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論語語釈「ショク・ジョク」

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語釈 urlリンクミス

式(ショク・6画)

式 楚系戦国文字 式 字解
上(1).䊷.8・楚系戦国文字

初出:初出は楚系戦国文字。西周中期「󱞅方鼎」(集成2824)を先頭に、戦国の「郭店楚簡」まで「弋」を「式」と釈文する例がある。

字形:「弋」”下げ振り錘”+「工」”直角定規”。原義は”基準”。

式 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔戈ユ〕」と記す。「唐翟惠隱墓誌」刻。

音:カールグレン上古音はɕi̯ək(入)。同音に「識」「拭」「軾」”車の手すり”、「飾」(全て入)。「シキ」は呉音。

用例:西周中期「󱞅方鼎」(集成2824)に「弋(式)休則尚(常)」とあり、”則る”と解せる。

戦国最末期「睡虎地秦簡」金布66に「布袤八尺,福(幅)廣二尺五寸。布惡,其廣袤不如式者,不行。」とあり、”基準”と解せる。

論語時代の置換候補:”則る”の語義に限り、部品の「弋」。

学研漢和大字典

会意兼形声。弋(ヨク)は、先端の割れたくいを描いた象形文字。この棒を工作や耕作・狩りなどに用いた。式は「工(仕事)+(音符)弋」で、道具でもって工作することを示す。のち道具の使い方や行事のしかたの意となる。以(何かで仕事する)と同系。もと、杙(ヨク)(くい)と同系。

語義

  1. {名詞}のり。決まり。また、一定のやり方。《類義語》則。「法式」「抱一為天下式=一を抱いて天下の式と為る」〔老子・二二〕
  2. {名詞}決まった型。「様式」。
  3. {名詞}型通り行う作法や行事。「閲兵式」。
  4. {名詞}計算のしかたを示す型。「算式」。
  5. {名詞}乗った人が寄りかかるための車の手すり。《同義語》軾(ショク)。
  6. (ショクス){動詞}車の手すりに寄りかかる。また手すりに寄りかかって頭を下げあいさつする。《同義語》軾(ショク)。「夫子式而聴之=夫子式してこれを聴く」〔礼記・檀弓下〕
  7. {動詞}もちいる(もちゐる・もちふ)。何かでもって仕事をする。《類義語》以。「式穀似之=穀きを式ゐてこれに似せしめん」〔詩経・小雅・小宛〕
  8. {助辞}もって。語調をととのえる助辞。「詩経」で用い、特に訓読しないことが多い。「式微=式て微ふ」「式歌且舞=式て歌ひ且つ舞ふ」〔詩経・小雅・車幵〕

字通

[会意]弋(よく)+工。工は呪具。巫祝が左手にもつもので、左・尋・隱(隠)・塞𡫳などの字に含まれ、神聖を守り、悪邪を祓うのに用いる。〔説文〕五上に「法なり」とし、弋声とする。拭・試・弑はその声義を承ける字で、すべて呪的な行為を意味する。〔書、仲虺之誥〕「商を式(もつ)て、命を受く」、〔左伝、成二年〕「王命を式ひず」のように、一定の規範に従って行為することを「式(もち)う」という。それでまた〔詩、大雅、烝民〕「古訓に是れ式(のつと)る」、〔詩、大雅、崧高〕「南國に是れ式らしむ」のように用いて法式・規範の意となる。


𡫳:音ソク。ふさぐ、ふさがる。塞と同じ。大漢和所収書体は𡫟。

足(ショク/シュ・7画)

足 疋 甲骨文 足 金文
「疋」甲骨文/申簋蓋・西周中期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「正」「疋」と未分化。

字形:甲骨文の字形は、足を描いた象形。原義は”あし”。

足 異体字
慶大蔵論語疏では異体字「〔口乙〕」と記す。上掲「北魏中書令鄭文公(義)下碑」刻。『敦煌俗字譜』所収。

音:”あし”・”たす”の意では「ショク」と読み、”過剰に”の意味では「シュ」と読む。同じく「ソク」「ス」は呉音。カールグレン上古音はtsi̯uŋ(去)またはtsi̯uk(入)。

用例:「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、春秋末期までに「胥」「疋」と釈文された金文の例がある。

西周中期「曶鼎」(集成2838)に「𩒨首曰:余無卣(由)具寇正□,不出,鞭余。」とある「正」は、「足」ではないかと釈文されている。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義のほか人名に用いられ、金文では「胥」”補助する”に用いられた(免簋・西周中期)。戦国の竹簡では”足りる”の意に用いられた。

ただし下掲『字通』に言うように、甲骨文から「足」「正」「疋」は相互に通用した。

学研漢和大字典

象形。ひざからあし先までを描いたもので、関節がぐっとちぢんで弾力をうみ出すあし。捉(ソク)(指をちぢめてつかむ)・促(ソク)(間をつめて急がす)・縮(シュク)(ちぢむ)と同系。類義語の脚(キャク)は、却(キャク)(くぼむ)と同系で、ひざで折れて、うしろにくぼむあし。あしのことを中世以後の口語では足といわず、脚という。疋(ショ)は、左右あい対するあしのこと。股(コ)は、またぐとき∧型に開くところ。太もも。趾(シ)は、あしくび。腿(タイ)はもも。脛(ケイ)は、まっすぐなすね。異字同訓に脚「机の脚(足)。えり脚(足)。船脚(足)」。付表では、「足袋」を「たび」と読む。

語義

ソク
  1. {名詞}あし。ももからあし先までの部分。また、あしくびから先の部分。《類義語》脚。「跣足(センソク)(はだし)」「百足之虫(ヒャクソクノムシ)(むかで)」「足、牾牾如有循=足、牾牾として循ふ有るがごとし」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}あし。あしの形をしていて物をささえる部分。また、物の下の部分。《類義語》脚。「鼎足(テイソク)(かなえのあし)」「山足(ふもと)」。
  3. {名詞}あゆみ。「捷足(ショウソク)(はやあし)」「高足(学問の歩みの進んだ上位のでし)」。
  4. {動詞}たりる(たる)。おしちぢめて、いっぱいにつまる。転じて、欠けめがない。「満足」「過不足(すぎたこととたりないこと)」。
  5. {動詞}たりる(たる)。それでじゅうぶんだ。また、それだけの値うちがある。→語法「①②」。
  6. {動詞}たす。いっぱいに満たして、欠けめをなくす。「充足」「足食=食を足す」〔論語・顔淵〕
シュ
  1. {副詞}あまり…しすぎるほど。十二ぶんに。「足恭(スウキョウ)・(シュキョウ)(ていねいすぎる)」〔論語・公冶長〕
  2. 《日本語での特別な意味》
    ①あし。おかね。ぜに。
    ②はきものを数える語。「くつ一足」。

語法

①「~するにたる」とよみ、「~するのに十分である」と訳す。▽「足以~=もって~するにたる」と多く用いる。「料大王士卒、足以当項王乎=大王の士卒を料(はか)るに、もって項王に当るに足る」〈大王(劉邦)の士卒(の力量)を考えて、項王と十分渡り合えますか〉〔史記・項羽〕
②「不足」は、「~するにたらず」とよみ、「~する価値がない」と訳す。「足」の否定形。▽「不足以~=もって~するにたらず」と多く用いる。「士而懐居、不足以為士矣=士にして居を懐(おも)ふは、もって士と為すに足らず」〈士人でありながら安住の場を慕っているのでは、士人である価値がない〉〔論語・憲問〕

字通

[象形]膝の関節より足趾に至るまでの形。〔説文〕二下に「人の足なり。下に在り。止口に從ふ」と会意とするが、口の部分は膝蓋骨の形である。卜文に「足(た)る」の字には正を用い、「帝は雨を正(た)らしめんか」のようにいう。金文に「疋(たす)く」の疋(しよ)を、足の形にしるしている。足・正・疋の形は甚だ近く、みな止に従う。足・疋には古く通用の例がある。

卽/即(ショク・7画)

卽 即 甲骨文 即 金文
合集34058/秦公鎛 春秋早期

初出:初出は甲骨文

字形:”高坏に盛っためし”+”座った人”。食卓に着くこと。新字体は「即」。台湾や中国では、新字体と同じ字体が正字として扱われているようである。

音:カールグレン上古音はtsi̯ək(入)。「ソク」は呉音。

用例:甲骨文には、「即貞」として占い師の人名の例を多数見られる。

西周早期「大盂鼎」(集成2837)に「余隹即朕小學」とあり、”ゆく”・”その位置に立つ”と解せる。

西周中期「曶鼎」(集成2838)に「凡用即曶田七田」とあり、”食卓にあずかる”→”与える”の意か。

学研漢和大字典

会意。人がすわって食物を盛った食卓のそばにくっついたさまを示す。のち、副詞や接続詞に転じ、口語では便・就などの語にとってかわられた。則(そばにくっつく)・側(そば)と同系。類義語に則。旧字「卽」は人名漢字として使える。

語義

  1. (ソクス){動詞}つく。すぐそばにくっつく。「即位」「即之也温=これに即けば温なり」〔論語・子張〕
  2. {副詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-3」。
  3. {副詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-2」「色即是空(シキソクゼクウ)」。
  4. {接続詞}すなわち(すなはち)。→語法「①-1」。
  5. {接続詞}もし。→語法「②」。
  6. {接続詞}たとえ(たとへ)。→語法「③」

語法

▽前後の状況が直結する場合に用いる。

①「すなわち」とよみ、

  1. 「とりもなおさず」と訳す。原因と結果が直結する意を示す。「項王許之、即帰漢王父母妻子=項王これを許し、即(すなは)ち漢王の父母妻子を帰す」〈項王はこれを承認すると、ただちに漢王の父母妻子を帰した〉〔史記・項羽〕
  2. 「つまり」「これの場合は」と訳す。強調の意を示す。《類義語》則。「済北殻城山下黄石即我矣=済北の殻城山下の黄石は即(すなは)ち我なり」〈済北の穀城山のふもとの黄色い石、それがわしじゃ〉〔史記・留侯〕
  3. 「すぐに」「ただちに」と訳す。時間的に、前後に間をおかず直結する意を示す。「先即制人、後則為人所制=先んずれば即(すなは)ち人を制し、後るれば則(すなは)ち人の制する所と為る」〈先手を打てば人を制することができるが、後手にまわると人に制せられる〉〔史記・項羽〕ツ「そうであれば」と訳す。前節をうけて、後節の結果を導く意を示す。「其在朝、君語及之、即危言、語不及之、即危行=その朝に在るや、君の語これに及べば、即(すなは)ち言を危しくし、語これに及ばざれば、即ち行ひを危しくす」〈朝廷では、主君の御下問があれば直言し、御下問がなければ自分をきびしく律して政務に勤めた〉〔史記・管晏〕

②「もし」とよみ、「万一~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。「吾即没、若必師之=吾即(も)し没せば、若(なんぢ)必ずこれを師とせよ」〈わしがもし死んだら、おまえは必ず彼(孔子)に師事しなさい〉〔史記・孔子〕

③「たとい~」とよみ、「~であっても」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。▽「即使~=たとい~」も意味・用法ともに同じ。「使斉北面伐燕、即雖五燕不能当=斉をして北面して燕を伐た使めば、即(たと)ひ五燕と雖(いへど)も当たる能はず」〈斉に北へ向かって燕を討たせようとすれば、燕が五つ集まっても、防ぐことはできない〉〔戦国策・燕〕

字通

[会意]旧字は卽に作り、皀(きゅう)+卩(せつ)。皀は𣪘(き)の初文。𣪘は文献に簋(き)に作り、盛食の器。皀の上に蓋(ふた)を加えると、食の字となる。卩は人の跪坐する形。食膳の前に人が坐する形は卽、すなわち席に即(つ)く意。左右に人が坐するときは郷、饗・嚮の初文。〔説文〕五下に「食に卽くなり」とする。〔段注〕に卩を節度・節食の意とするが、卩の声義をとる字ではない。すべてその位置に即き、その任に即くことをいう。遅滞なくそのあとで行動するので、即時の意となる。

束(ショク・7画)

束 甲骨文 束 金文
甲骨文/大簋蓋・西周晚期

初出:初出は甲骨文

字形:ふくろを両側で束ねた姿で、原義は”束ねる”。

音:「ソク」は呉音。カールグレン上古音はɕi̯uk(入)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では原義のほか、氏族名に用いた。

学研漢和大字典

会意。「木+○印(たばねるひも)」で、たき木を集めて、そのまん中にひもをまるく回してたばねることを示す。ちぢめてしめること。速(ちぢめて歩く)・捉(ソク)(ちぢめてつかむ)・縮(ちぢめる)・竦(ショウ)(足をちぢめてたつ)と同系。類義語に縛。

語義

  1. {動詞}たばねる(たばぬ)。つかねる(つかぬ)。たてにそろえてしばる。また、しばってほそくちぢめて、一つにまとめる。「束髪」「束帯」「束之高閣=これを高閣に束ぬ」。
  2. {動詞}動きがとれないようにしばる。また、心や行動の自由を制限する。言動をひきしめる。言動をつつしむ。「拘束」「約束(かってなことをしないように引きしめる)」。
  3. {名詞}たば。ほそくしめてしばり、ひとまとめにしたもの。
  4. {単位詞}たばねてひとしめにしたものを数えるときのことば。干し肉は十本、矢は五十本、絹布は十反(タン)をひとしめとする。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①たばねてひとまとまりにしたものを数えるときのことば。紙は十帖(ジョウ)、稲は十把(パ)をひとまとまりとする。
    ②つか。昔、物の長さをはかるときの単位。一束とは指四本をにぎった幅の長さ。
    ③「束の間」とは、ほんのひとにぎりの間。ほんのしばらく。

字通

[象形]束薪の形。〔説文〕六下に「縛るなり。口木に從ふ」とする。金文に「帛束」「絲束」「矢五束」などの語があり、一定数のものを束ねて一束とした。また束髪・束帯など、整えて結ぶことをいう。まとまることを結束といい、行動については終束という。

食(ショク・9画)

食 甲骨文 食 金文
甲骨文/仲義貝口鼎・春秋

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形は「シュウ」+点二つ”湯気”+「豆」”たかつき”で、食器に盛った炊きたてのめし。甲骨文・金文には”湯気”を欠くものがある。「亼」は穀物をあつめたさまとも、開いた口とも、食器の蓋とも解せる。原義は”たべもの”・”たべる”。

慶大蔵論語疏は異体字「𩙿」と記す。

音:カールグレン上古音はdzi̯əɡ(去)またはi̯ək(入)。後者の同音は大量にあるが、前者の同音は下記の通り。

dzi̯əɡ 詞・祠・辭 似・祀・姒”あね”・巳・耜・汜”本流から離れてまた本流に入る川・岸”・鈶”矛の類” 寺・嗣

「ジキ」は呉音。

用例:「漢語多功能字庫」は「ヒュウ」”なべ”+「亼」”人の口”と解し、甲骨文では、「食日」「大食」・「小食」が”朝食時”・”夕食時”を意味し、また”日食”・”月食”を意味するという。金文では”食用の”(牧共乍父丁簋・西周早期)、”たべもの”(上曾大子鼎・春秋早期)を意味するという。

学研漢和大字典

会意。「亼(あつめて、ふたをする)+穀物を盛ったさま」をあわせたもの。容器に入れて手を加え、柔らかくしてたべることを意味する。飴(イ)(穀物に加工して柔らかくしたあめ)・飼(柔らかくしたえさ)・式(ショク)(作為を加える)などと同系。蝕(ショク)(くいこむ、むしばむ)と最も近い。

「蝕」の代用字としても使う。「日食・月食・腐食・浸食・侵食・皆既食・食尽」▽「くう」「くらう」は「喰う」「喰らう」とも書く。

語義

ショク/ジキi̯ək(入)
  1. (ショクス){動詞}くらう(くらふ)。くう(くふ)。はむ。もと、穀物を柔らかくしてたべること。のち、広くたべる意に用いる。「飲食」「食糧」「食而不知其味=食らへども其の味を知らず」〔大学〕
  2. {名詞}たべもの。たべること。「断食」「配食」「甘其食=其の食を甘しとす」〔老子・八〇〕
  3. {名詞}くいぶち。「食禄(ショクロク)」「君子謀道、不謀食=君子は道を謀り、食を謀らず」〔論語・衛霊公〕
  4. (ショクス){動詞・名詞}くいこむ。虫がくいこんだように、日や月が欠ける。また、そのこと。《同義語》⇒蝕。「月食(=月蝕)」「日有食之=日これを食する有り」〔春秋・隠三〕
  5. (ショクス){動詞}たべたようになくしてしまう。くいものにする。「食言=言を食す」「言不可食=言は食すべからず」〔国語・晋〕
  6. {動詞}くらう(くらふ)。打撃をうける。ひどい仕打ちをくらう。「不食膚受之愬=膚受の愬を食らはず」〔漢書・谷永〕
シキ/イi̯ək(入)
  1. {動詞}くらわす(くらはす)。はます。やしなう(やしなふ)。たべさせる。食物を与えてやしなう。《同義語》⇒飼(シ)。「飲之食之=これに飲ませこれに食らはす」〔詩経・小雅・緜蛮〕。「食我以其食=我に食らはすに其の食を以てす」〔史記・淮陰侯〕
  2. {名詞}いい(いひ)。めし。《同義語》⇒飼。「一員食、一瓢飲=一員(いったん)の食、一瓢の飲」〔論語・雍也〕
イ/イi̯ək(入)
  1. {名詞}「酈食其(レキイキ)」「審食其(シンイキ)」など人名に用いる読み方。

字通

[象形]食器である𣪘(き)(皀)に蓋(ふた)をした形。金文の𣪘を、文献には簋(き)に作るが、本来竹器ではない。〔説文〕五下に「米を亼(あつ)むるなり。皀に從ひ、亼(しふ)聲」(段注本)とするが、亼は器の蓋の形。飲食の字は金文に多く飤(し)に作り、「飮飤謌舞」、また「誨猷(くわいいう)(謀)飤(あやま)(食)たず」のように用いる。卜辞によると、古人は日に二食で、大食・小食という。また大采・小采ともいい、日を送迎する礼であるが、それがまた食事のときでもあった。また日月の蝕をもいう。

息(ショク・10画)

息 甲骨文 息 金文
合集2354/息伯卣蓋・西周早期

初出:初出は甲骨文。「小学堂」による初出は殷代末期の金文

字形:鼻を空気が出入りするさま。現行字形「自」”はな”+「心」は、戦国時代以降の字形。

音:カールグレン上古音はsi̯ək(入)。「ソク」は呉音。

用例:殷代の用例は、欠損がひどく文として判読できないか、族徽(家紋)の一部として見られる。

西周早期「□父乙𣪕」(集成3862)に「公使󱠥事又息。」とあり、”休む”と解せる。

同「息白卣蓋」(集成5385・5386)に「息白易貝于姜。」とあり、諸侯の名と解せる。地名・人名と理解してよい。

その他西周早期に人名の例がある(「息父丁鼎」集成1598)ほかは、戦国の竹簡になるまで見られない。

学研漢和大字典

会意。「自(はな)+心」で、心臓の動きにつれて、鼻からすうすうといきをすることを示す。狭い鼻孔をこすって、いきが出入りすること。すやすやと平静にいきづくことから、安息・生息などの意となる。また、生息する意から子孫をうむ→むすこの意ともなる。塞(ソク)(狭い所をこすって出入りする)と同系。「熄」の代用字としても使う。「終息」▽付表では、「息子」を「むすこ」「息吹」を「いぶき」と読む。

語義

  1. {名詞}いき。呼吸。「大息(ためいき)」。
  2. (ソクス){動詞}いきをする。「屏気似不息者=屏気(へいき)して息せざる者に似たり」〔論語・郷党〕
  3. (ソクス){動詞}いきづいて生存する。生きて子孫をうむ。ふえる。「生息」。
  4. (ソクス){動詞}やすむ。いこう(いこふ)。静かにいきづく意から転じて、休息する意。「安息」「労者弗息=労する者は息まず」〔孟子・梁下〕
  5. {動詞}やむ。やめる(やむ)。休止する。とだえる。《同義語》⇒熄(ソク)。《類義語》絶。「楊墨之道不息=楊墨の道息まず」〔孟子・滕下〕。「息交以絶游=交はりを息めて以て游を絶たん」〔陶潜・帰去来辞〕
  6. {名詞}むすこ。「子息」「令息」。
  7. {名詞}貸した元金からうみ出される金銭。利子。▽元金を親に、利子を子にたとえていうことば。「利息」「息銭」。

字通

[会意]自(じ)+心。自は鼻の象形字。鼻息で呼吸することは、生命のあかしである。〔説文〕十下に「喘(あへ)ぐなり」とするのは、気息の意。〔荘子、大宗師〕に「眞人の息(いき)するや踵(かかと)を以てし、衆人の息するや喉(のど)を以てす」とあり気息の法は養生の道とされた。生息・滋息(ふえる)の意に用いる。また〔戦国策、趙四〕に「老臣の賤息」という語があって、子息をいう。

粟(ショク・12画)

粟 燕系戦国文字
(燕系戦国文字)

初出:初出は燕系戦国文字

字形:「果」+「米」で、イネ科の穀物が実ったさま。原義は”穀物”。『大漢和辞典』は古形を「𥻆」とする。

音:「ゾク」は慣用音、「ソク」は呉音。カールグレン上古音はsi̯uk(入)で、同音は存在しない。

用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」倉律43に「為粟廿斗,舂為米十斗;十斗粲,毀(毇)米六斗大半斗。麥十斗,為䵂三斗。」とあり、”殻剥き前の麦以外の穀物”と解せる。「サン」は”精白した米”だがここではそれでは意味が通じない。玄米などを指すのだろうか。「」は”精白する”。「テキ」は”あらい麦粉”。

論語時代の置換候補:部品の「米」。

『大漢和辞典』で音ショク/ソク/ゾク訓あわは他に存在しない。

部品の「米」の字には”穀物”の意があり、初出は甲骨文。孔子は自分の俸給を「奉粟六萬」と言っており、貨幣経済より前の論語時代、粟が貨幣の役割を果たした。ただし下記『字通』が「音読みのときは、五穀の総称として用いる」と言うので、アワに限られなかったことだろう。

備考:現代中国語ではコメを「ターミー」、アワやコウリャンを「シャオミー」と呼ぶ。

学研漢和大字典

会意。「西(ばらばらになる)+米」。小さくて、ぱらぱらした穀物をあらわす。縮(小さくちぢむ)と同系。

語義

  1. {名詞}穀物の総称。稲・きびなどの外皮のついたままの実。《対語》⇒米。
  2. {名詞}あわ(あは)。穀物の名。実は黄色で小さくてまるい。畑でつくる。中国北部で産する穀物のうち、もっとも主要なもの。▽小さいものにたとえる。「滄海一粟(ソウカイノイチゾク)」。
  3. {名詞}穀物。食糧。また、俸禄(ホウロク)。「義不食周粟=義として周の粟を食まず」〔史記・伯夷〕

字通

[象形]穀の実のある形。〔説文〕七上に字を𥻆に作り、「嘉穀の實なり。𠧪(いう)に從ひ、米に從ふ」とし、重文の字形は三𠧪に従う。音読みのときは、五穀の総称として用いる。

殖(ショク・12画)

殖 隷書
老子乙前115上・前漢

初出:初出は前漢の隷書

字形:「歹」”農具”+「直」”植える”。農作して作物を増やすこと。

音:カールグレン上古音はȡi̯ək(入)。同音は「植」、「埴」”粘土・泥・土”。論語語釈「植」を参照。

用例:甲金文・戦国文字には見られない。文献では論語先進篇18のほか、『墨子』『孟子』『荘子』『荀子』『韓非子』に見える。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音訓ふえるに「植」(初出戦国金文)、「淔」(初出説文解字)、「食」(初出甲骨文)。「食」の”ふえる・ふやす”の用例は、後漢末期の『釈名』が初出。

学研漢和大字典

会意兼形声。直は、目をまっすぐに向けるさま。植(木をまっすぐたててうえる)と同系。殖は「歹(ほね)+(音符)直」で、植物をうえてふやすように、子孫をふやすこと。異字同訓に増える・増やす「人数が増える。水かさが増える。人数を増やす」。

語義

  1. {動詞}ふえる(ふゆ)。ふやす。植物のように、子孫がふえる。子どもや財産をふやす。《類義語》植。「蕃殖(ハンショク)(=繁殖)」「賜不受命而貨殖焉=賜は命を受けずして貨殖す」〔論語・先進〕

字通

[形声]声符は直(ちよく)。直に植・埴(しよく)の声がある。〔説文〕四下に「脂膏(しかう)久しうして殖(くさ)るなり」と腐殖の意とする。歹(がつ)は歺、残骨の象。動物性のものは、腐殖すると肥料としての効能が高く、そこからものの滋生増殖することをいう。

植(ショク・12画)

初出は春秋末期または戦国早期の金文。ぎりぎり論語の時代に存在しなかった可能性がある。カールグレン上古音はdʰi̯əɡ(去)またはȡi̯ək(入)。同音は以下の通り。「ゴン」は呉音。論語語釈「置」論語語釈「直」も参照。

dʰi̯əɡ
初出 声調 備考
をさめる 秦系戦国文字 平/去 →語釈
もつ 春秋末期金文 →語釈
とどまる 魏隷書
そばだつ 不明
秦隷書
待つ 説文解字
まつりのには 春秋早期金文
たくはへる 説文解字
值(値) もつ 説文解字
うゑる 春秋末期または戦国早期金文

 

ȡi̯ək
初出 声調 備考
ショク くさる 前漢隷書 →語釈
うゑる 春秋末期または戦国早期金文
はに 前漢隷書

学研漢和大字典

会意兼形声。直の原字は「━印(まっすぐ)+目」からなる会意文字で、目をまっすぐに向けること。植は「木+(音符)直」で、木をまっすぐにたてること。置(まっすぐたてておく)・徳(トク)(まっすぐな心と行い)などと同系。

語義

  1. {動詞}うえる(うう)。草木をたててうえる。うえつける。《類義語》種。「種植(うえる)」「移植」。
  2. {動詞}たてる(たつ)。木をうえるように、まっすぐたてる。「植其杖而芸=其の杖を植てて芸す」〔論語・微子〕
  3. {動詞・形容詞}じっとたつ。▽じっと、ひと所にたっている草木を植物という。
  4. {動詞}じっと定着させる。定着させて育てる。「培植」「封植」「植民(=殖民)」。
  5. {動詞}まっすぐたてておく。じっと、止めておく。▽置(チ)(おく)に当てた用法。

字通

[形声]声符は直(ちよく)。直に埴・殖(しよく)の声がある。直に挺直の意があり、植(た)てるものをいう。〔説文〕六上に「戶の植なり」とあって戸榜の柱、たての「貫の木」の意とする。重文に置に従う字を録し、〔論語、微子〕「其の杖を植(た)てて芸(くさぎ)る」の植を、〔漢石経〕に置に作る。木をたてる意であるが、植物の意に用い、また人を他地に移すことを植民という。

屬/属(ショク・12画)

属 金文
八年相邦呂不韋戈・戦国末期

初出:初出は春秋中期の金文(「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1010)。ただし字形が未公開。「小学堂」による初出は戦国末期の金文。

字形:「尾」+音符「蜀」。

音:カールグレン上古音はȶi̯uk(入)とȡi̯uk(入)の二通りあり、藤堂上古音はdhiuk(入)とtiuk(入)。違いは清音か濁音か。「ゾク」は慣用音または呉音。

用例:春秋末期に「楚刱(荊)喪氒(厥)𠂤(師),滅氒(厥)□(屬)。」とあり、”部下”・”配下の兵”と解せる。

現伝論語での用例は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。蜀(ショク)は、桑の葉にひっついて離れない目の大きい虫のこと。屬は「尾+(音符)蜀」で、しりをひっつけて交尾すること。ひっついて離れない意を含む。觸(=触。角をくっつける→触れる)・注(じっとくっつけて離れない)などと同系。意味「任せて頼む」の意味は「ショク」と読む。

語義

ショクtiuk(入)「ゾク」は慣用音
  1. (ゾクス){動詞}つく。つける(つく)。くっつく。ひっつける。よせ集める。また、つきしたがう。「付属」「騎能属者、百余人耳=騎の能く属く者、百余人耳」〔史記・項羽〕
  2. (ゾクス){動詞}その範囲にはいっている。仲間にはいっている。「帰属」「天下属安定何故反乎=天下安定に属す何の故に反するか」〔史記・留侯〕
  3. {動詞}つづく。つづける(つづく)。あとからひっついてくる。「属引」「壓属(ケイゾク)」。
  4. (ショクス){動詞}つづる。文句をくっつけて文章をつづる。《類義語》綴(テツ)。「属文=文を属す」。
  5. (ショクス){動詞}ある対象に気持ち・注意をそそいで離さない。「属望=望みを属す」。
  6. (ショクス){動詞}物事の処置を相手に押しつける。頼みこむ。酒などをしいてすすめる。《同義語》嘱。「召亮於成都、属以後事=亮を成都に召し、属するに後事を以てす」〔蜀志・諸葛亮〕
ショクdhiuk(入)「ゾク」は呉音
  1. {名詞}やから。仲間。《類義語》類。「金属」。
  2. {名詞}一群をなしたものの複数をあらわすことば。「汝属(ナンジガゾク)(きみたち)」「吾属今為之虜矣=吾が属今これが虜と為らんとす」〔史記・項羽〕
  3. 《日本語での特別な意味》さかん(さくゎん)。四等官で、職・坊・寮の第四位。

字通

[会意]旧字は屬に作り、尾(び)+蜀(しょく)。尾は牝獣、蜀は牡器を主とする牡獣の形で、虫の部分は牡器の形。尾と虫と、牝牡相属(つら)なるを屬という。ゆえに連属の意となる。〔説文〕八下に「連なるなり」とし、蜀声とするが、蜀は獨(独)・斀(たく)の従うところで、単なる声符ではない。斀は牡器を殴(う)つ形で斀去(たくきよ)、去勢することをいう。すべて連属し、附属する関係にあることを属という。

飾(ショク・13画)

飾 秦系戦国文字
詛楚文・戦国秦

初出:初出は秦系戦国文字。それに先行して、楚系戦国文字で「釴」「〔王弋〕」「杙」「〔衤弋〕」が「飾」と釈文されている。

字形:「食」+「戈」”カマ状のほこ”+「巾」。つくりはほこに下げた飾りの房だろうが、「食」へんは音符と解するしかない。

音:カールグレン上古音はɕi̯ək(入)。同音は「識」、「式」、「拭」、「軾」。「識」に”しるし・めじるし”の意があり、西周早期の金文に存在するが、”かざる”と同義かと言えば微妙。

用例:戦国早期「曽侯乙楚墓」077に「丌(其)革轡黃金之釴(飾)。」とあり、「飾」の釈文の例。

文献上の初出は論語郷党篇6。『孟子』には見られないが『墨子』『荀子』『荘子』に用例がある。戦国中期に現れた言葉と考えてよい。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓に「誎」”せわしうながす”(カ音・藤堂上古音不明)があり、初出は西周早期の金文。ただし金文は「諫」”いさめる”と釈文されており、”かざる”の語釈が見えるのは三国魏の『広雅』から。上古音に語義を共有する漢字は無い。

学研漢和大字典

形声。「巾(ぬのかざり)+運(人)+(音符)食」。人が布切れなどを用いて、外観に手を加えることをあらわす。人工を加えてととのえる意を含む。食のもとの意味とは関係がない。以(用いる)・治(手を加えて調整する)・式(道具、やり方)・飭(チョク)(形をととのえる)と同系。また、拭(よごれをとる)とも縁が近い。

語義

  1. {動詞}かざる。手を加えてきれいにする。「君子不以紺坎飾=君子は紺坎を以て飾らず」〔論語・郷党〕
  2. {名詞}かざり。きれいに見せるためにつけたもの。

字通

[会意]飤(しよく)+巾(きん)。飤は食器の前に人の在る形で、食の初文。そのときに巾を帯びる。〔説文〕七下に「㕞(ぬぐ)ふなり」とあり、㕞はまた刷に作る。刷も、同じく人が巾を帯びる形である。飾は拭い清めることが原義。〔周礼、地官、封人〕「其の牛牲を飾(ぬぐ)ふ」のようにいう。のち容飾・修飾の意となり、飾詐のように用いる。

蝕(ショク・14画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はi̯ək(入)。同音多数。『大漢和辞典』で音ショク訓むしばむは、他に存在しない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「虫+(音符)食(くいこむ)」。「食」に書き換えることがある。「日食・月食・皆既食・侵食・浸食・腐食・食尽」▽「むしばむ」は「虫食む」とも書く。

語義

  1. {動詞}むしばむ。虫が人の皮膚にくいこむ。また、おかしてくいものにする。
  2. {名詞}太陽や月が欠けること。《同義語》⇒食。「日蝕(=日食)」「月蝕(=月食)」。
  3. {名詞}くいこみ。くいこんでくさったきず。

字通

[会意]食(しよく)+虫。虫の蠹食(としよく)することをいう。〔説文〕十三上に「蝕は敗創(はいさう)なり」とし、字は食と人と虫とに従い、創(きず)あとの意であるとするが、篆文の字形は飤(し)と虫とに従うものとみるべく、食物の蠹敗することをいう。鬲(れき)中のものに虫が生ずることを融といい、融解の意となる。日月の食にも、蝕を用いる。

稷(ショク・15画)

稷 金文
子禾子釜・戦国斉

初出:初出は戦国時代の金文

字形:「禾」”イネ科の植物”+「鬼」”頭部が大きい”+「女」”中身が詰まった”。穂の大きな穀物のさま。

音:カールグレン上古音はtsi̯ək(入)。同音に「即」、「蝍」”飛ぶ虫の総称”、「畟」”田畑をすく”(初出説文解字)。

用例:戦国の金文「子禾子釜」(集成10374)に「禝月丙午」とあり、”穀物の実る”と解せる。

「上海博物館蔵戦国楚竹簡」孔子詩論24に「句(后)稷之見貴也」とあり、穀物神の固有名と解せる。

論語時代の置換候補:上古音の同音に語義を共有する漢字は無い。『大漢和辞典』に同音同訓は存在しない。

備考:

稷 金文

用例:西周中期「史牆盤」(集成10175)にある上掲の字は一説に「稷」と釈文されるが、後世の字形とまるで違い、釈文に賛成できない。

学研漢和大字典

会意兼形声。畟(ショク)は「田+人+夂(あし)」からなり、人が畑を足でふんで耕すことを示す。稷は「禾(穀物)+(音符)畟」。⇒「后稷(コウショク)」。

語義

  1. {名詞}穀物の一種。▽漢代にはあわ、唐代にはきびの意に用いることもある。一説に高梁(コーリャン)。
  2. {名詞}五穀の神。またそれをまつるやしろ。「社稷(シャショク)」。
  3. {名詞}昔、農事をつかさどった役。「后稷(コウショク)」。
  4. {名詞}周王室の祖先、棄のこと。▽后稷の官であったことから。

※熱帯アフリカ原産のコウリャンが中国に入るのは、DNAの分布からは950年ごろ(唐と宋の間の五代)と考えられている、とwikipediaに言う

字通

[形声]声符は畟(しよく)。畟は田神の象。〔説文〕七上に「𪗉(たかきび)なり。五穀の長なり」とみえ、今の高粱(こうりやん)をいう。次条に「𪗉は稷なり」と互訓している。畟字条五下に「稼を治むること、畟畟として進むなり」とするが、〔左伝、昭二十九年〕に「稷は田正なり」、〔周礼、地官、大司徒〕「社稷」の注に「后土及び田正の神なり」とあって、それが初義。周の始祖后稷(こうしよく)は農業神であり、地の神である社と合わせて社稷といい、国家の意に用いる。

※上記の通りコウリャンが中国に入るのは五代である。

職(ショク・18画)

職 玉書
侯馬盟書・春秋末期

初出:初出は春秋末期の玉書

字形:「耳」+「戠」”犠牲獣をともなう祭祀”。原義はおそらく”血をすすり合って誓う”。

音:カールグレン上古音はȶi̯ək(入)。

用例:春秋末期「叔尸鐘」(集成274)に「余命女𦀂差正卿。」とあり、「𦀂」は「職」と釈文され、”職”と解せる。春秋末期までの用例は以上で全て。

戦国時代には人名の用例が加わる。

戦国最末期「睡虎地秦簡」效律44に「馬牛誤職(識)耳,及物之不能相易者,貲官嗇夫一盾」とあり、”記す”と解せる。耳に焼き印を押すことだろうか。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字の原字は「弋(くい)+辛(切れめをつける刃物)」から成り、くいや切れめで目じるしをつけること。のち、「音(口には出さずだまっているさま)+弋(目じるし)」の会意文字となり、口でいうかわりにしるしをつけて、よく区別すること。識別の識の原字。職はそれを音符とし、耳を加えた字で、耳できいてよく識別することを示す。転じて、よく識別でき、わきまえている仕事の意となる。幟(シ)(識別する目じるしの旗)・識(シキ)(ことばでみわける)と同系。類義語に司。

意味

  1. {名詞}つかさ。よく心得ている一定の仕事や持ち場。《類義語》業・司。「曠職=職を曠しくす」「述職(諸侯が天子*に職務を報告する)」。
  2. {名詞}本分としてなすべき事がら。生活を支える仕事。「婦職(嫁としての務め)」。
  3. {名詞}割り当て。みつぎもの。「四夷納職=四夷職を納る」〔淮南子・原道〕
  4. {動詞}つかさどる。一定の仕事の責任を負う。《類義語》司・主。「職方氏(地方を管理する周代の官)」「非博士官所職=博士の官の職る所に非ず」〔史記・秦始皇〕
  5. (ショクトシテ){副詞}もとより。本来そうあるべきものとして。おもに。もっぱら。《類義語》主。「職是由此=職として是此に由る」。
  6. 《日本語での特別な意味》それを仕事としている人。「畳職」「鳶職」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

声符は戠(しよく)。戠は戈に呪飾をつける意で、しるしとすること。〔説文〕十二上に「記微なり」とあるのは「記識(きし)」あるいは「記徽(きき)」の誤りであろう。金文の字形に貢に従うものがあり、戦獲としての首や耳にその記識を加えたもので、字はまた識と通用する。その戦功を明確にし、占有し、不動のものとすることをいう。

識(ショク・19画)

識 金文
𣄰尊・西周早期

初出:初出は西周早期の金文

字形:初出の字形は「戠」で、「戈」+”棒杭”。「戠」の語義は兵器の名とも、土盛りとも、”あつまる”の意ともされるが、初出は”知る”の意と解せる。

音:カールグレン上古音は、”しる”ではɕi̯ək(入声)、”しるす”ではȶi̯əɡ(去声)。「シキ」は呉音。

用例:上掲西周早期「𣄰尊」(集成6014)に「鳥虖。爾有唯小子亡戠。」とあり、「ああ、なんじただ小子のしる亡き有り」と読め、”知る”と解せる。春秋末期までの用例はこれ一件のみ。

「上海博物館蔵戦国楚竹簡」緇衣02に「爲下可󱩾(述)而网(識)也。」とあり、「网」”あみ”を「識」と釈文しているが、”しるす”の意。

戦国末期までの出土に、”記す”と明確に解読できる例は無い。

備考:「漢語多功能字庫」は「戠」の原義を”丸太”とし、西周の「何尊」を出典として、金文から「識」に転用されたという。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字の原字は「弋(棒ぐい)+Y型のくい」で、目じるしのくいをあらわす。のち、口または音をそえた字となった。識はそれを音符とし、言を加えた字で、目じるしや名によって、いちいち区別して、その名をしること。樴(シキ)(目じるしのくい)・幟(シ)(目じるしの旗)などと同系。類義語に知・誌。

語義

シキɕi̯ək(入声)
  1. {動詞}しる。特色によってそれと見わける。また、他と区別して物や人の名称をしる。《類義語》知。「知識」「識別」「多識於鳥獣艸木之名=多く鳥獣艸木の名を識る」〔論語・陽貨〕
    ま{名詞}物事の是非・善悪の見わけ方。判別のしかた。また、それをつかさどる心の能力。「見識」「良識」。
  2. {名詞}しりあい。「旧識」「相識(しりあいの仲)」。
  3. {名詞}《仏教》精神が対象を認識する作用。十二因縁の一つ。前世の生の煩悩を因として、現在の生に託する人生の意識。
シȶi̯əɡ(去声)
  1. {動詞}しるす。書きとめる。▽誌(=志)に当てた用法。
  2. {名詞}しるし。目じるしや旗じるしのこと。▽幟(シ)に当てた用法。
  3. {名詞}銅器や石碑に、平面より高く刻みしるした文字。陽文。「款識(カンシ)」。

字通

[形声]声符は戠(しよく)。戠は戈(ほこ)に呪飾を加えた形で、標識とする意がある。〔説文〕三上に「常なり」、また「一に曰く、知るなり」という。常は太常、織文のある旗の意で、いわゆる旗幟(きし)。戠は〔説文〕に説解を欠く字であるが、戈に赤い呪飾を加えるので幟・織なども戠に従う字である。標識の意から、知る、知識などの意となる。

辱(ジョク・10画)

辱 甲骨文 辱 金文
甲骨文/䣄[貝殽]尹朁鼎・戦国早期

初出:初出は甲骨文。上掲左は「言+辱」の字形。

字形:甲骨文の字形は「辰」”大鎌”+「又」”手”で、原義は「くさぎる」、つまり大ガマで草を刈ることとされるが、現在ではその意味には「耨」を用い、また甲骨文の用例とも合わない。

音:カールグレン上古音はȵi̯uk(入)。同音は辱を部品とする漢字群。

用例:「甲骨文合集合集」28351.1に「邑辱鹿其南牧擒 吉」とあり、”捕らえる”または”うしなう”と解せる。

28352に「惟邑辱鹿其擒」とあり、”捕らえる”または”うしなう”と解せる。

春秋早期「󱧴金氏孫匜」(集成10223)に「󱧳金氏孫乍寶也。子子孫孫永寶用。」とあり、「󱧳」は「虍」”虎の頭”の下に、左右に「貝」「辱」と記す。読みも分からず、人名の一部と解するしか無い。

春秋末期までの用例は、解読不能の甲骨文を除けば以上で全て。

漢語多功能字庫」によると、”はじ”の語義は戦国早期の金文「䣄[貝殽]尹朁鼎」からで、音を借りた転用だが、字形は「言+辱」。「辱」だけでその語義を持ったのも、戦国時代まで時代が下る。

部品「辰」に”はじ”の語義は『大漢和辞典』で確認できない。近音に「匿」音ジョクがあり、カ音はni̯ək(入)。殷代末期の金文からあり、”逃げ隠れる”・”隠す”・”縮む”の語釈を『大漢和辞典』が載せる。また「慝」tʰnək(入)と通ず、と大漢和辞典が言い、「慝」には”悪い・汚れる・いつわる”の語釈がある。また「濁」”濁る・汚す”の日本語音に「ジョク」があり、カ音はtŭk(入)で、戦国早期の金文から確認できる

学研漢和大字典

会意。「辰(やわらかい貝の肉)+寸(手。動詞の記号)」で、強さをくじいて、ぐったりと柔らかくさせること。褥(ジョク)(柔らかい下じき)・耨(ジョク)(土を柔らかくする)と同系。類義語に恥。「かたじけない」は「忝い」とも書く。

語義

  1. (ジョクス){動詞・名詞}はじる(はづ)。はずかしめる(はづかしむ)。はじ(はぢ)。はずかしめ(はづかしめ)。くじけてがっくりする。自信や体面をくじく。また、くじけた気持ち。だいなしにされたつらさ。《類義語》恥(チ)。「恥辱」「辱在泥塗=辱して泥塗に在り」〔春秋左氏伝・襄三〇〕
  2. {形容詞・動詞}かたじけない(かたじけなし)。かたじけなくする(かたじけなくす)。相手が体面をけがしてまで、おやりくださったという意をそえる語。ありがたい。申しわけない。「辱臨」「辱知」。

字通

[会意]辰(しん)+寸。辰は貝。その貝殻をうち砕いて刃器とし、それを手(寸)にもつ形。農具として用いる。「耕耨(こうどう)」の耨は、耒(すき)と辱とに従い、耕作することをいう。〔説文〕十四下に「恥づるなり。寸の、辰の下に在るに從ふ。耕時を失ふときは、封畺(疆)上に於て之れを戮(ころ)すなり。辰なる者は、農の時なり。故に房星を辰と爲す。田つくる候(とき)なり」と説くが、まったく根拠のない説である。汚辱の意はおそらく仮借。〔左伝〕に「辱(かたじけな)く寡君を收めよ」「辱く敝邑に至る」のように、一種の自謙・尊敬の語として用いる。尊者に対して、敢てすることを詫びる意味の用法で、のち恥辱の意に転じたものであろう。交友を辱知・辱友といい、許されることを謝して辱収という。

匿(ジョク・10画)

匿 甲骨文 匿 金文
甲骨文/大盂鼎・西周早期

初出:「漢語多功能字庫」「国学大師」による初出は甲骨文。

字形:甲骨文の字形は「𠃊」+”髪を延ばし、跪いて天を仰ぐ人”で、隠れて祈ったりのろったりするさま。原義は”隠れて”。

音:「トク」は慣用音。呉音は「ニョク」。カールグレン上古音はni̯ək(入)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では「トク」”邪悪”の意に(大盂鼎・西周早期)、戦国の竹簡では”隠す”・”邪悪”の意に用いた。

祈るのはまだしも、こっそりと呪われてはたまったものではない。”邪悪”の意が生まれるのも当然だ。

学研漢和大字典

会意。若は、柔らかい桑の葉。匿は「匸(かくす)+若(くわ)」で、蚕に与える桑の葉を、容器の中にびっしりとしまいこむことを示す。わくや、かこいの中に入れてかくすこと。類義語に蔵。

語義

  1. {動詞}かくれる(かくる)。かくす。入れ物や壁を利用してその中に姿をかくす。「匿姦者与降敵同罰=姦を匿す者は敵に降ると罰を同じうす」〔史記・商君〕

字通

[会意]匸(けい)+若(じやく)。若は巫女が舞い祈る形。匸は秘匿の所。巫女が秘匿の所にあって、ひそかに祈禱することをいう。〔説文〕十二下に「亡(に)ぐるなり」とし、字を若声とするが、匸部には匽・医など、秘匿のところで呪儀を行うことを示す字が多い。〔爾雅、釈詁〕に「微なり」とあるのは陰微、また〔玉篇〕に「陰姦なり」とみえる。匿れて呪詛などを行う陰姦のことをいう。金文には周初の〔大盂鼎(だいうてい)〕に「厥(そ)の匿を闢(ひら)き、四方を匍(ふ)(敷)有す」とあり、服從しないものは匿を懐くものとされた。〔周礼、地官、土訓〕「地慝(ちとく)」の〔鄭司農注〕に「地生ずる所の惡物、人を害する者、虺蝮(きふく)の屬の若(ごと)し」とあり、地妖の類をいう。もと呪的なものをさしていう語である。

論語語釈
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