論語詳解242郷党篇第十(7)斉には必ず明衣有り*

論語郷党篇(7)要約:本章は前章の続き。物忌みの蔡にはジャブジャブと体を洗い、住まい・飲み物・食べ物を全て普段と変えましたとさ、という作り話。主語を引き続き「君子」としたのがミソで、もちろん孔子先生ではないでしょう。

このページの凡例

論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

齊、必有明衣布*。(必有寢衣長一身有半。)齊必變食、居必遷坐。

校訂

武内本

清家本により布の下に也の字を補う。

復元白文

斉 金文 必 金文有 金文明 金文衣 金文論布 金文必 金文有 金文寝 金文衣 金文長 金文一 金文身 金文有 金文半 金文斉 金文必 金文変 金文食 金文 居 挙 舉 金文必 金文坐 甲骨文

※變→(戦国早期金文)・坐→(甲骨文)。論語の本章は變の字が論語の時代に存在しない可能性があり、遷の字が論語の時代に存在しない。本章は戦国時代以降の儒者による捏造である。

書き下し

ものいみにはかなら明衣ゆかたあさなるり。(かなら寢衣しんいたけ身有半しんいうはんなるり。)ものいみにはかならじきえ、るにかならうつす。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 孔子 肖像
祭礼の前に身を清める時は、必ず清めた麻布の衣を着る。(寝るときには必ず長さが身長の一・五倍ある寝間着に着替える。)清めの時には必ず専用の食事を摂り、座る場所も普段とは別にする。

意訳

同上

従来訳

論語 下村湖人

ものいみする時には清浄潔白な衣を着られる。その衣は布製である。また、ものいみ中は食物を変えられ、居室をうつされる。

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

齋戒沐浴時,必有布做的浴衣。齋戒時,一定要改變平時的飲食,一定要改變住處。

中国哲学書電子化計画

潔斎のために水浴びするときは、必ず麻布で作った浴衣を着た。潔斎の時は、何が何でも普段とは違う飲食物を摂り、何が何でも住まいを移した。

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

齊(斉)

論語 斉 金文 論語 潔斎 滝
(金文)

原義は”そろう・整う”だが、論語の本章では「潔斎」と言うように”ものいみ”のこと。詳細は論語語釈「斉」を参照。

明衣

論語 明 金文 論語 衣 金文
(金文)

論語の本章では”潔斎の際に着る衣服”。”白い衣”と解することも出来るが、副葬品を「明器」と言うように、祭祀の際に用いる服と解したのは藤堂本による。

論語 子張6 明
『学研漢和大字典』によると「明」は会意文字で、「日+月」ではなくて、もと「冏(ケイ)(まど)+月」で、あかり取りの窓から、月光が差しこんで物が見えることを示す。あかるいこと。また、人に見えないものを見分ける力を明という。望(モウ)・(ボウ)(見えないものをのぞむ)・萌(モウ)・(ボウ)(見えなかった芽が外に出て、見える)などと同系のことば、という。

詳細は論語語釈「明」を参照。

論語 布 金文

論語の本章では”麻布・葛布”。論語では本章のみに登場。初出は西周早期の金文。カールグレン上古音はpwo(去)。「フ」は呉音。

中国に木綿が入るのは論語よりはるか後の時代になってからのことで、布と言えば麻布か葛布だった。木綿が入ってからは、布と言えば綿布を言うようになった。対して絹布をハク(しろぎぬ)という。

「布」は『学研漢和大字典』によると形声文字で、もと「巾(ぬの)+〔音符〕父」で、平らに伸ばして、ぴたりと表面につくぬののこと。敷(フ)(平らにしく)・普(あまねく行き渡る)と同系。また舗(ホ)(平らにしく)とも近いことば、という。詳細は論語語釈「布」を参照。

有明衣布

英語の”Let it go”と同じく、動詞の後ろに目的語や補語に当たる言葉が二つある文型。

必有寢衣、長一身有半

論語 寝 金文
「寝」(金文)

この句も英語の”Let it go”と同じ。

この句は新注以降、錯簡=論語前章の文が本章に紛れ込んでいた、とされる。そう言う朱子は「だって論語の権威である程頤先生がそう言ったんだもん」としか理由を書いていないので、趣味としか言いようが無いが、とりあえず通例になっているので従った。

新注『論語集注』:前章

程子曰:「此錯簡,當在齊必有明衣布之下。」愚謂如此,則此條與明衣變食,既得以類相從;而褻裘狐貉,亦得以類相從矣。

程頤「これは記した木札を綴り間違えたのだ。”明衣あり、布にてす”の後ろに置くべきだ。」
愚かな私が考えるに、この部分は潔斎の話をしている次章にあるが、潔斎の寝間着の話と考えてもよい。だが衣類の話である本章とも、また同類の話と言える。

『学研漢和大字典』によると「寝」は会意兼形声文字で、侵は、しだいに奥深くはいる意を含む。寢は、それに宀(いえ)を加えた字の略体を音符とし、爿(しんだい)を加えた字で、寝床で奥深い眠りにはいること。浸(水が奥深くしみこむ)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「寝」を参照。

齊(斉)必變(変)食

論語 変 金文大篆
「変」(金文大篆)

論語の本章では”ものいみだから、なまぐさものや臭いの強いものを食べなかった”と古来解する。

「変」の初出は戦国早期の金文で、ぎりぎり論語の時代に無かった可能性がある。カールグレン上古音はpli̯an(去)。同音は存在しない。

『学研漢和大字典』によると会意文字で、變の上部は「絲+言」の会意文字で、乱れた糸を解こうとしても解けないさま。変にもつれた意を含み、乱と同系のことば。變(ヘン)は、それに攴(動詞の記号)をそえた字で、不安定にもつれてかわりやすいこと、という。詳細は論語語釈「変」を参照。

居必遷坐

論語 居 金文 論語 坐 金文大篆
「居」「坐」(金文)

論語の本章では”必ず座席の場所を変える”。論語時代はまだ祟りや神罰を恐れた時代で、それゆえ普段とは異なる生活をして身を清めた。

「遷」の確実な初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtsʰi̯an(平)で、同音に淺。春秋末期の金文から存在するが、”うつす”の語義は無い。部品の䙴の初出は戦国文字。類義語の僊の初出は後漢の『説文解字』。詳細は論語語釈「遷」を参照。

「坐」の初出は甲骨文。カールグレン上古音はdzʰwɑ(上)。「ザ」は呉音。

『学研漢和大字典』によると会意文字で、「人+人+土」。人が地上にしりをつけることを示す。すわって身たけを短くする意を含む。挫(ザ)(折れて短くなる)・蝎(ザ)(短いざん切りの頭)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「坐」を参照。

論語:解説・付記

前章との錯簡うんぬんは、改めるべきだろうかと迷っている。丁度「だって論語の権威の、よち川いぼ痔郎先生がそう言ったんだもん」というわけで、デタラメな論語の解説を書くに等しいからだ。朱子の頼った程頤とよち川の、頭がイカレている点もよく似ているし。

論語の本章を前章と切り分けて読むようになったのは新注からで、古注では前章と一体に読む。これは古注の方に理があるように思う。つまり本章には主語が書いていないが、これは前章の「君子」だとするのが妥当だろう。

新注は分割した理由を次のように記す。

前章

此一節,記孔子衣服之制。蘇氏曰:「此孔氏遺書,雜記曲禮,非特孔子事也。」

この一節は、孔子の衣服に関する定めを記した。
蘇軾「これは孔子が書き残した文書で、礼法の詳細を記しており、孔子に限ったこだわりを記したのでは無い。」

本章

此一節,記孔子謹齊之事。楊氏曰:「齊所以交神,故致潔變常以盡敬。」

この一節は、孔子の潔斎の模様を記した。
楊時「潔斎によって神と交信した。だから清めを徹底し普段とは生活を変えて、敬いを尽くしたのだ。」

孔子は無神論者だった。それに引き換え、約1,500年後の儒者はオカルト信者に戻っている。精神が幼稚化したことが分かる。だから宋儒の言うことは真に受けられない。古代ローマ文明の産物を、中世キリスト教会は悪魔の作品だと言って壊して回ったのとよく似ている。

なお『孔子家語』によると、潔斎の意義を孔子は以下のように説いている。

子夏問於夫子曰:「凡喪,小功已上,虞祔練祥之祭,皆沐浴,於三年之喪,子則盡其情矣。」孔子曰:「豈徒祭而已哉!三年之喪,身有瘍則浴,首有瘡則沐,病則飲酒食肉。毀瘠而為病,君子不為也。毀則死者,君子為之,且祭之沐浴,為齊潔也,非為飾也。」(『孔子家語』曲礼子夏問)

子夏「服喪では、小功(五ヶ月の服喪に用いる喪服。五ヶ月はおおむね曾祖父母の服喪に当たる)以上の場合、虞(埋葬を終えた日の祭祀)・祔(亡霊を祖先祭殿に合祀する祭祀)・練(一年忌)・祥(忌み開けの祭祀)を機会として水浴びします。三年の服喪(親の服喪)でも先生はその通りにしますか?」

孔子「別に祭祀にかこつけなくとも、必要なら水浴びするさ。三年の喪中でも、出来物が出来れば浴びるし、頭に腫れ物が出れば浴びる。病気になったら酒を呑み肉を食べて体力を付ける。痩せ衰えるのも病気のうちだぞ? 国軍将校を務める貴族たる者、その間に戦でもあったらどうする。悲しみのあまり痩せ衰えて死にました、などというでっち上げの美談は、貴族が真に受けるべきではないのだ。また祭祀の水浴びだって、あれは清潔を保つためで、見せ物にやるんじゃないぞ。」

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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