論語詳解143雍也篇第六(26)仁者はこれに告ぐ°

論語雍也篇(26)要約:弟子の宰我は弁舌に優れ、古代人らしからぬ合理主義者でした。孔子先生が説く仁の教えも、そんな人いるわけないじゃないですかとからかいます。だからこそ才があるのですが…困った孔子先生は、というお話。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

宰我問曰、「仁者雖吿之曰、『井有仁*焉。』其從之也*。」子曰、「何爲其然也。君子可逝也、不可陷也。可欺也、不可罔也。」

校訂

武内本

清家本により、仁の下に者の字を補う。也の下に與の字を補う。

定州竹簡論語

我a曰:「仁者,唯b告之曰,井有仁者c焉。其從也之d?」子131……「何爲其然也?君子可選e,不可陷也;可欺f,不可罔也。」132

  1. 今本「我」下有「問」字。
  2. 唯、今本作「雖」。唯借為雖。
  3. 阮本「仁」下無「者」字、皇本有「者」字。
  4. 也之、阮本作「之也」、皇本作「之與」。
  5. 可選、今本作「可逝也」。
  6. 今本「欺」下有「也」字。

→宰我曰、「仁者唯吿之曰、『井有仁者焉。』其從也之。」子曰、「何爲其然也。君子可選、不可陷也。可欺、不可罔也。」

復元白文

宰 金文我 金文問 金文曰 金文 仁 甲骨文者 金文論語 唯 金文告 金文之 金文曰 金文 論語 井 金文有 金文仁 甲骨文論語 者 諸 金文論語 安 焉 金文 其 金文従 金文也 金文之 金文 子 金文曰 金文 何 金文為 金文其 金文然 金文也 金文 君 金文子 金文可 金文選 金文也 金文 不 金文可 金文論語 陥 甲骨文也 金文 可 金文諆 金文 不 金文可 金文罔 網 金文也 金文

※仁・陷→(甲骨文)・焉→安・欺→諆。論語の本章は、也の字を断定で用いているなら、戦国時代以降の儒者による捏造の可能性がある。

書き下し

宰我さいがうていはく、仁者じんしやこれげてせい仁者じんしやなんふといへども、これしたがはむいはく、なんすれぞしからむ君子くんしきも、おとしいるるからざるかななりあざむきも、からざるかななり

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 宰我 宰予
宰我が問うて言った。「仁者はその人に、井戸にきっと人がいると言っても、その人はこの言葉に従いますか。」先生が言った。「どうすればそのようになるか。君子を行かせる事は出来るが、落とし入れることは出来ないぞ。だますことは出来るが、ものを見えなくさせることは出来ないぞ。」

意訳

宰我「それでは我らが目指すべき立派な貴族サマとは、”人が井戸に落ちた!”といえば、ノコノコ出てきて、イソイソと井戸に入るようなマヌケですな。」

論語 孔子 説教
孔子「何を言うか。貴族はそう聞いて井戸までは行くだろうが、中に入りはしない。だませはするが、眼力までは奪えぬぞ。理想の貴族ならなおさらだ!」

従来訳

論語 下村湖人
宰我(さいが)が先師にたずねた。――
「仁者は、もしも井戸の中に人がおちこんだといって、だまされたら、すぐ行ってとびこむものでしょうか。」
先師がこたえられた。――
「どうしてそんなことをしよう。君子はだまして井戸まで行かせることは出来る。しかし、おとし入れることは出来ない。人情に訴えて欺くことは出来ても、正しい判断力を失わせることは出来ないのだ。」

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

宰我問:「作為一個仁慈的人,如果有人告訴他:『有個仁慈的人落井了』,他會跳下去嗎?」孔子說:「怎麽能這樣?君子可以去救人,卻不可陷進去;可以受欺騙,卻不可以盲目行動。」

中国哲学書電子化計画

宰我が問うた。「仁慈のある人をだまして、もし彼にこう言ったとします。”仁慈のある人が井戸に落ちた。”彼は飛び込みますか。」孔子が言った。「どうしてそうなる?君子には人を救わせることはできるが、それでもだまして行かせることは出来ない。だまされはしても、むやみな行動は出来ない。」

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

、「 、『 。』 。」 、「 。」


宰我

論語 宰 金文 論語 我 金文
(金文)

宰予。孔子の弟子で合理主義者。詳細は論語の人物:宰予子我を参照。

仁者

論語 仁 金文大篆
「仁」(金文大篆)

論語の本章、「仁者雖吿之曰」では、”理想の貴族”。詳細は論語における「仁」を参照。「井有仁者」の方は、定州竹簡論語がわざわざ「者」を付けて「仁者」に仕立てているが、漢帝国儒教特有の偽善ともったい付けで、単に”人”。論語語釈「者」も参照。

雖→唯

「唯」、カールグレン上古音di̯wərが「雖」si̯wərに通じることは、『大漢和辞典』にも記載がある。論語語釈「雖」論語語釈「唯」を参照。

井有仁焉

論語 井 金文 論語 井戸
「井」(金文)

論語の本章では”井戸に人が落ちた”。「焉」は断定の終助詞で、”てしまった”。詳細は論語語釈「焉」を参照。

君子

論語の本章では、”貴族”。教養人とか人格者とか、そういう面倒くさい意味が付け加わったのは、孔子没後百年後に現れた孟子から。詳細は論語における君子を参照。

本章では、「仁者」を問われた孔子が、「君子」と言い換えて答えていることに注目。「仁者」≒「君子」で、両者はほぼ同義。

逝(セイ)→選

論語 逝 金文 論語 逝
(金文大篆)

『大漢和辞典』の第一義は”行く”。初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȡi̯adで、同音の忕”ならう”・誓・筮”うらなう”・澨”つきぢ・みぎわ”には、”いく”の語義が無い。噬”およぶ”の初出は同じく『説文解字』。

日本語音で同音の𠧟は、カールグレン上古音・藤堂上古音が不明だが、”ゆく”の意があり、甲骨文から存在する。また征のカ音はȶi̯ĕŋで、音通するとは言いがたいが、”ゆく”の意があり、甲骨文より存在する。詳細は論語語釈「逝」を参照。

ここでは使役に読まないと意味が通じない。武内本によると、「よしと信じて進む」事だという。『学研漢和大字典』によると「逝」は会意兼形声文字で、「辵(しんにょう)+〔音符〕折」。ふっつりと折れるようにいってしまうこと、という。

「選」(カ音swɑnまたはsi̯wan)の『大漢和辞典』の第一義は、”やる・おくる”。詳細は論語語釈「選」を参照。

陷(カン)

論語 陥 甲骨文 論語 落とし穴 諂
(甲骨文)

論語の本章では”穴に落ちる・落とし入れること”。論語では本章のみに登場。「陥没」の「カン」。武内本によると、「悪と知りつつ押し通す」事という。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、臽は「人+臼(穴の形)」の会意文字で、穴の中へ人がおちこむことを示す。陷は「阝=阜(土もり)+〔音符〕臽」で、土の穴におちること。

怯(キョウ)(しりごみする)・欠(ケン)(からだをくぼめてあくびをする)・坎(カン)(くぼんだあな)と同系。窞(カン・タン)(あな)ときわめて近い、という。

『字通』によると形声文字で、旧字は陷に作り、臽(かん)声。臽は人が坑坎の中に陥る形。𨸏(ふ)は神の陟降する神梯の形であるから、聖所を守るために陥穽を設ける意の字であろう。そのような土坑を埳井という、という。

欺(キ)

論語 欺 金文大篆 論語 孔子 なまはげ
(金文大篆)

論語の本章では”だます”こと。武内本によると、「いつわる」事という。初出は後漢の『説文解字』で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkhi̯əɡで、同音に僛”酔って舞う”・起・杞(国名)・屺”はげ山”・芑”白い穀物”。

近音ki̯əɡに諆があり、”だます”の意を持ち論語時代の金文が存在する。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、其(キ)は、四角い箕(ミ)を描いた象形文字。旗(四角いはた)や棋(キ)(四角い碁盤)などに含まれて、四角くかどばった意を含む。欺は「欠(人がからだをかがめる)+〔音符〕其」で、角ばった顔をして見せて、相手をへこませること。

魌(キ)(四角いお面をつけて、鬼どもを追い払う)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「欺」を参照。

罔(モウ)

論語 罔 網 甲骨文 論語 罔 金文大篆
(甲骨文・金文大篆)

『大漢和辞典』による原義は”網”だが、論語の本章では盲と音が通じて”暗い・暗くする”。武内本によると、「共謀して悪をなす」事という。詳細は論語語釈「罔」を参照。

論語:解説・付記

昼寝の話(論語公冶長篇9)といい本章といい、宰予のいい話は論語の中にないが、それでも一説に三千人居たという弟子の中から、優秀な十人の中に孔子は数えている。この点『史記』孔子世家には、以下のような宰予の話を載せる。

楚の宰相、子西が楚の昭王に言った。

「王が諸侯に遣わす使者で、子貢ほどの者がいますか。」王は言った。「おらぬ。」
「王を補佐する大臣で、顔回ほどの者がいますか。」王は言った。「おらぬ。」
「王が軍を任せる将軍で、子路ほどの者がいますか。」王は言った。「おらぬ。」
「王の官吏をとりまとめる者で、宰予ほどの者がいますか。」王は言った。「おらぬ。それゆえ孔子を招くのじゃ。」

中国の諺に、「傍(はた)から観る者の目は清(す)んでいる」とあるという。孔子は弁舌の才で宰予を評価したが、部外者からは行政の才を評価されていたことになる。史料からは綺麗さっぱり消されているが、宰予が仕官して業績を挙げたことがあったのだろう。

なお孔子は楚の昭王の元へ向かう時、宰予と子貢を引き連れている。実際に昭王と子西は、宰予に会ったのだろう。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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