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論語語釈「レ」

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語釈 urlリンクミス

令(レイ・5画)

令 甲骨文 令 金文
甲骨文/作周公簋・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「シュウ」”あつめる”+「セツ」”ひざまずいた人”で、原義は”命令(する)”。

音:カールグレン上古音はli̯ĕŋ(平・韻目「清」/去「勁」)、平声の「仙」、去声「徑」は不明。

用例:西周の金文では「永令」と記して「命永からんことを」と読む例が複数ある。戦国の竹簡に至るまで、「令」と「命」は相互に通用した。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で、金文では”任命する”(曶鼎・西周)、”褒美を与える”(獻𣪕・殷代末期)、”寿命”(頌鼎・西周)の語義があると言う。ただし”美しい”の語義は、初出が前漢初期の『爾雅』で、論語の時代以前に確認できない。

学研漢和大字典

令 解字

会意文字で、「△印(おおいの下に集めることを示す)+人のひざまずく姿」で、人々を集めて、神や君主の宣告を伝えるさまをあらわす。清く美しいの意を含む。もと、こうごうしい神のお告げのこと。転じて長上のいいつけのこと。

冷(レイ)(清らかな水玉や氷)・玲(レイ)(清らかな玉)・伶(レイ)(清らかな人)・靈(=霊。清らかな巫女(ミコ)、祭礼、魂)と同系のことば、という。

語義

  1. {名詞}神のお告げや、君主・役所・上位者のいいつけ。▽清らかなお告げの意を含む。「勅令」「軍令」。
  2. {名詞}おきて。お達し。「法令」「律令(リツリョウ)」。
  3. {形容詞}よい(よし)。清らかで美しい。▽相手の人の妻・兄弟姉妹を尊んでいうことばとしても用いられる。「令聞(レイブン)(清らかなことばや、よい評判)」「令室」「令妹」。
  4. {名詞}おさ(長)。「令尹(レイイン)(楚(ソ)の宰相)」「県令」。
  5. {名詞}遊びごとのきまり。「酒令(作詩・なぞあてで、はずれた者に罰杯を命ずるきまり)」。
  6. (レイス){動詞}命令する。「不令而行=令せざれども行はる」〔論語・子路〕
  7. {助動詞}しむ。せしむ。→語法「①」▽平声(ヒョウショウ)に読む。
  8. {助動詞}もし。→語法「②」▽平声に読む。
  9. 「小令(ショウレイ)」とは、南宋(ナンソウ)から明(ミン)代にかけて流行した詞曲のうち、詞の短いもの。

語法

①1)「令~…」は、「~(をして)…せしむ」とよみ、「~に…させる」と訳す。使役の意を示す。「今者有小人之言、令将軍与臣有郤=今者(いま)小人の言有り、将軍をして臣と郤(げき)有ら令む」〈今、卑劣な奴が口を出し、将軍と私(劉邦)の間を割こうといたしました〉〔史記・項羽〕▽本来の意味は「命令する」で、転じて使役となった。
2)「令…」は、「…せしむ」とよみ、「…させる」と訳す。使役の対象が省略される場合もある。

②「令~…」は、
1)「~(をして)…せしめば」とよみ、「もし~すれば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。▽「もし~、…すれば」とよんでもよい。「但令心似金鈿堅、天上人間会相見=ただ心をして金鈿の堅きに似しむれば、天上人間(じんかん)会(かなら)ずあひ見ん」〈もし(二人の)心を黄金や青貝の堅さのように保っていれば、天上と地上に(別れて)いてもかならずお会いできます〉〔白居易・長恨歌〕▽「仮令」「縦令」「借令」「如令」「設令」「向令」も「もし」とよみ、意味・用法ともに同じ。
2)「~(をして)…せしむとも」とよみ、「もし~しても」「かりに~でも」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。▽「たとい~、…すれども」とよんでもよい。▽「仮令」「縦令」「借令」「如令」「設令」「向令」も、「たとい」とよみ、意味・用法ともに同じ。「縦令然諾暫相許、終是悠悠行路心=縦令(たとひ)然諾して暫(しばら)くあひ許すとも、終にこれ悠悠たる行路の心」〈たとえ(友人になると)承諾してしばらく心を許しても、結局は無関心な行きずりの人の気持ちになってしまう〉〔張謂・題長安主人壁〕

令 甲骨文
(甲骨文)

字通

[象形]礼冠を付けて、跪いて神意を聞く人の姿。古くは令・命の二義に用いた。〔説文〕九上に「号を発するなり。しゅうせつに従ふ」と会意に解する。人をあつめて玉瑞の節(卩)を頒ち、政令を発する意とするが、卜文・金文の字形は、神官が目深に礼帽を著けて跪く形で、神意を承ける象とみられる。金文に「大令(命)」「天令(命)」のように命の字としても用い、西周後期に至って、祝禱の器の形をそえて命の字となる。鈴もはじめは令に従って鈴に作り、のち鈴 外字に作る。鈴は神を降し、また神を送るときに用いる。令・命は神意に関して用いる語である。神意に従うことから令善の意となり、また命令の意から官長の名、また使役の意となる。

訓義

1)おつげ、神のおつげ。2)みことのり、ふれ。3)いましめ、おしえ、いう。4)よい、ただしい、めでたい。5)させる、せしめる、いいつける。6)もし、たとえ。7)伶と通じ、めしつかい。

大漢和辞典

リンク先を参照

禮/礼(レイ・5画)

礼 金文 礼 篆書
裘衛盉・西周中期/(篆書)

初出:現行字体の初出は秦系戦国文字。「禮」と釈文された「豊」の字の初出は甲骨文。

字形:字形は「示」+「豊」で、「示」は先祖の霊を示す位牌。「豊」はたかつきに豊かに供え物を盛ったさま。

禮 礼 異体字
慶大蔵論語疏は新字体と同じく「礼」と記す。この字体は後漢の隷書から確認出来る。『干禄字書』(唐)所収。また新字体と近く「〔禾乚〕」と記す。「魏定州剌史元湛墓誌」(東魏)刻。

音:カールグレン上古音はしめすへんの有無にかかわらずliər(上)。

用例:孔子より前の時代では、周王や諸侯が行う祖先祭・天地祭を意味したが、孔子は貴族にふさわしい立ち居振る舞いの総称として「禮」を用い、弟子に教えた。つまり孔子の発明品。

備考:

礼 甲骨文 礼 甲骨文
レイ」甲骨文1・2

レイ」liər(上)の字形ホウ」pʰ(平)の字形はまったく同じだが、古文字学者がどうやって切り分けているのかは分からない。「漢語多功能字庫ホウ条は、「壴」”太鼓”+「ホウ」の組み合わせとし、「丰」を「太鼓の鳴るポンポンという音」というが、うさんくさすぎる。

丰 甲骨文 牛 甲骨文 豆 甲骨文
「丰」(甲骨文)/「牛」(甲骨文)/「豆」(甲骨文)

「丰」は根菜類、またはイネ科植物のさま。つまり「豊」「豐」ともに、字形は「丰」二つ+「牛」+「豆」”たかつき”で、たっぷりたかつきに盛られた犠牲獣やめしを示す。牛丼大盛りである。
カーラ 牛丼

語釈としては前者レイを”礼儀作法”、後者ホウを”豊穣”とする。「禮」の「漢語多功能字庫」は、時代ごとの語義の変遷について記すところが無い。ゆえに「豊」条を以下記す。

漢語多功能字庫

甲骨文從「玨」從「壴」。「豊」是「禮」的初文,林澐認為古代進行禮儀活動時常用「玨」(玉)和「壴」(鼓),故以此表示禮的概念。《論語.陽貨》:「禮云禮云,玉帛云乎哉?樂云樂云,鍾鼓云乎哉?」


甲骨文の字形は「玨」と「壴」で構成される。「豊」は「禮」の原字で、林澐は古代の祭祀行為には常に「玨」(玉)と「壴」(鼓)を伴ったから、この組み合わせでレイの概念を示したとした。論語陽貨篇11、「禮云禮云,玉帛云乎哉?樂云樂云,鍾鼓云乎哉?」


甲骨文讀作「醴」,表示甜酒。如《合集》32536:「叀(惠)舊豊用。」「舊豊」即「舊醴」,表示陳酒。


甲骨文には「醴」と読むべき字があり、語義は甘酒。『甲骨文合集』32536号に「叀(惠)舊豊用」とあり、「舊豊」はつまり「舊醴」で、古い酒を意味する。


金文表示禮,指宗廟郊祀之禮,如天亡簋:「王又(有)大豊(禮)。」又讀為「醴」,表示醴酒,如長甶盉:「穆王鄉(饗)豊(醴)。」又用作人名。


金文では礼儀作法を意味し、それは祖先祭や天地の神を祭る式次第を指した。西周早期の「天亡簋」に、「王又(有)大豊(禮)」とある。また「醴」と読むべきものがあり、甘酒を意味した。西周中期の「長甶盉」に、「穆王鄉(饗)豊(醴)」とある。また人名に用いた。


戰國竹簡也表示禮。如《郭店簡.尊德義》簡9-10:「䌛(由)豊(禮)智(知)樂,䌛(由)樂智(知)𢙇(哀)。」又如《上博竹書一.孔子詩論》簡5:「敬宗[宀苗](廟)之豊(禮),㠯(以)為丌(其)[本臼](本)。」


戦国の竹簡もまた礼儀作法を意味した。『郭店楚簡』尊德義・簡9-10号に。「䌛(由)豊(禮)智(知)樂,䌛(由)樂智(知)𢙇(哀)」とある。また『上博竹書』一・孔子詩論・簡5号に、「敬宗[宀苗](廟)之豊(禮),㠯(以)為丌(其)[本臼](本)」とある。


小篆下部訛為「豆」形,《說文》誤以為「豊」字從「豆」,不確。又「豊」和「豐」在漢魏碑銘中有相混的情況,林澐認為是字形相近所致,從出土的先秦古文字資料來看,「豊」和「豐」是起源不同的兩個字。參見「豐」。


小篆では下部が誤って「豆」形になり、『説文解字』も誤って「豊」を「豆」の字形で構成されるとし、正確ではない。また「豊」と「豐」は漢魏の碑文で混用され、林澐は、両者は酷似しているが、出土した先秦の遺物を見ると、「豊」と「豐」の起源は違うという。「豐」条を参照

学研漢和大字典

会意兼形声。豊(レイ)(豐(ホウ)ではない)は、たかつき(豆)に形よくお供え物を盛ったさま。禮は「示(祭壇)+(音符)豊」で、形よく整えた祭礼を示す。「説文解字」や「礼記」祭義篇では、礼は履(ふみ行う)と同系のことばと説く。▽礼はもと、古文の字体で、今日の略字に採用された。「禮」の異体字「礼」の草書体からひらがなの「れ」ができた。また、終画からカタカナの「レ」ができた。

語義

  1. {名詞}あや。いや(ゐや)。形よくととのえた作法・儀式。昔は六芸(リクゲイ)(礼・楽・射・御・書・数)の一つ。教養の筆頭と考えられた。また、五常(仁・義・礼・智・信)の一つ。人の守るべきかどめが正しい行い。《類義語》儀。「礼儀」「六礼(リクレイ)(冠・婚・喪・祭・郷飲酒・相見)」「礼之用、和為貴=礼の用は、和を貴しと為す」〔論語・学而〕
  2. {名詞}社会生活上の慣習。▽荀子(ジュンシ)は、社会の秩序を保つため、経験によってつくられた慣習を礼と考えた。《類義語》法。
  3. {名詞}作法や制度を記した書物。「三礼(「周礼(シュライ)」「儀礼(ギライ)」「礼記(ライキ)」の三書)」。
  4. (レイス){動詞}ていねいに応待する。「礼遇」「礼人不答=人を礼すれども答へられず」〔孟子・離上〕
  5. {名詞}贈り物。「節礼(節季の贈り物)」。
  6. {名詞}あいさつやおじぎ。「敬礼」。
  7. 《日本語での特別な意味》れい。謝意をあらわすあいさつ。「礼をいう」。

字通

[形声]旧字は禮に作り、豊(れい)声。豊は醴(れい)。その醴酒を用いて行う饗醴などの儀礼をいう。〔説文〕一上に「履(り)なり」と畳韻の字を以て訓し、「神に事(つか)へて福を致す所以なり」とし、豊の亦声とする。卜文・金文の字形には、豊の上部を玨(かく)の形、また二丰(ほう)の形に従うものがあり、玉や禾穀の類を豆に加えて薦めた。古文として礼の字をあげており、漢碑にもその字がみえている。〔中庸、二十七〕に「禮儀三百、威儀三千」とあり、中国の古代文化は礼教的文化であった。

犁(レイ/リ・12画)

犁 隷書
前漢隷書

初出:初出は前漢の隷書

音:「レイ」の音で”まだらうし”を、「リ」の音で”からすき(ですく)”を意味する。カールグレン上古音はli̯ərまたはliər(共に平)。

字形:「犂」は異体字。字形は”からすき”+「人」+「牛」で、からすきで土を耕すさま。原義は”すく”。「からすき」は動物に引かせる大型のすき。

用例:論語に次ぐ文献上の再出は、『墨子』に「以亢疾犁」とあり、落とし穴ににイバラを詰めておき、敵の足を止めるさま。”イバラ”と解せる。

また『荘子』に「犁然有當於人心」とあり、「ふるひをののくさま」と『大漢和辞典』はいう。

戦国最末期の『韓非子』には「不能勿犁。」とあり、”目を閉じる”と金谷本は解している。

論語時代の置換候補:部品の「利」”鋭い刃物”。部品の利の字には、”スキ”の語釈が『大漢和辞典』には無い。ただし字形は明らかに、イネ科植物に刃物を当てる姿で、農具を意味しうる。

「字は黎と通用する」と『字通』と『大漢和辞典』が言うが、「黎」の初出は戦国文字。

「リ」li̯ərの同音に「梨」があり、”年寄りの肌の色合い”と『大漢和辞典』にいうが、初出は前漢の隷書。「レイ」liərの同音に「黧」があり、”まだら”を意味するが、初出は不明。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。「牛+(音符)利(リ)(よくきれる)」。牛に引かせ、土をきり開くすき。

語義

レイ
  1. {名詞}からすき。すき。土をおこす農具。▽牛に引かせたり、人が押したりして使う。
  2. {動詞}すく。すきで耕す。「古墓犂為田=古墓犂かれて田と為る」〔古詩十九首〕
  1. {名詞}まだらうし。耕作に使うまだらうし。「犂牛(リギュウ)」。
  2. {形容詞}黒いさま。薄暗いさま。▽黎(レイ)に当てた用法。
  3. {動詞}へだてる。間隔があく。《類義語》離。「犂二十五年吾冢上柏大矣=二十五年を犂て吾が冢上の柏大ならん」〔史記・晋〕

字通

[形声]声符は𥝢(り)。〔説文〕二上に正字を𤛿に作り、「耕すなり」と訓し、黎(れい)声とするが、𥝢はからすきの形に従う字で、それに牛を加えた形とみてよい。耕字条四下に「犂(すき)なり」とあって互訓。孔門の冉耕(ぜんこう)、字は伯牛、また司馬耕は一名犂、みな牛耕によってその名字をえている。〔戦国策、趙一〕に「秦は牛を以て田し、水もて糧を通ず」とあり、それがその富強を致す道であった。字は黎と通用する。

戾/戻(レイ・7画)

盭 金文
「盭」秦公鎛・春秋早期

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はliəd(去)。同音は「悷」”かなしむ・もとる”(去)のみ。『大漢和辞典』で音レイ訓もとる・まがるに「盭」(上古音不明、去、『大漢和辞典』盭条参照)があり、初出は西周中期の金文。論語時代の置換候補となる。

学研漢和大字典

会意。「戸(とじこめる)+犬」で、暴犬が戸内にとじこめられてあばれるさまを示す。逆らう意から、「もとる」という訓を派生した。辣(ラツ)・剌(ラツ)と同系。「もとる」は「悖る」とも書く。

語義

  1. (レイナリ){動詞・形容詞}もとる。道理や人情にそむいて、むちゃである。逆らう。《対語》⇒正・当。「乖戻(カイレイ)(道理に反している)」「暴戻」「誅厳、不為戻=誅厳なれども、戻と為さず」〔韓非子・五蠹〕
  2. {動詞}いたる。はげしく動いてやっと届く。あがいたすえに、落ち着く。「戻止」「鳶飛戻天=鳶飛んで天に戻る」〔詩経・大雅・旱麓〕
  3. 《日本語での特別な意味》もどる。もどす。逆の方向、もとの所・状態にかえる。また、へどをはく。「払い戻す」。

字通

[会意]旧字は戾に作り、戶(戸)+犬。戸下に犬牲を埋めて呪禁とする意。ここを犯すことは違戻のこととされた。〔説文〕十上に「曲るなり。犬の戶下に出づるに從ふ。戾なる者は、身曲戾するなり」とするが、それでは罪戻の意を説きがたい。殷代の遺址には、しばしば戸下に牲を用いることがある。〔詩、小雅、節南山〕「此の大戾(たいれい)を降す」、〔左伝、文十四年〕「其れ敢て大典を干(をか)して、以て自ら戾(つみ)を取らんや」など、みな重い罪戻をいう。また〔詩、小雅、雨無正〕「止戾する所靡(な)し」、〔小雅、四月〕「高く飛んで天に戾(いた)る」など、至戻の義も、戸下に呪禁を施すことから、その義を生じたものであろう。

厲(レイ/ライ・14画)

厲 金文 厲 金文
五祀衛鼎・西周中期/魯大𤔲徒子仲伯匜・春秋早期

初出:初出は西周中期の金文

字形:「厂」”地面に隠れる”+「萬」”サソリやムカデ”で、めくると現れる毒虫の意。

音:漢音「レイ」で”はげしい”を、「ライ」でハンセン氏病を意味する。カールグレン上古音はli̯ad(去)。

用例:西周中期「五祀衛鼎」(集成2832)に「衛厶邦君厲告于井白」とあり、国公の名として見える。つまりこの語が出来てからかなり過ぎていると思われ、今後の発掘と解読により、「厲」の字はさらに遡るだろうと予測できる。

君主を「厲」と呼ぶのは死後のおくり名で、サソリやムカデのように蛇蝎の如く家臣領民に忌み嫌われた暴君に名づけることになっている。

西周中期「散白𣪕」(集成3777)などに「其厲年永用」とあり、春秋末期まで「萬」として使われた。

学研漢和大字典

会意。萬(=万)は、二つの毒刺をもったさそりを描いた象形文字。厲は「厂(いし)+萬(さそり、強い毒)」で、さそりの毒のようにきびしい摩擦を加える石、つまり、といしを示す。また、猛毒を持つ意から、毒気や毒のひどい病気の意。ひどい、きついなどの意を含む。瀬(ライ)(はげしい摩擦をおこす浅せ)と同系。類義語に猛。

語義

レイ(去)
  1. {名詞}といし。はげしくこすって、刃や器をみがくといし。《同義語》⇒礪。「莞石(レイセキ)」。
  2. {形容詞}はげしい(はげし)。きついさま。きびしいさま。「厳莞(ゲンレイ)」「温而莞=温にして而莞し」〔論語・述而〕
  3. {形容詞}ひどいさま。「莞王(レイオウ)(暴虐な王につける諡(オクリナ))」。
  4. {動詞}はげむ。《同義語》⇒励。「精莞(セイレイ)」「兵弱而士不莞=兵弱くして士莞まず」。
  5. {動詞}とぐ。はげしくこすってみがく。するどくする。「莞兵=兵を莞ぐ」。
  6. {動詞}はげます。はげしくする(はげしくす)。ふるいたたせる。「莞声=声を莞しくす」。
  7. {動詞・形容詞}悪いたたりをする。ひどい毒があるさま。ひどく苦しめる。「莞鬼(レイキ)」「莞気(レイキ)」。
  8. (レイス){動詞}むりやりに水を切って浅瀬を押し渡る。「深則莞、浅則掲=深ければ則ち莞し、浅ければ則ち掲ぐ」〔論語・憲問〕
ライ(去)
  1. {名詞}らい病。えやみ。《同義語》⇒癩。

字通

[会意]厂(かん)+萬(万)。〔説文〕九下に「旱石なり」とあり、柔石に対して剛石、すなわち砥石の意とするが、その字は礪(れい)。また「蠆(たい)の省聲」とするが、声も合わない。萬はさそりのような虫の形、厂は岩下など秘密のところ。そのような窟室で、この虫を蠱霊(これい)とし呪儀を行うことを原義とするものであろう。そこで厳厲・厲悪の義を生じ、その呪詛によって生ずるものを癘(れい)という。厲にまた厲禁・遮列(しやれつ)の意があり、厲に列の声義がある。列は断首を列して遮列とすることをいう。〔周礼、地官、山虞〕「物、之れが厲(れつ)を爲す」、〔秋官、司隷〕「王宮と野舍との厲禁(れつきん)を守る」はみな遮列の意。〔詩、大雅、公劉〕「厲を取り鍛(たん)を取る」は旱石を求める意で、その厲は礪である。

靈/霊(レイ・15画)

靈 霊 霊 金文
沈子它簋蓋・西周早期/庚壺・春秋晚期

初出:初出は西周早期の金文。ただし字形は「霝」または「𠱠」。現行字形の初出は春秋早期の金文

字形:「霝」の字形は甲骨文よりあるが、”雨が降る”の意であるらしく、”たましい”の意で用いたのは西周早期から。殷周革命の結果と思われる。現行字形はその下に〔示〕”祭壇”または〔心〕を加える。

音:カールグレン上古音はlieŋ(平)。

用例:西周早期「沈子它簋蓋」(集成4330)に「用水霝令(命)」とあり、”精霊”と解せる。

春秋早期「秦公鐘」(集成263)に「靈音鍺鍺雝雝」とあり、”素晴らしい”と解せる。

論語では衛霊公の諡号として登場。『逸周書』諡法解には次の通り言う。

死而志成曰靈。亂而不損曰靈。極知鬼神曰靈。不勤成名曰靈。死見神能曰靈。好祭鬼神曰靈。

死後に志が達成された者を霊という。暴君だったが国が滅びなかった者を霊という。鬼神を知り尽くした者を霊という。努力もせずに名を挙げた者を霊という。死んで奇跡が起こった者を霊という。鬼神の祭祀を好んだ者を霊という。

学研漢和大字典

会意兼形声。胼(レイ)は「雨+〇印三つ(水たま)」をあわせた会意文字で、連なった清らかな水たま。零と同じ。靈は「巫(みこ)+(音符)胼」で、神やたましいに接する清らかなみこ。転じて、水たまのように冷たく清らかな神の力やたましいをいう。冷(レイ)とも縁が近い。霊はその略字。▽鋲は中国で霊の簡体字。類義語に鬼。「たましい」「たま」は「魂」とも書く。

語義

  1. {名詞}たま。形や質量をもたない、清らかな精気。▽人間を万物の霊長といい、麒麟(キリン)・鳳凰(ホウオウ)・亀(カメ)・竜を動物の四霊という。《類義語》神。「神霊」「山霊(山の神のみたま)」「惟人万物之霊=惟れ人は万物之霊なり」〔書経・泰誓上〕
  2. {名詞}たましい(たましひ)。形ある肉体とは別の、冷たく目に見えない精神。また、死者のからだからぬけ出たたましい。また、死者に関することにつけることば。《類義語》魂。「霊魂」「怨霊(オンリョウ)」。
  3. {名詞・形容詞}災いや福をもたらす不思議な力。また、人知でははかりがたい不思議な。神のようにあらたかな。めでたい。「霊験」「霊妙」「謂言霊無上=謂言ふならく霊にして無上なりと」〔寒山・昨到雲霞観〕
  4. {形容詞}さとい。かしこい。「霊巧」「霊敏」。
  5. {名詞}みこ。神や死者のたましいと接するみこ。《類義語》巫(フ)。「霊巫(レイフ)」「霊偃蹇兮甲服=霊は偃蹇として兮甲服す」〔楚辞・東皇太一〕
  6. {名詞}水たま。つゆ。《同義語》胼(レイ)・零(レイ)。「霊雨既零=霊雨既に零つ」〔詩経・眇風・定之方中〕
  7. {名詞}君主の諡(オクリナ)の一つ。▽死後に災いをもたらしそうな人につける。「霊王」「霊公」。

字通

[会意]旧字は靈に作り、霝(れい)+巫(ふ)。霝は祝禱の器である𠙵(さい)を列して、雨乞いを祈る意。巫はその巫祝をいう。その雨をまた霝雨という。〔説文〕一上に字を𩆜に作り、「𩆜巫なり。玉を以て神に事(つか)ふ」とし、重文として靈をあげている。金文には字を霝に作り、また示を加え、心を加え、玉を加えるなどの字形がある。霝が初文、他はその繁文とみるべき字である。

曆/暦(レキ・14画)

厤 金文
「厤」毛公鼎・西周末期

初出は説文解字。論語の時代に存在しない。新字体は「暦」。カールグレン上古音はliek(入)。同音は下記の通り。部品の「厤」を『大漢和辞典』では『玉篇』を引いて「暦の古字」とする。

初出 声調 備考
レキ 程よくならぶ 甲骨文
すぎる 甲骨文
天体の運行を測る術 説文解字
石の小さい音 楚系戦国文字
をさめる 西周末期金文

漢語多功能字庫

」指曆法,是推算日月運行及四時節令的方法。


「暦」はこよみを意味し、太陽や月の運行を推算して、四季や歳時記を定める方法。

学研漢和大字典

会意兼形声。厤(レキ)は「禾を並べたさま+厂印(やね)」の会意文字で、順序よく次々と並べる意を含む。曆は「日+(音符)厤」で、日を次々と順序よく配列すること。▽清(シン)代の乾隆帝の諱(イミナ)の弘暦をさけて、厯(レキ)と書くことがある。歷(=歴。次次と順序よく各地を歩いて回る)・麗(レイ)(きちんと並ぶ)などと同系。旧字「曆」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}こよみ。日や月の移り行きかたを並べて、配列したこよみ。▽上古の中国では、まず冬至から冬至までを三百六十五日とはかり、その間に月が十二回あまり満ち欠けすることから、一年を十二か月に分け、数年ごとに閏月(ジュンゲツ)(うるう月)を置いた。前漢の太初暦は四年ごとに三百六十六日の年を設けた。月の満ち欠けを基準とする暦を太陰暦といい、近代まで用いられた。「暦法」。
  2. {名詞}日月や天体の動きを並べて配列する計算。年月の巡り合わせ。転じて、そうなるべき運命。「暦象」「天之暦数、在爾躬=天の暦数、爾の躬に在り」〔論語・尭曰〕
  3. {名詞}年代や寿命。「暦数」。

字通

[会意]旧字は曆に作り、厤(れき)+曰(えつ)。〔説文新附〕七上に「厤象なり。曰に從ひ、厤聲」とするが、厤がその初文。厤は厂(かん)(崖)下に両禾(りようか)を立てて軍門とする象で、軍の本陣をいう。曰(えつ)は盟誓を収めた器。曆とは軍の功歴に対し、これを旌表する意で、金文に「蔑曆(べつれき)」という語があり、「曆(いさをし)を蔑(あら)はす」とよむ。暦朔・暦数などの意に用いるのは、のちの転義である。

列(レツ・6画)

列 金文
晉侯𩵦鐘・西周末期

初出:一説に甲骨文と言うが(「先秦甲骨金文簡牘詞彙庫」)、確実な初出は西周末期の金文

字形:〔歹〕+〔刀〕。頭を持って切り裂くこと。

音:カールグレン上古音はli̯at(入)。平声は不明。

用例:西周末期「晉侯𩵦鐘」(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA0875)に「淖淖列列」とあり、擬声音と解せる。春秋時代以前の用例は、あとは断片しか残っていない甲骨一件のみ。

戦国末期「中山王󱩆鼎」(集成2840)に「剌(列)城□(數)十」とあり、「刺」は「列」と釈文され、”つらなる”と解せる。

戦国最末期「睡虎地秦簡」金布68に「賈市居列者及官府之吏」とあり、”ならぶ”と解せる。

同司空127に「蕃(藩)蓋強折列」とあり「列」は「裂」と釈文されている。

学研漢和大字典

会意。歹の部分は、残・死・殆(タイ)などに含まれ、骨の形。列は「歹(ほね)+刀」で、一連の骨(背骨など)を刀で切り離して並べることを示す。裂(さく)の原字だが、列はむしろ一列に並ぶ意に傾いた。例(一つながりに並ぶ同列のもの)・連と同系。

語義

  1. {名詞}ずらりと横に並んだもの。転じて、仲間の意。▽縦に並んだのを行という。「行列」「比諸侯之列=諸侯の列に比ぶ」〔史記・荊軻〕
  2. (レツス){動詞}つらなる。つらねる(つらぬ)。ずらりと並ぶ。また、並べる。「列名=名を列ぬ」「姉妹弟兄皆列土=姉妹弟兄皆土を列す」〔白居易・長恨歌〕
  3. {形容詞}ずらりとたくさん並んださま。「列国」「列強」。

字通

[会意]𡿪(れつ)+刀。𡿪は断首の象。頭骨になお頭髪を存する形である。〔説文〕十一下は𡿪を「水流るること𡿪𡿪たるなり」とし、列を𡿪声とするが、𡿪は頭部を切りとった形。断首してこれを列することを列といい、これを呪禁に用いることを「遮迾(しやれつ)」という。殷墓には断首坑が多く、身首を別ち、各々別に十体ずつを一坑とし、数十坑にわたってこれを列するものがある。その遺構によって遮迾の実体が知られ、列・迾の字義を確かめることができる。それよりして列次・序列・整列・列世のように用いる。

烈(レツ・10画)

烈 甲骨文
甲骨文合集6589正

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「歹」+「水」。「小学堂」による初出は新の隷書

字形:初出の字形は「歹」”凶事”+「水」。激しい降雨のさま。現行字形は「歹」+「刂」”刀で斬る”+「灬」”火”。刀で斬ってなきがらを焼くさま。

慶大蔵論語疏はおそらく崩し字「〔刂〕」と記し、「烈」と傍記する。

音:カールグレン上古音はli̯at(入)。

用例:「甲骨文合集」6589正.6に「貞其亦烈雨」とあり、”はげしい”と解せる。

西周・春秋の金文、戦国文字では「灬」を欠く「剌」で「烈」を表した。

備考:部品で同音の列を「烈に通ず」と『大漢和辞典』は言う。また「厲」(初出は西周中期)ときわめて近く通用すると、下掲『学研漢和大字典』『字通』は言う。

学研漢和大字典

会意兼形声。列は「歹(ほね)+刀」の会意文字。骨や肉がいくつにも分裂するさま。ずるずると裂けて並ぶ意を含む。烈は「火+(音符)列」で、ほのおがいくつにも裂けてもえ広がること。列(いくつにも裂けて並んだれつ)と同系。爛(ラン)(もえさかる)は、その語尾tがnに転じたことば。厲(ライ)(はげしい)はlɪad-lɪεiということばで、烈ときわめて近い。類義語に激・猛。「はげしい」は「激しい」とも書く。

語義

  1. {形容詞}はげしい(はげし)。火が勢いよく燃えさかるさま。また、燃えさかる火のようにはげしいさま。《類義語》猛。「烈火」「風烈(風がひどい、ひどい風)」「於今為烈=今において烈しと為す」〔孟子・万下〕
  2. {形容詞}行いや精神が強くきびしいさま。「忠烈」「烈士」。
  3. {名詞}目を見はるようなりっぱな業績。めざましいてがら。「功烈」「文謨武烈(ブンボブレツ)(周の文王の周到な政略や、武王のめざましい武功)」。

字通

[会意]列+火。〔説文〕十上に「火猛きなり」とし、列声とするが、字は列屍を焚(や)く意であり、ゆえに酷烈の意となる。字を功烈のように用いるのは、剌(れつ)の仮借。金文に烈祖を剌祖、烈考(父)を剌考、光剌(光烈)・剌刺(烈烈)のように、その意に剌を用いる。のち経籍には烈の字を用いる。字はまた厲(れい)と通用する。

連(レン・10画)

連 金文
連迀鼎・春秋末期

初出は春秋末期金文。上掲字形が左右反転しているのは、金文にはまま見られる現象で、鋳型に元の字形を刻めば、当然こういう現象が起こる。カールグレン上古音はli̯an(平)。同音は下記の通り。

初出 声調 備考
レン はすのみ 前漢隷書
つらなる 春秋末期金文
不明
さざなみ 説文解字
てぐるま 甲骨文
礼器の名 後漢隷書 →語釈

漢語多功能字庫

金文從「」從「」,「」旁反寫。「」象人腳,會人拉車行走之意(參段玉裁)。


金文は「車」と「辵」の字形の系統に属する。ただし「辵」部分が左右反転している。「止」は人の足を象形し、人が車を引っ張って進む意。(段玉裁の注を参照)。

学研漢和大字典

会意。「車+辵(すすむ)」で、いくつも車がつらなって進むことを示す。聯(レン)と同じ。輦(レン)(行列をなす車かご)・漣(レン)(つらなる波)と同系。列は、連の語尾がtに転じたことば。「聯」の代用字としても使う。「連・連合・連想・連珠・連邦・連盟・連絡・連立」▽草書体をひらがな「れ」として使うこともある。▽「つらなる」「つらねる」「つらなり」「つらね」は「列なる」「列ねる」「列なり」「列ね」とも書く。また、「印刷用紙を数える単位」の「連」は「嗹」とも書く。

語義

  1. {動詞・形容詞}つらなる。つらねる(つらぬ)。くっついて並ぶ。また、列をなしてつなげる。つながったさま。《同義語》⇒聯。「連続」「連珠(レンジュ)」「合従連衡(ガッショウレンコウ)(南北をあわせた同盟と東西をつらねた同盟)」「連諸侯者次之=諸侯を連ぬる者はこれに次ぐ」〔孟子・離上〕
  2. {動詞}ずるずるとつながる。転じて、かかりあいになる。《同義語》⇒聯。「連累(かかりあい)」「連及」。
  3. {動詞}つれる(つる)。ぞろぞろと同行者を伴う。引きつれる。「連行」。
  4. {単位詞}つらなった物を数えることば。
  5. {名詞}近代中国で、軍隊の中隊のこと。▽「営」は大隊、「団」は連隊。
  6. 《日本語での特別な意味》
    ①つれ。なかま。「常連」「連中」「道連れ」。
    ②むらじ。八姓の一つ。天武天皇の時代に制定された八色(ヤクサ)の姓(カバネ)の七番め。
    ③「連邦」「連合」「連盟」の略。「国連」「ソ連」。
    ④れん。全判の用紙を数える単位。詳紙は一〇〇〇枚、板紙は一〇〇枚。

字通

[会意]車+辵(ちやく)。車は輦(れん)、背に負うて荷を運ぶのに用いる。「おいこ」の類である。〔説文〕二下に「員連(ゑんれん)なり」とあり、〔段注〕に負車の意とし、「人、車を輓(ひ)いて行くに、車は後に在りて負ふが如きなり」とするが、負とは負担することをいう。〔玉篇〕に「摙(れん)は運ぶなり」、〔広韻〕に「摙は擔(にな)ひて物を運ぶなり」という。〔詩、小雅、黍苗〕「我が任、我が輦」とは、負連をいう。〔詩、大雅、生民〕に「是れ任、是れ負」とあるのも同じ。〔淮南子、人間訓〕「粟を負輦して至る」のように、畚梮(ほんきよく)の類をいう。山行のときなどに、物を運ぶのに用いる木器である。連属の意は聯と通用の義であるらしく、字の本義ではない。

廉(レン・13画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰi̯am(平)。同音は次の通り。『大漢和辞典』で音レン訓かどに「隒」があるが、初出は後漢の説文解字。論語時代の置換候補は無い。

初出 声調 備考
かうじ 不明
かたはら 秦系戦国文字
かま 説文解字
はさむ 説文解字
くびかせ 前漢隷書
はさむ 戦国金文

学研漢和大字典

会意兼形声。兼は「禾二本+手のかたち」の会意文字で、別々の物をかねまとめて持つこと。廉は「广(いえ)+(音符)兼」で、家の中に寄せあわせた物の一つ一つを区別する意を示す。転じて、物事のけじめをつけること。

語義

  1. {名詞}かど。一つ一つの境め。「堂廉(ドウレン)(建物の境め)」。
  2. {名詞}かど。物事のけじめ・折りめ。「廉隅(レングウ)(けじめ)」。
  3. {形容詞}いさぎよい(いさぎよし)。善悪のけじめがたっているさま。欲につられてけじめを失わないさま。《類義語》潔。「廉潔(レンケツ)」「豈不誠廉士哉=あに誠の廉士ならずや」〔孟子・滕下〕
  4. {形容詞}やすい(やすし)。けじめをたてて暴利をおさえたさま。欲ばらないさま。「廉価」。
  5. 「廉訪使(レンポウシ)」とは、行政を監察してけじめをつける役目。元(ゲン)代、粛政廉訪司の長官。
  6. 「養廉銀(ヨウレンギン)」とは、官兵に不正を行わせないように待遇を改善する加俸のこと。清(シン)代、地方官に支給された。
  7. 《日本語での特別な意味》かど。
    ①箇条。
    ②理由。「窃盗の廉により処罰」。

字通

[形声]声符は兼(けん)。兼は見母(けんぼ)。見母の字に各(かく)(洛(らく))・監(かん)(濫(らん))など、來(来)母(らいぼ)の声に転じ、声符を共有する例が多い。〔説文〕九下に「仄(かたむ)くなり」とあって、傾仄(けいそく)・偪仄(ひよくそく)の意とする。一方に偏することから廉隅の意となり、一偏を守ることから廉直の意となる。その義に、また濂(れん)を用いることがある。

※見母:伝統中国で多用された音の表記法に反切があり、見母は見の子音と母の母音を組み合わせた音の表記。来母も同様。/傾仄:横に傾く。/偪仄:迫って傾く。

璉(レン・15画)

璉 隷書
曹全碑陰・後漢隷書

初出:初出は後漢の隷書。『説文解字』には見られない。

字形:「王」”たま”+「連」で、「連」は音符。玉で作った器を指す。

音:カールグレン上古音はli̯an(上)。同音は蓮、連、聮(=連)、漣”さざなみ・つらなる”、輦”てぐるま”。同音一覧は論語語釈「連」を参照。

璉 金文
「󱥐」弭仲簠・西周末期

用例:上掲西周末期の「弭仲簠」(集成4627)に「弭仲乍寶󱥐」とあり、「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では「󱥐」を「璉」と釈文している。だがその字形は「璉」と似ても似付かない。

論語に次ぐ文献上の再出は、『史記』弟子伝に見える論語公冶長篇3の再録。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

『大漢和辞典』は「通じて連に作る」と記すが、「連」の初出は春秋末期で、いずれの出土例も祭器を意味しない。

学研漢和大字典

形声。「玉+(音符)連」。

語義

  1. {名詞}祭りなどに用いる器。きびと、あわを盛って宗廟(ソウビョウ)に供える。木でつくるのが例だが、玉へんをそえるのは、貴重なものである意をあらわすため。「瑚茂(コレン)」。

字通

(条目無し)

中日大字典

【古】宗廟で用いられた穀物を盛る器.
〔瑚hú琏〕同前.

斂(レン・17画)

斂 金文
中山王昔壺・戦国末期

初出:初出は戦国末期の金文

字形:金文の字形はA字形”屋根”+両手にものを携えた「兄」2つ++「曰」+「攴」”打つ”で、主だった者たちから強制的に徴税し記帳するさま。楚系戦国文字では携えたものを欠き、秦系戦国文字から「曰」が取れる。原義は”徴税する”。

音:カールグレン上古音はgli̯am(上/去)。同音は「僉」を部品とする漢字群、「蘞」”草の名”、「獫」”口の長い犬”。

用例:戦国末期「中山王壺」(集成9735)に「□(作)斂中則庶民□(附)」とあり、”徴税する”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で同音同訓に「殮」(初出不明)、「䜌」(初出西周末期金文)。「䜌」に”おさめる”の用例は春秋時代以前に確認できない。

下掲『学研漢和大字典』は部品の「僉」kʰsi̯am(平)を置換候補とするが、初出が戦国早期で、しかも「金+僉」で”つるぎ”の字形。会意・形声文字としての文字があるなら、部品の僉は更に古いだろう、という仮定が正しくなければ、論語時代の置換候補にならない。

学研漢和大字典

会意兼形声。僉(セン)・(ケン)は、多くの物をつぼに寄せあつめたさまを描いた象形文字。のち「集めるしるし+二つの口+二人の人」の会意文字で示し、寄せあつめることを示す。のち、「みな」の意の副詞に転用された。斂は「攴(動詞の記号)+(音符)僉」で、引き絞ってあつめること。簾(レン)(引き寄せて片方にあつめるすだれ)・檢(=検。あつめて調べる)などと同系。類義語の収は、一か所にまとめること。聚は、引き縮めてあつめること。集は、多くの物を寄せあつめること。

語義

  1. {動詞}あつめる(あつむ)。絞るようにしてあつめる。多くの物をひと所に寄せあつめる。《類義語》聚(シュウ)・収。「収斂(絞ってあつめる、引きしめる)」「秋、省斂而助不給=秋には、省斂して不給を助く」〔孟子・梁下〕
  2. {動詞}おさめる(をさむ)。おさまる(をさまる)。たるんだものを引きしめる。また、散在したものがまとまる。「斂容=容を斂む」「斂眉=眉を斂む」「閉門自斂=門を閉ぢて自ら斂む」〔漢書・陳咸〕
  3. (レンス){動詞}死体を棺の中におさめる。▽闘(レン)に当てた用法。「斂不憑其棺=斂するに其の棺に憑らず」〔韓愈・祭十二郎文〕
  4. {動詞}しまる。発散せずに引きしまる。また、縮んで小さくなる。「収斂作用」「酸斂(サンレン)(酸性で、引きしめる薬のこと)」。

字通

[会意]僉(せん)+攴(ぼく)。僉は二人並んで祝禱する形。おそらく斂葬するときの儀礼であろう。死者に葬衣を被(き)せることを殮といい、棺に収めることを斂という。〔説文〕三下に「收むるなり」、〔釈名、釈喪制〕に「尸(し)に衣(き)せて棺するを斂と曰ふ」とみえる。そのとき遺愛のものを収斂し、副葬とする。すべて整えて収める意で、手を斂む、袂(たもと)を斂むなどは、その拡大用法である。賦斂誅求のように用いるのは、字の初義ではない。

論語語釈
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