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論語語釈「カン・ガン」

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語釈 urlリンクミス

干(カン・3画)

干 甲骨文 干 金文
甲骨文/豦簋・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:さすまたの象形。原義は”さすまた”。その他甲骨文の字形には、竿の先に「回」形を描き、鬼の角のような形を二本加えるものがある。ゆえに一説には”盾”であるという。

音:カールグレン上古音はkɑn(平)。

用例:殷代末期「屰子干鼎」(集成1718)の「屰子干。」は、人名と思われる。

西周中期「豦𣪕」(集成4167)に「易(賜)□冑、干戈」とあり、”たて”または”さすまた”と解せる。

西周末期「毛公鼎」(集成2841)に「㠯(以)乃族干(扞)吾(敔)王身」とあり、”まもる”と解せる。

その他春秋末期まで、人名と解せる例がある。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文・金文共に”防禦”の意がある。また金文では、原義でも用いる(豦簋・西周中期)。また氏名にも用いる。

学研漢和大字典

象形文字で、ふたまたの棒を描いたもの。これで人を突く武器にも、身を守る武具にも用いる。また、突き進むのはおかすことであり、身を守るのはたてである。干は、幹(太い棒、みき)・竿(カン)(竹の棒)・杆(カン)・桿(カン)(木の棒)の原字。

乾(ほす、かわく)に当てるのは、仮借である。
論語と算盤 干戈

語義

  1. {動詞}ほす。かわかす。▽乾(カン)に当てた用法。《対語》⇒湿。「干物(=乾物)」。
  2. {動詞}ひる。かわいて水気がなくなる。《同義語》⇒旱。《対語》⇒湿・潤。「干潮(引き潮)」。
  3. {名詞}ほこ。武器にするこん棒。また、敵を突くための柄つきの武器。《同義語》⇒杆・桿。
  4. {名詞}たて。敵の武器から身を守るたて。《類義語》盾(ジュン)・(タテ)・楯(ジュン)・(タテ)。「干戈(カンカ)(たてと、ほこ。武器のこと)」。
  5. {動詞}おかす(をかす)。障害を越えて突き進む。「干犯(カンハ°ン)」。
  6. {動詞}もとめる(もとむ)。むりをして手に入れようとする。「干禄=禄を干む」。
  7. (カンス){動詞}かかわる(かかはる)。他者の領域にまではいりこむ。「干渉」「不相干=相ひ干せず」。
  8. {動詞}まもる。「干城=城を干る」。
  9. 「欄干(ランカン)」とは、外にはみ出ないように棒を渡した、てすりのこと。
  10. 「十干(ジッカン)」とは、甲・乙・丙・丁・戊(ボ)・己・庚(コウ)・辛(シン)・壬(ジン)・癸(キ)のこと。▽幹に当てた用法。

字通

[象形]長方形の盾(たて)の形。〔説文〕三上に「犯すなり」と干犯の意とするが、盾は身を護るもので、金文の〔毛公鼎〕に「王の身を干吾(かんぎよ)せよ」とあり、扞敔(かんぎよ)の意。金文の〔小臣宅𣪘〕に戈と合わせて、「畫干戈九」を賜うことがみえる。方形の盾に画飾を加えたものは周、その彫飾を彫・雕という。円形の盾には羽飾りなどをつけて單(単)の形にしるし、戰(戦)・獸(獣)(狩の初文)などはその形に従う。

甘(カン・5画)

甘 金文
甘𦎧鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はkɑm(平)。同音は以下の通り。

初出 声調 備考
カン あまい 甲骨文
カン しろみづ 前漢隷書
カン あへて 西周早期金文

学研漢和大字典

会意。「口+・印」で、口の中に・印で示した食物を含んで味わうことを示す。ながく口中で含味する、うまい(あまい)物の意となった。含(ふくむ)・柑(カン)(口中にふくんで味わうみかん)・拑(カン)(はさんで中にふくむ)・鉗(カン)(中に物をふくむようにとる金ばさみ)などと同系。類義語の旨は、脂(あぶら肉)の原字で、うまいごちそうのこと。甜(テン)は、舌がねばるようにあまったるいこと。

語義

  1. {形容詞・名詞}あまい(あまし)。五味の一つ。▽甘・辛(からい)・酸(すっぱい)・苦(にがい)・鹹(カン)(しおからい)をあわせて五味という。《類義語》甜(テン)(あまい)。「多嘗苦曰甘=多く苦きを嘗めて甘しと曰ふ」〔墨子・非攻上〕
  2. {形容詞}うまい(うまし)。口に含んで味わっていたい。味がよい。おいしい。「食旨不甘=旨きを食らへども甘しとせず」〔論語・陽貨〕
  3. {形容詞}あまい(あまし)。ゆとりをもって中にはまるさま。ゆるいさま。「早輪徐、則甘而不固=輪を早ること徐ろならば、則ち甘くして固からず」〔荘子・天道〕
  4. {動詞}あましとする(あましとす)。うましとする(うましとす)。あまいと思う。また、うまいと思う。「飢者甘食=飢ゑたる者は食を甘しとす」〔孟子・尽上〕
  5. {動詞}あまんずる(あまんず)。けっこうだと思う。満足する。▽転じて、しかたがないと思って我慢する。「甘貧=貧に甘んず」。
  6. {副詞}あまんじて。いやがらずに。けっこう喜んで。「雖蒙斧鉞湯繻、誠甘楽之=斧鉞湯繻(ふえつたうかく)を蒙(かうむ)ると雖(いへど)も、誠に甘んじてこれを楽しむ」〔漢書・蘇武〕
  7. 《日本語での特別な意味》あまい(あまし)。きびしくない。また、ことばがたくみである。「点が甘い」「子どもに甘い」。

字通

[象形]左右の上部に横に鍵を通す錠の形で、拑・鉗の初文。中にものを嵌入する意がある。甘声の字はおおむねその声義を承ける。〔説文〕五上に「美なり。口の一を含むに從ふ。一は道なり」と甘美の意とするが、それは苷・酣の義をとったものであろう。甘苦の字は苷がその本字。甘はもと鉗の初文で、首かせに施錠する意の字である。

※苷:甘草。

罐/缶(カン・6画)

缶 甲骨文 缶 金文
甲骨文/欒書缶・春秋中期

初出:初出は甲骨文

字形:旧字体に「缶」「罐」。つまり旧字体としての「缶」と、新字体としての「缶」は微妙に意味が異なる。下掲『字通』参照。異体字に「缻」。字形はU字形の容器に蓋をした様で、原義は”密閉できる容器”。

音:カールグレン上古音はp(上)。同音は「包」「胞」「苞」「褒」(以上平)、「飽」「寶」「保」「褓」「鴇」「葆」(以上上)、「報」(去)、「腹」「複」(以上入)。詳細は論語語釈「飽」を参照。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・国名・人名に、金文では原義に用いた。

後漢末から三国に掛けて編まれた『孔叢子』小爾雅篇に「一手之盛,謂之溢。兩手,謂之掬。掬,一升也。掬四,謂之豆。豆四,謂之區。區四,謂之釜。釜二有半,謂之藪。藪二有半,謂之缶。二缶,謂之鍾。二鍾,謂之秉。秉,十六斛也。」と単位の一つに用いられている。

下掲『学研漢和大字典』はこの記述に従っている。ただしこの単位が春秋時代に遡及できるわけではなく、度量衡のうち量については、諸侯国で異なっていたことが『春秋左氏伝』の記述から知れる。

学研漢和大字典

象形。まるく腹がふくれて、中につつみこむような形をした土器を描いたもの。広く土器をあらわす意符として用いられる。

形声。「缶+(音符)胖(カン)」。▽常用漢字の字体は、日本で用いられた字形により、罐の音と意味に用いる。


包(ホウ)(つつむ)・保(ホウ)(外からつつみこむ)などと同系。「食品やその他の物の保存・携帯などに用いる金属製の容器」の意味は、オランダ語kanにあてたもの。▽「食品やその他の物の保存・携帯などに用いる金属製の容器」の意味は、常用漢字では、「罐」の代わりに「缶」を用いる。

語義

  1. {名詞}ほとぎ。腹部がまるくふくれた土器。
  2. {名詞}楽器の名。まるくふくれた形をした瓦(カワラ)製の打楽器。▽趙(チョウ)の藺相如(リンショウジョ)が、趙の恵文王のために、秦(シン)の昭王に缶(フ)をうたせた物語は有名。
  3. {単位詞}昔の容量の単位。一缶(フ)は、一藪(ソウ)の二・五倍(一藪は、一釜(フ)の二・五倍)。
  1. {名詞}水をくむうつわ。つるべ。
  2. {名詞}ものを貯蔵するまるいうつわ。ほとぎ。
  3. {名詞}金属製の円筒状の入れもの。「罐頭(カントウ)」。
  4. {名詞}金属製の湯わかし器。《同義語》⇒鑵。
  5. {名詞}《俗語》蒸気がま。ボイラー。「汽罐(チイクワン)」。
  6. 《日本語での特別な意味》かん。金属製の入れもの。「缶詰」。

字通

【新字体】[形声]旧字は罐に作り、雚(かん)声。缶(ふ)はほとぎ。土器で瓶・甕の類をいう。いま罐の略字としてその字を用いる。

【旧字体】[象形]土器のほとぎの形。〔説文〕五下に「瓦器なり。酒漿を盛(い)るる所以(ゆゑん)なり。秦人、之れを鼓(う)ちて以て謌(うた)を節す。象形」という。〔礼記、礼器〕に「五獻の尊、門外は缶、門内は壺なり」とあって、壺と同じく酒器・水器として用いる。また釣瓶(つるべ)に用いた。〔史記、藺(りん)相如伝〕に、相如が秦王にせまって、缶を鼓って秦声を歌わせたことがみえる。寶(宝)は缶声の字。古くその音があったのであろう。いまの常用漢字では、缶を罐の意に用いる。

[形声]声符は雚(かん)。〔説文新附〕五下に「器なり」とあり、灌注の器で水器。〔集韻〕に「汲む器なり」とあり、つるべをいう。いま略して缶(ふ)を用いるが、その字はほとぎ。声義ともに異なる。

罕(カン・7画)

罕 金文
三年󱪮余令韓󱪭戈・戦国秦

初出:初出は戦国最末期の金文。「小学堂」による初出は前漢の隷書

字形:「网」”あみ”+「干」”長柄”。タミ網のような柄の長い網の象形。英語では”landing net”(水揚げ網)という。

音:カールグレン上古音は不明(上)。藤堂上古音はhan。なお希・稀の藤音はhɪər。

用例:戦国最末期「三年󱪮余令韓󱪭戈」(集成11317-11319)に「工帀䍐瘳」とあり、人名と解せる。

戦国の竹簡では、「カン」”朝日の光”・「アン」”あざやかにはれる”を「罕」と中国の漢学教授が釈文した例があるが、釈文の理由は不明。たぶん漢学教授の気分だろう。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。

罕hanの藤堂音近音に閑ɦǎn(ɦはhの濁音、 ̆ブリーヴは極短音を示す)があり、「閒」(間)kǎnに通じて”間が開く”→”ひま”の意で春秋末期までの金文に用いた。ただし”間が開く”→”めったにない”の意は文献時代以降で、論語の時代の漢語ではない。

「閒」にわざわざ「罕」の字を当てたのは、一つには古臭く見せるための誤魔化しであり、もう一つは学をてらいたい儒者の幼児性による。いずれにせよ「罕」の論語時代における置換候補は無い。

『学研漢和大字典』閑条

会意。「門+木」で、牛馬の小屋の入り口(門)にかまえて、かってに出入りするのをふせぎとめるかんぬきの棒。▽ひまの意に用いるのは「間(すきま、あきま)」に当てた仮借的な用法だが、のちにはむしろ閑を使うことが多い。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「㓁(=网。あみ)+(音符)干(=幹。長い柄)」。▽「まれ」の意は、乾(かわいた、水気が乏しい)や漢(水がかれた)などと同系のことばに当てたもの。

語義

  1. {名詞}長い柄のついた、鳥をとる網。鳥あみ。
  2. {名詞}柄のついた旗。
  3. (カンナリ){形容詞}まれ。すくない。また、めずらしい。「稀罕(キカン)」「子、罕言利与命与仁=子、罕に利と命と仁とを言ふ」〔論語・子罕〕。「叔馬慢忌、叔発罕忌=叔の馬慢なり忌、叔の発すること罕なり忌」〔詩経・鄭風・大叔于田〕

字通

[象形]鳥さしのあみの形。〔説文〕七下に「网(あみ)なり。网に從ひ、干聲」とするが、干は网の長い柄の形。その全体が象形である。〔詩、鄭風、大叔于田〕「叔、發(はな)つこと罕なり」は、希・稀の意、声が近くて通用する。

完(カン・7画)

完 秦系戦国文字
陶彙5.5・戦国秦

初出:初出は秦系戦国文字。戦国楚竹簡にも見える。

字形:〔宀〕”屋根”+頭を下げた人。任務の完了を報告するさまか。

音:カールグレン上古音はɡʰwɑn(平)。同音は「桓」、「完」を部品とする漢字群など多数。

用例:戦国楚竹簡に「完戈」の語が見え、”終える”と解せる。

戦国最末期「睡虎地秦簡」田律7に「皆完入公」とあり、”まったく”と解せる。

論語時代の置換候補:上古音で同音の「丸」(平)の甲骨文を『字通』が載せ、”まったい”の語釈を大漢和辞典が載せるが、春秋時代以前に用例が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。元(ガン)は、まるい頭を描いた象形文字。完は「宀(やね)+(音符)元」で、まるくとり囲んで欠け目なく守るさまを示す。垣(エン)(周囲をとり巻いたかき)・円(まるく欠け目がない)などと同系。類義語の全は、すべてそろっていること。

語義

  1. {形容詞}まったし。全部そろっていて欠け目がない。ぐるりととりまいているさま。《対語》⇒欠(ケツ)。《類義語》全。「完全」「城郭不完=城郭完からず」〔孟子・離上〕
  2. {動詞}まっとうする(まったうす)。全部やり遂げる。また、欠け目なく守り通す。「臣請完璧帰趙=臣請ふ璧を完うして趙に帰らん」〔史記・廉頗藺相如〕
  3. {動詞}おわる(をはる)。全部すむ。やり遂げる。「未完」「完了」。

字通

[会意]宀(べん)+元。〔説文〕七下に「全きなり。宀に從ひ、元聲。古文以て寬の字と爲す」とするが、寬(寛)とは何の関係もなく、廟中の儀礼を示す字。元は人の頭部を強調する形。廟中で元服する儀礼を冠といい、完に手を加える形。廟中で俘囚の首を撃ち、呪祝を加えることを寇(冦)という。寬は廟中で巫祝がゆるやかに舞う形。完・冠・寇・寬はみな廟中の儀礼に関する字である。

官(カン・8画)

官 甲骨文 官 金文
甲骨文/競卣・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形は「宀」”屋根”+「𠂤」”軍隊”で、兵舎に待機した軍隊のさま。原義は”役所”。

音:カールグレン上古音はkwɑn(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名に用い、金文では原義(競卣・西周早期)、”管理する”(頌簋・西周後期)、”官職”(師𠭰簋・西周末期)、戦国の金文では”広い”の意に用いられた([我阝]陵君鑒・戦国末期)。

学研漢和大字典

会意。𠂤(タイ)は、隊や堆(タイ)と同系で、人や物の集団を示す。官は「宀(やね)+𠂤(つみかさね)」で、家屋におおぜいの人の集まったさま。また、垣(エン)や院(へいで囲んだ庭)とも関係が深く、もと、かきねで囲んだ公的な家屋に集まった役人のこと。▽宦とも書いたが、のち、宦は「宦官(カンガン)」という特殊な役目をさすようになった。館(おおぜいの人の起居する家)と同系。類義語の公は、あけすけで、みんなとともにすること。

語義

  1. {名詞}つかさ。役目。また、役人。《同義語》⇒宦(カン)。「仕官」「官位」。
  2. {名詞}おおやけ(おほやけ)。政府。また、朝廷。《対語》⇒私。《類義語》公。「官立」「官事不摂=官事は摂せず」〔論語・八飲〕
  3. (カンス)(クワンス){動詞}役人になる。また、役人として任用する。
  4. {名詞}人体のいろいろな役目をする部分。▽政府の官職になぞらえたことば。「器官」「五官(目・耳・鼻・口・皮膚の五器官)」「官能」。

字通

[会意]宀(べん)+𠂤(たい)。〔説文〕十四上に「吏の君に事(つか)ふる者なり。宀に從ひ、𠂤に從ふ。𠂤は猶ほ衆のごときなり。此れ師と同意なり」という。〔説文〕十四上は𠂤について「小さき阜(をか)なり。象形」、すなわち阜の小なるものとしており、これを師衆の意とするのはその解と合わない。𠂤は軍が出行するときに携える脤肉の象。軍社に祀って、その祭肉である脤肉を保護霊として携行する。駐屯地ではこれを奠置して束茅の類を立て、シ 外字(し)という。駐留の地には屋舎を設けてこれを祀り、官という。のちの館の初文で、将軍の居る所である。吏は史祭のために派遣される祭の使者で祭祀官。官は軍官。軍を分遣するときその祭肉を頒(わか)ち、凱旋して帰るときにも𠂤肉を奉ずるので、遣・歸(帰)は𠂤に従う。卜辞・金文では、𠂤を師・シ 外字の字に用いる。

侃(カン・8画)

侃 甲骨文 侃 金文
合37439/保侃母簋蓋・西周早期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「エン」または「𣵿セン」。「衍」が原字だと言い出したのは北京大教授だった裘錫圭で、根拠がよく分からないので賛成しない。また語義がまるで違い、別辞と考えるべき。事実上の初出は西周早期の金文。

字形:甲骨文「衍」の字形は「行」”流路”+「氵」”水”+「人」で、人柱を川に投げ入れるさま。論語語釈「衍」を参照。甲骨文「𣵿」の字形は、「彳」”川筋”+「人」+「氵」”みず”+「𠙵」”口で唱える祈禱”で、祈禱を唱えて人柱を川に投げ入れるさま。金文の字形は「人」+「𠙵」”くち”+「川」で、川の流れのようにすらすらと語る人のさま。原義は”口の達者”。

音:カールグレン上古音はkʰɑn(上)。

用例:甲骨文の用例は読解が難しい。西周早期の用例は人命と解せる。

西周中期「師臾鐘」(集成141)に「用喜侃歬文人。」とあり、”喜ばしい言葉”と解せる。「歬」は「前」の古字。

備考:古注『論語集解義疏』で「孔安国曰」として「侃侃和樂貌也」とあるが、”聞こえのいい言葉”→”楽しむ”という派生義の派生義に過ぎない。新注『論語集注』が後漢の『説文解字』を引いて「侃侃,剛直也。」とあるのは子路の悪口を言ったデタラメに過ぎない。論語解説「後漢というふざけた帝国」を参照。

侃:剛直也。从㐰,㐰,古文信;从川,取其不舍晝夜。《論語》曰:「子路𠈉𠈉如也。」(『説文解字』侃条)

侃侃諤諤」は中国の甲金文や竹簡帛書、歴史的文献には見られない。コトバンクでは中江兆民の言葉として載せる。おそらく和製漢語。

学研漢和大字典

会意。信は、のびのびするの意。侃は「信の字の異体字(イ+囗)+川」で、川の流れのように堂々とのびて、ひるまぬ意味をあらわした。強悍(キョウカン)の悍・剛健の健と同系。

語義

  1. {形容詞}性格などが強いさま。のびのびとして、ひるまないさま。「与下大夫言、侃侃如也=下大夫と言ふに、侃侃如たり」〔論語・郷党〕

字通

[会意]人+口+彡(さん)。口は𠙵(さい)、祝禱の器。神に祈り、感応して神気の下る意で、彡はその神気をあらわす。神の喜侃することをいう。〔説文〕十一下に「剛直なり」とし、字を古文の信に従い、川の形に従うて「其の晝夜を舍(お)かざるを取る」というが、神の喜侃する意。金文の〔士父鐘〕に「用(もつ)て皇考(父)を喜侃す」、〔井編鐘〕に「用て追孝し、前文人を侃(たの)しましめん」のように、神霊に対していう。

新漢語林

会意。+巛。㐰は信の古字。巛は水が流れてやまないの意味。いつまでもただしいの意味を表す。

  1. つよ-い(つよし)。正しく強い。
  2. やわらぎ楽しむ。

中日大字典

侃(偘)


(1) 〈文〉剛直なさま.
〔侃言yán〕率直な言.
(2) 〈文〉仲睦まじいさま.

(1) からかう.
〔调tiáo侃〕冗談を言ってからかう.
(2) 〈口〉むだ話をする.暇つぶしにおしゃべりする:〔砍〕とも書く.
〔两人侃到深夜〕二人は深夜までとりとめない話をした.
(3) 隠語:〔砍〕とも書く.→〔侃儿〕

冠(カン・9画)

冠 甲骨文 冠 金文
合集10976/子犯鐘・春秋中期

初出:初出は甲骨文

字形:A形を「𠙵」”くち→あたま”の大きな人がかぶっている姿。甲骨文の用例は「令」と釈文する場合もあるが、「令」がA形の下に「㔾」”跪いた人”を描くのに対し、「冠」は頭を大きく描くことで貴人または神官だと示しており、「令」とは異なる。論語語釈「令」を参照。

甲骨文の後は春秋中期まで用例が絶えるが、殷周革命によって漢語が大変動したのは語順からも明らかで、一旦絶えた字形=漢語は少なくない。春秋の字形はA形の下に「巾」”垂れ布”+「丨」”ぶら下がるもの”で、単純な頭巾のような殷の冠と異なり、ぞろぞろとぶら下げ物が付いた形。

冠 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔冖礻寸〕」と記す。「魏司馬紹墓誌」(北魏)刻。

音:カールグレン上古音はkwɑn(平)。

用例:甲骨文の用例は欠損が多くて語義を求めがたい。

春秋中期「子犯鐘」(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA1011・1023)に「王易子𨊠…衣常、黼市(黻)、冠。」とあり、”かんむり”と解せる。この金文は当初「佩」と解読され「珮」”腰から下げる玉”と釈文されたが、西周や戦国の字形とはまるで違うので賛成できない。論語語釈「佩」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「冖(かぶる)+寸(手)+(音符)元」で、頭の周りをまるくとり囲むかんむりのこと。まるいかんむりを手でかぶることを示す。完(欠けめなくまるく囲む)・院(囲んだ中庭)・垣(エン)(まるく囲むかき)などと同系。類義語の冕(ベン)は、天子*から大夫までの礼冠。弁は、士の礼冠、転じて、キャップ状のかぶりもののこと。冠はその総称である。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

語義

  1. {名詞}かんむり。頭にかぶるものの総称。「髪尽上指冠=髪尽く上りて冠を指す」〔史記・荊軻〕
  2. (カンス)(クワンス){動詞}「冠ぽ」をかぶる。▽去声に読む。「楚人沐猴而冠耳=楚人は沐猴にして而冠する耳」〔史記・項羽〕
  3. (カンス)(クワンス){動詞}成人(二十歳の元服)のしるしとして「冠ぽ」をつける。▽去声に読む。「加冠」「丈夫之冠也、父命之=丈夫の冠するや、父これに命づく」〔孟子・滕下〕
  4. (カンタリ)(クワンタリ){動詞}すぐれていて人々の頭にたつ。トップにたつ。「冠時=時に冠たり」。
  5. 《日本語での特別な意味》かんむり。漢字の構成部分の呼び名の一つ。上下に分けたとき、上部を構成するもの。冖(わかんむり)・宀(うかんむり)など。

字通

[会意]冖(べき)+元+寸。また完+寸とみてもよい。完は廟中で儀礼を行う意であろう。結髪加冠のことならば元服。〔説文〕七下に「絭なり」と畳韻を以て訓し、「髮を絭(つつ)む所以なり。弁冕の總名なり。冂(けい)に從ひ、元に從ふ。元は亦聲なり。冠に法制有り。寸に從ふ」と、寸を法制の意に解するが、加冠の形である。また字を冂に従うとするが、完・寇の字形との関連からみても、廟屋の象に従うべきである。字(あざな)は養育の儀礼で字養の意、冠は加冠元服の意で、その儀礼はすべて廟中で行われた。

看(カン・9画)

初出は燕の戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰɑn(去)。同音に栞”木を斜めに切った通路の印”、刊”削る”、侃”強く正しい”、衎”喜ぶ様”。

”みる”類義語の一覧については、論語語釈「見」を参照。

学研漢和大字典

会意。「手+目」で、手をかざしてよくみることを示す。目で対象をみる場合にのみ用いる。類義語に視。

語義

  1. {動詞}みる。ある対象をみる。《類義語》見。「看花」。
  2. {動詞}みる。みまもる。みはりをする。番をする。みまう。▽平声に読む。「看病」「看守」「其姉往看之=其の姉往きてこれを看る」〔韓非子・外儲説左下〕
  3. {動詞}みなす。…とみなす。…とみなして扱う。「看作(みなす)」。
  4. {副詞}みすみす。みるみるうちに。やがて。「今年看又過=今年看又過ぐ」。
  5. {動詞}本を読む。「看書」「看経(カンキン)」。
  6. {動詞}《俗語》…してみる。「試看(シーカン)(ためしてみる)」。

字通

[会意]手+目。手をかざしてものを見る意。〔説文〕四上に「睎(み)るなり」とあり、手をかざして遠く望み見ることをいう。

桓(カン・10画)

𧻚 金文 桓 隷書
「𧻚」虢季子白盤・西周末期/定縣竹簡16・前漢

初出:初出は西周末期の金文で、ただし字形は「𧻚」。「𧻚」”農地を取り替えて耕す”は更に遡って初出は甲骨文小学堂が「桓」に分類している戦国末期の金文「兆域圖銅版」(集成10478)の字は「桓」ではなく「棺」と釈文されている。現伝字体の初出は前漢の隷書

字形:「木」+「亘」kəŋ(去)。「亘」は甲骨文で占い師の名に用いたほかは、戦国時代の竹簡まで出土が無い。”うずまき”とも、”明らかな太陽”とも解せる。一種の装飾的署名だと思う。「桓」は何かを明らかに示すための標識。

音:カールグレン上古音はghwɑn(平)で、同音多数。

西周末期「禹鼎」(集成02833)に「禹曰、不(丕)顯𧻚𧻚皇且(祖)穆公」とあり、”あきらかで勢いの良い”と解せる。

備考:桓の字の『大漢和辞典』の第一義は、”しるしの木”。部品の「亘」kəŋ(去)の初出は甲骨文。「桓に通ず」と『大漢和辞典』に言う。『大漢和辞典』亘条を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。亘(カン)は、ぐるりをとりまく意を含む。桓は「木+(音符)亘」で、ぐるりをとりまいて植えた木。垣(エン)(とりまくかきね)と同系。

語義

  1. {名詞}漢代、郵亭(宿場)のしるしとして、宿場の周りにたてた木。
  2. {名詞}棺を墓穴におろすために四すみに立てる柱。
  3. 「桓桓(カンカン)」とは、元気あふれるさま。武勇のあるさま。「桓桓武王=桓桓たる武王」〔詩経・周頌・桓〕

字通

[形声]声符は亘(かん)。〔説文〕六上に「亭郵の表なり」とあり、宿坊の前の標識とする。古代には神聖な場所に表識を立てて榜示とし、軍門にも小さな袖木のある禾(か)形の柱を左右に立てた。それを両禾軍門という。字はまた和(か)・華・桓に作り、和表・華表・桓表という。

陷/陥(カン・10画)

陥 甲骨文 陥 金文
甲骨文/㝬鐘・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:「鹿」+「カン」”落とし穴”+「水」。落とし穴に獲物を落とし入れて溺れさせるさま。甲骨文の字形によっては、落とし入れられる対象に牛・羊・人がある。原義は”落とし穴で捕らえる”。

音:カールグレン上古音はgʰæm(去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義に用いた。金文では”攻め入る”(㝬鐘・西周末期)の意に用いた。戦国の竹簡では、”陥落させる”の意に用いた。

㝬鐘 㝬鐘
㝬鐘」(宗周鐘)『殷周金文集成』260(→wikipedia)

学研漢和大字典

会意兼形声。幃は「人+臼(穴の形)」の会意文字で、穴の中へ人がおちこむことを示す。陷は「阜(土もり)+(音符)幃」で、土の穴におちること。怯(キョウ)(しりごみする)・欠(ケン)(からだをくぼめてあくびをする)・坎(カン)(くぼんだあな)と同系。凛(カン)(あな)ときわめて近い。旧字「陷」は人名漢字として使える。

語義

  1. {動詞}おちいる。おとしいれる(おとしいる)。穴におちこむ。また、穴におちこませる。地面がへこむ。また、地面をへこませる。「有車陥于濘=車有りて濘に陥る」〔新唐書・楊再思〕
  2. {動詞}おちいる。おとしいれる(おとしいる)。罪・苦しみにはまりこんで、よくない状態になる。また、そのようにしむける。わなにかける。「君子可逝也、不可陥也=君子は逝かしむべきなり、陥るべからざるなり」〔論語・雍也〕
  3. {動詞}おちいる。おとしいれる(おとしいる)。城などを敵に攻めおとされる。また、敵の城などを攻めおとす。「故戦常陥堅=故に戦へば常に堅を陥る」〔史記・灌夫〕
  4. {名詞}おとし穴。《類義語》坎(カン)。「陥穽(カンセイ)」「機陥(おとしあなのしかけ)」。

字通

[形声]旧字は陷に作り、臽(かん)声。臽は人が坑坎の中に陥る形。𨸏(ふ)は神の陟降する神梯の形であるから、聖所を守るために陥穽を設ける意の字であろう。そのような土坑を埳井という。

莞(カン・10画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰwɑn(平)。同音は完や丸とそれを部品とする漢字群など多数。その中に”わらう”を語義に持つ漢字は見つからない。

『大漢和辞典』で音カン訓わらうに嚂(初出・上古音不明)があるが、”せせらわらうこと”であり語義が異なる。同じく齦(カ音不明)の初出は後漢の説文解字。加えてこれまた語義が”せせらわらう”で異なる。部品で同音の「完」に”まるいさま”の語釈を『大漢和辞典』が載せるが、初出は秦の陶片。

結論として、論語時代の置換候補は存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)完(まるい)」で、まるい管状をした草をあらわす。

語義

カン(平)guān/guǎn
  1. {名詞}い(ゐ)。かやつりぐさ科の多年草の名。沼などの湿地に自生する。茎は円柱状をして、むしろを織るのに使う。まるすげ。また、いで織ったもの。
カン(上)huàn/wǎn
  1. {形容詞}まるい。まろやか。「夫子莞爾而笑曰、割鶏焉用牛刀=夫子莞爾として笑ひて曰はく、鶏を割くにいづくんぞ牛刀を用ゐん」〔論語・陽貨〕
    《解字》

字通

[形声]声符は完(かん)。〔説文〕一下に「艸なり。以て席を作るべし」とあり、藺草(いぐさ)をいう。また𦺊に作り、〔説文〕一下に「夫蘺(ふり)なり」とするが、〔爾雅、釈草〕に「莞は苻蘺(ふり)なり」とあり、同字異文とみてよい。

※夫蘺・苻蘺:『大漢和辞典』苻離条に「薬草の名。苻蘺に同じ」とある。ただし夫離条に「草の名、ふとゐ、席を造るに用ゐる。苻蘺」ともある。

患(カン・11画)

患 楚系戦国文字
郭.老乙.7(楚)

初出:初出は楚系戦国文字

字形:「毋」”暗い”+「心」。「串」に記すのは篆書以降の誤り。「毋」「毎」に”暗い”の語義があり、「海」”暗くて深いうみ”・「晦」”夜のもっとも暗いみそか”のように用いる。字形の系統的には「悔」と同じで、「患」が現在・未来への心痛を、「悔」が過去への心痛を表す。

音:カールグレン上古音はɡʰwan(去)。

用例:戦国中末期の「郭店楚簡」老子乙5に「人之所□(畏),亦不可以不□(畏)。人□(寵)辱若纓(驚),貴大患若身。可(何)胃(謂)□(寵)」とあり、現伝の『老子道徳経』とはやや違うが、「人の畏れる所、また畏れざるべからず。はえはじ驚くが若し。大なる患いをおそるること身の若し。何をか寵辱と謂う」と読め、”うれい”と解せる。

論語時代の置換候補:近音の「圂」ɡʰwən(去)または「困」kʰwən(去)。

西周末期「毛公鼎」(集成2841)に「圂湛于□(艱)」とあり、”くるしむ”と解せる。

春秋末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1479に「余不敢困□(窮)」とあり、”くるしむ”と解せる。

患のカールグレン上古音はɡʰwanであり、同音に豢がある。豢は楚系戦国文字から存在し、『大漢和辞典』によると圂(コン・ゴン・カン・ゲン/ぶたごや)に通じるとあり、圂に”わづらわす”の語釈を載せる。圂に甲骨文・金文が存在する。

圂 金文困 甲骨文
「圂」(金文)・「困」(甲骨文)

圂の藤堂上古音はɦuənであり、豢ɦuǎnである。近音に困k’uənがある。困には甲骨文が存在する。もし論語の時代の置換候補を挙げるなら、圂または困が相当する。

カールグレン上古音 藤堂上古音
ɡʰwan ɦuǎn
ɡʰwan ɦuǎn
ɡʰwən ɦuən
kʰwən k’uən

備考:「漢語多功能字庫」には論語読解に関して見るべき情報が無い。

『字通』ではもと「串」と書き、「毋」と同字で、「宝貝を貫く形で、その傷め易いことを憂える意であろう」「患hoan、害hatは声義の関係がある」と言っているが、では論語の時代に何と書かれたかははっきりしない。

藤堂上古音では患ɦuǎn、害ɦad。ɦはhの濁音、ǎは英語catのャ同様、短いa。音通するとは思えない。

『大漢和辞典』で「カン/うれえる」で検索すると次のような字がヒットするが、では金文はと言えば出土が無い。
カン うれえる 大漢和辞典

患条に「古くは𢤒、𢡙、𢠶に作る」ともあるが、ますます古書体が出てこない。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、串(カン)は、じゅずつなぎに貫通すること。患は「心+(音符)串」で、心を貫いて、じゅずつなぎに気にかかること。

語義

  1. {動詞}うれえる(うれふ)。くよくよと気にする。次から次へと心配する。《類義語》憂。「憂患(ユウカン)」「不患人之不己知=人の己を知らざるを患へず」〔論語・学而〕
  2. {動詞・名詞}わずらう(わづらふ)。わずらい(わづらひ)。病気にかかる。病気。「患病=病を患ふ」「患赤痢=赤痢を患ふ」〔円仁・入唐記〕
  3. {名詞}うれい(うれひ)。わずらい(わづらひ)。心配ごとややまい。また、損失や災い。《類義語》禍(カ)・害。「禍患(カカン)(災い)」「凍餒之患(トウダイノウレイ)(飢え凍える恐れ)」「人之患在好為人師=人の患ひは好んで人の師と為るに在り」〔孟子・離上〕

字通

形声。声符はかん。〔説文〕十下に「憂ふるなり」とあり、憂患の意とする。串は毋と同字。宝貝を貫く形で、その傷め易いことを憂える意であろう。

患hoan、害hatは声義の関係がある。〔淮南子、脩努訓〕の〔許慎注〕に「害は患なり」とあって、互訓の例が多い。

大漢和辞典

リンク先を参照

貫(カン・11画)

貫 金文 貫 金文
中甗・西周早期/中方鼎・西周中期

初出:初出は西周早期の金文。

字形はタカラガイを二つヒモで貫き通したさまで、原義は”貫く”。

音:カールグレン上古音はkwɑn(平/去)。同音は官とそれを部品とする漢字群など多数。

用例:西周の金文に「貫行」「貫南行」とあり、春秋の金文でも「卑(俾)貫𢓶(通)」とある(「晉姜鼎」集成2826)。いずれも”つらぬき”ゆくの意と解せる。戦国の用例も”つらぬく”と解せる。「慣」字が独立するのは古文からで、時期は決めがたい。

漢語多功能字庫」によると、金文では原義で用いられた(中甗・西周早期)。部品のカン(カ音不明、藤堂上古音は貫と同)にも”つらぬく”の意がある。詳細は『大漢和辞典』を参照
毌 金文
「毌」晉姜鼎・春秋早期

学研漢和大字典

会意。もと、まるい貝を二つひもでぬき通した姿を描いた象形文字。のち、「毌(ぬきとおす)+貝(貨幣)」。串(カン)・(セン)(つらぬく)・関(カン)(つきとおすかんぬき)と同系。

語義

  1. {動詞}つらぬく。穴をあけてぬきとおす。また、ひもを通していくつもつなぐ。▽訓の「つらぬく」は、「つら(列)+ぬく(抜)」から。「連貫」「貫珠(カンシュ)(宝玉をひもでつないだもの)」「義貫金石=義は金石を貫く」。
  2. {動詞}つらぬく。主旨や意味が、はじめから終わりまでひと筋にとおる。「条貫」「一旦(イツタン)貫通(不明なところがさっとわかる)」「吾道一以貫之=吾が道は一以てこれを貫く」〔論語・里仁〕
  3. {動詞・名詞}なれる(なる)。時代や別人の間をつらぬきとおる。また、つらぬきとおした習慣。▽慣(カン)に当てた用法。「仍旧貫=旧貫に仍る」〔論語・先進〕
  4. {名詞}世代をつらぬいて住む故郷の地。「郷貫」「籍貫(本籍)」「翁云貫属新豊県=翁云ふ貫は新豊県に属す」〔白居易・新豊折臂翁〕
  5. {名詞}穴あき銭千文をひもでつらぬいたもの。「万貫之家資(バンカンノカシ)(財産)」「満貫(マンカン)(ばくちや盗みの収入をまとめて定額をみたすこと)」。
  6. 《日本語での特別な意味》かん(くわん)。ア.昔の貨幣の単位。一貫は、銭千文(のち九六〇文)。イ.尺貫法の重さの単位。一貫は千匁で、約三・七五キログラム。

字通

[会意]貝+毋(かん)。毋は貝を貫く形。〔説文〕七上に「錢貝の貫なり」とあって、ぜにさしをいう。金文の図象に、貝を二つ連ねて綴るものがあり、前後二系を合わせて一朋という。朋はもと貝を綴った形。ものを貫くことから、継続慣行の意となる。

紺(カン・11画)

紺 隷書
流沙簡.屯戍14.7・前漢

初出:初出は前漢の隷書

字形:「糸」+音符「甘」。下記藤堂説による「含」ɡʰəm(平)”含みのある染め色”の類語とするのに賛成する。

音:カールグレン上古音はkəm(去)。同音は「弇」”覆う”、「感」。「コン」は呉音。

用例:文献上の初出は論語郷党篇6。戦国時代の『墨子』『荘子』にも用例がある。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』での同音同訓は無い。「操」(初出は戦国金文)に”こんいろのきぬ”の語釈があるが音が違う。上古音で語義を共有する漢字は無い。

備考:現代人が目にするような鮮やかな服飾は、19世紀のドイツ化学工業の精華で、それ以前は人類が染め得る色の数が少なく、染料は高価で、さらに原色や水色のような透明感のある色はほとんど出せなかった。青に染める「藍」の初出も楚系戦国文字から。「出藍の誉れ」の出典となった荀子は、戦国時代の人物である。

学研漢和大字典

会意兼形声。「糸+(音符)甘(中に含む)」。濃い青色を含んだ染め糸の色。含(ふくむ)・拑(カン)(中にこめてはさむ)と同系。類義語に靑。

語義

  1. {名詞}深みのある青。

字通

[形声]声符は甘(かん)。〔説文〕十三上に「帛(きれ)の深靑にして赤色を揚ぐるものなり」とあり、「揚ぐ」とは〔淮南子、脩務訓〕「黒質を抑へて赤文を揚ぐ」というのと同じく、その色が表面にあらわれることをいう。また紅青ともいう。〔三国志、魏、東夷、倭人伝〕に、卑弥呼に紺青五十匹を与えたという記述がある。

菅(カン・11画)

初出は秦の篆書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkan(平)。同音に姦・㵎(澗)”谷川”。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)官(=管。まるい穴がとおっている)」。

語義

  1. {名詞}草の名。かやの一種。裏にかたいすじがある。かるかや。転じて、雑草のこと。
  2. {名詞}かやで編んだ船の苫(トマ)。
  3. 《日本語での特別な意味》すげ。草の名。茎は三角形、葉は細長くてとがっている。葉で、すげがさ・みのなどをつくる。

字通

[形声]声符は官(かん)。官に管の意がある。〔説文〕一下に「茅なり」、茅字条に「菅なり」とあって互訓。葉の下部が鞘状となって茎をかこむので、菅という。

敢(カン・12画)

敢 甲骨文 敢 金文
甲骨文/師遽簋蓋・西周中期

初出:「国学大師」による初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周早期の金文

字形:さかさの「人」+「丨」”筮竹”+「𠙵」”くち”+「廾」”両手”で、両手で筮竹をあやつり呪文を唱え、特定の人物を呪うさま。原義は”強い意志”。

音:カールグレン上古音はkɑm(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では原義に用いた(郘□鐘・春秋末期)。漢代の金文では”~できる”を意味した(新郪虎符)。

学研漢和大字典

会意兼形声。甘は、口の中に含むことをあらわす会意文字で、拑(カン)(封じこむ)と同系。敢は、古くは「手+手+/印(払いのける)+(音符)甘(カン)」で、封じこまれた状態を、思い切って手で払いのけること。▽函(カン)(封じこめる)・檻(カン)(押しこめる)・掩(エン)(押さえこむ)などの仲間から派生して、その押さえをおしのける意に転じたことば。「必ずしも・いっこうに」の意味の「あえて」は下に打ち消しのことばを伴う。

語義

  1. {動詞・形容詞}あえてする(あへてす)。圧迫や気がねをはねのけて思い切ってやる。また、そのさま。「果敢」「若聖与仁、則吾豈敢=聖と仁とのごときは、則ち吾あに敢へてせんや」〔論語・述而〕
  2. {助動詞}あえて(あへて)。→語法「①」

語法

①「あえて」とよみ、「強いて~する」「進んで~する」と訳す。
▽会話文では「はばかりながら~」「おそれながら~」と訳し、丁寧・表敬の意を示す。「敢問死=敢(あ)へて死を問ふ」〈恐れ入りますが死のことをお尋ねします〉〔論語・先進〕
②「不敢」は、「あえて~せず」とよみ、「~するようなことはしない」「決して~しない」と訳す。強い否定、または思い切ってやりかねる意を示す。「会其怒不敢献=その怒に会ひ敢(あ)へて献ぜず」〈あちら(項羽たち)に腹を立てられてしまったので、どうにも献上の機会を失ってしまった〉〔史記・項羽〕
③「敢不」は、「あえて~せざらんや」とよみ、「~せずにいられようか(いや必ずする)」と訳す。反語の意を示す。「子帥以正、孰敢不正=子帥(ひき)ゐるに正をもってすれば、孰(いづれ)か敢(あ)へて正しからざらん」〈あなたが率先して正しくされたなら、誰が正しくならずにいられようか〉〔論語・顔淵〕
▽「敢無=あえて~するなし」も、意味・用法ともに同じ。
④「敢問」は、「あえてとう(あへて/とふ)」とよみ、「ぜひおたずねしたい」と訳す。より丁寧な依頼の意を示す。「赤也惑、敢問=赤惑ふ、敢(あ)へて問ふ」〈赤(このわたくし)は迷います、恐れ入りますがお尋ねいたします〉〔論語・先進〕

字通

[象形]金文の字形は、杓を以て鬯酒(ちようしゆ)をそそぎ、儀礼の場所を清める灌鬯の礼を示す。厳恭の意で、極度につつしむ意。敢てその尊厳のことを行うので、つつしんでの意より、敢てするの意となる。「敢て」とは、つつしんでの意。周初の〔令彝(れいい)〕に「敢て明公尹の休(たまもの)に揚(こた)へ」「敢て明公の賞を父丁に追(およ)ぼし」というのは、「つつしみて」の意。〔説文〕四下に「進み取るなり」と敢為の意とするのは、のちの転義。本来は神事に関していう。金文の〔彔シュウ 外字卣(ろくしゆうゆう)〕に「淮夷、敢て内國を伐つ」とあるのは、本来あるべからざる行為を、敢てなすことをいう。

閒/間(カン・12画)

間 金文
㝬鐘・西周末期

初出:初出は西周末期の金文。当初は「閒」(門に月)と書かれた。

字形は「門」+「月」で、門から月が見えるさま。原義はおそらく”かんぬき”。

音:カールグレン上古音はkăn(平)。

用例:殷代から西周早期の金文では「闌」”かんぬき”と釈文される。

漢語多功能字庫」によると、春秋までの金文では”間者”(宗周鐘・西周末期)の意に、戦国の金文では「縣」(県)ɡʰiwan(平、去は不明)の意に(曾姬無卹壺・戦国早期)用いた。

語義は論語語釈「簡」(初出西周末期金文)も参照。

学研漢和大字典

会意。間は俗字で、本来は遐と書く。門のとびらのすきまから月の見えることをあらわすもので、二つにわけるの意を含む。▽間の本来の意味のほか、「閑」の意にも用いられる。簡(ひもでつづってすきまのできる竹の札)・柬(よりわける)・界(区切り)と同系。草書体をひらがな「ま」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}あいだ(あひだ)。あい(あひ)。ま。空間上、時間上の、二つのものにはさまれた範囲。あいま。▽抽象的なものにもいう。「天地之間(テンチノカン)」。
  2. {名詞}ころ。ころおい(ころほひ)。ある時期の中。また、ある範囲の場所の中。「七八月之間(七、八月ごろ)」〔孟子・離下〕。「田間」「世間」。
  3. {名詞}このごろ。近ごろ。「太后泣曰、帝間顔色痩黒=太后泣きて曰はく、帝間顔色痩(や)せて黒し」〔漢書・叙〕
  4. {名詞}しばし。しばらく。しばらくのあいだ。「有間=間く有り」「立有間、不言而出=立つこと間く有り、言はずして出づ」〔列子・黄帝〕
  5. {副詞}まま。時どき。▽「間或(ママアルイハ)」の形でも用いる。
  6. {単位詞}家の柱と柱のあいだを単位にして、家やへやの大きさをあらわすことば。「草屋八九間」〔陶潜・帰園田居〕
  7. {名詞・単位詞}へや。また、へや数や家の軒数を数えることば。
  8. {名詞}すきま。▽去声に読む。「間断」「間不容髪=間髪を容れず」〔枚乗・上書諫呉王〕
  9. {名詞}開き。区別。差異。▽去声に読む。「雖未及嬰孩之全、方於少壮間矣=いまだ嬰孩の全きに及ばずと雖も、少壮に方ぶれば間あり」〔列子・天瑞〕
  10. {名詞・形容詞}ひま。ひまでのんびりするさま。静かに落ち着いているさま。▽この場合はxiánと読む。《同義語》⇒閑。
  11. {動詞}へだてる(へだつ)。へだたる。すきまをあける。また、すきまをぬってやる。▽去声に読む。「離間」「間歳而俛=歳を間てて俛す」〔漢書・韋玄成〕
  12. {形容詞}わきにそれた。人目につかない。▽去声に読む。「間道」「間行」。
  13. {動詞・名詞}うかがう(うかがふ)。すきをうかがう。スパイする。また、スパイ。▽去声に読む。「斉人間晋之禍=斉人晋の禍を間ふ」。
  14. (カンス){動詞}かわる(かはる)。交替する。また入れかわる。▽去声に読む。「皇以間之=皇として以てこれに間る」〔詩経・周頌・桓〕
  15. (カンス){動詞}疑いをはさむ。▽去声に読む。「人不間於其父母昆弟之言=人其の父母昆弟の言に間せず」〔論語・先進〕
  16. {動詞・形容詞}間にまじる。まじった。「間色」。
  17. {動詞}いえる(いゆ)。病気が少しよくなる。ひと息つく。小康を得る。▽去声に読む。「病間=病間えたり」〔論語・子罕〕
  18. 《日本語での特別な意味》長さの単位。一間は、六尺で、約一・八メートル。

字通

[会意]旧字は閒に作る。門+月。〔説文〕十二上に「隙なり。門と月とに從ふ」とし、古文として𨳢を録する。月は月光と解されているが、金文の字形によって考えると、廟門に肉をおいて祈る儀礼を示す字であるらしく、そこから離隔・安静の意が生ずるのであろう。〔左伝、定四年〕「管(叔)蔡(叔)商を啓(ひら)きて王室を惎閒(きかん)す」とあり、その呪詛的方法を示す字と考えられる。

※惎閒:そこないへだてる。惎はそこなう。

大漢和辞典

→リンク先を参照

堪(カン・12画)

堪 秦系戦国文字
睡虎地秦簡・戦国

初出:初出は戦国文字

字形:「土」+「甚」で、土の盛り上がったさま。原義は”土盛り”。

音:「タン」は慣用音。カールグレン上古音はkhəm(平)で、同音は「甚」を部品とする漢字群・「坎」”あな”など。

堪 金文
用例:上掲西周中期「史牆盤」(集成10175)の字形を「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では「堪」と釈文している。ただし字形がまるで違い、音も分からない。

論語以降の文献では、『孟子』離婁下篇が論語雍也篇11をほぼそのまま引用して「一簞食,一瓢飲。人不堪其憂,顏子不改其樂」と『記す。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

『大漢和辞典』で音カン訓たえるに「勘」(カ音不明)初出は説文解字、「卷」ɡʰi̯wan(平)初出は殷代末期の金文、ただし春秋末期までの用例は全て解読不能、「𢦟」(カ音不明)初出は説文解字、「肩」kian(平)初出は甲骨文、ただし春秋末期までの用例に”たえる”の訓なし。

部品の「甚」は”はげしい”の意で、”堪える”は『大漢和辞典』に見られない。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。甚(ジン)は「甘(おいしいこと)+匹(つがい、いろごと)」の会意文字で、食い道楽や男女の性欲のような、深くしたたかな圧力を示す。深・沈と同系。甚には、カンの別音もあった。堪は「土+(音符)甚(カン)」で、もと、分厚くて重みのある山のこと。のち、分厚い重さの意から、その重さにたえる意となる。類義語に耐。異字同訓に耐える「重圧に耐(堪)える。風雪に耐(堪)える。困苦欠乏に耐(堪)える」。

語義

  1. {動詞}たえる(たふ)。重さ・圧力・楽しみ・つらさなどをがまんする。持ちこたえる。《類義語》克。「人不堪其憂=人は其の憂ひに堪へず」〔論語・雍也〕
  2. 「堪輿(カンヨ)」とは天と地のこと。また、天地の神。「堪輿徐行、雄以音知雌=堪輿徐ろに行き、雄は音を以て雌を知る」〔淮南子・天文〕

字通

[形声]声符は甚(じん)。甚に戡(かん)・媅(たん)の声がある。〔説文〕十三下に「地突なり」とあり、突(突)とは竈突(そうとつ)(かまど)の意であろう。甚は土竈の上に鍋をおく形で、甚(じん)は竈。天地を堪輿というのは、器物を焼成するように万物を造成する意。焼成して堅固となるので、ものにたえ、すぐれる意となる。媅(たん)と通用し、媅楽の意に用いる。

寒(カン・12画)

寒 金文 寒 金文
中方鼎・西周早期/大克鼎・西周末期

初出:初出は西周早期の金文。「小学堂」による初出は西周末期の金文

字形:「宀」”屋根”+「人」+「夂」”足”+「二」”地面”+「十」4つ”凍ったさま”。屋内の土間まで凍る寒さのさま。

音:カールグレン上古音はgʰɑn(平)。

用例:西周早期「中方鼎」(集成2785)に「王才(在)寒〔𠂤朿〕(次)」とあり、「寒次」は”寒い宿所”とも、”寒という土地の宿所”とも解せる。

このほか西周末期間までの用例に、地名、人名、器名があるが、春秋時代の用例は見られない。

備考:北海道の地名に見える「寒」の字のいくつかは、アイヌ語の「サム」”傍ら”に当てた字という。

学研漢和大字典

会意。「塞(サイ)・(ソク)の字の上部+冫(こおり)」で、やね(宀)の下にれんがや石(Ⅰ印)を積み、手で穴をふさいで、氷の冷たさを防ぐさまを示す。乾燥して物の乏しい北方のさむさ。旱(カン)(かわく)・僅(キン)(乏しい)などと同系。類義語の冷は、澄みきってつめたい。涼は、すがすがしくすずしい。冱(ゴ)は、凍るようにつめたい。

語義

  1. {形容詞}さむい(さむし)。乾燥して物資が乏しく、はだ身にこたえてさむい。《対語》⇒暑・暖。「風蕭蕭兮易水寒=風蕭蕭として兮易水寒し」〔史記・荊軻〕
  2. {名詞}さむさ。冬のさむさ。「春寒」「小閣重衾不怕寒=小閣に衾を重ねて寒さを怕れず」〔白居易・重題〕
  3. {形容詞}つめたい(つめたし)。《類義語》冷。「冰水為之而寒於水=冰は水これを為して水より寒し」〔荀子・勧学〕
  4. {動詞}こごえる(こごゆ)。さむいめにあう。さむさで、からだを痛める。ひやす。《類義語》冱(ゴ)・凍。「黎民不飢不寒=黎民は飢ゑず寒えず」〔孟子・梁上〕
  5. {形容詞}物が乏しくてつらい。貧乏で苦しい。《対語》富・裕。「貧寒」「寒村」「寒士(貧乏な男)」。
  6. 《日本語での特別な意味》かん。小寒と大寒。陽暦の一月五日ごろから立春の前までの三十日間。「寒の入り」「寒中」。

字通

[会意]宀(べん)+茻(もう)+人+冰。〔説文〕七下に「凍るなり」とし、「人の宀下に在るに從ふ。茻の上下に覆を爲すに從ふ。下に仌(冰)有るなり」という。凍土の上に艸(草)をうち重ねて、寒冷の意を示した。金文の字形は両艸と人の下に二横画をしるし、それは衽席(じんせき)の意であるらしい。人の生活の上に移して、すべて貧窮・冷酷・困難の意となる。

棺(カン・12画)

㭒 金文
兆域図銅版・戦国末期

初出:初出は戦国末期の金文

字形:初出の字形は「㭒」の配置が左右で転じたもの。「㠯」はここでは農具のスキではなく、箱の象形。戦国最末期の秦系戦国文字から「宀」が付き現行字形となる。

音:カールグレン上古音はkwɑn(平/去)。同音は官とそれを部品とする漢字群など多数。

論語時代の置換候補:上古音の同音に語義を共有する漢字は無い。『大漢和辞典』で同音同訓に「櫬」(初出説文解字)。部品の「官」に”ひつぎ”の語釈は『大漢和辞典』に無い。へんの「木」に”ひつぎ”の語釈があり、出典は礼記左伝だが、礼記の方は”樹木”とも解せる。ただし春秋末期以前の甲金文に用例が無い。

小載礼記
『礼記』の該当部分に「木。椁材也。」と注を付けたのは、春秋時代の終了を晋の三分(BC453)とするならその580年後に生まれた鄭玄で、デタラメの常習犯でもあり(後漢というふざけた帝国)、とうてい信用できないし、「椁」”外棺”の材料と言っており「棺」とは言っていない。

春秋左氏伝
『春秋左氏伝』の該当部分に「言将死入木」と注を付けたのは、春秋時代の終了から375年後に生まれた三国~西晋の杜預で、根拠を言っておらずもちろん信用できない。

『大漢和辞典』が「木」に「ひつぎ」の訓を付けた出典のもう一つは『後漢書』であり、もちろん論語には適用できない。

参考:『大漢和辞典』で「ひつぎ」の訓があり、かつ春秋時代以前に用例があるのは「喪」と「木」だけで、甲金文で前者の用例は”失う”・”葬儀”のみ、後者は”ひつぎ”と解せる用例が無い。従って論語の時代、”ひつぎ”を何と呼んだか分からない。

学研漢和大字典

会意兼形声。官は館の原字で、周囲をへいでとりまいて、中に人々を収容するやかた。棺は「木+(音符)官」で、死体をとりまいて収容する木の箱。

語義

  1. {名詞}ひつぎ。死体を入れる箱。かんおけ。《類義語》柩(キュウ)。「蓋棺=棺を蓋ふ」「観君父棺柩=君父の棺柩を観る」〔白虎通義・崩薨〕
  2. (カンス)(クワンス){動詞}死体をひつぎに入れる。▽去声に読む。「棺而葬=棺して而葬る」。

字通

[形声]声符は官(かん)。官に綰(くく)る意がある。棺は屍体を布でくるんで収める木箱。外箱を椁(かく)(槨)という。〔説文〕六上に「關(とざ)すなり」とするのは、音義的な解釈である。屍体は布帛で包み、棺も包みこんで椁に収めた。

閑(カン・12画)

閑 金文
同簋蓋・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はɡʰăn(平)。同音は下記の通り。『学研漢和大字典』は「熟語は【間】をも見よ」という。論語語釈「間」を参照。

初出 声調 備考
カン 門の中のしきり 西周中期金文
上目づかひ 説文解字
たけだけしいさま 説文解字
いきどほる 不明
ひゆ 説文解字

漢語多功能字庫

金文從「」從「」,象門中有木之形,有人認為表示遮欄之意(參許慎、張世超等)。《說文》:「閑,闌也。从門中有木。」金文表示間歇、休止,同簋:「世孫孫子子差(佐)右(佑)吳(虞)大父,母(毋)女(汝)又(有)閑(閒)。」意思是說世代孫子都輔助虞大父,毋有間歇(參陳夢家、高田忠周)。


金文は「門」と「木」の字形に属し、門の中に木がある形の象形。人によっては”さえぎる柵”の意だとする(許慎、張世超等を参照)。『説文解字』は「閑は門に横がけにして出入りを防ぐ棒である。門の中に木がある字形に属す」という。金文は”間隔”・”休止”を意味する。同簋に「世孫孫子子差(佐)右(佑)吳(虞)大父,母(毋)女(汝)又(有)閑(閒)」とあり、”子々孫々まで虞大父に仕え、やめてはならない”の意(陳夢家、高田忠周を参照)。

学研漢和大字典

会意。「門+木」で、牛馬の小屋の入り口(門)にかまえて、かってに出入りするのをふせぎとめるかんぬきの棒。▽ひまの意に用いるのは「間(すきま、あきま)」に当てた仮借的な用法だが、のちにはむしろ閑を使うことが多い。憲(人間をおさえるきまり)・干(敵の刃をふせぐたて)と同系。間草書体をひらがな「か」として使うこともある。

語義

  1. (カンナリ){名詞・形容詞}ひま。ひまな時間。また、用事がなくてひまである。《同義語》⇒間。
    ま(カンナリ){形容詞}のんびりとしている。また、ゆったりとしていて静かに落ち着いている。《同義語》⇒間。「安閑」「閑雅」。
  2. {形容詞・動詞}たいせつでない。どうでもよい。なおざりにする。「閑却」。
  3. {名詞}牛馬の小屋のかんぬき。
  4. {名詞}のり。さかいめ。きまり。規制のわく。「大徳不踰閑=大徳は閑を踰えず」〔論語・子張〕
  5. {動詞}ふさぐ。わくでおさえる。おさえ止める。きまりを守る。「閑邪=邪を閑ぐ」「閑先聖之道=先聖の道を閑ぐ」〔孟子・滕下〕
  6. (カンナリ){動詞・形容詞}ならう(ならふ)。なれる(なる)。わくにはまる。また、規制になれていうことをきくさま。《同義語》⇒嫺。「四馬既閑=四馬は既に閑へり」〔詩経・秦風・駟蚶〕

字通

[会意]門+木。〔説文〕十二上に「闌なり」、闌字条に「門の闌なり」とあり、門にしきりをすることをいう。ゆえに、ふせぐ意となる。また閒(間)と通じて、間静の意に用いる。

勸/勧(カン・13画)

勸 隷書 巻 金文
老子乙前17下・前漢隷書/「巻」甲骨文

初出:初出は前漢の隷書。同音の卷(巻)は殷代末期の「卷且乙爵」に上掲金文があると「国学大師」は言うが、”すすめる”意は『大漢和辞典』にも「国学大師」にもない。

観 甲骨文2 観 字解
「雚」甲骨文

字形は「カン」kwɑn(去)”フクロウ”+「力」li̯ək(入)で、「雚」は音を示し意味は無い。漢代に出来た新しい言葉で、字形から音を探るのは困難。原義は”すすめる”・”はげます”。

音:カールグレン上古音はkʰi̯wăn(去)。同音に「巻」(甲骨文・金文なし)とそれを部品に持つ漢字群。藤堂上古音はk’ɪuǎn。無理にカタカナに置き換えるとクッェウアン。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」緇衣15に「刑罰不足恥,而爵不足勸也。」とあり、”その気にさせる”と解せる。

「郭店楚簡」緇衣24に「以惪(德),齊之以豊(禮),則民又(有)懽(勸)心」とあり、”はげむ”と解せる。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

『大漢和辞典』に記載された「音カン訓すすめる」はこの字しか無い。部品の「雚」は”こうのとり・ががいも”の語釈しか載らない。部品の「力」には”つとめる”の語釈は載るが”つとめさせる・すすめる”の語釈は載らない。ただ漢語は記号無しで受身を意味することもあるので、”すすめる”と解せなくもない。ただし春秋末期までに”つとめる”の用例は無い。詳細は論語語釈「力」を参照。

備考:「漢語多功能字庫」には、見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声で、勸の左側の字(音カン)は、口々になきかわす鳥。勸はそれを音符とし力を加えた字で、口々にやかましくいって力づけること。類義語の奨は、目標やほうびを示してそれへ向けて引っぱること。薦は、人をすすめること。

語義

  1. {動詞}すすめる(すすむ)。口をそろえ、または、くり返してすすめる。「勧告」「挙善而教、不能則勧=善を挙げて教へ、能はずんば則ち勧む」〔論語・為政〕
  2. {動詞}すすめる(すすむ)。仕事やよい案に従うように力づける。「勧学=学を勧む」▽訓読では使役の形で受けることがある。「勧斉伐燕=斉に勧めて燕を伐たしむ」〔孟子・公下〕

字通

[形声]旧字は勸に作り、雚(かん)声。〔説文〕十三下に「勉なり」とあり、すすめつとめる意。雚声の字には鳥占(とりうら)の俗を背景とするものがあり、また力は耒(すき)の象形であるから、もと農事に関して神意を問う意であろう。その神意にかなうことから、勧誘・勧奨の意となったものと思われる。

寬/寛(カン・13画)

寛 金文 寬 金文
史密簋・西周中期/寬兒鼎・春秋晚期

初出:初出は西周中期の金文

字形:初出の字形は「宀」”屋根”+「カン」”ヤギの角を付けた目を見開いた人”で、広壮な屋敷に異民族が恐れ入るさま。原義は”広い”。

音:カールグレン上古音はkʰwɑn(平)。

用例:西周中期の「史密簋」(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA0636?)に「廣伐東或(國),齊𠂤(師)族土(徒)□人,乃執啚(鄙)寬亞。」とあり、「漢語多功能字庫」によると、”ひろい”・”ゆるやか”だという。

「亞」指王畿內之地,意謂加強邊境的防守,而王都轄下土地的守衛可較為寬鬆,即內弛外張(張懋鎔)。

学研漢和大字典

会意兼形声。下部の字(音カン)は、からだのまるいやぎを描いた象形文字。まるい意を含む。寛はそれを音符とし、宀(いえ)を加えた字で、中がまるくゆとりがあって、自由に動ける大きい家。転じて、ひろく中にゆとりのある意を示す。緩と同系。類義語に広・許。異体字「鐃」は人名漢字として使える。

語義

  1. {形容詞}ひろい(ひろし)。スペースがひろい。気持ちにゆったりとゆとりがあるさま。《対語》⇒狭。「寛容」「居上不寛=上に居りて寛からず」〔論語・八飲〕
  2. (カンナリ)(クワンナリ){形容詞}ゆるやか(ゆるやかなり)。おおまかであるさま。差し迫った用がなくて、のんびりしているさま。《対語》⇒急・厳。「急則人習騎射、寛則人楽無事=急なれば則ち人騎射を習ひ、寛なれば則ち人無事を楽しむ」〔史記・匈奴〕
  3. {動詞}くつろぐ。ゆったりする。ゆとりをもつ。
  4. {名詞}はば。「寛三尺」。
  5. {動詞}ゆるす。ゆるくする(ゆるくす)。大目に見て、きびしく責めない。ゆるめる。「寛赦」。

字通

[会意]旧字は寬に作り、宀(べん)+萈(かん)。宀は廟屋。〔説文〕七下に「屋、寬大なり」とし、萈(かん)声とするが、萈は眉飾を加えた巫女が祈禱する形。巫女が廟中にあって祈禱し、神意を寛くするのが原義であろう。それですべてゆるやかな気象をいい、寛厚・寛大の意となる。

煥(カン・13画)

煥 篆書
説文解字・後漢

初出:初出は後漢の『説文解字』

字形:「火」+「奐」”大きい”。火が大きく明るくなったさま。

音:カールグレン上古音はxwɑn(去)。同音は「奐」とそれを部品とする漢字群、「歡」など「雚」”コウノトリ”を部品とする漢字群。

用例:論語泰伯編19のほか、『史記』司馬相如伝に「煥然霧除」”明るく霧を払う”として見られる。すると前漢から存在した可能性があるが、物証が出ていない。

論語時代の置換候補:「奐」の字は語釈によっては論語時代の置換候補になり得るが、この文字が使用されたのは論語泰伯編19のみで、後世の創作が確定しているため無意味。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、奐(カン)は「女性が尻(シリ)を開いたさま+大」の会意文字で、狭い陰門を広げて、胎児を取り出すことを示す。ゆとりをあけて広がる意を含む。煥は「火+(音符)奐」で、火の周囲にまるく光が広がること。換(周囲にゆとりをあけて、中の物を入れかえる)・渙(カン)(氷の周囲がとけて、ゆとりがあく)・緩(ゆとりが生じる、ゆるむ)などと同系のことば。

語義

  1. {形容詞}あきらか(あきらかなり)。火の光がまるく四方に広がりかがやくさま。「煥乎(カンコ)(かがやかしい)」「煥乎其有文章=煥乎として其れ文章有り」〔論語・泰伯〕
  2. {動詞}氷がとけて、水が四方に広がる。ゆとりをあけて、広がっていく。▽渙(カン)に当てた用法。

字通

[形声]声符は奐(かん)。奐は分娩するさま。水の散るさまに移して渙といい、火のかがやくさまには煥という。〔説文新附〕十上に「火光なり」とあり、光りかがやくさまをいう。

漢(カン・13画)

初出は戦国中期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxɑn(去)。同音は下記の通り。部品の「𦰩」については日本の音訓も初出も上古音も分からないが、下掲漢語多功能字庫は、「漢」と同音という。

初出 声調 備考
カン かわかす 説文解字 平/去
ゼン かわくさま 甲骨文
カン あまのがわ 戦国中期金文
がけ 西周末期金文

『字通』は「𦰩」を「飢饉のとき巫を焚く形」と「歎」条では言うが、「難」条では次のように言う。

𦰩は金文の字形によると鏑矢(かぶらや)の形と火に従っており、火矢の形かとみられ、火矢を以て隹(鳥)をとる法を示す字かと思われる。儺(だ)(鬼やらい)の儀礼と関係があり、鳥占(とりうら)に関して、呪的な目的で行われたものであろう。

どちらなのであろう。

漢語多功能字庫

金文從「」從「𦰩」或「」,「𦰩」(與「」同音)是「」的聲符。「」是河流名,即漢水。後來用作漢族、中國的代稱。


金文は「水」と「𦰩」あるいは「黃」で構成され、「𦰩」(「漢」と同音)は「漢」の音符。「漢」は川の名で、つまり漢水。のちに漢族という語に用いられ、中国の代名詞となった。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音カン)、動物のあぶらを火でもやすさま。かわくことを示す。漢はそれを音符とし、水を加えた字で、元来、水のない銀河をいったが、古くから、湖北省漢水の名となった。旧字「漢」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}川の名。陝西(センセイ)省西部に源を発し、東流して漢口で長江に注ぐ。漢水。東漢水。
  2. {名詞}天の川。「河漢」「雲漢」「銀漢」。
  3. {名詞}王朝名。
    ア.劉邦(リュウホウ)(漢の高祖)が、秦(シン)の滅びたのちにたてた。のち、これを「前漢」または「西漢」という。(前二〇六~八)
    イ.劉秀(リュウシュウ)が王莽(オウモウ)の新を滅ぼしてたてた。のち、これを「後漢」または「東漢」という。(二五~二二〇)
    ウ.三国時代、劉備(リュウビ)が蜀(ショク)にたてた。これを「蜀漢」という。(二二一~二六三)
    ▽その他、五胡(ゴコ)十六国のうちの成漢・漢(前趙(ゼンチョウ))、五代の後漢(コウカン)、五代十国のうちの南漢・北漢などがある。
  4. {名詞}外国人の中国に対する呼び名。「漢人」。
  5. {名詞}民族の名。中国人を構成する主な民族。中国領土内の人口の九五パーセントを占める。
  6. {名詞}もと、遊牧民の匈奴(キョウド)が、漢の兵士をさしていったことば。唐代以後の中国人が、中国または、中国人を呼ぶときの自称。「漢児言語(中国語)」。
  7. {名詞}男。男に対する呼び名。「門外漢」。
  8. 《日本語での特別な意味》から。あや。中国のこと。

字通

[形声]旧字は漢に作り、𦰩(かん)声。〔説文〕十一上に「漾なり。東を滄浪水と爲す」とあり、東南流して江に注ぐ。銀河の流れと方向を同じうするので、銀河を天漢という。五胡のとき、胡人が漢人を漢子とよび、のち男をいう語となった。

灌/潅(カン・14画)

潅 秦系戦国文字 盥 甲骨文
睡.日甲51背・秦系戦国文字/「盥」・甲骨文

初出:初出は秦系戦国文字

字形:「氵」+「カン」”フクロウ”で、「雚」は意味には関係しない音符。

音:カールグレン上古音はkwɑn(去)。

用例:戦国最末期の「睡虎地秦簡」日甲51背貳に「鬼恒逆人,入人宮,是游鬼。以廣灌為□以燔之,則不來矣。」とあり、”液体を注ぎまく”と解せる。

論語時代の置換候補:同音の「盥」(上/去)はたらいに水を注ぎ、手を洗う様で、初出は甲骨文。論語時代の置換候補となる。

同音に雚(コウノトリ)・官(役人)とそれを部品とする漢字群、完を部品とする漢字群、冠、貫、盥(あらう・すすぐ)など。盥”すすぐ”には「灌に通ず」との語釈が『大漢和辞典』にある。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

意兼形声。雚(カン)とは、まるい形をしたふくろうに似た鳥の名。灌は「水+(音符)雚」で、水がどくどくとまるい固まりをなしてそそぐこと。完(まるくまとまる)・巻(まるくまく)と同系。また浣(カン)(水をどくどくそそいで洗う)や、盥(カン)(水をどくどくそそいで洗う)とも近い。類義語に漑。

語義

カン/カン(去)
  1. {動詞}そそぐ。水をどくどくとそそぎこむ。また、水がまるくうずをなして流れこむ。《類義語》注。「灌漑(カンガイ)」「灌花=花に灌ぐ」「百川灌河=百川河に灌ぐ」〔荘子・秋水〕
  2. (カンス)(クワンス){動詞・名詞}酒を地にそそいで、神をまねく。また、その儀式。《同義語》俤(カン)。「自既灌而往者=既に灌してより往は」〔論語・八佾〕
カン・ガン(去)
  1. 「灌灌(カンカン)」とは、水の流れが盛んなさま。
  2. 《日本語での特別な意味》群がり生える。「灌木」。

字通

[形声]声符は雚(かん)。〔説文〕十一上に川の名とするが、灌漑・浸灌の意に用いる。祭祀・儀礼のとき、鬯酒(ちようしゆ)(香酒)をそそぐことを灌鬯という。

關/関(カン・14画)

関 金文
左關之𨨛・戦国早期

初出:初出は戦国早期の金文で、論語の時代にかろうじて有ったかどうかという所。

字形:「門」+「カン」で、門を閉じたさま。「卝」の初出は後漢の『説文解字』。

音:カールグレン上古音はkwan(平)、同音に慣、摜”ならう・なれる”、倌”とねり”、串”なれる・ならう”で、全て去声。藤堂上古音はkuǎn( ̆ブリーヴは極短音を示す)。

丱 金文
「丱」丱父己簋・殷代末期

論語時代の置換候補:下記『学研漢和大字典』のいう「カン」は殷代末期から金文がある(丱父己𣪕・集成3195)が、『学研漢和大字典』が説くのとはまるで違った字形で、置換字となり得ない。どうしてこの字形が「丱」に比定されたのか、古文字学者の思考を疑う。

『字通』が言う「𢇇カン」の初出は『説文解字』であり、これも置換字たりえない。

用例:論語では、『詩経』の題「関雎」として登場する。『学研漢和大字典』のいう「雌雄の別が正しいとされる。夫婦間に正しい礼儀があることにたとえる」というラノベがあるからには、恐らく詩経のこの歌も、後世の儒者のでっち上げだろう。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。丱(カン)は、∥の両線を横線でつらぬいたさま。關の中の部分は、丱にひもの形をそえたもので、あなにひもをつらぬいて、つづりあわせること。關はそれを音符とし、門(両とびら)を加えた字で、左右のとびらにかんぬきをつらぬいて、しめることを示す。▽関は、宋(ソウ)・元代以来の俗字を採用したもの。丱(カン)(かんざしで髪の毛をつらぬいたあげまき)・貫(カン)(つらぬく)・串(セン)・(カン)(つきとおす)・穿(セン)(つきとおす)などと同系。類義語に閉。「かかわる」「かかわり」は「係わる」「係わり」とも書く。

語義

  1. {名詞}かんぬき(くゎんぬき)。とびらの金具をつらぬいて門をしめる横棒。「関鍵(カンケン)」「閉関我自枕書眠=関を閉ぢて我自と書に枕して眠る」〔黄遵憲・春夜懐蕭蘭谷光泰〕
  2. {動詞}とざす。とびらにかんぬきを通してしめる。「門雖設而常関=門は設くと雖も常に関せり」〔陶潜・帰去来辞〕
  3. {名詞}せき。国境や要所をせきとめて、通行者をしらべ、または税をとる所。「辺関(国境のせき所)」「関市譏而不征=関市にては譏すれども征せず」〔孟子・梁下〕
  4. {名詞}かんぬきの意から転じて、物と物とのつなぎめのしくみ。からくり。「関節」「機関」。
  5. {名詞}さかいめ。「年関(旧年と新年との境、おおみそか)」。
  6. (カンス)(クワンス){動詞}かかわる(かかはる)。あずかる(あづかる)。物をつなぐように関係する。両側をつらぬいて中つぎをする。つながる。▽かんぬきが左右のとびらをつなぐことから。「連関」「関懐(心にかける)」「互不相関=互ひに相ひ関せず」「越人関弓而射之=越人弓を関してこれを射る」〔孟子・告下〕
  7. {前置詞}多くは「関於…」の形で用い、…について、…に関して、の意。
  8. {名詞}関連する者がお互いにまわす文書。「関書(相互の契約書)」「関餉(カンショウ)(規定による給料)」。
  9. 《日本語での特別な意味》
    ①終極の所。「関の山」。
    ②相撲で十両以上の者。「関取り」「大関」。
    ③「関白」の略。「摂関政治」。

字通

[会意]門+𢇇(かん)。𢇇は関鍵の象。門に𢇇を施す意。〔説文〕十二上に「木を以て横に門戸を持するなり」とあり、かんのきを施すことをいう。〔説文〕十三上に𢇇を織機の杼の形とするが、おそらく𢇇は扃鏁(けいそう)とよばれる構造の鍵で、両扉を連ねてこれを閉ざす鍵であろう。門関以外にも訓義の多い字であるが、みなその引伸義とみてよい。

管(カン・14画)

管 隷書
孫臏160(隸)・前漢

初出:初出は前漢の隷書

字形:「漢語多功能字庫」は異体字を「琯」とし、原義を楽器とする。字形は「竹」+「官」で、「官」は「宀」”屋根”+「𠂤」”軍隊”。兵舎に待機している軍隊のさま。

音:カールグレン上古音はkwɑn(上)。部品の「官」(平)は同音、初出は甲骨文

用例:部品の「官」は甲骨文では地名に用い、金文から「役所」の居になったと言う(「漢語多功能字庫」官条)。「管」の原義は『説文解字』の言う、”笛”だと理解するしか法が無い。

戦国の竹簡では、「官」と「管」は相互に通用している。また「郭店楚簡」窮達6では管仲の「管」を「完」と記している。

論語では斉の名宰相管仲の姓氏として用いるが、当時存在しない字であり、どのように書かれていたかは憶測するしかない。おそらく「官」だったろう。

学研漢和大字典

会意兼形声。「竹+(音符)官(やねの下に囲ってある人)」。まるく全体にゆきわたるの意を含む。円・環・圏・官(垣(カキ)をめぐらした中に養われている人)と同系。

語義

  1. {名詞}管楽器の一つ。穴が六つあいている笛。また、笛の総称。「管絃(カンゲン)」。
  2. {名詞}くだ。中空でまるい棒状のもの。または、くだ状のもの。せまいわくのたとえ。「血管」「用管羹天=管を用ゐて天を羹ふ」〔荘子・秋水〕
  3. {名詞}筆のじく。
  4. (カンス)(クワンス){動詞}つかさどる。わくをはめた中のものをとりまとめる。一定の範囲を受け持って世話をやく。「崔杼輩歯管斉=崔杼輩歯斉を管る」〔史記・范雎〕
  5. (カンス)(クワンス){動詞・名詞}わくをはめてまとめる。管理される。また、中心となるもの。とり締まりの役。「主管」「聖人也者道之管也、天下之道管是矣=聖人なる者は道の管なり、天下の道是に管す」〔荀子・儒効〕
  6. {名詞}まるいかぎ穴。「管鍵(カンケン)」。

字通

[形声]声符は官(かん)。竹管の楽器。〔説文〕五上に「篪(ち)の如くにして六孔」とし、重文として琯をあげている。琯は玉器。〔西京雑記、三〕に、咸陽宮の府庫に二十六孔の「昭華の琯」という秘宝があったことをしるしている。字はまた管籥の意より、管領の意となった。

監(カン・15画)

監 甲骨文 監 金文
甲骨文/頌鼎・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:「皿」”平たい水器”+”目を見開いた人”で、水鏡をのぞき込む人の姿。原義は”よく見る”。

音:「ケン」は呉音。カールグレン上古音はklam(平/去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義・人名に用い、金文では”観察する”(頌鼎頌鼎・西周末期)、”青銅のタライ”(攻吳王鑑・春秋末期)に用いた。

備考:論語の時代は大皿(盤)に入れた水鏡を主に用いた。当時は青銅器時代であり、青銅器は磨いても金色にしかならず反射が悪い。青銅の表面に銀をメッキする手段はあるが、銀はたちまち真っ黒になってしまうし、高価で、柔らかいから磨いているとすり減って、地が出てしまう。

「史墻盤」(シショウバン)西周時代 口径47.3cm重量12.5kg 周原博物館蔵

”みる”類義語の一覧については、論語語釈「見」を参照。

学研漢和大字典

会意。臥(ガ)は「臣(伏せた目)+人」の会意文字で、人がうつぶせになること。監は「皿の上に水+臥」で、大皿に水をはり、その上に伏せて顔をうつしみること。水かがみで、しげしげと姿をみさだめること。鑑(かがみ)と同系。類義語に視・鏡。

語義

  1. {動詞}みる。上から下の物をしげしげとみおろしてみさだめる。また、みはりをする。▽平声に読む。《類義語》視。「監視」「監督」。
  2. {動詞}かんがみる。かがみにうつしてみて、しげしげとみさだめる。また、先例や手本として、とくとみきわめる。《同義語》鑑。「監于先王成憲=先王の成憲に監みる」〔書経・説命下〕
  3. {名詞}罪人をみはるためにいれておく牢獄(ロウゴク)。▽平声に読む。「監獄」「収監」。
  4. {名詞}役所の名。▽去声に読む。「国子監(昔の国立大学)」「欽天監(キンテンカン)(昔の天文台)」。
  5. {名詞}「監生」の略。「捐監(エンカン)(金を納めて監生となった者)」。
  6. {名詞}宮中に仕える宦官(カンガン)。▽ふつうは「太監」という。
  7. 《日本語での特別な意味》じょう。四等官で、大宰府の第三位。

字通

[会意]臥(が)+皿(べい)。臥は人が臥して下方を視る形。皿は盤。盤水に臨んでその姿を映す意で、いわゆる水鏡(みずかがみ)。すなわち鑑の初文。〔説文〕八上に「下に臨むなり。臥に從ひ、䘓(かん)の省聲」とするが、下は水盤の形。〔詩、小雅、節南山〕「何を以て監(かんが)みざる」、〔詩、大雅、烝民〕「天、有周を監る」のように用いる。金文に「監𤔲(かんし)」(監司)という語があり、もと天より監臨することをいう。〔呉王夫差鑑〕に「自ら監監を作る」とあり、鑑(水鏡)をいう。

諫/諌(カン・16画)

諌 金文 諌 金文
番生簋蓋・西周末期/曾孟嬭諫盆・春秋

初出:初出は西周末期の金文

字形:「諌」は異体字。字形は「言」+「カン」で、字形からは語義を説明できない。原義は”とがめる”。

音:カールグレン上古音はklan(去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では原義に用いた(大盂鼎・西周早期)。また「讕」と記す例があるという。

学研漢和大字典

会意兼形声。「言+(音符)柬(カン)(よしあしをわける、おさえる)」。措(ラン)(さえぎりとめる)・扞(カン)(相手をおさえとめる)と同系。類義語の諍は、きつく言ってやめさせる。諷は、それとなくたしなめる。

語義

  1. {動詞・名詞}いさめる(いさむ)。いさめ。目上の人の不正をおさえとどめるために意見する。いさめることば。「信而後諫=信ぜられて而うして後に諫む」〔論語・子張〕
  2. {動詞}いさめる(いさむ)。過ちを正す。よしあしをわけてとがめる。してしまったあとから文句をつける。「逐事不諫=逐事は諫めず」〔論語・八佾〕

字通

[形声]声符は柬(かん)。〔説文〕三上に「証(ただ)すなり」とあり、前条に「証は諫むるなり」とあって互訓。〔詩、大雅、民労〕「王、女(なんぢ)を玉にせんと欲す 是(ここ)を用(もつ)て大いに諫む」など、〔詩〕にも多くみえる。周初の〔大盂鼎(だいうてい)〕に「朝夕に入りて讕(いさ)む」とあり、その字形は門中に東を加えた形に従う。柬の初形は東で橐(ふくろ)の形。門は廟門。廟門に贖物を収めた橐を供えて祈る意で、もと自らの罪を謝することであったらしい。のち戒勅する意となり、〔番生𣪘(ばんせいき)〕に「用(もつ)て四方を諫(ただ)し、遠きを柔(やす)んじ𤞷(ちか)きを能(をさ)む」のようにいう。のち人の誤りを諫正する意となった。

憾(カン・16画)

憾 楷書
(楷書)

初出:初出は不明。『春秋左氏伝』、『孟子』、『戦国策』、『後漢書』、南北朝時代の字書『玉篇』に用例があるようだが、どれが初出とも言いがたい。

字形:〔忄〕”こころ”+「感」”心を動かす”。

音:カールグレン上古音はɡəm(去)。

用例:文献上、論語に次ぐ用例は『孟子』『列子』。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

部品「感」kəm(上)の初出は戦国末期の金文。

『大漢和辞典』で音カン訓うらむは以下の通り。

  1. 「㦥」初出不明。上古音不明。
  2. 「愋」初出楚系戦国文字。上古音不明。
  3. 「惂」初出後漢説文解字。カールグレン上古音不明。
  4. 「坎」初出後漢説文解字。カールグレン上古音kʰəm(上)。
  5. 「嗛」初出秦系戦国文字。カールグレン上古音kʰliam(上)。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。感は「心+(音符)咸(カン)」の会意兼形声文字で、心に強くショックを受けること。憾は「心+(音符)感」で、残念な感じが強いショックとして心に残ること。歉(ケン)・慊(ケン)(もの足りず残念なこと)と同系。類義語に恨。「うらみ」は「恨み」とも書く。

語義

  1. {動詞}うらむ。残念に思う。しまったと強く感じる。「人猶有所憾=人なほ憾む所有り」〔中庸〕
  2. {名詞}うらみ。残念な気持ち。「抱憾=憾を抱く」「遺憾=憾を遺す」「敝之而無憾=これを敝りて憾み無からん」〔論語・公冶長〕

字通

[形声]声符は感(かん)。感は祝禱の器である口(𠙵(さい))に、聖器の戉(鉞(まさかり))を加えて緘し、神の感応を待つ意。そのようにして人を動かすことを撼、他から憂傷を受けることを憾という。〔左伝、哀十七年〕「陳に憾有り」とは、遺恨の意。

觀/観(カン・18画)

観 甲骨文2 観 金文
甲骨文/效卣・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は”羊のつの形”+「鳥」+「口」二つで、「漢語多功能字庫」はフクロウだとし、つのはフクロウの目尻から伸びた羽根とする。「口」は目を意味するのだろう。原義はフクロウのようにじっと見ること。

音:カールグレン上古音はkwɑn(平/去)。同音に官とそれを部品とする漢字群、雚”コウノトリ・ガガイモ”とそれを部品とする漢字群、莞、貫、冠、筦、盥など多数。”みる”を意味する一連の漢字については、論語語釈「見」を参照。

用例:『甲骨文合集』5159に「貞王觀河若」とあり、「貞う、王河(黄河)のくをみんか」とよめ、”問う、王は黄河が順調に流れているのを観察できるだろうか”と解せ、”みる”の語義が確認できる。

備考:ただし21世紀の現在では、中国でフクロウが住まうのは、ロシア沿海州や東シベリア国境に面する、旧満州の辺境に限られる。対して日本では全土にフクロウが住むことから、黄河下流域=中原を発祥とする漢字に、甲骨文の時代から「観」の字が取り入られたということは、あるいは当時、中原は森が豊かに広がっていたのかもしれない。

『春秋左氏伝』隠公元年、中原の鄭国で跡目争いがあり、母を幽閉した荘公に、エイ考叔が「キョウ」”フクロウ”を献じて目通りを願ったという話では、『左氏伝』ではフクロウのフの字も出てこないが、現伝の物語では、広くそのように信じられている。

学研漢和大字典

カンは口二つからなり、口をそろえていうこと。カンや歡(=歓)の原字。カンは「艹+隹(とり)+音符吅」の会意兼形声文字で、口をそろえて鳴く水鳥を示す。觀は「見+音符雚(そろえる)」の会意兼形声文字で、物をそろえてみわたすこと。權(=権。そろえてはかる)-顴(左右そろったほお骨)などと同系のことば。▽視はまっすぐ視線を注いでみること。見は、すきまからみる、まみえること。看は、手をかざしてみること。覧は、上から下をみること。

語義

  1. {動詞}みる。そろえてみる。みわたしてみくらべる。みくらべて考える。「観察」「観象(天文をみる)」「観其所由=其の由る所を観る」〔論語・為政〕
  2. {動詞・名詞}みる。見物してまわる。見物の旅。「観光」「遊観」「吾何修而可以比於先王観也=吾何を修めて以て先王の観に比すべきなり」〔孟子・梁下〕
  3. {動詞}みせる(みす)。しめす。そろえて人にみせる。「観閲」「観兵于南門=兵を南門に観す」〔春秋左氏伝・襄一一〕
  4. {名詞}外にあらわしてみせる姿。また、みわたしたけしき。「儀観(ととのえた姿)」「壮観(大きなけしき)」。
  5. {名詞}見方。考え方。「達観(とらわれない見方)」「主観」。
  6. {名詞}みはらし台。ものみ台。▽去声に読む。「両観(左右がついになったみはらし台)」「楼観」。
  7. {名詞}道教の寺。▽道士は高いみはらし台で修養したことから。去声に読む。「道観」「白雲観」。
  8. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陦隍(坤下巽上(コンカソンショウ))の形で、へりくだっておちつくことを示す。

字通

旧字は觀に作り、かん声。〔説文〕八下に「諦視テイシするなり」とあって、つまびららかに視る意とする。卜辞に「雚シャ」という語があり、農耕儀礼に関する字であろう。雚は毛角のある鳥の象。これによって鳥占とりうらを行う意であるらしく、觀とはこの鳥占によって神意を察することであろう。

大漢和辞典

みる。しめす。あらわす。みえ、みばえ。ながめ、みもの。かたちづくり、儀容。ようす、ありさま。宮門の左右にある高い台。うてな、たかどの、ものみだい。京観は、しかばねを積み重ね土で覆ったもの。仙人・道士の道を修する処。易六十四卦の一。おおい、貫に通ず。あつい、熱に通ず。こうのとり。館に通ず。姓。みる。め。あそび。思考力。思念する。すすめる、勧に通ず。

観

𥳑/簡(カン・18画)

簡 金文 簡 金文
簡簋蓋・西周末期/中山王□壺・戦国早期

初出:初出は西周末期の金文

字形:中国・台湾・香港では、「簡」が正字としてコード上取り扱われている。字形は「⺮」+「間」”すきま”で、竹札を編んで隙間のある巻物の姿。原義は”ふだ”。

音:カールグレン上古音はkăn(上)。同音は「閒」・「蕑」”フジバカマ・ハス”のみ。

用例:西周末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0736に「豐中(仲)次父其有𤔲(司)簡乍(作)朕皇考益弔(叔)ソン 外字𣪕(簋)」とあり、人名と解せる。春秋末期までの用例はこの一件のみ。

備考:定州竹簡論語では同音の「閒」=(間)とも記される。「閒」には”簡潔”の意があり、同じく初出は西周末期の金文。論語語釈「間」を参照。
間 大漢和辞典

周書』諡法解に「壹德不解曰簡。平易不疵曰簡。」とあり、「徳をもっぱらにして解かざらば、簡という。平易にしてきずつかざらば、簡という」と読める。おくり名としては、可も無く不可も無い、とりたてて取り柄の無い君主に用いる、とされる。

定州竹簡論語では斉の簡公を「蕳」(蕑)と書くが、単に字が下手くそだっただけなのではないかと思われる。
蕑 大漢和辞典

漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。間は、門のすきまがあいて、月(日)がそのあいだから見えることを示す会意文字。簡は「竹+(音符)間(カン)」で、一枚ずつ間をあけてとじる竹の札。類義語に選。「翰」の代用字としても使う。「書簡」。

語義

  1. {名詞}ふだ。竹のふだ。むかし、紙のなかったころ、竹ふだや、木のふだに字を書いてひもでとじならべた。一枚ずつ間があくので簡という。▽幅のせまいものを「簡」といい、幅の広いものを「牘(トク)」という。「竹簡」「木簡」。
  2. {名詞}文書・手紙のこと。「断簡(ばらばらになった文書)」「錯簡(竹ふだのつなぎのひもが切れて、前後入れ違って意味の通じなくなった文書)」「手簡(てがみ)」。
  3. {名詞}君主の命令を書いた文書。「簡書」。
  4. {動詞}辞令を書いて任命する。「簡授(任命する)」。
  5. {形容詞}間があいている。つめずにあけてある。また、間をはぶいてある。《対語》⇒密。《類義語》略。「簡略」。
  6. {形容詞}手をぬいてあるさま。おろそかなさま。《対語》繁・慎。《類義語》慢。「繁簡」「簡慢」「吾党之小子狂簡=吾が党之小子狂簡なり」〔論語・公冶長〕
  7. {動詞}よりわける。えらび出す。▽揀(カン)に当てた用法。《同義語》柬・揀。「簡閲(調べてよしあしをよりわける)」。
  8. {名詞}選別の結果、出てきた証拠。「有旨無簡不聴=旨有れども簡無ければ聴かず」〔礼記・王制〕
  9. 「簡簡」とは、ゆとりがあって大きいさま。

字通

[形声]声符は閒(間)(かん)。〔説文〕五上に「牒なり」、また木部六上に「札は牒なり」とあり、竹簡・木簡をいう。軍令も簡にしるしたもので、〔詩、小雅、出車〕に「此の簡書を畏る」の句がある。簡に大小あり、各一字一寸、韋(皮ひも)で結ぶので韋編という。

語系

𥳑・柬keanは同声。柬は東(橐(ふくろ))の中にもののある形で、これを精選する意。ゆえに練(練)・鍊(錬)・湅lianは柬に従う。湅字条十一上に「㶕(あら)ふなり」とあり、𥳑声と柬声との間に、声義の関係がある。

顏/顔(ガン・10画)

顔 金文
九年衛鼎・西周中期

初出:初出は西周中期の金文

字形:「文」”ひと”+「厂」”最前線”+「弓」+「目」で、最前線で弓の達者とされた者の姿。

顔 顏 異体字
慶大蔵論語疏では異体字「〔立儿頁〕」と記す。上掲「三十人等造形像二千餘區記」(北魏?)刻。

音:カールグレン上古音はŋan(平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では氏族名に用い(九年衛鼎・西周中期)、戦国の竹簡では”表情”の意に用いた。

論語では孔子の弟子・顔回子淵の名として頻出。

備考:『春秋左氏伝』定公八年2に「士皆坐列,曰,顏高之弓六鈞,皆取而傳觀之」(将校たちが車座になって、「顔高どのの弓は六鈞(46kg)もの強さだと」と言って、弓を回していじくっていた)とある。「顏」という氏族名は、弓の名手であることからの名乗りである可能性がある。孔子の母の名を顔徴在と『孔子家語』は伝え、筆頭弟子は顔淵であり、孔子が亡命して真っ先に向かったのは国際傭兵団の長(「梁父之大盗」『呂氏春秋』)だった顔濁鄒の屋敷だったと『史記』孔子世家は記す

学研漢和大字典

会意兼形声。彦は「文(もよう)+彡(もよう)+(音符)厂(ガン)(厂型にかどがたつ)」の会意兼形声文字で、ひたいがひいでた美男のこと。顏は「頁(あたま)+(音符)彦」で、くっきりとした美男のひたい。厂(がけ)・岸(水辺のがけ)・雁(┏型に飛ぶかり)と同系。付表では、「笑顔」を「えがお」と読む。

語義

  1. {名詞}ひたい(ひたひ)。頭の上辺に対して、┏型をなしてくっきり浮き出るひたい。《類義語》額。「隆準而竜顔=隆準にして而竜顔」〔史記・高祖〕
  2. {名詞}かお(かほ)。かんばせ。かお。かおのようす。「顔若徙之栄=顔は徙の栄のごとし」〔史記・趙〕。「顔如渥丹=顔は渥丹のごとし」〔詩経・秦風・終南〕
  3. {名詞}いろどり。色彩。「顔料」「顔色(いろ)」。

字通

[形声]声符は彥(彦)(げん)。厂(かん)(額の象形)に加入の儀礼を示す文身の象(文)を加え、彡(さん)はその美彩あるをいう。頁(けつ)は儀礼のときの儀容。したがって顏とは、儀礼のとき加入儀礼を示す文身を加えた顔容をいう。〔説文〕九上に「眉目の閒なり」とは、その文身を加える額の部分をいう。〔方言、十〕に「顙(ひたひ)なり」とみえるのが初義。顔面の面は、目だけを残して他を覆うもので、ペルソナの意。〔左伝、荘五年、正義に引く世族譜〕にみえる邾顔(ちゅがん)、字は夷父。夷俗は断髪文身、ゆえに顏・夷を名字対待の義に用いるが、古くは中国にも文身の俗があった。

喭(ガン・12画)

喭 古文
四4.23籀(夏竦:《古文四聲韻》,李零、劉新光整理:《汗簡 古文四聲韻》,中華書局1983年)

初出:初出は不明

字形:「口:+音符「彦」。『大漢和辞典』の語釈は”とむらう・取り乱す・”つよい”・”礼を失う”・”国を亡ったことを弔う”・”ことわざ”・”才徳の優れた男”・”(小児が)微笑むさま”と多過ぎ、字形の由来は不明。

音:カールグレン上古音はŋan(去)。同音は「顏」(平)、「鴈」”がん・あひる”(去)、「雁」(去)。

用例:論語先進篇17と、それを引用した『史記』弟子伝以外では、『後漢書』に「諺」”ことわざ”として用いられたのが1例、あと一例は占い本の「易林」で「坤:喭喭諤諤,虎豹相齚。懼畏悚息,終无難惡。」とあるが、占い本の通例でどうとでも取れるようにしか書いていないから、語義は分からない。トラとヒョウが噛み合うようにわぁわぁ言い合うことだろうか。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音で訓とむらうに「唁」(初出説文解字)、訓つよいに「嚴」(初出西周末期金文)、「悍」(初出秦系戦国文字)、「礥」(初出不明)。

厳 金文
虢叔旅鐘・西周末期

「嚴」の金文の字形は、「𠙵」複数+「广」”屋根”+”ほうき”+「又」”手”+「𠙵」”祈祷文”で、掃き清めた祭殿の上に、先祖や天神の霊が幾柱も存在するさま。「厳然として」というように、明らかに存在する様子。

備考:論語先進篇17、定州竹簡論語では「獻」と記す。

学研漢和大字典

会意兼形声。「口+(音符)彦(かどばってはっきりした顔)」。

語義

ガン
  1. (ガンナリ){形容詞}いかつい。かどだってまるみがない。「由也喭=由也喭なり」〔論語・先進〕
ゲン
  1. {動詞・名詞}改まって悔やみをいう。改まったあいさつ。《同義語》⇒唁。「弔喭(チョウゲン)(悔やみ)」。

字通

[形声]声符は彦(げん)。〔説文〕唁字条二上に「生を弔ふなり」とあり、〔集韻〕に〔説文〕を引き、「或いは喭に作る」と補足する。〔論語、先進〕「由(いう)(子路)や喭(がん)なり」とは粗雑なふるまいをいう。

論語語釈
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