論語詳解231A子罕篇第九(27)やぶれたる縕袍*

論語子罕篇(27)要約:孔子先生の一番弟子、子路。一門きっての剛毅な男で、破れた服を着て、立派な身なりの人の隣に立っても、全く気にしませんでしたという作り話。もちろん儒者は、子路の死を匂わせるため偽作したのです。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

子曰、「衣敝*縕袍、與衣狐貉*者立而不恥者、其由也*與。」

校訂

武内本

唐石経弊を敝に作り、狢貉に作り、由の下也の字あり。

定州竹簡論語

……者立,而不佴者,其由也239


→子曰、「衣弊縕袍、與衣狐狢者立而不佴者、其由也與。」

復元白文

子 金文曰 金文 衣 金文敝 金文縕袍 与 金文衣 金文論語 狐 楚系戦国文字貊 金文者 金文立 金文而 金文不 金文者 金文 其 金文由 金文也 金文与 金文

※狐→(楚系戦国文字)。論語の本章は赤字が論語の時代に存在しない。也の字を断定で用いている。本章は漢帝国の儒者による捏造である。

書き下し

いはく、やぶれたる縕袍をんぱうて、かくたるものぢざるものは、いうなる

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 孔子 論語 子路
先生が言った。「破れた綿入れを着て、狐の毛皮のコートを着た者と並んで立っても恥ずかしく思わないのは、子路だろうか。」

意訳

ニセ孔子
子路も死んだか…。
ボロを着て立派な身なりの者と並んでも、恥ずかしがらなかったのはあいつだけだったな。

従来訳

論語 下村湖人

先師がいわれた。――
「やぶれた綿入を着て、上等の毛皮を着ている者と並んでいても、平気でいられるのは由だろうか。

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

孔子說:「穿著破舊衣服,與穿著狐皮貉皮衣服的人站在一起,而不感到慚愧的人,大概衹有子路吧?

中国哲学書電子化計画

孔子が言った。「破れたボロ服を着て、キツネやムジナのかわごろもを着た人と共に立って、恥ずかしがらない人は、たぶん子路だけだろうな。」

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

敝(ヘイ)→弊

論語 敝 金文大篆 論語 敝
(金文)

論語の本章では”やぶれた”。『学研漢和大字典』による原義は、布を引き裂くこと。「弊」は異体字。詳細は論語語釈「敝」を参照。

縕袍(オンポウ)

論語 縕 篆書 論語 袍 篆書
(篆書)

「縕」は”クズ麻”で、『大漢和辞典』では縕袍を”貧乏人が着る粗末な衣類”と解する。ただし「縕著」と同義とし、クズ麻や古い絹綿を詰めた綿入れ服を指すと言う。論語では本章のみに登場。初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はʔi̯wən(平)。同音は𥁕を部品とする漢字群で、論語時代の置換候補は無い。「オン」は漢音の又声。

『学研漢和大字典』によると「縕」は会意兼形声文字で、「糸+(音符)𥁕(オン)の略体」で、温気をこもらせる綿。また、熱気がむれるの意。熅(オン)(煙がこもる)・溫(=温。蒸気がこもる)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「縕」を参照。

「袍」の初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音は声母のbʰ(平)のみ。藤堂上古音はbog。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、「衣+(音符)包(すっぽり外からつつむ)」。抱(外からつつむ)と同系のことば、という。論語では本章のみに登場。詳細は論語語釈「袍」を参照。

狐貉→狐狢(コカク)

論語 狐 楚系戦国文字 論語 貉 金文
「狐」(楚系戦国文字)・「貉」(金文)

論語の本章では、キツネやムジナの毛皮服。高価だったらしく貴人の着るものとされる。「狢」も「貉」と同じく、ムジナ。
論語 五経図彙 狐裘

「狐」の初出は甲骨文。カールグレン上古音はgʰwo(平)。詳細は論語語釈「狐」を参照。

「狢」の初出は不明。カールグレン上古音も不明。藤堂上古音はɦak。「貊」măk(入)の異体字とされる。「貊」の初出は西周早期の金文。同義語の「貉」のカールグレン上古音はmăk(入)。詳細は論語語釈「狢」を参照。

恥(チ)→佴

論語 恥 篆書 論語 恥
(篆書)

論語の本章では”恥じる”。初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はtʰi̯əɡ。論語時代の置換候補は無い。「佴」は定州漢墓竹簡論語で「恥」の意として使われるが、『大漢和辞典』に”はじ”の語釈は無い。詳細は論語語釈「恥」を参照。

論語 由 金文 論語 子路
(金文)

孔子に最も早く入門した弟子、子路の名。詳細は論語の人物:仲由子路を参照。漢字「由」の詳細は論語語釈「由」を参照。

論語:解説・付記

魯哀公十五年(BC480)・孔子72歳、顔回死去の翌年だが、衛に仕えていた子路は内乱に巻き込まれて世を去った。その模様は『史記』の列伝に記されている。論語の本章はその死を暗示するため作られたもの。子路は一門きっての剛直な弟子で、それにふさわしい死を遂げた。

子路が公宮に入ろうとすると、弟弟子の子羔(シコウ)が門から出てきたのに出会った。子羔は「門はすでに閉じています」と言ったが、子路は「まあとにかく行ってみよう」と言った。子羔は「無理です。わざわざ危ない目に遭うことはありません」と言ったが、子羔は引き止められずに公宮から出て、子路は入って門前に立った。

公孫敢が門を閉ざして「入るな」と言うと、子路は「公孫どの、貴殿は利益に目が眩んで逃げたな。拙者はそうではない、俸禄分は主君の危険を救うつもりでござる」と言った。たまたま外に出る使者があったので、入れ替わりに子路は門を入った。そこで大声で叫んだ。

「太子どの、孔カイどのは役立たずですぞ。殺しても代わりはいくらでもござる。それにしても太子どのは昔から臆病でござった。孔悝どのを放しなされ。さもないと下からこの見晴らし台に火を付けますぞ。」

太子は震え上がって、石乞・孟黶(ウエン)を台から降りさせて子路と戦わせた。戈で子路を撃ったところ、子路の冠の紐が切れた。子路は「君子は死んでも冠を脱がないものでござる」と言って、紐を結び直している内に殺された。

(『史記』衛世家)

論語 孔鯉
顔回の前年には孔子は一人息子の鯉を無くしており、息子と愛弟子を立て続けに失った孔子には大きな打撃となった。それもあってか、孔子は翌年に死去している。なお本章は、古注の時代までは次章と一体として読まれた。分けて読むようになったのは新注からである。

新注『論語集注』

衣,去聲。縕,紆粉反。貉,胡各反。與,平聲。敝,壞也。縕,枲著也。袍,衣有著者也,蓋衣之賤者。狐貉,以狐貉之皮為裘,衣之貴者。子路之志如此,則能不以貧富動其心,而可以進於道矣,故夫子稱之。

論語 悾
衣は尻下がりに読む。縕は、紆と粉の組み合わせの音である。貉は胡と各の組み合わせの音である。與は、アホウがハナをたらして「アー」というような調子で読む。敝とは、壊れることである。縕は、苧麻で作った衣類である。袍は、中にワタが入った衣類である。たぶん下等な衣類であろう。狐貉は、キツネやムジナの皮で作ったかわごろもで、衣類の中でも高価な品である。子路の心意気はこのようであった。つまり貧富の差が気にならなかったのである。そして孔子の聖なる道を突き進むことが出来た。ゆえに先生は讃えたのである。

「ゆえに先生は讃えた」かも知れないが、本章を偽作した漢の帝国儒者はそのような気がさらさら無かったに違いない。次章で見るように後漢の儒者は本章での子路についてゴマスリを書いているが、おおざっぱに言って儒者は、子路は乱暴者という悪口しか言っていないからだ。

そして子路が本当に破れどてらを着てウロウロしたのだろうか? 若い頃はそうかも知れないが。あるいは本章の別伝と思しき記述が以下の通り、『孔子家語』にある。

子路盛服見於孔子。子曰:「由!是倨倨者何也?夫江始出於岷山,其源可以濫觴,及其至於江津,不舫舟,不避風,則不可以涉,非惟下流水多邪?今爾衣服既盛,顏色充盈,天下且孰肯以非告汝乎?」子路趨而出,改服而入,蓋自若也。子曰:「由志之!吾告汝!奮於言者華,奮於行者伐。夫色智而有能者,小人也。故君子知之曰知,言之要也;不能曰不能,行之至也。言要則智,行至則仁。既仁且智,惡不足哉?」(『孔子家語』巻二・三恕第九10)

子路が豪華な衣装を着て孔子の前に現れた。

孔子「子路よ。何でそんな派手な服を着ているんだね。あの大河・長江も、その初めは岷山の谷川で、やっと盃を浮かべられる程度に過ぎない(「濫觴」の出典)。だが下流に来ると、風のない日に舟に乗らねば、到底渡れるものではない。それはひとえに、あまたの小川を集めて水量が多くなったからだ。お前のようにいかつい男が、そんな派手な服を着ていれば、みんな怖がって、何も言ってくれなくなるぞ。」

子路は消え入るように走り去り、着替えて再び孔子の前に出た。いかにも満足しているかのような顔である。

孔子「子路よ。よぉく覚えておくんだな。よいか、ベラベラしゃべる奴はお調子者だ。ズシズシと歩き回る奴は威張りん坊だ。小賢しい小知恵をひけらかす奴は、しょせん馬鹿者だ。一人前の貴族たる者、そうした区別を知っている、これを知というのだ。言葉のかなめは結局これだ。その上で、出来ない事を出来ないと知る、これが行動のかなめだ。言葉にかなめがあれば、つまり智恵者だ。行動にかなめがあれば、つまり仁者(理想の貴族)だ。仁者でもあり知者でもあるなら、一体何をそれ以上自分にくっつけようと言うのかね。」

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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