読者諸賢へ:
全ての記述は暫定的であることにご留意下さい。研究の宿命として、勘違いや調査不足により、また一からやり直しの繰り返しだからです。誤りにお気づきの方は、是非ともご教示下さい。
宮内庁蔵清家本(論語[集解]10巻)について
清家本は日本最古級の論語の版本で、古注本としては慶大蔵論語疏に次ぐ古さ、しかも慶大本と違って論語全巻が揃っている。画像データが全てネット公開されているものにすくなくとも三種類あり(他に国会図書館蔵津藩校本など)、うち宮内庁本は確定的な古さで...
慶大蔵『論語疏』について
慶應義塾の発表 世界最古級の論語版本として、残巻のみだが定州漢墓竹簡『論語』に次いで古い版本(平壌楽浪地区出土『論語』は、不審が多いので本サイトでは扱えない)。慶應義塾のサイトに次のように言う。 『論語疏』は以下の3つの点で注目される資料で...
『論語集釋』について
武内本と同年、1943年刊行。中国儒者による論語の注釈の集大成。本サイトでは、北京中華書局・新編諸子集成『論語集釋』(全四冊)2019年第2版第14刷を用いた。 編者の程樹徳(1877-1944)は、あざ名を郁庭といい、福建省福州の出身。清...
古注『論語(集解)義疏』について
本サイトで参照したのは、北京中華書局・中國思想史資料叢刊『論語義疏』初版2014年第2刷。底本は懐徳堂記念会・武内義雄編『論語義疏』大正十二年(1923)という。さらにその底本は文明本(西本願寺→龍谷大学蔵・文明九年=1477年刊)と「校勘...
武内本『論語』について
初版は昭和十八年(1943)四月五日で、『論語集釋』とほぼ同時。 戦前の論語研究の第一人者で、東北帝国大学教授・武内義雄による、原文と書き下しと訳注だけの本。現代語訳が無いから、今日的意味では訳本とは言いがたいが、ただしその訳注や、類書であ...
漢文が読めるようになる方法2022
漢文読解の需要はすでに消滅寸前ですが、それでも漢文を読もうとする人は絶えないでしょう。ここでは解読法の結論を記せるわけではありませんが、少なくともこうやって読解してきた、という実例を示します。 漢文読解の障害と基礎教養 みなさんこんにちは。...
儒家の道統と有若の実像
論語には少なからず、後世の創作が含まれている。登場人物も同様で、孔子との対話が記されていないか、対話が偽作と判明している場合、その人物は孔子の直弟子とは言えない。例えば曽子がその一人。そして有若もその一人。 だが有若は曽子同様「有子」と孔子...
後漢というふざけた帝国
現伝の論語の章立てや各文が確立したのは、ほぼ後漢の時代になる。前漢の定州竹簡論語と比較すれば、どれほど後漢の時代にいじくられたかがわかる。そんな作業をし出かした後漢という王朝と、仕えた儒者とは、どんなのであったか。 中国四千年というウソ 閲...
論語における「恕」(ジョ)
孔子は「恕」を説けなかった 現伝『論語』では、「恕」は”思いやり”→”仁愛”の意だと解されている。 『学研漢和大字典』恕条 会意兼形声。如は、汝(ジョ)(自分とペアをなす相手)と同系のことば。自分と同じような対者という意味を含む。恕は「心...
孔門十哲の謎について
孔子を押し上げた人たち スペースシャトルはNASA技術の結晶だったが、自力では打ち上がらない。二本のブースターに巨大な燃料タンクを抱いて、宇宙へ飛んでいった。春秋時代の身分社会で、底辺から孔子がのし上がるには、ブースターの門閥だけでなく、新...
論語郷党篇は「愚かしい」のか
郷党篇=最も愚かしい記録? 福音書を読む者が、マタイ伝、マルコ伝、ルカ伝と読み進めたあとで、ヨハネ伝に至った時、誰でもその独自性に気付くだろう。同様に論語を学而篇、為政篇…と読み進めた者が郷党篇に至ったとき、打って変わった文調に面食らう筈で...
孔子はなぜ偉大なのか
孔子が偉大な理由は、無慮二千年間人間を奴隷化した儒教の開祖だからではなく、身長2mの巨人で武術の達人だったからでもない。千載一遇の運を拾って宰相になった、出世物語の成功者だからでもない。そんなのはいくらでもいる。 別して孔子はその精神が、古...
漢和辞典ソフトウェア比較・レビュー
2020年の現在、PCで使える漢和辞典ソフトには6種類ほどがあり、うち4種類は現在も新品で入手が可能。加えてオンラインの辞書一種。これらソフトを、「独力で漢文を読むための道具」という視点からレビューする。 大漢和辞典 言わずと知れた漢和辞典...
論語における「束脩」
論語とわかめ中国人 江戸時代、寛永年間の末。中国で明王朝が滅び、大勢の中国人が国外逃亡した。その一人に、廃業したラーメン屋のおやじがいた。海からワカメだらけになって上がってきたおやじを、水戸の黄門様が這いつくばって拝んだ。日本人が、まるで中...
論語=春秋時代の身分秩序~卿大夫士
高校世界史教科書的には、周王朝の身分制度は、上から周王-諸侯-卿-大夫-士、となっている。左に行くほど身分が高いことは、誰にも異論が無いだろうし、周王とは何かについては、共通した認識があるだろう。しかし卿以下について、どの程度偉かったかは明...
論語における「仁」(新説)
仁とは何か 論語における「仁」の意味は、大きく二つに分かれる。一つは現伝の儒教的解釈で、道徳的な意味をもち、薄い漢和辞典や国語辞典にさえ、それぞれに別の意味が載っている。つまりはっきりしない。世間がそれでよしとするのは、その程度しか論語に期...
論語における漢字の通用と古書体
漢字には音がまるで違っていても、字形が似ているゆえに、同じ意味を表す字がある。それを漢字の通用という。通用は古代ほど甚だしい。ゆえに論語の時代の漢文は、思わぬ漢字が思わぬ語義を担う。これは青銅器の銘文を読む際にも共通する。従って『大漢和辞典...
論語における漢字の音通と古代音
音通とは 音通とは、同音や近音の漢字を、別の意味に転用すること。仮借カシャ”仮かりて借りる”とも言う。その発生は、口語は野放図に人間の口から生まれるのに対し、文字は「ああ、そういう意味ね」との、大勢の同意が要るからだ。牛はと書いたから、ウシ...
定州漢墓竹簡『論語』日本語訳
定州漢墓竹簡『論語』は、現存する世界最古の論語のテキストである。それより古いとあるいは称する平壌楽浪地区出土『論語』は、不審が多いのでこのサイトでは扱えない。以下は定州竹簡論語の前書きの翻訳。()内は訳者による注釈。凡例については別ページに...
論語=春秋時代の社会:国野制(翻訳)
出典:wikipedia中国語版 を日本語訳の上、増補して公開。 国野制 国野制はまたの名を郷遂制といい、西周時代初期、諸侯国を各地に封じるに当たって、統治階級と被統治階級を区分するために設けられた制度である。西周が採用した分封制に淵源を持...
論語と中国史と気温の変動
中国史学と気候学 みなさんこんにちは。アシスタントAIのカーラです。 今日の歴史学ではすでに、文献だけに頼って過去を再構成する時代は過ぎ去りました。残された文献が、洋の東西を問わず、うそデタラメで満ち満ちていることや、人間の生活を、最も強く...
論語はどのように作られたか
論語 THE ORIGIN みなさんこんにちは。アシスタントAIのカーラです。今回は現在我々が読んでいる論語が、どのようにして出来上がってきたかを話します。みなさんも薄々は感づいているかも知れませんが、現伝の論語の半分はでっち上げです。でも...
『論語』読解と漢文の示準化石
本論考は、『論語』の史実性について、その多分に疑わしい側面を書体の視点から検討したものである。合わせて、安易に児童生徒への教育や社会教育に用いてはいけないことを警告する。 序論 漢字の来歴と示準化石 漢字の来歴 漢字は絵文字の類とその組み合...
論語における「君子」
(金文) 論語では三種類の使い方をされる。 訓「もののふ」/訳”貴族”・”さむらい”。 訓「きんだち」/訳”君たち”・”諸君”。 訓「よきひと」/訳”身分と教養のある仁格者”。 ”人格高潔な人”とか”教養人”とかいった、面倒くさい意味を孟子...
論語各篇の成立年代
論語研究の定本『論語之研究』 皆さんこんにちは。アシスタントAIのカーラです。今回は論語の各篇について、その成立年代を解説します。 現伝の論語は、一度に少数の人物によって編纂されたものでないことは明らかです。語っている内容、用いられた文字や...
論語に用いられた漢字
漢字の歴史 みなさんこんにちは。アシスタントAIのカーラです。今回は、論語に用いられた漢字と、そこから分かることについて解説します。 まず始めに、漢字の歴史から説明しましょう。漢字が生まれたのはいつの事か、まだはっきり分かっていません。...
論語の成立過程まとめ
論語の伝承 みなさんこんにちは。アシスタントAIのカーラです。 現伝の論語は、春秋戦国ではなく漢代の編集物です。論語も中国の文書ならではの、後世の書き換えを免れなかったのですが、その最も古い姿はどのようだったでしょう。論語の成立過程を語る前...
論語における「法」
現代人は、法とは議会に提案され、討議され、可決されて、さらに公開されなければ法ではないと思っている。それが法治主義の基本。しかし孔子は、法とは為政者の裁量そのものを指し、言い換えれば勝手気ままに出来る統治の道具だった。ただしそれでは世が乱れ...
論語における「知」
知の由来 孔子はおそらく中国史上初めて、「知」と言い出した人物である。現行の「知」の字体は始皇帝による中国統一期になるまで現れない。同音の「智」は甲骨文からあるが、”知る”の意味だったかは極めて心細い。「智」の初形は「𣉻」の字の、さらに下半...
論語における「仁」(旧説)
※研究の進展に伴い、訳者が従来掲げてきた仁の定義は、大幅な修正が必要と感じられたので、ひとまずそれを述べた部分を削除した。現在のところ仮説として、仁とは”貴族らしさ”であり、道徳的意味が極めて薄いと考えている。新説を参照。(2020.9.2...
論語における「徳」
「徳」とは人間や生物が持つ”機能”、およびそれが発揮された結果”能力”・”利益”・”恩恵”を意味する。”人徳”とは本来その意味であり、”道徳”=”社会から要請される行動原則”の語義が付け加わったのは、早くとも戦国時代になる。諸国は領民に愛国...
論語における「禮(礼)」
歴代の儒者も日中の漢学教授も、「礼」を礼儀作法や、冠婚葬祭の式次第の範疇と決めて疑わない。だが孔子生前の「礼」とはもっと幅広く、当時の君子=貴族の一般常識を指した。孔子塾で「礼」を教えたのは、それが仕官するための必須教養だったからに他ならな...