論語と算盤・現代語訳(35)仁義と富貴7

『論語と算盤』義理合一の信念を確立せよ

『論語と算盤』義理合一の信念を確立せよ

現代語訳

社会の万事、利があれば必ず弊害が伴う。我が国が西洋文明を取り入れてその恩恵に浴した一方、新しい世界的害毒も流入した。幸徳秋水一派*の危険思想もその一つだ。古来我が国にはあれほどの悪逆思想はなかった。しかし発生してしまった以上、根治しなければならない。

その方法の一つは、この病の直接原因を研究し、適切な薬を与えることで、もう一つは身体を強壮にして、病気に感染してもすぐ殺菌できるようにすることだ。実業家として私の立場では、前者はその職分ではない。むしろ後者だ。つまり私の意見をもとに、実業家諸氏に考えて貰う事だ。

私の持論では、利用厚生と仁義道徳は不可分だが、現実には「情けをかければ富まない。富んだら情けをかけない」だ。つまり利用厚生=実業界の者は、仁義道徳を顧みる必要がない。しかしこれは後世の儒者の罪で、孔子孟子の元の教えは、「義理合一」だった。

儒者の間違いの一例は、朱子*が孟子*に序文を書いて、「計算を用いる行為はたとえ成功しても、ひたすら我欲の結果で、聖賢の行いとは天地ほどの違いがある」と貨殖功利をけなしている。これはアリストテレスの「全ての商業は悪である」と一致する。

これは裏を返せば、仁義道徳は仙人のような人がやればよく、実業界の者は無関係でよろしいことになる。これは朱子一派の捏造による妄説なのだが、我が国では寛永の頃から学問と言えば朱子学になってしまった。その弊害は今日の社会にも及んでいる。

その一つは実業家の精神を利己主義にし、甚だしいのになると法の網をかいくぐってでも金儲けがしたい、もし社会的法律的制裁を受けないなら、強奪さえしかねない情けない状態にしてしまったことだ。このまま行けば貧富の差は益々広がり、社会は一層浅ましくなる。

世の中が進むに連れて、実業界の生存競争が激しくなるのは自然の結果だ。だが実業家が私利私欲ばかり図れば、社会は益々不健全になり、嫌悪すべき危険思想は徐々に蔓延するに違いない。とするなら危険思想蔓延の罪は、ひとえに実業家が負わねばならなくなる。

だから我々実業家の職分として、極力仁義道徳と利用厚生を一致させなければならない。富んで仁義を行う方法はいくらでもある。義理合一に対する疑いの念は、今日から直ちに一掃しなければならない。

幸徳秋水:1871-1911。明治時代のジャーナリスト、社会主義者。天皇暗殺を謀ったとする、大逆事件で死刑となった。

朱子:1130-1200。中国宋代の儒学者。宋代に勃興した新儒学、宋学の大成者。

孟子:ここでは孟軻モウカの言行録とされる『孟子』を指す。孟軻は孟子とも呼ばれる。BC372?-BC289。中国戦国時代の儒者。孔子没後、没落していた儒学を復興させた。

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