論語と算盤・現代語訳(36)仁義と富貴8

『論語と算盤』富豪と道徳上の義務

論語と算盤 つ

現代語訳

私は老人にも関わらず、国家社会のために朝夕駆け回っている。自宅に来客もあり、寄付をしろとか資本を貸せとか学費を援助しろとか理不尽なことも言われるが、世の中にはいろいろな人がいるから、こういうのでない偉い人もいるので、来客を一様に閉め出せない。

また閉め出すようでは、社会への義務を完全に果たすことが出来ない。だから無理な注文は断るが、出来ることは尽くして上げるようにする。

古い中国の言葉に、「周公(周王朝の名摂政)は食事中でも来客があれば、口中のものを吐き出して会いに行った。沛公(漢王朝の開祖劉邦)は朝の洗髪中にも、来客があれば髪をときながら会った」というのがある。

私如きが周公・沛公の真似をするわけではないが、広く賢者を持つ意味で、どなたでもお目に掛かることにしている。ところが世間には来客を嫌がる人が多い。特に名声のある人ほど客を嫌う。しかしそれでは、国家社会に対する徳義上の義務を全うできないと思う。

私は先日、大学を卒業したばかりの富豪の息子に会った。そこでこんな話をした。

―今どきの富豪は引っ込み思案で、社会に冷淡で困る。富豪だろうと自分一人で儲かった訳ではない。社会から儲けさせて貰ったようなものだ。土地を持っていてもそこに住んだり事業をしたりして、地代を払ってくれる人がいるから儲かるのだ。だから富豪になれたのも社会のおかげと思って欲しい。

そして救済事業や公共事業に率先して尽力して欲しい。そうすれば社会は健全になり、自分の資産も堅実になる。逆に社会を無視すれば、富豪と一般人は対立する。やがてはストライキや社会主義が蔓延して、結局は自分が損をする。だから富を作るにあたっては、社会に恩義があることを思い、社会に尽くすことを忘れてはいけない―。

また先日はある富豪にもう少し社会に口出しして欲しいというと、面倒くさいという。それに対して私は言った。

―あなた方が引っ込んでいて、私どもばかり躍起になってもうまく行かない。現に私が先頭になって明治神宮の外苑建設を計画しているが、これは代々木から青山あたりに、広大な公園を造り、帝国中興の祖である先帝の業績を長く伝えるための記念図書館、または各種教育的娯楽機関を作ろうというのが主旨で、約400万円の費用が見込まれている。

こういう企画は社会教育上適切だと思うが、これだけの費用を集めるのは容易ではない。岩崎さん(三菱財閥のオーナー)や三井さんにも是非一つ奮発して貰わなければならない―。

思案中

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