ごくまれにですが、論語の理解に易の八卦が必要な場合があるのでまとめました。
八卦とは
易の基本は陰陽1ビットの、爻(コウ)と呼ばれる記号です。この記号は算木で表現し、算木は細長い角形の木で作ります。算木には通常は赤い色で引いた線がないものと、あるものとがあります。
ないもの「-」が陽・天・奇数を、あるもの「--」が陰・地・偶数を意味します。爻は三本を一組にして、卦(カ)と呼ばれます。組み合わせは23=8組、だから八卦(ハッカ・はっけ)と呼ばれ、それぞれに名前と意味があります。
八卦
- ☰…乾(ケン)(天。純粋の陽。北西いぬい*。性健たけし。)
- ☱…兌(ダ)(沢。地表面のくぼみ。西とり。性悦よろこぶ。)
- ☲…離(リ)(火。外炎は明るく、内炎は暗い。南うま。性麗つらなる。)
- ☳…震(シン)(雷。空気をつんざいて地に落ちる。東う。性動く。)
- ☴…巽(ソン)(風。天と雲の下にあって流動する。南東たつみ。性入る。)
- ☵…坎(カン)(水。水の字を横倒し。北ね。性陥おちいる。)
- ☶…艮(ゴン)(山。頂から二筋の尾根と間の谷。北東うしとら。性止まる。)
- ☷…坤(コン)(地。純粋の陰。南西ひつじさる。性従う。)
*方角は後天図による
占断
- 吉…幸いがある。
- 凶…災いがある。
- 悔…半吉、この先後悔がある。
- 吝(リン)…半凶、この先行き詰まる。
- 无咎(ムキュウ)…吉凶なし、とがめられない。
易とは
さらに八卦二つを一組にして、森羅万象を説明しようとするのが易です。易は確かに占いですが、古代なりの数理であって、本来はまじないの要素が少ない合理主義の所産でした。論語同様、儒者や易者が食うために、神秘化したに過ぎません。
変転止まないこの宇宙を、陰陽の相互作用と観て、陰が極まれば陽に、陽が極まれば陰に転じるというのが、易の基本です。月の満ち欠けを見れば、現代日本人にも同意出来る話です。中国人のこの自然観は、古代から現代まで変わりません。
衰颯的景象、就在盛滿中。(衰えの兆しは 絶頂の中にあり)
發生的機緘、即在零落內。(生み出す力は どん底の中にある)
故君子。(だから君子は)
居安、宜操一心以慮患。(平時にこそ 一心に事変に備え)
處變、當堅百忍以圖成。(事変の中では 耐えに耐えて成功を待て)
洪自誠『菜根譚』前集118 明代末期
敵進我退、敵拠我擾。(敵進めば我退き 敵止まれば我乱す)
敵疲我打、敵退我追。(敵疲れれば我叩き 敵退けば我進む)
毛沢東『十六字訣(ケツ)』 1929年9月28日
この機微を表すのが太極図。
今日なお漢方では実用的な概念。ただし全てを現代日本人が真に受けると、頭がおかしくなります。例えば第五卦「巽*」☴は、「二重の硬さに押さえつけられても柔和さを失わない」と解されますが、漢字学的に言えば巽の音が「ソン」だったので、謙遜(ケンソン)の遜と同じ、という言葉遊びに過ぎません。
それを孔子含め論語の時代の中国人は、真に受けていたと理解すべき話です。
*巽…兀(ゴツ、テーブル)の上に弓を二つきちんと並べた象形。
参考文献:丸山松幸『中国の思想Ⅶ 易経』
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