論語語釈「チ」

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語釈 urlリンクミス

地(チ・6画)

中国・台湾の漢字学での初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdʰia(去)。同音は也を部品とする漢字群、多を部品とする漢字群。

論語 地 甲骨文 論語 地 金文
『字通』所収甲骨文・金文

白川説による初出は甲骨文で、その字形は「墜」。

学研漢和大字典

会意兼形声。也(ヤ)は、うすいからだののびたさそりを描いた象形文字。地は「土+(音符)也」で、平らにのびた土地を示す。弛(シ)(のびる→ゆるむ)・紙(シ)(平らにのびたかみ)・池(平らに広がる水たまり)と同系。類義語に壌。付表では、「意気地」を「いくじ」「心地」を「ここち」と読む。▽「限られた場所」「よりどころとする立場」「荷物・書物などの下のほう」の意味は「チ」と読み、「本来のまま」「中心になるものの基礎」「その土地のもの」「実際」「碁で、石で囲んで自分のものとした空所」の意味は「ジ」と読むことが多い。▽草書体をひらがな「ち」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}つち。広々とのびた大地。《対語》⇒天。「天長地久=天は長く地は久し」〔老子・七〕
  2. {名詞}地面。「墜地=地に墜つ」「掃地=地を掃ふ」「置之地=これを地に置く」〔史記・項羽〕
  3. {名詞}領土や国土。「喪地於秦七百里=地を秦に喪ふこと七百里」〔孟子・梁上〕
  4. {名詞}耕地。畑。《類義語》田。
  5. {名詞}住まいや環境。「心遠地自偏=心遠くして地自ら偏なり」〔陶潜・飲酒〕
  6. {名詞}ある特定の限られた場所。「此地一為別=此の地一たび別れを為せば」〔李白・送友人〕
  7. {名詞}下地(シタジ)。「素地」。
  8. {形容詞}その土地の。いなかの。「地酒」。
  9. {助辞}《俗語》副詞をつくる助辞。「忽地(たちまち)」。
  10. 《日本語での特別な意味》
    ①衣服の材料。きれ。「生地(キジ)」。
    ②じ(ぢ)。文章の中で、会話以外のところ。「地(ジ)の文」「地謡」。
    ③じ(ぢ)。うまれつきの性質・状態であること。「地声」。
    ④人のよってたつところ。身分。境遇。「地位」「門地」。
    ⑤馬を普通の速度で歩かせること。「地乗(ジノリ)」。
    ⑥ち。物事を三段階に分けるときの第二。「天地人」。
    ⑦ち。物の下部。「天地無用」《対語》天。

字通

[形声]声符は也(や)。也に池・馳(ち)の声がある。字の初文は墜に作り、その字は会意。神梯を示す𨸏(ふ)の前に、犬牲などをおき、土(社)神を設けて、陟降する神を祀るところ。神の降りたつことを隊という。墜はのち墜落の意となり、墜に代わる形声の字として地が作られた。〔説文〕十三下に「元气初めて分れ、輕清にして昜(やう)(陽)なるものは天と爲り、重濁して侌(いん)(陰)なるものは地と爲る。萬物の敶列(ちんれつ)する所なり」(段注本)とあって、地と敶(陳)の双声によって訓している。〔経籍䉵詁〕にあげる「底なり。大なり。諟なり。諦なり。施なり。易なり。土なり」などの訓も、音の関係を以て訓するものであるが、本義は神の降り立つところをいう。〔説文〕に籀文(ちゆうぶん)として■(阝+彔+下に土)をあげるが、■(阝+彔+下に土)は■(阝+彔)(たん)声で声が異なり、土部の〔説文新附〕にあげる墜(つい)が、地の初文であろう。金文に墜の初文を隊・㒸に作る。地には異体の字が多く、埊は則天武后の新字十九字の一で山・水・土を合わせたもの、他に〔新撰字鏡〕に上古文二字、古文三字を録し、〔竜龕手鏡〕にも埊を含めて古文三字を録している。

知(チ・8画)

智 金文
「智」(金文)

初出は戦国末期の金文。カールグレン上古音はti̯ĕɡ(平)で、同音は蜘(クモ)・智。智は甲骨文から存在し、上掲金文は春秋末期のもの。春秋時代、「知」は「智」と書かれた。論語における「知」も参照。また「智」については、論語語釈「智」も参照のこと。

現行書体「知」は甲骨文・金文で出自が明らかな文字は見つかっていらず、戦国時代の秦の文字、始皇帝による統一以降の金文大篆から見られる。
論語 知 睡虎地秦墓竹簡 論語 知 金文大篆
(秦系戦国文字・金文大篆)

ただし「智」の甲骨文には、「曰」を欠き「知」と同形になっているものがある。どうやら「知」と「智」は、時に区別無しに混用されたようだ。あるいは方言の違いだろうか。ともあれ甲骨文・金文の段階では異体字と言って良く、同列に扱ってかまわないように思える。

智 国学大師

ただし厳密に考えれば「知」という文字は、論語の当時無かったことになる。だがそのような基本単語が無かったとは考えがたい。だが「音チ訓しる」で『大漢和辞典』を引いても、「知」以外の漢字は「訵」のみで、こちらも甲骨文・金文共に出てこない。

結論として、論語の時代に通用した金文で、「知」は「智」と書かれていた。現伝の論語の多くが「知」と記しているのは、唐石経の系統だからであり、唐石経は政治的理由から、論語の本文に多数の改竄を加えている。「知」もその一つで、唐石経以前は「智」と書かれていた。

なお論語に用例があり、音が近い候補としては、「」が挙げられる。『学研漢和大字典』による音の変遷は以下の通り。

上古周秦 中古隋唐 現代北京語 ピンイン
tɪeg ṭɪě ṭṣī ṭṣī zhī
tiəg tʃɪei ṭṣī ṭṣī zhì

『大漢和辞典』「志」条には語釈として「知る」を載せる。
志 大漢和辞典

ただし「志」も戦国末期までしか遡れず、そうなると「」か、「止心」と二文字で書かれていた可能性もある。現行一文字が原文二文字だったろう例には、広く認められている「諸」→「之於」がある。しかし「止心」が例文として発掘されているわけではない。

tiəg tʃɪei ṭṣī ṭṣī zhǐ

止 標本

話を智=知に戻せば、智について『字通』は以下の通り言う。

字の初形は矢+干+口。矢と干は誓約のときに用いる聖器。口はサイでその誓約を収めた器。曰は中にその誓約があることを示す形。その誓約を明らかにし、これに従うことを智という。知に対して名詞的な語である。説文五下に「知は詞なり」玉篇に「知は識るなり」とあり、智には説文四上に「識る詞なり」とするが、詞の意が明らかでない。また字を白部に属するのも誤りである。墨子に知と通用し、「智る」のように用いている例が多い。

つまり殷代では、「智」は知るの意味でなかったということだ。これと平行して国学大師も、「甲文的智與後來「識詞」的用法無涉。」という。

金文で「知」の字形になっている「智」は亞󱲗鄉宁鼎のもので、時代は殷代末期になる。論語の時代にはそのような字形は忘れられ、もっぱら「智」が通用したようだ。そこに孔子が「知」と言い出し、上掲字通のような意味では無く、単に”知っていることを知るとすること”(論語為政篇17)という、新たな意味をつけ加えたのだろう。

また『定州漢墓竹簡 論語』によると、前漢宣帝期の論語の版本では、「知」を「𣉻」と書いており、「𣉻」は「智」の古書体とされる。

学研漢和大字典

論語 知 訟
会意文字で、「矢+口」。矢のようにまっすぐに物事の本質をいい当てることをあらわす。聖は知の語尾がŋに転じたことばで、もと耳も口も正しく、物事を当てる知恵者のこと。

また、是(シ)・(ゼ)(まっすぐ)と縁が近い。▽智は、名詞のちえをあらわすが、知で代用する。類義語の認は何ものであるかを見さだめること。識は、物事を区別し見わけること。

意味

  1. {動詞}しる。物事の本質を正しく見とおす。ずばりと当てる。感覚や判断・記憶などの働きを含めていう。《類義語》識。「知性」「知我者其天乎=我を知る者はそれ天か」〔論語・憲問〕
  2. {動詞}しらせる(しらす)。相手がしるようにする。「通知」。
  3. (チナリ){形容詞・名詞}物事を正しく見ぬく力がある。また、その力をそなえた人。「知者」「上知」「焉得知=いづくんぞ知なるを得んや」〔論語・里仁〕
  4. {形容詞・名詞}交際して相手をよくしっている。その値うちをよくしっている。しりあい。「旧知」「知遇」。
  5. {動詞・名詞}州・県の役所の仕事をよく心得ている。また、そのような人。主任や地方の長官。「知事」「知県(県長)」。
  6. {名詞}物事の本質をみぬく能力。ちえ。▽去声に読む。《同義語》智。「知恵(=智慧)」「好学近乎知=学を好むは知に近し」〔中庸〕
  7. {名詞}陽明学派で、良知(人間固有の良心)のこと。「知行合一」。

字通

論語 知 篆書
(篆書)

矢+口。矢には矢誓の意があり、誓約のときに用いた。口は祝詞を収める器の𠙵さい。神かけて誓うことで、これによって相互の意思を確認する意である。〔説文〕五下に「詞なり」、また智字条四上に「識る詞なり」とあり、〔段注〕に知・智は同訓であるべきという。智は知に更にその誓書を加えた字である。〔玉篇〕に「識るなり、覺るなり」と訓するのは、動詞とする意であろう。〔左伝、襄二十六年〕「子產、其れ將に政を知らんとす」は司る意。知事、知県のように用いる。

訓義

しる、あきらかにしる。さとる、みわける、わかる。つかさどる、おさめる、しらせる、したしむ。ききしる、おぼえる。ちえ、ちしき。しりあい。

大漢和辞典

会意。心内に認識すれば言葉として口に発すること矢の如く速やかなる故に、矢と口とを合わせて、しる意を表す。

字解

しる。しらす。しらせ。しること。しる所の多いこと。智恵。しりあい。まじわり。もてなし。欲。たぐい、たぐう。病いえる。知事。諡。姓。

大漢和辞典

リンク先を参照

治(チ・8画)

治 秦系戦国文字
(秦系戦国文字)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdhi̯əɡ(平/去)で、同音の「持」に”まもる・たすける・ささえる・たもつ”などの語釈があり、音通する。去声で韻目「至」字母「澄」の音は不明。
持 大漢和辞典

『大漢和辞典』で”おさめる”意を持つ漢字は以下の通り。
治 大漢和辞典

うち日本語音で音通する乿・芖(チ・ジ)は甲骨文・金文が存在せず、𠩺(キ・リ・チ)はカールグレン上古音不明。知のカールグレン上古音はti̯ĕɡ。雉のカ音はdhər。是(シ・ジ/テイ・ダイ/ゼ)のカ音はȡi̯ĕɡ。

結果、治dʰi̯əɡの音通候補として、第一に持、第二に是ȡi̯ĕɡ、第三に知ti̯ĕɡが挙げられる。ただし、ここで是・知を”おさめる”の意とすると、論語の他の箇所との整合が取れない。是の原義は”さじ”であり、”おさめる”と解釈するに当たって、『大漢和字典』は『国語』の楚語を出典としている。つまり中原の魯国でその意があったとは言いかねる。

次に知を”知る”の意味で用いたのは孔子の発明であり、儒家以外の世間では”誓う”の意だった。やはり、論語の時代には「持」だったと考えるべきではなかろうか。

学研漢和大字典

会意兼形声。古人は曲がった棒を耕作のすきとして用いた。以の原字はその曲がった棒の形で、工具を用いて人工を加えること。台は「口+(音符)塊(イ)(=以)」の会意兼形声文字で、ものをいったり、工作をするなど作為を加えること。治は「水+(音符)台」で、河川に人工を加えて流れを調整すること。塊・以・台・治などはすべて人工で調整する意を含む。

飴(イ)(麦や米に加工したあめ)と同系。類義語の修は、すらりとよい形にととのえること。御(=馭)は、押さえていうことをきかせること。斂(レン)は、引きしめること。理は、すじを通してととのえること。異字同訓におさまる・おさめる⇒収 なおす・なおる⇒直。「なおる」「なおす」は「直る」「直す」とも書く。

語義

  1. {動詞}おさめる(をさむ)。河川に人工を加えて流れをうまく調節する「治水=水を治む」「治河=河を治む」。
  2. {動詞}おさめる(をさむ)。人工を加えてほどよい状態にする。うまく調整する。「治軍=軍を治む」「治生=生を治む」「治産=産を治む」。
  3. {動詞}おさめる(をさむ)。政事を行って世の中をうまくおさめる。「政治」「先治其国=先づ其の国を治む」〔大学〕
  4. {動詞}おさめる(をさむ)。刑をきめる。罰をきめて罪人を取り締まる。「治罪=罪を治む」。
  5. {動詞}おさめる(をさむ)。なおす(なほす)。なおる(なほる)。手を加えて病気をなおす。また、なおる。「治病(チビョウ)」。
  6. {名詞}おさまった状態。《対語》⇒乱。「帰於治=治に帰す」〔荀子・性悪〕
  7. {動詞}おさまる(をさまる)。世の秩序が正しくおさまる。「重罰不用而民自治=重罰を用ゐずして民自ら治まる」〔韓非子・五蠹〕
  8. {名詞}政治をする役所のある都市。「県治(ケンチ)(県の政府のある都市)」。

字通

[形声]声符は台(たい)。台に笞(ち)の声がある。台は耜(し)(すき)の形である厶(し)(㠯)に、祝禱の器である𠙵(さい)をそえて祓い清める意。〔説文〕十一上に川の名とするが、本義は治水。すべて条理に従って、ことを治めることをいう。

持(チ・9画)

論語 持 金文
邾公牼鐘・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はdʰi̯əɡ(平)。「ジ」は呉音。

学研漢和大字典

会意兼形声。寺は「寸(て)+(音符)之(シ)」の会意兼形声文字で、手の中にじっと止めること。持は「手+(音符)寺」で、手にじっと止めてもつこと。止・待(タイ)(じっとまつ)・峙(ジ)(じっと立つ)と同系。類義語に取。

語義

  1. {動詞}もつ。じっと手にとめる。《類義語》執(シュウ)・(シツ)・操。「所持」「右手持匕首=右手に匕首を持つ」〔史記・荊軻〕
  2. (ジス)(ヂス){動詞}たもつ。じっと守りささえる。「保持」「主持(責任をもってその仕事をささえる)」「自持=自ら持す」「十年持漢節=十年漢の節を持す」〔李白・蘇武論〕
  3. (ジス)(ヂス){動詞}ささえもちこたえる。「扶持(ささえる)」「持危=危ふきを持す」「危而不持=危ふくして持せず」〔論語・季氏〕
  4. 《日本語での特別な意味》
    ①もち。受けもつこと。負担すること。「費用は各人持ち」。
    ②もち。試合などで、勝負が決まらない状態。あいこ。「持ち合い」「持碁(ジゴ)・(モチゴ)」。
    ③もてる。もてはやされる。人気がある。

字通

[形声]声符は寺(じ)。寺に、ものを保有し、またその状態を持続する意があり、持の初文。〔説文〕十二上に「握るなり」とあり、握持することをいう。握字条に「搤持(やくぢ)するなり」とあって、手中に堅く持つことをいう。

大漢和辞典

→リンク先を参照。

致(チ・10画)

論語 致 金文 論語 至 解字
伯到壺・西周晚期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はti̯ĕd(去)。『大漢和辞典』の第一義は”おくりとどける”。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、至は、矢がー線までとどくさまをあらわす会意文字。致は「夂(あし)+〔音符〕至(いたる)」で、足で歩いて目標までとどくこと。自動詞の「至」に対して、他動詞として用いる。類義語の効(コウ)(いたす)は、力をしぼり出すこと。

意味

  1. {動詞}いたす。目ざす所までとどける。護送する。「致書=書を致す」「又不致膰爼於大夫=又膰爼を大夫に致さず」〔史記・孔子〕
  2. {動詞}いたす。こちらまで来させる。そこまでいたらせる。「招致」「致賢=賢を致す」「致之死地=これを死地に致す」。
  3. {動詞}いたす。ぎりぎりの線まで力を尽くす。「致力」「事君能致其身=君に事へて能く其の身を致す」〔論語・学而〕
  4. {動詞}いたす。役を返上して、役人をやめる。▽役目を返上して、お上に送りとどけるの意から。「致仕(チシ)(役人をやめる)」「致事=事を致す」。
  5. {動詞}いたす。ある結果をまねきよせる。「致禍=禍を致す」「致病=病を致す」。
  6. {名詞}気持ちのいたるところ。おもむき。「意致」「情致(気持ち)」「所以興懐、其致一也=懐を興すゆゑんは、其の致一なり」〔王羲之・蘭亭集序〕
  7. {名詞}いきつくところの意より、転じて、物事の方向と結果。「一致」「大致(物事のおよその方向)」。
  8. 《日本語での特別な意味》いたす。「する」の謙譲語。

字通

[会意]字の初形は■(至+人)に作り、至+人。〔説文〕五下に「送り詣(いた)るなり」とし、会意とする。至は矢の到達点。そこに人が到る意。金文の〔舀鼎(こつてい)〕に「用(もつ)て𢆶(こ)の人を■(至+人)(いた)す」とあり、致送の意に用いる。ただ到るのではなく、そこに赴き行為する意を含む字であろう。〔左伝、文六年〕「之れを竟(境)に送致す」とあるのが字の古義。転じて召致の意に用いる。致仕・致政も、職を辞し官を送り返す意。篆文の字形は文・攴(ぼく)でなく、夊(すい)に従う形で、夊は歩して赴く意。占地のために矢を放って、その到達点に赴き、そこでことをはじめる意であろう。その境位に達することであるから、心の到り達するところを雅致・趣致のようにいう。

恥(チ・10画)

論語 恥 篆書
(篆書)

カールグレン上古音はtʰi̯əɡ(上)。同音に「笞」「祉」(さいわい)「眙」(みつめる・とどまる)「佁」(おろかなさま・とどまる・いたる)があるが、”はじ”の語釈は『大漢和辞典』にない。部品の「耳」に”はじ(る)”の語釈は『大漢和辞典』に無い。藤堂上古音はt’ɪəg。

初出は楚系戦国文字。同訓部品は存在しない。同訓同音の「誀」は甲骨文・金文で確認できない。ただし”はじ”という概念や”はずかしめる”という動詞が孔子在世当時に無かったとは考えづらく、おそらく当時は「羞」(カ音sのみ/藤堂上古音siog)と書かれた。音が通じないが、甲骨文から確認できる。
羞 金文
「羞」(金文)

『定州漢墓竹簡 論語』では、論語為政篇3への注釈として次のように言う。

佴、今本作「恥」、「佴」即「恥」、簡帛多見、『説文』之「佴」則與「恥」音義不同。

「佴」の初出は後漢の『説文解字』で、カールグレン上古音はȵi̯əɡ(去)、「恥」tʰi̯əɡ(上)とは異なる。去声で代-泥の音は不明。『学研漢和大字典』『字通』に項目無し。詳細は論語語釈「佴」を参照。
佴 大漢和辞典

学研漢和大字典

耳は、柔らかいみみ。恥は、「心+音符耳」の会意兼形声文字で、心が柔らかくいじけること。▽シュウは、はじて心が縮まること。は、はずかしくて心にしこりがあること。「ザン愧」と熟して用いる。ジョクも柔らかい意を含み、はじて気おくれすること。サクは、どきっとして顔色が変わること(論語憲問篇21語釈参照)。

意味

  1. {動詞}はじる(はづ)。はずかしめる(はづかしむ)。きまりが悪く思う。ばつが悪くて心がいじける。きまり悪い気持ちにさせる。《類義語》羞(シュウ)・愧(キ)。「羞恥」「寡人恥之=寡人これを恥づ」〔孟子・梁上〕。「恥匹夫=匹夫を恥づかしむ」〔春秋左氏伝・昭五〕
  2. {名詞}はじ(はぢ)。きまりの悪い気持ち。はずかしく思うこと。「無恥」「忍恥=恥を忍ぶ」「会稽(カイケイ)之恥(越王勾践(コウセン)が呉王夫差(フサ)に会稽山でやぶれた恥)」「民免而無恥=民免かれて恥無し」〔論語・為政〕

字通

耳+心。〔説文〕十下に「づるなり」とし、声とするが、会意の字。ものに恥じる心は、まず耳にあらわれるものである。俗に耻に作るのは誤形。

訓義

はじ、はじる、やましい。はずかしめる。

遲/遅(チ・12画)

論語 遅 金文
(金文)「仲𠭯父簋」西周中期

孔子の弟子、樊遅の名として登場。初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯ər(平)、同音に墀(きざはし)、坻(中洲、渚)、蚳(蟻の卵、サソリ)、雉、薙、稚。

同訓(おくれる)近音(チ)の「軧」は金文以前に遡れない。しかししんにょうを取り除いた部品である、動物のサイ「犀」(音シ、カールグレン上古音siər)は西周時代の金文にあるから、樊遅の名は「遅れ」ではなく勇猛な「サイ」の可能性がある。
犀 金文
「犀」(金文)

学研漢和大字典

会意。犀は、さい(動物の一種)のこと。歩みのおそい動物の代表とされる。遲は「辶+犀」。稚(のびのおそい子ども)・窒(いきづまる)と同系。類義語に晩。異字同訓におくれる:遅れる「完成が遅れる。列車が遅れる。会合に遅れる」 後れる「気後れする。人に後れを取る。後れ毛」。

意味

  1. {形容詞}おそい(おそし)。動き・理解がのろい。もたもたしている。「遅鈍」「非為織作遅=織作の遅きが為に非ず」〔古楽府・焦仲卿妻〕
  2. {動詞}おくれる(おくる)。きまった時より過ぎている。おそくなる。「遅刻」。
  3. {動詞}まつ。じっと気長にまつ。また、まち望む。▽去声に読む。「遅明(夜明けをまつころ、夜明け)」。
  4. {前置詞・副詞}まって(まちて)。ようやく(やうやく)。まだかまだかとまつうちに。▽去声に読む。「遅帝還趙王死=帝の還るを遅ちて趙王死す」〔漢書・外戚〕

字通

[形声]旧字は遲に作り、犀(さい)声。犀に墀・穉(ち)の声がある。金文の字形は■(辶+尸+辛)に作り、■(尸+辛)(い)がその声。〔説文〕二下の重文にも、その字形のものが残されている。〔説文〕にまた「徐行するなり」と訓し、〔詩、邶風、谷風〕「道を行くこと遲遲たり」の句を引く。金文の〔嗣子壺(ししこ)〕に「■(尸+辛)■(尸+辛)(遅〻)として康淑」の句があり、徳が充ちて舒緩なるさまをいう語であろう。

𣉻/智(チ・12画)

論語 智 金文
『字通』所載金文

初出は甲骨文。カールグレン上古音はti̯ĕɡ(去)。論語の時代は「知」と区別されていない。詳細については論語語釈「知」も参照のこと。

学研漢和大字典

会意兼形声。知とは「矢+口」の会意文字で、矢のようにずばりとあてていうこと。智は「曰(いう)+(音符)知」で、知と同系。ずばりといいあてて、さといこと。▽適(まっすぐ)はその入声(ニッショウ)(つまり音)のことばであり、聖(ずばりと見通す)は、その語尾が鼻音となったことば。類義語に賢。「知」に書き換えることがある。「知・英知・無知・理知・機知・知能・知恵・知謀」▽草書体をひらがな「ち」として使うこともある。

語義

  1. (チナリ)・(チアリ){形容詞}さとい(さとし)。物事をずばりと会得したり、あてたりできる。知恵や術にすぐれている。《対語》⇒愚・闇(アン)。《類義語》知・賢。「智者」「愚智」。
  2. {名詞}物事をとらえて、理解する働き。知恵。《同義語》知。「智勇兼備(チユウケンビ)」「雖有智慧、不如乗勢=智慧有りと雖も、勢ひに乗ずるに如かず」〔孟子・公上〕。「絶聖棄智=聖を絶ち智を棄つ」〔老子・一九〕
  3. (チトス){動詞}賢いと思う。「智其子=其の子を智とす」〔韓非子・説難〕

字通

[会意]字の初形は矢(し)+干(かん)+口。矢と干(盾)とは誓約のときに用いる聖器。口は𠙵(さい)その誓約を収めた器。曰(えつ)は中にその誓約があることを示す形。その誓約を明らかにし、これに従うことを智という。知に対して名詞的な語である。〔説文〕五下に「知は詞なり」、〔玉篇〕に「知は識(し)るなり」とあり、智には〔説文〕四上に「識る詞なり」とするが、詞の意が明らかでない。また字を白部に属するのも誤りである。〔墨子〕に知と通用し、「智る」のように用いている例が多い。

絺(チ・13画)

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明(平)。藤堂上古音はt’ɪer。

学研漢和大字典

会意兼形声。「糸+(音符)希(目が細かい布)」。

語義

  1. {名詞}葛(クズ)の繊維で織った、目の細かい布。またそれでつくった着物。▽目のあらいものを綌(ケキ)という。

字通

[形声]声符は希(き)。希に郗(ち)の声がある。〔説文〕に希字を収めず、楊樹達の〔小学述林〕に希を絺の初文とする。爻(こう)形の部分がその織目にあたる。絺は〔説文〕十三上に「細葛なり」とあり、その布目の粗いものを綌(げき)という。絺綌は多く祭服に用いた。また、夏のふだん着。

雉(チ・13画)

雉 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯ər(上)。金文は未発掘。

学研漢和大字典

会意兼形声。「隹+(音符)矢(シ)・(チ)」で、真っすぐ矢のように飛ぶ鳥の意。転じて、真っすぐな直線をはかる単位に用いる。

語義

  1. {名詞}きじ。野鳥の名。形は鶏に似て、尾が長い。「山雉(サンチ)」。
  2. {単位詞}築地や城壁の大きさをあらわすことば。一雉は、高さ一丈、長さ三丈のこと。
  3. {名詞}かき。土をつき固めた城壁。▽幾雉もの壁をつき固めることから。「雉門(チモン)」。
  4. {名詞}直線状のひもや棒。

字通

[形声]声符は矢(し)。矢に彘(てい)の声がある。〔説文〕四上に「雉に十四種有り」として各地の名をあげ、中に「東方を甾(し)と曰ふ。北方を稀と曰ふ」など、東西南北の雉の異名をあげている。卜辞にみえる四方風神が、すべて鳥形とされる神話と関係があり、鷫(しゆく)字条にもその類の記載がある。〔周礼、秋官、雉氏〕は草を殺すことを掌る。おそらく薙(ち)の意であろう。雉を陳列の意に用いるのは矢陳、また城郭の長さを雉を単位として数えるのは、堵・墀(ち)と同系の語として用いるものであろう。〔説文〕に収める重文の字形は、弟に従うものとされているが、卜文に矢に繳(いぐるみ)を加えた形のものがあり、その譌形であろうかと思われる。

※例によって白川のヲタなウンチクには漢字探しや外字作りでうんざりするが、「中国哲学書電子化計画」のテキストでは全然違う簡単な字になっている。

雉:有十四種:盧諸雉,喬雉,鳪雉,鷩雉,秩秩海雉,翟山雉,翰雉,卓雉,伊洛而南曰翬,江淮而南曰搖,南方曰𢏚,東方曰钕,北方曰稀,西方曰蹲。从隹矢聲。
鷫:鷫鷞也。五方神鳥也。東方發明,南方焦明,西方鷫鷞,北方幽昌,中央鳳皇。从鳥肅聲。

畜(チク・10画)

論語 畜 金文
秦公簋・春秋中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtʰǐu(去)。

学研漢和大字典

会意。畜は「玄(黒い)+田」で、栄養分をたくわえて作物をやしない育てる黒い土のこと。キク・チクの両音があり、キクの場合は好hog→hau(たいせつにかばう)・胸(キュウ)hiog→hiəu(かばって飼い育てる動物)などと同系。チクの場合は守thiog・ʃɪəu(かこって手もとにおく)・収(かこって手もとにおく)と同系。とくに、畜・蓄(たくわえておく)の意味は、非常に近い。似た字(畜・蓄)の覚え方「食ってしまって草なしの家畜、草の下にたくわえる貯蓄」。

語義

チク
  1. {名詞}かこって飼う動物。▽馬・牛・羊・鶏・犬・豚を六畜(リクキュウ)といい、殷(イン)の王、王亥(オウガイ)がはじめて牛と馬を飼いならしたという伝説がある。《同義語》⇒蓄。「畜生」「畜犬」。
  2. {動詞}牛・馬・犬などを飼う。「牧畜」。
  3. {動詞}たくわえる(たくはふ)。手もとにかこいこんでとっておく。《同義語》⇒蓄。「畜巨産=巨産を畜ふ」〔謝小娥伝〕
キク
  1. {動詞}やしなう(やしなふ)。たいせつにしてかばう。また、かばってやしなう。▽キュウ(キウ)(去声の宥)とも読む。「畜養」「俯足以畜妻子=俯して以て妻子を畜ふに足る」〔孟子・梁上〕

字通

[会意]玄(げん)+田。玄は糸たばの形。田はその糸たばを染める鍋(なべ)の形。その染め汁に糸を久しく漬けて、染色する。久しく漬けて色を深くすることを、停畜という。〔説文〕十三下に「田の畜なり。淮南子に曰く、玄田を畜と爲す」とする。〔段注〕に「淮南王說」であろうというが、玄田に別つだけでは、字義を説きがたい。金文の字形は、明らかに糸を染めるために、鍋に停畜する形である。〔周礼、考工記、鍾氏〕は染色のことを掌る。その字は緟(しよう)に作るべく、金文の字形は𤕌(しよう)に作る。左偏の𤔔(らん)は架糸の象。旁の東は橐(たく)(ふくろ)の初文。中に糸たばを入れる。田は染め汁を入れた鍋の形。〔考工記、鍾氏〕に「三入を纁(くん)と爲し、五入を緅(しう)と爲し、七入を緇(し)と爲す」とあって、次第に色を深める。金文に𤕌を緟続(しようぞく)の意に用い、〔説文〕十三上に「緟は增益するなり」とするが、もと色についていう語であった。畜に三音あり、チクは停畜積聚、キクは飼養、キュウは獣畜の意である。

紳 金文
※「𤕌」は紳士の「紳」の字の異体字でもある。

中(チュウ・4画)

論語 中 金文
中鐃・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のt(平/去)のみ。藤堂上古音はtɪoŋ。

学研漢和大字典

象形。もとの字は、旗ざおをわくのまんなかにつき通した姿を描いたもので、まんなかの意をあらわす。また、まんなかを突き通すの意をも含む。仲(チュウ)・衷(チュウ)の音符となる。通(トウ)・(ツウ)・筒(トウ)と同系。類義語に衝。異字同訓に仲「仲がいい。仲を取り持つ。仲働き」。

語義

  1. {名詞}なか。ものの内側。《対語》⇒外。「中外」「中身」。
  2. {名詞}なか。もののまんなか。また、程度のなかほど。「中央」「中庸」。
  3. {名詞・形容詞}進行している物事のなかば。なかばであるさま。「中途」「中旬」。
  4. {名詞}在野(ザイヤ)に対する宮中を略していうことば。
  5. {名詞}なか。うち。ある地区や時期の範囲のうち。《類義語》内。「蜀中(ショクチュウ)(四川(シセン)省のうち)」「寒中」。
  6. {名詞・形容詞}子や兄弟で、上下の間にいる。また、その人。▽仲に当てた用法。「中兄」。
  7. {名詞}心のなか。▽衷(チュウ)に当てた用法。「中情怯耳=中情は怯なる耳」〔史記・淮陰侯〕
  8. (チュウス){動詞}まんなかにくる。▽去声に読む。「中天=天に中す」。
  9. {動詞}あたる。ずばりとかなめを突き通す。▽去声に読む。「命中」「中風(チュウフウ)・(チュウブ)(風などの外界の刺激にまともにあてられた病気)」「為流矢所中=流矢の中たる所と為る」〔史記・高祖〕
  10. 《日本語での特別な意味》「中学校」の略。「区立三中」「中卒」。

字通

[象形]旗竿の形。卜文・金文には、上下に吹き流しを加えたものがあり、中軍の将を示す旗の形。〔説文〕一上に「而なり」、〔繫伝〕に「和なり」とするが、宋本に「内なり」とするものがあり、而は内の誤字であろう。また字形について「口と丨(こん)とに從ふ。上下通ずるなり」とするが、卜辞では中を中軍の意に用いる。「中に立(のぞ)まんか」とは、中軍の将たる元帥として、その軍に立(のぞ)む意であろう。元帥とする者を謀る意であろうと思われる。すべて中央にあって中心となり、内外上下を統べ、中正妥当をうることをいう。〔説文〕に収める字形はすべて𠙵(さい)に従うが、それは史・事の従うところで、旗竿の象ではない。旗竿には偃游(えんゆう)(吹き流し)のほかに、旗印をつけた。

仲(チュウ・6画)

論語 仲 金文
散氏盤・西周晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰ(去)。藤堂上古音はdɪoŋ。

学研漢和大字典

会意兼形声。「人+(音符)中(まん中)」。異字同訓になか⇒中。付表では、「仲人」を「なこうど」と読む。

語義

  1. {名詞}兄弟の序列で、中にあたる人。▽兄弟を年齢の上の者から順に、伯・仲・叔・季という。また、孟・仲・季ともいう。「伯仲」。
  2. {名詞・形容詞}春夏秋冬のそれぞれの期間を三分したとき、孟・季に対して、まん中の期間のこと。また、まん中であるさま。▽たとえば孟春・仲春・季春という。《同義語》⇒中。「仲秋」。
  3. {名詞}なかだち。双方の間にはいって事をとりついだりする人。「仲人」。
  4. 《日本語での特別な意味》なか。仲間どうしの間がら。

字通

[形声]声符は中(ちゆう)。〔説文〕八上に「中なり」とあり、仲子の意。兄弟の順序は、殷では大中小、周では伯仲叔季という。もと中に作り、卜辞では中軍の中と区別して、中軍の中には上下に偃遊(えんゆう)(吹き流し)の形を加える。篆文の字が𠙵(さい)に従うのは誤りである。

忠(チュウ・8画)

論語 忠 金文
中山王□壺・戦国末期

初出は戦国末期の金文。この漢字=言葉は、戦国諸国の潰し合いが熾烈になった、戦国末期にならないと現れない。軍国美談が必要とされ、忠義を強調して嫌がる民を戦場に送りつけねばならなくなって、発明された概念である。

孔子の生前は「中」と言い、”まごころ”の意だった。それに対して「忠」は”まじめ”。前者は、誰が言おうと自分がよいと思う事を指し、後者は、自分がどう思おうと、置かれた環境がよいとすることに従う事を言う。反ナチレジスタンスと親衛隊の違いと言ってよかろうか。

カールグレン上古音はtとしか記録されていない。藤堂上古音はtɪoŋ。無理にカタカナに直すと「テェオンヌ」になろうか。「中」と同じだが、発明者の意図としては「心にあたる」=良心にやましいことが無いかよく反省しろ、ということだろう。

『字通』は「心を尽くすことをいう。論語・左伝に多くみえるが、みなその義。…忠君の意とするのは、後起の義である」という。論語・左伝の忠ばなしはでっち上げか、あるいは別の言い方をしていたのを軍国主義者が書き換えたのだ。

訳者の脳はアサヒ製でもチュコク製でもないので、むやみにぐんくつの足音が聞こえる気遣いは無いが、人の命をバクチにしたがる軍国主義者はやっぱり嫌いだ。

孟子 お笑い芸人
戦国時代の世間師・孟子は、8箇所で「忠」を使っているが、そろそろこの文字が現れてもよさそうな時代を生きた。ただし「チューチュー」とネズミのように繰り返した後世の中国や江戸の儒者のようには使っておらず、あくまでも”自分を偽らないこと”でしかない。従って「忠」の字を使ったかもあやしく、「中心」と言った可能性がある。

『広韻』で声調・韻目・字母が共通する「衷」には甲骨文・金文が存在しない。「中」には”こころ・ただしい・なほい”の語釈が『大漢和辞典』にあり、論語時代の置換字の候補。カールグレン上古音は子音のtのみ、藤堂上古音はtɪoŋ。忠tɪoŋと同一。

学研漢和大字典

忠 字解
会意兼形声文字で、中とは、なか・中身などの意。忠は「心+〔音符〕中」で、中身が充実して欠けめのない心のこと。充実の充(いっぱい)と同系のことば。

意味

  1. {名詞}まごころ。偽りのない誠意。すみずみまで欠けめのないまごころ。「尽忠=忠を尽くす」「修其孝悌忠信=其の孝悌忠信を修む」〔孟子・梁上〕
  2. (チュウナリ){形容詞}まじめである。また、誠意にあふれている。「忠告」「為人謀而不忠乎=人の為に謀りて忠ならざるか」〔論語・学而〕
  3. (チュウナリ){形容詞・名詞}君主に対して誠実な。また、君主に対して誠意を尽くすこと。「忠誠」「報先帝而忠陛下=先帝に報じて陛下に忠なり」〔諸葛亮・出師表〕
  4. 《日本語での特別な意味》じょう。四等官で、弾正台(ダンジョウダイ)の第三位。

字通

声符は中。〔説文〕十下に「つつしむなり」とあり、心を尽くすことをいう。〔論語〕〔左伝〕に多くみえるが、みなその義。〔逸周書、諡法解〕に「身を危うくして上に奉ずるを忠と曰う」と忠君の意とするのは、後起の義である。

訓義

1)まごころ、まこと、まことをつくす。2)ただしい、つつしむ、かなう。3)おもいやり、いつくしむ、こころをつくす、てあつい。4)君につかえる、君につくす。

大漢和辞典

忠 大漢和辞典
忠 大漢和辞典

晝/昼(チュウ・9画)

晝 昼 金文
㝬簋・西周末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はȶ(去)。藤堂上古音はtɪog。

学研漢和大字典

会意。晝は「筆を手に持つ姿+日を四角にくぎった形」。日の照る時間を、ここからここまでと筆でくぎって書くさまを示す。一日のうち、主となり中心となる時のこと。夜(腋(ワキ)にある時間)に対することば。株(中心となる木の幹)・朱(木の中心の赤い木質部)・主(中心となって動かぬ者)・柱(じっとたつはしら)などと同系。旧字「晝」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}ひる。ひるま。もと、一日の主となる時間の意。《対語》⇒夜。《類義語》日。「宰予昼寝=宰予昼寝ぬ」〔論語・公冶長〕。「俾昼作夜=昼をして夜と作さ俾む」〔詩経・大雅・蕩〕
  2. {名詞}ひる。正午。《類義語》午。
  3. 《日本語での特別な意味》ひる。昼飯。「お昼を済ます」。

字通

[会意]旧字は晝に作り、聿(いつ)+日。日の周囲に小点を以て暈(うん)(かげり)を加える。〔説文〕三下に「日の出入して、夜と界を爲す。畫の省に從ひ、日に從ふ」とするが、畫(画)を以て晝夜の分界とし、これを劃分するというのは理に反する。時を示す語としては卜文・金文にみえず、籀文・篆文の字形も確かなものとしがたい。もし字の上部が𦘒(しよう)に従うものならば、𦘒は隶(たい)と同じく、呪してものを祓う意象の字であるから、日光の暈を祓う法を示すものであるかもしれない。〔周礼、春官、眡祲(ししん)〕にいう十輝(き)の一である瞢(ぼう)などにあたるものであろう。〔説文〕は晝を畫の部に属するが、畫は方形の楯に雕飾を施した形で、晝と声義の関係を求めがたい。

誅(チュウ・13画)

誅 甲骨文
(甲骨文)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はti̯u(平)。金文は戦国末期の「中山王壺」まで見つかっていない。

学研漢和大字典

会意兼形声。「言+(音符)朱(ばっさりと木を切る)」で、相手の罪を言明してばっさりと切りころすこと。殊(胴切り)と同系。

語義

  1. (チュウス){動詞・名詞}ころす。罪をせめてころす。死刑。「罪不容誅=罪誅を容されず」〔漢書・王莽〕
  2. (チュウス){動詞・名詞}ほろぼす。罪のある者に関係している者をすべてころす。一族を皆ごろしにする。皆ごろしの刑罰。「誅伐(チュウバツ)」。
  3. (チュウス){動詞}せめる(せむ)。責任や罪を数えたててせめる。とがめる。「筆誅(ヒッチュウ)」「於予与何誅=予においてか何ぞ誅めん」〔論語・公冶長〕
  4. (チュウス){動詞}草木を切り払い除く。「誅茅=茅を誅す」〔捨信・哀江南賦〕

字通

[形声]声符は朱(しゆ)。朱に■(口+朱)(ちゆう)の声がある。〔説文〕三上に「討つなり」とあり、誅滅することをいう。殊にも殊殺の意があり、声義が通ずる。誅責の意のほかに、苛斂誅求のようにもいう。

黜(チュツ・17画)

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtʰi̯wət(入)。同音に怵”おそれる”。

学研漢和大字典

形声。「黑+(音符)出」で、並んだ人・物の中の特定のものを外または、下に押し出す。ひっこめて見えなくすること。徹(つき抜ける、その場からとりはらう)・退(ひっこむ)・出(おしだす)・突(つき出す)と同系。

語義

  1. {動詞}しりぞける(しりぞく)。官職・地位からはずして、おし出す。罷免する。追い出す。《類義語》退。「黜遠(チュツエン)」「柳下恵、為士師三黜=柳下恵、士師と為り三たび黜けらる」〔論語・微子〕
  2. (チュツス){動詞}へらす。あとへさげる。数をへらす。目だたなくする。「将禦諸侯之師而黜其車=まさに諸侯の師を禦がんとして其の車を黜す」〔春秋左氏伝・襄一〇〕

字通

[形声]声符は出(しゆつ)。出に絀(ちゆつ)の声がある。〔説文〕十上に「貶(おと)し下(くだ)すなり」とあり、〔書、舜典〕に「幽明を黜陟(ちゆつちよく)す」とみえる。人材を進退することを黜陟という。

弔(チョウ・4画)

弔 金文
曶鼎・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtioɡ(去)。

学研漢和大字典

象形。棒につるが巻きついてたれたさまを描いたもので、上から下にたれる意を含む。また、天の神が下界に恩恵をたれることをいい、転じて他人に同情をたれることも弔という。鳥(チョウ)(長い尾をたれた尾長鳥)・釣(チョウ)(釣り糸をたれる)などと同系。喪(ソウ)は、人が死去してあの世に別れ去ることから、転じて喪礼の意となった。

語義

  1. (チョウス)(テウス){動詞}とむらう(とむらふ)。死んだ人に対する悔やみを述べる。「弔問」「弔死問孤=死を弔ひ孤を問ふ」〔史記・燕召公〕
  2. (チョウス)(テウス){動詞}他人の不幸に対し、同情のことばを述べる。「堕而折其髀、人皆弔之=堕ちて其の髀を折る、人皆これを弔す」〔淮南子・人間〕
  3. 「不弔(フチョウ)」とは、天が同情をたれないこと。「不弔昊天=不弔なる昊天」〔詩経・小雅・節南山〕
  4. {単位詞}穴あき銅銭千文をひもに通して一つにしたものを数えるときのことば。《同義語》⇒吊。
  5. {動詞}《俗語》つる。ぶらさげる。《同義語》⇒吊。

字通

[象形]繳(しやく)(いぐるみ)の形。金文の字は従来叔(しゆく)と釈され、叔善の意に用いるが、それは仮借義。〔説文〕八上に「終りを問ふなり」と弔問の意とし、字形を「人と弓とに從ふ」とする。また「古の葬る者、厚く之れに衣(き)するに薪を以てす。故に人ごとに弓を持ち、會して禽を敺(う)つなり」(段注本)とあり、〔小徐本〕にはなお「弓は蓋(けだ)し往復弔問するの義なり」と弓に従う義を説く。古くは屍を草野に棄て、その風化を待って骨を拾うので、弓を携えてゆき弔うと解するものであるが、繳の象形字である弔を、叔の音に仮借したもので、古い文献にみえる「不弔」は「不淑」の意。〔書、多士〕〔詩、小雅、節南山〕の「旻天に弔(とむら)はれず」の「不弔」は「不淑」、「昊天に淑(よ)しとせられず」の意である。「とむらう」はおそらく𨑩(いたる)の用義で、〔詩、小雅、天保〕「神の弔(いた)る」の義より転じたものであろうが、のちおおむねその義に用いる。𨑩は〔説文〕二下に「至るなり」と訓する。

長(チョウ・8画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯aŋ(平)・ti̯aŋ(上)・dʰi̯aŋ(去)。

学研漢和大字典

象形。老人がながい頭髪をなびかせてたつさまを描いたもの。帳(チョウ)(ながい布)・常(ジョウ)(ながい)・裳(ショウ)(ながいスカート)・丈(ジョウ)(十尺、ながいながさ)などと同系。類義語の永(エイ)は、いつまでも断えず続くこと。異字同訓に永い「ついに永い眠りに就く。永の別れ。末永く契る」。「暢」の代用字としても使う。「伸長」。

語義

チョウ(平/去)
  1. {形容詞}ながい(ながし)。端から端までの隔たりが大きい。《対語》⇒短。「長短(ながさ)」「絶長補短=長を絶ち短を補ふ」〔孟子・滕上〕
  2. {形容詞}ながい(ながし)。時間の隔たりが大きい。また、いつまでも。《対語》⇒短。《類義語》永・常。「長寿」「天長地久=天は長く地は久し」〔老子・七〕。「従此祗応長入夢=此より祗だまさに長く夢に入るべし」〔王安石・杭州望湖楼回〕
  3. {名詞}たけ。ながさ。根もとからてっぺんまでの隔たり。また、身のたけ。「身長」「長一身有半=長さ一身有半」〔論語・郷党〕
  4. {形容詞・名詞}すぐれている。すぐれた点。《対語》短。「長所」「一長可取=一長も取るべし」。
チョウ(平/去)
  1. {名詞}おさ(をさ)。かしら。「首長」「家長」。
  2. {名詞・形容詞}年長の人。また、年がたけている。年かさの。《対語》幼。「長老」「長幼有序=長幼序有り」〔孟子・滕上〕
  3. {形容詞}親族のうち、年上であること。「長子」「長孫」。
  4. む(チョウトス)(チャウトス)・(チョウタリ)(チャウタリ){動詞・形容詞}年長者と認めて尊ぶ。かしらとする。かしらとなる。「長其長=其の長を長とす」〔孟子・離上〕。「長民者朝廷敬老、則民作孝=民に長たる者朝廷に老を敬するときは、則ち民孝を作す」〔礼記・坊記〕
  5. (チョウズ)(チャウズ){動詞}たける(たく)。のびて育つ。ながくなる。「成長」「消長」「無物不長=物として長ぜざるは無し」〔孟子・告上〕
  6. (チョウズ)(チャウズ){動詞}まさる。たける(たく)。すぐれる。「敢問、夫子悪乎長=敢へて問ふ、夫子悪くに乎長ぜると」〔孟子・公上〕
  7. (チョウズ)(チャウズ){動詞}ます。ふやす。▽もと「び」の去声の漾に読んだ。「長金積玉誇豪毅=金を長じ玉を積み豪毅に誇る」〔李賀・丘少年〕
  8. 《日本語での特別な意味》「長門(ナガト)」の略。「薩長連合」。

字通

[象形]長髪の人の形。氏族の長老を意味する。〔説文〕九下に「久遠なるなり。兀(こつ)に從ひ、匕(くわ)に從ふ。兀なるものは高遠の意なり。久しければ則ち變化す。亡(ばう)聲」とし、字の上部を亡の形とするが、上部は長髪の形。下部は人の側身形。長髪は長老の人にのみ許されたもので、部族を代表する者であった。徴は長髪の人を殴(う)つ形で、この人をうち懲らしめることは、その部族に対して懲罰を与える意味があった。徴と字形の近い微は巫祝者を撃つ形で、その呪力を「微(な)くする」ために殴つ呪的行為をいう。長髪・長老の意より、長久・首長などの意となる。

重(チョウ・9画)

重 金文
作周公簋・西周早期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯uŋ(平/上)、去声は不明。

学研漢和大字典

会意兼形声。東(トウ)は、心棒がつきぬけた袋を描いた象形文字で、つきとおすの意を含む。重は「人が土の上にたったさま+(音符)東」で、人体のおもみが↓型につきぬけて、地上の一点にかかることを示す。動(トンと足ぶみして→型におもみをかける)・衝(ショウ)(→型につきあたる)と同系。類義語の申は、まっすぐおしのばすこと。累(ルイ)は、ごろごろとつみかさねること。襲は、かさねて二重にすること。付表では、「十重二十重」を「とえはたえ」と読む。

語義

  1. {形容詞・名詞}おもい(おもし)。おもさ。→の方向に力が加わった状態。→の方向の力が底面に加わった感じ。おもみ。《対語》⇒軽。「軽重(ケイチョウ)・(ケイジュウ)(おもさ)」「重量」「重一鈞(オモサイッキン)」。
  2. {形容詞}おもい(おもし)。病気・罪・声・やり方などがおもい。おもおもしい。てあつい。「厳重」「慎重」「重濁」「重賄之=重くこれに賄す」〔春秋左氏伝・昭元〕。「君子不重則不威=君子は重からざれば則ち威あらず」〔論語・学而〕
  3. {動詞}おもんずる(おもんず)。たいせつなものとして敬い扱う。おもくみる。転じて、はばかる。▽この訓は「おもみす」の転じたもの。「尊重」「重社稷=社稷を重んず」〔礼記・大伝〕
  4. {動詞・形容詞}かさなる。かさねる(かさぬ)。上へおいて下におもみをかける。層をなしてかさなったさま。▽平声に読む。「重複(チョウフク)」「重畳(チョウジョウ)」。
  5. {単位詞}下をおさえて上にかさなった物を数えることば。▽平声に読む。《類義語》層(ソウ)。「万重山(バンチョウノヤマ)(いくえにもかさなった山)」。
  6. 《日本語での特別な意味》え。
    ①かさなった物を数えることば。「七重八重(ナナエヤエ)」。
    ②「重箱」の略。「お重」。

字通

[会意]東(とう)+土。東は橐(たく)の初文で、その象形。〔説文〕八上に「厚きなり」と訓し、「壬(てい)に從ひ、東聲」というが、東が重の主体であり、橐(ふくろ)の形である東の下に錘(おもり)のように土を加えた形で、重量を示す字である。その橐の入口に流し口の形をそえたものは量。主として穀物を量るものであるから、橐の中のものを糧という。重量の意よりして重圧・重層・重要・威重などの意となる。

凋(チョウ・10画)

初出は後漢の説文解字。または後漢の張表碑。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のt(平)のみ。藤堂上古音はtög。部品の「周」ȶ(平)には”つつしむ”の語釈があるが、わずかに”しぼむ”の意には届かない。論語語釈「彫」も参照。

学研漢和大字典

形声。「冫(こおり)+(音符)周」で、だらりとたれ下がる意を含む。張りを失ってしぼみたれること。周は、音を示すだけで原義には関係がない。吊(チョウ)(つりさげる、だらりとぶらさがる)・鳥(チョウ)(尾を長くたれたとり)と同系。

語義

  1. {動詞}しぼむ。ぴんと張っていた葉が、寒さに打たれてしぼみ、だらりとたれること。生気を失って衰える。しおたれる。《同義語》⇒吊。「凋落(チョウラク)」「凋零(チョウレイ)」。

字通

[形声]声符は周(しゆう)。〔説文〕十一下に「半ば傷むなり」とあり、周声とする。周は彫飾のある盾の形。凋んだ葉には、その稠密な彫文のように、一面に葉脈がうき出るので、氷結のときのさまとあわせて、凋落・凋弊の字とする。すべて皺(しわ)の生ずるようなさまをいう。

冢(チョウ・10画)

冢 金文
曶壺蓋・西周中期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はti̯uŋ(上)。論語語釈「塚」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。冢の下部の字(音チク・タク)は、しめてかためる意。その語尾がのびてチョウの音をあらわす。冢は、それに冂(かぶせる)を加えた字で、土をかぶせてずっしりと重くかためた盛り土を意味する。塚(チョウ)・(ツカ)の原字。重(チョウ)(おもい)・腫(ショウ)(大きくおもくふくれる)と同系。

語義

  1. {名詞}つか。土を大きく盛った墓。▽中国では盛り土をして墓とする。《同義語》⇒塚。「留侯死并葬黄石冢=留侯死して黄石の冢に并(なら)び葬らる」〔史記・留侯〕
  2. {形容詞}大きく重い。「冢君(チョウクン)(大君の意で、他国の諸侯を敬っていうことば)」「冢宰(チョウサイ)(大宰の意で、長官のこと)」。

字通

[象形]𢽚殺(たくさつ)した牲を埋めて、上に土を盛りあげた墳墓の形で、塚(塚)の初文。わが国では多く塚の字を用いる。冢は〔説文〕に勹(ほう)部九上に属し、「高墳なり」とし、豖声とするが、上部は豖牲を覆う形で、勹でも冖(べき)でもない。それに屋を架したものは家である。塚は冢の形声字。〔周礼、春官、冢人〕は「公墓の地を掌る」とあり、国君の兆域と、その封丘や喪祭の器などのことを管理する。

張(チョウ・11画)

張 金文 論語 張 金文大篆
(金文・金文大篆)

この文字は論語の時代に通用した金文に遡れない。現在発見されている最古の文字は、楚・秦の戦国文字、または上掲戦国末期の金文「二十年奠令戈」からになる。

『学研漢和大字典』は原義を「弓に弦を長く伸ばしてはること」といい、『字通』は「長は長大にする意。…緩急の宜しきを得ることをいう」といってほぼ同じ。カールグレン上古音はti̯aŋ(平/去)で、同音に長とそれを部品に持つ漢字群。長=ふてぶてしく図々しい、の意を込めているのだろう。

藤堂上古音はtɪaŋ(ɪはエに近い音)。音チョウ訓はるに「掟」「𢹑」があるが金文以前に遡れない。近音はあるにはあるが音通しそうにないし、金文以前に遡れない。唯一候補として上がるのは「奢」で、春秋早期の金文からあるが、カールグレン上古音がɕi̯ɔ、藤堂上古音がthiǎgで音通しているとは言い難い。

孔子の有力弟子、子張のあざ名として論語に頻出だが、文字としては行き止まりで、もし孔子在世当時に”はる”を意味するなら、「長」(上声、ti̯aŋ/tɪaŋ)と書いたか、文字通り「弓(ki̯ŭŋ/kɪuəŋ)長」と書いたかのいずれかだろう。

学研漢和大字典

会意兼形声。長は、長く頭髪をなびかせた老人の姿。張は「弓+(音符)長」で、弓に弦を長く伸ばしてはること。ぴんと長く平らに伸びる意を含む。暢(チョウ)(長く伸びる)・腸(長く伸びたはらわた)・杖(ジョウ)(長いつえ)などと同系。「のりなどでつける」の意味の「はる」は「貼る」とも書く。

意味

  1. {動詞}はる。弦を長く伸ばして弓・弦楽器にはりわたす。「弓矢斯張=弓矢斯に張る」〔孟子・梁下〕
  2. {動詞}はる。ぴんと伸びる。また、ぴんと伸ばす。「伸張」。
  3. {動詞}はる。大きく開く。ふくれて大きくなる。「誇張」「張目開口=目を張り口を開く」〔捜神記〕
  4. {動詞}はる。盛大に開く。「張宴=宴を張る」「張飲(チョウイン)(大いに酒を飲む)」「是夜張錦墸=この夜錦墸(きんしゅう)を張る」〔陳鴻・長恨歌伝〕
  5. {動詞}はる。意見を展開させる。「主張」。
  6. {動詞}はる。鳥獣を捕らえるために、網をはる。「張網四面=網を四面に張る」〔史記・殷〕
  7. {単位詞}はり。紙など平らにはり伸ばす物や、琴など弦をはった物を数えることば。
  8. {名詞}二十八宿の一つ。規準星は今のうみへび座にふくまれる。ちりこ。
  9. {名詞}長いとばり。▽帳に当てた用法。去声に読む。
  10. 《日本語での特別な意味》
    ①はり。物事のしがい。「張りがない」「張り合い」。
    ②「尾張(オワリ)」の略。「張州」。

字通

[形声]声符は長(ちよう)。〔説文〕十二下に「弓の弦を施すなり」とあり、〔段注〕に「弦を■(也+攴)(し)く」の誤りであるという。長は長大にする意。〔礼記、雑記下〕に「一張一弛は文武の道なり」とあり、緩急の宜しきを得ることをいう。

鳥(チョウ・11画)

鳥 金文
子之弄鳥尊・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音は声母のt(上)のみ。藤堂上古音はtög。¨(ウムラウト)は中舌寄りを示す。

学研漢和大字典

象形。尾のぶらさがったとりを描いたもの。北京語のniǎoは、ぶらりとたれた男性性器(diǎo)と同音であるのをさけた忌みことば。蔦(チョウ)(ぶらさがるつた)・吊(チョウ)(ぶらさがる)などと同系。類義語の隹(スイ)は、ずんぐりとしたとり。禽(キン)は、あみでとらえて飼うとり。「食用にする鶏」の意味の「とり」は「鶏」とも書く。

語義

  1. {名詞}とり。尾のたれさがったとり。のち広くとりの総称に用いる。《類義語》隹(スイ)・禽(キン)。「鳥跡」「草木鳥獣」。
  2. {形容詞}とりのごとく、人や物が、集まるさま。「鳥集」。
  3. {名詞}星の名。

字通

[象形]鳥の全形。その省形は隹(すい)。〔説文〕四上に「長尾の禽(きん)の總名なり。象形。鳥の足は匕(ひ)に似たり。匕に從ふ」とするが、字の全体が象形である。隹を短尾の鳥とするが、雉翟が隹に従うことからいえば、鳥・隹の別は尾の長短にあるのではない。卜文では神聖鳥のとき、鳥の象形字を用いることが多い。島と通用し、またその音で人畜の牡器をいい、賤しめ罵る語に用いる。

釣(チョウ・11画)

釣 金文
魡鼎・殷代末期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtioɡ(去)。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、「金+(音符)勺(シャク)(液体の中の一部を高くとりあげる)」で、水中の魚を金ばりでつって、高く水面上に抜き出すこと。杓(シャク)(ものをすくって抜きあげる道具)・酌(シャク)(酒を抜きあげるようにしてくみ出す)・的(テキ)(高くかかげたまと)と同系のことば。

語義

  1. (チョウス)(テウス){動詞・名詞}つりする(つりす)。つる。つり。水中の魚を高く水面上に抜き出してとる。また、その方法。「子、釣而不綱=子、釣して綱せず」〔論語・述而〕
  2. (チョウス)(テウス){動詞}つる。餌(エサ)でおびきだす。うまく機会をつかまえる。名や見栄をかかげて、みせびらかす。「釣奇=奇を釣る」「釣名=名を釣る」。
    《日本語での特別な意味》つり。つり銭。

字通

[形声]勺(ちよう)声。勺は刁(ちよう)より転じた形であろう。刁は釣針の形。〔説文〕十四上に「魚を鉤するなり」という。鉤は釣針、句曲の義をとる字である。

彫(チョウ・11画)

初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のt(平)のみ。藤堂上古音はtög。部品の「周」ȶ(平)には”ほる”の語釈はない。論語語釈「凋」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。周は、田の中一面に作物の実ったことを示す会意文字。稠密(チュウミツ)の稠(びっしり)の原字。彫は「彡(模様)+(音符)周」で、器物の表面全体にびっしりと模様をつけること。類義語の鏤(ロウ)は、細かい模様をちりばめて、金属にほりこむ。塑は、のみをたててそぎとる。刻は、かどだったきざみを入れる。掘は、土をほってくぼみをつくること。

語義

  1. {動詞}ほる。える(ゑる)。きざむ。一面に細かい模様をつける。また、のち、きざんで模様をほりこむ。ちりばめる。《同義語》⇒雕。《類義語》鏤(ロウ)・(ル)。「彫刻」。
  2. (チョウス)(テウス){動詞}文章の字句をこまかく飾りたてる。「欲彫小説干天官=小説を彫して天官に干(もと)めんと欲す」〔李賀・仁和里雑叙〕
  3. {動詞}しぼむ。なえる(なゆ)。葉がしおれてぐったりとたれる。また、弱り衰える。▽凋(チョウ)に当てた用法。「彫落(=凋落)」。

字通

[会意]周+彡(さん)。周は彫飾のある盾(たて)の形。彡はその彫飾の美をいう。〔説文〕九上に「琢文(たくぶん)なり」とあり、玉を琱琢する意とするが、周はもと雕盾の象。のちすべて琱琢を加えることをいい、〔論語、公冶長〕に「朽木は彫(ゑ)るべからず」とみえる。金文の〔休盤〕に「戈琱■(戈+肉)(くわてうし)」を賜与することがみえ、戈に彫飾を加えたものをいう。字はまた雕に作る。

朝(チョウ・12画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はti̯oɡまたはdʰi̯oɡ(共に平)。

学研漢和大字典

会意→形声。金文は「草+日+水」の会意文字で、草の間から太陽がのぼり、潮がみちてくる時を示す。篆文(テンブン)は「幹(はたが上がるように日がのぼる)+(音符)舟」からなる形声文字で、東方から太陽の抜け出るあさ。抽(抜き出す)・冑(チュウ)(頭が抜け出るよろい)と同系。潮は、朝日とともにさしてくるあさしお。類義語の旦(タン)は、太陽が地上に顔を出すあさ。晨(シン)は、万物が生気をおびて振るい立つあさ。付表では、「今朝」を「けさ」と読む。

語義

チョウ(平声)チョウ(呉)
  1. {名詞}あさ。あした。太陽の出てくるとき。《対語》⇒夕。《類義語》旦(タン)・晨(シン)。「早朝」「終朝(日の出から朝食のころまで)」。
  2. 「一朝」とは、一日のこと。また、いったん、もしもの意。
チョウ(平声)ジョウ(呉)
  1. (チョウス)(テウス){動詞}宮中に参内(サンダイ)して、天子や身分の高い人にお目にかかる。「朝見」「来朝」。
  2. (チョウス)(テウス){動詞}むかう(むかふ)。顔をむけてそちらに面する。「朝宗(中心になるものにあう→天子に拝謁する)」。
  3. {名詞}天子が政治を行うところ。「朝廷」。
  4. {名詞}その天子の統治する一代。また、その系統の君主が支配した時代。「乾隆朝(ケンリュウチョウ)(乾隆帝の時代)」「唐朝(唐の時代)」。
  5. 《日本語での特別な意味》「朝鮮」の略。「日朝」。

字通

[会意]艸(そう)+日+月。艸は上下に分書、その艸間に日があらわれ、右になお月影の残るさまで、早朝の意。〔説文〕に字を倝(かん)部七上に収め、「旦なり。倝(旗)に從ひ、舟(しう)聲」とするのは、篆文(𦩻)の字形によって説くもので、字の初形でない。金文には右に水に従う形が多く、潮の干満、すなわち潮汐(ちようせき)による字形があり、その水の形が、のち舟と誤られたものであろう。左も倝の形ではなく、倝は旗竿に旗印や吹き流しをそえた形で、朝とは関係がない。殷には朝日の礼があり、そのとき重要な政務を決したので、朝政といい、そのところを朝廷という。朝は朝夕の意のほかに、政務に関する語として用いる。暮の初文である莫(ぼ)も、上下の艸間に日の沈む形である。

塚/塚(チョウ・12画)

初出は後漢の説文漢字にもなく不明。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は不明。論語語釈「冢」も参照。

学研漢和大字典

会意兼形声。冢がその原字で、締めて固める意を含む。塚は「土+(音符)冢(チョウ)」で、土をかぶせて太くずっしりと固めた盛り土。重(チョウ)(充実しておもい)・腫(ショウ)・(シュ)(太いはれもの)などと同系。

語義

  1. {名詞}つか。つき固めた盛り土。中国では、土まんじゅうの形に盛り土をしてつくった墓。また、転じて、墓のこと。《同義語》⇒冢。「遂命発塚=遂に命じて塚を発かしむ」〔捜神記〕
  2. {名詞}つか。土を小高く盛ったもの。「一里塚(イチリヅカ)(街道の里程を示す土盛り)」。

字通

[形声]声符は冢(ちよう)。冢は塚の正字。〔説文〕九上に「冢は高墳なり」とあり、高く土を盛りあげた墳墓の意。〔周礼、春官、冢人〕に「公墓の地を掌る」とあり、次に墓大夫の職を列している。塚は冢の俗字、塚は冢の常用字。塚は唐代の文献以後にみえる。塚の上に屋舎を設けることもあって、塚舎という。

徵/徴(チョウ・14画)

初出は甲骨文。カールグレン上古音はti̯əŋ(平/上)で、同音は無い。

学研漢和大字典

会意。「微の略体+王」で、隠れた所で微賤(ビセン)なさまをしている人材を王が見つけて、とりあげることを示す。チョウは登・昇(のぼる)と同系で、上へ引きあげること。また、證(=証。ことばで表面に出す)と同系で、わずかな手がかりをつかんでとりあげ表面にのせること。旧字「徵」は人名漢字として使える。

語義

チョウ(平声)
  1. (チョウス){動詞}めす。隠れている人材をめし出す。「徴召」「徴為常侍=徴して常侍と為す」〔枕中記〕
  2. (チョウス){動詞}もとめる(もとむ)。人民などから取りたてる。また、要求する。《類義語》征。「徴兵」「徴歌=歌を徴す」「吾以羽檄徴天下兵=吾羽檄を以て天下の兵を徴す」〔漢書・高帝〕
  3. (チョウス){動詞}物事の表面に出たところを見てとる。手がかりを得る。《類義語》証。「宋不足徴也=宋は徴するに足らざるなり」〔論語・八飲〕
  4. {動詞}きざす。物事のけはいが表面に少し浮かび出る。《類義語》現・発。「徴於色発於声=色に徴し声に発(あらは)る」〔孟子・告下〕
  5. {名詞}きざし。物事の起こるのを予想させるしるし。「徴候(=兆候)」「納徴(結婚の結納をする)」。
チ(上声)

{名詞}五音の一つ。古代中国の音楽で、階名をあらわす。七音のソに当たる。▽五音は、宮・商・角・徴(チ)・羽。「十二律」は、音名。

字通

[会意]旧字は徵に作り、彳(てき)+チョウ 外字(ちょう)+攴(ぼく)。彳(道路)において、チョウ 外字(長髪の人)を攴(う)(毆)つ形。長髪の人は長老とも、また巫女とも解されるが、要するにすぐれた呪的能力をもつもの。これを殴(う)って、敵方に対する懲罰的な行為として、味方の要求するところを徴し、あわせて懲罰を加える行為をいう。その効果のあらわれることを徴験という。これと同じ方法で、若い巫女を攴つことを微といい、これは敵方の呪力を微(な)くすることを目的とする。また同じ意味で、髑髏(どくろ)を攴つことを徼(きよう)といい、その呪霊を刺激して徼(もと)める意である。徵・微・徼はみな相似た呪的行為を意味する字である。〔説文〕八上に徵を「召すなり」とし、微の省に従う字で、「微に行ひて而(しか)も聞達する者は、即ち徵(め)すなり」(段注本)とするが、隠微の義を承けるものではなく、徴・微・徼は同種の呪儀をいう。徵は懲の初文。もと敵を懲らしめる行為であった。

趙(チョウ・14画)

趙 金文
趙孟庎壺・春秋末期

初出は春秋末期の金文。カールグレン上古音はdʰi̯oɡ(上)。

学研漢和大字典

形声。「走+(音符)肖(ショウ)」。

語義

  1. {形容詞}ちいさい(ちひさし)。《類義語》小・少。
  2. {動詞}こえる(こゆ)。▽超に当てた用法。
  3. {名詞}国名。戦国時代の七雄の一つ。春秋時代の晋(シン)を、趙・魏・韓が三分して独立したもの。今の山西省北部から河北省西部を領有した。都は、邯鄲(カンタン)。
  4. 「趙宋(チョウソウ)」とは、王朝の名。宋王朝のこと。南北朝時代の宋(劉宋(リュウソウ))と区別するときに用いる。始祖が趙匡胤(チョウキョウイン)であることから。

字通

[形声]声符は肖(しょう)。〔説文〕二上に「趍(はし)ること趙(おそ)きなり」(段注本)とするが、〔穆天子伝〕「北征趙行」の〔注〕に「猶ほ超騰のごとし」とあって、軽捷であることをいい、超と声義が近い。戦国期、山西の国名に用いた。

雕(チョウ・16画)

初出は後漢の『説文解字』。カールグレン上古音は子音のtのみ。藤堂上古音はtög。原義は鳥の”ワシ”。”ほる”の語義は音通。「彫」と同じ、彫の字も初出は楚系戦国文字で、やはり論語の時代に存在しない。

春秋時代の置換候補は、部品の周の字。”ほる”意を持つ漢字で、チョウと音読みするものに、琱(カ音tのみ)があり、春秋時代の金文に存在する上、初文は周とされるから、周(カ音ȶのみ)に”ほる”意があると解することは可能。

学研漢和大字典

会意兼形声。「隹+(音符)周(まんべんなくゆきわたる、円を描く、めぐる)」。週(めぐる)と同系。

語義

  1. {名詞}わし。猛鳥の名。円を描いて大空をめぐるわし。《同義語》⇒譖。《類義語》鷲(シュウ)・鷙(シ)。
  2. {動詞}きざむ。える(ゑる)。一面に細かい模様をつける。全面にわたって、まんべんなくほりつける。《同義語》彫。《類義語》鏤(ル)・(ロウ)。「雕玉(チョウギョク)」。
  3. {動詞}しぼむ。なえる(なゆ)。草木が枯れて、ぐったりとたれさがる。また、弱り衰える。▽凋(チョウ)に当てた用法。《類義語》吊(チョウ)(ぶらさがる)。
  4. 「雕雕(チョウチョウ)」とは、細かい模様があざやかにめだつさま。「雖有槙之雕雕、不若玉之章章=槙の雕雕たる有りと雖も、玉の章章たるに若かず」〔荀子・法行〕

字通

彫・雕

[会意]周+彡(さん)。周は彫飾のある盾(たて)の形。彡はその彫飾の美をいう。〔説文〕九上に「琢文(たくぶん)なり」とあり、玉を彫琢する意とするが、周はもと雕盾の象。のちすべて琱琢を加えることをいい、〔論語、公冶長〕に「朽木は雕(ゑ)るべからず」とみえる。金文の〔休盤〕に「戈琱胾(くわてうし)」を賜与することがみえ、戈に彫飾を加えたものをいう。字はまた雕に作る。

聽/聴(チョウ・17画)

論語 聴 金文
洹子孟姜壺・春秋晚期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はtʰieŋ(平/去)。

論語 聞 論語 聞
類義語の「聞」との違いは、「聞」は間接的に聞くこと、「聴」は直接聞くこと。

学研漢和大字典

論語 聴
会意兼形声文字で、論語 トク 外字(トク)は直(チョク)と同系で、まっすぐなこと。壬(テイ)は、人がまっすぐにたったさま。聽は「耳+論語 トク 外字(まっすぐ)+(音符)壬」で、まっすぐに耳を向けてききとること。

類義語の聆(レイ)は、耳を澄ます。聞は、へだたりを通して耳にはいる、また、かすかに音がきこえるの意。

意味

  1. {動詞・名詞}きく。まともに耳を向けてきく。耳を澄ましてきく。転じて、広くきくこと。ききとる感覚。《類義語》聞。「謹聴」「聴其言而信其行=其の言を聴きて其の行ひを信ず」〔論語・公冶長〕
  2. {動詞}きく。したがう(したがふ)。いうことをきく。また、きき入れる。また、ききしたがう。▽去声に読む(古くはtìng、今はtīng)。「聴従」「聴父母之言=父母の言に聴ふ」「以聴於冢宰三年=以て冢宰に聴くこと三年」〔論語・憲問〕
  3. {動詞}きく。いうとおりにまかせる。なりゆきにまかせる。▽去声に読む(古くはtìng、今はtīng)。「聴天有命=天の命有るに聴く」。
  4. {名詞}きき耳をたてて、ようすをさぐる者。しのび。「十里之国則将有百里之聴=十里の国には則ちまさに百里の聴有らんとす」〔荀子・議兵〕
  5. {単位詞}《俗語》かん入りのものを数える単位。「一聴油(ひとかんの油)」。

字通

[会意]旧字は聽に作り、耳+壬(てい)+徳の旁(つくり)。壬は人の挺立する形。挺立する人の上に、大きな耳を加え、耳の聡明なことを示す。聡明の徳をいう字。金文には耳と𠙵(さい)(祝詞の器の形)とに従う字があり、神に祈り、神の声を聞きうることをいう。聖は、聽の字の徳に代えて、𠙵を加えたもの。神の声を聴きうる者を聖という。〔説文〕十二上に「聆(き)くなり」とし、壬声とするが、壬は人の挺立する形で、声ではない。神の声を聴きうるものが聖であり、その徳を聽といった。聖はおおむね神瞽(しんこ)であった。

直(チョク・8画)

論語 直 金文
恒簋蓋・西周中期

初出は甲骨文。カールグレン上古音はdʰi̯ək(入)。

学研漢和大字典

「|(まっすぐ)+目」の会意文字で、まっすぐ目を向けることを示す。-植(まっすぐたててうえる)-置(まっすぐてておく)-チョク(ととのう)-チョク(まっすぐに正す)と同系のことば。

意味

  1. (チョクナリ){形容詞・動詞・名詞}なおし(なほし)。なおくする(なほくす)。まっすぐなさま。まっすぐである。まっすぐにする。正直な人。《対語》⇒曲。「曲直」「縄直(ジョウチョク)(墨なわを張ったようにまっすぐな)」「爽直(ソウチョク)(さっぱりしてまっすぐな)」「直而無礼則絞=直にして礼無ければ則ち絞す」〔論語・泰伯〕。「友直=直を友とす」〔論語・季氏〕
  2. {名詞}なおきこと(なほきこと)。まっすぐなこと。すなおさ。「直在其中矣=直きこと其の中に在り」〔論語・子路〕
  3. {形容詞}曲折をへずに。じかに。「直通」「直接」「直入」。
  4. {動詞・名詞}あたる。とのい(とのゐ)。ちょうどその番にあたる。当番。《同義語》⇒値(チョク)(あたる)。「当直(=当値)」「宿直」。
  5. {名詞}あたい(あたひ)。その物や仕事に相当するねだん。▽値(チ)に当てた用法。
  6. {副詞}ただ。→語法「①」。
  7. {副詞}ただちに。じきに(ぢきに)。→語法「②」。
  8. 《日本語での特別な意味》
    ①「直直(ジキジキ)」とは、直接に。「直直にお目にかかる」。
    ②なおる(なほる)。なおす(なほす)。もとどおりになる。もとどおりにする。「病気が直る」。

語法

①「ただ」とよみ、「ただ~だけ」と訳す。限定の意を示す。《同義語》只・特。「直不百歩耳=ただ百歩ならざるのみ」〈百歩でないというだけだ〉〔孟子・梁上〕
②「ただちに」「じきに」とよみ、「すぐに」「まっすぐに」と訳す。「直夜潰囲=ただちに夜囲みを潰(つひや)す」〈その夜のうちに漢軍の包囲網を突破した〉〔史記・項羽〕

字通

せいいん。省は目に呪飾を加え、巡察することをいう。いわゆる省察である。乚は隔てる意であろうと思われる。〔説文〕十二下に「正しく見るなり。十目に従ふ」とする。〔大学、六〕の「十目の視る所、十手の指す所、其れ嚴かなるかな」の語によって解するものであろうが、目の上は省・德(徳)の字と同じく、呪飾とみるべきである。
論語 省 甲骨文 論語 徳 甲骨文
「省・徳」(甲骨文)

心部十下に「とくは外には人に得、内には己に得るなり」とあり、その重文の字は、本条の古文の字と似ている。悳は金文に德の字として用いる。直は目の呪力を示すもので、「う」意となり、価値の意となる。但と声近く、ただの意に用いる。

訓義

あう、目で見る、値の初文。あたる、むかう、はべる、とのい。ただしい、なおい、すなお、よい。あたい、ねうち、また値を用いる。ただちに、すぐ。但と通じ、ただ。たて、まっすぐ。飾と通じ、へりかざり。

大漢和辞典

会意。十と目とLとの合字。十目の見る所、いかに隠すも顕れざるなき意より、本義は正しく見ること。

字解

なおい。なおきもの。なおくす。あたる。はべる、殿居する。殿居。ただ。ただちに。発語の助辞。生ずる。縦。柄、つか。へり、へりかざり。諡。衣の名。犆*に通ず。値に通ず。姓。あたる、あう。あたい。〔邦〕なおし。なおす。なおる。姓氏のあたい。

*犆:(トク・チョク)へり。ひとり。ひとつ。

枕(チン・8画)

冘 甲骨文
「冘」(甲骨文)

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶi̯əm(上)で、同音は存在しない。部品の「イン」は音を示すのみで、”ゆく”の意。ただし下記『学研漢和大字典』『字通』の説を採用すると、置換候補になるが、甲骨文のみで金文の出土が無い。

学研漢和大字典

会意兼形声文字で、冘(イン/チン)は、━印のかせで人の肩をおさえて、下に押しさげるさま。甲骨文字は、牛を川の中に沈めるさま。枕は「木+(音符)冘」で、頭でおしさげる木製のまくら。沈(水の下にしずめる)・耽(タン)(底にしずむ)などと同系のことば。

語義

  1. {名詞}まくら。寝るとき頭をのせて、頭を下に落ち着ける物。転じて、物の下にしく木や台。「陶枕(トウチン)(やきもののまくら)」。
  2. {動詞}まくらとする(まくらとす)。ある物をささえにして、その上に頭をのせる。▽去声に読む。「曲肱而枕之=肱を曲げてこれを枕とす」〔論語・述而〕
  3. {動詞}のぞむ。物の上にのって下をみる。▽去声に読む。《類義語》臨。「枕河=河に枕む」。
  4. 《日本語での特別な意味》まくら。前置きにする、ちょっとしたことば。

字通

[形声]声符は冘(いん)。冘に沈・鴆(ちん)の声がある。冘は人が枕して臥している形。〔説文〕六上に「臥するとき、首に薦(し)く所以の所なり」(段注本)という。〔詩、唐風、葛生〕は挽歌、「角枕粲(さん)たり」と、棺中の人を歌っている。

陳(チン・11画)

陳 金文
陳侯鬲・春秋早期

初出は西周中期の金文。カールグレン上古音はdʰi̯ĕn(平/去)。

論語では、国名や人名としても登場。

学研漢和大字典

会意兼形声。古くは「東(袋の形)二つ+攴(動詞の記号)」の会意文字で、土嚢(ドノウ)を一列にならべることを示した。陳はその略体にさらに阜(土もり)を加えた字で、土嚢を平らに列をなしてならべること。類義語に述。

語義

  1. {動詞}ならべる(ならぶ)。しく。つらねる(つらぬ)。一列に、または、平らにならべる。「陳列」。
  2. (チンズ){動詞}のべる(のぶ)。展開してのべる。つらねていう。「陳述」「棄置莫復陳=棄置して復た陳ぶること莫からん」〔曹植・贈白馬王彪〕
  3. {名詞}ならんだもの。ならび。列。
  4. {形容詞・名詞}ふるい(ふるし)。ならべたまま置きざりにした。ふるびた。ふるいもの。《対語》⇒新。「陳腐」「新陳代謝」「推陳出新=陳きを推して新しきを出だす」。
  5. {名詞}国名。周・春秋時代、今の河南省淮陽(ワイヨウ)県を中心とした地にあった。周代に帝舜(シュン)の子孫が封ぜられた地といわれる。春秋時代の末に楚(ソ)に滅ぼされた。
  6. {名詞}王朝名。中国の南北朝時代の南朝最後の王朝。陳覇先(チンハセン)が梁(リョウ)の敬帝から位を奪ってたてた。隋に滅ぼされた。五五七~五八九。
  7. {名詞}戦闘のための軍勢の配置の形。▽去声に読む。《同義語》⇒陣。「衛霊公、問陳於孔子=衛の霊公、陳を孔子に問ふ」〔論語・衛霊公〕

字通

[会意]𨸏(ふ)+東(とう)。東は橐(たく)の象形字。神の陟降する神梯(𨸏)の前に、多くの橐(ふくろ)を陳設して祀る形。〔説文〕十四下に「宛丘なり。舜の後、嬀滿(きまん)の封ぜられし所なり」とし、「𨸏に從ひ、木に從ひ、申(しん)の聲なり」とするが、申声説は古文の形によっていうもので、字の本形ではない。金文に■(陳の下に土)・■(陳+攵)の二形があり、田斉の陳氏は■(陳の下に土)、舜の後である陳・蔡の陳は■(陳+攵)に作る。すなわち〔説文〕のいう陳は金文の■(陳+攵)にあたる。■(陳の下に土)は聖所の社(土)前に東(供える橐)をおく形。■(陳+攵)はその橐を撃つ形を加えたもの。多く陳(つら)ねるので陳列・陳設の意となり、そのまま陳設しておくので陳久・陳腐の意となったのであろう。〔墨子、号令〕にみえる「陳表」を〔墨子、雑守〕に「田表」に作り、陳と田とは古く同声であった。それで斉の陳氏をまた田氏という。ただ金文では田斉諸侯の器をすべて■(陳の下に土)侯としるしており、■(陳の下に土)がその本姓である。

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コメント

  1. […] 重複を恐れず記せば、孔子家語の王粛偽作説は清儒の冤罪であり、時に論語を訂正する根拠となり得る。「恥」「殆」は論語の時代に存在しないが、「羞」”はじ”「台」は存在し、「台」に”おそれる”の語釈を『大漢和辞典』が載せる。 […]