下(カ・3画)
甲骨文/長囟盉・西周中期
初出:初出は甲骨文。
字形:「一」”基準線”+「﹅」で、下に在ることを示す指事文字。原義は”した”。
音:「ゲ」は呉音。カールグレン上古音はgʰɔ(上/去)。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で、金文では地名に(長囟盉・西周中期)、戦国の金文では官職名に(卅五年鼎)用いた。
学研漢和大字典
指事。おおいの下にものがあることを示す。した、したになるの意をあらわす。上の字の反対の形。家(カ)(屋根をおおって下のものを隠す)・仮(カ)(仮面でおおって下のものを隠す)などと同系。類義語に降。異字同訓に提げる「手に提げる。手提げかばん」 もと 下「法の下に平等。一撃の下に倒した」 元「火の元。出版元。元が掛かる」 本「本を正す。本と末」 基「資料を基にする。基づく」 おりる・おろす。付表では、「下手」を「へた」と読む。
語義
- {名詞・形容詞}した。しも。位置・場所・順序・品性・価値などがひくいほう。物・物事の流れの末のほう。また、物・物事の流れの末のほうであるさま。《対語》⇒上。「下流」「下位」。
- {名詞}しも。目下の人。また、身分のひくい人。《対語》⇒上。「下人」「下剋上(ゲコクジョウ)(=下克上)」。
- {名詞}しも。順序の後ろのほう。《対語》⇒上・前。《類義語》後。「下巻」。
- {名詞・形容詞}ひくい(ひくし)。「猶水之就下也=なほ水の下きに就くがごとし」〔孟子・告上〕
- {動詞}さげる(さぐ)。さがる。《対語》上。「低下」。
- {動詞}くだる。《対語》上・登。「下山」「下楼=楼を下る」。
- {動詞}くだる。へりくだる。《対語》上・尊。「卑下」「大国以下小国=大国以て小国に下る」〔老子・六一〕
- {動詞}くだす。命令などを申しわたす。「下命=命を下す」。
- {動詞}くだす。実際にそのことを行う。「下筆=筆を下す」。
- {助辞}管理をうける所の意をあらわすことば。…のあたり。「城下」「管下」。
- {助辞}とうとい人を直接ささずに、その人のいる所をさしてその人を呼ぶ敬語。「殿下」。
- {形容詞}《俗語》つぎの。「下次(このつぎ)」「下月(つぎの月)」。
- 《日本語での特別な意味》あらかじめすること。「下調べ」。
字通
[指事]掌をふせて、その下に点を加え、下方を指示する。〔説文〕一上に「底なり」とするが、掌の上下によって、上下の関係を示す。
火(カ・4画)
(甲骨文)
初出は甲骨文。金文は未発掘。カールグレン上古音はxwɑr(上)。
学研漢和大字典
象形。火が燃えるさまを描いたもの。もと毀(キ)(形がなくなる)・燬(やけてなくなる)などと同系。無声のmがhにかわってhuaとなった。類義語の炎(エン)と焔(エン)は、強くもえるほのお。異字同訓に 火「火が燃える。火に掛ける。火を見るより明らか」 灯「灯がともる。遠くに町の灯が見える」。
語義
- {名詞}ひ。物を燃やして光や熱を発するひ。「灯火」「火正(火の守り本尊、祝融(シュクユウ)のこと)」「民非水火、不生活=民は水火に非ずんば、生活せず」〔孟子・尽上〕
- {名詞}ひ。火事。「失火」「大火」「火三月不滅=火三月滅せず」〔史記・項羽〕
- {名詞}五行の一つ。色では赤、方角では南、季節では夏、十干(ジッカン)では丙(ヘイ)(ひのえ)と丁(テイ)(ひのと)、五音では徴(チ)に当てる。
- {名詞}火星。
- {名詞}星の名。大火(商星・心宿)ともいい、さそり座のアルファ星のこと。夏空の代表である。「七月流火=七月に火流る」〔詩経・漿風・七月〕
- {名詞}火のような怒り。かんしゃく。「怒火」「動火」。
- {形容詞}火で焼いたり煮たりすることをあらわすことば。「火食」。
- {形容詞}火がついたようにさしせまったさま。「火急」「火速」。
- {名詞}昔の軍隊で、十人一組の呼び名。また、同じ釜(カマ)で煮たきして食事したので、仲間のこと。「火伴(カハン)(=夥伴。仲間)」。
- 《日本語での特別な意味》か(くゎ)。七曜の一つ。「火曜日」の略。
字通
[象形]〔説文〕十上に「燬(や)くなり。~象形」とあり、火の燃える形。また「南方の行なり」とあり、五行思想によって、火は南方に配当される。
戈(カ・4画)
豦簋・西周中期
初出は甲骨文。カールグレン上古音はkwɑ(平)。同音は「過」のみ。論語語釈「過」を参照。
学研漢和大字典
象形。とび口型の刃に縦に柄をつけた古代のほこを描いたもので、かぎ型にえぐれて、敵を引っかけるのに用いる武器のこと。のち、古代の作り方と全く違った、ふたまたのやりをも戈と称する。夬(カイ)(えぐれる)・抉(ケツ)(えぐる)・専(ケツ)(引っかける)と同系。類義語に戟。「ほこ」は「矛」とも書く。
語義
- {名詞}ほこ。武器の名。▽両刃のある身の部分に直角に長い柄をつけ、敵をひっかけた。全体がとび口のような形で、柄の先にも後ろにも敵を突き刺す刺(シ)がない。「倒戈=戈を倒す」。
- 「干戈(カンカ)」とは、たて(杆)とほこの意から転じて、戦争のこと。「謀動干戈於邦内=干戈を邦内に動かさんことを謀る」〔論語・季氏〕
字通
[象形]戈の形に象る。〔説文〕十二下に「平頭の戟なり」という。金文の図象に、呪飾の綏(すい)を加えるものが多く、修祓の呪器としても用いた。
化(カ・4画)
合5441/化鼎・殷代末期/中子化盤・春秋
初出:初出は甲骨文。
字形:線対称に配置された2つの「人」。代わる代わる人が現れる様。また代わる代わる同じ作用を人に施すさま。
音:カールグレン上古音はxwa(去)。同音は存在しない。
用例:甲骨文では「化」として多く見られる。語義は明瞭でない。
西周中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0724に「□(察)化䛩(惡)□(臧)」とあり、”かわるがわる”と解せる。
学研漢和大字典
金文の左は倒れた人、右は座った人。篆文(テンブン)の左は正常にたった人、右は、妙なポーズに体位をかえた人。いずれも両者をあわせて、姿をかえることを示した会意文字。譌(カ)(なまる、姿をかえたことば)・偽(いつわり)・貨(品物に姿をかえる通貨)などと同系。類義語に代。
語義
- (カス)(クワス){動詞}かわる(かはる)。姿をかえてもとと違った形になる。「変化」「孵化(フカ)(卵が姿をかえてひなになる)」「青血化為原上草=青血化して原上の草と為る」〔曾鞏・虞美人草〕
- {名詞}天地自然の変化。「造化」「是天地之変、陰陽之化、物之罕至者也=是れ天地之変、陰陽之化、物之罕に至る者也」〔荀子・天論〕
- (カス)(クワス){動詞}人格や教育によって、接する人の心や生活ぶりをかえる。「感化」「徳化」「海内大化=海内大いに化す」〔漢書・貢禹〕。「夫君子所過者化=それ君子の過る所の者は化す」〔孟子・尽上〕
- (カス)(クワス){動詞}ばける(ばく)。姿を妙な形にかえる。▽漢文では、「ばく」という訓は用いない。「此非人類、是妖狐化之=此れ人の類に非ず、是れ妖狐これに化せしなり」〔捜神記〕
- 《日本語での特別な意味》「化学」の略。「化繊」「理化」。
字通
[会意]人+𠤎(か)。〔説文〕八上に「敎へ行はるるなり~𠤎は亦(えき)聲なり」と、教化の意とするが、字は死人の倒錯している形。𠤎がその初文。生死によって、ものの化することをいう。
※「𠤎」の初出は後漢の『説文解字』で、「初文」ではない。
可(カ・5画)
甲骨文/師𠭰簋・西周晚期
初出:初出は甲骨文。
字形:字形は下掲『学研漢和大字典』の言う通り、「口」+「屈曲したかぎ型」と解すべきで、”やっとものを言う”こと。「漢語多功能字庫」は「口」+「丂」だというが、「丂」に比定されている甲骨文の字形は異なる。
音:カールグレン上古音はkʰɑ(上)。
用例:「甲骨文合集」2267.1に「惟可用于宗父甲王受祐」とあり、”できる”と解せる。
西周末期「師𠭰𣪕」(集成4324)に「女可事。」とあり、”すべきだ”と解せる。
春秋末期「庚壺」(集成3733)に「不可多也?」とあり、”してもよい”または”…するのがよい”と解せる。
「漢語多功能字庫」によると、甲骨文で”できる”の意と地名を意味したが、”もし”の意は、戦国時代の「中山王壺」にまで下るという。また戦国の秦系竹簡では、「可」の字で「何」を表したという。
備考:積極的に褒める意味はない。日本古語の「よろし」に相当する。
漢語「可」 | 日本古語「べし」 |
〔推量〕…にちがいない。きっと…だろう。(当然)…しそうだ。 | |
〔意志〕(必ず)…しよう。…するつもりだ。…してやろう。 | |
〔可能〕…できる。 | 〔可能〕…できる。…できそうだ。…できるはずだ。 |
〔勧誘〕…(する)のがよい。 | 〔適当・勧誘〕…(する)のがよい。…(する)のが適当である。…(する)のがふさわしい。 |
〔当然〕…すべきだ。 | 〔当然・義務・予定〕…するはずだ。当然…すべきだ。…しなければならない。…することになっている。 |
〔命令〕…せよ。 | |
〔認定・認可・評価〕…にあたいする。…してもよい。 |
学研漢和大字典
会意文字で、「屈曲したかぎ型+口」。訶(カ)や呵(カ)の原字で、のどを屈曲させ声をかすらせること。屈曲を経てやっと声を出す意から、転じて、さまざまの曲折を経てどうにか認める意に用いる。
河(┓型に曲がる黄河)・荷(┓型に物をになう)・何(のどをかすらせて誰何(スイカ)する)・喝(カツ)(のどをかすらせる)と同系のことば。
語義
- (カナリ){形容詞}よろしい。さしつかえないさま。《対語》⇒否。「可否」「子曰可也=子曰はく可也と」〔論語・雍也〕
- (カトス){動詞}きく。…してよろしいと認める。「可之=これを可とす」「大夫辞之、不可=大夫これを辞ふも、きかず」〔国語・晋〕
- {助動詞}べし。→語法「①-1.」。
- {助動詞}べし。→語法「①-2.」。
- {助動詞}べし。→語法「①-3.」。
- {助動詞}べし。その気持ちをおこすに値する意を示すことば。「可哀=哀しむべし」「可憐=憐れむべし」「可惜=惜しむべし」。
- {副詞}ばかり。→語法「⑥」
語法
①「~べし」とよみ、
- 「~できる」と訳す。可能の意を示す。「三軍可奪帥也、匹夫不可奪志也=三軍も帥を奪ふ可きなり、匹夫も志を奪ふ可からざるなり」〈大軍でもその総大将を奪い取ることはできるが、一人の男でもその志を奪い取ることはできない〉〔論語・子罕〕▽「可・不可」は、客観的に状況・道理による判断を示す。「能・不能」は、「可・不可」より主観的に、自身の本来的・生理的な能力・資格による判断を示す。「得・不得」は、機会・条件による判断を示す。
- 「~するのがよい」「~すべきだ」と訳す。当然・勧誘の意を示す。「皆曰、紂可伐矣=皆曰く、紂伐つ可しと」〈皆、紂は討つべきであると言った〉〔十八史略・周〕
- 「~にあたいする」「~してもよい」と訳す。認定・認可・評価の意を示す。「雍也可使南面=雍や南面せ使む可し」〈雍は南面させてもよい〉〔論語・雍也〕
②「可~乎」は、「~すべきか」「~すべけんや」とよみ、「~できようか(いやできない)」と訳す。反語の意を示す。「以臣弑君、可謂仁乎=臣をもって君を弑(しい)す、仁と謂ふ可けんや」〈臣下の身でありながら主君をあやめるとは、仁と申せましょうか〉〔史記・伯夷〕
③「~可以…」は、「~もって…すべし」とよみ、
- 「~によって(なので)…できる」と訳す。可能の意を示す。「地方百里而可以王=地方百里ならばもって王たる可し」〈百里四方の小国であっても、天下の王となることができます〉〔孟子・梁上〕
- 「~によって(なので)…してよい」と訳す。許容の意を示す。「中人以上、可以語上也=中人以上には、もって上を語る可きなり」〈中以上の人に上のことを話してもよい〉〔論語・雍也〕
- 「~によって(なので)…すべきだ」と訳す。当然の意を示す。「士不可以不弘毅=士はもって弘毅(こうき)ならざる可からず」〈士人はおおらかで強くなければならない〉〔論語・泰伯〕
- 「~によって(なので)…であろう」と訳す。推定の意を示す。「君子博学於文、約之以礼、亦可以弗畔矣夫=君子博(ひろ)く文を学びて、これを約するに礼をもってせば、またもって畔(そむ)かざる可し」〈君子はひろく書物を読んで、それを礼(の実践)でひきしめていくなら、道にそむかないでおれるだろうね〉〔論語・雍也〕
- 「~によって(なので)…にあたいする」と訳す。認定・認可・評価の意を示す。「文之以礼楽、亦可以為成人矣=これを文(かざ)るに礼楽をもってせば、またもって成人と為す可し」〈礼儀と雅楽とで飾り付けるなら、完成された人といえるだろう〉〔論語・憲問〕
④「不可~」は、「~べからず」とよみ、
- 「~できない」と訳す。不可能の意を示す。▽「可」の否定形。「百工之事、固不可耕且為也=百工の事は、固(もと)より耕しかつ為す可からざればなり」〈もろもろの職人の仕事は、もちろん耕作をしながらできるものではない〉〔孟子・滕上〕
- 「~してはいけない」と訳す。禁止の意を示す。「此誠不可与争鋒=これ誠に与(とも)に鋒を争ふ可からず」〈なんとしても、武力で争いあってはいけない〉〔蜀志・諸葛亮〕
⑤「不可不~」は、「~ざるべからず」とよみ、「~しないわけにはいかない」「~しなければならない」と訳す。二重否定。不確かな断定、あるいは強い肯定の意を示す。「故諫説談論之士、不可不察愛憎之主、而後説焉=故に諫説(かんせつ)談論の士は、愛憎の主を察して、而(しか)る後に説かざる可からず」〈だから、君主に諫言をしたり議論をしたりしようとする者は、自分は君主から愛されているのか憎まれているのかを、見極めて進言をしなければならない〉〔韓非子・説難〕
⑥「ばかり」とよみ、「(まあ)~ぐらい」と訳す。時間・空間・数量などのおおよその範囲や程度の意を示す。「壮騎可数百、直冒漢囲西北馳去=壮騎数百可(ばか)り、直(ただ)ちに漢の囲みを冒(おか)し西北に馳せ去る」〈勇壮な騎馬数百ばかりと、まっすぐ漢の囲みを突破して西北方に馳せ去った〉〔史記・衛将軍驃騎〕
字通
[会意]口+丁(か)。〔説文〕五上に「𦘫(うべな)(肯)ふなり」とあり、〔爾雅、釈言〕に「𦘫は可なり」とあるのと互訓。𦘫・可は双声の訓であるが、𦘫(肯)は肯綮(こうけい)の象、可は祝禱に関する字である。口は𠙵(さい)、祝禱を収める器の形。丁は木の枝で、のちの柯にあたる。柯を以て祝禱の器を殴(う)ち、神に呵してその祝禱の承認を認める意で、神が許可する意となる。
加(カ・5画)
加作父戊爵・西周早期/蔡公子加戈・春秋末期
初出:初出は西周早期の金文。
字形:「又」”右手”+「𠙵」”くち”。人が手を加えること。原義は”働きかける”。
音:カールグレン上古音はka(平)。同音は論語語釈「嘉」を参照。
用例:西周の金文では「嘉」と釈文する例がある。それ以外の春秋末期までの用例は、全て人名の一部と解せる。
「漢語多功能字庫」によると、金文では人名のほか、「嘉」”誉める”(虢季子白盤・西周末期)の意に用いた。
学研漢和大字典
会意。「力+口」。手に口を添えて勢いを助ける意を示す。架(支柱の上にのせた横木)・駕(ガ)(馬の背に車の轅(ナガエ)をのせる)と同系。仮(仮面をかぶる)・蓋(ガイ)(ふたをのせる)とも縁が近い。類義語に増。草書体をひらがな「か」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「か」ができ、偏からカタカナの「カ」ができた。▽「加奈陀(カナダ)」の略。
語義
- {動詞}くわえる(くはふ)。くわわる(くははる)。その上にプラスする。《対語》⇒減・損。「増加」「加我数年=我に数年を加ふ」〔論語・述而〕
- {動詞}くわえる(くはふ)。上にのせる。つぎたす。「加冠=冠を加ふ」「加樹肩上=樹肩を上に加ふ」〔史記・項羽〕
- {動詞}くわえる(くはふ)。あるものにある影響を与える。「加害」「彊秦之所四以不敢加兵於趙者=彊秦(きゃうしん)の敢(あ)へて兵を趙(てう)に加へざるゆゑんの者は」〔史記・廉頗藺相如〕
- {動詞}くわえる(くはふ)。程度が増す。「加親=親を加ふ」「有愛於主則智当而加親=主に愛有れば則ち智当たりて親を加ふ」〔韓非子・説難〕
- {副詞}くわうるに(くはふるに)。その上にくわえて。「加以老母壓保宮=加ふるに老母の保宮に壓(つな)がるるをもつてす」〔漢書・蘇武〕
- 《日本語での特別な意味》
①「加賀(カガ)」の略。「加州」。
②「加奈陀(カナダ)」の略。カナダのこと。「日加漁業交渉」。
③「カリフォルニア」の略。「加州」。
字通
[会意]力+口。力は耜(すき)の象形。口は𠙵(さい)、祝禱を収める器の形。〔説文〕十三下に「語、相ひ增加するなり」と語を加える意とするが、耜を清めて、その生産力の増加を祈る儀礼を示す字であろう。鼓声を加えた字は、嘉。靜(静)も力(耜)を清める儀礼で、その収穫を以て神を祀(まつ)るとき、「籩豆(へんとう)靜嘉」という。のちすべて、附加し、増加することをいう。
瓜(カ・6画)
令狐君嗣子壺・戦国早期
初出:初出は戦国早期の金文。
字形:つるに瓜がみのったさま。初出の字形は「狐」と釈文されている。論語語釈「狐」を参照。
慶大蔵論語疏は異体字「〔艹𧘇〕」と記す。「唐建陵縣令席泰墓誌」刻。
音:カールグレン上古音はkwɔ(平)。同音は「寡」のみ。
用例:戦国時代「上海博物館蔵戦国楚竹簡」孔子詩論18に「因〈木苽(瓜)〉之保(報),㠯(以)俞(喻)丌(其)□(婉)者也。」とあり、それ以前に「瓜」の字があったことを示す。
戦国文字・戦国金文で、「瓜」単独で”うり”を示すと解せる漢字は無い。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓で、部品として「瓜」を含まないものに「陏」(初出不明)。
学研漢和大字典
象形。つるの間にまるいうりがなっている姿を描いたもので、まるくて中がくぼんでいる意を含む。弧(まるくくぼんだ弓の弧線)・冰(ワ)(まるくくぼむ)・壺(コ)(まるいつぼ)と同系。また瓠(コ)Ouag・Ouo(まるくて中のくぼんだ大ひょうたん)は瓜とほとんど同じことば。似た字(瓜・爪)の覚え方「うり(瓜)につめあり、つめ(爪)につめなし」。
語義
- {名詞}うり。まるくて、割れば中がくぼんでいるうり。《類義語》瓠(コ)。
字通
[象形]瓜の実の形。〔説文〕七下に「㼌(ゆ)なり。象形」、また艸部の蓏(ら)に「木に在るを果と曰ひ、地に在るを蓏と曰ふ」とあり、みなその形をとる。
何(カ・7画)
甲骨文/𣄰尊・西周早期
初出:初出は甲骨文。
字形:字形は「人」+”天秤棒と荷物”または”農具のスキ”で、原義は”になう”。
「何」甲骨文2/「方」甲骨文
甲骨文の字形には、「方」の甲骨文や金文と酷似したものがあり、古文字学者がどのように比定しているのか不審。ただし「何」は明らかに担いでいる姿と分かるか、天秤棒を「人」字形の分岐と合わせているのに対し、「方」の甲骨文は横棒が分岐より上にある場合が多い。あるいは「人」形の頭に一画横棒を引いており、「人」ではない可能性があって、「刀」と解する説が有力。論語語釈「方」を参照。
慶大蔵論語疏では「〔亻巳丁〕」と記す。「何」の「口」を「巳」に置き換えた字形。未詳だがおそらく「何」の異体字。
音:カールグレン上古音はgʰɑ(平/上)。
用例:甲骨文では貞人(占い師)の名として見える。春秋末期までの金文の用例は多くないが、その全てが人名と思われる。
「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では人名に用いられたが、”なに”のような疑問辞での用法は、戦国時代の竹簡まで時代が下るという。
学研漢和大字典
象形。人が肩に荷をかつぐさまを描いたもので、後世の負荷の荷(になう)の原字。しかし普通は、一喝(イッカツ)するの喝と同系のことばに当て、のどをかすらせてはあっとどなって、いく人を押し止めるの意に用いる。「誰何(スイカ)する」という用例が原義に近い。転じて、広く相手に尋問することばとなった。類義語の胡(コ)(なんぞ)・害(なんぞ)・奚(ケイ)(なんぞ)なども、はあっというこの問いの語気をあらわすこともあるが、何とまったく同じ。
語義
- {疑問詞}なに。→語法「①②」。
- {形容詞}なにの。なんの。→語法「⑥」。
- {副詞}なんぞ。→語法「⑩」。
- {疑問詞}いずれ(いづれ)。いずこ(いづこ)。→語法「⑨」。
- {副詞}なんぞ。→語法「⑫」。
- 疑問や反問の慣用句を組みたてることば。「何謂也(ナンノイイゾヤ)(どういうわけか)」「何必(ナンゾカナラズシモ)(どうして必要があろう)」「何須(ナンゾ…スルヲモチイン)(どうして必要があろう)」「何必曰利=何ぞ必ずしも利を曰はん」〔孟子・梁上〕。「紛紛軽薄、何須数=紛紛たる軽薄、何ぞ数ふるを須ゐん」〔杜甫・貧交行〕→語法「③⑤」。
- 「何者(ナントナレバ)」「何則(ナントナレバ)」とは、文頭に用いて理由の説明を引き出すことば。なぜならば。「何者積威約之勢也=何となれば威約の勢を積むなり」〔司馬遷・報任少卿書〕
- {副詞}なんぞ。→語法「⑪」。
- 「幾何(イクバク)」とは、数量・時間などを問う疑問のことば。どれぐらいの意。
- 「幾何(キカ)」とは、図形の性質やその関係を研究する数学。▽geometryの音訳から。
語釈
①「なに」「なんぞや」とよみ、「どの」「どのような」と訳す。人・物・事を問う疑問の意を示す。
②「なにをか」とよみ、「なにを~するのか(いやしない)」と訳す。疑問・反語の意を示す。直接の目的語となる。「大王来、何操=大王来るとき、何をか操(と)る」〈大王(劉邦)がおいでになるとき、何を手みやげにお持ちになりましたか〉〔史記・項羽〕
③「何以」は、「なにをもってか」「なにをもって」とよみ、
- 「なにによって」「どのように」と訳す。手段・方法を問う疑問の意を示す。「何以有羽翼=何をもって羽翼有るや」〈(囚われの身のあなたは)どのようにしてやってきたのか、羽や翼があったのか〉〔杜甫・夢李白其一〕
- 「なぜ」「どうして」と訳す。原因・理由を問う疑問の意を示す。「而子独何以為之報讐之深也=而(しこ)うして子独り何をもってかこれが為に讐を報ゆるの深きか」〈そなたはどうしてこうも、彼(智伯)のために仇を討とうとすることが執念深いのだ〉〔史記・刺客〕
- 「どうして~しようか」と訳す。反語の意を示す。「不敬、何以別乎=敬せずんば、何をもってか別(わか)たん」〈尊敬するのでなければどこに区別があろう〉〔論語・為政〕
④「何由」「何因」「何従」は、「なににより」とよみ、「なぜ」「どうして」と訳す。根拠・理由を問う疑問の意を示す。「何由知吾可也=何に由(よ)りて吾が可なるを知る」〈どうしてわたしにできることが分かるのか〉〔孟子・梁上〕
⑤「何為」は、
- 「なんすれぞ」「なんするぞ」とよみ、「どうして」「何のために」と訳す。目的や理由を問う疑問の意を示す。「何為其然也=何為(なんすれ)ぞそれ然らんか」〈どうしてそんなことがあろうか〉〔論語・雍也〕
- 「なんすれぞ~せん(や)」とよみ、「どうして~しようか(いやしない)」と訳す。反語の意を示す。▽「なんのために」とは慣用的によまない。「何為而不得=何為(なんすれ)ぞ得ざらんや」〈どうして(蝉を)捕りそこなったりするものか〉〔荘子・達生〕
⑥「なん」「なんの」「いずれの」とよみ、「どのような」「どの」「いつの」と訳す。名詞を修飾して疑問の意を示す。「是誠何心哉=これ誠に何の心ぞ」〈全くどういうつもりだったのか〉〔孟子・梁上〕
⑦「何~…」は、
- 「なんの~(ありて)か…する」とよみ、「どんな~があって…するのか」と訳す。疑問の意を示す。「相国何大罪、陛下壓之暴也=相国は何の大罪ありて、陛下これを壓(つな)ぐこと暴(にわ)かなる」〈相国(蕭何)にはいかなる大罪があって、陛下は急に彼を拘禁したのですか〉〔史記・蕭相国〕
- 「なんの~(ありて)か…せん」とよみ、「どんな~があって…しようか(いやしない)」と訳す。反語の意を示す。「我何面目見之=我何の面目ありてかこれを見ん」〈わたしはどんな面目があって、彼ら(江東の長老たち)に顔を合わせられるだろうか〉〔史記・項羽〕
⑧「有何~」は、
- 「なんの~かある」とよみ、「どんな~があるのか」と訳す。疑問の意を示す。「君有何疑焉=君何の疑ひか有る」〈殿はどのような疑いがおありですか〉〔史記・孟嘗君〕
- 「なんの~かあらん」とよみ、「どんな~があろうか(いやない)」と訳す。反語の意を示す。「君無勢則去、此固其理也、有何怨乎=君勢ひ無ければ則(すなは)ち去る、これ固(もと)よりその理なり、何の怨みか有らん」〈殿に権勢がなくなれば去るというのが世の道理、何を恨むことがありましょうか〉〔史記・廉頗藺相如〕▽「何~之有」は強調表現で、「なんの~かこれあらん」とよみ、「どんな~があろうか(いや何もない)」と訳す。「君子居之、何陋之有=君子ここに居らば、何の陋(まず)しきことかこれ有らん」〈君子がそこに住めば、何のむさくるしいことがあるものか〉〔論語・子罕〕
⑨「いずくに(か)~する・せん(や)」「いずれに~する・せん(や)」とよみ、「どこに~か」と訳す。場所を問う疑問・反語の意を示す。「雲横秦嶺家何在=雲は秦嶺(しんれい)に横たはりて家何(いづ)くにか在る」〈雲は秦嶺山脈にたなびき、私の家はどのあたりになるのだろう〉〔韓愈・左遷至藍関示姪孫湘〕
⑩「なんぞ」とよみ、「どうして~か」と訳す。人・物・事を問う疑問の意を示す。「夫子何哂由也=夫子なんぞ由を哂(わら)ふか」〈先生はなぜ由のことを笑われたのでしょう〉〔論語・先進〕
⑪「なんぞ~や」とよみ、「なんと~であることよ」「なんとまあ~であろう」と訳す。感嘆の意を示す。「是何楚人之多也=これなんぞ楚人の多きや」〈何と楚の人が多いことか〉〔史記・項羽〕
⑫「なんぞ~(ならんや)」とよみ、「どうして~であろうか(いや~ではない)」「どうして~しようか(いや~しない)」と訳す。反語の意を示す。「君子何患乎無兄弟也=君子はなんぞ兄弟無(な)きを患(うれ)へん」〈君子はどうして兄弟のないことなど気にかけることがあろう〉〔論語・顔淵〕
⑬「何遽」「何渠」は、「なんぞ~(ならんや)」「いずくんぞ~(ならんや)」とよみ、「どうして~であろうか(いや~ではない)」「どうして~しようか(いや~しない)」と訳す。反語の意を示す。「此何遽不為福乎=これ何遽(いずくん)ぞ福と為らざらん」〈このことがどうして福いとならぬことがあろう〉〔淮南子・人間〕
⑭「何如」「何若」は、
- 「いかん」とよみ、「どのようであろうか」「いかがであろうか」と訳す。様子や状態を問う疑問の意を示す。「以子之矛、陥子之楯何如=子の矛をもって、子の楯を陥さば何如(いかん)」〈あなたの矛であなたの楯を突き通したらどうなるか〉〔韓非子・難一〕
- 「いかなる~」とよみ、「どのような~」「どういった~」と訳す。性質や内容などを問う疑問の意を示す。「孔子何如人哉=孔子は何如(いか)なる人ぞ」〈孔子とはいったいどんな人物なのか〉〔史記・孔子〕
⑮「如何」「若何」「奈何」は、「いかんせん」「いかん」とよみ、「どのようにしようか(いやどうしようもない)」「いかにすればよいのか(いやいかんともしがたい)」と訳す。方法や処置を問う疑問・反語の意を示す。「如何此時恨=如何(いかん)せんこの時の恨み」〈いかにすればよいのか、この(旅の)時のつらい思いを〉〔陳子昂・晩次楽郷県〕
⑯「何其」は、「なんぞそれ」とよみ、「なんと~であることよ」「なんとまあ~であろう」と訳す。感嘆の意を示す。「賜、汝来何其晩也=賜よ、汝(なんぢ)の来たるなんぞそれ晩(おそ)きか」〈賜よ、おまえは来るのがどうしてそんなに遅かったのか〉〔史記・孔子〕
字通
[形声]声符は可(か)。〔説文〕八上に「擔(にな)ふなり」とあり、荷担する意。〔詩、商頌、玄鳥〕「百祿を是れ何(にな)ふ」、〔詩、商頌、長発〕「天の休(たまもの)を何(にな)ふ」とあり、古くは何をその義に用いた。卜文の字形は戈(ほこ)を荷(にな)うて呵する形に作り、呵・荷の初文。金文に■(无+可)に作る形があり、顧みて誰何(すいか)する形。のち、両字が混じてひとつとなったものであろう。
河(カ・8画)
鐵127.2・合14588/同簋・西周中期
初出:初出は甲骨文。
字形:甲骨文の字形には「人」が含まれており、その多くが首かせを付けられている。人をいけにえにして投げ込む大河のことで、具体的には洪水を繰り返す黄河を指す。
音:カールグレン上古音はɡʰɑ(平)。
用例:甲骨文合集326.1に「貞燎于河五牢沈十牛牢又羌十」とあり、「燎」”火あぶり”にしたあと「牢」”動物の生け贄”を川に投げ入れ、さらに奴隷の羌族を十人投げ入れようか、と占っている。”黄河”と解せる。
備考:華北文明圏では主流である黄河を「河」と呼び、華南文明圏では主流の長江を「江」kŭŋ(平)と呼んだ。黄河文明圏の産物である『論語』には「河」は出てきても、「江」はただの一字も出てこない。
学研漢和大字典
会意兼形声。原文字は「水の流れ+┓型」の会意文字で、直角に┓型に曲がったかわのこと。黄河は西北中国の高原に発し、たびたび直角に屈曲して、曲がり角で、水はかすれて激流となる。のち、「水+(音符)可」。可(のどの曲がりめでかすれ声を出す)・訶(カ)(かすれ声でどなる)・歌(屈曲したふしをつけてうたう)・渇(のどがかすれる)などと同系。類義語の川は、穿(セン)(うがつ)と同系で、低い所をうがつようにして通るかわ。江は、まっすぐ大陸をつらぬく長江(揚子江)。祐(ケン)は、細く曲がって貫流するみぞ。付表では、「河岸」を「かし」「河原」を「かわら」と読む。
語義
- {名詞}黄河のこと。「河水」。
- {名詞}かわ(かは)。大きなかわや、水路。特に中国北部の川。▽南部の川は江という。《類義語》川。「河川」「運河」。
- 「河漢(カカン)」とは、天の川のこと。
- 《日本語での特別な意味》「河内(カワチ)」の略。「河州」。
字通
[形声]声符は可(か)。卜文の字は柯枝の象に従う。金文は何の形に従い、可の声をとる字。河はそのはげしい流水の音を写した語であろう。
家(カ/コ・10画)
甲骨文/耳尊・西周早期
初出:初出は甲骨文。
字形:「宀」”屋根”+〔豕〕”ぶた”で、祭殿に生け贄を供えたさま。原義は”祭殿”。甲骨文には、〔豕〕が「犬」など他の家畜になっているものがある。
音:「ケ」は呉音。カールグレン上古音はkɔ(平)。”いえ”の意では「カ」と読み、女性への敬称の場合は「コ」と読む。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”祖先祭殿”・”家族”を意味し、金文では”王室”(大克鼎・西周末期)、”世帯”(麥尊・西周)、人名(弔家父簠・春秋早期)に用いられた。
学研漢和大字典
会意。「宀(やね)+豕(ぶた)」で、たいせつな家畜に屋根をかぶせたさま。廈(カ)(大屋根をかぶせたいえ)と最も近い。仮(仮面をかぶせる)・胡(コ)(上からかぶさってたれる肉)とも同系。類義語の房は、両わきのへや。舎は、からだをゆるめて休む所。宿は、からだを縮めてとまる所。屋は、上からたれるおおい・屋根。宅は、じっと定着する住居。室は、いきづまりの奥べや。宇は、大きな建物。宮は、いくむねもある大きな屋敷。異字同訓に屋。付表では、「母家」を「おもや」と読む。▽草書体をひらがな「か」として使うこともある。
語義
カ(平声)
- {名詞}いえ(いへ)。家族。また、その家族が住む住居。「家庭」「成家=家を成す」「在家無怨=家に在りても怨み無し」〔論語・顔淵〕
- {名詞}いえ(いへ)。うち。や。人の住む建物。「商家」「酒家(シュカ)(酒屋)」。
- {名詞}卿大夫(ケイタイフ)(貴族の官人)の領地。《対語》⇒国(諸侯の領地)。「国家」。
- {名詞}王朝をたてた王室。「漢家(カンカ)」。
- {動詞}いえす(いへす)。家「ま」を構えて住む。「遵従而家焉=遵従して而家す焉」〔韓愈・柳子厚墓誌銘〕
- {名詞}専門の学問・技術の流派。また、その流派に属する者。「諸子百家」「文学家」。
- {名詞}妻から、夫をさしていうことば。《対語》⇒室。「女子生而願為之有家=女子生まれてはこれが為に家有らんことを願ふ」〔孟子・滕下〕
- {名詞}いえがら。「名家」。
コ(平声)
- {名詞}女性に対する敬称。▽姑(コ)に当てた用法。「曹大家(ソウタイコ)(「漢書」を書いた班昭(ハンショウ)のこと。曹世叔の妻)」。
- 《日本語での特別な意味》(ケ)一氏族全体。姓氏の下に付けて用いる。「平家」。
字通
[会意]宀(べん)+豕(し)。〔説文〕七下に「居なり。宀に從ひ、豭(か)の省聲」とする。金文の字形は豕(■(豕+殳)殺(たくさつ)した犬牲)に従う形。犠牲を埋めて地鎮を行った建物の意。卜辞では「上甲の家」のように、その廟所の意に用いる。
夏(カ・10画)
甲骨文/秦公簋・春秋中期
初出:初出は甲骨文。
字形:甲骨文の字形は「日」”太陽”の下に目を見開いてひざまずく人「頁」で、おそらくは太陽神を祭る神殿に属する神官。
音:カールグレン上古音はɡʰɔ(上/去)。藤堂上古音はɦǎg(去/上)。
用例:春秋中期の「秦公鎛」(集成270)に「虩事䜌夏」とあり、「蛮夏におそれ事うる」と読め、”中華”と解せる。ただし「虩事」の解に自信が無い。
殷に先行する”夏王朝”としての初出は、殷周革命から約500年のちの春秋後期の「叔尸鐘」(殷周金文集成285)から。詳細は論語為政篇23余話を参照。
「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では占い師の名に用いられ、金文では人名のほか、”中華文明圏”を意味した(秦公簋・春秋中期)。また川の名に用いた(噩君啟舟節・戦国)。
学研漢和大字典
象形文字で、頭上に飾りをつけた大きな面をかぶり、足をずらせて舞う人を描いたもの。仮面をつけるシャーマン(みこ)の姿であろう。大きなおおいで下の物をカバーするとの意を含む。
転じて、大きいの意となり、大民族を意味し、また、草木が盛んに茂って大地をおおう季節をあらわす。仮(仮面をかぶる)・下(カ)(おおいをかぶる、そのした)・庫(屋根でおおう)と同系。また、廈(カ)(大きい家)・強(カ)(大きい)とも同系のことば。
意味〔一〕カ/ゲ
- {名詞}なつ。立夏から立秋までの間の約三か月。陰暦では、ほぼ四月・五月・六月、陽暦では、六月・七月・八月に当たる。▽孟夏(モウカ)・仲夏・季夏の三つにわけることがある。
- {形容詞}盛んなさま。大きくかぶるさま。《同義語》⇒強。「夏屋(大きな家)」。
- {名詞}夷(イ)に対して、漢民族が自分たちを盛んな文化を持つ大民族と自称したことば。中華の人々。「夏夷(カイ)」。
- {名詞}古代中国の王朝。禹(ウ)王にはじまり、桀(ケツ)王のとき、殷(イン)の湯(トウ)王に滅ぼされた。
- {名詞}五胡(ゴコ)十六国の一つ。東晋(トウシン)のとき、匈奴(キョウド)の赫連勃勃(カクレンボツボツ)が、今の内蒙古(モンゴル)自治区の一部と、陝西(センセイ)・甘粛(カンシュク)両省にわたる地域にたてた。三代で北魏(ホクギ)に滅ぼされた。四〇七~四三一。
- {名詞}国名。宋(ソウ)代はじめ、タングートの李元昊(リゲンコウ)がたてた国。西夏のこと。
意味〔二〕カ/ケ
- {名詞}学校で、生徒に体罰をあたえるむち。▽榎(カ)に当てた用法。「夏楚(カソ)」。
字通
舞冠をかぶり、儀容を整えて舞う人の姿。金文の字形は冠を着け、両袖を舞わし、足を高く前に上げる形に作り、廟前の舞容を示す。夏を中国の意に用いることは春秋期になって見え、また季節名に用いることも春秋期以後にその例が見える。
中日大字典
xià
Ⅰ 夏:ふつう〔夏天〕という.
〔初chū夏〕初夏.
〔夏夜yè〕夏の夜.
〔夏播bō〕夏の種まきをする.
Ⅱ
(1) 朝代名.夏后氏.中国最初の王朝とされる.夏后氏族の首領の〔禹yǔ〕が虞帝舜から受けて建てた朝代,紀元前2070年から前1600年,およそ17代440年.最後の桀が殷(商)に滅ぼされた.
(2) 中国の古名.
〔华huá夏〕同前.
(3) 〈姓〉夏(か)
jiǎ
【植】トウキササゲ:〔槚〕に同じ.
大漢和辞典
→リンク先を参照。
和(カ・8画)
史孔和・春秋末期
「国学大師」による初出は春秋末期の金文(『殷周金文集成』所収)。「小学堂」での初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音はɡʰwɑ(平/去)。「ワ」は呉音。
字形は「禾」”イネ科の植物”+「口」。「禾」ɡʰwɑ(平)は同音で音符。食糧が十分に行き渡ったさま。
春秋末期の金文「沇兒鎛」に「龢」として「用盤飲酉。龢𨗥百生。」とあり、「盤を用いて酒を飲み、百姓に龢み𨗥る」と読める。”親和”を意味するだろう。同時代の「𪒠鐘」に「龢平均𧧯,霝色若華」とあり、「平らかに和み光を均しくし、霝き色華の若し」と読める。”音律の調和”を意味するだろう。
「漢語多功能字庫」は戦国以降の用法を示すのみで得るところが少ない。
学研漢和大字典
会意兼形声。禾は粟(アワ)の穂のまるくしなやかにたれたさまを描いた象形文字。窩(カ)(まるい穴)とも縁が近く、かどだたない意を含む。和は「口+(音符)禾(カ)」。付表では、「大和」を「やまと」「日和」を「ひより」と読む。▽草書体をひらがな「わ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「わ」ができた。また、旁からカタカナの「ワ」ができたか。▽「なぎ」の意味では「凪」とも書く。
語義
- {名詞}やわらぎ(やはらぎ)。まるくまとまった状態。「平和」「調和」「和為貴=和を貴しと為す」〔論語・学而〕。「地利不如人和=地の利は人の和に如かず」〔孟子・公下〕
- (ワス){形容詞・動詞・名詞}いっしょに解けあったさま。また、成分の異なるものをうまく配合する。また、その状態。「和薬=薬を和す」「発而皆中節謂之和=発して皆節に中るこれを和と謂ふ」〔中庸〕
- (ワス){動詞・名詞}やわらぐ(やはらぐ)。なごむ。かどだたず、まるくおさまる。「和解」「講和=和を講ず」「亟割地為和=亟やかに地を割きて和を為す」〔史記・平原君〕
- {形容詞}なごやか(なごやかなり)。ゆったりとしてやわらいださま。「温和」「和気藹藹(ワキアイアイ)」。
- (ワス){動詞}声や調子をあわせる。▽去声に読む。「唱和」「美人和之=美人これに和す」〔史記・項羽〕
- {動詞・名詞}プラスする。加えた結果。「総和」。
- {名詞}車の軾(ショク)につける鈴。▽軛(ヤク)につける鈴を鸞(ラン)・鑾(ラン)という。「和鸞(カラン)」。
- {前置詞}分離しないで。…ごとの、の意味をあらわすことば。「和衣睡(着物を着たままねむる)」。
- {接続詞}《俗語》…と。《同義語》⇒与。「我和胃(ウオホウニイ)」。
- 《日本語での特別な意味》
①日本のこと。また、日本語のこと。▽倭(ワ)(背のまるく曲がった低い人)のかわりに、よい意味を持つ字を当てたもの。「和服」「和文英訳」。
②あえる(あふ)。野菜・魚介類などに酢・みそ・ごまなどをまぜあわせて調理する。
③なぎ。昼夜の境目に、風の向きが変わる間、海上の風や波がおだやかになる状態。
④外国語の「オ」の音に当てた字。「和蘭陀(オランダ)」。
字通
会意。禾+口。禾は軍門の象。口は𠙵、盟誓など、載書といわれる文書を収める器。軍門の前で盟約し、講和を行う意。和平を原義とする字である。〔説文〕二上に「相ひ應(こた)うるなり」(段注本)と相和する意とするが、その義の字は龢(わ)、龠(やく)(吹管)に従って、音の和することをいう。〔周礼、夏官、大司馬〕「旌を以て左右和(禾)の門と為す」の〔鄭注〕に「軍門を和と曰う。今、之れを壘門と謂う。兩旌を立てて以て之れを為す」とあって、のち旌を立てたが、もとは禾形の大きな標木を立てた。のち華表といわれるものの原形をなすもので、華表はのち聖所の門に用いられる。金文の図象に、左右に両禾相背く形のものがある。〔戦国策、魏三〕「乃ち西和門を開きて、~使を魏に通ず」、〔斉一〕「交和(かうくわ)して舍す」のようにいう。のち桓(かん)の字を用い、〔漢書、酷吏、尹賞伝〕「寺門の桓東に瘞む」の〔注〕に引く「如淳説」に、その制を説いて、「舊亭傳(駅)は四角の面百歩に、土を四方に築き、上に屋有り。屋上に柱の出づる有り。高さ丈餘。大板(版)有り、柱を貫きて四出す。名づけて桓表(くわんへう)と曰う。縣の治する所、兩邊を夾(はさ)みて各〻一桓あり。陳・宋の俗言に、桓の聲は和(くわ)の如し。今猶お之れを和表と謂う」とみえ、両禾軍門の遺制を伝えるものであろう。調和の意は、龢字の義であるが、いま和字をその義に用いる。
訓義
- やわらぐ、講和する、友好の関係となる、むつまじい、やすらか、たのしむ、なごむ。
- かなう、こたえる、あう、したがう。
- 声が合う、音がととのう、味がととのう、ひとしい、おなじ、あわせる。
- すず、和鈴。
- ひつぎ、棺頭のところ。
- 字はまた禾・桓に作る。
大漢和辞典
果(カ・8画)
甲骨文/果簋・西周中期
初出:初出は甲骨文。
字形:実った果実の象形で、上向きの所を見るといわゆるくだものではなく、木や草の実のたぐいか。原義は”み”。
音:カールグレン上古音はklwɑr(上)。
用例:甲骨文の用例は、欠字が多くて判読しがたいが、「于」の後にあることから、地名と思われる例が複数ある。また「果若」の例は験辞(実際どうなったか)として、”果たしてそうなった”のかも知れないが、験辞の通例は「允○」”実際に○だった”であり、験辞と断定できない。
殷代末期から春秋末期までの用例は、全て族徽(家紋)か人名で、”はたして”・”果断”の語義は確認できない。
「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では”果たして”の意、地名に用いた。金文では人名に用いた。
学研漢和大字典
象形。木の上にまるい実がなったさまを描いたもので、まるい木の実のこと。踝(カ)(まるいくるぶし)・顆(カ)(まるい頭、まるい)・几(カ)(まるい穴)などと同系。付表では、「果物」を「くだもの」と読む。
語義
- {名詞}くだもの。木の実。いまは広く植物の実のこと。「果実」「果樹」。
- {名詞}結果の果。成長したあげくに木の実がなるように、事がらが進んでしまったあとに生じるもの。「成果」。
- {名詞}因果の果。原因があって生じた結果。むくい。「果報」。
- (カナリ)(クワナリ){動詞・形容詞}物事の結末をつけるように思いきってする。思いきりがよい。「果敢」「由也果=由也果なり」〔論語・雍也〕
- {動詞}はたす。結果が出るところまでやりとげる。終わりまでやりとおす。
- {動詞}みたす。いっぱいにする。「果腹(腹をいっぱいにみたす)」。
- {副詞}はたして。→語法「①②」。
- 《日本語での特別な意味》
①はてる(はつ)。死ぬ。
②はてる(はつ)。はたす。なくなるまで、やってしまう。どうにもならない所までいってしまう。「困り果てる」「使い果たす」。
③はて。終わったあと。
語法
①「はたして」とよみ、「やっぱり(そのとおり)」と訳す。予想した結果を確認する意を示す。「人言、楚人沐猴而冠耳、果然=人言ふ、楚人は沐猴(もつこう)にして冠するのみと、果して然り」〈楚の人は冠をかぶった猿にすぎぬと誰かが言ったが、まったくだ〉〔史記・項羽〕
②「はたして」「もし」とよみ、「本当に~ならば」と訳す。仮定条件を強調する意を示す。反訓のひとつ。「天果積気、日月星宿不当墜邪=天果して積気ならば、日月星宿は当(まさ)に墜つべからざるや」〈天が気の集積だとすれば、太陽や月や星などは、絶対に落ちないのだろうか〉〔列子・天瑞〕
字通
[象形]木上に果実のある形。〔説文〕六上に「木実なり。木に従ひ、果の形の木上に在るに象る」とあり、全体を象形とする。
科(カ・9画)
蒼頡篇30(隸)・前漢
初出:初出は前漢の隷書。
字形:「禾」”イネ科の植物”+「斗」”ます”+「一」で、穀物の種類ごとに印を付けたはかり。原義は”種類”。
音:カールグレン上古音はkʰwɑ(平)。去声の音は不明。同音は薖(草の名・寛大なさま)のみで、『説文解字』が初出。
用例:論語八佾篇に次ぐ再出は、『孟子』「盈科」”穴を満たす”。『荘子』「科斗」”オタマジャクシ”。
論語時代の置換候補:部品の斗(tu上)は、容量・重量の単位であり、それを量る柄杓の意でもある。つまり”量・程度”の意味があり、論語時代の置換候補となる。
備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。
学研漢和大字典
会意。「禾(いね)+斗(ます)」で、作物をはかって等級をつけることを示す。すべて物事の等級を科という。あなやまるい頭の意は、窩(カ)(あな)・顆(カ)(まるい頭)に当てた用法。類義語の課は、分類してうけもつ仕事や学習。「とが」は「咎」とも書く。
語義
- {名詞}しな。しな定めをした分類。順序をつけた差別。等級。《類義語》程・類・品。「等科(品質分類)」「為力不同科=力を為すに科を同じくせず」〔論語・八飲〕
- {名詞}分類して配列した部門や条文。「文科」「稲科」。
- {名詞}とが。等級をつけた罪。「罪科」。
- {名詞}部門や段階をわけた試験。また、転じて、官吏の人材登用の試験。「甲子科(甲子の年の試験)」「登科(及第する)」「科挙」。
- (カス)(クワス){動詞・名詞}税や罪を区わけして割り当てる。また、その割り当て。「科役」「科罰」。
- {名詞}あな。まるいくぼみ。《類義語》窩(カ)(あな)。「盈科而後進=科を盈たして後に進む」〔孟子・離下〕
- {名詞}まるいもの。▽顆(カ)に当てた用法。
- {単位詞}草木を数える単位。《同義語》聴。
- {名詞}《俗語》しぐさ。芝居で俳優が行う動作。《対語》白(せりふ)。「科白(しぐさと、せりふ)」。
- 《日本語での特別な意味》とが。欠点。また、あやまち。
字通
[会意]禾(か)+斗(と)。〔説文〕七上に「程(はか)るなり」、また次条の程に「品なり」とあり、農作物の品定めをする意であろう。斗は量器で、禾穀を量り、その量・質を定める。
騧(カ・19画)
初出は説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkwa(平)。同音は以下の通り。
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
騧 | カ | くちさきの黒い黄馬 | 説文解字 | 平 | |
蝸 | 〃 | かたつむり | 説文解字 | 〃 | |
媧 | 〃 | 万物を化したという古の神女 | 説文解字 | 〃 | |
冎 | 〃 | わける | 甲骨文 | 上 |
漢語多功能字庫
(解字無し)
学研漢和大字典
形声。「馬+(音符)咼(カ)」。
語義
- {名詞}くちさきが黒くてからだの毛色が黄色い馬。
- {名詞}かたつむり。《同義語》⇒蝸。
字通
[形声]声符は咼(か)。〔説文〕十上に「黄馬黒喙なり」とあり、〔爾雅、釈畜〕には「白馬黒脣は駩(せん)なり。黒喙は騧なり」という。その〔注〕に「今、淺黄色なる者を以て騧馬と爲す」とみえる。
華(カ・10画)
命𣪕・西周早期/『字通』所収金文
初出:初出は西周早期の金文。
字形:満開に咲いた花を横から描いた象形で、原義は”花”。
慶大蔵論語疏は格内に「〔士廿一小〕」と記し、「華」と傍記する。未詳だが、傍記により「華」字と判断する。
音:カールグレン上古音はgʰwɔ(平/去)。平声の麻-暁の音は不明。
用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では地名・国名・氏族名・人名に用いた(邾公華鐘・春秋末期)。
論語では、孔子の弟子・公西赤子華の名として現れる。
学研漢和大字典
会意兼形声。于(ウ)は、┃線が=線につかえてまるく曲がったさま。それに植物の葉の垂れた形の垂を加えたのが華の原字。「艸+垂(たれる)+(音符)于」で、くぼんでまるくまがるの意を含む。盂(ウ)(大きくまるいさら)・芋(ウ)(まるくて大きいいも)・跨(カ)(足を大きく開く)などと同系。類義語・異字同訓に花。「はな」は普通「花」と書く。
語義
カ(平)huā
- {名詞}はな。しんのくぼんだまるいはな。のち、広く草木のはなのこと。《類義語》花・栄。「菊華(=菊花)」。
カ(平/去)huá/huà
- {動詞}はなさく。はながさく。「桃始華=桃始めて華く」〔礼記・月令〕
- {形容詞・名詞}はなやか(はなやかなり)。はでで美しい。はでな表面。あでやかなもの。「光華(はなやかさ)」「栄華(はでなぜいたく)」「浮華(うわべだけはでなさま)」「華美」。
- {動詞}はなやかにする(はなやかにす)。美しくひきたてる。かざる。栄えさせる。「華国=国を華やかにす」。
- {形容詞}色つやのあでやかなさま。「鉛華(おしろい)」「華屋」。
- {名詞}つや。かざり。模様。
- {名詞}すぐれたよいもの。「昇華」「精華」。
- {名詞・形容詞}中国人が自国をいうことば。▽はなやかな文化をもった民族の意。《対語》夷(イ)(えびす)。「中華」「華夷(カイ)」「夷不乱華=夷は華を乱さず」〔春秋左氏伝・定一〇〕
- 「華山」とは、山の名。五岳の一つ。陝西(センセイ)省華陰県の南、秦嶺(シンレイ)山脈の東端にある。崋山。西岳。▽去声に読む。
- 姓の一つ。▽去声に読む。
字通
[象形]金文の字形は草花の象。その華を抜き取るように摘むことを拜(拝)という。その姿勢が拝礼に近いので、のち拝礼の字となるが、もとは草花を抜く意。〔説文〕六下に「榮(はな)なり」とあり、〔爾雅、釈草〕に「木には之れを華と謂ひ、草には之れを榮と謂ふ」とするが、字形の上からいえば、木には栄、草には華というべきである。
荷(カ・10画)
初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はɡʰɑ(平)。同音に何、河、苛、賀。定州竹簡論語では「何」と記す。
学研漢和大字典
会意兼形声。「艸+(音符)何(人が直角に、にもつをのせたさま)」で、茎の先端に直角に乗ったような形をしているはすの葉のこと。になうの意は、もと何と書かれたが、何が疑問詞に使われたため、荷がになう意に用いられるようになった。類義語に任。「になう」は「担う」とも書く。
語義
- {名詞}はす。水草の名。はちす。▽茎の上にT型に乗った形で花や葉がつく。実を蓮(レン)、根を藕(グウ)といい、ともに食用とする。
- 「薄荷(ハッカ)」とは、薬草の名。茎と葉に独特の香りがある。薄荷油・薄荷脳の原料とする。はっか。
- {動詞}になう(になふ)。肩の上に物をのせてかつぐ。転じて、重荷や仕事をひきうける。うけもつ。▽上声に読む。「有荷拵而過孔氏之門者=拵を荷ひて孔氏の門を過ぐる者有り」〔論語・憲問〕
- {名詞}に。にもつ。▽上声に読む。
- {動詞}こうむる。人から恵みをうける。▽上声に読む。「拝荷」「感荷」。
- 《日本語での特別な意味》肩にかつぐ荷物をかぞえることば。「酒樽(サカダル)一荷」。
字通
[形声]声符は何(か)。〔説文〕一下に「芙渠(ふきょ)の葉なり」とみえる。
貨(カ・11画)
郭.老甲.12
初出:初出は楚系戦国文字。
字形:「化」”交換”+「貝」”価値あるもの”。交換できる価値あるものの意。
音:カールグレン上古音はxwɑ(去)。同音は存在しない。近音に「化」xwa(去)、初出は甲骨文。「火」xwɑr(上)、初出は甲骨文。「霍」”はやい”xwɑk(入)、初出は甲骨文。「虎」xo(上)、初出は甲骨文。「虍」”虎の模様”xo(平)、初出は甲骨文。
用例:戦国中末期「郭店楚簡」老子甲12に「不貴難得之貨」とあり、”財宝”と解せる。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。
学研漢和大字典
会意兼形声。「貝+(音符)化」。化(姿をかえる)・花(うつろいやすいはな)と同系。
語義
- {名詞}さまざまのものにかえることのできる金銭。▽昔は、貨幣のことを、「化」といった。「通貨」「貨幣」「聚天下之貨、交易而退=天下の貨を聚め、交易して退く」〔易経・壓辞下〕
- {名詞}商品また財産としての品物。「財貨」。
- {名詞}荷物。「貨車」。
- (カス)(クワス){動詞・名詞}まいないする(まひなひす)。わいろを使う。わいろ。
字通
[形声]声符は化(か)。〔説文〕六下に「財なり」とあり、財貨をいう。もと貨幣の意。
過(カ・12画)
過伯簋・西周早期
初出:初出は殷代末期の金文「亞過爵」。「小学堂」による初出は西周早期の金文。
字形:「彳」+「冎」+「止」あし”。「冎」はあるいは”骨”であるかも知れないが、字形の意味するところは不詳。
慶大蔵論語疏は異体字「〔辶内冋〕」と記す。「北魏故樂安王(元悦)妃馮氏墓誌銘」刻。
音:カールグレン上古音はkwɑ(平/去)。同音は「戈」(平)”ほこ”のみで、初出は甲骨文。論語語釈「戈」を参照。
用例:西周早期の「𨒵白𣪕」に「𨒵白從王伐反」とあり、「過」は地名と思われ、「過伯」は人名と思われる。
春秋末期までの用例は地名・人名と解せるもののみ。
備考:「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、西周早期までの用例を全て氏族名や人名に分類し、戦国時代の「郭店楚簡」から動詞や形容詞に分類している。
「漢語多功能字庫」は、字形と書体ごとの語義の発展について何も記すところが無い。「国学大師」は「辵」→〔辶〕”ゆく”と「冎」で、「冎」は音符で意味は無いとする。
「辵」は「彳」+「止」で、「彳」は「行」”十字路”の略体で”みち”・”ゆく”を、「止」は”あし”を意味し、全体では”ゆく”こと。「冎」はS字状に記されているが、甲骨文から例がある。
「冎」は殺された後で骨そぎの刑にされた、残骸の骨の姿だと『大漢和辞典』はいい、「漢語多功能字庫」には解くところが無いが「国学大師」もそのような説明をする。現行「骨」の上部を形成する部品でもある。
現行の「過」には「過料」のように、”とが”の語義があるが、ここまでをまとめると、「過」とは”骨そぎの刑に遭いに行く”と解せ、「冎」にも語意を含んでおり、原義は”あやまつ”だった可能性がある。
学研漢和大字典
会意兼形声。咼は、上にまるい穴のあいた骨があり、下にその穴にはまりこむ骨のある形で、自由に動く関節を示す象形文字。過は「辶+(音符)咼」で、両側にゆとりがあって、するするとさわりなく通過すること。勢い余って、行きすぎる意を生じる。▽滑(するりとすべる)は、その語尾がtに転じたことば。類義語に誤。
語義
- {動詞・形容詞}すぎる(すぐ)。よぎる。さっと通りすぎる。たちよる。すぎさった。通りすがりの。▽平声の歌(戈)韻に読んでもよい。「過客」「楚狂接輿歌而過孔子曰=楚狂接輿歌ひて孔子を過ぎて曰はく」〔論語・微子〕。「二客従予過黄泥之坂=二客予に従つて黄泥の坂を過る」〔蘇軾・後赤壁賦〕
- {動詞}すぎる(すぐ)。いきすぎる。勢いあまって度をこす。「過分」「過猶不及=過ぎたるは猶(な)ほ及ばざるがごとし」〔論語・先進〕
- {動詞・形容詞}すごす。やりすごす。時間を費やす。時間をすぎ去った。「過事」「過日」。
- {動詞・名詞}あやまつ。あやまち。するっとすべってやりそこなう。ぬかったことをする。しそこない。とが。「過失」「過則勿憚改=過てば則ち改むるに憚ること勿かれ」〔論語・学而〕。「観過斯知仁矣=過ちを観れば斯に仁を知る」〔論語・里仁〕
- 姓の一つ。▽平声に読む。
字通
[形声]声符は咼(か)。〔説文〕二下に「度(わた)るなり」と度越・通過の意とする。咼は残骨の上半に、祝禱を収める器(口、𠙵(さい))の形を加え、呪詛を加える呪儀。特定の要所を通過するとき、そのような祓いの儀礼をしたのであろう。
暇(カ・13画)
(篆書)
初出:初出は戦国時代の竹簡。「小学堂」による初出は後漢の『説文解字』。
字形:「日」+「叚」(仮の古字)で、”一時的な時間”、つまり”ひま”。
音:カールグレン上古音はɡʰɔ(去)。同音に夏・蝦・霞・下など多数。
用例:「清華大学蔵戦国竹簡」清華七・越公其事28に「茲(使)民砓(暇)自相」とあり、「砓」(『大漢和辞典』”石山のさま”)が「暇」と釈文されている。「たみをしていとまもてみづからたすけしむ」と読むのだろう。戦国時代のどの時期の文書かは明らかでない。
「砓」甲骨文合集2272
「砓」の初出は甲骨文と「漢語多功能字庫」はいうが、字形は「乍」”死神が持っているような大ガマ”+”太鼓のバチのような道具”+「又」”手”で、どう考えても”ひま”の意ではない。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は見当たらない。上古音の同音に”ひま”を意味する語は見当たらない。近音で部品「叚」kɔ(上)の初出は西周早期の金文「中甗」(集成949)だが、”ひま”の用例は春秋末期までに見当たらない。
学研漢和大字典
叚は、「┏印(かぶる物)+=印(下においた物)+(手で行う動作)」の会意文字で、下に物をおいて、上にベールをかぶせるさま。暇は、「日+音符叚」の会意兼形声文字で、所要の日時の上にかぶせたよけいな日時のこと。假(=仮、本物の上にかぶせた水増し)と同系のことば。
語義
- {名詞・形容詞}ひま。仕事がなくて余った時間。仕事がなくてひまなさま。《類義語》閑・間。「閑暇(カンカ)(ひま)」「暇日」「以暇日修其孝悌忠信=暇日を以て其の孝悌忠信を修む」〔孟子・梁上〕
- {名詞}いとま。官職や奉公をやめて、ひまな身分になること。「乞暇=暇を乞ふ」。
- 「不暇…」とは、「…するにいとまあらず」と訓読し、そうするひま・ゆとりがないこと。「我則不暇=我は則ち暇あらず」〔論語・憲問〕。「不暇及他=他に及ぶに暇あらず」〔白居易・与微之書〕
字通
声符は叚。叚は真仮の仮(假)の初文。かりのもの、一時的なものの意があり、また大・遠の意がある。〔説文〕七上に「閑あるなり」とは、閑暇あるをいう。
訓義
いとま、ひま。
大漢和辞典
いとま、ひま、やすみ。ゆっくりする、おちつく。大きい(方言)。よい。〔邦〕いとま、えんきり、解職、解雇、免官。わかれ。
歌(カ・14画)
余贎乘兒鐘・春秋晚期/睡.日乙132
初出:初出は春秋末期の金文。ただし字形は「謌」または「訶」。「訶」は『大漢和辞典』は”うた”ではないとするが、春秋末期に“うたう”の用例がある。現行字体の初出は戦国最末期の「睡虎地秦簡」。
字形:「言」”声を出す”+「哥」(音符)。「哥」に”こえ・うた”の語義はあるが、初出は戦国最末期の「睡虎地秦簡」。「謌」の略体と思われる。現行の字形は「哥」”うた”+「欠」”口を開けた人。
音:カールグレン上古音はkɑ(平)。同音に「柯」”斧の柄”・「哥」”こえ・うた”(以上平)、「哿」”よい”・「笴」”矢柄”(以上上)。
用例:春秋末期の「宋公戌鎛」(集成8)に「宋公戌之訶鐘。」とあり、”おと”と解せる。
春秋末期「余贎兒鐘(楚余義鐘、兒)」(集成183)に「飲飤(食)訶𨖴(舞)。」とあり、”うたう”と解せる。
学研漢和大字典
可は「口+┓型」からなり、のどで声を屈折させて出すこと。訶–呵(のどをかすらせてどなる)と同系のことば。それを二つ合わせたのが哥。歌は「欠(からだをかがめる)+音符哥」の会意兼形声文字で、のどで声を曲折させ、からだをかがめて節をつけること。▽詠も誦も、声を長く伸ばしてうたうこと。
語義
- {名詞}うた。節をつけて声を出すうた。《類義語》謡。「歌曲」「作歌=歌を作る」。
- {動詞}うたう(うたふ)。声に節をつけてうたう。「有孺子歌曰=孺子有り歌ひて曰はく」〔孟子・離上〕
- {名詞}三国六朝(リクチョウ)時代の民謡。また、その民謡の調子になぞらえてつくった詩。「勅勒歌(チョクロクカ)」。
- 《日本語での特別な意味》うた。和歌。「歌人」「歌の道」。
字通
声符は哥。〔説文〕八下に「詠ふなり」、詠字条三上に「歌ふなり」とあって互訓。また謌に作り、金文は訶に作る。可は祝禱の器である口(𠙵)に対して、柯*枝を以て呵責*してその成就を求める意。その祈る声を呵・訶といい、その声調のものを謌・歌という。
柯:枝や茎。/呵責:大声で叫ぶ。
大漢和辞典
歌う、声を引き抑揚をつけて唱える、音楽に合わせて詠唱する、うたに述べる、鳥がさえずる。うた、音楽に合わせ、詠唱に便なように作った辞句・詞章。詩の一節。百六韻の一つ。姓。
寡(カ・14画)
作冊嗌卣・西周早期
初出:初出は西周早期の金文。
字形:「宀」”建物”の中に一人だけ大きく目を見開いた人がいて見上げている姿。原義は”孤独”。
音:カールグレン上古音はkwɔ(上)。
用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では”未亡人”(毛公鼎・西周末期)、”少ない”(杕氏壺・春秋末期)を意味したが、諸侯が一人称としてもちいたのは戦国末期まで時代が下る(中山王鼎)。
学研漢和大字典
会意文字で、宀(やね)の下に頭だけ大きいひとりの子が残された姿を示すもので、ひとりぼっちのさまを示す。たよるべき人や力のないこと。孤(ひとりぼっちの子どものこと)と同系のことば。
類義語の少は、削られて減ること。鮮(セン)は、めったにないこと。稀は、わずかで目につかないこと。孤も、寡と同系で、ひとりぼっちの子どものこと。独は、一定の場所にくっついて、それだけ動かないこと。
語義
- {形容詞}すくない(すくなし)。ひとりぼっちで、味方や財産がすくない。▽下に補足語があれば、前に返って訓読する。《対語》⇒衆・多。《類義語》孤・少。「寡尤=尤(とが)寡なし」〔論語・為政〕
- {動詞}すくなくする(すくなくす)。減らす。「欲寡其過而未能也=其の過ちを寡なくせんと欲していまだ能はざるなり」〔論語・憲問〕
- {名詞}小人数。また、わずかな力。《対語》衆。「寡固不可以敵衆=寡は固より以て衆に敵すべからず」〔孟子・梁上〕
- {名詞}やもめ。夫に死なれた女。女が夫に死なれたこと。「寡婦」「守寡=寡を守る」。
- {形容詞}徳のすくない意から、諸侯がみずからを謙そんしていうことば。「寡人願安承教=寡人願はくは安んじて教へを承けん」〔孟子・梁上〕
字通
[会意]宀(べん)+頁(けつ)+人。〔説文〕七下に「少なきなり」とし、「宀に從ひ、頒(はん)に從ふ。頒は分ち賦(わか)つなり。故に少なしと爲すなり」と解するが、字は頒に従う形でなく、下部は憂の側身形である。宀は家廟。頁は廟所で儀礼に従うときの形。喪葬のとき、頭に衰麻(さいま)の類をつけた人が、哀告する形を示したもので、〔礼記、王制〕「老いて夫無き者、之れを寡と謂ふ」とあるのにあたり、寡婦をいう。老いて妻なきものを鰥(かん)という。
嘉(カ・14画)
沇兒鎛・春秋末期
初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はka(平)。同音は下記の通り。
字 | 音 | 訓 | 初出 | 声調 | 備考 |
嘉 | カ | よい | 春秋早期金文 | 平 | |
加 | 〃 | くははる | 西周早期金文 | 〃 | →語釈 |
枷 | 〃 | からさを | 説文解字 | 〃 | |
珈 | 〃 | 婦人のかみかざり | 戦国早期金文 | 〃 | |
駕 | 〃 | 車を馬につける | 春秋末期石鼓文 | 去 | →語釈 |
漢語多功能字庫
甲金文「嘉」字表示食器中盛有麥、禾之類食物,本義是食物之美味,引申為美好。
甲骨文や金文の「嘉」の字は食器に山盛りにされた麦飯など穀物のご飯の類を表し、原義は食べ物が美味しいこと。派生してよいこと一般を表すようになった。
学研漢和大字典
会意兼形声。加は、架(物を上に乗せる)の意を含む。嘉は「加(ごちそう)+(音符)加」で、ごちそうをたっぷりと上に盛るさま。善(膳(ゼン)の原字で、ごちそうのこと)がよいの意となったのと同様に、広く、けっこうである、めでたいの意に転じる。賀(祝い)と同系。類義語に良。
語義
- {形容詞}よい(よし)。けっこうである。▽たっぷりと余る意から、けっこうな、めでたいなどの意となる。「嘉肴(カコウ)」。
- {動詞}よみする(よみす)。よいと認めて、ほめる。「嘉賞(カショウ)」「嘉善而矜不能=善を嘉して不能を矜れむ」〔論語・子張〕
- {名詞・形容詞}めでたいこと。幸い。めでたい。《対語》⇒凶。《類義語》吉・福。「嘉礼(カレイ)(婚礼)」。
字通
[会意]壴(こ)(鼓)+加。加は力(耜(すき))に祝禱の器(𠙵(さい))を加え、耜を祓い清める儀礼。それに鼓声を加えて秋の虫害を祓い、穀物の増収を祈る。その礼を嘉という。〔説文〕五上に「美なり」とするが、もと農耕儀礼をいう字であった。同じく丹・靑(青)を加えて力(耜)を清めることを靜(静)といい、その清められた農具で収穫したものを「静嘉」という。〔詩、大雅、旣酔〕に「籩豆(へんとう)靜嘉」の句がある。のち嘉礼一般をいう語となった。
駕(カ・15画)
侯馬・春秋末期
字形:「馬」+「又」”手”+「𠙵」”くち→人”。人が馬を操るさま。
音:カールグレン上古音はka(去)。同音は論語語釈「嘉」を参照。「ガ」は慣用音。呉音は「ケ」。
用例:玉石文・石鼓文は断片で文字列が不明。
戦国中末期「包山楚簡」60に「司馬周駕以廷」とあり、”馬車”と解せる。
学研漢和大字典
会意兼形声。「馬+(音符)加(上にのせる、上にのる)」で、馬にくびきをのせて、車のながえをのせかけること。加・架(上にかけわたす)と同系。類義語に御。
語義
- (ガス){動詞}車を引かせるために、馬や牛にくびきをのせて車をつける。「暁駕炭車輾氷轍=暁に炭車に駕して氷轍を輾かしむ」〔白居易・売炭翁〕
- {名詞}馬や牛に引かせる乗り物。また、馬車で、いったり来たりすること。貴人のお出まし。おなり。「来駕(ライガ)」「吾駕不可回=吾が駕は回らすべからず」〔陶潜・飲酒〕。「待駕棲鸞老=駕を待ちて棲鸞老ゆ」〔李賀・昌谷詩〕
- (ガス){動詞}馬車などの乗り物に乗っていく。また、車や舟などの乗り物をあやつる。「穏駕滄溟万斛舟=穏やかに駕す滄溟万斛の舟」〔陸游・感昔〕。「何如盧郎駕飛鴻=盧郎の飛鴻に駕するにいかんぞや」〔黄庭堅・自門下後省〕
- (ガス){動詞}使いこなす。制御し、支配する。うまいぐあいにあやつる。《類義語》御。「駕服(ガフク)」「駕説(ガセツ)」「長駕遠馭(チョウガエンギョ)(遠方まで支配する)」。
- (ガス){動詞}軍隊をおこす。「三駕而楚不能与争=三たび駕するも楚はともに争ふこと能はず」〔春秋左氏伝・襄九〕
- (ガス){動詞}上にのせる。上にのっかる。かけわたす。つのらせる。《同義語》架。「駕病(ガヘイ)」「凌駕(リョウガ)」「駆石駕滄津=石を駆つて滄津に駕す」〔李白・古風〕
字通
[形声]声符は加(か)。加に架上の意があり、車に馬をつけることをいう。〔説文〕十上に「馬、軛中に在り」とみえる。
稼(カ・15画)
合集9618/睡虎地簡10.1
初出:初出は甲骨文。
字形:甲骨文の字形は〔禾〕”イネ科の植物”2つ+〔田〕。現行の字形は戦国最末期の睡虎地秦簡からで、〔禾〕+〔家〕。収穫した作物の意。
音:カールグレン上古音はkɔ(去)。
用例:西周中期「史牆盤」(集成10175)に「歲(稼)隹(唯)辟」とあり、”収穫”と解せる。
学研漢和大字典
会意兼形声。「禾(穀物)+(音符)家(屋根でかこう小屋)」。
語義
- (カス){動詞・名詞}うえる(うう)。穀物をうえる。穀物の栽培。畑仕事。「樊遅請学稼=樊遅稼を学ばんことを請ふ」〔論語・子路〕
- {名詞}みのり。みのって、とり入れた穀物。「禾稼(カカ)(とり入れたあわや稲)」「十月納禾稼=十月には禾の稼を納む」〔詩経・漿風・七月〕
- 《日本語での特別な意味》かせぐ。かせぎ。金をもうけるためにはたらく。また、時間・点数などをとりこんでふやす。また、そのこと。働き。「出稼ぎ」「点数を稼ぐ」。
字通
[形声]声符は家(か)。〔説文〕七上に「禾の秀實あるものを稼と爲す」とあり、収穫をいう。〔詩、大雅、桑柔〕「稼穡(かしょく)」の〔伝〕に「耕種するを稼と曰ひ、收斂するを穡と曰ふ」と分別するが、すべて農事をいう。
我(ガ・7画)
甲骨文/毓且丁卣・商代晚期
初出:初出は甲骨文。
字形:ノコギリ型のかねが付いた長柄武器。
音:カールグレン上古音はŋɑ(上)。
用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では占い師の名、複数第一人称に用いた。金文では単数の第一人称に用いられた(毛公鼎・西周)。戦国の竹簡でも一人称単数に用いられ、また「義」”ただしい”の用例がある。
備考:古くは中国語にも格変化があった名残で、一人称では「吾」ŋo(平。藤堂上古音ŋag)を主格と所有格に用い、「我」ŋɑ(上。同ŋar)を所有格と目的格に用いた。
だが「我」と「吾」が区別されなくなっている例は甲骨文の昔からあった。もちろんこの用例を守った事例もあり、孔子の生まれる前年(BC552)に世を去った、楚の荘王の王子、子庚が作らせた「王子午鼎」では、正しく所有格に用いられている。
学研漢和大字典
象形文字で、刃がぎざぎざになった戈(ほこ)を描いたもので、峨(ガ)(ぎざぎざと切りたった山)と同系。昔、「われ」のことをŋaといったので、我(ガ)の音を借りて代名詞をあらわした仮借文字。
類義語の吾(ゴ)は、おもに主格・所有格に用いたが、のち我と吾を混同した。私は、公に対する語で、ひそかに、自分だけの、の意。余(ヨ)(予)は、古めかしい一人称。
語義
- {代名詞}われ。わが。一人称代名詞。古くはおもに所有格と目的格に用いた。《対語》⇒汝(ジョ)。《類義語》吾(ゴ)。「問孝於我=孝を我に問ふ」〔論語・為政〕。「三人行、必有我師焉=三人行へば、必ず我が師有り」〔論語・述而〕
- {名詞}自分の考えに凝り固まること。かた意地。「我執」「毋固、毋我=固を毋くし、我を毋くす」〔論語・子罕〕
- {代名詞}わが。自分の。親しみの意をこめた呼び方。「我兄(ガケイ)・(ワガケイ)(あなた)」「窃比於我老彭=窃かに我が老彭に比す」〔論語・述而〕
- {名詞}《仏教》自分への執着。▽元来は自己の心・身体をいい、迷いに執着する自分の心を指す。これを脱することが仏教の根本の一つとされる。「我執」。
字通
我は鋸刃の刃物の象形で、鋸の初文。義・羲は犠牲としての羊に我(鋸)を加える形。しかし我を鋸の意に用いることはなく、一人称の代名詞に仮借して用いる。〔説文〕十二下に「身に施して自ら謂ふなり」と一人称とし、また「或いは説ふ、我頃、頓くなり。戈に従ひ、𠄒に従ふ。𠄒は或いは説ふ、古の垂の字なり」と字形を説き、さらに「一に曰く、古の殺の字なり」という。卜文・金文の字形は鋸の形で、仮借して一人称とする。鋸はその形声の字で、我の初義を留める字である。
雅(ガ・13画)
睡虎地簡32.12
初出:初出は戦国文字。小学堂では戦国最末期の「睡虎地秦簡」だが、戦国中末期の「郭店楚簡」、戦国時代だが年代不定の「上海博物館蔵戦国楚竹簡」にも用例がある。
字形:「互」ɡʰo(去)または「牙」ŋɔ(平)+「隹」”とり”。「ゴォ」または「ンゴ」と鳴く鳥、つまり”カラス”。
音:カールグレン上古音はŋɔ(上)で、同音に牙とそれを部品とする漢字群。藤堂上古音は”みやび”の場合ŋǎg(上)、”カラス”の場合・ǎg(平)。
用例:戦国の竹簡「上海博物館蔵戦国楚竹簡」孔子詩論02に「至矣、大(雅)」とあり、『詩経』の篇名と解せる。
戦国最末期「睡虎地秦簡」法律問答12に「甲乙雅不相智」とあり、”もともと”と解せる。
論語時代の置換候補:「牙」は「雅」と音通。西周末期「𡱒敖𣪕蓋」(集成4213)に「戎獻金于子牙父百車」とあり、「子牙」は「子雅」である可能性がある。斉の公族の一つに「子雅氏」があると後漢の王充は『潜夫論』に記す。ただし現伝の『春秋左氏伝』では「子牙」と記す。
王充は「すでに滅んだ」と自分で記す古論語・斉論語・魯論語の存在を言いだした人物で、あまり信用できず、「子雅」についても出任せを書いた可能性があるので、今は可能性の指摘に止める。
「牙」𡱒敖𣪕蓋・西周末期
学研漢和大字典
形声。牙(ガ)は、交互にかみあうさまで、交差してすれあうの意を含む。雅は「隹(とり)+(音符)牙」で、もと、ガアガア・アアと鳴くからすのこと。ただし、おもに牙の派生義である「かみあってかどがとれる」の意に用いられ、転じて、もまれてならされる意味となる。御(ならす)・午(ゴ)(もちをつきならすきね)などと同系。
語義
ガ/ゲ(上)
- {形容詞}みやびやか(みやびやかなり)。かどがとれて上品なさま。正統の。都めいた。《対語》⇒俗・鄙(ヒ)(ひなびた)。「風雅」「雅語」。
- {名詞}都めいた上品な音楽や歌。「雅声」。
- {名詞}「詩経」の中の、都びとの歌。▽正雅と変雅、また、大雅と小雅にわける。
- {形容詞}相手を尊敬してその人の言行や詩文につけることば。「雅嘱(ガショク)(あなたのお言いつけ)」。
- {名詞}上品で由緒正しいことば。また、古典語を解説したことば集のこと。また、その一つである「爾雅」のこと。「広雅」。
- {形容詞}平素から使いなれているさま。また、いいなれているさま。「雅素(平素)」「子所雅言=子の雅言する所」〔論語・述而〕
- {副詞}もとより。平素から。もともと。「雅不欲属沛公=雅より沛公に属するを欲せず」〔漢書・高帝〕
ア/エ(平)
- {名詞}からす。アアとなくからす。《同義語》⇒鴉(ア)。
字通
「雅=雅」
[形声]声符は牙(が)。〔説文〕四上に「楚烏なり」という。牙は鴉の従うところと同じく、その鳴き声。
「𤴓=雅」
[象形]舞踊のとき前にあげた足の形。〔説文〕二下に「足なり」とし、「古文以て詩の大雅の字と爲す」とあり、雅の仮借字とする。清儒は大雅・小雅の字に好んで𤴓を用いるが、金文に夏をに作り、夏は舞容。九夏・三夏などは古雅楽の名。夏・雅は通用の字。ゆえに夏の別体であるの省略形である𤴓が、また雅に借用されるのである。疋(しよ)(あし)・匹(ひつ)とは別の字である。夏・雅字条参照。
語系
雅と夏と通用することがあり、〔荀子、栄辱〕「君子は雅に安んず」は中夏の意。〔荀子、儒効〕に「夏に居りては而(すなは)ち夏なり」の「夏なり」は雅正の意。字形の上で、夏は古くとしるし、足をあげる舞容の形。その𤴓(が)を雅の意に用い、大𤴓・小𤴓(大雅・小雅)のようにいうことがある。
中日大字典
yǎ【異読】yā
- (1) 〈文〉正しい.正統である.
〔尔ěr雅〕爾(じ)雅.
(2) 風雅である.奥ゆかしい.みやびやかである.
〔文雅〕みやびやかである.
〔他人很雅〕彼は人柄がとても上品だ.
〔高雅〕気高くみやびやかである.
〔淡雅〕あっさりして奥ゆかしい.
⇔〔俗sú〕
(3) 〈牘〉相手の言動を表す語につけて敬意を表する.
〔久违雅教〕ごぶさた申し上げておりました.
(4) 〈文〉詩の〔六liù义〕の一.諸国の民謡:“そえうた”の詩の分類の一.朝廷の楽歌で〔小雅〕と〔大雅〕からなる.→〔变biàn风〕
(5) 〈文〉酒器.→〔雅量〕
(6) 〈姓〉雅(が) - 〈文〉
(1) 交わり.交際.
〔无一日之雅〕一面識もない.
(2) 平素.
〔子所雅言〕(論語・述而)子の常に言うところ.
〔雅善鼓琴〕もとより琴を善くした.
(3) はなはだ.たいへん.
〔雅非所愿〕決して願うところではない.
〔雅以为美〕たいへん美しいと思う.
大漢和辞典
餓(ガ・15画)
睡.日甲62背・秦
初出:初出は楚系戦国文字(「上海博物館蔵戦国楚竹簡」子道餓01)。ただし字形は不明。「小学堂」による初出は秦の隷書。
字形:「食」+音符「我」ŋɑ(上)。
音:カールグレン上古音はŋɑ(去)。同音は「我」を部品とする漢字群。「莪」”つのよもぎ”、「娥」”女のあざ名”、「峩」”山の高くけわしい様”、「鵝」”ガチョウ”、「俄」”にわか”、「蛾」、「睋」”のぞむ・みる”、「誐」”よい(ことば)”(以上平)、「我」(上)。「我」は「餓に通ず」と『大漢和辞典』にあるが、出典は戦国時代以降成立の『荘子』。
用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」子道餓01に「子道餓而死安(焉)」とあり、”餓える”と解せる。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』で音ガ訓うえるは他に存在しない。「飢」ki̯ær(平)の初出は楚系戦国文字。「饉」ɡʰi̯æn(去)の初出は西周中期金文だが音が遠い。「䬶」(上古音不明)の初出は前漢隷書。「饑」ki̯ər(平)の初出は戦国最末期の「睡虎地秦簡」。結論として、論語の時代の置換候補は存在しない。
参考:定州竹簡論語の■(食+義)は、小学堂の異体字に無いし、「飢」の異体字も近そうなのがあるがズバリそのものは無い。義のカールグレン上古音はŋia(去)だから、餓ŋɑ(去)のほうが飢ki̯ær(平)よりも近い。餓の異体字と見るのが適切だろう。
学研漢和大字典
会意兼形声。「食+(音符)我(ごつごつした)」。食物が不足して、からだがごつごつ骨ばること。峨(ガ)(山のかどばったさま)と同系。「うえる」「うえ」は「飢える」「饑える」「飢え」「饑え」とも書く。
語義
- {動詞・形容詞}うえる(うう)。食物が不足し、からだがやせて骨ばる。また、そのようになったさま。「労其筋骨、餓其体膚=其の筋骨を労せしめ、其の体膚を餓ゑしむ」〔孟子・告下〕
- {名詞}うえ(うゑ)。食物が不足して、やせ細ること。「凍餓」。
字通
[形声]声符は我(が)。〔説文〕五下に「飢うるなり」とあり、飢餓をいう。我は鋸(のこぎり)の象形。我を声とするのは、その衰えて骨があらわれる意であろう。
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