は、「」と音通するという。

漢語多功能字庫

」是「」的初文,表示戰勝奏樂。借為虛詞。


「豈」は「凱」の最古の字形で、戦勝の音楽を奏でることを言う。音を借りて文法上の記号とする。

学研漢和大字典

象形。喜の字の上部や、鼓の字の左の部分とよく似た形で、神楽の太鼓をたてた姿を描いた象形文字であろう。もと、にぎやかな軍楽のこと。▽のち、その音を借りて指示詞の其(キ)(それ)に当て、指示・強調を加えて反問する語気をあらわす。「其非天乎=それ天にあらずや」は「豈非天乎=あに天にあらずや」と同じ。

語義

キ/ケ
  1. {助辞}あに。→語法「①」。
  2. {助辞}あに。→語法「④」。
カイ
  1. {形容詞}にこやかなさま。《同義語》⇒祥。「豈弟(ガイテイ)(=祥悌)」。
  2. {動詞・名詞}にこやかにどよめく。また、にぎやかな軍楽。▽凱旋(ガイセン)の凱に当てた用法。「豈楽飲酒=豈楽して酒を飲む」〔詩経・小雅・魚藻〕

語法

①「あに~(な)らんや」とよみ、「どうして~であろうか(まさかそんなことはあるまい)」と訳す。強い肯定となる反語の意を示す。▽文末に「乎」「哉」「与」などの助詞をつけて多く用いる。《類義語》其・安・焉(イズクンゾ)。「子為恭也、仲尼豈賢於子乎=子恭を為すなり、仲尼あに子より賢(まさ)らんや」〈あなたは謙遜されているのです、仲尼がどうしてあなたよりすぐれているものですか〉〔論語・子張〕

②「豈~乎(邪)(哉)」は、「あに~なるか」とよみ、「ことによると~なのだろうか」と訳す。推測の意を示す。「舜目蓋重瞳子、又聞項羽亦重瞳子、羽豈其苗裔邪=舜の目は蓋(けだ)し重瞳子ならん、また聞く項羽もまた重瞳子なりと、羽はあにその苗裔(べうえい)なるか」〈舜の目は二つ眸であったらしい、また、項羽も二つ眸であったと聞く、項羽は舜の子孫ででもあったのだろうか〉〔史記・項羽〕

③「あに」とよみ、「どうか~であってもらいたい」「~であればよい」と訳す。願望の意を示す。「天王豈辱裁之=天王あに辱(かたじけな)くこれを裁せんや」〈大王よ、願わくは裁定をくだされよ〉〔国語・呉〕

④「豈不~」は、「あに~ずや」とよみ、「なんと~ではないか」と訳す。感嘆・強調・反語の意を示す。「豈不憚艱険=あに艱険(かんけん)を憚(はばか)らざらんや」〈どうして険しい道を避けようとするだろうか〉〔魏徴・述懐〕▽「豈非~」は、「あに~にあらずや」とよみ、意味・用法ともに同じ。

⑤「豈惟」「豈唯」「豈徒」「豈特」は、「あにただに~(のみならんや)」とよみ、「どうして~だけに限ろうか(いや、決してそれだけではない)」と訳す。範囲・条件を限定しない反語の意を示す。▽文末に「耳=のみ」「而已=のみ」など、限定の助詞をつけて多く用いる。▽後節に「又…」と続けて、「どうして~だけに限ろうか、…もまたそうである」と訳す。さらに累加する意を示す。「豈惟怠之、又従而盗之=あにただにこれを怠るのみならんや、また従ひてこれを盗む」〈仕事をしないだけではない、それをいいことに盗みまで働くしまつだ〉〔柳宗元・送薛存義序〕

字通

[象形]軍鼓の形である豆の上に、羽飾りなどを飾る形。苗族の楽器である銅鼓を示す南の古い字形にも、上端両旁に羽飾りを加えた形のものがある。〔説文〕五上に「師を遣すときの振旅の樂なり」とあり、凱の初文とみてよい。

歸/帰(キ・10画)

帰 甲骨文 帰 金文
甲骨文/毓且丁卣・商代晚期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「𠂤タイ」”師=軍隊”+「シュウ」”ほうき”。「漢語多功能字庫」は「敵を打ち払って凱旋する軍隊」と原義を説明するが、「帚」は甲骨文では”婦人”の意で使われており、ほうきと言えるかどうか。甲骨文では別に「彗」の字があって”ほうき”を意味した。”軍の帰還を迎える夫人”と解する方が自然と思う。

慶大蔵論語疏は異体字「𨺔」と記す。「隋元仁宗墓誌」刻。

音:カールグレン上古音はki̯wər(平)。

用例:甲骨文では”帰る”、金文では加えて”贈る”の語義が加わり、のちに「」ɡʰi̯wæd(去)の字(初出は春秋中期)として独立した。伯夷叔斉伝説で「いずくにか帰せん」とある”帰属する”の意は、戦国時代の竹簡まで時代が下る。

漢語多功能字庫

甲骨文從「𠂤」從「」,「𠂤」亦是聲符。「𠂤」是古「」字,表示軍隊,「」象掃帚,疑會在戰爭中以軍隊掃除敵人而歸之意(季旭昇、葉玉森),本義是凱旋而歸、返歸、返回、歸還。


甲骨文は「𠂤」と「帚」の字形の系列に属し、「𠂤」は「師」の古形である。軍隊を意味し、「帚」はほうきの象形である。仮説として、軍隊が敵を破って放逐し、その敗残兵を収容する意かも知れない(季旭昇、葉玉森)。原義は凱旋して帰ることであり、普通に帰ることであり、帰すことであり、戻ることである。

学研漢和大字典

形声。𠂤(タイ)・(カイ)は土盛りの堆積したさまで、堆・塊と同じことばをあらわす音符。歸はもと「帚(ほうき)+(音符)𠂤」の形声文字。回と同系のことば。

女性がとついで箒(ほうき)を持ち家事に従事するのは、あるべきポストに落ち着いたことなので、「キ(クヰ)」といい、のち止(あし)を加えて歩いてもどることを示した。歸は「帚(ほうき)+止(あし)+(音符)𠂤」。あちこち回ったすえ、定位置にもどって落ち着くのを広く「キ」という。

回・韋(イ)(回る)・囲(回る)・揆(キ)(ひと回り)などと同系のことば。

語義

  1. {動詞}かえる(かへる)。回ってもどる。もとの所へもどってくる。《類義語》回・還。「帰還」「帰郷」「回帰線」「帰京」「帰札」。
  2. (キス){動詞}あるべき所に落ち着く。回ったあげくに適当な所におさまる。「帰服」「天下帰仁焉=天下仁に帰す」〔論語・顔淵〕
  3. (キス){動詞}罪や責任を、しかるべき人に当てはめる。「帰罪=罪を帰す」。
  4. {動詞}しぬ。「帰宿」。
  5. {動詞}とつぐ。嫁にいく。▽女性は夫を捜して身を落ち着けるということから。「之子于帰=之の子于き帰ぐ」〔詩経・周南・桃夭〕
  6. {動詞}おくる。食物や用品をおくること。▽饋(キ)に当てた用法。「帰孔子豚=孔子に豚を帰る」〔論語・陽貨〕
  7. 「九帰法」とは、中国の算術の除法(割り算)のこと。

字通

[会意]旧字は歸に作り、𠂤(し)+止+帚。卜文・金文の字形は𠂤と帚とに従い、止は後に加えられた。𠂤は脤肉の形。軍が出行するときに軍社に祭った肉で、これをひもろぎとして奉じた。軍が帰還すると、これを寝廟に収めて報告祭をした。帚は寝廟で灌鬯(かんちよう)などを行うとき、酒をふりかけて用いるもので、寝廟を意味する。婦人の嫁することを「帰」というのは、異姓の女が新たに寝廟につかえることについて、祖霊の承認を求める儀礼を行うからである。帚は灌鬯に用いる束茅の形。〔説文〕二上に「女の嫁するなり」という。饋・餽と通用し、食をおくることをいう。

鬼(キ・10画)

鬼 甲骨文 鬼 金文
甲骨文/鬼作父丙壺・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:「シン」”大きな頭”+「卩」”ひざまずいた人”で、目立つが力に乏しい霊のさま。原義は”亡霊”。

音:カールグレン上古音はki̯wər(上)。角を生やした”オニ”ではなく、”亡霊・祖先の霊”。論語語釈「神」も参照。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で、また国名・人名に用い、金文では部族名に(梁伯戈・春秋早期)、また原義で(陳簋・戦国早期)、「畏」”おそれ敬う”(毛公鼎・西周末期/齊侯鎛・春秋中期)の意に用いられた。

学研漢和大字典

象形文字で、大きなまるい頭をして足もとの定かでない亡霊を描いたもの。中国の百科事典「爾雅」に「鬼とは帰なり」とあるのは誤り。魁(カイ)(大きいまるい頭)・塊(カイ)(まるいかたまり)・回(カイ)(まるい)などと同系のことば。

語義

  1. {名詞}おに。死人のおばけ。おぼろげな形をしてこの世にあらわれる亡霊。▽中国では、魂がからだを離れてさまようと考え、三国・六朝以降には泰山の地下に鬼の世界(冥界(メイカイ))があると信じられた。「幽鬼」「厲鬼(レイキ)」「未能事人、焉能事鬼=いまだ人に事ふる能はず、いづくんぞ能く鬼に事へん」〔論語・先進〕
  2. {名詞}《仏教》おに。つ地獄で死者を扱う者や死人たち。づ人力以上の力をもち、人間を害するもの。
  3. {名詞}飢餓に苦しむ亡者。
  4. {名詞}いやな人。ずばぬけているが、いやらしい人。「債鬼(借金とり)」「鬼暸(キイキ)(陰険な人)」。
  5. {形容詞・名詞}あの世の。死後の世界の。転じて、人の住まない異様な所。「鬼籍」「鬼録」。
  6. {形容詞}人間わざとは思えない。並はずれてすぐれた。「鬼工」「鬼才」。
  7. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は、今のかに座に含まれる。たまほめ。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①おに。その道に一生をかけた人。「芸道の鬼」。
    ②おに。おにのようにむごい。「鬼婆(オニババ)」「鬼夫婦」。
    ③おに。おにのように強い。「鬼将軍」。
    ④おに。並はずれて大きい。ふつうとは違ったおかしな。「鬼ゆり」。

字通

[象形]鬼の形。人鬼をいう。〔説文〕九上に「人の歸する所を鬼と爲す。人に從ひ、鬼頭に象る。鬼は陰气賊害す。厶に從ふ」とあり、厶(し)を陰気を示すものとするが、古くは鬼頭のものの蹲踞する形に作り、厶は後に加えたもの。字は畏と形近く、畏忌すべきものを意味した。

飢(キ・10画)

飢 隷書
睡虎地簡53.31・秦

初出:初出は秦の隷書

音:カールグレン上古音はki̯ær(平)。同音は存在しない。

用例:文献上の初出は春秋末期『孫子』。戦国初期『墨子』、中期『孟子』、末期『荀子』『韓非子』にも見られる。だがこれらの文字がいつ記されたかは分からない。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同訓同音の「𩚮」は初出不明。「饑」の初出は一説に秦系戦国文字、「小学堂」では後漢の説文解字(→語釈)。部品の食・几(幾)のうち、幾には”かすか・尽きる”の語釈はあるものの、いずれも『大漢和辞典』に”飢える”の語釈は無い。つまり論語時代の置換候補は無い。

参考:論語の時代に”飢える”を意味した言葉としては、論語語釈「饉」を参照。また論語語釈「餓」も参照。

饑→飢となったのは、上古音で「幾」ki̯ər(平)→「几」kǐei(上)ゆえだろう。字形的には系列を同じくしていない。音的には付属記号の違いを共通率半減、əとeも半減とみなすと、音素の共通率は50%トントンとなるだけで、声調も異なる。ただし◌̯(音節副音)と ̆(超短音)がどう違うのか、訳者には判じかねている。

k ə r
k e i

学研漢和大字典

形声。「食+(音符)几」。饑(キ)(食べ物がいくらもない)・肌(キ)(きめのこまかいはだ)・僅(キン)(わずか)・饉(キン)(食糧が少ない)と同系。▽飢(キ)・饉(キン)(語尾がn)が同系であるのは、畿(キ)(ちかい)・近(語尾がn)が同系であるのと同じ。「饑」の代用字としても使う。「飢餓」▽「うえる」「うえ」は「餓える」「饑える」「餓え」「饑え」とも書く。

語義

  1. {動詞}うえる(うう)。食物が少なくて腹がへる。ひもじいめにあわせる。《同義語》⇒饑。「稷思天下有飢者、由己飢之也=稷は思へらく天下に飢うる者有れば、なほ己これを飢ゑしむるがごとしと」〔孟子・離下〕
  2. {名詞}うえ(うゑ)。食物がなくて腹がへること。《同義語》⇒饑。「可以楽飢=以て飢ゑを楽すべし」〔詩経・陳風・衡門〕

字通

[形声]声符は几(き)。字はまた饑に作り、幾(き)声。〔説文〕五下に「飢は饑なり」、また「饑は穀孰(みの)らざるを饑と爲す」とあって、飢餓と饑饉とを区別しているが、〔集韻〕には両字を一とし、通用することが多い。

寄(キ・11画)

寄 秦系戦国文字
睡虎地簡32.11・戦国最末期

初出:初出は秦系戦国文字

字形:「宀」”屋根”+「奇」”かたよる”。

音:カールグレン上古音はkia(去)。同音に奇とそれを部品とする漢字群。奇の初出も戦国文字。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」法律答問11に「甲盜錢以買絲,寄乙,乙受,弗智(知)盜,乙論可(何)殹(也)?毋論。」とあり、”与える”と解せる。

同日甲57正參に「毋以辛酉入寄者,入寄者必代居其室。」とあり、”たよる”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。上古音の同音に同訓は存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、奇は「大(ひと)+(音符)可」の会意兼形声文字で、からだが一方にかたよった足の不自由な人。平均を欠いて、片方による意を含む。〔足可〕(キ)の原字。寄は「宀(いえ)+(音符)奇」で、たよりとする家のほうにかたより、よりかかること。倚(イ)(よる)・椅(イ)(よりかかるいすや、もたれ木)と同系。類義語に憑。

語義

  1. {動詞}よる。よりかかる。もたれる。また、たよりにする。《類義語》倚(イ)。「身亡所寄=身寄る所を亡ふ」〔列子・天瑞〕
  2. {動詞}よる。やどる。よりかかってとまる。人をたよってやっかいになる。「寄食」「芳心寂寞寄寒枝=芳心寂寞として寒枝に寄る」〔曾鞏・虞美人草〕
  3. {動詞}よせる(よす)。人に任せて世話してもらう。あずける。「寄託」「可以寄百里之命=以て百里の命を寄すべし」〔論語・泰伯〕
  4. {動詞}よせる(よす)。送り届ける。「臨別殷勤重寄詞=別れに臨んで殷勤に重ねて詞を寄す」〔白居易・長恨歌〕
  5. {動詞}《俗語》手紙・金・品物などを送る。「寄信(チイシン)(手紙を送る)」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①よる。そばに近づく。「近寄る」。
    ②よせる(よす)。あわせる。そばに集める。「寄せ算」「客寄せ」。

字通

[形声]声符は奇(き)。奇に不安定なものの意があり、寄に倚寄し、寄託する意がある。〔説文〕七下に「託するなり」とあり、〔論語、泰伯〕「以て六尺の孤を託すべく、以て百里の命を寄すべし」のように、人に寄託することをいう。寄宿・寄寓のように用い、伝言を寄語という。

龜/亀(キ・11画)

龜 亀 甲骨文 亀 金文
合9184/龜父丙鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:カメの象形。

音:カールグレン上古音はki̯wəɡ(平)。

用例:甲骨文から”カメ”の意に用いた。

学研漢和大字典

象形。かめを描いたもので、外からまるくかこう意を含み、甲らでからだ全体をかこったかめ。▽キンの音は、釁(キン)(割れめ)に当てたもの。有(かこいこむ)・丘(外から台地にかこまれ、中央の低くなったおか)と同系。

語義

キguī
  1. 名詞}かめ。動物の名。腹と背を六角形のひびのある甲らにおおわれ、四つの足と、首尾は甲らの中にひっこめることができる。▽長寿をたもつめでたい動物とされる。また、未来を予知する能力があるとされて、古くは占いに用いられた。「亀卜(キボク)」。
  2. {名詞・形容詞}かめのこ模様。かめのこ形の。「亀紋(キモン)」「亀裂(キレツ)」。
キュウqiū
  1. 「亀茲(キュウジ)・(クジ)」とは、国の名。漢代、天山南路北道の国として栄え、唐代には安西都護府が置かれた。今の新疆維吾爾(シンキョウウイグル)自治区庫車(クチャ)地方にあった。▽亀茲はkucíの音訳。「屈支」「屈茨」「邱茲」「丘慈」などとも書かれる。その西北に千仏洞がある。
キンjūn
  1. {名詞・動詞}ひびわれ。割れめができる。《同義語》⇒釁。「不亀手(フキンシュ)(手がしもやけにならない、ひびわれない)」。

字通

[象形]亀の全形。〔説文〕十三下に「𦾔なり」と旧久の意を以て解するのは音義説。古く亀卜に用いた。その形は天円地方、長生の霊物とされたのであろう。殷虚出土の亀版には、その甲橋部分(腹背の連なる所)に貢納・修治者の名と数とをしるしており、各地から献納されたものである。

䂓/規(キ・11画)

規 金文
規 外字觚・殷代末期

初出は殷代末期の金文。ただし字形は算用数字の8の上下に欠けが入ったような姿。現伝字形の初出は秦系戦国文字。「䂓」は『大漢和辞典』・『学研漢和大字典』で「規」の正字とされる。カールグレン上古音はki̯wĕɡ(平)。同音は下記の通り。

初出 声調 備考
うかがふ 説文解字 →語釈
説文解字 →語釈
ぶんまはし 殷代末期金文
すがめ見る 不明

漢語多功能字庫

從「」,從「」。本義為法度、準則。一說本義是畫圓的工具。


「夫」と「見」の字形に属し、原義は法律、規則。一説に原義は円を描く工具。

学研漢和大字典

会意。「矢(直線を描くためのまっすぐな矢の棒)+見」で、直線の棒二本を∧型にくみ、その幅を半径として円を描いて見ることを示す。上古音においては、圭(ケイ)(∧型)・掛(∧型にかける)と同系。また、画(カク)(くぎる)と同系とも考えられる。類義語に律。

語義

  1. {名詞}ぶんまわし(ぶんまはし)。矩(ク)(かぎ型のじょうぎ)に対して、∧型をして円を描くコンパス。広く、コンパスのこと。「規矩(キク)(円と角を描く道具。基準)」「半規(半円、二分の一の寸法)」。
  2. {名詞}のり。物事の基準。また、基準となるきまり。《類義語》節・則。「成規(すでにできているきまり)」「規範」「中規=規に中たる」。
  3. (キス){動詞}ただす。物事の基準のわくにはめる。「規諫(キカン)(わくにはまるよういさめる)」。
  4. {動詞}はかる。物事の計画をたてる。▽コンパスで図面をくぎる意から。「規画(キカク)(計画する)」。

字通

[会意]夫+見。夫の初形は規 外字でぶんまわし。それを用いて円をえがくものを定規といい、直角・直線をかくものを矩(く)という。規矩とは方円をなす器。〔説文〕十下に「規巨、法度有るなり。夫に從ひ、見に從ふ」とし、〔段注〕に「丈夫の見る所なり」とするが憶解である。卜文の肅(粛)、金文の畫(画)は規 外字の形に従い、その雕文に規を用いたことが知られる。肅は繡の従うところ、畫は雕盾の象で、その文様の作成に規を用いた。規矩の意より規則・規模の意となる。

貴(キ・12画)

貴 金文 貴 晋系戦国文字
孟貴鼎・西周早期/璽彙4079・戦国晋

初出:初出は西周早期の金文。現行字体の初出は晋系戦国文字

字形:金文の字形は「貝」を欠いた「𠀐」で、「𦥑キョク」”両手”+中央に●のある縦線。両手で貴重品を扱う様。おそらくひもに通した青銅か、タカラガイのたぐいだろう。

音:カールグレン上古音はki̯wəd(去)。同音は存在しない。

用例:西周早期の「孟貴鼎」(集成2202)では、人名の一部に用いる。ただし「国学大師」「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、「貴」と釈文していない。

春秋の「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1409に「元子,而乍□夫□之貴姓(甥)」とあり、語義が明瞭でない。春秋末期までの用例は以上で全てになる。

戦国の「鳥書箴銘帶鈎」(集成10407)に「不□(擇)貴戔(賤)。」とあり、”尊い”と解せる。

備考:「漢語多功能字庫」は「遺」gi̯wæd(平、去声音不明)の原字とし、何かを捨てるさまというが語義から賛成しかねる。同じく「遺」の原字としながら、”ものを贈る”との説もしるし、こちらの方が分かりやすい。”とうとい”の語義は、戦国末期の金文からと言う。

学研漢和大字典

会意。貴は「臾(両手で荷物を持つさま)+貝(品物)」で、大きく目だった財貨。魁(カイ)(目だって大きい)・偉(イ)(目だって大きい)などと同系。類義語の尊(ソン)は、ずっしりと構えていること。異字同訓にたっとい・とうとい⇒尊。「とうとい」「たっとい」「とうとぶ」「たっとぶ」は「尊い」「尊ぶ」とも書く。

語義

  1. (キナリ){形容詞・名詞}たっとい(たつとし)。とうとい(たふとし)。目だって大きい。値うちや位が高くすぐれている。また、値うちのある物や身分の高い人。《対語》⇒賤(セン)(いやしい)。《類義語》尊。「顕貴(目だって位が高い)」「貴而知懼=貴にして懼を知る」〔春秋左氏伝・襄二四〕
  2. {動詞}たっとぶ。とうとぶ(たふとぶ)。価値のあるものとして、たいせつにする。うやまう。「珍貴」「賤貨而貴徳=貨を賤みて徳を貴ぶ」〔中庸〕
  3. {形容詞}相手の側にあるものにつけて、相手に対する敬意をあらわすことば。「貴宅」「貴国」。

字通

[会意]𦥑(きょく)+貝。貝を両手で捧げる形。貴重なものとして扱う意を示す。〔説文〕六下に「物賤(やす)からざるなり」とし、字形を貝に従い、臾(ゆ)声とするが、声が合わない。また「臾は古文簣なり」とするが、簣は物を運ぶ草器のもっこで、貝を草器に入れることはない。貝は系で貫いて前後にふりわけて荷ない、一朋という。古く貨として通用し、彝器(いき)の銘文に、その製作費に十数朋の貝を用いたと記すものがある。のち物のみでなく、人の身分や性行などに関しても用いる。

声系

〔説文〕に貴声として遺・殨・饋・穨・憒・潰・聵・匱・繢・隤など十七字を収める。饋・遺は遺贈の意であるが、殨・穨・憒などには憒乱の意がある。宝貝・貝貨の毀損しやすいことからの転義であろう。

喜(キ・12画)

喜 甲骨文 喜 金文
甲骨文/王孫遺者鐘・春秋晚期

初出:初出は甲骨文

字形:「シュ」”つづみ”+「𠙵」”くち”で、太鼓を叩きながら歌を歌うさま。原義は”神楽”。

音:カールグレン上古音はxi̯əɡ(上)、去声は不明。藤堂上古音はhɪəg。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義のほか人名・国名に、”よろこぶ”の意に用い、金文では人名と楽曲名のほかは、”祭祀”(天亡簋・西周早期)、原義(井弔鐘・年代不明)に用いた。

備考:藤堂説も白川説も、原義は神を喜ばせるために、お供えをして太鼓をドンドン打って祈るさまとしており、人が喜ぶのは後起の義とする。論語と同時代の孫武兵法に、「怒可以復喜,慍可以復悅」とあるからすでにその義を獲得しているとみてよいが、同時代の出土金文では原義で用いられる事例が多い。

徐王子󱜼鐘(春秋末期)「て宴し厶ていのる。」
沇兒鎛(春秋末期)「すなどりてうたげし厶ていのり、厶てかなで賓をもてなせ。」
王孫遺者鐘(春秋末期)「用て匽しよろこいのり、用て樂で賓を嘉せ。」

学研漢和大字典

会意。壴(トウ)は、台のついた器に、うずたかく食物を盛って、飾りをつけたさま。また、鼓の左がわと同じと考え、飾りつきの太鼓をたてたさまとも解される。喜は「壴+口」。ごちそうを供え、または音楽を奏してよろこぶことを示す。嘻(キ)(ひひと笑う)・嬉(キ)(うれしがる)と同系。類義語の懌(エキ)は、心中のしこりがとれること。怡(イ)は、心がなごむこと。悦は、しこりが抜け去ること。欣(キン)と忻(キン)は、満足してうきうきすること。歓は、そろって声をあげてよろこぶこと。慶は、めでたいことを祝ってよろこぶこと。

語義

  1. {動詞}よろこぶ。にこにこする。うれしがる。《同義語》⇒矯・嬉。《対語》⇒悲。「喜怒哀楽」「秦王聞之大喜=秦王これを聞いて大いに喜ぶ」〔史記・荊軻〕
  2. {動詞}このむ。愛好する。《類義語》好。
  3. {名詞}よろこぶ。うれしい気持ち。「其喜洋洋=其の喜び洋洋たり」〔范仲淹・岳陽楼記〕
  4. {名詞・形容詞}よろこび。めでたい事がら。めでたいさま。▽婚礼・出産・寿の祝いなど。《対語》凶。《類義語》嘉(カ)。「喜事」。

字通

[会意]壴(こ)+口。壴は鼓、口は𠙵(さい)、祝禱を収める器の形。神に祈るとき、鼓をうって神を楽しませる意。耒(すき)を示す力を加えると嘉となり、嘉穀を求める農耕儀礼をいう。のち喜・嘉は人の心意の上に移していう字となった。〔詩、小雅、甫田〕〔詩、小雅、大田〕に「田畯至りて喜す」という句があり、田畯は田神。その神に供薦するものを、神が受けることを饎(し)といい、その〔鄭箋〕に「喜は讀んで饎と爲す」とみえる。

欺(キ・12画)

欺 隷書 諆 金文
老子乙前144下・前漢/「諆」王孫遺者鐘・春秋末期

初出:初出は戦国時代の竹簡。「小学堂」による初出は前漢の隷書

字形:「其」+「欠」”身をかがめた人”で、「其」は音符とされる。原義は”だます”。

音:「ギ」は慣用音。呉音は「コ」。カールグレン上古音はkhi̯əɡ(平)。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」子見季桓16に「女(如)此者,安(焉)與之󱩾(欺)」とあり、”だます”と解せる。

論語時代の置換候補:近音の「諆」。

同音に僛”酔って舞う”・起・杞(国名)・屺”はげ山”・芑”白い穀物”。近音ki̯əɡ(平)に「諆」があり、”だます”の意を持ち論語時代の金文が存在する。ただし「漢語多功能字庫」諆条によると、この語義は春秋時代では確認できない。ただし論語と同時代の「王孫遺者鐘」では、”あざむく”と読みうる。

王孫遺者鐘1「王孫遺者鐘」1『殷周金文集成』261

(隹正月。初吉丁亥。王孫遺者。擇其吉金。自乍龢鐘。中󱝂󱱞󰚏。元鳴孔𤾗。用亯台孝。于我皇且文考。用𣄨󱱉壽。余)󱞑龏㝬屖。󱱭𡢁趩趩。肅悊聖武。惠于政德。󰋌于威義誨猷不飤。闌闌龢鐘。用匽台喜。用樂嘉賓。父󱜂。及我倗友。余恁󱞎心。㢟永余󱰏。龢溺民人。余尃昀于國。皝皝󱜖󱜖。萬(年無。枼萬孫子。永保鼓之。)

『大漢和辞典』で音キ訓あざむくは以下の通り。

  1. 倛:上古音・初出不明
  2. 唭:上古音・初出不明
  3. 𧦭:上古音・初出不明
  4. 詭:kwia(上)・初出は前漢隷書
  5. 諆:ki̯əɡ(平)・初出は西周早期の金文(「国学大師」逐𢻻諆鼎)

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。其(キ)は、四角い箕(ミ)を描いた象形文字。旗(四角いはた)や棋(キ)(四角い碁盤)などに含まれて、四角くかどばった意を含む。欺は「欠(人がからだをかがめる)+(音符)其」で、角ばった顔をして見せて、相手をへこませること。魌(キ)(四角いお面をつけて、鬼どもを追い払う)と同系。類義語の詐(サ)は、つくりごとをしてだます。騙(ヘン)は、うわついたそら事で相手をだます。瞞(マン)は、表面をうまく包み隠してだます。偽は、にせ物やうそごとをこしらえてだますこと。訛(カ)は、本来の意味をかえて相手をごまかす。

語義

  1. {動詞}あざむく。表面だけしかつめらしく見せておいて、実はごまかす。たぶらかす。だます。《類義語》詐(サ)・騙(ヘン)。「毋自欺也=自ら欺くこと毋きなり」〔大学〕。「周公、豈欺我哉=周公、あに我を欺かんや」〔孟子・滕上〕
  2. {動詞}あざむく。いばって相手をごまかす。あなどりいじめる。「欺負」。

字通

[形声]声符は其(き)。其は倛、蒙倛とよばれる仮面。その面貌を以て欺くことをいう。〔説文〕八下に「詐欺なり」、言部三上に「詐は欺なり」とあり、言を以てするを詐という。

喟(キ・12画)

喟 晋系戦国文字 喟 古文
璽彙1844 ・戦国晋/古文

初出:初出は晋系戦国文字

字形:「𠙵」”くち”+音符「胃」

音:カールグレン上古音はkʰi̯wædまたはkʰwæd(共に去)。両者共に同音は存在しない。

用例:戦国の竹簡では、「葨」「𦳢」「渭」が「喟」と釈文されている。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同音同訓は存在しない。部品の「胃」に”ためいき”の語義は、春秋末期までに確認できない。

備考:「漢語多功能字庫」は異体字に「嘳」があるという。初出は「喟」と同じとされる。

学研漢和大字典

形声。「口+(音符)胃」。嘆息の声をあらわす擬声語。

語義

  1. {動詞}はあと、息を出す。「喟然(キゼン)」「顔淵喟然歎曰=顔淵喟然として歎じて曰はく」〔論語・子罕〕

字通

[形声]声符は胃(い)。〔説文〕二上に「大息なり」とし、「或いは貴に從ふ」として嘳の字形を録するが、喟が通用の字。喟は喩母の字であるが、于(う)(訏(く))、羽(う)(栩(く))のような音の関係をもつものが多い。

幾(キ・12画)

幾 甲骨文 幾 金文
甲骨文合集40392正/幾父壺・西周中期

初出:初出は甲骨文。「小学堂」での初出は西周中期の金文

字形:甲骨文の字形は、なぜこれが「幾」と釈文されたのか理解出来ない。字形から察するに、「畿」”王都”・”近畿”の意味だろうか。この字形を「幾」と釈文したのは台湾の中央研究院で、大陸・香港では釈文そのものを行っていない。

金文の字形は「𢆶」”いと”+「戍」”人がほこを手に取るさま”で、「𢆶」は”ここ”の意があり(師同鼎・西周)、全体で”その場を離れず守る事”。ここから”近い”を意味しうる。

音:カールグレン上古音はɡʰi̯ər(平・韻目「微」)まはたki̯ər(平・韻目「微」/上)。去声の音は不明。

用例:「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」は春秋末期までの用例を全て人名に分類している。形容詞”ちかい”の初出は「郭店楚漢」老子甲25という。しかし金文に先行する甲骨文の品詞分類はなされていない。

漢語多功能字庫」は原義を”あやうい”とするが、出土物でその語義を確認できない。金文では人名に(幾父壺・西周)用い、戦国の竹簡では”いくばく”、「愷」に通じて”温和”、「忌」に通じて”嫌う”、「豈」に通じて”なぜ”の意があると言う。

学研漢和大字典

会意。幺二つは、細くかすかな糸を示す。戈は、ほこ。幾は「幺二つ(わずか)+戈(ほこ)+人」で、人の首にもうわずかで、戈の刃が届くさまを示す。もう少し、ちかいなどの意を含む。わずかの幅をともなう意からはしたの数(いくつ)を意味するようになった。
《単語家族》
畿(キ)(都にちかい土地)・近と同系。
《参考》
草書体をひらがな「き」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「き」ができた。また、草書体の初画からカタカナの「キ」ができた。

語義

  1. {疑問詞・数詞}いく。いくつ。いくばく。一から九までの数を尋ねる疑問詞。また九以下のはしたの数を示すことば。「幾人(イクニン)」「幾年(イクトセ)」「無幾=幾も無し」→語法「②③」。
  2. {形容詞}ちかい(ちかし)。ほぼ等しい。▽平声に読む。《類義語》近。「幾百里=百里に幾し」→語法「①」。
  3. {副詞}ほとんど。→語法「①」▽平声に読む。
  4. {副詞}少しずつ。それとなく。▽平声に読む。「幾諫(キカン)」。
  5. {名詞}細かいきざし。▽平声に読む。《類義語》機。「知幾=幾を知る」。
  6. 「庶幾(コイネガワクハ)」とは、なんとか目標にちかづきたい、もう少しだからそうしてほしい、と切望すること。▽去声に読む。「王庶幾改之=王庶幾(こひねが)はくはこれを改めよ」〔孟子・公下〕

語法

①「ほとんど」「~にちかし」とよみ、「すんでのところで」「あやうく」「ほとんど」と訳す。ある状況・程度に接近する意を示す。「今吾嗣為之十二年、幾死者数矣=今吾嗣(つ)いでこれを為すこと十二年、幾(ほとん)ど死せんとする者数(しば)しばなり」〈今私が跡を継いでこの仕事を十二年している、あやうく死にかけたことは何度もあった〉〔柳宗元・捕蛇者説〕
②「いく」「いくばく」とよみ、

  1. 「いくらか」「多少」などと訳す。不定数の意を示す。「未幾亮卒=未だ幾(いくばく)ならずして亮卒す」〈まもなく(諸葛)亮は亡くなった〉〔十八史略・三国〕
  2. 「どれくらい」「いくつ」などと訳す。数量に対する疑問・反語の意を示す。文脈により多数・少数ともに示す。「物換星移幾度秋=物換(かは)り星移りて幾度の秋ぞ」〈物はかわり、星はめぐり、いくたびの秋を経たことだろう〉〔王勃・滕王閣〕。「古来征戦幾人回=古来征戦幾人か回る」〈昔から戦争に行った人のうち、何人が無事に帰還できただろうか〉〔王翰・涼州詞〕

  1. 「幾何」は、「いくばくぞ」とよみ、「どれほどでしょうか」と訳す。数量に対する疑問・反語の意を示す。「為歓幾何=歓を為すこと幾何(いくばく)ぞ」〈(この世で)歓楽についやす時間は、どれほどでしょうか〉〔李白・春夜宴桃李園序〕
  2. 「幾所」「幾許」も、意味・用法ともに同じ。「雙蛾幾許長=雙蛾幾許(いくばく)か長き」〈二つの美しい眉は、(わたしより)どれぐらい長いのでしょうか〉〔皇甫冉・香康怨〕

④「あに~ならんや」とよみ、「どうして~であろうか(まさかそのようなことはあるまい)」と訳す。強い肯定となる反語の意を示す。「是於己長慮顧後、幾不甚善矣哉=これ己の慮を長くし後を顧(おも)ふにおひて、あに甚だ善ならざらんや」〈これはその人が思慮を巡らせてのちのちのことを心配するという点において、どうして立派でないといえようか〉〔荀子・栄辱〕

字通

[会意]𢆶(し)+戈(か)。〔説文〕四下に「微なり。殆(あやふ)きなり。𢆶(いう)に從ひ、戍(じゅ)に從ふ。戍は兵守なり。𢆶(幽)にして兵守する者は危きなり」という。𢆶を幽、幽微の意より危殆の意を導くものであるが、𢆶は絲(糸)の初文。戈に呪飾として著け、これを用いて譏察のことを行ったのであろう。〔周礼、天官、宮正〕「王宮の戒令糾禁を掌り、~其の出入を幾す」、〔周礼、地官、司門〕「管鍵を授けて、~出入する不物の者を幾す」など、みな譏呵・譏察の意に用いる。ことを未発のうちに察するので幾微の意となり、幾近・幾殆の意となる。


※「譏」:そしる。とがめる。

期(キ・12画)

期 金文 期 金文
夆叔匜・春秋早期/沇兒鎛沇兒鎛・春秋末期

初出:初出は春秋早期の金文。ただし字形は「㫷」。現行字体の初出は戦国最末期の「睡虎地秦簡」。

字形:「其」”ちりとり”+「日」。日時を限って結果を取り集めるさま。金文では、「其」「諆」「基」とも記す。

音:カールグレン上古音はgʰi̯əɡ(平)。論語語釈「其」も参照。

用例:春秋の金文「󱥔公孫敦」(集成4642)に「叕寶無㫷」とあり、”期限”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。其(キ)は、もと四角い箕(ミ)を描いた象形文字で、四角くきちんとした、の意を含む。箕の原字。期は「月+(音符)其」で、月が上弦→満月→下弦→朔をへてきちんともどり、太陽が春分→夏至→秋分→冬至をへて、正しくもとの位置にもどること。旗(四角いはた)・碁(四角いごばん)などと同系。

語義

キ(平qī)
  1. {名詞}とりきめた日時。また、一定の時間。「期間」「万寿無期=万寿期無し」〔詩経・小雅・南山有台〕
  2. (キス){動詞}まつ。予定する。また、必ずそうなると目当てをつける。「期待」「成功を期する」。
  3. (キス){動詞}あう(あふ)。一定の時と所をきめ約束してあう。ちぎる。「期会」「期我乎桑中=我と桑中に期ふ」〔詩経・眇風・桑中〕
  4. 「期期」とは、きつきつとどもるさま。《類義語》吃吃。「臣期期知其不可=臣期期として其の不可なることを知る」〔漢書・周昌〕
キ(平jī)
  1. {名詞}一か月、または一年のこと。▽太陽や月が予定どおりの所に来て出会うときの意から。《同義語》朞。「期月」「期可已矣=期にして已むべし」〔論語・陽貨〕
  2. {名詞}一年を期限として喪に服すること。祖父母・兄弟・妻・子などが死んだときは「期」の喪に服するのがならいであった。「期服」。

字通

[形声]声符は其(き)。其(箕)は方形に近く、一定の位置や間隔、区分を示すことがある。〔説文〕七上に「會ふなり」とし、〔段注〕に期を約束、稘を期間の意として区別するが、〔説文〕の「會」を「日月交会」の意とする説もある。〔玉篇〕に稘を稈の意としており、期が一定期間を意味する字であろう。

棄(キ・13画)

棄 甲骨文 棄 金文
甲骨文/散氏盤・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:「子」+「∴」”ごみ”+「其」+「廾」”両手”で、子をゴミと共にちりとりに取って捨てるさま。原義は”捨てる”。

音:カールグレン上古音はkʰi̯æd(去)。

用例:「甲骨文合集」21430は、欠損が多くて文の一部として判読できない。

西周中期「散氏盤」(集成10176)に「實余有散氏心賊。則鞭千罰千。傳棄之。」とあり、”破棄する”と解せる。

春秋の「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0314に「楚子棄疾󱩾(擇)其吉金,自乍(作)飤󱩾(簠)。」とあり、人名と解せる。

春秋末期までの用例は以上で全て。

漢語多功能字庫」によると、戦国の金文で”捨てる”を意味した(中山王鼎・戦国末期)。

学研漢和大字典

会意。「子の逆形→生まれたばかりの赤子+ごみとり+両手」で、赤子をごみとりにのせてすてるさまをあらわす。類義語の捨は、もつ手を放してすておくこと。「毀」の代用字としても使う。「破棄」。

語義

  1. {動詞}すてる(すつ)。ふりすてる。思いきりよくすてさる。《類義語》捨。「放棄」「棄甲曳兵而走=甲を棄て兵を曳いて走る」〔孟子・梁上〕

字通

[会意]旧字は棄。ㄊ(とつ)+𠦒(はん)+廾(きょう)。〔説文〕四下に「捐(す)つるなり。廾に從ふ。𠦒を推して之れを棄つ。ㄊに從ふ。ㄊは逆子なり」とあって、逆子(さかご)であるからこれを悪(にく)んで棄てる意とする。ㄊは子の出生のときの姿で、育、流はその形に従う。生子を棄てることは古俗として行われたことがあり、周の始祖説話として、后稷がはじめ棄てられて棄と名づけられたとされ、他にもその類話が多い。一種の厄よけの方法として、のち厄年の婦人の生んだ子を、一度棄てる形式をとる民俗もある。𠦒はもっこ。卜文の字は其(箕)に従う形に作る。のち流棄の意に用い、金文の〔散氏盤〕に、契約に違反するときの自己詛盟の語として、「之れを傳棄せん」という。のちすべて放棄する意に用いる。

毀(キ・13画)

毀 金文
鄂君啟車節・戦国中期

初出:初出は戦国中期の金文

字形:〔兒〕+〔殳〕。子供を鞭打つさま。異体字に「毁」。『大漢和辞典』は俗字だという。

音:カールグレン上古音はxi̯wăr(上)。同音に「燬」”火・焼く”、「烜」”乾かす・あきらか”。

用例:戦国中期「鄂君啟車節」(集成12111)に「台(以)毀於五十乘之中」とあり、”減らす”と解せる。

「上海博物館蔵戦国楚竹簡」季庚22に「邦相懷毀」とあり、”攻める”と解せる。

同平王問2に「女(汝)毀新都栽(鄢)陵」とあり、”壊す”と解せる。

論語時代の置換候補:上古音に同音同義は無い。『大漢和辞典』による日本語での同音同訓に「墮」(初出不明)、「隳」(初出不明)。

備考:下掲藤堂説は『説文解字』をそのまま引いて「土+(音符)毇(キ)(米をつぶす)の略体」と言うが、略体字が見つかっていない以上全面的には受け入れかねるし、毇は米+臼+攵、つまり米を臼でつき、精白することであってつぶすことではない。

藤堂博士の属する戦中世代は、一升瓶に玄米を入れ棒で突いて精白した経験があると思うのだが、博士は例外なのだろうか。現代の家庭用精米機はかごとヘラで摺る方式だが、それでも粒を潰さないよう使いこなすには熟練が要る。

また白川説は例によって、根拠無きオカルトの妄想の度がひどく、到底受け入れられない。以上から、部品で語義を共有する漢字は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。「土+(音符)毇(キ)(米をつぶす)の略体」で、たたきつぶす、また、穴をあけて、こわす動作を示す。毇(キ)(米をたたきつぶす)と同系。また、壊(穴をあけてこわす)とも非常に縁が近い。「棄」に書き換えることがある。「破棄」。

語義

  1. {動詞}こぼつ。壁や堤に穴をほってこわす。《類義語》壊。「毀壊(キカイ)」「人皆謂我毀明堂=人皆我に明堂を毀てと謂ふ」〔孟子・梁下〕
  2. {動詞}やぶれる(やぶる)。穴があいてこわれる。「以為器則速毀=以て器と為せば則ち速やかに毀る」〔荘子・人間世〕
  3. {動詞・名詞}そしる。そしり。評判をぶちこわす。他人の悪口をいう。また、そのこと。「毀誉(キヨ)」「名誉毀損(キソン)」「誰毀誰誉=誰をか毀(そし)り誰をか誉めん」〔論語・衛霊公〕
  4. {動詞}悲しみのあまり、からだや心が衰える。「哀毀(アイキ)」。
  5. {動詞}歯が拔けかわる。▽去声に読む。「毀歯」。

字通

[会意]■(上下に臼+土)+殳(しゆ)。■(上下に臼+土)は〔説文〕古文の字形によると臼(きゆう)と壬(てい)の形。すなわち兒(児)が挺して立つ形。これに殳を加えて殴(う)つ意の字である。〔説文〕に字を土部十三下に属し、「缺くなり」と訓して、土器の類を毀損する意とするが、その字形は匘(のう)の縫合部のある幼児を毀損する意で、おそらく犠牲の方法を示す字であろう。殷墓の殉葬者のうちに、多数の幼童、未成年者の残骨がある。〔周礼、地官、牧人〕「凡そ外祭毀事には、尨(むくいぬ)を用ふるも可なり」の〔杜子春注〕に、「毀とは副辜候禳、殃咎を毀除するの屬を謂ふ」とあって、犠牲を用いる祓禳の儀礼であるが、殷では異族の幼孩のものを用いることがあったのであろう。毀はまさにその字であり、また焚殺することを燬といったものと思われる。

箕(キ・14画)

其 金文
師虎簋・西周中期

初出は甲骨文。ただし「其」と書き分けられず、現伝字体の初出は戦国文字。カールグレン上古音はki̯əɡ(平)。同音は以下の通り。論語語釈「其」も参照。

初出 声調 備考
もと 甲骨文
ひとまはり 説文解字
もと 甲骨文
甲骨文
まめがら 説文解字
その 甲骨文 →語釈
あざむく 西周末期金文
いとすぢをわける 西周中期金文
おのれ 甲骨文
女のあざな 西周中期金文
しるす 春秋早期金文

漢語多功能字庫

」甲骨文及早期金文作「𠀠」,即「」字,象簸箕形,甲骨文或加兩手於「𠀠」形下,象手捧簸箕形,後來才加「」為義符。不過甲金文已用作虛詞,無用作簸箕義。異體又作「𠷛」、「𠔋」、「𠔝」、「𠥩」。參見「」。


「箕」の甲骨文から早期の金文までは「𠀠」と描き、「其」と同じだった。ちりとりの類の象形で、甲骨文には「𠀠」の下に両手を描き加え、箕を使う様子を描いた字形がある。後に意味符号として「竹」が加わった。ただし甲骨文や金文の頃から虚詞(意味内容の無い文法的記号)を意味するようになり、ちりとりの類を表さなくなった。異体字に「𠷛」、「𠔋」、「𠔝」、「𠥩」。「其」条を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。其(キ)は、四角いみの形を描いた象形文字。箕は、さらに竹をそえたもの。

語義

  1. {名詞}み。穀物を入れて上下に動かしながら、ちりやもみをとるための平らで四角いかご。ちりとり。「穀箕(コクキ)」。
  2. {名詞}みぼし。二十八宿の一つ。規準星は今のいて座に含まれる。
  3. (キス){動詞}両足をなげ出してすわる。「箕踞(キキョ)」。

字通

[形声]声符は其(き)。其は箕の初文でその象形、箕はその形声字。〔説文〕五上に「簸(は)なり」とあり、穀物の塵などをはらう器。金文の字形には、箕を簸揚する形、また女を加えるものなどがある。家妻を謙称して、箕掃の妻という。

器/器(キ・15画)

器 金文
作冊睘卣・西周早期

初出:初出は西周早期の金文

字形:新字体は点が一つ少ない「器」。「犬」ではなく「大」になっているが、中国・台湾では、コード上こちらが正字として扱われている。旧字体は中央に「犬」、周囲に四つの「𠙵」”くち”。犬を犠牲に捧げて大勢で祈るさま。原義は大規模な祭祀に用いる道具。

音:カールグレン上古音はkʰi̯æd(去)。

用例:西周早期「󻅉孳君𣪕」(集成3791)に「叨孳君休于王,自乍(作)器,孫子永寶。」とあり、”うつわ”と解せる。

春秋末期「鼄公牼鐘」(集成149)に「至于萬年。分器是寺。」とあり、「万年に至るまで、うつわを分かちてこれ持て」と読め、”道具”・”うつわ”と解せる。「分器」は「国学大師」に「古代天子把宗庙所藏的宝器分与诸侯和宗室为世守之物,谓之”分器”。亦指分得的宝器等。」という。「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

漢語多功能字庫」には、金文で人名に用いられた例があるという(師器父鼎・西周中期)。

学研漢和大字典

「口四つ+犬」の会意文字で、さまざまな容器を示す。犬は種類の多いものの代表として加えた。意味:うつわ。才能。立派な才能の持ち主であると認める。こまごました実用に役立つだけのもの。朱子学や陽明学では、現実の物象を器といい、その根源を道という。

語義

  1. {名詞}うつわ(うつは)。いろいろな入れ物。また、道具。「土器」「兵者不祥之器=兵者不祥之器なり」〔老子・三一〕
  2. {名詞}うつわ(うつは)。才能。「斗勹之器(トショウノキ)(つまらぬ下級役人にしかなれない才能)」「管仲之器小哉=管仲之器は小なる哉」〔論語・八佾〕
  3. {動詞}うつわとする(うつはとす)。りっぱな才能の持ち主であることを認める。「器重」「先主器之=先主これを器とす」〔蜀志・諸葛亮〕
  4. {名詞}こまごました実用にだけ役だつもの。「君子不器=君子は器ならず」〔論語・為政〕
  5. {名詞}朱子学や陽明学では、現実の物象を器といい、その根原を道という。

字通

旧字は器に作り、しゅう+犬。㗊は〔説文〕三上に「衆口なり」とするが、口は𠙵さいで、祝詞を収める器。犬は犬牲。犬牲を以て清める意である。〔説文〕三上に「器は皿なり・器の口に象る。犬は之を守る所以なり」とするが、金文の字形によると、犬は礫殺されている形である。犬牲を以て清めた器は、祭器・明器・礼器として用いられる。〔周礼、秋官、大行人〕「器物」の〔鄭玄注〕に「尊彝の屬なり」とあり、器はもと彝器をいう。彝は鶏血を以て清める意の字である。祭器の意より器具・器材・の意となり、人に移して器量・器度をいう。

訓義

うつわ。祭器。明器。儀礼の際に用いる器。器物、車服・兵器・器具の類。人物の才能・器量。器として役立つ、用いる。

㗊():http://en.glyphwiki.org/wiki/u35ca

蕢(キ・15画)

蕢 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は後漢の説文解字

字形:「艹」+音符「貴」ki̯wəd(去)。「貴」に”かつぐ”の語義があるが、春秋時代以前には確認出来ない。

音:カールグレン上古音はɡʰi̯wəd(去)。同音に「匱」、「櫃」。

用例:現伝論語憲問篇42、『孟子』に用例があるが、いつ記されたか不明。

論語時代の置換候補:上古音の同音で同義語に「匱」、初出は楚系戦国文字。日本語での同音同訓に「簣」、初出不明。同じく「籄」、初出不明。

参考:定州竹簡論語・憲問篇42では「貴」と記す。「貴」に”かご”の用例は春秋末期までに見当たらない。論語子罕篇19では「簣」gʰi̯wæd(去)と記す。論語語釈「簣」を参照。
蕢

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)貴(まるい)」。まるくふくれた、わらであんだもっこ。

語義

  1. {名詞}あじか。土を運ぶかご。《同義語》⇒簣。「有荷拵而過孔氏之門者=拵を荷ひて孔氏の門を過ぐる者有り」〔論語・憲問〕
カイ
  1. {名詞}つちくれ。土塊。▽塊(カイ)に当てた用法。
  2. {動詞}ついえる。くずれる。▽潰(カイ)に当てた用法。

字通

[形声]声符は貴(き)。〔説文〕一下に「艸器なり」とあり、土を運ぶあじか。背に負うて運ぶ筒形の籠。竹器のものもある。

戲/戯(キ・15画)

戲 金文
戲伯鬲・西周末期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はxia(去)。「ギ・ゲ」は慣用音、呉音は「ケ」。

学研漢和大字典

形声。「戈(ほこ)+(音符)虛(コ)」。「説文解字」は、ある種の武器で、我(ぎざぎざの刃のあるほこ)と似たものと解する。その原義は忘れられ、もっぱら「はあはあ」と声をたてて、おどけ笑う意に用いる。呼(声を立てる)・謔(ギャク)(にぎやかに騒ぐ)・虎(ほうとほえるとらの声)などと同系の擬声語である。旧字「戲」は人名漢字として使える。

語義

キ(去)xì
  1. {動詞}たわむれる(たはむる)。にぎやかに声をたてて笑う。冗談をいう。ふざける。また、あそぶ。「戯言」「前言戯之耳=前言はこれに戯るるのみ」〔論語・陽貨〕
  2. {名詞}たわむれ(たはむれ)。ざれ。冗談。また、ざれごと。あそび。《類義語》謔(ギャク)。
  3. {名詞}芝居。「戯曲」。
キ(平)huī
  1. {名詞}大将の旗のこと。▽麾(キ)に当てた用法。「戯下騎、従者八百余人=戯下の騎、従ふ者八百余人」〔漢書・項籍〕
コ(平)hū
  1. {感動詞}はあというため息。▽呼に当てた用法。「於戯(アア)(=嗚呼)」。

字通

[会意]旧字は戲に作り、䖒(き)+戈(か)。䖒は〔説文〕五上に「古陶器なり」とするが、その器制も明らかでない。䖒は虎頭のものが豆形の台座に腰かけている形。それに戈で撃ちかかる軍戯を示す字であろう。金文の〔師虎𣪘(しこき)〕に「嫡として左右戲の繁荊を官𤔲(司)せしむ」とあり、「左右戲」とは軍の偏隊の名であろう。〔左伝〕に「東偏」「西偏」の名があり、〔説文〕十二下に「戲は三軍の偏なり。一に曰く、兵なり」とし、字を䖒声とする。「左右戲」の用法が字の初義。麾・旗と通用し、麾下をまた戯下という。戯弄の意は、虎頭のものを撃つ軍戯としての模擬儀礼から、その義に転化したのであろう。敵に開戦を通告するときに、〔左伝、僖二十八年〕「講ふ、君の士と戲れん」のようにいうのが例であった。嶷・巍と通ずる字で、〔玉篇〕に「巇は嶮巇、巓危きなり」とあり、山巓の険しいさまをいう。

窺(キ・16画)

初出は説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯wĕɡ(平)。同音は論語語釈「規」を参照。論語語釈「闚」も参照。

漢語多功能字庫

從「」,「」聲。本義是從孔隙中看。


」の字形に属し、「」の音。原義は穴や隙間から覗くこと。

学研漢和大字典

会意兼形声。「穴(あな)+(音符)規」。規(コンパスではかる)の「はかる」の意からの派生語である。類義語に伺。

語義

  1. {動詞}うかがう(うかがふ)。のぞく。うかがい見る。《同義語》⇒羹。《類義語》伺。「窺見室家之好=室家の好しきを窺ひ見る」〔論語・子張〕
  2. (キス){動詞}足を半歩ふみだす。▽熏(キ)に当てた用法。上声に読む。「未有能窺左足而先応者也=いまだ能く左足を窺して先に応ずる者有らざるなり」〔漢書・息夫躬〕

字通

[形声]声符は規(き)。〔説文〕七下に「小(すこ)しく視るなり」とあり、のぞき見る意。字はまた闚に作る。「規規」に区区・局促の意があり、そのように窮屈な見かたをいう。何らか企むところのある態度で、窺窬をまた覬覦という。

簣(キ・18画)

初出:初出は不明。文献的には論語子罕篇19のほか、『尚書』旅ゴウにも見られるが、いわゆる先秦時代の儒教経典は、前漢以降の偽作が疑われる書ばかりなので信用できない。確実な初出は前漢中期の『塩鉄論』が、論語を引用する形で用いているが、孔子の言葉だとは言っていない。

字形:「⺮」+「貴」”かつぐ”。

慶大蔵論語疏では同音同訓語「蕢」と記している。詳細は論語語釈「蕢」を参照。

音:カールグレン上古音はgʰi̯wæd(去)。同音は存在しない。

用例:先秦両漢の用例は、上記の通り論語と『尚書』と『塩鉄論』のみ。『尚書』には「為山九仞,功虧一簣。」とあり、”もっこ”と解せる。

論語時代の置換候補:部品で近音の「貴」ki̯wəd(去)には春秋末期までに”かつぐ”の用例がない。『大漢和辞典』で同音同訓に、「杞」があり甲骨文から存在するが、春秋末期までの用例は、地名または器名のみ。また「籄」の初出は不明。論語憲問篇42は「蕢」ɡʰi̯wəd(去)と記すが、初出は後漢の説文解字。論語語釈「蕢」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。貴は「両手でもっこをかつぐさま+貝(品物)」の会意文字。簣は「竹+(音符)貴」で、貴の原義をあらわす。

語義

  1. {名詞}あじか。土を運ぶのに用いるまるい竹のかご。もっこ。「為山九仞、功虧一簣=山を為(つく)ること九仞にして、功を一簣に虧(か)く」〔書経・旅忙〕

字通

[形声]声符は貴(き)。〔論語、子罕〕に「譬へば山を爲(つく)るが如し。未だ成らざること一簣なるも、止むは吾が止むなり」とあり、簣は土籠、もっこをいう。草器を蕢という。

餼(キ・19画)

餼 秦系戦国文字
睡虎地簡24.29・秦系戦国文字

初出:初出は秦系戦国文字。現行字体の初出は後漢の『説文解字』。

字形:初出の字形は「氣」だが、これは「気」”いき”の初文ではなく、「餼」の初文。「気」の初文は「气」で、初出は甲骨文論語語釈「気」を参照。字形は「气」”いき”+「米」”穀物”で、生存を養う食物の意。

音:カールグレン上古音はxi̯əd(去)。同音に気(氣)、愾(なげく、いかる)。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)氣(=気。いき、活力、栄養のもとになるもの)」。

語義

  1. {名詞}栄養をつける食べ物。人や家畜の食べる糧米。「馬餼蒟不過稂莠=馬は餼稂莠(らういう)に過ぎず」〔国語・魯〕
  2. {動詞}おくる。食物・食糧を人におくる。《同義語》⇒饋。「秦伯又餼蒟之粟=秦伯又これに粟を餼る」〔春秋左氏伝・僖一五〕
  3. {名詞}からのついたままの穀物。玄米。
  4. {名詞}生きたまま供えるいけにえの動物。▽殺して供えるいけにえを饔(ヨウ)という。「餼羊(キヨウ)」。

字通

[形声]旧字は氣に作り、气(き)声。〔説文〕七上に「客に饋(おく)る芻米なり」とあり、〔左伝、桓六年〕「齊人、來(きた)りて諸侯に氣(おく)る」の文を引く。いま氣を餼に作る。气が氣の初文、また氣は餼の初文。いま气の意に気を用いる。

大漢和辞典

餼 大漢和辞典

闚(キ・19画)

初出は説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯wĕɡ(平)。同音は論語語釈「規」を参照。論語語釈「窺」も参照。

漢語多功能字庫

從「」,「」聲。本義是從門中偷看。


「門」の字形に属し、「規」の音。原義は門の中から盗み見ること。

学研漢和大字典

会意兼形声。規(キ)は「矢+見」の会意文字で、∧型のコンパスを意味し、コンパスで区切りをしてはかるという基本義をもつ。闚は「門+(音符)規」で、門のすきまから、ものを見てはかり知ること。窺と同じ。

語義

  1. {動詞}うかがう(うかがふ)。門のすきまからこっそりのぞき見る。のぞく。《同義語》⇒窺(キ)。
  2. {動詞}さそう(さそふ)。相手のようすをうかがって、そっとさそう。「闚以重利=闚ふに重利を以てす」〔史記・荊軻〕

字通

[形声]声符は規(き)。「規規」におどろき見る意がある。〔説文〕十二上に「閃(うかが)ふなり」とあり、穴部七下「窺は小(すこ)しく視るなり」とあるのと、声義が同じ。

饋(キ・21画)

饋 金文 饋 金文
卲王之諻鼎・春秋末期/大𢊾盞・戦国末期

初出:初出は春秋末期の金文。それより前、西周早期の金文から「歸」(帰)を「饋」と釈文する例がある。

字形:「食」+「貴」ki̯wəd(去)”贈る”。食べ物を贈ること。”贈る”意での「貴」から、西周早期に「遺」の字が分化した。論語語釈「貴」を参照。

音:カールグレン上古音はgʰi̯wæd(去)。

用例:春秋末期「卲王之諻鼎」(集成2288)に「卲(昭)王之諻(媓)之饋貞(鼎)。」とあり、”贈る”と解せる。

備考:電気工学の世界で給電線を「饋電線」と呼ぶ。

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)貴(うずたかくつむ)」。

語義

  1. {動詞・名詞}おくる。食物や金品をおくり届ける。また、食物や金品などのおくりもの。《同義語》⇒餽。「康子饋薬=康子薬を饋る」〔論語・郷党〕。「朋友之饋、雖車馬非祭肉不拝=朋友の饋は、車馬と雖も祭の肉に非ざれば拝せず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}うず高く積んだごちそう。また、供え物。みけ。「陳饋八吭=饋を陳ぬること八吭」〔詩経・小雅・伐木〕
  3. {名詞}食事。「一饋而十起=一饋にして而十たび起つ」〔淮南子・氾論〕

字通

[形声]声符は貴(き)。〔説文〕五下に「餉(おく)るなり」、また饁字条に「田に餉るなり」とあって、農作の人に食を運ぶことをいう。のち人に遺贈する意となり、〔論語、陽貨〕「孔子に豚を歸(おく)る」、〔論語、微子〕「齊人、女樂を歸る」の歸(帰)を、〔古論〕にみな饋に作る。金文の〔段𣪘(だんき)〕に「大則を段に■(辶+食)(おく)らしめたまふ」とある■(辶+食)が、もとの用義の字。大則は大鼎の意と思われる。

饑(キ・21画)

饑 隷書
(隷書)

初出:初出は秦系戦国文字(為吏31)。ただし字形が確認できない。「小学堂」による初出は後漢の説文解字

字形:「食」+音符「幾」。

音:カールグレン上古音はki̯ər(平)。同音は幾とそれを部品とする漢字群多数。

用例:「睡虎地秦簡」為吏31に「衣食饑寒」とあり、”穀物が不足する”と解せる。

文献上では論語先進篇25、戦国初期『墨子』七患篇に「五穀不收謂之饑」とあり、穀物が実らず収穫できないこと。戦国中期の『孟子』にも見られる。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

部品「幾」に”飢える”の語釈を『大漢和辞典』は立てていない。「漢語多功能字庫」幾条は原義を”あやうい”とするが、出土物でその語義を確認できない。異体字「飢」ki̯ær(平)の初出は秦系戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)幾(わずか、いくらもない)」。飢(食物がわずか)・肌(キ)(きめのこまかいはだ)と同系。僅(キン)(わずか)・饉(キン)(食物がわずか)は、その語尾がnに転じたことば。「飢」に書き換えることがある。「飢餓」▽「うえる」「うえ」は普通「飢える」「餓える」「飢え」「餓え」と書く。

語義

  1. {形容詞・動詞}食物が乏しい。また、農作物が不作で食糧が乏しくなる。《同義語》⇒飢。《類義語》饉(キン)。「饑饉(キキン)」。
  2. {動詞・名詞}うえる(うう)。うえ(うゑ)。食物がわずかで腹がへる。また、ひもじさ。《同義語》飢。

字通

[形声]声符は幾(き)。幾に幾少の意がある。〔説文〕五下に「穀孰(じゆく)せざるを饑と爲す」とし、幾声。字はまた飢に作る。〔詩、小雅、雨無正〕に「降喪饑饉 四國を斬伐す」とあって、饑饉は天の降喪の致すところとされた。

驥(キ・26画)

驥 楚系戦国文字 驥 篆書
「郭店楚簡」窮達・戦国中末期/「説文解字」・後漢

初出:初出は楚系戦国文字。ただし字形は「𩦋」。現行字体の初出は後漢の『説文解字』。

字形:初出の字形は上下に「幺+戈」+「馬」。「𩦋」と釈文される。カールグレン上古音は不明だが、「幾」はki̯ər(平)とされ、「驥」と近音。「幾」は甲骨文では欠文が多くて解読困難、おそらく「畿」”ちかい”の意。金文では人名の例しか見られない。

冀 甲骨文 異 甲骨文
「冀」甲骨文合集4611正/「異」合集29090

現行字体は「馬」+「冀」ki̯ær(去)で、「冀」は甲骨文より見られるが、人名・地名と思しき用例しか見られない。ただし化け物を意味する「異」と字形が酷似しており、恐るべき異民族を意味するか。古代では現在の山西省・河北省・河南省北部を意味した。

音:カールグレン上古音はki̯ær(去)。同音は部品の「冀」ki̯ær(去)のみ確認(下掲『大漢和辞典』)。その初出は西周早期の金文。藤堂説で道義とされる「騏」ɡʰi̯əɡ(平)の初出は楚系戦国文字
冀 大漢和辞典

用例:上掲「郭店楚簡」に「哀也。𩦋(驥)厄常山,騹(騏)塞于叴□(上下に來+止),非無體狀也,窮四海,至千」とあり、「騏」も”駿馬”の意とされるので、おそらく”駿馬”の意。

冀 金文
「冀」單貝作父癸尊・西周早期

論語時代の置換候補:部品で同音の「冀」が示す地域は騎馬遊牧民「北狄」の居住地であり、「驥」が”駿馬”を意味することから、「冀」をもって「驥」を意味しうる。

学研漢和大字典

形声。「馬+(音符)冀(キ)」。騏と同じ。

語義

  1. {名詞}一日に千里をいくというすぐれた馬。また、すぐれた馬。《同義語》⇒騏。「驥不称其力、称其徳也=驥(き)はその力を称せず、その徳を称するなり」〔論語・憲問〕
  2. {名詞}才能のすぐれた者。俊才。

字通

[形声]声符は冀(き)。冀に高大の意がある。〔説文〕十上に「千里の馬なり。孫陽の相(み)る所の者なり」とあり、孫陽とは伯楽。騏驥は駿馬。高才の人をたとえる。

危(ギ・6画)

危 甲骨文 危 金文
合集6488/危馬觚・殷代末期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「厃」。「㔾」が加わるのは戦国文字から。殷代末期から戦国初期まで出土が絶えており、殷周革命で一旦亡びた漢語である可能性がある。

字形:諸説あるが由来不明。ただし、甲骨文として比定されている字形は曲がった下向きの矢印であることでは一致しており、”高いところから落っこちる”ことではなかろうか。

危 字形

「国学大師」より

音:カールグレン上古音はŋwia(平)。「キ」は慣用音。

用例:甲骨文には多く「下危」との表記が見られ、”落ちる”ことではないかと推測される。

「甲骨文合集」6507.4に「貞王比望乘伐下危」とあり、”戦車から落ちる”の意と解せる。

「英国所蔵甲骨」2042.2に「戊辰卜尹貞王其田無災在正月在危卜」とあり、地名と解せる。

「甲骨文合集」32896.4に「癸亥貞危方以牛其蒸于來甲申」とあり、民族名と解せる。

金文の出土例は殷代末期のみで、「危耳」(集成5558)など短文に過ぎて語義を判読しがたい。

孔子とすれ違うように春秋末から戦国初期を生きた墨翟の言行録とされる『墨子』では、「則國危矣」(親士篇)、「然國逾危」「身日危」(所染篇)など、”あやうい”の意で用いているが、これらの言葉がいつ記されたのかは分からない。

学研漢和大字典

会意。「厂(がけ)+上と下とに人のしゃがんださま」をあわせたもので、あぶないがけにさしかかって、人がしゃがみこむことをあらわす。詭(キ)(くずれそうなごまかし)と同系。類義語に殆。

語義

  1. {形容詞}あやうい(あやふし)。安定せずくずれそうなさま。危険なさま。▽漢文では、「あぶなし」という訓は用いない。《対語》⇒安。「傾危」「国危矣=国危ふからん矣」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}危険な状態。「去危=危ふきを去る」。
  3. {動詞}あやうくする(あやふくす)。危険なめにあわせる。安全を脅かす。「危士臣=士臣を危ふくす」〔孟子・梁上〕
  4. {動詞}あやぶむ。あぶないと感じる。不安を感じる。「処一之危=一に処してこれを危ぶむ」〔荀子・解蔽〕
  5. {副詞}あやうく(あやふく)。もう少しで。今にも。あぶなく。「今児安在、危殺之矣=今児いづに在る、危ふくこれを殺さんとす」〔漢書・孝成趙皇后〕
  6. {形容詞}けわしい(けはし)。たかくそそり立つさま。「危岩」「危坐(キザ)(よりかからず、たかく背を伸ばしてすわる)」。
  7. {動詞}はげしくする(はげしくす)。たかくする(たかくす)。たかくきびしくする。「邦有道、危言危行=邦に道有れば、危言危行す」〔論語・憲問〕
  8. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のみずがめ座に含まれる。うみやめ。

字通

[形声]声符は厃(き)。厃は危の初文。厃の下に、跪く人の形を加えたものが危。〔説文〕九下に「高きに在りて懼るるなり。厃に從ひ、自ら卪(節)して之れを止む」とするが、厓の上下に跪く人の形をそえて危うい意を示す。危冠は冠を危(たか)くすること、危坐は端坐すること、すべて端厳の状態についていう。

大漢和辞典

リンク先を参照

沂(ギ・7画)

初出は後漢の説文解字。固有名詞のため、論語の時代に存在しないと断じ得ない。カールグレン上古音は不明(平)。王力上古音はŋǐəi。同音は顗”うやうやしい”、螘”アリ”、毅”つよい”、豙”彘が毛を逆立てる”、顡”おろか”。「キ」は慣用音。

論語では魯国付近を流れる川の名として登場。地図右下。
魯国 地図
出典:http://shibakyumei.web.fc2.com/

学研漢和大字典

会意兼形声。「水+(音符)斤(キン)(近づく、せまる)」で、岸が水ぎわにせまった川。また、水ぎわのがけ。

語義

  1. {名詞}川の名。沂水(ギスイ)。つ山東省(中部)に発し、江蘇(コウソ)省癢(ヒ)県で運河に注ぐ。づ山東省鄒(スウ)県に発して曲阜県をへて泗水(シスイ)に注ぐ。「浴乎沂、風乎舞脛=沂に浴し、舞脛に風す」〔論語・先進〕
ギン
  1. {名詞}ふち。物の端。物のまわり。へり。きわ。《同義語》⇒圻・垠(ギン)。
  2. {名詞}がけ。切りたった水ぎわのがけ。《同義語》⇒垠。

字通

[形声]声符は斤(きん)。〔説文〕十一上に水名とする。〔論語、先進〕に「沂に浴す」とみえる魯の川である。圻・垠に通じ、ほとりの意に用いる。

疑(ギ・8画)

疑 甲骨文 疑 金文
甲骨文/伯疑父簋蓋・西周晚期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「龴」「疋」を欠く「𠤕」(上古音不明)。

字形:「𠤕」の字形は大きく口を開けた人で、「疑」の甲骨文には「コン」”つえ”を手に取る姿、「亍」”道”を加えた字形がある。原義はおそらく”道に迷う”。

音:カールグレン上古音はŋi̯əɡ(平)。

用例:「甲骨文合集」12532正.0に「□貞□王□(占)曰疑茲乞雨之日允雨三月」とあり、「□とう□王占いて曰く、疑うらくはれ雨を乞う之日あらん。まことに雨ふる。三月」と読め、”おそらく”と解せる。

殷代末期の金文では、族徽(家紋)の一部を構成している例が複数ある。

西周早期の「高卣」(集成5431)に「㠱長疑」とあるが、「ひざまづきてながくさだめよ」と読むのだろうか。文意が善く分からないが、”うたがう”とは考えがたい。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。矣(アイ)・(イ)は、人が後ろをふり返ってたちどまるさま。疑は「子+止(足をとめる)+(音符)矣」で、愛児に心引かれてたちどまり、進みかねるさまをあらわす。思案にくれて進まないこと。騃(ガイ)(馬がとまりがちで進まない)・礙(ガイ)(とまって進まない)・凝(ギョウ)(とまって進まない)と同系。類義語に惑。

語義

  1. {動詞・形容詞}うたがう(うたがふ)。うたがわしい(うたがはし)。こうではないかと思案して先へ進めない。きめかねてためらう。こうではないかと思案するさま。こうではないかとためらうほど似ているさま。《対語》⇒信・決(きめる)。《類義語》惑(まどう)。「疑似」「王請勿疑=王請ふ疑ふこと勿(な)かれ」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}うたがい(うたがひ)。うたがわしき(うたがはしき)。うたがわしきこと(うたがはしきこと)。こうではないかとうたがうこと。「懐疑」「多聞闕疑=多く聞きて疑はしきを闕く」〔論語・為政〕
  3. {副詞}うたごうらくは(うたがふらくは)。文のはじめにつき、こうではないかと思う気持ちをあらわす。多分…であろう。「疑是地上霜=疑ふらくは是れ地上の霜かと」〔李白・静夜思〕

字通

疑 字通
[象形]卜文・金文にみえる字の初形は■(匕+矢)(ぎ)に作り、人が後ろを顧みて凝然として立ち、杖を樹てて去就を定めかねている形。心の疑惑しているさまを示す。のちに止、あるいは辵の反文などを加えて疑となった。〔説文〕に字を子部十四下に属し、「惑ふなり。子止匕に從ひ、矢聲」とするが、矢を含む形でなく、またその声でもない。金文に「亞■(匕+矢)形圖象」とよばれるものがあり(上掲画像)、亞(亜)は玄室の儀礼を掌る聖職者、■(匕+矢)はその凝然として立つ形。

宜(ギ・8画)

宜 金文
秦公簋・春秋中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋia(平)。同音は論語語釈「誼」を参照。

漢語多功能字庫

甲金文「」象俎案上放了兩塊肉,本義是陳放牲肉在俎案上,後成為祀典,又表示「」,即熟肉,引申為菜餚、佳餚。


甲骨文と金文の「宜」は、まな板の上にのせられた二切れの肉の象形。原義はいけにえの肉をまな板の上に並べて供えること。のちに祭祀の意味となった。また「肴」をも意味し、つまり調理済みの肉の意で、派生義としておかず、美味なおかず。

学研漢和大字典

会意。「宀(やね)+多(肉を盛ったさま)」で、肉をたくさん盛って、形よくお供えするさまを示す。転じて、形がよい、適切であるなどの意となる。義(よい)・儀(形のよい姿)などと同系。類義語に可。

語義

  1. {形容詞}よろしい(よろし)。ちょうど適当である。形や程度がほどよい。「適宜」「宜男」「宜其室家=其の室家に宜しからん」〔詩経・周南・桃夭〕
  2. {形容詞}むべ。→語法「②」。
  3. {助動詞}よろしく…べし。→語法「①」。
  4. (ギス){動詞・名詞}出陣を告げるために、社(土地の氏神)をまつる。また、その祭り。「宜乎社=社に宜す」〔礼記・王制〕

語法

①「よろしく~すべし」とよみ、「~するのがよい」と訳す。適切・当然の意を示す。再読文字。「宜開帳聖聴、不宜塞忠諫之路=宜(よろ)しく聖聴を開帳すべく、宜しく忠諫(ちうかん)の路(みち)を塞(ふさ)ぐべからず」〈どうぞ陛下にはお耳を広く開かれ、真心を尽くして諫める(臣下の)道を塞がぬがよろしいでしょう〉〔十八史略・三国〕

②「うべなり」「むべなり」とよみ、「なるほど」「当然である」と訳す。賛同・当然の意を示す。▽「宜乎=うべなるかな・むべなるかな」も、意味・用法ともに同じ。「宜乎、百姓之謂我愛也=宜(うべ)なるかな、百姓の我を愛(おし)めりと謂ふや」〈人民がわたしを物惜しみだというのも、もっともなことだ〉〔孟子・梁上〕

字通

[会意]宀(べん)+且(そ)。卜文・金文の字形は、且(俎)の上に多(多肉)をおく形で象形。のち廟屋の形である宀に従う。その形は会意。〔説文〕七下に「安んずる所なり。宀の下、一の上に從ふ。多の省聲なり」とするのは、後の字形によって説くもので、もとは俎肉をいう。肉を以て祀ることをいい、卜辞に「己未、義京(軍門の名)に羌三人を宜(ころ)し、十牛を卯(さ)かんか」とあって、宜とは肉を殺(そ)いで俎上に載せ、これを以て祀ることで、その祭儀をいう。のち祖霊に饗し、人を饗する意に用い、金文に「ソン 外字(阝+上下に酋+廾)宜(そんぎ)」という。〔詩、大雅、鳧鷖〕「公尸(こうし)來(ここ)に燕し來(ここ)に宜す」とあるのも同じ。〔詩、鄭風、女曰雞鳴〕「子と之れを宜(さかな)とせん」は燕食の意。神が供薦を受けることを「宜し」といい、適可の意となる。

義(ギ・13画)

義 甲骨文 義 金文
甲骨文/仲義父鼎・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「羊」+「我」”ノコギリ状のほこ”。甲骨文の字形はほこの先端の飾りとして羊の角を取り付けた形で、実用武器ではなく装飾用の武器を意味すると思われる。
義 甲骨文字形

青銅 我

「我」全長24.3cm・幅10.3cm・重量300g 陝西省扶風県法門郷荘白村出土 扶風県博物館蔵

音:カールグレン上古音はŋia(去)。同音に「宜」(平)、議(去)など。論語語釈「誼」を参照。「儀式」の「儀」は同音でŋia(平)、「犠牲」の「犧/犠」はxia(平)。ちなみに「殺」はsăt(入)。

用例:西周早期の『殷周金文集成』06015「麥方尊」に「用龏義寧𥎦」とあり、「恭しき儀を用て侯を寧がす」と読める。”儀式”の語義が確認できる。

西周早中期の『殷周金文集成』02809「師旂鼎」に「義播𠭯」とあり、「義しく播き𠭯ひろげよ」と読め、”…するがよい”の語義が確認できる。

春秋の金文に「允義」の用例が複数あり、「まことにただし」と読め、”正しい”の語義が確認できる。

春秋中期の『殷周金文集成』00271「𦅫鎛」に「肅肅義政」とあり、「肅肅と政をただせ」と読め、”正しくする”の語義が確認できる。

春秋末期『新收殷周青銅器銘文暨器影彙編』NA1479に「不義又匿」とあり、「不」は「丕」と釈文されてはいるが、「ただしからずして匿すり」と読め、”事実”の語義を読み取りうる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名に、金文では春秋末期の「沇兒鐘」で”格好のよいさま”、春秋中期の「𦅫鎛」で”よい”、西周中期の「訓匜」で”…のがよい”の用例が見られるという。

学研漢和大字典

義 解字
我は、ぎざぎざとかどめのたったほこを描いた象形文字。義は「羊+音符我」の会意兼形声文字で、もと、かどめがたってかっこうのよいこと。きちんとしてかっこうがよいと認められるやり方を義(宜)という。峨(ガ、かどめのたった山)-儀(かどのあるさま)と同系のことば。▽岸(かどめのたったきし)や彦(ゲン、かどめの正しい顔をした美男)とも縁が近い。

『学研漢和大字典』宜条
会意。「宀(やね)+多(肉を盛ったさま)」で、肉をたくさん盛って、形よくお供えするさまを示す。転じて、形がよい、適切であるなどの意となる。義(よい)・儀(形のよい姿)などと同系。類義語に可。

語義

  1. {名詞・形容詞}すじ道。かどめ。かどめが正しい。▽孟子によると、よしあしの判断によって、適宜にかどめをたてること。荀子(ジュンシ)によると、長い経験によって、社会的によいと公認されているすじ道。儒教の五常(仁・義・礼・智・信)の一つ。《類義語》宜・誼(ギ)。「節義」「君臣有義=君臣には義有り」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞・形容詞}よい(よし)。利欲に引かれず、すじ道をたてる心。みさお。かどめただしい。▽日本では、特に、主君への義理だての意。「正義」「義士」。
  3. {名詞・形容詞}公共のためにつくすこと。また、そのさま。《対語》私。《類義語》公。「義倉」「義捐金(ギエンキン)」。
  4. {名詞}ことばや行いに含まれている理由。わけ。意味。《類義語》誼(ギ)。「字義」「意義」。
  5. {名詞・形容詞}約束してちかった親類関係。また、そのような関係の。「結義(義兄弟のちかいを結ぶ)」「義兄」「義子(養子)」。
  6. {形容詞}名目上の。かりの。人工の。「義足」「義髻(ギケイ)(のせたまげ)」。
  7. 《日本語での特別な意味》かどめや、約束をとおすやり方。「律義」「義理がたい」。

青銅 我

銅製「我」
全長24.3cm・幅10.3cm・重量300g 扶風県博物館蔵

字通

羊+我。我は鋸(のこぎり)の象形。羊に鋸を加えて截り、犠牲とする。その牲体に何らの欠陥もなく、神意にかなうことを「義(ただ)し」という。〔説文〕十二下に「己の威儀なり」とするが、もと牲体の完全であることをいう。羲はその下体が截られて下に垂れている形。金文の〔師旂鼎(しきてい)〕に「義(よろ)しく~すべし」という語法がみえ、宜と通用する。宜は且(そ)(俎)上に肉をおく形。神に供薦し、神意にかなう意で、義と声義が通ずる。

『字通』宜条
[会意]宀(べん)+且(そ)。卜文・金文の字形は、且(俎)の上に多(多肉)をおく形で象形。のち廟屋の形である宀に従う。その形は会意。〔説文〕七下に「安んずる所なり。宀の下、一の上に從ふ。多の省聲なり」とするのは、後の字形によって説くもので、もとは俎肉をいう。肉を以て祀ることをいい、卜辞に「己未、義京(軍門の名)に羌三人を宜(ころ)し、十牛を卯(さ)かんか」とあって、宜とは肉を殺(そ)いで俎上に載せ、これを以て祀ることで、その祭儀をいう。のち祖霊に饗し、人を饗する意に用い、金文に「ソン 外字宜(そんぎ)」という。〔詩、大雅、鳧鷖〕「公尸(こうし)來(ここ)に燕し來(ここ)に宜す」とあるのも同じ。〔詩、鄭風、女曰雞鳴〕「子と之れを宜(さかな)とせん」は燕食の意。神が供薦を受けることを「宜し」といい、適可の意となる。

訓義

ただしい、よい、神意にかなう。ただしい道、みち、のり。法則、道理、つとめ、義務。宜と通じ、よい、便宜、すぐれる。儀と通じ、威儀。

大漢和辞典

よい。ただしい。たひらか。きりもり。のり、みち。つとめ。君によく仕えること。をとこ気。ことわり。わけ。たよりがい。めぐみ。衆人が共に奉戴する。衆人と事を共にする。すぐれる。あはせる、まぜる。借り。よくない。誼に通ず。議に通ず。通じて儀に作る。文体の名。義太利の略称。姓。台の名。

儀(ギ・15画)

儀 金文
虢叔旅鐘・西周末期

初出:初出は西周末期の金文。ただし春秋末期まで「義」と書き分けられなかった。亻を伴った初出は戦国時代の竹簡。

字形:「亻」+「羊」+「我」”ノコギリ状のほこ”。部品の「義」=「羊」+「我」に、西周中期以前に”(格好の)よい”の語義があることから、原義は”格好のよい人(たる属性)”の意であると思われる。論語の時代は「義」(初出は甲骨文。ŋia去)と書き分けられていなかった。論語語釈「義」を参照。上掲の金文も同様だが、漢字学者が「亻」の有無をどう判断しているかは分かりかねる。

音:カールグレン上古音はŋia(平)。同音は論語語釈「誼」を参照。

用例:「儀」と釈文されている初出の一つは西周早期「麥方尊」(集成6015)で、「用龏義寧𥎦。」とあり、「用恭儀寧侯」と釈文されている。”儀礼”と解せる。

亻を伴った初出は「上海博物館蔵戦国楚竹簡」天子乙07で、「不可㠯(以)不□(聞)恥厇(度),民之儀也。」とあり、”礼儀”と解せる。「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

論語では、衛国の国境のまちとして登場。武内本は「儀は衛の西境にあり」という。下図参照。魯から衛の国都・帝丘に向かうにしては遠回りだが、当時の交通事情はもはや分からない。

儒家以外での初出は『呉子』圖國篇の「起對曰、古之明王、必謹君臣之禮、飾上下之儀、安集吏民、順俗而教、簡募良材、以備不虞。」であり、呉起は子夏の弟子。『左伝』では冒頭の隠公から出てくる。

備考:「漢語多功能字庫」には、見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。義は「羊+(音符)我」の会意兼形声文字で、羊はおいしくて、よい物の代表。義は宜(ギ)と同系で、ほどよく整ったこと。儀は「人+(音符)義」で、ほどよく整って手本となる人間の行為を示す。

語義

  1. {名詞}のり。手本とすべき、ほどよく整った規準。「儀法」「儀表」。
  2. {形容詞}形よく整った作法。「儀式」「礼儀三百、威儀三千」〔中庸〕
  3. {形容詞}ほどよくきれいに整ったさま。《同義語》⇒宜・義。
  4. {動詞}のっとる。かっこうのよい手本として従う。▽訓の「のっとる」は「のり+とる」の促音便から。
  5. 「両儀」とは、宇宙の規準となる陰と陽の二要素のこと。
  6. 「渾天儀(コンテンギ)」「地球儀」などの「儀」とは、天文や地理の基準を示す機械や測定器のこと。
  7. 《日本語での特別な意味》「私儀(ワタクシギ)」とは、私に関することの意。

字通

[形声]声符は義(ぎ)。〔説文〕八上に「度なり」と儀度の意とする。金文に「威義」とあり、儀はのち分化した字。義は神に犠牲として供えた羊牲が、完全で神意にかなう意。それで神につかえるときの儀容を儀というのであろう。

毅(ギ・15画)

毅 金文
伯吉父簋・西周晚期

初出:初出は西周末期の金文

字形:「辛」”小刀”+豕”ぶた”+殳”さばく”であり、ぶたを解体して肉や皮革にするさま。論語泰伯編7で曽子の言葉として載る”つよい”ではない。

音:カールグレン上古音はŋi̯əd(去)。同音は「藙」”木の名。おおだら”。「キ」は慣用音。

用例:西周末期の金文の例が6例知られるが、全て器名か人名。

備考:おそらくは音を借りた仮借だが、「キ」の音で”強い”を意味した漢字で金文以前に存在するのは「耆」gʰi̯ær(平)しか見つからず、音が遠すぎて仮説の域を出ない。ただし論語の時代に”つよい”の意があったかは疑問。また『学研漢和大字典』も『字通』も、原義を取り違えていると思われる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「殳(動詞の記号)+(音符)溟(ギ)(いのししがたてがみをたてる)」。

語義

  1. {形容詞}つよい(つよし)。おしがつよい。力づよく立っている。ひとたび決意すると、何ものにもじゃまされない。「剛毅木訥近仁=剛毅木訥仁に近し」〔論語・子路〕

字通

[会意]豙(ぎ)+殳(しゅ)。豙は〔説文〕九下に「豕(ぶた)怒りて毛豎(た)つなり。一に曰く、殘艾なり。豕辛に從ふ」とあり、辛に従う意を未詳とする徐鉉説を附記する。卜文の字形に、鳳・竜など霊獣とされるものの頭部に、辛字形の飾りを加えており、豙も霊獣とされるものであろう。それに殳を加えて殴(う)つのは、その呪能を刺激し、鼓舞する呪的行為を意味し、軍事などのときに戦意を鼓舞するためのものであろう。ゆえに果毅・剛毅の意となる。㱾・改・殺なども、みな呪霊のあるものを殴つ形の字である。〔説文〕三下に「妄りに怒るなり。一に曰く、決すること有るなり」とするが、もと古い呪儀を示す字であった。

誼(ギ・15画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はŋia(去)。同音は次の通り。論語時代の置換候補は「義」。

初出 声調 備考
よい 甲骨文 →語釈
やうす 西周末期金文 →語釈
キ・ギ かたあし 戦国末期金文
あり 前漢隷書
かひこのてふ 説文解字
キ・ギ のこぎり 前漢隷書
はかる 戦国末期金文 →語釈
よい 前漢隷書 𧧼の俗字
よい 甲骨文 →語釈

論語語釈「義」論語語釈「儀」論語語釈「議」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「言+(音符)宜(整っている、具合がよい)」で、物事がほどよく適切であること。「義」に書き換えることがある。「恩義・情義」。

語義

  1. {形容詞}よい(よし)。適切である。よろしい。《同義語》⇒宜。
  2. {名詞}ほどよいすじみち。道理。《同義語》⇒義。
  3. {名詞}適切な解説。ことばの意味。《同義語》⇒義。「古誼(=古義)」。
  4. {名詞}よしみ。以前からの親しい関係。仲よし。ゆかり。因縁。「情誼(ジョウギ)」「友誼(ユウギ)」。
  5. {動詞}はかる。物事のよしあしを論じる。《同義語》⇒議。

字通

[形声]声符は宜(ぎ)。宜は神饌として且(そ)(俎)上に肉を多くおく形。神がそれを享け、神意にかなうことを宜という。〔説文〕三上に「人の宜しとする所なり」とするが、義が、犠牲としての羊肉が神意にかなって「義(ただ)し」とされるように、宜も神意にかなう意であり、誼・議はいずれもその声義を承ける字である。のち人の友誼を誼という。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

魏(ギ・18画)

巍 金文
巍公鼎・戦国秦

初出:初出は戦国時代の金文。ただし「巍」と釈文されている。「小学堂」では初出は不明

字形:「委」+「鬼」だが、由来や意味するところは判然としない。「漢語多功能字庫」は源氏を「」とし、「魏」は省略形という説を乗せる。論語語釈「巍」を参照。

音:カールグレン上古音はŋwər(去)。同音に嵬”けわしい”。

用例:戦国の金文「魏(巍)鼎」(集成2647)に「魏廿六。三斗一升。魏三斗一升。廿三斤。」とあり、おそらく国名と思われる。

論語時代の置換候補:孔子の直弟子である子夏が、魏の文公に仕えていることから、論語の時代に、既に氏族名・国名として存在したと思われるが、物証が出ていない。また『春秋左氏伝』によると、いわゆる戦国時代の魏国の前に、西周の諸侯国として「魏」があったとされる。しかしこれも物証が出ていない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「委(やわらかく曲線をえがく)+(音符)鬼(まるく大きい)」。塊(まるくめだつかたまり)・魁(カイ)(まるく大きい)と同系。「山などが高くて大きいさま」の意味では普通「巍」と書く。

語義

  1. {形容詞}まるく盛りあがって高い。高大な。《同義語》⇒巍。
  2. {名詞}国名。戦国時代の七雄の一つ。春秋時代の晋(シン)を、韓(カン)・趙(チョウ)・魏が三分して独立したもの。今の河南省北部・山西省西南部の地を領した。のち、秦(シン)の始皇帝に滅ぼされた。前四〇三~前二二五。
  3. {名詞}王朝名。つ三国の一つ。曹操(ソウソウ)が、漢から魏国公に封ぜられ、その子曹丕(ソウヒ)が、漢のあとをうけて帝位についた。都を洛陽(ラクヨウ)に置き、呉・蜀(ショク)と天下を三分した。二二〇~二六五づ南北朝時代、北朝の一つ。東晋(トウシン)のとき、拓跋珪(タクバツケイ)がたてた。のち東魏・西魏にわかれた。北魏。三八六~五三四。
  4. 「魏魏(ギギ)」とは、まるくもりあがって大きいさま。《同義語》⇒巍巍。「魏魏乎其終則復始也=魏魏乎として其れ終はれば則ち始めに復するなり」〔荘子・知北遊〕

字通

[形声]字はもと巍に作り、声符は嵬(かい)。〔説文〕に魏字を収めず、巍字条九上に「高なり。嵬に從ひ、委(ゐ)聲」とするが、嵬の方が声に近い。漢碑に字を■(巍の委→禾)に作り、禾(か)に従う字であった。委は稲魂を被(かぶ)って舞う農耕儀礼において、女が低く舞う形。これに対して巍は高く舞う形。これを一般化して高大の意となり、魏の字を以て、なおその義に用いたのであろう。

議(ギ・20画)

議 金文
「左行議率戈」戦国末期・燕

初出:初出は戦国末期の金文

字形:「言」+「義」”ただしい”で、言葉で正しさを求める行為。原義は”はかる”。

音:カールグレン上古音はŋia(去)。同音は論語語釈「誼」を参照。

用例:戦国最末期の「睡虎地秦簡」法律答問83に「議皆當耐。」とあり、”はかる”と解せる。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

『大漢和辞典』で音ギ訓はかるに、揆gʰi̯wær(上)、擬ŋi̯əɡ(上)、支ȶi̯ĕɡ(平)、楑(カ音不明、平)、疑ŋi̯əɡ(平)、葵gʰi̯wær(平)、諅gʰi̯əɡ(去)諆ki̯əɡ(平)。これらのうち論語の時代に遡れ、かつ「はかる」が”議論する”の意である漢字は無い。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。義(ギ)は「羊(形のよいひつじ)+(音符)我(かどばったほこ)」からなる会意兼形声文字で、かどめがついてかっこうがよいこと。議は「言+(音符)義」で、かどばって折り目のある話のこと。儀(ギ)(かどめ正しい)・峨(ガ)(かどばった山)・宜(ギ)(かっこうがよい)などと同系。類義語の論(ロン)は、順序よく整った話のこと。「意見を出し合って相談する」の意味の「はかる」は「計る」「諮る」とも書く。

語義

  1. (ギス){動詞}はかる。かどめをつけて話しあう。理屈・筋道の通った相談をする。《類義語》論。「議論」「評議」「議之而後動=これを議りてしかる後動く」〔易経・壓辞上〕
  2. (ギス){動詞}あれこれと、理屈や文句をつける。「非議(=誹議)」「天下有道、則庶人不議=天下に道有れば、則ち庶人議せず」〔論語・季氏〕
  3. {名詞}かどばった正式の相談。また、それによって出された結果。「決議」。
  4. {名詞}文章の様式の一つ。物事の可否についての意見を述べた文章。「奏議(上奏する議論の文)」「駁議(ハクギ)・(バクギ)」。
  5. 《日本語での特別な意味》「議員」の略。「県議」「市議」。

字通

[形声]声符は義(ぎ)。〔説文〕三上に「語るなり」、また「語は論なり」「論は議(はか)るなり」とあって三字の訓義に通ずるところがあるが、字の原義はそれぞれ異なり、議は〔国語、鄭語〕に「伯翳(はくえい)(神名)は能く百物を議して、以て舜を佐(たす)くる者なり」とあり、議は譏察の意に近い。義は犠牲を神が「義(ただ)し」として享ける意。議は「神議(はか)りに議る」意で、神意を問いはかる意である。

巍(ギ・21画)

巍 金文
巍公瓶・戦国秦

初出:初出は戦国時代の金文

字形:「山」+「魏」ŋwər(去)”たかい。山脈が高々とそびえ立っているさま。

音:カールグレン上古音はŋi̯wər(平)で、同音は存在しない。

用例:文献時代以降の用例しかない。論語泰伯編18などに次ぐ再出は、『孟子』『呂氏春秋』に見られる。

論語時代の置換候補:存在しない。漢語としてはあり得るはずだが、物証が出ていない。論語語釈「魏」を参照。

部品の魏(ŋwər、”たかい”)は、戦国時代の金文に見え、文献では『説文解字』に地名として登場するのが初出。論語の時代にはすでに都市国家として存在し、弟子の子夏が仕えたと言うから、言葉や文字があったのは確実。初出の金文「魏鼎」(集成2647)は画像が明瞭でない。漢帝国で通用した隷書では、「嵬」と書かれた。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、魏(ギ)は、まるく大きく目だつ意を含む。巍は「山+(音符)魏」。嵬(カイ)(山がたかく目だつ)と同系のことば。

語義

  1. {形容詞}たかい(たかし)。山がむっくりと、まるく盛りあがってそびえるさま。《類義語》嵬(カイ)。

字通

[形声]声符は嵬(かい)。〔説文〕九上に「高なり」と訓し、字は嵬に従って、委(い)声とするが、嵬・魏の声をとる字である。委は農耕儀礼において、稲魂(いなだま)を被(かぶ)った女が姿低く舞う形、巍はその姿高く舞うさまかと思われる。ただ山容の崔嵬たるさまをいう語としては、委の原義はすてられているものと考えてよい。

鞠(キク・17画)

鞠 秦系戦国文字
陶彙9.83・戦国秦

初出:初出は秦系戦国文字

字形:「革」”なめしたかわ”+「匊」k(入)で、「匊」は春秋末期まででは西周の金文で人名の一部になっている一例のみ。「ホウ」は例えば「軍」字の金文に「冖」として用いられ、”覆う”・”包む”の意。「匊」は穀物倉庫の意か。全体で”革で粒状の中身を包んだまり”の意。”身をかがめる”などの意は、まりのように体を丸めることから来る派生義か。

音:カールグレン上古音は声母のk(入)のみ。藤堂上古音はgɪokまたはkɪok(共に入)。

用例:甲金文・簡帛書には出土例が無い。文献上の初出は論語郷党篇4。戦国末期の『韓非子』や『呂氏春秋』にも見える。

論語時代の置換候補:郭沫若は「匊」に”やしなう”・”可愛がる”の意があり「鞠」と同義だと言ったが、時の権力者を渡り歩いてへつらい、それゆえのデタラメばかり言う男なので信用できない。

『大漢和辞典』での同音同訓「かがむ」に、「𠣮」「躹」(初出不明)、「𠤄」「趜」(初出説文解字)。

『学研漢和大字典』は「躬(キュウ)(かがめたからだ)・窮(かがむ、ちぢむ)は、その語尾がxに転じたことば」と言うが、躬の初出は楚系戦国文字、窮の初出も楚系戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、匊(キク)は「米+勹(つつむ)」からなる会意文字で、米つぶをつつんでぐっとまるめることを示す。鞠は「革(かわ)+(音符)匊(キク)」。ぐっとちぢめて、外から包んだかわのまり。躬(キュウ)(かがめたからだ)・窮(かがむ、ちぢむ)は、その語尾がxに転じたことば。掬(キク)(手をまるくちぢめてすくう)・球(ぐっとちぢめたたま)と同系のことば。

語義

キク(入gɪok)
  1. {名詞}まり。けまり。かわで包んだまり。《同義語》⇒毬。《類義語》球。「蹋鞠(トウキク)(けまり)」。
キク(入kɪok)
  1. (キクス){動詞}からだをまるくかがめる。《類義語》躬(キュウ)。「鞠躬(キッキュウ)」。
  2. (キクス){動詞}やしなう(やしなふ)。からだをかがめて、保育する。だいじに育てる。「母兮鞠我=母や我を鞠ひたまふ」〔詩経・小雅・蓼莪〕
  3. {形容詞}からだが小さくちぢまっているさま。おさない。「鞠子(キクシ)」。
  4. (キクス){動詞・形容詞}きわまる(きはまる)。しめつけられる。ふさがる。窮する。▽鞫(キク)に当てた用法。「自鞠自苦=自ら鞠し自ら苦しむ」〔書経・盤庚中〕
  5. {動詞}ただす。きわめる(きはむ)。罪人をとことんまでとり調べる。問いつめる。▽鞫(キク)に当てた用法。

字通

[形声]声符は匊(きく)。〔説文〕三下に「蹋鞠(たふきく)なり」とあり、けまりをいう。躹に借用することが多く、〔書、盤庚中〕「爾(なんぢ)惟(こ)れ自ら鞠(くる)しみ自ら苦しむ」、〔詩、小雅、蓼莪〕「母や我を鞠(やしな)ふ」、〔詩、小雅、節南山〕「鞠訩」、〔論語、郷党〕「鞠躬如(きくきゅうじょ)」などはみな躹の字義である。また訊鞠は𥷚の字義。

※𥷚(キク):調べる。

乞(キツ・3画)

乞 甲骨文 气 乞 金文
甲骨文/洹子孟姜壺・春秋晚期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文では「气」と書き分けられていない。「三」の字との違いは、「三」が筆画の長さを揃えるのに対し、「气」は真ん中の一本を短く描く。字形は天上の雲を描いた姿で、原義は”雲”。

音:カールグレン上古音はkʰi̯ət(入)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では「迄」の意に用い、金文で”求める”の意に用いた(洹子孟姜壺・春秋末)。

学研漢和大字典

象形。ふたを押しのけてつかえた息が漏れ出るさまを描いたもの。氣(=気。いき)の原字。のどをつまらせて哀れな声を漏らすの意から、物ごいする意となった。吃(キツ)(どもる)と同系。

語義

  1. {動詞}こう(こふ)。のどをつまらせて頼む。いいにくそうにねだる。「乞諸其鄰而与之=諸を其の鄰に乞ひてこれをあたふ」〔論語・公冶長〕
  2. 「乞丐(キツカイ)・(コツカイ)」とは、人を押しとめて物ごいすること。また、その人。

字通

[象形]雲気の流れる形。氣(気)の初文は气、その初形は乞。〔説文〕一上に「气は雲气なり。象形」とあり、乞字を収めない。乞はもと雲気を望んで祈る儀礼を意味し、乞求の意がある。金文に「用(もっ)て眉壽を乞(もと)む」のように、神霊に祈ることをいう。

吉(キツ・6画)

吉 甲骨文 吉 金文
合16329/旂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文は上向けの矢印”天界”あるいは”笏”+「𠙵」”くち”。矢印が「士」”王・貴族”になっている甲骨文もある。神や貴人に申し上げるさま。

両字形をともに「吉」の甲骨文だと比定するなら、中共の御用学者・李学勤のいう「上が尖った玉の形で、だからめでたいを意味する」には賛成しがたい。上掲甲骨文の矢印形は、「圭」”玉の笏”の甲骨文に比定されてはいるが、比定したのは当の李学勤やその親分かも知れず、本当に笏の意かどうかかなり怪しい(論語語釈「圭」)。

玉だからめでたいわけではなく、仮に笏であっても、笏を手に取らざるを得ない貴人相手に申し上げるから、めでたいことに限るのだ。

音:カールグレン上古音はki̯ĕt(入)。「キチ」は呉音。

用例:甲骨文には文末に占いの結果を「吉/不吉」と記したものがあり、「不吉」は2022年9月現在62例しか見ないが、「吉」の例はおそらく1000はある。神も貴人も、不吉なことを聞くと怒るに決まっており、ゆえに「吉」が”めでたい”であり得る。

西周早期「旂鼎」(集成2670)に「唯八月初吉」とあり、「初吉」は通説で”上旬”≒”新月”と解する。

学研漢和大字典

象形。壺(ツボ)をいっぱいにしてふたをした姿を描いたもので、内容の充実したこと。反対に、空虚なのを凶という。壹(イツ)(=壱。つぼいっぱい)と同系。また、すきまなく充実した意を含み、結(つめる→ゆわえつける)・詰(問いつめる、いっぱいにつめる)とも同系。

語義

  1. (キツナリ){形容詞・名詞}よい(よし)。めでたいさま。さいわい。めでたいこと。▽もと占いのことば。《対語》⇒凶。「吉日」「吉凶由人=吉凶は人に由る」〔春秋左氏伝・僖一六〕
  2. (キツナリ){形容詞}よい(よし)。願わしくてよいさま。けっこうである。「吉礼」「応之以治則吉=これに応ずるに治を以てすれば則ち吉なり」〔荀子・天論〕
  3. 「初吉(ショキツ)」とは、ついたちのこと。

字通

[会意]士+口。士は鉞(まさかり)の刃部を下にした形。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器。祝禱を収めた器を聖器で守り、その吉善を保つ意である。〔説文〕二上に「善なり」とし、〔繫伝〕にその意を「口に擇言無きなり」、すなわち士人の言はみな吉の意とするが、吉・咸・吾は、みな聖器を以て祝禱の吉善を守る意象の字である。〔詩〕に「吉士」「多吉人」と称するものは、神事につかえる神人をいう。卜辞の「弘吉」「大吉」は卜兆の吉なる意、〔易〕にも吉・凶の語を用いる。

肸(キツ・8画)

初出は戦国時代の陶片。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。もと「丂(つかえてまがる)+(音符)キツ」。

語義

  1. {動詞}ひびきわたる。
  2. 「肸肸(キツキツ)」とは、きっきっと笑う声の形容。

字通

[形声]声符は䏌(きつ)。〔説文〕四下に「䏌は振䏌なり」とあり、肸三上には「肸蠁(きつきやう)、布(し)くなり。十に從ひ、䏌聲」(段注本)という。肸蠁は虫の名であるらしく、〔段注〕に「聲を知るの蟲なり。肸蠁なる者は、蓋(けだ)し知聲の蟲の如く、一時に雲集す」という。「振䏌」とは「振膰」のことであるらしく、肸とはその脤肉を頒かつ意で、それより播布の意となったものと思われる。肸蠁は別義。司馬相如の〔上林の賦〕に「衆香發越し、肸蠁布瀉」、左思の〔呉都の賦〕に「光色炫晃として、芬馥(ふんぷく)肸蠁す」のように用い、広く弥漫する意の語である。

客(キャク・9画)

論語語釈「客」

躩(キャク・27画)

論語語釈「躩」

九(キュウ・2画)

論語語釈「久」

及(キュウ・3画)

論語語釈「及」

久(キュウ・3画)

論語語釈「久」

弓(キュウ・3画)

論語語釈「弓」

丘(キュウ・5画)

論語語釈「丘」

舊/旧(キュウ・5画)

論語語釈「旧」

朽(キュウ・6画)

論語語釈「朽」

求(キュウ・7画)

論語語釈「求」

咎(キュウ/コウ・8画)

論語語釈「咎」

疚(キュウ・8画)

論語語釈「疚」

急(キュウ・9画)

論語語釈「急」

糾(キュウ・9画)

論語語釈「糾」

躬(キュウ・10画)

論語語釈「躬」

宮(キュウ・10画)

論語語釈「宮」

救(キュウ・11画)

論語語釈「救」

翕(キュウ・12画)

論語語釈「翕」

給(キュウ・12画)

論語語釈「給」

廄/厩(キュウ・12画)

論語語釈「厩」

裘(キュウ・13画)

論語語釈「裘」

嗅(キュウ・13画)

論語語釈「嗅」

窮(キュウ・15画)

論語語釈「窮」

牛(ギュウ・4画)

論語語釈「牛」

去(キョ・5画)

論語語釈「去」

居(キョ・8画)

論語語釈「居」

據/拠(キョ・8画)

論語語釈「拠」

舉/挙(キョ・10画)

論語語釈「挙」

莒(キョ・10画)

論語語釈「莒」

虛/虚(キョ・11画)

論語語釈「虚」

蘧(キョ・20画)

論語語釈「蘧」

御(ギョ・11画)

論語語釈「御」

魚(ギョ・11画)

論語語釈「魚」

圉(ギョ・11画)

論語語釈「圉」

禦(ギョ・16画)

論語語釈「禦」

凶(キョウ・4画)

論語語釈「凶」

共(キョウ・6画)

論語語釈「共」

向(キョウ・6画)

論語語釈「向」

匡(キョウ・6画)

論語語釈「匡」

“>狂(キョウ・7画)

“>論語語釈「狂」

供(キョウ・8画)

論語語釈「供」

享(キョウ・8画)

論語語釈「亨」

拱(キョウ・9画)

論語語釈「拱」

恭(キョウ・10画)

論語語釈「恭」

恐(キョウ・10画)

論語語釈「恐」

敎/教(キョウ・11画)

論語語釈「教」

鄕/郷(キョウ・11画)

論語語釈「郷」

兢(キョウ・14画)

論語語釈「兢」

徼(キョウ・16画)

論語語釈「徼」

興(キョウ・16画)

論語語釈「興」

薑/姜(キョウ・16画)

論語語釈「薑」

襁(キョウ・16画)

論語語釈「襁」

皦(キョウ・18画)

論語語釈「皦」

驕(キョウ・22画)

論語語釈「驕」

仰(ギョウ・6画)→卬

論語語釈「仰」

堯/尭(ギョウ・8画)

論語語釈「尭」

曲(キョク・6画)

論語語釈「曲」

亟(キョク・8画)

論語語釈「亟」

洫(キョク・9画)

論語語釈「洫

棘(キョク・12画)

論語語釈「棘」

玉(ギョク・5画)

論語語釈「玉」

獄(ギョク・14画)

論語語釈「獄」

今(キン・4画)

論語語釈「今」

斤(キン・4画)

論語語釈「斤」

近(キン・7画)

論語語釈「近」

均(キン・7画)

論語語釈「均」

矜(キン・9画)

論語語釈「矜」

勤/勤(キン・12画)

論語語釈「勤」

禽(キン・13画)

論語語釈「禽」

錦(キン・16画)

論語語釈「錦」

謹(キン・17画)

論語語釈「謹」

/饉(キン・20画)

論語語釈「饉」

誾(ギン・15画)

論語語釈「誾」

論語語釈
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