論語303子路篇第十三(1)子路政を問う

論語子路篇(1)要約:最も早く入門した弟子の子路。政治の才能を孔子先生に評価されてもいます。その政治を問われた先生は、簡潔に「率先しろ、そして飽きるな。」と教えます。飽きて政策を変えられては、きっと庶民は迷惑でしょう。

論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

子路問政。子曰、「先之、勞之。」請益、曰、「無倦。」

書き下し

子路しろまつりごとふ。いはく、これさきんじ、これらうせしめよ。えきふ。いはく、むことかれ。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 子路 論語 孔子
子路が政治を問うた。先生が言った。「民の先頭に立って、民を働かせよ。」子路が付け足しを求めた。先生が言った。「飽きるな。」

意訳

子路「政治の要点は?」
孔子「民より先に働いて模範を示し、民を働かせよ。」
子路「もう少し」

論語 孔子 ぼんやり
孔子「飽きずにやれ。」

従来訳

子路が政治についてたずねた。先師がこたえられた。――
「人民の先に立ち、人民のために骨折るがいい。」
 子路は物足りない気がして、いった。
「もう少しお話をお願いいたします。」
 すると先師はいわれた。――
「あきないでやることだ。」

下村湖人『現代訳論語』

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

先之

論語 先 金文 論語 之 金文
(金文)

論語の本章では、”民の先頭に立つ”には違いないが、先頭で指揮をするのか、自分も働くのかまではどちらとも言えない。

勞(労)之

論語 労 金文 論語 之 金文
(金文)

論語の本章では、”働かせる”。「これをねぎらえ」とも読めるが、ひとまず”働かせる”の意味に解した。

論語:解説・付記

論語の本章に言う「先んじろ」を題材に、韓非が寓話を作って『韓非子』に収められ、それを王粛がパクって作り上げた話が『孔子家語』にある。

論語 子路
子路が衛国ののまちの代官になった。治水工事を行って、民に混じってもっこを担ぎ、水路を整えた。工事の苦労を思いやって、民に竹茶碗一杯の飯と、ふくべ一杯の汁物を出した。孔子がそれを聞いて、子貢を使わして給食をやめさせた。子路が怒って孔子の下を訪れて言った。

「私は暴風雨が来て洪水になるのを心配して、民と共に工事にあたったのです。民には貧乏な者が多いので、わずかですが給食を行いました。ところが先生は子貢に止めさせた。私は仁を行おうとしているのですよ? 仁は先生の教えではありませんか。このお申し付けには従えません。」

論語 孔子 不愉快
孔子「ほう。民が飢えていると見たか。ならなんで国君に申し上げない。国庫を開いて配給すればいいだろう。お前の蓄えから給食を出したのは、国君がけちん坊だと宣伝するようなものだ。自分が仁者でござい、と見せ付けるつもりか? さっさと給食をやめればよし、それならお前の罪は知られずに済むだろう。」(『孔子家語』致思第八

論語の本章は、短いだけにおそらく孔子の肉声を伝える話だろう。まことにおおざっぱな話で申し訳ないが、論語では章が長くなればなるほど後世の創作や水増しの可能性が高まる。もともと竹の札に孔子の言葉を記したメモだから、長い話は孔子の肉声とは考えがたい。

上掲の『孔子家語』の話が、まるまる韓非の創作かどうかはわからない。しかし一本気な子路が、民の先頭に立ってもっこ担ぎをするのはありそうな話。しかしそんなことがいつでも、いつまでも続けられるとは限らない。だから孔子は「飽きずにやれ」と教えたわけ。

従って論語の本章は、子路がすでに季氏の代官などを務めた後の、孔子が五十代以降の話だろう。子路と孔子は8つしか歳が違わず、弟子であると同時に古い友人でもあった。だから論語陽貨篇5に見られるように、孔子をどやしつけることさえ子路には出来ただろう。

それだけ、親密だったということだ。だから孔子が論語の本章で言いたかった気持は、教えると言うより子路を気遣ってのことだろう。「そんなの長続きしないよ」と。子路よりさらに直接土地や民に関わりたがった若い樊遅ハンチが、耕作を尋ねたとき、孔子はこうつぶやいている。

論語 樊遅 キラキラ 論語 孔子 ぼんやり
孔子「おバカさんだなあ、樊遅は。為政者が礼法好きなら、無礼な民は出ぬし、正義好きなら、刃向かう民は出ぬし、正直好きなら、嘘をつく民は出ない。為政者がそのようであれば、四方から赤子を背負って民が慕い寄って来るわい。自分で田仕事する必要があろうか。」(論語子路篇4

孔子が君子の仕事として思ったのは、現場で作業をする民を指揮・指導することであり、肉体労働をすることではなかった。それはのちの時代に、儒者がどうにもならない怠け者になる大義名分を与えてしまったが、孔子は体より頭を働かせることを政治の場では求めた。

だから孔子は、子路に危なっかしいものを感じたのだ。本章は情のこもった言葉だと思う。

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