論語:原文・白文・書き下し →項目を読み飛ばす
原文・白文
子曰、「事君、敬其事而後其食*。」
※論語雍也篇22と類似。
校訂
武内本:唐石経、此章、事君敬其事而後食其祿に作る、食とは俸禄の意なり。
書き下し
子曰く、君に事ふるには、其の事を敬しみて其の食を後にす。
論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす
逐語訳
先生が言った。「君主に仕えるには、仕事をまじめに行い、俸禄は後回しにする。」
意訳
仕官したらまじめに働け。俸禄の安いことを気にしてはならない。
従来訳
先師がいわれた。――
「君に仕えるには、恭敬の念をもって職務に精励し、食祿は第二とすべきである。」
論語:語釈 →項目を読み飛ばす
事
(金文)
論語の本章では、”仕える・奉仕する”と、”仕事”の両方の意味で用いられている。
君
(金文)
論語の本章では”君主”。
敬
(金文)
論語の本章では、”まじめに仕事をする”。原義は人がはっと驚いてからだを引き締めること。詳細は論語語釈「敬」を参照。
其
(金文)
論語の本章では指示代名詞で、”君主に仕えること”を意味する。詳細は論語語釈「其」を参照。
後
(金文)
論語の本章では”あと回しにする”。詳細は論語語釈「後」を参照。
食
(金文)
論語の本章では”給料・俸禄”。
論語:解説・付記
論語の本章は、孔子が仕官していく弟子に対して、仕事の心得を諭したもの。単に一般的な道徳として、まじめに働くことと、給与の安さを気にしないことを語ったわけではない。孔子一門は新興勢力で、貴族を中心とした既存の支配層に割り込んでいったことが背景にある。
その中で勢力を伸ばすには、何より無能でないことが必要だった。有能とは仕事に関わるひらめきなど、生まれ持った才も含んでいるが、誰もがそうした才能に恵まれているわけではないから、まじめに働き、好意とは行かないまでも、少なくとも反感を持たれない必要があった。
孔子も若い頃は、おそらく門閥の孟孫氏の使用人として、まじめに働く姿を見せたのだろう。『史記』孔子世家には、帳簿が正確で、管理した家畜を肥え太らせたことが記されている。だからこそ孟孫家の当主の目に止まり、洛邑留学や仕官の後押しをして貰えたのだろう。
論語の本章では、孔子は当時を振り返って説教したわけで、弟子たちが諸国の朝廷に広がっていくことは、孔子の教説を広めることと一致する。これは仕官したがらない弟子を喜んだこと(論語公冶長篇5)と矛盾するようだが、孔子は弟子を二種類に分けて見ていたのだろう。
つまり仁の実践に励もうとする、言わば孔子の教説のあとを継ぐ者たちと、諸国に仕官する、教説を広げる者たちだ。役人生活をよく知る孔子は、弟子の向き不向きをよく見分けていた節があり、例えば優れた弟子でありながら正確に角のある子張には、仕官を勧めていない。
だから論語里仁篇12の「利を放ちて行わば」は、”能ある鷹は爪を隠せ”と解釈出来るわけで、論語の本章でも”有能であれ”とは言わず、好意を得やすい”まじめであれ”と教えたわけ。既存の支配層に無能を自覚させてしまうと、彼らが本気で孔子一門の排除に動きかねないからだ。
すまじきものは、宮仕え。これは論語の時代も同様だった。