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仍(ジョウ・4画)
説文解字・後漢
初出:初出は後漢の説文解字。
字形:「亻」+「乃」。字形の由来は不明。
音:カールグレン上古音はȵi̯əŋ(平)。同音は「艿」”草の名”、「扔」”よる”、「陾」”垣根を作る声”。
論語時代の置換候補:『大漢和辞典』による同音訓よるに「仗」(初出秦系戦国文字)、「儴」(初出不明)、「攘」(初出説文解字)、「杖」(初出前漢隷書)、「疒」(初出甲骨文)。「疒」に”よる”の用例は春秋時代以前には確認できない。
同義「扔」の初出は甲骨文とされるが、語義が明瞭でない上に、西周から戦国までの用例が無く、一旦絶えた漢語であるのはほぼ確実で、論語時代の置換候補にならない。
学研漢和大字典
会意兼形声。人の右に、乃(柔らかい耳たぶ)を加え、乃(ナイ)の転音が音をあらわすもので、柔らかくねばりついて、なずむの意を含む。
語義
- {動詞}よる。ねばりついて離れない。なずむ。「仍旧貫=旧貫に仍る」〔論語・先進〕
- {動詞}かさなる。もとの物事につけ加わる。
- {副詞}かさねて。しきりに。しばしば。→語法「①」。
- 「仍仍(ジョウジョウ)」とは、幾重にもかさなり、数多いさま。
- {副詞}なお(なほ)。→語法「②」
語法
①「かさねて」「しきりに」「しばしば」とよみ、「そのうえ」「しきりに」と訳す。重複・連続の意を示す。「晋仍無道而鮮胄=晋は仍(しきり)に無道にして胄(ちゅう)鮮(すくな)し」〈晋はしきりに無道を行い、公族が少ない〉〔国語・周〕
②「なお」とよみ、「まだ」「やはり」と訳す。以前からの状況が続いている意を示す。「千場縦博家仍富=千場博を縦(ほしいまま)にして家仍(な)ほ富む」〈千の賭場でばくちの打ち放題、家はそれでもなお金がうなっている〉〔高適・邯鄲少年行〕
字通
[形声]声符は乃(じよう)。乃は弓弦をはずした形。弦を張らずに、そのままおくことをいう。〔説文〕八上に「因るなり」とあり、因仍の意。〔周礼、春官、司几筵〕「凡そ吉事には几(き)を變へ、凶事には几に仍(よ)る」とは、凶事には死者の几(机)をそのまま用いる意。〔論語、先進〕「舊貫(慣)に仍(よ)らば如何(いかん)」とは、先例に従うことをいう。
壤/壌(ジョウ・16画)
「土壌」の壌。初出は楚系戦国文字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȵi̯aŋ(上)。同音は穰”きびがら”、禳”祭りの名”、攘、瀼”湿気の多い様”、讓。部品の襄sni̯aŋ(平)に、”つち”の語釈は無い。
学研漢和大字典
会意兼形声。襄(ジョウ)は、中にまぜこむ、割りこむ意を含む。壤は「土+(音符)襄」で、まぜかえしたつち。釀(=醸。こうじをまぜこんで酒をかもす)・讓(=譲。割りこませる→場所を譲る)と同系。類義語の土は、万物を吐き出す充実したつち。地は、長く平らに伸びた大地。
語義
- {名詞}つち。すき返してまぜた柔らかいつち。「撃壌而歌=壌を撃ちて歌ふ」〔帝王世紀〕
ま{名詞}つち。大地。「天壌(テンジョウ)」「霄壌(ショウジョウ)(天地のこと)」。 - (ジョウナリ)(ジャウナリ){形容詞}実り豊かなさま。▽穣(ジョウ)に当てた用法。平声に読む。「畏塁大壌=畏塁大いに壌なり」〔荘子・庚桑楚〕
- 「壌壌(ジョウジョウ)」とは、まぜかえされてごたつき、混乱するさま。《同義語》⇒攘攘。「天下壌壌、皆為利往=天下壌壌、皆利の為に往く」〔史記・貨殖〕
字通
[形声]旧字は壤に作り、襄(じよう)声。襄にゆたかなるものの意がある。〔説文〕十三下に「柔らかき土なり」、〔玉篇〕に「地の緩肥なるを壤と曰ふ」とあって、一度砕いた柔らかな土をいう。〔書、禹貢〕の〔伝〕に「塊(つちくれ)無きを壤と曰ふ」とあって、耕土の意である。
擾(ジョウ・18画)
大克鼎・西周末期
初出は西周末期の金文。カールグレン上古音はȵi̯oɡ(上)。論語では、孔子の生国である魯国で謀反を起こした、公山不擾の名として、論語陽貨篇に一箇所記される。
学研漢和大字典
会意兼形声。右側の部分はもと人の子どもの形に似たさるを描いた象形文字。狃(ジュウ)とも書き、人にじゃれつくさるのこと。擾は、もとそれを音符とし、手を加えた字で、人になれたさるのように、うるさくじゃますること。のち音符を憂に書き誤り、擾と書くようになった。狃(なれる、まといつく)・鬧(ノウ)・(ドウ)(うるさい)と同系。
語義
- {動詞}みだす。みだれる(みだる)。ずるずるとかき回す。うるさくじゃまをして、みだす。「騒擾(ソウジョウ)」「擾乱(ジョウラン)」「其勢足以相擾而不足以相斃=其の勢ひ以て相ひ擾すに足れども以て相ひ斃すに足らず」〔蘇轍・三国論〕
- {形容詞}わずらわしい(わずらはし)。じゃまをしてうるさい。また、騒がしい。《類義語》鬧(ノウ)・(ドウ)・繞(ジョウ)(まといつく)。「擾擾(ジョウジョウ)(ごたごたと騒がしい)」。
- {動詞}ならす。なれる(なる)。じゃれつく。また、じゃれるように、なつかせる。「擾竜=竜を擾す」。
字通
[形声]正字は
に作り、夒(どう)声。擾は俗字。〔説文〕十二上に「煩なり」とあって、煩乱をいう。夒は手足をあげて舞い躍る形。酒を飲んで乱れさわぐことを■(酉+夒)(どう)という。憂は喪に服する人の形であるから、声義ともに異なる字である。讓/譲(ジョウ・20画)
(晋系戦国文字)
初出:初出は晋系戦国文字。
字形:字形は「言」+「口」+「羊」で、”羊を供えて神に何かを申す”ことだろう。従って『大漢和辞典』の語釈では、”祭りの名”が原義と思われる。さらに”ゆずる”の語義は派生義となる。
現行字体の字形は「言」+「襄」。「襄」sni̯aŋ(平)の初出は甲骨文で、「漢語多功能字庫」は「字形不明」と投げている。甲骨文に比定されている字形は、現行の字形と似ても似付かない。詳細は論語語釈「襄」を参照。
音:カールグレン上古音はȵi̯aŋ(去)。同音は旁に襄を持つ一連の漢字群。
用例:『上海博物館藏戰國楚竹書』子羔06に「古(故)讓之」とあり、”ゆずる”の語義が確認できる。
論語時代の置換候補:結論として存在しない。
論語の時代に部品の「襄」と書かれた可能性があるが、「襄」に”譲る”の意味は無い。ただし「漢語多功能字庫」論語の時代までに”君主を補佐する”の語義があったというが、その根拠はかなり怪しい。詳細は論語語釈「襄」を参照。
初出が遅いこともあり、「漢語多功能字庫」に有用な情報は無い。
学研漢和大字典
会意兼形声。襄(ジョウ)は、中にわりこむの意を含む。讓は「言+(音符)襄」で、どうぞといって間にわりこませること。転じて、間にはさんで両わきからせめる意ともなる。鑲(ジョウ)(中に金属をはめこむ)・饟(ジョウ)(中にわりこませたあん)などと同系。旧字「讓」は人名漢字として使える。
語義
- {動詞}ゆずる(ゆづる)。場所をあけてわりこませる。「譲歩」「三以天下譲=三たび天下を以て譲る」〔論語・泰伯〕
- {動詞・形容詞・名詞}自分をあとにして人を先にする。ひかえめな。ひかえめな態度や行い。「謙譲」「遜譲(ソンジョウ)」「揖譲而入=揖譲して而入る」〔礼記・曾子問〕。「禁者、政之本也、譲者、徳之主也」〔晏子春秋・雑下〕
- {動詞}せめる(せむ)。理屈で相手をせめたてる。なじる。「責譲」。
- {助動詞}《俗語》本人の希望どおりにさせてあげる。また、させてもらう。
字通
[形声]旧字は讓に作り、襄(じよう)声。襄に祓禳の意がある。〔説文〕三上に「相ひ責讓するなり」とあり、人を譲(せ)める意とする。もと祓禳するための祝禱する辞をいう。攘斥して退かせることから、推譲・揖譲(ゆうじよう)の意となる。避けて退くことを攘辟(じようへき)といい、讓・攘は声義の通ずる字である。
→襄
攘(ジョウ・20画)
縱橫家書176・前漢
初出:初出は前漢の隷書。
字形:〔扌〕+〔襄〕”袖をまくり上げる”。腕で払いのけるさま。
音:カールグレン上古音は不明。
用例:戦国最末期「睡虎地秦簡」日甲37背參に「鬼恒襄(攘)人之畜,是暴鬼。」とあり、「攘」と釈文されている。”取って食う”と解せる。
戦国中期の『孟子』には”盗む”の用例がある(滕文公下)。
論語時代の置換候補:部品の「襄」は甲骨文より存在するが、”ぬすむ”の語釈は『大漢和辞典』に無い。元々無かったのか、攘の字が出来て二次的に失ったのかは不明。ただし論語子路篇18の定州竹簡論語では、”ぬすむ”の意味で襄を用いている。
学研漢和大字典
会意兼形声。襄(ジョウ)は、衣の中にいろいろな物を入れこむさま。中に入れこむ意を含む。攘は「手+(音符)襄」で、中に入りこんだものを、払いのけたりぬすんだりすること。釀(=醸。中にこうじを入れて酒をかもす)・讓(=譲。間に入れてやる)と同系。類義語に払。
語義
- {動詞}ぬすむ。入りこんできたものをぬすむ。「攘窃(ジョウセツ)」「其父攘羊=其の父羊を攘む」〔論語・子路〕
- {動詞}はらう(はらふ)。入りこんできたものを、はらいのける。じゃまなものをはらい除く。▽平声に読む。「攘臂=臂を攘ふ」「桓公救中国、而攘夷狄=桓公中国を救ひて、夷狄を攘ふ」〔春秋公羊伝・僖四〕
- (ジョウス)(ジャウス){動詞}みだれる。みだす。「搶攘(ソウジョウ)」「心無天遊則六鑿相攘=心に天遊無ければ則ち六鑿相ひ攘す」〔荘子・外物〕
- {動詞}間に入れてやる。場所を譲って、そこへ他人を割りこませる。▽譲に当てた用法。去声に読む。
字通
[形声]声符は襄(じよう)。襄は禳の初文で、祓禳・禳斥の意があり、その行為を攘という。〔説文〕十二上に「推すなり」というのは推譲の意であろう。〔漢書、礼楽志〕「揖攘(いふじやう)の容を盛んにす」、〔漢書、司馬遷伝〕「小子何ぞ敢て攘(ゆづ)らん」などは譲る意で、のち讓(譲)の字を用いる。讓の初義は譲斥で、「譲(せ)める」意。襄は多くの呪具を以て、邪気を攘うことをいう。
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