論語詳解258先進篇第十一(5)南容白圭を三たび°

論語先進篇(5)要約:孔子先生の弟子の南容は、古い歌の教えから、言葉を慎重にするよう心掛けていました。自身はかなりのおしゃべりであった先生は、そんな南容を高く評価するのでした。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

南容三復白圭、孔子以其兄之子妻之。

復元白文

南 金文 公 金文三 金文復 金文白 金文論語 圭 金文 孔 金文子 金文㠯 以 金文其 金文兄 金文之 金文子 金文論語 妻 金文之 金文

※容→公。固有名詞のため、同音・近音のいかなる漢字も置換候補になり得る。

書き下し

南容なんよう白圭はくけいを三たびくりかえす。孔子こうしあにもつこれめあはす。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 南容
南容は白ケイの歌を三度繰り返した。孔子はその兄の娘を妻合わせた。

意訳

♪キュッ、キュッ、キュッ、
♪磨いてキュッ、
♪傷を取りましょ、玉の傷。
♪言っ、ちゃっ、た、
♪やらかした、
♪言葉は怖いな、取れないな。

論語 孔子 褒める
…おや? 南容がまたいい歌を歌っているな。兄の子をめあわせてやろう。

従来訳

論語 下村湖人

南容は白圭の詩を日に三たびくりかえしていた。先師はそれを知られて、ご自分の兄の娘を彼にめあわされた。

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

南容經常朗誦有關言談謹慎的詩篇,孔子就把侄女嫁給了他。

中国哲学書電子化計画

南容はいつも言葉を慎む歌を口ずさんだ。そこで孔子はめいを嫁にやった。

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

南容

論語 南 金文 論語 容 金文
(金文)

論語の本章では、孔子の弟子。論語公冶長篇1にも記載がある。

論語憲問篇6に見える南宮括ナンキュウカツを南容=南宮子容だとする説がある。南宮氏は魯国門閥家老家の孟孫氏の分家だが、南宮括は父の遺命で無名の庶民だった孔子に師事し、共に洛陽へ留学し老子から教えを受けた。だが孔子とは家格が釣り合わず、縁戚になるとは思えない。

容の字は論語の時代に存在せず、現行書体では宀+谷だが、上古では宀+公だったとされる。すると姓の「南宮」と、あざなの「公」=”朝廷の評議が行われる庭”が対応し、春秋時代の字の原則にかなう。詳細は論語語釈「容」を参照。

白圭

白 金文 論語 圭 金文
(金文)

「圭」は四角いたま。『詩経』大雅巻にみえる「抑」の歌がそうだとされる。ただし「玷」の字は甲骨文にも金文にも存在しない。

白圭之玷、尚可磨也。/白き圭(たま)の玷(か)けたるは、尚お磨くべきなり。
斯言之玷、不可為也。/この言の玷けたるは、為すべからざるなり。
論語 三才図会 圭

『三才圖會』所収「圭」(ケイ)。東京大学東洋文化研究所蔵

なお論語の時代、「白」と「伯」は書き分けられておらず同じ文字=言葉。

『学研漢和大字典』によると「白」は象形文字で、どんぐり状の実を描いたもの。下の部分は実の台座、上半は、その実。柏科の木の実のしろい中みを示す。柏(ハク)(このてがしわ)の原字。帛(ハク)(しろい布)・粕(ハク)(色のないかす)・皅(ハ)(しろい)・覇(ハ)(月のほのしろい輪郭)などと同系のことば、という。詳細は論語語釈「白」を参照。

其兄

論語 其 金文 論語 兄 金文
(金文)

「其」は”その”。詳細は論語語釈「其」を参照。孔子には異母兄がいたとされ、名は孔皮といい、足が悪かったと言われる。詳細は孔子の生涯(1)を参照。論語語釈「兄」も参照。

論語:解説・付記

論語時代も東西の古代世界同様、結婚と恋愛は別であり、貴族階級の場合は政略結婚だった。孔子はすでに貴族階級の仲間入りをしていたが、成り上がり者でもあり、門閥との結婚は皆無とは言えないが可能性は低い。従って南容は南宮括=孟子の弟・南宮敬叔ではないと思う。

それともう一つ、論語を読むと奇異に感じることがある。孔子が高く評価した弟子にも関わらず、何をしたか史料が沈黙している弟子が複数居ることだ。もしいずれかの代官になるなり、善政を行うなりしたら、孔子と一門を神格化することで飯を食った儒者が放置しないだろう。

あらゆる想像力をかき立てて、是が非でも聖人の弟子伝説をこしらえるに決まっている。現に曽子はそうなっている。しかし史料に煙のように事跡が消去されているのは、事跡が明らかでなかったのではなく、明らかに出来ない事情が当時からあったことを示している。

論語 弟子 工作員
南容もまた、孔子の政治工作に従った一人なのだろう。そして饒舌な孔子が南容の饒舌を戒める歌を評価したと言うのは、寡黙を評価したことに他ならない。それは政治工作を行う人間として、ふさわしいと言えるのではなかろうか。孔子は南容に、それを期待したのだろう。

そして孔子が兄の子とめあわせたというのは、論語公冶長篇に記す公冶長同様、縁戚となることで南容の忠誠心を買ったということだ。公冶長篇で南容を、乱れた世で刑罰に遭わない、と言ったのは、南容に何か特殊な能力を見たか、背景に何らかの勢力があったということだ。

孔子の弟子で、子路の義兄でもある顔濁鄒ガンダクスウは、魯国・斉国の間にある梁父山に、多くの子分を抱える任侠道の親分だったという(『呂氏春秋』)。その子分の多くが、孔子一門に入門して弟子になったと『史記』孔子世家に言う。南容はその一員だったのかも知れない。

孔子の配下には、こうした実働部隊もいたのだ。

最後に、南容が歌ったとされる『詩経』大雅・蕩之什・「抑」の現代語訳を記しておく。

  1. 抑抑威儀、維德之隅。(慎み深いその威儀は、まことに人格力の極みを示し)
    人亦有言、靡哲不愚。(大いに人も言い回る、悟った者にバカはいないと)
    庶人之愚、亦職維疾。(だが世の中バカばかり、実にまことに腹が立つが)
    哲人之愚、亦維斯戾。(哲人を装う馬鹿者こそが、まことに人間のクズなのだ)
  2. 無競維人、四方其訓之。(目立とうと企まぬ人こそが、四方の民の模範であり)
    有覺德行、四國順之。(慎重に力を使う者にこそ、四方の国が従うのだ)
    訏謨定命、遠猶辰告。(広い視野から政令を定め、時を選んで諸国に告げれば)
    敬慎威儀、維民之則。(慎み深い威儀こそが、民の模範となるであろう)
  3. 其在于今、興迷亂于政。(ところが今の世ときたら、狂った欲が政治を乱し)
    顛覆厥德、荒湛于酒。(能なしが人の上に立ち、酒を飲んでは酔い潰れる)
    女雖湛樂從、弗念厥紹。(お前も快楽にふけっており、先祖と子孫を思わない)
    罔敷求先王、克共明刑。(先王の事跡を知ろうとせず、正しい裁きも行わない)
  4. 肆皇天弗尚、如彼泉流、無淪胥以亡。(だから天も見捨ててしまい、あの泉の流れのように、すっかり流され滅ぶのだ)
    夙興夜寐、洒掃廷內、維民之章。(早起きし深夜まで働き、朝廷を掃き清めることこそ、民の模範と言うべきだ)
    脩爾車馬、弓矢戎兵。(お前の戦車と引き馬、弓矢と武器を整えて)
    用戒戎作、用逷蠻方。(慎重に戦略を練って戦を始め、蛮族どもを追い払え)
  5. 質爾人民、謹爾侯度、用戒不虞。(お前の民をよく教え、主にふさわしく振る舞って、気を付けることで心配を無くせ)
    慎爾出話、敬爾威儀、無不柔嘉。(言葉に気を付け、態度に気を付け、穏やかに振る舞え)
    白圭之玷、尚可磨也。(白い宝石の傷は、それでも磨き落とすことが出来る)
    斯言之玷、不可為也。(言ってしまった言葉の誤りは、どんな手でも取り返せない)
  6. 無易由言、無曰苟矣。(言葉を侮るべきではない、出任せを言うべきではない)
    莫捫朕舌、言不可逝矣。(舌はまことに押さえがたく、言葉に追いつく術はない)
    無言不讎、無德不報。(言えば必ず仕返しされ、やれば必ず報いがある)
    惠于朋友、庶民小子、子孫繩繩、萬民靡不承。(だから友に手厚く、広く民にも手厚くすれば、子孫は永遠に続くだろうし、万民が従って刃向かわない)
  7. 視爾友君子、輯柔爾顏、不遐有愆。(お前の友と会うときは、お前の表情を温和にし、威張って嫌われるようなことをするな)
    相在爾室、尚不媿于屋漏。(お前の部屋で祈るときも、かまどの神に恥じるようなことをするな)
    無曰不顯、莫予云覯。(誰も見ていないと言うな、神の業に兆しは無いゆえ)
    神之格思、不可度思、矧可射思。(神の思いは、想像も出来ない、当て得ぬ事はなおさらだ)
  8. 辟爾為德、俾臧俾嘉。(おのれのみに頼り、力を隠し幸いを招き)
    淑慎爾止、不愆于儀。(自分の立場を慎み、威儀を正して過たず)
    不僭不賊、鮮不為則。(驕らず犯さず、はみ出すこと少なかれ)
    投我以桃、報之以李。(桃を貰って、スモモで返すは)
    彼童而角、實虹小子。(子牛に角を求めると同じ、まことにお前を乱そうぞ)
  9. 荏染柔木、言緡之絲。(いやが上にも柔らかな木は、細い糸にも譬えうる)
    溫溫恭人、維德之基。(温和で慎み深い人柄は、これこそ力のもといなのだ)
    其維哲人、告之話言、順德之行。(だから悟った人ならば、この話を言い聞かせ、力の用い方を心得ている)
    其維愚人、覆謂我僭。(だが愚か者どもは、これに反して私をウソつき呼ばわりする)
    民各有心。(まことに人の心はそれぞれだ)
  10. 於乎小子、未知藏否。(ああお前よ、いまだ得失を知らぬ者よ)
    匪手攜之、言示之事。(手を引いてやることは出来ぬゆえ、言葉で示そう)
    匪面命之、言提其耳。(姿を見せることは出来ぬゆえ、耳を開けて言ってやろう)
    借曰未知、亦既抱子。(まだ分からぬと言い逃れるな、実にもう子を抱く歳ではないか)
    民之靡盈、誰夙知而莫成。(民が繁栄しない原因を、誰が事前に知って防ぐというのか)
  11. 昊天孔昭、我生靡樂。(天ははなはだ明らかに、我が人生に楽しみは無いと言う)
    視爾夢夢、我心慘慘。(なのにお前を見れば何も知らず、私の心は傷むばかり)
    誨爾諄諄、聽我藐藐。(とくと語って聞かせても、私の話を馬鹿にする)
    匪用為教、覆用為虐。(もう教える手立ても無い、叩き込む手立ても無い)
    借曰未知、亦聿既耄。(もし何も知らないとしても、その上聞く耳の無い年寄りのよう)
  12. 於乎小子、告爾舊子。(ああお前よ、そもそもこうなった理由を教えてやろう)
    聽用我謀、庶無大悔。(良く聞いて確かに従え、大きな後悔を望まぬなら)
    天方艱難、曰喪厥國。(天は今こそ苦難を与え、この国を滅ぼそうとしつつある)
    取譬不遠、昊天不忒。(その前例は遠くには無いぞ、天の業にハッタリは無いぞ)
    回遹其德、俾民大棘。(お前の力をよこしまに用い、大いに民を苦しめるなら)

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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