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論語語釈「ヤ」

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語釈 urlリンクミス

也(ヤ・3画)

也 金文 也 金文
魯大𤔲徒子仲伯匜・春秋早期/欒書缶・春秋中期

初出:初出は西周末期の金文「蔡侯匜」。「小学堂」での初出は春秋早期の金文。ただし字体はともに「」。”水差し”を意味する。

瓦紋匜

「瓦紋匜」宝鶏市周原博物館蔵

字形:字形には二系統あり、右はサソリを模したものと藤堂説では言うが、サソリの意味に使われた用例が無い。右の字形は恐らく、「𠙵」”くち”から語気が流れ下っている模式図。

音:カールグレン上古音はdi̯a(上)で、同音は無い。極近音diaの一覧は以下の通り。論語語釈「它」tʰɑ(平)も参照。

初出 声調
うつる 秦系戦国文字
うつる 楚系戦国文字
まがき 前漢隷書
衣摳いかう(ころもかけ) 説文解字
ななめ 説文解字
きびざけ 説文解字
ひさげ(水差し) 西周中期金文
へび 甲骨文
旗のなびくさま 戦国篆書

用例:”水差し”以外の用例の初出は春秋時代の「䜌書缶」で、「正月季春。元日己丑。余畜孫書也。擇其吉金。厶作鑄缶。厶祭我皇祖。吾厶旂眉壽。䜌書之子孫。萬世是寶。」とあり、「正月季春、元日己丑。うやなすすえたる書、其れかねえらびて、もったるほとぎを作り、厶て我がかみなるとおつおやを祭り、吾れ厶てながいのちいのる。䜌書之子孫、萬世是れたからとせよ。」と読め、”…は…である”と句中で主語の強調に用いられた語義を確認できる。

春秋の青銅器の決まり文句に、「也也巳巳」があり(新收殷周青銅器銘文暨器影彙編NA1258-1262)、「也」di̯a(上)→「世」ɕi̯ad(去)の転用と判断する。「巳」に”受け継ぐ”の語義があり、おそらく”代々受け継いで”の語義。

また孔子と同時代、春秋末期の「庚壺」に、「□曰:不可多也(?)天受(授)女(汝)。」とあり、「□曰く、”多かるから。天のなんじさずくるところ”。」と読め、疑問あるいは反語の語義が確認できる。「也」がすでに句末で疑問や反語を意味したとすると、詠嘆の意も獲得されたと見てよい。上掲の例も、”多すぎますなあ”とも解せるからだ。

ただし”だなあ”→”だろう”(断定)まで語義を拡大するのはためらう。その語義が明らかに確認されるのは、戦国末期の「坪安君鼎」からになる。

「坪安君鼎」『殷周金文集成』02764-2
也 金文 坪安君鼎 殷周金文集成 02764-2
上官。坪安邦斪客。容四分󱮵。卅二年。坪安邦斪客。𢉼四分𧷔。五益六釿㪵釿四分釿之冢。卅三年。單父上官嗣憙所受坪安君者上官。

「単父の上官(地名)のつかさが坪安君よりさずけらるる所也」と読める。

漢語多功能字庫

(詳解抜粋)

金文從「口」從一彎曲的豎筆,象氣從口中向下呼出。以一彎曲的豎筆指示氣的呼出(參何琳儀、房振三)。「也」字是為了表示語氣停頓的語氣詞而造的(徐寶貴)。


金文は「口」の下に湾曲した線を描き、息が口から下に吐き出されるさま。湾曲した線で息の吐出を表す(參何琳儀、房振三)。「也」の字は語気が止まったさまを示し、その語気詞となる(徐寶貴)。


金文用作語助詞,坪安君鼎:「單父上官冢子憙所受平安君者也。」「也」、「只」是一字之分化,朱駿聲:「只,語已詞也,从口,象氣下引之形。按丨,指事。」


金文では語を作る助詞に用いられる。(戦国末期の)坪安君鼎に「單父上官冢子憙所受平安君者也。」「也」は「只」から分化した。朱駿聲「只は語已詞である。口から息が下に引き延ばされたさまの象形。丨の字形を考えると、指事文字である。」


此外,「也」、「它」因古音相同,常常相混。「也」字後世主要被借用作句末的語氣詞,即「之、乎、者、也」中最後的也。此外,「也」字亦可用於句中作為語氣停頓,轉承下文的連詞。《論語•雍也》:「斯人也,而有斯疾也」;或《禮記•檀弓下》:「其嗟也可去,其謝也可食」。


そのほか、「也」と「它」は上古音が同じで、つねに混用された。「也」は後世、句末の語気詞に借用され、すなわち「之、乎、者、也」のうちもっとも後代に語気詞となった。このほか、「也」は句中で語気が止め、下の句に繋げる働きもする。

学研漢和大字典

也 標本也 字解
「它または匜」(金文)

ḍiǎg – yiǎ – ie – ie(yě)

象形。也は、平らにのびたさそりを描いたもの。它(タ)は、はぶへびを描いた象形文字で、蛇(ダ)の原字。よく也と混同される。しかし、也はふつう仮借文字として助辞に当て、さそりの意には用いない。他などの字の音符となる。

語義

  1. {助辞}なり。→語法「①」。
  2. {助辞}や。→語法「④-1」。
  3. {助辞}や。→語法「④-2」。
  4. {副詞}《俗語》また。中世以後「…もまた(亦)」の意をあらわす副詞に当てるようになった。▽古代語の「亦」に当たる。

語法

①「なり」とよみ、「~である」と訳す。説明して断定する意を示す。「由也升堂矣、未入於室也=由や堂に升(のぼ)れり、未だ室に入らざるなり」〈由は表座敷には上がっているのだぞ、まだ奥座敷には入っていないだけだ〉〔論語・先進〕

②「~すればなり」「~なればなり」とよみ、「~するからである」「~であるからである」と訳す。理由を明確にする意を示す。「何則誠有以相知也=何となれば則(すなは)ち誠にもってあひ知る有ればなり」〈なぜならば、かれらにはまことに自分を知ってくれる者がいたからです〉〔史記・鄒陽〕

③「や」「か」とよみ、

  1. 「~であろうか」と訳す。疑問・反語の意を示す。《同義語》乎。「何由知吾可也=何に由(よ)りて吾が可なるを知る」〈どうしてわたしにできることが分かるのか〉〔孟子・梁上〕
  2. 「~であることよ」と訳す。詠嘆の意を示す。「有是哉、子之迂也=有るこれかな、子の迂(う)なるや」〈これですからね、先生のまわり遠さは〉〔論語・子路〕

④「や」とよみ、

  1. 「~こそ」「まったく」と訳す。文頭の主語・副詞を強調する意を示す。「必也正名乎=必ずや名を正さんか」〈ぜひとも名を正すことだね〉〔論語・子路〕
  2. 「~の方法は」「~の時には」と訳す。時間・空間・事物のある一部分を提示して強調する意を示す。「君子之至於斯也、吾未嘗不得見也=君子のここに至るや、吾未だ嘗(かつ)て見ることを得ずんばあらざるなり」〈ここに来られた君子がたは、私はまだお目にかかれなかったことはない〉〔論語・八佾〕
  3. 「~よ」と訳す。よびかけの意を示す。「由也、好勇過我=由や、勇を好むこと我に過ぎたり」〈由よ、勇ましいことを好きなのは私以上だ〉〔論語・公冶長〕

⑤「~也者」は、「~なるものは」とよみ、「~というものは」と訳す。上の語句を丁寧に示す。「孝弟也者、其為仁之本与=孝弟なる者は、それ仁を為(おこ)なふの本か」〈孝と悌ということこそ、仁徳の根本であろう〉〔論語・学而〕

⑥「~也与」は、「~なるか」「~か」とよみ、「~であることよ」と訳す。詠嘆の意を示す。「語之而不惰者、其回也与=これに語(つ)げて惰(おこた)らざる者は、それ回なるか」〈話をしてやって、それに怠らないのは、まあ回だね〉〔論語・子罕〕

字通


瓦紋匜・宝鶏市周原博物館蔵

也 標本
とよばれる水器の形で、匜の初文。〔説文〕十二下に「女陰なり。象形」とし、重文として秦刻石の也の字をあげる。その字は秦・漢通行の字形であるが、すでにその初形を失ったものである。また語末の詞には古くは殹を用い、秦の〔新郪虎符しんせいこふ〕に「行け」のようにいう。

也
殹は呪医が矢で病気を祓うときに叫ぶ声を示し、醫(医)の初文。也を用いるのは音の仮借である。後の文章では、終助詞として用いるときに、その用義を示すために他の終助詞と組み合わせることがあり、也已・也矣・也呵・也乎・也乎哉・也哉・也邪・也耶・也与のようにいう。

大漢和辞典

象形。女の陰部にかたどる。乀(フツ、流れる意)に従い、音もまた乀に従う。一説に、它(タ)の字からきたとも、匜(イ)の字と同字であるともいう。

字解

なり。や、なる。や、下を起こす辞。や、呼びかけて指定する辞。や・か、疑問の辞。や・か、反語の辞。かな・や、感嘆の意を表す辞。耳(のみ)の意に用いる。兮の意に用いる。焉の意に用いる。矣の意に用いる。女の陰部。盥器。他に通ず。姓。また、亦よりは意味が軽い、発語の辞。これ。

冶(ヤ・7画)

冶 金文
冶□簋・西周末期

初出:「漢語多功能字庫」による初出は西周末期の金文。

字形:「匕」”やっとこ”+”火床”+「曰」”るつぼ”で、鉱物をるつぼに入れて金属を精錬するさま。原義は”精錬”。

音:カールグレン上古音はdi̯ăɡ(上)。

用例:「漢語多功能字庫」によると、金文では”金工者”(四年昌國鼎・年代不詳)、人名(蘇冶妊盤・西周?)に用いた。

論語では孔子の弟子、公冶長の名として現れる。

学研漢和大字典

会意。ム印は、曲がった棒でつくったすきの形。台は、耜(シ)(=枱。すき)の原字で、人工を加えて作業する意を含む。冶は「冫(こおり)+台(人工を加える)」。河川に人工を加えて調整するのを治(治水)といい、金属を氷の溶けるように溶解して細工するのを冶(ヤ)という。治(チ)は別字。

語義

  1. (ヤス){動詞}鉱石や金属を溶かして細工する。《類義語》鋳。「冶金(ヤキン)」「自冶自陶鋳=自ら冶し自ら陶鋳す」〔袁宏道・喜逢梅季豹〕
  2. (ヤス){動詞}美しく仕上げる。「陶冶(トウヤ)(もと陶器づくりと鋳物づくりが、こねたり溶かしたりすること。転じて、素材に手を加えて、よい物をつくりあげる)」「冶容(ヤヨウ)」。

字通

[形声]声符は台(たい)。台に怡・詒(い)の声がある。〔説文〕十一下に「銷(と)かすなり」とあり、鋳冶の意。字は仌(氷)部に属する字とされるが、金文の字形は、匀(いん)・金などの字形に含まれる鎔塊(ようかい)の形に従う。鋳冶して光彩を発するので、また艶冶の意に用いる。

夜(ヤ・8画)

夜 金文
師𠭰簋・西周末期

初出:「国学大師」によれば初出は甲骨文だが字形が確認できない。「小学堂」による初出は西周中期の金文。ただし西周早期の釈文例がある。

字形:「亦」の右側の点を「月」に変えた形。また一晩また一晩とやってくる夜のこと。

夜 異体字
慶大蔵論語疏は異体字「〔亠亻夕乚〕」と記す。『增廣字學舉隅』(清)所収。

音:カールグレン上古音はzi̯ăɡ(去)。

用例:西周早期「啟卣」(集成5410)に「用夙夜事。」とあり、「夙夜」とは”朝晩”・”毎日”の意。

学研漢和大字典

会意兼形声。亦(エキ)は、人のからだの両わきにあるわきの下を示し、腋(エキ)の原字。夜は「月+(音符)亦の略体」で、昼(日の出る時)を中心にはさんで、その両わきにある時間、つまりよるのことを意味する。腋(からだの両わき)・掖(エキ)(わきをささえる)と同系。類義語に暮。草書体をひらがな「や」「よ」として使うこともある。

語義

  1. {名詞}よ。よる。昼間をはさんで両わきにある暗い時間。《対語》⇒昼。《類義語》夕・宵。「夜半(ヤハン)(よなか)」「夜未半=夜いまだ半ばならず」「夜以継日=夜以て日に継ぐ」〔孟子・離下〕。「冒夜=夜を冒す」「直夜潰囲南出馳走=直夜囲みを潰して南に出でて馳走す」〔史記・項羽〕
  2. {副詞}よわ(よは)。よるおそく。《対語》夙(シュク)。「夙興夜寐=夙に興き夜に寐ぬ」〔詩経・小雅・小宛〕

字通

[会意]大+夕(月)。大は人影の横斜する形にかかれ、人の臥す形とみられる。〔説文〕七上に「舍(やど)るなり。天下休舍す。夕に從ひ、亦(えき)の省聲なり」とする。夜・舍(舎)の畳韻を以て訓するが、舍とは関係がない。

耶(ヤ・9画)

耶 隷書
西陲簡40.4

初出:初出は前漢の隷書

字形:「耳」+「阝」。字形の意味するところは分からない。「邪」の異体字とみて差し支えないと思う。

音:カールグレン上古音はzi̯ɔ(平)。同音に邪

用例:論語子罕篇6論語先進篇28の定州竹簡論語で疑問辞「與」に当てられている。

論語時代の置換候補:邪に疑問辞の語釈があるが、初出は戦国末期の金文

学研漢和大字典

形声。もと邪とかき、「邑+(音符)牙(ガ)」。草書体をひらがな「や」として使うこともある。

語義

  1. {助辞}か。→語法「①-1」。
  2. {助辞}や。→語法「②」。
  3. {助辞}や。→語法「③」。
  4. {助辞}か。→語法「①-2」。
  5. {名詞}ちち。父親のこと。《同義語》⇒爺。「耶嬢」「見耶背面啼、垢膩脚不襪=耶を見て面を背けて啼く、垢膩して脚に襪かず」〔杜甫・北征〕
  6. 「耶蘇(ヤソ)」とは、キリストのこと。▽耶蘇はラテン語Jesus(イエス)の音訳。この耶の中国音はyē。《同義語》⇒耶穌。

語法

①「か」「や」とよみ、

  1. 「~であるか」と訳す。疑問の意を示す。文末・句末におかれる。《同義語》邪・歟。「有女子、自門隙窺之、問曰誰耶=女子有りて、門の隙自(よ)りこれを窺(うかが)ひて、問ひて曰く誰かと」〈女の子が、門の隙間よりこちらをうかがって、どなたですかと問いかけている〉〔孟挑・人面桃花〕
  2. 「~耶、…耶」は、「~か、…か」とよみ、選択の疑問の意を示す。《同義語》邪・歟。

②「や」とよみ、「どうして~であろうか」と訳す。反語の意を示す。文末・句末におかれる。《同義語》邪・歟。▽「況=いわんや」「豈=あに」「寧=いずくんぞ」「何=なんぞ」「安=いずくんぞ」とともに多く用いる。「安敢毒耶=安(いづ)くんぞ敢(あ)へて毒せんと」〈どうして強いてつらいことだと考えようか〉〔柳宗元・捕蛇者説〕

③「や」とよみ、「なんと~か」と訳す。感嘆の意を示す。《同義語》邪・歟。「二年之別、千里結言、爾何相信之審耶=二年の別れ、千里言を結ぶ、爾(なんぢ)なんぞあひ信ずることの審(つまび)らかなるや」〈二年前に別れ、千里離れたところでの約束、お前はどうして彼を信用しきっているのだ!〉〔捜神記・一一〕

字通

[形声]もと邪から分化した字。邪は牙(が)声、耶はその異体の字であるが、邪と別の用義の字として行われる。耶蘇(やそ)のような音訳の字、また爺の略字に用いる。

[形声]声符は牙(が)。牙に形の不正なるものの意がある。〔説文〕六下に「琅邪(らうや)郡」と地名を以て解するが、衺(じや)と通用してその義に用いられる。衺は奇衺(きじや)。呪詛をなすものなどが服するもので、邪悪の意となる。

野(ヤ/ショ・11画)

野 甲骨文 野 金文
甲骨文/大克鼎・西周晚期

初出:初出は甲骨文。ただし字形は「埜」。

字形:「林」+「土」で、原義は”原野”。

音:「ヤ」(上)の音で”のはら”、「ショ」(上)の音で”田舎家”を意味する。カールグレン上古音はdi̯o(上)またはdi̯ɔ(上)。

用例:西周末期「大克鼎」(集成2836)に「易(賜)女(汝)田于埜(野)」とあり、”原野”と解せる。

春秋末期「九里墩鼓座」(集成429)に「攴埜(野)于陳□□山之下」とあり、”野人”(邑の城壁外に住む異民族や邑の隷属民)と解せる。

春秋末期以前で、明瞭の語義が分かるのは以上。

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意兼形声。予(ヨ)は、□印の物を横に引きずらしたさまを示し、のびる意を含む。野は「里+(音符)予」で、横にのびた広い田畑、のはらのこと。▽古字の埜(ヤ)は「林+土」の会意文字。豫(ヨ)(=予。のびのび)・抒(ジョ)(のばす)などと同系。付表では、「野良」を「のら」と読む。

語義

ヤdi̯ɔ(上)
  1. {名詞}の。ひろくのびた大地。▽せま苦しい都市に対して、のび広がった郊外の地。「原野」「曠野(コウヤ)(広く何もないのはら)」「野有死麕=野に死せる麕(おほじか)有り」〔詩経・召南・野有死麕〕
  2. {名詞}天上の二十八宿に応じて、中国を二十八に区分したときのそれぞれの区域。また、のち、区分したそれぞれの範囲のこと。「分野」。
  3. {名詞・形容詞}朝廷に対して、民間のこと。「在野」「朝野一致」。
  4. (ヤナリ){形容詞}そぼくで洗練されていない。ひなびた。《対語》⇒雅(ガ)。「野人」「野性」「野哉由也=野なる哉由也」〔論語・子路〕
  5. (ヤナリ){形容詞}おさえがきかずあらっぽい。かってな。「野心」。
ショdi̯o(上)
  1. {名詞}いなかにある家。畑の中の小屋。《同義語》⇒墅。「別野(=別墅)」。
  2. 《日本語での特別な意味》
    ①野球のグラウンド。「外野」「野手」。
    ②「下野(シモツケ)」の略。「野州」。

字通

[形声]声符は予(よ)。〔説文〕十三下に「郊外なり」とあり、重文として壄を録する。埜に予(よ)声を加えた字である。卜文に埜の字がみえ、金文の〔大克鼎〕に地名に用いる。里は田土に従って、田社の意。埜は林社、叢林の社を意味する字である。都に対して鄙野・樸野、官に対しては在野という。

約(ヤク・9画)

約 楚系戦国文字 論語 約 金文大篆
楚系戦国文字/秦系金文大篆

初出:初出は楚系戦国文字

字形:「糸」+「勺」とされるが、それは始皇帝によって秦系戦国文字を基本に文字の統一が行われて以降の字で、楚系戦国文字の段階では「糸」+「與」の略体「与」で、糸に手を加えて引き絞るさま。原義は”絞る”。

慶大蔵論語疏は崩し字「约」と記す。現行簡体字と同じ。

音:カールグレン上古音はʔi̯oɡ(去)またはʔi̯ok(平)。前者の同音は「要」”引き締まった腰”とそれを部品とする漢字群、「夭」”わかじに”とそれを部品とする漢字群、「葯」”よろいぐさ・くすり”。

用例:「上海博物館蔵戦国楚竹簡」性情論04に「凡物亡不期也者,剛之樹也,剛取之也;柔之約也,柔取之也。」とあり、”まとめる”と解せる。

論語時代の置換候補:同音の「要」には西周中期の金文が存在する。西周末期の「散氏盤」に”まとめる”と読めなくもない用例がある。詳細は論語語釈「要」を参照。

要 金文
「要」是要簋・西周中期

備考:「漢語多功能字庫」には見るべき情報がない。

学研漢和大字典

会意。勺(シャク)は、一部を高くくみあげるさまで、杓(シャク)(ひしゃく)や酌(くみあげる)の原字。約は「糸+勺(目だつようとりあげる)」で、ひもを引きしめて結び、目だつようにした目じるし。要(引きしめる)・腰(細く引きしめたこし)などと同系のことば。

語義

  1. (ヤクス){動詞}一点にむけて引きしめる。小さく細くつづめる。しめくくる。《対語》⇒放・散。《類義語》束(たばねてしめる)。「約髪=髪を約す」「約之以礼=これを約するに礼を以てす」〔論語・雍也〕
  2. (ヤクス){動詞}つづめる(つづむ)。つづまる。細く小さくしめてまとめる。簡略にする。《類義語》要。「要約」。
  3. (ヤクス){動詞・名詞}ひもや帯を引きしめて結びめをつくり、それを見てきめた事を思い出す目じるしとする。また、その目じるし。とりきめ。「約束(結びめの目じるし。転じて、とりきめ)」「予約」「背約=約に背く」「与父老約=父老と約す」〔漢書・高帝〕
  4. (ヤクス){動詞・形容詞・名詞}つづましい(つづまし)。つづまやか(つづまやかなり)。つましく引きしめる。しまりや。つめた生活。《対語》放・漫。「節約」「倹約」「不仁者不可以久処約=不仁者は以て久しく約に処るべからず」〔論語・里仁〕
  5. {副詞}あらまし。つづめていうと。おおむね。《類義語》略(ほぼ)。「約百人」「大約」。
  6. (ヤクス){動詞・名詞}二つ以上の数を共通に割る。また、「約分」の略。「最大公約数」。

字通

声符は勺しゃく(勺)。勺に礿の声がある。勺はものをかがませている形。〔説文〕十三上に「纏束するなり」とあり、約束とは、もと、ものを纏束することをいう。縄などを結んで、ことを約する証とするので、契約の意となる。契はわりふ、また約剤の劑(剤)は、方鼎を示す齊(斉)に、刀で銘刻して証とするもので、特に重要な盟約に用いた。

訓義

むすぶ、たばねる、つかねる、しばる。むすびめ、ちかい、約束、わりふ。ちぢめる、つづまか、はぶく。すくない、よわい、おとろえる、なやむ。いやしい、けち。おおよそ、ほぼ、という。

大漢和辞典

約 大漢和辞典
約 大漢和辞典
約 大漢和辞典

藥/薬(ヤク・16画)

薬 隷書 薬 金文 楽 金文

五十二病方236・秦/樂鼎・西周末期/「楽」𤼈鐘・西周中期

初出:初出は秦代の隷書『五十二病方』。戦国の竹簡にも例があるが、全て「樂」(楽)と釈文されており、篆書の用例は釈文が判然としない。また「小学堂」「国学大師」は初出は西周末期の金文というが、「樂」と比較して、極めて僅かな筆画のくさかんんむりしか描かれておらず、釈文も「樂」であり、「藥」字と判定するのには賛成しない。

字形:「艹」+「樂」(楽)”安らげる”。論語語釈「楽」を参照。西周から戦国にかけて、「樂」(楽)ŋlŏk(入)の字ときわめて近く描かれている。

慶大蔵論語疏は新字体と同じく「薬」と記す。「幺」→「冫」は「居延漢簡」(前漢)写。

音:カールグレン上古音はgi̯ok(入)。同音は無い。

用例:秦「五十二病方」230に「服藥時毋禁」とあり、”くすり”と解せる。

論語時代の置換候補:『大漢和辞典』に同音同訓は無い。

備考:『五十二病方』は「先秦時代の著作とみられる」(遠藤次郎・鈴木達彦「馬王堆出土『五十二病方』に見られる薬の作り方の意義」日本医学雑誌第55巻第2号2009)、「その書寫時期は秦代あるいは秦漢の閒と推定されている」(坂出祥伸「馬王堆漢墓出土「五十二病方」における呪術的治療の一側面」東方宗教(106), 1-16, 2005-11)という。

学研漢和大字典

会意兼形声。「艸+(音符)樂(つぶ状にする)」で、植物の実や根をすりつぶしたくすり。また、病根をつぶす薬草のこと。小さくつぶすの意をもつ。轢(レキ)(車でひきつぶす)・鑠(シャク)(金を摩滅させる)・療(リョウ)(病根をすりつぶす)と同系。異体字「藥」は人名漢字として使える。

語義

  1. {名詞}くすり。病気・傷をなおすのにききめのあるもの。▽人参と薬酒が最も古い。「薬草」「薬餌(ヤクジ)」。
  2. {名詞}つぶ状または粉末で、他に化学作用を及ぼすもの。「火薬」「弾薬」「薬品」。
  3. {動詞}いやす。病気をなおす。《類義語》療。「不足以薬傷補敗=以て傷を薬し敗を補ふに足らず」〔荀子・富国〕
  4. {名詞}しゃくやく(草の一種)のこと。根は薬用。▽「芍薬(シャクヤク)」の略。
  5. 《日本語での特別な意味》やく。「麻薬」の略。

字通

[形声]声符は樂(楽)(がく)。樂に爍・鑠(しやく)の声があり、藥はその声が転じたものであろう。勺(しやく)(約(やく))・釋(しやく)(譯(やく))と同様の関係が考えられる。〔説文〕一下に「病を治す艸なり」とあり、薬草をいう。治療することを𤻲(りよう)といい、療の初文。古くは呪医が鈴を鳴らして邪霊を祓い、治療をしたので、𤻲は樂に従う。〔詩、陳風、衡門〕「以て飢ゑを樂(療(いや))すべし」は、「飢ゑを樂しむ」とよんで賢者退隠の詩とされるものであるが、飢とは飢渇、欲望の不充足をいう。この詩は密会を歌う民謡である。

躍(ヤク・21画)

躍 隷書
蒼頡篇6・前漢

初出:初出は前漢の隷書。

字形:「足」+「翟」音符dʰiok(入)”羽ばたこうとする鳥”。

音:カールグレン上古音はdi̯ok(入)。同音は「礿」”祭りの名”、「龠」”ふえ”とそれを部品とする漢字群。重語「躍躍」の時のみ、漢音で「テキテキ」、呉音で「チャクチャク」と読む。

用例:『孟子』梁恵王篇で孟子が恵王に説教するときに引用した詩が初出。戦国の墨家・道家・法家・雑家には見えず、戦国末期の『荀子』に見え、次いで漢初の『韓詩外伝』に見える。ここから、前漢に出来た言葉=漢字を以前の儒教経典に遡らせて書き付けたことが想像できる。

論語時代の置換候補:上古音の同音同義に「瀹」、初出は後漢の『説文解字』。部品で近音の「翟」は、春秋時代以前では人名の用例しか無い。『大漢和辞典』で同音同訓は「瀹」のみ。

学研漢和大字典

会意兼形声。右側の字(音テキ)は「羽+隹(とり)」から成り、きじなどが尾羽を高くかかげること。躍はそれを音符とし、足を加えた字で、足で高くとびあがること。擢(テキ)(高く抜きあげる)と同系。類義語に踊。異字同訓におどる「踊」。

語義

ヤク
  1. {動詞}おどる(をどる)。高くとびあがる。《類義語》跳(チョウ)。「勇躍」「欣喜雀躍(キンキジャクヤク)(喜んでこおどりする)」「或躍在淵=或いは躍りて淵に在り」〔易経・乾〕
  2. {動詞}おどらす(をどらす)。高くはねあげる。ふりあげる。「躍馬=馬を躍らす」「躍戈衝野陣=戈を躍らせて野陣を衝く」〔高啓・韓擅王墓〕
  3. {形容詞}ひときわ高く目だつさま。はっきりと目にとまるさま。「躍如(ヤクジョ)」。
  4. {動詞}とびあがって走る。▽趯(テキ)に当てた用法。
  5. 「躍躍(ヤクヤク)」とは、はりきってこおどりするさま。
テキ

「躍躍(テキテキ)」とは、こおどりしながら走るようす。▽趯趯に当てた用法。「躍躍胴兎=躍躍たる胴兎」〔詩経・小雅・巧言〕

字通

[形声]声符は翟(てき)。翟に曜・耀(よう)の声がある。翟は鳥が羽を揚げて飛び立とうとする形で、躍はその声義を承ける。〔説文〕二下に「迅(はや)きなり」、〔広雅、釈詁一〕に「上るなり」、〔広雅、釈詁二〕に「跳ぶなり」「進むなり」とあって、跳躍して上がることをいう。そのような力をうちに存する状態を躍如という。

論語語釈
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