1
衞靈公問陳於孔子。孔子對曰、「俎豆之事、則嘗聞之矣。軍旅之事、未之學也。」明日遂行。在陳絕糧。從者病、莫能興。子路慍見曰、「君子亦有窮乎。」子曰、「君子固窮、小人窮斯濫矣。」
衞の靈公陳を孔子に問ふ。孔子對へて曰く、俎豆の事は則ち嘗て之を聞けり、軍旅の事は未だ之を學ばずと。明日遂に行る。陳に在りて糧を絶てり、從者病みて能く興つ莫し。子路慍み見えて曰く、君子も亦窮することあるか。子曰く、君子は固窮す、小人窮すれば斯に濫す。
2
子曰、「賜也、女以予爲多學而識之者與。」對曰、「然、非與。」曰、「非也、予一以貫之。」
子曰く、賜や、女予を以て多く學びて之を識す者と爲すか。對へて曰く、然り。非なるか。曰く、非なり。予一以て之を貫く。
3
子曰、「由、知德者鮮矣。」
子曰く、由や、德を知る者は鮮し。
4
子曰、「無爲而治者、其舜也與。夫何爲哉。恭己正南面而已矣。」
子曰く、無爲にして治まれる者は、其れ舜なるか。夫れ何をか爲さむや、己を恭しうして正しく南面せるのみ。
5
子張問行。子曰、「言忠信、行篤敬、雖蠻貊之邦行矣。言不忠信、行不篤敬、雖州里行乎哉。立、則見其參於前也。在輿、則見其倚於衡也。夫然後行。」子張書諸紳。
子張行はれむことを問ふ。子曰く、言忠信、行篤敬ならば、蠻貊の邦と雖も行はれむ。言忠信ならず、行篤敬ならざれば、州里と雖も行はれむや。立てば則ち其の前に參るを見、輿に在りては則ち其の衡に倚るを見る、夫れ然る後に行はる。子張諸を紳に書す。
6
子曰、「直哉史魚。邦有道、如矢。邦無道、如矢。君子哉蘧伯玉。邦有道、則仕。邦無道、則可卷而懷之。」
子曰く、直なるかな史魚、邦道あるも矢の如く、邦道なきも矢の如し。君子なるかな蘧伯玉、邦道あれば則ち仕へ、邦道なければ則ち卷いて之を懷にす可し。
7
子曰、「可與言、而不與之言、失人。不可與言、而與之言、失言。知者不失人、亦不失言。」
子曰く、與に言ふ可くして之と言はざれば人を失ふ、與に言ふ可からずして之と言へば言を失ふ。知者は人を失はず、亦言を失はず。
8
子曰、「志士仁人、無求生以害仁、有殺身以成仁。」
子曰く、志士仁人は、生を求めて以て仁を害すること無し、身を殺して以て仁を成すこと有り。
9
子貢問爲仁。子曰、「工欲善其事、必先利其器。居是邦也、事其大夫之賢者、友其士之仁者。」
子貢仁を爲すことを問ふ。子曰く、工其の事を善くせむと欲せば、必ず先づ其の器を利くす。是の邦に居ては其の大夫の賢者に事へ、其の士の仁者を友とす。
10
顏淵問爲邦。子曰、「行夏之時、乘殷之輅、服周之冕、樂則韶舞。放鄭聲、遠佞人。鄭聲淫、佞人殆。」
顏淵邦を爲むることを問ふ。子曰く、夏の時を行ひ、殷の輅に乘り、周の冕を服し、樂は則ち韶舞をし、鄭聲を放ち、佞人を遠ざけよ。鄭聲は淫なり、佞人は殆し。
11
子曰、「人無遠慮、必有近憂。」
子曰く、人遠慮なければ、必ず近憂あり。
12
子曰、「已矣乎。吾未見好德如好色者也。」
子曰く、已んぬるかな、吾未だ德を好むこと色を好むが如き者を見ざるなり。
13
子曰、「臧文仲、其竊位者與。知柳下惠之賢、而不與立也。」
子曰く、臧文仲は其れ位を竊めるものか。柳下惠の賢を知りて、與に立たざるなり。
14
子曰、「躬自厚、而薄責於人、則遠怨矣。」
子曰く、躬自ら厚うして、薄く人を責むるときは、則ち怨に遠ざかる。
15
子曰、「不曰『如之何、如之何』者、吾末如之何也已矣。」
子曰く、之を如何せむ、之を如何せむと曰はざる者は、吾之を如何にともするなきのみ。
16
子曰、「群居終日、言不及義、好行小慧、難矣哉。」
子曰く、群居終日、言義に及ばず、好んで小慧を行ふ、難いかな。
17
子曰、「君子義以爲質、禮以行之、孫以出之、信以成之。君子哉。」
子曰く、君子は義以て質と爲し、禮以て之を行ひ、孫以て之を出し、信以て之を成す。君子なるかな。
18
子曰、「君子病無能焉、不病人之不己知也。」
子曰く、君子は能くすること無きを病ふ、人の己を知らざるを病へず。
19
子曰、「君子疾沒世而名不稱焉。」
子曰く、君子は世を没して名稱せられざるを疾む。
20
子曰、「君子求諸己、小人求諸人。」
子曰く、君子は諸を己に求む、小人は諸を人に求む。
21
子曰、「君子矜而不爭、群而不黨。」
子曰く、君子は矜にして爭はず、群して黨せず。
22
子曰、「君子不以言舉人、不以人廢言。」
子曰く、君子は言を以て人を擧げず、人を以て言を廢せず。
23
子貢問曰、「有一言而可以終身行之者乎。」子曰、「其恕乎。己所不欲、勿施於人。」
子貢問ふて曰く、一言にして以て終身之を行ふ可き者ありや。子曰く、其れ恕か。己の欲せざる所、人に施す勿れ。
24
子曰、「吾之於人也、誰毀誰譽。如有所譽者、其有所試矣。斯民也、三代之所以直道而行也。」
子曰く、吾の人に於けるや、誰をか毀り誰をか譽めむ。如し譽むる所ある者は、其れ試みる所あり。斯の民や三代の直道にして行ふ所以なり。
25
子曰、「吾猶及史之闕文也、有馬者、借人乘之。今亡矣夫。」
子曰く、吾猶ほ史の闕文に及べり。馬ある者は人を借りて之に乘らしむ。今は亡きかな。
26
子曰、「巧言亂德、小不忍、則亂大謀。」
子曰く、巧言は德を亂る。小しく忍びざれば則ち大謀を亂る。
27
子曰、「衆惡之、必察焉。衆好之、必察焉。」
子曰く、衆之を惡むも必ず察し、衆之を好するも必ず察す。
28
子曰、「人能弘道、非道弘人。」
子曰く、人能く道を弘む。道人を弘むるに非ず。
29
子曰、「過而不改、是謂過矣。」
子曰く、過ちて改めざる、是を過と謂ふ。
30
子曰、「吾嘗終日不食、終夜不寑、以思。無益、不如學也。」
子曰く、吾嘗て終日食はず、終夜寢ねずして、以て思ふ。益なかりき。學ぶに如かざるなり。
31
子曰、「君子謀道不謀食。耕也、餒在其中矣。學也、祿在其中矣。君子憂道不憂貧。」
子曰く、君子は道を謀りて、食を謀らず。耕すや餒其の中に在り、學ぶや祿其の中に在り。君子は道を憂へて、貧しきを憂へず。
32
子曰、「知及之、仁不能守之、雖得之、必失之。知及之、仁能守之。不莊以蒞之、則民不敬。知及之、仁能守之、莊以蒞之。動之不以禮、未善也。」
子曰く、知之に及べども、仁之を守ること能はざれば、之を得と雖も必ず之を失ふ。知之に及び、仁能く之を守れども、莊以て之に蒞まざれば、則ち民敬せず。知之に及び、仁能く之を守り、莊以て之に蒞めども、之を動かすに禮を以てせざれば、未だ善からざるなり。
33
子曰、「君子不可小知、而可大受也。小人不可大受、而可小知也。」
子曰く、君子は小しく知るべからずして、大に受くべし、小人は大に受くべからずして、小しく知るべし。
34
子曰、「民之於仁也、甚於水火。水火、吾見蹈而死者矣、未見蹈仁而死者也。」
子曰く、民の仁に於けるや、水火より甚し。水火は吾蹈んで死する者を見る、未だ仁を蹈んで死する者を見ざるなり。
35
子曰、「當仁、不讓於師。」
子曰く、仁に當りては師に讓らず。
36
子曰、「君子貞而不諒。」
子曰く、君子は貞にして諒ならず。
37
子曰、「事君、敬其事而後其食。」
子曰く、君に事ふるには、其の事を敬して其の食を後にす。
38
子曰、「有敎無類。」
子曰く、敎あり、類なし。
39
子曰、「道不同、不相爲謀。」
子曰く、道同じからざれば、相爲に謀らず。
40
子曰、「辭、達而已矣。」
子曰く、辭は達するのみ。
41
師冕見。及階、子曰、「階也。」及席、子曰、「席也。」皆坐、子吿之曰、「某在斯、某在斯。」師冕出、子張問曰、「與師言之道與。」子曰、「然、固相師之道也。」
師冕見ゆ。階に及べば、子曰く、階なりと。席に及べば、子曰く、席なりと。皆坐せば、子之に吿げて曰く、某は斯に在り、某は斯に在りと。師冕出づ。子張問うて曰く、師と言ふの道か。子曰く、然り、固より師を相くるの道なり。
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