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孔子は犬肉を食ったか?

孔子先生はグルメでござる

孔子家語を訳していて、「六畜」という言葉が出てきた。辞書的には、牛・馬・羊・豚・鶏・犬であり、いずれも食材である。「犬を食う」と聞いてたいがいの現代日本人は「エェーッ!!」だろうが、よく考えたら縄文時代のご先祖様は、よく犬肉を食っていたらしい。

対して「飛ぶものは飛行機以外、四つ足は机以外、何でも食う」といわれる中華料理の世界にあって、犬肉は古典にも載った由緒正しき食材である。私が学生時代に学んだ中国語の教科書にも、犬肉と聞いて「エェーッ!!」という日本人と、中国人の対話が載っていた。

「犬肉と聞いただけでよだれが出る」とあって、そう言えば語学の教師に犬肉屋に誘われた記憶もある。当然私は「エェーッ!!」の方だから断ったが、今思えば食っておけばよかったかも知れない。ただ犬肉は由緒は正しくても、高級品ではなかったようだ。

羊頭狗肉」と言う言葉にそれが伺える。と言うか古代中国人はよほど羊が好きだったようで、美にも善にも羊が入っている。最高級のもてなしを意味する「大牢」は、牛・羊・豚の焼き肉セット料理だった。当然孔子も、閣僚としての宴会で、食べたことがあるだろう。

では犬肉は。論語の郷党篇にはいろいろと孔子の日常が描かれているが、孔子は相当にグルメであって、それははるか後輩の孟子と一致している。「肉にふさわしいソースがないと食べかなった」とあるから、魯や衛で落ち着いた生活をしている間は、犬は食べなかったかも。

しかし放浪中の糧食とか、あるいは包囲された時の非常食には、そんなこと言ってられなかったに違いない。食うものが無くて弟子が倒れる中、孔子だけ琴を弾いて平然としていたからには、食い物の好き嫌いを言わなかっただろう。当然、犬も食ったに違いない。

ここで中国の古代と現代の犬肉事情を語ったが、訳中よく私が引き合いに出す明代の笑い話集『笑府』にも犬肉が出てくる。

贖身”自分のツケを払う”

某家畜一牝犬。鄰家雄犬日逐之出入。主人厭之。命烹此犬。已而羣犬復至。主人謂之曰。癡畜生。休想罷*。尊翠**已自熟了。


ある家で雌犬を一匹飼っていた。近隣の雄犬どもがその尻を追い回し、毎日出入りしては代わる代わるつがう。見かけた主人が嫌がって、雌犬を煮物にして食ってしまった。それとも知らず雄犬どもがいつものように押しかけてきた。
主人「この馬鹿たれ畜生どもが。もう諦めやがれ。お前らの可愛子ちゃんは、自分で餌代のツケを払って、もう煮物になっちまったよ。」(『笑府』巻三)

*罷:『中日大辞典』に「感動詞.失望や怒りを表す」の語釈がある。
**尊翠:どうも語義がはっきりしないが、「尊」は他者の身内に対する尊敬の接頭語、「翠」は「かはせみの雌」の語釈が『大漢和辞典』にある。また「国学大師」翠条は「与美人有关的。一般为美丽的意思 [beautiful]。如:翠眉(用黛螺画的眉。比喻美人的眉毛);翠蛾(用黛点色的蛾属。指美人的眉毛。也指美人)」という。

ともあれ当人が美味しいと思っているのなら、何を食おうと他人がとやかくいう事ではないだろう。豚や牛や魚を食いつけて置きながら、お他人様の食生活にものを申す趣味は私にはない。ただし人肉食だけは話が別だが…中国史におけるそれを語るネタは多いとはいえ…。

「王矮虎」便道:「孩兒們,正好做醒酒湯。快動手,取下這牛子心肝來,造三分醒酒酸辣湯來。」只見一個小嘍囉掇一大銅盆水來,放在宋江面前﹔又一個小嘍囉捲起袖子,手中明晃晃拿著一把剜心尖刀。那個掇水的小嘍囉便把雙手潑起水來,澆那宋江心窩裏。──原來但凡人心,都是熱血裹著,把這冷水潑散了熱血,取出心肝來時,便脆了好喫。那小嘍囉把水直潑到宋江臉上,宋江嘆口氣道:「可惜宋江死在這裏!」


(宋江を捕らえて柱にくくりつけ、)王矮虎の王英が言った。「野郎ども! 結構な酔い覚ましスープの材料だ。さっさと手を動かして、このデカブツの心臓を取り出し、酸っぱくて辛い酔い覚ましスープを三椀作れ。」
そこで一人の手下が大きな銅のタライに水を入れ、宋江の前に置き、もう一人の手下は袖をまくり上げ、ピカピカとした肉切り包丁を手に心臓をえぐる用意をした。水を持ってきた手下は両手で宋江の胸に水をかけ始めた。
――もともと人間の心臓は、いつも熱い血で満たされているから硬くて美味くない。そこで冷や水をかけると熱い血が冷やされ、心臓を取り出したときに柔らかくなって美味しくなる。手下が宋江の顔に上から水をかけると、宋江はため息をついて言った。「無念、この宋江もこんなふうに死ぬとはなあ!」(『水滸伝』第三十二回)

芝居台本『水滸伝』を、正史ではないからといって侮れない。古来中国人の大半は字も読めない庶民で、その出入りする芝居にウソがあれば小屋が潰れる。正史よりも中国社会の実情を描いていると見てよい。その事情は『笑府』も同じで、字の読める者も娯楽にはウソを許さない。

さて孔子様も…。いや、ここで語るのはとりあえずやめにしておこう。

訳者覚え書き
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コメント

  1. 吉澤 卓 より:

    拝読させて頂きました。
    孔子さまが、狗の肉を不味いと記載された原典、狗の肉を奉げると書かれた古典、礼記でしょうか?この出典を、内々でも結構ですので、ご教示ください。
    益々のご発展をお祈り申し上げます。

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