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論語語釈「リ」

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語釈 urlリンクミス

利(リ・7画)

利 甲骨文 利 金文
甲骨文/利鼎・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形は「禾」”イネ科の植物”+「刀」”刃物”。大ガマで穀物を刈り取る様。原義は”収穫(する)”。

音:カールグレン上古音はli̯əd(去)。

用例:甲骨文合集01853臼.0に「婦利示十屯 爭」とあり、「婦利」は”利という氏族出身の王夫人」と解せる。つまり氏族名、または地名と解せる。

同27146.14に「庚午卜〔犭大〕貞王其田于利無災 吉」とあり、地名と解せる。

西周早期「利𣪕」(集成4131)に「易(賜)又(右)事(史)利金」とあり、”よい”と解せる。

西周中期「利鼎」(集成2804)に「利拜𩒨首對揚天子不顯皇休。」とあり、人名と解せる。「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

春秋早期「上曾大子鼎」(集成2750)に「心聖若󱩾(慮),哀哀(滾滾)利錐」とあり、「こころはさとくしておもうがごとく、コンコンとして錐をぐ」と読め、”研ぐ・するどい”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”目出度いこと”、地名人名に用い、金文では人名(利簋・西周早期)、”才智の優れた”(上曾大子鼎・春秋早期)の意に用いた。

学研漢和大字典

いね+刀」の会意文字。稲束を鋭い刃物でさっと切ることを示す。一説に畑をすいて水はけや通風をよくすることをあらわし、刀はここではすきを示す。すらりと通り、支障がない意を含む。転じて、刃がすらりと通る(よく切れる)、事が都合よく運ぶ意となる。(=犁。牛にひかせて畑をすくすき)-(すき)と同系のことば。

語義

とし、すらりと刃が通って、鋭いさま。すらりと運ぶさま。都合よく運ぶさま。もうけ。もうける。都合よいと考える。効き目がある、役に立つ。

字通

+刀。禾を刈る意。〔説文〕四下に「するどきなり。刀に従ふ。和して然る後利あり、和の省に従ふ」とするが、和は軍門媾和の意で、その禾は軍門の象。利は刀を以て禾穀を刈るので鋭利の意があり、収穫を得るので利得の意がある。金文の字形は犁鋤りじょの形で𥝢に作り、それが初形。鋭利の義よりして、刀に従う字となった。本来は𠭰などと同じく、治める意の字である。

訓義

するどい、すばやい、よい。かなう、なめれか、とおる。さいわい、とみ、もうけ、むさぼる、利益。はたらき、いきおい、かつ、まさる。国語で、きく。

大漢和辞典

会意。和の省体と刀との合字。鸞刀*の鈴の声がよく節に当たって後、よく祭肉をたつの意。故にあう意とする。また、鸞刀は鈴の音が和して後するどい。故に、するどい意とする。又、説文通訓定声によれば、刀と禾の合字とし、刀を以て禾を刈ること、禾を刈る刃のするどいことをいう。故に兵革堅利の利を本義とし、民利の利を賴の仮借とする。

字解

するどい。通す、通る。かなう、調和する。よい、よろしい。都合がよい、便宜。なめらか。できる、作る。むさぼる。求める。喜ぶ。幸い。益する。富。儲け*、私利。巧み。働き。かため、要害。勢い。勝ち。養う。利子。

*鸞刀:鸞鳥(おおとり)の形の鈴をつけた刀。古代中国で、祭祀のいけにえを切るのに用いた。里仁篇 鸞刀

*儲け:『大漢和辞典』では、論語里仁篇16をここに引用している。

里(リ・7画)

里 金文
夨令方尊・西周早期

初出:初出は西周早期の金文

字形:「田」+「土」”土地”で、原義は”農村”。

音:カールグレン上古音はli̯əɡ(上)、藤堂上古音はlɪəg。

用例:西周早期「󰛭令方尊」(集成6016)に「眔卿事寮、眔者(諸)尹、眔里君、眔百工、眔者(諸)侯」とあり、”さと”・”むら”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、春秋までの金文では原義(令方彝・西周早期)、”裏”(伯䢅鼎・西周中期或末期)の意に、戦国時代の金文では長さの単位(中山王鼎・戦国末期)に用いた。戦国の竹簡・漢代の帛書では、加えて「理」”おさめる”の意に用いた。

論語では、孔子の一人息子・孔鯉を意味しうる。「鯉」はカ音も藤音も「里」と同音。論語語釈「鯉」も参照。

学研漢和大字典

会意。「田(四角く区切りをつけた井田)+土」で、区切りの筋を入れて整理された畑や居住地のこと。俚(いなか)は、その派生語。理(玉(ギョク)のすじめ)・吏(雑事や民政をすじみちたてて処理する役人)と同系。「俚」の代用字としても使う。「里謡」▽草書体をひらがな「り」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}縦横にきちんと区画した田畑。
  2. {名詞}さと。縦横にきちんと区画した居住地。むら。「里仁為美=里は仁なるを美と為す」〔論語・里仁〕
  3. {名詞・形容詞}いなか。いなかくさい。《同義語》⇒俚。「里語(=俚語)」。
  4. {単位詞}距離の単位。区画した田畑の一辺の長さを基準とする。周代、一里は、三百歩で、のち三百六十歩。▽詳しくは巻末付録「中国歴代度量衡換算表」参照。現代中国では、一里は百五十丈で五〇〇メートル。日本の一里は、三十六町で、約三九二七メートル。
  5. {名詞}行政区画の名。周代、二十五家のこと。漢・唐代には百戸のこと。明(ミン)代には百十戸のこと。「里正」。
  6. 《日本語での特別な意味》さと。妻または養子の実家。

字通

[会意]田+土。土は社の初文。里とは田社のあるところをいう。〔説文〕十三下に「居るなり」とあり、会意とする。〔繋伝〕に「一に曰く、土(ど)聲なり」とするが、声が合わない。〔書、酒誥〕に「越(ここ)に内服に在りては百僚庶尹、惟(こ)れ亞、惟れ服、宗工と百姓里居」とあり、周初の金文〔令彝(れいい)〕に「明公、朝(あした)に成周に至り、命を出だして三事の命を舍(お)く。卿事寮(けいじれう)と諸尹と里君と百工と」とあり、〔酒誥〕の「里居」は「里君」の誤りである。里はのち行政の単位となり、条里・里数の意となるが、字の原義は田社のあるところ、そこを主宰するものを里君といった。君は古くは巫祝王などに用いた語である。国語の「さと」も、神聖な地域を意味する語であった。

声系

〔説文〕に里声として理・俚・裏など九字を収める。俚(り)は聊頼。里の字義を承けるものはない。

語系

里・吏liəは同声。里は田社のあるところ。吏は使して祭ることを原義とする字であるから、両者は語源的に関係があることも考えられる。閭・廬liaは声近く、閭(りよ)は里門、廬は里居をいう。理・釐liəは釐治の意、通用することがある。

涖(リ/レイ・10画)

涖 楷書
楷書

初出:不明。

字形:〔氵〕+〔位〕。原義不明。

音:カールグレン上古音は不明。漢音「リ」で”のぞむ”・”見る”の意に、「レイ」の音で水の擬声音となる。

用例:『詩経』以降、先秦両漢では”のぞむ”として用いる。

論語衛霊公篇33に用例があるが、唐石経は「涖」と記し、清家本は「莅」(→語釈)と記す。

論語時代の置換候補:日本語音での同音同訓に『大漢和辞典』によると「䇐」(初出説文解字)・「莅」(初出『爾雅』)。

学研漢和大字典

会意。「水+位(その場にたつ)」で、水べにいってたつことをあらわす。

語義

  1. {動詞}のぞむ。その場にいってたつ。また、その事にたずさわる。みずから処理する。《類義語》臨。「請涖于衛=衛に涖まんことを請ふ」〔春秋左氏伝・隠四〕
  2. {動詞}みる。その場にいって、みる。
レイ
  1. 「涖涖(レイレイ)・(リリ)」とは、水が瀬を下る音の形容。

字通

[形声]声符は位(い)。金文では立を位の字義に用いており、古く同声であった。字はまた莅に作る。〔詩、小雅、采芑(さいき)〕「方叔(人名)涖(のぞ)む 其の車三千」は、軍を以て敵に臨むこと。〔左伝〕に盟約のとき「涖みて盟(ちか)ふ」ということが多く、親しく誓う意である。〔穀梁伝〕には莅の字を用いる。涖(れい)はまた水声を形容するときに用いる。

莅(リ・10画)

莅 楷書
楷書

初出:初出は後漢の隷書。ただし前漢ごろの『爾雅』の現伝本に見える。

字形:〔艹〕+〔位〕。原義不明。異体字に「蒞」(初出不明)、ただし『老子道徳経』『荀子』『小載礼記』などの現伝本に見える。

音:カールグレン上古音はli̯əd(去)。同音に「利」(去)。

用例:先秦両漢では異体字の「蒞」の方が用例が多い。『爾雅』に「監,瞻,臨,蒞,頫,相,視也。」とあり、”みる”と訓読すべきとされる。

論語衛霊公篇33に用例があるが、唐石経は「涖」(→語釈)と記し、清家本は「莅」と記す。

論語時代の置換候補:上古音で同音同義は存在しない。日本語音での同音同訓に『大漢和辞典』によると「䇐」(初出説文解字)・「涖」(初出不明)。

学研漢和大字典

会意。「艸(草であんだ)+位(座席)」。座席やポストについて仕事をてきぱきと処理することをあらわす。

語義

  1. {動詞}のぞむ。身分の高い者がその場に出る。また、その位につく。統治者として仕事を処理する。《類義語》涖(レイ)。「莅中国而撫四夷=中国に莅み四夷を撫けん」〔孟子・梁上〕
  2. 「莅莅(リリ)」とは、こずえのふれあう音の形容。

字通

[会意]正字は䇐に作り、立+隶(たい)。〔説文〕十下に「臨むなり。立に從ひ、隶に從ふ」とするが、会意となる趣旨を説くところがない。隶三下に「及ぶなり」と訓し、尾を持って従う意とするが、尾を持つという行為の説明がない。隶は、隷の字形においては、左偏は呪霊のある祟(たたり)をなす獣の形。右旁はその尾をもつ形。これによってその呪詛を身に著け及ぼすので、その呪詛によって罪戻を受けたものを徒隷という。すなわち隷従の意となる。䇐はおそらく儀礼の場所(立・位)において、そのような方法で、清めを受けるのであろう。ゆえにその場に臨む意となる。のち涖・莅の字が用いられ、䇐の字については用例をみない。

履(リ・15画)

履 甲骨文 履 金文
「甲骨文合集」35273/散氏盤・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:目が大きく、頭に飾りを付けた人が、特定の地面を踏むさま。

音:カールグレン上古音はli̯ər(上)。

用例:「甲骨文合集」35273に「我弗令史履」とあり、おそらく”見に行かせる”の意。

西周の用例では人名が多い。

備考:論語語釈「屨」も参照。

学研漢和大字典

会意。もと「尸(ひと)+彳(みち)+舟+夂(あし)」の会意文字で、人が足で道をふみ歩く意を示す。のち「尸+復(同じ道を歩いてかえる)」となった。類義語の屐(ゲキ)は、木のくつ。屣(シ)は、引きずってはくスリッパ。靴(カ)は、皮の長ぐつ。付表では、「草履」を「ぞうり」と読む。

語義

  1. {動詞}ふむ。足でふむ。「如履薄冰(=氷)=薄冰(=氷)を履むがごとし」〔論語・泰伯〕
  2. {動詞}ふむ。人としての道、また、約束を行う。「履歴(行った事績)」「履行」「君子所履=君子の履む所なり」〔詩経・小雅・大東〕
  3. {名詞}ふんで歩く土地。領地。
  4. 「福履(フクリ)」とは、幸いのこと。
  5. {名詞}くつ。木や布でつくったくつ。のち、はきものの総称となる。「草履(ソウリ)(ぞうり)」「堕其履袈下=其の履を袈下に堕す」〔史記・留侯〕
  6. (リス){動詞}くつはく。くつはかす。くつをはく。くつをはかせる。「履我=我に履せよ」〔史記・留侯〕
  7. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。兌下乾上(ダカケンショウ)の形で、強くふみ行うさまを示す。

字通

[会意]正字は𡳐に作り、尸(し)+彳(てき)+舟+夊(すい)。舟は履の象形。夊はこれを履く形。尸はかたしろ。葬礼のような儀礼の際に用いるものであろう。〔説文〕八下に「足の依るところなり。尸に從ひ、彳に從ひ、夊に從ふ。舟は履の形に象るなり。一に曰く、尸の聲なり」とする。依・履は畳韻の訓であるが、尸は声が異なる。金文の〔大𣪘(だいき)〕に「大(人名)の賜へる里を■(舟+頁)(ふ)む」とあって、舟は履の形、頁は儀礼のときの姿。土地を賜わって、その地を践む践土の儀礼をいう。践土はのちの反閇(へんばい)にあたる。それよりして、履践・履行・履歴の意となる。

鯉(リ・18画)

鯉 石鼓文 孔鯉
石鼓文「汧殹」春秋末期

初出:初出は春秋末期の石鼓文

字形:「魚」+「里」で、「里」は音符。原義は”コイ”。論語語釈「里」も参照。

音:カールグレン上古音はli̯əɡ(上)、藤堂上古音はlɪəgで、「里」と同じ。

用例:論語では「里」と書かれて孔子の一人息子、孔鯉を意味する。

侖 金文語 金文
金文で「論語」を「侖語」と書くように、春秋戦国時代は漢字の数が出そろわず、後世出現した派生字の部品が、派生字の意を示すことがよくある。

『詩経』陳風・衡門に「豈其食魚、必河之鯉。豈其取妻、必宋之子。」とある。

戦国から前漢にかけての儒家伝説を集めた『小載礼記』檀弓に「伯魚之母死,期而猶哭。夫子聞之曰:「誰與哭者?」門人曰:「鯉也。」夫子曰:「嘻!其甚也。」伯魚聞之,遂除之。」とある。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。「魚+(音符)里(きちんと整理されてすじめがついている)」。

語義

  1. {名詞}こい(こひ)。淡水魚の一種。うろこがきちんと並んで形がよく、観賞用・食用として珍重される。
  2. {名詞}手紙。便り。▽鯉の腹の中に絹地に書いた手紙を入れて届けたことから。「鯉素(リソ)」。
  3. {名詞}人名。孔子の子の名前。字(アザナ)は伯魚。

字通

[形声]声符は里(り)。〔説文〕十一下に「鱣(しび)なり」、また鱣(てん)字条に「鯉なり」とあって互訓。鱣鮪(てんい)の属は、鞏穴を出でて竜門を超え、竜になるという。孔子の子、名は鯉、字は伯魚。〔論語、季氏〕に、鯉が庭を過(よぎ)るとき、孔子のおしえを受けたことがあり、それで庭訓・鯉庭などの語がある。〔古楽府〕に、双鯉魚の中に書信を託することがみえ、手紙のことを鯉書・鯉素という。

離(リ・19画)

離 秦系戦国文字
睡虎地簡24.28・戦国秦

初出:初出は戦国文字

字形:音符・意符〔离〕tʰlia(平)+〔隹〕。鳥がばらけ飛び去るさま。

音:カールグレン上古音はlia(平/去)。同音に「籬」、「醨」”うすざけ”、「罹」”うれい”、「縭」”糸で履き物を飾る”、「灕」”染み込む”(全て平)。

用例:殷代末期から春秋まで、金文に「亞」形と組み合わせた族徽(家紋)の一部として確認出来るが、現行の「離」字に繋がるとは見なせない。

戦国最末期の「睡虎地秦簡」では、地名、”離れる”、”垣根”の意に用いた。

論語時代の置換候補:部品の「离」に”散る・去る”の語釈を『大漢和辞典』が載せるが、初出は戦国末期の金文

学研漢和大字典

会意。離は「隹(とり)+大蛇(ダイジャ)の姿」で、もと、へびと鳥が組みつはなれつ争うことを示す。ただし、ふつうは麗(きれいに並ぶ)に当て、二つ並んでくっつく、二つべつべつになるの意をあらわす。類義語に啓。異字同訓にはなす・はなれる 離す・離れる「間を離す。駅から遠く離れた町。離れ島。職を離れる。離れ離れになる」 放す・放れる「鳥を放す。見放す。放し飼い。矢が弦を放れる。放れ馬」。▽草書体をひらがな「り」として使うこともある。

語義

  1. {動詞・形容詞}はなれる(はなる)。はなす。二つの物がはなれる。別になる。また、二つの物をわけてはなす。別々にする。《対語》⇒合。《類義語》別。「分離」「背離」「離合集散」「邦分崩離析=邦分崩離析す」〔論語・季氏〕
  2. {動詞}つく。二つの物が並んでくっつく。▽麗((去)霽、l/)と同音にも読む。《類義語》麗(レイ)。「離会(会合する)」。
  3. {動詞}かかる。とりつく。とりつかれる。また、網にかかる。《同義語》罹。「離殃(リオウ)(わざわいにとりつかれる)」「離騒(屈原作の長編詩。いらいらした憂いにとりつかれるの意)」「離憂=憂ひに離る」「鴻則離之=鴻則ちこれに離る」〔詩経・癩風・新台〕
  4. {名詞}鳥の名。上部は黒く腹部は黄色い。朝鮮うぐいす。「黄鶯(コウオウ)」「流離(ルリ)」「倉庚(ソウコウ)」とも。《同義語》贍。
  5. {動詞}へる(ふ)。つぎつぎと経過する。「離一二旬=一二旬を離たり」。
  6. 「離離(リリ)」とは、つぎつぎときれいに並び連なるさま。
  7. {名詞}周易の八卦(カ)の一つ。の形であらわし、火・日・電光・明るいなどの意を含む。また、周易の六十四卦の一つ。(離下離上(リカリショウ))の形で、柔順の徳を守ればすべて調和するさまを示す。
  8. 《日本語での特別な意味》はなれ。母屋と別棟になっている座敷、または家屋。はなれや。

字通

[形声]声符は离(り)。〔説文〕四上に「離黄、倉庚(さうかう)なり。鳴くときは則ち蠶生ず」(段注本)とあり、朝鮮うぐいすをいう。〔詩、豳風、七月〕「春日載(すなは)ち陽(あたた)かなり 鳴ける倉庚有り」の〔伝〕に「倉庚は離黄なり」とあり、黄鸝(こうり)ともいう。〔大戴礼記、夏小正〕に「二月、~鳴ける倉庚有り。三月、~妾・子始めて蠶(さん)す」とあり、養蚕のはじまるときであった。離は字形からいえば隹(とり)が黐(とりもち)にかかる意。〔楚辞、離騒〕は「騷(掻・憂え)に離(あ)ふ」の意である。これを離去しようとするので、離去・離別の意となり、「かかる」意にはのち多く罹を用いる。うぐいすの意には、鸝がその本字である。

六(リク・4画)

六 甲骨文 六 金文
甲骨文/南宮柳鼎・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:「漢語多功能字庫」によると「入」と同じと言うが一部の例でしかないし、例によって郭沫若の言った根拠無き出任せ。字形の由来と原義は不明。屋根の形に見える、程度のことしか分からない。

音:「ロク」は呉音。カールグレン上古音はl(入)。藤堂上古音はlɪok。同音は以下の通り。

声調 初出 備考
リョウ 耳が鳴る 前漢隷書
ロウ おり(檻) 甲骨文 →語釈
リュウ ころす 前漢篆書
とどまる 西周末期金文
馬の尾 楚系戦国文字
ながれる 平/上 →語釈
はたあし 不明
きよい 説文解字
ロウ おい 甲骨文 →字解
リュウ やなぎ →字解
うえ(漁具) 説文解字
うれえるさま 不明
ボウ・リュウ じゅんさい 春秋末期金文
リュウ したたる 前漢隷書
あまだれ 説文解字
リク くが 甲骨文
わせ 説文解字
土くれの大きいさま

用例:甲骨文ですでに数字の”6”に用いられた。

定州竹簡論語では「劉」”死刑”の避諱(帝室をはばかって別字に置き換えること)字として用いた。論語語釈「戮」も参照。

学研漢和大字典

象形。おおいをした穴を描いたもの。数詞の六に当てたのは仮借(カシャ)(当て字)。▽一説に高い土盛りの形で、陸(リク)(高い丘)の異体字ともいう。証文や契約書では、改竄(カイザン)や誤解をさけるため「陸」と書くことがある。

語義

  1. {数詞}むっつ。「賢聖之君六七作=賢聖之君六七作る」〔孟子・公上〕
  2. {数詞}む。順番の六番め。「六月六日」。
  3. {副詞}むたび。六回。
  4. {名詞}陰を代表する数。▽周易(シュウエキ)の陰爻(インコウ)を六といい、陽爻(ヨウコウ)を九という。《対語》⇒九。
  5. 《日本語での特別な意味》むつ。午前六時、または午後六時のこと。▽江戸時代のことば。

字通

[仮借]小さな幕舎の形。坴(りく)・陸はその形に従い、陸は神の陟降する前にその幕舎を作り、これを迎える意。その音を仮借して数の六に用いる。〔説文〕十四下に「易の數、陰は六に變じ、八に正し。入に從ひ、八に從ふ」と易の数理によって説くが、卜文・金文の字形は幕舎の象。篆文の字形は戦国期末の竹簡にみえるが、字の初形ではない。

戮(リク・15画)

戮 金文 戮 金文
叔尸鐘・春秋末期/中山王□鼎・戦国末期

初出:初出は春秋末期の金文。ただし字形は「氵+リュウ+ボク」。「小学堂」による初出は戦国末期の金文。ただし字形は「𣩍」。

字形:初出の字形は「氵」ɕi̯wər(上)+「翏」gl(去)+「攴」(音不明)。「翏」は音符、「リュウ」と音を立てて「攴」武器を振るい、「氵」=「水」敵の血しぶきが上がったさま。羽根飾りを付けたかぶと首を獲ったさまにも見える。現行字体は「翏」+「戈」kwɑ(平)”カマ状のほこ”で、同じく音を立てて戈をふるうさま。原義は”殺す”。「翏」の『大漢和辞典』による語釈は”高く飛ぶ”。「翏翏」を”高く飛ぶさま・長風の声。飂に同じ”という。

音:カールグレン上古音はɡl(入)。同音は「翏」を部品として大量にある。藤堂上古音はlɪok。

用例:春秋末期「叔尸鐘」(集成272/285)に「戮龢三軍」とあり、「三群をあわせころす」と読め、”殺す”と解せる。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。翏(リョウ)とは、鳥がわかれて高く飛ぶさま。複数に分ける意を含む。戮は「戈(ほこ)+(音符)婪」で、刃物でいくつにも切り離すこと。寥(リョウ)(ばらばらにわかれる)と同系。

語義

  1. (リクス){動詞}ころす。ばらばらに切ってころす。敵を残酷なやり方でころす。また、罪人を残酷なやり方で死刑にする。「殺戮(サツリク)」「駆飛廉於海隅而戮之=飛廉を海隅に駆りてこれを戮す」〔孟子・滕下〕
  2. {名詞}死刑。また、殺害。「刑戮(ケイリク)」「就戮=戮に就く」。
  3. {名詞}恥。はずかしめ。「従耳目之欲以為父母戮=耳目の欲に従ひて以て父母の戮を為す」〔孟子・離下〕
  4. {動詞}あわせる(あはす)。力をあわせること。▽勠(リク)に当てた用法。「臣与将軍戮力而攻秦=臣将軍と力を戮せて秦を攻む」〔史記・項羽〕

字通

[形声]声符は翏(りょう)。翏に僇(りく)の声がある。〔説文〕十二下に「殺すなり」とあり、罪によって殺すことをいう。〔書、甘誓〕に「命を用ひざる者は、社に戮せん」とあり、一族を殺すことを孥戮(どりく)・戮没のようにいう。戮は僇・勠(りく)と通用することがある。

栗(リツ・10画)

栗 甲骨文 栗 金文
甲骨文/「栗」?寓鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文。金文は未発掘。「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、西周早期の「寓鼎」(集成2756)の上掲一字を「栗」ではないかと釈文している。

字形:トゲの付いた実をつけた木の姿で、原義は”クリ(の実)”。

音:カールグレン上古音はli̯ĕt(入)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・人名に、戦国の竹簡では原義で用いた。

備考:定州竹簡論語では、「戰慄」”おそれおののく”を「戰栗」と書いている。『荀子』に「栗而理,知也」”おののきながらことを筋道立てて理解するのは、知である」とあり、戦国末期には「栗」が”おののく”の意で用いられていたらしい。論語語釈「慄」も参照。

学研漢和大字典

会意。「木+覀(ざるの形)」。くりの実がはじけてざるのような形をしたいがが木の上に残っているさまをあらわす。

語義

  1. {名詞}くり。木の名。ぶな科の落葉高木。また、その実。「彖栗(ジョリツ)(=杼栗)」。
  2. (リツナリ){形容詞}くりの木のようにかたいさま。かたい。「堙栗(シンリツ)(しまってかたい)」「堙密以栗知也=堙密にして以て栗なるは知也」〔礼記・聘義〕
  3. {動詞}恐れてふるえる。ぴりっと痛む。▽慄に当てた用法。「使民戦栗=民をして戦栗せしむ」〔論語・八佾〕

字通

[象形]木の上に実をつけている形。卜文・金文の字形は、𠧪(ちよう)形の実三個をつけている。〔説文〕七上に「木なり。木に從ひて、其の實下垂す。故に𠧪(てう)に從ふ」とし、古文の字形について「西に從ひ、二𠧪に從ふ。徐巡の説に、木、西方に至りて戰栗(せんりつ)す」という。西はいがの形。戦栗の説は、〔論語、八佾〕に社樹のことを述べて「周人は栗を以てす。曰く、民をして戰栗せしむ」のあるのによるが、慄(りつ)の仮借義である。

率(リツ・11画)

率 甲骨文 率 金文
甲骨文合集34185/大盂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は紡錘の周囲に点を4つまたは6つ付け足した形。垂らした糸に従って水がしたたるさま。原義は”導く”。

音:カールグレン上古音はsli̯wəd(去)。動詞・形容詞での漢音は「ソツ」、呉音は「シュチ」。名詞”わりあい・きまり”での漢音は「リツ」、呉音は「リチ」。名詞”かしらだつもの”での漢音は「スイ」、呉音も同じ。

用例:『甲骨文合集』00248正.7に「貞今來羌率用」とあり、”引き出す”と解せる。おそらく縛り上げた羌族を”引き出し”、生け贄に供するさま。

西周早期「𢉅父鼎」(集成2671)に「隹女率我友厶事。」とあり、”率いる”と解せる。

以降戦国末期まで”引く”系統の語義しか確認できず、形容詞”急に”の初出は論語では先進篇25を除けば、『墨子』兼愛下7の「若予既率爾群對諸群,以征有苗」。ただしいつ記されたか明瞭でない。

備考:形容詞的用法は、”いきなり”の意味で本来「卒」と書くべき所を、漢帝国の儒者がもったいを付けて「率」と書き、古くさく見せたのであり、悪質な誤字の一種と言ってよい。論語語釈「卒」も参照。

学研漢和大字典

会意。「幺または玄(細いひも)+はみ出た部分を左右に払いとることをあらわす八印+十(まとめる)」で、はみ出ないように中心線に引き締めてまとめること。「リツ(入)」の場合は律(きちんと整えたわりあい)と同系。「全体に対する割合・程度」「おおよそ」の意味は「リツ」と読む。

語義

リツ(入)
  1. {名詞}全体のバランスからわり出した部分部分の割合。《類義語》律。「比率」「確率」。
  2. {名詞}一定の規準。きまり。
ソツ(入)
  1. {動詞}ひきいる(ひきゐる)。はみ出ないように、まとめて引き締める。「引率」「率先」「率天下之人而禍仁義者、必子之言夫=天下の人を率ゐて仁義に禍する者は、必ず子の言なるかな」〔孟子・告上〕
  2. {動詞}したがう(したがふ)。はみ出ないよう一本にまとまる。ルートからそれないようにする。《類義語》順・循。「率循」「率由旧章=旧章に率ひ由(よ)る」〔詩経・大雅・仮楽〕
  3. {動詞・形容詞}そのままにまかせる。それだけで、まじりけがないさま。「率直」。
  4. {形容詞}はっと急に引き締まるさま。《同義語》卒。「率然(=卒然。はっと急に)」「軽率(=軽卒)」「子路率爾而対曰=子路率爾として而対へて曰はく」〔論語・先進〕
スイ(去)
  1. {名詞}おさ(をさ)。ひきいる人。《同義語》帥。「将率(ショウスイ)(=将帥)」。

字通

[象形]糸束をしぼる形。糸束の上下に小さな横木を通し、これを拗(ね)じて水をしぼる形。〔説文〕十三上に「鳥を捕る畢(あみ)なり。絲罔(しまう)(網)に象る。上下は其の竿柄なり」と鳥網(とあみ)の形とするが、その義に用いた例がない。糸束をひき絞る形で、卜文・金文には左右に水点を加えている。金文に「率(ことごと)く」「率(したが)ふ」の義に用いる。しぼり尽くすので、率尽・率従の意となる。

慄(リツ・13画)

慄 隷書
鮮于璜碑・後漢

初出:初出は後漢の隷書

字形:「忄」+「栗」(音符)で、原義は”おそれおののく。定州竹簡論語では、「戰慄」”おそれおののく”を「戰栗」と書いている。論語語釈「栗」を参照。

音:カールグレン上古音はli̯ĕt(入)。同音は「栗」・「瑮」”玉の繋がって美しいさま”(共に入)。

用例:戦国時代の『墨子』尚同中12に「皆恐懼振動惕慄」とあるが、後世の加筆の可能性を排除できない。

論語時代の置換候補:存在しない。『大漢和辞典』で同訓同音は存在しない。部品の「栗」には、春秋末期までに”おそれる”の用例を確認できない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「心+(音符)栗(リツ)」。栗は、いがに針がつらなるくり。連続して刺す意を含む。ひりひりと連続して刺激する感じを慄という。▽痳(リン)(つらなる)は、その語尾がnに転じたことば。

語義

  1. {動詞}ふるえる(ふるふ)。おそれる(おそる)。おそろしくて、ぶるぶるとふるえる。「戦慄(センリツ)(=戦栗)」。
  2. 「慄冽(リツレツ)」「慄烈(リツレツ)」とは、ぴりぴりするほど、膚に冷たくこたえるさま。「其気慄冽、釉人肌骨=其の気慄冽として、人の肌骨を釉す」〔欧陽脩・秋声賦〕

字通

[形声]声符は栗(りつ)。〔爾雅、釈詁〕に「懼(おそ)るるなり」、〔広雅、釈言〕に「戰(をのの)くなり」とあり、戦慄することをいう。

立(リュウ・5画)

立 甲骨文 立 金文
甲骨文/七年趞曹鼎・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「大」”人の正面形”+「一」”地面”で、地面に人が立ったさま。原義は”たつ”。

音:「リツ」は慣用音。カールグレン上古音はgli̯əp(入)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文の段階で”立てる”・”場に臨む”の語義があり、また地名人名に用いた。金文では”立場”(善夫山鼎・西周末期)、”地位”(弭伯簋・西周)の語義があった。

学研漢和大字典

立 解字会意。「大(ひと)+━線(地面)」で、人が両足を地につけてたったさまを示す。両手や両足をそろえて安定する意を含む。▽リフ→リュウの音は建立(コンリュウ)の場合に用い、リフ→リツの音は入声(ニツショウ)(つまり音)を日本で促音ツであらわす習慣によってなまった音。笠(リフ)→(リュウ)(頭上にしっかりとのせるかさ)・拉(ラフ)→(ラツ)(両手を対象につけてつかまえる)と同系。

類義語に建。異字同訓にたつ・たてる 立つ・立てる「演壇に立つ。席を立つ。使者に立つ。危機に立つ。見通しが立つ。うわさが立つ。立ち合う。柱を立てる。計画を立てる。手柄を立てる。顔を立てる。立て直す」 建つ・建てる「家が建つ。ビルを建てる。銅像を建てる。建て前」。付表では、「立ち退く」を「たちのく」と読む。

語義

  1. {動詞}たつ。たてる(たつ)。しっかりと両足を地につけてたつ。安定させてたてる。「起立」「立像」「立不中門=立つに門に中せず」〔論語・郷党〕
  2. {動詞}たつ。足を地につけて、しっかりと生活をする。「三十而立=三十にして而立つ」〔論語・為政〕
  3. {動詞}たてる(たつ)。組織・きまり、仕事の基礎などをしっかりきめる。《対語》⇒廃(やめる)。《類義語》樹(たてる)。「自立」「立国=国を立つ」「立法度=法度を立つ」。
  4. {動詞}たつ。たてる(たつ)。位につく。とりあげて位につかせる。後つぎにきめる。《類義語》廃(やめさせる)。「立太子=太子を立つ」「立其中子=其の中子を立つ」〔史記・伯夷〕
  5. {動詞}たつ。季節の気配がたちおこる。「立春」。
  6. {副詞}たちどころに。「立応=立ちどころに応ず」「剣堅故不可立抜=剣堅し故に立ちどころに抜くべからず」〔史記・荊軻〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①リットル。容積の単位。一リットルは約五合五勺。▽フランス語litreに当てた字。
    ②数学で、三乗に関すること。「開立」「立米(リュウベイ)」。

字通

会意、大+一。大は人の立つ正面形。一はその立つところの位置を示す。〔説文〕十下に「とどまるなり。大に従い、一の上に立つなり」とあり、一定の位置に定立することをいう。金文に「中廷に立つ」、また「立(位)に即く」のように、字を両義に用いる。〔周礼、春官、小宗伯〕「建国の神位を掌る」の〔鄭注〕に「立は読みて位と為す」とあり、また〔春官、肆師〕「牲を社宗に用い、則ち位を為す」の〔注〕に「故書に、位をと為す」とみえ、立・位・涖は一系の字で通用することがあった。位にのぞむということから、立法・立制など、すべてのものをの端緒をなし、創建し、秩序を定め、基調を確立するなどの意に用いる。

訓義

  1. たつ、正しくたつ。
  2. たてにする、おこす、おく。
  3. のぞむ、位につく、その場にゆく、とどまる。
  4. つくる、あらたにつくる、はじめる、たてる。
  5. たちどころに。

柳(リュウ・9画)

柳 金文
南宮柳鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はl(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。丣(リュウ)は留の原字で、すべるものを一時とめておくこと。柳は「木+(音符)丣」。枝が流れるようにすべるやなぎ。流と同系。

語義

  1. {名詞}やなぎ。木の名。やなぎ科の落葉高木で、枝は流れるように下に垂れる。しだれやなぎ。「柳条」「柳糸」。
  2. {名詞}やなぎ。やなぎ科の落葉高木、または低木の総称。枝は、垂れるものと、垂れないものがある。
  3. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のうみへび座にふくまれる。ぬりこ。

字通

[形声]声符は卯(りゆう)(丣)。丣は留(りゅう)の省文で、その声をとるものであろう。〔説文〕六上に「小楊なり」とあり、楊柳の小茎小葉のものをいう。枝が柔らかく、〔詩、斉風、東方未明〕に「柳を折りて圃に樊(かき)す」とみえる。〔本草綱目、木二、柳〕の李時珍の説に、「楊枝は硬くして揚起す。故に之れを楊と謂ふ。柳枝は弱くして垂流す。故に之れを柳と謂ふ」と垂流の義を以て説く。六朝期のころから、楊柳詞の類が多く作られた。

流(リュウ・10画)

流 金文
妾子𧊒壺・戦国末期

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しないが、下掲『字通』のが説文解字から引く「ㄊ」は甲骨文からあり、論語の時代に存在したが、語義が通じないと『字通』は言う。カールグレン上古音はl(平)。同音無数。藤堂上古音はlɪog。部品の「㐬」は初出・音ともに不明。「㐬」の語釈は「はたあし」(旗に着いた吹き流しの帯)と『大漢和辞典』は言うが、「漢語多功能字庫」は逆子の象形といい、「川」は流れ出る羊水を意味するという。「国学大師」は「リュウ」l(平)”はたあし・たますだれ”に同じという。だが「㐬」の本字である「イク」d(入)が殷の甲骨文から存在するというのに、部品の「㐬」がそれより新しいとは考えられない。

結論として論語時代の置換候補として「㐬」を提示したいところだが、”ながれ”の語釈をどの辞書も立てていないので暫定的に不可とする。

漢語多功能字庫

金文從「」,從「」,「」象倒子,下有三畫象生子時的羊水。「」是「」的省文,象產子之形。「」字當取意於產子時嬰兒從母親體內流出,故有流出之意。


金文は「水」の系統に属し、「㐬」の系統にも属する。「㐬」は逆子の象形で、下に三本描かれているのは羊水の象形。「㐬」は「毓」の略字で、出産の象形である。「流」字の語義は、出産の際に新生児が母親の胎内から流れ出てくることで、だから流し出す・流し出るの意がある。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側は「子の逆形+水」の会意文字で、出産のさい羊水のながれ出るさま。流はそれを音符とし、水を加えた字で、その原義をさらに明白にしたもの。分散して長くのび広がる意を含む。旒(リュウ)(吹きながしののぼり)・柳(ひとすじずつ枝のなびくやなぎ)・翏(リョウ)(ひとすじずつまばらになる)などと同系。草書体をひらがな「る」として使うこともある。▽「流」の終二画からカタカナの「ル」ができた。

語義

  1. {動詞}ながれる(ながる)。ながす。水がすじを引いてわかれながれる。液体をながす。または水中に物をながす。「流涕=涕を流す」「黄河入海流=黄河海に入りて流る」〔王之渙・登鸛鵲楼〕
  2. {動詞}ながれる(ながる)。川のながれのように、わかれて広がる。「流布」「流風善政猶有存者=流風善政なほ存する者有り」〔孟子・公上〕
  3. {形容詞}水のながれのように、あてもないさま。また、とどまらず変わりやすいさま。根拠のないさま。「流浪」「流連荒亡」〔孟子・梁下〕
  4. {名詞}ながれ。ながれる水。また、ながれる川。「支流」「漱流=流れに漱ぐ」。
  5. {名詞}水の支流のように、わかれて一派をなしたもの。広く、学問・技芸などの系統。また、そのやりかた。「流派」「九流(儒家・道家・陰陽家・法家・名家・墨家・縦横家・雑家・農家の九つの学派)」。
  6. {名詞}品位や階層によって人間を派別にわけたもの。「上流階級」「清流(品性の清らかな仲間)」「流内(高官の仲間)」「流外(下層属吏の仲間)」。
  7. {動詞}ながす。罰として遠い地方に追いやる。「流刑(リュウケイ)・(ルケイ)」「舜、流共工于幽州=舜、共工を幽州に流す」〔孟子・万上〕
  8. {名詞}都の周囲千里(四百キロ)以遠の地。また、辺境の地。▽千里(四百キロ)以内の地を畿(キ)という。「流官(中央政府の任命した地方官)」「改土帰流(清代、中国西南部に住む異民族の首領の世襲制を任官制に改めて、その民族を中央に属させること)」。
  9. 《日本語での特別な意味》
    ①武術・芸道などの流派の名の下につけることば。「一刀流」。
    ②ながれ。血すじ。また、血すじを引いた子孫。「清和源氏の流れ」。
    ③ながれる(ながる)。ながす。請け出す期限になって、質物の所有権がなくなる。また、質物の所有権を失う。
    ④ながし。器やからだを洗う所。「流し台」。
    ⑤ながし。客を求めて歩きまわること。また、その人。「新内流し」「流しのバイオリンひき」。
    ⑥旗や幟を数えることば。▽「旒」に当てた用法。

字通

[会意]字の初形は、二水の間に㐬(とつ)を加えた形。㐬は〔説文〕ㄊ字条十四下にㄊ(とつ)の或(ある)体にして突出の意とするが、人の倒形で、流屍の象。のち流の字形を用いる。古代には洪水が氾濫する際に、流屍多く、氾・泛・浮・流は、みな人の浮流することをいう。〔書、舜典〕「共工を幽州に流す」とは流竄の刑であるが、古くは水に投棄する刑があり、灋(法)は羊神判の結果、その敗訴者を解廌(かいたい)(神羊)とともに廃棄する意象の字である。水流より流派の意となり、その流類をいう。

大漢和辞典

リンク先を参照

旅(リョ・10画)

旅 甲骨文 旅 金文
甲骨文/𨕘甗・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:「㫃」”旗やのぼり”+「人」二つ”大勢”で、旗印を掲げて多人数で出掛けるさま。もとは軍事用語で、軍隊の一単位。現代でも「旅団」という。金文の字形には、「人」が「車」になっているものがある。旅

音:カールグレン上古音はgli̯o(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義の”軍隊”、祭祀名・地名に用いた。金文では、”旅”・”携帯する”(伯多父盨・西周末期)、”黒色”(夨簋・西周早期)、地名・人名に用いた。戦国の竹簡では、”旅”の意に用いた。

ただし祭祀名として甲骨文に見える、とするのは、中国の漢学教授が論語八佾篇6に付けられた儒者の出任せを、甲骨文の昔にまで遡って適用しているに過ぎず、信用するに値しない。

備考:

游 甲骨文 遊 金文
「遊」甲骨文/曾仲斿父方壺・春秋早期

一人または少人数で出掛けることは「遊」と言う。

学研漢和大字典

会意文字で、「はた+人二人」で、人々が旗の下に隊列を組むことを示す。いくつもならんでつらなる意を含む。軍旅の旅がその原義に近い。侶(リョ)(ともがら)・呂(リョ)(ならんだ背骨)などと同系のことば。

語義

  1. {動詞・名詞}たびする(たびす)。たび。数人が隊を組んで移動する。また、そのこと。▽昔は隊商が隊を組んでしたたびをいい、のち広く旅行の意となった。「行旅(旅行者)」「逆旅(ゲキリョ)(旅人を迎え入れる宿)」。
  2. {名詞}隊を組んだ軍隊。また、広く、軍隊。▽周代には五百人の一組を一旅といい、近代では師団に次ぐ大部隊を旅団という。「軍旅(軍隊)」。
  3. {動詞}ならぶ。つらねる(つらぬ)。多くの物が集まってならぶ。多くの物を集めてならべる。「旅陳(リョチン)」。
  4. (リョス){動詞・名詞}山川の神に対して、多くの供物をならべて大祭を行う。また、その大祭。「旅祭」「季氏、旅於泰山=季氏、泰山に旅す」〔論語・八佾〕
  5. {名詞}背骨のこと。▽膂(リョ)に当てた用法。「旅力(=膂力)」。
  6. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陝陬(艮下離上(ゴンカリショウ))の形で、定住せずに動くことを示す。

字通

[会意]㫃(えん)+从(じゆう)。㫃は旗。从は從(従)の初文で、前後相従う人。氏族旗を奉じて、一団の人が進む意で、その軍団をいい、また遠行することをいう。〔説文〕七上に「軍の五百人を旅と爲す。㫃に從ひ从に從ふ。从は倶にするなり」と軍旅の意とする。斿(ゆう)・遊は一人が旗を奉じて出行する形。多数のときには旅という。古くは邑里の外に出るときには、氏族霊の象徴として、氏族旗を奉じて行動した。それで軍旅のことに限らず、別宮に赴いて祭ることを旅祭といい、その祭器を旅器といい、旅彝(りよい)という。師旅のときには多数で行動するので、多い意となり、連なる意となる。〔詩、小雅、賓之初筵〕「殽核(かうかく)を維(こ)れ旅(つら)ぬ」のように陳設の意にも用いる。〔説文〕にまた古文一字を録し、「古文以て魯衞の魯と爲す」とするが、旅を魯衛の魯に用いることはない。〔段注〕に、〔左伝〕の「仲子、生まれしとき、文の其の手に在る有り。曰く、魯の夫人と爲らんと」の魯は、掌文とすればこの古文の形であろうというが、その字は旅の訛変の字である。

慮(リョ・15画)

慮 金文
上曾大子鼎・春秋早期

初出:初出は春秋早期の金文

字形:初出の字形は「忄」”心”+「虍」”猛獣の頭”+”目を見開いた人”。猛獣に遭遇し、感覚を研ぎ澄ませてよく考えるさま。戦国以降は形声文字として「呂」gli̯o(上)+「心」の字形が現れるが、現伝字形は初出の形を留めている。

音:カールグレン上古音はli̯o(去)。同音は慮を部品とする漢字群、「臚」”肌・連ねる”、「廬」”いおり”。

用例:春秋早期「上曾大子鼎」(集成2750)に「心聖若慮」とあり、”よく考える”と解せる。

備考:『大漢和辞典』に音リョ訓おもう・おもんぱかる・はかる・かんがえるは他に存在しない。部品の「思」si̯əɡ(平)はとうてい音通とは言えない。「虍」xo(平)の『大漢和辞典』での語釈は”虎の皮の模様”。

学研漢和大字典

形声。「心+(音符)盧の略体」で、次々と関連したことをつらねて考えること。旅(並んだ人々)・侶(リョ)(ずるずると連なる友づれ)・呂(リョ)(連なるせぼね)と同系。類義語に思。

語義

  1. {動詞}おもんぱかる。次々と、思いめぐらす。また、関連した事がらを考え合わす。「考慮」「願太傅更慮之=願はくは太傅更にこれを慮れ」〔史記・荊軻〕
  2. {名詞}おもんぱかり。あれこれと考えること。細かいはからい。「人無遠慮、必有近憂=人遠慮無ければ、必ず近憂有り」〔論語・衛霊公〕
  3. 《日本語での特別な意味》「遠慮」とは、気がねして控えめにすること。

字通

[形声]声符は■(上下に虍+田)(りよ)。〔説文〕十下に「謀思するなり」とあり、謀三上には「難を慮(おもんぱか)るを謀と曰ふ」とする。字を虍(こ)声とするが、盧(ろ)・虜(りよ)などと同声。〔詩、小雅、雨無正〕に「慮ること弗(な)く圖ること弗し」とあり、金文の〔中山王方鼎〕に慮を■(上下に呂+心)に作る。■(上下に虍+田)・呂同声であることが知られる。漢碑には字を慮に作っている。

※慮li̯o(去)、虍xo(平)、盧lo(平)、虜lo(上)。例によって白川の漢字音は真に受けない方がいい。

兩/両(リョウ・6画)

両金文 両 金文
欮簋・西周早期/洹子孟姜壺・春秋晚期

初出:初出は西周早期の金文

字形:車を牽く家畜のくびきの象形で、原義は不明。

音:カールグレン上古音はli̯aŋ(上/去)。同音は論語語釈「良」を参照。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では”二つ”(小臣宅簋・西周早期)、量の単位(平宫鼎・戦国)に用いた。

学研漢和大字典

象形。左右両方が対をなして平均したはかりを描いたもの。輛(リョウ)(両輪の車)・梁(リョウ)(左岸と右岸の柱の上に平らに渡す橋。東の柱と西の柱両方に渡すはり)と同系。類義語に二。「輛」の代用字としても使う。「両・車両」。

語義

  1. {名詞・形容詞}ふたつ。二つで対をなすもの。また、二つで対をなしている。《類義語》双。「両岸」「両馬之力与」〔孟子・尽下〕
  2. {副詞}ふたつながら。両方ともに。「一別、音容両渺茫=一別、音容は両(ふた)つながら渺茫(びょうばう)たり」〔白居易・長恨歌〕
  3. {単位詞}車の台数を数えることば。▽輛(リョウ)に当てた用法。もと、両輪のある車の意。「革車(カクシャ)三百両」。
  4. {単位詞}重さの単位。一両は、十六分の一斤。周代、一両は約一六グラム。▽今の中国では、一両は十分の一斤で約五〇グラム。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①りょう(りゃう)。江戸時代の貨幣の単位。一両は、四分の金貨、または四匁三分の銀貨の値うちに当たる。
    ②車の数をかぞえることば。《同義語》輛。

字通

[象形]字の初形は兩に作り、両輪相並ぶ形で、輛の初文。〔説文〕七下に㒳を正形とし、「再びするなり。冂(けい)に從ふ。闕」とあって、その字形を未詳とする。また別に兩をあげて、「二十四銖を一兩と爲す。一㒳に從ふ。平分するなり。亦聲」という。金文には㒳・兩の両形あり、ともに車輛の字に用いており、もと同字である。

良(リョウ・7画)

良 金文
甲骨文/齊侯匜・春秋早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形には、「日」”太陽”+上下の雷文のものが少なからずあり、甲骨文では天体の太陽と自然現象の雷の組み合わせだが、同音に「粱」”アワ”・「量」”食糧”があることから、作物の生長を育む太陽と、窒素固定で土壌を豊かにする雷(→wikipedia)の組み合わせ、原義はすなわち”利益をもたらすもの”。雷は金文に至って、神を意味するようになる。

神 金文
「神」大克鼎・西周末期

音:カールグレン上古音はli̯aŋ(平)。同音は以下の通り。

初出 声調 備考
リョウ よい 甲骨文
西周末期金文 →語釈
アワ 西周末期金文
かて 西周末期金文 →語釈
はかる 甲骨文 →語釈
ふたつ 西周早期金文 上/去 →語釈

用例:甲骨文には「婦良」の例が見られ、人名の一部を構成した。『甲骨文合集合集』13016.3に「丙申卜寧良」とあり、「良やすからんか」と読める。

『甲骨文合集合集』24472.1に「丙辰卜貞王其步于良無災」とあるのは地名と思われる。

西周早期の『殷周金文集成』09103「御正良爵」に「御正良貝,用乍(作)父辛□(阝尊)彝。」とあるのは、「正によき貝を用いて」と読め、”よい”の語義を確認できる。

漢語多功能字庫」は回廊を意味し、「廊」の初文。回廊は空気の通りが良いから、良好、明朗の意となるというが、どこの連想ゲームでしょうか。甲骨文では良好のほか、地名人名に用いた。金文では良好を意味し、戦国の竹簡では賢者を意味するようになったという。

学研漢和大字典

会意。〇型の穀粒を水で洗い、きれいにしたさまをあらわす。粮(リョウ)(=糧。けがれのない穀物)の原字。亮(リョウ)(けがれのない)・涼(リョウ)(けがれのない)・諒(リョウ)(けがれのない)などと同系。類義語の善は、膳(ゼン)の原字で、おいしいごちそうのこと。感じがよいの意から、よいの意へと拡大された。嘉(カ)も、やはりごちそうの意から、よい、めでたいの意に転じた。佳(カ)は、姿や形のすっきりしていてよいこと。好は、大事にしてかわいがり、このましいこと。異字同訓に善い「善い行い。世の中のために善いことをする」。付表では、「野良」を「のら」と読む。▽草書体をひらがな「ら」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「ら」、初二画からカタカナの「ラ」ができた。▽「いい」は口語的なことば。▽「よい」「いい」は「善い」「好い」とも書く。

語義

  1. {形容詞}よい(よし)。けがれがない。質がよい。わざがすぐれているさま。《対語》⇒悪。《類義語》善。「良工」「良家」「夫子温良恭倹譲、以得之=夫子は温良恭倹譲、以てこれを得たり」〔論語・学而〕
  2. {名詞}人格的にすぐれている人。すぐれていること。「二良(二人のよい人)」。
  3. {副詞}まことに。→語法「①」。
  4. {副詞}やや。ずいぶんと。《類義語》頗(すこぶる)。→語法「②」。
  5. 「良人」とは、よい人の意から、妻が夫をいうことば。「何日平胡虜、良人罷遠征=何れの日か胡虜を平らげ、良人遠征を罷めん」〔李白・子夜呉歌〕

語法

①「まことに」とよみ、「本当に」と訳す。《類義語》諒(リョウ)。「扈従良可賦=扈従(こじう)良(まこと)に賦す可し」〈扈従したからには本当に詩賦を作るべきだ〉〔宋之問・扈従登封途中作詩〕

②「良久」は、「ややひさし」とよみ、「しばらく」と訳す。時間が経過する意を示す。「秦王不怡者良久=秦王怡(よろこ)ばざる者良久(ややひさ)し」〈秦王は不愉快さがしばらく続いた〉〔史記・刺客〕

字通

[象形]長い槖(ふくろ)の上下に流し口をつけて、穀物などを入れ、それをよりわけ、糧をはかることをいう。〔説文〕五下に「善なり。畗(ふく)の省に從ひ、亡(ばう)聲」とするが、その録する小篆及び古文の形は、著しくその初形を失ったもので、説解もまた誤る。高鴻縉の〔中国字例〕に、卜文の字形によって、風箱留実、風を送って穀をよりわけるものとしており、おそらくその良をえらび、量を定めて、糧(粮)とするものであろう。〔釈名、釈言語〕に「良は量なり。力を量りて動き、敢て限を超えざるなり」とするのは音義説にすぎないが、量も槖の上に流し口を設けて量る意であるから、良・量はその器の形においても近く、声義も近い。〔周礼、考工記〕に〔栗氏〕の職があり、嘉量を掌る。栗は〔鄭司農注〕にまた歴に作り、歴は釜鬲(ふれき)の鬲であるという。鬲もまた量器に用いることがある。良は穀をえらび、量を定めるものであるから、また良善の意となり、すべて状態の良善なるものをいう。金文に「良馬乘」「良金」「良臣」などの語があり、〔詩、秦風、黄鳥〕は秦の穆公に従死する人を悼む詩で、各章に「彼の蒼なる者は天 我が良人を殲(つく)す」の句がある。

梁(リョウ・11画)

梁 金文
『字通』所収金文

初出:初出は西周末期の金文。ただし字形は異体字の「氵刅」。現行字形の初出は晋系戦国文字。

字形:「水」+「刅」”いばら”。原義不詳。ただし「刅」(カールグレン上古音不明)を「創」(tʂʰi̯aŋ平/去)と解して音符とする説には賛成できない。同音に「兩」(上/去)があり、川の両岸を渡す橋の意か。「兩」の初出は西周早期の金文で、橋を横から見た形に見えるが、戦国時代からは屋根の下に羊を入れた形などが現れる。

音:カールグレン上古音はli̯aŋ(平)。同音は論語語釈「良」を参照。

用例:西周末期「󱡽其鐘」(集成187)に「〔氵刅〕(梁)其曰」とあり、人名と解せる。

春秋早期「弔家父簠」(集成4615)に「用盛稻〔氵刅〕」とあり、穀物の”キビ”(コウリャン)と解せる。

文献時代には、家屋の”はり”・河を渡る”橋”の意に用いた。

梁 解字

『大漢和辞典』梁状に「やな」の語釈があり、水流を遮って魚を捕る仕掛けのこと。論語郷党篇19の「梁」について言えば、仮にこの章が史実とすると、「氵」”川の流れ”を「刅」”いばら”でせき止めた”やな”を意味するのではないか。

通説通り川を渡る”はし”と言い出したのは、古注に付け足し「疏」を記した南北朝の儒者で、「梁者以木架水上可踐渡水之處也」”梁とは木で造った川の上に架けた構造物で、川を渡れるしつらえである”と記す。だがどうして”橋”の意になるか説明していない。孔子没後1411年後に生まれた宋儒の邢昺も同様に”橋”説を取るが、もちろん根拠も言っていないから信用できない。

備考:論語衛霊公篇36、定州竹簡論語の注釈には「諒」ɡli̯aŋ(去)と同音とあるが、上掲の通りカールグレン上古音では違っているし、”あきらか”の語釈は『大漢和辞典』にもない。ただし”ただしい”の語釈で「諒に通ず」とはあり、出典が清代に書かれた『説文解字』の注釈(『説文通訓定声』)や、『白虎通義』であることから、近代になってから音通とされたようである。だが『白虎通義』には「梁者信也」とあり、前漢の時代には「信」と理解されていたのが、後漢になって「諒」へと書き改められたことになる。

学研漢和大字典

会意。金文は「水+害(両がわに刃のついた刀)」からなる会意文字。篆文(テンブン)はさらに木を加えた会意文字。左右の両岸に支柱を立て、その上にかけた木のはしである。両岸にわたるから梁liaŋといい、両と同系。類義語の橋は、曲線をなす太鼓橋。

語義

  1. {名詞}はし。左右の両岸に支柱をたて、その上にかけた木のはし。「橋梁(キョウリョウ)」。
  2. {名詞}はり。うつばり。二本の支柱で屋根をささえる材。「棟梁(トウリョウ)」。
  3. {名詞}やな。川の瀬の両岸からくいをうち、水を中央の一か所に集めて、すのこをしいて魚をとる装置。「毋逝我梁=我が梁に逝く毋かれ」〔詩経・癩風・谷風〕
  4. {名詞}物の中央の突起している部分。▽橋や、はりのように高くかかっていることから。「鼻梁(ビリョウ)」。
  5. {名詞}国名。戦国時代、魏(ギ)の別名。戦国の七雄の一つ。前四〇三~前二二五▽恵王のとき都を大梁(ダイリョウ)(今の開封市)に移してからの称。
  6. {名詞}王朝名。つ南北朝時代、南朝の一つ。蕭衍(ショウエン)が斉(セイ)を滅ぼしてたてた。四代で陳(チン)に滅ぼされた。五〇二~五五七づ五代の一つ。朱全忠が唐を滅ぼしてたてた。二代で後唐(コウトウ)に滅ぼされた。「後梁(コウリョウ)」とも。九〇七~九二三

字通

[形声]声符は■(氵+刅)(りよう)。■(氵+刅)は梁の初文。古文の形は水に両木をわたす形。金文では■(氵+刅)を粱に用いる。〔説文〕六上に「水橋なり」とし、刅(そう)声とするが、声が合わない。金文の稲粱の粱を、水に従って■(氵+刅)に作るものと、粉米の形に従うものとがあり、水橋の象に従うものはない。〔詩、衛風、有狐〕「彼の淇(き)(水名)の梁に在り」の〔伝〕に「石の水を絕(わた)るを梁と曰ふ」とあって、必ずしも横木に限らず、飛石をいい、またそのようなところにかける笱(やな)を梁というのであろう。

陵(リョウ・11画)

陵 金文
散氏盤・西周末期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はli̯əŋ(平)。同音は下記の通り。

初出 声調 備考
リョウ 大きいをか 西周早期金文
のる 前漢隷書
しのぐ 甲骨文
西周早期金文
ひし 楚系戦国文字
不明
せんざんかふ 不明

論語語釈「山」も参照。

漢語多功能字庫

金文從「」從「」從「」,「」是聲符,「」象土山高峭,本義是山丘。


金文は「阜」と「夌」と「土」の字形に属し、「夌」が音符。「阜」は土盛りの高いものの象形で、原義は山や丘。

学研漢和大字典

会意兼形声。夌(リョウ)は「坴(土盛り)の略体+夂(あし)」の会意文字で、足の筋肉にすじめを入れるほど力んで丘に登ること。陵は「阜(おか)+(音符)夌」で、山の背のすじめ、つまり稜線(リョウセン)のこと。凌(リョウ)(氷のすじ)・綾(リョウ)(すじめ入りのあや織り)と同系。また、力(手足の筋肉をすじばらせてりきむ)・阞(ロク)(大地のすじめ)・肋(ロク)(すじめのあらわな胸の骨)などは、陵の語尾xがkに転じたことば。類義語に山。「しのぐ」は「凌ぐ」とも書く。

語義

  1. {名詞}おか(をか)。すじ状の山波の線。山の背すじ。《類義語》丘・岡。「山陵」。
  2. {名詞}みささぎ。おかの形をした、国君や皇帝の墓。「陵墓」「始皇陵(秦(シン)の始皇帝の墓)」。
  3. {動詞}力をこめて高い所に登る。《同義語》凌。「陵雲之志(リョウウンノココロザシ)(雲に登るほどの志)」〔漢書・揚雄〕
  4. {動詞}しのぐ。力をこめて痛めつける。うちひしぐ。むりに相手の上に出る。《同義語》凌。「侵陵(=侵凌)」「陵辱(=凌辱)」「陵虐小国=小国を陵虐す」〔春秋左氏伝・昭五〕

字通

[形声]声符は夌(りよう)。夌は神を迎える建物である𡴆(りく)と、夊(すい)とに從う。〔説文〕十四下に「大いなる𨸏(をか)なり」とし、𨸏を大阜の形とするが、𨸏は陟降の字がその形に従うように、神梯の象。金文の字形にはその前に土を加えるものが多く、土は社(社)の初文。神霊の降下を迎えて祀るところである。山腹のなだらかなところを陵夷(りようい)という。そこに陵墓を営むことが多く、のち陵墓をいう。

量(リョウ・12画)

量 甲骨文 量 金文
合18507/大克鼎・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:上下に「口」”くち”+「東」”中身の詰まった袋”。中身の詰まった袋を開けたさま。金文以降「口」が「日」になるのは、開けてみて確かにものが入っていたことを示すため、横に一画加えた形。甲骨文にも上部を「田」とするものが「量」字に比定されている。

音:カールグレン上古音はli̯aŋ(平)。同音は論語語釈「良」を参照

用例:「甲骨文合集」22094.5に「壬寅卜禦于量」とあり、地名または氏族名と解せる。

西周末期「揚𣪕」(集成4294)に「官𤔲(司)量田甸」とあり、”はかる”と解せる。

学研漢和大字典

会意。「穀物のしるし+重」で、穀物の重さを天びんではかることを示す。穀物や砂状のものは、はかりとますとのどちらでもはかる。のち、分量の意となる。両(リョウ)(天びんばかり)と同系。類義語に測。異字同訓に図。「倆」の代用字としても使う。「技量」。

語義

  1. {動詞}はかる。かさ・重さ・大きさなどをはかる。転じて、物事のなりゆきをデータによって考え予測する。物色する。《類義語》計・測。「計量」「思量(考える)」「量力而行之=力を量りてこれを行ふ」〔春秋左氏伝・隠一一〕
  2. {名詞}かさ。ますや入れ物の容積。また、液体や粒状のものの体積や重さ。転じて、人間のもつ力や気持ちの大きさ。▽去声に読む。「容量」「力量」。
  3. {名詞}ます。かさをはかるます。▽去声に読む。「量器」「度量衡(物さし・ます・はかり)」。

字通

[象形]流し口のある大きな槖(ふくろ)の形。下部に土の形の錘(おもり)をそえている。〔説文〕八上に「輕重を稱(はか)るなり。重の省に從ひ、曏(きやう)の省聲」とするが、形も異なり、声も合わない。東は槖の初形のその象形。その上に流し口の形の曰を加え、下に錘(おもり)の土を加えた形で全体象形の字。これによって穀量をはかる。ゆえに量計・量知の意となる。一定量を糧という。

諒(リョウ・15画)

諒 秦系戦国文字 諒 隷書
睡.封1・戦国秦/縱橫家書149・前漢

初出:「小学堂」は秦系戦国文字とするが、事実上前漢の隷書。

字形:〔言〕+〔京〕”たかどの”。高く掲げることの出来る明らかな言葉。

音:カールグレン上古音はɡli̯aŋ(去)。同音は「涼」、「亮」”あきらか”、「掠」、「倞」”つよい・あきらか”。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」封診1に「治獄,能以書從跡其言,毋治(笞)諒(掠)而得人請(情)為上」とあり、「掠」と釈文され、”むちうつ”と解せる。従って「諒」の原字とは断じがたい。

「諒」があきらかに”あきらか”の意で用いられたのは、前漢初期の『韓詩外伝』まで時代が下る。「夫治氣養心之術:血氣剛強,則務之以調和;智慮潛深,則一之以易諒」(それ気を治め心を養うの術は、血気剛強ならばすなわちこれ務めるに調和をもちい、智慮深からばすなわちこれつらぬきてあきらかにかうるをもちう。)

論語時代の置換候補:上古音での同音同義「亮」の初出は前漢の篆書、「倞」の初出は甲骨文で、「あるいは諒に作る」と『大漢和辞典』が言うが、その場合の語釈は”求める”で、なぜか”あきらか・まこと”の意ではない。

日本語音で同音同訓に「了」(初出説文解字)、「亮」(初出後漢隷書)、「憭」(初出説文解字)、「暸」(初出不明)、「瞭」(初出不明)、「燎」(初出前漢隷書)、「龍」(甲骨文)。「龍」の”あきらか”の語義は三国魏の『広雅』が初出。

近音の「梁」li̯aŋ(平)の初出は西周末期の金文で、”ただしい”の語釈で「諒に通ず」と『大漢和辞典』は言うが、春秋末期までにその語義は確認出来ない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「言+(音符)京(キョウ)・(リョウ)(=亮。あきらか)」。明らかにものをいう。転じて、はっきりわかること。「了」に書き換えることがある。「了・了解・了承」。

語義

  1. {名詞}まこと。明白なこと。偽りのない真実。《同義語》⇒亮。「友直友諒=直を友とし諒を友とす」〔論語・季氏〕
  2. {副詞}まことに。たしかに。「諒不我知=諒に我を知らず」〔詩経・小雅・何人斯〕
  3. (リョウス)(リャウス){形容詞・動詞}あきらか(あきらかなり)。あきらかにする(あきらかにす)。はっきりとみきわめた。わかったという。是認する。転じて、あっさりと認める。《同義語》⇒了。「諒解(リョウカイ)(=了解)」「諒承(リョウショウ)(=了承)」「君子貞而不諒=君子は貞にして諒せず」〔論語・衛霊公〕
  4. 「諒闇(リョウアン)」「諒陰(リョウアン)」とは、天子*が父母の喪に服するときのへや。また、その喪に服している期間のこと。「高宗、諒陰三年不言=高宗、諒陰三年言はず」〔論語・憲問〕

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[形声]声符は京(きよう)。京に涼・輬(りよう)の声がある。京は京観(けいかん)、戦場の遺棄屍体を塗りこめた凱旋門のようなアーチ状の門。そこで種々の呪儀が行われた。その感応を得ることを諒という。〔説文〕三上に「信なり」、〔方言、十二〕に「知るなり」、〔広雅、釈詁三〕に「智なり」とみえる。〔方言、一〕にまた「衆信を諒と曰ふ、周南・召南・衞の語なり」とあり、〔詩、鄘風、柏舟〕「人を諒(まこと)とせず」、〔詩、小雅、何人斯〕「諒に我を知らず」などは、その方言区域の詩である。〔論語、季氏〕に「諒を友とす」の語がある。〔詩、大雅、大明〕「彼の武王を涼(たす)く」の涼は、諒の仮借字である。

寮(リョウ・15画)

寮 甲骨文 寮 金文
合36909/作冊夨令簋・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:〔宀〕”屋根”+〔木〕+”火の粉”+〔火〕。火焚きの出来る家屋。

音:カールグレン上古音はliog(平)。同音は論語語釈「繚」を参照。

用例:甲骨文には「師寮」として多くの用例が見えるが、語義は明瞭でない。

西周早期「󰛭令方彝」(集成9901)に「卿士寮」とあり、”役人”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。尞(リョウ)は、かがり火を燃やして明るいさま。燎(リョウ)(かがり火)の原字。寮は「宀(いえ)+(音符)尞」で、もと明るく火をともした窓、またはあかりとりの窓の意。また、かがり火が連続して燃えることから、一連に連なる意をも生じ、僚(連なった仲間)にも当てて用いる。

語義

  1. {名詞}ともがら。いっしょに肩を並べて仕事をする仲間。《同義語》⇒僚。
  2. {名詞}つかさ。役人たちが肩を並べて仕事する所。役所。「左馬寮」。
  3. {名詞}あかりとりの窓。
  4. {名詞}同僚や仲間の住む宿舎。「学寮」。
  5. 《日本語での特別な意味》数寄屋造りの家。また、下屋敷。「茶寮」。

字通

[形声]声符は尞(りよう)。尞の初形は𤊽で、もと庭燎(にわび)をいう。庭燎を以て守る神聖な建物を寮といい、その職制にあるものを寮・僚という。金文の〔毛公鼎〕に「大史寮」「卿事寮」があり、当時の官制は祭祀と行政の両系をなしていた。〔令𣪘(れいき)〕「用(もつ)て寮人に匓(きう)(食事を供する)せん」、〔令彝(れいい)〕「乃(なんぢ)の寮と乃の友事(友官)とを左右(補佐)せよ」、〔叔夷鎛(しゆくいはく)〕「乃の友事と乃の敵(嫡)寮とを康(やす)んじ能(をさ)めよ」のように用いる。わが国の古い官制にも、図書寮・雅楽寮のようにいう。

糧(リョウ・18画)

糧 金文
爰桐盂・春秋

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はli̯aŋ(平)。同音は論語語釈「良」を参照呉音は「ロウ」。

学研漢和大字典

会意兼形声。「米+(音符)量(はかる)」で、重さや分量をはかって用いる主食。▽良(きれいにした穀物)と同系とみてもよい。中国では粮を糧の簡体字に用いる。

語義

  1. {名詞}かて。旅行や行軍のとき、持っていく食糧。▽むかしは多くほしいい(乾飯)を用いた。「兵糧」「糧餉(リョウショウ)」「在陳絶糧=陳に在りて糧を絶つ」〔論語・衛霊公〕
  2. {名詞}主食になる食べ物。「食糧」。
  3. {名詞}租税として徴収する穀物。「銭糧(租税)」「漕糧(ソウリョウ)(運河で運ぶ徴用米)」。

字通

[形声]声符は量(りよう)。量は穀量をはかる槖(ふくろ)の形。〔説文〕七上に「穀食なり」とあり、〔周礼、地官、廩人〕に「凡そ邦に會同師役の事有るときは、則ち其の糧と食とを治む」とあり、〔注〕に「行道を糧と曰ひ、~止居するを食と曰ふ」とする。定量を支給するので、糧というのであろう。秦・漢の虎節や木簡に、そのことを記すものがある。字はまた粮に作る。良は風箱留実、風を送って穀をよりわける器で、また食料に関する器である。

繚(リョウ・18画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はlioɡ(上)またはli̯oɡ(上)。平声のカ音は不明。同音は下記の通り。

li̯oɡ
初出 声調 備考
リョウ はらわたのあぶら 説文解字
牛のはらわたのあぶら 説文解字
はるか 甲骨文
ロウ たるき 説文解字
リョウ つかさ 説文解字
甲骨文 →語釈
祭器の名 説文解字
(鳥の名) 説文解字
あきらか 不明 平/上
さとい 説文解字
狩り 説文解字
まとう 秦系戦国文字

 

li̯oɡ
初出 声調 備考
リョウ には火 甲骨文 平/去
まとう 秦系戦国文字
つかさ 説文解字
いやす 説文解字

漢語多功能字庫

從「」,「」聲。本義是纏繞。


「糸」の字形に属し、「尞」の音。原義はまとわりつくこと。

学研漢和大字典

会意兼形声。「糸+(音符)尞(リョウ)(長々とつづく)」で、ずるずるつづくの意を含む。遼(リョウ)(遠く長くつづく)・僚(ずらりと並ぶなかま)と同系。

語義

  1. {動詞}まとう(まとふ)。まつわる(まつはる)。長いものがずるずる続く。また、からみつく。《類義語》埒(エイ)・纏(テン)。「埒青繚白=青を埒し白を繚ふ」〔柳宗元・始得西山宴游記〕
  2. {動詞}めぐる。めぐらす。周りをとりまく。また、周りをとりまかせる。《類義語》遶(ジョウ)・繞(ジョウ)。
  3. {名詞}つづれ織り。かがり糸。

字通

[形声]声符は尞(りよう)。尞の初文は𤊽で庭燎(にわび)。尞に明るい、めぐる、はるかなどの意がある。〔説文〕十三上に「纏(まと)ふなり」とあり、〔楚辞、九歌、湘夫人〕に「之れに杜衡(とかう)(香草の名)を繚らす」とみえる。花のみだれ咲くことを繚乱といい、もののまとい乱れることを繚糾・繚戻のようにいう。

力(リョク・2画)

力 甲骨文 力 金文
甲骨文/𠫑羌鐘・戦国早期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は農具の象形で、原義は”耕す”。

音:「リキ」は呉音。カールグレン上古音はli̯ək(入)。

用例:「英国所蔵甲骨」751.2に「貞勿于壺力」とあり、「とう、壺にたがやすなからんか」と読め、”たがやす”と解せる。

春秋末期「叔尸鐘」(集成276)に「𪛈(霊)力若虎。堇󰲒其政事。」とあり、”ちから”・”能力”と解せる。

「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義に、金文では春秋中期の「弔夷鐘(叔夷鐘)」に、”能力”の意があると言うが、”功績”の意は、戦国時代の「中山王鼎」まで時代が下ると言う。

学研漢和大字典

象形。手の筋肉をすじばらせてがんばるさまを描いたもの。仂(ロク)(ちからを入れる)・勒(ロク)(ぐいと力を入れて引く手綱)と同系。また「すじめを入れる」という点では、阞(ロク)(山のすじ→稜線(リョウセン))・里(田や町のくぎり)・理(すじめ)・陵(山のすじめ)と縁が近い。類義語の務は、むりに困難をおかしてちからを尽くすこと。努は、じわじわとたゆまないで、がんばること。労はちからを出し尽くして働く。勤は、こまめに手を尽くす。勉はむりをして力む意。

語義

  1. {名詞}ちから。もと、筋力のこと。のち、広く働きをおこすちから。「能力」「尽力=力を尽くす」「力抜山兮気蓋世=力は山を抜き気は世を蓋ふ」〔史記・項羽〕
  2. {名詞}ちから。勢い。「勢力」「権力」。
  3. {名詞}ちから。力仕事。労働。「不事力而養足=力を事めずして養ひ足る」〔韓非子・五蠹〕
  4. {名詞}ちから。腕前。力量。「筆力」。
  5. {動詞}つとめる(つとむ)。ちからをこめてがんばる。筋肉のすじめが目だつほどちからを入れる。「努力」「百姓当家則力農工=百姓家に当たれば則ち農工に力む」〔史記・秦始皇〕
  6. {副詞}つとめて。努力して。「力説」「子力行之=子力めてこれを行ふ」〔孟子・滕上〕
  7. 《日本語での特別な意味》
    ①りきむ。ちからをこめる。▽力の字音を活用させたことば。
    ②りき。仕事量の単位。「十人力」「三馬力」。

字通

[象形]すきの形。〔説文〕十三下に「筋なり。人の筋の形に象る。功を治むるを力と曰ふ。能く大災を禦(ふせ)ぐ」とあり、筋字条四下に「肉の力なり」として、力を筋肉の力と解するが、力はすきの象形、耒(すき)は力(すき)をもつ形である。加・嘉・靜(静)はみな力(すき)を清める儀礼をいう。耤の卜文は、すきを踏む形に、昔(せき)声を加えた字。〔書、盤庚上〕に「穡(しよく)に力(つと)む」、金文の〔叔夷鎛(しゆくいはく)〕に「靈力あること虎の若(ごと)し」とあり、農耕はことに力を要することであった。

大漢和辞典

リンク先を参照

吝(リン・7画)

吝 金文
司馬楙編鎛・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmli̯ən(去)。定州竹簡論語・堯曰篇7では「隣 外字」と記し、注釈に「鄰」の略体と言うが、『大漢和辞典』で「吝」と語釈を共有しない。詳細は論語語釈「隣」を参照。

学研漢和大字典

会意。「文+口」。文は修飾を意味する。口さきを飾っていいわけし、金品を手放さない意を示す。憐(レン)(思い切りわるく、心を悩ます)ときわめて近い。類義語に惜。

語義

  1. (リンナリ){動詞・形容詞}おしむ(をしむ)。やぶさか(やぶさかなり)。ものおしみする。金銭に対して思い切りが悪い。けちである。《同義語》⇒悋。「吝嗇(リンショク)」「使驕且吝=驕りて且つ吝なら使めば」〔論語・泰伯〕
  2. {形容詞}度量が狭くさっぱりしないさま。「鄙吝(ヒリン)」。
  3. {形容詞}くよくよして思い切りがわるいさま。▽「不吝(フリン)」とは、くよくよせず思い切りよく承認すること。「やぶさかならず」と訓読することがある。「吝情(リンジョウ)」。
  4. 《日本語での特別な意味》「吝気(リンキ)」とは、やきもち。《同義語》⇒悋気。「女房の吝気」。

字通

[会意]文+口。古文の字形は彣(ぶん)に従う。文は文身。死者の胸に通過儀礼として施すもので、彣はその文身の美をいう。口は𠙵(さい)、祝禱を収める器。死者について祈る意象の字であるらしく、〔説文〕二上に「恨惜(こんせき)するなり」とし、文(ぶん)声とするが、声が合わない。〔段注〕に「多く之れを文(かざ)るに口を以てす」と口説を以て文飾する意とするが、吝嗇(りんしよく)の意を説きがたい。〔易〕の卦爻の辞に「往くときは吝なり」のように凶の意に用いる。凶事のときの儀礼に関する字と思われる。〔書、仲虺之誥〕に「過ちを改めて吝(をし)まず」とは憚らぬ意。のち吝嗇の意に用いる。

林(リン・8画)

林 甲骨文 林 金文
甲骨文/林亞艅卣・殷代末期

初出:初出は甲骨文

字形:「木」二つ。木の多い林のさま。原義は”はやし”。なお「森」は、甲骨文では横並び三本で記される

音:カールグレン上古音はgli̯əm(平)。

用例:「甲骨文合集」2794に「婦林」と見え、氏族名と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・国名に、金文では氏族名や人名に、また原義に([妾子]𧊒壺・戦国末期)用いられた。

学研漢和大字典

会意。木を二つならべて、木がたくさん生えているはやしをあらわしたもので、同じものが並ぶ意を含む。淋(水滴が並んでたれる)と同系。

語義

  1. {名詞}はやし。木や竹がたくさん集まって生えているところ。「竹林」「林空鹿飲渓=林空しくして鹿渓に飲む」〔梅尭臣・魯山山行〕
  2. {名詞}はやし。同種の物事や人が集まっているところ。また、その集合。「列於君子之林矣=君子の林に列す」〔漢書・司馬遷〕
  3. (リンタリ){形容詞}さかん。たくさんあるさま。また、さかんなさま。「林立」。

字通

[会意]二木に従う。〔説文〕六上に「平土に叢木有るを林と曰ふ」とする。〔詩、小雅、車舝〕「依たる彼の平林」の〔伝〕に「平林とは、林木の平地に在る者なり」とあるのによる。〔詩、小雅、賓之初筵〕に「百禮既に至る 壬(じん)たる有り、林たる有り」と状態詞にも用いる。神気のたちこめるような状態をいう。〔爾雅、釈詁〕に「君なり」とする訓があり、その由るところが知られない。王念孫は、あるいは群の意であろうかという。

倫(リン・10画)

初出は前漢隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はli̯wən(平)。同音は下記の通り。論語時代の置換候補は部品で同音の「侖」。

初出 声調 備考
リン さざなみ 西周末期金文
ともがら 前漢隷書
ロン 説く 戦国末期金文 →語釈
リン 殷代末期金文
つりいと 前漢隷書
ロン 知りたいとねがふさま 説文解字
おもふ 甲骨文 →大漢和辞典

漢語多功能字庫

(解字無し)

学研漢和大字典

会意兼形声。侖(リン)は「映印(あつめる)+冊」の会意文字で、短冊(タンザク)の竹札を集めてきちんと整理するさまを示す。同類のものが順序よく並ぶの意を含む。倫は「人+(音符)侖」で、きちんと並んだ人間の間がらの意。輪(リン)(車輻(シャフク)のきちんと並んだわ)・論(ロン)(ことばをきちんと順序よく整理して並べる)と同系。

語義

  1. {名詞}たぐい(たぐひ)。同列に並んだ仲間。「比倫」「絶倫(仲間をはるかに越えた)」。
  2. {名詞}人間どうしのきちんと整理された関係。「倫理」「人倫」。
  3. {名詞}すじみち。きちんと整った順序。「倫序」「言中倫=言倫に中たる」〔論語・微子〕

字通

[形声]声符は侖(りん)。侖は相次第して、全体が一の秩序をなす状態のもの。〔説文〕八上に「輩なり」また「一に曰く、道なり」という。輩十四上は「軍の車を發するときの若(ごと)し。百兩を輩と爲す」とみえる。倫は人倫。等倫を超えるものを絶倫という。

矝(リン・10画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレンその他上古音は不明。『大漢和辞典』によると”矛の柄”をいうとする。「国学大師」はjīn、guān二つの音を載せ、ともに「古同“矜”」という。論語語釈「矜」を参照。

漢語多功能字庫

(条目無し)

学研漢和大字典

(条目無し)

字通

(条目無し)

鄰/隣(リン・16画)

鄰 金文 鄰 秦系戦国文字
「隣」瀕史鬲・西周早期/「鄰」睡虎地秦簡日乙21・戦国秦

初出:初出は西周中期の金文。「鄰」の字形は初出が戦国末期の金文。ただし字形は「𠳵」で、現行字体の初出は秦系戦国文字。

字形:「阝」”家の入り口にかけたはしご”+かんじきをはいた「人」+”雨や雪の降るさま”で、雪が降っても出歩くような近い範囲のさま。原義は”となり”。西周中期の字形では、「阝」+「人」+”雨や雪”+「𠙵」になる。「𠙵」はかんじきの省略形とみるか、または天気の悪い日にもお互い声を掛け合う間柄を指すとみる。

音:カールグレン上古音はli̯ĕn(平)。藤堂上古音はlɪen。

用例:西周中期「𧽊𣪕」(集成4266)に「訊小大又(右)鄰」とあり、”となり”と解せる。

備考:「漢語多功能字庫」は「鄰」のみ記し、見るべき情報がない。

定州竹簡論語・堯曰篇7では、現伝の「吝」mli̯ən(去)を「隣 外字」と記す。「隣 外字」は「鄰」li̯ĕn(平)の略体と注は言うが、『大漢和辞典』に語釈の共有無し。吝条に『易経』『漢書』の注を引いて「遴に通ず」という。遴li̯ĕn(去)、”むさぼる”の語釈あり。
遴 大漢和辞典

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音リン)は、連なって燃える鬼火をあらわす会意文字。隣はそれを音符とし、阜(土べい)をそえた字で、数珠つなぎにつながるの意を含む。燐(リン)(点々と連なり燃えるリン)・憐(レン)(思いがつながる)・麗(つながっていく)・儷(レイ)(仲間)と同系。

語義

  1. {名詞}となり。連なった土べいや住居。となりどうし。「近隣」「隣家」。
  2. {名詞}となり。まわりにいる同類。仲間。「徳不孤、必有隣=徳孤ならず、必ず隣有り」〔論語・里仁〕
  3. (リンス){動詞}すぐそばに連なる。となりに並んで連なる。近づく。「隣於善民之望也=善に隣するは民の望みなり」〔春秋左氏伝・襄二九〕
  4. {名詞}周代の行政区画で、五家の集まりのこと。「隣伍(リンゴ)」。

字通

[会意]金文の字形は隣に作り、𨸏(ふ)+粦(りん)。𨸏は神の陟降する神梯、その前に人牲を用いる形。〔説文〕六下邑部に鄰を出し、「五家を鄰と爲す」と〔周礼、地官、遂人〕の文によって解する。隣は神梯の象に従い、鄰は邑里の象に従うものであるから、もと別の字とすべきであるが、中国の文献では鄰を隣の正体の字として用いる。金文に隣に作るものがあり、隣をもって正体とすべく、その字は神梯の前に人牲を以て呪禁とする象であるから、本来は聖所をいう字であろう。〔易、既済、九五〕に「東鄰の牛を殺すは、西鄰の禴(やく)祭するに如(し)かず」とあり、ともに祭祀のところをいう語である。この語は文王と紂とのことをいうとされ、東鄰とは殷の祀所、その祀所を境界の要所に設けるので、相隣する意となったのであろう。金文に「右隣」「小大右隣」を嫡官として治めることを命ずる冊命(さくめい)があり、祭祀の要職とされたのであろう。近隣・邑里の意に用いるのは、後起の義である。漢碑には隣・鄰両形がみえるが、隣が初形である。

臨(リン・17画)

臨 甲骨文 臨 金文
甲骨文/大盂鼎・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:大きな人間が目を見開いて、三人の小人を見下ろしているさま。原義は”下目に見る”・”見守る”。

音:カールグレン上古音はbli̯əm(平/去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では原義に用いられ(大盂鼎・西周早期/毛公鼎・西周末期)、戦国の竹簡でも同様。

学研漢和大字典

会意文字で、臣は、下に伏せてうつむいた目を描いた象形文字。臨は「臣(ふせ目)+人+いろいろな品」で、人が高い所から下方の物を見おろすことを示す。覽(=覧。下を見る)と同系のことば。

語義

  1. {動詞}のぞむ。高い所から下を見る。また、下を見おろす高い所に位置する。「臨海」「臨于泉上者酔翁亭也=泉上に臨む者は酔翁亭なり」〔欧陽脩・酔翁亭記〕
  2. {動詞}のぞむ。面と向かう。その物事や、その時期に当面する。「臨終」「臨発=発するに臨む」「臨別=別れに臨む」「臨之以荘則敬=これに臨むに荘なるを以てすれば則ち敬す」〔論語・為政〕
  3. {動詞}他人の来ることをあらわす敬語。おいでになる。「光臨(おいでになる)」「駕臨(ガリン)(おいでになる)」。
  4. {動詞・名詞}死者のところに集まって泣く。また、その儀式。▽去声に読む。「哀臨三日=哀臨すること三日」〔漢書・高帝〕
  5. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。兌下坤上(ダカコンショウ)の形で、表面は静かだが、やがてすらすらと事が運ぼうとするさまを示す。

字通

[会意]臥(が)+品(ひん)。臥は人が俯して、下方を遠く臨む形。品は金文の字形によると、祝禱を収めた器の𠙵(さい)を列する形。〔説文〕八上に「監臨するなり。臥に從ひ、品(ひん)聲」とするが声が合わず、祝禱に対して上天の霊の監臨することを示す字とみられる。〔詩、大雅、大明〕「上帝、女(なんぢ)に臨む」、〔大稚、皇矣〕「下に臨むこと赫(かく)たる有り」など、みなその意。金文にも〔大盂鼎(だいうてい)〕「故に天、翼臨(よくりん)す」、〔毛公鼎〕「我が有周に臨保す」のように用いる。監は鑑(かがみ)に臥して姿をみる意。臨はそのような姿勢で下界に臨むことをいう。下界よりして高く遠く望むことを望という。

磷(リン・18画)

初出は不明。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(平、王力系統ではlǐen)。王力系統の同音は燐”鬼火”、鄰”となり”、轔”車の響き”、嶙”崖の深いさま”、粼”水が清く透き通って石が見えるさま”、麟、鱗(以上平)、藺”いぐさ”、躙”ふみにじる”(以上去)。『大漢和辞典』に音リン訓うすらぐは他に存在しない。結論として、論語時代の置換候補は無い。

なお『大漢和辞典』『新漢語林』は17画と言い、『学研漢和大字典』『漢字源』は18画とする。『新字源』は17画を正字とし、18画を俗字とする。
磷 新字源

学研漢和大字典

会意兼形声。「石+(音符)啣(リン)(つらなる)」。鱗(リン)(うろこ)と同系。

語義

  1. {動詞}うすらぐ。石がすりへって、うろこのように薄くなる。「磨而不亳=磨すれども亳がず」〔論語・陽貨〕
  2. {名詞}うろこのように、薄くて、なん枚もつらなる雲母。きらら。
  3. 「亳亳(リンリン)」とは、宝玉などが光り輝くさま。▽平声に読む。

字通

(条目無し)

中日大字典

lín

【化】リン(燐):非金属元素.記号P

新漢語林

形声。石+粦(音)。

リンlín
  1. 磷磷(リンリン)は、水が石の間を流れるさま。
  2. 化学元素の名。=燐。
リンlìn
  1. うすらぐ。石がすりへって薄くなる。
  2. 磷磷は、玉石がつやつやと輝くさま。
論語語釈
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