論語語釈「ヒ」

目的の項目が表示されるまでに時間が掛かる場合があります。もしurl欄に目的の漢字が無い場合、リンクミスですので訳者にご一報頂けると幸いです。
語釈 urlリンクミス

比(ヒ・4画)

論語 比 金文
𩰬攸從鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰi̯ər(平/去)またはpi̯ər(上/去)。入声は音不明。

学研漢和大字典

上古(周秦) 中古(隋唐) 北京語 ピンイン
pier pii pi pi

会意文字で、人が二人くっついてならんだことを示すもの。庇(ヒ)(木をならべたひさし)・陛(石をならべた階段)・匹(二すじならんだ布)・屁(ヒ)(両がわから肉のならんだしり)などと同系のことば。

北京語では、以前は意味の1.および8.~13.」を去声(bì)に読んだが、現在ではbǐと読む。草書体をひらがな「ひ」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「ひ」ができた。また、旁からカタカナの「ヒ」ができた。

意味

  1. (ヒス){動詞}くらべる(くらぶ)。AとBを並べあわせて優劣・相違などをくらべる。「比較」「窃比於我老彭=窃かに我が老彭に比す」〔論語・述而〕
  2. {動詞}ならぶ。ならべる(ならぶ)。くっついて同列にならぶ。くっつけて同列にならべる。「比肩=肩を比ぶ」「比次」「比諸侯之列=諸侯の列に比ぶ」。
  3. {名詞}たぐい(たぐひ)。地位・種類などからいって同列の仲間。同類のもの。「世間無比(世の中に比べる者がない)」「非昔日之比=昔日の比に非ず」。
  4. {名詞}「詩経」の六義(リクギ)の一つ。他の物にたとえてつくった詩体。⇒「六義」。
  5. {名詞}同種類のものをくらべたときのわりあい。「比率」。
  6. {名詞}力をくらべる試験。「大比(三年ごとに行われる郷試)」。
  7. {名詞}比較の材料となる先例。判例。「比部(魏晋(ギシン)のころ、判例をつかさどった司法省)」。
  8. (ヒス){動詞}したしむ。特定の仲間とくっついてしたしみあう。「朋比(ホウヒ)(特定の仲間とだけ結合する)」「君子周而不比=君子は周して比せず」〔論語・為政〕
  9. 「比比(ヒヒ)」とは、副詞。→語法「①」。
  10. {前置詞}ころ。ころおい(ころほひ)。→語法「③」。
  11. {副詞}このごろ。→語法「②」。
  12. {前置詞}ために。同じ立場で。そのがわにたって。《類義語》為。「願比死者壱洒之=願はくは死者の比に壱たびこれを洒がん」〔孟子・梁上〕
  13. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陲隍(坤下坎上(コンカカンショウ))の形で、天下の人々が天子をあおぎ親しむさまを示す。
  14. 《日本語での特別な意味》
    ①「比律賓(フィリピン)」の略。「比国」。
    ②梵語(ボンゴ)「ヒ」の音訳字。「比丘(ビク)」。

語法

①「しきりに」とよみ、「つぎつぎと」「いたるところ」と訳す。▽「比比」「比毎」も、「しきりに」とよみ、意味・用法ともに同じ。「比比上書言得失=比比(しきり)に上書して得失を言ふ」〈しきりに利害得失について皇帝へ上書した〉〔旧唐書・白居易〕
②「~するころおい」とよみ、「そのころになって」と訳す。▽「比及~=~におよぶころおい」も、意味・用法ともに同じ。「比及三年、可使有勇且知方也=三年に及ぶ比(ころほ)ひ、勇有りてかつ方を知ら使む可し」〈三年もたったころには、(その国民を)勇気があって道をわきまえるようにさせることができます〉〔論語・先進〕
③「このごろ」とよみ、「ちかごろ」と訳す。▽「比今」「比来」も、意味・用法ともに同じ。「比来天下奢靡、転相倣效=比来(このごろ)天下奢靡(しゃび)にして、転(うた)たあひ倣(なら)ひ效(なら)ふ」〈ちかごろ世の中はぜいたくではでやかになり、だんだんはげしく人まねをするようになっている〉〔魏志・徐瘉〕

字通

[会意]二人相並ぶ形。左向きは从(じゆう)で、從(従)の初文。右向きは比で比親の意となる。〔論語、為政〕「君子は周して比せず」とは私親の意。金文に「左比」「右比」のように、比助の意に用いる。相並ぶ意より比較の意となり、比類・比倫といい、また相従う意となる。

皮(ヒ・5画)

論語 皮 金文
九年衛鼎・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰia(平)。同音に疲、罷、被、鞁”馬の飾り”。なお「比」”比べる・競う”はbʰi̯ər(平/去)またはpi̯ər(上/去)で、きわめて近い。

学研漢和大字典

会意。「頭のついた動物のかわ+又(手)」で、動物の毛皮を手でからだにかぶせるさま。斜めにかけるの意を含む。被(しなやかにかぶる)・波(しなやかに傾斜してうねるなみ)・坡(ハ)(傾斜した坂)などと同系。類義語の革は、動物のかわを張ってかげぼしにしたもの。皮は、毛がついてしなやかであり、革は、毛がなくてかたい。裘(キュウ)は、からだにしめつけて着るかわごろも。異字同訓に革「革のくつ。なめし革」。

語義

  1. {名詞}かわ(かは)。しなやかにからだにかけるかわ。動植物のからだの表面にかぶさった、毛がついたしなやかなかわ。《類義語》革。「皮革」「樹皮」。
  2. {名詞・形容詞}物事の表面をおおうもの。うわべ。また、表面だけの。「皮相(うわべ)」。
  3. {名詞}かわを張った的。▽昔、射礼で用いた。「射不主皮=射は皮を主とせず」〔論語・八飲〕
  4. {名詞}姓の一つ。

字通

[象形]獣皮を手で剥ぎ取る形。〔説文〕三下に「獸革を剥取する象、之れを皮と謂ふ」とし、字を「又(いう)に從ひ、爲(ゐ)の省聲」とするが、獣皮を剥取する全体象形の字である。皮革の全形は革、その半ばを剥取している形が皮である。皮の声は、剥ぎ取るときの音をとったものであろう。

否(ヒ・7画)

否 金文
毛公鼎・西周末期

初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はbʰi̯əɡ(上声)またはpi̯ŭɡ(上声)。

学研漢和大字典

形声。不は、ふくらんだつぼみを描いた象形文字で、後世の菩(ホウ)(つぼみ)の原字。その音を借りてぷっと強く拒否する否定詞に当てる。否は「口+(音符)不」。口を添えて言語行為であることを示した字で、否定をあらわすことば。

語義

ヒpi̯ŭɡ(上声)
  1. {動詞}いな。しからず。→語法「①②」。
  2. {助辞}→語法「④」。
  3. {接続詞}しからずんば。→語法「⑤」。
ヒbʰi̯əɡ(上声)
  1. {形容詞}ある性質の逆の面を意味することば。「可否」「臧否(ソウヒ)(よしあし)」。
  2. {名詞}周易の六十四卦(カ)の一つ。陜隍(坤下乾上(コンカケンショウ))の形で、陽が上に陰が下にあって、流通のとだえたさまを示す。泰の卦隍陜の反対で、動きがとれない悪い状態をあらわす。
  3. {形容詞}悪いさま。「否運」。

語法

①「いな」「しからず」とよみ、対話での応答で不同意・否定の意を示す。「王曰、否、吾何快於是=王曰く、否(いな)、吾なんぞここにおいて快からん」〈王は、いや、わたしとてどうしてそんなことで愉快に思おうかと言った〉〔孟子・梁上〕

②「しからず」とよみ、「そうではない」と訳す。否定の意を示す。「諸侯或朝或否、天子不能制=諸侯或(ある)いは朝し或いは否(しか)らざるも、天子制すること能はざりき」〈諸侯のある者は参内しある者は参内しない、天子はこれをおさえることができない〉〔史記・秦始皇〕

③「あらず」とよみ、「そのようなことはない」と訳す。否定の意を示す。「夫建国設都、乃作后王君公、否用泰也=それ国を建て都を設け、乃(すなは)ち后王君公を作るは、もって泰ならしむるに否(あら)ざるなり」〈そもそも国を建て都を設け、天子や諸侯をつくったのは、威張らせるためではない〉〔墨子・尚同〕

④「~(や)いなや」とよみ、「~か、どうか」と訳す。肯定か否定かを選択する疑問の意を示す。「視吾舌、尚在否=吾が舌を視よ、尚ほ在りや否(いな)や」〈おれの舌をみろ、まだついているか、ついていないか〉〔十八史略・春秋戦国〕

⑤「しからずんば」とよみ、「もしそうでなければ」と訳す。仮定の意を示す。前節とは逆の条件を提示する意を示す。「願君留意臣之計、否必為二子所禽矣=願はくは君意を臣の計に留めよ、否(しか)らずんば必ず二子の禽(とりこ)とする所と為らん」〈どうか私のこの計略をお考え下さい、でないと、きっとあの二人の捕虜になってしまいます〉〔史記・淮陰侯〕▽「否者=しからずんば」「否則=しからずんばすなわち」も、意味・用法ともに同じ。

字通

[会意]不+口。口は𠙵(さい)、祝詞を収める器の形。その上を蓋うことによってこれを拒否し、妨げる意をあらわす。〔説文〕二上に「不(しか)らざるなり。口に從ひ、不に從ふ」とし、口を口舌の形と解する。金文の〔毛公鼎〕に「上下の若否」という語があり、上下神の諾否、すなわち神意を意味する。若は巫女が舞い祈る形で、神が応諾することをも若といった。また否には別に不・丕(ひ)・否・咅(ほう)という系列に属するものがあり、不は萼不(がくふ)、その花蔕(かたい)が成熟する過程を丕・否・咅といい、実のはじけ割れることを剖判(ほうはん)という。金文に「不■(不+不)(ひひ)」というほめことばがあり、字はまた「不■(否+否)(ひひ)」に作る。諾否・否定の否と、不・丕系列の字と、もと別系であろうが、いま否にその両義がある。

肥(ヒ・8画)

肥 金文大篆
(金文大篆)

初出は戦国文字。ただし孔子と同時代の季孫家当主に季孫肥=季康子がおり、論語の時代に存在しないとは断定できない。カールグレン上古音はbʰi̯wər(平)で、同音に非を部品とする漢字群など。語義を共有する文字は無い。

学研漢和大字典

形声。㔾(ヒ)・(ハイ)は、配や妃の字の右側の部分で、人が何かにくっついたさま。ここではたんに音をあらわす。肥は「肉+(音符)酘(ヒ)」。その語尾がnに転じたのが本(太い根もと)・笨(ホン)(太い竹)・墳(フン)(ふっくらともりあがった土盛り)などのことばで、肥と同系。

語義

  1. {動詞・形容詞}こえる(こゆ)。こやす。肉がついて太る。肉をつけて太らせる。また、ふっくらと太ったさま。《対語》⇒瘠(セキ)(やせる)・痩(ソウ)(やせた)。「肥馬」「庖有肥肉=庖に肥肉有り」〔孟子・梁上〕
  2. {動詞・形容詞}こえる(こゆ)。こやす。地味がよくなる。地味をよくする。また、地味がよいさま。「肥料」「肥沃(ヒヨク)」「地有肥磽=地に肥磽有り」〔孟子・告上〕
  3. {名詞}こえ。こやし。作物の生長の助けとするもの。「堆肥(タイヒ)」「人肥」。
  4. (ヒナリ){形容詞}ゆたか(ゆたかなり)。財産がたっぷりある。生活にゆとりがある。「家益肥=家益肥なり」〔枕中記〕
  5. 《日本語での特別な意味》「肥前(ヒゼン)」「肥後(ヒゴ)」の略。「薩長土肥」「肥州」。

字通

[会意]肉+卪(せつ)。卪は人の跪坐する形。そのとき下体の肥肉が著しくあらわれることをいう。〔説文〕四下に「多肉なり」とし、会意とする。また「肉は過多なるべからず。故に卪に從ふ」とし、卪を節の意とする。卪は坐して腿(もも)のあたりの肉のゆたかなさまを示す形で、沐浴のため盤中に坐する形は盈(えい)、また廟中に祈る姿を宛(えん)という。夃(こ)・夗はみなその象形。卪・巴(は)などもその象形である。

声系

〔説文〕に肥声として萉(ふつ)など三字を収める。萉は麻枲(まし)の実。また賁(ひ)声に従う。賁にも大きく美しい意がある。

語系

肥biuəiは賁biuən、孛・勃buət、否piuəと声近く、みな肥大の意がある。否は花の子房の胚胎(はいたい)する象。孛(はい)・勃(ぼつ)は実の入りかけ、賁は外に賁然(ひぜん)としてあらわれることをいう。

非(ヒ・8画)

論語 非 金文
毛公鼎・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯wər(平)。

学研漢和大字典

象形。羽が左と右とにそむいたさまを描いたもの。左右に払いのけるという拒否の意味をあらわす。扉(ヒ)(左右にわかれて開くとびら)・排(ハイ)(左右におしのける)などと同系。類義語の不は、あとの動詞や形容詞を否定して「不行(行かない)」「不良(よくない)」のように用いる。弗(…せず)・拂(=払。はらいのける)は、非の語尾がtに転じたことば。草書体をひらがな「ひ」として使うこともある。

語義

  1. {動詞}…にあらず。→語法「①②」。
  2. (ヒトス){動詞}そしる。みとめない。正しくないとして退ける。《同義語》⇒誹。「非難」「非謗(ヒボウ)(=誹謗)」。
  3. {名詞}正しくないこと。認められないこと。あやまち。《対語》⇒是(ゼ)。「飾非=非を飾る」「立是廃非=是を立て非を廃す」〔淮南子・修務〕
  4. (ヒナリ){形容詞}正しくない。まちがっている。「覚今是而昨非=今は是にして昨は非なりしを覚る」〔陶潜・帰去来辞〕
  5. {助辞}反対の意や否定の意をあらわす接頭辞。「非凡」「非常」「非民主的」。

語法

①「~にあらず」とよみ、

  1. 「~ではない」と訳す。名詞を否定する意を示す。「雖在縲紲之中、非其罪也=縲紲(るいせつ)の中に在りと雖(いへど)も、その罪に非(あら)ざるなり」〈獄中につながれたことはあったが、彼の罪ではなかった〉〔論語・公冶長〕
  2. 「~というわけではない」と訳す。理由や事情を説明する名詞句・名詞節を否認する意を示す。「非知之難也、処知則難也=知ることの難きに非(あら)ざるなり、知に処すること則(すなは)ち難(かた)きなり」〈ものを知ることが難しいのではなくて、知ったことにどう対処するかが難しいのである〉〔韓非子・説難〕▽続く後節であらためて理由・事情を確認する場合、「~にあらず、…なればなり」とよみ、「~ではない、…だからだ」と訳す。
  3. 「~ない」と訳す。動詞・形容詞を否定する意を示す。《同義語》不。「王師非楽戦=王師戦ひを楽しむに非(あら)ず」〈王者の軍隊は、戦いを楽しんだりしない〉〔陳子昂・送別崔著作東征〕

  1. 「~にあらずんば」とよみ、「~なしでは」と訳す。仮定条件の意を示す。「非帷裳、必殺之=帷裳(いしゃう)に非(あら)ずんば、必ずこれを殺す」〈(祭服・朝服としての)衣装でなければ、必ず(裳の上部を)せまく縫い込む〉〔論語・郷党〕
  2. 「非~、不…」は、「~あらずんば…ず」とよみ、「~でなければ…ない」と訳す。「不」を含む節・文が成立するためには、「非」を含む節・文を必要条件とする意を示す。「朋友之饋、雖車馬、非祭肉不拝=朋友の饋(き)は、車馬と雖(いへど)も、祭りの肉に非(あら)ずんば拝せず」〈友達の贈り物は車や馬のような(立派な)ものでも、お祭りの肉でない限りはおじぎはされなかった〉〔論語・郷党〕

③「非徒~」は、「ただ(に)~のみにあらず」とよみ、「ただ~だけではない」と訳す。範囲・条件が限定されない意を示す。▽後節に「又(亦)…=また…」「且…=かつ…」と続けて、「~だけでなく、…もまたそうである」と訳す。後節では、さらに累加する意を示す。「非徒無益、而又害之=ただに益無(な)きのみに非(あら)ず、而(しか)もまたこれを害す」〈これでは無益であるばかりか、かえって害がある〉〔孟子・公上〕▽「非止~=ただ(に)~のみならず」も、意味・用法ともに同じ。

④「自非~…」は、「~にあらざるよりは…」とよみ、「もし~でなければ…」と訳す。条件を限定する意を示す。「自非賢君、焉得忠臣=賢君に非(あら)ざる自(よ)りは、焉(いづ)くんぞ忠臣を得んや」〈もし賢明な君主でなければ、どうして忠臣を手に入れることができようか〉〔後漢書・彭脩〕

字通

[象形]すき櫛の形。左右に細かい歯がならぶ櫛。古くは非余といい、金文の〔友鼎〕〔小臣伝卣(しようしんでんゆう)〕の賜与の品名にみえる。〔説文〕十一下に「違ふなり。飛下する翅(はね)に從ふ。其の相ひ背くを取るなり」と鳥の飛翔の形とするが、その象ではない。非余は〔史記、匈奴伝〕に「比余」といい、また、「疏比」ともいう。〔倉頡篇(そうけつへん)〕に「靡(こま)かきものを比と爲し、麤(あら)きものを梳(そ)と爲す」とあり、〔説文〕六上に「櫛(しつ)は梳比(そひ)の総名なり」とする。比は櫛比のようにもいうが、非がその象形の字。また仮借して否定の意に用い、金文に〔班𣪘(はんき)〕「班、敢て覓(わす)るる」、〔蔡侯鐘(さいこうしよう)〕「余(われ)、敢て寧忘(ねいばう)するに非ず」のように用いる。不よりは重い用法であったらしく、非違・非命のように、重く意図的に反することをいう。

彼(ヒ・8画)

彼 金文
䣄音央血尹征城・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はpia(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。皮は、たれたなめしがわを又(手)で向こうに押しやるさま。披(かぶせる)の原字。彼は「彳(いく)+(音符)皮」で、もと、こちらから向こうにななめに押しやること。転じて、向こう、あちらの意となる。⇒皮

語義

  1. {代名詞・指示詞}かれ。向こうにあるものをあらわすことば。あれ。あの人。あの人たち。《対語》⇒此(コレ)。「彼此不分=彼此を分かたず」「彼一時此一時也=彼も一時なり此も一時也」〔孟子・公下〕
  2. {指示詞}かの。あの。あそこの。向こうの。「陟彼岡兮=彼の岡に陟る」〔詩経・魏風・陟桟〕
  3. 「如彼(カクノゴトシ)」とは、あのようだとの意。「盈虚者如彼=盈虚する者は彼くのごとし」〔蘇軾・赤壁賦〕

字通

[仮借]字は形声で、声符は皮(ひ)。彳(てき)に従い、もと外に行動する意の字であろうが、その本義は失われ、ただ代名詞に仮借してのみ用いる。〔説文〕二下に「往きて加ふる所有るなり」と彼・加の畳韻をもって解するが、その用例はない。金文に「皮(か)の吉人」のように皮を彼の意に用い、〔石鼓文、汧殹石(けんえいせき)〕や近出の金文〔中山王円壺〕にもその用例がある。彼はそれより後起の字。漢碑にはみな彼に作る。

卑/卑(ヒ・9画)

卑 金文
散氏盤・西周末期

初出は西周中期の金文甲骨文もあると言うが、大陸らしく仕事がデタラメで信用ならない。カールグレン上古音はpi̯ĕɡ(平)。「裨に通ず」と『大漢和辞典』に言う。論語語釈「裨」も参照。

学研漢和大字典

会意。たけの低い平らなしゃもじを手に持つさまを示すもので、長(ヒ)(平らで薄いしゃもじ)の原字。薄べたく厚さがとぼしい意を含む。薄いものは背がひくいので、転じて身分のひくい小者の意となる。碑(平らで薄い石)・壁(平らで薄いかべ)と同系。婢(ヒ)(身分のひくい女中)・俾(ヒ)(使用人→使い走りをさせる)はその派生語。類義語の低は、底と同系で、物のそこを示し、地面に近く下底に近いこと。転じて、背のひくい意。旧字「卑」は人名漢字として使える。▽「鄙」の代用字としても使う。「野卑」▽「ノ田ノ十」と九画で書くが、旧字は「ノ日ノ十」と八画で書く。

語義

  1. {形容詞}いやしい(いやし)。身分がひくい。また、行いや態度が下品であるさま。▽自分のことをへりくだっていうことば。《対語》⇒尊。「卑劣」「功烈如彼其卑也=功烈彼のごとく其れ卑しかりき」〔孟子・公上〕
  2. {動詞}いやしむ。いやしとする(いやしとす)。みさげる。いやしいと考える。「何以卑我=何を以て我を卑しむ」〔国語・晋〕。「不卑小官=小官を卑しとせず」〔孟子・公上〕
  3. {形容詞}ひくい(ひくし)。ひくい位にあるさま。《対語》⇒尊・高。《類義語》低。「非不肖也、位卑也=不肖なるに非ざるなり、位卑ければなり」〔韓非子・功名〕
  4. {動詞}ひくくする(ひくくす)。ひくい位におく。ひくくさげる。「卑辞=辞を卑くす」「卑身而伏=身を卑くして伏す」〔荘子・逍遥遊〕

字通

[会意]上部は杯形の器の形。下部はその柄をもつ形。椑(ひ)の初文。柄のある匕杓(ひしやく)の類で、酒などを酌む形である。〔説文〕三下に「賤(いや)しきなり。事を執る者。𠂇(さ)甲に從ふ」とし、〔段注〕に「甲は人の頭に象る」という。手で頭を抑える形と解するのであろう。卑の大なるものを卓といい、スプーンのような器。その大小高卑によって、卓を卓然といい、卑を卑小の意とする。

被(ヒ・10画)

論語 妻 金文
「皮」鑄叔皮父簋・春秋早期

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰia(上)。同音に皮、疲、罷、鞁”うまのかざり”。部品で同音の皮に、”こうむる”の語釈は『大漢和辞典』に無い。ただし下掲『字通』は「皮に表面に被るものの意がある」という。

学研漢和大字典

皮は、獣皮を手で引きよせてかぶろうとすることを示す会意文字。傾斜する意を含む。被は「衣+(音符)皮」で、衣を引きよせてかぶること。披(ヒ)(ななめに引きよせる)・頗(ハ)(かたよる)・波(かたよって傾斜したなみ)と同系。また、弁(ベン)(かぶるもの)や蔽(ヘイ)(おおう)とも縁が近い。類義語に弇。「こうむる」は「蒙る」とも書く。「おおう」「おおい」は「覆う」「覆い」とも書く。また、「ふすま」は「衾」とも書く。

語義

bèi

  1. {動詞}こうむる(かうむる)。かずく(かづく)。かぶる。かぶさる。かぶせる。おおう。きる。また、そこまで及ぶ。「光、被四表=光、四表に被る」〔書経・尭典〕。「被髪左衽(ヒハツサジン)」〔論語・憲問〕。「被袗衣=袗衣を被る」〔孟子・尽下〕
  2. {名詞}寝るとき、からだにかぶる夜着。かけぶとん。ふすま。「被蓋(ヒガイ)(ふとん)」。
  3. {助動詞}れる(る)。られる(らる)。→語法「①②」。

  1. {単位詞}衣服やよろいを数えることば。「一被」。
  2. 「被被(ヒヒ)」とは、長く垂れておおいかぶさるさま。
  3. 「被離(ヒリ)」とは、分散するさま。

語法

①「る」「らる」とよみ、「~される」と訳す。受身の意を示す。

  1. 「被~…」は、「~に…らる」とよみ、「~に…される」と訳す。「已被秋風教憶鱠=すでに秋風に鱠(なます)を憶(おも)は教(し)めらる」〈秋風に(故郷の)なますの味を思い起こさせられる〉〔張南史・陸勝宅秋暮雨中探韻同作〕
  2. 「被…於(于・乎)~」は、「~に…らる」とよみ、「~に…される」と訳す。▽用例は少ない。「万乗之国、被囲於趙=万乗の国、趙に囲まる」〈兵車を一万台出せる大国(の燕)が趙に囲まれた〉〔戦国策・斉〕
  3. 「被…」は、「…らる」とよみ、「…される」と訳す。「信而見疑、忠而被謗=信にして疑はる、忠にして謗(そし)らる」〈信じていたのに疑われ、真心を尽くしたのに悪く言われる〉〔史記・屈原〕

②「被~所…」は、「~に…らる」とよみ、「~に…される」と訳す。受身を強調する意を示す。▽「為~所…」と、意味・用法ともに同じ。「纂被呂超所殺=纂呂超に殺さる」〈(呂)纂は呂超に殺された〉〔晋書・列女・呂纂妻楊氏〕

字通

[形声]声符は皮(ひ)。皮に表面に被るものの意がある。〔説文〕八上に「寢衣なり。長さ一身有半」とあり、〔論語、郷党〕「必ず寢衣有り」の〔鄭玄注〕に「今の小臥被、是れなり」という。衾(きん)は大被でかけ布団。すべて上より被い加えるものをいい、また他より受ける関係のことにも用いて受身の意となる。被離(ひり)は擬声語、ばらばらというのに当たる。

悱(ヒ・11画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpʰi̯wər(上)で、同音に霏”雪が降る”・妃・騑”そえうま”・斐”うるわしい”・菲”野菜の名”。部品の非の字は、語義が共通しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。非は、二つに割れる意を含む。悱は「心+(音符)非」で、心がはりさけるようでむかむかすること。類義語に怒。

語義

  1. (ヒス){動詞}いらいらして胸が痛む。いらだつ。「不悱不発=悱せずんば発せず」〔論語・述而〕

字通

[形声]声符は非(ひ)。非に不安定の意がある。〔説文新附〕十下に「口、悱悱たるなり」とあり、また誹(ひ)・悲に通じて用いる。

菲(ヒ・11画)

初出は前漢の隷書で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpʰi̯wər(上)で、同音に霏”雪の降るさま”、妃、騑”そえうま”、斐”うるわしい”、悱”言い悶える”。斐の字に”軽いさま”の語釈を『大漢和辞典』が載せるが、初出は後漢の『説文解字』

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)非(左右にひらく、うすっぺら)」。

語義

ヒ(平)
  1. {名詞}野菜の名。かぶらの類。根・葉ともに食べられる。▽粗末な食事にたとえることもある。
  2. {形容詞}うすい(うすし)。厚み、重みがない。また、少ししかない。《対語》⇒厚。「菲才(ヒサイ)」「菲食(ヒショク)」。
  3. {動詞}うすくする(うすくす)。少なくする。また、粗末な物にかえて倹約する。「菲飲食=飲食を菲くす」〔論語・泰伯〕
  4. {形容詞}草木が左に右にとはびこるさま。▽平声に読む。「菲菲(ヒヒ)」。
ヒ(去)
  1. {名詞}ぞうり。

字通

[形声]声符は非(ひ)。〔説文〕一下に「芴(かぶら)なり」とあり、かぶらの類。字は多く菲薄の意に用い、菲食・菲才のようにいう。芳菲のように、よく茂って美しい意に用いることがある。

斐(ヒ・12画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpʰi̯wər(上)。同音に霏”雪の降るさま”、妃、騑”添え馬”(以上平)、菲”野菜の名・うすい”、悱”言い悶える”(以上上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。非(ヒ)は、羽が左右の両側にそむいたさまを描いた象形文字。斐は「文(もよう)+(音符)非」で、左と右と対称するもよう。非(そむく)・扉(ヒ)(左右に開くとびら)と同系。

語義

  1. (ヒタリ){名詞・形容詞}あや。左右反対になった模様。模様や飾りが美しい。「斐然成章=斐然として章を成す」〔論語・公冶長〕

字通

[形声]声符は非(ひ)。非は比櫛(ひしつ)(すきぐし)の象で、左右にならぶ意がある。〔説文〕九上に「分別して文あるなり」とし、〔易、革、象伝〕「君子豹變(へうへん)す。其の文斐(うるは)し」の文を引く。今の〔易〕は「其の文蔚(うるは)し」に作る。〔詩、衛風、淇奥(きいく)〕「匪(ひ)たる有る君子」の匪は斐の意。〔毛伝〕に「匪は文章ある貌なり」という。他に賁(ふん)・斑(はん)・斌(ひん)・彬(ひん)などもその意に用いる。〔論語、公冶長〕「斐然として章を成す」は、その才徳あることを称する語。また靡然(びぜん)の意に用い、〔史記、太史公自序〕に「諸侯の士をして斐然として、爭うて入りて秦に事(つか)へしむ」の語がある。


靡然(ヒゼン):草木が風になびくように、なびき従うさま。

費(ヒ・12画)

論語 費 金文
『字通』所収金文

春秋時代には「弗」と書き分けられず、初出は春秋早期の金文。カールグレン上古音はpʰi̯wəd(去)。去声の至-幫、未-奉の音は不明。魯国門閥家老筆頭、季孫氏の根城の名でもあった。

学研漢和大字典

会意兼形声。弗(フツ)は「豆のつる+ハ印(ふたつにわける)」の会意文字で、まとまった物を左と右にはらいわけること。拂(=払。はらう)の原字。費は「貝(財貨)+(音符)弗(フツ)」で、財貨を支払って、ばらばらに分散させてしまうこと。非(ヒ)(二つにわける)・霏(ヒ)(ばらばら)と同系。また分や貧は、その語尾がnに転じたことば。

語義

  1. {動詞}ついやす(つひやす)。まとまった金品をばらばらに分散させて使いへらす。また、力や心を使いへらす。「消費」「費力=力を費やす」「費言=言を費やす」「君子恵而不費=君子は恵みて費やさず」〔論語・尭曰〕
  2. {名詞}ついえ(つひえ)。つかうための金品。もとでとなる金銭。支出する費用。「経費」「学費」「費用」。
  3. (ヒナリ){形容詞}つかいすぎである。よけいな。「辞費」。
  4. {名詞}地名。春秋時代の魯(ロ)の領地の一つ。今の山東省費県にあたる。▽去声に読む。

字通

[形声]声符は弗(ふつ)。〔説文〕六下に「財用を散ずるなり」とあり、弗に敝・敗の意を含むようである。〔呂覧、禁塞〕に「神(こころ)を費やし魂を傷(いた)ましむ」とあり、精神を労することをもいう。〔論語、尭曰〕に「君子は惠なるも費やさず」とあり、費は徒費を意味した。

備(ヒ・12画)

備 金文
洹子孟姜壺・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はbʰi̯əɡ(去)。「ビ」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側(音ビ)は、矢を射る用意として矢をぴたりとそろえて入れたえびらを描いた象形文字で、箙(フク)とも書く。備はそれを音符とし、人をそえた字で、主役の事故を見越して用意のためそろえておく控えの人の意。用意のためにそろえておくの意の動詞に用い、また、転じて、ひとそろい、そろえての意の副詞となる。副(フク)と同系。類義語の具(ツブサニ)は、具体的に、こまごまとの意。異字同訓に供える「お神酒を供える。お供え物」。

語義

  1. {動詞}そなえる(そなふ)。そなわる(そなはる)。ぴたりとそろえて用意しておく。また、あらかじめそろえておく。「準備」「備他盗之出入与非常也=他盗の出入と非常ともに備へしなり」〔史記・項羽〕
  2. {動詞}そなわる(そなはる)。そなえる(そなふ)。ひとそろいの列や数の中にはいる。広く、参加する。また、参加させる。「君、即以遂備員而行矣=君、即ち遂を以て員に備へて行け」〔史記・平原君〕
  3. {動詞・形容詞}そなえる(そなふ)。そなわる(そなはる)。ぴったりと必要なものをそろえる。また、必要なものがそろうさま。「完備」「求備焉=備はらんことを求む」〔論語・子路〕
  4. {名詞}そなえ(そなへ)。都合のよくないことがおこったときのてだて・用意。「因為之備=因りてこれが備へを為す」〔韓非子・五蠹〕
  5. {副詞}つぶさに。ひとそろい。何から何まで。《類義語》具(グ)。「備述其本末=備に其の本末を述ぶ」〔離魂記〕
  6. 《日本語での特別な意味》「吉備(キビ)」の略。「備前」「芸備」。

字通

[形声]声符は𤰈(び)。𤰈はえびらの形。これを負って、出陣に備えることを備という。〔説文〕八上に「愼(つつし)むなり」と訓し、𤰈三下を「具ふるなり」と訓するが、備が備具の意である。ただ金文には備を𤰈の字とし、〔洹子孟姜壺(かんしもうきようこ)〕に「璧玉備(ふく)一𤔲(し)」「璧二備~を用ふ」のように、備の字を用いて璧玉を数える助数詞とする。玉を箙(えびら)状の槖(ふくろ)に入れたのであろう。〔詩、小雅、楚茨〕に備(ふく)・告(こく)を韻し、備を箙(ふく)の声によむ。ことに備えるには詳審であることを要するので、「つぶさに」の意となる。

裨(ヒ・13画)

裨 金文
戈冬簋・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はpi̯ĕɡ(平)。論語語釈「卑」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「衣+(音符)卑(小さい)」。小さいあてぎれ。類義語に助。

語義

  1. 動詞・名詞}おぎなう(おぎなふ)。小さい布をそえて当てる。あてぎれ。おぎない。「無裨(ムヒ)(たすけにならない)」「裨益(ヒエキ)」。

  1. {動詞}たすける(たすく)。補佐する。《類義語》輔(ホ)。
  2. {形容詞}小さい。《同義語》稗。「裨海(ヒカイ)」。
  3. {名詞}ひめがき。《同義語》陴。
  4. 「裨衣(ヒイ)」とは、天をまつるときに着用する衣服以外の、天子の衣服のこと。

字通

[形声]声符は卑(ひ)。金文に卑を使役の意に用いる。〔説文〕八上に「接(つ)ぎ益すなり」とあって、布帛の足らざるを補うことをいう。それより裨補・裨益の意となり、また裨将(副将)のように用いる。金文の字形は衣中に卑を加える会意の造字法をとっている。もと招魂続魄(魂振り)の意をもつ行為をいう字であったのであろう。

鄙(ヒ・14画)

鄙 金文
𦅫鎛・春秋中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯əɡ(上)。

学研漢和大字典

会意兼形声。啚(ヒ)は、米倉・納屋を描いた象形文字。鄙は「邑+(音符)啚」、米倉や納屋のある農村、いなかをあらわす。「卑」に書き換えることがある。「野卑」。

語義

  1. {名詞}周代の制度で、県の一つ下の単位。五鄙で県になる。
  2. {名詞}ひな。いなか。また、辺境にあるむら。「辺鄙(ヘンピ)」「四鄙(シヒ)(四方の国境)」「伐我西鄙=我が西鄙を伐つ」〔春秋・荘一九〕
  3. {形容詞}いやしい(いやし)。ひなびた。いなかくさい。けちくさい。また、自分のことをへりくだっていう。「鄙夫(ヒフ)」「鄙願(ヒガン)」。
  4. {動詞}いやしむ。いやしいと考える。軽視する。軽蔑(ケイベツ)する。「夫猶鄙我=それなほ我を鄙しむ」〔春秋左氏伝・昭一六〕

字通

[形声]声符は啚(ひ)。啚は鄙の初文。〔説文〕六下に「五酇(ごさん)を鄙と爲す」と〔周礼、地官、遂人〕の制によって説く。一酇は百家、五百家を鄙とする。啚の下部は廩倉(りんそう)の像、上部の囗(い)は邑の従うところと同じく、その地域・区画を示す。もと農耕地の耕地と廩倉とをいう。金文に「都啚(とひ)」とあり、都と鄙と対文。啚に邑を加えて鄙となる。その鄙を、地域の全体の関係において示すものを圖(図)という。すなわち経営的な農地で、圖に地図の意と図謀・企図の意とがある。

罷(ヒ・15画)

初出は秦系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(上)。藤堂上古音はbɪar(平/上)またはbǎr(上)。

学研漢和大字典

会意。「网(あみ)+能(力の強い者)」で、力ある者が、網にかかったように動けなくなる。力がつきてつかれるなどの意をあらわす。「やめる」は「止める」「辞める」とも書く。また、「やむ」は「止む」「已む」とも書く。

語義

ヒ(平)
  1. {動詞・形容詞}つかれる(つかる)。力がなえてだらりとする。がっくりする。また、そのさま。《同義語》⇒疲。「罷病(ヒヘイ)(=疲病)」「罷弱(ヒジャク)」。
  2. {動詞}さそう(さそふ)。引きおこす。おびき出す。また、そそのかす。「誘因」「誘惑」。
ハイ(上)
  1. {動詞}やめる(やむ)。力がなえて作業をやめる。作業を中止する。「罷業=業を罷む」「罷工」「欲罷不能=罷めんと欲すれど能はず」〔論語・子罕〕
  2. {動詞}役目をやめさせる。しりぞける。「罷免」。
  3. {動詞}やむ。おわる(をはる)。動詞のあとにつけ、しおわる意をあらわす。「粧罷=粧罷む」。
  4. 《日本語での特別な意味》まかる。尊い所から退出する。

字通

[会意]网(あみ)+能。能は獣の形。獣に网して、その罷労するのを待つ意。〔説文〕七下に「辠(つみ)有るを遣(ゆる)すなり」とし、「网能に從ふ。网は辠网(ざいまう)なり。賢能有りて网に入り、卽ち貰(ゆる)して之れを遣(つか)はすを言ふ」(段注本)と解する。卜文には网の下に鹿・豕(し)・雉など、鳥獣の形を加えるものが多い。罷労の意より、やむ、ゆるすの意となる。

譬(ヒ・20画)

論語 譬 金文大篆
(金文大篆)

初出は後漢の『説文解字』。カールグレン上古音はpʰi̯ĕɡ(去)。藤堂音はp’iəg。論語語釈「辟」も参照。

論語為政篇1に出てくるが、その本章は短く、おそらく孔子の肉声と思われ、この文字だけを理由に後世の創作とはし難い。では論語の時代どのような文字で書かれていたのかは、『字通』などを引いてもはっきりしない。『大漢和辞典』で”たとえる”を引いても、「ヒ」系統の音の字はこれしかない。

あるいは源・論語では、「」(ならべる・くらべる・たぐい)を書いたのではあるまいか。

上古(周秦) 中古(隋唐) 北京語 ピンイン
p’iəg p’iě p’i p’i
pier pii pi pi

※ə(シュワー)は”あいまいなe”。ĕ(eハーチェク)は”短いe”。ʰと’は有気音(息漏れを伴う)。gは鼻濁音(鼻に息を通す)を示す。

ただし部品の辟は甲骨文からあり、『大漢和辞典』に”たとえる”の語釈を載せる。その際の音を大漢和は『集韻』に基づき「匹智切」と言うが、その場合のカールグレン音、藤堂音は不明。『学研漢和大字典』は、”君、召す”の意味の場合、上古音はpiekだといい、”罪、避ける”の場合はbiekという。漢字古今音資料庫は、全濁の場合bi̯ĕkといい、全清の場合pi̯ĕkという。

学研漢和大字典

本筋で押さず、いったん横にそれて、他の事物をもってきて話すこと。わからせるために、他の事物をひきあいに出して話すこと。また、わからせるために横からもちこんだ例。比喩(ヒユ)。

解字は会意兼形声文字で、辟(ヘキ)は「人+辛(刃物)」からなる会意文字。人の肛門(コウモン)に刃物をさして横に二つに裂く刑罰。劈(ヘキ)(よこに裂く)の原字。譬は「言+〔音符〕辟」で、本すじを進まず、横にさけて別の事がらで話すこと。

意味

  1. {動詞・名詞}たとえる(たとふ)。たとえ(たとへ)。本筋で押さず、いったん横にそれて、他の事物をもってきて話す。わからせるために、他の事物をひきあいに出して話す。また、わからせるために横からもちこんだ例。比喩(ヒユ)。「譬如泰山=譬へば泰山のごとし」「能近取譬=能く近く譬を取る」〔論語・雍也〕

字通

声符は辟。〔説文〕三上に「諭すなり」とあり、譬喩の意。〔淮南子、要略〕に「象を仮りて耦(似たもの)を取り、以て相い譬喩す」とみえる。

訓義

  1. たとえる、たぐえる、たとえ。
  2. さとす、それとなくいう。

味(ビ・8画)

初出は戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はmi̯wəd(去)。同音は部品の未のみで、”あじ”の語義は無い。『大漢和辞典』で”あじ”の訓を持つのはこの文字だけ、他は魚の”アジ”である。「ミ」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。未は、細いこずえの所を強調した象形文字で、「微妙」の微と同じく、細かい意を含む。味は「口+(音符)未」で、口で微細に吟味すること。付表では、「三味線」を「しゃみせん」と読む。

語義

  1. {名詞}あじ(あぢ)。あじわい(あぢはひ)。もののあじの感覚。「味覚」「含味」「三月不知肉味=三月肉の味を知らず」〔論語・述而〕
  2. {名詞}漢方医学で、栄養のこと。「陽為気、陰為味=陽は気と為り、陰は味と為る」〔黄帝内経〕
  3. {名詞}あじ(あぢ)。心に感じるおもしろさ。「趣味」。
  4. {動詞}あじわう(あぢはふ)。あじをためす。「味読」。

字通

[形声]声符は未(み)。未に夭若なるものの意があり、そこに滋味を生ずる。〔説文〕二上に「滋味なり」とあり、五味をいう。〔老子、六十三〕に「無味を味とす」とあり、滋味は自然のうちに存するものとされた。

彌/弥(ビ・8画)

彌 金文
𦅫鎛・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はmi̯ăr(平)。

学研漢和大字典

形声文字。爾(ジ)は、柄のついた公用印の姿を描いた象形文字で、璽の原字。彌は「弓+(音符)爾」で、弭(ビ)(弓+耳)に代用したもの。弭は、弓のA端からB端に弦を張ってひっかける耳(かぎ型の金具)のこと。弭・彌は、末端まで届く意を含み、端までわたる、とおくに及ぶなどの意となった。▽弭(ビ)・(ミ)は、端に届いて止まる、の意に用いられる。

語義

  1. {動詞}わたる。端まで届く意から転じて、A点からB点までの時間や距離を経過する。「弥久=久しきに弥る」「動弥旬日=動もすれば旬日に弥る」〔白居易・与微之書〕
  2. {形容詞}あまねし。広く端まで行きわたっている。すみずみまで行きわたっているさま。「弥漫(ビマン)」「弥縫(ビホウ)(ほころびた所をすみまで縫ってつくろう)」「蒹葭弥斥土=蒹葭斥土に弥し」〔曹植・盤石篇〕
  3. {形容詞}とおい(とほし)。ひさしい(ひさし)。関係や時間がとおい端まで及ぶさま。「弥甥(ビセイ)(遠縁のおい)」。
  4. {副詞}いよいよ。遠くのびても、いつまでも程度が衰えない意をあらわすことば。ますます。《類義語》愈(イヨイヨ)。「仰之弥高=これを仰げば弥高し」〔論語・子罕〕
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①いや。いよいよ。ますます。
    ②梵語(ボンゴ)「ミ」の音訳字。「阿弥陀(アミダ)」。

字通

[会意]正字は镾に作り、長+爾(じ)。〔説文〕九下に「久長なり。長に從ひ、爾聲」とするが、声が合わず、長は長髪の象。金文に字を弥 彌 外字に作り、弓と日と爾とに従う。弓は祓邪の呪具として用いられ、日は珠玉の形。爾は婦人の上半身に文身(絵文(かいぶん))を施している形。これによってその人の多祥を祈る意であろう。ゆえに金文に「考命彌生(びせい)」のようにいう。金文の〔𦅫鎛(そはく)〕に「用(もつ)て考命弥 彌 外字生ならんことを求む」、〔蔡姞𣪘(さいきつき)〕に「厥(そ)の生を弥 彌 外字(をふ)るまで、霊終(れいしゆう)ならんことを」のように用いる。镾はおそらく後の譌字。〔説文〕はその字によって説をなしている。

美(ビ・9画)

論語 美 金文
美爵・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯ər(上)。

学研漢和大字典

会意。「羊+大」で、形のよい大きな羊をあらわす。微妙で繊細なうつくしさ。▽義・善・祥などにすべて羊を含むのは、周人が羊を最もたいせつな家畜としたためであろう。微(ビ)・眉(ビ)(細いまゆげ)・尾(細いおの毛)・媚(ビ)(なまめかしい)などと同系。類義語の麗(レイ)は、すっきりと整っている。艶(エン)は、つやっぽい。甲(コウ)は、なまめかしい。娟(ケン)は、細くしなやか。草書体をひらがな「み」として使うこともある。▽草書体からひらがなの「み」ができた。

語義

  1. (ビナリ){形容詞}うつくしい(うつくし)。見た目が細やかでかっこうがよい。みめよい。《類義語》斡(ビ)・媚(ビ)。《対語》悪・醜(みっともない)。「優美」「美孟姜矣=美なる孟姜矣」〔詩経・眇風・桑中〕。「美女為媛、美士為彦=美女を媛と為ひ、美士を彦と為ふ」〔爾雅・釈訓〕
  2. (ビナリ){形容詞}よい(よし)。うまい(うまし)。物事がよい感じである。味がよい。「美風」「美味」。
  3. (ビトス){動詞}ほめる(ほむ)。よいと認める。《対語》悪(にくむ)。《類義語》善(よしとす)。「美之也=これを美むるなり」〔春秋穀梁伝・僖九〕
  4. {名詞}微妙なうつくしさ。うつくしいこと。《対語》悪。「真善美」「尽美矣、未尽善也=美を尽くせり、いまだ善を尽くさず」〔論語・八飲〕
  5. 《俗語》「美国(メイクオ)」とは、アメリカ合衆国。▽「美利堅合衆国」の略。
  6. 《日本語での特別な意味》「美濃(ミノ)」の略。「美州」。

字通

[象形]羊の全形。下部の大は、羊が子を生む時のさまをたつというときの大と同じく、羊の後脚を含む下体の形。〔説文〕四上に「甘きなり」と訓し、「羊に従ひ、大に従ふ。羊は六畜に在りて、主として膳に給すものなり。美は善と同意なり」とあり、羊肉の甘美なる意とするが、美とは犠牲としての羊牡をほめる語である。善は羊神判における勝利者を善しとする意。義は犠牲としての羊の完美なるものをいう。これらはすべて神事に関していうものであり、美も日常食膳のことをいうものではない。

大漢和辞典

うまい。うつくしい。よい。めでたい。よみする。よくする。なる。しげる。みちる。あふ。ただしい。たのしむ。よろこび。さいはひ。アメリカ合衆国の略称。

媚(ビ・12画)

媚 金文
子媚爵・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯ər(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声。「女+(音符)眉(ビ)(細く美しいまゆ)」で、こまやかな女性のしぐさのこと。微妙の微と同系。

語義

  1. {動詞}こびる(こぶ)。なまめく。なまめかしさでたぶらかす。また、へつらって人の気を引く。「媚態(ビタイ)」「閹然媚於世也者是郷原也=閹然として世に媚ぶる者は是れ郷原なり」〔孟子・尽下〕
  2. {名詞}こび。なまめいたしぐさ。なまめかしさ。
  3. {形容詞}みめよい(みめよし)。顔や姿が、こまやかで美しい。転じて、風景が美しい。「風光明媚(メイビ)」。

字通

[形声]声符は眉(び)。眉は眉飾。眉飾を加えた巫女を媚という。卜文・金文に眉下に女を加えてその眉飾を強調する字があり、それが媚の初文である。〔説文〕十二下に「説(よろこ)ぶなり」と訓するが、もと神を悦ばせるものであった。のち〔詩、大雅、仮楽〕「天子に媚(よろこ)ばる」、〔詩、大雅、巻阿〕「庶人に媚ばる」のように用いる。媚飾を加えた巫女は、いわゆる「媚蠱(びこ)」の呪儀をなすもので、「媚蠱」の語は古く卜辞にみえ、のち漢代に巫蠱媚道のことが多く、そのことが原因で、しばしば大乱を招いた。〔周礼、天官、内宰、疏〕に「妖邪巫蠱、以て自ら衒媚す」とあって、人形(ひとがた)などを用い、人を呪詛する法をいう。

微(ビ・13画)

徵 微 金文
徵□簠・春秋

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯wər(平)。論語の時代、「徴」と書き分けられていなかった。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音ビ)は「━線の上下に細い糸端のたれたさま+攴(動詞のしるし)」の会意文字で、糸端のように目だたないようにすること。微はそれを音符とし、彳(いく)をそえた字で、目だたないようにしのびあるきすること。未(ミ)・(ビ)(よくわからない)・昧(マイ)(暗くてよく見えない)などと同系。

語義

  1. {形容詞}かすか(かすかなり)。ほのかではっきり見えない。また、小さくて目だたないさま。おとろえているさま。《対語》⇒顕。「微細」「衰微」「世衰道微=世衰へて道微かなり」〔孟子・滕下〕
  2. {形容詞}身分が低くて、目だたない。「微臣」。
  3. {名詞}小さくて、目だたないもの。
  4. {副詞}わずかに(わづかに)。かすかに。→語法「①」。
  5. {副詞}ひそかに。→語法「②」。
  6. {動詞}ない(なし)。ないことをあらわすことば。《同義語》⇒靡(ビ)。《対語》⇒有。《類義語》無。→語法「③④」。
  7. {単位詞}一の百万分の一。忽の十分の一。繊の十倍。

語法

①「わずかに」「かすかに」とよみ、「ほんの少し」と訳す。「東林気微白、寒鳥忽高翔=東林気微かに白み、寒鳥忽(たちま)ち高翔す」〈東の林は大気がほんの少し白み(夜が明け始め)、寒々わたる鳥は高く舞い上がる〉〔崔署・早発交崖山還太室作〕

②「ひそかに」とよみ、「目立たないように」と訳す。「乃使人微感張儀=乃(すなは)ち人をして微(ひそ)かに張儀に感ぜ使む」〈そこで人をやって、それとなく張儀の心を動かせた〉〔史記・張儀〕

③「~なくとも」とよみ、「かりに~がないとしても」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。「微太子言、臣願謁之=太子の言微(な)くとも、臣これを謁(つ)げんことを願へり」〈殿下(燕の太子丹)のお言葉がなくとも、こちらからお目通りをお願いするつもりでした〉〔史記・刺客〕

④「~なかりせば」「~なくんば」とよみ、「~がなかったとしたら」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「微趙君、幾為丞相所売=趙君微(な)かりせば、幾ど丞相の売る所と為らんとす」〈趙君(趙高)がいなかったならば、危うく宰相にしてやられるところであった〉〔史記・李斯〕

字通

[形声]声符は𢼸(び)。𢼸は媚蠱(びこ)をなす巫女を殴(う)って、敵の呪能を弱め、失わせる共感呪術的な方法をいう。それは速やかに伝達させるために道路で行われ、また陰微のうちに行われた。本義は、敵の呪的な力を減殺(げんさい)することをいう。媚女を戈(ほこ)にかけて殺すことを蔑(べつ)といい、蔑もまた「蔑(な)くする」こと、「蔑(かろ)んずる」ことをいう。微・蔑は相似た呪的な行為をいう字である。

匹(ヒツ・4画)

論語 匹 金文
無㠱簋・西周中期

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はpʰi̯ĕt(入)。

学研漢和大字典

会意。「厂(たれた布)+二つのすじ」で、もとは匸印を含まない。布ふた織りを並べてたらしたさまで、ひと織りが二丈の長さだから、四丈で一匹となる。二つの物を並べてペアをなす意を含む。比(ヒ)(二つ並ぶ)と同系。

語義

  1. {名詞}たぐい(たぐひ)。一対をなす相手。また、二つで一組となるもの。「匹敵」「匹配(連れあい)」▽「匹夫(ヒップ)」「匹婦(ヒップ)」とは、ペアをなす男女の片方。転じて、ひとりの男、ひとりの女の意となる。
  2. {単位詞}布の長さの単位。一匹は布のふた織り、つまり四丈(約九・四メートル)。▽昔の布は二丈(約四・七メートル)でひと織りであった。《同義語》⇒疋。
  3. {単位詞}家畜や飼い鳥などを数える単位。▽もと馬のしりが左右二つにわかれてペアをなしていることから、馬のしりを見てその数を一匹、二匹と数えた。

字通

[象形]馬が並んでいる前脚と胸腹部とを、複線的にしるしたもので、もと馬匹を示す字であったと思われる。金文の賜与に馬匹・馬四匹という例があり、四匹は合文の形でしるすことが多い。〔説文〕十二下に「四丈なり。匸(けい)八に從ふ。八揲(かさね)にして一匹なり。八は亦聲なり」と布帛の長さをいうとするが、字は八に従う形でなく、布帛の長さというのも原義でない。馬匹を複数的に表示するところから匹配・匹耦の意となり、また匹敵のように用いる。字はまた疋に作る。匹に足の形を加える。

必(ヒツ・5画)

論語 必 金文
㝨盤・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯ĕt(入)。

学研漢和大字典

論語 必 解字
象形。棒切れを伸ばすため、両がわから、当て木をして、締めつけたさまを描いたもの。両がわから締めつけると、動く余地がなくなることから、ずれる余地がなく、そうならざるをえない意を含む。柲(ヒツ)(弓だめの当て木)の原字。泌(締めつけて液が出る)・秘(締めつけてぴったりふさぐ)と同系。類義語の会は、俗語の副詞で、そうなる可能性の多いこと。須(スベカラク…スベシ)は、ぜひそうする必要がある、の意。

語義

  1. {副詞}かならず。→語法「①②③④⑤」。
  2. (ヒッス){動詞}ぜひともそうであろうとする。「明主必其誅也=明主は其の誅を必するなり」〔韓非子・五蠹〕

語法

①「かならず」とよみ、

  1. 「かならず~だ」と訳す。一般的な常識や普遍的な法則に照らしてみて必然である意を示す。《類義語》会。「三人行必有我師焉=三人行へば必ず我が師有り」〈三人で行動したら、きっとそこに自分の師がいる〉〔論語・述而〕。「信賞必罰(功あれば必ずほめ、罪あれば必ず罰する)」
  2. 「きっと~するにちがいない」と訳す。将来におこる事態の強い必然性を示す。「後必有災=後に必ず災ひ有らん」〈あとに必ず災難が残るでしょう〉〔孟子・梁上〕
  3. 「どうしても~であるなら」と訳す。仮定の意を示す。▽「必不~=かならず~ず」と、全部否定で多く用いられ、「どうしても~しないなら」と訳す。「必不得已而去、於斯三者何先=必ず已(や)むことを得ずして去らば、この三者におひて何をか先にせん」〈どうしてもやむを得ずに捨てるなら、この三つの中でどれを先にしますか〉〔論語・顔淵〕

②「不必~」は、「かならずしも~ず」とよみ、「必ず~であるとは限らない」と訳す。部分否定。「仁者必有勇、勇者不必有仁=仁者は必ず勇有り、勇者は必ずしも仁有らず」〈仁の人にはきっと勇気があるが、勇敢な人に仁があるとは限らない〉〔論語・憲問〕▽「未必=いまだかならずしも~ず」「非必=かならずしも~にあらず」も、意味・用法ともに同じ。

③「必不~」は、「かならず~ず」「かならず~ざらん」とよみ、「きっと~しない」「どうしても~しない」と訳す。全部否定。「人主兼擧匹夫之行、而求致社稷之福、必不幾矣=人主兼ねて匹夫の行を擧げて、而(しか)も社稷(しゃしょく)の福を致(いた)さんことを求む、必ず幾せられず」〈君主が民間の個人的な徳行をすべて尊重しながら、国家の福利をもたらすことを求めても、とうていかなえられないことである〉〔韓非子・五蠹〕

④「何必~」は、「なんぞかならずしも~ならん・せん」とよみ、「どうして~であろうか(いやそのようなことはありえない)」「~する必要があろうか(いや必要ない)」と訳す。反語の意を示す。「王何必曰利=王なんぞ必ずしも利を曰はん」〈王は、どうして利益ばかりを問題になさる必要がありましょうか〉〔孟子・梁上〕

字通

[象形]柄のある兵器の、刃を装着する柲(ひつ)の部分の形で、柲の初文。戈(ほこ)・矛(ほこ)・鉞(まさかり)の頭部を柄に装着する形は弋(よく)、その刃光の発する形は必・尗(しゆく)で、尗は叔(白)の初文。その刃部を主調とする字である。〔説文〕二上に「分極なり。八弋に從ふ。弋は亦聲なり」とするが声が合わず、分極の意も明らかでない。弋は柲部の形であるが、金文にその形を「必ず」という副詞に用いる。

訓義

兵器の柲部、柲の初文。仮借して必ずの意に用いる。なす、ついに、もっぱらなどの意に用いる。

冰/氷(ヒョウ・5画)

冰 金文
集成4875金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声。もと、こおりのわれめを描いた象形文字。それが冫(二すい)の形となった。冰(ヒョウ)は「水+(音符)冫」。氷は、その略字。▽冫(二すい)は、凍・寒などの字では、こおりをあらわす意符として用いられる。馮(ヒョウ)(ぽんとぶつかってくだける)・崩(ばさりとくずれる)などと同系。異字同訓にこおり⇒凍。

語義

  1. {名詞}こおり(こほり)。ひ。水がこおってできる割れやすい性質をもった固体。「氷山」「製氷」「如履薄冰(=氷)=薄冰(=氷)を履むがごとし」〔論語・泰伯〕。「冰水為之、而寒於水=冰は水これを為(つく)り、水よりも寒し」〔荀子・勧学〕
  2. {動詞}こおる(こほる)。水がこおって固体になる。「氷点」。
  3. {形容詞}こおりのように、すきとおって清らかなことのたとえ。「一片氷心=一片の氷心」。
  4. {形容詞}こおりのように、冷たい。また、こおりのようにとけやすいさま。「氷姿」「氷解」。

字通

[象形]正字は仌に作り、氷結の象形。〔説文〕十一下に「凍るなり。水の冰(こほ)るの形に象る」(段注本)という。また次条に冰を出して「水堅きなり。仌に從ひ、水に從ふ」とするが、この二字を別字とすることは疑問である。斉器の〔陳逆𣪘(ちんぎやくき)〕に「冰月」の語があり、その字は水旁に氷塊の小点を加えた形である。〔説文〕十一下はまた「凝、俗に冰は疑に從ふ」と冰・凝を一字とするが、漢碑に「冰霜」と「凝成」の字を区別して用いる。寒は仌に従う形の字であり、〔蛾術篇(ぎじゆつへん)、説字十五〕のように冰を後起の字とする説もあるが、冰はすでに斉器の金文にみえている字形である。

馮(ヒョウ/ホウ・12画)

馮 金文
姑馮𠯑同之子句鑃・春秋晚期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はbʰi̯əŋ(平)。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、冫の古い形は、氷がぶつかって割れめのできたさまを描いた象形文字。氷の原字。馮は「馬+(音符)冫」。向こうみずな馬のように、ぽんとぶつかっていくこと。また、両方からぶつかりあうこと。氷(ぶつかって割れるこおり)と同系のことば。

語義

ヒョウ(平)
  1. 動詞}向こうみずにぶつかっていく。「馮陵(ヒョウリョウ)」。
    ま{動詞}しのぐ。ぶつかって上になろうとする。せりあう。「小人伐其技以馮君子=小人は其の技に伐り以て君子を馮ぐ」〔春秋左氏伝・襄一三〕
  2. (ヒョウス){動詞}かちわたる。向こうみずに川にぶつかっていく。歩いて川をわたる。「馮河(ヒョウガ)」。
  3. {動詞}よる。たのむ。とんと、尻(シリ)をのせる。よりかかる。ゆだねる。たよりにする。《同義語》⇒凭・憑。「馮几=几に馮る」。
  4. 「馮馮(ヒョウヒョウ)」とは、ぶつかるときの音の形容。
フウ(平)
  1. {名詞}姓の一つ。

字通

[形声]声符は仌(氷)(ひよう)。〔説文〕十上に「馬行くこと疾(はや)きなり」とあり、馬が競うように疾走することをいう。馮怒・馮盛の意は、その引伸義であろう。また古く憑依の意に用いる。おそらく馮怒・馮盛の状態が、神の憑依するエクスタシーの状態と似ており、馬のその状態を一種の憑依現象とする考えかたがあったのであろう。

表(ヒョウ・8画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpi̯oɡ(上)。同音は標など多数。

学研漢和大字典

会意。「衣+毛」で、毛皮の衣をおもてに出して着ることを示す。外側に浮き出るの意を含む。漂(ヒョウ)(水面に浮き出る)・標(ヒョウ)(高く外に出た目じるしの棒)などと同系。また袍(ホウ)(外側からつつむ外衣)とも縁が近い。類義語に著・面。異字同訓に現す・現れる「姿を現す。太陽が現れる。怪獣が現れる」 著す「書物を著す」 おもて 表「裏と表。表で遊ぶ。表向き」 面「面も振らずまっしぐらに。矢面に立つ」。

語義

  1. {名詞}おもて。衣服の外側。外側に出して着る衣服。上着。また、転じて、広く物事の表面・うわべ。また、そと。外側。外側にあらわれ出たもの。《対語》⇒裏(衣服のうら、うらがわ)。「表裏一体」「海表(海外)」「必表而出之=必ず表にしてこれを出だす」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}おもてにあらわれ出た姿・ようす。「表情」「表相」。
  3. {名詞}人々にあらわし示すてほん。のり。また、外にあらわし示すしるし。めじるし。「儀表(ギヒョウ)(てほん)」「墓表(墓のしるし)」。
  4. {名詞}事がらの全体を、ひと目でわかるように並記したもの。「年表」「一覧表」。
  5. (ヒョウス)(ヘウス){動詞}あらわす(あらはす)。あらわれる(あらはる)。ようすをおもてに出す。示す。また、外に出して知らせる。《類義語》現。「表現」「表明」。
  6. {名詞}君主や役所に対し、心意を表明するために書いた文章様式の名。また、その書。「出師表(スイシノヒョウ)」「辞表」。
  7. {名詞}日時計の、日の影をはかるためにたてた柱。《類義語》標。「時表(日時計の柱)」。
  8. {名詞}人の徳や善行をあらわしてたてる石柱。「碑表」。
  9. {形容詞・名詞}母方や妻方の縁による親戚(シンセキ)。父の姉妹や母の兄弟姉妹などの縁による親戚。異姓の親戚。「中表(母方のいとこ)」「表兄弟(母方のいとこ)」。
  10. 《俗語》時計のこと。《同義語》錶(ヒョウ)。
  11. 《日本語での特別な意味》
    ①おもて。人々の前。おおやけ。《対語》裏(ウラ)。「表ざた」「表街道」。
    ②おもて。所在する場所や、向かっている方角を示すことば。「国表(クニオモテ)」「江戸表」。
    ③おもて。家の外。

字通

[会意]衣+毛。獣毛のある側が皮の表。〔説文〕八上に「上衣なり。衣に從ひ、毛に從ふ。古は裘(きう)を衣(き)るに、毛を以て表と爲す」という。〔礼記、玉藻〕に「表裘して公門に入らず」とあり、毛を内にして服する、これを反裘という。金文の賜与に「虎■(上から冖+白+匕)(こべき)熏裏(くんり)」「虎■(上から冖+白+匕)朱裏」の類があり、虎皮に色の裏地をつけて用いた。表裏の意より表識・表題・表現・発表の意となる。

豹(ヒョウ・10画)

豹 金文
焂戒鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpeau(去)。

学研漢和大字典

形声。「豸+(音符)勺(ヒョウ)(=杓)」で、身のこなしが軽くて、よくとびこえる獣のこと。飄(ヒョウ)(軽くまいあがる)と同系。

語義

  1. {名詞}猛獣の名。とらに似ていて、やや小さく、背に黒いぶちの模様がある。ひょう。「豹文(ヒョウブン)・(ヒョウモン)」。

字通

[象形]豹斑のある豹の形。豹斑の形が、のち勺(しやく)の字形となった。〔説文〕九下に「虎に似て圜文(けんもん)あり」とし、勺声とするが、声が合わない。卜文に、豹斑を加えた虎形の字があり、もと全体象形の字である。

瓢(ヒョウ・17画)

初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰi̯oɡ(平)。同音は飄”つむじかぜ”と摽”叩く”。部品の「瓜」の初出は戦国早期の金文で、論語の時代にギリギリあったかどうかというところ。「票」の初出は戦国文字で、”ひょうたん”の語義は『大漢和辞典』に無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。票は「要(細い腰)の略体+火」の会意文字で、火が細く軽く舞いあがること。仏の原字。瓢は「瓜(うり)+(音符)票」で、腰が細くくびれて軽いひょうたんうり。漂(ヒョウ)(軽くて水に浮く)・驃(ヒョウ)(身の軽い馬)などと同系。「ひさご」「ふくべ」は「瓠」とも書く。

語義

  1. {名詞}ひさご。軽くて水に浮く大きなひょうたん。また、それを二つに割って、ひしゃくにする。《同義語》⇒勹(ヒョウ)。「瓢簞(ヒョウタン)」「瓢壺(ヒョウコ)(ひょうたんの中身をくりぬいた、酒や汁を入れるつぼ)」「一簞食、一瓢飲=一簞(いったん)の食、一瓢の飲」〔論語・雍也〕

字通

[形声]正字は𤌑(ひよう)に従い、𤌑声。𤌑は屍(しかばね)を焚(や)く象。その強い火勢によって軽挙浮動することをいう。瓢は〔説文〕七下に「蠡(れい)なり」と訓し、「瓠(こ)の省に從ひ、𤌑聲」という。蠡とは瓢を刳(く)りぬいて飲器としたもので、ふくべ。蠡は果臝(から)(じが蜂)で臝と声近く、腰の太い形の器を蠡という。〔論語、雍也〕「一瓢の飮」のように瓢を飲器に用いる。瓢は枝に垂れて風にも漂揺(ひようよう)するものであるから、瓢という。

苗(ビョウ・8画)

論語 苗 金文
苗姦盨・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯oɡ(平)。

学研漢和大字典

会意。「艸+田」。なわしろに生えた細くて弱々しいなえのこと。猫(ビョウ)(声もからだも細いねこ)・秒(か細い)などと同系。付表では、「早苗」を「さなえ」と読む。

語義

  1. {名詞}なえ(なへ)。まだのびていない細いいね。また、植物の、生えたばかりのもの。転じて、かぼそい物のたとえ。
  2. {名詞}ほそぼそとつながっていく血筋。また、子孫。「苗裔(ビョウエイ)」。
  3. {名詞}民族の名。華南からインドシナ北部山地に住み、農業を営む。もと、華南の中央部に住んでいたが、今は雲南・貴州・湖南省に多く住む。苗族。苗民。ミャオ族。

字通

[会意]艸(そう)+田。〔説文〕一下に「艸の田に生ずる者なり」とあり、禾苗(かびよう)をいう。また田猟の意に用い、〔左伝〕〔穀梁伝〕では夏、〔公羊伝〕では春の狩猟をいう。苗裔(びようえい)のように遠孫の意に用いるのは、秒・渺の声義に用いたものであろう。南方の苗族は古くは江南の地の東西の山地に居り、北方と対峙する雄族であった。

病(ビョウ・10画)

→病(ヘイ)

廟(ビョウ・15画)

論語 廟 金文
師酉簋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はmi̯oɡ(去)。

学研漢和大字典

会意。「广(いえ)+朝」で、朝まだきころ参拝するみたまやのこと。▽ビョウということばは貌(ボウ)と同系で、ほのかに祖先の容貌(ヨウボウ)を仰ぎ見る所の意を含む。

語義

  1. {名詞}みたまや。祖先をまつる堂。「祖廟(ソビョウ)」「宗廟(ソウビョウ)」「告廟=廟に告ぐ」。
  2. {名詞}ほこら。やしろ。「神女廟(シンジョビョウ)(仙女(センジョ)をまつったほこら)」「可憐後主還祠廟=憐れむべし後主も還た祠廟なるを」〔杜甫・登楼〕
  3. 「寝廟(シンビョウ)」とは、王の住む正面の御殿。
  4. 《日本語での特別な意味》朝廷。また、政治を行うところ。「廟議」。

字通

[会意]广(げん)+朝(ちよう)。もと朝礼を行うところ。それがまた廟所であった。〔説文〕九下に「先祖の皃を尊ぶなり」と、廟・貌(ぼう)の畳韻を以て訓する。金文の廷礼冊命(さくめい)はすべて宮廟の中廷で行われており、その祖霊の在るところを寝・室という。周の七廟制は康宮を宗とし、康昭宮・康穆宮を左右に相次第したもので、康・昭・穆三世の廟にはじまるものであったと考えられる。

貧(ヒン・11画)

貧 楚系戦国文字 論語 貧 篆書
(楚系戦国文字・篆書)

カールグレン上古音はbʰi̯ən(平)。同音に牝(メス)。この文字は論語以前の甲骨文や、論語時代の金文には見られず、戦国時代の楚・秦の文字として現れる。しかし”まずしい”を意味する言葉が当時無かったとは考えがたく、当時の言葉と筆記の候補として、近音の勻(イン・キン、すくない。現在では均と書く)が挙げられる。ただし勻の上古音韻母はカールグレンによるとɡi̯wĕn(平)であり、貧のそれはbʰi̯ən(平)だから、全き音通ではない。
勻 標本

また藤堂上古音はt’əmであり、勻は動詞”平均する”はgiuən(gの上に〇)であり、形容詞”平均している”はkiuən。やはり全き音通ではない。
勻 大漢和辞典

『学研漢和大字典』勻字条

会意。腕をまるくひと回りさせた形に、二印(並べる)を添えたもの。ひと回り全部に行き渡って並べる意をあらわす。均の原字。韻(=韵。音調がととのう)・尹(イン)(むらがなく行き渡っておさめる)と同系。

  1. イン:{動詞}ととのう(ととのふ)。平均して行き渡る。均斉がとれている。「肌理細膩骨肉逢=肌理細膩(さいじ)にして骨肉奔(ととの)ふ」〔杜甫・麗人行〕
  2. キン:{形容詞}平均している。むらがないさま。《同義語》⇒均。

『字通』勻字条

[会意]勹(ほう)+二。〔説文〕九上に「少なり。勹二に從ふ」とするが、その会意の義について説くところがない。あるいは包裹する所が少ないとするのであろう。勹は旬の初文で、光るもの。二は〓の形で、一定量の金属を鋳こんだ塊の形、金文にその字形がみえる。鈞の初文。

  1. 一定量であるから、ひとしい、あまねし、ととのう。
  2. 小塊の形であるから、すくない、わかつ。

なお論語の時代は貨幣経済より前であり、”まずしい”とは金のないことを意味しない。その意味で「貝」=貨幣を含んだ漢字が、論語の時代に無いのはむしろ当然と言える。

学研漢和大字典

会意兼形声。分(ブン)は「八印(わける)+刀」の会意文字で、二つにわけること。貧は「貝+(音符)分」で、財貨を分散しつくして、乏しくなったことをあらわす。

意味

  1. {形容詞}まずしい(まづし)。財産が乏しい。物がなくて動きがとれない。《類義語》賤(セン)・困。「貧而無諂=貧しくして諂ふこと無し」〔論語・学而〕
  2. {名詞}まずしい人。また、まずしさ。「赤貧」「居貧=貧に居る」。
  3. {形容詞}まずしい(まづし)。才能や学問が乏しい。「貧士」「貧道」。

字通

[会意]貝+分。〔説文〕六下に「財分かつこと少なきなり」とし、分の亦声とする。分声の字に份・ヒンなどの例がある。貝は一連に綴って一朋といい、朋はその前後一連の形。その前後一連のものを中断して分かつ。分かって乏しくなることを貧という。

※份・邠はともに”文彩の盛んなさま”。

訓義

  1. まずしい、貧乏。
  2. とぼしい、すくない、たりない。

彬(ヒン・11画)

初出は後漢の『説文解字』で、戦国時代に古文があったとするが、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpi̯ən(平)で、同音は份のみ、同義だがやはり説文古文が初出。

学研漢和大字典

会意文字で、「林(ならぶ)+彡(模様)」で、物が並びそろうことを示す。豩(ヒン)(そろう)と同系のことば。

語義

  1. 「彬彬(ヒンピン)」とは、並びそろうさま。外形も内容もともによいさま。「文質彬彬、然後君子=文質彬彬として、然る後に君子なり」〔論語・雍也〕

字通

[会意]林+彡(さん)。彡は色彩などの美しいことを示す記号的な文字。〔説文〕八上に份を正字とし、「文質備はるなり」といい、〔論語、雍也〕「文質彬彬」の語を引く。彬はその古文。〔説文〕に「焚(ふん)の省聲に從ふ」とするが、会意とみてよい字である。字はまた斌に作り、〔史記、儒林伝〕に「斌斌(ひんぴん)として文學の士多し」とみえ、これも会意の字である。

賓(ヒン・15画)

賓 金文
王孫遺者鐘・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はpi̯ĕn(平)。論語語釈「擯」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。もと「宀(やね)+ぶた」の会意文字で、小屋の中に豚を並べて入れたさまを示す。くっつく、並ぶの意を含む。賓はその下に貝(財貨)をそえたもの。礼物をもって来て、主人と並ぶ客をあらわす。濱(ヒン)(=浜。水にすれすれにくっついたはまべ)・頻(ヒン)(すれすれにくっつく)などと同系。旧字「賓」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}まろうど(まらうど)。主人と並んでペアをなすたいせつな客。転じて、付属するもの。主に対して従の地位にあるもの。《同義語》⇒禍。《対語》⇒主。《類義語》客。「女賓」「来賓」「迭為賓主=迭ひに賓主と為る」〔孟子・万下〕
  2. (ヒントス){動詞}たいせつな客として扱う。《同義語》禍。
  3. (ヒンス){動詞}順序よくくっつけて並べる。また、順序よく並ぶ。「寅賓出日=寅んで出日を賓す」〔書経・尭典〕
  4. (ヒンス){動詞}くっつく。つき従う。「賓従」「賓服」。
  5. {動詞}おしのける。▽擯(ヒン)に当てた用法。
  6. {動詞}男女がくっつく。転じて、正式の手続きもふまずに、よめをめとること。▽嬪(ヒン)に当てた用法。
  7. 《日本語での特別な意味》梵語(ボンゴ)「ビン」の音訳字。「賓頭盧(ビンズル)」。

字通

[会意]宀(べん)+万+貝。〔説文〕六下に「敬ふ所なり。貝に從ひ、𡧍(べん)聲」とするが、𡧍に従う字形ではない。卜文・金文の字形にみえる万の部分は、羲の下部にみえる丂(こう)の部分と同じく、牲体の下半を示し、金文に賓をまた■(宀+万)としるすものがあって、廟に牲を薦める意。さらに貝を加えて賓となる。神霊を迎えるときの礼。賓は賓客。賓客とは、古くは客神を意味した。〔玉篇〕に「客なり」とあり、客は客神をいう語である。〔詩、周頌、有客〕は、殷の祖神を客神として周廟に迎えることを歌う。賓は客神。またその客神を迎え送ることを、賓迎・賓送という。それよりして人に返報するを賓といい、主に対して客礼をとることを賓といい、主従の礼をとることを賓服・賓従という。

擯(ヒン・17画)

擯 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。甲骨文は賓+手だが、金文以降は賓と書き分けない。カールグレン上古音はpi̯ĕn(去)。音は「賓」(平)と同じ。論語語釈「賓」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。賓(=賓)の原字は「宀(やね)+豕(ぶた)」からなる会意文字で、家畜をびっしりと小屋に閉じこめたさま。閉・秘(ヒ)(閉じこめる)と同系。のち主人にぴったりとよりそう客を示す。擯は「手+(音符)賓」で、ひしひしと身を寄せて押し出すこと⇒賓。濱(=浜。ひたひたと水にくっついた水ぎわ)・瀕(ヒン)(ぎりぎり)と同系。

語義

  1. {動詞}しりぞける(しりぞく)。押し合って押し出す。ひしひしともみあって外に押し出す。《類義語》擠(セイ)(押し合う)。「擯斥(ヒンセキ)」「為郷党所擯=郷党に擯けらる所と為る」〔後漢書・趙壱〕
  2. {名詞}主人に接する客人。または、客を接待する役。▽賓に当てた用法。
  3. (ヒンス){動詞}客を接待する。《同義語》禍。「君召使擯=君召して擯せしむ」〔論語・郷党〕

字通

形声]声符は賓(ひん)。賓は賓客。もと客神をいい、のち外客をいう。儐はその動詞形で、〔説文〕八上に「導くなり」とあり、また別体として擯を録するが、擯は多く擯斥(ひんせき)の意に用いる。

殯(ヒン・18画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpi̯ĕn(去)。同音は賓、濱、儐”取り次ぎ役”、擯”捨てる・導く”、鬢”顔の両側”。”かりもがり”を意味する漢字には、他に殮、㭫(サ・サン)があるが、共に初出と上古音不明。

下掲『字通』が引用するように、詩経にかりもがりが歌われているから、習慣そのものはあったのだろうが、本当に現在想像されているようなものだったのだろうか?

学研漢和大字典

会意兼形声。「歹(死体)+(音符)賓(ヒン)(=賓。お客、そばにいるあいて)」で、死人をそばにいる客として、しばらく身辺に安置すること。

語義

  1. (ヒンス){動詞・名詞}かりもがり。埋葬する前に、しばらくの間死体を棺に納めたまま安置する。また、その作法。《類義語》闘(レン)。「於我殯=我において殯せよ」〔論語・郷党〕

字通

[形声]声符は賓(ひん)。賓に賓迎・賓送の意がある。死者に対する殯送の礼をいう。〔説文〕四下に「死して棺に在り。將(まさ)に葬柩に遷さんとして、之れを賓遇す。歺(がつ)に從ひ、賓に從ふ。賓は亦聲なり」とし、また「夏后は阼階(そかい)(主人の階)に殯し、殷人は兩楹(えい)(廟の柱)の閒に殯し、周人は賓階に殯す」という〔礼記、檀弓上〕の文を引く。殯礼の次第は、〔儀礼、士喪礼〕に詳しい。殯礼が終わって、死者ははじめて賓として扱われる。卜辞に、祖霊を祭るとき「王、賓す」と賓迎の礼を行うことをいう。〔詩、秦風、小戎〕は武将の死を弔う葬送の曲で、板屋に殯葬することを歌う。「かりもがり」は本葬以前に、屍の風化を待つ礼で、板屋に収めてその風化を待ったのであろう。殯礼は、古く複葬の形式が行われたことを示すものである。

敏(ビン・10画)

論語 敏 金文
師𠭰簋・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は不明(上)。藤堂上古音はmɪəɪn(əの上にˇ)。

学研漢和大字典

「每(草がどんどん生える)+攴(動詞の記号)」の会意文字で、休まず、どんどん動くことを示す。▽每は音符ではなく、意符である。類義語に賢。旧字「敏」は人名漢字として使える。▽「さとい」は「聰い」とも書く。

意味

  1. (ビンナリ){形容詞}さとい(さとし)。神経がこまごまとよく働く。「鋭敏」。
  2. (ビンナリ){形容詞}とし。行動がきびきびとはやい。「敏速」「敏於事而慎於言=事に敏にして言に慎なり」〔論語・学而〕
  3. 「不敏(フビン)」とは、のろい者の意で、自分をへりくだっていうことば。「回、雖不敏、請事斯語矣=回、不敏なりと雖も、請ふ斯の語を事とせん」〔論語・顔淵〕

字通

初形は每(毎)+又(ゆう)。每は髪飾りをつけ盛装した婦人の姿。その髪に手をそえている形が敏。妻に似た字形で、妻は結婚のときの姿。敏は家の祭事にいそしむ婦人の姿。その髪に糸飾りを加えると繁(はん)となる。繁飾の意。〔説文〕三下に「疾きなり」と敏疾の意とする。疌は敏捷の捷の初文。妻の下部を走る形としたもの。敏捷とは祭事に奔走することをいう。〔説文〕に字を每声とするが、金文に每を「いそしむ」と用いる例があり、每・敏を同義に用いており、繁簡の字である。また〔詩、大雅、生民〕に姜嫄が「帝のあしあと(おやゆび)を履み」后稷をはらんだという感生帝説話が歌われており、敏を拇に仮借して用いる。古くその音だったのであろう。

訓義

さとい、かしこい、よく気配りする、つまびらか。つとめる、たちはたらく。はやい、すばやい。拇と同じ、おやゆび。

閔(ビン・12画)

論語 閔子騫

初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はmi̯wæn(上)。

論語では孔子の弟子・閔損子騫の名として登場。

学研漢和大字典

会意兼形声。門の系列の語は、すきまを閉じて、中が見えないようにするという基本義を含むとともに、そのわからないものをむりにききだす、つまり「問」「聞」という基本義もあわせ含む。閔は「門+(音符)文(こまやか)」で、不幸な者に対してこまやかに弔問するのが原義。あわれむという意は、その派生義である。問(モン)(わからないことを口でたずねる)と同系。

語義

  1. {動詞}いたむ。こまやかに情をかけてとむらう。
  2. {動詞}あわれむ(あはれむ)。こまやかに情をかけていたわる。《同義語》⇒憫(ビン)・愍。「我行閔其憊=我行きて其の憊れしを閔む」〔高啓・車過八岡〕
  3. {動詞・形容詞・名詞}なやむ。なやみ。こまかにきづかう。こまごまと心配するさま。心のいたみ。「閔惜(ビンセキ)」「閔閔然(ビンビンゼン)」。
  4. {動詞・名詞}やむ。やまい(やまひ)。病気になる。また、病気。つらいこと。「覯閔既多=閔に覯ふこと既に多し」〔詩経・癩風・柏舟〕

字通

[形声]声符は文(ぶん)。〔説文〕十二上に「弔する者、門に在るなり」とし、古文一字を録し、その字は民(みん)声に従う。愍(びん)と声義の同じ字である。〔左伝、宣十二年〕「少(わか)くして閔凶に遭ふ」は死別の意。憫(びん)は閔の俗体の字である。

黽(ビン・13画)

黽 金文
師同鼎・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は不明。王力上古音はmǐəŋ(上)、閔と同音。藤堂上古音はボウměŋ(上)、ビンmien(上)、メンmian(上)。

学研漢和大字典

象形。頭の大きいかえるの姿を描いたもの。かえるやすっぽんの仲間をあらわす意符として用いられる。

語義

ボウ
  1. {名詞}食用がえる。大きなかえる。
ビン
  1. {動詞}つとめる(つとむ)。努力する。《同義語》⇒夏。《類義語》勉。
メン
  1. 「黽池(ベンチ)・(メンチ)」とは、漢代の地名。黄河南岸、今の河南省誹池(ベンチ)県。▽藺相如(リンショウジョ)が趙(チョウ)王を助けて秦(シン)の昭王と会見した所。《同義語》誹池。

字通

[象形]かえるの形。〔説文〕十三下に「鼃(蛙)黽(あばう)なり。它(蛇)に從ふ。象形。黽頭と它頭と同じ」とし、籀文一を録する。〔爾雅、釈魚〕に「蟾諸(せんしよ)の水に在る者は黽なり」という。また忞(びん)と通用する。

※忞:努める。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

関連記事(一部広告含む)