論語詳解212子罕篇第九(8)われ知る有るかな*

論語子罕篇(8)要約:古来文意不明と言われてきた一節。呉国と組んだ先生は、その知識の限りを尽くして政治工作に励み、出尽くすほどの策を呉国に授けてきました。しかし最近様子がおかしい、もしや呉国は危ないのではないかと。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

子曰、「吾有知乎哉、無知也。有鄙夫*問於我、空空如*也、我扣其兩端而竭焉。」

校訂

武内本

清家本により、夫の下に来の字を補う。空空如、鄭本悾悾如に作る。

定州竹簡論語

……智a□哉?無智a也。有鄙夫b問乎c我,空空d如□219……[兩端]而竭焉。」220

  1. 智、今本作「知」。
  2. 皇本「夫」下有「來」字。
  3. 乎、今本作「於」字。
  4. 空空、『釋文』云、「空空、鄭本或作悾悾、同、音空」。

→子曰、「吾有智乎哉、無智也。有鄙夫問乎我、空空如也、我扣其兩端而竭焉。」

書き下し

いはく、われ乎哉かなかななり鄙夫ひふりてわれひ、空空如くうくうじよかなたりわれ兩端りやうたんたたつく

復元白文

子 金文曰 金文 吾 金文有 金文智 金文乎 金文哉 金文智 金文也 金文 有 金文鄙 金文夫 金文問 金文於 金文我 金文 論語 空 金文論語 空 金文如 金文也 金文 我 金文其 金文両 金文耑 金文 父辛耑觚 商代晚期 集成7141而 金文匃 金文安 焉 金文

※論語の本章は扣が論語の時代に存在しない。おそらく也の字を断定で用いている本章は漢帝国以降の儒者による捏造である。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 孔子 切手
先生が言った。「私に知識があるか。知っていることはない。田舎者が私に問うた、空っぽだ。私はその両端を叩いて出し切った。」

意訳

ニセ孔子
(前章からの続き)これ子貢よ。私は物知りとは云えぬよ。呉の田舎者があれこれ聞いたので、政治の手練手管を、酒壺を叩いて出すように出し切ったが、最近様子が怪しいではないか。

従来訳

論語 下村湖人

先師がいわれた。
「私が何を知っていよう。何も知ってはいないのだ。だが、もし、田舎の無知な人が私に物をたずねることがあるとして、それが本気で誠実でさえあれば、私は、物事の両端をたたいて徹底的に教えてやりたいと思う。」

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

孔子說:「我知識豐富嗎?我無知埃有個農民問我,他提出的問題,我一無所知,我問了事情的來龍去脈後,才徹底清楚了。」

中国哲学書電子化計画

孔子が言った。「私の知識は豊富か?私は無知だ。ある農民が私に質問して、彼が出した問いに対し、私は全く知る所が無かった。私は問いのいきさつを調べたあと、やっとはっきりと分かった。」

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

知→智

論語の本章では”知る”。論語の時代は、共に書き分けられず「智」の古形で記した。詳細は論語語釈「知」を参照。

乎哉(かな・コサイ)

論語 乎 金文 論語 哉 金文
(金文)

二文字で詠嘆を表す、と『大漢和辞典』に言う。一字ずつ分解すると、「乎」は疑問、「哉」は詠嘆で、”知ることあるかなぁ”という訳になる。論語語釈「乎」論語語釈「哉」を参照。

鄙夫(ヒフ)

論語 鄙 金文大篆 論語 夫 金文
(金文)

”田舎おやじ”。論語の本章では呉国王・夫差や、その宰相・伯を指す。論語語釈「鄙」論語語釈「夫」も参照。

空空如

論語 空 金文 論語 空
「空」(金文)

論語の本章では”からっぽであるさま”。武内本には「つつしめる貌」とあるが、漢字の原義に従った。

詳細は論語語釈「空」論語語釈「如」を参照。

扣(コウ)

論語 扣 金文大篆 論語 扣
(金文大篆)

論語の本章では「叩」と同じ。そう記す版本もある。論語では本章のみに登場。

初出は戦国文字で、論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はkʰu(上/去)。同音に摳(平)”ひきかける”、口、釦”わめく”、叩、竘”すこやか”(以上上)、寇”あだなす”、怐”おろか”、詬”はずかしめる”(以上去)。「叩」も初出は『説文解字』にすら見られない。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、口は、くぼんだ穴。うしろや下にくぼむ意を含む。扣は「手+(音符)口」で、進むものを引き止めて、うしろにくぼませる。つまり、ひかえることを、あらわす。▽控(ひかえる)はその語尾がxに転じた語。また殻(かたい物でこつんとたたく)や叩(コウ)(こつんとたたく)に当てる。「控」に書き換えることがある、という。

『字通』によると形声文字で、声符は口(こう)。馬の口をとってひかえる意。〔説文〕十二上に「馬を牽くなり」とあり、馬の轡をとる意とする、という。

論語の本章では”尽くす”。初出は後漢の『説文解字』。論語の時代に存在しない。論語時代の置換候補は、部品の曷の部品の「匃」(カツ、カ音ɡʰɑt)。詳細は論語語釈「竭」を参照。

竭焉(ケツエン)

論語 竭 金文 論語 焉 金文
(金文)

論語の本章では、”尽くし(竭)終えた(焉)”。すっかり出し切ってしまった、ということ。

論語 焉 金文 論語 辞
「焉」(金文)

「焉」は論語のここでは”…てしまった”という完了を意味する。まるで判決が出てしまったように、”あーあ。終わった”という語気を示す。詳細は論語語釈「焉」を参照。

我扣其兩端而竭焉

論語 缶

論語当時の酒瓶には上掲「缶」があり、漏れやアルコールの揮発を防いだのだろう。それ以外の酒瓶には気密性が低いものが多いが、当時の技術では5%程度の酒しか醸せなかっただろうし、食卓に並べてすぐ呑むのなら、「缶」でなくともよかったはず。

ともあれ酒を蓄えるには大きな酒瓶に入れて口を布と泥で密封するか、「缶」を使うしかなかったはず。「両端を叩いて」というのは、「缶」を叩いてしずくを出すような様と解した。

論語:解説・付記

論語泰伯篇と、この子罕篇は、各章をぶつ切りの話として読むと面白く無いが、孔子一門と呉とのやりとりとして読んだとたん、生き生きしてくる。呉国は国王さえ体に入れ墨し、髷を切ってザンバラ髪という、いまだ野蛮性を残した国だった。それだけに強兵だったのだろうが、国王夫差を孔子一門が焚き付けて、いろいろと政治外交の手練手管を伝えたのである。
論語 呉王夫差 論語 孔子 へつらい

なお上掲の「缶」はまた「缻」(フ)とも書き、西方の秦国では酔っぱらうと、これをチャンチキ叩いて歌う風習があった。『史記』戦国時代の名シーンの一つ、趙の名宰相・リン相如ショウジョが、秦王にこれを叩かせて恥をかかせるくだりは、漢文業界に名高い。詳細はこちら

最後に儒者の感想文。

古注『論語集解義疏』

子曰吾有知乎哉無知也註知者知意之知也言知者言未必盡也今我誠盡也有鄙夫來問於我空空如也我叩其兩端而竭焉註孔安國曰有鄙夫來問於我其意空空然我則發事之終始兩端以語之竭盡所知不為有愛也疏子曰至竭焉 云吾有知乎哉無知也者知謂有私意於其間之知也聖人體道為度無有用意之知故先問弟子云吾有知乎哉也又云無知也明已不有知知之意也即是無意也云有鄙夫來問於我空空如也者此舉無知而誠盡之事也鄙夫鄙劣之夫也空空無識也言有鄙夫來問我而心抱空虛如也云我叩其兩端而竭焉者兩端事之終始也言雖復鄙夫而心虛空來問於我我亦無隠不以用知處之故即為其發事終始竭盡我誠也即是無必也故李充云日月照臨不為愚智易光聖人善誘不為賢鄙異教雖復鄙夫寡識而率其疑誠諮疑於聖必示之以善惡之兩端已竭心以誨之也繆協云夫名由跡生故知從事顯無為寂然何知之有唯其無也故能無所不應雖鄙夫誠問必為盡其本末也 註知者至盡也云知者知意之知者知意謂故用知為知也聖人忘知故無知知意也云言知者言未必盡者若用知者則用意有偏故其言未必盡也云今我誠盡者我以不知知故於言誠無不盡也

本文「子曰吾有知乎哉無知也」。
注釈。知とは思いを知るという意味での知である。知と言った所で、思いを言い尽くせはしない。しかし今は、”私は思いを知り尽くしている”という表明である。

本文「有鄙夫來問於我空空如也我叩其兩端而竭焉」。
注釈。孔安国「田舎者が孔子のところへ来てものを尋ねたが、中身の無いことばかりだった。どうにかしてやろうと思い、言っている事の初めから終わりまで、分かるように惜しみなく教えてやった、ということである。」

付け足し。先生は言い尽くすことの窮極を言った。疏子曰至竭焉 云吾有知乎哉無知也者知謂有私意於其間之知也聖人體道為度無有用意之知故先問弟子云吾有知乎哉也又云無知也明已不有知知之意也即是無意也云有鄙夫來問於我空空如也者此舉無知而誠盡之事也鄙夫鄙劣之夫也空空無識也言有鄙夫來問我而心抱空虛如也云我叩其兩端而竭焉者兩端事之終始也言雖復鄙夫而心虛空來問於我我亦無隠不以用知處之故即為其發事終始竭盡我誠也即是無必也故李充云日月照臨不為愚智易光聖人善誘不為賢鄙異教雖復鄙夫寡識而率其疑誠諮疑於聖必示之以善惡之兩端已竭心以誨之也繆協云夫名由跡生故知從事顯無為寂然何知之有唯其無也故能無所不應雖鄙夫誠問必為盡其本末也 註知者至盡也云知者知意之知者知意謂故用知為知也聖人忘知故無知知意也云言知者言未必盡者若用知者則用意有偏故其言未必盡也云今我誠盡者我以不知知故於言誠無不盡也

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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