論語詳解122A雍也篇第六(4)子華、斉に使いす*

論語雍也篇(4)要約:ある時、孔子先生は弟子の子華を隣国への使いに出しました。先生を補佐していた弟子の冉求ゼンキュウが、子華に留守宅手当の支給を求めます。弟弟子に沢山出してやりたい冉求。支給額がどんどん膨らんで…。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

子華使於齊、冉子爲其母請粟。子曰、「與之釜。」請益、曰、「與之庾。」冉子與之粟五秉。子曰、「赤之適齊也、乘肥馬、衣輕裘。吾聞之也、君子周急不繼富。」

校訂

定州竹簡論語

……冉子與之粟五秉。子曰:「赤之適齊也,乘肥馬,112……[不]繼富。」113

復元白文

子 金文論語 華 金文論語 使 金文於 金文斉 金文 冉 金文子 金文為 金文其 金文母 金文青 金文米 甲骨文 子 金文曰 金文 論語 与 金文之 金文論語 扶 金文 青 金文益 金文 曰 金文 論語 与 金文之 金文論語 臾 金文 冉 金文子 金文論語 与 金文之 金文米 甲骨文論語 五 金文論語 秉 金文 子 金文曰 金文 論語 赤 金文之 金文論語 適 金文斉 金文也 金文 論語 乗 金文肥 金文大篆論語 馬 金文 論語 衣 金文論語 裘 金文 吾 金文論語 聞 金文之 金文也 金文 君 金文子 金文論語 周 金文論語 及 金文不 金文継 金文畐 金文

※請→青・粟→米・釜→扶・庾→臾・肥→(金文大篆)・急→及・富→畐。論語の本章は赤字が論語の時代に存在しない。本章は戦国時代以降、恐らくは漢帝国の儒者による捏造である。

書き下し

子華しくわせい使つかひす。冉子ぜんしははためぞくふ。いはく、これあたへよ。すをふ。いはく、これあたへよ。冉子ぜんしこれぞくへいあたふ。いはく、せきせいうまり、かるかはごろもたり。われこれなり君子くんしせまるをすくうて、めるにがずと。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 公西赤 論語 冉求 冉有
子華が斉国へ使いに出た。冉子ゼンシが子華の母のためにアワを求めた。先生が言った。「彼女に六斗四升与えなさい。」もっと下さいと言った。先生が言った。「十六斗与えなさい。」冉子は八百斗を与えた。先生が言った。「赤が斉に行くには、超えた馬に乗り、軽い皮衣を着た。私はこう聞いている。君子は急場を救うが、富んだ者には足さないと。」

意訳

冉有 ニセ孔子
公西赤が斉国へ使いに出ることになった。冉有ゼンユウが留守宅手当にアワを下さいと言った。
孔子「かま一杯分やりなさい。」「少ないですよ。」「かご一杯分やりなさい。」
冉有は独断で大樽五つ分、二十俵ほど与えた。

孔子「これ冉有や。公西赤めは立派な馬にまたがって、上等な毛皮羽織を着て出て行ったぞ。昔から言うだろう、君子は困っている者は助けるが、金持ちに追い銭はしてやらないと。」

従来訳

論語 下村湖人
 子華(しか)が先師の使者として(せい)に行った。彼の友人の(ぜん)先生が、留守居の母のために飯米を先師に乞うた。先師はいわれた。――
「五六升もやれば結構だ。」
 冉先生はそれではあんまりだと思ったので、もう少し増してもらうようにお願いした。すると、先師はいわれた。――
「では、一斗四五升もやったらいいだろう。」
 冉先生は、それでも少いと思ったのか、自分のはからいで七石あまりもやってしまった。
 先師はそれを知るといわれた。――
(せき)は斉に行くのに、肥馬に乗り軽い毛衣を着ていたくらいだ。まさか留守宅が飯米にこまることもあるまい。私のきいているところでは、君子は貧しい者にはその不足を補ってやるが、富める者にその富のつぎ足しをしてやるようなことはしないものだそうだ。少し考えるがいい。」

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

子華出國當大使,冉子請孔子拿點米給子華的母親。孔子說:「給一百斤。」冉子說:「給多點吧。「加四十斤。」冉子給了兩千斤。孔子說:「子華在齊國,坐豪華車,穿名牌衣,我已聽說了。君子君子衹救濟窮人,不添加財富給富人。」

中国哲学書電子化計画

子華が国外に出て大使になった。冉子が孔子に、子華の母親にいくらか穀物を与えて下さいと頼んだ。孔子が言った。「百斤(50kg)与えよ。」冉子が言った。「もう少し多く与えて下さい。」「四十斤(20kg)増やせ。」冉子は二千斤(1t)与えた。孔子が言った。「子華は斉国で、豪華な車に乗り、ブランドものの服を着ていたと私は聞いた。君子はただ困窮している人を救うのみで、富んだ者に富を加えはしない。」

※君子君子→ママ

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

子華

論語 子 金文 論語 華 金文
(金文)

BC509?ー?。孔子の弟子。姓は公西、名は赤、字は子華。見た目が立派で外交官に向いていると孔子に評された。詳細は論語の人物:公西赤子華を参照。

冉子(ゼンシ)

冉 金文 論語 子 金文
(金文)

孔子の弟子、冉有ゼンユウのこと。ここでは理由不明ながら冉子=冉先生と敬称になっている。冉有について詳細は論語の人物:冉求子有を参照。

論語の本章では”もとめる”。初出は戦国末期の金文で、論語の時代に存在しないが、論語の時代には「(言)青」と書いた可能性がある。平声(カールグレン上古音dzʰi̯ĕŋ:うける)の同音に靜(静)の字がある。『大漢和辞典』によるその語釈に”はかる”があり、四声を無視すれば音通する。詳細は論語語釈「請」を参照。

漢文 粟 金文大篆
(金文大篆)

論語の本章では”穀物”または”アワ”。初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はsi̯ukで、同音は存在しない。部品の米の字には”穀物”の意があり、甲骨文より存在する。詳細は論語語釈「粟」を参照。

釜(フ)・庾(ユ)・秉(ヘイ)

論語 釜 金文 論語 庾 金文大篆 論語 秉 金文
(金文)

論語では本章だけで使用。釜の字の初出は戦国時代の「陳純釜」で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はbʰi̯woで、同音に扶の字がある。その語義に、「四指を並べた長さ」を『大漢和辞典』が載せ、春秋時代の単位だった可能性がある。

庾の字の初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はdi̯uで、同音に臾の字があり、「あじか」の語義を『大漢和辞典』が載せ、春秋時代の単位だった可能性がある。

  大漢和辞典 宮崎本 学研漢和大字典
百六十斗 二百日分 十六斛
十六斗 二十日分 一六斗
コク・石 十斗(石の音はセキ)   十斗19.4L(石の音はコク)
六斗四升 十日分 六斗四升約12L
十六升 四豆=十六升
十升   十升1.94L
四升 四掬0.8L
十合   十合0.194L
キク 五合 0.2L
二龠/十龠 0.019L
ヤク 黍粒千二百 黍1,200粒

『大漢和辞典』によると一釜=四区=六斗四升、一庾=十六斗(または二斗四升とあるがこれでは増したことにならない)、一秉=十六斛で、一斛=十斗、一斗=十升、一升=十合…きりがない。きりがないが紀元前後に一升=約200cm3とwikipediaにあり、計算するとこうなる。

釜=12.8リットル
庾=32リットル
五秉=1600リットル。いくら何でも多すぎる、気がする。

論語本の中では宮崎本で、

釜=十日分
庾=倍の二十日分
五秉=さらに五十倍の千日分

という。これに従うと一日分は1.28リットルになるが、三食に分けてもこんなには食べられない。精白した場合、アワはコメの倍近いカロリーがあるからで(論語雍也篇5語釈)、これは食費以外の費用を含んだ一日分の生活費だろう。

これを365倍し、さらに2018年の日本の平均年収で換算すると、アワ1リットルは約1万円の価値になる(論語顔淵篇11語釈)。つまり公西赤が受け取った留守手当はwikipedia換算で約1,600万円。これなら新品の馬や服が買えそうである。

次に『学研漢和大字典』によると、「釜」は「金+(音符)父」の形声文字で、

  1. かま。飲食物を煮たきする金属製の大なべ。
  2. 春秋・戦国時代の量をあらわす単位。一釜は六斗四升(約十二リットル)。

という。「庾」は会意兼形声文字で、臾(ユ)は、申(伸ばす)の字に横に引きぬく印を加えて、横に引き伸ばすことを示す。庾は「广(いえ)+(音符)臾」で、作物を下ぶくれに積んだ稲むら。また、稲むらを家屋式のくらにしたもののこと。語義は

  1. こめぐら。刈り入れた作物を野積みにした稲むら。また、転じて、米ぐら。
  2. 中国古代のますめの単位。一庾は一六斗(上古の一斗は約一・九四リットル)。

という。「秉」は「禾(いね)+手」の会意文字。いねの穂の真ん中を手に持つさまをあらわす。語義は

  1. とる。手に持つ。しっかり持って守る。
  2. 手ににぎった権力。
  3. 穀物の量をはかる単位。一秉は十六斛(コク)。

という。また『大漢和辞典』には「禾の一にぎりのたば」の語釈を載せる。ついでながら「斛」は会意兼形声文字で、角は、かどばった角を描いた象形文字。斛は「斗(ます)+(音符)角」で、四角くかどばった箱型のますのこと。語義は

  1. 容量の単位。昔の一斛は十斗で、周代には一九・四リットル、隋(ズイ)・唐代には約五九リットル。宋(ソウ)代以後の一斛は五斗で、約四八リットル。《同義語》⇒石(コク)。
  2. {名詞}四角い形の大きいます。転じて、大型のますの総称。

という。この『学研漢和大字典』換算では、孔子ははじめ一釜=12L与えよと言い、次に一庾=31.04L与えよと言ったが、冉有は五秉=1,552L与えた計算になる。こちらも金額に直せば約1,552万円。やはり「金持ちに追銭」と言えるだろう。

論語の本章では”行く”。論語の時代、「敵」「嫡」などと書き分けられていない。カールグレン上古音はɕi̯ĕk。同音は存在しない。詳細は論語語釈「適」を参照。

論語の本章では”太った”。論語では本章だけで使用。初出は戦国文字。カールグレン上古音はbʰi̯wərで、同音に非を部品とする漢字群など。語義を共有する文字は無い。ただし孔子と同時代の魯国宰相、季孫肥がおり、論語の時代に存在しない、と断言できない。詳細は論語語釈「肥」を参照。

「肥えた馬に乗る」と原文にあるが、論語の時代に騎馬の技術も習慣も無いとされ、少なくとも一般的ではない。中国人が騎馬を始めるのは、戦国時代の趙の武霊王(?-295)からとされる。春秋時代では馬に車を牽かせて乗った。この点でも、論語の本章は史実ではない。

一度滅びた儒家を復興した、戦国時代の孟子は、諸侯に取り入るためにうそデタラメを論語に書き加えたが、武霊王と同時代人であり、「馬に乗る」という作文は書きそうに無い。恐らく本章は漢帝国、それも後漢になってからの創作だろう。

輕/軽

論語の本章では”軽い”。初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰi̯ĕŋで、同音に傾など。語義を共有する文字は無い。詳細は論語語釈「軽」を参照。

論語の本章では”苦境”。論語では本章だけで使用。初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯əpで、同音に給・及を部品とする漢字群。論語時代の置換候補は及ghi̯əp。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声。及(キュウ)は「人+又(て)」の会意文字で、逃げる人のうしろから手を伸ばしてがぶっとつかまえるさま。たるみなく追いかけてやっと届く意を含む。急は「心+(音符)及」で、せかせかと追いつくような気持ち、ゆとりなく迫るような気持ちのこと。吸(息をゆるめず、ひたひたとすいつく)と同系、という。

『字通』によると形声文字で、声符は及(きゅう)。〔説文〕十下に「褊(かたよ)るなり」とあり、また〔爾雅、釈言〕に「褊は急なり」とあり、互訓の字。及は後ろより人を追う意の字で、その心情を急という。心急ぐものは一褊に執するところがある。急遽・急速の意より、また緊急・急要の意となる、という。

論語 富 金文 論語 富 篆書
(金文・篆書)

論語の本章では”富む”。この文字の初出は上掲戦国時代の金文で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はpi̯ŭɡ。同音に不、否。部品の畐(カ音・藤音不明)に”満ちる”の語釈を『大漢和辞典』が載せており、甲骨文から存在する。詳細は論語語釈「富」を参照。

論語:解説・付記

上掲の検討の通り、論語の本章は文字史から見て論語の当時に遡れないが、単位を変えて同じようなことを、孔子が冉有に言ったことはありうる。「法隆寺の境内は187,000m2」と書いたとて、法隆寺が明治以降の創建にならないのと同じ。

また本章の時期だが、おそらく孔子はまだ帰国しておらず、南方の陳・蔡国や北の衛国に滞在して、帰国工作と国際関係をいじり回す陰謀を逞しくしていた時期で、冉有は一足先に帰国して、魯の宰相である季氏に仕えていた。孔子の差し金で公西赤を使者に立てたのだろう。

そこで弟弟子に冉有が手当をはずんだのだが、孔子がすでに帰国していたなら、冉有は独断で支給額を増大は出来なかっただろう。そこで後日話を聞いた孔子が、論語の本章のようなことを冉有に手紙で書き送ったか、あるいは帰国時に出迎えた冉有に話したのだろう。

さて中国人は筆まめの割には数字に関してはいい加減で、いわゆる白髪三千丈式のでたらめを平気で記すので、あまり当てにしない方がいい。宮崎本に従うのが最も適切だと思う。

ついでながら吉川本は、荻生徂徠の計算をコピペしており、以下の通り。
論語 吉川幸次郎

釜=日本の升目で五升七合五勺弱
庾=日本の升目で一斗四升三合七勺強
秉=日本の升目で七石一斗八升五合九勺強

再びwikipediaによると、日本の
1石 = 10斗 ≒180.390 684 L
1斗 = 10升 ≒ 18.039 068 L
1升 = 10合 ≒ 1.803 906 837 L
1合 = 10勺 ≒ 0.180 390 684 L

したがってすなわち

釜=6.23リットル弱
庾=25.92リットル強
秉=1296.27リットル強

アワはググり切れなかったが、コメ1合は150gとwikipediaにあるから、暇つぶしついでに計算してみる。

150g≒0.180 390 684 L → 1リットル≒815.63g
さらにwikipediaによると、コメ1俵は60kg、軽トラックの最大積載量は350kgだそうである。

『大漢和辞典』換算
論語 大漢和辞典

釜=12.8リットル≒10.44kg
庾=32リットル≒26.10kg
五秉=1600リットル≒1305.00kg≒21.75俵 軽トラック3.73台分

荻生徂徠換算
論語 荻生徂徠

釜≒6.23リットル≒5.08kg
庾≒25.92リットル≒21.14kg
秉≒1296.27リットル≒1057.28kg≒17.62俵 軽トラック3.02台分

儒者の書いたお芝居では、20俵前後もドカドカと、公西赤の留守宅に俵が積み上がることになる。さぞ豪儀なけしきだったろう。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。覚悟致せ。

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