論語語釈「キ」

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氣/気(キ・6画)

論語 気 金文
洹子孟姜壺・春秋

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯əd(去)またはxi̯əd(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。气(キ)は、いきが屈曲しながら出てくるさま。氣は「米+(音符)气」で、米をふかすときに出る蒸気のこと。乞(キツ)(のどをつまらせていきをはく)・嘅(カイ)・(ガイ)(のどをつまらせてげっぷを吐き出す)・慨(カイ)・(ガイ)(のどをつまらせてため息をはく)などと同系。旧字「氣」は人名漢字として使える。▽付表では、「意気地」を「いくじ」「浮気」を「うわき」と読む。

語義

  1. {名詞}いき。のどから屈曲して出てくるいき。《類義語》息。「気息」「呼気」「屏気似不息者=屏気(へいき)して息せざる者に似たり」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}固体ではなくて、ガス状をしたもの。▽とくに蒸気のことは汽という。「気体」「空気」「天朗気清=天は朗かに気は清む」「気蒸雲夢沢=気は蒸す雲夢沢」〔孟浩然・臨洞庭〕
  3. {名詞}人間の心身の活力。「気力」「正気」「養気=気を養ふ」「気、壱則動志也=気、壱ならば則ち志を動かす」〔孟子・公上〕
  4. {名詞}漢方医学で、人体を守り、生命を保つ陽性の力のこと。「衛気(人体をとりまいて守る活力)」。
  5. {名詞}天候や四時の変化をおこすもとになるもの。また、陰暦で、一年を二十四にわけた一期間。二十四気。「節気」「気候」。
  6. {名詞}人間の感情や衝動のもととなる、心の活力。「元気」「気力」「少年剛鋭之気(ゴウエイノキ)(若者の強い気力)」。
  7. {名詞}形はないが、なんとなく感じられる勢いや動き。「気運」「兵革之気(ヘイカクノキ)(戦争のおこりそうな感じ)」。
  8. {名詞}偉人のいる所にたち上るという雲気。「望気術(雲気を遠くから見て、運勢を定める術)」「吾、令人望其気=吾、人をして其の気を望ま令む」〔史記・項羽〕
  9. {名詞}宋(ソウ)学で、生きている、存在している現象をいう。▽存在するわけを理という。「理気二元論」。
  10. {名詞}《俗語》かっとする気持ち。「動気(かっとする)」。

字通

[形声]旧字は氣に作り、气(き)声。〔説文〕七上に「客に饋(おく)る芻米なり」とあり、〔左伝、桓六年〕「齊人、來(きた)りて諸侯に氣(おく)る」の文を引く。いま氣を餼に作る。气が氣の初文、また氣は餼の初文。いま气の意に気を用いる。

危(キ・6画)

論語 危 甲骨文
(甲骨文)合集6488

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋwia(平)。

学研漢和大字典

会意。「厂(がけ)+上と下とに人のしゃがんださま」をあわせたもので、あぶないがけにさしかかって、人がしゃがみこむことをあらわす。詭(キ)(くずれそうなごまかし)と同系。類義語に殆。

語義

  1. {形容詞}あやうい(あやふし)。安定せずくずれそうなさま。危険なさま。▽漢文では、「あぶなし」という訓は用いない。《対語》⇒安。「傾危」「国危矣=国危ふからん矣」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}危険な状態。「去危=危ふきを去る」。
  3. {動詞}あやうくする(あやふくす)。危険なめにあわせる。安全を脅かす。「危士臣=士臣を危ふくす」〔孟子・梁上〕
  4. {動詞}あやぶむ。あぶないと感じる。不安を感じる。「処一之危=一に処してこれを危ぶむ」〔荀子・解蔽〕
  5. {副詞}あやうく(あやふく)。もう少しで。今にも。あぶなく。「今児安在、危殺之矣=今児いづに在る、危ふくこれを殺さんとす」〔漢書・孝成趙皇后〕
  6. {形容詞}けわしい(けはし)。たかくそそり立つさま。「危岩」「危坐(キザ)(よりかからず、たかく背を伸ばしてすわる)」。
  7. {動詞}はげしくする(はげしくす)。たかくする(たかくす)。たかくきびしくする。「邦有道、危言危行=邦に道有れば、危言危行す」〔論語・憲問〕
  8. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のみずがめ座に含まれる。うみやめ。

字通

[形声]声符は厃(き)。厃は危の初文。厃の下に、跪く人の形を加えたものが危。〔説文〕九下に「高きに在りて懼るるなり。厃に從ひ、自ら卪(節)して之れを止む」とするが、厓の上下に跪く人の形をそえて危うい意を示す。危冠は冠を危(たか)くすること、危坐は端坐すること、すべて端厳の状態についていう。

大漢和辞典

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杞(キ・7画)

論語 杞 金文
亞酉凶兇杞婦卣・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯əɡ(上)。

夏王朝の開祖、禹の末裔を称する国。→Wikipedia

学研漢和大字典

形声。「木+(音符)己」。

語義

  1. 「枸杞(クコ)」とは、なす科の落葉低木。葉・果実・根を食用・薬用にする。
  2. {名詞}柳の一種。こりやなぎ。枝を刈り、皮をとって行李(コウリ)などを編むのに用いる。「杞柳(キリュウ)」。
  3. {名詞}おうち(あふち)。くすに似た高木。木目が細かくなめらかなので、材木は家具などに用いられる。「杞梓(キシ)」。
  4. {名詞}周代の国名。周の武王が、夏(カ)王朝の子孫を封じた国。今の河南省杞県にあった。

字通

[形声]声符は己(き)。〔説文〕六上に「枸杞なり」とあり、くこをいう。その実は薬用として強精剤に、また枸杞油として用いられる。また杞柳をいう。

希(キ・7画)

論語 希 金文大篆 論語 希
(金文大篆)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxi̯ər(平)で、同音は屎”くそ”のほかは希を部品とする漢字群。日本語で近音同訓の「寡」はkwɔ。「犧」はxiaだが、初出は戦国文字。王力上古音hǐəi・董同龢上古音xjə̆dの同音に塈(墍の異体字)があるが、語義は”ぬる・かざる”。また董同龢上古音xjə̆dの同音には「气」を部品とする漢字群があるが、”まれ”の語義を持たない。周法高上古音xjərでは同音が多数となる。李方桂上古音xjədでの同音は希を部品とする3字のみ。

学研漢和大字典

会意。「メ二つ(まじわる)+巾(ぬの)」で、細かく交差して織った布。すきまがほとんどないことから、微小で少ない意となり、またその小さいすきまを通して何かを求める意となった。幾(こまかい、わずか)と同系。類義語の望は、見えないものを待ち望むこと。「稀」の代用字としても使う。「希・希元素・希釈・希少・希代・希薄・希硫酸・古希」。

語義

  1. {形容詞}まれ。めずらしい。ごく少ない。うすい。かすか。▽希のあとに補語を伴うことがある。《同義語》⇒稀。《類義語》少。「希少」「幾希=幾んど希なり」「希不失矣=失はざること希なり」〔論語・季氏〕
  2. {動詞}ねがう(ねがふ)。めったにないことをあってほしいとねがう。「希望」「誰不希令顔=誰か令顔を希はざらん」〔曹植・美女篇〕
  3. {動詞}こいねがう(こひねがふ)。ねがい望む。手づるを求めてまさぐる。「先意希旨=意に先だつて旨を希ふ」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  4. {名詞}国名。「希臘(ギリシア)」の略。

字通

[象形]すかし織りの布。上部の爻(こう)はその文様を示す。〔説文〕に希字を収めない。〔論語、先進〕「瑟を鼓すること希(まれ)なり」、〔論語、公冶長〕「怨み是(ここ)を用(もつ)て希なり」など、稀の意に用いる。〔爾雅、釈詁〕に「罕なり」とみえる。稀と通用し、希望の意は覬・冀・幾との通用義。〔周礼、春官、司服〕「社稷五祀を祭るときは、則ち希冕(ちべん)す」とあって絺(ち)の初文とみられ、希とはあらい麻織の織目の形を示す字であろう。

季(キ・8画)

論語 季 金文
季良父盉・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯wæd(去)。論語ではほぼ、魯国門閥三家老家筆頭・季孫氏として登場する。

学研漢和大字典

会意。「禾(こくもつのほ)+子」。麦やあわの実る期間。作物のひと実りする三か月間。また、収穫する各季節のすえ。禾に子を加えてすえの子を意味する。のち、広くすえの意に用いる。李(リ)と混同しやすいので注意。

語義

  1. {名詞}三か月。▽一年を春・夏・秋・冬の四季にわける。《類義語》年・節(一年を二十四の節にわけたもの)。「節季」。
  2. {名詞}すえ(すゑ)。季節や時代の最後。「季春(春のすえ)」「季世(世のすえ)」「百王之弊、斉季斯甚=百王之弊、斉の季つかたこそ斯甚だしけれ」〔任遭・天覧三年〕
  3. {名詞}すえ(すゑ)。兄弟の序列で、すえの人。▽兄弟を年齢の上の者から順に、伯・仲・叔・季という。また、孟・仲・季ともいう。「伯仲叔季」「季曰周七=季を周七と曰ふ」〔韓愈・柳子厚墓誌銘〕
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①き。俳句の題材となる四季の区分。「季題」。
    ②き。一年を単位として数えることば。「半季」。

字通

[会意]禾(か)+子。〔説文〕十四下に「少(わか)き偁(な)なり。子に從ひ、稚の省に從ふ。稚は亦聲なり」とするが声が合わず、字形も年・委などと立意同じ。年は禾と人、委は禾と女。みな稲魂(いなだま)を示す禾を頭上に被って、田舞をする姿。年・委は男女、季は幼少の子が加わって、農耕儀礼としての田舞を舞った。字は卜辞・金文にみえ、稚の亦声とする理由はない。

祇(キ・8画)

初出は戦国早期の金文。カールグレン上古音はȶi̯ĕɡ(平)またはgʰi̯ĕɡ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「氏+(音符)示(キ)・(シ)(祭壇)」で、氏神としてまつる土地神。示(キ)と同じ。「ぴ」の場合は祗(シ)の字と混同した用法。氏の下に一を書く祗(つつしむ・うやまう)は別字。共に「シ」の音があるので混同しやすい。

語義

{名詞}くにつかみ。地の神。▽神(天のかみ)に対する。《同義語》⇒示(キ)。「神祇(ジンギ)」「地祇(チギ)(地の神)」。

{副詞}ただ。ひたすらに、ただ…だけの意をあらわすことば。▽祗(シ)や只(シ)と同じに用いる。「祇攪我心=祇だ我が心を攪すのみ」〔詩経・小雅・何人斯〕

字通

[形声]声符は氏(し)。〔説文〕一上に「地祇なり。萬物を提出する者なり」と地・祇・提の声義の関係を以て説く。〔周礼、春官、大司楽〕「地示を祭る」と示を用いることもあり、古くは示(し)の声であろう。氏は氏族共餐のとき用いる小刀の形、祇は氏族の神で、産土神(うぶすながみ)を意味する字であろうと思われる。

其(キ・8画)

論語 其 金文 論語 其 解字
(金文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰi̯əɡまたはki̯əɡ(共に平)。

学研漢和大字典

象形文字で、其の甲骨文字は、穀物を載せる四角い箕(キ)(み)の形を描いたもの。金文は、その下に台の形を加えた。其は、のちの箕の原字だが、その音を借りてやや遠い所の物をさす指示詞に当てた。▽単独では、主語や客語に用いない。

意味

  1. {指示詞}その。それ。→語法「①」。
  2. {助辞}それ。→語法「②-(1)」。
  3. {助辞}それ。→語法「②-(3)」。
  4. {助辞}その。語調を整える助辞。「灼灼其華=灼灼たる其の華」〔詩経・周南・桃夭〕

語法

①「その」「それ」とよみ、「その」「それ」と訳す。前述の人・物・事をうける指示代名詞として用い、単独では主語などに用いない。此(この)に対して、やや遠いところを指す。《対語》之・是。《類義語》厥。「此其志不在小=これその志小に在らざるなり」〈これはその野望が小さな所にとどまってはいない〉〔史記・項羽〕

②「それ」とよみ、

  1. )感嘆・強調などの語気を示す。▽「其~乎(哉・矣・也)(与)」は、「それ~かな」とよみ、「なんと~だなあ」と訳す。感嘆の意を示す。「語之而不惰者、其回也与=これに語(つ)げて惰(おこた)らざる者は、それ回なるか」〈話をしてやって、それに怠らないのは、顔淵だけだね〉〔論語・子罕〕
  2. 「そもそも」「なんと」と訳す。反語・感嘆を強調する意を示す。▽多く文頭に使用され、物事の起源・原因などをのべる。「其言之不俊、則為之也難=それ言の俊(は)ぢざるは、則(すなは)ちこれを為すや難(かた)し」〈そもそも自分の言葉に恥じないようでは、それを実行するのは難しい〉〔論語・憲問〕
  3. 「もし~ならば」と訳す。仮定を強調する意を示す。▽多く仮定の意を示す語とともに用いる。「其如是、孰能禦之=それかくの如(ごと)くんば、孰(いづれ)かよくこれを禦(とど)めん」〈もしこのような時、いったい誰が抑えとどめることができるでしょう〉〔孟子・梁上〕

③「其~乎(哉・矣・也)」は、

  1. 「それ~ならんや」とよみ、「どうして~だろうか(いやそうではない)」と訳す。反語の意を示す。《類義語》豈。「大車無瑕、小車無瑕、其何以行之哉=大車瑕(げい)無(な)く、小車瑕無くんば、それ何をもってかこれを行(や)らんや」〈牛車に轅(ナガエ)のはしの横木がなく、四頭だての馬車に轅のはしのくびき止めがないのでは、(牛馬をつなぐことはできず)一体どうやって動かせようか〉〔論語・為政〕
    ▽「其諸~乎(哉・矣・也)(与)」は、「それこれ~や」とよみ、「~だろうか(いやそうではない)」と訳す。「其~乎(哉・矣・也)」を強調したいい方。「夫子之求之也、其諸異乎人之求之与=夫子のこれを求むるや、それこれ人のこれを求むるに異なるや」〈先生の求めかたといえば、そう、他人の求めかたとは違うらしいね〉〔論語・学而〕
  2. 「それ~か」とよみ、「~だろうか」と訳す。推測の意を示す。「知我者其天乎=我を知る者はそれ天か」〈私のことを分かってくれるものは、まあ天だね〉〔論語・憲問〕

④「其~乎(邪)、其…乎(邪)」は、「それ~か、それ…か」とよみ、「~であろうか、…であろうか」と訳す。選択の意を示す。「天之蒼蒼、其正色邪、其遠而無所至極邪=天の蒼蒼たるは、それ正色なるか、それ遠くして至極する所無(な)きか」〈天空が青いのは、一体、本当の色であろうか、それとも遠く果てしないため(そう映るの)であろうか〉〔荘子・逍遙遊〕

⑤「其者」は、「それ」とよみ、「それは」「その訳は」「思うに」と訳す。「其者寡人之不及与=それ寡人(かじん)の及ばざるや」〈それは、わたくしめが及ばないからであろうか〉〔漢書・燕刺王劉旦〕

⑥「与其~寧…」は、「その~よりは、むしろ…」とよみ、「~よりも…がよい」と訳す。「礼与其奢也寧倹=礼はその奢(おご)らんよりは寧ろ倹なれ」〈礼ははでやかにするよりも、ひかえめのほうがよい〉〔論語・八佾〕

⑦「其斯之謂与」は、「それこれをこれいうか」とよみ、「(ことわざにいうことが)おそらくこのことであろうか」と訳す。「子貢曰、詩云、如切如磋、如琢如磨、其斯之謂与=子貢曰く、詩に云ふ、切するが如(ごと)く磋するが如く、琢するが如く磨するが如しとは、それこれをこれ謂ふか」〈子貢が、詩経・衛風・淇奥に、骨を切るように、象牙をするように、玉をうつように、石を磨くようにとうたっているのは、ちょうどこのことでしょうねと言った〉〔論語・学而〕

字通

[象形]箕(み)の形で、箕の初文。其を代名詞・副詞に用いるに及んで、のち箕が作られた。〔説文〕五上に箕を正字として「簸なり」とし、古文・籀文の字形をあげる。金文には箕を簸揚する形、また女に従う形がある。終助詞として、己・記・忌と通用する。

起(キ・10画)

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯əɡ(上)。同音に欺”あざむく”・僛”酔って踊る”・杞”木の名・国名”・屺”はげ山”・芑”白い穀物”。

学研漢和大字典

会意兼形声。己(キ)は、曲がりつつおきあがるさま。または、注意をよびおこす己型の目じるし。起は「走(足の動作)+(音符)己」で、下に休んでいたものや目だたなかったものが、おきあがること。類義語に建。異字同訓に興す・興る「産業を興す。国が興る」。草書体をひらがな「き」として使うこともある。

語義

  1. {動詞}おきる(おく)。おこす。たつ。たてる(たつ)。横になっていたものがたつ。また、横になっているものをたてる。「奮起」「扶起(フキ)(手をわきにさし入れて助けおこす)」「鶏鳴而起=鶏鳴にして而起く」〔孟子・尽上〕
  2. {動詞}おこる。おこす。やんでいたものが動き出す。物事をはじめる。《対語》⇒滅・休。「起工」「起病=病起こる」「起兵=兵を起こす」。
  3. {動詞}おこす。自覚や記憶をよびおこす。「起用」「子曰、起予者商也、始可与言詩已矣=子曰はく、予を起こす者は商なり、始めてともに詩を言ふべきのみ」〔論語・八飲〕
  4. {名詞}物事のはじめ。「起源」。
  5. 「起句」の略。「起承転結」。
  6. {単位詞}回数をかぞえることば。《類義語》回・次。
  7. 《俗語》「一起(イーチー)」とは、いっせいに。いっしょに。

字通

[形声]旧字は■(走+巳)に作り、巳(し)声。〔説文〕二上に「能く立つなり」とする。金文・篆文の字形はすべて巳に従っており、それならば蛇が頭をもたげてゆく意である。坐して起(た)つときの動作をいい、それよりすべてことを始める意となる。

旣/既(キ・10画)

論語 既 金文
夨令方尊・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯əd(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。旡(キ)は、腹いっぱいになって、おくびの出るさま。既はもと「皀(ごちそう)+(音符)旡」で、ごちそうを食べて腹いっぱいになること。限度まで行ってしまう意から、「すでに」という意味を派生する。漑(ガイ)(田畑に水をいっぱいみたす)・概(ガイ)(ますに米をいっぱいに満たす、ますかき棒)・慨(ガイ)(胸いっぱいになる)などと同系。「すでに」は「已に」とも書く。

語義

  1. {副詞}すでに。→語法「①」。
  2. {動詞}つくす。つきる(つく)。食べつくす。…してしまう。「既食(食べつくす)」「日、有食之、既=日、これを食する有り、既くす」〔春秋・桓三〕

語法

①「すでに~」とよみ、

  1. 「~したのち」「~したので」と訳す。動作が完了したり、状態が変化した結果、次の動作・状態がおこる意を示す。「鮑叔既進管仲以身下之=鮑叔すでに管仲を進め身もってこれに下る」〈鮑叔は管仲を推薦すると、進んでその下位に立った〉〔史記・管晏〕▽「既已=すでに」も、意味・用法ともに同じ。
  2. 「すでに」「もはや」「以前から」と訳す。動作・状態が過去に完了・変化し、現在までそれが続いている意を示す。「文王既没、文不在茲乎=文王すでに没す、文ここに在らずや」〈文王はもはや亡くなられたが、その文化はここに(この我が身に)伝わっているぞ〉〔論語・子罕〕
  3. 「もう充分に」「すっかり」「完全に」と訳す。動作・状態が完全になる意を示す。「既酔而退、曾不吝情去留=すでに酔ひて退くときは、曾(かつ)て情を去留に吝(やぶさか)にせず」〈十分に酔って一人になっても、心を自然のなりゆきにまかせてくよくよなどしない〉〔陶潜・五柳先生伝〕
  4. 「~したからには」「~した以上」と訳す。前節の結果を条件として後節をみちびく意を示す。後節には、反語や意志の意を示すことばが続くことが多い。「嗟乎、独遭乱世、既以不能死、安託命哉=嗟乎(ああ)、独り乱世に遭ひ、すでにもって死すること能はず、安(いづ)くに命を託せんや」〈ああ、乱世に出遭ってしまった、死ねないからには、どこにわが命を託したものか〉〔史記・李斯〕
  5. 「やがて~」「そのまま~」と訳す。前節に引き続いて、後節に動作などがおこる意を示す。「至易水之上、既祖取道=易水の上に至る、すでに祖して道を取らんとす」〈易水のほとりまで来た、そこで道祖神を祭り、いよいよ旅路につく〉〔史記・刺客〕

②「既而」は、「すでにして」とよみ、「その後まもなく」と訳す。あることが終わって間もなくの意を示す。「意気揚揚、甚自得也、既而帰、其妻請去=意気揚揚として、甚だ自ら得たる、すでにして帰る、その妻去らんことを請ふ」〈意気揚揚と得意気であった、夫が帰ってきたとき、妻は、お暇を頂きたいと言った〉〔史記・管晏〕

③「既~則(便)…」は、「すでに~ならば、すなわち…」とよみ、「~であるからには…であろう」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「故遠人不服、則脩文徳以来之、既来之、則安之=故に遠人服せざれば、則(すなは)ち文徳を脩(おさ)めてもってこれを来たす、すでにこれを来たらしむれば、則ちこれを安んず」〈そこで遠方の人が従わなければ、(武には頼らないで)文の徳を修めてなつけ、なつけたならば、安定させる〉〔論語・季氏〕

④「既~又(亦)…」は、「すでに~にして、また…」とよみ、「~した上、さらに…」と訳す。累加の意を示す。「既窈窕以尋壑、亦崎嶇而経丘=すでに窈窕(えうてう)としてもって壑(がく)を尋ね、また崎嶇(きく)として丘を経」〈奥深い谷を訪ねた上に、さらに険しい丘をたどる〉〔陶潜・帰去来辞〕▽「既~且…=すでに~にしてかつ…」「既~終…=すでに~にしてついに…」も、意味・用法ともに同じ。

字通

[会意]旧字は旣に作り、皀と旡とに従う。皀は𣪘(簋)の初文。盛食の器。旡は食に飽いて、後ろに向かって口を開く形。食することすでに終わり、嘅気を催すさまを示す。〔説文〕五下に「小食なり」というのは、〔段注〕にいうように嘰の声義を以て解するもので、旣字の本義ではない。

既(キ・10画)

論語 既 金文
夨令方尊・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯əd(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。旡(キ)は、腹いっぱいになって、おくびの出るさま。既はもと「皀(ごちそう)+(音符)旡」で、ごちそうを食べて腹いっぱいになること。限度まで行ってしまう意から、「すでに」という意味を派生する。漑(ガイ)(田畑に水をいっぱいみたす)・概(ガイ)(ますに米をいっぱいに満たす、ますかき棒)・慨(ガイ)(胸いっぱいになる)などと同系。「すでに」は「已に」とも書く。

語義

  1. {副詞}すでに。→語法「①」。
  2. {動詞}つくす。つきる(つく)。食べつくす。…してしまう。「既食(食べつくす)」「日、有食之、既=日、これを食する有り、既くす」〔春秋・桓三〕

語法

①「すでに~」とよみ、

  1. 「~したのち」「~したので」と訳す。動作が完了したり、状態が変化した結果、次の動作・状態がおこる意を示す。「鮑叔既進管仲以身下之=鮑叔すでに管仲を進め身もってこれに下る」〈鮑叔は管仲を推薦すると、進んでその下位に立った〉〔史記・管晏〕▽「既已=すでに」も、意味・用法ともに同じ。
  2. 「すでに」「もはや」「以前から」と訳す。動作・状態が過去に完了・変化し、現在までそれが続いている意を示す。「文王既没、文不在茲乎=文王すでに没す、文ここに在らずや」〈文王はもはや亡くなられたが、その文化はここに(この我が身に)伝わっているぞ〉〔論語・子罕〕
  3. 「もう充分に」「すっかり」「完全に」と訳す。動作・状態が完全になる意を示す。「既酔而退、曾不吝情去留=すでに酔ひて退くときは、曾(かつ)て情を去留に吝(やぶさか)にせず」〈十分に酔って一人になっても、心を自然のなりゆきにまかせてくよくよなどしない〉〔陶潜・五柳先生伝〕
  4. 「~したからには」「~した以上」と訳す。前節の結果を条件として後節をみちびく意を示す。後節には、反語や意志の意を示すことばが続くことが多い。「嗟乎、独遭乱世、既以不能死、安託命哉=嗟乎(ああ)、独り乱世に遭ひ、すでにもって死すること能はず、安(いづ)くに命を託せんや」〈ああ、乱世に出遭ってしまった、死ねないからには、どこにわが命を託したものか〉〔史記・李斯〕
  5. 「やがて~」「そのまま~」と訳す。前節に引き続いて、後節に動作などがおこる意を示す。「至易水之上、既祖取道=易水の上に至る、すでに祖して道を取らんとす」〈易水のほとりまで来た、そこで道祖神を祭り、いよいよ旅路につく〉〔史記・刺客〕

②「既而」は、「すでにして」とよみ、「その後まもなく」と訳す。あることが終わって間もなくの意を示す。「意気揚揚、甚自得也、既而帰、其妻請去=意気揚揚として、甚だ自ら得たる、すでにして帰る、その妻去らんことを請ふ」〈意気揚揚と得意気であった、夫が帰ってきたとき、妻は、お暇を頂きたいと言った〉〔史記・管晏〕

③「既~則(便)…」は、「すでに~ならば、すなわち…」とよみ、「~であるからには…であろう」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「故遠人不服、則脩文徳以来之、既来之、則安之=故に遠人服せざれば、則(すなは)ち文徳を脩(おさ)めてもってこれを来たす、すでにこれを来たらしむれば、則ちこれを安んず」〈そこで遠方の人が従わなければ、(武には頼らないで)文の徳を修めてなつけ、なつけたならば、安定させる〉〔論語・季氏〕

④「既~又(亦)…」は、「すでに~にして、また…」とよみ、「~した上、さらに…」と訳す。累加の意を示す。「既窈窕以尋壑、亦崎嶇而経丘=すでに窈窕(えうてう)としてもって壑(がく)を尋ね、また崎嶇(きく)として丘を経」〈奥深い谷を訪ねた上に、さらに険しい丘をたどる〉〔陶潜・帰去来辞〕▽「既~且…=すでに~にしてかつ…」「既~終…=すでに~にしてついに…」も、意味・用法ともに同じ。

字通

[会意]旧字は旣に作り、皀と旡とに従う。皀は𣪘(簋)の初文。盛食の器。旡は食に飽いて、後ろに向かって口を開く形。食することすでに終わり、嘅気を催すさまを示す。〔説文〕五下に「小食なり」というのは、〔段注〕にいうように嘰の声義を以て解するもので、旣字の本義ではない。

豈(キ・10画)

強調の助辞。初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯ər(上)で、同音は存在しない。下記藤堂説により、「」と音通するとして扱う。

学研漢和大字典

象形。喜の字の上部や、鼓の字の左の部分とよく似た形で、神楽の太鼓をたてた姿を描いた象形文字であろう。もと、にぎやかな軍楽のこと。▽のち、その音を借りて指示詞の其(キ)(それ)に当て、指示・強調を加えて反問する語気をあらわす。「其非天乎=それ天にあらずや」は「豈非天乎=あに天にあらずや」と同じ。

語義

キ/ケ
  1. {助辞}あに。→語法「①」。
  2. {助辞}あに。→語法「④」。
カイ
  1. {形容詞}にこやかなさま。《同義語》⇒祥。「豈弟(ガイテイ)(=祥悌)」。
  2. {動詞・名詞}にこやかにどよめく。また、にぎやかな軍楽。▽凱旋(ガイセン)の凱に当てた用法。「豈楽飲酒=豈楽して酒を飲む」〔詩経・小雅・魚藻〕

語法

①「あに~(な)らんや」とよみ、「どうして~であろうか(まさかそんなことはあるまい)」と訳す。強い肯定となる反語の意を示す。▽文末に「乎」「哉」「与」などの助詞をつけて多く用いる。《類義語》其・安・焉(イズクンゾ)。「子為恭也、仲尼豈賢於子乎=子恭を為すなり、仲尼あに子より賢(まさ)らんや」〈あなたは謙遜されているのです、仲尼がどうしてあなたよりすぐれているものですか〉〔論語・子張〕
②「豈~乎(邪)(哉)」は、「あに~なるか」とよみ、「ことによると~なのだろうか」と訳す。推測の意を示す。「舜目蓋重瞳子、又聞項羽亦重瞳子、羽豈其苗裔邪=舜の目は蓋(けだ)し重瞳子ならん、また聞く項羽もまた重瞳子なりと、羽はあにその苗裔(べうえい)なるか」〈舜の目は二つ眸であったらしい、また、項羽も二つ眸であったと聞く、項羽は舜の子孫ででもあったのだろうか〉〔史記・項羽〕
③「あに」とよみ、「どうか~であってもらいたい」「~であればよい」と訳す。願望の意を示す。「天王豈辱裁之=天王あに辱(かたじけな)くこれを裁せんや」〈大王よ、願わくは裁定をくだされよ〉〔国語・呉〕
④「豈不~」は、「あに~ずや」とよみ、「なんと~ではないか」と訳す。感嘆・強調・反語の意を示す。「豈不憚艱険=あに艱険(かんけん)を憚(はばか)らざらんや」〈どうして険しい道を避けようとするだろうか〉〔魏徴・述懐〕▽「豈非~」は、「あに~にあらずや」とよみ、意味・用法ともに同じ。
⑤「豈惟」「豈唯」「豈徒」「豈特」は、「あにただに~(のみならんや)」とよみ、「どうして~だけに限ろうか(いや、決してそれだけではない)」と訳す。範囲・条件を限定しない反語の意を示す。▽文末に「耳=のみ」「而已=のみ」など、限定の助詞をつけて多く用いる。▽後節に「又…」と続けて、「どうして~だけに限ろうか、…もまたそうである」と訳す。さらに累加する意を示す。「豈惟怠之、又従而盗之=あにただにこれを怠るのみならんや、また従ひてこれを盗む」〈仕事をしないだけではない、それをいいことに盗みまで働くしまつだ〉〔柳宗元・送薛存義序〕

字通

[象形]軍鼓の形である豆の上に、羽飾りなどを飾る形。苗族の楽器である銅鼓を示す南の古い字形にも、上端両旁に羽飾りを加えた形のものがある。〔説文〕五上に「師を遣すときの振旅の樂なり」とあり、凱の初文とみてよい。

歸/帰(キ・10画)

論語 帰 金文
毓且丁卣・商代晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯wər(平)。

学研漢和大字典

形声。𠂤(タイ)・(カイ)は土盛りの堆積したさまで、堆・塊と同じことばをあらわす音符。歸はもと「帚(ほうき)+(音符)𠂤」の形声文字。回と同系のことば。

女性がとついで箒(ほうき)を持ち家事に従事するのは、あるべきポストに落ち着いたことなので、「キ(クヰ)」といい、のち止(あし)を加えて歩いてもどることを示した。歸は「帚(ほうき)+止(あし)+(音符)𠂤」。あちこち回ったすえ、定位置にもどって落ち着くのを広く「キ」という。

回・韋(イ)(回る)・囲(回る)・揆(キ)(ひと回り)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞}かえる(かへる)。回ってもどる。もとの所へもどってくる。《類義語》回・還。「帰還」「帰郷」「回帰線」「帰京」「帰札」。
  2. (キス){動詞}あるべき所に落ち着く。回ったあげくに適当な所におさまる。「帰服」「天下帰仁焉=天下仁に帰す」〔論語・顔淵〕
  3. (キス){動詞}罪や責任を、しかるべき人に当てはめる。「帰罪=罪を帰す」。
  4. {動詞}しぬ。「帰宿」。
  5. {動詞}とつぐ。嫁にいく。▽女性は夫を捜して身を落ち着けるということから。「之子于帰=之の子于き帰ぐ」〔詩経・周南・桃夭〕
  6. {動詞}おくる。食物や用品をおくること。▽饋(キ)に当てた用法。「帰孔子豚=孔子に豚を帰る」〔論語・陽貨〕
  7. 「九帰法」とは、中国の算術の除法(割り算)のこと。

字通

[会意]旧字は歸に作り、𠂤(し)+止+帚。卜文・金文の字形は𠂤と帚とに従い、止は後に加えられた。𠂤は脤肉の形。軍が出行するときに軍社に祭った肉で、これをひもろぎとして奉じた。軍が帰還すると、これを寝廟に収めて報告祭をした。帚は寝廟で灌鬯(かんちよう)などを行うとき、酒をふりかけて用いるもので、寝廟を意味する。婦人の嫁することを「帰」というのは、異姓の女が新たに寝廟につかえることについて、祖霊の承認を求める儀礼を行うからである。帚は灌鬯に用いる束茅の形。〔説文〕二上に「女の嫁するなり」という。饋・餽と通用し、食をおくることをいう。

鬼(キ・10画)

論語 鬼 金文
鬼作父丙壺・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯wər(上)。角を生やした”オニ”ではなく、”亡霊・祖先の霊”。論語語釈「神」も参照。

学研漢和大字典

象形文字で、大きなまるい頭をして足もとの定かでない亡霊を描いたもの。中国の百科事典「爾雅」に「鬼とは帰なり」とあるのは誤り。魁(カイ)(大きいまるい頭)・塊(カイ)(まるいかたまり)・回(カイ)(まるい)などと同系のことば。

意味

  1. {名詞}おに。死人のおばけ。おぼろげな形をしてこの世にあらわれる亡霊。▽中国では、魂がからだを離れてさまようと考え、三国・六朝以降には泰山の地下に鬼の世界(冥界(メイカイ))があると信じられた。「幽鬼」「厲鬼(レイキ)」「未能事人、焉能事鬼=いまだ人に事ふる能はず、いづくんぞ能く鬼に事へん」〔論語・先進〕
  2. {名詞}《仏教》おに。つ地獄で死者を扱う者や死人たち。づ人力以上の力をもち、人間を害するもの。
  3. {名詞}飢餓に苦しむ亡者。
  4. {名詞}いやな人。ずばぬけているが、いやらしい人。「債鬼(借金とり)」「鬼暸(キイキ)(陰険な人)」。
  5. {形容詞・名詞}あの世の。死後の世界の。転じて、人の住まない異様な所。「鬼籍」「鬼録」。
  6. {形容詞}人間わざとは思えない。並はずれてすぐれた。「鬼工」「鬼才」。
  7. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は、今のかに座に含まれる。たまほめ。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①おに。その道に一生をかけた人。「芸道の鬼」。
    ②おに。おにのようにむごい。「鬼婆(オニババ)」「鬼夫婦」。
    ③おに。おにのように強い。「鬼将軍」。
    ④おに。並はずれて大きい。ふつうとは違ったおかしな。「鬼ゆり」。

字通

[象形]鬼の形。人鬼をいう。〔説文〕九上に「人の歸する所を鬼と爲す。人に從ひ、鬼頭に象る。鬼は陰气賊害す。厶に從ふ」とあり、厶(し)を陰気を示すものとするが、古くは鬼頭のものの蹲踞する形に作り、厶は後に加えたもの。字は畏と形近く、畏忌すべきものを意味した。

寄(キ・11画)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkia(去)で、同音に奇とそれを部品とする漢字群。奇の初出も戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、奇は「大(ひと)+(音符)可」の会意兼形声文字で、からだが一方にかたよった足の不自由な人。平均を欠いて、片方による意を含む。燿(キ)の原字。寄は「宀(いえ)+(音符)奇」で、たよりとする家のほうにかたより、よりかかること。倚(イ)(よる)・椅(イ)(よりかかるいすや、もたれ木)と同系。類義語に憑。

語義

  1. {動詞}よる。よりかかる。もたれる。また、たよりにする。《類義語》倚(イ)。「身亡所寄=身寄る所を亡ふ」〔列子・天瑞〕
  2. {動詞}よる。やどる。よりかかってとまる。人をたよってやっかいになる。「寄食」「芳心寂寞寄寒枝=芳心寂寞として寒枝に寄る」〔曾鞏・虞美人草〕
  3. {動詞}よせる(よす)。人に任せて世話してもらう。あずける。「寄託」「可以寄百里之命=以て百里の命を寄すべし」〔論語・泰伯〕
  4. {動詞}よせる(よす)。送り届ける。「臨別殷勤重寄詞=別れに臨んで殷勤に重ねて詞を寄す」〔白居易・長恨歌〕
  5. {動詞}《俗語》手紙・金・品物などを送る。「寄信(チイシン)(手紙を送る)」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①よる。そばに近づく。「近寄る」。
    ②よせる(よす)。あわせる。そばに集める。「寄せ算」「客寄せ」。

字通

[形声]声符は奇(き)。奇に不安定なものの意があり、寄に倚寄し、寄託する意がある。〔説文〕七下に「託するなり」とあり、〔論語、泰伯〕「以て六尺の孤を託すべく、以て百里の命を寄すべし」のように、人に寄託することをいう。寄宿・寄寓のように用い、伝言を寄語という。

貴(キ・12画)

貴 金文(戦国)
鳥書箴銘帶鉤・戦国

初出は上掲戦国時代の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯wəd(去)。同音は存在しない。同訓の部品も同訓で音が通じる漢字も、甲骨文・金文共に存在しない。

「貧」などと同じく、貝=貨幣経済を前提とした言葉は、そもそも論語の時代に存在し得ない。後世の捏造を疑う十分な理由になる。

学研漢和大字典

会意。貴は「臾(両手で荷物を持つさま)+貝(品物)」で、大きく目だった財貨。魁(カイ)(目だって大きい)・偉(イ)(目だって大きい)などと同系。類義語の尊(ソン)は、ずっしりと構えていること。異字同訓にたっとい・とうとい⇒尊。「とうとい」「たっとい」「とうとぶ」「たっとぶ」は「尊い」「尊ぶ」とも書く。

意味

  1. (キナリ){形容詞・名詞}たっとい(たつとし)。とうとい(たふとし)。目だって大きい。値うちや位が高くすぐれている。また、値うちのある物や身分の高い人。《対語》⇒賤(セン)(いやしい)。《類義語》尊。「顕貴(目だって位が高い)」「貴而知懼=貴にして懼を知る」〔春秋左氏伝・襄二四〕
  2. {動詞}たっとぶ。とうとぶ(たふとぶ)。価値のあるものとして、たいせつにする。うやまう。「珍貴」「賤貨而貴徳=貨を賤みて徳を貴ぶ」〔中庸〕
  3. {形容詞}相手の側にあるものにつけて、相手に対する敬意をあらわすことば。「貴宅」「貴国」。

字通

[会意]𦥑(きょく)+貝。貝を両手で捧げる形。貴重なものとして扱う意を示す。〔説文〕六下に「物賤(やす)からざるなり」とし、字形を貝に従い、臾(ゆ)声とするが、声が合わない。また「臾は古文簣なり」とするが、簣は物を運ぶ草器のもっこで、貝を草器に入れることはない。貝は系で貫いて前後にふりわけて荷ない、一朋という。古く貨として通用し、彝器(いき)の銘文に、その製作費に十数朋の貝を用いたと記すものがある。のち物のみでなく、人の身分や性行などに関しても用いる。

声系

〔説文〕に貴声として遺・殨・饋・穨・憒・潰・聵・匱・繢・隤など十七字を収める。饋・遺は遺贈の意であるが、殨・穨・憒などには憒乱の意がある。宝貝・貝貨の毀損しやすいことからの転義であろう。

喜(キ・12画)

論語 喜 金文
王孫遺者鐘・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はxi̯əɡ(上)、去声は不明。藤堂上古音はhɪəg。藤堂説も白川説も、原義は神を喜ばせるために、お供えをして太鼓をドンドン打って祈るさまとしており、人が喜ぶのは後起の義とする。論語と同時代の孫武兵法に、「怒可以復喜,慍可以復悅」とあるからすでにその義を獲得しているとみてよいが、同時代の出土金文では原義で用いられる事例が多い。

徐王子󱜼鐘(春秋末期)て宴し厶ていのる。」
沇兒鎛(春秋末期)すなどりてうたげし厶ていのり、厶てかなで賓をもてなせ。」
王孫遺者鐘(春秋末期)「用て匽しよろこいのり、用て樂で賓を嘉せ。」

学研漢和大字典

会意。壴(トウ)は、台のついた器に、うずたかく食物を盛って、飾りをつけたさま。また、鼓の左がわと同じと考え、飾りつきの太鼓をたてたさまとも解される。喜は「壴+口」。ごちそうを供え、または音楽を奏してよろこぶことを示す。嘻(キ)(ひひと笑う)・嬉(キ)(うれしがる)と同系。類義語の懌(エキ)は、心中のしこりがとれること。怡(イ)は、心がなごむこと。悦は、しこりが抜け去ること。欣(キン)と忻(キン)は、満足してうきうきすること。歓は、そろって声をあげてよろこぶこと。慶は、めでたいことを祝ってよろこぶこと。

語義

  1. {動詞}よろこぶ。にこにこする。うれしがる。《同義語》⇒矯・嬉。《対語》⇒悲。「喜怒哀楽」「秦王聞之大喜=秦王これを聞いて大いに喜ぶ」〔史記・荊軻〕
  2. {動詞}このむ。愛好する。《類義語》好。
  3. {名詞}よろこぶ。うれしい気持ち。「其喜洋洋=其の喜び洋洋たり」〔范仲淹・岳陽楼記〕
  4. {名詞・形容詞}よろこび。めでたい事がら。めでたいさま。▽婚礼・出産・寿の祝いなど。《対語》凶。《類義語》嘉(カ)。「喜事」。

字通

[会意]壴(こ)+口。壴は鼓、口は𠙵(さい)、祝禱を収める器の形。神に祈るとき、鼓をうって神を楽しませる意。耒(すき)を示す力を加えると嘉となり、嘉穀を求める農耕儀礼をいう。のち喜・嘉は人の心意の上に移していう字となった。〔詩、小雅、甫田〕〔詩、小雅、大田〕に「田畯至りて喜す」という句があり、田畯は田神。その神に供薦するものを、神が受けることを饎(し)といい、その〔鄭箋〕に「喜は讀んで饎と爲す」とみえる。

欺(キ・12画)

初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkhi̯əɡで、同音に僛”酔って舞う”・起・杞(国名)・屺”はげ山”・芑”白い穀物”。近音ki̯əɡに諆があり、”だます”の意を持ち論語時代の金文が存在する。

学研漢和大字典

会意兼形声。其(キ)は、四角い箕(ミ)を描いた象形文字。旗(四角いはた)や棋(キ)(四角い碁盤)などに含まれて、四角くかどばった意を含む。欺は「欠(人がからだをかがめる)+(音符)其」で、角ばった顔をして見せて、相手をへこませること。魌(キ)(四角いお面をつけて、鬼どもを追い払う)と同系。類義語の詐(サ)は、つくりごとをしてだます。騙(ヘン)は、うわついたそら事で相手をだます。瞞(マン)は、表面をうまく包み隠してだます。偽は、にせ物やうそごとをこしらえてだますこと。訛(カ)は、本来の意味をかえて相手をごまかす。

語義

  1. {動詞}あざむく。表面だけしかつめらしく見せておいて、実はごまかす。たぶらかす。だます。《類義語》詐(サ)・騙(ヘン)。「毋自欺也=自ら欺くこと毋きなり」〔大学〕。「周公、豈欺我哉=周公、あに我を欺かんや」〔孟子・滕上〕
  2. {動詞}あざむく。いばって相手をごまかす。あなどりいじめる。「欺負」。

字通

[形声]声符は其(き)。其は倛、蒙倛とよばれる仮面。その面貌を以て欺くことをいう。〔説文〕八下に「詐欺なり」、言部三上に「詐は欺なり」とあり、言を以てするを詐という。

喟(キ・12画)

論語 喟 古文 論語 喟 古文
古文

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯wædまたはkʰwæd(共に去)。両者共に同音は存在しない。

学研漢和大字典

形声。「口+(音符)胃」。嘆息の声をあらわす擬声語。

語義

  1. {動詞}はあと、息を出す。「喟然(キゼン)」「顔淵喟然歎曰=顔淵喟然として歎じて曰はく」〔論語・子罕〕

字通

[形声]声符は胃(い)。〔説文〕二上に「大息なり」とし、「或いは貴に從ふ」として嘳の字形を録するが、喟が通用の字。喟は喩母の字であるが、于(う)(訏(く))、羽(う)(栩(く))のような音の関係をもつものが多い。

幾(キ・12画)

論語 幾 金文
幾父壺・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はɡʰi̯ər(平・韻目「微」)まはたki̯ər(平・韻目「微」/上)。去声の音は不明。

学研漢和大字典

会意。幺二つは、細くかすかな糸を示す。戈は、ほこ。幾は「幺二つ(わずか)+戈(ほこ)+人」で、人の首にもうわずかで、戈の刃が届くさまを示す。もう少し、ちかいなどの意を含む。わずかの幅をともなう意からはしたの数(いくつ)を意味するようになった。
《単語家族》
畿(キ)(都にちかい土地)・近と同系。
《参考》
草書体をひらがな「き」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「き」ができた。また、草書体の初画からカタカナの「キ」ができた。

語義

  1. {疑問詞・数詞}いく。いくつ。いくばく。一から九までの数を尋ねる疑問詞。また九以下のはしたの数を示すことば。「幾人(イクニン)」「幾年(イクトセ)」「無幾=幾も無し」→語法「②③」。
  2. {形容詞}ちかい(ちかし)。ほぼ等しい。▽平声に読む。《類義語》近。「幾百里=百里に幾し」→語法「①」。
  3. {副詞}ほとんど。→語法「①」▽平声に読む。
  4. {副詞}少しずつ。それとなく。▽平声に読む。「幾諫(キカン)」。
  5. {名詞}細かいきざし。▽平声に読む。《類義語》機。「知幾=幾を知る」。
  6. 「庶幾(コイネガワクハ)」とは、なんとか目標にちかづきたい、もう少しだからそうしてほしい、と切望すること。▽去声に読む。「王庶幾改之=王庶幾(こひねが)はくはこれを改めよ」〔孟子・公下〕

語法

①「ほとんど」「~にちかし」とよみ、「すんでのところで」「あやうく」「ほとんど」と訳す。ある状況・程度に接近する意を示す。「今吾嗣為之十二年、幾死者数矣=今吾嗣(つ)いでこれを為すこと十二年、幾(ほとん)ど死せんとする者数(しば)しばなり」〈今私が跡を継いでこの仕事を十二年している、あやうく死にかけたことは何度もあった〉〔柳宗元・捕蛇者説〕
②「いく」「いくばく」とよみ、

  1. 「いくらか」「多少」などと訳す。不定数の意を示す。「未幾亮卒=未だ幾(いくばく)ならずして亮卒す」〈まもなく(諸葛)亮は亡くなった〉〔十八史略・三国〕
  2. 「どれくらい」「いくつ」などと訳す。数量に対する疑問・反語の意を示す。文脈により多数・少数ともに示す。「物換星移幾度秋=物換(かは)り星移りて幾度の秋ぞ」〈物はかわり、星はめぐり、いくたびの秋を経たことだろう〉〔王勃・滕王閣〕。「古来征戦幾人回=古来征戦幾人か回る」〈昔から戦争に行った人のうち、何人が無事に帰還できただろうか〉〔王翰・涼州詞〕

  1. 「幾何」は、「いくばくぞ」とよみ、「どれほどでしょうか」と訳す。数量に対する疑問・反語の意を示す。「為歓幾何=歓を為すこと幾何(いくばく)ぞ」〈(この世で)歓楽についやす時間は、どれほどでしょうか〉〔李白・春夜宴桃李園序〕
  2. 「幾所」「幾許」も、意味・用法ともに同じ。「雙蛾幾許長=雙蛾幾許(いくばく)か長き」〈二つの美しい眉は、(わたしより)どれぐらい長いのでしょうか〉〔皇甫冉・香康怨〕

④「あに~ならんや」とよみ、「どうして~であろうか(まさかそのようなことはあるまい)」と訳す。強い肯定となる反語の意を示す。「是於己長慮顧後、幾不甚善矣哉=これ己の慮を長くし後を顧(おも)ふにおひて、あに甚だ善ならざらんや」〈これはその人が思慮を巡らせてのちのちのことを心配するという点において、どうして立派でないといえようか〉〔荀子・栄辱〕

字通

[会意]𢆶(し)+戈(か)。〔説文〕四下に「微なり。殆(あやふ)きなり。𢆶(いう)に從ひ、戍(じゅ)に從ふ。戍は兵守なり。𢆶(幽)にして兵守する者は危きなり」という。𢆶を幽、幽微の意より危殆の意を導くものであるが、𢆶は絲(糸)の初文。戈に呪飾として著け、これを用いて譏察のことを行ったのであろう。〔周礼、天官、宮正〕「王宮の戒令糾禁を掌り、~其の出入を幾す」、〔周礼、地官、司門〕「管鍵を授けて、~出入する不物の者を幾す」など、みな譏呵・譏察の意に用いる。ことを未発のうちに察するので幾微の意となり、幾近・幾殆の意となる。

期(キ・12画)

論語 期 金文
沇兒鎛沇兒鎛・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はgʰi̯əɡ(平)。論語語釈「其」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。其(キ)は、もと四角い箕(ミ)を描いた象形文字で、四角くきちんとした、の意を含む。箕の原字。期は「月+(音符)其」で、月が上弦→満月→下弦→朔をへてきちんともどり、太陽が春分→夏至→秋分→冬至をへて、正しくもとの位置にもどること。旗(四角いはた)・碁(四角いごばん)などと同系。

語義

キ(平qī)
  1. {名詞}とりきめた日時。また、一定の時間。「期間」「万寿無期=万寿期無し」〔詩経・小雅・南山有台〕
  2. (キス){動詞}まつ。予定する。また、必ずそうなると目当てをつける。「期待」「成功を期する」。
  3. (キス){動詞}あう(あふ)。一定の時と所をきめ約束してあう。ちぎる。「期会」「期我乎桑中=我と桑中に期ふ」〔詩経・眇風・桑中〕
  4. 「期期」とは、きつきつとどもるさま。《類義語》吃吃。「臣期期知其不可=臣期期として其の不可なることを知る」〔漢書・周昌〕
キ(平jī)
  1. {名詞}一か月、または一年のこと。▽太陽や月が予定どおりの所に来て出会うときの意から。《同義語》朞。「期月」「期可已矣=期にして已むべし」〔論語・陽貨〕
  2. {名詞}一年を期限として喪に服すること。祖父母・兄弟・妻・子などが死んだときは「期」の喪に服するのがならいであった。「期服」。

字通

[形声]声符は其(き)。其(箕)は方形に近く、一定の位置や間隔、区分を示すことがある。〔説文〕七上に「會ふなり」とし、〔段注〕に期を約束、稘を期間の意として区別するが、〔説文〕の「會」を「日月交会」の意とする説もある。〔玉篇〕に稘を稈の意としており、期が一定期間を意味する字であろう。

棄(キ・13画)

論語 棄 金文
散氏盤・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯æd(去)。

学研漢和大字典

会意。「子の逆形→生まれたばかりの赤子+ごみとり+両手」で、赤子をごみとりにのせてすてるさまをあらわす。類義語の捨は、もつ手を放してすておくこと。「毀」の代用字としても使う。「破棄」。

語義

  1. {動詞}すてる(すつ)。ふりすてる。思いきりよくすてさる。《類義語》捨。「放棄」「棄甲曳兵而走=甲を棄て兵を曳いて走る」〔孟子・梁上〕

字通

[会意]旧字は棄。ㄊ(とつ)+𠦒(はん)+廾(きょう)。〔説文〕四下に「捐(す)つるなり。廾に從ふ。𠦒を推して之れを棄つ。ㄊに從ふ。ㄊは逆子なり」とあって、逆子(さかご)であるからこれを悪(にく)んで棄てる意とする。ㄊは子の出生のときの姿で、育、流はその形に従う。生子を棄てることは古俗として行われたことがあり、周の始祖説話として、后稷がはじめ棄てられて棄と名づけられたとされ、他にもその類話が多い。一種の厄よけの方法として、のち厄年の婦人の生んだ子を、一度棄てる形式をとる民俗もある。𠦒はもっこ。卜文の字は其(箕)に従う形に作る。のち流棄の意に用い、金文の〔散氏盤〕に、契約に違反するときの自己詛盟の語として、「之れを傳棄せん」という。のちすべて放棄する意に用いる。

毀(キ・13画)

初出は戦国中期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxi̯wăr(上)。同音に燬”火・焼く”、烜”乾かす・あきらか”。

下掲藤堂説は『説文解字』をそのまま引いて「土+(音符)毇(キ)(米をつぶす)の略体」と言うが、略体字が見つかっていない以上全面的には受け入れかねるし、毇は米+臼+攵、つまり米を臼でつき、精白することであってつぶすことではない。

藤堂博士の属する戦中世代は、一升瓶に玄米を入れ棒で突いて精白した経験があると思うのだが、博士は例外なのだろうか。現代の家庭用精米機はかごとヘラで摺る方式だが、それでも粒を潰さないよう使いこなすには熟練が要る。

また白川説は例によって、根拠無きオカルトの妄想の度がひどく、到底受け入れられない。以上から、部品で語義を共有する漢字は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。「土+(音符)毇(キ)(米をつぶす)の略体」で、たたきつぶす、また、穴をあけて、こわす動作を示す。毇(キ)(米をたたきつぶす)と同系。また、壊(穴をあけてこわす)とも非常に縁が近い。「棄」に書き換えることがある。「破棄」。

語義

  1. {動詞}こぼつ。壁や堤に穴をほってこわす。《類義語》壊。「毀壊(キカイ)」「人皆謂我毀明堂=人皆我に明堂を毀てと謂ふ」〔孟子・梁下〕
  2. {動詞}やぶれる(やぶる)。穴があいてこわれる。「以為器則速毀=以て器と為せば則ち速やかに毀る」〔荘子・人間世〕
  3. {動詞・名詞}そしる。そしり。評判をぶちこわす。他人の悪口をいう。また、そのこと。「毀誉(キヨ)」「名誉毀損(キソン)」「誰毀誰誉=誰をか毀(そし)り誰をか誉めん」〔論語・衛霊公〕
  4. {動詞}悲しみのあまり、からだや心が衰える。「哀毀(アイキ)」。
  5. {動詞}歯が拔けかわる。▽去声に読む。「毀歯」。

字通

[会意]■(上下に臼+土)+殳(しゆ)。■(上下に臼+土)は〔説文〕古文の字形によると臼(きゆう)と壬(てい)の形。すなわち兒(児)が挺して立つ形。これに殳を加えて殴(う)つ意の字である。〔説文〕に字を土部十三下に属し、「缺くなり」と訓して、土器の類を毀損する意とするが、その字形は匘(のう)の縫合部のある幼児を毀損する意で、おそらく犠牲の方法を示す字であろう。殷墓の殉葬者のうちに、多数の幼童、未成年者の残骨がある。〔周礼、地官、牧人〕「凡そ外祭毀事には、尨(むくいぬ)を用ふるも可なり」の〔杜子春注〕に、「毀とは副辜候禳、殃咎を毀除するの屬を謂ふ」とあって、犠牲を用いる祓禳の儀礼であるが、殷では異族の幼孩のものを用いることがあったのであろう。毀はまさにその字であり、また焚殺することを燬といったものと思われる。

器(キ・15画)

論語 器 金文
燮簋・西周中期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はkʰi̯æd(去)。

論語での語義は多様にわたる。詳細は論語における器も参照。

学研漢和大字典

「口四つ+犬」の会意文字で、さまざまな容器を示す。犬は種類の多いものの代表として加えた。意味:うつわ。才能。立派な才能の持ち主であると認める。こまごました実用に役立つだけのもの。朱子学や陽明学では、現実の物象を器といい、その根源を道という。

意味

  1. {名詞}うつわ(うつは)。いろいろな入れ物。また、道具。「土器」「兵者不祥之器=兵者不祥之器なり」〔老子・三一〕
  2. {名詞}うつわ(うつは)。才能。「斗勹之器(トショウノキ)(つまらぬ下級役人にしかなれない才能)」「管仲之器小哉=管仲之器は小なる哉」〔論語・八佾〕
  3. {動詞}うつわとする(うつはとす)。りっぱな才能の持ち主であることを認める。「器重」「先主器之=先主これを器とす」〔蜀志・諸葛亮〕
  4. {名詞}こまごました実用にだけ役だつもの。「君子不器=君子は器ならず」〔論語・為政〕
  5. {名詞}朱子学や陽明学では、現実の物象を器といい、その根原を道という。

字通

旧字は器に作り、しゅう+犬。㗊は〔説文〕三上に「衆口なり」とするが、口は𠙵さいで、祝詞を収める器。犬は犬牲。犬牲を以て清める意である。〔説文〕三上に「器は皿なり・器の口に象る。犬は之を守る所以なり」とするが、金文の字形によると、犬は礫殺されている形である。犬牲を以て清めた器は、祭器・明器・礼器として用いられる。〔周礼、秋官、大行人〕「器物」の〔鄭玄注〕に「尊彝の屬なり」とあり、器はもと彝器をいう。彝は鶏血を以て清める意の字である。祭器の意より器具・器材・の意となり、人に移して器量・器度をいう。

訓義

うつわ。祭器。明器。儀礼の際に用いる器。器物、車服・兵器・器具の類。人物の才能・器量。器として役立つ、用いる。

㗊():http://en.glyphwiki.org/wiki/u35ca

毅(キ・15画)

論語 毅 金文
伯吉父簋・西周晚期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はŋi̯əd(去)。同音は「藙」”木の名。おおだら”。その形は「辛」”小刀”+豕”ぶた”+殳”さばく”であり、ぶたを解体して肉や皮革にするさま。論語泰伯編で曽子の言葉として載る”つよい”ではない。

おそらくは音を借りた仮借だが、「キ」の音で”強い”を意味した漢字で金文以前に存在するのは「耆」gʰi̯ær(平)しか見つからず、音が遠すぎて仮説の域を出ない。ただし論語の時代に”つよい”の意があったかは疑問。また『学研漢和大字典』も『字通』も、原義を取り違えていると思われる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「殳(動詞の記号)+(音符)溟(ギ)(いのししがたてがみをたてる)」。

語義

  1. {形容詞}つよい(つよし)。おしがつよい。力づよく立っている。ひとたび決意すると、何ものにもじゃまされない。「剛毅木訥近仁=剛毅木訥仁に近し」〔論語・子路〕

字通

[会意]豙(ぎ)+殳(しゅ)。豙は〔説文〕九下に「豕(ぶた)怒りて毛豎(た)つなり。一に曰く、殘艾なり。豕辛に從ふ」とあり、辛に従う意を未詳とする徐鉉説を附記する。卜文の字形に、鳳・竜など霊獣とされるものの頭部に、辛字形の飾りを加えており、豙も霊獣とされるものであろう。それに殳を加えて殴(う)つのは、その呪能を刺激し、鼓舞する呪的行為を意味し、軍事などのときに戦意を鼓舞するためのものであろう。ゆえに果毅・剛毅の意となる。㱾・改・殺なども、みな呪霊のあるものを殴つ形の字である。〔説文〕三下に「妄りに怒るなり。一に曰く、決すること有るなり」とするが、もと古い呪儀を示す字であった。

蕢(キ・15画)

初出は前漢の篆書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰi̯wəd(去)。同音に匱、櫃。定州竹簡論語では「貴」と記す
論語 蕢

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)貴(まるい)」。まるくふくれた、わらであんだもっこ。

語義

  1. {名詞}あじか。土を運ぶかご。《同義語》⇒簣。「有荷拵而過孔氏之門者=拵を荷ひて孔氏の門を過ぐる者有り」〔論語・憲問〕
カイ
  1. {名詞}つちくれ。土塊。▽塊(カイ)に当てた用法。
  2. {動詞}ついえる。くずれる。▽潰(カイ)に当てた用法。

字通

[形声]声符は貴(き)。〔説文〕一下に「艸器なり」とあり、土を運ぶあじか。背に負うて運ぶ筒形の籠。竹器のものもある。

簣(キ・18画)

初出が不明なほど新しい。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はgʰi̯wæd(去)。同音は存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。貴は「両手でもっこをかつぐさま+貝(品物)」の会意文字。簣は「竹+(音符)貴」で、貴の原義をあらわす。

語義

  1. {名詞}あじか。土を運ぶのに用いるまるい竹のかご。もっこ。「為山九仞、功虧一簣=山を為(つく)ること九仞にして、功を一簣に虧(か)く」〔書経・旅忙〕

字通

[形声]声符は貴(き)。〔論語、子罕〕に「譬へば山を爲(つく)るが如し。未だ成らざること一簣なるも、止むは吾が止むなり」とあり、簣は土籠、もっこをいう。草器を蕢という。

餼(キ・19画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxi̯əd(去)。同音に気(氣)、愾(なげく、いかる)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)氣(=気。いき、活力、栄養のもとになるもの)」。

語義

  1. {名詞}栄養をつける食べ物。人や家畜の食べる糧米。「馬餼蒟不過稂莠=馬は餼稂莠(らういう)に過ぎず」〔国語・魯〕
  2. {動詞}おくる。食物・食糧を人におくる。《同義語》⇒饋。「秦伯又餼蒟之粟=秦伯又これに粟を餼る」〔春秋左氏伝・僖一五〕
  3. {名詞}からのついたままの穀物。玄米。
  4. {名詞}生きたまま供えるいけにえの動物。▽殺して供えるいけにえを饔(ヨウ)という。「餼羊(キヨウ)」。

字通

[形声]旧字は氣に作り、气(き)声。〔説文〕七上に「客に饋(おく)る芻米なり」とあり、〔左伝、桓六年〕「齊人、來(きた)りて諸侯に氣(おく)る」の文を引く。いま氣を餼に作る。气が氣の初文、また氣は餼の初文。いま气の意に気を用いる。

大漢和辞典

餼 大漢和辞典

饋(キ・21画)

饋 金文
卲王之諻鼎・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はgʰi̯wæd(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)貴(うずたかくつむ)」。

語義

  1. {動詞・名詞}おくる。食物や金品をおくり届ける。また、食物や金品などのおくりもの。《同義語》⇒餽。「康子饋薬=康子薬を饋る」〔論語・郷党〕。「朋友之饋、雖車馬非祭肉不拝=朋友の饋は、車馬と雖も祭の肉に非ざれば拝せず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}うず高く積んだごちそう。また、供え物。みけ。「陳饋八吭=饋を陳ぬること八吭」〔詩経・小雅・伐木〕
  3. {名詞}食事。「一饋而十起=一饋にして而十たび起つ」〔淮南子・氾論〕

字通

[形声]声符は貴(き)。〔説文〕五下に「餉(おく)るなり」、また饁字条に「田に餉るなり」とあって、農作の人に食を運ぶことをいう。のち人に遺贈する意となり、〔論語、陽貨〕「孔子に豚を歸(おく)る」、〔論語、微子〕「齊人、女樂を歸る」の歸(帰)を、〔古論〕にみな饋に作る。金文の〔段𣪘(だんき)〕に「大則を段に■(辶+食)(おく)らしめたまふ」とある■(辶+食)が、もとの用義の字。大則は大鼎の意と思われる。

饑(キ・21画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯ər(平)。同音は幾とそれを部品とする漢字群多数。部品「幾」に”飢える”の語釈を『大漢和辞典』は立てていない。異体字「飢」ki̯ær(平)の初出は秦系戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)幾(わずか、いくらもない)」。飢(食物がわずか)・肌(キ)(きめのこまかいはだ)と同系。僅(キン)(わずか)・饉(キン)(食物がわずか)は、その語尾がnに転じたことば。「飢」に書き換えることがある。「飢餓」▽「うえる」「うえ」は普通「飢える」「餓える」「飢え」「餓え」と書く。

語義

  1. {形容詞・動詞}食物が乏しい。また、農作物が不作で食糧が乏しくなる。《同義語》⇒飢。《類義語》饉(キン)。「饑饉(キキン)」。
  2. {動詞・名詞}うえる(うう)。うえ(うゑ)。食物がわずかで腹がへる。また、ひもじさ。《同義語》飢。

字通

[形声]声符は幾(き)。幾に幾少の意がある。〔説文〕五下に「穀孰(じゆく)せざるを饑と爲す」とし、幾声。字はまた飢に作る。〔詩、小雅、雨無正〕に「降喪饑饉 四國を斬伐す」とあって、饑饉は天の降喪の致すところとされた。

驥(キ・26画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯ær(去)。同音は部品の「冀」ki̯ær(去)のみ確認(下掲『大漢和辞典』)。その初出は西周早期の金文。藤堂説で道義とされる「騏」ɡʰi̯əɡ(平)の初出は楚系戦国文字
冀 大漢和辞典

学研漢和大字典

形声。「馬+(音符)冀(キ)」。騏と同じ。

語義

  1. {名詞}一日に千里をいくというすぐれた馬。また、すぐれた馬。《同義語》⇒騏。「驥不称其力、称其徳也=驥(き)はその力を称せず、その徳を称するなり」〔論語・憲問〕
  2. {名詞}才能のすぐれた者。俊才。

字通

[形声]声符は冀(き)。冀に高大の意がある。〔説文〕十上に「千里の馬なり。孫陽の相(み)る所の者なり」とあり、孫陽とは伯楽。騏驥は駿馬。高才の人をたとえる。

沂(ギ・7画)

初出は後漢の説文解字。固有名詞のため、論語の時代に存在しないと断じ得ない。カールグレン上古音は不明(平)。王力上古音はŋǐəi。同音は顗”うやうやしい”、螘”アリ”、毅”つよい”、豙”彘が毛を逆立てる”、顡”おろか”。「キ」は慣用音。

論語では魯国付近を流れる川の名として登場。地図右下。
論語 魯国 地図
出典:http://shibakyumei.web.fc2.com/

学研漢和大字典

会意兼形声。「水+(音符)斤(キン)(近づく、せまる)」で、岸が水ぎわにせまった川。また、水ぎわのがけ。

語義

  1. {名詞}川の名。沂水(ギスイ)。つ山東省(中部)に発し、江蘇(コウソ)省癢(ヒ)県で運河に注ぐ。づ山東省鄒(スウ)県に発して曲阜県をへて泗水(シスイ)に注ぐ。「浴乎沂、風乎舞脛=沂に浴し、舞脛に風す」〔論語・先進〕
ギン
  1. {名詞}ふち。物の端。物のまわり。へり。きわ。《同義語》⇒圻・垠(ギン)。
  2. {名詞}がけ。切りたった水ぎわのがけ。《同義語》⇒垠。

字通

[形声]声符は斤(きん)。〔説文〕十一上に水名とする。〔論語、先進〕に「沂に浴す」とみえる魯の川である。圻・垠に通じ、ほとりの意に用いる。

疑(ギ・8画)

論語 疑 金文
伯疑父簋蓋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯əɡ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。矣(アイ)・(イ)は、人が後ろをふり返ってたちどまるさま。疑は「子+止(足をとめる)+(音符)矣」で、愛児に心引かれてたちどまり、進みかねるさまをあらわす。思案にくれて進まないこと。騃(ガイ)(馬がとまりがちで進まない)・礙(ガイ)(とまって進まない)・凝(ギョウ)(とまって進まない)と同系。類義語に惑。

意味

  1. {動詞・形容詞}うたがう(うたがふ)。うたがわしい(うたがはし)。こうではないかと思案して先へ進めない。きめかねてためらう。こうではないかと思案するさま。こうではないかとためらうほど似ているさま。《対語》⇒信・決(きめる)。《類義語》惑(まどう)。「疑似」「王請勿疑=王請ふ疑ふこと勿(な)かれ」〔孟子・梁上〕
  2. {名詞}うたがい(うたがひ)。うたがわしき(うたがはしき)。うたがわしきこと(うたがはしきこと)。こうではないかとうたがうこと。「懐疑」「多聞闕疑=多く聞きて疑はしきを闕く」〔論語・為政〕
  3. {副詞}うたごうらくは(うたがふらくは)。文のはじめにつき、こうではないかと思う気持ちをあらわす。多分…であろう。「疑是地上霜=疑ふらくは是れ地上の霜かと」〔李白・静夜思〕

字通

疑 字通
[象形]卜文・金文にみえる字の初形は■(匕+矢)(ぎ)に作り、人が後ろを顧みて凝然として立ち、杖を樹てて去就を定めかねている形。心の疑惑しているさまを示す。のちに止、あるいは辵の反文などを加えて疑となった。〔説文〕に字を子部十四下に属し、「惑ふなり。子止匕に從ひ、矢聲」とするが、矢を含む形でなく、またその声でもない。金文に「亞■(匕+矢)形圖象」とよばれるものがあり(上掲画像)、亞(亜)は玄室の儀礼を掌る聖職者、■(匕+矢)はその凝然として立つ形。

義(ギ・13画)

論語 義 金文 論語 義 解字
仲義父鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋia(去)。同音に「宜」(平)、議(去)など。「儀式」の「儀」は同音でŋia(平)、「犠牲」の「犧/犠」はxia(平)。ちなみに「殺」はsăt(入)。

元は羊飼いの部族だった周王朝らしい価値観で、羊を用いるような祭祀での、共同幻想的な正しさを言う。

字形的には羊+我”ノコギリ”。音的に同音で春秋時代以前に遡り得る字形は「宜」しかなく、「宜」はもと”まな板”+”肉”で、人や獣を殺して神に捧げることだった。おそらく羊を供える際には「義」の字で区別したと思われる。ただし「儀」の初出は前漢の隷書

とうの昔に、人を供物にする習慣は廃れていた。それまでは「義」の字から独立していない。殷周革命の精華の一つはこの人間主義で、下掲『字通』が「宜」の甲骨文時代の用例として人身御供を記すのに対し、孔子は周の人間主義を讃えた(論語八佾篇14)。

ただし「儀」に”贈答品”の語義があるのは、はるか太古の名残かも知れない。論語語釈「儀」も参照。

以上から、「義」の原義は祭祀としてよろしきを得ることで、多分に幻想的価値観を伴う。孔子が弟子に説教して「義」と言うときは、「仁者」=”理想的貴族”としての「義務」=”つとめ”を意味する。その中には戦場での武勇や行政処理能力が含まれる。

なお現代中国語での「義」はyìと発音し、「威」と関係がありそうに勘違いしてしまうが、現代中国語ではwēiであり、カールグレン上古音は「義」ŋia(去)に対してʔi̯wər(平)であり、まるで違う。

学研漢和大字典

我は、ぎざぎざとかどめのたったほこを描いた象形文字。義が「羊+音符我」の会意兼形声文字で、もと、かどめがたってかっこうのよいこと。きちんとしてかっこうがよいと認められるやり方を義(宜)という。峨(ガ、かどめのたった山)-儀(かどのあるさま)と同系のことば。▽岸(かどめのたったきし)や彦(ゲン、かどめの正しい顔をした美男)とも縁が近い。

『学研漢和大字典』宜条
会意。「宀(やね)+多(肉を盛ったさま)」で、肉をたくさん盛って、形よくお供えするさまを示す。転じて、形がよい、適切であるなどの意となる。義(よい)・儀(形のよい姿)などと同系。類義語に可。

意味

  1. {名詞・形容詞}すじ道。かどめ。かどめが正しい。▽孟子によると、よしあしの判断によって、適宜にかどめをたてること。荀子(ジュンシ)によると、長い経験によって、社会的によいと公認されているすじ道。儒教の五常(仁・義・礼・智・信)の一つ。《類義語》宜・誼(ギ)。「節義」「君臣有義=君臣には義有り」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞・形容詞}よい(よし)。利欲に引かれず、すじ道をたてる心。みさお。かどめただしい。▽日本では、特に、主君への義理だての意。「正義」「義士」。
  3. {名詞・形容詞}公共のためにつくすこと。また、そのさま。《対語》私。《類義語》公。「義倉」「義捐金(ギエンキン)」。
  4. {名詞}ことばや行いに含まれている理由。わけ。意味。《類義語》誼(ギ)。「字義」「意義」。
  5. {名詞・形容詞}約束してちかった親類関係。また、そのような関係の。「結義(義兄弟のちかいを結ぶ)」「義兄」「義子(養子)」。
  6. {形容詞}名目上の。かりの。人工の。「義足」「義髻(ギケイ)(のせたまげ)」。
  7. 《日本語での特別な意味》かどめや、約束をとおすやり方。「律義」「義理がたい」。

論語 青銅 我

銅製「我」
全長24.3cm・幅10.3cm・重量300g 扶風県博物館蔵

字通

羊+我。我は鋸(のこぎり)の象形。羊に鋸を加えて截り、犠牲とする。その牲体に何らの欠陥もなく、神意にかなうことを「義(ただ)し」という。〔説文〕十二下に「己の威儀なり」とするが、もと牲体の完全であることをいう。羲はその下体が截られて下に垂れている形。金文の〔師旂鼎(しきてい)〕に「義(よろ)しく~すべし」という語法がみえ、宜と通用する。宜は且(そ)(俎)上に肉をおく形。神に供薦し、神意にかなう意で、義と声義が通ずる。

『字通』宜条
[会意]宀(べん)+且(そ)。卜文・金文の字形は、且(俎)の上に多(多肉)をおく形で象形。のち廟屋の形である宀に従う。その形は会意。〔説文〕七下に「安んずる所なり。宀の下、一の上に從ふ。多の省聲なり」とするのは、後の字形によって説くもので、もとは俎肉をいう。肉を以て祀ることをいい、卜辞に「己未、義京(軍門の名)に羌三人を宜(ころ)し、十牛を卯(さ)かんか」とあって、宜とは肉を殺(そ)いで俎上に載せ、これを以て祀ることで、その祭儀をいう。のち祖霊に饗し、人を饗する意に用い、金文に「ソン 外字宜(そんぎ)」という。〔詩、大雅、鳧鷖〕「公尸(こうし)來(ここ)に燕し來(ここ)に宜す」とあるのも同じ。〔詩、鄭風、女曰雞鳴〕「子と之れを宜(さかな)とせん」は燕食の意。神が供薦を受けることを「宜し」といい、適可の意となる。

訓義

ただしい、よい、神意にかなう。ただしい道、みち、のり。法則、道理、つとめ、義務。宜と通じ、よい、便宜、すぐれる。儀と通じ、威儀。

大漢和辞典

よい。ただしい。たひらか。きりもり。のり、みち。つとめ。君によく仕えること。をとこ気。ことわり。わけ。たよりがい。めぐみ。衆人が共に奉戴する。衆人と事を共にする。すぐれる。あはせる、まぜる。借り。よくない。誼に通ず。議に通ず。通じて儀に作る。文体の名。義太利の略称。姓。台の名。

儀(ギ・15画)

儀 金文
虢叔旅鐘・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はŋia(平)。同音に宜・義と、それを部品とする漢字群。

論語の時代は「義」(初出は甲骨文。ŋia去)と書き分けられていなかった。上掲の金文も同様だが、漢字学者が亻の有無をどう判断しているかは分かりかねる。

論語では、衛国の国境のまちとして登場。武内本は「儀は衛の西境にあり」という。下図参照。魯から衛の国都・帝丘に向かうにしては遠回りだが、当時の交通事情はもはや分からない。

儒家以外での初出は『呉子』圖國篇の「起對曰、古之明王、必謹君臣之禮、飾上下之儀、安集吏民、順俗而教、簡募良材、以備不虞。」であり、呉起は子夏の弟子。『左伝』では冒頭の隠公から出てくる。

学研漢和大字典

会意兼形声。義は「羊+(音符)我」の会意兼形声文字で、羊はおいしくて、よい物の代表。義は宜(ギ)と同系で、ほどよく整ったこと。儀は「人+(音符)義」で、ほどよく整って手本となる人間の行為を示す。

語義

  1. {名詞}のり。手本とすべき、ほどよく整った規準。「儀法」「儀表」。
  2. {形容詞}形よく整った作法。「儀式」「礼儀三百、威儀三千」〔中庸〕
  3. {形容詞}ほどよくきれいに整ったさま。《同義語》⇒宜・義。
  4. {動詞}のっとる。かっこうのよい手本として従う。▽訓の「のっとる」は「のり+とる」の促音便から。
  5. 「両儀」とは、宇宙の規準となる陰と陽の二要素のこと。
  6. 「渾天儀(コンテンギ)」「地球儀」などの「儀」とは、天文や地理の基準を示す機械や測定器のこと。
  7. 《日本語での特別な意味》「私儀(ワタクシギ)」とは、私に関することの意。

字通

[形声]声符は義(ぎ)。〔説文〕八上に「度なり」と儀度の意とする。金文に「威義」とあり、儀はのち分化した字。義は神に犠牲として供えた羊牲が、完全で神意にかなう意。それで神につかえるときの儀容を儀というのであろう。

魏(ギ・18画)

初出は不明。論語の時代に確認できない。カールグレン上古音はŋwər(去)。同音に嵬”けわしい”。

学研漢和大字典

会意兼形声。「委(やわらかく曲線をえがく)+(音符)鬼(まるく大きい)」。塊(まるくめだつかたまり)・魁(カイ)(まるく大きい)と同系。「山などが高くて大きいさま」の意味では普通「巍」と書く。

語義

  1. {形容詞}まるく盛りあがって高い。高大な。《同義語》⇒巍。
  2. {名詞}国名。戦国時代の七雄の一つ。春秋時代の晋(シン)を、韓(カン)・趙(チョウ)・魏が三分して独立したもの。今の河南省北部・山西省西南部の地を領した。のち、秦(シン)の始皇帝に滅ぼされた。前四〇三~前二二五。
  3. {名詞}王朝名。つ三国の一つ。曹操(ソウソウ)が、漢から魏国公に封ぜられ、その子曹丕(ソウヒ)が、漢のあとをうけて帝位についた。都を洛陽(ラクヨウ)に置き、呉・蜀(ショク)と天下を三分した。二二〇~二六五づ南北朝時代、北朝の一つ。東晋(トウシン)のとき、拓跋珪(タクバツケイ)がたてた。のち東魏・西魏にわかれた。北魏。三八六~五三四。
  4. 「魏魏(ギギ)」とは、まるくもりあがって大きいさま。《同義語》⇒巍巍。「魏魏乎其終則復始也=魏魏乎として其れ終はれば則ち始めに復するなり」〔荘子・知北遊〕

字通

[形声]字はもと巍に作り、声符は嵬(かい)。〔説文〕に魏字を収めず、巍字条九上に「高なり。嵬に從ひ、委(ゐ)聲」とするが、嵬の方が声に近い。漢碑に字を■(巍の委→禾)に作り、禾(か)に従う字であった。委は稲魂を被(かぶ)って舞う農耕儀礼において、女が低く舞う形。これに対して巍は高く舞う形。これを一般化して高大の意となり、魏の字を以て、なおその義に用いたのであろう。

議(ギ・20画)

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はŋia(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。義(ギ)は「羊(形のよいひつじ)+(音符)我(かどばったほこ)」からなる会意兼形声文字で、かどめがついてかっこうがよいこと。議は「言+(音符)義」で、かどばって折り目のある話のこと。儀(ギ)(かどめ正しい)・峨(ガ)(かどばった山)・宜(ギ)(かっこうがよい)などと同系。類義語の論(ロン)は、順序よく整った話のこと。「意見を出し合って相談する」の意味の「はかる」は「計る」「諮る」とも書く。

語義

  1. (ギス){動詞}はかる。かどめをつけて話しあう。理屈・筋道の通った相談をする。《類義語》論。「議論」「評議」「議之而後動=これを議りてしかる後動く」〔易経・壓辞上〕
  2. (ギス){動詞}あれこれと、理屈や文句をつける。「非議(=誹議)」「天下有道、則庶人不議=天下に道有れば、則ち庶人議せず」〔論語・季氏〕
  3. {名詞}かどばった正式の相談。また、それによって出された結果。「決議」。
  4. {名詞}文章の様式の一つ。物事の可否についての意見を述べた文章。「奏議(上奏する議論の文)」「駁議(ハクギ)・(バクギ)」。
  5. 《日本語での特別な意味》「議員」の略。「県議」「市議」。

字通

[形声]声符は義(ぎ)。〔説文〕三上に「語るなり」、また「語は論なり」「論は議(はか)るなり」とあって三字の訓義に通ずるところがあるが、字の原義はそれぞれ異なり、議は〔国語、鄭語〕に「伯翳(はくえい)(神名)は能く百物を議して、以て舜を佐(たす)くる者なり」とあり、議は譏察の意に近い。義は犠牲を神が「義(ただ)し」として享ける意。議は「神議(はか)りに議る」意で、神意を問いはかる意である。

巍(ギ・21画)

初出は戦国時代の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はŋi̯wər(平)で、同音は存在しない。部品の魏(ŋwər、”たかい”)は、『説文解字』に地名として登場するのが初出。論語の時代にはすでに都市国家として存在し、弟子の子夏が仕えたと言うから、言葉や文字があったのは確実。ただし当時の字形が伝わらない。漢帝国で通用した隷書では、「嵬」と書かれた

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、魏(ギ)は、まるく大きく目だつ意を含む。巍は「山+(音符)魏」。嵬(カイ)(山がたかく目だつ)と同系のことば。

語義

  1. {形容詞}たかい(たかし)。山がむっくりと、まるく盛りあがってそびえるさま。《類義語》嵬(カイ)。

字通

[形声]声符は嵬(かい)。〔説文〕九上に「高なり」と訓し、字は嵬に従って、委(い)声とするが、嵬・魏の声をとる字である。委は農耕儀礼において、稲魂(いなだま)を被(かぶ)った女が姿低く舞う形、巍はその姿高く舞うさまかと思われる。ただ山容の崔嵬たるさまをいう語としては、委の原義はすてられているものと考えてよい。

鞠(キク・17画)

初出は前漢の隷書(居延漢簡)。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のk(入)のみ。藤堂上古音はgɪokまたはkɪok(共に入)。『学研漢和大字典』は「躬(キュウ)(かがめたからだ)・窮(かがむ、ちぢむ)は、その語尾がxに転じたことば」と言うが、躬の初出は楚系戦国文字、窮の初出も楚系戦国文字。部品の匊k(入)は西周中期の金文に見られるが、語義は”(容れ物から取り出す場合の)すくう”。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、匊(キク)は「米+勹(つつむ)」からなる会意文字で、米つぶをつつんでぐっとまるめることを示す。鞠は「革(かわ)+(音符)匊(キク)」。ぐっとちぢめて、外から包んだかわのまり。躬(キュウ)(かがめたからだ)・窮(かがむ、ちぢむ)は、その語尾がxに転じたことば。掬(キク)(手をまるくちぢめてすくう)・球(ぐっとちぢめたたま)と同系のことば。

語義

キク(入gɪok)
  1. {名詞}まり。けまり。かわで包んだまり。《同義語》⇒毬。《類義語》球。「蹋鞠(トウキク)(けまり)」。
キク(入kɪok)
  1. (キクス){動詞}からだをまるくかがめる。《類義語》躬(キュウ)。「鞠躬(キッキュウ)」。
  2. (キクス){動詞}やしなう(やしなふ)。からだをかがめて、保育する。だいじに育てる。「母兮鞠我=母や我を鞠ひたまふ」〔詩経・小雅・蓼莪〕
  3. {形容詞}からだが小さくちぢまっているさま。おさない。「鞠子(キクシ)」。
  4. (キクス){動詞・形容詞}きわまる(きはまる)。しめつけられる。ふさがる。窮する。▽鞫(キク)に当てた用法。「自鞠自苦=自ら鞠し自ら苦しむ」〔書経・盤庚中〕
  5. {動詞}ただす。きわめる(きはむ)。罪人をとことんまでとり調べる。問いつめる。▽鞫(キク)に当てた用法。

字通

[形声]声符は匊(きく)。〔説文〕三下に「蹋鞠(たふきく)なり」とあり、けまりをいう。躹に借用することが多く、〔書、盤庚中〕「爾(なんぢ)惟(こ)れ自ら鞠(くる)しみ自ら苦しむ」、〔詩、小雅、蓼莪〕「母や我を鞠(やしな)ふ」、〔詩、小雅、節南山〕「鞠訩」、〔論語、郷党〕「鞠躬如(きくきゅうじょ)」などはみな躹の字義である。また訊鞠は𥷚の字義。

※𥷚(キク):調べる。

乞(キツ・3画)

气 乞 金文
洹子孟姜壺・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯ət(入)。

学研漢和大字典

象形。ふたを押しのけてつかえた息が漏れ出るさまを描いたもの。氣(=気。いき)の原字。のどをつまらせて哀れな声を漏らすの意から、物ごいする意となった。吃(キツ)(どもる)と同系。

語義

  1. {動詞}こう(こふ)。のどをつまらせて頼む。いいにくそうにねだる。「乞諸其鄰而与之=諸を其の鄰に乞ひてこれをあたふ」〔論語・公冶長〕
  2. 「乞丐(キツカイ)・(コツカイ)」とは、人を押しとめて物ごいすること。また、その人。

字通

[象形]雲気の流れる形。氣(気)の初文は气、その初形は乞。〔説文〕一上に「气は雲气なり。象形」とあり、乞字を収めない。乞はもと雲気を望んで祈る儀礼を意味し、乞求の意がある。金文に「用(もっ)て眉壽を乞(もと)む」のように、神霊に祈ることをいう。

吉(キツ・6画)

論語 吉 金文
旂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯ĕt(入)。「キチ」は呉音。

学研漢和大字典

象形。壺(ツボ)をいっぱいにしてふたをした姿を描いたもので、内容の充実したこと。反対に、空虚なのを凶という。壹(イツ)(=壱。つぼいっぱい)と同系。また、すきまなく充実した意を含み、結(つめる→ゆわえつける)・詰(問いつめる、いっぱいにつめる)とも同系。

語義

  1. (キツナリ){形容詞・名詞}よい(よし)。めでたいさま。さいわい。めでたいこと。▽もと占いのことば。《対語》⇒凶。「吉日」「吉凶由人=吉凶は人に由る」〔春秋左氏伝・僖一六〕
  2. (キツナリ){形容詞}よい(よし)。願わしくてよいさま。けっこうである。「吉礼」「応之以治則吉=これに応ずるに治を以てすれば則ち吉なり」〔荀子・天論〕
  3. 「初吉(ショキツ)」とは、ついたちのこと。

字通

[会意]士+口。士は鉞(まさかり)の刃部を下にした形。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器。祝禱を収めた器を聖器で守り、その吉善を保つ意である。〔説文〕二上に「善なり」とし、〔繫伝〕にその意を「口に擇言無きなり」、すなわち士人の言はみな吉の意とするが、吉・咸・吾は、みな聖器を以て祝禱の吉善を守る意象の字である。〔詩〕に「吉士」「多吉人」と称するものは、神事につかえる神人をいう。卜辞の「弘吉」「大吉」は卜兆の吉なる意、〔易〕にも吉・凶の語を用いる。

客(キャク・9画)

論語 客 金文
曾伯陭壺・春秋早期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はkʰlăk(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。各とは、足が四角い石につかえてとまった姿を示す会意文字。客は「宀(やね、いえ)+(音符)各」で、他人の家にしばし足がつかえてとまること。また、その人。格(つかえる木)・閣(門のとびらをとめるくい)・擱(カク)(つかえてとまる)などと同系。

語義

  1. {名詞}まろうど(まらうど)。訪問者。よそから来て、一時足をとめた人。きゃく。《対語》⇒主。「賓客」「主人下馬客在船=主人馬を下り客船に在り」〔白居易・琵琶行〕
  2. {名詞}よそから来た者。旅人。「客舎(宿屋)」「鶏鳴而出客=鶏鳴きて客を出だす」〔史記・孟嘗君〕
  3. {名詞}いそうろう。「食客」「客之居下坐者有能為鶏鳴=客の下坐に居る者能く鶏鳴を為す有り」〔史記・孟嘗君〕
  4. {名詞}見知らぬ人を呼ぶことば。《類義語》君。「客何為者=客は何為る者ぞ」〔史記・項羽〕
  5. (キャクタリ)・(カクタリ){動詞}他人の家に食客としてやっかいになる。また、他郷に旅してとどまる。「客籍(よそ者)」「独将衰鬢客秦関=独り衰鬢を将て秦関に客たり」〔盧綸・長安春望〕
  6. {形容詞・名詞}自分がその事がらに当面していない。よそごと。「客歳(すでに過ぎ去った年、去年)」「客観(自分の意識の外)」。
  7. 「客家(カッカ)・(ハッカ)」とは、漢民族の一集団の名。広東(カントン)省・江西省・福建省・広西壮(チワン)族自治区などの地方に点在する。その人口は約二千万人以上といわれる。もと北方にいた漢民族のうち、集団で南へ移住したもので、周辺の部族からよそ者(客家)として扱われていた。そのことばは、客家語と呼ばれ、中国の五大方言の一つとされる。「客人」とも。▽ハッカは客家語の音。
  8. 《日本語での特別な意味》「過ぎ去った」意味をあらわすことば。「客月」。

字通

[会意]宀(べん)+各。宀は廟屋。各は祝禱の器(𠙵(さい))に対して、神霊が上より降下(夂(ち))する形。廟中に神霊を迎えることを客という。〔説文〕七下に「寄なり」と客寄・旅寓の意とするが、もとは客神をいう字であった。〔詩、周頌、振鷺〕「我が客戻(いた)る」、〔詩、周頌、有客〕「客有り、客有り 亦た其の馬を白(あを)くす」とは、周廟の祭祀に、客神として殷の祖霊を迎える意。「まろうど」は、わが国においても異族神を意味した。

躩(キャク・27画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯wak(入)。同音に矍”驚き見る・はやる”とそれを部品とした玃”おおざる・手で打つ”、攫”つかむ・うつ”(”さらう”は国義)。矍の初出も楚系戦国文字であり、論語の時代に存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「足+(音符)矍(カク)(かこんでつかむ)」。攫(カク)(手でつかむ)と同系。

語義

  1. {形容詞}足が地をつかむように止まりがちで、進まないさま。また、つつしんで、小刻みに歩くさま。「躩如(カクジョ)」。
  2. {形容詞}足で地をけって、はや足でいくさま。

字通

[形声]声符は矍(かく)。矍はおそれて身を屈し、足のすくむようなさまをいう。〔説文〕二下に「足躩如たり」とは〔論語、郷党〕の文。似た字に躣(く)があり、〔説文〕に「行く皃なり」とする。

九(キュウ・2画)

論語 九 金文
𦅫鎛・春秋中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯ŭɡ(上)。

学研漢和大字典

象形。手を曲げて引き締める姿を描いたもので、つかえて曲がる意を示す。転じて、一から九までの基数のうち、最後の引き締めにあたる九の数、また指折り数えて、両手で指を全部引き締めるときに出てくる九の数を示す。究(奥深くゆきづまって曲がる最後の所)の音符となる。また、糾合(キュウゴウ)の糾、鳩合(キュウゴウ)の鳩と通じる。草書体をひらがな「く」として使うこともある。▽証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるため「玖」と書くことがある。

語義

  1. {数詞}ここのつ。《同義語》⇒玖。
  2. {数詞}ここの。順番の九番め。「九月九日」。
  3. {副詞}ここのたび。九回。九度。
  4. {形容詞}数が多い。また、奥深いさま。「為山九仞=山を為(つく)ること九仞なり」〔書経・旅忙〕
  5. {動詞}ひと所に引きしぼり集める。▽平声に読む。糾(キュウ)に当てた用法。「九合諸侯=諸侯を九合す」〔論語・憲問〕
  6. 《日本語での特別な意味》ここのつ。午前十二時、または午後十二時。▽江戸時代のことば。

字通

[象形]竜蛇の形。竜蛇に虫形と九形とあり、九は岐頭の形でおそらく雌竜。虫と九と組み合わせた形は禹。九州の水土を治めたとされる神である。〔説文〕十四下に「陽の變なり。其の屈曲し、究盡するの形に象る」とする。七は陽の正、九は陽の変。ゆえに〔易〕の陽爻を初九・九二・上九のようにいう。数の九に用いる。

及(キュウ・3画)

論語 及 金文
保卣・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰi̯əp(入)。

学研漢和大字典

「人+手」の会意文字で、逃げる人の背に追う人の手が届いたさまを示す。その場、その時にちょうど届くの意を含む。吸(口がぴたりと水面に届く→すいつく)-汲(つるべが水面に届く→くみ上げる)-給(おいつくようにぴたりとあてがう)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞}およぶ。追いつく。「往言不可及=往言は及ぶべからず」〔国語・晋〕
  2. {動詞}およぶ。能力が追いつく。「非爾所及也=爾の及ぶ所に非ざるなり」〔論語・公冶長〕
  3. {動詞}およぶ。→語法「②」。
  4. {動詞}およぶ。そんなことまで行う。「父死不葬、爰及干戈=父死して葬らず、爰に干戈に及ぶ」〔史記・伯夷〕
  5. {動詞}およぼす。そこまで物事の範囲を広げる。「老吾老以及人之老=吾が老を老として以て人の老に及ぼす」〔孟子・梁上〕
  6. {接続詞}および。→語法「①」

語法

①「~および…」「~と…」とよみ、「~と…」と訳す。並列の意を示す。「漢軍及諸侯兵、囲之数重=漢軍及び諸侯の兵、これを囲むこと数重」〈漢軍と諸侯の兵は、幾重にも包囲した〉〔史記・項羽〕
②「~におよび(て)」とよみ、(1)「~になると」「~になったとき」と訳す。時間の到達の意を示す。「及父卒、叔斉讓伯夷=父卒するに及びて、叔斉伯夷に讓らんとす」〈父が亡くなると、叔斉は長兄の伯夷に(位を)譲ろうとした〉〔史記・伯夷〕
(2)「~まで」「~に到って」と訳す。空間の到達の意を示す。「及郡下、詣太守、説如此=郡下に及び、太守に詣(いた)りて、説くことかくの如し」〈郡の役所に到って、太守にお目にかかり、しかじかと語った〉〔陶潜・桃花源記〕
(3)「~に乗じて」「~という状況になると」と訳す。機会・条件の意を示す。「及其使人也、器之=その人を使ふに及びては、これを器にす」〈人を使うときには、長所に応じた使い方をする〉〔論語・子路〕
③「~と」とよみ、「~とともに」と訳す。対象・従属の意を示す。「爾尚及予一人致天之罰=爾(なんぢ)尚(こひねが)はくは予一人と天の罰を致(いた)せ」〈おまえたちよ、どうかわれと力を併せて天の罰を夏の桀に加えよ〉〔史記・殷〕

字通

人+又(ゆう)。又は手。後ろより手を伸ばして、前の人に追い及ぶ形。〔説文〕三下に「およぶなり」と逮及・逮捕の意とする。古文には逮を誤入している字がある。伋は西周期の金文にみえ、途上に相及ぶ意である。

訓義

およぶ、追いつく、いたる、およぼす、つづく、つぐ。ともに、あわせて、あずかる。

大漢和辞典

会意。又と人の合字。又は手、後人の手が前人におよぶこと。追い及ぶ意。

字解

およぶ。およぼす。および。共に。共にする。弟が兄のあとをつぐ。もし。姓。

久(キュウ・3画)

論語 久 金文
(金文)

この文字は漢字古今字資料庫では甲骨文・金文共に存在しないが、白川フォントには独自の上掲金文を載せる。戦国期の細長い流麗な書体ではないが、論語の時代に存在したとは断定できない。確実な初出は秦系戦国文字から。「国学大師」は、原義を灸を据える姿とする。

カールグレン上古音はki̯ŭɡ(上)。同音に九、灸、疚(やまい・やましい)、玖(黒い宝石)。”ひさしい・ながい”という語釈は、「舊」(旧、カ音ɡʰi̯ŭɡ)と音が通じて後世に生まれた語義だが、もとより「舊」と記されたとすると、むしろ「舊」の語義で解釈すべき。

なお「舊」の藤堂上古音はgɪog、久はkɪuəg。詳細は論語語釈「旧」を参照。

学研漢和大字典

久 解字
会意。背の曲がった老人と、その背の所に、引っぱるしるしを加えたもので、曲がって長いの意を含む。灸(キュウ)(もぐさで長い間、火をもやす)・柩(キュウ)(長い間、死体を保存するひつぎ)の字の音符となる。旧(長く時がたつ)・九(長く数えていきづまった数)・究(曲がりくねって奥深くはいる)・考(背の曲がった老人)などと同系のことば。草書体をひらがな「く」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「く」ができた。また、初二画からカタカナの「ク」ができた。

意味

  1. {形容詞}曲がりくねって、くねくねと伸びているさま。「久腰(キュウヨウ)(老人の曲がった腰)」
    (訳者注。中国哲学書電子化計画では、「久腰」の出典が確認できなかった。巢元方『諸病源候論』に「久腰痛候」という言葉はあるが、”久しい腰痛の症状”の意で、「久腰」ではない)。
  2. {形容詞}ひさしい(ひさし)。長く時がたっているさま。いろいろと曲折をへてのびるさま。《対語》⇒暫(ザン)(しばし)。《類義語》旧。「天長地久」「丘之禱久矣=丘(きう)の禱(いの)ること久し」〔論語・述而〕
  3. {動詞}ひさしくする(ひさしうす)。長く時間をかける。ずっとそのままにしている。「可以久則久=以て久しかるべくんば則ち久しうす」〔孟子・公上〕

久 阿闍梨餅
京菓子舗”満月”名物”阿闍梨餅”のパッケージ

字通

屍体を後ろから木で支えている形。〔説文〕五下に「後よりこれを灸す。人の両脛の後に距有るに象るなり」とあり、うしろにものを詰める意とする。〔儀礼、士葬礼〕に「木桁もて之を久す」というように、木桁で支えることもあり、久とはその象であろう。これを櫃中に収めるときには匛・柩(訳者注。ともに”ひつぎ”)という。ぼう部十二下に「柩は棺なり」とあり、棺とは屍をつつんで納める意である。籀文の字形は匶に作る。久・舊(旧)は声義近く、通用する。久は屍を支える形、舊は鳥の足を繋いで係留する意で、ともに久遠の意において通ずる。久を久遠とするのは、顚死者(訳者注。行き倒れ)の象である眞(真)を、永遠に実在するものの意に転化するのと、相似た思弁の結果である。

訓義

1)ささえる、ものをつめる、ふさぐ、おおう。2)ひさしい、ひさしくする、とどまる、3)おくれる、まつ。

大漢和辞典

久 大漢和辞典

弓(キュウ・3画)

亘 金文
亘弓方簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯ŭŋ(平)。同音は無い。論語では孔子の弟子・冉雍仲弓の名としても登場。

学研漢和大字典

象形。弓の形を描いたもの。曲線をなす意を含む。躬(キュウ)(からだをまるく曲げる)・穹(キュウ)(曲線をなす天井、まるいテント)などと同系。まるく曲げたひじを貫(コウ)・肱(コウ)というのと縁が近い。類義語の弩(ド)は、留め金に弦をひっかけて、ばねで石や矢をはじくゆみ。

語義

  1. {名詞}ゆみ。まるくそったゆみ。《類義語》弩(ド)。「弓箭(キュウセン)(弓矢)」「弓矢斯張=弓矢斯に張る」〔孟子・梁下〕
  2. {単位詞}歩測で土地を測量するとき、土地の長さをあらわすことば。一弓は、一歩の長さで、六尺のこと(周代の一尺は二二・五センチメートル)。▽一説に五尺ともいう。「歩弓(歩測の幅)」。

字通

[象形]弓体の形。〔説文〕十二下に「窮むるなり。近きを以て遠きを窮むる者なり」と弓・窮の音の通ずることを以て説く。〔釈名、釈兵〕には、「弓は穹なり。之れを張ること弓隆(きゅうりゅう)(ドーム形)然たり」と、その形を以て説く。音よりいえば躬・弘などとの関係が考えられる。

丘(キュウ・5画)

論語 丘 金文
子禾子釜・戦国

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯ŭɡ(平)。論語ではほぼ、孔子の名「孔丘仲尼」として登場する。

学研漢和大字典

象形。周囲が小高くて中央がくぼんだ盆地を描いたもの。畦・邱とも書く。図の二字めの形は、鎬(=虚。くぼみ)の字の下部にあって意符として用いられる。類義語に山。

語義

  1. {名詞}おか(をか)。小高い所。「丘陵」。
  2. {名詞}小高く土盛りをした墓。塚(ツカ)。「墳丘」。
  3. {形容詞}おかのように大きい。「丘嫂(キュウソウ)(あによめに対する敬称)」。
  4. {名詞}周代の土地区画で、八家を「井」、四井を「邑(ユウ)」、四邑を「丘」という。百二十八家。「丘民」。
  5. {名詞}孔子の名、孔丘(コウキュウ)の略称。

字通

[象形]墳丘の象。〔説文〕八上に「土の高きものなり。人の爲(つく)る所に非ざるなり。北に從ひ、一に從ふ。一は地なり。人の居は丘の南に在り。故に北に從ふ。中邦の居は崑崙の東南に在り。一に曰く、四方高く、中央下(ひく)きを丘と爲す。象形」とあり、会意・象形の二説をあげている。墳墓は多く北郊に営まれるので、北邙のようにいう。ゆえに北一に従うとの説を生じたのであろう。〔詩、小雅、緜蛮〕は悼亡の詩。「緜蠻(めんばん)たる黄鳥 丘阿に止まる」とは、鳥形霊による死者への追想を導く発想である。

大漢和辞典

丘 大漢和辞典

舊/旧(キュウ・5画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰi̯ŭɡ(去)。

学研漢和大字典

形声。舊の上部は鳥のこと。下部は音をあらわす。もと鳥の名。ただし、普通は、久(年月をへて曲がった)・朽(キュウ)(曲がってくちる)と同系のことばに当てて用いる。類義語に古。

語義

  1. {形容詞}ふるい(ふるし)。くちて曲がった。年月をへてふるびた。また、以前の。《対語》⇒新。《類義語》古。「新旧」「旧邦」「旧令尹之政、必以告新令尹=旧令尹の政は、必ず以て新令尹に告ぐ」〔論語・公冶長〕
  2. {名詞}もと。以前の状態。「依旧=旧に依る」「仍旧=旧に仍る」「如旧=旧のごとし」。
  3. {名詞}昔なじみであること。また、昔なじみの人。《類義語》故。「故旧(昔なじみ)」「有旧=旧有り」「訪旧半為鬼=旧を訪へば半ばは鬼と為る」〔杜甫・贈衛八処士〕
  4. 《日本語での特別な意味》きゅう(きう)。太陰暦のこと。「旧盆」。

字通

[会意]旧字は舊に作り、萑(かん)+臼(きゆう)。臼形のものは、鳥を捕らえるための鑿歯(さくし)のある器。舊は萑がその器に足を取られて、奪去しえない状態を示す。ゆえに留止・旧久の意を生ずる。〔説文〕四上に「𨾦舊(しきう)、舊留なり」とみみずくの意とし、臼声とする。また重文として鵂を録する。〔淮南万畢術〕に「鵂もて鳥を致す」の〔注〕に、「鴟鵂を取り、其の大羽を折り、其の兩足を絆(つな)ぎ、以て媒(ばい)(おとり)と爲し、羅(あみ)を其の旁に張れば、則ち鳥聚まる」とあり、舊はその法を示す字である。金文に「舊友」「先舊」の語があり、また〔邾公華鐘(ちゆこうかしよう)〕に「元器を其れ舊(ひさ)しうせよ」のように用いる。久と声義が近い。

朽(キュウ・6画)

朽 金文
作冊疐鼎・西周早期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はx(上)。藤堂上古音はhɪog。

論語公冶長篇9で定州竹簡論語が用いている「㱙」は、大漢和辞典による語釈は”くちる・くさい”。台湾中央研究院の「小学堂」㱙字条でもそう扱っている。「国学大師」㱙字条も「同【朽或剐】字」という。剐は大漢和辞典にも見えないが、”つきやぶる・死刑の一種”と「国学大師」剐字条は言う。

学研漢和大字典

会意兼形声。亜(コウ)は、伸びようとするものがつかえて曲がったことをあらわす。朽は「木+(音符)亜」で、くさって曲がった木。考(腰の曲がった老人)・巧(曲がりくねった複雑な細工をする)と同系。類義語に腐。

語義

  1. {動詞・形容詞}くちる(くつ)。草木がくさる。くさって曲がる。また、そのさま。「朽木」。
  2. {名詞}くさった木。「摧朽=朽を摧く」。
  3. {動詞・形容詞}くちる(くつ)。古くなってだめになる。また、そのさま。「老朽」「不朽」。

字通

[形声]声符は丂(こう)。〔説文〕四下に㱙を正字とし、「腐るなり」と訓し、朽を別体の字とする。〔列子、湯問〕に「其の肉を㱙ちしめて棄て、然る後に其の骨を埋む」というのは、屍体の風化を待って葬る複葬の法をいう。丂は曲刀の形。木に斧斤を加えて、そのあとの腐朽することをいい、それを屍に及ぼして㱙という。

求(キュウ・7画)

論語 求 金文
廿七年衛簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のɡʰ(平)のみ。藤堂上古音はgɪog。論語では、孔子の弟子・冉求子有の名としても現れる。

学研漢和大字典

象形。求の原字は、頭や手足のついた動物の毛皮を描いたもの。毛皮はからだに引き締めるようにしてまといつけるので、離れたり散ったりしないように、ぐいと引き締めること。裘(キュウ)(毛皮)はその原義を残したことば。糾(キュウ)(引き締める)・救(キュウ)(引き止める)・球(中心に引き締まった形のたま)と同系。

語義

  1. {動詞}もとめる(もとむ)。散らないよう、また逃げないように引き締める。《対語》⇒散・放。「求心」「求其放心而已矣=其の放心を求むるのみ」〔孟子・告上〕
  2. {動詞}もとめる(もとむ)。自分のものにしようとする。さがしもとめる。ほしがる。「追求」「探求」「要求」「居無求安=居には安きを求むること無し」〔論語・学而〕。「実事求是(現実に即して、それを支配する道理を求める。朱子学のスローガン)」。
  3. 《日本語での特別な意味》もとめる(もとむ)。買う。

字通

[象形]呪霊をもつ獣の形。この獣を用いて、求めるところを祈る。また獣皮の形で、裘(きゆう)の初文。〔説文〕に求字を収めず、裘字条八上に重文として求の字形を出し、「古文、衣を省す」という。金文に求を贖求(しよくきゆう)の意に用い、〔君夫𣪘(くんぷき)〕「乃(なんぢ)の友を儥(贖)求せよ」、〔舀鼎(こつてい)〕「乃の人を求(つぐな)へ」のようにいい、また〔𦅫鎛(そはく)〕「用(もつ)て考命(永命)彌生(びせい)ならんことを求む」のように用いる。呪霊をもつ獣皮によって祟(たたり)を祓い、欲するところを求めたので、その法を術という。術の従う朮は、古くは求と同形である。

咎(キュウ/コウ・8画)

咎 金文
毓且丁卣・商代晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰ(上)。平声の音は不明。藤堂上古音はgɪog(上)またはkog(平)。

学研漢和大字典

会意。各は、格(ひっかかる)の原字で、歩く人の足がかたい石につかえた姿。咎は「人+各(つかえる)」で、障害につかえて順調な進みが曲がることを示す。

語義

キュウ(上)
  1. {名詞}とが。さしさわり。《対語》⇒休。「休咎(キュウキュウ)(吉凶)」「自遺其咎=自ら其の咎を遺す」〔老子・九〕
  2. {名詞}とが。過失。「以督厥咎=以て厥の咎を督さんことを」〔蜀志・諸葛亮〕
  3. {動詞}とがめる(とがむ)。失敗を指摘してこだわる。「既往不咎=既往は咎めず」〔論語・八佾〕
  4. {動詞}さしつかえる。「殺之何咎=これを殺すも何ぞ咎あらんや」〔李華・弔古戦場文〕
コウ(平)
  1. 「咎陶(コウヨウ)」とは、帝舜(シュン)の臣下の名。「皋陶(コウヨウ)」とも。

字通

[会意]人+夂(ち)+口。夂(ち)+口は各。神の降格する意で「各(いた)る」とよむ。口は祝詞を収める器の𠙵(さい)。神が降格して、人に罰することを求める呪詛を行う意。その呪詛によって降されるものを咎という。〔説文〕八上に「災なり。人に從ひ、各に從ふ。各なる者は相ひ違ふなり」と、各を各異の意とするが、呪詛して人にもたらされる災禍を咎といい、神罰を受けることをも咎という。金文の〔ショウ 外字盨(しょうしゆ)〕に「廼(すなは)ち余一人の咎を作(な)さん」、〔詩、小雅、伐木〕「我をして咎有らしむること微(なか)れ」のようにいう。金文に■(疒+咎)という字があり、疒(だく)に従うのは、禍殃として病気となる意であろう。

疚(キュウ・8画)

初出は不明。論語の時代に存在した証拠がない。カールグレン上古音はki̯ŭɡ(去)。同音に久、九、玖”黒い玉”、灸。下掲『字通』が「声義の関係があるようである」という「咎」のカ音はgʰ(上)。部品の「久」初出も秦系戦国文字

学研漢和大字典

会意兼形声。久は「人が背をかがめた姿+ヽ印」の会意文字で、背のかがんだ老人のことである。ヽ印は老人が背をかがめて亀(カメ)のようになった、その背部をさし示す指事記号であろう。故旧の旧と同系。疚は「疒+(音符)久」で、久が、久しいという意に専用されたため、疚が原義をあらわすようになった。

語義

  1. {動詞・名詞}なやむ。やむ。老衰や病気のため、亀(カメ)のように背がかがんだ形になる。また、長わずらいや、老衰。
  2. {動詞・形容詞}やむ。やましい(やまし)。気がとがめる。なやます。また、そのさま。「内省不疚、夫何憂何懼=内に省みて疚しからざれば、それ何をか憂へ何をか懼れん」〔論語・顔淵〕
  3. 「在疚(ザイキュウ)」とは、喪に服していること。《同義語》⇒在柩。

字通

[形声]声符は久(きゅう)。〔釈名、釈疾病〕に「疚は久なり。久しく體中に在るなり」と久疾の意とするが、疚悔の意があることからいえば、咎と声義の関係があるようである。

急(キュウ・9画)

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯əp(入)。

学研漢和大字典

会意兼形声。及(キュウ)は「人+又(て)」の会意文字で、逃げる人のうしろから手を伸ばしてがぶっとつかまえるさま。たるみなく追いかけてやっと届く意を含む。急は「心+(音符)及」で、せかせかと追いつくような気持ち、ゆとりなく迫るような気持ちのこと。吸(息をゆるめず、ひたひたとすいつく)と同系。

語義

  1. {動詞}いそぐ。ゆとりがなくせかせかと物事をする。せく。《対語》⇒緩(カン)・寛(カン)。《類義語》忙(ボウ)・躁(ソウ)。「大王急渡=大王急ぎ渡れ」〔史記・項羽〕
  2. (キュウニ)(キフニ)・(キュウナ)(キフナ){副詞}せかせかと。ひたひたと。ゆるみなく追いたてるように。「急迫」「県官急索租=県官急に租を索む」〔杜甫・兵車行〕
  3. (キュウナリ)(キフナリ){形容詞}きつい。ゆとりがない。ひたひたとさし迫ったさま。《類義語》迫・緊。「緊急」「風急=風急なり」「持法急=法を持すること急なり」「相煎何太急=相ひ煎ること何ぞ太だ急なる」〔曹植・七歩詩〕
  4. {形容詞}傾斜がきつい。「急坂」。
  5. {名詞}変事・災害などで危険がさし迫った事態。「告急=急を告ぐ」「以先国家之急而後私讐也=もって国家の急を先にして私讐を後にすればなり」〔史記・廉頗藺相如〕
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①きゅう(きふ)。雅楽などで、最後の拍子の速い部分。「序破急」。
    ②「急行電車」の略。「特急」「準急」。

字通

[形声]声符は及(きゅう)。〔説文〕十下に「褊(かたよ)るなり」とあり、また〔爾雅、釈言〕に「褊は急なり」とあり、互訓の字。及は後ろより人を追う意の字で、その心情を急という。心急ぐものは一褊に執するところがある。急遽・急速の意より、また緊急・急要の意となる。

糾(キュウ・9画)

丩 金文
「丩」湯鼎・春秋

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯ŏɡ(上)。同音に虯”みづち”・赳”つよい・はたらき”。部品のキュウ(カ音不明)の語義は”まつわる・まとう”と『大漢和辞典』は言い、初出は甲骨文

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音キュウ)は、二本のひもをよじるさまを描いた象形文字。糾はそれを音符とし、糸を加えた字で、ひもをあわせて一本によりあわせること。叫(のどを締めて金切り声を出す)・求(中心にむけてぐっと締める)などと同系。「糺」の代用字としても使う。「糾・糾弾・糾明」。

語義

  1. {動詞}あざなう(あざなふ)。よじる(よづ・よぢる)。ひもをよりあわせる。また、転じて、人々をひとまとめに寄せ集める。「糾合」。
  2. {名詞}よりなわ(よりなは)。よりあわせたなわ。
  3. {動詞・形容詞}よじれる(よぢる)。まとう(まとふ)。何本ものひも状のものがよじれる。また、中心となる物にいくすじもがまといつく。「糾紛(よじれて乱れる)」「糾纏(キュウテン)」。
  4. {動詞}ただす。横にそれないように、中心に向けて締める。悪人を締めあげる。きつくとり締まる。《同義語》⇒糺。《類義語》絞。「糾察」「以五刑糾万民=五刑を以て万民を糾す」〔周礼・大司寇〕

字通

[形声]声符は丩(きゅう)。丩は縄をより合わせる形で、糾の初文。〔説文〕三上に「繩三合するなり」とみえる。あざなうように合するを糾合、また糾縄を以て人を責め糾すので、糾察・糾弾の意となる。

躬(キュウ・10画)

論語 躬 金文大篆 身 金文

「躬」(金文大篆)・「身」 邾公華鐘・春秋晩期

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は子音のkのみ(平)。母音は不明。藤堂上古音はkɪoŋ。部品の身の字(カ音ɕi̯ĕn、藤音thien)は存在したので、置換候補になりうる。

学研漢和大字典

会意兼形声。「身+(音符)弓(弓なりに曲がる)」で、屈曲するからだ。▽本字の猥は「身+呂(連なった背骨)」の会意文字。弓(曲がる)・窮(キュウ)(曲がりくねる)と同系。類義語に自。

語義

  1. {名詞}み。前後左右に曲がるからだ。背をかがめたからだ。《類義語》身。「鞠躬(キッキュウ)(からだをまるく曲げておじぎする)」「在爾躬=爾の躬に在り」〔論語・尭曰〕
  2. {名詞}わがみ。自身。
  3. {動詞}からだを弓形に曲げる。
  4. {副詞}みずから(みづから)。自分で行うさま。自分で。《類義語》身。「禹稷躬稼而有天下=禹稷は躬ら稼して天下を有つ」〔論語・憲問〕

字通

[形声]声符は弓(きゅう)。〔説文〕七下に字を呂部に属して躳に作り、「身なり。身に從ひ、呂に從ふ」と会意とし、別に一体として躬をあげる。呂は脊骨・脊椎の象。漢碑に躬に作るものが多く、躳はその譌形であろうと思われる。

宮(キュウ・10画)

論語 宮 金文
散氏盤・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のk(上)のみ。藤堂上古音はkɪoŋ。「グウ」は慣用音、呉音は「ク・クウ」

学研漢和大字典

会意。「宀(やね)+二つの口印(くちではなくて、建物のスペース)」で、奥深く、いくむねもの建物があることを示す。窮(奥深い)・究(奥深い)・曲(細かくはいりこむ)と同系。類義語に家。「神社」の意味では「グウ」「クウ」と読む。

語義

  1. {名詞}みや。王の住む御殿。《類義語》府(倉屋敷)。「宮中」「壊宮室以為曇池=宮室を壊ちて以て曇池と為す」〔孟子・滕下〕
  2. {名詞}いえ(いへ)。奥深く、いくむねもある建物。大きい屋敷。「一畝之宮、而花木叢萃=一畝之宮にして、而花木叢萃す」〔孟挑・人面桃花〕
  3. {名詞}宮殿や、道教・ラマ教の神殿の名につけることば。「驪宮(リキュウ)」。
  4. {名詞}宮中に住む皇族につける呼び名。「正宮(セイキュウ)(皇后)」「東宮(トウグウ)(皇太子)」。
  5. {名詞}五音の一つ。古代中国の音楽で、階名をあらわす。七音のドにあたる。▽五音は宮・商・角・徴(チ)・羽。「十二律」は、音名。「宮調」。
  6. {名詞}五刑の一つ。生殖器を除く刑罰。「宮刑」。
  7. {名詞}星座のこと。「黄道十二宮」。
  8. {単位詞}中国の天文学で、宇宙空間の角度をあらわすことば。一宮は、円周の十二分の一の、一つの円弧の両端の点が円心に向かってなす角度。三十度。
  9. 《日本語での特別な意味》
    ①みや。皇族。また、皇族の呼び名。「宮家」。
    ②みや。神社。「一の宮」。

字通

[会意]宀(べん)+呂(りよ)。宀は廟屋の象、呂は宮室の相並ぶ平面形。〔説文〕七下に「室なり」という。金文の〔伊𣪘〕に「王、周の康宮に在り。旦に王、穆の大室に格(いた)り、位に卽(つ)く」とみえるように、宮中に儀礼の室があり、室とはもと神位のある所、すなわち大室をいう。

救(キュウ・11画)

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はk(去)。藤堂上古音はkɪog。

学研漢和大字典

会意兼形声。求は、動物の毛皮を引き締めてからだに巻くさまを描いた象形文字。引き締める意を含む。裘(キュウ)(皮衣)の原字。救は「攴(動詞の記号)+(音符)求」で、引き締めて食い止めること。絿(キュウ)(ぐいと引き締めるひも)・球(中心に向かって引き締まった球体)と同系。類義語に助。

語義

  1. {動詞}すくう(すくふ)。食い止める。助ける。▽身投げや失敗などを、ぐいと引き止めて助けるのが、もとの意。《類義語》助。「救助」「救死=死を救ふ」「女弗能救与=女救ふこと能はざる」〔論語・八飲〕
  2. {名詞}すくい(すくひ)。困難を食い止め、または難儀の中からすくい出すこと。助け。「求救於斉=救ひを斉に求む」〔戦国策・趙

字通

[会意]求+攴(ぼく)。求は呪霊をもつ獣の形。これを殴(う)ってその呪霊を刺激し、他から加えられている呪詛を免れる共感呪術的な方法を示す字。それで救済・救助の意となる。〔説文〕三下に「止むるなり」とし、求(きゆう)声とするが、攴部の字には殴つべき対象に対して攴を加えるものが多い。殺・改なども、みな同じ立意の字である。

翕(キュウ・12画)

初出は後漢の『説文解字』。カールグレン上古音はxi̯əp(入)。

学研漢和大字典

会意。「隕+(音符)合(コウ)」で、鳥が羽をあわせて飛びたつ用意をすることをあらわす。合と同系。

語義

  1. {動詞}あつまる。おさめる(をさむ)。あう(あふ)。開いたものを寄せあわせる。《対語》⇒開。《類義語》合。「翕合(キュウゴウ)」。
  2. {形容詞}物事がいっせいにおこるさま。「翕然(キュウゼン)」。
  3. {形容詞}あつまって盛んなさま。

字通

[形声]声符は合(ごう)。合に給(きゆう)の声がある。〔説文〕四上に「起(た)つなり」とあり、鳥がいっせいに飛び立つ意。〔論語、八佾〕に孔子が楽章のことを論ずる語に「始めて作(おこ)るや、翕如たり」というのは、諸楽がいっせいに吹奏をはじめる意。その音の相和するさまをいう。鳥がいっせいに集まること、またその動作が敏速であることをいう。

給(キュウ・12画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯əp(入)。同音は急、汲、級、彶”急いで行く”。

学研漢和大字典

会意。「糸+合(欠けめをふさぐ)」で、織り糸の欠けた所をすぐつぎあわすことを示す。欠けめや、すきを入れずに、くっつくの意を含む。吸(すきまを入れず息ですいあげる)・及(あき間をつめて逃げる者においつく)などと同系。類義語の与(與)は、いっしょに持てるように、わけあたえること。予(ヨ)は、自分の物を相手の前に押しやってあたえること。「相手の動作を表すことばにつけて敬意を表すことば」は、口語では普通、命令形以外は用いない。▽「たまう」「たまわる」は、「賜う」「賜る」とも書く。

語義

  1. (キュウス)(キフス){動詞}たりる(たる)。たす。欠けめをすぐつぎたす。「補給」「秋省斂而助不給=秋は省斂して不給を助く」〔孟子・梁下〕。「給人之求=人の求めを給す」〔荀子・礼論〕
  2. (キュウス)(キフス){動詞}あたえる(あたふ)。たまう(たまふ)。不足している者にあてがう。目下の者にあたえる。「支給」「酒肉衣服、給娥甚豊=酒肉衣服、娥に給すること甚だ豊かなり」〔謝小娥伝〕
  3. (キュウス)(キフス){動詞}用に充てる。また、必要に応じる。「給仕」「給事」。
  4. {名詞}あてがい。「俸給」「給不足需=給需に足らず」。
  5. 「口給(コウキュウ)」とは、巧みな弁舌で、とっさにつぎつぎといいたすこと。「禦人以口給=人を禦ぐに口給を以てす」〔論語・公冶長〕
  6. 《日本語での特別な意味》たまう(たまふ)。他人の動作にそえて尊敬の意をあらわすことば。

字通

[形声]声符は合(ごう)。合に翕・歙(きゆう)の声がある。合を金文に答の義に用いる例があり、対(こた)えて給付する意がある。〔説文〕十三上に「相ひ足すなり」とあり、足らざるところを充足するをいう。〔荀子、非十二子〕に「齊給便利にして、禮義に順(したが)はず」とは便速にしてなりふりかまわぬ意。また〔荘子、天地〕「給數(きふさく)にして以て敏なり」とは、すみやかにすることをいう。

廄/厩(キュウ・12画)

厩 金文

卲王之諻簋・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はkǐu(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。皀(キュウ)は、ごちそうを盛った姿に、匕印のフォークを添えた形。殳は動詞の記号。二つをあわせて食事を与えることを示す。廏はそれを音符とし、广(いえ)をそえた字で、馬に食事を与える馬屋。▽一説に糾合の糾(キュウ)(集める)と同系で、馬を集めて飼う所と解する。

語義

  1. {名詞}うまや。馬を集めて、かいばを食わせる所。「廏舎(キュウシャ)」「廏焚=廏焚けたり」〔論語・郷党〕

字通

[形声]声符は𣪘(きゆう)。〔説文〕九下に「馬舍なり」とし、「周禮に曰く、馬二百十四匹有るを廏と爲す。廏に僕夫有り」と〔周礼、夏官、校人〕の文によって説く。金文の〔貉子卣(はくしゆう)〕に「王■(冖+牛)を■(广+去+欠)(きよ)に■(𤔔+攴)(をさ)む」とあり、〔説文〕阹字条十四下に「山谷に依りて牛馬の圈を爲すなり」というように、阹が養馬のところであった。廏馬の数は〔周礼注〕によると二百十六匹である。

裘(キュウ・13画)

論語 裘 金文
五祀衛鼎・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のɡʰ(平)のみ。藤堂上古音はgɪog。「求」と同音。

学研漢和大字典

会意兼形声。求は、裘の原字で、頭・両足・尾のついたままのかわごろもの姿を描いた象形文字。裘は「衣+(音符)求」。求がぐっと引きしめる→もとめる、の意に使われるようになったため、かわごろもの意には裘が使われるようになった。帯でぐっと引きしめてからだにまとう、かわごろも。類義語に皮。

語義

{名詞}かわごろも(かはごろも)。獣の毛皮でつくった服。「狐裘(コキュウ)」「緇衣羔裘=緇衣(しい)には羔(こひつじ)の裘」〔論語・郷党〕

字通

[会意]求+衣。篆文の字形は衣中に求を加える。求は獣皮の象。〔説文〕八上に「皮衣なり」とし、求(きゆう)声とするが、求は裘の初文。また「一に曰く、象形。衰と同意なり」という。衰(さい)は衣に麻絰(まてつ)を加えた服喪の衣で、裘とは何の関係もない。

嗅(キュウ・13画)

初出は不明。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(去)。藤堂上古音はhɪog。部品の「臭」(藤音kjogまたはkɪog)に”においをかぐ”の語釈がある。

学研漢和大字典

会意兼形声。闌は、上古にはキュウといい「自(はな)+犬」の会意文字で、犬が鼻の細い穴を通してかぐこと。のち臭(=臭)が名詞「におい」をあらわすのに専用されたため、嗅の字で動詞をあらわすようになった。嗅は「口+(音符)臭(シュウ)」。

語義

  1. {動詞}かぐ。においをかぐ。《同義語》⇒軋(キュウ)。「嗅覚(キュウカク)」「三嗅而作=三たび嗅ぎて而作つ」〔論語・郷党〕

字通

[会意]正字は齅に作り、鼻+臭(臭)。嗅はその略字。〔説文〕四上に「鼻を以て臭に就くなり」といい、臭の亦声とし、「讀みて畜牲の畜(きう)の若(ごと)くす」という。その感覚を嗅覚、その器官を嗅官という。〔論語、郷党〕「三嗅して作(た)つ」は、鳥が警戒して飛び立つ意であるが、この嗅は狊(けき)の誤りであろう。〔爾雅、釈獣〕に、臭とは鳥が両翼を張る意であるという。

窮(キュウ・15画)

究 金文 究 外字
究 外字」曶鼎・西周中期

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰ(平)。同音多数。部品の躬k(平)に”行き詰まる”の語釈は『大漢和辞典』に無い。近音同訓究k(去)の初出は西周中期の金文。ただし究 外字という大変複雑な字形。糾ki̯ŏɡ(上)の初出は前漢の隷書。穹kʰi̯ŭŋ(平)の初出は後漢の説文解字。なお九ki̯ŭɡ(上)には”数の窮まり”の語義を『大漢和辞典』が載せる。初出はもちろん甲骨文

学研漢和大字典

会意兼形声。「穴(あな)+(音符)躬(キュウ)(かがむ、曲げる)」で、曲がりくねって先がつかえた穴。穹(キュウ)(弓形に曲がる)と同系。究とも縁が近い。異字同訓にきわまる・きわめる 窮まる・窮める「進退窮まる。窮まりなき宇宙。真理を窮(究)める」 極まる・極める「不都合極まる言動。山頂を極める。栄華を極める。見極める。極めて優秀な成績」 究める「学を究(窮)める」。

語義

  1. (キュウス){動詞・形容詞}きわまる(きはまる)。物事がぎりぎりのところまでいってつかえる。また、いきづまって動きがとれない。おしつまったさま。《類義語》困。「困窮」「図窮而匕首見=図窮まりて而匕首見はる」〔史記・荊軻〕。「君子固窮=君子固(もと)より窮す」〔論語・衛霊公〕
  2. {形容詞}生活が行きづまっている。《対語》通・達。「貧窮」「窮人」。
  3. {動詞}きわめる(きはむ)。ぎりぎりのところまでやり尽くす。つきつめる。さいごまで見とどける。《類義語》究・尽。「窮尽(きわめつくす)」「窮理=理を窮む」「上窮碧落下黄泉=上は碧落を窮め下は黄泉」〔白居易・長恨歌〕
  4. {名詞}行きづまり。いちばん奥の所。はて。へんぴないなか。「窮極」「窮棲(キュウセイ)」。
  5. 「無窮(ムキュウ)」「不窮(フキュウ)」とは、どこまでいってもつかえ止まらないこと。《同義語》無尽。「不窮之功(フキュウノコウ)」「天壌無窮(天地のように永遠に続く)」「楽亦無窮也=楽しみも亦た窮まること無きなり」〔欧陽脩・酔翁亭記〕

字通

[会意]穴+躬(きゅう)。穴中に躬(み)をおく形で、進退に窮する意。〔説文〕七下に「極まるなり」と訓し、竆を正形とする。究・穹と声義近く、「究は窮なり」「穹は窮なり」のように互訓する。極は上下両木の間に人を入れて、これを窮極する意で、罪状を責め糾す意。窮にもその意があり、罪状を糾問することを窮治という。

去(キョ・5画)

論語 去 金文
哀成叔鼎・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯ab(上/キョ)。

学研漢和大字典

象形。ふたつきのくぼんだ容器を描いたもの。くぼむ・引っこむの意を含み、却と最も近い。転じて、現場から退却する、姿を隠す意となる。屆(キョ)(くぼんだわきの下)・棄(キョ)(口をくぼめる)と同系。

語義

  1. {動詞}さる。その場から離れる。たちさる。《対語》⇒来。「退去」「壮士一去兮不復還=壮士一たび去つて復た還らず」〔史記・荊軻〕
  2. {動詞}さる。ゆく。その場から引き下がって他所へ行く。《対語》⇒留。「去留」「去任(職をやめる)」。
  3. {動詞}さる。引っこめる。取り下げる。《対語》⇒留。「除去」「去関市之征=関市の征を去る」〔孟子・滕下〕
  4. {動詞}さる。距離がへだたる。間があく。《類義語》距。「離去」「邯鄲之去魏也遠於市=邯鄲の魏を去ること市より遠し」〔韓非子・内儲説上〕
  5. {動詞}さる。時間がへだたる。▽「過去」という場合は、呉音で、コと読む。「紂之去武丁未久也=紂の武丁を去ることいまだ久しからず」〔孟子・公上〕
  6. (キョス){動詞}引っこめる。かげに隠しておく。「掘野鼠去屮(=草)実而食之=野鼠の去せしところの屮(=草)実を掘りて之を食らふ」〔漢書・蘇武〕
  7. 「去声(キョセイ)・(キョショウ)」は、四声の一つ。

字通

[会意]大+𠙴(きょ)。大は人の正面形。𠙴は、盟誓の器の蓋を外し無効としたもの。獄訟に敗れた人(大)を、その自己盟誓の器(𠙴)とともに廃棄する意。水に流棄するを法、羊神判に用いた解廌(かいたい)の廌をも加えたものは灋で、法の初文。みな「祛(はら)う」ことを本義とする。廃棄の意より、場所的にそこを離れることをいう。〔説文〕五上に「人相ひ違(さ)るなり。大に從ひ、𠙴聲」とするが、字は灋(法)との関連において解すべきである。

去 字形
http://www.guoxuedashi.com/zixing/yanbian/2070jm/

殷代の祀りのデータが残されているわけではないから、自分の妄想を自由に書き綴れる。でも、それが真実だと証明できる人はいない。白川氏の祭祀に関する主張はそういうレベルのものばかりなので、真に受けないように。

文字下部の口型図形は城市を表し、人が城市から離れていく象形だという説があり、これに従いたい。手前に人が大きく、捨て去った城市が遠景として股の間に小さく見える。つたない遠近法の表現ではないか。甲骨文字2(訳者注:上図では左上の字形)の人は歩いている。

塚田敬章氏 漢字の起源(白川静氏を買わない理由)去(キョ)

牛(ギュウ・4画)

牛 金文
牛鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯ŭɡ(平)。

学研漢和大字典

象形。牛の頭部を描いたもの。ンゴウという鳴き声をまねた擬声語であろう。

語義

  1. {名詞}うし。家畜の一種。▽「楚辞」の天問や「山海経」によると、殷(イン)の王子王亥(オウガイ)がはじめて牛を飼いならしたという。
  2. {名詞}二十八宿の一つ。規準星(牽牛(ケンギュウ)中央大星)は今のやぎ座にふくまれる。いなみ。
  3. {形容詞}牛のように大ぐらいでのっそりとしたさま。「牛飲馬食」「牛歩」。
  4. 「牛蒡(ゴボウ)」とは、野菜の名。根は長く、食用・薬用にする。▽平安時代のころ呉音読みをして日本語に借用された。
  5. 《日本語での特別な意味》ぎゅう(ぎう)。牛の肉。牛肉。

字通

[象形]牛を正面からみた形。羊も同じ意象の字。〔説文〕二上に「大牲なり」とし、「角頭三、封・尾の形に象る」という。封とは肩甲墳起のところ。あるいは腰骨の形としてもよい。牛は犠牲の首たるもので、神事に供するときには一元大武という。武は足。盟誓のときにその血を用いる。主盟のことを「牛耳を執る」という。その半肉を半、その肉を「胖(ゆた)か」という。西周期の〔舀鼎(こつてい)〕は高さ二尺、深さ九寸、銘文四百四字に及ぶ大鼎で、「䵼牛鼎(しようぎゆうてい)」(牛を䵼(に)る鼎)と称している。

居(キョ・8画)

論語 居 金文
居簋・春秋

初出は春秋時代の金文。カールグレン上古音はki̯o(平・韻目「魚」)。平・韻目「之」の音は不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。「尸(しり)+音符古(=固。固定させる、すえる)」の会意兼形声文字で、台上にしりを乗せて腰を落ち着けること。「尸(しり)+(だい)」とも書く。キョク(しりをおろして構える)の原字。キョ(=拠。何らかの上によりかかる)や、固定の固とも同系のことば。▽処は、キョの口蓋化したことばで、のち、場所。ある場所におるの意に用いる。

意味

  1. {動詞}いる(ゐる)。おる(をる)。腰をおろす。そこに腰を落ち着けて住む。《類義語》処。「居住」「燕居(エンキョ)(安楽に家で暮らす)」「昔者大王居癇=昔、大王癇に居る」〔孟子・梁下〕
    ま(キョス){動詞}おく。住まわせる。「真可以居吾子矣=真に以て吾が子を居くべし」〔列女伝・鄒孟軻母〕
  2. {動詞}おる(をる)。腰をすえて日を過ごす。事もなく暇でいる。「居常(キョジョウ)(平生)」「居則曰=居れば則ち曰はく」〔論語・先進〕
  3. {名詞}すまい。「卜居=居を卜す」「依依昔人居=依依たり昔人の居」〔陶潜・帰園田居〕
  4. {動詞}おく。とっておく。たくわえる。「居積」「奇貨可居=奇貨居くべし」〔史記・呂不韋〕
  5. 「居然(キョゼン)」とは、思ったとおりである、なるほどの意。
  6. {助辞}や。其と同じで、語調を整える助辞。「何居(=何其。なんぞや)」。

字通

正字は凥に作り、。祖祭のとき、かたしろとなる者が几(机)に腰かけている姿。居はその形声字で古声。〔説文〕は両字を区別し、凥十四上に「るなり」、居八上に「うずくまるなり」とする。また凥字条に「仲尼、凥す」と〔古文孝経〕の句を引き、〔釋文〕に引く〔鄭本〕も同じ。今本は居に作る。凥・居が同字として用いられるに及んで、別に形声字の跼が作られた。

訓義

いる、こしかけている、動かずにいる、そのまま、いながら。うずくまる、箕跼している、おごる。くらす、すまい、つねのすまい、へや、はか。きょと通じ、たくわえ、つむ。疑問の助詞、や、か。

據/拠(キョ・8画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯waɡ(去)で、同音に鐻”かねかけのあし・のこぎり・銀の耳輪”。鐻は春秋末期の金文が発掘されているが、語義が通じない。部品の豦は西周中期の金文が初出だが、語義が”おおぶた・虎が立ち上がる・組んでほぐれない”であり、語義が通じない。

『大漢和辞典』で通字として載る「据」ki̯oは初出が後漢の『説文解字』だが、同音部品の「居」ki̯o(平)は論語の時代に存在し、置換候補となる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字。據は「手+(音符)豦(キョ)」の形声文字。拠は「手+(音符)處(しりを落ち着ける)の略体」。居(しりを落ち着ける)・据(すえる)と同系。類義語に憑。

語義

  1. {動詞}よる。その場所に座を占めてよりどころにする。《類義語》居。「占拠」「拠於徳=徳に拠る」〔論語・述而〕
  2. {名詞}よりどころ。たよりとする所。「根拠」「憑拠(ヒョウキョ)(しょうこ)」。

字通

[形声]旧字は據に作り、豦(きょ)声。〔説文〕十二上に「杖もて持するなり」とあり、杖に拠る意とする。豦はおそらく鐘鐻(しょうきょ)のように安定してつながるものをいい、それに依拠する意であろう。また拠有することをいう。「法に拠る」「徳に拠る」のように、抽象的なものにも用いる。

舉/挙(キョ・10画)

論語 挙 金文 論語 挙
中山王壺・戦国末期

初出は戦国時代の金文。「挙」には甲骨文が見つかっていない。論語の当時には無かった文字で、「輿」に「手」を添えた新しい字と言える。藤堂上古音はkɪag(ɪはエに近い音)。カールグレン上古音はki̯o(上)。同音に車と、居とそれを部品とする漢字群。居に”おく・すまわせる”の語釈が『大漢和辞典』にあり、ある人物をある地位に就けることを意味する。

「居」以外の置換候補として、「渠」(キョ)は戦国にならないと現れず、「袪」(キョ)「撟」「撬」「擏」「矯」「翹」「蹺」「鯨」(キョウ)は甲骨文・金文ともに存在しない。

唯一可能性があるのは「喬」(カ音ki̯oɡ平またはɡʰi̯oɡ平)で、論語時代の金文の出土があり、かつ藤堂上古音はgɪɔg(ɔは気を失った人のうなり声に似ている)。これがkɪagと音通するかは思う人次第である。

学研漢和大字典

会意兼形声。与は、かみあったさまを示す指事文字。與(ヨ)は「両手+両手+(音符)与」からなり、手を同時にそろえ、力をあわせて動かすこと。擧は「手+(音符)與」で、手をそろえて同時に持ちあげること。舁(ヨ)(力をそろえてかごをかつぎあげる)・與(=与。同時にそろえて働く)などと同系。類義語の揚は、高々とあげる。上は、低い所から高い所にあげる。昂は、高く上にあげる。異字同訓に
あがる・あげる。

意味

  1. {動詞}あげる(あぐ)。あがる。手をそろえて持ちあげる。転じて、高く持ちあげる。また、高く上にあがる。「挙杯=杯を挙ぐ」「吾力足以挙百鈞=吾が力以て百鈞を挙ぐるに足る」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞}あげる(あぐ)。事をおこす。「挙兵=兵を挙ぐ」「挙行」。
  3. {動詞}あげる(あぐ)。多くの中からすぐれた人や物をもちあげる。「推挙」「挙賢才=賢才を挙ぐ」〔論語・子路〕
  4. {動詞}あげる(あぐ)。問題点やめぼしいものをとりあげる。「列挙」「検挙」。
  5. {動詞}あげる(あぐ)・あげられる(あげらる)任官試験を受ける。試験に受かってとりたてられる。「挙進士=進士に挙げらる」。
  6. {動詞}あげる(あぐ)。都市を占領する。「三十日而挙燕国=三十日にして燕国を挙ぐ」〔戦国策・斉〕
  7. {名詞}行動。ふるまい。「壮挙」。
  8. {名詞}「科挙(カキョ)(官吏登用試験)」の略。「赴挙至京=挙に赴き京に至る」〔孟挑・唐詩紀事〕
  9. {副詞}あげて。こぞって。…じゅうをあげてみな。全部。「挙国=国を挙げて」「挙世皆濁=世を挙げて皆濁る」〔楚辞・漁父〕
  10. {副詞}ことごとく。みんな。《類義語》尽。「挙集目前=挙く目前に集まる」。

字通

[会意]旧字は擧に作り、與(与)+手。〔説文〕十二上に「對擧するなり」とあり、揚に「飛擧」、掲に「高擧」、抍に「上擧」というのに対し、𦥑(きよく)(両手)に従う意を以て解し、字を「與聲」とする。〔説文〕に「與聲」とする八字のうち、この字だけが音が異なる。與は四手で与(象牙を組み合わせた形)をもつ形で平挙、擧はそれに手を加えて高く挙げる意。すべて儀礼をはじめ、ことを行うことを挙行という。共同の作業でみなが参与することであるから、みな、ことごとくの意となる。

莒(キョ・10画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkli̯o(上)。同音は筥”はこ”のみ。初出は西周末期の金文。部品の呂gli̯o(上)の初出は甲骨文。”いも”の語釈は『大漢和辞典』にない。また周の穆王の時代から呂国(河南省南陽県)

春秋諸国国に莒国があり、当時どのように書かれたか分からない。下掲『字通』は「古くは吕の形に作る」といい、台湾の小学堂大陸の国学大師も、吕を呂と同じに扱っており、初出は甲骨文

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)呂(リョ)・(キョ)(まるいものがつらなる)」。

語義

  1. {名詞}いも。ころころしたいも。
  2. {名詞}周代の国名。今の山東省莒(キョ)県の地。

字通

[形声]声符は呂(りよ)。古くは吕(きよ)の形に作る。〔説文〕一下に「齊にては、芋を謂ひて莒と爲す」とあり、いもをいう。また、国名、地名。わが国の古訓に「ハコ」とよむのは、筥と通用の字とみたのであろう。

虛/虚(キョ・11画)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxi̯o(平)またはkʰi̯o(平)。

学研漢和大字典

形声。丘(キュウ)は、両側におかがあり、中央にくぼんだ空地のあるさま。虚(キョ)は「丘の原字(くぼみ)+(音符)虍(コ)」。虍(とら)とは直接の関係はない。▽呉音コは虚空(コクウ)・虚無僧(コムソウ)のような場合にしか用いない。去(くぼんで退く)・屆(キョ)(くぼんだ脇(ワキ)の下)・渠(キョ)(くぼんだみぞ)などと同系。類義語に空。旧字「虛」は人名漢字として使える。▽「むなしい」は「空しい」とも書く。

語義

  1. {形容詞・名詞}むなしい(むなし)。くぼんで、中があいているさま。転じて、中身がなくうつろであるさま。から。《対語》⇒実。《類義語》空。「空虚」。
  2. (キョニス){動詞}むなしくする(むなしくす)。うつろにする。からにする。「虚己=己を虚しくす」。
  3. {形容詞・名詞}漢方医学では、精気や血液がなくなって、うつろになったさま。また、その症状。《対語》実。「虚弱」。
  4. {形容詞・名詞}いつわり(いつはり)。中身がうつろな。実質がともなわないさま。うわべだけ。うそ。むだ。「虚言」。
  5. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のみずがめ座に含まれる。とみて。
  6. 《日本語での特別な意味》きょ。油断。

字通

[形声]声符は虍(こ)。旧字は虛に作り、その字の下部はもと丘の形。丘は墳丘。古くはそこに聖地を作り、また墓地とされた。〔説文〕八上に「大丘なり」と訓し、「崑崙(こんろん)丘、之れを崑崙の虛と謂ふ」と〔山海経〕の説を引く。崑崙はもとジグラット形式の神殿や聖所を意味する語であったらしく、死後の霊の帰するところとされた。廃墟・墟址の意より、現実に存しないもの、空虚・虚無の意となり、虚偽・虚構の意となる。

蘧(キョ・20画)

初出は前漢の篆書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰi̯waɡ(平)。同音は籧”たかむしろ”、醵”さかもり”、豦”戦ってほどけない”、遽”早追い”。呉音は「ゴ」。

論語では衛国の大夫、蘧伯玉の姓氏として登場。固有名詞のため、論語の時代に文字は無くとも、さまざまな文字が置換候補になり得る。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)遽(キョ)(はっとする、不安定に動く)」。

語義

  1. {名詞}草の名。たけが高くて、ゆらゆらする。かわらなでしこ。「蘧麦(キョバク)」とも。
  2. 「芙蘧(フキョ)」とは、蓮(ハス)の花。《同義語》⇒芙蕖。
  3. 「蘧蘧(キョキョ)」とは、つ物のたけが高いさま。づぎょっとして悟るさま。
  4. 「蘧然(キョゼン)」とは、はっとするさま。▽遽(キョ)に当てた用法。《同義語》⇒遽然。「成然寐、蘧然覚=成然として寐り、蘧然として覚む」〔荘子・大宗師〕

字通

(条目無し)

新漢語林

形声。艹(艸)+遽。

  1. 草の名。なでしこ。かわらなでしこ。蘧麦。
  2. はす(蓮)。
  3. 蘧蔬(キョソ)は、まこもだけ。まこも(真菰)に生ずる菌。
  4. 蘧廬(キョロ)は、はたごや。旅館。
  5. ものの形容。「蘧蘧」

中日大字典

(1) 驚き喜ぶさま.

〔蘧蘧〕同前.
(2) 〈姓〉蘧(きよ)

御(ギョ・11画)

論語 御 金文
遹簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯o(去)で、禦・魚・漁・衙・語・馭などと同音。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、原字は「午(きね)+卩(ひと)」の会意文字で、堅い物をきねでついて柔らかくするさま。御はそれに止(あし)と彳(いく)を加えた字で、馬を穏やかにならして行かせることを示す。

つきならす意から、でこぼこや阻害する部分を調整して、うまくおさめる意となる。「ギョ」(防ぐ)の代用字としても使う。「防御・制御」また、「ギョ」(馬車を操る)の代用字としても使う。「御・御者・制御」。

類義語の治(チ)は、自然物に人工を加えて整えること。駕(ガ)は、馬の背に馬具や車の柄を載せること、乗ること。

意味

  1. {動詞}おさめる(をさむ)。でこぼこをならして調整する。転じて、家や国家を平和におさめる。「統御」「以御于家邦=以て家邦を御む」〔孟子・梁上〕
  2. (ギョス){動詞}馬を調教しておとなしく手なずける。思うとおりにあやつる。《同義語》⇒馭(ギョ)。「御者(ギョシャ)(=馭者)」「御風=風に御す」「樊遅御=樊遅御す」〔論語・為政〕
  3. {名詞}馬を使いこなすこと。また、馬をならす役目。「執御=御を執る」。
  4. (ギョス){動詞}はべる。天子のそば近く仕えてその言いつけに従い起居の調和をとる。「進御(シンギョ)(天子の身辺にはべる)」。
  5. {名詞}天子のそばに仕える人。「女御(ジョギョ)・(ニョウゴ)(天子のそば近くに仕える正妃以外の夫人)」「侍御(ジギョ)(天子のそばに仕える侍臣の官)」。
  6. {形容詞}皇帝の動作や所有物につけて、尊敬をあらわすことば。「御衣」「御苑(ギョエン)」「御幸」。
  7. {動詞}ふせぐ。▽禦(ギョ)(ふせぐ)に当てた用法。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①お。おん。おおん(おほん)。み。相手の動作や持ち物につけて、尊敬の意をあらわすことば。「御便り」「御身(オンミ)」「御台所(ミダイドコロ)」。
    ②自分の動作をあらわす語につけて、相手に対する謙そんの意をあらわすことば。「御説明申しあげます」。
    ③相手の親族をさすときにつけて、尊敬の意をあらわすことば。「嫁御」。

字通

[形声]声符は卸(しや)。卸は御の初文。卜辞や金文には多く卸の形を用いる。字はもと午と卩(せつ)とに従い、午は杵形の呪器。これを拝(卩)して神を降ろし迎え、邪悪を防いだ。ゆえに「むかう」「ふせぐ」が字の初義。卜辞に「茲(こ)れを御(もち)ひよ」、金文に「事(まつり)に御(もち)ふ」「厥(そ)の辟(きみ)に御(つか)ふ」のようにいう。神聖を迎え、神聖につかえる意であったので、のちにもすべて尊貴の人に関して用いる語となった。〔説文〕二下に「馬を使ふなり。彳に從ひ、卸に從ふ」として古文の馭の字をあげるが、御と馭とは別の字である。〔説文〕はまた卸字条九上に「車を舍(す)てて馬を解くなり。卩・止・午に從ふ」とし、馬より下りる意とするが、初形は午と卩、杵を拝跪する形、すなわち神降ろしの形である。のち卸と御とは別の字となった。

魚(ギョ・11画)

論語 魚 金文
魚父乙鼎・殷代末期または西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯o(平)。

学研漢和大字典

象形。骨組みのはった魚の全体を描いたもの。齬(ゴ)(かたい物がごつごつつかえる)と同系。鯁(コウ)(さかなのかたい骨)・骾(コウ)(かたい骨がつかえる)・硬(かたくつかえる)は、語尾がxに転じたことば。付表では、「雑魚」を「ざこ」と読む。

語義

  1. {名詞}うお(うを)。さかな。かたい背骨のあるさかな。「猶縁木而求魚也=なほ木に縁りて魚を求むるがごとし」〔孟子・梁上〕。「猶魚之有水也=なほ魚の水有るがごとし」〔蜀志・諸葛亮〕
  2. {名詞}唐代に官吏が腰につけた飾り。さかなの形をしている。「魚袋」。
  3. {代名詞}われ。第一人称。▽吾・我に当てた用法。「魚語女=魚は女に語げん」〔列子・黄帝〕

字通

[象形]魚の形。〔説文〕十一下に「水蟲なり。象形。魚尾と燕尾と相ひ似たり」という。金文に魚を図象とするものが多く、王室の祭祀に、魚を供薦する部族があったのであろう。〔春秋、隠五年〕「公、魚を棠に矢(つら)ぬ」という儀礼のことがしるされている。〔詩〕にみえる結婚の祝頌詩に、魚を象徴として歌うものが多い。

圉(ギョ・11画)

圉 金文
史墻盤・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯o(上)。「ゴ」は呉音。

学研漢和大字典

会意。幸の原字は上下から手首をはさむ手かせを描いた象形文字。圉は「囗(かこい)+幸(手かせ)」で、罪人に刑を加え、囲いの中に押しこめることをあらわす。ギョという音は行動を押さえ取り締まる意を含む。馭・御・禦と同系。

語義

  1. {名詞}ひとや。罪人を押しこめる所。ろうや。転じて、周囲をかこんだ領域。《同義語》⇒圄(ギョ)。
  2. {名詞}馬飼い。馬を御する人。《同義語》⇒馭。「圉人(ギョジン)」。
  3. (ギョス){動詞}行動を押さえ縛る。▽「制御」の御に当てた用法。
  4. (ギョス){動詞}相手の行動をふさぎとめる。▽禦に当てた用法。「其来、不可圉=其の来たるや、圉すべからず」〔荘子・繕性〕

字通

[会意]囗(い)+幸。幸は手械(てかせ)の形。これを人の手に加えた形は執。拘執の人をおく所を圉という。〔説文〕十下に「囹圄(れいぎよ)、罪人を拘する所以なり。幸に從ひ、囗に從ふ」とし、また「一に曰く、(辺)垂なり。一に曰く、圉人、馬を掌る者なり」とする。この一曰両義は〔繫伝本〕にはみえない。囹圄は辺地に設けることも多く、馬の畜養も、そのような地で行われたのであろう。〔広雅、釈詁一〕に「臣なり」、〔墨子、天志下〕に「僕圉胥靡(しよび)」とは、臣僕の類をいう。

禦(ギョ・16画)

禦 金文
㝬簋・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯o(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。御は、もと「卩(ひと)+午(きね)」の会意文字で、人がきねを上下させ、かたい穀物に逆らってそれをつきならすさま。のち、それに彳印と止印(足)をそえて御の字となり、手ごわいものを制御し押さえる動作を示す。禦は「示(祭壇)+(音符)御」で、手ごわいものの進入をおさえとめる祭礼を示す。牾(ゴ)(さからってとめる)・御(手向かう者をおさえる)・逆(手向かう者をおさえる)などと同系類義語に防。「御」に書き換えることがある。「防御・制御」。

語義

  1. {動詞}ふせぐ。じゃまをして通さない。逆らって抵抗する。おさえてとめる。《類義語》防。「誰能禦之=誰か能くこれを禦がんや」〔孟子・梁上〕
  2. (ギョス){動詞・名詞}たたりや悪神の進入をふせぐため、まじないをする。また、そのための古代の祭礼。御祭ともいう。▽風神が荒れるのをふせぐため、犬の皮を張るなどした漢代の風習はその名残。

字通

[形声]声符は御(ぎよ)。御は禦の初文。〔説文〕一上に「祀るなり」とし、御声とする。卜文・金文に字を■(午+卩)・御に作り、また禦に作るものもあり、みな同字である。午は杵形。これを拝して神を降し「御(むか)え」、災禍を「御(ふせ)ぐ」儀礼を意味する。それで御は多く神事的な儀礼や神聖のことに関して用いる。ゆえにまた神示の意で示を加えるが、字義は守禦・防禦を主とする限定的な用法となった。

凶(キョウ・4画)

確実な初出は楚系戦国文字甲骨文があるともするが出典不明。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxi̯uŋ(平)。同音に洶”水が湧く”、兇”恐れる”、匈”胸”。

学研漢和大字典

会意。「凵(あな)+×印」。落とし穴にはまってもがく意を示す。吉(充実する)の反対で、むなしい意から悪い意となった。空(むなしい)・孔(あな)・胸(むねの空洞→胸郭)と同系。「兇」の代用字としても使う。「凶・凶悪・凶漢・凶器・凶行・凶刃・凶変・凶暴・元凶」。

語義

  1. (キョウナリ){形容詞}むなしいさま。何もとれないさま。「凶年」「河内凶、則移其民於河東=河内凶なれば、則ち其の民を河東に移す」〔孟子・梁上〕
  2. (キョウナリ){形容詞・名詞}悪いさま。災い。不吉なこと。《対語》⇒吉。《類義語》咎(キュウ)・禍・災。「凶礼(喪式)」「応之以乱則凶=これに応ずるに乱を以てすれば則ち凶なり」〔荀子・天論〕
  3. (キョウナリ){形容詞・名詞}ひどいさま。悪いこと。《同義語》兇。「凶悪」「元凶(=元兇。悪者の親玉)」。
  4. (キョウナリ){形容詞}人を殺傷するような。《同義語》兇。「凶器」。

字通

[象形]凵(かん)は胸郭の形。その中央に文身としての×形を加える。枉死者の屍にこの文身を施すことによって、その霊を鎮め、災厄を祓うことができるとされた。すなわち凶礼を示す字である。身分ある人の胸には朱でえがく絵身を加えて、文という。文は人の正面形の胸に絵身を加えた形で、卜文・金文の字は、文身として∨や心字形を加えるものが多い。婦人のときには乳房をモチーフとするので、爽・奭・爾の×や百はその形である。凶を〔説文〕七上に「惡なり。地穿たれて、其の中に交陷するに象るなり」と人の陥没する意とするが、凶が凶事における胸部の文身を示す形であることは、兇・匈・胸など、その系列の字形から考えても、明らかなことである。

共(キョウ・6画)

論語 共 金文 論語 共
禹鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はɡʰi̯uŋ(去)。平声の音は不明。

学研漢和大字典

会意。上部はある物の形、下部に左右両手でそれをささげ持つ姿を添えたもの。拱(両手を胸の前にそろえる)・供(両手でささげる)の原字。両手をそろえる意から、「ともに」の意を派生する。類義語の倶(トモニ)(連れだって、そろって)と近いが、おもに倶は副詞に用い、共は動詞(ともにす)に用いる。熟語ではも用いられる。

意味

  1. {副詞}ともに。→語法「①」。
  2. {副詞}ともに。→語法「②」。
  3. {前置詞}とともに。→語法「③」。
  4. {動詞}ともにする(ともにす)。共有する。いっしょにわけあう。「三代共之=三代これを共にす」〔孟子・滕上〕
  5. (キョウス){動詞}両手を胸の前であわせる。▽拱に当てた用法。▽上声に読む。「共手(=拱手)」「子路共之=子路これに共す」〔論語・郷党〕
  6. (キョウス){動詞}両手でうやうやしくささげ持つ。たいせつに保持する。▽恭に当てた用法。平声に読む。「靖共爾位=爾の位を靖共す」〔詩経・小雅・小明〕
  7. (キョウス){動詞}物をそろえてささげる。▽供に当てた用法。平声に読む。「共張」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①とも。たとえ…でも。
    ②ども。つ人をあらわすことばについて、複数をあらわす。づ第一人称について、へりくだった意をあらわす。「わたくし共」。
    ③「共産党」「共産主義」の略。「反共」「日共」。

語法

①「ともに」とよみ、「いっしょに」「みなで」と訳す。多数が共同・共通でという意を示す。《類義語》与・倶(グ)。「而卒惶急、無以撃軻、而以手共搏之=而(しか)うして卒(にわ)かに惶急して、もって軻を撃つ無(な)くして、手をもって共にこれを搏(う)つ」〈あわてふためき、荊軻を撃つ道具が見当たらず、やむなくみなで素手でなぐりかかった〉〔史記・刺客〕
②「ともに」とよみ、「全部で」「合計で」と訳す。すべてに目を通した上で、あわせてという意を示す。「自第十八将以下共七将、在府畿=第十八将自(よ)り以下共に七将、府畿に在り」〈第十八将軍以下、合計七(人の)将軍は、首都に駐屯する〉〔宋史・兵〕
③「~とともに」とよみ、「~といっしょに」と訳す。対象・従属の意を示す。「昨日共君語、与余心膂然=昨日君と共に語り、余と心膂(しんりょ)然たり」〈昨日君と語りあい、私とは心臓と背骨のよう(に親密)であると思った〉〔白居易・贈杓直〕

字通

[会意]𠬞(きよう)(廾)と同じく左右の手。卜文は𠬞に作り、金文はそれぞれ上に丨(こん)形のものをもって奉ずる形で、恭の意に用いる。すなわち共は恭の初文である。〔説文〕三上に「同(とも)にするなり。廿(しふ)・廾(きよう)に從ふ」とし、〔段注〕に廿を二十人と解して、二十人がみな竦手(しようしゆ)して拝する形とするが、廿は捧げるものの形、おそらく礼器であろう。礼器を奉じて拱手するので恭の意となる。〔儀礼、郷飲酒礼〕「退きて共す」は拱手。左右の手を共にするので共同の意となり、また供献の意となる。

向(キョウ・6画)

向 金文
向卣・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はxi̯aŋ(去・字母「曉」)。字母「書」の去声は音不明。

学研漢和大字典

向 解字会意。「宀(やね)+口(あな)」で、家屋の北壁にあけた通気孔を示す。通風窓から空気が出ていくように、気体や物がある方向に進行すること。▽姓のときは、ショウと読む。響(音波がむこうへ進行していく)・亨(キョウ)(かおりが天にむかって進む)・香(においをのせた空気がむこうへ流れていく)・卿(ケイ)(むかい合う)と同系。

類義語に会・返。「嚮」の代用字としても使う。「意向」。

意味

  1. {動詞}むく。むかう(むかふ)。ある方向をむいて進行する。「向上=上に向かふ」「裴方向壁臥=裴方に壁に向きて臥す」〔世説新語・容止〕
  2. {名詞}むき。むかう方向。
  3. {動詞}顔をまともにむけて従う。「向背」。
  4. {前置詞}中世の俗語で、於と同じく、動作の向かうところを示す前置詞。▽訓読では読まない。「洒向枝上花=向枝上の花に洒ぐ」〔王安石・明妃曲〕
  5. {副詞}さきに。→語法「①」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①むこう(むかう・むかふ)。あちらがわ。
    ②むかう(むかふ)。反抗する。「手向かう」。
    ③むく。…に合う。…にちょうどよい。

語法

①「さきに」とよみ、「以前に」「先ほど」と訳す。日時が先にむかって進行したことから、転じて、過去の意を示す。《類義語》嚮・郷・代。「尋向所誌=向(さき)に誌(しる)せし所を尋ぬ」〈その時にしるしをつけた場所を訪ねる〉〔陶潜・桃花源記〕▽「向者=さきには」も、意味・用法ともに同じ。
②「さきに」「もし」とよみ、「もし以前に~だったなら」と訳す。過去の仮定条件の意を示す。「爾向不取、我豈能得=爾(なんぢ)向(も)し取らずんば、我あによく得んや」〈君がもし(その時に剣を)拾い上げてくれなかったら、どうして私の手元に戻ってくることがあっただろうか〉〔晋書・郭翻〕▽「向~則(便)…」と多く用いる。
③「向使(令)」は、「もし」「たとい」とよみ、「もしも~だったならば」と訳す。過去の仮定条件の意を示す。▽「さきに~しめば」とよむこともある。「向使傭一夫於家、受若直怠若事、又盗若貨器、則必甚怒而黜罰之矣=向使し一夫を家に傭(やと)ふに、若(なんぢ)の直を受けて若(なんぢ)の事を怠り、また若(なんぢ)の貨器を盗まば、則(すなは)ち必ず甚だ怒りてこれを黜罰(ちゅつばつ)せん」〈もし一人の召使いを家で雇い、君の給料を受け取り、君の仕事をしない、その上君の持ち物まで盗んだら、必ず激怒し、追い出して罰を与えるはずだ〉〔柳宗元・送薛存義序〕

字通

[会意]ケイ 外字(けい)(窓の形)+口。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器の形。窓は神明を迎えるところ。そこに神を迎えて祀った。〔説文〕七下に「北に出づる牖(まど)なり。宀(べん)に從ひ、口に從ふ」とし、〔段注〕に口を窓枠の形とするが、窓枠は冏(けい)の形にしるす。古く地下形式の住居は、中央に空庭を設けて光を取り、そこから横穴式に四方に房を設けた。その窓明かりを神明にみたて、月光の入るところを明として祀った。〔儀礼、士虞礼記〕「祝(しゆく)、從ひて牖郷(いうきやう)を啓(ひら)く」とは、その窓を開くことをいう。嚮はその向(まど)に郷(むか)う意。姓に用いるときは、ショウの音でよむ。

匡(キョウ・6画)

論語 匡 金文
尹氏貯良簠・西周末期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はkʰi̯waŋ(平)。

論語では孔子一行が襲撃された町の名として登場。衛国領、鄭国領二説がある。宋国領とも言う。

匡:(1)衛国領。現河南省長垣県〔上〕。(2)鄭国領。現河南省扶溝県〔下〕。

学研漢和大字典

会意兼形声。「匚(わく)+(音符)王(大きく広がる)」で、わくの中いっぱいに張る意を含む。廓(カク)(家や町のそとわく)や槨(カク)(棺おけのそとわく)は、匡の入声(ニッショウ)(つまり音)に当たる。広・拡と同系。類義語の矯正の矯(ためる)は、押し曲げてこのましい姿に整えること。直は、まっすぐにすること。正は、誤りを道理に合うように直すこと。

語義

  1. {動詞}ただす。わくの中いっぱいに押しこめて形を直す。転じて、型にはずれたものを型通りの形に修正する。「匡之直之=これを匡しこれを直す」〔孟子・滕上〕
  2. {名詞・形容詞}背が曲がっているさま。▽咋(オウ)に当てた用法。
  3. {名詞}地名。
    (ア)春秋時代の衛の地。河南省長垣(チョウエン)県西南にあたる。
    (イ)春秋時代の宋(ソウ)の地。河南省聯(スイ)県西にあたる。

字通

[形声]正字は■(匚+㞷)に作り、㞷(こう)声。〔説文〕十二下に「飯器、筥(きよ)なり」というのは筐の意。竹部五上に「𥴧(きよ)、牛に飮(みづか)ふ筐なり。方を筐と曰ひ、圜(ゑん)を𥴧と曰ふ」とある筐を、匡の異文とする。匡に方の意があり、匡正・匡救の意に用いる。㞷は王の上にシ 外字(止(あし))を加える形。軍などの出行のときにあたって、聖器としての鉞(まさかり)(王はその頭部の形)に止を加え、一種の授霊の儀式をする。それを秘匿のところで行うことを■(匚+㞷)という。それで軍行にあたって、〔詩、小雅、六月〕「以て王國を匡(ただ)せ」のようにいう。金文には辵に従う字があり、〔麦尊〕「明命に■(辶+匚+㞷)(こた)へん」のように用いる。みな征命を行う意。征伐して王命を布き明らかにすることが、字の初義であった。

狂(キョウ・7画)

論語 狂 金文 論語 狂
孟員鼎・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgʰi̯waŋ(平)。去声の音は不明。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、王は二線の間にたつ大きな人を示す会意文字、または末広がりの大きなおのの形を描いた象形文字。狂は「犬+(音符)王」で、大げさにむやみに走りまわる犬。あるわくを外れて広がる意を含む。徨(コウ)(むやみにさまよう)・逛(キョウ)(やたらに歩き回る)・晃(コウ)(むやみと広がる光)などと同系のことば。

意味

  1. {動詞・形容詞}くるう(くるふ)。なにをしでかすかわからない。むちゃなさま。「狂妄(キョウモウ)」。
  2. {名詞}きい(きひ)。気のくるった人。また、なにをしでかすかわからない人。「狂人」「癲狂(テンキョウ)(発作的に気がくるう病気)」。
  3. (キョウナリ)(キャウナリ){形容詞・名詞}普通の型をこえてスケールが大きいさま。常識にとらわれないさま。また、そのような人がら。「狂狷(キョウケン)」「古之狂也肆」〔論語・陽貨〕。「狂者進取=狂者は進取す」〔論語・子路〕
  4. {形容詞}むちゃではげしいさま。「狂瀾(キョウラン)」。
  5. {名詞}くるい(くるひ)。あることにむちゅうになって、常軌をはずれること。また、その人。「殺人狂」。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①くるう(くるふ)。つ調子がおかしくなる。「時計が狂う」づねらいがはずれる。
    ②こっけいである。「狂言」「狂歌」。

字通

正字は㞷に従い、ごう声。㞷は〔説文〕六下に「艸木妄生するなり」とするが、卜文・金文の字形は、鉞頭の形である王の上にシ 外字あし(止)を加えた形。おそらく出行にあたって行われる呪儀で、魂振りの意があり、神の力が与えられるのであろう。秘匿のところでその礼を行うのを匡といい、神意を以て邪悪をただすことを匡正という。その霊力が獣性のもので、誤って作用し、制御しがたいものになることを狂という。〔説文〕十上に「狾犬セキケンなり」と嚙み癖のある犬の名とするが、発狂・狂痴の状態を言う語である。〔書、微子〕「我は其れ狂を發出せん」、〔論語、公冶長〕「我が黨の小子狂簡にして斐然として章を成す」、〔論語、子路〕「子曰く、中行を得て之と與にせざるときは、必ずや狂狷か」のように、古くから理性と対立する逸脱の精神として理解された。清狂・風狂なども、日常性の否定に連なる一種の詩的狂気を示す語であった。

訓義

くるう。狂気。おろか。あわただしい。

供(キョウ・8画)

供 篆書
(篆書)

初出は後漢の『説文解字』。カールグレン上古音はki̯uŋ(平/去)。この文字は、早くとも秦漢帝国以降に「共」と書き分けられるようになった文字と思われる。

学研漢和大字典

会意兼形声。共は「□印(ある物)+両手」の会意文字で、供の原字。□印で示されたある物を左右の両手で、うやうやしくささげるさまを示す。ささげる動作は、両手を同時に動かすため、共はともにの意に転じ、供の字がその原義をあらわすようになった。供は「人+(音符)共」。⇒共

恭(うやうやしい)・拱(キョウ)(左右の手を組む、こまぬく)と同系。異字同訓に備。「饗」の代用字としても使う。「供応」▽「複数を表すことば、ども」の意味の場合、かな書きが望ましい。

意味

  1. {動詞}そなえる(そなふ)。左右の手をそろえて曲げ、その間にうやうやしく物をささげ持つ。物をそなえる意。「供養」「有献蓮華供仏者=蓮華を献げて仏に供ふる者有り」〔南史・晋安王子懋〕
  2. (キョウス){動詞}差し出す。差しあげる。「提供」「王之諸臣、皆足以供之=王の諸臣、皆以てこれを供するに足る」〔孟子・梁上〕
  3. (キョウス){動詞}役だてる。「供職(職について役にたつ、奉仕する)」▽平声に読む。
  4. 「口供」「供述」とは、裁判に役だてる申したて。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①とも。身分の高い人に付き従うこと。また、その人。
    ②ども。お供の衆の意から、名詞の下について、複数であることをあらわすことば。
    ③ども。一人称代名詞について、へりくだった気持ちをあらわすことば。「身供」。

字通

[形声]声符は共(きょう)。共は両手でものを奉ずる形で、供の初文。〔説文〕八上に「設くるなり」と供設の意とし、「一に曰く、供給するなり」という。金文に共を供・恭の意に用い、恭にはまた龔(きょう)の字を用いる。共は玉器を奉ずる形、龔は龍(竜)形の呪器を奉ずる形であろう。供も、もと神事に関する供設の意であった。

享(キョウ・8画)

享 金文
邾公華鐘・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はxi̯aŋ(上)。

学研漢和大字典

象形。亨(コウ)と同じく、南北に通じる城郭の姿を描いたもので、さわりなくとおる、すらりと通じるの意を含む。また、祈りや接待の気持ちを相手に通じさせる、また、その気持ちをすなおにうけ入れるの両方の意を派生した。のち、亨(コウ)はおもに、とおる(亨通(コウツウ))の意に、享(キョウ)はおもに、うける(享受)の意に分用された。象形。亨(コウ)と同じく、南北に通じる城郭の姿を描いたもので、さわりなくとおる、すらりと通じるの意を含む。また、祈りや接待の気持ちを相手に通じさせる、また、その気持ちをすなおにうけ入れるの両方の意を派生した。のち、亨(コウ)はおもに、とおる(亨通(コウツウ))の意に、享(キョウ)はおもに、うける(享受)の意に分用された。

語義

  1. (キョウス)(キャウス){動詞}神や客にごちそうをしてもてなす。▽供え物のかおりを神に通わせることから。《同義語》⇒饗・亨。「享宴(キョウエン)」「享于祖考=祖考に享す」〔詩経・小雅・信南山〕
  2. {動詞}うける(うく)。供え物や祈りをすなおにうけ入れる。また、もてなしをうける。《同義語》⇒饗。「享受」「使之主祭而百神享之=これをして祭を主らしむれば百神もこれを享く」〔孟子・万上

字通

[象形]卜文・金文の字形は、上部は京・高に近い建物、下部はその台基の形。字は亨・享・亯のように釈されるが、金文では享(饗)の意に用いる。〔説文〕五下に「獻ずるなり。高の省に從ふ。曰(えつ)は孰(じゆく)(熟)、物を進むる形に象る」とし、建物と烹飪(ほうじん)と、両義を含めて解するが、下部は台基の形である。金文では先人を祀るに「用(もつ)て享し用て孝せん」のように享といい、生人に供するときには「用て倗友(ほういう)を饗せん」のように饗という。金文に亯の下にさらに京をそえた享 キョウ 外字という字があり、再命のことを「ショウ 外字享 キョウ 外字(しょうきゃう)す」という。享 キョウ 外字は二層の建物で、ゆえに再・続の意となる。そこに先人を祀ることを享といい、その祭祀を享(う)けることをまた享という。副詞として〔大盂鼎〕「享(よ)く奔走して天畏を畏れよ」のようにもいう。のち饗と通じて、饗食の意にも用いる。

恭(キョウ・10画)

論語 恭 金文大篆 論語 恭 古文
(金文大篆・古文)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯uŋ(平)。同音は「供」など。うち金文が存在する字に「拲」(手かせ)があり、やはり同音の拱(こまねく)に通じると『大漢和辞典』にある。また「廾」(ささげる)は甲骨文が存在する。

孔子在世当時は「キョウ」(カ音ki̯əŋ)と書かれていた可能性がある。また『字通』は、「金文に共を供・恭の意に用い」という。

『学研漢和大字典』による音の変遷
上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kɪuŋ kɪoŋ koŋ kuəŋ gōng
kɪəŋ kɪəŋ kɪəŋ tšiəŋ jīng

学研漢和大字典

会意兼形声。共(キョウ)は、廿型のものを両手でささげることを示す会意文字。恭は「心+(音符)共」で、目上の人の前に、物をささげるときのかしこまった気持ち。拱(キョウ)(両手をそろえてかしこまる)と同系。類義語に慎。

意味

{形容詞・名詞}うやうやしい(うやうやし)。かしこまっているさま。ていねいで慎み深いさま。慎んで物をささげるような気持ち。《同義語》⇒共。《対語》⇒倨(キョ)・傲(ゴウ)・驕(キョウ)。「恭敬」「其行己也恭=其の己を行ふや恭し」〔論語・公冶長〕

字通

[形声]声符は共(きよう)。共の金文形は玉などの呪器を奉ずる形で、恭敬の意を含む。〔説文〕十下に「肅(つつし)むなり」という。金文に〔伯■(戈+冬)𣪘(はくしゆうき)〕「徳を秉(と)ること共純(恭純)」、〔叔向父禹𣪘(しゆくしようほうき)〕「明徳を共(つつし)む」のように共を用いる。金文に別に龔・■(龍+廾+兄)などの字があって、供・恭の意に用いる。〔三体石経〕の古文にその字がある。龍(竜)形の呪器を奉ずる儀礼であるらしく、兄は巫祝。その呪儀は巫祝者の行うところであった。

恐(キョウ・10画)

論語 恐 金文
(金文・「中山王□鼎」)

初出は戦国時代末期の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯uŋ(上)。同音は存在しない。去声は音不明。部品の巩(カ音不明)”いだく・かかえる”の派生字である鞏(=𢀜、カ音ki̯uŋ)に、”おそれる”の語釈を『大漢和辞典』が載せる。
鞏 大漢和辞典

なお「凶」にも”おそれる”の語釈が『大漢和辞典』にあるが、カ音がxi̯uŋで音通しない。

学研漢和大字典

論語 恐 解字 論語 恐

会意兼形声。上部の字(音キョウ)は「人が両手を出した姿+(音符)工」からなり、突き通して穴をあける作業をすること。恐はそれを音符とし、心を加えた字で、心の中がつき抜けて、穴のあいたようなうつろな感じがすること。攻(コウ)(穴を貫く)・空(うつろな)と同系。

類義語の懼(ク)はびくびくして落ち着かぬ感じ。怖(フ)は、心が布のように薄く、ひやひやすること。怯は、おじおじと心がしりごみをすること。怕は、ひやひやして心配すること。畏は、威圧を感じて心がすくむこと。宵(テキ)は、いまにも大事がおこりはしないかと心細く、ひやひやすること。虞は、あらかじめ心をくばること。

」の代用字としても使う。「戦々恐々」▽「おそろしい」は「怖ろしい」とも書く。

語義

  1. {動詞}おそれる(おそる)。おどす。こわがらせる。こわがる。また、そうなりはしないかと心配する。《同義語》⇒虞(グ)。《類義語》懼(ク)。「恐怖」「燕君臣皆恐禍之至=燕の君臣皆禍の至らんことを恐る」〔史記・荊軻〕
  2. {副詞}おそらくは。…するかもしれない。こうなりはせぬかと心配だ。ひょっとしたら。「恐終敗事=恐らくは終に事を敗らん」〔近思録〕
  3. 《日本語での特別な意味》
    ①おそろしい(おそろし)。こわい。
    ②おそれ。悪いことの起こる可能性。

字通

[形声]声符は巩(きよう)。巩は呪具の工を掲げる形で、神を迎え、神を送るときの所作。〔説文〕十下に「懼(おそ)るるなり」とあり、神に対して恐懼することをいう。巩巩は金文の〔毛公鼎〕に「烏虖(ああ)懼(おそ)るる余(われ)小子、家艱(かん)に湛(しづ)み、永く先王に巩(おそ)れあらしめんとす」、また〔師■(嫠の厂の中女→又)𣪘(しりき)〕に「巩(つつし)みて王に告ぐ」のように用い、恐の初文。のちその心情を示す意で恐となった。

敎/教(キョウ・11画)

教 金文
散氏盤・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkŏɡ(去)。平声の音は不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。もと「攴(動詞の記号)+(音符)爻(コウ)(まじえる)」で、さらに子を加えた字もある。子どもに対して、知識の受け渡し、つまり交流を行うこと。▽知識の交流を受ける側からいえば学・効(習う)といい、授ける側からは教という。交(まじえる)・較(コウ)・(カク)(まじえ比べる)・效(コウ)(=効。交流して習う)などと同系。類義語の誨は、よく知らない人をおしえさとす。訓は、物事の筋を通しておしえる。

意味

  1. {動詞}おしえる(をしふ)。先生とでしの間に、知識を交流させること。先生からでしに、知識・経験・技術を受け渡して知らせる。また、そうして導く。「教化」「挙善而教不能=善を挙げて能はざるを教ふ」〔論語・為政〕
  2. {名詞}おしえ(をしへ)。おしえる事がら。また、その内容。「敬奉教=敬んで教へを奉ぜん」〔史記・荊軻〕
  3. {名詞}おしえ(をしへ)。神や仏のおしえ。また、その内容。「教義」「教会」。
  4. {名詞}領主の命令。「教令」。
  5. {名詞}宗教。「回教」。
  6. {助動詞}しむ。せしむ。→語法▽平声に読む。

語法

「教~…」は、「~(をして)…せしむ」とよみ、「~に…させる」と訳す。使役の意を示す。「遂教方士殷勤覓=遂(つひ)に方士をして殷勤(いんぎん)に覓(もと)め教む」〈それで道士に念入りに捜索させた〉〔白居易・長恨歌〕▽本来の意味は「教えて~させる」で、後に転じて使役となった。

字通

[会意]旧字は敎に作り、爻(こう)+子+攴(ぼく)。爻は屋上に千木(ちぎ)のある建物。そこに子弟が学んだので、■(上下に爻+子)(こう)は學(学)の初文。古代のメンズハウスは神社形式に近い建物であったらしく、そこに貴族の子弟たちを集め、長老たちが伝統や儀礼の教育をした。卜辞に多方(多邦)の小子・小臣(貴族の子弟)を集めて教戒することを卜する例がある。金文の〔大盂鼎〕にも王が「小學に卽(つ)く」ことをしるしており、他に「學宮」の名のみえるものもある。周代教学の制度は〔周礼、春官、大司楽〕〔礼記、文王世子〕などに記すところが参考となる。〔説文〕三下に「上の施す所は、下の效(なら)ふ所なり」と敎・效(効)の声韻の関係を以て訓し、字を孝に従うとするが、孝は老の省文に従うもので、爻とは関係がない。■(上下に爻+子)に攴を加え、また𦥑(きよく)を加えた字は斅(がく)。攴は教権の鞭を示す。

鄕/郷(キョウ・11画)

論語 郷 金文
毛公鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はi̯aŋ(平)で、周初は「卿」と書き分けられなかった。台湾と大陸では、「鄉」が正字とされる。

学研漢和大字典

会意兼形声。卿(ケイ)・(キョウ)は「ごちそう+向かいあった人」からなる会意文字で、会食するさまをあらわす。饗(キョウ)の原字で、向きあう意を含む。郷は「邑(むら)+(音符)卿の略体」で、たがいに向かいあって、音や煙の通りあう村々。向(むく)・香(においがむこうへ動く)・響(音がむこうへ動く)などと同系。卿(ケイ)と混同しやすいので注意。

語義

  1. {名詞}さと。ふるさと。都市に対して、いなかのこと。「故郷」「郷党(いなかの村の仲間)」「郷人皆好之=郷人皆これを好む」〔論語・子路〕
  2. {名詞}行政区画の名。周代、一万二千五百戸の区画。郷大夫(キョウタイフ)を置いた。また、近世中国では、人口五万までの村々をあわせた区画。区とともに県に所属する。「郷長」「郷飲酒」。
  3. {動詞}むく。その方向に面する。▽向・嚮に当てた用法。去声に読む。「北郷戸(=北向戸。北側に入り口を設けた亜熱帯地方の家)」。
  4. {名詞・副詞}さきに。以前。かつて。▽向・嚮・曩・代などに当てた用法。去声に読む。「郷也、吾見於夫子而問知=郷に、吾夫子に見えて知を問ふ」〔論語・顔淵〕
  5. 《日本語での特別な意味》さと。ごう(がう)。昔、地方の行政区画の名。郡に所属する。「郷士」。

字通

[会意]キ 外字(き)+卯(ぼう)。卯は人の対坐する形。饗宴のときの盛食の器であるキ 外字(𣪘・簋)を中にして左右に相対坐する形。すなわち卿がその初形。卜辞に饗の意に用い、金文に「北郷」のように「嚮(むか)ふ」意や、「卿事寮」「正卿」「卿大夫」のように卿相の意に用い、また「曏(さき)に」の意に用いることがある。すなわち饗・嚮・卿・曏の初文。〔説文〕六下に「國の離邑、民の封ぜらるる所の郷なり。嗇夫(しよくふ)の別治なり。封圻(ほうき)の内の六郷は、六卿之れを治む」と郷里・郷遂の意とする。両旁を邑の相対う形と解するのである。また別に卿九下を録し「章(あき)らかなり」と訓し、卯を「事の制なり」とするが、卿は𣪘を挟(さしはさ)んで左右対坐する形で、饗の初文。その饗宴に与(あずか)るものを卿、その卿の領する采地を郷という。のちその采地の意を含めて、両邑相対する形に作るが、それは卜文・金文にみえず、後起の字である。

兢(キョウ・14画)

兢 金文
𩰬比盨・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はki̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

音の変遷
上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
kɪəŋ kɪəŋ kɪəŋ tšiəŋ jīng

会意。克(コク)は、重いかぶとをささえて、全身を緊張させた姿を示す会意文字。兢は、克の字を二つあわせたもので、ひどく緊張する意を示す。▽「説文解字」に「競(きそう、張りあう)なり」とある。克・戒(緊張していましめる)・極(ぴんと張った大黒柱)などと同系。競は別字。「恐」に書き換えることがある。「戦々恐々」。

意味

  1. {動詞}緊張して慎む。《類義語》戒。
  2. {形容詞}緊張してびくびくするさま。「戦戦兢兢(センセンキョウキョウ)」〔詩経・小雅・小旻〕

字通

[会意]二克(こく)に従う。篆文(てんぶん)は兄の上に丯(かい)を加えた形。〔説文〕八下に「競ふなり。二兄に從ふ。二兄競ふ意なり。丯(かい)聲に從ふ。讀みて矜(きょう)の若(ごと)くす。一に曰く、兢は敬なり」とし、丯を声とするが、声異なる。兄は巫祝が祝告を奉ずる象。丯はその祝告の器に加えた呪飾であろう。競は誩(きよう)に従い、言も祝禱の器。競は二人並んで祈る形で競進の意、兢は二人並んで謹んで祈る意であろう。〔詩、小雅、小旻〕「戰戰兢兢」、〔書、皋陶謨(こうようぼ)〕「兢兢業業」のようにいう。金文の〔毛公旅鼎〕に「つつしむ 外字(つつし)まざるあること毋(な)し」とあって恭敬の意に用いており、〔説文〕篆文の字形は、そこから出ているものであろう。

徼(キョウ・16画)

論語 徼 秦系戦国文字
(秦系戦国文字)

初出は秦系戦国文字、楚系戦国文字は見つかっていない。カールグレン上古音はkioɡ(平/去)。同訓近音に樛(kli̯ŏɡ)。こちらは戦国末期の金文「四年相邦樛斿戈」に見られる。

学研漢和大字典

形声。「彳(いく)+(音符)喪(ケキ)」。喪は涼(キョウ)(白い)の原字だが、ここでは単なる音符。徼は、引き締めて取り締まって歩く意。また、絞りあげる意から、むりをしてもとめる意を派生した。絞(コウ)(細く引き絞る)・覈(カク)(締め上げて調べる)などと同系。

意味

  1. {動詞}もとめる(もとむ)。得られそうもないことを得たいと願う。むりにもとめる。▽僥倖(ギョウコウ)の僥と混用して徼(ギョウ)とも読む。「徼福=福を徼む」「徼幸=幸ひを徼む」。
  2. (キョウス)(ケウス){動詞}むりに…のふりをする。「悪徼以為智者=徼して以て智と為す者を悪む」〔論語・陽貨〕
  3. {動詞・名詞}うかがう(うかがふ)。取り締まる。悪事を取り締まるために巡察する。また、見張りをおくとりで。国境。▽名詞の場合は去声に読む。「游徼(ユウキョウ)(巡察して回る)」「辺徼(ヘンキョウ)(国境の巡察。またそのとりで)」。
  4. {動詞}出口をしぼって追いつめる。
  5. {動詞}むかえうつ。▽邀(ヨウ)に当てた用法。「徼撃(ヨウゲキ)(=邀撃)」。
  6. {名詞}こまかに微妙なところ。▽竅(キョウ)(小さな穴、微妙なところ)に当てた用法。「常有欲以観其徼=常有欲以て其の徼を観る」〔老子・一〕

字通

[形声]声符は敫(きょう)。敫は架屍を殴(う)って、その呪霊によって呪詛を行う祭梟(さいきよう)(首祭)の俗を示す字。放と字の立意同じく、放の架屍の上に頭顱(とうろ)(されこうべ)を加えた形である。〔説文〕二下に「循(めぐ)るなり」とし、〔玉篇〕には「要なり、求なり」とする。外界に接する辺徼の地で、外族に対して行う呪儀であるから、また辺徼の意となり、神霊の祐助を請う行為であるから「徼(もと)む」といい、また「徼(むか)う」意となる。

興(キョウ・16画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音xi̯əŋ(平/去)。

学研漢和大字典

会意。舁は「左右の手+左右の手」で、四本の手でかつぐこと。興は「舁+同」で、四本の手を同じく動かして、いっせいにもちあげおこすことを示す。類義語に建。異字同訓に起。「昂」「亢」の代用字としても使う。「興奮」▽「愉快に思う」の意味では「キョウ」と読む。

語義

  1. {動詞}おこる。おきる(おく)。おこす。おきたつ。また、たちあがる。ささえて、もちあげる。「復興」「興国=国を興す」「夙興夜寐(シュクコウヤビ)(はやくおき、おそくねる→勤勉な暮らし)」〔詩経・衛風・氓〕
  2. {動詞}おこる。盛んになる。《対語》⇒廃・衰。「興廃」「興旺(コウオウ)(さかん)」「則民興於仁=則ち民仁に興る」〔論語・泰伯〕
  3. {動詞}感情が盛んにおこる。「興奮」。
  4. {動詞}もてはやす。▽去声に読む。《類義語》喜。
  5. {名詞}おこりたつ感情。▽去声に読む。「感興」「寄興=興を寄す」。
  6. {名詞}「詩経」の六義(リクギ)の一つ。事物によって感興をのべおこす詩体。▽去声に読む。

字通

興[会意]同+⺽(きよく)+廾(きよう)。同は酒器。⺽と廾は四手。酒器である同を、上下よりもつ形。儀礼のとき、地に酒をそそいで、地霊を慰撫することが行われた。〔礼記、楽記〕に「上下(しやうか)の神を降興す」とあり、上帝には降、地霊には興という。〔周礼、地官、舞師〕に「小祭祀には則ち興舞せず」とあり、小祭祀のときにはその礼を略した。地霊に酒を灌いで祀るとき、おそらく呪詞が唱えられたと思われるが、その語はのち〔詩〕の発想法として一の定型をなし、これを興(きよう)という。わが国の序詞・枕詞の成立と相似た関係のものである。酒を人にそそぐことを釁(きん)といい、新しい建造の物や器物の制作の際にも用いる。〔礼記、文王世子〕に「器を興(きん)するに幣を用ふ」とある興は、釁の略体とみてよい。〔説文〕三上に「起こすなり」とし、字を舁(よ)(かつぐ)に従い同に従うもので、共同してものを起こす意とするが、地霊をよび興すのが字の原義である。それよりして、すべてものが発動し、興起する意に用いる。興趣の意は、発想としての興の引伸義であろう。

薑(姜)(キョウ・16画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯aŋ(平)。同音に疆、姜、僵”行き倒れ”、繈”ふしいと”、襁。台湾では姜(=太古の西北中国で羊を放牧していた民族)は薑の異体字として扱われる。初出は甲骨文。ただし”はじかみ”の意であるかは不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)畺(キョウ)(ひとこまずつわかれる)」。根茎がひとこまずつ区切れることからいう。疆(キョウ)(区切った境)と同系。

「姜」は会意兼形声。「女+(音符)羊」。太古の西北中国で羊を放牧していた民族が羊にちなむ姓をつけたものであろう。周代のはじめ、この一族の頭領であった太公望呂尚(リョショウ)が山東の斉(セイ)に封ぜられた。中国では薑の簡体字に用いる。

語義

  1. {名詞}はじかみ。草の名。塊状の根茎は香気があってからい。食用。薬用。しょうが。「生薑(ショウキョウ)」とも。▽日本では「生薑(ショウキョウ)」の音をなまって、「しょうが」といった。
  1. {名詞}姓の一つ。▽春秋時代の斉(セイ)の国の公室の姓を姜といった。
  2. {名詞}美しい娘。美女。▽周代、春秋時代に斉の国(姜姓)の娘が、他の諸侯に多くとついだことから。「姫姜(キキョウ)」。
  3. 「姜水(キョウスイ)」とは、陝西(センセイ)省にある川の名。岐水(キスイ)の別名。

字通

[形声]声符は畺(きよう)。〔説文〕一下に彊に従う字に作り、「溼(しふ)を御(ふせ)ぐの菜なり」とあり、〔神農本草〕に風や溼疾に効ありとするもので、しょうが・はじかみの類。古くなると、その辛味は特に強烈を加える。

※溼:湿る。

[形声]羌(きょう)の下部を女にかえ、羌人出自の姓であることを示す。羌の省声。〔説文〕十二下に「神農、姜水に居り、以て姓と爲す」と水名とするが、種族の名によって水名をえたものであろう。神農炎帝を以て姜姓の始祖とすることは〔国語、晋語四〕にみえるが、卜文に岳の字形を山上に羊頭を加えた形に作り、その岳神伯夷が姜姓諸族の始祖である。許由・皋陶(こうよう)は許・皋の地で祀られる伯夷の異名。夷・由・陶は同じ音系の字。姜姓の神話を経典化した〔書、呂刑〕に、伯夷降典のことをしるし、〔尭典〕〔舜典〕〔皋陶謨〕にみな同系の説話がある。姜姓は姫姓の周と通婚しており、殷代には厳しい弾圧を受け、その聖地の岳(嵩嶽(すうがく))も殷の制圧下にあった。周の武王が殷を伐つとき、伯夷・叔斉がこれをおし止めようとしたのは、そのためである。のち周の王朝となり、申・呂(甫)・許・斉の四国が建てられ、申・呂は周の雄藩であった。

襁(キョウ・16画)

強 金文
「強」𠇝盤埜匕・戦国末期

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯aŋ(上)。同音に薑、疆、姜、僵、繈。部品の「強」に”むつき”の語釈があるが、初出は戦国末期。

学研漢和大字典

会意兼形声。「衣+(音符)強(丈夫な、きつくしめる)」。

語義

  1. {名詞}幼児を背負う帯。《同義語》⇒繦。《類義語》褓(ホウ)。
  2. 《日本語での特別な意味》むつき。おしめ。おむつ。

字通

[形声]声符は強(きょう)。強は繮と声義近く、襁は背負いの帯をいう。

繮:手綱。

皦(キョウ・18画)

初出は後漢の『説文解字』。カールグレン上古音はkiog(上)。

新漢語林「形声。白+敫。音符の敫(キョウ)は、日の光が流れるの意味。白くてつやのある宝石の意味を表す。 」

学研漢和大字典

会意兼形声。「白+(音符)敫(ケキ)・(キョウ)(白く広がる)」。

語義

  1. {形容詞}白く輝くさま。《類義語》皎(キョウ)。「皦若夜光尋扶桑=皦として夜光の扶桑を尋(タヅ)ぬるがごとし」〔曹植・芙蓉賦〕
  2. {形容詞}さやか(さやかなり)。鮮明ではっきりしたさま。「皦然(キョウゼン)」「皦如(キョウジョ)」。
  3. 姓の一つ。

字通

(項目無し)

驕(キョウ・22画)

論語 驕 睡虎地秦墓竹簡
(秦系戦国文字)

初出は秦系戦国文字。カールグレンによる上古音はki̯oɡ(平)であり、これと同訓音通の候補として「狂」があるが音がɡʰi̯waŋで音通しない。部品で同訓がある「喬」はgʰi̯oɡまたはki̯oɡ(共に平)であり、かつては「驕」と書き分けられなかったとほぼ断定できる。

喬 金文
「喬」(金文)

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「馬+(音符)喬(キョウ)(高くのびて先が曲がる)」。背の高い馬。また、高く上に出て、他を見さげること。橋(高く曲がったはし)・撟(キョウ)(高くかかげる)と同系のことば。

意味

  1. (キョウタリ)(ケウタリ){動詞・形容詞}馬が首を高くあげる。馬が首をたてて、勇みたつさま。たくましい。「四牡有驕=四牡驕たる有り」〔詩経・衛風・碩人〕
  2. (キョウタリ)(ケウタリ){動詞・形容詞}おごる。背のびして、人の上に出る。おごり高ぶる。また、おごり高ぶって見くだすさま。《対語》⇒謙。「富而無驕何如=富んで驕ること無きはいかん」〔論語・学而〕
  3. {名詞}背の高い馬。《類義語》驍。

字通

[形声]声符は喬(きよう)。喬は高楼の上に呪飾として表木を立てた形。そこに神を招く。神威を借りて驕る意がある。〔説文〕十上に「馬の高さ六尺なるものを驕と爲す」とし、「一に曰く、野馬なり」とする。字はおおむね驕奢・驕泰の意に用いられ、〔段注〕に「旁義行はれて本義廢す」という。もと野性の悍馬の意であろう。

仰(ギョウ・6画)→卬

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はŋi̯aŋ(上)で、去声の音は不明。「卬」も初出は『説文解字』。カ音はŋɑŋ(平)またはŋi̯aŋ(上)で事実上の異体字。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側は、高くたって見おろす人と低くひざまずいて見あげる人との会意文字。仰はそれを音符とし、↓↑の方向にかみあう動作を意味する。迎(ゲイ)(→の方向に来る者を←の方向に出迎えて→←型に出あう)と同系。

会意。左の人がたかく立ち、右の人が低くひざまずいてふり仰ぐさまを示す。たかいほうを仰ぐ意味で、仰の原字。「われ」という代名詞をあらわすのに用いるのは、吾(ゴ)と同じく仮借(当て字)である。

語義

  1. {動詞}あおぐ(あふぐ)。高いほうを見あげる。《対語》⇒伏・俯(フ)。「仰不愧於天=仰いで天に愧ぢず」〔孟子・尽上〕
  2. {動詞}あおぐ(あふぐ)。ふりあおいで尊敬する。「景仰(ケイギョウ)・(ケイコウ)」「仰之弥高=これを仰げば弥高し」〔論語・子罕〕
  3. {動詞}あおぐ(あふぐ)。他人から物をもらう。また、何かしてもらう。▽去声に読む。「仰仗(ギョウジョウ)(他人にたよってしてもらう)」「以衣食異、無仰於漢也=衣食異に以て、漢に仰ぐこと無きなり」〔史記・匈奴〕
  4. {名詞}上級から下級に命じる公文書の最初の部分につけることば。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①おおせられる(おほせらる)。おっしゃる。身分の高い人が話したり命令したりすることの尊敬語。
    ②おおせ(おほせ)。身分の高い人の命令やことば。「主君の仰せ」。

ゴウ(平)

  1. {形容詞・動詞}たかい(たかし)。上の位置にあるさま。また、たかい位置になる。《対語》⇒低。「低款(テイゴウ)」。
  2. 「款款(ゴウゴウ)」は、たかく盛んなさま。「莅莅款款、如圭如璋=莅莅(ぎょうぎょう)款款として、圭(けい)の如(ごと)く璋(しゃう)の如し」〔詩経・大雅・巻阿〕
  3. {代名詞}われ。吾(ゴ)と同系の一人称代名詞。▽非常に古い古典にしか用いない。「款須我友=款我が友を須つ」〔詩経・癩風・匏有苦葉〕

ギョウ(上)

  1. {動詞}あおぐ(あふぐ)。上を向く。▽仰に当てた用法。《対語》⇒伏。「款天(ギョウテン)」。

字通

[形声]声符は卬(こう)。卬は二人相対する形であるが、上下の関係を以ていえば、上からは抑、下からは仰となり、左右では迎となる。仰は〔説文〕八上に「擧ぐるなり。人に從ひ、卬に從ふ」と会意に解するが、その訓も字義に適切でなく、字もその構造法からは形声としてよい。卬の繁文で、仰ぐことをいう。〔詩、小雅、車舝(しやかつ)〕に「高山は卬(あふ)ぐ」と、なお卬の字を用いている。

[会意]二人相対する形。路上に相迎えることを迎(迎)、上下の関係にあるときは、上なるものは抑、下なるものは仰となる。卬は仰の初文。〔説文〕八上に「望むなり。庶及する所有らんと欲するなり」とし、匕と卪(せつ)とに従うとするが、仰望の意を示す字ではない。また「詩に曰く、高山は卬(あふ)ぐ」と〔詩、小雅、車舝(しゃかつ)〕の句を引く。〔広雅、釈詁四〕に「嚮(むか)ふなり」、〔玉篇〕に「向ふなり」と訓するのは転義。また昂と通用する。一人称の我の意に用いるのは仮借。

堯/尭(ギョウ・8画)

堯 金文 論語 堯
堯盤・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋioɡ(平)。

学研漢和大字典

会意。堯の原字は、背にたかく物をかついだ人の姿。のち「軽(うずたかく盛った土)+人のからだ」となる。背のたかい人、崇高な巨人の意。▽聖天子を尭というのも「たかい巨人」の意をふまえたいい方。翹(ギョウ)(たかくかかげた羽)・嶢(ギョウ)(たかい山)・高・喬(キョウ)(たかい)などと同系。

語義

  1. {形容詞}たかい(たかし)。けだかい。《類義語》高。
  2. {名詞}《人名》古代の伝説上の聖天子。名は放勲(ホウクン)。五帝のひとり。舜(シュン)を起用して治水にあたらせた。のち舜の有能さを認めて天下を譲ったことは、儒家から理想の君主政治とされた。陶唐氏とも、唐尭ともいう。

字通

[会意]旧字は堯に作り、垚(ぎよう)+兀(こつ)。〔説文〕十三下に「高なり」と訓し、また「高遠なり」という。山の尭高、また石の多いさまを嶢崅(ぎようかく)という。古帝王の尭は「陶唐氏」と号し、その名号は土器文化と関係があるらしく、尭はその創始者とされたのであろう。燒(焼)は堯に従う。土器を焼成するとき、竈に多くの土器を列することから、堯の字形が生れたものと思われる。段々にして積みあげるので尭高の意となった。本来山の尭高をいう字ではない。

曲(キョク・6画)

曲 金文
曲父丁爵・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkʰi̯uk(入)。

学研漢和大字典

象形。まがったものさしを描いたもので、まがって入り組んだ意を含む。局(狭く入り組んだ所)・句(まがってくぼむ)と同系。類義語の屈は、くぼむこと。折は、がくんと中断すること。彎(ワン)は、まるくまがること。挫(ザ)は、切れめがぎざぎざになるよう、むぞうさにおること。「正しくない」の意味の「まげる」は「枉げる」とも書く。また、「くま」は「隈」とも書く。

語義

  1. {動詞・形容詞}まがる。まげる(まぐ)。《対語》⇒直。《類義語》屈。「屈曲」「曲折」「曲肱而枕之=肱を曲げてこれを枕とす」〔論語・述而〕
  2. {形容詞}まがって入り組んでいるさま。こまごまとこまかく複雑であるさま。「曲礼」「委曲」。
  3. {形容詞・名詞}よこしま。むりにこじつけている。ひねくれている。ねじまがっていること。《対語》直。《類義語》邪。「曲邪」「曲学阿世(キョクガクアセイ)」。
  4. {動詞}まげる(まぐ)。むりにこじつける。「曲為之説=曲げてこれが説を為す」。
  5. {名詞}すみ。まがっていて入り組んでいる所。入り組んでいて、人目につかない所。くま。「河曲(かわの入りこんだすみ)」「郷曲(キョウキョク)(片いなかのすみ)」。
  6. {名詞}ふし。音調を高く低くまげたふし。▽中国の現代音はq?と読む。《類義語》節。「音曲」。
  7. {名詞}元(ゲン)代以降に流行した芝居や、その台本。
  8. {名詞}蚕を飼うための、わく組み。
  9. {名詞}芸人や職人の仲間。「部曲」。
  10. 《日本語での特別な意味》
    ①くせ。こまごまと複雑な悪さをする。「曲者(クセモノ)」。
    ②きょく。おもしろみ。「曲がない」。
    ③技巧の複雑な芸。「曲芸(軽わざ)」「曲馬(キョクバ)(馬乗りの軽わざ)」。
    ④まげる(まぐ)。品物を質に入れる。

字通

[象形]竹などで編んで作った器の形。〔説文〕十二下に「器の曲りて物を受くる形に象る」とあり、一説として蚕薄(養蚕のす)の意とする。すべて竹籠の類をいい、金文の簠(ほ)はその形に従う。簠の遺存するものは青銅の器であるが、常用の器は竹器であったのであろう。それで屈曲・委曲の意となり、直方に対して曲折・邪曲の意がある。

洫(キョク・9画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のxi̯wək(入)。同音は存在しない。

学研漢和大字典

意。血は、皿(さら)の上に、━印をそえて血のたまったさまを描いた象形文字。洫(キョク)は「水+血」で、血がからだの血管をめぐるように、田畑をめぐって水を与えるみぞを示す。ただしキョクという語は、域(くぎり、わく)・淢(イキ)(外わくのみぞ)などと同系で、田畑の外わくをなすみぞのこと。類義語の溝は、構と同系で、対照に組みたてて構えたみぞ。

語義

  1. {名詞}みぞ。田畑の外わくをなすみぞ。田畑の通水路。《類義語》梅(イキ)・溝(コウ)。「尽力乎溝洫=力を溝洫に尽くす」〔論語・泰伯〕

字通

[形声]声符は血(けつ)。田間の水を通ずるところをいう。〔説文〕十一上に「十里を成と爲す。成の閒、廣さ八尺、深さ八尺、之れを洫と謂ふ」とあり、〔周礼、考工記、匠人〕の文による。字はまた淢(きよく)に作る。〔詩、大雅、文王有声〕「城を築き伊(ここ)に淢す」の淢を、〔韓詩〕に洫に作る。〔説文〕に「淢は疾(はや)く流るるなり」と形況の語とするが、或(わく)に界域の意があり、洫の本字であろう。

棘(キョク・12画)

棘 金文
蔡子□鼎・春秋末期或戦国早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯ək(入)。

学研漢和大字典

会意。刺の字の左がわの朿(とげでさす)を二つ並べたもので、とげで人をひやひやさせるいばらの木。棗(ソウ)(とげのあるなつめ)は、別字。▽「いばら」は「茨」「荊」とも書く。また「とげ」は「刺」とも書く。

語義

  1. {名詞}いばら。とげ。木の名。うばら。茎に堅いとげのある草木の総称。「荊棘(ケイキョク)(いばら、けわしい道)」。
  2. {名詞}刺(シ)がとげのように出たほこ。武器の一種。
  3. {形容詞}とげとげしい。つらい。
  4. {名詞}罪人を入れておく獄舎。
  5. {形容詞}すみやか。さしせまっているさま。きびしい。▽亟(キョク)に当てた用法。
  6. {名詞}公卿(コウケイ)の位のこと。▽昔、宮廷の左右に、それぞれ、三本の槐(えんじゅ)と九本のいばらを植えて、三公九卿の位置を示したことから。「三槐九棘(サンカイキュウキョク)」。

字通

[会意]二朿(し)を並べた形。朿はとげのある木。〔説文〕七上に「小棘、叢生する者なり」という。古く公卿はその庭に九棘を植えたので、大理卿(司法)のところを棘寺・棘署といった。宮門には矛戟(ぼうげき)の類を立てて、棘門という。棘疾の意は亟・革の音と通用の義である。

玉(ギョク・5画)

論語 玉 金文
『字通』所収金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はŋi̯uk(入)。

学研漢和大字典

象形。細長い大理石の彫刻を描いたもので、かたくて質の充実した宝石のこと。三つの玉石をつないだ姿とみてもよい。楷書では王と区別して丶印をつける。頊(ギョク)(かたく充実した頭)・嶽(ガク)(=岳。かたい山)などと同系。類義語の璧(ヘキ)は、薄く平らな宝石。珠は、真珠。異字同訓に球「電気の球。球を投げる」 弾「ピストルの弾」。「丸い形をしたもの」の意味の「たま」は「球」とも書く。

語義

  1. {名詞}たま。大理石などの美しい石。▽つややかなはだざわりが好まれた。「宝玉」「玉器」「有美玉於斯=斯に美玉有り」〔論語・子罕〕
  2. {形容詞}宝石のように、すぐれていて美しい。「玉肌(ギョッキ)」「玉姿」。
  3. {形容詞}天子、または他人に関する事物につけて、天子や他人を尊ぶことば。「玉体」「玉座」「玉稿(あなたの原稿)」。
  4. {動詞}たまとする(たまとす)。たまにする(たまにす)。玉のようにたいせつにする。また、玉のように美しくりっぱなものにする。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①たま。まるいもの。「あめ玉」「玉子(タマゴ)」。
    ②たま。ある性質をもった人。「善玉」「悪玉」。
    ③芸者。「半玉(ハンギョク)(一人前でない芸者)」。
    ④ぎょく。将棋の駒の一つ。玉将のこと。「入玉」。
    ⑤ぎょく。料理屋・すし屋で、鶏のたまごのこと。また、たまご焼きのこと。

字通

[象形]玉を紐で貫いた形。佩玉の類をいう。〔説文〕一上に「石の美なるもの、五徳有る者なり」とし、「潤澤にして以て溫なるは仁の方なり」など、仁義智勇絜の五徳を説く。そのことは〔荀子、法行〕〔管子、水地〕にみえる。玉は魂振りとして身に佩びるほか、呪具として用いられたもので、殷の武丁の妃とされる婦好墓からは、多くの精巧な玉器が発見されている。玉の旧字は王。王は完全な玉。玉は〔説文〕一上に「朽玉なり。王に從うて點有り。讀みて畜牧(きうぼく)の畜の若(ごと)くす」(段注本)とあり、瑕(きず)のある玉をいう。〔詩、大雅、民労〕「王、女(なんぢ)を玉にせんと欲す」の玉は、おそらくその畜の音でよみ、「好(よみ)す」の意に解すべきであろう。

獄(ギョク・14画)

論語 獄 金文
六年召伯虎簋・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はŋi̯uk(入)。「ゴク」は呉音。

学研漢和大字典

会意。「犬+犬+言(かどだてていう)」で、二匹の犬が争うように、いがみあっていいあうことを示す。かたくとげとげしいの意を含む。嶽(ガク)(=岳。ごつごつした山)・玉(かたい大理石)などと同系。

語義

  1. {名詞}とげとげしくいがみあう裁判。うったえごと。「訟獄」「疑獄(疑いのもたれる裁判事件)」。
  2. {名詞}ひとや。かたくごつごつとかためたろうや。「牢獄(ロウゴク)」「獄吏」。
  3. (ゴクス){動詞}裁判する。うったえる。

字通

[会意]言+㹜(ぎん)。言は神に詛盟すること。二犬はその犠牲として当事者の双方から提出されるもので、これによって審判が開始される。善が羊と誩(きよう)とに従い、盟誓して羊牲を立て、羊神判を行うのと似ている。〔説文〕十上に「确(かく)なり」と牢屋の意とし、「二犬は守る所以なり」とするが、そのような立意の字ではない。金文に「從獄」という語があり、獄訟に連なることをいう。獄舎のことは、古く夏台・羑里(ゆうり)・圜土(えんど)・土室・囹圄(れいご)・犴獄(かんごく)などといった。

今(キン・4画)

論語 今 金文
大盂鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯əm(平)。「コン」は呉音。

学研漢和大字典

会意。「亼印(ふたで囲んで押さえたことを示す)+一印(とり押さえたものを示す)」で、囲みとじて押さえるの意味をあらわす。のがさずに捕らえ押さえている時間、目前にとり押さえた事態などの意を含む。また、含(ガン)(周囲をふさぎ口の中に含む)や、吟(ギン)(口をふさいで声だけ出す)などに含まれる。禽(キン)(とり押さえる)と同系。付表では、「今朝」を「けさ」「今日」を「きょう」「今年」を「ことし」と読む。

語義

  1. {名詞}いま。現在。《対語》⇒古。「今上(キンジョウ)」「今也不然=今や然らず」〔孟子・梁下〕
  2. {副詞}いまに。→語法「①」。
  3. {副詞}いま。→語法「③」

語法

①「いまに」とよみ、「まもなく」「そのうちきっと」と訳す。未来推量の意を示す。「吾属今為之虜矣=吾が属今これが虜と為らんとす」〈われわれはそのうちきっとこいつ(劉邦)のとりことなるだろう〉〔史記・項羽〕

②「いま」とよみ、「今は」「ところで」と訳す。過去と現在、説話と現実などの対比で、話題の転換を示す接続詞。「今天下三分、益州疲弊=今天下三分して、益州疲弊(ひへい)す」〈今や、天下は三つにわかれ、(そのうちの)益州は弱り衰えている〉〔諸葛亮・出師表〕

③「いま」とよみ、「もし~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。▽「則」「必」とともに多く用いる。「今有殺人者=今人を殺す者有り」〈たとえば、ここに人を殺した者がいるとしよう〉〔孟子・公下〕

④「今者」は、「いま」とよみ、「今」「今日」と訳す。「今者、妾観其出、志念深矣=今者(いま)、妾その出づるを観るに、志念深し」〈今日、わたくしはそのお出ましを拝見しましたが、ほんとうに思慮深いお姿でした〉〔史記・管晏〕

字通

[仮借]もと象形の字で、壺などの蓋栓の形。酒壺に蓋栓を施した形を酓(あん)という。飮(飲)の初形は酓に従い、㱃に作り、飲酒をいう。今は蓋栓の形であるが、その意に用いることはなく、のちもっぱら時の今昔の意に用いる。すなわち仮借の用法である。昔も腊肉の象であるが、のち仮借して今昔の意にのみ用い、初義には別に腊の字を作ってそれにあてた。〔説文〕五下に「是の時なり。亼(しふ)に從ひ、乁(きふ)に從ふ。乁は古文及なり」と字を会意とするが、字は蓋栓の形にすぎず、酓・㱃によって字の初義を考えることができる。今声の字に、上より蓋(ふた)して閉塞する意をもつものが多い。

斤(キン・4画)

斤 謹 金文
征人鼎・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はki̯ən(平)。

学研漢和大字典

象形。斤とは、ある物に、おのの刃を近づけて切ろうとするさまを描いたもので、おののこと。また、その石おのを、はかりの分銅に用いて、物の重さをはかったため、目方の単位となった。

語義

  1. {名詞}おの(をの)。《類義語》斧(フ)。「斧斤伐之=斧斤もてこれを伐る」〔孟子・告上〕
  2. {単位詞}重さの単位。一斤は十六両で、周代には二五六グラム、唐代以後は約六〇〇グラム、現代の中国では、五〇〇グラム。
  3. 「斤斤(キンキン)」とは、近づいて細かく見定めるさま。▽去声に読む。
  4. 《日本語での特別な意味》尺貫法の重さの単位。一斤は、普通一六〇匁で、約六〇〇グラム。ものによって一定していない。

字通

[象形]おのの形。〔説文〕十四上に「木を斫(き)るなり」とあり、手斧をいう。武器に用い、斤を両手でふりあげている形は兵。兵とは武器をいう。また重量の単位として用いる。

近(キン・7画)

近 楚系戦国文字 近 秦系戦国文字
(楚系戦国文字・秦系戦国文字)

初出は戦国文字。カールグレン上古音はɡʰi̯ən(上/去) で、同音に「勤」「懃」(つとめる)「芹」(せり)「慬」(うれえる・つつしむ)があるが”ちかい”の語釈が『大漢和辞典』にない。同訓同音の「㞬」は小篆にすら見られない。同訓近音の「幾」ɡʰi̯ərまたはki̯ərは西周中期から見られる。また『字通』は金文の時代、”ちかい”に「邇」ȵi̯ărを用いたという。

『学研漢和大字典』による音の変遷
上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
gɪən gɪən kiən tšɪən jìn
kɪər kɪəi kɪəi tši

下記『学研漢和大字典』の解字から、部品の「斤」ki̯ən(平)が論語時代の置換字になりうる。

学研漢和大字典

会意兼形声。斤(キン)は、ふたつの線がふれそうになったさま。または、厂型の物に、<型の斧(オノ)の先端がちかづいたさまとみてもよい。近は「辵(すすむ)+(音符)斤」で、そばにちかよっていくこと。祈(キ)(幸福にちかづこうとする)・幾(キ)(ちかい)と同系。類義語の迫は、紙ひとえにせまること。附は、くっつくこと。切は、肌身をこするように、じかにこたえること。親は、じかに接すること。逼(ヒツ)・(ヒョク)は、ぴったりとくっつきそうにせまること。

意味

  1. {形容詞・名詞}ちかい(ちかし)。そばによって、ふれそうになっている。距離・場所・時間のへだたりが少ない。ちかい所。ちかくにあるもの。《対語》⇒遠。《類義語》幾(キ)・迫・切・親。「近接」「近代」「付近」。
  2. {形容詞}ちかい(ちかし)。身ぢかである。手ぢかでわかりやすい。《対語》遠。「言近而指遠者、善言也=言近くして而指の遠き者は、善言也」〔孟子・尽下〕
  3. {形容詞}ちかい(ちかし)。よく似ている。「近似」「近於愚=愚に近し」。
  4. {動詞}ちかづく。そばによっていく。▽去声に読む。《対語》遠(とおざかる)。「近利=利に近づく」。
  5. (キンス){動詞}身ぢかによせて親しむ。▽去声に読む。「近幸(そばにちかづけてかわいがる)」「有七孺子皆近=七孺子有り皆近せらる」〔戦国策・斉〕

字通

[形声]声符は斤(きん)。〔説文〕二下に「附くなり」とあり、附近の意。もと場所的に接近する意。のち側近・卑近、また近時・近年のように関係や時間の意に用いる。〔詩、大雅、崧高〕「往け近(こ)の王舅」は䢋(き)の誤字で、䢋は助詞。「往けや王舅」の意である。

矜(キン・9画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰi̯ĕn(平)。同音は存在しない。

学研漢和大字典

論語 矜 篆書
(篆書)

形声。篆文(テンブン)では「矛+令」、楷書(カイショ)では、「矛+今」。「あわれむ」という意味は、憐(レン)に当てたもので、「矛+(音符)令(レイ)・(レン)」。矛の柄や自信が強いの意に用いるのは「矛+(音符)今(キン)」。今では両者を混同して同一の字で書く。矜はかたく締めてとりつけた矛の柄。かたく固定することから、自信のかたいことをもあらわす。

語義

キン
  1. {名詞}え。ほこのえ。刃物をかたくとりつけるえ。「伐棘棗而為矜=棘棗を伐りて矜と為す」〔淮南子・兵略〕
  2. {動詞}あわれむ(あはれむ)。かわいそうに思う。くよくよと思い悩む。《類義語》憐(レン)。「哀矜(アイキン)」「矜不能=不能を矜む」〔論語・子張〕
キョウ
  1. {動詞}ほこる。かたく自信を持って自負する。「矜持(キョウジ)・(キンジ)」「君子矜而不争=君子は矜なれども争はず」〔論語・衛霊公〕
  2. {動詞}かたくまもる。
  3. 「矜矜(キョウキョウ)」とは、しっかりと構えて自信あるさま。
カン
  1. {名詞}あわれな人。▽鰥(カン)(やもお)に当てた用法。「矜寡(カンカ)」。

字通

[形声]声符は今(きん)。〔説文〕十四上に「矛(ほこ)の柄なり」とあり、矛を意符とする字である。それが原義であろうが、用例はない。哀矜・矜持のように用いる。矛の柄を矛槿(ぼうきん)といい、矜にも槿の声がある。また「鰥寡(くわんくわ)」を「矜寡」に作ることがあり、鰥の義にも用いる。おそらく矛槿が字の原義、他の声義は仮借通用の義であろう。矜を哀矜の意とするのは、〔方言、一〕によると斉・魯の間の語であり、矜式の意は敬、矜急の意は緊、矜寡の意は鰥の仮借であろう。通用義の多い字である。

禽(キン・13画)

論語 禽 金文 論語 子禽
多友鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はgʰi̯əm(平)。論語では子貢の弟弟子、子禽(姓は陳、諱は亢。『孔子家語』に依れば孔子より40年少)の名として現れる。

子禽問於子貢曰…。(論語学而篇10)

学研漢和大字典

禽 解字会意兼形声。もと「柄つきの網+(音符)今(キン)(ふさぐ)」の会意兼形声文字。のち、下部に會(動物の尻)を加えたもので、動物を網でおさえて逃げられぬようにふさぎとめること。擒(キン)(とらえる)の原字。吟(口をふさいでうなる)・禁(ふさぎとめる)・陰(とじこめる)などと同系。類義語の鳥は、吊(チョウ)と同系で、長く尾をつり下げたとり。「とりこ」は「擒」「虜」とも書く。

意味

  1. {名詞}とり。網やわなで捕らえる動物。また、のち、猟をして捕らえるとりのこと。「禽獣(キンジュウ)(とりやけもの)」「君子之於禽獣也=君子の禽獣におけるや」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞・名詞}とりこにする(とりこにす)。とりこ。捕らえる。また、捕らえられたもの。《同義語》⇒擒(キン)。「何為為我禽=なんすれぞ我が禽と為るや」〔史記・淮陰侯〕

字通

[会意]亼(しゆう)+畢(ひつ)。畢(あみ)でとらえ、上から覆う形で、擒の初文。〔説文〕十四下に「走獸の總名なり。厹(じう)に從ひ、象形。今(きん)聲なり。禽・离(り)・兕(じ)は頭相ひ似たり」という。象形にして今声というのは一貫せず、离・兕とは形も似ていない。周初の金文〔禽𣪘(きんき)〕は周公の子、伯禽の器で、その字は畢(あみ)の上を覆う形に作る。〔爾雅、釈鳥〕に「二足にして羽あるもの、之れを禽と謂ふ」とみえ、鳥の意とする。〔礼記、曲礼上〕に「猩猩(しやうじやう)は能く言(ものい)へども、禽獸を離れず」のように、禽と獣とを厳しく区別せずに用いることがある。擒は禽の動詞形の字である。

謹(キン・17画)

論語 謹 金文
司馬楙編鎛・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はki̯ən(上)。藤堂上古音はkɪən。同音同訓の「仱」「憖」「矜」「禁」「赾」「緊」には、甲骨文・金文が存在しない。「欽」は戦国末期の金文からしか現れない。「肵」は甲骨文から存在するが、藤堂上古音・カールグレン上古音共に不明。

斤 謹 金文
「斤」(金文)

カールグレン上古音の同音に「斤」(おの)があり、甲骨文から存在し、『大漢和辞典』に”つつしむ”の語釈を載せる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、右側の堇(キン)は「動物の頭+火+土」からなり、かわいた細かい土砂のこと。謹はそれを音符とし、言を加えた字で、細かく言動に気を配ること。こまごまと小さい、の意を含む。

僅(キン)(細かい、わずか)・饉(キン)(食物がわずか)などと同系。懃(キン)ときわめて近く、懇切の懇(コン)とも縁が近いことば。

意味

  1. {動詞・形容詞}つつしむ。こまかに気を配る。また、ていねいにかしこまるさま。《同義語》⇒懃。《類義語》慎。「謹慎」「謹而信=謹みて而信あり」〔論語・学而〕
  2. {動詞}つつしむ。こまかに気を配って、狂いやもれのないようにつとめる。「謹権量=権量を謹む」〔論語・尭曰〕
  3. {動詞}あいてをうやまって使うていねい語。「謹白」「謹啓」。

字通

[形声]声符は堇(きん)。堇は焚巫(ふんぷ)の象に従う字で、飢饉に関する語は多くその声義に従う。〔説文〕三上に「愼むなり」と謹慎の意とする。行き倒れの道殣(どうきん)を葬り、その呪霊を封ずるために祈ることを謹という。その屍を殣(きん)、埋葬することを墐(きん)という。愼(慎)もまた顚死者の象である眞(真)を填(うず)め祈る字で、謹慎とは、もと道殣に対する呪儀をいう。

饉 外字/饉(キン・20画)

饉 金文
曶鼎・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はgʰi̯æn(去)。定州竹簡論語が論語先進篇25で用いている饉 外字の字は『大漢和辞典』にもなく、「饉」の異体字として扱う以外に方法が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。「食+(音符)僅(とぼしい)の略体」。▽飢・饑の語尾が転じたことば。僅(キン)(わずか)と最も近い。

語義

  1. {形容詞}食物がとぼしい。《類義語》飢・饑(キ)。「饑饉(キキン)」。

字通

[形声]声符は堇(きん)。堇は飢饉に際して巫を焚いて祈る形であるカン 外字(かん)に従う字。堇声の字には飢饉に関するものが多い。〔説文〕五下に「蔬の孰(みの)らざるを饉と爲す」とし、饑字条に「穀の孰らざるを饑と爲す」とするが、蔬と穀との区別なく、すべて凶作を饉といい、饉による飢餓の状態を饑という。

誾(ギン・15画)

論語 誾 金文
師簋・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はŋi̯æn(平)。

学研漢和大字典

会意。「言+門」。

語義

  1. 「誾誾(ギンギン)」とは、一方にかたよらず正当なさま。また、おだやかに是非を論じるさま。「与上大夫言、誾誾如也=上大夫と言ふ、誾誾如たり」〔論語・郷党〕

字通

[会意]門+言。〔説文〕三上に「和說(わえつ)して諍(あらそ)ふなり」とし、字を門(もん)声とするが音が合わず、もとより会意字である。門は廟門。その廟門に祝詞を収める器(𠙵(さい))をおいて神意をうかがうは問。言は盟誓して祈る意で、神意を待つことを誾という。夜中幽暗のとき、そこに声を発して神意が示されることがあり、その字は闇。〔玉篇〕に「和敬の皃なり」とあり、謹んで神意を待つことをいう。

新漢語林

  1. おだやかに議論する。
  2. やわらぐさま。うちとけるさま。
  3. 香気の強いさま。

新字源

訢訢ぎんぎん・言言ぎんぎん

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コメント

  1. […] 「其」は”それは”。詳細は論語語釈「其」を参照。定州竹簡論語では「豈」を「幾」と記しているが、意味は同じで「強い肯定となる反語」と『学研漢和大字典』に言う。詳細は論語語釈「幾」を参照。 […]