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論語語釈「チ」

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語釈 urlリンクミス

地(チ・6画)

地 甲骨文 地 金文 地 玉石文
『字通』所収甲骨文/同金文/侯馬盟書・春秋末期

初出:中国・台湾の漢字学での初出は春秋末期の玉石文。ただし字形は「䧘」。白川説による初出は甲骨文で、その字形は「墜」。白川説による初出は甲骨文で、その字形は「墜」。

字形:春秋末期までの字形は「阝」”はしご”+「彖」”虫”で、虫が這い上がってくる地面を指すか。

音:カールグレン上古音はdʰia(去)。同音は也を部品とする漢字群、多を部品とする漢字群。

用例:「侯馬盟書」の原文は参照できない。

戦国の竹簡では”大地”・”地面”・”領土”の意に用いた。

学研漢和大字典

会意兼形声。也(ヤ)は、うすいからだののびたさそりを描いた象形文字。地は「土+(音符)也」で、平らにのびた土地を示す。弛(シ)(のびる→ゆるむ)・紙(シ)(平らにのびたかみ)・池(平らに広がる水たまり)と同系。類義語に壌。付表では、「意気地」を「いくじ」「心地」を「ここち」と読む。▽「限られた場所」「よりどころとする立場」「荷物・書物などの下のほう」の意味は「チ」と読み、「本来のまま」「中心になるものの基礎」「その土地のもの」「実際」「碁で、石で囲んで自分のものとした空所」の意味は「ジ」と読むことが多い。▽草書体をひらがな「ち」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}つち。広々とのびた大地。《対語》⇒天。「天長地久=天は長く地は久し」〔老子・七〕
  2. {名詞}地面。「墜地=地に墜つ」「掃地=地を掃ふ」「置之地=これを地に置く」〔史記・項羽〕
  3. {名詞}領土や国土。「喪地於秦七百里=地を秦に喪ふこと七百里」〔孟子・梁上〕
  4. {名詞}耕地。畑。《類義語》田。
  5. {名詞}住まいや環境。「心遠地自偏=心遠くして地自ら偏なり」〔陶潜・飲酒〕
  6. {名詞}ある特定の限られた場所。「此地一為別=此の地一たび別れを為せば」〔李白・送友人〕
  7. {名詞}下地(シタジ)。「素地」。
  8. {形容詞}その土地の。いなかの。「地酒」。
  9. {助辞}《俗語》副詞をつくる助辞。「忽地(たちまち)」。
  10. 《日本語での特別な意味》
    ①衣服の材料。きれ。「生地(キジ)」。
    ②じ(ぢ)。文章の中で、会話以外のところ。「地(ジ)の文」「地謡」。
    ③じ(ぢ)。うまれつきの性質・状態であること。「地声」。
    ④人のよってたつところ。身分。境遇。「地位」「門地」。
    ⑤馬を普通の速度で歩かせること。「地乗(ジノリ)」。
    ⑥ち。物事を三段階に分けるときの第二。「天地人」。
    ⑦ち。物の下部。「天地無用」《対語》天。

字通

[形声]声符は也(や)。也に池・馳(ち)の声がある。字の初文は墜に作り、その字は会意。神梯を示す𨸏(ふ)の前に、犬牲などをおき、土(社)神を設けて、陟降する神を祀るところ。神の降りたつことを隊という。墜はのち墜落の意となり、墜に代わる形声の字として地が作られた。〔説文〕十三下に「元气初めて分れ、輕清にして昜(やう)(陽)なるものは天と爲り、重濁して侌(いん)(陰)なるものは地と爲る。萬物の敶列(ちんれつ)する所なり」(段注本)とあって、地と敶(陳)の双声によって訓している。〔経籍䉵詁〕にあげる「底なり。大なり。諟なり。諦なり。施なり。易なり。土なり」などの訓も、音の関係を以て訓するものであるが、本義は神の降り立つところをいう。〔説文〕に籀文(ちゆうぶん)として■(阝+彔+下に土)をあげるが、■(阝+彔+下に土)は■(阝+彔)(たん)声で声が異なり、土部の〔説文新附〕にあげる墜(つい)が、地の初文であろう。金文に墜の初文を隊・㒸に作る。地には異体の字が多く、埊は則天武后の新字十九字の一で山・水・土を合わせたもの、他に〔新撰字鏡〕に上古文二字、古文三字を録し、〔竜龕手鏡〕にも埊を含めて古文三字を録している。

杘(チ・7画)

杘 秦系戦国文字
「睡虎地秦簡」日甲64(隸)

初出:初出は戦国時代の秦系隷書

字形:「尸」”座った人の横姿”+「木」で、人の乗った車の留木。原義は”車止め”。『説文解字』によると”糸枠の柄”といい、あるいは「柅」と記す。

音:カールグレン上古音は不明。条目が無いため藤堂上古音も不明だが、異体字とされる「柅」について、「尼またその上声の音」とあり、「尼」の藤堂上古音はnɪer(平)またはner(去)。

用例:戦国時代の『列子』力命篇に「墨杘」とあり、人名と解せる。

「漢語多功能字庫」に条目無し。『大漢和辞典』に『集韻』を引いて”ずるい。欺く”という。

論語公冶長篇23の「微生高」を定州竹簡論語は「杘生高」と記し、「微」のカールグレン上古音はmi̯wər(平)、藤堂上古音はmɪuər(平)。論語語釈「微」を参照。

学研漢和大字典

柅(ジ)

呉音「ニ」。会意兼形声。「木+(音符)尼(じっとくっつく)」。じっとくっついて車を止める止め木。

語義

  1. {名詞}樹木の名。実は梨(ナシ)に似ているという。
  2. {名詞}車の下において、動きださないように車をとめるもの。止め木。

字通

[形声]声符は尼(じ)。尼に、泥のように円滑でない意がある。〔説文〕六上に「柅木なり。實、梨の如し」と木名とする。〔説文〕にまた「杘(ぢ)は籆(わく)の柄なり」とあって糸わくの柄、その或る体として柅を録する。杘は柅と声義同じく、柅の省略の字であろう。

知(チ・8画)

知 智 甲骨文 知 金文 知 睡虎地秦墓竹簡
甲骨文/徐賚尹朁鼎・春秋早期/秦系戦国文字

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「𣉻」から「曰」を欠いたもの。現行字体の初出は秦系戦国文字。ただし部品配置が異なるものを含めると、「知」は春秋早期の金文から見られる。西周の金文には「智」「𣉻」と記す例が複数ある。論語語釈「智」を参照。

現伝の論語の多くが「知」と記しているのは、唐石経の系統だからであり、唐石経は政治的理由から、論語の本文に多数の改竄を加えている。「知」もその一つで、唐石経以前、定州竹簡論語では「𣉻」(智)と書かれていた。

原始論語?…→定州竹簡論語→白虎通義→
             ┌(中国)─唐石経─論語注疏─論語集注─(古注滅ぶ)→
→漢石経─古注─経典釈文─┤ ↓↓↓↓↓↓↓さまざまな影響↓↓↓↓↓↓↓
       ・慶大本  └(日本)─清家本─正平本─文明本─足利本─根本本→
→(中国)─(古注逆輸入)─論語正義─────→(現在)
→(日本)─────────────懐徳堂本→(現在)

字形:甲骨文の字形は「示」”位牌”+「口」+「矢」。位牌の前で言葉に出して誓うさま。「矢」に”誓う”の語義がある。原義はおそらく”誓う”。また「漢語多功能字庫」智条によると、「子」+「矢」+「口」、「大」+「子」+「冊」になっている甲骨文も比定されている。前者は王族と誓うさま、後者は王族と誓い簡に誓約文を記すさまと解せる。

音:カールグレン上古音はti̯ĕɡ(平)で、同音は蜘(クモ)・智。

用例:『甲骨文合集』41741.1に「知子冊」とあるのは、上記の通り王族と誓い簡に誓約文を記すさまと解せる。

西周末期の「逆鐘」に「毋敢無□(聞)□(知)」とあり、「敢えて聞き知ること無き毋れ」とよめ、”知る”の語義を確認できる。

「知」の春秋時代の出土例は見られない。多くは「智」と記された。

漢語多功能字庫」によると、”知者”・”管掌する”の用例は、戦国時代の金文まで時代が下るという。

「漢語多功能字庫」矢条には甲骨文・金文に例がないものの、「矢」には”誓う”の語釈がある。つまり殷代では、「智」は知るの意味でなかったということだ。これと平行して国学大師も、「甲文的智與後來「識詞」的用法無涉。」という。

なお論語に用例があり、音が近い字としては、「」が挙げられる。

学研漢和大字典

知 訟
会意文字で、「矢+口」。矢のようにまっすぐに物事の本質をいい当てることをあらわす。聖は知の語尾がŋに転じたことばで、もと耳も口も正しく、物事を当てる知恵者のこと。

また、是(シ)・(ゼ)(まっすぐ)と縁が近い。▽智は、名詞のちえをあらわすが、知で代用する。類義語の認は何ものであるかを見さだめること。識は、物事を区別し見わけること。

語義

  1. {動詞}しる。物事の本質を正しく見とおす。ずばりと当てる。感覚や判断・記憶などの働きを含めていう。《類義語》識。「知性」「知我者其天乎=我を知る者はそれ天か」〔論語・憲問〕
  2. {動詞}しらせる(しらす)。相手がしるようにする。「通知」。
  3. (チナリ){形容詞・名詞}物事を正しく見ぬく力がある。また、その力をそなえた人。「知者」「上知」「焉得知=いづくんぞ知なるを得んや」〔論語・里仁〕
  4. {形容詞・名詞}交際して相手をよくしっている。その値うちをよくしっている。しりあい。「旧知」「知遇」。
  5. {動詞・名詞}州・県の役所の仕事をよく心得ている。また、そのような人。主任や地方の長官。「知事」「知県(県長)」。
  6. {名詞}物事の本質をみぬく能力。ちえ。▽去声に読む。《同義語》智。「知恵(=智慧)」「好学近乎知=学を好むは知に近し」〔中庸〕
  7. {名詞}陽明学派で、良知(人間固有の良心)のこと。「知行合一」。

※「知」に”仕事を担当する”の語義が出来たのは唐代のことで、「知県」「知枢密院」などの官名が現れた。前代を記した『隋書』には、「知政」という言葉はあるが官名としては見られず、”担当する”の意とも断じ得ない。しかもその編纂は唐になってから太宗の勅命による。

字通

知 篆書
(篆書)

矢+口。矢には矢誓の意があり、誓約のときに用いた。口は祝詞を収める器の𠙵さい。神かけて誓うことで、これによって相互の意思を確認する意である。〔説文〕五下に「詞なり」、また智字条四上に「識る詞なり」とあり、〔段注〕に知・智は同訓であるべきという。智は知に更にその誓書を加えた字である。〔玉篇〕に「識るなり、覺るなり」と訓するのは、動詞とする意であろう。〔左伝、襄二十六年〕「子產、其れ將に政を知らんとす」は司る意。知事、知県のように用いる。

治(チ・8画)

治 秦系戦国文字
(秦系戦国文字)

初出:初出は秦系戦国文字

字形:「氵」+「台」で、「台」は「㠯」”すき”+「𠙵」”くち→人”で、大勢が工具を持って治水をするさま。「台」の字に引きずられず初出を見るなら、「氵」+「亼」”あつめる”+「𠙵」で、人を集めて治水工事させるさま。原義は”ととのえる”。

唐開成石経

唐石経は高宗李治のいみ名を避諱していない。唐石経で論語といみ名がかち合う皇帝は、高祖李淵・太宗李世民・徳宗李适・順宗李誦・憲宗李純・穆宗李恒、みな最後の一画を欠くことで避諱されているのに、高宗だけが例外。いわゆる武韋の禍を招き、唐帝国を一旦滅ぼした廃帝の扱いなのだろうか。

漢語多功能字庫」は「山東半島大沽河與支流小沽河」というが、初出が秦系戦国文字であるからには、疑わしい。論語語釈「台」を参照。

音:カールグレン上古音はdhi̯əɡ(平/去)で、同音は論語語釈「植」を参照。去声で韻目「至」字母「澄」の音は不明。

用例:戦国楚竹簡では、「𥿆」(カールグレン上古音不明・上)”おぎなう”を「治」と釈文する例が多い。

戦国最末期の「睡虎地秦簡」語書10に「而惡與人辨治」とあり、”整理する”と解せる。

同司空144に「種時、治苗時各二旬。」とあり、”管理させる”と解せる。

「睡虎地秦簡」では「治」を「笞」と語釈する例が複数ある。

論語時代の置換候補:「治」dhi̯əɡに近音の「是」ȡi̯ĕɡの字形は、”現地に足を運んで監督するさま”だから、”管理する”の意に限るなら「治」の論語時代の置換候補になりうる。論語語釈「是」を参照。

同音の「持」に”まもる・たすける・ささえる・たもつ”などの語釈があり、音通するが、”おさめる”の用法が春秋時代以前では確認できない。論語語釈「持」を参照。『大漢和辞典』で”おさめる”意を持つ漢字は以下の通り。
治 大漢和辞典

うち日本語音で音通する乿・芖(チ・ジ)は甲骨文・金文が存在せず、𠩺(キ・リ・チ)はカールグレン上古音不明。知のカールグレン上古音はti̯ĕɡ。雉のカ音はdhər。是(シ・ジ/テイ・ダイ/ゼ)のカ音はȡi̯ĕɡ。

「治」dʰi̯əɡと近音の音通候補として、「知」ti̯ĕɡも挙げられる。ただし春秋時代以前では”おさめる”の用例を確認できない。論語語釈「知」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。古人は曲がった棒を耕作のすきとして用いた。以の原字はその曲がった棒の形で、工具を用いて人工を加えること。台は「口+(音符)㠯(イ)(=以)」の会意兼形声文字で、ものをいったり、工作をするなど作為を加えること。治は「水+(音符)台」で、河川に人工を加えて流れを調整すること。塊・以・台・治などはすべて人工で調整する意を含む。

飴(イ)(麦や米に加工したあめ)と同系。類義語の修は、すらりとよい形にととのえること。御(=馭)は、押さえていうことをきかせること。斂(レン)は、引きしめること。理は、すじを通してととのえること。異字同訓におさまる・おさめる⇒収 なおす・なおる⇒直。「なおる」「なおす」は「直る」「直す」とも書く。

語義

  1. {動詞}おさめる(をさむ)。河川に人工を加えて流れをうまく調節する「治水=水を治む」「治河=河を治む」。
  2. {動詞}おさめる(をさむ)。人工を加えてほどよい状態にする。うまく調整する。「治軍=軍を治む」「治生=生を治む」「治産=産を治む」。
  3. {動詞}おさめる(をさむ)。政事を行って世の中をうまくおさめる。「政治」「先治其国=先づ其の国を治む」〔大学〕
  4. {動詞}おさめる(をさむ)。刑をきめる。罰をきめて罪人を取り締まる。「治罪=罪を治む」。
  5. {動詞}おさめる(をさむ)。なおす(なほす)。なおる(なほる)。手を加えて病気をなおす。また、なおる。「治病(チビョウ)」。
  6. {名詞}おさまった状態。《対語》⇒乱。「帰於治=治に帰す」〔荀子・性悪〕
  7. {動詞}おさまる(をさまる)。世の秩序が正しくおさまる。「重罰不用而民自治=重罰を用ゐずして民自ら治まる」〔韓非子・五蠹〕
  8. {名詞}政治をする役所のある都市。「県治(ケンチ)(県の政府のある都市)」。

字通

[形声]声符は台(たい)。台に笞(ち)の声がある。台は耜(し)(すき)の形である厶(し)(㠯)に、祝禱の器である𠙵(さい)をそえて祓い清める意。〔説文〕十一上に川の名とするが、本義は治水。すべて条理に従って、ことを治めることをいう。

持(チ・9画)

持 金文
邾公牼鐘・春秋末期

初出:初出は西周中期の金文。ただし字形は「寺」。「小学堂」による初出は春秋末期の金文。やはり字形は「寺」。

字形:音符〔止〕”あし”+〔又〕”て”。手で持つこと。春秋の字形には「寺」のほか「𠱾」も見られる。

音:カールグレン上古音はdʰi̯əɡ(平)。同音は論語語釈「植」を参照。「ジ」は呉音。

用例:西周中期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA724に「寺(持)屯(純)魯令(命)」とあり、”保持する”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。寺は「寸(て)+(音符)之(シ)」の会意兼形声文字で、手の中にじっと止めること。持は「手+(音符)寺」で、手にじっと止めてもつこと。止・待(タイ)(じっとまつ)・峙(ジ)(じっと立つ)と同系。類義語に取。

語義

  1. {動詞}もつ。じっと手にとめる。《類義語》執(シュウ)・(シツ)・操。「所持」「右手持匕首=右手に匕首を持つ」〔史記・荊軻〕
  2. (ジス)(ヂス){動詞}たもつ。じっと守りささえる。「保持」「主持(責任をもってその仕事をささえる)」「自持=自ら持す」「十年持漢節=十年漢の節を持す」〔李白・蘇武論〕
  3. (ジス)(ヂス){動詞}ささえもちこたえる。「扶持(ささえる)」「持危=危ふきを持す」「危而不持=危ふくして持せず」〔論語・季氏〕
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①もち。受けもつこと。負担すること。「費用は各人持ち」。
    ②もち。試合などで、勝負が決まらない状態。あいこ。「持ち合い」「持碁(ジゴ)・(モチゴ)」。
    ③もてる。もてはやされる。人気がある。

字通

[形声]声符は寺(じ)。寺に、ものを保有し、またその状態を持続する意があり、持の初文。〔説文〕十二上に「握るなり」とあり、握持することをいう。握字条に「搤持(やくぢ)するなり」とあって、手中に堅く持つことをいう。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

致(チ・10画)

致 甲骨文 致 金文
甲骨文/伯到壺・西周晚期

初出:「漢語多功能字庫」での初出は甲骨文。「小学堂」「国学大師」での初出は西周中期の金文

字形:「至」”地面に突き刺さった矢”+「人」。

音:カールグレン上古音はti̯ĕd(去)。

用例:「先秦甲金文簡牘詞彙資料庫」では、動詞に分類されたのは全て戦国時代の用例。それ以外の品詞を含め金文以前の例は西周中期の「曶鼎」のみで、「用致茲人」とあるが語意が明瞭でない。

漢語多功能字庫」では、甲骨文の語義を「おそらく送り届けること」と言い、金文で”与える”の語義があるという。”至る”・”抵触する”の語義を兼ねるようになったのは戦国時代の竹簡からだという。

論語語釈「至」も参照。

学研漢和大字典

至 解字
会意兼形声文字で、至は、矢がー線までとどくさまをあらわす会意文字。致は「夂(あし)+〔音符〕至(いたる)」で、足で歩いて目標までとどくこと。自動詞の「至」に対して、他動詞として用いる。類義語の効(コウ)(いたす)は、力をしぼり出すこと。

語義

  1. {動詞}いたす。目ざす所までとどける。護送する。「致書=書を致す」「又不致膰爼於大夫=又膰爼を大夫に致さず」〔史記・孔子〕
  2. {動詞}いたす。こちらまで来させる。そこまでいたらせる。「招致」「致賢=賢を致す」「致之死地=これを死地に致す」。
  3. {動詞}いたす。ぎりぎりの線まで力を尽くす。「致力」「事君能致其身=君に事へて能く其の身を致す」〔論語・学而〕
  4. {動詞}いたす。役を返上して、役人をやめる。▽役目を返上して、お上に送りとどけるの意から。「致仕(チシ)(役人をやめる)」「致事=事を致す」。
  5. {動詞}いたす。ある結果をまねきよせる。「致禍=禍を致す」「致病=病を致す」。
  6. {名詞}気持ちのいたるところ。おもむき。「意致」「情致(気持ち)」「所以興懐、其致一也=懐を興すゆゑんは、其の致一なり」〔王羲之・蘭亭集序〕
  7. {名詞}いきつくところの意より、転じて、物事の方向と結果。「一致」「大致(物事のおよその方向)」。
  8. 《日本語での特別な意味》いたす。「する」の謙譲語。

字通

[会意]字の初形は■(至+人)に作り、至+人。〔説文〕五下に「送り詣(いた)るなり」とし、会意とする。至は矢の到達点。そこに人が到る意。金文の〔舀鼎(こつてい)〕に「用(もつ)て𢆶(こ)の人を■(至+人)(いた)す」とあり、致送の意に用いる。ただ到るのではなく、そこに赴き行為する意を含む字であろう。〔左伝、文六年〕「之れを竟(境)に送致す」とあるのが字の古義。転じて召致の意に用いる。致仕・致政も、職を辞し官を送り返す意。篆文の字形は文・攴(ぼく)でなく、夊(すい)に従う形で、夊は歩して赴く意。占地のために矢を放って、その到達点に赴き、そこでことをはじめる意であろう。その境位に達することであるから、心の到り達するところを雅致・趣致のようにいう。

恥(チ・10画)

恥 楚系戦国文字 恥 篆書
郭.緇.28/篆書

初出:初出は楚系戦国文字

足恥。而雀(爵)不足懽(勸)也。古(故)上不可以埶(褻)坓(刑)而□(輕)雀(爵)。《康□(誥)》員(云):「敬(『郭店楚簡』緇衣28)

…恥じるに足る。し而爵勸むるに足らざるなり。故に上、刑を褻る可から不。し而爵輕ぜらる。康誥に云う、敬みて…。

字形:「耳」+「心」。

音:カールグレン上古音はtʰi̯əɡ(上)。同音に「笞」「祉」(さいわい)「眙」(みつめる・とどまる)「佁」(おろかなさま・とどまる・いたる)がある。藤堂上古音はt’ɪəg。

用例:上掲「郭店楚簡」は”はじ”と解せる。

論語時代の置換候補:結論として存在しない。

同音の字に”はじ”の語釈は『大漢和辞典』にない。部品の「耳」に”はじ(る)”の語釈は『大漢和辞典』に無い。

『大漢和辞典』で同訓同音は「誀」のみ、甲骨文・金文で確認できない。ただし”はじ”という概念や”はずかしめる”という動詞が孔子在世当時に無かったとは考えづらく、おそらく当時は「羞」(カ音sのみ/藤堂上古音siog)と書かれた。下の表の通り、これしか候補が無いし、音も通じないが、甲骨文から確認できる。
羞 金文
「羞」(金文)

『大漢和辞典』で「はじ」と訓読される字は以下の通り。

字形 初出 上古音 春秋時代の語義
リク 前漢隷書
コウ 説文解字
テン 説文解字
楚系戦国文字 tʰi̯əɡ(上)
𢟲 ジョク
シュウ 甲骨文 s(平) 差し上げる・追撃する
コウ 楚系戦国文字 ku(上)
ケイ 説文解字 ɡʰieɡ(上)
リン 説文解字

備考:『定州漢墓竹簡 論語』では、論語為政篇3への注釈として次のように言う。

佴、今本作「恥」、「佴」即「恥」、簡帛多見、『説文』之「佴」則與「恥」音義不同。

「佴」の初出は後漢の『説文解字』で、カールグレン上古音はȵi̯əɡ(去)、「恥」tʰi̯əɡ(上)とは異なる。去声で代-泥の音は不明。『学研漢和大字典』『字通』に項目無し。詳細は論語語釈「佴」を参照。
佴 大漢和辞典

定州本では三ヶ章に「佴」字を用いているが、全て現伝論語では「恥」になっている。その三ヶ章いずれも、「恥」と解さないと文意が通らない。ただし定州本は「恥」字も二ヶ章で用いており、使い分けがあるのか、単なる混用かは不明。本サイトでは、とりあえず「佴」を「恥」として解することにした。

学研漢和大字典

耳は、柔らかいみみ。恥は、「心+音符耳」の会意兼形声文字で、心が柔らかくいじけること。▽シュウは、はじて心が縮まること。は、はずかしくて心にしこりがあること。「ザン愧」と熟して用いる。ジョクも柔らかい意を含み、はじて気おくれすること。サクは、どきっとして顔色が変わること(論語憲問篇21語釈参照)。

語義

  1. {動詞}はじる(はづ)。はずかしめる(はづかしむ)。きまりが悪く思う。ばつが悪くて心がいじける。きまり悪い気持ちにさせる。《類義語》羞(シュウ)・愧(キ)。「羞恥」「寡人恥之=寡人これを恥づ」〔孟子・梁上〕。「恥匹夫=匹夫を恥づかしむ」〔春秋左氏伝・昭五〕
  2. {名詞}はじ(はぢ)。きまりの悪い気持ち。はずかしく思うこと。「無恥」「忍恥=恥を忍ぶ」「会稽(カイケイ)之恥(越王勾践(コウセン)が呉王夫差(フサ)に会稽山でやぶれた恥)」「民免而無恥=民免かれて恥無し」〔論語・為政〕

字通

耳+心。〔説文〕十下に「づるなり」とし、声とするが、会意の字。ものに恥じる心は、まず耳にあらわれるものである。俗に耻に作るのは誤形。

訓義

はじ、はじる、やましい。はずかしめる。

遲/遅(チ・12画)

遅 甲骨文 遅 金文
甲骨文/仲𠭯父簋・西周中期

初出:初出は甲骨文。「小学堂」による初出は西周中期の金文

字形:新字体は「遅」。唐石経・清家本は、異体字「遟」(〔尸〕の下が〔辛〕)と記す。字形の一つは「彳」”みち”+「人」+「辛」”針または小刀”で、刃物で入れ墨を入れた奴隷を歩かせるさま。もちろん歩みの早いわけがなく、後に”遅い”を意味するようになった。字形のもう一つは現行字体に繋がるもので、〔辶〕+「犀」”動物のサイ”。どうしてこの字体に取って代わったのかは分からないと言うしかない。

音:カールグレン上古音はdʰi̯ər(平)、同音に墀(きざはし)、坻(中洲、渚)、蚳(蟻の卵、サソリ)、雉、薙、稚。

用例:西周早期の「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA0076に「王□(彳屖)赤金十反(鈑)」とある□は、「遲」と釈文されるが、「犀」の語義の一つである”あつめる”としか解せない。

西周中期の「史牆盤」(集成10175)に「害(㝬)屖(遲)文考乙公」とあるのは、訳者の解読力を越える。「屖」は”やすい・かたい”と解釈される。

漢語多功能字庫」によると、「彳」+「人」+「辛」の字体は金文では氏族名に用いられ(𠭯父簋・西周中期)、音律の一つでもあったという。”遅れる”の用例が確認できるのは、戦国時代の竹簡から。

字形に「牛」が入るようになったのは後漢の『説文解字』からで、それまでの「辛」を書き間違えたと思われる。現行の「遲」(遅)は全く「牛」とは縁の無い系統の字で、辶を除いた「犀」との関係も無い。

「遲」は論語では孔子の弟子、樊遅の名として登場。同訓(おくれる)近音(チ)の「軧」は金文以前に遡れない。しかししんにょうを取り除いた部品である、動物のサイ「犀」(音シ、カールグレン上古音siər)は西周時代の金文にあるから、樊遅の名は”遅れ”ではなく勇猛な「サイ」の可能性がある。
犀 金文
「犀」(金文)

学研漢和大字典

会意。犀は、さい(動物の一種)のこと。歩みのおそい動物の代表とされる。遲は「辶+犀」。稚(のびのおそい子ども)・窒(いきづまる)と同系。類義語に晩。異字同訓におくれる:遅れる「完成が遅れる。列車が遅れる。会合に遅れる」 後れる「気後れする。人に後れを取る。後れ毛」。

語義

  1. {形容詞}おそい(おそし)。動き・理解がのろい。もたもたしている。「遅鈍」「非為織作遅=織作の遅きが為に非ず」〔古楽府・焦仲卿妻〕
  2. {動詞}おくれる(おくる)。きまった時より過ぎている。おそくなる。「遅刻」。
  3. {動詞}まつ。じっと気長にまつ。また、まち望む。▽去声に読む。「遅明(夜明けをまつころ、夜明け)」。
  4. {前置詞・副詞}まって(まちて)。ようやく(やうやく)。まだかまだかとまつうちに。▽去声に読む。「遅帝還趙王死=帝の還るを遅ちて趙王死す」〔漢書・外戚〕

字通

[形声]旧字は遲に作り、犀(さい)声。犀に墀・穉(ち)の声がある。金文の字形は■(辶+尸+辛)に作り、■(尸+辛)(い)がその声。〔説文〕二下の重文にも、その字形のものが残されている。〔説文〕にまた「徐行するなり」と訓し、〔詩、邶風、谷風〕「道を行くこと遲遲たり」の句を引く。金文の〔嗣子壺(ししこ)〕に「■(尸+辛)■(尸+辛)(遅〻)として康淑」の句があり、徳が充ちて舒緩なるさまをいう語であろう。

𣉻/智(チ・12画)

智 金文
『字通』所載金文

初出:初出は甲骨文

字形:字形は「矢」+「𠙵」”くち”+「辛」”小刀”+「曰」で、甲骨文では「矢」→「大」”人の正面形”、「辛」→「子」、「𠙵」→「冊」になっているものがある。原義は”誓う”。

智 異体字
慶大蔵論語疏は「智」の異体字「〔矢口日〕」と記す。上掲「北魏光州靈山寺〓下銘」刻。

音:カールグレン上古音はti̯ĕɡ(去)。

用例:論語の時代までは「知」と区別されていない。論語語釈「知」も参照。

漢語多功能字庫」によると、春秋までの金文では”知る”(逆鐘・西周末期)の意に用い、戦国時代の金文では”賢者”・”知識”(中山王鼎・戦国末期)、”管掌する”(中山王鼎・戦国末期)、”知る”(中山王方壺・戦国早期)の意に用いた。

学研漢和大字典

会意兼形声。知とは「矢+口」の会意文字で、矢のようにずばりとあてていうこと。智は「曰(いう)+(音符)知」で、知と同系。ずばりといいあてて、さといこと。▽適(まっすぐ)はその入声(ニッショウ)(つまり音)のことばであり、聖(ずばりと見通す)は、その語尾が鼻音となったことば。類義語に賢。「知」に書き換えることがある。「知・英知・無知・理知・機知・知能・知恵・知謀」▽草書体をひらがな「ち」として使うこともある。

語義

  1. (チナリ)・(チアリ){形容詞}さとい(さとし)。物事をずばりと会得したり、あてたりできる。知恵や術にすぐれている。《対語》⇒愚・闇(アン)。《類義語》知・賢。「智者」「愚智」。
  2. {名詞}物事をとらえて、理解する働き。知恵。《同義語》知。「智勇兼備(チユウケンビ)」「雖有智慧、不如乗勢=智慧有りと雖も、勢ひに乗ずるに如かず」〔孟子・公上〕。「絶聖棄智=聖を絶ち智を棄つ」〔老子・一九〕
  3. (チトス){動詞}賢いと思う。「智其子=其の子を智とす」〔韓非子・説難〕

字通

[会意]字の初形は矢(し)+干(かん)+口。矢と干(盾)とは誓約のときに用いる聖器。口は𠙵(さい)その誓約を収めた器。曰(えつ)は中にその誓約があることを示す形。その誓約を明らかにし、これに従うことを智という。知に対して名詞的な語である。〔説文〕五下に「知は詞なり」、〔玉篇〕に「知は識(し)るなり」とあり、智には〔説文〕四上に「識る詞なり」とするが、詞の意が明らかでない。また字を白部に属するのも誤りである。〔墨子〕に知と通用し、「智る」のように用いている例が多い。

絺(チ・13画)

絺 隷書
武威簡.泰射5・前漢

初出:初出は楚系戦国文字。ただし字形が確認できない。「小学堂」による初出は前漢の隷書

字形:「糸」+「希」”細い”。細い糸で織った薄布の意。

慶大蔵論語疏は「〔糸市〕」と記し、「糸」の下半分「小」を「一」と崩す。未詳だが、おそらく「絺」の略体。

音:カールグレン上古音は不明(平)。藤堂上古音はt’ɪer。

用例:戦国時代「上海博物館蔵戦国楚竹簡」孔子詩論24に「㠯(以)●(絺)●艸丰女(綌)之古(故)也。」とあり、何らかの布であろうと推測できる。

文献上の初出は論語郷党篇6。戦国時代の『孟子』『荀子』には見られず、『墨子』『荘子』には用例がある。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は無い。

学研漢和大字典

会意兼形声。「糸+(音符)希(目が細かい布)」。

語義

  1. {名詞}葛(クズ)の繊維で織った、目の細かい布。またそれでつくった着物。▽目のあらいものを綌(ケキ)という。

字通

[形声]声符は希(き)。希に郗(ち)の声がある。〔説文〕に希字を収めず、楊樹達の〔小学述林〕に希を絺の初文とする。爻(こう)形の部分がその織目にあたる。絺は〔説文〕十三上に「細葛なり」とあり、その布目の粗いものを綌(げき)という。絺綌は多く祭服に用いた。また、夏のふだん着。

雉(チ・13画)

雉 甲骨文 雉 金文 雉 石鼓文
『字通』所収甲骨文/乍册益卣・西周早期/石鼓文.馬薦・春秋末期

初出:初出は甲骨文

字形:音符「矢」ɕi̯ər(上)+「鳥」。部品の配置はさまざまあり、「矢」は音符と解するのが妥当。

音:カールグレン上古音はdʰi̯ər(上)。

用例:「甲骨文合集」10514.3に「庚戌卜毌獲网雉獲十五」とあり、鳥の一種と解せるが、必ずしも”キジ”とは限らない。

西周早期「乍册益卣」(集成5427)に「不敢雉憂󱜂鑄彝」とあり、「薙」”払いのける”と解せる。

春秋末期石鼓文の用例は破損がひどく語義不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。「隹+(音符)矢(シ)・(チ)」で、真っすぐ矢のように飛ぶ鳥の意。転じて、真っすぐな直線をはかる単位に用いる。

語義

  1. {名詞}きじ。野鳥の名。形は鶏に似て、尾が長い。「山雉(サンチ)」。
  2. {単位詞}築地や城壁の大きさをあらわすことば。一雉は、高さ一丈、長さ三丈のこと。
  3. {名詞}かき。土をつき固めた城壁。▽幾雉もの壁をつき固めることから。「雉門(チモン)」。
  4. {名詞}直線状のひもや棒。

字通

[形声]声符は矢(し)。矢に彘(てい)の声がある。〔説文〕四上に「雉に十四種有り」として各地の名をあげ、中に「東方を甾(し)と曰ふ。北方を稀と曰ふ」など、東西南北の雉の異名をあげている。卜辞にみえる四方風神が、すべて鳥形とされる神話と関係があり、鷫(しゆく)字条にもその類の記載がある。〔周礼、秋官、雉氏〕は草を殺すことを掌る。おそらく薙(ち)の意であろう。雉を陳列の意に用いるのは矢陳、また城郭の長さを雉を単位として数えるのは、堵・墀(ち)と同系の語として用いるものであろう。〔説文〕に収める重文の字形は、弟に従うものとされているが、卜文に矢に繳(いぐるみ)を加えた形のものがあり、その譌形であろうかと思われる。

※例によって白川のヲタなウンチクには漢字探しや外字作りでうんざりするが、「中国哲学書電子化計画」のテキストでは全然違う簡単な字になっている。

雉:有十四種:盧諸雉,喬雉,鳪雉,鷩雉,秩秩海雉,翟山雉,翰雉,卓雉,伊洛而南曰翬,江淮而南曰搖,南方曰𢏚,東方曰钕,北方曰稀,西方曰蹲。从隹矢聲。
鷫:鷫鷞也。五方神鳥也。東方發明,南方焦明,西方鷫鷞,北方幽昌,中央鳳皇。从鳥肅聲。

置(チ・13画)

置 甲骨文
(殷代甲骨文)

初出は甲骨文。金文は未出土。カールグレン上古音はti̯əɡ(去)。同音は無い。論語語釈「植」論語語釈「直」も参照。

漢語多功能字庫

甲骨文從「𦥑」從「」(或從「」)從「」。「」或「」既象徵雙手(「𦥑」)所持之物,亦表音。「」象器物的架座。全字象以兩手置物於架座,是置立的「」的本字。(裘錫圭)


甲骨文は「𦥑」と「之」(あるいは「止」)と「●」の字形の系統に属する。「之」または「止」は両手を表し、「𦥑」は手に取ったものを表し、音符も兼ねる。「●」はものを置く台を示す。全体で、手に持ったものを両手で台に置く象形。また「置」の本字。(裘錫圭)

学研漢和大字典

会意兼形声。直(チョク)はもと「┃(まっすぐ)+目」の会意文字で、まっすぐ見ること。置は「网(あみ)+(音符)直」で、かすみ網をまっすぐにたてておくこと。植(ショク)(木をまっすぐにたててうえる)・値(まっすぐ当たる)と同系。類義語に寘。

語義

  1. {動詞}おく。きちんとすえる。また、動かないようにたてておく。おいておく。《類義語》措(かさねておく)。「安置」「置于宇西階上=宇の西階の上に置く」〔儀礼・士喪礼〕
  2. {動詞}おく。役目やポスト・機関などをもうける。《対語》廃(やめる)。「設置」「廃藩置県」「置都立邑=都を置き邑を立つ」。
  3. {動詞・名詞}あるべき所に物をすえるの意から、きちんと始末すること。また、その仕事。「処置」「措置」。
  4. {名詞}すえたり、いたりする場所。「位置」。
  5. 「置郵(チユウ)」とは、所定の所に宿場を設けること。また、宿場にもうけてある、はや馬。「速於置郵而伝命=置郵して命を伝ふるより速し」〔孟子・公上〕

字通

[形声]声符は直(ちよく)。直に値(ち)の声があり、また植(た)てるものの意がある。〔説文〕七下に「赦(ゆる)すなり。网(まう)直に從ふ」と会意に解する。正直なるものに誤って网(網)を加える形で、それを赦すべしとする意であろう。前条の罷に、「賢能有りて网に入り、卽ち貰(ゆる)して之れを遣(つか)はすことを言ふ」(段注本)とあるように、誤って捕らえた正直者を赦す意とするが、そのような字の構造はありえない。字はかすみ網などをしかけておく意であろう。〔呂覧、異用〕に「湯(たう)(殷の祖王)、祝(いの)りて網する者の、四面に置くを見る」とあるのが、字の初義である。のち設置・所置・放置の意となる。

畜(チク・10画)

畜 甲骨文 畜 金文
合29415/秦公簋・春秋中期

初出:初出は甲骨文

字形:家畜の首から提げ、所有者を示す札の象形。野獣ではない家畜の意。

音:カールグレン上古音はtʰǐu(去)。

用例:「甲骨文合集」29415に「王畜馬在茲〔宀馬〕□母戊王受□」とあり、”飼う”と解せる。

春秋「䜌書缶」(集成10008)に「我余畜孫書也」とあり、”孝行者”と解されている。

春秋早期「秦公鐘」(集成262)に「咸畜左右」とあり、”人材を集める”と解せる。

学研漢和大字典

会意。畜は「玄(黒い)+田」で、栄養分をたくわえて作物をやしない育てる黒い土のこと。キク・チクの両音があり、キクの場合は好hog→hau(たいせつにかばう)・胸(キュウ)hiog→hiəu(かばって飼い育てる動物)などと同系。チクの場合は守thiog・ʃɪəu(かこって手もとにおく)・収(かこって手もとにおく)と同系。とくに、畜・蓄(たくわえておく)の意味は、非常に近い。似た字(畜・蓄)の覚え方「食ってしまって草なしの家畜、草の下にたくわえる貯蓄」。

語義

チク
  1. {名詞}かこって飼う動物。▽馬・牛・羊・鶏・犬・豚を六畜(リクキュウ)といい、殷(イン)の王、王亥(オウガイ)がはじめて牛と馬を飼いならしたという伝説がある。《同義語》⇒蓄。「畜生」「畜犬」。
  2. {動詞}牛・馬・犬などを飼う。「牧畜」。
  3. {動詞}たくわえる(たくはふ)。手もとにかこいこんでとっておく。《同義語》⇒蓄。「畜巨産=巨産を畜ふ」〔謝小娥伝〕
キク
  1. {動詞}やしなう(やしなふ)。たいせつにしてかばう。また、かばってやしなう。▽キュウ(キウ)(去声の宥)とも読む。「畜養」「俯足以畜妻子=俯して以て妻子を畜ふに足る」〔孟子・梁上〕

字通

[会意]玄(げん)+田。玄は糸たばの形。田はその糸たばを染める鍋(なべ)の形。その染め汁に糸を久しく漬けて、染色する。久しく漬けて色を深くすることを、停畜という。〔説文〕十三下に「田の畜なり。淮南子に曰く、玄田を畜と爲す」とする。〔段注〕に「淮南王說」であろうというが、玄田に別つだけでは、字義を説きがたい。金文の字形は、明らかに糸を染めるために、鍋に停畜する形である。〔周礼、考工記、鍾氏〕は染色のことを掌る。その字は緟(しよう)に作るべく、金文の字形は𤕌(しよう)に作る。左偏の𤔔(らん)は架糸の象。旁の東は橐(たく)(ふくろ)の初文。中に糸たばを入れる。田は染め汁を入れた鍋の形。〔考工記、鍾氏〕に「三入を纁(くん)と爲し、五入を緅(しう)と爲し、七入を緇(し)と爲す」とあって、次第に色を深める。金文に𤕌を緟続(しようぞく)の意に用い、〔説文〕十三上に「緟は增益するなり」とするが、もと色についていう語であった。畜に三音あり、チクは停畜積聚、キクは飼養、キュウは獣畜の意である。

紳 金文
※「𤕌」は紳士の「紳」の字の異体字でもある。

窒(チツ・11画)

初出は戦国時代の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はti̯ĕt(入)。同音は以下の通り。『大漢和辞典』で音チツ訓ふさぐに「礩」があるが、初出は説文解字

漢音 初出 声調 備考
チツ ふさぐ 戦国時代の金文
チツ 禾をかるおと 説文解字
チツ かま 楚系戦国文字

漢語多功能字庫

從「」,「」聲。本義是堵塞。


「穴」の系統の字であり、「至」の音。原義は”ふさぐ”。

学研漢和大字典

会意兼形声。至(シ)は、矢が━線にとどいて、その先に進めないことを示す指事文字。窒は「穴(あな)+(音符)至」で、穴の奥で行きづまって、その先に進めないこと。至・室(行きづまりの奥のへや)・致(チ)(行ける所までとどける)・膣(チツ)(女の行きづまりになった性器の穴)などと同系。

語義

  1. {動詞・形容詞}ふさがる。行きづまって進めない。動きがとれないさま。《類義語》塞(ソク)。「窒息(息がつまる)」「悪果敢而窒者=果敢にして窒がる者を悪む」〔論語・陽貨〕
  2. {動詞}ふさぐ。行く道をとじる。行きづまりにする。《類義語》塞。「窒吾欲=吾が欲を窒ぐ」〔枕中記〕

字通

[形声]声符は至(し)。至に姪・絰(てつ)の声がある。〔説文〕七下に「塞ぐなり」とあり、塞は呪具の工を以て填塞して、邪霊を封ずることをいう。墓壙の羨道(えんどう)を窒皇といい、皇は隍、地下の通道をいう。窒が至に従うのは、室・臺(台)が至に従うのと同じく、矢を以てその設営の場所を卜する意であろう。矢の到達するところを至という。金文の室には臸に従う字があり、その呪儀を示す字形である。

中(チュウ・4画)

中 甲骨文 中 金文 仲 金文
甲骨文/中鐃・殷代末期/散氏盤・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の字形には、上下の吹き流しのみになっているものもある。字形は軍司令部の位置を示す軍旗で、原義は”中央”。

音:カールグレン上古音は声母のt(平/去)のみ。藤堂上古音はtɪoŋ。

用例:甲骨文に、貞人の名の例が複数ある。

西周早期「中乍且癸鼎」(集成2458)に「侯易(賜)中貝三朋」とあり、人名または”穴の開いた”と解せる。

春秋末期「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA423に「中翰且揚」とあり、”真ん中に位置する”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で、また子の生まれ順「伯仲叔季」の第二番目を意味した。金文でも同様だが、族名や地名人名などの固有名詞にも用いられた。また”終わり”を意味した(王孫遺者鐘・春秋末期)。論語語釈「仲」も参照。

学研漢和大字典

象形。もとの字は、旗ざおをわくのまんなかにつき通した姿を描いたもので、まんなかの意をあらわす。また、まんなかを突き通すの意をも含む。仲(チュウ)・衷(チュウ)の音符となる。通(トウ)・(ツウ)・筒(トウ)と同系。類義語に衝。異字同訓に仲「仲がいい。仲を取り持つ。仲働き」。

語義

  1. {名詞}なか。ものの内側。《対語》⇒外。「中外」「中身」。
  2. {名詞}なか。もののまんなか。また、程度のなかほど。「中央」「中庸」。
  3. {名詞・形容詞}進行している物事のなかば。なかばであるさま。「中途」「中旬」。
  4. {名詞}在野(ザイヤ)に対する宮中を略していうことば。
  5. {名詞}なか。うち。ある地区や時期の範囲のうち。《類義語》内。「蜀中(ショクチュウ)(四川(シセン)省のうち)」「寒中」。
  6. {名詞・形容詞}子や兄弟で、上下の間にいる。また、その人。▽仲に当てた用法。「中兄」。
  7. {名詞}心のなか。▽衷(チュウ)に当てた用法。「中情怯耳=中情は怯なる耳」〔史記・淮陰侯〕
  8. (チュウス){動詞}まんなかにくる。▽去声に読む。「中天=天に中す」。
  9. {動詞}あたる。ずばりとかなめを突き通す。▽去声に読む。「命中」「中風(チュウフウ)・(チュウブ)(風などの外界の刺激にまともにあてられた病気)」「為流矢所中=流矢の中たる所と為る」〔史記・高祖〕
  10. 《日本語での特別な意味》「中学校」の略。「区立三中」「中卒」。

字通

[象形]旗竿の形。卜文・金文には、上下に吹き流しを加えたものがあり、中軍の将を示す旗の形。〔説文〕一上に「而なり」、〔繫伝〕に「和なり」とするが、宋本に「内なり」とするものがあり、而は内の誤字であろう。また字形について「口と丨(こん)とに從ふ。上下通ずるなり」とするが、卜辞では中を中軍の意に用いる。「中に立(のぞ)まんか」とは、中軍の将たる元帥として、その軍に立(のぞ)む意であろう。元帥とする者を謀る意であろうと思われる。すべて中央にあって中心となり、内外上下を統べ、中正妥当をうることをいう。〔説文〕に収める字形はすべて𠙵(さい)に従うが、それは史・事の従うところで、旗竿の象ではない。旗竿には偃游(えんゆう)(吹き流し)のほかに、旗印をつけた。

仲(チュウ・6画)

仲 金文
散氏盤・西周晚期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「中」。現行字体の初出は戦国文字

字形:「コン」の上下に吹き流しのある「中」と異なり、多くは吹き流しを欠く。甲骨文の字形には、吹き流しを上下に一本だけ引いたものもある。字形は「○」に「丨」で真ん中を貫いたさま。原義は”真ん中”。

音:カールグレン上古音はdʰ(去)。藤堂上古音はdɪoŋ。

用例:「漢語多功能字庫」は「甲金文」というおおざっぱな括りで、「仲」=兄弟の真ん中、次男を意味したという。論語語釈「中」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。「人+(音符)中(まん中)」。異字同訓になか⇒中。付表では、「仲人」を「なこうど」と読む。

語義

  1. {名詞}兄弟の序列で、中にあたる人。▽兄弟を年齢の上の者から順に、伯・仲・叔・季という。また、孟・仲・季ともいう。「伯仲」。
  2. {名詞・形容詞}春夏秋冬のそれぞれの期間を三分したとき、孟・季に対して、まん中の期間のこと。また、まん中であるさま。▽たとえば孟春・仲春・季春という。《同義語》⇒中。「仲秋」。
  3. {名詞}なかだち。双方の間にはいって事をとりついだりする人。「仲人」。
  4. 《日本語での特別な意味》なか。仲間どうしの間がら。

字通

[形声]声符は中(ちゆう)。〔説文〕八上に「中なり」とあり、仲子の意。兄弟の順序は、殷では大中小、周では伯仲叔季という。もと中に作り、卜辞では中軍の中と区別して、中軍の中には上下に偃遊(えんゆう)(吹き流し)の形を加える。篆文の字が𠙵(さい)に従うのは誤りである。

忠(チュウ・8画)

忠 金文
中山王□壺・戦国末期

初出:初出は戦国末期の金文。他に「上海博物館藏戰國楚竹書」「清華大學藏戰國竹簡」「郭店楚簡」「睡虎地秦簡」にも見え、「郭店楚簡」は戦国中期あるいは末期、「睡虎地秦簡」は始皇帝の統一直前とされる。「上海博物館藏戰國楚竹書」姑成06では「中」が「忠」と釈文されている。

字形:字形は「中」t(平/去)+「心」で、「中」に”旗印”の語義があり、「漢語多功能字庫」による原義は上級者の命令に従うこと=”忠実”。

音:カールグレン上古音はt(平)。同音多数。藤堂上古音はtɪoŋ。無理にカタカナに直すと「テェオンヌ」になろうか。『広韻』で声調・韻目・字母が共通する「衷」には甲骨文・金文が存在しない。同音「中」t(平)は藤堂上古音も同一藤堂上古音も同一。”こころ・ただしい・なほい”の語釈が『大漢和辞典』にあるが、春秋時代以前の用例がない。。論語語釈「中」も参照。

用例:『墨子』・『孟子』など、戦国時代以降の文献で、”自分を偽らない”と解すべき例が複数あり、それらが後世の改竄なのか、当時の語義なのかは判然としない。

備考:この漢字=言葉は、戦国諸国の潰し合いが熾烈になった、戦国末期にならないと現れない。軍国美談が必要とされ、忠義を強調して嫌がる民を戦場に送りつけねばならなくなって、発明された概念である。

戦国時代の世間師・孟子は、8箇所で「忠」を使っているが、そろそろこの文字が現れてもよさそうな時代を生きた。ただし「チューチュー」とネズミのように繰り返した後世の中国や江戸の儒者のようには使っておらず、あくまでも”自分を偽らないこと”でしかない。従って「忠」の字を使ったかもあやしく、「中心」と言った可能性がある。

漢語多功能字庫

從「心」從「中」,「中」亦是聲符。古文字「中」乃旗鼓,為軍中發號施令之處,從「中」從「心」,即會軍人忠於軍令之意(李經諱)。本義是臣下對君主不貳之操守。


「心」と「中」の字形に属し、「中」は音符でもある。古い漢字では「中」は旗印の意であり、軍隊の司令部を意味することから、「中」と「心」を組み合わせた。つまり、軍人が命令に従って忠義を尽くすこと(李経諱)。原義は臣下が君主を裏切らないこと。

学研漢和大字典

忠 字解
会意兼形声文字で、中とは、なか・中身などの意。忠は「心+〔音符〕中」で、中身が充実して欠けめのない心のこと。充実の充(いっぱい)と同系のことば。

語義

  1. {名詞}まごころ。偽りのない誠意。すみずみまで欠けめのないまごころ。「尽忠=忠を尽くす」「修其孝悌忠信=其の孝悌忠信を修む」〔孟子・梁上〕
  2. (チュウナリ){形容詞}まじめである。また、誠意にあふれている。「忠告」「為人謀而不忠乎=人の為に謀りて忠ならざるか」〔論語・学而〕
  3. (チュウナリ){形容詞・名詞}君主に対して誠実な。また、君主に対して誠意を尽くすこと。「忠誠」「報先帝而忠陛下=先帝に報じて陛下に忠なり」〔諸葛亮・出師表〕
  4. 《日本語での特別な意味》じょう。四等官で、弾正台(ダンジョウダイ)の第三位。

字通

声符は中。〔説文〕十下に「つつしむなり」とあり、心を尽くすことをいう。〔論語〕〔左伝〕に多くみえるが、みなその義。〔逸周書、諡法解〕に「身を危うくして上に奉ずるを忠と曰う」と忠君の意とするのは、後起の義である。

訓義

1)まごころ、まこと、まことをつくす。2)ただしい、つつしむ、かなう。3)おもいやり、いつくしむ、こころをつくす、てあつい。4)君につかえる、君につくす。

大漢和辞典

忠 大漢和辞典
忠 大漢和辞典

晝/昼(チュウ・9画)

昼 甲骨文 晝 昼 金文
甲骨文/㝬簋・西周末期

初出:初出は甲骨文

字形:”日時計”+「又」”手”で、日時計の南中の位置を調整するさま。原義は”真昼”。

慶大蔵論語疏は異体字「書」と記す。”字を書く”の「書」と同じだが、「晝」(昼)は甲骨文の昔から太陽の南中を記すさまで表し、「書」がむしろ原字。”書く”意味での「書」の字は、甲骨文以来「𠙵」”くち”で言った事を書き記す様の形で、下半分は「日」ではなく「𠙵」が原字。

晝 昼 秦系戦国文字
睡虎地簡46.29・戦国最末期

”書く”の字の下半分が「日」と記されるようになったのは戦国の金文から。それと区別するためだろうか、最下部に一画「一」を記すようになったのは、戦国最末期の「睡虎地秦簡」から。論語語釈「書」も参照。

音:カールグレン上古音はȶ(去)。藤堂上古音はtɪog。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義で、金文でも原義で(㝬𣪕・西周末期)用いた。戦国の竹簡でも原義で用いた。

学研漢和大字典

会意。晝は「筆を手に持つ姿+日を四角にくぎった形」。日の照る時間を、ここからここまでと筆でくぎって書くさまを示す。一日のうち、主となり中心となる時のこと。夜(腋(ワキ)にある時間)に対することば。株(中心となる木の幹)・朱(木の中心の赤い木質部)・主(中心となって動かぬ者)・柱(じっとたつはしら)などと同系。旧字「晝」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}ひる。ひるま。もと、一日の主となる時間の意。《対語》⇒夜。《類義語》日。「宰予昼寝=宰予昼寝ぬ」〔論語・公冶長〕。「俾昼作夜=昼をして夜と作さ俾む」〔詩経・大雅・蕩〕
  2. {名詞}ひる。正午。《類義語》午。
  3. 《日本語での特別な意味》ひる。昼飯。「お昼を済ます」。

字通

[会意]旧字は晝に作り、聿(いつ)+日。日の周囲に小点を以て暈(うん)(かげり)を加える。〔説文〕三下に「日の出入して、夜と界を爲す。畫の省に從ひ、日に從ふ」とするが、畫(画)を以て晝夜の分界とし、これを劃分するというのは理に反する。時を示す語としては卜文・金文にみえず、籀文・篆文の字形も確かなものとしがたい。もし字の上部が𦘒(しよう)に従うものならば、𦘒は隶(たい)と同じく、呪してものを祓う意象の字であるから、日光の暈を祓う法を示すものであるかもしれない。〔周礼、春官、眡祲(ししん)〕にいう十輝(き)の一である瞢(ぼう)などにあたるものであろう。〔説文〕は晝を畫の部に属するが、畫は方形の楯に雕飾を施した形で、晝と声義の関係を求めがたい。

紂(チュウ・9画)

紂 甲骨文 殷の紂王
陳154・殷(甲骨文)

初出は甲骨文。金文は未発掘。カールグレン上古音は不明(上)。藤堂上古音はdɪog(上)。

漢語多功能字庫

從「」,「」省聲,本義為馬緧,即駕車馬後部的革帶。


「糸」の字形に属し、「肘」の略体の音。原義は”馬のしりがい”で、つまり引き馬の後ろに付ける革帯。

学研漢和大字典

会意兼形声。肘(チュウ)は、引きしめるようにひじを曲げること。紂は「糸+(音符)肘の略体」で、ぐっと引きしめるひも。肘・扭(チュウ)(ぐっと引きしめる)などと同系。

語義

  1. {名詞}しりがい。馬の尻(シリ)にかけて、くらを引きしめるひも。
  2. {名詞}《人名》。殷(イン)の最後の王。名は辛(シン)、また、受。周の武王に滅ぼされた。ぜいたくにふけり、暴虐の行いがあったという。夏(カ)の桀(ケツ)とともに暴君の代表とされる。⇒「酒池肉林(シュチニクリン)」。

字通

[形声]声符は寸。寸はおそらく丑(ちゆう)の略形で、肘(ちゆう)と同声。指をまげ、強く引きしめる意がある。〔説文〕十三上に「馬の緧(しりがい)なり」とし、肘の省声とするが、丑の省略形とみるのがよい。殷の最後の王である帝辛の諡(おくりな)とされるが、〔書、無逸〕に「殷王受(ちう)の迷亂」とあり、他の諸篇にも「商王受」とあるので、受がその名、紂は音借の字である。

誅(チュウ・13画)

誅 甲骨文
(甲骨文)

初出:「国学大師」による初出は甲骨文。「小学堂」による初出は戦国末期の金文。金文は戦国末期の「中山王壺」まで見つかっていない。

字形:「蛛」ti̯u(平)”クモ”+「戈」”カマ状のほこ”で、「蛛」は音符で語義に関係ないと思われる。原義は不明だが、”傷付ける”・”殺す”に関わると思われる。戦国の竹簡では「豆戈」「䛠」「豆攵」「矢蜀」「㦵」を「誅」と釈文している。

音:カールグレン上古音はti̯u(平)。

用例:「甲骨文合集」27375は欠損が多く判読できない。

戦国末期「中山王□方壺」(集成9735)に「以誅不順」とあり、”責め殺す”と解せる。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「言+(音符)朱(ばっさりと木を切る)」で、相手の罪を言明してばっさりと切りころすこと。殊(胴切り)と同系。

語義

  1. (チュウス){動詞・名詞}ころす。罪をせめてころす。死刑。「罪不容誅=罪誅を容されず」〔漢書・王莽〕
  2. (チュウス){動詞・名詞}ほろぼす。罪のある者に関係している者をすべてころす。一族を皆ごろしにする。皆ごろしの刑罰。「誅伐(チュウバツ)」。
  3. (チュウス){動詞}せめる(せむ)。責任や罪を数えたててせめる。とがめる。「筆誅(ヒッチュウ)」「於予与何誅=予においてか何ぞ誅めん」〔論語・公冶長〕
  4. (チュウス){動詞}草木を切り払い除く。「誅茅=茅を誅す」〔捨信・哀江南賦〕

字通

[形声]声符は朱(しゆ)。朱に■(口+朱)(ちゆう)の声がある。〔説文〕三上に「討つなり」とあり、誅滅することをいう。殊にも殊殺の意があり、声義が通ずる。誅責の意のほかに、苛斂誅求のようにもいう。

黜(チュツ・17画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtʰi̯wət(入)。同音は怵”おそれる”のみ。怵の初出は説文解字。『大漢和辞典』で漢音チュツ訓おとすは黜の他に存在しない。音チュツ訓おとすに墜dʰi̯wəd(去)、初出は説文解字、䃍(カ音不明)、初出は説文解字。音チュツ訓しりぞけるに絀ti̯wət(入)、初出は楚系戦国文字。論語時代の置換候補は無い。

学研漢和大字典

形声。「黑+(音符)出」で、並んだ人・物の中の特定のものを外または、下に押し出す。ひっこめて見えなくすること。徹(つき抜ける、その場からとりはらう)・退(ひっこむ)・出(おしだす)・突(つき出す)と同系。

語義

  1. {動詞}しりぞける(しりぞく)。官職・地位からはずして、おし出す。罷免する。追い出す。《類義語》退。「黜遠(チュツエン)」「柳下恵、為士師三黜=柳下恵、士師と為り三たび黜けらる」〔論語・微子〕
  2. (チュツス){動詞}へらす。あとへさげる。数をへらす。目だたなくする。「将禦諸侯之師而黜其車=まさに諸侯の師を禦がんとして其の車を黜す」〔春秋左氏伝・襄一〇〕

字通

[形声]声符は出(しゆつ)。出に絀(ちゆつ)の声がある。〔説文〕十上に「貶(おと)し下(くだ)すなり」とあり、〔書、舜典〕に「幽明を黜陟(ちゆつちよく)す」とみえる。人材を進退することを黜陟という。

丈(チョウ・3画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdʰi̯aŋ(上)。同音は下記の通り。平声のカ音は不明。「ジョウ」は呉音。論語時代の置換候補は「長」。「丈人」を『学研漢和大字典』は「長老を尊敬していうことば」という。

初出 声調 備考
チョウ ながい 甲骨文 平/去 →語釈
チョウ 説文解字
チョウ ちやう 楚系戦国文字
チョウ 神を祭るところ 楚系戦国文字
チョウ 十尺の長さ 楚系戦国文字
チョウ つゑ 前漢隷書 →語釈

漢語多功能字庫

《說文》釋字形「从又持十」,本義為度量單位。


『説文解字』は字形を解釈して「又の字形の系統に属し、十の字形を含む」という。原義は度量の単位。

学研漢和大字典

会意。手の親指と他の四指とを左右に開き、手尺で長さをはかることを示した形の上に+が加わったのがもとの形。手尺の一幅は一尺をあらわし、十尺はつまり一丈を示す。ながい長さの意を含む。長(チョウ)・暢(チョウ)(のびる)・裳(ショウ)(長いスカート)・杖(ジョウ)(長い木のつえ)などと同系。

語義

  1. {単位詞}長さの単位。一丈は、一尺の十倍。周代では、一丈は二二五センチメートル。近代の日本では、一丈は三〇三センチメートル。
  2. {形容詞}背たけが高い。「丈夫(ジョウフ)」「大丈夫(ダイジョウフ)(堂々とした男)」。
  3. {名詞}老人や長老を尊敬していうことば。「丈人(ジョウジン)」「岳丈(妻の父)」。
  4. {名詞}長い杖(ツエ)や、棒。▽杖(ジョウ)に当てた用法。
  5. 《日本語での特別な意味》
    ①長老の歌舞伎俳優の芸名につけて尊敬をあらわすことば。「菊五郎丈」。
    ②たけ。身長。みのたけ。「背丈」「丈くらべ」。

字通

[会意]杖の形+又(ゆう)。又は手。手に杖をもつ形で、杖の初文。〔説文〕三上に「十尺なり。又の十を持するに從ふ」とするが、十は杖の形。丈は十尺。尺は指をひろげて長さをはかる形で、わが国の「あた(咫)」にあたる。〔説文〕の夫字条十下に「八寸を以て尺と爲し、十尺を丈と爲す。人は長(たけ)八尺なり。故に丈夫と曰ふ」とみえる。〔論語、泰伯〕「以て六尺(りくせき)の孤を託すべし」は未成年者。〔穀梁伝、文十二年〕「男子は二十にして冠す。冠して丈夫に列す」という。〔左伝、襄九年〕に「巡りて城を丈(はか)る」とあり、杖の長さは一定であった。〔礼記、曲礼上〕に「席閒、丈を函(い)る」と、その間隔をおくことを規定しており、尊者への手紙の脇付けに、函丈という。

弔(チョウ・4画)

弔 甲骨文 弔 金文
合27738/曶鼎・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:「人」にヘビが巻き付いた形。

弔 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔𠂊𠄐〕」と記す。「唐濮陽吳府君墓志銘」刻字近似。

音:カールグレン上古音はtioɡ(去)。同音は「貂」「釣」。

用例:甲骨文の事例は意味がよく分からないが、「甲骨文合集」10294.2に「弔弗逐」とあり、字形通り”ヘビが巻き付く”と解せる。殷代末期の金文では、族徽(家紋)や人名に用いた。

西周の金文は人名の一部に用いるが、「叔」”年少者”と釈文する場合が多い。

西周中期「寡子卣」(集成5392)に「𦎫不弔󱬢乃邦。」とあり、「不弔」とあるからには動詞だが、「淑」”つつしむ”と解されている。

”とむらう”・”あわれむ”の意になったのは、孔子没後一世紀に生まれた孟子の所説から。何でそうなったかはまるでわからない。

学研漢和大字典

象形。棒につるが巻きついてたれたさまを描いたもので、上から下にたれる意を含む。また、天の神が下界に恩恵をたれることをいい、転じて他人に同情をたれることも弔という。鳥(チョウ)(長い尾をたれた尾長鳥)・釣(チョウ)(釣り糸をたれる)などと同系。喪(ソウ)は、人が死去してあの世に別れ去ることから、転じて喪礼の意となった。

語義

  1. (チョウス)(テウス){動詞}とむらう(とむらふ)。死んだ人に対する悔やみを述べる。「弔問」「弔死問孤=死を弔ひ孤を問ふ」〔史記・燕召公〕
  2. (チョウス)(テウス){動詞}他人の不幸に対し、同情のことばを述べる。「堕而折其髀、人皆弔之=堕ちて其の髀を折る、人皆これを弔す」〔淮南子・人間〕
  3. 「不弔(フチョウ)」とは、天が同情をたれないこと。「不弔昊天=不弔なる昊天」〔詩経・小雅・節南山〕
  4. {単位詞}穴あき銅銭千文をひもに通して一つにしたものを数えるときのことば。《同義語》⇒吊。
  5. {動詞}《俗語》つる。ぶらさげる。《同義語》⇒吊。

字通

[象形]繳(しやく)(いぐるみ)の形。金文の字は従来叔(しゆく)と釈され、叔善の意に用いるが、それは仮借義。〔説文〕八上に「終りを問ふなり」と弔問の意とし、字形を「人と弓とに從ふ」とする。また「古の葬る者、厚く之れに衣(き)するに薪を以てす。故に人ごとに弓を持ち、會して禽を敺(う)つなり」(段注本)とあり、〔小徐本〕にはなお「弓は蓋(けだ)し往復弔問するの義なり」と弓に従う義を説く。古くは屍を草野に棄て、その風化を待って骨を拾うので、弓を携えてゆき弔うと解するものであるが、繳の象形字である弔を、叔の音に仮借したもので、古い文献にみえる「不弔」は「不淑」の意。〔書、多士〕〔詩、小雅、節南山〕の「旻天に弔(とむら)はれず」の「不弔」は「不淑」、「昊天に淑(よ)しとせられず」の意である。「とむらう」はおそらく𨑩(いたる)の用義で、〔詩、小雅、天保〕「神の弔(いた)る」の義より転じたものであろうが、のちおおむねその義に用いる。𨑩は〔説文〕二下に「至るなり」と訓する。

杖(チョウ・7画)

杖 楚系戦国文字
郭.六.27・戦国中末期

初出:初出は戦国中末期の楚系戦国文字。ただし「丈」と未分離。現行字形の初出は前漢の隷書

字形:初出の字形は「十」”道具”+「又」”手”で、道具を手にしたさま。おそらく杖を突くさまだが、「十」は物差しでもありえ、「丈」に”長さ”の語義が加わると、「木」を加えて分化した。

音:カールグレン上古音はdʰi̯aŋ(上)。同音は論語語釈「丈」を参照。「ジョウ」は呉音。

用例:戦国中末期「包山楚簡」六德27に「𥿇(疏)斬布實(絰)丈(杖)」とあり、”つえ”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』の同音同訓で、部品に「丈」を含まない漢字に「朾」(初出前漢隷書)、「梃」(初出睡虎地秦簡)。

上古音の同音に語義を共有する漢字は無い。

古くは「枝」と書体が同じで、論語の時代は区別されていなかった可能性があるが、初出は秦の隷書。

学研漢和大字典

会意兼形声。丈は「十+攴(て)」の会意文字で、手尺の幅(=尺)の十倍の長さをあらわす。杖は「木+(音符)丈」で、長い棒のこと。類義語に棒。

語義

  1. {名詞}つえ(つゑ)。歩行をたすけるため手にもつ長い棒。「負手曳杖=手を負ひ杖を曳く」〔礼記・檀弓上〕
  2. {動詞}つえつく(つゑつく)。つえをつく。「八十杖於朝=八十にして朝に杖く」〔礼記・王制〕
  3. {動詞}よる。たよる。たよりにする。たよる。《同義語》⇒仗。「近臣已不足杖矣=近臣已に杖るに足らず」〔漢書・李尋〕
  4. {名詞}むち。人をたたく長い棒。「刑杖(ケイジョウ)」。
  5. {動詞}むちうつ。こらしめるために棒でたたく。「杖笞(ジョウチ)」。
  6. {名詞}五刑の一つ。棒でたたいてこらしめる刑。

字通

[形声]声符は丈(じよう)。丈は杖をもつ形で杖の初文。〔説文〕六上に「持つなり」とあり、杖を持つ意。漢・魏以後、賜杖免朝は臣下に賜う最高の礼遇とされ、国老には特に霊寿杖などを賜うた。刑罰には笞刑(ちけい)に杖を用い、また杖刑・徒刑(ずけい)という。喪礼にも杖を用いるので、喪期を杖期という。

長(チョウ・8画)

長 甲骨文 長 金文
甲骨文/作長鼎・西周早期或中期

初出:初出は甲骨文

字形:冠をかぶり、杖を突いた長老の姿で、原義は”長老”。

音:カールグレン上古音はdʰi̯aŋ(平)、同音は論語語釈「丈」を参照。他音にti̯aŋ(上)・dʰi̯aŋ(去)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では地名・人名に、金文では”長い”(史牆盤・西周中期)、戦国の金文でも同義に用いられた。

学研漢和大字典

象形。老人がながい頭髪をなびかせてたつさまを描いたもの。帳(チョウ)(ながい布)・常(ジョウ)(ながい)・裳(ショウ)(ながいスカート)・丈(ジョウ)(十尺、ながいながさ)などと同系。類義語の永(エイ)は、いつまでも断えず続くこと。異字同訓に永い「ついに永い眠りに就く。永の別れ。末永く契る」。「暢」の代用字としても使う。「伸長」。

語義

チョウ(平/去)
  1. {形容詞}ながい(ながし)。端から端までの隔たりが大きい。《対語》⇒短。「長短(ながさ)」「絶長補短=長を絶ち短を補ふ」〔孟子・滕上〕
  2. {形容詞}ながい(ながし)。時間の隔たりが大きい。また、いつまでも。《対語》⇒短。《類義語》永・常。「長寿」「天長地久=天は長く地は久し」〔老子・七〕。「従此祗応長入夢=此より祗だまさに長く夢に入るべし」〔王安石・杭州望湖楼回〕
  3. {名詞}たけ。ながさ。根もとからてっぺんまでの隔たり。また、身のたけ。「身長」「長一身有半=長さ一身有半」〔論語・郷党〕
  4. {形容詞・名詞}すぐれている。すぐれた点。《対語》短。「長所」「一長可取=一長も取るべし」。
チョウ(平/去)
  1. {名詞}おさ(をさ)。かしら。「首長」「家長」。
  2. {名詞・形容詞}年長の人。また、年がたけている。年かさの。《対語》幼。「長老」「長幼有序=長幼序有り」〔孟子・滕上〕
  3. {形容詞}親族のうち、年上であること。「長子」「長孫」。
  4. む(チョウトス)(チャウトス)・(チョウタリ)(チャウタリ){動詞・形容詞}年長者と認めて尊ぶ。かしらとする。かしらとなる。「長其長=其の長を長とす」〔孟子・離上〕。「長民者朝廷敬老、則民作孝=民に長たる者朝廷に老を敬するときは、則ち民孝を作す」〔礼記・坊記〕
  5. (チョウズ)(チャウズ){動詞}たける(たく)。のびて育つ。ながくなる。「成長」「消長」「無物不長=物として長ぜざるは無し」〔孟子・告上〕
  6. (チョウズ)(チャウズ){動詞}まさる。たける(たく)。すぐれる。「敢問、夫子悪乎長=敢へて問ふ、夫子悪くに乎長ぜると」〔孟子・公上〕
  7. (チョウズ)(チャウズ){動詞}ます。ふやす。▽もと「び」の去声の漾に読んだ。「長金積玉誇豪毅=金を長じ玉を積み豪毅に誇る」〔李賀・丘少年〕
  8. 《日本語での特別な意味》「長門(ナガト)」の略。「薩長連合」。

字通

[象形]長髪の人の形。氏族の長老を意味する。〔説文〕九下に「久遠なるなり。兀(こつ)に從ひ、匕(くわ)に從ふ。兀なるものは高遠の意なり。久しければ則ち變化す。亡(ばう)聲」とし、字の上部を亡の形とするが、上部は長髪の形。下部は人の側身形。長髪は長老の人にのみ許されたもので、部族を代表する者であった。徴は長髪の人を殴(う)つ形で、この人をうち懲らしめることは、その部族に対して懲罰を与える意味があった。徴と字形の近い微は巫祝者を撃つ形で、その呪力を「微(な)くする」ために殴つ呪的行為をいう。長髪・長老の意より、長久・首長などの意となる。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

重(チョウ・9画)

重 甲骨文 重 金文
甲骨文/重鼎・殷代末期

初出:初出は甲骨文

字形:甲骨文の形は「人」+「東」”ふくろ”。金文になるとふくろを背負う形のものがある。

音:「ジュウ」は呉音。カールグレン上古音はdʰi̯uŋ(平/上)、去声は不明。

用例:「漢語多功能字庫」によると、重い荷を背負うこと、重いことが原義という。また金文では容積を量る枡の単位、後の「鐘」を意味し、また地名と姓氏にも用いた。戦国の竹簡では、「童」と混用された。

甲骨文、殷代の金文での語義は不詳。

西周早期の「邢侯𣪕」(『殷周金文集成』4241)に「易(賜)臣三品:州人、重人、□(庸)人。」とあるのは、称号の一つと思われる。西周期の他の二例の金文は、人名で用いている。

戦国の『殷周金文集成』2530に「重四斤十二兩。」とあり、”重さ”の語義が確認できる。

学研漢和大字典

会意兼形声。東(トウ)は、心棒がつきぬけた袋を描いた象形文字で、つきとおすの意を含む。重は「人が土の上にたったさま+(音符)東」で、人体のおもみが↓型につきぬけて、地上の一点にかかることを示す。動(トンと足ぶみして→型におもみをかける)・衝(ショウ)(→型につきあたる)と同系。類義語の申は、まっすぐおしのばすこと。累(ルイ)は、ごろごろとつみかさねること。襲は、かさねて二重にすること。付表では、「十重二十重」を「とえはたえ」と読む。

語義

  1. {形容詞・名詞}おもい(おもし)。おもさ。→の方向に力が加わった状態。→の方向の力が底面に加わった感じ。おもみ。《対語》⇒軽。「軽重(ケイチョウ)・(ケイジュウ)(おもさ)」「重量」「重一鈞(オモサイッキン)」。
  2. {形容詞}おもい(おもし)。病気・罪・声・やり方などがおもい。おもおもしい。てあつい。「厳重」「慎重」「重濁」「重賄之=重くこれに賄す」〔春秋左氏伝・昭元〕。「君子不重則不威=君子は重からざれば則ち威あらず」〔論語・学而〕
  3. {動詞}おもんずる(おもんず)。たいせつなものとして敬い扱う。おもくみる。転じて、はばかる。▽この訓は「おもみす」の転じたもの。「尊重」「重社稷=社稷を重んず」〔礼記・大伝〕
  4. {動詞・形容詞}かさなる。かさねる(かさぬ)。上へおいて下におもみをかける。層をなしてかさなったさま。▽平声に読む。「重複(チョウフク)」「重畳(チョウジョウ)」。
  5. {単位詞}下をおさえて上にかさなった物を数えることば。▽平声に読む。《類義語》層(ソウ)。「万重山(バンチョウノヤマ)(いくえにもかさなった山)」。
  6. 《日本語での特別な意味》え。
    ①かさなった物を数えることば。「七重八重(ナナエヤエ)」。
    ②「重箱」の略。「お重」。

字通

[会意]東(とう)+土。東は橐(たく)の初文で、その象形。〔説文〕八上に「厚きなり」と訓し、「壬(てい)に從ひ、東聲」というが、東が重の主体であり、橐(ふくろ)の形である東の下に錘(おもり)のように土を加えた形で、重量を示す字である。その橐の入口に流し口の形をそえたものは量。主として穀物を量るものであるから、橐の中のものを糧という。重量の意よりして重圧・重層・重要・威重などの意となる。

凋(チョウ・10画)

初出は後漢の説文解字。または後漢の張表碑。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のt(平)のみ。藤堂上古音はtög。部品の「周」ȶ(平)には”つつしむ”の語釈があるが、わずかに”しぼむ”の意には届かない。論語語釈「彫」も参照。

学研漢和大字典

形声。「冫(こおり)+(音符)周」で、だらりとたれ下がる意を含む。張りを失ってしぼみたれること。周は、音を示すだけで原義には関係がない。吊(チョウ)(つりさげる、だらりとぶらさがる)・鳥(チョウ)(尾を長くたれたとり)と同系。

語義

  1. {動詞}しぼむ。ぴんと張っていた葉が、寒さに打たれてしぼみ、だらりとたれること。生気を失って衰える。しおたれる。《同義語》⇒吊。「凋落(チョウラク)」「凋零(チョウレイ)」。

字通

[形声]声符は周(しゆう)。〔説文〕十一下に「半ば傷むなり」とあり、周声とする。周は彫飾のある盾の形。凋んだ葉には、その稠密な彫文のように、一面に葉脈がうき出るので、氷結のときのさまとあわせて、凋落・凋弊の字とする。すべて皺(しわ)の生ずるようなさまをいう。

冢(チョウ・10画)

冢 金文
曶壺蓋・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はti̯uŋ(上)。論語語釈「塚」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。冢の下部の字(音チク・タク)は、しめてかためる意。その語尾がのびてチョウの音をあらわす。冢は、それに冂(かぶせる)を加えた字で、土をかぶせてずっしりと重くかためた盛り土を意味する。塚(チョウ)・(ツカ)の原字。重(チョウ)(おもい)・腫(ショウ)(大きくおもくふくれる)と同系。

語義

  1. {名詞}つか。土を大きく盛った墓。▽中国では盛り土をして墓とする。《同義語》⇒塚。「留侯死并葬黄石冢=留侯死して黄石の冢に并(なら)び葬らる」〔史記・留侯〕
  2. {形容詞}大きく重い。「冢君(チョウクン)(大君の意で、他国の諸侯を敬っていうことば)」「冢宰(チョウサイ)(大宰の意で、長官のこと)」。

字通

[象形]𢽚殺(たくさつ)した牲を埋めて、上に土を盛りあげた墳墓の形で、塚(塚)の初文。わが国では多く塚の字を用いる。冢は〔説文〕に勹(ほう)部九上に属し、「高墳なり」とし、豖声とするが、上部は豖牲を覆う形で、勹でも冖(べき)でもない。それに屋を架したものは家である。塚は冢の形声字。〔周礼、春官、冢人〕は「公墓の地を掌る」とあり、国君の兆域と、その封丘や喪祭の器などのことを管理する。

張(チョウ・11画)

張 楚系戦国文字 張 金文
(包2.95/金文)

初出:初出は楚系戦国文字で、その他戦国末期の金文が発掘されている。上掲の金文は戦国末期の「二十年奠令戈」。

字形:戦国文字の字形は「弓」+「長」で、弓に長い弦を張るさま。原義は”張る”。

音:カールグレン上古音はti̯aŋ(平/去)。同音は粻”食米・飴”(平)、長(上)、帳(去)。うち長は甲骨文から存在する。藤堂上古音はtɪaŋ(ɪはエに近い音)。

用例:戦国時代の金文では、「長」を「張」と釈文する例が複数あるが、いずれも人名のようである。

漢語多功能字庫」によると、戦国の金文に氏族名で用いた例がある。

論語時代の置換候補:音チョウ訓はるに「掟」「𢹑」があるが金文以前に遡れない。近音はあるにはあるが音通しそうにないし、金文以前に遡れない。唯一候補として上がるのは「奢」で、春秋早期の金文からあるが、カールグレン上古音がɕi̯ɔ、藤堂上古音がthiǎgで音通しているとは言い難い。

『学研漢和大字典』は原義を「弓に弦を長く伸ばしてはること」といい、『字通』は「長は長大にする意。…緩急の宜しきを得ることをいう」といってほぼ同じ。

孔子の有力弟子、子張のあざ名として論語に頻出だが、文字としては行き止まりで、もし孔子在世当時に”はる”を意味するなら、「長」(上声、ti̯aŋ/tɪaŋ)と書いたか、文字通り「弓(ki̯ŭŋ/kɪuəŋ)長」と書いたかのいずれかだろう。

なお『大漢和辞典』長条には、”はさむ”の意で「張に通ず」という。むろん、”のばす・ながくする”の語釈も載せる。

備考:弟子の子張のあざ名は、長=ふてぶてしく図々しい、の意を込めている他称だろう。論語語釈「長」を参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。長は、長く頭髪をなびかせた老人の姿。張は「弓+(音符)長」で、弓に弦を長く伸ばしてはること。ぴんと長く平らに伸びる意を含む。暢(チョウ)(長く伸びる)・腸(長く伸びたはらわた)・杖(ジョウ)(長いつえ)などと同系。「のりなどでつける」の意味の「はる」は「貼る」とも書く。

語義

  1. {動詞}はる。弦を長く伸ばして弓・弦楽器にはりわたす。「弓矢斯張=弓矢斯に張る」〔孟子・梁下〕
  2. {動詞}はる。ぴんと伸びる。また、ぴんと伸ばす。「伸張」。
  3. {動詞}はる。大きく開く。ふくれて大きくなる。「誇張」「張目開口=目を張り口を開く」〔捜神記〕
  4. {動詞}はる。盛大に開く。「張宴=宴を張る」「張飲(チョウイン)(大いに酒を飲む)」「是夜張錦墸=この夜錦墸(きんしゅう)を張る」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  5. {動詞}はる。意見を展開させる。「主張」。
  6. {動詞}はる。鳥獣を捕らえるために、網をはる。「張網四面=網を四面に張る」〔史記・殷〕
  7. {単位詞}はり。紙など平らにはり伸ばす物や、琴など弦をはった物を数えることば。
  8. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のうみへび座にふくまれる。ちりこ。
  9. {名詞}長いとばり。▽帳に当てた用法。去声に読む。
  10. 《日本語での特別な意味》
    ①はり。物事のしがい。「張りがない」「張り合い」。
    ②「尾張(オワリ)」の略。「張州」。

字通

[形声]声符は長(ちよう)。〔説文〕十二下に「弓の弦を施すなり」とあり、〔段注〕に「弦を■(也+攴)(し)く」の誤りであるという。長は長大にする意。〔礼記、雑記下〕に「一張一弛は文武の道なり」とあり、緩急の宜しきを得ることをいう。

鳥(チョウ・11画)

鳥 甲骨文 鳥 金文
合32509/子之弄鳥尊・春秋晚期

初出:初出は甲骨文

字形:とりの象形。

慶大蔵論語疏は異体字「𫠓」と記す。出典不明だが崩し字で、現行の簡体字に近似。

音:カールグレン上古音は声母のt(上)のみ。藤堂上古音はtög。¨(ウムラウト)は中舌寄りを示す。

用例:「甲骨文合集」4725.1に「辛未卜鳴獲井鳥」とあり、”とり”と解せる。

殷代末期の金文では、族徽(家門)に使った例が複数ある。氏族名を示すと見られる。

西周末期「弔噩父𣪕」(集成4056)に「弔噩父乍鸞姬旅𣪕」とあり、人名と解せる。

学研漢和大字典

象形。尾のぶらさがったとりを描いたもの。北京語のniǎoは、ぶらりとたれた男性性器(diǎo)と同音であるのをさけた忌みことば。蔦(チョウ)(ぶらさがるつた)・吊(チョウ)(ぶらさがる)などと同系。類義語の隹(スイ)は、ずんぐりとしたとり。禽(キン)は、あみでとらえて飼うとり。「食用にする鶏」の意味の「とり」は「鶏」とも書く。

語義

  1. {名詞}とり。尾のたれさがったとり。のち広くとりの総称に用いる。《類義語》隹(スイ)・禽(キン)。「鳥跡」「草木鳥獣」。
  2. {形容詞}とりのごとく、人や物が、集まるさま。「鳥集」。
  3. {名詞}星の名。

字通

[象形]鳥の全形。その省形は隹(すい)。〔説文〕四上に「長尾の禽(きん)の總名なり。象形。鳥の足は匕(ひ)に似たり。匕に從ふ」とするが、字の全体が象形である。隹を短尾の鳥とするが、雉翟が隹に従うことからいえば、鳥・隹の別は尾の長短にあるのではない。卜文では神聖鳥のとき、鳥の象形字を用いることが多い。島と通用し、またその音で人畜の牡器をいい、賤しめ罵る語に用いる。

釣(チョウ・11画)

釣 甲骨文 釣 金文 釣 楚系戦国文字
合集10993/魡鼎・殷代末期/天策・戦国楚

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「魡」。現伝字形の初出は楚系戦国文字。「小学堂」による初出は殷代末期の金文

字形:魚を針で釣り上げる様。

音:カールグレン上古音はtioɡ(去)。

用例:甲骨文の用例は欠損が激しく文意が不明。殷代末期「魡(釣)鼎」(集成1129)には「魡」(釣)一字しか鋳込まれていない。

戦国中末期「望山楚墓」2.12に「白金之□釣。」とあり、”釣り”または”釣り針”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「金+(音符)勺(シャク)(液体の中の一部を高くとりあげる)」で、水中の魚を金ばりでつって、高く水面上に抜き出すこと。杓(シャク)(ものをすくって抜きあげる道具)・酌(シャク)(酒を抜きあげるようにしてくみ出す)・的(テキ)(高くかかげたまと)と同系のことば。

語義

  1. (チョウス)(テウス){動詞・名詞}つりする(つりす)。つる。つり。水中の魚を高く水面上に抜き出してとる。また、その方法。「子、釣而不綱=子、釣して綱せず」〔論語・述而〕
  2. (チョウス)(テウス){動詞}つる。餌(エサ)でおびきだす。うまく機会をつかまえる。名や見栄をかかげて、みせびらかす。「釣奇=奇を釣る」「釣名=名を釣る」。
    《日本語での特別な意味》つり。つり銭。

字通

[形声]勺(ちよう)声。勺は刁(ちよう)より転じた形であろう。刁は釣針の形。〔説文〕十四上に「魚を鉤するなり」という。鉤は釣針、句曲の義をとる字である。

彫(チョウ・11画)

彫 金文
者󱜷鐘・春秋早期

初出:初出は春秋早期の金文。「小学堂」による初出は楚系戦国文字

字形:「氵」+「周」。「チョウ落」「チュウ密」と言うように、「周」の音には”ぎゅっと縮まる”の意があるらしく、水気を含んだものをしぼるさま。

音:カールグレン上古音は声母のt(平)のみ。藤堂上古音はtög。部品の「周」ȶ(平)には”ほる”の語釈はない。論語語釈「凋」も参照。

用例:春秋早期「者󱜷鐘」(集成集成195~197)に「不帛不彫」とあり、「とまらずしぼまず」と読め、”衰える”と解せる。

学研漢和大字典

会意兼形声。周は、田の中一面に作物の実ったことを示す会意文字。稠密(チュウミツ)の稠(びっしり)の原字。彫は「彡(模様)+(音符)周」で、器物の表面全体にびっしりと模様をつけること。類義語の鏤(ロウ)は、細かい模様をちりばめて、金属にほりこむ。塑は、のみをたててそぎとる。刻は、かどだったきざみを入れる。掘は、土をほってくぼみをつくること。

語義

  1. {動詞}ほる。える(ゑる)。きざむ。一面に細かい模様をつける。また、のち、きざんで模様をほりこむ。ちりばめる。《同義語》⇒雕。《類義語》鏤(ロウ)・(ル)。「彫刻」。
  2. (チョウス)(テウス){動詞}文章の字句をこまかく飾りたてる。「欲彫小説干天官=小説を彫して天官に干(もと)めんと欲す」〔李賀・仁和里雑叙〕
  3. {動詞}しぼむ。なえる(なゆ)。葉がしおれてぐったりとたれる。また、弱り衰える。▽凋(チョウ)に当てた用法。「彫落(=凋落)」。

字通

[会意]周+彡(さん)。周は彫飾のある盾(たて)の形。彡はその彫飾の美をいう。〔説文〕九上に「琢文(たくぶん)なり」とあり、玉を琱琢する意とするが、周はもと雕盾の象。のちすべて琱琢を加えることをいい、〔論語、公冶長〕に「朽木は彫(ゑ)るべからず」とみえる。金文の〔休盤〕に「戈琱■(戈+肉)(くわてうし)」を賜与することがみえ、戈に彫飾を加えたものをいう。字はまた雕に作る。

朝(チョウ・12画)

朝 甲骨文 朝 金文
甲骨文/善夫克盨・西周末期

初出:初出は甲骨文

甲骨文の字形は「屮」”くさ”複数+「日」+「月」”有明の月”で、日の出のさま。金文では「𠦝」+「川」で、川べりの林から日が上がるさま。原義は”あさ”。

音:カールグレン上古音はti̯oɡまたはdʰi̯oɡ(共に平)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、甲骨文では原義、地名に、金文では加えて”朝廷(での謁見や会議)”(夨令方彝・西周早期)、「廟」”祖先祭殿”(𧽊簋・西周中期)に用いた。

学研漢和大字典

会意→形声。金文は「草+日+水」の会意文字で、草の間から太陽がのぼり、潮がみちてくる時を示す。篆文(テンブン)は「幹(はたが上がるように日がのぼる)+(音符)舟」からなる形声文字で、東方から太陽の抜け出るあさ。抽(抜き出す)・冑(チュウ)(頭が抜け出るよろい)と同系。潮は、朝日とともにさしてくるあさしお。類義語の旦(タン)は、太陽が地上に顔を出すあさ。晨(シン)は、万物が生気をおびて振るい立つあさ。付表では、「今朝」を「けさ」と読む。

語義

チョウ(平声)チョウ(呉)
  1. {名詞}あさ。あした。太陽の出てくるとき。《対語》⇒夕。《類義語》旦(タン)・晨(シン)。「早朝」「終朝(日の出から朝食のころまで)」。
  2. 「一朝」とは、一日のこと。また、いったん、もしもの意。
チョウ(平声)ジョウ(呉)
  1. (チョウス)(テウス){動詞}宮中に参内(サンダイ)して、天子*や身分の高い人にお目にかかる。「朝見」「来朝」。
  2. (チョウス)(テウス){動詞}むかう(むかふ)。顔をむけてそちらに面する。「朝宗(中心になるものにあう→天子に拝謁する)」。
  3. {名詞}天子が政治を行うところ。「朝廷」。
  4. {名詞}その天子の統治する一代。また、その系統の君主が支配した時代。「乾隆朝(ケンリュウチョウ)(乾隆帝の時代)」「唐朝(唐の時代)」。
  5. 《日本語での特別な意味》「朝鮮」の略。「日朝」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[会意]艸(そう)+日+月。艸は上下に分書、その艸間に日があらわれ、右になお月影の残るさまで、早朝の意。〔説文〕に字を倝(かん)部七上に収め、「旦なり。倝(旗)に從ひ、舟(しう)聲」とするのは、篆文(𦩻)の字形によって説くもので、字の初形でない。金文には右に水に従う形が多く、潮の干満、すなわち潮汐(ちようせき)による字形があり、その水の形が、のち舟と誤られたものであろう。左も倝の形ではなく、倝は旗竿に旗印や吹き流しをそえた形で、朝とは関係がない。殷には朝日の礼があり、そのとき重要な政務を決したので、朝政といい、そのところを朝廷という。朝は朝夕の意のほかに、政務に関する語として用いる。暮の初文である莫(ぼ)も、上下の艸間に日の沈む形である。

塚/塚(チョウ・12画)

初出は後漢の説文漢字にもなく不明。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明。論語語釈「冢」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。冢がその原字で、締めて固める意を含む。塚は「土+(音符)冢(チョウ)」で、土をかぶせて太くずっしりと固めた盛り土。重(チョウ)(充実しておもい)・腫(ショウ)・(シュ)(太いはれもの)などと同系。

語義

  1. {名詞}つか。つき固めた盛り土。中国では、土まんじゅうの形に盛り土をしてつくった墓。また、転じて、墓のこと。《同義語》⇒冢。「遂命発塚=遂に命じて塚を発かしむ」〔捜神記〕
  2. {名詞}つか。土を小高く盛ったもの。「一里塚(イチリヅカ)(街道の里程を示す土盛り)」。

字通

[形声]声符は冢(ちよう)。冢は塚の正字。〔説文〕九上に「冢は高墳なり」とあり、高く土を盛りあげた墳墓の意。〔周礼、春官、冢人〕に「公墓の地を掌る」とあり、次に墓大夫の職を列している。塚は冢の俗字、塚は冢の常用字。塚は唐代の文献以後にみえる。塚の上に屋舎を設けることもあって、塚舎という。

徵/徴(チョウ・14画)

徴 甲骨文 徵 微 金文
甲骨文/徵▁簠・春秋

初出:初出は甲骨文

字形は”ノコギリ”+「之」”あし”で、字形の由来と原義は明瞭でない。

音:カールグレン上古音はti̯əŋ(平/上)で、同音は無い。

用例:西周末期の「毛公鼎」(集成2841)に「取徵卅爰(鋝),易(賜)女(汝)秬鬯一卣」とあり、”とる”と解せる。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では国名に、金文では氏族名に用いた。戦国の金文では、音階の一つに用いた(曾侯乙鐘・戦国早期)。

学研漢和大字典

会意。「微の略体+王」で、隠れた所で微賤(ビセン)なさまをしている人材を王が見つけて、とりあげることを示す。チョウは登・昇(のぼる)と同系で、上へ引きあげること。また、證(=証。ことばで表面に出す)と同系で、わずかな手がかりをつかんでとりあげ表面にのせること。旧字「徵」は人名漢字として使える。

語義

チョウ(平声)
  1. (チョウス){動詞}めす。隠れている人材をめし出す。「徴召」「徴為常侍=徴して常侍と為す」〔枕中記〕
  2. (チョウス){動詞}もとめる(もとむ)。人民などから取りたてる。また、要求する。《類義語》征。「徴兵」「徴歌=歌を徴す」「吾以羽檄徴天下兵=吾羽檄を以て天下の兵を徴す」〔漢書・高帝〕
  3. (チョウス){動詞}物事の表面に出たところを見てとる。手がかりを得る。《類義語》証。「宋不足徴也=宋は徴するに足らざるなり」〔論語・八飲〕
  4. {動詞}きざす。物事のけはいが表面に少し浮かび出る。《類義語》現・発。「徴於色発於声=色に徴し声に発(あらは)る」〔孟子・告下〕
  5. {名詞}きざし。物事の起こるのを予想させるしるし。「徴候(=兆候)」「納徴(結婚の結納をする)」。
チ(上声)

{名詞}五音の一つ。古代中国の音楽で、階名をあらわす。七音のソに当たる。▽五音は、宮・商・角・徴(チ)・羽。「十二律」は、音名。

字通

[会意]旧字は徵に作り、彳(てき)+チョウ 外字(ちょう)+攴(ぼく)。彳(道路)において、チョウ 外字(長髪の人)を攴(う)(毆)つ形。長髪の人は長老とも、また巫女とも解されるが、要するにすぐれた呪的能力をもつもの。これを殴(う)って、敵方に対する懲罰的な行為として、味方の要求するところを徴し、あわせて懲罰を加える行為をいう。その効果のあらわれることを徴験という。これと同じ方法で、若い巫女を攴つことを微といい、これは敵方の呪力を微(な)くすることを目的とする。また同じ意味で、髑髏(どくろ)を攴つことを徼(きよう)といい、その呪霊を刺激して徼(もと)める意である。徵・微・徼はみな相似た呪的行為を意味する字である。〔説文〕八上に徵を「召すなり」とし、微の省に従う字で、「微に行ひて而(しか)も聞達する者は、即ち徵(め)すなり」(段注本)とするが、隠微の義を承けるものではなく、徴・微・徼は同種の呪儀をいう。徵は懲の初文。もと敵を懲らしめる行為であった。

趙(チョウ・14画)

趙 金文
趙孟庎壺・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はdʰi̯oɡ(上)。

学研漢和大字典

形声。「走+(音符)肖(ショウ)」。

語義

  1. {形容詞}ちいさい(ちひさし)。《類義語》小・少。
  2. {動詞}こえる(こゆ)。▽超に当てた用法。
  3. {名詞}国名。戦国時代の七雄の一つ。春秋時代の晋(シン)を、趙・魏・韓が三分して独立したもの。今の山西省北部から河北省西部を領有した。都は、邯鄲(カンタン)。
  4. 「趙宋(チョウソウ)」とは、王朝の名。宋王朝のこと。南北朝時代の宋(劉宋(リュウソウ))と区別するときに用いる。始祖が趙匡胤(チョウキョウイン)であることから。

字通

[形声]声符は肖(しょう)。〔説文〕二上に「趍(はし)ること趙(おそ)きなり」(段注本)とするが、〔穆天子伝〕「北征趙行」の〔注〕に「猶ほ超騰のごとし」とあって、軽捷であることをいい、超と声義が近い。戦国期、山西の国名に用いた。

蓧(チョウ・14画)

初出は不明。論語の時代に存在が確認できない。カールグレン上古音はdʰ(入)、同音多数。平声は不明。『大漢和辞典』で音チョウ訓あじかは以下の通り。

カ音 初出 声調 備考
𠤺 チョウ あじか 不明 不明 不明
𠤼 チョウ 説文解字
𥁮 チョウ 不明 不明
チョウ 晋系戦国文字
チョウ 不明 入/去

漢語多功能字庫

(解字無し)

学研漢和大字典

形声。「艸+(音符)條」。

語義

チョウ(平)
  1. {名詞}細長い草。なえ。
テキ(入)
  1. {名詞}あじか。竹や木の枝などで編んだかご。畑の収穫物や刈りとった草を入れるのに使う。「遇丈人以杖荷戡=丈人の杖を以て戡を荷ふに遇ふ」〔論語・微子〕
チョウ(去)
  1. {名詞}除草に使うすき。刃の長いすき。

字通

(条目無し)

中日大字典

diào

【古】除草用の農具.

雕(チョウ・16画)

雕 金文
雕陰鼎・戦国末期秦

初出:初出は戦国末期の金文

字形:音符「周」+「隹」”とり”で、原義は鳥の”ワシ”。”ほる”の語義は音通。「彫」と同じ、彫の字も初出は戦国文字。戦国の竹簡には「周攵」の字形のものがある。

音:カールグレン上古音は子音のtのみ。藤堂上古音はtög。

用例:「清華大学蔵戦国竹簡」清華一・金縢09に「曰《周(雕)鴞》」とあり、「周」を「雕」と釈文している。

論語時代の置換候補:部品の周の字。”ほる”意を持つ漢字で、チョウと音読みするものに、琱(カ音tのみ)があり、春秋時代の金文に存在する上、初文は周とされるから、周(カ音ȶのみ)に”ほる”意があると解することは可能。

備考:自動詞と他動詞の違いを無視すれば、雕の部品の周の字には、調に通じて”ととの”の語釈を『大漢和辞典』が載せ、彫刻は素材を整える﹅﹅作業と言えなくは無い。

漢語多功能字庫」には、見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「隹+(音符)周(まんべんなくゆきわたる、円を描く、めぐる)」。週(めぐる)と同系。

語義

  1. {名詞}わし。猛鳥の名。円を描いて大空をめぐるわし。《同義語》⇒譖。《類義語》鷲(シュウ)・鷙(シ)。
  2. {動詞}きざむ。える(ゑる)。一面に細かい模様をつける。全面にわたって、まんべんなくほりつける。《同義語》彫。《類義語》鏤(ル)・(ロウ)。「雕玉(チョウギョク)」。
  3. {動詞}しぼむ。なえる(なゆ)。草木が枯れて、ぐったりとたれさがる。また、弱り衰える。▽凋(チョウ)に当てた用法。《類義語》吊(チョウ)(ぶらさがる)。
  4. 「雕雕(チョウチョウ)」とは、細かい模様があざやかにめだつさま。「雖有槙之雕雕、不若玉之章章=槙の雕雕たる有りと雖も、玉の章章たるに若かず」〔荀子・法行〕

字通

彫・雕

[会意]周+彡(さん)。周は彫飾のある盾(たて)の形。彡はその彫飾の美をいう。〔説文〕九上に「琢文(たくぶん)なり」とあり、玉を彫琢する意とするが、周はもと雕盾の象。のちすべて琱琢を加えることをいい、〔論語、公冶長〕に「朽木は雕(ゑ)るべからず」とみえる。金文の〔休盤〕に「戈琱胾(くわてうし)」を賜与することがみえ、戈に彫飾を加えたものをいう。字はまた雕に作る。

聽/聴(チョウ・17画)

→論語語釈「聴」

𥄂/直(チョク・8画)

直 甲骨文 直 金文
甲骨文/恒簋蓋・西周中期

初出:初出は甲骨文

字形:定州竹簡論語の「𥄂」は異体字。甲骨文の字形は「コン」+「目」で、真っ直ぐものを見るさま。原義は”真っ直ぐ見る”。

音:カールグレン上古音はdʰi̯ək(入)。「ジキ」は呉音。

用例:金文の例は「漢語多功能字庫」が挙げる「恒簋蓋」表裏2例しか無く同文。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では祭礼の名に、金文では地名に(恒簋蓋・西周中期)、戦国の竹簡では「犆」”去勢した牡牛”の意に、「得」”~できる”の意に用いられた。

学研漢和大字典

「|(まっすぐ)+目」の会意文字で、まっすぐ目を向けることを示す。-植(まっすぐたててうえる)-置(まっすぐてておく)-チョク(ととのう)-チョク(まっすぐに正す)と同系のことば。

語義

  1. (チョクナリ){形容詞・動詞・名詞}なおし(なほし)。なおくする(なほくす)。まっすぐなさま。まっすぐである。まっすぐにする。正直な人。《対語》⇒曲。「曲直」「縄直(ジョウチョク)(墨なわを張ったようにまっすぐな)」「爽直(ソウチョク)(さっぱりしてまっすぐな)」「直而無礼則絞=直にして礼無ければ則ち絞す」〔論語・泰伯〕。「友直=直を友とす」〔論語・季氏〕
  2. {名詞}なおきこと(なほきこと)。まっすぐなこと。すなおさ。「直在其中矣=直きこと其の中に在り」〔論語・子路〕
  3. {形容詞}曲折をへずに。じかに。「直通」「直接」「直入」。
  4. {動詞・名詞}あたる。とのい(とのゐ)。ちょうどその番にあたる。当番。《同義語》⇒値(チョク)(あたる)。「当直(=当値)」「宿直」。
  5. {名詞}あたい(あたひ)。その物や仕事に相当するねだん。▽値(チ)に当てた用法。
  6. {副詞}ただ。→語法「①」。
  7. {副詞}ただちに。じきに(ぢきに)。→語法「②」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①「直直(ジキジキ)」とは、直接に。「直直にお目にかかる」。
    ②なおる(なほる)。なおす(なほす)。もとどおりになる。もとどおりにする。「病気が直る」。

語法

①「ただ」とよみ、「ただ~だけ」と訳す。限定の意を示す。《同義語》只・特。「直不百歩耳=ただ百歩ならざるのみ」〈百歩でないというだけだ〉〔孟子・梁上〕
②「ただちに」「じきに」とよみ、「すぐに」「まっすぐに」と訳す。「直夜潰囲=ただちに夜囲みを潰(つひや)す」〈その夜のうちに漢軍の包囲網を突破した〉〔史記・項羽〕

字通

せいいん。省は目に呪飾を加え、巡察することをいう。いわゆる省察である。乚は隔てる意であろうと思われる。〔説文〕十二下に「正しく見るなり。十目に従ふ」とする。〔大学、六〕の「十目の視る所、十手の指す所、其れ嚴かなるかな」の語によって解するものであろうが、目の上は省・德(徳)の字と同じく、呪飾とみるべきである。
省 甲骨文 徳 甲骨文
「省・徳」(甲骨文)

心部十下に「とくは外には人に得、内には己に得るなり」とあり、その重文の字は、本条の古文の字と似ている。悳は金文に德の字として用いる。直は目の呪力を示すもので、「う」意となり、価値の意となる。但と声近く、ただの意に用いる。

訓義

あう、目で見る、値の初文。あたる、むかう、はべる、とのい。ただしい、なおい、すなお、よい。あたい、ねうち、また値を用いる。ただちに、すぐ。但と通じ、ただ。たて、まっすぐ。飾と通じ、へりかざり。

大漢和辞典

会意。十と目とLとの合字。十目の見る所、いかに隠すも顕れざるなき意より、本義は正しく見ること。

字解

なおい。なおきもの。なおくす。あたる。はべる、殿居する。殿居。ただ。ただちに。発語の助辞。生ずる。縦。柄、つか。へり、へりかざり。諡。衣の名。犆*に通ず。値に通ず。姓。あたる、あう。あたい。〔邦〕なおし。なおす。なおる。姓氏のあたい。

*犆:(トク・チョク)へり。ひとり。ひとつ。

沈(チン/シン・7画)

沈 甲骨文 沈 金文
甲骨文/沈子它簋蓋・西周早期

初出:初出は甲骨文

字形:川に犠牲を投げ入れるさま。甲骨文の字形によって、犠牲は人だったり玉だったり牛だったり羊だったりする。金文の字形は手かせをはめられた人が川に投げ入れられるさま。原義は”沈む”。

音:「チン」の音で”沈む”を、「シン」の音で姓の一つを意味する。カールグレン上古音はdʰi̯əm(平/去)/ɕi̯əm(去/上)。

用例:西周早期「沈子它𣪕蓋(它𣪕)」(集成4330)に「沈子」とあり、人名の一部と解せる。

西周末期「㝬鐘(宗周鐘)」(集成264)に「福余沈孫。」とあり、”久しい”と解せる。なお「国学大師」では「順」と釈文している。

漢語多功能字庫」によると、甲骨文では祭祀の名で、金文、戦国の竹簡では”幼い”の意に用いた。

学研漢和大字典

会意兼形声。冘(チン)・(タン)の甲骨文字は「牛+川」からなり、牛を黄河の底にしずめて、「沈祭」という祭礼を行うさま。金文では、「人+━印」の会意文字で、人間の首や肩を━印の重荷でおさえて、深く下に押ししずめるさま。沈は「水+(音符)冘(タン)・(チン)・(シン)」で、水中にしずめること。耽(タン)(深入りする)・枕(チン)(頭を下にしずめるまくら)・深(ふかい)・湛(タン)(深いふち)などと同系。異字同訓にしずめる⇒静。

語義

チン(平)
  1. {動詞}しずむ(しづむ)。しずめる(しづむ)。水の底にずっしりとしずむ。深く水底にしずめる。《対語》⇒浮。「浮沈」「自沈(ジチン)(水中に身をしずめて死ぬ。自分で、乗る舟をしずめる)」「以為舟則沈=以て舟と為さば則ち沈む」〔荘子・人間世〕
  2. {動詞}しずむ(しづむ)。物事に深入りする。物事にふける。《類義語》耽(タン)(ふける)。「沈溺(チンデキ)」。
  3. {動詞}しずむ(しづむ)。気がふさがる。元気がなくなる。思いにしずむ。「沈心」「消沈」。
    む(チンナリ){形容詞}ずっしり落ち着いているさま。奥深く静かなさま。長い間、変わらないさま。《類義語》浮(うわついている)。「沈沈(ずっしりと重々しい)」「沈着」「智深而勇沈=智深くして而勇沈なり」〔史記・荊軻〕
シン(上)
  1. {名詞}姓の一つ。「沈佺期(シンセンキ)」。

字通

[形声]声符は冘(いん)。冘に枕・鴆(ちん)の声がある。〔説文〕十一上に「陵上の滈(たま)れる水なり」とし、滈(こう)字条に「久雨なり」とあって、久雨による溜り水の意とする。また「一に曰く、濁黕(だくたん)なり」とあって、水底の泥土をいう。卜文の沈の字形は、水間に牛や羊を加えた形に作り、これは川沢を祀るときに、犠牲を沈める意で、沈は沈薶(ちんばい)を本義とする字である。薶は埋、埋牲をいう。のち形声の字となり、冘声を用いるが、冘は枕、横たわる意である。水底に沈み横たわることをいう。姓のときはシンとよむ。

枕(チン・8画)

論語語釈「枕」

朕(チン・10画)

朕 金文
少虡劍・春秋末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯əm(上)。同音は下記の通り。

初出 声調 備考
チン しづむ 甲骨文 平/去 去(上)は「審」と同音
われ 甲骨文
かひこだなをくむ横木 説文解字
毒鳥の名 説文解字

漢語多功能字庫

甲金文從「」從「」從「」(二手),字象雙手持物填補船之縫隙。本義是填補船縫,引申為縫隙、朕兆(戴震、李孝定、季旭昇)。春秋晩期金文於「」上加八形飾筆,丨中間的圓點或拉長作一橫形,字形又漸訛作「𦩎」形。後「」借作第一人稱代詞,日久失其初義。


甲骨文や金文は「舟」と「丨」と「廾」(二つの手)の字形に属し、両手で舟の隙間を埋める作業の象形。原義は舟の隙間を埋めること。派生義として繕うこと、予兆。(戴震、李孝定、季旭昇)。春秋末期の金文で「丨」の上に八の字状の飾りを付け、丨中間の点は引き延ばされて横棒になり、字形は次第に場合によって「𦩎」と書かれるようになった。のち「朕」は音を借りて一人称の代名詞になり、やがてその原義を失った。

学研漢和大字典

会意。もと「舟+両手で物を持ちあげる姿」で、舟を上に持ちあげる浮力のこと。上にあらわれ出る意を含む。転じて、尊大な気持ちで自分を持ちあげて称する自称詞となった。徴(持ち上げる)・騰(あがる)・称(持ちあげる、ほめる)などと同系。

語義

  1. {代名詞}われ。わが。自分を持ちあげた気持ちで、自分自身をさす場合に用いた古代の一人称代名詞。《類義語》我・余(予)。「干戈朕=干戈は朕がものなり」〔孟子・万上〕。「悉聴朕言=悉く朕が言を聴け」〔書経・湯誓〕
  2. {代名詞}天子*だけが用いた一人称代名詞。▽秦(シン)の始皇帝からのち、皇帝が朕(チン)と自称することときめ、その習慣が後世に及んで天子に限って、用いるようになった。
  3. {名詞}表面にあらわれたきざし。《類義語》徴・兆。「朕兆」。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

字通

[会意]正字は𦨶に作り、舟+そう 外字(上下に八+关)(そう)。そう 外字は両手でものを奉ずる形で、送 外字(送)はその字に従う。〔説文〕八下に「我なり」とし、また「闕」とあって、字の形義を不明としている。我は代名詞で、その字はもと鋸(のこぎり)の象。代名詞に用いるのは仮借。朕を代名詞に用いるのも、おそらく仮借の義。盤中のものを奉ずるのは、膡 外字(おく)るためであり、膡 外字(よう)の声義が朕の初義であろうと思われる。卜辞に王位継承の順位者を示す語として子(し)・余(よ)・我・朕があり、特定の身分称号であったが、それらがそのままのち、代名詞となった。金文に朕を一人称所有格に用い、朕吾・余朕のように複用する例がある。また金文には周初の〔エイ 外字夔(えいき)〕に「朕(わ)が福盟を邵(あき)らかにし、朕(なが)く天子*に臣(つか)へん」のように、代名詞以外の用法もある。「朕兆(ちんちよう)」のように、もののきざしの意とするのは、おそらく眹(ちん)字の誤用であろう。〔荘子、斉物論〕「眞宰有るが若(ごと)きも、特(ひと)り其の眹(あと)を得ず」とあり、朕兆の意である。〔周礼、序官、春官、瞽矇〕の〔注〕に「目眹(もくちん)無き者、之れを瞽(こ)と謂ふ」の眹が、その字である。朕の本音はヨウ。古くは一人称の所有格に用いた。朕(ちん)とよんで天子の自称とするのは、秦の始皇帝にはじまる。〔史記、秦始皇紀〕に「臣等昧死して尊號を上(たてまつ)る。~天子自ら稱して朕と曰ふ」とみえる。

*「天子」の言葉が中国語に現れるのは西周早期で、殷の君主は自分から”天の子”などと図々しいことは言わなかった。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を参照。

陳(チン・11画)

陳 金文 陳 金文
九年衛鼎・西周中期/陳侯鬲・春秋早期

初出:初出は西周中期の金文

字形は〔阝〕”はしご”+〔東〕で、原義は不明。

音:カールグレン上古音はdʰi̯ĕn(平/去)。

用例:西周中期「九年衛鼎」(集成2831)に「我舍顏陳大馬兩。」とあり、人名と解せる。

西周末期「敶侯𣪕」(集成3815)に「敶(陳)侯乍(作)」とあり、国名と解せる。

春秋末期の「新收殷周青銅器銘文暨器影彙編」NA1191に「永󱩾(陳)之ソン 外字缶。」とあり、人名と解せる。

春秋末期までに確認できる語義は以上の通り。論語では、国名や人名として登場。また、衛霊公篇1で”陣立て”として用いている。

備考:「陣」(初出不明)のカールグレン上古音がdʰi̯ĕn(去)であり、同音同調で字形も似ているため「陳」が転用されたとみられる。現在は「陣」としての「陳」の用例が春秋末期までに見つかっていないが、おそらく「陣」として用いていたと想像できる。

学研漢和大字典

会意兼形声。古くは「東(袋の形)二つ+攴(動詞の記号)」の会意文字で、土嚢(ドノウ)を一列にならべることを示した。陳はその略体にさらに阜(土もり)を加えた字で、土嚢を平らに列をなしてならべること。類義語に述。

語義

  1. {動詞}ならべる(ならぶ)。しく。つらねる(つらぬ)。一列に、または、平らにならべる。「陳列」。
  2. (チンズ){動詞}のべる(のぶ)。展開してのべる。つらねていう。「陳述」「棄置莫復陳=棄置して復た陳ぶること莫からん」〔曹植・贈白馬王彪〕
  3. {名詞}ならんだもの。ならび。列。
  4. {形容詞・名詞}ふるい(ふるし)。ならべたまま置きざりにした。ふるびた。ふるいもの。《対語》⇒新。「陳腐」「新陳代謝」「推陳出新=陳きを推して新しきを出だす」。
  5. {名詞}国名。周・春秋時代、今の河南省淮陽(ワイヨウ)県を中心とした地にあった。周代に帝舜(シュン)の子孫が封ぜられた地といわれる。春秋時代の末に楚(ソ)に滅ぼされた。
  6. {名詞}王朝名。中国の南北朝時代の南朝最後の王朝。陳覇先(チンハセン)が梁(リョウ)の敬帝から位を奪ってたてた。隋に滅ぼされた。五五七~五八九。
  7. {名詞}戦闘のための軍勢の配置の形。▽去声に読む。《同義語》⇒陣。「衛霊公、問陳於孔子=衛の霊公、陳を孔子に問ふ」〔論語・衛霊公〕

字通

[会意]𨸏(ふ)+東(とう)。東は橐(たく)の象形字。神の陟降する神梯(𨸏)の前に、多くの橐(ふくろ)を陳設して祀る形。〔説文〕十四下に「宛丘なり。舜の後、嬀滿(きまん)の封ぜられし所なり」とし、「𨸏に從ひ、木に從ひ、申(しん)の聲なり」とするが、申声説は古文の形によっていうもので、字の本形ではない。金文に■(陳の下に土)・■(陳+攵)の二形があり、田斉の陳氏は■(陳の下に土)、舜の後である陳・蔡の陳は■(陳+攵)に作る。すなわち〔説文〕のいう陳は金文の■(陳+攵)にあたる。■(陳の下に土)は聖所の社(土)前に東(供える橐)をおく形。■(陳+攵)はその橐を撃つ形を加えたもの。多く陳(つら)ねるので陳列・陳設の意となり、そのまま陳設しておくので陳久・陳腐の意となったのであろう。〔墨子、号令〕にみえる「陳表」を〔墨子、雑守〕に「田表」に作り、陳と田とは古く同声であった。それで斉の陳氏をまた田氏という。ただ金文では田斉諸侯の器をすべて■(陳の下に土)侯としるしており、■(陳の下に土)がその本姓である。

論語語釈
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