澹臺滅明(たんだいめつめい)は実在の人物ではない?

加地伸行によれば、論語は現存する中国最古の書籍だという。そこまで古いだけに記されている言葉は、後世の複雑化し謎解きのようになってしまった漢文とは異なり、文法的に比較的単純だから、読みやすい。

しかし一つ一つの単語について見ると、意味が不明なものもある。当時にしかなかった物体や習慣は、言葉だけが残って実体が分からなくなったからだ。例えば「武」のような音楽の曲名がそうで、楽譜が残っていないから、どんな曲だったのかは想像するしかない。

もう一つ首をかしげるのは、人名。孔子の弟子・子賤は、読み下せば「いやしい・坊ちゃん」となるが、まるで「悪魔ちゃん」と子を名付けるようなもので、本当にそんな名前だったのか、それとも長い間に書き間違えられたのか、いや実在の人物ではないかもしれない。

その一人が、論語でただ一度きり出てくる「澹臺滅明」(臺は台の旧字)。当時当たり前の人名は、孔子のように氏または姓が”孔”、名が”丘”といった、一字姓・一字名で、あざなが”仲尼”のように二字になる。もっとも王族の子孫が”公孫”を名乗るように、二字のファミリーネームも珍しくはないが、本姓は別にあって”姫”だったりする。

そこへ行くと澹臺滅明という名乗りは、かなり奇異に聞こえたはず。史料によると澹臺滅明は本名で、あざなが子羽。あざなは一つとは限らないから、滅明もまたそうである可能性があるが、いずれにせよ澹臺がファミリーネーム、滅明が個人名と考えるしかない。

しかし「明を滅ぼす」という名もまた穏やかでなく、視力を奪う、知性を損なう、繁栄を破壊すると読めるから、これもまた「悪魔ちゃん」のたぐいになる。ともかくヘンな名前であるには違いなく、『笑府』にもこうある。

一僧同秀才趂船。秀才欺僧。乃橫臥舟中。僧㱄足以避。久之。問曰。敢問相公。那堯舜是一人是兩人。秀才云。天生是一箇人。你這賊禿問他怎麼。僧曰。既如此。小僧且仲々腳。
一說。多澹臺滅明為兩人。(笑府卷二·趂船)

ある僧が儒学生と狭い船に同船した。儒学生は僧をバカにして、のびのびと寝転んだ。僧は脚をすくめて避けた。いくぶん過ぎて僧が問うた。
「儒者の先生、堯舜というのは一人でしょうか二人でしょうか。」
「何を言ってるこのクソ坊主。一人に決まっている。」
「…では拙僧もチト、脚を伸ばしましょうかね。」

あるいはこう聞いた。
「澹臺滅明は一人でしょうか二人でしょうか。」

澹という言葉は音符”タン”にさんずいが付いた形で、水がのびのび・広やかに行き渡るさま。十分に行き渡るさま。また音から淡に代用され、淡い・薄いを意味する。

©宮崎大輔 via https://www.pakutaso.com/20170217051post-10402.html

澹臺(台)という言葉は秦漢時代以前には人名の澹臺滅明としてしか出てこないが、治水こそ政治だった古代中国のことだから、あるいは洪水に備えた高台と解釈することも出来る。あるいは「ひろやかな高台」で、為政者が国見をする台とも想像できる。

ここから論語・雍也12の「女得人焉耳乎」は「なんぢ人を得なんみみしたる乎」、また「有澹臺滅明者。行不由徑。非公事」は「澹臺有るに明を滅す、行きてたてみちに由ら不ればなり。公事に非ずと」と読みたくなる。

つまり澹臺滅明は実在の人物ではなく、論語成立後すぐに読めなくなった儒者たちが、勝手に作った架空の人物と言うことだ。あざなや彼について記された他の史料も、つじつま合わせのための創作だろう。むろん証拠のあることではないから言い張りはしないが、儒者は捏造・抹消や書き換えを平気で行うから、私としては信用できない。

なおこの章には異文がある。
「女得人焉耳乎」(『武英殿十三經注疏』)
「女得人焉爾乎」(『四書章句集注』新編諸子集成 北京:中華書局 1983)
共に「中國哲學書電子化計劃」からの引用だが、誤字でないなら朱子が勝手に、「耳」を「爾」に書き換えたことになる。ともに「のみ」と読め、”~だけ”を意味するが、「爾」の方には耳にする、聞く、の意味はない。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

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