論語:原文・白文・書き下し →項目を読み飛ばす
原文・白文
子曰、「道不同、不相爲謀。」
校訂
武内本:塩鉄論云、孔子曰治道不同者不相與謀と、蓋し此章の異文、爲と與古通用。
書き下し
子曰く、道同じからざらば、相謀を爲さざれ。
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逐語訳
先生が言った。「進む道が同じでないなら、互いにはかりごとをするな。」
意訳
志が違う者に、ぺちゃくちゃ自分の志を言ってはならない。
従来訳
先師がいわれた。――
「志す道がちがっている人とは、お互いに助けあわぬがいい。」
論語:語釈 →項目を読み飛ばす
道
(金文)
論語の本章では、”志望”。
同
(金文)
論語の本章では、”同じである”。
『学研漢和大字典』によると会意文字で、「四角い板+口(あな)」。板に穴をあけて突き通すことを示す。突き抜ければ通じ、通じれば一つになる。転じて、同一・共同・共通の意となる。
通(とおす)・衝(突き抜く)と同系。また筒(トウ)(つつ)・胴(つつ型の胴体)・洞(ドウ)(突き抜けたほら穴)とは特に縁が近い、という。
相
(金文)
論語の本章では、”向き合って・互いに”。
爲(為)
(甲骨文・金文)
論語の本章では”する”。
論語の本章は、本来なら以下の通りで済むはず。「謀」は名詞にも動詞にもなり得るからだ。
志望が違っていたら、互いにはかりごとをするな。
志望が違っていたら、お互いのためにはかりごとをするな。
ただし、意味はほとんど変わらない。孔子がわざわざ持って回った言い方をしたのか、語調を整えるためについ口から出たのか、それは分からない。
謀
(金文)
論語の本章では”くわだて”。
論語:解説・付記
論語の本章は、革命政党としての孔子一門の姿を垣間見せるものと解釈出来る。機密の保持が、政治工作には必要だからだ。一般論として”自分の志に興味を持ってくれる他人などまずいないものだ、相手の迷惑だし失望もするから、べらべらと志を言うな”と解しても良い。
しかし前者だとすると、孔子が論語でたびたび弟子の饒舌を嫌い、戒めているのも理屈が通る。饒舌と言えば孔子自身が誰よりも饒舌で、秘密が漏れて困ったことがあったのだろう。放浪の当初、衛国で政治工作を行い、それゆえに見張りを付けられ逃亡したのがその一例。
徳=人間の機能の面からも、饒舌でないことがその証しになりうる。自信がない者ほどよくしゃべり、言わないでいいことまで言ってしまう。自信がある者は、他人の気を引く必要がないからだ。古今東西、饒舌な者が見下されがちなのは、論語の時代も変わらない。