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古注『論語(集解)義疏』について

本サイトで参照したのは、北京中華書局・中國思想史資料叢刊『論語義疏』初版2014年第2刷。底本は懐徳堂記念会・武内義雄編『論語義疏』大正十二年(1923)という。さらにその底本は文明本(西本願寺→龍谷大学蔵・文明九年=1477年刊)と「校勘記」にある

文明本を筆写したのはおそらく本願寺の僧侶だろうが、それまでの日本伝承古注(慶大本→清家本→正平本)と異なり、経(本文)を書き改めた箇所が少なくない。それらは唐石経を参照した結果と言えるものだけでなく、根拠不明な箇所もある。従って残念ながら善本とは言い難い。

この改竄は懐徳堂本だけでなく、先行する足利本・根本本にも反映されている。

古注とはざっと言って後漢末から三国に掛けて何晏がそれまでの注釈を集めて『論語集解』を記し、南朝梁の皇侃がさらに注の付け足し(疏)を集めて『論語(集解)義疏』を編んだ論語の版本。それが隋末までに日本に伝わった。

古注・それ以外を含め、現存する訳者の知る限りの論語の各版本を、物証的時系列に並べた一覧は、論語の成立過程まとめ#論語の伝承を参照。

原始論語?…→定州竹簡論語→白虎通義→
             ┌(中国)─唐石経─論語注疏─論語集注─(古注滅ぶ)→
→漢石経─古注─経典釈文─┤ ↓↓↓↓↓↓↓さまざまな影響↓↓↓↓↓↓↓
       ・慶大本  └(日本)─清家本─正平本─文明本─足利本─根本本→
→(中国)─(古注逆輸入)─論語正義─────→(現在)
→(日本)─────────────懐徳堂本→(現在)

古代中国で後漢が滅び三国時代になると、論語に対する漢儒の注釈を魏の何晏(?-249)がまとめて『論語集解』を編んだ。ただしその漢儒のうち孔安国は、漢の高祖劉邦の名を避諱ヒキ(はばかっていみ名の漢字を使わないこと)しないなど実在が怪しく、雑多な漢儒の総体として何晏がこしらえたと考えると、話につじつまが付く。

その後南北朝時代になると、南朝・梁の皇侃(488-545)が梁の武帝の普通・大通年間(520-534)に、注の付け足しである疏を書き足して『論語義疏』を編んだ。その疏には皇侃以外の儒者によるものも含まれている。義疏は略して皇疏とも呼ばれ、中国で広く流行したが、刊行当時流行した道家の思想を強く受けており、時代が下るにつれ「読解の参考にならない」「回りくどくて何を言っているか分からない」という不満の声もあったらしい。

当時の中国には、論語の経(本文)に異同のあるさまざまな版本が出回っていたと想像できるが、やがて唐朝廷によって刻まれた唐石経で、儒教経典の経の文字列に定本が定まり、北宋になると勅命で邢昺による『論語注疏』が編まれた。さらに南宋になって朱子が新注『論語集注』を編むと、古注は次第に省みられなくなり、元から明にかけて中国では一旦失伝した。

対して日本では隋ごろに古注が輸入されると(慶大本)、以降現代までにおよそ36の版本が刊行された。うち慶大本に次いで古い清家本は、武内博士の岩波文庫旧版『論語』の「凡例」に、「仁治*中淸原敎隆が寫定した本で、これを轉寫した古寫本が二部現存してゐる。」(*1240-1243)とある。さらに「清原良枝が加点したもの」ともあり、清原良枝の生没年は未詳だが、次男の五条頼元は1290生、重要文化財の「清原良枝遺誡」の日付は徳治三年(1308)四月十日。

清家本は経のみ、または経と注のみが伝わる集解本だが、清家本に次いで古い正平本も集解本になる。対して疏を加えた義疏本は、本願寺蔵の文明本が現存最古で、この系統に属する足利本が栃木県の足利学校に保存された。

その足利本を江戸期の寛延三年(1750)、根本武夷が再編集して訓点送り仮名を付け、形体を改めた。もとは「経」(本文)に「註」(注)と「疏」を割り込ませて記してあったが、「註」が割り込んだ「経」の直後に、『論語注疏』を元に、あるいは根本自身による要約を付け足し、その後に「疏」を記した。

いっぽう古注が失伝した中国では、清代に古注を逆輸入した。その中には、異民族を蛮族視するなど、当時の清朝にとって都合の悪い記述が含まれていたため、そうした部分を書き改めた後、欽定四庫全書に収められた。「中国哲学書電子化計画」が載せているテキストは、その版に基づいており、例えば漢儒・鄭玄の名を、康煕帝のいみ名「玄燁」をはばかって「鄭𤣥」と避諱している。

本サイトでは、「解説」など校訂以外の部分では、テキストデータを「中国哲学書電子化計画」から引用し、必要に応じて中華書局本などで校訂の上訳出している。また日本でネット公開されている古注の画像データに、根本が刊行した国文学研究資料館蔵の鵜飼文庫版があり、本サイトでも適宜参照し一部を転載した。

論語解説
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