困(コン・7画)
合34235/父丁困册爵・殷代末期或西周早期
初出:初出は甲骨文。
字形:「囗」”はこ”+「木」。初出の字形で箱の中にあるのは木ではなく人であるらしく、”木箱に人を閉じこめる”が原義であるらしい。
音:カールグレン上古音はkʰwən(去)。
用例:「甲骨文合集」34235.1に「乙酉貞取河其困于上甲雨」とあり、「乙酉とう、河にそれ困を取らんか。上甲に雨ふれり」と読め、”人を箱に閉じこめて水に沈める”と解せる。
殷末または西周早期の「父丁困册爵」(集成8909)に「父丁困册。」とあり、人名と解せる。
春秋末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1479に「余不敢困𧵮(窮)。」とあり、”苦しむ”と解せる。
学研漢和大字典
会意。「囗(かこむ)+木」で、木をかこいの中に押しこんで動かないように縛ったさまを示す。縛られて動きがとれないでこまること。梱包(コンポウ)の梱(縛る)と同系。
語義
- (コンス){動詞}くるしむ。こまる。わくをはめられて動きがとれない。つかれる。「不為酒困=酒の為に困せず」〔論語・子罕〕
- {動詞}くるしむ。こまる。貧しくて動きがとれない。「貧困」「吾始困時、嘗与鮑叔賈=吾始め困(くる)しみし時、嘗(かつ)て鮑叔と賈す」〔史記・管仲〕
- {動詞}くるしむ。こまる。どうにかしようともがく。「困於心衡於慮而後作=心に困しみ慮に衡りて後作る」〔孟子・告下〕
- {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陞陲(坎下兌上(カンカダショウ))の形で、困窮しているさまを示す。
字通
[象形]枠に木をはめて、出入を止める門限の形。閫(こん)の初文。〔説文〕六下に「故廬なり」というのは〔管子、地図〕にいう「困殖の地」すなわち開墾地の廬舎の意とするものであるが、字の本義としがたい。〔荀子、大略〕「井里の厥(けつ)」は〔晏子、雑上二十三〕の「井里の困」にあたり、門橛(もんけつ)を閫という。〔説文〕古文の字は■(上下に止+木)に作り、進入を防ぐ木の意であろう。のち門限の字に閫を用い、困急・困難の意に困を用いる。
昆(コン・8画)
昆疕王鐘・西周末期
初出:初出は西周末期の金文。
字形:何を表しているのか分からない。
音:カールグレン上古音はkwən(平)。
用例:西周中期「君盉」(集成9434)に「君婦媿霝乍旅盉」とあり、□は「昆」を囗で囲った形。諸侯名と思われる。
西周末期「散氏盤」(集成46)に「昆疕王賈乍龢鐘」とあり、何を意味しているか分からない。
西周末期「散氏盤」(集成10176)にの用例は、ゆるく見積もっても漢字の部品で、何を意味しているのかわからない。
戦国中末期「郭店楚簡」六德28に「昆弟」とあり、”兄”と解せる。
備考:「漢語多功能字庫」によると、金文では国名に用いた(昆疕王鐘・西周末期)。「昆弟」”兄弟”の語は、戦国時代の竹簡から見られる。
学研漢和大字典
会意。「日+比(ならぶ)」。「日+人三人」は衆の字で、昆もまた多くの者が日光のもとに並んだことを示す。まるく一群を成した仲間のことで、混(まるく一つにまとまる)・渾(コン)(まるく一つにまとまる)・群などと同系。「昆布(こんぶ)」は、「コブ」とも読む。
語義
- {名詞}あに。なかま。もと、なかまのこと。転じて、なかまをなす兄弟を昆といい、のち、特に兄をさす。《類義語》群。「後昆(コウコン)(子孫の仲間)」「父母昆弟(コンテイ)(兄弟)之言」〔論語・先進〕
- {名詞}なかま。むれ。まるく集まったなかま。▽その代表的なものはこん虫である。《類義語》群。「昆虫(コンチュウ)」。
字通
[象形]昆虫の形。比の部分は足。〔夏小正〕に「昆小蟲」の語があり、小虫をいう。〔説文〕七上に「同じきなり」と訓するのは、混同の意であろう。〔詩、王風、葛藟〕に「他人を昆(あに)と謂ふ」とあるのは𥊽(こん)の意。また〔書、仲虺之誥〕「裕を後昆に垂る」の後昆は後裔の意であるが、これも通用の義であろう。
※𥊽:兄。
捆(コン・10画)
海1.18・北宋
初出:初出は不明。
字形:「扌」+音符「困」。
音:カールグレン上古音は不明。藤堂上古音はk’uən(上)。
用例:文献上の初出は『孟子』滕文公上4。
『墨子』では「多く麻絲葛を治り、捆布縿を緒る」とある。表記揺れがあるものの、「麻→捆」に対応し、”麻布”と解せる。
- 多治麻絲葛緒綑布縿(『墨子』非楽上6)
- 多治麻絲葛緒捆布縿(同非命6)
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音で訓「たたく」に「梱」”シキミ”(初出説文解字)「款」(戦国文字)、「たたく・おる」に「絪」(前漢隷書)。
備考:『大漢和辞典』「捆屨」条に、趙岐の『孟子』古注「捆猶扣琢也」を引いて”わらぐつをしめたたいて堅くする”と語釈している。朱子の新注では、「捆扣琢之欲其堅也。」とする。
学研漢和大字典
会意兼形声。困は、柴(しば)をまるくしばったさま。随は「手+(音符)困」で、ひもで引きしめてまるくしばること。類義語に縛。
語義
{動詞}しばる。引きしめてまるくしばる。繊維をあむ。《同義語》⇒梱・僵。「捆包(コンポウ)(=梱包)」「捆載(コンサイ)(なわでしばって車に載せる)」「捆屨織席以為食=屨を捆り席を織りて以て食と為す」〔孟子・滕上〕
字通
[形声]声符は困(こん)。困に木のわくにはめる意がある。〔玉篇〕に「取るなり、齊等にするなり、織るなり、抒(の)ぶるなり、纂組するなり」と五義を列する。〔孟子、滕文公上〕に「屨を捆ち席(むしろ)を織る」とあり、捆(くつ)を編むときのさまをいう。
魂(コン・14画)
初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰwən(平)。同音は䰟(異体字)、渾”にごる”、混、焜”輝く”、慁”憂える・乱す”、溷”乱れる・混じる・濁す”、圂”豚小屋”。
学研漢和大字典
会意兼形声。「鬼+(音符)云(=雲。もやもや)」。雲と同系で、もやもやとこもる意を含む。渾(コン)(もやもやとまとまる)と、非常に縁が近い。
語義
- {名詞}たましい(たましひ)。人の生命のもとになる、もやもやとして、きまった形のないもの。人が死ぬと、肉体から離れて天にのぼると考えられていた。《類義語》魄(ハク)・霊。「魂魄(コンパク)」。
- {名詞}人・物の精神。こころ。「心魂」「花魂」。
- {名詞}心。心持ち。心境。「旅魂」。
字通
[会意]云(うん)+鬼(き)。云は雲の初文で、雲気の象。人の魂は雲気となって浮遊すると考えられた。〔説文〕九上に「陽气なり」とあるのは、次条の魄字条に「陰气なり」とあるのに対するもので、白とは生色のない頭顱(とうろ)(されこうべ)の形。〔荘子、馬蹄〕に神(神)・魂・云・根を韻しており、云・魂は畳韻の語であった。
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