論語詳解278C先進篇第十一(27)点なんじは何如*

論語先進篇(27)要約:ある日の孔子塾の雑談風景。おそばにいた曽点に、先生は日頃の政治への抱負を尋ねます。ところが琴を弾いてなかなか答えない年長の曽点。答えは政治の話ではなく、なんとものどかな願いでした、という作り話。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

「點、爾何如。」鼓瑟希、鏗爾*舍瑟而作。對曰、「異乎三子者之撰*。」子曰、「何傷乎。亦各言其志也。」曰、「莫*春者、春服既成。冠者五六人、童子六七人、浴*乎沂、風乎舞雩、詠而歸。」夫子喟然歎曰、「吾與點也。」

校訂

武内本

鏗爾、説文摼爾。撰鄭本撰に作り読みて詮となす、詮とは善なり。暮、唐石経莫に作る。浴筆解沿に作る。

定州竹簡論語

「點!壐何如?」鼓瑟[希,□壐舍瑟而]303,對曰:「[異乎]三子者之[撰]。」[子]曰:「何傷a?亦各言其志也。」304「b春者,春服[既 外字b成,冠c者五六人,童子六七]人,浴乎沂,305乎舞雩,咏d而歸e。」夫子喟[然]□[曰]:「吾與點也!」

  1. 今本”傷”下有”乎”字。
  2. 莫、皇本作”暮”、『釋文』”莫春、音暮、本亦作暮”。
  3. 既 外字、今本作”既”。
  4. 皇本”冠”上有”得”字。
  5. 咏、今本作”詠”。
  6. 而歸、『釋文』云”而歸、鄭本作饋、饋酒食也”。

※f:歸ki̯wər(平)、饋gʰi̯wæd(去)で音が合わない。


→「點、壐何如。」鼓瑟希、鏗壐舍瑟而作、對曰、「異乎三子者之撰。」子曰、「何傷。亦各言其志也。」「莫春者、春服既 外字成、冠者五六人、童子六七人、浴乎沂、風乎舞雩、咏而歸。」夫子喟然歎曰、「吾與點也。」

復元白文

爾 金文何 金文如 金文 鼓 金文瑟 甲骨文希 鏗爾 金文 舍 金文瑟 甲骨文而 金文作 金文 対 金文曰 金文 論語 異 金文乎 金文三 金文子 金文者 金文之 金文 子 金文曰 金文 何 金文刅 金文乎 金文 亦 金文各 金文言 金文其 金文志 金文也 金文 曰 金文 莫 金文春 金文者 金文 春 金文 服 金文 既 金文成 金文 冠 甲骨文者 金文五 金文六 金文人 金文 童 金文子 金文六 金文七 金文人 金文 浴 金文乎 金文論語 沂 金文大篆 風 甲骨文乎 金文論語 舞 金文論語 雩 金文 詠 金文而 金文帰 金文 夫 金文子 金文然 金文曰 金文 吾 金文与 金文也 金文

※瑟→(甲骨文)・傷→刅・冠→(甲骨文)・沂→(金文大篆)・風→(甲骨文)。論語の本章は赤字が論語の時代に存在しない。本章は前漢帝国の儒者による捏造である。

書き下し

てんなんぢ何如いかんしつくことまれなり。鏗壐かうじとしてしつち、こたへていはく、三子者ししやえらことなれり。いはく、なんいたまん。おほい各〻おのおのこころざしへるなり莫春ぼしゆん春服しゆんぷく既 外字すでり、冠者わかもの五六にん童子わらべ六七にんみづあみ、舞雩ぶうかぜあみ、うたかへらむ。夫子ふうし喟然きぜんとしてたんじていはく、われてんくみするかな

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

〔承前〕

論語 孔子 曽点
先生が言った。「点(曽皙ソウセキ)よ、お前はどうだ。」
曽皙は大琴をつま弾いていたが、ガーンと音を響かせて琴を脇に置いて立ち、答えて言った。「お三方とは異なります。」先生が言った。「何を気にしているのか。大いにそれぞれの志を言ったまでだ。」曽皙は言った。「晩春、もう春服はすっかり身に付き、若者五・六人、子供七・八人と共に、沂水で水浴びし、雨乞い台の上で風に吹かれ、歌を歌って帰りたいものです。」先生がため息をついて行った。「私は点に賛成だ。」

意訳

ニセ孔子 曽点
孔子「曽皙、お前は。」
曽皙「♪チィ~ン・トォ~ン・シャァ~ン。…ガーン!」

曽皙「失礼しました。私の考えはお三方とは違いますので。」
孔子「遠慮せんでもいい。思うまま言え、と言ったのは私だぞ。」

曽皙「それでは失礼ながら…春の遅い頃、そうですね、もう春服がすっかり体になじんだ頃、若者や子供達を連れて沂水で水浴びし、雨乞い台の上で風に吹かれて乾かし、歌でも歌って帰りましょうか。」

孔子「うむうむ、それがいい!」

従来訳

論語 下村湖人

先師、――
「点よ、お前はどうだ。」
 曾皙は、それまで、みんなのいうことに耳をかたむけながら、ぽつん、ぽつんと瑟しつを弾じていたが、先師にうながされると、がちゃりとそれをおいて立ちあがった。そしてこたえた。――
「私の願いは、三君とはまるでちがっておりますので……」
 先師、――
「何、かまうことはない。みんなめいめいに自分の考えていることをいって見るまでのことだ。」
 曾皙――
「では申しますが、私は、晩春のいい季節に、新しく仕立てた春着を着て、青年五六人、少年六七人をひきつれ、沂き水で身を清め、舞雩で一涼みしたあと、詩でも吟じながら帰って来たいと、まあそんなことを考えております。」
 すると先師は深い感歎のため息をもらしていわれた。――
「私も点の仲間になりたいものだ。」

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

「曾點,你怎樣?」曾皙彈琴正接近尾聲,他鏗地一聲放下琴,站起來說:「我與他們三位不同。」孔子說:「說說有什麽關繫?衹是各談各的志向而已。」曾點說:「暮春三月,穿上春天的衣服,約上五六人,帶上六七個童子,在沂水邊沐浴,在高坡上吹風,一路唱著歌而回。」夫子感嘆說:「我欣賞曾點的情趣。」

中国哲学書電子化計画

「曽点、お前はどうだ?」曽皙は琴を弾いて終わりかけており、カーンと高く奏でて琴を手放し、立ち上がって言った。「私は彼ら三人とは違います。」孔子が言った。「まあ言いなさい。何の関係がある?ただ各々の志を言ったまでだ。」曽点が言った。「晩春三月、春向けの服を着て、五六人ほどと共に、六七人の子供を連れ、沂水のほとりで水浴びし、堤防の上で風に吹かれ、一通り歌を歌って帰ります。」先生は感嘆して言った。「私は曽点の思いを賞賛する。」

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

點(点)

曽点 論語 曽子 ウスノロ

曽子の父、曽点子セキ。曽子が孔子より46年少だから、孔子より25年ほど年下かと思われる。

「點」は論語では本章のみに登場。初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。『史記』によるあざ名は「蒧」(テン、草の名)だが、初出も上古音も不明。『史記』異本によるとあざ名は「𪒹」(カン、色が黒い)だが、カールグレン上古音は不明初出は後漢の説文解字

つまり曽子のおやじは、名前すら分からない無名の人物ということになる。

『学研漢和大字典』によると「點」は会意兼形声。文字で、占は「卜(うらなう)+口」の会意文字。占って特定の箇所を選びきめること。點は「黑(くろい)+(音符)占」で、特定の箇所を占有した黒いしるしのこと。のち、略して点と書く。詳細は論語語釈「点」を参照。

瑟(シツ)

論語 瑟 金文大篆
(金文大篆)

論語の本章では、”床や座卓上に据えて弾く大琴”。詳細は論語語釈「瑟」を参照。

論語 三才図絵 琴 瑟

『三才圖會』所収「琴・瑟」(ケイ)。東京大学東洋文化研究所蔵

論語 希 金文大篆 論語 希
(金文大篆)

この文字の初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はxi̯ərで、同音は屎”くそ”のほかは希を部品とする漢字群。詳細は論語語釈「希」を参照。

鏗(コウ)

論語の本章では”カンという堅い音”。論語では本章のみに登場。

初出は不明。定州竹簡論語も欠字となっており存在証明にならない。論語の時代に存在した証拠がない。カールグレン上古音は不明(平)。王力上古音はkʰen。同音は存在しない。詳細は論語語釈「鏗」を参照。

論語の本章では”選択”。論語では本章のみに登場。

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(平)。王力上古音はdʒoanで、同音は饌”そなえる・そなえもの”のみ。部品の巽(カ音swən)に、”選ぶ”の語釈はない。詳細は論語語釈「撰」を参照。

論語の本章では”はる”。論語では本章のみに登場。初出は甲骨文。カールグレン上古音はtʰi̯wən(平)。詳細は論語語釈「春」を参照。

冠者(カジャ)

論語 冠 金文大篆
「冠」(金文大篆)

論語の本章では狂言と同じく、”若者”。

『学研漢和大字典』によると「冠」は会意兼形声文字で、「冖(かぶる)+寸(手)+(音符)元」。頭の周りをまるくとり囲むかんむりのこと。まるいかんむりを手でかぶることを示す。完(欠けめなくまるく囲む)・院(囲んだ中庭)・垣(エン)(まるく囲むかき)などと同系のことば。詳細は論語語釈「冠」を参照。

沂(キ)

論語 沂 金文大篆
(金文大篆)

論語の本章では、魯国の川、沂水のこと。地図では右下、都城の曲阜からは随分遠いので、泊まりがけの旅行になるだろう。
論語 魯国 地図

出典:http://shibakyumei.web.fc2.com/

論語では本章のみに登場。漢音は「ギ」。初出は後漢の説文解字。固有名詞のため、論語の時代に存在しないと断じ得ない。カールグレン上古音は不明(平)。王力上古音はŋǐəi。「キ」は慣用音。『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、「水+(音符)斤(キン)(近づく、せまる)」で、岸が水ぎわにせまった川。また、水ぎわのがけ、という。詳細は論語語釈「沂」を参照。

論語 風 甲骨文 論語 風 金文大篆
(甲骨文・金文大篆)

武内本に、「風、放と通ず、至る意」とある。しかし根拠不明で、漢字の原義通り、”風に吹かれる”でよい。詳細は論語語釈「風」を参照。

舞雩(ブウ)

論語 舞 金文 論語 雩 金文
(金文)

論語の本章では、”雨乞いを行う舞台”。拝み屋集団の母の元で育った孔子にとって、なじみ深い場所であったろう。樊遅を連れて舞雩に散歩した話も論語にあるので、あちこちにあったようだ。

『学研漢和大字典』によると「舞」は会意兼形声文字で、舛(セン)は、左足と右足を開いたさま。無(ブ)は、人が両手に飾りを持ってまうさまで、舞の原字。舞は「舛+(音符)無」で、幸いを求める神楽のまいのこと。巫(フ)・(ブ)(神前でまって神に幸いを求めるみこ)・募(求める)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「舞」を参照。

「雩」の初出は甲骨文カールグレン上古音はgi̯wo(平)。『学研漢和大字典』によると形声文字で、「雨+(音符)于」。大声で天に訴えてあまごいをすること。吁(ウ)(わあわあと叫ぶ)・訏(ク)(おおという叫び)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「雩」を参照。

詠→咏

論語の本章では”歌う”。論語では本章のみに登場。

初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はgi̯wăŋ(去)。咏は異体字。詳細は論語語釈「詠」を参照。

喟(キ)

論語の本章では”ため息をつく”。

論語子罕篇11の、顔回による耳を覆いたくなるようなゴマスリの章と同じく、論語で喟の字が出てきたらニセモノである。詳細は論語語釈「喟」を参照。

論語:解説・付記

この章、つづく。

なお早くは和辻哲郎から指摘されていたことだが、本章は現実にはあり得ないけしきで、子路・冉有といった一門の大立て者と、他ならぬ師匠の孔子を前にして、一人だけ琴弾きにふけっている曽子のおやじ曽点を、三者を超えて偉いように描いている。

詳しくは次回に述べるが、世代的に曽子の実情をギリギリ知っていたと思われる孟子(→孔門十哲の謎)は、おやじの曽点を馬鹿者として記しており、その馬鹿者に、こんな無礼がまかり通せるわけがない。恐らくは生涯、琴を触ったこともないはずだ。

上掲の通り本名すら分からす、孔子の弟子であり得ようはずがない。いみ名もあざ名も後世のでっち上げ。誰だか分からない孔子の父を陬邑大夫と言う、国公に次ぐ高位の貴族だとする(→孔子の生涯1)のと同じゴマスリで、到底真に受けられない。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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