論語と算盤・現代語訳(34)仁義と富貴6

『論語と算盤』金銭悪用の実例

『論語と算盤』金銭悪用の実例

現代語訳

一般に御用商人といえば悪党のように思われ、悪感情であれは御用商人と呼ばれ、その言葉にはいやな響きが伴っている。私もそう呼ばれるといい気はしない。つまり金で権力に媚びる奴、清廉潔白実直でないやからと見なされるのは甚だ心外だ。

しかし御用商人は外国でも我が国でも、みな相当の財力があって、よく道理をわきまえており、面目を重んじ信用を大事にしているから、そう言う人が判断して、少々政治の方からいかがわしい提案があっても、おいそれとそれには応じないと思う。

政府との取引では取り扱い上の面倒があるので、軽微な何かはあるだろうが、先の海軍収賄事件*のような大仕掛けな事件は、政界官界と経済界の悪い考えが一致しなくては、出来ないはずだ。仮に一方がワイロを差し出しても、一方が受けなければそれで終わりだ。

また役人がワイロを要求しても、御用商人である実業家が、信用を考えて断ればそれまでだ。取引は出来なくても、罪悪にはならないはずだ。わたしはそうあるべきだと思っている。

ところがこの事件をよく見ると、軍艦や軍需品で贈賄が行われ、またシーメンス社だけのことではない。全ての主要な物品の買い上げに、ほとんどワイロが伴っていたという。しかも海軍だけでなく、陸軍にもワイロが横行しているらしい。

甚だしいのになると、買い上げた品が価格より劣っていたり、どこかに欠陥があるという。実に嘆かわしい。

『大学』に「一人が欲張りだと、一国が乱れる」というのがある。これはワイロに限った話ではないが、収賄するような一個人の些細な悪事から、ひいては天下が大騒ぎするようなことになるとは、実に恐ろしい話だ。

以前私は贈賄するような実業家は、海外には居ても日本にはいないと思っていたが、こうなっては甚だ残念だ。とうとう三井商会の人まで検挙されたが、甚だ心の痛むことだ。こうなるのも全て、仁義道徳と生産利殖とを別々に考えているからこそだ。

間違っても生産利殖は正しい道で経営すべきと言う観念が、我々お互いに実業社の間で信条となっているなら、外国はともかく日本の実業人に不正を働く者がないことを誇れるだろう。もしワイロをほのめかされたりはっきり求められても、きっぱり断ればいいのだ。

その覚悟がないからワイロを求められるような雰囲気が出来るので、だから私は実業人に、ますます人格を高める必要があると感じる。実業界の不正が根絶されなければ、国家の安全が脅かされると、私は深く心配している。

海軍収賄事件:シーメンス事件(大正3年・1914年)を指す。

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